説明

高温高圧流体混合装置

【課題】原料溶液を高温高圧流体の混合点直前まで冷却可能であり、さらに、装置を2次元構造として最大でも高温高圧流体を2分岐するだけで、原料溶液に対して周囲の全方向から高温高圧流体を混合させることが可能な高温高圧流体混合装置の提供。
【解決手段】第1反応溶液である基質を含む溶液を供給する第1反応溶液流路と、該第1反応溶液路に対して側面方向から第2反応溶液である高温高圧流体を供給する第2反応溶液流路と、前記第1反応溶液路の外周に設けられ、該第1反応溶液路の排出端にまで延出し液媒体を供給する液媒体流路と、前記第1反応溶液と前記第2反応溶液と前記液媒体とを混合する混合域と、前記混合溶液を排出するための混合溶液排出流路を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温高圧流体を反応媒体として用いる高温高圧の反応場で使用する高温高圧流体混合装置に関するものであり、更に詳しくは、高温高圧流体を利用した反応晶析法において、第一反応溶液である基質を含む溶液と第二反応溶液である高温高圧水等の高温高圧流体を混合して瞬時に所定の温度の反応系を形成し、均質な微粒子を連続的に合成することを可能とする高温高圧流体混合装置に関するものである。
本発明は、高温高圧流体混合装置の第一反応溶液である基質を含む溶液供給管周囲に冷却水を直接通水する特定構造を採用することにより、混合点直近までの第一反応溶液の冷却が可能となり、晶析による微粒子生成を伴う反応系では、第一反応溶液からの混合点前での粒子の核発生を最小限に抑制し、さらに、混合部内において、第一反応溶液が流路の内壁と接触する箇所を最小限にすることで、均一核発生を誘起させて、平均粒径及び変動係数ともに最小の粒子合成を可能とする高温高圧流体混合装置に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、高温高圧流体を利用した反応晶析法では、室温で供給される原料溶液を高温高圧流体との混合により急速昇温させることが必要である。その際に、晶析による微粒子生成を伴う反応系では、これまで、混合前の原料配管の内壁面や、混合部の内壁面での粒子の不均一核発生と、その進行を回避できないことが問題となっていた。
従来、高温高圧流体を利用した反応晶析法に関しては、例えば、高圧場の反応プロセスにおいて、微粒子を分離する捕集装置により、圧力変動を防止すること、及び、高圧場の流通式反応装置の混合部にティ型継手等を用いて、温度の異なる複数流体を混合した混合流体を導入して反応を行う反応システム(特許文献1)、が提案されている。
また、高温高圧水反応システムにおいて、高温高圧水を高温高圧水用ノズルにより反応器に導入すること(特許文献2)、また、高温高圧水を用いる微粒子製造装置において、混合前の流体原料を、高温高圧水との反応による固体析出温度よりも低温に間接冷却する冷却装置を設けたこと、及び、混合部前の原料溶液配管を、冷却装置により固体析出温度よりも低温に冷却すること(特許文献3)、が提案されている。
また、高温高圧流体を利用した反応晶析法において、ティ型マイクロ混合部(内径0.3mm)による急速昇温により、金属酸化物の10nm以下のナノ粒子をサイズを制御して合成したこと(非特許文献1)、また、内部流体と接触する部分のみが耐食材で形成されている高温高圧流体用の配管用継手、高温高圧水中において高純度製品を合成する上で、高耐食性材料であるチタンやタンタル等の材料の高温強度が低いことから、高温強度の高い材料で作製した配管及び継手に内接させて使用すること(特許文献4)、が提案されている。
