説明

高濃度フラーレン(C60)ガラスを調製するための組成物、および大きな単層ガラスを調製する方法

本発明は、高濃度フラーレン(C60)ガラスを調製するための相乗的組成物、およびフラーレン(C60)をドープされた大きな単層ガラスを前記相乗的組成物を用いて調製する方法に関する。このガラスは、非線形フォトニック材料として、特に非線形光学媒質および光リミッタとして用いられうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度フラーレン(C60)ガラスを調製するための相乗的組成物(synergistic composition)、およびフラーレン(C60)をドープされた大きな単層(in bulk monolith)ガラスを前記相乗的組成物を用いて調製する方法に関する。このようにして得られたガラスは、非線形フォトニック材料として、特に非線形光学媒質および光リミッタ(optical limiter)として有用である。
【背景技術】
【0002】
フラーレンは、興味深い光学的および光電子工学的特性を有する閉殻状の炭素分子の一種である。20〜980およびそれ以上の数の炭素原子から成る種々の同族体系列の中で(M. S. Dresselhaus et al, "Science of Fullerene and Carbon nanotudes", Academic Press, 1996)、最も安定で広く研究されている分子は、C60フラーレンおよびC70フラーレンである。C60およびC70は、構造的に類似しており、球状フラーレンの表面上に分散した共役非局在性π電子の拡張ネットワーク(extended network)を有する。これらの化合物は、多種多様な驚くべき特性を有する。多くの共役系ポリマーにはよく見られることだが、C60およびC70の電気伝導性は、制御されたn型ドーピングによりそれらを絶縁体、半導体または超伝導体にすることで変化されうる。Lee W. Tuttは、C60およびC70フラーレンの溶液は、共に低強度光に対しては透明であるが臨界強度以上ではほぼ不透明であり、光リミッタとして使用されうることを最初に示した(米国特許第5172278号;1992年12月15日)。フラーレンをすべてのこのような用途に用いることに対する主な問題点の1つは、それらが周囲の環境条件下では不安定であることである。酸素および水は、光の存在下においてフラーレンと反応することが知られている。したがって、すべての実用的なデバイス応用のためには、フラーレンを適切な固体基剤(host)に包含させることが必要である。
【0003】
N. S. SariciftciおよびA. J. Heegerは、フラーレンC60およびC70は適切な有機導電性ポリマー中に含まれることによって感光性フィルムとして技術的に有用になりうることをを示した(米国特許第533183号;1994年7月19日)。しかしながら、光学的および光電子工学的応用のためには、適切なガラス状基剤に含まれたフラーレンが、最も望ましい材料であるに違いない。
【0004】
ガラス状基剤にフラーレンC60およびC70を包含させる実験を行い、ある程度の成功を収めたという報告が多数ある。これらの大半の例では、フラーレンをシリカ基剤にゾル-ゲル法により含ませることが試みられた。例えば、B. R. Mattes, W. Duncan, J. M. Robinson, A. C. KoskeloおよびS. P. Loveにより記載された方法(米国特許第5420081号;1995年5月30日)や、Sheng Dai, R. N. Compton, J. K. YoungおよびG. Mamantovにより記載された方法(J. of Am. Cer. Soc., 75(1992) 2865)がある。これらすべての場合において、基剤中に分散したC60またはC70フラーレンのクラスターを有し、かつ大きさが13〜15mm×0.5mmより小さい薄膜/プレートの調製が報告されている。いくつかの場合では、フラーレンの特定の誘導体が、シリカ−C60フラーレン組成物のゾル−ゲル法による調製に用いられた(R. Signorini et al, SPIE, vol. 2854, 130)。これらすべての組成物において、主な欠点は、フラーレンが基剤に含まれる水による環境劣化から完全には保護されないという事実に示される。
【0005】
F. Lin, S. Mao, Z. Meng, H. Zeng, J. Qiu, Y. YueおよびT. Guoは、密閉された装置内で融解させることにより、C60フラーレンをドープされたリン酸塩ガラスを調製する方法について説明している(Appl. Phys. Lett., 65(1994), 2522)。この技術によって得られる生成物は、均一に分散したフラーレンクラスターを含むことが明らかになっている。
