説明

高炭素鋼部材の補修における高効率付着方法及び材料

【課題】機械構造材として使用されている高炭素鋼などの炭素鋼材の補修を、熱を加えることによる基材や補修材への影響を避けつつ、簡単で、短時間で施工できる被覆方法を提供する。
【解決手段】コールドスプレー法で金属材料からなる基材表面に皮膜を形成する方法であって、皮膜用原料粉末材料として少なくとも高炭素鋼粉末と軟鋼粉末とからなる粉末混合物を使用し、皮膜用原料粉末材料の融点又は軟化温度よりも低い温度の作動ガスの超音速流と共に、前記原料粉末材料を流して、固相状態のまま基材に高速で衝突させて高い付着効率で皮膜を形成せしめる方法で、極めて緻密な皮膜を高い付着効率で形成することができ、また、当該皮膜の硬さも調節可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炭素鋼材の補修において補修材を高効率で補修対象箇所へ付着せしめる方法及び技術に関する。本発明は、機械構造材などとして多く用いられている高炭素鋼構造部材の補修をコールドスプレー法で行う技術で、被覆箇所に原料粉末材料を高効率付着せしめる技術及びそれに使用する材料に関する。
【背景技術】
【0002】
高炭素鋼を含めた炭素鋼は、加工性、コスト面、入手し易さ等の観点から優れており、様々な構造部材として多用され、多くの構造物に利用されている。したがって、炭素鋼材は、今日の社会にとって必要不可欠な材料である。しかし、経年的な劣化により腐食やき裂等の損傷の発生が危惧されている。
化学プラントや発電プラント等においては、経年的な劣化が否めず、構成材料にはき裂の発生やエロージョン・コロージョン等の損傷の発生が認められる。特に、化学反応が生じる部位に関しては腐食が顕著となり、減肉による劣化の発生が懸念されている。
以上のような劣化・損傷部位には、溶接による補修やオーバーレイ(溶接肉盛)が施されている場合も見受けられる〔能勢士郎、山田雅人、深田利昭、酒井忠迪、高野正義、後藤明伸: "リアクタ世界一への挑戦とリアクタにかかわる最近の動向", 神戸製鋼技報,50(2000), pp. 95-98: 非特許文献1〕。しかし、溶接による補修やオーバーレイは、施工時
間が長いことや特殊技能を必要とすることから、より簡便で施工速度の速い補修技術の確立が重要となっている。また炭素鋼からなる構造部材に損傷が発生した場合、一部においてはこれら損傷に対して、上記したように、溶接による補修が行われているが、溶接による補修は、特殊技能を必要とすること、熱影響や内部欠陥部が発生すること、さらには補修に時間がかかる等の問題を有する。
現在これらの問題を解決する補修技術、特には高炭素鋼材の補修技術の確立が望まれている。
【0003】
近年、金属粒子を溶融させることなく、高速のガス流に金属粉末を乗せ、基材へ衝突させることで皮膜を形成する新しいコーティング技術としてコールドスプレー法が注目されている。コールドスプレー法〔A. P. Alkhimov, V. F. Kosarev, A. N. Papyrin: "A Method of Cold Gas-Dynamic Deposition," Sov. Phys. Dokl., 35 (1990), pp. 1047-1049:
非特許文献2、A.P. Alkimov, V.F. Kosarev, N.I. Nesterovich, A.N.Papyrin: "Method of Applying Coatings," ソ連特許第1618778号(SU 1618778 A1, 8 Sept 1990): 特許文献1、A.P. Alkhimov, A.N. Papyrin, V.F. Kosarev, N.I. Nesterovich, M.M. Shushpanov: Gas-dynamic spray method for applying a coating, 米国特許第5,302,414号明細書(US No. 5,302,414; April 12, 1994): 特許文献2、A.P. Alkhimov, A.N. Papyrin, V.F. Kosarev, N.I. Nesterovich, M.M. Shushpanov: Method and device for coating, 欧
州特許第0 484 533号明細書(EP No. 0 484 533 B1; January 25, 1995): 特許文献3、A.P. Alkimov, A.N. Papyrin, V.F. Kosarev, N.I. Nesterovich, et al.: "Gas Dynamic Spraying Method for Applying a Coating," U.S. Patent No. 5,302,414, Re-examination Certificate (US No. 5,302,414 B1, Feb. 25, 1997): 特許文献4〕は、装置自体がシンプルで(図1参照)、熱影響部や初期金属粒子の相変態を生じさせることなく、ち密で高品質な皮膜をmm オーダーで形成することが可能な技術である〔榊 和彦: "コールドスプレーの概要と研究・開発の動向", 溶接学会誌 Vol.75 No.8 (2006): 非特許文献3〕。
【0004】
【特許文献1】SU 1618778, A1 (8 Sept 1990)
【特許文献2】米国特許第5,302,414号明細書(US No. 5,302,414; April 12, 1994)
【特許文献3】欧州特許第0 484 533号明細書(EP No. 0 484 533 B1; January 25, 1995)
【特許文献3】U.S. Patent No. 5,302,414, Re-examination Certificate (US No. 5,302,414 B1, Feb. 25, 1997)
【非特許文献1】能勢士郎、山田雅人、深田利昭、酒井忠迪、高野正義、後藤明伸: "リアクタ世界一への挑戦とリアクタにかかわる最近の動向", 神戸製鋼技報,50(2000), pp. 95-98
【非特許文献2】A. P. Alkhimov, V. F. Kosarev, A. N. Papyrin: "A Method of Cold Gas-Dynamic Deposition," Sov. Phys. Dokl., 35 (1990), pp. 1047-1049
【非特許文献3】榊 和彦: "コールドスプレーの概要と研究・開発の動向", 溶接学会誌 Vol.75 No.8 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
様々な構造部材として利用される炭素鋼材の補修技術、特には高炭素鋼材の補修技術の開発が求められている。新しい技術であるコールドスプレー法は、従来技術と比べ、熱影響を抑制しながら、ち密で高品質な皮膜をmmオーダーで形成することが可能であることから、これらの問題を解決する可能性の高い技術であると考えられる。
