説明

高濃度のEPAおよび/またはDHAを有し、n−6脂肪酸を含有するn−3脂肪酸の組成物

少なくとも80重量%のエイコサペンタエン酸(EPA、C20:5n−3)および/またはドコサヘキサエン酸(DHA、C22:6n−3)、ならびに少なくとも3重量%のn−6脂肪酸、特にC20:4n−6およびC22:5n−6を含有する、長鎖多不飽和脂肪酸の組成物が報告される。この組成物のより良好な化学的および生物学的特徴において、EPAおよびDHAと異なる他のC20、C21およびC22n−3酸の含有量は、好ましくは3重量%未満に低減される。この組成物において、前記酸は全て遊離酸もしくはそれらの塩、またはC1−C3アルキルエステルの形態で存在する。記載される組成物は、EPAおよびおよびDHAの作用に感受性のある状態の治療に有用な、特に出血問題または凝固欠陥により引き起こされる問題に潜在的に曝されている患者における治療に有用な食事療法用調製物または医薬用調製物のために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エイコサペンタエン酸(EPA、C20:5n−3、全てシス型)および/またはドコサヘキサエン酸(DHA、C22:6n−3、全てシス型)により表されるn−3シリーズの酸の少なくとも80重量%ならびに、酸C20:4n−6(全てシス型)および酸C22:5n−6(全てシス型)により表されるn−6シリーズの酸の少なくとも3重量%とを含有する、長鎖多不飽和脂肪酸の組成物に関する。この組成物は、更に、EPAおよびDHAと異なる他のC20、C21およびC22n−3酸の3%未満の含有量により、ならびにn−6およびn−3成分に対する本明細書下記に明記されている、他の好ましい規格により極めて好ましい形態により特徴付けられる。
【0002】
上記に記述された酸は、全て、遊離酸の形態、食事療法用途および医薬用途に許容される塩基との塩の形態、C1〜C3アルキルエステル、好ましくはエチルエステルの形態で組成物に存在し得る。記載されている組成物は、EPAおよび/またはDHAの作用、並びに他の成分の作用に感受性のあることが認識されている、食事療法および医薬治療に有用であり、これらも、本明細書下記に明記されている。
【背景技術】
【0003】
n−3酸の、本質的にはEPAおよびDHAの利益効果が、文献においてますます頻繁に報告されている。
【0004】
次に示され、US5656667により修正されている特許IT1235879は、高血圧、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症による心臓血管障害の多重危険因子の治療または予防、凝固第VII因子活性の治療または予防、および血小板凝集の治療または予防を特許請求する。この特許請求されるn−3脂肪酸組成物は、EPAおよびDHAの少なくとも75重量%により表される、前記物質を80重量%、ならびに他のn−3C20、C21およびC22酸を少なくとも3重量%含む。
【0005】
特許EP−B−0409903は、高脂血症および関連する病理、血栓症、心筋梗塞、血小板凝集、アテローム性動脈硬化の予防における凝固過程、脳梗塞、血管運動攣縮により引き起こされる病巣および閉塞、ならびに幾つかの他の病理の治療に有用である高濃度のEPAおよびDHA、および/またはそのエステルの混合物を調製する手順を記載している。
【0006】
特許US5760081は、梗塞状態下の被験者において切迫した心室細動を予防するための、EPAを含有する組成物の注入経路による治療を記載している。
【0007】
特許出願WO00/48592は、以前に梗塞の症状に冒された患者において死亡を、特に「突然死」を予防するための、>25%の濃度を有するEPAおよびDHAのエチルエステルの混合物の使用を記載している。
【0008】
特許出願EP1310249は、冠状動脈由来の心臓病理(血栓症、心筋梗塞)一次予防における、および律動の伝導の障害により引き起こされる病理(不整脈、細動)において、並びに心臓ポンプの不全による代償機能障害および心不全のような機械型の病理において、EPAおよび/またはDHAの使用を特許請求する。
【0009】
EP1157692特許出願は、少なくとも80重量%のEPAおよびDHAを含有し、他のn−3C20、C12およびC21酸が3%未満を構成する脂肪酸の組成物を記載し、心血管の病気およびEPAおよびDHAの作用に感受性のある他の病理の多重危険因子の治療用の薬剤の製造におけるこれらの有益性を特許請求する。
【0010】