【0006】
近年、R. Sahoo, S. K. BhattacharyaおよびR. Debnathは、種々の組成を有するフラーレン(C60)ガラスの大きな単層ガラス(bulk monolith)を調製する方法について説明している(インド特許"a novel process for preparing bulk monolith of Carbon sub sixty fullerene (C60)-glass-composite useful in device application as nonlinear optical medium and optical limiter";第622/DEL/2001号;2001年5月29日)。
【0007】
上記特許出願によれば、ガラス組成物は、0〜50モル%の五酸化リン(P)、0〜40モル%の酸化ホウ素(B)、0〜30モル%の酸化ビスマス(Bi)、0〜1モル%の二酸化ケイ素(SiO)、0〜1モル%の酸化アルミニウム(Al)、10〜45.5モル%の酸化亜鉛(ZnO)、10〜40モル%の酸化鉛(PbO)、0〜0.1モル%の二酸化スズ(SnO)、0〜5モル%のMO(M=Na,K,Li)、および0.05〜0.10重量%のフラーレン(C60)を含む。
【0008】
しかしながら、この方法に用いられるガラス組成物には、フラーレン(C60)を高濃度に溶解させるという点で限界があることに注意しなければならなかった。上記インド特許出願に記載された組成物は、フラーレンを分散させた状態でのみ媒体中に保持することが可能である。その結果、比較的高濃度のフラーレン、すなわち0.10重量%を超える濃度のフラーレンを、ガラス組成物に含ませることはできない。本発明において、光リミッタや非線形媒質などのデバイスへ応用するためには、できるだけ多量のフラーレンをガラス組成中に含ませることが好ましいことから、上記特許出願もまた、多少の欠点を有している。
【0009】
ドーパントの基剤への効果的な溶解は、ドーパントと基剤との間に相互作用の何らかの短絡(short)が生じたときのみ達成されることは、一般に知られた原理である。特許に開示された組成物は、多くの場合フラーレン(C60)とは相互作用せず、いくつかの場合だけ弱く相互作用する。したがって、この方法は、低濃度のフラーレンを有するガラスのみを調製することができる。
【0010】
フラーレンをドープされたガラスを調製する従来の方法の主な欠点は、以下のようなものである。
1)フラーレンをドープされたゾル−ゲルシリカガラスの場合、フラーレンは、基剤に内在する水分子からだけではなく、環境劣化からも完全には保護されない。
2)フラーレン−リン酸塩ガラス組成物を調製する密封装置融解法は、均質な生成物を与えず、有用な大きさのサンプルを提供することに制限がある。
3)高濃度の溶解フラーレン(C60)を有するフラーレン(C60)ガラスは、従来技術者が開示したガラス組成物をもってしては達成できない。出願人の最近の先願のインド特許出願第622/DEL/2001号(2001年5月29日)に提案された組成物でさえ、フラーレン(C60)を高濃度に溶解させるには限界がある。これは、これら先の研究において提案された組成物は、多くの場合、フラーレン(C60)と全く相互作用をしないか、または弱い相互作用しかしないためである。
【0011】
すべての上記欠点を克服するためには、フラーレンを高濃度に溶解させることができ、かつフラーレンを環境劣化から保護することができる、新規のガラス組成物を提供することが不可欠である。また、フラーレンを含ませるときに、フラーレンのクラスター形成を回避するように注意しなければならない。
【0012】
上記基準のすべてを念頭におき、本発明者らは、ガラス中に0.15〜0.20重量%のフラーレンを含ませることができる新規の組成物を発明した。本発明の相乗的ガラス組成物は、そのマトリクス中に高濃度のフラーレン(C60)を溶解させうる結合を形成させるために、含まれるフラーレン(C60)に対する生成したガラスの反応性だけでなく、構成成分の化学的反応性も考慮しながら案出されたものである。本発明者らは、構成成分およびそれらの濃度が、製造されるガラスの総合的な特性に非常に重要な役割を果たすことを見出した。構成成分が変えられたり、構成成分の濃度が本発明で特定される範囲を逸脱して変えられたりすれば、得られるガラスの特性は満足できるものではなくなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の主な目的は、高濃度フラーレン(C60)ガラスを調製するための相乗的組成物を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、相乗的組成物を用いて大きな単層ガラスを調製する方法を提供することである。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、容易で、商業的開発に用途の広い、ガラスの調製方法を提供することである。