しかし、コールドスプレーは衝突時の大きな塑性変形に伴い粒子を付着させるため、高炭素鋼を含めた炭素鋼等の硬い鉄系材料は塑性変形し難く、コールドスプレー法による付着が困難であり、それ故に、従来、コールドスプレーによる成膜は困難であると考えられている。そして、原料微粉末材を効率よく基材の対象箇所に付着せしめる技術の開発も重要である。また、コールドスプレー法は、これまでに耐酸化あるいは耐摩耗コーティングの施工方法として応用されてきたために、鉄系の材料を用いた補修に関しては、過去、補修技術としての検討例が少ない。そして、補修箇所がその鋼材と一緒になって使用される相手材が存在する場合、当該相手材に対して攻撃することとなり、磨耗や損耗といった障害を発生せしめる可能性があり、そうした問題を解決することも求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、化学プラントや発電プラント等において多く用いられている鋼構造部材の補修に対するコールドスプレー法の適用について、鋭意、検討を進め、その結果、コールドスプレー法により高炭素鋼材料の厚膜施工をすることに成功したばかりでなく、高炭素鋼の成膜対象部位に原料微粉末材を高効率に付着せしめることに成功した。得られた皮膜の断面微細組織観察および断面硬さ等の機械的特性を評価したところ、優れた性状の皮膜の形成に成功していることを見出し、本技術を利用すれば、高炭素鋼材料の補修あるいはオーバーレイ技術として有望であることを認識するに至った。かくして、本発明を完成した。
【0007】
本発明では、次なる態様が提供される。
〔1〕金属材料からなる基材表面の一部の補修を行う金属材料の補修方法であって、補修用原料粉末材料の融点又は軟化温度よりも低い温度の作動ガスの超音速流と共に、前記補修用原料粉末材料を流して、固相状態のまま基材に高速で衝突させて皮膜を形成せしめて、コールドスプレー法で基材の一部を補修する方法で、補修用原料粉末材料が、少なくとも高炭素鋼粉末に軟鋼粉末が配合してある混合物粉末からなるものであることを特徴とするコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
〔2〕金属材料が、高炭素鋼又はそれに基いた合金鋼からなる群から選択されたもので、該基材表面の一部が基材表面の欠陥部であることを特徴とする上記〔1〕に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
〔3〕補修用原料粉末材料の高炭素鋼粉末が、平均粒径5〜100μmの粒子サイズのもので
あることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
〔4〕補修用原料粉末材料の軟鋼粉末が、平均粒径15〜200μmの粒子サイズのものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
〔5〕補修用原料粉末材料の高炭素鋼粉末と軟鋼粉末との配合比(重量比)が、約1.0:9.0
(高炭素鋼粉末:軟鋼粉末)〜約9.0:1.0(高炭素鋼粉末:軟鋼粉末)であることを特徴
とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
〔6〕作動ガスが、ヘリウムあるいは窒素であることを特徴とする上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
〔7〕コールドスプレーの超音速ノズルのノズル出口のガス流速が、1050〜4000m/sの速
度範囲であることを特徴とする上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
〔8〕作動ガスの温度が、300〜1300℃である温度条件でコールドスプレーを実施するこ
とを特徴とする上記〔1〕〜〔7〕のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
〔9〕作動ガスの圧力が、0.5〜15.0 MPa である圧力条件でコールドスプレーを実施することを特徴とする上記〔1〕〜〔8〕のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
〔10〕約10〜100mm3/sの成膜速度を得ることができるものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔9〕のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
〔11〕コールドスプレーで基材上に形成された皮膜の気孔率が、おおよそ8.4以下である
ことを特徴とする上記〔1〕〜〔10〕のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
〔12〕前記基材の補修対象部の表面の不純物層を除去し、前記基材の補修対象部の表面にコールドスプレー法により皮膜を形成することを特徴とする上記〔1〕〜〔11〕のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
〔13〕前記基材の補修対象部の表面の不純物層を、旋盤、フライス盤、研磨盤、リューター、研磨紙及びブラストからなる群から選択された、少なくとも一の機械的除去法により除去するか、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、クエン酸及び水酸化ナトリウムからなる群から選択された、少なくとも一つの水溶液を用いた化学的除去法により除去するか、あるいは、CO2レーザー、YAGレーザー及びエキシマレーザーからなる群から選択された、少なくとも一種類のレーザーを用いたレーザー除去法により除去することを特徴とする上記〔1〕〜〔12〕のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
〔14〕炭素鋼又はそれに基いた合金鋼からなる群から選択された金属材料からなる基材の表面に、少なくとも高炭素鋼粉末と軟鋼粉末を含有する混合物を原料粉末材料として使用しコールドスプレーにより形成された皮膜であることを特徴とするコールドスプレー皮膜。
〔15〕皮膜の気孔率が、おおよそ8.4以下であることを特徴とする上記〔14〕に記載のコ
ールドスプレー皮膜。
〔16〕高炭素鋼又はそれに基いた合金鋼からなる群から選択された金属材料からなる基材表面の一部の補修用の原料粉末材料であり、補修用原料粉末材料の融点又は軟化温度よりも低い温度の作動ガスの超音速流と共に、前記補修用原料粉末材料を流して、固相状態のまま基材に高速で衝突させて皮膜を形成せしめて、コールドスプレー法で基材の一部を補修するための原料粉末材料で、少なくとも高炭素鋼粉末に軟鋼粉末が配合してある混合物粉末からなるものであることを特徴とする補修用原料粉末材料。
〔17〕原料粉末材料の高炭素鋼粉末が、平均粒径5〜100μmの粒子サイズのものであるこ
とを特徴とする上記〔16〕に記載の補修用原料粉末材料。
〔18〕原料粉末材料の軟鋼粉末が、平均粒径15〜200μmの粒子サイズのものであることを特徴とする上記〔16〕又は〔17〕に記載の補修用原料粉末材料。
〔19〕原料粉末材料の高炭素鋼粉末と軟鋼粉末との配合比(重量比)が、約1.0:9.0(高炭
素鋼粉末:軟鋼粉末)〜約9.0:1.0(高炭素鋼粉末:軟鋼粉末)であることを特徴とする
上記〔16〕〜〔18〕のいずれか一に記載の補修用原料粉末材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコールドスプレー法による補修法では、高炭素鋼含有粉末材料を、溶融するまでの高温に加熱せしめることなく、そして、原料金属粒子の有する優れた特性を劣化させることなく、基材上に堆積せしめて皮膜を形成させることができるので、機械構造用炭素鋼材をはじめ、高炭素鋼材及びそれを基礎とした合金鋼材に生ずる欠損部、損傷部(腐食やき裂などを含む)を補修するのに優れている。当該コールドスプレー法による鋼構造物の補修においては、付着効率を高めて皮膜層を形成でき、さらに、加工効果により基材よりも高い硬度が得られる沈着層の硬度を制御することも可能で、補修された鋼材が相手材を攻撃して、磨耗や損耗といった障害が生ずることを大きく低減するなどできる。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、「コールドスプレー」(cold spray)技術を利用するものである。本コールドスプレーとは、コールドガスダイナミックスプレー法(cold gas dynamic spraying)とも
