説明

高疲労強度、高靭性機械構造用鋼部品およびその製造方法

【課題】通常の熱間鍛造でも、その後の冷却および熱処理で部品内の組織を制御することによって被削性を低下させることなく、疲労強度、靱性を向上させた機械構造用鋼部品、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%でC:0.05〜0.20%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.75〜3.00%、P:0.001〜0.050%、S:0.001〜0.200%、V:0.20超〜0.25%、Cr:0.01〜1.00%、Al:0.001〜0.500%、N:0.0080〜0.0200%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなる鋼からなり、鋼組織が、面積率で95%以上がベイナイト組織であると共にベイナイトラスの幅が5μm以下であり、鋼中にV炭窒化物が分散したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車を始めとする輸送機器や産業機械などの機械構造用鋼部品およびその製造方法に関し、特に被削性を低下させることなく、高疲労強度、高靭性機械構造用鋼部品、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
旧来、自動車や産業機械等の機械構造部品の多くは、素材棒鋼から部品形状に熱間鍛造した後、再加熱し、焼入れ焼戻しの調質処理を施すことによって、高強度および高靱性を付与してきた。近年では、製造コストの低減の観点から、焼入れ焼戻しの調質処理工程の省略が進められおり、例えば、特許文献1などに見られるように、熱間鍛造ままでも高強度および高靱性を付与できる非調質鋼が提案されてきた。しかしながら、これら高強度高靱性の非調質鋼の機械構造用鋼部品への適用において、実際に障害となるものは高疲労強度化と被削性を両立させることである。
【0003】
一般に疲労強度は引張強さに依存するとされ、引張強さを高くすれば疲労強度は高くなる。その一方で引張強さの上昇は被削性を低下する。機械構造用鋼部品の多くは、熱間鍛造後、切削加工を必要とし、その切削コストは部品の製造コストの大半を占める。引張強さの上昇による被削性の低下は部品の製造コストの大幅な増加につながる。一般に引張強さが1200MPaを超えると著しく被削性が低下し、製造コストが大幅に増加するため、この強度を超える高強度化は実用上困難である。従って、これら機械構造用部品において、被削性の低下による切削コストの増加は高疲労強度化のネックであり、高疲労強度化と被削性の両立技術が求められている。
【0004】
高強度でありながら被削性を確保させる従来の知見として、例えば、特許文献2では、鋼中に多量のVを添加し、時効処理により析出したV炭窒化物が機械加工時に工具面に付着して保護し、工具摩耗の防止に効果のあることを提案している。しかしながら、被削性を確保するためには、多量のVが必要とし高合金のため熱間延性が著しく低い。このような鋼を用いた場合、鋳造時に発生する割れや疵と、その後の熱間加工、すなわち素材棒鋼の熱間圧延や、部品の熱間鍛造時の疵発生の問題が生じる。
【0005】
また、高疲労強度化と被削性を両立させる手段として、疲労強度と引張強さの比、すなわち耐久比(疲労強度/引張強さ)を向上させることが有効である。例えば、特許文献3では、ベイナイト主体の金属組織とし組織中の高炭素島状マルテンサイトおよび残留オーステナイトを低減することが有効であると提案している。しかしながら、耐久比は高々0.56以下であり、被削性を低下させることなく、強度を高めるには限界があり、これら疲労強度はいずれも低い。
【0006】
また、例えば、特許文献4では、800〜1050℃の温度域での亜熱間鍛造によって成形後、微細フェライト−ベイナイト組織とし、その後の時効処理によってV炭窒化物を析出することが有効であると提案している。一般に高耐久比化を図ると靱性が低下する傾向を示すが、亜熱間鍛造によりフェライト−ベイナイト組織を微細化することで靱性を改善している。しかしながら、靱性の必要な機械構造用鋼部品において、その靱性の改善は小さい。また800〜1050℃の温度域での亜熱間鍛造では、鍛造負荷が大きく、型の寿命を著しく低下するため工業上、生産が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−198450号公報
【特許文献2】特開2004−169055号公報
【特許文献3】特開平4−176842号公報
【特許文献4】特許3300511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、通常の熱間鍛造でも、その後の冷却および熱処理で部品内の組織を制御することによって被削性を低下させることなく、疲労強度、靱性を向上させた機械構造用鋼部品、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、熱間鍛造後に、比較的速い冷却速度で冷却することで主体組織を微細なベイナイトとした上で、時効処理にて鋼中にV炭窒化物を析出させることにより、高シャルピー吸収エネルギーおよび高耐久比を有し、被削性を低下させることなく、疲労強度、靭性を向上させた機械構造用鋼部品を得ることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明の要旨は、以下の通りである。
