説明

高炉内ガスのガス利用率計測方法および装置

【課題】短時間にかつ正確に高炉内ガスのガス利用率を計測することができる、高炉内ガスのガス利用率計測方法および装置を提供することを課題とする。
【解決手段】高炉炉頂部に設置したガス導出管から高炉下部から吹き上がってくる高炉排出ガスを導出し、
前記ガス導出管で形成される流路途中において、一酸化炭素および二酸化炭素の吸収波長に一致する波長の電磁波を送受信し、
該送受信信号のスペクトル解析を行い、前記吸収波長に対応する周波数の信号強度の変化から一酸化炭素および二酸化炭素の濃度を算出し、
算出した一酸化炭素および二酸化炭素の濃度に基づき、高炉排出ガスのガス利用率を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉炉頂部における炉内ガスのガス利用率を計測する、高炉内ガスのガス利用率計測方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼の生産設備である高炉では、炉頂から鉄鉱石、焼結鉱、コークスなどの原料を装入し、炉下部に設けられた羽口から熱風を吹き込み、鉄鉱石、焼結鉱とコークスの還元反応によって、銑鉄を生産し、炉底部に溜まった銑鉄およびスラグは出銑孔から順次排出される。
【0003】
炉頂部では、所定の平均粒径をもった所定量の装入原料が所定の位置に積層されるように旋回シュートの動きが制御されている。このとき、装入された原料の上面をストックラインと呼ぶ。装入された原料は炉下部での反応が進むにつれ、炉底部に溜まった溶銑が出銑孔から順次排出されるため徐々にストックラインが下がっていき、その上から新たな原料が装入され、新たなストックラインを形成する。
【0004】
高炉の操業においては、銑鉄を1t生産するのに必要な還元材としてのコークスの量(コークス比)が重要な因子であり、効率的な還元反応が行えるように原料装入を行ってコークス比を小さくできれば二酸化炭素排出量を抑制することができる。高炉ではコークス比をできるだけ減らすような原料の装入方法が取られているものの、二酸化炭素の排出抑制のためにさらなるコークス比の削減が求められている。
【0005】
高炉で効率よく銑鉄を生産するためには、炉下部での還元反応が炉の中心に近い部分だけでなく、炉の周辺部(炉壁に近い部分)でも反応が起こることが要求される。羽口から吹き込まれる熱風は炉の中心方向に向けて吹き込まれるため、炉壁に近い部分では炉外に熱を放出してしまい炉の中心に近い部分よりも反応性が低下していると考えられる。そこで、羽口から吹き込まれた熱風が、周辺へも十分行き渡るように装入物の装入方法を制御し、装入後の原料の積層状況に適切な分布を持たせることでコークス比を抑制した上で効率的に高炉操業を行うことが可能となる。なお、逆に周辺へのガス流が多くなるのも操業上問題となる。
【0006】
装入物分布状況が適切なものであるか否かを確認する方法として、高炉の炉下部から吹き上がってくるガス中の一酸化炭素や二酸化炭素の比(ガス利用率)を計測する方法(例えば、特許文献1)がある。炉底部から吹き上がってくるガスのガス利用率を計測することにより原料の装入方法が適切かどうか、また炉内での還元反応が適切に進行しているかどうかを判断することが可能となる。さらには、炉況が不安定となった場合には、ガス利用率が大きく低下することが知られている。
【0007】
炉底部から吹き上がってくるガスのガス利用率を演算するにあたっては、ガス中の一酸化炭素や二酸化炭素の濃度計測が必要である。例えば、特許文献2には、高炉内ガスのサンプリング装置、サンプリングしたガス中の二酸化炭素の濃度による融着帯位置の判定について開示されている。
【0008】
これまでは、高炉炉頂においてガスをサンプリングし、サンプリングされたガスを分析装置まで導入し、ガスクロマトグラフィによってガス中のCO、CO2成分を定量分析し、この分析結果に基づきガス利用率を算出してプロセスコンピュータに送信・記録していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−117208号公報
【特許文献2】特開2006−249501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したガス利用率計測方法では、分析装置が精密機器のため粉塵などが多い高炉炉体から遠ざけ、専用の部屋を設けて測定を行っている。ガスのサンプリングを行う場所から分析装置まではガス管によって搬送されるが、距離が長く、またガスクロマトグラフィによる分析にも時間がかかる。ある瞬間にサンプリングされたガスの分析が終了するまでには、数10分程度の時間を要している。このようにガス利用率をリアルタイムに計測できていないため、装入物分布の効果の確認や、炉況悪化を検知するのに時間がかかってしまうという問題があった。
【0011】
なお、炉内で二酸化炭素濃度を直接測定するとした場合には、高炉内部では粉塵が密度濃く飛散しているため、二酸化炭素の吸収スペクトルがある赤外線領域の電磁波は反射されてしまい十分な精度が得られないと考えられる。また、原料からの輻射熱も測定に大きく影響すると考えられる。
【0012】
本発明では、これら従来技術の問題点に鑑み、短時間にかつ正確に高炉内ガスのガス利用率を計測することができる、高炉内ガスのガス利用率計測方法および装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、以下の発明によって解決できる。
【0014】
[1] 高炉炉頂部に設置したガス導出管から高炉下部から吹き上がってくる高炉排出ガスを導出し、
前記ガス導出管で形成される流路途中において、一酸化炭素および二酸化炭素の吸収波長に一致する波長の電磁波を送受信し、
該送受信信号のスペクトル解析を行い、前記吸収波長に対応する周波数の信号強度の変化から一酸化炭素および二酸化炭素の濃度を算出し、
算出した一酸化炭素および二酸化炭素の濃度に基づき、高炉排出ガスのガス利用率を求めることを特徴とする高炉内ガスのガス利用率計測方法。
【0015】
[2] 上記[1]に記載の高炉内ガスのガス利用率計測方法において、
一酸化炭素および二酸化炭素の濃度は、下記(1)式に基づき算出し、
高炉排出ガスのガス利用率は、下記(2)式に基づき求めることを特徴とする高炉内ガスのガス利用率計測方法。
【0016】
【数1】