呼ばれる技術で、例えば、図1に示した構成により、材料粉末の融点又は軟化温度よりも低い温度のガスを超音速流にして、前記超音速流のガス中に前記材料の粒子を投入し、固相状態のまま基材に衝突させて皮膜を形成する技術である。本発明では、当該材料粉末として、炭素鋼、特には高炭素鋼、又は少なくともそれを含有する粉末材を使用し、また、該作動ガスの温度の上限をその粉末材の融点以下又は軟化温度以下とするものである。なお、材料粉末の軟化温度とは、材料粉末の強度又は硬さが室温での強度又は硬さの半分となる温度と定義されてよい。
図1に示したコールドスプレー装置において、ガス源から供給される高圧の作動ガスは2つの経路に分岐され、一方の作動ガスはガス加熱器(ガスヒーター)を経て室温以上、材料粉末の融点又は軟化温度よりも低い温度に加熱された後、コールドスプレー装置の作動ガス供給孔に供給される。また、他方の作動ガスは粉末供給装置(粉末材ホッパー)へ送給され、キャリアガスとして材料粉末と共に、コールドスプレー装置のガンの粉末供給孔に供給される。この作動ガス供給孔からコールドスプレー用ノズルの入口部に供給された作動ガスは、ノズル出口より最終的に超音速流(ガスジェット)となり、該ノズル出口から噴出され、衝突する基材の上に皮膜を堆積物として形成することになる。本発明のコールドスプレーは、市販のコールドスプレー装置、例えば、プラズマ技研工業(株)製PCS-103-3などの高圧型コールドスプレー装置などを使用して実施できる。
このコールドスプレーでは、従来のプラズマ溶射法、フレーム溶射法、高速フレーム溶射法などに比べ、材料粉末の粒子を加熱・加速する作動ガスの温度が著しく低く、材料粉末をあまり加熱せずに固相状態のまま基材へ高速で衝突させ、そのエネルギーにより基材と粒子に塑性変形を生じさせたり及び/又は機械的結合を生ぜしめて成膜させている。これによって得られた皮膜は、緻密で密度、熱・電気伝導性が高く、酸化や熱変質も少なく、密着性も良好であるという優れた性質を有する。
【0010】
炭素鋼(carbon steel)とは、鉄と炭素の合金を指して呼んでおり、炭素含有量が、最低で0.021 mass%含まれるものを指している。普通、最大炭素含有量は2.14 mass%である
。炭素鋼は、一般的によく使用される鉄鋼材料であり、『鉄鋼材料』というときは、普通は炭素鋼を指しており、「普通鋼」、あるいは、単に「鋼」ともわれる。
炭素鋼は含有されている炭素量が多くなると、引っ張り強さ・硬さが増す半面、伸び・絞りが減少し、切削性が悪くなる。また、熱処理を施すことにより、大きく性質を変えることが出来る。鉄以外の含有成分としては、炭素のほか、珪素、マンガン、りん、硫黄が含まれるが、これらは製造時に残った物である。炭素鋼のうち、C含有量が約0.3 mass%以下を低炭素鋼(又は軟鋼)、約0.3〜0.7 mass%を中炭素鋼、約0.7 mass%以上を高炭素鋼
と呼ぶ。
また、C含有量が0.6 mass%以下で構造用に使われるものは構造用炭素鋼、0.6 mass%以
上で工具用に使われるものは工具用炭素鋼と呼ばれる。日本工業規格(JIS)では、構造
用炭素鋼は、最低引っ張り強度が指定され、建築などに使われる一般構造用炭素鋼材(SS材)と、C含有量を規定し、一般的な機械や装置に使われる機械構造用炭素鋼材(SC材)が
存在する他、その他の炭素鋼が定められている。機械構造用炭素鋼(SC)では、例えば、炭素の添加量が0.45質量%(mass%)の場合は、「S45C」と表記される。
【0011】
一般構造用炭素鋼(SS)は,低温脆(ぜい)性の原因となるリン(P)と溶接強さを下げる
硫黄(S)に対して成分範囲が規定されているが、機械構造用炭素鋼(SC)では、一層広い範
囲で各成分範囲を規定してある。成分範囲が規定された元素としては、炭素、Si(ケイ素)、Mn(マンガン)、P、Sである。例えば、S30Cは、0.27〜0.33質量%C、0.15〜0.35質
量%Si、0.60〜0.90質量%Mn、0.030質量%以下P、0.035以下質量%Sである。成分範囲を規定することによって,焼き入れ熱処理の効果を高める。SCの中には,炭素を表面から浸透させることで表面を硬くして耐疲労性を高める浸炭処理(肌焼き処理)向けのSCKも含
まれる。SCKではCu(銅)、Ni、Crなどの成分の上限量を規定する。
また、炭素含有量の比較的大きな炭素鋼や高炭素鋼にニッケル、クロムを添加して焼入れ性をよくした合金鋼は、ニッケルクロム鋼であり、炭素含有量の比較的大きな炭素鋼や高炭素鋼にニッケル、クロム、モリブデンを添加して焼入れ性をよくした合金鋼は、ニッケルクロムモリブデン鋼であり、炭素含有量の比較的大きな炭素鋼や高炭素鋼にクロム、モリブデンを添加して焼入れ性をよくした合金鋼は、クロムモリブデン鋼であり、炭素含有量の比較的大きな炭素鋼や高炭素鋼にクロム、マンガン、ニッケルなどを添加して焼入れ性をよくした合金鋼は、それぞれクロム鋼、マンガン鋼、ニッケル鋼などと言われている。合金鋼には、ステンレス鋼なども包含される。
【0012】
本発明のコールドスプレーで原料粉末材料としては、炭素鋼粉末が使用されてよいが、好ましくは高炭素鋼粉末を含有するものが使用される。特に好適には、少なくとも高炭素鋼粉末に軟鋼粉末を配合してある粉末混合物からなるものである。軟鋼粉末を配合することにより、沈着物の付着性が良好となり、付着効率が高められる、及び/又は、形成される皮膜の硬さを、所望の硬さに制御することが可能になる。本コールドスプレーでは、高炭素鋼粉末と軟鋼粉末の混合物を原料粉末として使用して、優れた効果を得ることができる。また、該原料粉末材料は、高炭素鋼粉末と軟鋼粉末に加えて、合金鋼粉末が包含されていてもよい。原料粉末として使用する場合、高炭素鋼粉末は一つの種類のものを単独に使用することもできるし、複数の種類のものを混合して、その混合物を使用することもできる。同様に、軟鋼粉末は一つの種類のものを単独に使用することもできるし、複数の種類のものを混合して、その混合物を使用することもできる。また、軟鋼同士、高炭素鋼同士、あるいは、高炭素鋼に中炭素鋼を配合するなどした混合物を用いることもできる。
原料粉末材料用高炭素鋼及び軟鋼としては、当該分野で知られたものを使用でき、所望の目的を達成できる限り特に限定されない。該原料粉末材料用高炭素鋼は、当業者であれば、目的に合わせて適宜選択できるが、例えば、化学成分:炭素(C)0.60〜0.70質量%、
ケイ素(Si)0.35質量%以下、マンガン(Mn)0.50質量%以下、リン(P)0.030質量%以下、硫黄(S)0.030質量%以下であるもの、化学成分:炭素(C)0.70〜0.80質量%、ケイ素(Si)0.35質量%以下、マンガン(Mn)0.50質量%以下、リン(P)0.030質量%以下、硫黄(S)0.030質
量%以下であるものなどが挙げられる。該原料粉末材料用軟鋼は、当業者であれば、目的に合わせて適宜選択できるが、例えば、化学成分:炭素(C)0.10質量%以下、ケイ素(Si)0.08質量%以下、マンガン(Mn)0.45質量%以下、リン(P)0.014質量%以下、硫黄(S)0.008