また、他の先行技術として、高温高圧水を用いる微粒子製造装置の混合部において、第一反応溶液に対して、側面から第二反応溶液を衝突混合させる複数の第二反応溶液導入管を設けたこと、及び、混合部として、旋回流を利用することにより、速やかに混合を完結させること(特許文献5)、また、超臨界マイクロ混合デバイスにおいて、第一反応溶液を可動式のスピンドルを介して混合部に導入すること、及び、混合部として、可動式スピンドルを介して混合部流路径を任意に制御することで、より速やかに混合を完結させること(特許文献6)、が提案されている。また、さらに、先行技術として、高温高圧水を用いる微粒子製造装置の混合部において、鉛直下向き方向に流れる第一反応溶液に対して、水平の四方から第二反応溶液を衝突混合させる構造を持つマイクロ混合部を用いることにより、混合部内において、第一反応溶液が流路の内壁と接触する箇所を最小限にでき、均一核発生を誘起させて、平均粒径及び変動係数ともに最小の粒子合成を可能とするとともに、混合部に冷却ジャケットを設置することで、第一反応溶液からの混合点前での粒子の核発生を最小限に抑制し、均質な微粒子を製造すること(特許文献7)、が提案されている。
更に、先行技術として、高圧容器内にマイクロ混合デバイスを設けデバイス内外の圧力バランス構造を設けることで、デバイス自体の耐圧性を不要とし、よりデバイスの微細加工の容易性と材料の選択性を向上させる方法(特許文献7)、作動流体を1秒以下で昇温させる金属細管で構成された予熱器を設けた高温高圧流体製造装置(特許文献8)、ミキシング手段と高温高圧反応場を多段に設けた高温高圧反応システム(特許文献9)、高圧ミキシングと高温高圧反応場を多段に設けた反応システムを利用した有機化合物の反応方法(特許文献10)、が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−52715号公報
【特許文献2】特開2002−52334号公報
【特許文献3】特開2005−21724号公報
【特許文献4】特開2008−128255号公報
【特許文献5】特開2008−12453号公報
【特許文献6】特開2007−268503号公報
【特許文献7】特開2010−75914号公報
【特許文献8】特開2006−159165号公報
【特許文献9】特開2007−15994号公報
【特許文献10】特開2007−16001号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Sue et al.,Green Chem.,8,634−638(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、化学合成では、環境調和型プロセスの開発が不可欠であり、新しい反応場として、高温高圧流体の利用は、これまでの概念を打破する新たな化学合成の場になるものとして注目を集めている。温度、圧力、滞在時間を厳密制御するための急速昇温・急速冷却・急速混合が可能で、更に、高耐食性を有する高温高圧流体混合装置の開発が達成されれば、温度圧力に応じて、溶媒特性の高い可変性を有する高温高圧流体の特徴を最大限に利用した革新的化学合成プロセスの開発につながることが想定される。
従来の高温高圧対応の混合部は、高耐温耐圧強度を有する合金を用いて作製されているため、特に、耐圧強度の点で、小型化、流路の微細加工等には限界があった。そのため、第一反応溶液の配管については、冷却装置等により、混合部導入前の原料溶液の加熱を抑制することができるものの、混合部本体内における混合点までの第一反応溶液の加熱を抑制することは困難であった。
また、上記従来技術において、混合部内で第一反応溶液が接触可能な内壁面の存在は、特に、晶析による微粒子生成を伴う反応系では、内壁表面での不均一核発生の誘発につながり、粒径分布の狭い均質な微粒子を合成することには限界があった。
加えて、従来技術において、鉛直下向き方向に流れる第一反応溶液に対して、水平の四方から第二反応溶液を衝突混合させる構造を持つ混合部を用いることにより、混合部内において、第一反応溶液が流路の内壁と接触する箇所を最小限にでき、不均一核発生の誘発を低減することができたが、高温高圧の第二反応溶液の混合部への導入において4流路に分割する必要があり、流路内の圧力損失が高い条件で均等な流量で分割することは現実的に難しく、さらに、混合部周囲の構造が複雑となることから、大量生産に向けたデバイスの積層化などの点で、実用的な混合部としては限界があった。
更に、上記従来技術における混合デバイスでは、複雑な流路やマイクロ流路の形成、流体の均等供給、圧力バランスの維持が困難であり、当技術分野においては、上記従来技術の問題点を確実に解消することを可能とする新しい高温高圧流体混合装置の開発が強く要請されていた。