【0016】
本発明のもう1つの目的は、一般的に非線形フォトニック材料として用いるのに適しており、特に効果的な非線形光学媒質および光リミッタとして種々のデバイス応用に適している、フラーレン(C60)ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
したがって、本発明は、30〜50モル%の酸化ホウ素(B)、10〜45モル%の酸化ビスマス(Bi)、0〜5モル%の二酸化ケイ素(SiO)、0〜1モル%の酸化アルミニウム(Al)、0〜30モル%の酸化亜鉛(ZnO)、0〜45モル%の酸化鉛(PbO)、および0.02〜0.20重量%のフラーレンC60を含む、一般的に非線形フォトニック材料として有用であり、特に非線形光学媒質および光リミッタとしてデバイス応用に有用である高濃度フラーレン(C60)ガラスを調製するための相乗的組成物を提供する。
【0018】
本発明の一実施の形態において、用いられる酸化ホウ素は、そのままで、またはホウ酸(HBO)のような酸化されたホウ素から成る化合物として用いられる。
【0019】
本発明の別の実施の形態において、用いられる酸化ビスマスは、そのままで、あるいは硝酸ビスマス[Bi(NO]、塩化ビスマス(BiCl)または次硝酸ビスマス[OBi(NO)]のような化合物として用いられる。
【0020】
本発明のさらに別の実施の形態において、用いられる酸化アルミニウム(Al)は、そのままで、または水酸化アルミニウム[Al(OH)]として用いられる。
【0021】
本発明のさらに別の実施の形態において、用いられる酸化鉛は、炭酸鉛(PbCO)、鉛丹(Pb)またはフッ化鉛PbFの態様で用いられる。
【0022】
本発明のもう1つの実施の形態において、用いられるフラーレンの濃度は、好ましくは0.10〜0.20重量%の範囲内、より好ましくは0.10〜0.16重量%の範囲内である。
【0023】
また、本発明は、以下のステップを含む、フラーレン(C60)を0.02〜0.20重量%含む大きな単層ガラスを調製する方法を提供する。
(a)30〜50モル%の酸化ホウ素(B)、10〜45モル%の酸化ビスマス(Bi)、0〜5モル%の二酸化ケイ素(SiO)、0〜1モル%の酸化アルミニウム(Al)、0〜30モル%の酸化亜鉛(ZnO)、および0〜45モル%の酸化鉛(PbO)を含む混合物を400〜850°Cの範囲内の温度で加熱し、固体塊を得るステップ;
(b)固体塊を顆粒/粉末に粉砕するステップ;
(c)0.02〜0.20重量%のフラーレン(C60)をステップ(b)の顆粒/粉末に添加し、両成分を念入りに混合し、真空下においてその混合物を350〜390°Cの範囲内の温度で加熱処理し、不活性ガス雰囲気下において混合物を600〜750°Cの範囲内の温度で融解するステップ;
(d)ステップ(c)の融解物を冷却し、0.02〜0.20重量%のフラーレン(C60)を含む透明な単層ガラス(monolithic glass)を得るステップ。
【0024】
本発明の一実施の形態において、用いられる酸化ホウ素は、そのままで、またはホウ酸(HBO)のような化合物として用いられる。
【0025】
本発明の別の実施の形態において、用いられる酸化ビスマスは、そのままで、あるいは硝酸ビスマス[Bi(NO]、塩化ビスマス(BiCl)または次硝酸ビスマス[OBi(NO)]のような化合物として用いられる。
【0026】
本発明のさらに別の実施の形態において、用いられる酸化アルミニウム(Al)は、そのままで、または水酸化アルミニウム[Al(OH)]として用いられる。
【0027】
本発明のさらに別の実施の形態において、用いられる酸化鉛は、炭酸鉛(PbCO)、鉛丹(Pb)またはフッ化鉛PbFの態様で用いられる。
【0028】
本発明のもう1つの実施の形態において、用いられるフラーレンの濃度は、好ましくは0.10〜0.20重量%の範囲内、より好ましくは0.10〜0.16重量%の範囲内である。
【0029】
本発明の別の実施の形態において、ステップ(a)では、酸化ホウ素、酸化ビスマス、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛および酸化鉛の混合物は、アルミナるつぼにおいて加熱される。