質量%以下であるものなどが挙げられる。原料粉末は、当該分野で知られた方法で調製できるし、また、市販品を使用することもできる。代表的な場合、原料粉末はアトマイズ法で得られるものを好適に使用できる。
【0013】
原料粉末材料用高炭素鋼としては、当該分野で知られたものを使用でき、所望の目的を達成できる限り特に限定されない。該原料粉末材料用高炭素鋼は、当業者であれば、目的に合わせて適宜選択できるが、例えば、化学成分として、(1)C: 0.70〜0.80質量%、Si: 0.35質量%以下、Mn: 0.50質量%以下、P: 0.030質量%以下、S: 0.030質量%以下であるもの、あるいはC: 0.80〜0.90質量%、C: 0.90〜1.00質量%、C: 1.00〜1.10質量%、C: 1.10〜1.30質量%又はC: 1.30〜1.50質量%で、Si: 0.35質量%以下、Mn: 0.50質量%以
下、P: 0.030質量%以下、S: 0.030質量%以下であるもの、(2) C: 0.65〜0.75質量%、Si: 0.15〜0.30質量%、Mn: 0.60〜0.90質量%、P: 0.030質量%以下、S: 0.035質量%以
下、銅(Cu): 0.030質量%以下、ニッケル(Ni): 0.020質量%以下であるもの、あるいはC:
0.80〜0.90質量%又はC: 0.90〜1.00質量%で、Si: 0.35質量%以下、Mn: 0.50質量%以下、P: 0.030質量%以下、S: 0.030質量%以下、Cu: 0.030質量%以下、Ni: 0.025質量%以下であるもの、(3) C: 0.73〜0.83質量%、Si: 0.40質量%以下、Mn: 0.40質量%以下
、P: 0.030質量%以下、S: 0.030質量%以下、タングステン(W): 17.00〜19.00質量%、
バナジウム(V): 0.80〜1.20質量%であるものなどが挙げられる。
【0014】
本発明においては、コールドスプレーにて皮膜を形成する際に使用される原料粉末においては、その粉末の粒径は、所望の目的を達成できるように、適宜、適切なものを選択できる。本発明の好ましい態様では、高炭素鋼粉末は、基材上に沈着するに十分な粒径のものであれば特に制限されることなく使用可能であるが、所望の皮膜の厚さを得ることができるもの、及び/又は、所望の強度の皮膜の形成のできるものが好ましく、例えば、平均粒径がおおよそ1〜150μmの粉末を用いることができる。典型的な態様では、原料粉末の
粒径は、高炭素鋼の種類に応じて、それぞれできるだけ均一な粒子サイズとすることができ、ある場合には、そうすることが好ましい。例えば、高炭素鋼粉末の粒子サイズとしては、例えば、平均粒径5〜100μm、ある場合には、平均粒径10〜80μm、別の場合では、平均粒径12〜50μm、より具体的な場合では、平均粒径15〜40μm、好ましくは平均粒径17〜30μm、より好ましくは平均粒径19〜27μm、もっと好ましくは平均粒径おおよそ21〜25μmが挙げられる。
本発明の好ましい態様では、軟鋼粉末は、基材上に高炭素鋼粉末が十分な付着効率で付着することが達成できるに十分な粒径のものであれば特に制限されることなく使用可能であるが、所望の皮膜の厚さを得ることができるもの、及び/又は、所望の強度の皮膜の形成のできるものが好ましく、例えば、平均粒径がおおよそ1〜500μmの粉末を用いること
ができる。典型的な態様では、当該原料粉末の粒径は、軟鋼の種類に応じて、それぞれできるだけ均一な粒子サイズとすることができ、ある場合には、そうすることが好ましい。例えば、軟鋼粉末の粒子サイズとしては、例えば、平均粒径15〜200μm、ある場合には、平均粒径20〜150μm、別の場合では、平均粒径25〜120μm、より具体的な場合では、平均粒径30〜100μm、好ましくは平均粒径40〜80μm、より好ましくは平均粒径50〜70μm、もっと好ましくは平均粒径おおよそ55〜65μmが挙げられる。
本発明のコールドスプレーの原料粉末材料における、高炭素鋼粉末に軟鋼粉末を配合してある粉末混合物において、高炭素鋼粉末と軟鋼粉末との配合比は、基材上に高炭素鋼粉末が十分な付着効率で付着することが達成できるに十分なものであれば特に制限されることはないが、所望の皮膜の厚さを得ることができるもの、及び/又は、所望の強度の皮膜の形成ができるものが好ましく、例えば、重量比で、約0.1:9.9(高炭素鋼粉末:軟鋼粉
末)〜約9.9:0.1(高炭素鋼粉末:軟鋼粉末)、ある場合には、約0.5:9.5〜約9.5:0.5(
高炭素鋼粉末:軟鋼粉末、以下同様)、別の場合では、約1.0:9.0〜約9.0:1.05、より限
定された配合比では、約2.0:8.0〜約8.0:2.0、ある場合には、約3.0:7.0〜約7.0:3.0、別の場合では、約3.5:6.5〜約6.5:3.5、好ましくは、約4.0:6.0〜約6.0:4.0、もっと好ましくは約4.5:5.5〜約5.5:4.5であり、典型的には、約4.75:5.25〜約5.25:4.75である。
【0015】
本発明のコールドスプレーにおいては、皮膜用原料粉末微粒子は、圧縮されるなどして高圧にされた作動ガスにより超音速(極超音速を包含する)にまで加速されて、ターゲットである基材に衝突することになる。作動ガスは、原料粉末を運搬するキャリアーとして機能するものである。作動ガスは、空気、窒素、ヘリウム、アルゴンなどあるいはそれらの混合ガスなどであってよいが、好適には、酸化防止の観点から不活性なキャリアーガスが使用される。不活性なキャリアーガスとしては、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンあるいはそれらの混合ガスなどであるが、好適には、ヘリウムが挙げられる。
【0016】
該作動ガスの高圧流の中への原料粉末微粒子(粉末材料)の供給は、粉末材ホッパー(あるいはフィーダー)を介して行うことができる。当該ホッパー(あるいはフィーダー)は、当該分野で知られており、市販のコールドスプレー装置、例えば、プラズマ技研工業(株)製PCS-103-3などの高圧型コールドスプレー装置では、超音速ノズルなどと一体に構
成され、当該ホッパー(あるいはフィーダー)を備えている。該コールドスプレー装置は、超音速ノズルのノズル入口温度、ノズル入口圧力、ノズル入口ガス速度などを制御可能にされており、適宜、所定の値を選択できる。超音速ノズルのノズル出口のガス流速は式(1)から算出できる。超音速ノズルのノズル出口の圧力は、大気圧下でコーティングを行
っている場合には、大気圧である。
【0017】
上記作動ガスは、加圧される。当該作動ガスの圧力は、適宜、目的に応じて最適な値とすることが好ましく、ノズル入口の圧力でみてみると、例えば、0.5〜15.0 MPa、ある場
合には1.6〜10.0 MPa、別の場合では1.8〜8.0 MPa、好ましくは1.9〜7.0 MPa、別の好ま
しい場合では2.0〜6.5 MPa、また別の場合では、2.1〜5.5 MPa、より好ましくは2.3〜5.0
MPa、もっと好ましくは2.5〜4.0 MPaである。
【0018】
該超音速ノズルのノズル出口のガス流速は極超音速を包含する超音速であり、適宜、原料粉末材料に応じて選択でき、また、目的に応じて最適な値とすることが好ましく、好適には、微粒子を基材表面上に接着するに十分な速度であり、例えば、300〜5000m/sの速度範囲、より典型的な場合では、500〜4500m/sの速度範囲、ある場合には、700〜4000m/sあるいは1050〜4000m/sの速度範囲、別の場合では、800〜3500m/sの速度範囲、好ましくは