【0006】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、高温高圧流体を用いた機能性ナノ粒子等の連続反応晶析法において、流通式装置を用いて供給した室温の第一反応溶液(原料溶液)を、別ラインから供給した第二反応溶液(高温高圧流体)と混合することにより、瞬時に所定の反応温度に急速昇温することを可能とする高温高圧流体混合装置を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、原料溶液供給管の周囲に混合点直前まで冷却水を供給して混合点前での核発生を抑制しつつ、高温高圧流体供給配管の分岐をすることなく混合点において周囲全方向から高温高圧流体を供給し、瞬時に急速混合、急速昇温による均質核発生を進行させることが可能な高温高圧流体混合装置の開発に成功し、本発明を完成するに至った。
本発明では、例えば、高温高圧継手内に微細加工を施した脱着可能なマイクロパーツを設置する構造のデバイスとすることで、原料溶液の流路、冷却水の流路、混合液の流路の内径や高温高圧流体の流入方向を容易かつ個別に加工可能であるため、原料溶液や冷却水の混合部内への流入時の線流速を速く設定でき、原料溶液の混合前の加熱を最大限回避できとともに、旋回流の発生による混合速度を向上できる、新しいタイプの高温高圧流体混合装置を提供することを目的とするものである。
更に、本発明は、高温高圧水等の高温高圧流体を溶媒として、高純度、高機能、均質な機能性ナノ粒子をはじめとする種々の化合物を合成することを可能とする環境調和型合成法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の高温高圧流体混合装置は、第1反応溶液である基質を含む溶液を供給する第1反応溶液流路と、該第1反応溶液路に対して側面方向から第2反応溶液である高温高圧流体を供給する第2反応溶液流路と、前記第1反応溶液路の外周に設けられ、該第1反応溶液路の排出端にまで延出し液媒体を供給する液媒体流路と、前記第1反応溶液と前記第2反応溶液と前記液媒体とを混合する混合域と、前記混合溶液を排出するための混合溶液排出流路を備えることを特徴とする。
また、本発明は、上記高温高圧流体混合装置において、前記混合域は、前記第1反応溶液の流路方向に対して、側面の全周囲方向から前記第2反応溶液および前記液媒体が供給されることを特徴とする。
また、本発明は、上記高温高圧流体混合装置において、前記第1反応溶液流路は、流路の中心軸がずれるのを防止するための構造を流路外周に備えることを特徴とする。
また、本発明は、上記高温高圧流体混合装置において、前記混合溶液排出流路は、前記第1反応溶液流路と同軸上に配設されていることを特徴とする。
また、本発明は、上記高温高圧流体混合装置において、前記第2反応溶液流路は、旋回流により混合完結までの時間を短縮するための旋回流発生手段を供えることを特徴とする。
また、本発明は、上記高温高圧流体混合装置において、前記混合溶液排出流路は、縮流発生手段を供えることを特徴とする。
また、本発明は、上記高温高圧流体混合装置において、前記液媒体は、第1反応溶液流路外壁面の冷却用水、pH調整剤や酸化還元剤等の基質を含む溶液であることを特徴とする。
また、本発明は、上記高温高圧流体混合装置において、前記流路は、内径が0.1から10.0mmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)高温高圧流体を反応媒体とする反応系において、加熱、冷却、混合操作を短時間、かつ高効率に行うことが可能な新規高温高圧流体混合装置を提供することができる。
(2)混合点直前まで第一反応溶液の流路外壁を冷却できるため、混合点以降での混合後に均一核発生を起こすことが可能な新規高温高圧流体混合装置を提供することができる。
(3)第一反応溶液の流路外壁を冷却する冷却水は混合点で他の溶液とともに混合される構造のため、冷却水をpH調整剤などの水溶液で代用することで、混合時にpH操作も同時に達成可能な、新規高温高圧流体混合装置を提供することができる。