【0030】
本発明のさらなる実施の形態において、ステップ(c)では、フラーレン(C60)と顆粒との混合物は、炭素るつぼにおいて加熱処理される。
【0031】
本発明のさらなる実施の形態において、用いられる不活性ガスは、ヘリウム、窒素、アルゴン、またはこれらの混合ガスである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の詳細な工程は以下の通りである。
1.30〜50モル%の酸化ホウ素(B)、10〜45モル%の酸化ビスマス(BiO)、0〜5モル%の二酸化ケイ素(SiO)、0〜1モル%の酸化アルミニウム(Al)、0〜30モル%の酸化亜鉛(ZnO)、および0〜45モル%の酸化鉛(PbO)の相乗的ガラス組成物を、アルミナるつぼにおいて400〜850°Cの範囲内の温度で加熱し、固体塊を得る。
2.固体塊を顆粒/粉末に粉砕する。
3.固体の総重量に対して0.02〜0.20重量%の濃度範囲内になるように、フラーレン(C60)を顆粒/粉末に添加する。
4.2つの成分を念入りに混合する。
5.真空下において、混合物を炭素るつぼ中で350〜390°Cの範囲内の温度で加熱処理する。
6.不活性ガス雰囲気下において、混合物を600〜750°Cの範囲内の温度で融解する。融解物を冷却し、0.02〜0.20重量%のフラーレン(C60)を含む透明な単層ガラスを得る。
【0033】
本発明の新規性および進歩性を有する発見は、「本発明のガラス組成物は、フラーレンを溶解させることができ、それにより含まれるフラーレンの濃度を増大させることができる」という事実にある。より具体的には、構成成分のフラーレン(C60)に対する化学的反応性の程度は、生成されるガラスの化学反応性と同様に、ガラスが意外にもフラーレンとの結合を形成し、それによりガラスが高濃度のフラーレン(C60)をマトリクス中に溶解させうる。結合の形成は、ガラスに含まれるフラーレンの濃度を増大させるのを助けるのみでなく、フラーレンを外気に曝されることから保護する。
【0034】
本発明の新規性は、フラーレン(C60)分子がガラス基剤と効果的に相互作用し、結合を介してガラス基剤中に均一に分散した状態であり続ける、高濃度フラーレン(C60)ガラスを調製するための相乗的組成物を選び出すことにある。
【0035】
本発明の別の新規性は、非線形光学媒質および光リミッタとしてのデバイス、ならびに概して非線形フォトニック材料としてのデバイス応用に適した大きさの高濃度フラーレン(C60)ガラスの大きな単層ガラスを調製するための方法を提供することにある。
【0036】
高濃度フラーレンガラスを含む単層ガラスを得られる別の新規性および進歩性を有する特徴は、ガラス融解の2ステップ法を用いることである。フラーレン(C60)と顆粒との混合物を融解する2ステップ法により、フラーレン(C60)をガラス中に含ませる際のフラーレン(C60)の環境劣化を避けられる。相乗的組成物を用いて大きな単層ガラスを調製するために提供される方法は、ガラスとフラーレン(C60)との起こり得る相互作用の性質、相互作用温度、環境および時間などを考慮したものである。
【0037】
また、真空下において加熱処理した後、不活性雰囲気下において加熱炉中で融解する方法を用いることにより、小〜中くらいの大きさのバッチ(batch)を提供することができる。
【実施例】
【0038】
以下に提供される実施例は単に例示のためだけのものであって、本発明の範囲を限定するものであると解釈されるべきではない。
【0039】
(実施例1)
0.28モルのホウ酸(HBO)、0.07モルの酸化ビスマス(Bi)、0.1225モルの炭酸鉛(PbCO)、および.0175モルのSiOの念入りに混合した混合物を用いて、加熱炉内のアルミナるつぼ内でバッチを500〜600°Cで30分間加熱し、温度を約800°Cまで上昇させることにより塊を透明な融解物にし、融解物を固体になるまで冷却し、塊を粉末になるまで粉砕し、14mgのC60フラーレンを15gの粉末に添加し、真空化において炭素るつぼ内で混合物を約360〜375°Cで3時間加熱処理し、最後に制御された窒素ガス雰囲気下において混合物を約680°Cの温度で35分間融解して、高濃度のフラーレンを含むガラスを調製した。得られたガラスは、緑色を有する単層ガラスであった。
【0040】
(実施例2)