その後に、心臓関連病理における効力の他に、EPAおよびDHA活性についてのより多くの証拠が、腫瘍の病気(RA Karamali et al., J. Nat. Cancer Inst.75,457,1984)、リウマチ様関節炎、結合組織疾患および炎症(RA Lewis e KF Austen, J. Clin. Invest.73,889,1984)、乾癬、多発性硬化症、てんかんおよび抑うつのような幾つかの中枢神経系病理、アルツハイマー病のような変性疾患、並びに幾つかの他の疾患において得られている。
【0011】
そのような病理の幾つかにおけるEPAおよびDHAの作用は、おそらく、最も異なる機序により、未修飾分子として作用することにより、またはリン脂質プールなどへの包含の後に現れることが観察されるはずであるが、幾つかの場合において、これらの活性は、アテローム硬化および心臓血管の病気の治療により本質的にもたらされる同一または異なる代謝産物により仲介され得る可能性もある。
【0012】
この目的のため、事実、記述した特許出願WO00/48592は、例えば、プロスタサイクリンPGI3およびトロンボキサンTxA3の前駆体であるEPAは、シクロオキシゲナーゼの阻害に基づき得る(アスピリンと同様の効果)および/またはこの酵素に対するアラキドン酸との競合に基づき得る血小板凝集および血液の血栓形成に対して予防効果を発揮し、同時に、周知の血小板凝集剤であるPGE2およびTxA2の合成を低減することを報告している。
【0013】
更に、脳脂質の最も重要な成分および血小板細胞の成分であるDHAは、血小板の流動性の増加にも間接的に干渉し、したがって抗血栓活性に重要な役割を果たす。
【0014】
残念なことに、治療される病理が何であれ、および前記病理に特異的な作用機序が何であれ、血液の止血を条件付ける幾つかの変動要因(凝固因子、血小板の数、凝集/脱凝集プロスタノイドなど)の結果として、他の個別の因子と結合した、n−3酸による長期の薬理学的治療および/または高用量での治療は、明白な出血症状をもたらすまでに出血時間を延ばす場合がある。
【0015】
既に、この問題についての最初の特定の研究(J Dyerberg and HO Bang, Lancet 2,433,1979)が、n−3酸の摂取が乏しいデンマーク人(血小板:232,000/ml)の対照群の4.76分と比較して、食事からn−3酸(魚油)の日常的な摂取を受けているエスキモー(血小板数:171,000/ml)の一群において出血時間の8.05分を報告している。
【0016】
幾つかの他の研究(例えば、BA Bradlow, Thrombosis and omega−3 fatty acids. Epidemiological and clinical aspects, in “Health effects of polyunsaturated fatty acids in seafoods.”, New York, Academic Press,1986,111−133; SH Jr. Goodnight, The antithrombotic effects of fish oil., ibidem)は、食事n−3酸が、血小板凝集の減少の他に、出血時間の延長をまたもたらしうることを確認している。この効果は、糖尿病患者において特に観察されている(RS Tirvis et al., Clin. Chim. Acta 164,315,1987)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
いずれの場合においても、出血の危険性は、血栓または梗塞の危険性のある冠状動脈疾患−アテローム硬化疾患の患者において意識的に考慮される。これは、特定の病理に直接対抗し、律動および電気伝導の障害に関わるもの(不整脈、細動)または心臓ポンプの不全に関連する機械的な由来のもの(心臓の代償機能障害)のような他の心臓疾患では、血小板脱凝集は、最初の一次治療選択ではないので許容されないことは明白である。
【0018】
同様に、治療処置が心臓疾患と無関係の病理対して施される場合、およびいずれにしても、患者が出血症状に特に罹りやすい全ての場合(手術前後、胃または十二指腸潰瘍、肝硬変、凝固および血球数の異常、外傷後状態など)において、n−3酸を、高濃度もしくは高用量でまたは長期間摂取する危険性は全く許容されない。
【課題を解決するための手段】
【0019】
われわれは、この問題に直面し、少量のn−6酸をEPAおよび/またはDHAの組成物に添加すること、および実験動物へのその反復投与が、誘発された外傷による出血時間の正常値を取り戻すことができることを見出した。
【0020】
より詳細に、典型的な実験において(下記の試験1を参照すること)、EPAおよびDHAのエチルエステルの少なくとも80重量%を、n−6シリーズの酸、典型的には、酸20:4n−6およびC22:5n−6のエチルエステルの少なくとも3重量%と共に加え、100mg/kgの用量で14日間マウスに経口投与すると、未処置動物と比較して二倍の出血時間(約100%の増加)を示す部分的にn−6成分のない出発組成物で処置した動物と比較して、外傷誘発後に出血時間のわずか約40%の増加を得た。