(4)高温高圧流体混合装置は、簡易な構造の高温高圧用継手内に複雑に微細加工を施したマイクロパーツを配置、固定させる構造とした場合、従来の一体型デバイスでは困難な、微細加工、耐圧、耐食といった仕様を満たし、圧力バランス等の高度な制御も不要で、さらに、マイクロパーツの着脱、洗浄や交換、流路構造の変更が容易な、新規高温高圧流体混合装置を提供することが可能である。
(5)マイクロパーツの利用により、第二反応溶液を複数に分配することなく、鉛直下向き方向に流れる第一反応溶液である基質を含む溶液に対し、水平の周囲全方向から第二反応溶液である高温高圧流体を導入、混合させる構造が達成でき、混合点付近で、第一反応溶液が優先的に接触する内壁表面積を最小限とし、内壁表面での不均一核発生の誘発を抑制可能で、かつ急速に昇温可能な新規高温高圧流体混合装置を提供することができる。
(6)本発明の高温高圧流体混合装置を使用することで、温度や密度の異なる二流体混合系において、急速昇温や急速冷却を容易に実施することを可能とする高温高圧流体混合装置を構築し、提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の高温高圧流体混合装置の実施例1の概略図である。
【図2】本発明の高温高圧流体混合装置の実施例2の概略図である。
【図3】本発明の高温高圧流体混合装置の実施例3の概略図である。
【図4】本発明の高温高圧流体混合装置の実施例4の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の高温高圧流体混合装置は、第一反応溶液流路周囲に液媒体を流す構造とすることで第一反応溶液流路周囲の壁面を混合域直前まで冷却し、第一反応溶液が混合域に到達する前に壁面を介した伝熱により加熱され反応が進行してしまうことを回避する構造を有する。また、第1反応溶液の流路に対して、第2反応溶液を1ないし2方向から装置に導入するにもかかわらず、混合域において、第1反応溶液に対して周囲全方向から第2反応溶液が供給される構造を有する。従来の特許文献7においては、第2反応溶液を導入前に4分割し、周囲4方向から導入する構造としており、装置が複雑となることに加えて、均等に4分割するのも装置設計上難しく、現実的な装置ではなかった。本発明のように、1ないし2方向だと混合装置が平面的になり、装置の積層化が容易で、生産量制御にも柔軟に対応できる。
さらに、高温高圧流体混合装置では、材料として合金を使用するため、耐圧耐温構造を維持しつつ、上記二重流路の構造や、旋回流、縮流などの微細構造を有するデバイスの加工が難しく、種々の機能を盛り込むと装置製作コストが高価になることが問題であった。これに対して、例えば、耐温、耐圧は外部の市販の高温高圧継手を流用し、微細流路を作製するためのパーツを別途作製し、継手内部に配置する構造とすることにより、パーツの加工時に耐圧や耐温性能を考慮する必要がないため、より複雑で正確な微細加工ができ、パーツの作製コストも安価になるという利点も有する。
【実施例】
【0011】
以下に、実施例1〜4に基づいて、本発明の高温高圧流体混合装置を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0012】
(実施例1)
図1に、本発明の高温高圧流体混合装置の実施例1を示す。本実施例では、ステンレス製ティ型継手を高温高圧用継手として用い、ステンレスチューブの先端部の外壁に冷却水用流路のための微細加工を施したマイクロパーツAを設置、固定することで、第一反応溶液の混合点前までの加熱を抑制可能な高温高圧流体混合装置を作製した。本高温高圧流体混合装置は、反応に関与する原料溶液(第一反応溶液)と高温高圧流体(第二反応溶液)、さらに冷却水の三流体がティ型継手中心の混合点で、一緒に混合される構造を有している。
本高温高圧流体混合装置の最高使用温度及び圧力は、450℃及び40MPaの仕様とした。ティ型継手やチューブ、マイクロパーツは容易に耐食性材料のものと交換することが可能である。また、マイクロパーツは継手上部のナットを緩めることで容易に脱着が可能である。
