説明

高炉出銑樋用不定形耐火物

【課題】 耐熱的スポーリング性と耐侵食性とを兼ね備えた高炉出銑樋用不定形耐火物を提供する。
【解決手段】 本発明の高炉出銑樋用不定形耐火物は、TiO含有量1.5質量%以上の電融アルミナが、60質量%以上を占める粒径1mm以上の粗粒と、炭化珪素質原料が90質量%以上を占める粒径75μm以上1mm未満の中粒と、アルミナ質原料、前記アルミナ質原料に対する外かけ5〜40質量%の量の炭化硼素質原料、及び前記アルミナ質原料に対する外かけ5〜60質量%の量の金属シリコンの三者が合計で20質量%以上を占め、残部は炭化珪素質原料を主体とした粒径75μm未満の微粒とよりなる耐火性粉体と、結合剤を含む添加剤とよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉出銑樋の内張りを構成する高炉出銑樋用不定形耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉出銑樋は、高炉から排出された溶銑とスラグを分離し、かつ溶銑を混銑車まで導く湯道となる設備である。高炉の操業においては出銑が断続的に行われるため、高炉出銑樋は、出銑とその休止との繰り返しに伴う熱衝撃を受ける。そこで、高炉出銑樋の内張りには、耐熱的スポーリング性が求められる。
【0003】
従来、高炉出銑樋の内張りに耐熱的スポーリング性を付与するにあたっては、その容積安定性を高めることによるアプローチが採られていた。このアプローチは、内張りの容積安定性を高めることで、熱的スポーリングの原因となる熱的歪の発生そのものを抑えようという技術思想に基づく。
【0004】
特許文献1及び2に、かかる技術思想を採った高炉出銑樋用不定形耐火物として、粒径1mm以上の粗粒の全部を炭化珪素質原料で構成したものが開示されている。炭化珪素質原料は、熱膨張係数が小さいため、これを粗粒に用いることで内張りの容積安定性を高めることができ、耐熱的スポーリング性が付与されると考えられていた。
【0005】
なお、特許文献1は、電融アルミナは熱膨張係数が大きいため、耐熱的スポーリング性の観点からは好ましくないと説明している(特許文献1の2頁左欄9〜15行)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平6−8223号公報
【特許文献2】特開平5−70250号公報
【特許文献3】特許第2617086号明細書
【特許文献4】特公平1−32187号公報
【特許文献5】特開昭61−14175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
容積安定性に優れた構成は、熱的歪を抑制できる反面、発生した熱的歪を吸収する作用を殆どもたない。このため、容積安定性を高めることのみによっては、耐熱的スポーリング性を高めることに限界が生じている。
【0008】
本願発明者の研究によると、容積安定性を高める従来の技術思想とは対照的に、熱膨張係数の大きい電融アルミナを粗粒に用いることで、耐熱的スポーリング性を改善しうることが見出された。これは主として、出銑を休止する期間に、粗粒の電融アルミナが中粒及び微粒よりも大きく収縮することで、その周囲に微細空隙を形成し、その微細空隙で熱的歪を吸収できることによる。
【0009】
特許文献3も、電融アルミナの使用を推奨しているが、熱的スポーリング防止に至るメカニズムの推定が、本願発明者の上記考察と異なる。即ち、特許文献3は、TiOを含有する電融アルミナであれば、その結晶構造がルーズであるため、それ自身で熱的歪を吸収できる旨説明している(特許文献3の段落0035参照)。
【0010】
しかし、電融アルミナの使用で熱的スポーリングを防止できたのは、電融アルミナ自身による熱的歪の吸収というよりも、むしろ上述したように電融アルミナの周囲に微細空隙が形成されたことによる。
【0011】
本願発明者の上記考察によると、微細空隙を効率的に形成するには、粗粒の大半を電融アルミナで構成し、中粒及び微粒は容積安定性に優れた構成とすることが望まれるが、特許文献3は、上記メカニズムを見出していないためか、微細空隙を効率的に形成できる構成は開示しておらず、耐熱的スポーリング性の向上に関して改善の余地を残している。