【0011】
(1)質量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.75〜3.00%、P:0.001〜0.050%、S:0.001〜0.200%、V:0.20超〜0.25%、Cr:0.01〜1.00%、Al:0.001〜0.500%、N:0.0080〜0.0200%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなる鋼からなり、鋼組織が、面積率で95%以上がベイナイト組織であると共にベイナイトラスの幅が5μm以下であり、鋼中にV炭窒化物が分散したものであることを特徴とする機械構造用鋼部品。
【0012】
(2)さらに、質量%で、Ca:0.0003〜0.0100%、Mg:0.0003〜0.0100%、Zr:0.0005〜0.1000%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)に記載の機械構造用鋼部品。
【0013】
(3)さらに、質量%で、Mo:0.01〜1.00%、Nb:0.001〜0.200%、Ti:0.001〜0.300%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の機械構造用鋼部品。
【0014】
(4)20℃でのシャルピー吸収エネルギーが80J/cm以上であり、耐久比が0.60以上であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の機械構造用鋼部品。
【0015】
(5)上記(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の成分組成からなる鋼材を、1100℃以上、1300℃以下に加熱して熱間鍛造し、該熱間鍛造後、300℃までにおける平均冷却速度を3℃/秒以上、120℃/秒以下で冷却し、該冷却後550℃以上、700℃以下の温度範囲内で時効処理を施すことを特徴とする機械構造用鋼部品の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鋼成分範囲、組織形態および熱処理条件を選択することにより、切削コストを増加することなく、高疲労強度・高靱性の機械構造用鋼部品を提供することが可能となり、産業上極めて効果の大きいものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、上述した目的に対し、鋼成分範囲、組織形態、および熱処理条件について鋭意検討し、その結果、以下の(a)〜(c)を知見した。
(a)面積率で95%以上のベイナイト組織で、ベイナイトラスの幅が5μm以下の微細組織にした上で、時効処理にて鋼中に微細なV炭窒化物を析出させることにより、20℃でのUノッチシャルピー吸収エネルギーが80J/cm以上、耐久比が0.60以上の高靭性、高耐久比を有する。従来の非調質鋼の耐久比は0.48程度で、耐久比が0.60以上に向上するということは、例えば、引張強さ1100MPaの場合、引張強さを上げることなく疲労強度を約130MPa以上、向上することができる。したがって、被削性は引張強さに強く依存されるため、耐久比の向上は被削性を低下させることなく疲労強度を向上し、被削性と高疲労強度化の両立につながる。
(b)低C、高NおよびV添加した鋼材を熱間鍛造成形した後、300℃までにおける平均冷却速度を3℃/秒以上、120℃/秒以下の上記速度範囲に設定することで、通常の熱間鍛造でも所望の微細なベイナイト組織が得られる。
(c)時効処理の温度が高ければ高いほど耐久比が向上する。これは、時効温度550〜700℃までの温度域では、時効温度が高ければ高いほどV炭窒化物やセメンタイトといった析出物は粗大化し引張強さは顕著に低下するが、疲労強度は低下することなく上昇または維持するためである。
【0018】
本発明は、これら知見に基づいて、さらに検討を重ねて初めて完成したものである。
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。まず、上述した機械構造用鋼部品の鋼成分範囲の限定理由について説明する。
【0020】
C:0.05〜0.20%
Cは鋼の強度を決める重要な元素である。部品として十分に強度を得るためには、下限は0.05%とする。他の合金元素に比べて合金コストは安く、Cを多量に添加することができれば鋼材の合金コストは低減できる。しかしながら、多量のCを添加すると、ベイナイト変態時にラスの境界にCが濃縮した残留オーステナイトや島状マルテンサイトが生成し、靱性や耐久比が低下するため、上限は0.20%とする。
【0021】