、1000〜3000m/sの速度範囲、又は、1100〜2900m/sの速度範囲、さらには、1200〜2800m/sの速度範囲、あるいは、1300〜2700m/sの速度範囲、より好ましくは1400〜2600m/sの速
度範囲である。
【0019】
作動ガスは、装置のガスヒーターにより加熱され、その加熱された作動ガスは、原料粉末微粒子(粉末材料)を運搬する高圧ガスと一緒になり、超音速ノズルの入口に供給される。当該ガスの温度は、適宜、原料粉末材料に応じて選択でき、また、目的に応じて最適な値とすることが好ましく、材料粉末の融点又は軟化温度よりも低い温度であればよい。当該ガスの温度は、典型的な場合では、当該ガスの温度は、例えば、300〜1300℃、ある
場合には450〜1200℃、別の場合には550〜1100℃、好ましくは575〜1000℃、別の好まし
い場合では600〜800℃、ある種の好ましい場合では625〜775℃、さらには、650〜775℃、より好適には650〜750℃、さらに好適には675〜750℃、もっと好ましくは675〜725℃である。
【0020】
本発明では、基材の表面に原料粉末微粒子(粉末材料)を超高速流として衝突せしめ、実質的に固相状態で基材表面上に堆積せしめて皮膜を形成する。該基材としては、様々な
構造部材が挙げられ、典型的には、炭素鋼が包含されるが、とりわけ高炭素鋼及びそれを基礎とした合金鋼が挙げられる。炭素鋼としては、上記した様に、低炭素鋼、中炭素鋼、高炭素鋼、さらには合金鋼が包含されてよいが、特に、本発明では、高炭素鋼やそれに基づいた合金鋼を好適に基材とすることができる。合金鋼としては、上記したようなものが挙げられ、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロムモリブデン鋼、クロム鋼、マンガン鋼、ニッケル鋼、ステンレス鋼なども包含される。
該基材の表面は、任意の形状のものであってもかまわないが、好ましい場合では、平面が挙げられ、幾分か凹部、凸部となっているか、あるいは、いくらか凹凸があるものであってよい。
【0021】
基材表面への超音速流の照射は、被覆対象箇所に一回以上超音速ノズルを通過させることによるものであることができる。該超音速ノズルを通過させる回数(パス数)は、適用される皮膜の厚さにより決定することができる。代表的な場合では、当該パスの数は、1
〜5回であり、ある場合には、2〜3回であり、典型的な場合、2回である。
コールドスプレー用超音速ノズルの基材表面へのパスは、所定の制御された速度で対象面を横断するように動かすことにより実施可能で、ノズルの制御は手動で行うこともできるが、好適にはロボットなどを用いたり、コンピューターなどで制御されて行うことができる。ノズルの速度、方向、位置、パス数などは、制御され、均一な皮膜となるようにすることもできる。さらに、補修対象箇所の形状に応じて、制御しながら皮膜を形成することもできる。当該制御にあたっては、プログラム可能な論理制御装置、分散制御システムなどの制御手段により、それを行うことができる。
【0022】
本発明の一つの具体的な態様では、本コールドスプレーによる金属材料の補修方法は、高炭素鋼又はそれに基いた合金鋼からなる金属材料の基材表面の一部の補修を行う金属材料の補修方法であって、補修用原料粉末材料の融点又は軟化温度よりも低い温度の作動ガスの超音速流と共に、前記補修用原料粉末材料を流して、固相状態のまま基材に高速で衝突させて皮膜を形成せしめて、コールドスプレー法で基材の一部を補修する方法で、補修用原料粉末材料が、少なくとも高炭素鋼粉末に軟鋼粉末を配合した粉末混合物からなるもの、例えば、平均粒径15〜40μm、好ましくは平均粒径おおよそ21〜25μmの高炭素鋼粉末と平均粒径25〜120μm、好ましくは平均粒径おおよそ55〜65μmの軟鋼粉末との混合物で
、例えば、重量比で、約3.0:7.0〜約7.0:3.0、好ましくは約4.75:5.25〜約5.25:4.75(高炭素鋼粉末:軟鋼粉末)の比率で配合してある混合物で、作動ガスの圧力が、2.0〜6.5 MPa、あるいは、2.0〜4.0 MPa、好ましくは2.5〜4.0 MPaであり、且つ、作動ガスの温度が、550〜1100℃、好ましくは600〜800℃、そして超音速ノズルの出口のガス流速が、1050
〜4000m/sの速度範囲、好ましくは1100〜2700m/sの速度範囲であるものである。本法では、作動ガスとしてヘリウムが好適に使用される。
本法では、優れた成膜速度で高炭素鋼堆積層の皮膜を形成でき、少なくとも30〜50mm3/sで皮膜を作製できるが、製膜条件や粉末性状を最適化すれば、100mm3/sの成膜速度を達
成できると考えられ、例えば、可能な成膜速度としては、約10〜100mm3/sであり、一つの態様では、30〜100mm3/sの成膜速度、好ましくは35〜100mm3/sの成膜速度、さらには、40〜100mm3/sの成膜速度で行う技術であり、別の態様では、30〜70mm3/sの成膜速度、好ま
しくは35〜80mm3/sの成膜速度、さらには、40〜90mm3/sの成膜速度で行う技術となることも可能である。本発明は、作業効率に優れたコーティング法を提供している。
【0023】
本発明のコールドスプレー法で得られる皮膜付き基材としては、例えば、皮膜部分の気孔率が、おおよそ8.4以下、ある場合にはおおよそ6.5以下、別の場合ではおおよそ3.0以
下、好ましくはおおよそ2.0以下、より好ましくはおおよそ1.8以下であるものである。皮膜の厚さは、適宜、目的に応じて選択できるが、例えば、0.1〜20mmを得ることができる
。本発明で得られる皮膜付き基材としては、実施例で説明し且つ記載されている利点と実質的に同様なものあるいは等価なものを有しているものは包含されると考えてよい。
本発明では、コールドスプレー法を用いた補修の前工程として、基材の補修対象部の表面の不純物層を除去する工程を設けることができる。そして、ある場合には、これが好ましい。不純物層除去工程は、例えば、旋盤、フライス盤、研磨盤、リューター、研磨紙、ブラスト等を使用した機械的除去法であってよい。機械的除去法によれば、確実に不純物などを除去することが可能であり、さらに、短時間で除去ができる。該除去工程は、薬品を利用した化学的な方法であってよく、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、クエン酸、水酸化ナトリウムなどの酸又はアルカリなどの水溶液を用いた方法が挙げられる。本化学的な除去法には、エッチング、電解腐食法なども包含されてよい。例えば、基材と溶液との間に電圧を印加して不純物層を溶解せしめることも可能である。該除去工程は、レーザー除去法であってもよい。レーザー除去法では、例えば、CO2レーザー、YAGレーザー、エキシマレーザーなどを使用することができる。
【0024】
本発明の金属材料の補修方法は、基材として炭素鋼から高炭素鋼、さらには合金鋼からなる材料に適用でき、さらに、使用中の材料やある程度使用された材料、補修の必要な材料ばかりでなく、初期部材(未使用の部材、あるいは、工場出荷段階の部材であって表面がきれいなもの)も対象にできる。本発明の金属材料の補修方法は、補修する部材や補修部分の大小に関係なく適用することも可能である。本発明の補修方法は、構造材などとして広く利用されている炭素鋼材、さらには鉄道車輪などを含めた高炭素鋼材の補修に利用でき、有用である。本発明の技術は、化学プラントや発電プラント等において多く用いられている鋼構造部材の補修に、好適に、適用できて、有用である。