【0017】
【数2】

【0018】
[3] 高炉下部から吹き上がってくる高炉排出ガスを導出する、高炉炉頂部に設置したガス導出管と、
一酸化炭素および二酸化炭素の吸収波長に一致する波長の電磁波を送受信する、前記ガス導出管で形成される流路途中に設置した電磁波送信手段および電磁波受信手段と、
該電磁波送信手段および電磁波受信手段からの送受信信号のスペクトル解析を行うスペクトル解析手段と、
前記吸収波長に対応する周波数の信号強度の変化から一酸化炭素および二酸化炭素の濃度を算出し、算出した一酸化炭素および二酸化炭素の濃度に基づき高炉排出ガスのガス利用率を求める、信号演算手段とを具備することを特徴とする高炉内ガスのガス利用率計測装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、装入原料の粒子間を上昇してきた高炉内ガスのガス利用率をリアルタイムに計測できるので、結果を操業への反映を短時間のうちに行うことができる。また、波長の長い電磁波を用いるので、高炉内部の粉塵飛散があっても精度よく計測が行える。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を実施するための1実施形態を示す図である。
【図2】本実施例における装置構成例を示す図である。
【図3】一酸化炭素ガスおよび二酸化炭素ガスの送受信波スペクトルの一例を示す図である。
【図4】本発明によるガス利用率計測結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
高炉の炉頂ガスの内、COガスでは回転遷移による吸収が、CO2ガスでは振動遷移による吸収が発生し、遠赤外領域よりも長い波長の電磁波をそれぞれ吸収する。例えば、COガスでは周波数115GHzに吸収スペクトルが、CO2ガスでは波数(周波数)667cm-1、1388cm-1、2349cm-1に吸収スペクトルがあることが知られている。
【0022】
図1は、本発明を実施するための1実施形態を示す図である。1は旋回シュート、2は鉄鉱石、3はコークス、4は高炉排出ガス、5はガス導出管、6は電磁波送信手段、および7は電磁波受信手段をそれぞれ表している。
【0023】
高炉炉頂部から旋回シュート1により、主な原料である鉄鉱石2およびコークス3が高炉炉内に積層するように装入されている様子を模式的に示している。高炉の炉壁上にガス導出管5を接続し、ここに高炉の炉下部から吹き上がってくる高炉排出ガス4を導き入れる。
【0024】
ガス導出管の抵抗による圧損が大きく十分にガス導出ができない場合は、管径を大きくする、または、ポンプで管にガスを導入することが考えられる。また、既存のゾンデなどを使用することも可能である。そして、管の材質は、金属にしておくことで効率的な信号伝搬が行えるのでより正確な測定が行える。
【0025】
ガス導出管5で形成される流路途中に、一酸化炭素測定用と二酸化炭素測定用に電磁波送信手段6と電磁波受信手段7をそれぞれ一対設ける。なお、一酸化炭素測定用の電磁波送受信手段としてはホーンアンテナ、そして二酸化炭素測定用の電磁波送受信手段としては赤外線送受信手段を用いるのがよい。
【0026】
発生信号と受信信号には、以下の(1)式で示されるランベルト-ベール則が成り立つ。
【0027】
【数1】