【0012】
例えば、特許文献3の表4の本発明例1は、粗粒に占める電融アルミナの割合を明確に開示しておらず、中粒及び微粒が充分な容積安定性を発揮できる構成となっていない。同表4の本発明例2〜8は、粗粒の大半が炭化珪素質原料で構成されていると解される。
【0013】
特許文献4及び5は、粗粒の全部を電融アルミナとした例を開示しているが、如何なる電融アルミナを使用したかが具体的に開示されていない。使用する電融アルミナによっては、たとえ粗粒で用いても微細空隙を充分に形成することができない。また、特許文献4及び5は、中粒及び微粒にも電融アルミナを多く配合しているため、耐侵食性の点で好ましいとはいえない。
【0014】
本発明の目的は、耐熱的スポーリング性と耐侵食性とを兼ね備えた高炉出銑樋用不定形耐火物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一観点によれば、TiO含有量1.5質量%以上の電融アルミナが、60質量%以上を占める粒径1mm以上の粗粒と、炭化珪素質原料が90質量%以上を占める粒径75μm以上1mm未満の中粒と、アルミナ質原料、前記アルミナ質原料に対する外かけ5〜40質量%の量の炭化硼素質原料、及び前記アルミナ質原料に対する外かけ5〜60質量%の量の金属シリコンの三者が合計で20質量%以上を占め、残部は炭化珪素質原料を主体とした粒径75μm未満の微粒とよりなる耐火性粉体と、結合剤を含む添加剤とよりなる高炉出銑樋用不定形耐火物が提供される。
【発明の効果】
【0016】
出銑が行われる間(以下、出銑期間という。)は、溶湯からの受熱で、粗粒及び中粒が熱膨張し、かつ微粒において上記三者が相互反応することで、粗粒及び中粒をとりまくマトリックス部に、ムライトを含む固溶体が析出する。
【0017】
出銑を休止する間(以下、出銑休止期間という。)は、粗粒の電融アルミナが、中粒及び微粒(マトリックス部)よりも大きく収縮し、粗粒の電融アルミナの周囲に微細空隙が形成される。電融アルミナの中でも特に熱膨張係数の大きいTiO含有量1.5質量%以上のものを用いたことで、微細空隙を効率的に形成できる。また、マトリックス部への上記固溶体の析出が、ガラス生成による収縮を抑制し、微細空隙の形成に貢献する。
【0018】
高炉出銑樋が冷め始めると同時に、内張りに熱的歪が生じようとするが、その熱的歪が上記微細空隙で吸収されるため、熱的スポーリングが防止される。電融アルミナは耐侵食性に優れるとは言い難いが、これを粗粒で用いたことでその溶損を防止でき、中粒の炭化珪素質原料及びマトリックス部の上記固溶体は耐侵食性に優れるため、耐侵食性も兼ね備えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本明細書において、不定形耐火物とは、施工液(典型的には水)が未添加状態の粉体組成物をさすものとする。
【0020】
高炉出銑樋用不定形耐火物は、耐火性粉体と、結合剤を含む添加剤とよりなる。
【0021】
耐火性粉体は、粒径1mm以上の粗粒、粒径75μm以上1mm未満の中粒、及び粒径75μm未満の微粒よりなる。
【0022】
本明細書において、粒子の粒径がD以上とは、その粒子がJIS‐Z8801に規定する目開きDの標準篩上に残ることを意味し、粒子の粒径がD未満とは、その粒子が目開きDの同標準篩を通過することを意味する。
【0023】
耐火性粉体は、粗粒:40〜60質量%と、微粒:20〜40質量%と、中粒:5〜40質量%とよりなることが好ましい。
【0024】
粗粒は、その60質量%以上を電融アルミナで構成する。電融アルミナが出銑休止期間に収縮し、周囲の組織との間に微細空隙を形成する。内張りに生じる熱応力が微細空隙で吸収されるため、熱的スポーリングを防止することができる。
【0025】
粗粒に占める電融アルミナの割合は多い程好ましい。具体的には、粗粒に占める電融アルミナの割合は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0026】