0.27モルのHBO、0.21モルのBi(NO、0.057モルのPbCO、および0.003モルのAlのバッチ混合物(batch mixture)を出発物質とし、加熱炉内のアルミナるつぼ内でバッチを約650°Cで融解し、融解物を塊になるまで冷却し、塊を粉末になるまで粉砕し、12mgのフラーレン(C60)を48gのこの基剤に添加し、真空化において炭素るつぼ内で混合物を385°Cで2時間加熱処理し、その後制御された窒素雰囲気下において混合物を750°Cで20分間ガラス質の液体になるまで融解して、48gのフラーレン含有ガラスを調製した。得られたガラスは、赤緑色を示した。
【0041】
(実施例3)
別の試験において、0.1575モルのB、0.033モルのZnO、および0.315モルのOBi(NO)のバッチ混合物を出発物質とし、加熱炉内の温度を約820°Cまで上げることによりアルミナるつぼ内で混合物を融解し、融解物をガラスになるまで冷却し、塊をフリットになるまで粉砕し、10mgの(C60)フラーレンを約6gのフリットに添加し、真空化においてガラス質の炭素るつぼ内で混合物を約370°Cで1時間加熱処理し、最後に制御されたヘリウムガス雰囲気下において混合物を約700°Cで0.5時間ガラス質の融解物になるまで融解して、ガラスを調製した。得られたガラスは、赤色を有する単層ガラスであった。
【0042】
(実施例4)
0.30モルのHBO、0.02モルのPb、0.12モルのBiCl、および0.03モルのZnOから成るバッチ混合物を用いて、白金るつぼ内でバッチを約700°Cの温度で焼結塊になるまで融解し、塊を顆粒状にし、9mgの(C60)フラーレンを25gの顆粒に添加し、構成成分を念入りに混合し、真空下においてガラス質の炭素るつぼ内で混合物を約370°Cで1時間加熱処理し、その後温度を725°Cまで上げることにより混合物を20分間融解して、別の上記のようなガラスを調製した。得られたガラスは、赤緑色を示した。
【0043】
(実施例5)
0.12モルのPbCO、0.294モルのHBO、0.06モルのBi(NO、および0.003モルのSiOの混合物のバッチを用いて、アルミナるつぼ内で混合物を約550°Cで5時間加熱処理して焼結塊にし、生成物を粉末になるまで粉砕し、8.5mgのC60フラーレンを30gの粉末に添加し、2つの構成成分を念入りに混合し、真空下において炭素るつぼ内で混合物を約390°Cで1時間加熱処理し、最後に制御されたアルゴン雰囲気下において温度を730°Cまで上げることにより混合物を30分間溶融し、C60フラーレンの均質分散体を含むガラスを形成して、同様のガラスを調製した。ガラスは緑色であった。
【0044】
(実施例6)
0.03モルのPb、0.06モルのBi(NO、0.30モルのHBO、および0.03モルのZnOのバッチ混合物を用いて、アルミナるつぼ内でバッチを約700°Cでガラス状塊になるまで融解し、ガラス状塊をフリッツになるまで粉砕し、12mgのC60フラーレンを45gのフリッツに添加し、真空下において密閉加熱炉内のガラス質の炭素るつぼ内で新たな混合物を約380°Cで1時間加熱処理し、最後に窒素定常流下において材料を約750°Cで20分間融解し、上記のようなガラスのサンプルを調製した。融解物を冷却し、得られたガラスは薄緑色を有していた。
【0045】
上述したようにガラス組成物を用いて種々の大きさおよび形状に調製された、高濃度フラーレン(C60)を含む有色透明の単層ガラスのサンプルは、それらの色および光吸収の研究から明らかなように、大部分は複合体(complex)として、一部は独立した分子としてフラーレンがガラス内に存在することを示した。これらのことは、明細書に添付される図面の図1に示される。すべてのサンプルは、他の非線形光学特性だけでなく、良好な光制限(optical limiting)を示した。
【0046】
本発明の主な利点は以下のようなものである。
1.規定された組成物は、ガラスとフラーレンとの間の相互作用を介して、ガラス中に高濃度のフラーレン(C60)を溶解させるのに適している。
2.この組成物は、ガラスとの相互作用を介してフラーレン(C60)を高濃度に溶解させる効率の点に関して、本発明者らが先に開示したインド特許第622/DEL/2001号の組成物より優れたものである。
3.本発明のフラーレン(C60)ガラスを調製する方法は、実際のデバイス応用に有用な大きさの大きな単層ガラスを調製するのに用いられうる。
4.この方法は、フラーレン(C60)の均質な分散、および環境劣化からのフラーレン(C60)の保護の両方の点に関して、ゾル−ゲル法より優れたものである。
5.この方法は、容易であり、かつ商業的開発において費用効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
30〜50モル%の酸化ホウ素(B)、10〜45モル%の酸化ビスマス(Bi)、0〜5モル%の二酸化ケイ素(SiO)、0〜1モル%の酸化アルミニウム(Al)、0〜30モル%の酸化亜鉛(ZnO)、0〜45モル%の酸化鉛(PbO)、および0.02〜0.20重量%のフラーレンC60を含む、