【0028】
(1)式で一酸化炭素ガスおよび二酸化炭素ガスの濃度が求められれば、これらを用いて(2)式でガス利用率が演算される。
【0029】
【数2】

【実施例】
【0030】
図2は、本実施例における装置構成例を示す図である。図中の8は信号発生手段、9はスペクトル解析手段、10は信号演算手段、および11は記録手段をそれぞれ表し、1〜7の符号は図1と同じである。
【0031】
ガス導出管5の途中に、一酸化炭素ガスおよび二酸化炭素ガス用に、それぞれ電磁波送信手段6と電磁波受信手段7を設置した。簡単のため、それぞれの電磁波送信手段と電磁波受信手段は、一直線上になるように設置したが、管を分岐させ並列に配置して測定を行っても、問題はない。
【0032】
一酸化炭素ガスおよび二酸化炭素ガス用それぞれ電磁波送信手段6には、信号発生手段8がそれぞれ接続され、この信号発生手段では一酸化炭素の吸収周波数である115GHzの正弦波、および二酸化炭素の吸収波数(周波数)667cm-1、1388cm-1、2349cm-1の正弦波をそれぞれ信号生成する。
【0033】
信号発生手段8および電磁波受信手段7からの発生信号と受信信号は、スペクトル解析手段9に送られ、ここでそれぞれの信号強度が解析され、解析された信号強は信号演算手段10に送られ、前述の(1)および(2)式にてガス利用率が演算される。そして、演算されたガス利用率は、記録手段11で記録される。
【0034】
図3は、一酸化炭素ガスおよび二酸化炭素ガスの送受信波スペクトルの一例を示す図である。どちらのガスも送信信号に対して、気体分子による吸収によって受信信号は小さくなっている。
【0035】
また、図4は、本発明によるガス利用率計測結果の一例を示す図である。24時間にわたるガス利用率の時間推移例を示しており、これまで数10分程度の時間を要していたのに対して、本発明では数秒で処理が済みほぼリアルタイムでの計測が可能となった。また、これまでの離散的な計測結果と比べても遜色のない測定精度であることも確認できた。これにより、操業への反映を短時間のうちに適切に行うことができた。
【符号の説明】
【0036】
1 旋回シュート
2 鉄鉱石
3 コークス
4 高炉排出ガス
5 ガス導出管
6 電磁波送信手段
7 電磁波受信手段
8 信号発生手段
9 スペクトル解析手段
10 信号演算手段
11 記録手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉炉頂部に設置したガス導出管から高炉下部から吹き上がってくる高炉排出ガスを導出し、
前記ガス導出管で形成される流路途中において、一酸化炭素および二酸化炭素の吸収波長に一致する波長の電磁波を送受信し、
該送受信信号のスペクトル解析を行い、前記吸収波長に対応する周波数の信号強度の変化から一酸化炭素および二酸化炭素の濃度を算出し、
算出した一酸化炭素および二酸化炭素の濃度に基づき、高炉排出ガスのガス利用率を求めることを特徴とする高炉内ガスのガス利用率計測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の高炉内ガスのガス利用率計測方法において、
一酸化炭素および二酸化炭素の濃度は、下記(1)式に基づき算出し、
高炉排出ガスのガス利用率は、下記(2)式に基づき求めることを特徴とする高炉内ガスのガス利用率計測方法。
【数1】

【数2】

【請求項3】
高炉下部から吹き上がってくる高炉排出ガスを導出する、高炉炉頂部に設置したガス導出管と、
一酸化炭素および二酸化炭素の吸収波長に一致する波長の電磁波を送受信する、前記ガス導出管で形成される流路途中に設置した電磁波送信手段および電磁波受信手段と、
該電磁波送信手段および電磁波受信手段からの送受信信号のスペクトル解析を行うスペクトル解析手段と、
前記吸収波長に対応する周波数の信号強度の変化から一酸化炭素および二酸化炭素の濃度を算出し、算出した一酸化炭素および二酸化炭素の濃度に基づき高炉排出ガスのガス利用率を求める、信号演算手段とを具備することを特徴とする高炉内ガスのガス利用率計測装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−19706(P2013−19706A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151330(P2011−151330)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】