Si:0.10〜1.00%
Siは鋼の強度を高める元素として、また脱酸元素として有効な元素である。これら効果を得るためには、下限は0.10%とする。またSiはフェライト変態を促進する元素であり、1.00%超では、旧オーステナイトの粒界にフェライトが生成し、疲労強度、耐久比が顕著に低下するため、上限は1.00とする。
【0022】
Mn:0.75〜3.00%
Mnはベイナイト変態を促進する元素であり、熱間鍛造後の冷却過程で組織をベイナイトとするために重要な元素である。さらにSと結合して硫化物を形成し、被削性を向上させる効果があり、またオーステナイト粒の成長を抑制し高靱性を維持する効果もある。これら効果を発揮するためには、下限は0.75%とする。一方、3.00%超のMn量を添加すると素地の硬さが大きくなり脆くなるため、かえって靱性や被削性が顕著に低下する。上限は3.00%とする。
【0023】
P:0.001〜0.050%
Pは鋼中に不可避的不純物として通常、0.001%以上は含有しているため、下限を0.001%以上とする。そして、含有されたPは旧オーステナイトの粒界等に偏析し、靭性を顕著に低下するため、上限は0.050%に制限する。好ましくは0.030%以下であり、より好ましくは0.010%である。
【0024】
S:0.001〜0.200%
SはMnと硫化物を形成し、被削性を向上させる効果があり、またオーステナイト粒の成長を抑制し高靱性を維持する効果もある。これら効果を発揮するためには、下限は0.001%とする。しかし、Mn量にも依存するが、多量に添加すると靱性等の機械的性質に異方性が大きくなることから、上限は0.200%とする。
【0025】
V:0.20超〜0.25%
Vは炭窒化物を形成し、ベイナイト組織を析出強化し強度、耐久比を高めるのに有効な元素である。この効果を十分に得るには0.20%超の含有量が必要である。一方、0.25%を超えると、その効果は飽和し、合金コストがかさむため、上限は0.25%とする。
【0026】
Cr:0.01〜1.00%
Crはベイナイト変態を促進するのに有効な元素である。その効果を得るには0.01%以上添加するが、1.00%を超えて添加しても、その効果は飽和して合金コストがかさむだけである。したがって、Crの含有量は0.01〜1.00%とする。
【0027】
Al:0.001〜0.500%
Alは脱酸やオーステナイト粒の成長を抑制し高靭性を維持するのに有効である。さらにAlは機械加工時に酸素と結合して工具面に付着し、工具摩耗の防止に効果がある。これら効果を発揮するためには、下限は0.001%とする。一方、0.500%超では多量の硬質介在物を形成し靭性、耐久比および被削性のいずれも低下する。したがって、上限は0.500%とする。
【0028】
N:0.0080〜0.0200%
NはV,Al等の各種合金元素と窒化物を形成し、オーステナイト粒の成長抑制やベイナイト組織の微細化により強度を高めても高靱性を維持し、さらに高耐久比を得るために重要な元素である。この効果を得るには、上限は0.0080%とする。一方、0.0200%を超えると、その効果は飽和する。さらに熱間延性が著しく低下し、素材棒鋼の熱間圧延や部品の熱間鍛造時の疵発生の問題が生じるため、上限は0.0200%とする。
【0029】
(Ca:0.0003〜0.0100%、Mg:0.0003〜0.0100%、Zr:0.0005〜0.1000%のうちの1種または2種以上を含有する)
Ca、Mg、Zrはいずれも酸化物を形成し、Mn硫化物の晶出核となりMn硫化物を均一微細分散する効果がある。また、いずれの元素もMn硫化物中に固溶し、その変形能を低下させ、圧延や熱間鍛造後のMn硫化物形状の伸延を抑制し、靱性等の機械的性質の異方性を小さくする効果がある。これら効果を発揮するには、Ca、Mgの下限は0.0003%とし、Zrの下限は0.0005%とする。一方、Ca、Mgは0.0100%、Zrは0.1000%を超えると、かえってこれら酸化物や硫化物等の硬質介在物を多量に生成し、靱性、耐久比および被削性は低下する。したがって、Ca、Mgの上限は0.0100%とし、Zrの上限は0.1000%とする。
【0030】
(Mo:0.01〜1.00%、Nb:0.001〜0.200%、Ti:0.001〜0.300%のうちの1種または2種以上を含有する)
Mo、Nb、Tiは、Vと同様に、炭窒化物を形成し、ベイナイト組織を析出強化し強度、耐久比を高めるのに有効な元素である。この効果を得るには、Moの下限は0.01%とし、Nb、Tiの下限は0.001%とする。いずれも必要以上に添加しても効果は飽和し合金コストの上昇を招くだけである。したがって、Moの上限は1.00%とし、Nbの上限は0.200%とし、Tiの上限は0.300%とする。
【0031】
次に上述した機械構造用鋼部品の鋼組織の限定理由について説明する。
【0032】
(面積率で95%以上のベイナイト組織であり、ベイナイトラス幅が5μm以下)