高温高圧流体混合装置では、鉛直下向き方向に流れる原料溶液である基質を含む溶液に対し、当該溶液供給配管周囲を混合点直前まで冷却水が流れる構造のため、混合点前で核発生を最大限抑制し、かつ急速に昇温することを可能とした。
なお、原料溶液の流入口については、穴径を0.25mmに設定し、原料溶液の流路内の滞在時間を減少させることにより、混合前の加熱回避と混合点への流入時の線流速の向上を達成することを可能とした。さらに、マイクロパーツ先端部周囲に突起を加工することで、ティ型継手流路内でのマイクロパーツ先端部の中心軸を正確に固定することを可能とした。なお、この突起部は冷却水の流路を妨げなければ形状に制限はない。また、意図的に鉛直下向き方向の流れに対して角度を付与した形状とすることで、冷却水自体をらせん状に旋回させながら混合中心に供給することも可能である。
【0013】
(実施例2)
図2に、本発明の高温高圧流体混合装置の実施例2を示す。本実施例では、ステンレス製ティ型継手を高温高圧用継手として用い、ステンレスチューブの先端部の流路を円錐型に微細加工することでテーパーを形成させたマイクロパーツBを設置、固定することで、縮流の発生により溶液の混合を促進することが可能な高温高圧流体混合装置を作製した。他の構成は上記実施例1と同様である。本高温高圧流体混合装置は、反応に関与する原料溶液(第一反応溶液)と高温高圧流体(第二反応溶液)、さらに冷却水の三流体がティ型継手中心の混合点で混合後に、マイクロパーツB内に導入されることで、縮流により混合完結までの時間を短縮させることが可能な構造を有している。
また、混合中心において、鉛直下向き方向に流れる原料溶液に対して、周囲全方向から高温高圧流体が流入する構造となっており、混合部内壁表面での、不均一核発生を回避できる。
本高温高圧流体混合装置の最高使用温度及び圧力は、450℃及び40MPaの仕様とした。マイクロパーツBは用意に耐食性材料のものと交換することが可能である。また、マイクロパーツは継手下部のナットを緩めることで容易に脱着が可能である。
なお、混合溶液の流入口については穴径を0.5mmに、出口については穴径を0.3mmに設定した。マイクロパーツA下部先端と、マイクロパーツBの上部先端の間の距離は0.5mmに設定した。
【0014】
(実施例3)
図3に、本発明の高温高圧流体混合装置の実施例3を示す。本実施例では、ステンレス製ティ型継手を高温高圧用継手として用い、ステンレス円柱表面に、第二反応溶液(高温高圧流体)用の流路を微細加工したマイクロパーツCを設置、固定することで、旋回流の発生により溶液の混合を促進することが可能な高温高圧流体混合装置を作製した。他の構成は上記実施例2と同様である。本高温高圧流体混合装置は、反応に関与する原料溶液(第一反応溶液)と冷却水の二流体が鉛直下向き方向の流れに対して、マイクロパーツCを介して高温高圧流体を供給することで、高温高圧流体が混合部中心に対して右側(図では奥側)から流れ込むにことになり、旋回流により混合完結までの時間を短縮させることが可能な構造を有している。
本高温高圧流体混合装置の最高使用温度及び圧力は、450℃及び40MPaの仕様とした。マイクロパーツCは用意に耐食性材料のものと交換することが可能である。また、マイクロパーツは継手右部のナットを緩めることで容易に脱着が可能である。
なお、混合部直前の加熱水流路径は0.5mmに設定した。
【0015】
(実施例4)
図4に、本発明の高温高圧流体混合装置の実施例4を示す。本実施例では、ステンレス製クロス型継手を高温高圧用継手として用い、上部から第一反応溶液(原料溶液)と冷却水、左右より第二反応溶液(高温高圧流体)をそれぞれ供給する構造とし、実施例1〜3で説明したマイクロパーツA〜Cを設置、固定することで、原料溶液の混合点前での加熱の抑制、縮流による混合の促進、両側からの高温高圧流体の供給によるより強い旋回流の発生の促進を達成することが可能な高温高圧流体混合装置を作製した。
高温高圧流体混合装置では、鉛直下向き方向に流れる原料溶液に対し、当該溶液供給配管周囲を混合点直前まで冷却水が流れる構造のため、混合点前での原料溶液の加熱による核発生を最大限抑制し、混合点通過後に急速に昇温させることを可能とした。また、混合中心において、鉛直下向き方向に流れる原料溶液に対して、周囲全方向から高温高圧流体が流入する構造となっており、混合部内壁表面での、不均一核発生を回避できる。