【0021】
同様に、5%の同じn−6エステル(または総n−6エステルの8%)を含有する組成物の投与は、出血時間をわずか約15%(約10%、それぞれ)増加させた。
【0022】
試験1
体重25〜33gの雄マウスそれぞれ10匹の5つの群を、食塩水により(群1、対照)、EP1157692に従って得たEPAおよびDHAの85.2%(n−3のC20、C21およびC22が2.5%;n−6のC20:4およびC22:5が1.2%)のエチルエステルの組成物の100mg/kg/日により(群2、基準)、本発明の手順に従って得た3つの組成物(それぞれ実施例2のE、CおよびD)の100mg/kg/日により(群3、4および5、処置)、経口経路により14日間処置した。次に該動物をイソフラン吸入に付して、全身麻酔を誘発した。
【0023】
次に適したな刃を使用して、尾の末端から正確に0.5cmに切り込みを入れ、直後に処置尾を、リン酸緩衝剤で緩衝した食塩水を含有し、予め加熱され、37℃に維持されている管の中に挿入した。この時点で、ストップウォッチを起動し、尾を基部の近くで穏やかに保持し、静脈血を管の中に流出させ、出血が止まるときを観察しながら、同時にストップウォッチを停止して正確な出血時間を記録するようにした。
【0024】
10〜15秒で出血が止まると、該動物をケージに戻し、麻酔からゆっくりと覚めさせた。出血が再発することは希であるが、いずれにしても、どの場合でも出血時間には含まれない。
【0025】
結果:出血時間(秒)
群1:56(51〜62)
群2:123(115〜132)(#)
群3:80(72〜85)(#)(##)
群4:66(56〜70)(##)
群5:64(58〜70)(##)
t Student検定:(#)P<0.05対群1;(##)P<0.05対群2。
【0026】
結論:EPAおよびDHAの組成物の投与(群2)は、出血時間を統計的に有意に延長し、反対に、n−6多不飽和成分の増加した量が存在すると徐々に低減した。
【0027】
目的の組成物をより良く定義するために、EPAおよび/またはDHAの含有量が、少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも85重量%、少なくとも90重量%の順であることを明記する。最小含有量の少なくとも40重量%のEPAおよび少なくとも34%のDHAも好ましく、その比率は、一般に2:1〜1:2、好ましくは1.5:1〜0.9:1で構成される。
【0028】
全ての場合において、EPAおよび/またはDHAは、遊離酸の形態、または食事療法用途および医薬用途に許容される塩基とのその塩の形態、またはC1〜C3アルキルエステルの形態で存在し得る。
【0029】
典型的な許容される有機塩基は、コリンおよびエタノールアミン、リシンおよびアルギニンであり、典型的な無機塩基は、水酸化ナトリウムおよびカリウム、他である。アルキルエステルのうち、エチルエステルが極めて好ましい。
【0030】
本質的に酸C20:4n−6および酸C22:5n−6により表されるn−6シリーズの酸(これらも上記に定義された酸、塩またはエステルの形態で存在する)が、n−6シリーズの酸の総含有量を参照して、少なくとも3重量%、好ましくは少なくとも5重量%、または少なくとも5.5〜8重量%の含有量を有することを更に明記する。C20:4n−6およびC22:5n−6の比率は、一般に10:1〜1:10、好ましくは3:1〜1:3で構成され、平均はおよそ1.1である。酸C22:5n−6の含有量は、少なくとも1.2重量%、好ましくは少なくとも2重量%で構成される。
【0031】
記述した特許出願EP1157692は、EPAおよびDHAの濃縮組成物を特許請求しているが、EPAおよびDHA(常にEPAおよびDHAの組成物に存在し、これらは、製造の出発原材料、すなわち魚油にそれ自体が既に存在しているからである。)以外の長鎖C20、C21およびC22n−3酸は個別に単離されておらず、薬理学的に試験されていないことを追加的に注意深く記載しており、したがって、全ての目的において、EPAおよびDHAの確実な不純物および望ましくない副産物として考慮しなければならない。このために、異常な薬−治療の応答を制限または回避するために、前記の特許出願は、特許IT1235879で特許請求されているものに完全に反して、その含有量を3%未満に制限することを目標とした。
【0032】