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例1】
【0025】
〔1.供試材および作動ガス〕
本実施例1では、供試粉末材としてガスアトマイズ法により作製した平均粒径25 μmの炭素量 0.70%の高炭素鋼を用いた。化学組成および機械的特性を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0026】
【表1】

【表2】

【0027】
基材には粉末同様の高炭素鋼とSUS304平板の二種類を用い、高圧型コールドスプレー装置(プラズマ技研工業(株)製PCS-103-3)により施工した。
本実施例1では、粒子衝突速度に大きな影響を及ぼすノズル出口のガス流速を作動ガス種により変化させ、施工を行った。作動ガスには、窒素およびヘリウムガスを用いた。ノズル出口のガス流速は式(1)から算出した。
【0028】
【数1】

【0029】
λ は比熱比、R はガス定数、Ti はノズル入口温度、Piはノズル入口圧力、Pe はノズ
ル出口圧力(大気圧)、Ugi はノズル入口ガス速度である。
成膜条件およびガス流速を表3にまとめて示す。
【0030】
【表3】

【0031】
表3中、N700S とHe600S は、基材が同様で粒子速度が変化した場合の比較、He600S とHe600HC は、粒子速度が同様で基材の種類が異なる場合の比較を目的とする。なお、コールドスプレー施工は、各試料とも2パスで行い、得られた供給した粉末の量と付着した粉末の量から付着効率を算出した。
【0032】
〔2.断面組織観察試験〕
コールドスプレー法による皮膜と基材の付着状態を評価するため、走査型電子顕微鏡(SEM)((株)日立ハイテクノロジー製S-4700)を用いて皮膜断面の微細組織を観察した。ま
た、画像処理ソフトImage-J を用いて皮膜断面の気孔率を測定した。
〔3.Vickers 硬さ計測〕
基材および皮膜の硬さの差異を評価するため、N700S、He600S、およびHe600HC(表3参照)および基材のVickers 硬さを微小硬さ試験機(Fischer Instruments 社製 H100)を
用い計測を行った。
【0033】
〔4.皮膜強度評価試験〕
皮膜の付着強度を評価するため、四点曲げ試験を行った。
試験片寸法は、長さ35 mm、幅5 mm、基材厚さを2 mm、皮膜厚さを0.2 mm とした。試験は、材料試験機(MTS 製 810 Material Test System)を用い、外側および内側支点間距
離をそれぞれ30 mm および15 mm、変位速度を0.01 mm/s とした。図2に示すように、皮
膜に圧縮荷重及び引張荷重が作用するように配置し、試験時の荷重および変位を計測した

また、アコースティックエミッション(Acoustic Emission, AE)法により、累積AE 信号が急速に増加する点を皮膜のはく離と仮定し、そのときの応力および変位を計測した。なお、He600HC 材に関しては、基材の強度が他の試料と異なるため、本試験の対象から外した。荷重から応力への換算は下記の式(2)から求めた。
【0034】
【数2】

【0035】
ここで、σb は表面応力、P ははく離時の荷重、Lおよびlはそれぞれ外側および内側の支点間距離、wは試験片の幅、およびt は試験片の厚さを示す。
【0036】
〔結果および考察〕
(1) 断面組織観察結果
どの施工条件においても付着は成功し、2パスの施工によって、N700S は約400 μm、He600S は約1100μm、およびHe600HC は約320μm の付着層を得ることができた。成膜速度は、30〜50mm3/sと評価できるものであった。
これら付着層の断面SEM 観察像を図3に示す。
また、このときの気孔率および付着効率を表4にまとめて示す。
【0037】
【表4】

【0038】
He600S は気孔率1.8 %であり、極めて緻密で厚い付着層を得ることに成功した。N700S は、皮膜全体に気孔が存在し、また付着した粒子の形状が残存していた。ただし、どちらの試験片においても皮膜と基材の界面や皮膜表面近傍では気孔が認められた。ガス流速が約1/2 であるN700S は、He600S に比べ、付着層厚さが約1/3、気孔率は約4 倍、さらに付着効率は1/4 という結果になった。これは粒子の付着に関し、粒子速度が大きく関係していることを示唆している。高炭素鋼である供試材では、塑性変形が生じ難くて、窒素ガスを用いた成膜では不完全な接合状態になった可能性が考えられる。
また、コールドスプレー条件が同様で基材の鋼種のみが異なるHe600S とHe600HC にお
いても、付着厚さ、気孔率が大きく変化することが明らかとなった。これは、後述するように高炭素鋼の硬さがSUS鋼に比べて硬く、基材の塑性変形が十分に生じていないことが
原因と考えられるが、その詳細に関しては十分な解明が待たれるものと判断された。
【0039】
(2) Vickers 硬さ計測結果
界面からの距離と皮膜断面硬さの分布を図4に示す。
コールドスプレー皮膜の硬さはいずれの試験片においてもバルク材の硬さと比べ、同程
度か、もしくはそれ以上の値を示した。各試料は付着層の厚さが異なるため、単純な比較はできないが、コールドスプレー皮膜の硬さはいずれの試験片においても基材の硬さに比べ、硬化する傾向を示した。付着層硬化の要因は、粒子が高速で基材と衝突したことによる加工硬化の可能性が考えられる。またN700S やHe600HC の硬さがHe600S と比べ低い値
を示している要因としては、前述の高い気孔率の影響が考えられる。さらにN700SやHe600HC においては、付着層内部でばらつきが大きくなる傾向を示した。この原因に関しても
気孔率が影響しているものと考えられる。N700S において、皮膜中央部の断面硬さは、表面および界面近くの断面硬さと比較して、高い値を示す傾向がある。これは皮膜中央部の粒子が、粒子付着後に再度、他の粒子により繰り返し衝突し加工硬化が生じたのに対し、表面の粒子は繰り返し衝突の影響が少なかったためと考えられる。
【0040】
(3) 皮膜強度評価試験結果
四点曲げ試験による荷重−変位曲線及びはく離時の荷重と変位の値を、図5に示す。
引張荷重負荷時においては、二つの試験片ともに皮膜のはく離が生じた。He600S はN700S と比べ、高い荷重ではく離していることから、接合強度は高いものと判断できる。ま
た、He600S における強度の急激な低下位置は付着層に縦割れが入ったことによるもので
あり、この位置はほぼ塑性変形が開始する点と一致する。一般の構造物は、塑性変形を生じる応力下で使用されることはないことから、弾性変形領域で強度の高いコールドスプレー付着層は十分に使用可能なレベルであると考える。ただし、応力の急激な低下は、信頼性の観点から思わしくない。この点に関しては、スプレー条件の最適化や付着層あるいは粒子の前処理・後処理等により改善することが可能と考えられる。
一方、圧縮荷重負荷時においては、N700S およびHe600S 共にはく離や破断は生じず、
曲線はほぼ同様の傾向を示した。圧縮応力が負荷される部位に関しては、極めて有効であることが明らかとなった。圧縮荷重(応力)が作用する部材においては、窒素ガスを用いた付着層であっても十分な強度を得ることが可能である。
【0041】
以上より、次のようにまとめられる。