電融アルミナとしては、TiOを1.5質量%以上含有するものを用いる。TiO含有量が1.5質量%未満だと、充分に微細空隙を形成できない。TiO含有量が多い電融アルミナ程、熱膨張係数が大きいため、微細空隙の形成能力が高い。電融アルミナのTiO含有量は、2質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。
【0027】
中粒は、その90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは全部を炭化珪素質原料で構成する。炭化珪素質原料は、溶湯、特にスラグに対する耐侵食性に優れ、かつスラグに濡れ難いため、内張りの耐侵食性を高める効果をもつ。また、温度変化を受けた際の容積安定性にも優れるため、上記微細空隙の形成に効果的に作用する。
【0028】
微粒は、その20質量%以上を、アルミナ質原料、炭化硼素質原料、及び金属シリコンの三者で構成する。上記三者が、出銑期間中、800℃程度以上の温度域で相互反応し、マトリックス部に固溶体を形成する。
【0029】
具体的には、アルミナ質原料に由来するAlと、炭化硼素質原料から生成したBと、金属シリコンから生成したSiOとが相互反応し、ムライト(3Al・2SiO)を固溶した9A1・2Bの柱状結晶(以下、単に固溶体という。)がマトリックス部に絡み合うように析出する。
【0030】
以下の説明中、「アルミナ質原料」、「炭化硼素質原料」、「金属シリコン」というときは、特に断りがない限り、いずれも微粒を構成するもののことを指す。
【0031】
アルミナ質原料としては、例えば、仮焼アルミナ、電融アルミナ、焼結アルミナ、ボーキサイト、及びバン土頁岩等から選択される一種以上を用いることができる。中でも、Al含有量99質量%以上のものが好ましい。
【0032】
なお、アルミナ質原料そのものは、炭化珪素質原料に比較して、耐侵食性に優れるとは言い難いが、固溶体を形成する為の原料として用いれば、マトリックス中に存在する他のシリカやカルシアが介在してガラス化することを抑制することができる。
【0033】
炭化硼素質原料の配合割合は、アルミナ質原料に対する外かけ5〜40質量%とする。5質量%未満だと、固溶体が充分に形成されない。40質量%を超えると、固溶体の形成に寄与しない余剰な炭化硼素質原料が存在し、その余剰な炭化硼素質原料がガラス化することで、耐熱的スポーリング性低下の原因となる。
【0034】
金属シリコンの割合は、アルミナ質原料に対する外かけ5〜60質量%とする。5質量%未満だと、固溶体が充分に形成されない。60質量%を超えると、固溶体の形成に寄与しない余剰な金属シリコンが存在し、その余剰な金属シリコンがガラス化することで、耐熱的スポーリング性低下の原因となる。
【0035】
上記三者による固溶体の形成で、内張りの気孔率が低下するとともに強度が向上し、かつ溶銑及びスラグに対する耐侵食性が向上する。また、固溶体は、温度変化を受けた際の容積安定性にも優れるため、上記微細空隙の形成に効果的に作用する。
【0036】
微粒に占める上記三者の合量が20質量%未満だと、固溶体の生成が不充分となる。微粒に占める上記三者の合量は、60質量%以下であることが好ましい。これにより、内張り組織が高弾性になり過ぎて、上記電融アルミナによる耐熱的スポーリング性の改善効果が減殺されることを防止できる。
【0037】
微粒における上記三者以外の残部は、炭化珪素質原料を主体とする。炭化珪素質原料は、上記三者と相互反応しにくいため、固溶体の形成を阻害しにくい。微粒の炭化珪素質原料は、固溶体と同様、マトリックス部の耐侵食性と容積安定性との向上に寄与する。
【0038】
なお、微粒における上記三者以外の残部は、炭化珪素質原料のみで構成してもよいし、炭化珪素質原料と少量、好ましくは微粒に占める割合で15質量%以下の他の原料とで構成してもよい。
【0039】