われわれはこの考慮に賛同し、したがって、本発明の組成物に関連して、EPAおよびDHAと異なるC20、C21およびC22n−3酸の含有量を、好ましくは3重量%未満、特に1.5重量%未満にすることによって更に特徴付けることを明記する。加えて、さらに好ましくは、C21:5n−3および/またはC20:4n−3および/またはC22:5n−3も、個々に1%未満であるが、C20:4n−3およびC22:5n−3の比率は、一般に10:1〜1:10、好ましくは3:1〜1:3の間に含まれる。ここでも前記酸は、上記に定義されているように、遊離酸、塩またはC1〜C3アルキルエステルとして存在する。
【0033】
このように定義された本発明の組成物は、実質的に、2つの異なる手順により得ることができる。
【0034】
好ましくはないが、第1の手順によると、特定の中間体が、出発物質として海洋由来の油(魚油など)またはさらに好ましいもしくは必要である場合は、植物油(種油など)、藻油などを使用して、例えばUS5130061、IT1235879、JP02/25447、WO89/11521、IT1205043、EP1157692および他のような文献に記載されている手順に従って得られ、この中間体物質は、高濃度のEPAおよび/またはDHAおよび低濃度の他のC20、C21およびC22n−3酸の組成、ならびにn−6酸が豊富な別の組成により構成されている。これらの組成物を、分子蒸留により更に精製し、その組成を変更し、必要であれば所望の組成を得るまで1回以上繰り返す。適した物質は、少なくともより高い純度のものを市場で見出すこともできる(Sigma Co.,USA)。次に続いて、多様な組成物を適した比率で混合して所望の組成にする。手順の任意の段階において、それぞれの成分は、既知の技術によって変更されて、必要な遊離酸、塩またはエステルが得られる。いずれにしてもこの手順は全体としては好ましくなく、それは、多くの場合に注意深く繰り返される蒸留の工程を必要とするからであり、結果的に多くの作業を必要とし、高価である。
【0035】
第2の手順は、文献の前記方法をまだ適応しているが、上記で記述したように、反対に、手順の結果にとって必須である出発油のより注意深い選択を伴い、したがって、中間体組成物のあらゆる混合を必要としないで所望の組成を直接もたらすことができる。通常、魚油である出発油は、EPAおよび/またはDHAの最大含有量、通常およそ12〜18%のEPAおよびおよそ8〜12%のDHA(2つの成分のうちの1つだけが優勢の場合、より高い濃度を達成することができる。)を有するように、他のC20、C21およびC22n−3酸の最低含有量、好ましくは全体として3%未満(可能であれば1.5%以下)、個別には1.0%未満(可能であれば0.5%以下)を有するように、最後に、n−6酸、特にC20:4n−6およびC22:5n−6の比較的に高い含有量、好ましくは2.5%を越え(可能であれば全体として6.0%以下)、C22:5n−6>1.2%を有するように、厳しく選択される。
【0036】
成分の比率は、特にEPAおよびDHAの間では明確に順守され(2:1〜1:2)、一方、成分C20:C22n−3およびn−6の間での許容される比率を求めることは、予測される広範囲の比率(10:1〜1:10)を考慮すると通常難しいことではない。原材料の組成を定義するにあたり、より不飽和の酸の含有量が、手順の幾つかの段階(例えば濃縮、下記を参照すること)において増加する傾向があることおよび他の段階(例えば、分子蒸留)において部分的に調節されうることが考慮された。
【0037】
出発魚油の最適な選択を最初から明確に示すことは可能ではなく、とりわけ、一定の平均的組成を得るために、できる限り大きな材料バッチで実施する連続的で厳密な分析モニタリングが必要である。他の選択基準は、異なる魚種に存在する地理的要因、出漁期、摂食供給源(植物プランクトンおよび捕食種)、移動および繁殖周期、多様な酵素(デサチュラーゼおよびエロンガーゼ)の活性に起因するおよび他の要因に起因する極端な変動性のために、完全に間違う可能性がある。この変動性のために、供給源による魚油の表示は、当然のことながら不適切であり、大きな驚きが待っている可能性があり、この厳格な分析管理が不可欠となる。表示原則は、赤道域で捕獲された魚の油、または淡水魚の油、並びに野生魚の代わりに水産養殖魚の油が好ましいことを指摘しているが、これら全てが保証を与えるものではなく、使用の決定は、この分析管理によってのみもたらされる。
【0038】
上記で示されているように選択された油から出発して、われわれの特定の目的に適したあらゆる注意を含めて、文献の前記方法に従って進める。したがって、魚油を、可能性のあるあらゆる分解を避けるのに適した状態を維持しながら(不活性雰囲気、酸化防止剤の存在、注意深い加熱)、例えば、水酸化カリウムの存在下、水−アルコール媒質中での加水分解手順に付して、脂肪酸の塩を得て、それから対応する酸(および場合によりエステル)を得る。あるいは、魚油を、アルカノール、好ましくはエタノールの存在下および酸の存在下、または好ましくは塩基性触媒の存在下、(加水分解の代わりに)エステル交換に直接付す。脂肪酸のエステルは、そのようにして得られる(および場合によりそれから対応する酸および塩を得る。)。