(1) 皮膜断面微細組織観察の結果から、作動ガスにHe を使用することで気孔率1.8%と
、極めて緻密な皮膜を得ることができる。
(2) 硬さ試験の結果から、コールドスプレーにより施工した付着層の硬さは、バルク材のそれよりも高くなる傾向を示し、高速衝突による加工硬化の影響が示唆される。
(3) 四点曲げ試験の結果から、引張強度においてHe600の優位性が認められた。引張荷
重負荷下においては、付着層にき裂が生じ、急激な荷重低下を示すことがわかった。しかし、He600S ではき裂が生じるまでの応力は高く、一般の構造物が塑性変形を生じる応力
下では使用されないことを考慮すれば、コールドスプレー付着層の強度は十分であると考えられる。また圧縮荷重に関しては、N700S およびHe600S 共に、はく離や破断は生じず
、圧縮応力が負荷される部位に関しては、極めて有効であることが明らかとなった。
(4) 以上の結果から、コールドスプレー法による炭素鋼補修の可能性が示唆された。
【実施例2】
【0042】
〔供試材〕
本実施例2では、供試材として、施工粉末に炭素量0.70%の高炭素鋼および純度99%以上の軟鋼(Hoganas製, ASC300, 粒径60μm以下)を、基材には施工粉末と同じ高炭素鋼を用
いた。表5に高炭素鋼および軟鋼の化学組成を示す。また、炭素鋼粉末はガスアトマイズ法により作製し、平均粒径は21μmである。
【0043】
【表5】

【0044】
〔施工条件〕
本実施例2では、高圧型コールドスプレー装置(プラズマ技研工業(株)製PCS-103-3)を用いた。施工粉末は、高炭素鋼、および付着率向上を目的とし高炭素鋼と軟鋼を質量比1:1で混合した混合粉末の2種類とした。また、作動ガスにはヘリウムガスを用い、作動温度、作動圧力の影響を評価するため、これらを変化させ成膜した。表6に施工条件を示す。
【0045】
【表6】

【0046】
〔断面微細組織観察〕
コールドスプレー法により成膜した皮膜の付着状態を評価するため、皮膜の断面微細組織を観察した。試料を鏡面仕上げし、走査型電子顕微鏡(SEM)((株)日立ハイテクノロジー製 S-4700)を用いて観察した。また、画像処理ソフト Image-J 1.38xを用いて皮膜断面気孔率を計測した。
〔Vickers硬さ計測〕
バルク材および施工した皮膜の硬さの差異を評価するため、各試料の皮膜断面Vickers
硬さを計測した。試料断面を鏡面仕上げし、微小硬さ試験機(Fischer Instruments製 H100)を用いて計測した。
【0047】
〔結果および考察〕
(1) 施工結果
本実施例2で施工したものは、いずれの条件においても成膜に成功した。これにより成膜が困難であると考えられていた炭素鋼においても成膜が可能であることが確認された。また、軟鋼粉末と混合することで、より膜厚の厚い皮膜を得ることができた。成膜速度は、30〜50mm3/sと評価できるものであった。表7に各試料の膜厚および断面気孔率を示す

【0048】
【表7】

【0049】
(2) 断面微細組織観察
各試料の皮膜断面SEM像を図6に示す。粉末に高炭素鋼のみを用いた試料は混合粉末を
用いた試料と比べ、皮膜と基材の界面が明確に現れている。さらに気孔率においても高い値を示していた。このため、混合粉末と比べ付着が不十分であることが示唆される。さらに同じ炭素鋼を用いた場合でもS2-600とS3-600の比較およびS3-600とS3-700の比較から、より高温高圧下で施工することで、よりち密な皮膜を得ることができた。また、混合粉末を施工した皮膜は、M2-500およびM2-600でそれぞれ気孔率2.8%および2.0%のち密な皮膜を得ることに成功した。界面も明確ではなく、付着状態は高炭素鋼粉末の場合と比べ良好であった。
(3) Vickers硬さ計測
各試料の皮膜断面Vickers硬さ分布を図7に示す。高炭素鋼粉末を施工した皮膜はバル
ク材と比べ高硬度であることが確認された。これは粒子が基材に衝突した時、粒子が塑性変形し、加工硬化が発生した可能性が考えられる。また、硬さの値のばらつきが大きくなっており、これは高い気孔率のためであると考えられる。また、界面からの距離の変化に対し硬さの変化は確認されなかった。混合粉末を施工した皮膜に関しては、高炭素鋼および軟鋼バルク材硬さの間に分布している。このことから質量比1:1の混合粉末の施工にお
いても、付着比には差異が生じ、軟鋼粉末は炭素鋼粉末と比べ高い可能性が示唆される。
【0050】
本実施例2では、炭素鋼構造部材補修へのコールドスプレー法の適用を目的とし、高炭素鋼皮膜の機械的特性評価を行った。得られた知見は以下の通りである。
(1)高炭素鋼へのコールドスプレー法の適用は可能であり、軟鋼粉末と混合することで、
より気孔率の小さいち密な皮膜を得ることができる。
(2)より高温高圧条件下での施工によりち密な皮膜を得ることに成功した。
(3)高炭素鋼の皮膜硬さはバルク材と比べ高い値を示し、加工硬化の発生が示唆された。
(4)混合粉末の皮膜硬さは軟鋼と高炭素鋼のバルク材の間に分布しており、付着比は混合
比と異なる可能性が示唆された。
(5)以上の結果からコールドスプレー法の炭素鋼材料補修の可能性が示された。
また、以上より、対象となる基材は、初期部材(未使用の部材、あるいは、工場出荷段階の部材であって表面がきれいなもの)であってよいことはあきらかである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の補修法によれば、高炭素鋼などの構造用金属材料の欠陥部、損傷部などを、固相状態のまま補修用原料粉末材を被覆することで補修できる。補修対象の基材や補修用原料粉末材に熱負荷を与えることなく処理でき、しかも、基材上に効率よく緻密な皮膜を堆積でき、さらに皮膜層の硬さも制御することが可能であり、皮膜形成法として優れている。本発明の補修法は、特別な技能を要しない、簡単で施工速度が速く、短時間で補修を完
結できる方法で、実用価値が高いものである。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】コールドガスダイナミックスプレー装置の模式図を示す。
【図2】四点曲げ試験における荷重負荷の様子を示す。
【図3】コールドスプレー法で形成された皮膜付き基材(実施例1)の付着部の断面組織の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(図面代用写真)を示す。
【図4】コールドスプレー法で形成された皮膜付き基材(実施例1)の硬さを測定した結果を示す。
【図5】コールドスプレー法で形成された皮膜付き基材(実施例1)の四点曲げ試験の結果を示す。
【図6】コールドスプレー法で形成された皮膜付き基材(実施例2)の付着部の断面組織の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(図面代用写真)を示す。
【図7】コールドスプレー法で形成された皮膜付き基材(実施例2)の硬さを測定した結果を示す。
【図8】コールドスプレー法で形成された皮膜付き基材(実施例2)の四点曲げ試験の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料からなる基材表面の一部の補修を行う金属材料の補修方法であって、補修用原料粉末材料の融点又は軟化温度よりも低い温度の作動ガスの超音速流と共に、前記補修用原料粉末材料を流して、固相状態のまま基材に高速で衝突させて皮膜を形成せしめて、コールドスプレー法で基材の一部を補修する方法で、補修用原料粉末材料が、少なくとも高炭素鋼粉末に軟鋼粉末が配合してある混合物粉末からなるものであることを特徴とするコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