他の原料としては、例えば、シリカフラワー、粘土等のシリカ質原料、ピッチや黒鉛やレジンやカーボンブラック等の炭素質原料、窒化珪素鉄等の窒化珪素質原料、及びチタニア質原料から選択される一種以上が挙げられる。少なくともこれらの原料は、少量であれば、固溶体の形成を阻害しにくいため、固溶体の生成による効果が損なわれにくい。
【0040】
但し、シリカ質原料は含まないことが好ましい。シリカ質原料は固溶体の構成分子であるSiOを含むが、固溶体の形成に際しては、シリカ質原料より金属シリコンが優先的に反応する。このため、シリカ質原料は固溶体の形成に殆ど関与できず、そのまま残留してガラス化し、耐熱的スポーリング性を低下させる原因となりうる。
【0041】
結合剤としては、例えば、アルミナセメント、コロイダルシリカ、水硬性遷移アルミナ、リン酸塩、及びケイ酸塩から選択される一種以上を用いることができる。その添加量は、耐火性粉体に対する外かけで1〜10質量%が好ましい。
【0042】
添加剤としては、結合剤のみを用いてもよいが、結合剤に、例えば、分散剤、硬化時間調整剤、及び爆裂防止剤等から選択される一種以上を併用してもよい。
【0043】
分散剤としては、例えば、トリポリリン酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダ、ウルトラポリリン酸ソーダ、酸性ヘキサメタリン酸ソーダ等のアルカリ金属リン酸塩、ポリカルボン酸ソーダ等のポリカルボン酸塩、アルキルスルホン酸塩、芳香族スルホン酸塩、ポリアクリル酸ソーダ、及びスルホン酸ソーダ等から選択される一種以上を用いることができる。その添加量は、耐火性粉体に対する外かけで0.01〜1質量%が好ましい。
【0044】
硬化時間調整剤には、硬化促進剤と硬化遅延剤とがあり、硬化促進剤としては、例えば、消石灰、塩化カルシウム、アルミン酸ソーダ、及び炭酸リチウム等から選択される一種以上を用いることができ、硬化遅延剤としては、例えば、ホウ酸、シュウ酸、クエン酸、グルコン酸、炭酸ソーダ、及び砂糖等から選択される一種以上を用いることができる。
【0045】
爆裂防止剤としては、例えば、金属アルミニウム、乳酸アルミ、及び有機繊維(例:ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等)が挙げられる。その添加量は、耐火性粉体に対する外かけで0.02〜3質量%が好ましい。剥離防止剤として、金属繊維を用いることもできる。
【0046】
本不定形耐火物の施工法としては、例えば、流し込み、ポンプ圧送、湿式吹付け、乾式吹付け、又はこて塗り等の方法が挙げられる。いずれも施工に際しては本不定形耐火物に、施工液(典型的には水)が添加される。その添加量は、本不定形耐火物に対する外かけで4〜15質量%が好ましい。
【0047】
湿式又は乾式吹付け施工法を用いる場合は、被施工面からのだれ落ち防止のために、例えば、ケイ酸塩、アルミン酸塩、炭酸塩、及び硫酸塩等から選択される一種以上の急結剤を、上記添加剤として使用することが好ましい。その添加量は、本不定形耐火物に対する外かけで0.01〜2質量%が好ましい。
【0048】
施工部位は、高炉出銑樋の内張りであれば、特に限定されない。スラグと銑鉄との比重差から、高炉出銑樋の下方を溶銑が流れ、上方をスラグが流れる。高炉出銑樋の内張りのうち、スラグと大気の界面はスラグラインと称され、スラグと溶銑の界面はメタルラインと称される。
【0049】
本不定形耐火物は、以下の理由から、特にスラグラインに適する。
【0050】
スラグラインにおいては、一般に、炭化珪素質原料の含有量が多い程、耐侵食性がよくなる傾向にある。この点、本不定形耐火物は、中粒及び微粒に炭化珪素質原料を配合しているため、耐スラグ性に優れた構成を採りやすい。
【0051】
出銑期間中は湯面が上昇し、出銑休止中は湯面が下降する。このため、湯面、即ちスラグと大気との界面に位置するスラグラインは、メタルラインに比べて熱衝撃を受け易い。この点、本不定形耐火物は、耐熱的スポーリング性に優れているため、熱衝撃を受けても剥離や亀裂等が生じにくい。
【実施例】
【0052】