【0039】
次に、脂肪酸のエステル(または酸自体)の混合物を、例えば、エタノールまたはメタノール中で尿素との反応に付して、飽和および僅かに不飽和の成分との不溶性の錯体を得て、それを、EPAおよび/またはDHAのような多不飽和成分が極めて豊富な組成物を溶液から回収することによって濾取する。該組成物が所望の濃度(DPAおよび/またはDHA>80%)に達しない場合は、減らした量の尿素による新たな錯化に付すことができる。
【0040】
調製の最終工程は、原材料の最適な選択によって、組成物が既に必要な規格に適合している場合、単に、例えばクロマトグラフィー法によるまたはシリカでの簡単な濾過による精製段階を含むことができ、この場合、目的は、組成物に存在する幾つかの異物および分解産物(オリゴマーおよびポリマー、不鹸化物、殺虫剤、汚染作用物質、重金属、塩素化溶媒)を排除すること、または通常の技術パラメーター(酸価、過酸化物価、ヨウ化物価など)を正常値に戻すだけのことである。
【0041】
そうでなければ、より頻繁におよび好ましくは、組成物を分子蒸留(または同様の手順、例えば超臨界流体による分別抽出)に付して、多様な留分を排除しながら、混合組成物の有意な変更を得る。これは、多様な成分の設定された規格に適合する。われわれは、高真空下での蒸留温度が、本質的に分子の大きさ、すなわち脂肪酸の炭素原子の数に左右されることを見出し、例えば、化合物C18では低く、C20およびC22の順に増加し、温度の任意の範囲内では、不飽和度の少ないものは低く、不飽和度のより大きいものの順に高い。次に蒸留段階を入手可能な組成物に従い、留出物の必要な規格に従って実施する。
【0042】
本明細書の調製工程で記述されている順序は、好ましいものであるが、適宜におよび必要であれば変更することができる。同様に任意の工程において、酸、塩およびエステルを、既知の方法によって互いに変換することができる。尿素処理の数、および留出物の留分の選択は、分析結果に従って実行され、適した決定が当該技術に従ってなされる。
【0043】
特許請求される組成物は、食事療法用途および/または医薬用途の調製物の製造のために使用し得る。この最終調製物を、非経口経路およびより好ましくは経口経路の両方によって投与し得、他のいずれかの投与経路を、好ましくは高い全身吸収を確実にするものおよび局所適用によって実施することができる。いずれの場合においても、断然好ましい投与経路は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences Handbook, Hack Publ. Co.,N.Y.,USAに記載されている指示に従い、目的の組成として、油状活性成分に典型的な技術および賦形剤により得ることができる医薬製剤による経口経路である。好ましい製剤は、軟質カプセル剤、好ましくは軟質ゼラチンカプセル剤のものであるが、耐油性の硬質カプセル剤、固体賦形剤の錠剤、乳剤、分散賦形剤中の顆粒剤、滴剤、シロップ剤などを使用することもできる。組成物の脂肪酸は、好ましくはエチルエステルの形態で存在する。
【0044】
経口用途において、単位用量は、一般に活性成分250〜1500mg、好ましくは500〜1000mgを含み、1日用量は、通常0.3〜5.0g以上、好ましくは0.5〜3.0gである。
【0045】
食事療法用途にもおよび栄養統合剤としても有用である多様な医薬製剤は、本発明の組成物、ならびに相補的および/または相乗的活性を有する他の物質または薬剤の他に、稀釈剤、結合剤、安定剤、界面活性剤、潤滑剤および同等物のような当該技術で既知のヒトでの使用に許容される1つの以上のビヒクルも含有することができるまたは含有しなければならない。極めて望ましいものは、ビタミンE(トコフェロール)、ブチル−ヒドロキシアニソール、ブチル−ヒドロキシトルエン、アスコルビン酸パルミテートおよびアスコルビン酸、並びに同様の作用物質のような酸化防止剤の存在である。また、許容されるまたは必要とされるものは、防腐剤、着色物質、風味剤、甘味料などの存在である。
【0046】
本発明の組成物を含有する調製物の医薬用途に関して、上記に記述された特許および他の記述されていない特許を含む、化学および特許文献のデータへの正式な参照がなされる。一次予防および二次予防(明確な心疾患の前、梗塞後)の両方のために、心臓血管および心循環系の既知の全ての病理および、冠動脈の病理(梗塞および突然死をもたらす)、一般的な血管由来の病理(発作、虚血および脳梗塞)、電気伝導の欠陥により引き起こされる病理(不整脈、心房と心室の両方の細動)および心臓ポンプに関連する機械的原因により誘発される病理(心不全および代償機能障害)などを含むそれらの危険因子(高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、アテローム性動脈硬化症など)が含まれる。