一般的に非線形フォトニック材料として有用であり、特に非線形光学媒質および光リミッタとしてデバイス応用に有用である高濃度フラーレン(C60)ガラスを調製するための相乗的組成物。
【請求項2】
用いられる前記酸化ホウ素は、そのままで、またはホウ酸(HBO)のような酸化されたホウ素から成る化合物として用いられる、請求項1記載の相乗的組成物。
【請求項3】
用いられる前記酸化ビスマスは、そのままで、あるいは硝酸ビスマス[Bi(NO]、塩化ビスマス(BiCl)または次硝酸ビスマス[OBi(NO)]のような化合物として用いられる、請求項1記載の相乗的組成物。
【請求項4】
用いられる前記酸化アルミニウム(Al)は、そのままで、または水酸化アルミニウム[Al(OH)]として用いられる、請求項1記載の相乗的組成物。
【請求項5】
用いられる前記酸化鉛は、炭酸鉛(PbCO)、鉛丹(Pb)またはフッ化鉛PbFの態様で用いられる、請求項1記載の相乗的組成物。
【請求項6】
用いられるフラーレンの濃度は、好ましくは0.10〜0.20重量%の範囲内、より好ましくは0.10〜0.16重量%の範囲内である、請求項1記載の相乗的組成物。
【請求項7】
(a)30〜50モル%の酸化ホウ素(B)、10〜45モル%の酸化ビスマス(Bi)、0〜5モル%の二酸化ケイ素(SiO)、0〜1モル%の酸化アルミニウム(Al)、0〜30モル%の酸化亜鉛(ZnO)、および0〜45モル%の酸化鉛(PbO)を含む混合物を400〜850°Cの範囲内の温度で加熱し、固体塊を得るステップと、
(b)前記固体塊を顆粒/粉末に粉砕するステップと、
(c)0.02〜0.20重量%のフラーレン(C60)をステップ(b)の顆粒/粉末に添加し、両成分を念入りに混合し、真空下においてその混合物を350〜390°Cの範囲内の温度で加熱処理し、不活性ガス雰囲気下において前記混合物を600〜750°Cの範囲内の温度で融解するステップと、
(d)ステップ(c)の融解物を冷却し、0.02〜0.20重量%のフラーレン(C60)を含む透明な単層ガラスを得るステップと、
を含む、フラーレン(C60)を0.02〜0.20重量%含む大きな単層ガラスを調製する方法。
【請求項8】
用いられる前記酸化ホウ素は、そのままで、またはホウ酸(HBO)のような化合物として用いられる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
用いられる前記酸化ビスマスは、そのままで、あるいは硝酸ビスマス[Bi(NO]、塩化ビスマス(BiCl)または次硝酸ビスマス[OBi(NO)]のような化合物として用いられる、請求項7記載の方法。
【請求項10】
用いられる前記酸化アルミニウム(Al)は、そのままで、または水酸化アルミニウム[Al(OH)]として用いられる、請求項7記載の方法。
【請求項11】
用いられる前記酸化鉛は、炭酸鉛(PbCO)、鉛丹(Pb)またはフッ化鉛PbFの態様で用いられる、請求項7記載の方法。
【請求項12】
用いられるフラーレンの濃度は、好ましくは0.10〜0.20重量%の範囲内、より好ましくは0.10〜0.16重量%の範囲内である、請求項7記載の方法。
【請求項13】
ステップ(a)において、酸化ホウ素、酸化ビスマス、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛および酸化鉛の混合物は、アルミナるつぼにおいて加熱される、請求項7記載の方法。
【請求項14】
ステップ(c)において、フラーレン(C60)と顆粒との混合物は、炭素るつぼにおいて加熱処理される、請求項7記載の方法。
【請求項15】
用いられる前記不活性ガスは、ヘリウム、窒素、アルゴン、またはこれらの混合ガスである、請求項7記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−516143(P2007−516143A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−509827(P2005−509827)
【出願日】平成15年10月23日(2003.10.23)
【国際出願番号】PCT/IB2003/004778
【国際公開番号】WO2005/040054
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(595023873)カウンシル・オブ・サイエンティフィック・アンド・インダストリアル・リサーチ (69)
【Fターム(参考)】