表1〜5に、実施例及び比較例と評価結果とを示す。表1〜4で、電融アルミナA、B、CのTiO含有量は、それぞれ3質量%、1.5質量%、0.8質量%である。いずれの例も、結合剤にアルミナセメントを用い、分散剤にヘキサメタリン酸ソーダを用いた。
【0053】
評価は、各例の不定形耐火物に、外かけ6質量%の工業水を加えて、所定の型枠に流し込み、養生及び乾燥させて得た試験片を対象に行った。
【0054】
耐久回数は、次の要領で求めた。上記試験片を1400℃で30分加熱後、30分空冷することで熱衝撃を付与する。この一連の作業を1サイクルとし、試験片が崩壊に至るまでサイクルを繰り返す。試験片の崩壊に要したサイクル数が耐久回数である。但し、サイクル数の上限は20回とした。耐久回数が大きい程、耐熱的スポーリング性に優れる。
【0055】
溶損指数は、次の要領で求めた。上記試験片を回転侵食法で侵食させる。侵食剤に高炉スラグを用い、1500〜1600℃で10時間侵食試験を行う。侵食試験の後、試験片の溶損寸法を測定する。各例の試験片の溶損寸法を、実施例1の試験片の溶損寸法で割って100倍した値が、溶損指数である。溶損指数が小さい程、耐侵食性に優れる。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例1〜6は、いずれも本発明の規定を満たし、耐熱的スポーリング性と耐侵食性とを兼ね備える。
【0058】
実施例2は、粗粒に電融アルミナBを用いたもので、実施例1との比較から、耐熱的スポーリング性の点では、粗粒に用いる電融アルミナのTiO含有量は高い方が好ましいといえる。
【0059】
実施例3は、粗粒に少量の炭化珪素質原料を配合することで、粗粒に占める電融アルミナの割合を90質量%に低下させたものである。実施例1との比較から、耐熱的スポーリング性の点では、粗粒の全部が電融アルミナで構成されていることが好ましいといえる。即ち、粗粒に占める電融アルミナの割合が高い程、微細空隙の形成能力が高い。
【0060】
実施例4は、中粒に少量の電融アルミナを配合したもので、実施例1との比較から、耐侵食性の点では、中粒の全部を炭化珪素質原料で構成するのが好ましいこと、及び中粒に電融アルミナを配合しても耐熱的スポーリング性は改善しにくいことが分かる。中粒に配合された電融アルミナは、粒径が小さいため、微細空隙の形成能力が小さいだけでなく、耐侵食性の低下をもたらす原因となる。
【0061】
実施例5は、微粒に、窒化珪素質原料及びチタニア質原料を配合したもので、実施例1との比較から、微粒にこれらを配合しても耐熱的スポーリング性に殆ど影響しないことが分かる。但し、耐侵食性の点では、微粒において、アルミナ質原料(ここでは仮焼アルミナ)、炭化硼素質原料、及び金属シリコンの三者以外の残部は、炭化珪素質原料及び炭素質原料のみで構成した方が好ましい。
【0062】
実施例6は、微粒にシリカ質原料(ここではシリカフラワー)を配合したもので、耐熱的スポーリング性は許容範囲ではあるが劣る。実施例1との比較から、耐熱的スポーリング性の点では、微粒にはシリカ質原料を配合しないことが好ましい。シリカ質原料はガラス化し、耐熱的スポーリング性を低下させる原因となる。
【0063】
【表2】

【0064】
実施例7〜10は、耐火性粉体に占める粗粒の割合を40〜60質量%の範囲で変化させたもので、いずれも耐熱的スポーリング性と耐侵食性とを兼ね備える。表には示さないが、耐火性粉体に占める粗粒の割合が60質量%を超えると、微細空隙の形成が過剰となって耐火物組織の強度そのものが小さくなるためか、耐熱的スポーリング性の改善効果が飽和する傾向が認められた。表2から、耐熱的スポーリング性と耐侵食性との兼ね合いの点で、耐火性粉体に占める粗粒の割合は45〜55質量%が好ましいといえる。
【0065】
【表3】

【0066】
実施例11〜18は、アルミナ質原料(ここでは仮焼アルミナ)に対する炭化硼素質原料及び金属シリコンの割合を、本発明規定の範囲で変化させたもので、いずれも耐熱的スポーリング性と耐侵食性とを兼ね備える。
【0067】
【表4】

【0068】