【0047】
また含まれるものは、EPA、DHAおよび組成物の他の構成成分、ならびに全てのエイコサノイドが含まれるこれらの代謝産物の作用に対して、いかなる様式にても感受性のある他の器官および組織、代謝などに関連する病理である。
【0048】
例示目的のみにおいて、中枢神経系疾患(てんかん、抑うつ、二極性の病気など)が、変性型のものも記述され、並びに自己免疫性疾患、腫瘍疾患、関節炎、結合組織の疾患、クローン病、乾癬、および文献に示されている他の幾つかの病気が記述され、全て同様の組成物を使用することについては類似している。
【0049】
鼻出血のような軽い形態から出血、内出血などのようなより危険性の高いものまでを含む、潜在的にまたは実質的に出血の問題に冒されている全ての患者に対して、特定の適応が取り扱われる。
【0050】
本明細書に含まれるものは、活動性潰瘍、肝硬変、腫瘍疾患などを有する患者、並びに外傷性事象の被害者、外科手術を受けた人など、ならびに凝固および血小板凝集の問題に冒されている人である。
【0051】
また、特許請求される組成物により得られる調製物、ならびに感受性のある病理の治療用の同じ調製物の使用および使用方法が、本発明の目的に更に含まれる。
【0052】
以下の実施例は、目的を制限することなく本発明をより良く説明する。
【実施例1】
【0053】
EPAおよびDHAの比較的高い含有量(合計で約26〜27%)、C20〜C22n−6酸の比較的「高い」含有量およびC20、C21、C22n−3酸の比較的「低い」含有量を有する魚油の異なるロットのプールを使用する。続くエタノールによるエステル交換、尿素による分別錯化、および分子分留の段階は、全ての管理された実験条件下で実施され、次の実施例で記載されている。以下の表1において、われわれの目的のn−3およびn−6、C20、C21およびC22多不飽和構成成分に限定されている、出発油の例示的な組成が報告されており、飽和および単不飽和成分は、いずれの場合でも尿素との錯化により完全に除去され、不飽和度の低い多不飽和酸も、強力に低減される。
【0054】
蒸留段階の間、全ての残留低沸点酸の存在はC18まで実質的に低減または排除され、C18:4n−3および非常に低濃度、通常<0.2%で存在する他の成分は明確に除外される。
【0055】
同じ表において、EPAおよびDHAが>80%(86.7%)になり、比率が、2〜0.5(1.25)になり、C20:4およびC22:5n−6が>3.0%(5.5%)になり、他のC20、C21およびC22n−3が<3.0%(1.7%)になる、得られたエチルエステルの組成物である同じ酸についても報告されている。
【0056】
【表1】


【実施例2】
【0057】
本発明によって得られた幾つかの同じ例示的組成物が報告される。
【0058】
基本的な手順は、本発明の記載、実施例1および以下の実施例の変更および指摘を考慮に入れながら、文献、例えばUS5130061、IT1235879、JP02/25447、WO89/11521、EP1310249他から推測される。この組成物は、酸化防止剤としてd,l−アルファ−トコフェロール(>0.03%)を含有することができる。
【0059】
【表2】

【実施例3】
【0060】
a)エステル交換
EPAおよびDHA(それぞれ17.3%および10.4%)、比較的高い酸n−6C20:4およびC22:5(それぞれ0.6%および3.2%)の含有量により特徴付けられ、比較的低い他の酸n−3C20、C21およびC22(合計1.5%)の含有量により特徴付けられる、実施例1で報告されたものと同様の組成の魚油を使用した。
【0061】
1.0kgの油を2リットルのエタノールおよび12.5gの水酸化カリウムにより窒素雰囲気下で2時間撹拌しながら処理し、グリセリドのエチルエステルへの完全な変換を得る。
【0062】
得られた溶液を、水で希釈し、硫酸で酸性化し、二倍容量のヘキサンで希釈する。次に水−アルコール相を排除し、一方、有機相を、エマルションを得ないように注意しながら、水で注意深く洗浄し、乾燥し、真空下で蒸発乾固する。
【0063】
b)尿素による錯化
a)により得られたエチルエステルの混合物を、8リットルのメタノール中の2.5kgの尿素の沸騰溶液で処理し、次に混合物を0/+4℃に冷却し、一晩放置し、尿素と飽和および飽和度の少ない酸との錯体により構成される豊富な沈殿物を得る。沈殿物を濾取し、メタノール溶液を、油状残渣となるまで真空下で蒸留する。残渣をヘキサンで再び溶解し、溶液を水で洗浄し、乾燥し、蒸発乾固して、多不飽和酸のエチルエステルの濃縮混合物を得る。