また、冷却水の代わりにpH調整剤や酸化還元剤などを供給することで、反応場の溶液環境を高度に制御できる。
本高温高圧流体混合装置の最高使用温度及び圧力は、450℃及び40MPaの仕様とした。マイクロパーツA〜Cは用意に耐食性材料のものと交換することが可能である。また、マイクロパーツは継手のナットを緩めることで容易に脱着が可能である。
さらに、高温高圧流体混合装置は、左右や上下方向は各種パーツが接続されるものの、前後方向には接続物がなく、大量生産時の積層化が容易な構造である。
【産業上の利用可能性】
【0016】
以上詳述したように、本発明は、高温高圧流体混合装置に係るものであり、本発明により、高温高圧流体を反応媒体とする微粒子合成システムにおける反応溶液と反応溶媒の急速混合及び急速昇温、急速冷却の手段として有用な高温高圧流体混合装置を提供することができる。本発明により、例えば、常温の第一反応溶液である原料溶液を第二反応溶液である高温高圧流体と急速に混合させて、所定温度まで急速に昇温させて、所定の高温高圧条件の反応系を設定するための新しいタイプの高温高圧流体混合装置を提供することができる。
本発明は、特に、高温高圧流体を利用した反応晶析法で、混合前の原料配管内面や混合部の内壁面での粒子の不均一核発生の進行を回避可能にして、高純度、高機能、均質な機能性ナノ粒子をはじめとする各種化合物の環境調和型合成法を提供するものとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1反応溶液である基質を含む溶液を供給する第1反応溶液流路と、該第1反応溶液路に対して側面方向から第2反応溶液である高温高圧流体を供給する第2反応溶液流路と、前記第1反応溶液路の外周に設けられ、該第1反応溶液路の排出端にまで延出し液媒体を供給する液媒体流路と、前記第1反応溶液と前記第2反応溶液と前記液媒体とを混合する混合域と、前記混合溶液を排出するための混合溶液排出流路を備える高温高圧流体混合装置。
【請求項2】
前記混合域は、前記第1反応溶液の流路方向に対して、側面の全周囲方向から前記第2反応溶液および前記液媒体が供給されることを特徴とする請求項1記載の高温高圧流体混合装置。
【請求項3】
前記第1反応溶液流路は、流路の中心軸がずれるのを防止するための構造を流路外周に備えることを特徴とする請求項1又は2記載の高温高圧流体混合装置。
【請求項4】
前記混合溶液排出流路は、前記第1反応溶液流路と同軸上に配設されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の高温高圧流体混合装置。
【請求項5】
前記第2反応溶液流路は、旋回流により混合完結までの時間を短縮するための旋回流発生手段を供えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の高温高圧流体混合装置。
【請求項6】
前記混合溶液排出流路は、縮流発生手段を供えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の高温高圧流体混合装置。
【請求項7】
前記液媒体は、第1反応溶液流路外壁面の冷却用水、pH調整剤や酸化還元剤等の基質を含む溶液であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の高温高圧流体混合装置。
【請求項8】
前記流路は、内径が0.1から10.0mmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の高温高圧流体混合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−677(P2013−677A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135348(P2011−135348)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】