【請求項2】
金属材料が、高炭素鋼又はそれに基いた合金鋼からなる群から選択されたもので、該基材表面の一部が基材表面の欠陥部であることを特徴とする請求項1に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
【請求項3】
補修用原料粉末材料の高炭素鋼粉末が、平均粒径5〜100μmの粒子サイズのものであるこ
とを特徴とする請求項1又は2に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
【請求項4】
補修用原料粉末材料の軟鋼粉末が、平均粒径15〜200μmの粒子サイズのものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
【請求項5】
補修用原料粉末材料の高炭素鋼粉末と軟鋼粉末との配合比(重量比)が、約1.0:9.0(高炭
素鋼粉末:軟鋼粉末)〜約9.0:1.0(高炭素鋼粉末:軟鋼粉末)であることを特徴とする
請求項1〜4のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
【請求項6】
作動ガスが、ヘリウムあるいは窒素であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
【請求項7】
コールドスプレーの超音速ノズルのノズル出口のガス流速が、1050〜4000m/sの速度範囲
であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
【請求項8】
作動ガスの温度が、300〜1300℃である温度条件でコールドスプレーを実施することを特
徴とする請求項1〜7のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
【請求項9】
作動ガスの圧力が、0.5〜15.0 MPa である圧力条件でコールドスプレーを実施することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
【請求項10】
約10〜100mm3/sの成膜速度を得ることができるものであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
【請求項11】
コールドスプレーで基材上に形成された皮膜の気孔率が、おおよそ8.4以下であることを
特徴とする請求項1〜10のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
【請求項12】
前記基材の補修対象部の表面の不純物層を除去し、前記基材の補修対象部の表面にコールドスプレー法により皮膜を形成することを特徴とする請求項1〜11のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
【請求項13】
前記基材の補修対象部の表面の不純物層を、旋盤、フライス盤、研磨盤、リューター、研磨紙及びブラストからなる群から選択された、少なくとも一の機械的除去法により除去するか、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、クエン酸及び水酸化ナトリウムからなる群から選択された、少なくとも一つの水溶液を用いた化学的除去法により除去するか、あるいは、CO2レーザー、YAGレーザー及びエキシマレーザーからなる群から選択された、少なくとも一種類のレーザーを用いたレーザー除去法により除去することを特徴とする請求項1〜12のいずれか一に記載のコールドスプレーによる金属材料の補修方法。
【請求項14】
炭素鋼又はそれに基いた合金鋼からなる群から選択された金属材料からなる基材の表面に、少なくとも高炭素鋼粉末と軟鋼粉末を含有する混合物を原料粉末材料として使用しコールドスプレーにより形成された皮膜であることを特徴とするコールドスプレー皮膜。
【請求項15】
皮膜の気孔率が、おおよそ8.4以下であることを特徴とする請求項14に記載のコールド
スプレー皮膜。
【請求項16】
高炭素鋼又はそれに基いた合金鋼からなる群から選択された金属材料からなる基材表面の一部の補修用の原料粉末材料であり、補修用原料粉末材料の融点又は軟化温度よりも低い温度の作動ガスの超音速流と共に、前記補修用原料粉末材料を流して、固相状態のまま基材に高速で衝突させて皮膜を形成せしめて、コールドスプレー法で基材の一部を補修するための原料粉末材料で、少なくとも高炭素鋼粉末に軟鋼粉末が配合してある混合物粉末からなるものであることを特徴とする補修用原料粉末材料。
【請求項17】
原料粉末材料の高炭素鋼粉末が、平均粒径5〜100μmの粒子サイズのものであることを特
徴とする請求項16に記載の補修用原料粉末材料。
【請求項18】
原料粉末材料の軟鋼粉末が、平均粒径15〜200μmの粒子サイズのものであることを特徴とする請求項16又は17に記載の補修用原料粉末材料。
【請求項19】
原料粉末材料の高炭素鋼粉末と軟鋼粉末との配合比(重量比)が、約1.0:9.0(高炭素鋼粉
末:軟鋼粉末)〜約9.0:1.0(高炭素鋼粉末:軟鋼粉末)であることを特徴とする請求項
16〜18のいずれか一に記載の補修用原料粉末材料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−111906(P2010−111906A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284776(P2008−284776)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年6月2日 日本溶射協会発行の「第87回(2008年度春季)全国講演大会講演論文集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年7月9日 日本保全学会発行の「日本保全学会 第5回学術講演会 要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年8月2日 社団法人日本機械学会発行の「2008年度年次大会講演論文集(6)」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年10月30日 National Institute of Advanced Industrial Science and Technology発行の「3rd Tsukuba International Coating Symposium 予稿集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年11月5日 Institute of Materials(Esat Asia)発行の「Technical Programme and Abstract Book for The 7th International Conference on Materials Processing for Properties and Performance and The 3rd Asian Thermal Spray Conference」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】