【0064】
次にその混合物を、一定の組成を得るまで尿素との新たな錯化に付すことができる。
【0065】
c)分子蒸留
多不飽和脂肪酸のエチルエステルの濃縮混合物を、二重段階分子蒸留に付し、主要留分を94〜98℃/10−3mmHgで収集する。この組成物は実施例1)で得られたものと同様に、エチルエステルの形態で、47.7%のEPAおよび38.1%のDHA、0.8%のC20:4n−6、3.1%のC22:5n−6、1.6%に相当する他の酸n−3C20、C21およびC22を含む。適切であれば、得られた混合物は、本発明の記載の教示に従って新たな蒸留(または他の経路による精製)に付される。
【実施例4】
【0066】
1gの軟質ゼラチンカプセル剤の組成および調製が報告される。
【0067】
【表3】

【0068】
調製:実施例1および2の脂肪酸の組成物および賦形剤を計量し、高速撹拌によりタンク中で均質化する。次に混合物をコロイドミルで処理し、ステンレススチール容器で脱気する。次に、続いて標準的な方法および装置を適用して、軟質ゼラチンカプセル剤の中に含める。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エイコサペンタエン酸(EPA、C20:5n−3)および/またはドコサヘキサエン酸(DHA、C22:6n−3)により表されるn−3シリーズの酸の少なくとも80重量%、および、酸C20:4n−6および酸C22:5n−6により表されるn−6シリーズの酸の少なくとも3重量%とを含有し、前記酸が、遊離酸もしくは食事療法用途および医薬用途に許容される塩基とのその塩の形態にて存在し得るまたはC1〜C3アルキルエステルにて存在し得る、長鎖多不飽和脂肪酸の組成物。
【請求項2】
EPAおよびDHAと異なる他のn−3酸、C20、C21およびC22が、3重量%未満、特に1.5重量%未満を構成する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
酸C21:5n−3が、1%未満を構成する、請求項1および2記載の組成物。
【請求項4】
酸C21:4n−3が、1%未満を構成する、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
酸C22:5n−3が、1%未満を構成する、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
少なくとも85重量%のEPAおよび/またはDHAを含有する、請求項1から5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも90重量%のEPAおよび/またはDHAを含有する、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
少なくとも5重量%のC20:4n−6およびC22:5n−6を含有する、請求項1から7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
少なくとも5.5重量%のn−6シリーズの酸を含有する、請求項1から8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
少なくとも8重量%のn−6シリーズの酸を含有する、請求項1から9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
少なくとも40重量%のEPAを含有する、請求項1から10のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
少なくとも34重量%のDHAを含有する、請求項1から11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
酸C22:5n−6が、少なくとも1.2%を構成する、請求項1から12のいずれかに記載の組成物。
【請求項14】
酸C22:5n−6が、少なくとも2%を構成する、請求項1から13のいずれかに記載の組成物。
【請求項15】
EPAおよびDHAの間の比率が、2:1から1:2、好ましくは1.5:1から0.9:1に含まれる、請求項1から14のいずれかに記載の組成物。
【請求項16】
酸C20:4n−6および酸C22:5n−6の間の比率が、10:1から1:10の間である、好ましくは3:1から1:3の間である、請求項1から15のいずれかに記載の組成物。
【請求項17】