実施例19〜22は、微粒に占める三者の割合を20〜60質量%の範囲で変化させたもので、いずれも耐熱的スポーリング性と耐侵食性とを兼ね備える。表4から、耐熱的スポーリング性を重視する場合は、微粒に占める三者の割合は50質量%以下が好ましいと考えられる。
【0069】
【表5】

【0070】
比較例1は、粗粒の全部を炭化珪素質原料で構成したものであり、微細空隙を殆ど形成できないため、耐熱的スポーリング性に劣る。
【0071】
比較例2は、粗粒に占める電融アルミナの割合を約50質量%と本発明規定の下限値(60質量%)より少なくしたものであり、微細空隙を充分に形成できないため、耐熱的スポーリング性に劣る。
【0072】
比較例3は、中粒の全部を電融アルミナで構成したものであり、中粒の溶損に起因して組織の内部への侵食剤の侵入が容易化したため、耐侵食性に劣る。
【0073】
比較例4は、粗粒が炭化珪素質原料で構成されているため、耐熱的スポーリング性に劣り、中粒が電融アルミナで構成されているため、耐侵食性に劣る。
【0074】
比較例5は、粗粒に、TiO含有量が0.5質量%と本発明規定の下限値(1.5質量%)より小さい電融アルミナCを用いたものであり、電融アルミナCの熱膨張係数が小さく、微細空隙の形成能力に劣るため、耐熱的スポーリング性が不充分である。
【0075】
比較例6は、微粒に炭化硼素質原料を配合しておらず、マトリックス部に固溶体を形成できないため、耐侵食性に劣る。
【0076】
比較例7は、微粒に金属シリコンを配合しておらず、マトリックス部に固溶体を形成できないため、耐侵食性に劣る。
【0077】
比較例8は、微粒に占める三者の割合が14.8質量%と本発明規定の下限値(20質量%)を下回るため、マトリックス部に固溶体を充分形成できず、耐侵食性に劣る。
【0078】
比較例9は、アルミナ質原料(仮焼アルミナ)に対する炭化硼素質原料の割合が50質量%と本発明規定の上限値(40質量%)を上回る。固溶体の形成に寄与しない余剰な炭化硼素質原料がガラス化したためか、耐熱的スポーリング性に劣る。
【0079】
比較例10は、アルミナ質原料(仮焼アルミナ)に対する金属シリコンの割合が71質量%と本発明規定の上限値(60質量%)を上回る。固溶体の形成に寄与しない余剰な金属シリコンがガラス化したためか、耐熱的スポーリング性に劣る。
【0080】
以上、本発明の好ましい具体例について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、種々の変更、改良、及び組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiO含有量1.5質量%以上の電融アルミナが、60質量%以上を占める粒径1mm以上の粗粒と、炭化珪素質原料が90質量%以上を占める粒径75μm以上1mm未満の中粒と、アルミナ質原料、前記アルミナ質原料に対する外かけ5〜40質量%の量の炭化硼素質原料、及び前記アルミナ質原料に対する外かけ5〜60質量%の量の金属シリコンの三者が合計で20質量%以上を占め、残部は炭化珪素質原料を主体とした粒径75μm未満の微粒とよりなる耐火性粉体と、結合剤を含む添加剤とよりなる高炉出銑樋用不定形耐火物。
【請求項2】
前記耐火性粉体100質量%に占める前記粗粒の割合が40〜60質量%である請求項1に記載の高炉出銑樋用不定形耐火物。
【請求項3】
前記微粒が、前記三者及び炭化珪素質原料よりなるか、又は前記三者及び炭化珪素質原料と、炭素質原料、窒化珪素質原料、及びチタニア質原料から選択される一種以上とよりなる請求項1又は2に記載の高炉出銑樋用不定形耐火物。
【請求項4】
スラグラインに用いられる請求項1〜3のいずれかに記載の高炉出銑樋用不定形耐火物。

【公開番号】特開2010−235342(P2010−235342A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82749(P2009−82749)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】