酸C20:4n−3および酸C22:5n−3の間の比率が、10:1から1:10の間である、好ましくは3:1から1:3の間である、請求項1から16のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
食事療法用途および医薬用途に許容される塩基との塩が、無機塩基および有機塩基との塩により表される、請求項1から17のいずれかに記載の組成物。
【請求項19】
C1〜C3アルキルエステルがエチルエステルにより表される、請求項1から18のいずれかに記載の組成物。
【請求項20】
天然由来の油を、加水分解またはアルコール分解(エステル交換)に付し、次に、任意の順序にて濃縮およびおよび蒸発および/または精製に付し、請求項1記載の主要留分を得、いずれの処理段階も脂肪酸の酸化および異性化を避ける条件で実施され、その後、必要であれば、加水分解で得られた酸をエステル化しまたはアルコール分解で得られたエステルを加水分解して遊離脂肪酸にし、場合により変換して塩にする、請求項1から19のいずれかに記載の組成物の製造手順。
【請求項21】
天然由来の油が、魚油である、請求項20記載の手順。
【請求項22】
濃縮が尿素を用いる分別によって実施される、請求項20および21記載の手順。
【請求項23】
蒸留および/または精製が、分子蒸留により実施される、請求項20から22記載の手順。
【請求項24】
天然由来の油が、特に高いEPA含有量を、好ましくは>12%を、および特に高いDHA含有量を、好ましくは>8%を有する、請求項20から23記載の手順。
【請求項25】
天然由来の油が、特に高いn−6酸の含有量を有し、好ましくは、酸C20:4n−6およびC22:5n−6が合計で>2.5%であり、酸C22:5n−6が単独で>1.2%である、請求項20から24記載の手順。
【請求項26】
天然由来の油が、特に低い他のn−3酸の含有量を有し、好ましくは、酸C20:4n−3、C21:5n−3およびC22:5n−3が合計で<3%であり、単独で<1%である、請求項20から25記載の手順。
【請求項27】
心臓血管疾患の多重危険因子に罹患している、心臓血管および心循環系疾患に罹患しているならびにEPAおよび/または組成物の他の構成成分の作用に感受性のある他の病理に罹患している被験者の治療および/または予防のための、食事療法用調製物または医薬用調製物の製造のための、請求項1から19記載の組成物の使用。
【請求項28】
心臓血管疾患の多重危険因子が、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、高血圧および凝固第VII因子の活動亢進により表される、請求項27記載の使用。
【請求項29】
心臓血管および心循環系疾患が、アテローム性動脈硬化および梗塞前後の状態のようなおよび発作、虚血および脳梗塞のような冠状動脈および血管の問題に由来する;頻拍、心房性および心室性不整脈、細動および突然死のような電気伝導および律動の欠陥に由来する;心不全および代償機能障害のような心臓ポンプの機械的欠陥に由来する、請求項27記載の使用。
【請求項30】
感受性のある病理が、てんかん、抑うつおよび双極性の形態のような中枢神経系疾患、神経変性の病気、自己免疫性病理、腫瘍疾患、関節炎および結合組織の疾患、クローン病、乾癬および他により表される、請求項27記載の使用。
【請求項31】
患者が、活動性潰瘍、肝硬変、腫瘍疾患に罹患している人ような、並びに外傷性および外科的事象の被害者のようなおよび凝固および血小板凝集に罹患している人のような、出血過程に容易に冒される、請求項27から30の使用。
【請求項32】
請求項1から19記載の組成物を、薬理学的に許容できるビヒクルおよび/または賦形剤および/または稀釈剤への包ませることを含む、請求項27記載の食事療法用または医薬用調製物の製造方法。
【請求項33】
経口または非経口使用のための、請求項32記載の食事療法用または医薬用調製物。
【請求項34】
軟質ゼラチンカプセルにより構成される、請求項33記載の食事療法用または医薬用調製物。
【請求項35】
請求項1から19のいずれかに記載の組成物に感受性のある患者の治療のための、請求項34記載の調製物の使用。

【公表番号】特表2009−504588(P2009−504588A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−525464(P2008−525464)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【国際出願番号】PCT/EP2006/007823
【国際公開番号】WO2007/017240
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(506249266)
【Fターム(参考)】