組織を面積率で95%以上のベイナイト組織に規定したのは、主体組織がベイナイト組織であれば高靭性、高耐久比を有するものの、その残部組織であるフェライト、残留オーステナイトまたは島状マルテンサイトが面積率で5%以上からなる場合、靭性、耐久比は著しく低下するためである。これら残部組織が少なければ少ないほど、靭性、耐久比は高く、好ましくは面積率で97%以上である。さらに、ベイナイトラスの幅が5μm以下に規定したのは、その幅が5μm超では比較的高温で変態したベイナイト組織でラス境界には粗大なセメンタイトが析出し、その靭性、耐久比は低いためである。ラス幅が狭いほど、低温で変態したベイナイト組織であり、セメンタイトのサイズも小さくなり、より高靭性、高耐久比を有する。したがって、好ましくはベイナイトラスの幅は3μm以下とする。
【0033】
次に上述した機械構造用鋼部品の製造方法の限定理由について説明する。
【0034】
上述した成分組成からなる鋼材を1100℃以上、1300℃以下に加熱することを規定したのは、時効処理でV、Mo、Nb、Tiの炭窒化物を十分に析出させることが目的で、熱間鍛造前の加熱によってV、Mo、Nb、Tiを鋼中に十分に溶体化させるためである。加熱温度1100℃未満では、V、Mo、Nb、Tiを鋼中に十分に溶体化させることができず、その後の時効処理での析出強化量が小さく、疲労強度、耐久比は低くなる。一方、1300℃を超えて必要以上に加熱温度を上げることは、オーステナイト粒の成長を促し、その後の冷却過程で変態した組織が粗大となり靭性、耐久比が低下する。したがって、鋼材の加熱温度を1100℃以上、1300℃以下とした。
【0035】
熱間鍛造した後、300℃までにおける平均冷却速度を3℃/秒以上、120℃/秒以下に規定したのは、面積率で95%以上のベイナイト組織とし、ベイナイトラスの幅が5μm以下とするためである。300℃未満では、本発明で規定するベイナイト率、ベイナイトラス幅が、冷却速度によって変化しないことから、熱間鍛造した後から300℃までの冷却速度を制限することとした。平均冷却速度が3℃/秒未満では、旧オーステナイト粒界に沿って面積率で5%以上のフェライトが生成し、またベイナイトラスの幅が5μm超となり、靭性、疲労強度および耐久比を著しく低下する。一方、平均冷却速度が120℃/秒を超えると、ベイナイトラス境界に面積率で5%以上の残留オーステナイトや島状マルテンサイトが生成し、靱性、耐久比(疲労強度/引張強さ)を顕著に低下する。
【0036】
該冷却後、550℃以上、700℃以下で時効処理を施すことを規定したのは、この時効処理で微細な鋼中にV炭窒化物等を析出させ、ベイナイト組織を析出強化させることにより高耐久比を有する。処理温度が550℃未満では、V炭窒化物等の析出量が少なく十分な析出強化量が得られず疲労強度、耐久比ともに低い。熱処理温度の下限は550℃とする。一方、処理温度700℃を超えると、V炭窒化物やセメンタイトが粗大化し十分な析出強化量が得られず引張強さ、疲労強度ともに低く、耐久比も低い。熱処理温度の上限は700℃とする。上述したが規定の温度範囲内では、時効処理の温度が高いほど、耐久比は向上するため、好ましくは600℃以上であり、より好ましくは650℃以上とする。
【0037】
なお、本発明によって高疲労強度、高靱性を有する機械構造用鋼部品が得られるが、被削性を十分に確保するためには、引張強さは1200MPa以下にすることが望ましい。
【0038】
本発明を実施例によって以下に詳述する。なお、これら実施例は本発明の技術的意義、効果を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0039】
表1に示す化学組成の鋼を100kg真空溶解炉にて溶製した。これを直径55mmの棒鋼に圧延後、鍛造用試験片を切り出し、表1に示す条件で鍛造、熱処理を行った。熱間鍛造した後、300℃までの冷却方法は油冷、水冷または空冷を行い、冷却速度を制御し、その後、300℃未満では空冷とした。平均冷却速度は、熱間鍛造した後の試験片の温度から300℃を差し引いた値を、熱間鍛造した後300℃まで冷却するのに要した時間で割って求めた。なお、表1の下線部は本発明の範囲外条件である。
【0040】
これら鍛造材の中央部よりJIS Z 2201の14号引張試験片、JIS Z 2274の1号回転曲げ疲労試験片、およびJIS Z 2202の2mmUノッチ衝撃試験片を採取し、引張強さ、20℃シャルピー吸収エネルギー、および疲労強度を求めた。ここで、疲労強度は回転曲げ疲労試験にて10回転で破断せず耐久した応力振幅と定義した。また求められた疲労強度と引張強さの比を耐久比(疲労強度/引張強さ)として求めた。
【0041】
鍛造材のL方向の1/4厚み部から組織観察用試験片を採取した。ベイナイトの面積率は、試験片を鏡面になるまで研磨後、レペラーエッチングを行い、ベイナイト以外の残部であるフェライト、島状マルテンサイト等の組織を確認し、500倍の光学顕微鏡写真を各10視野撮影した後、画像解析により算出した。またベイナイトラスの幅は、試験片を再度、鏡面になるまで研磨後、ナイタールエッチングを行い、5000倍の走査型電子顕微鏡写真を各10視野撮影し、各視野10箇所のラス幅を測定し、その平均値を求めた。さらにV炭窒化物の析出状態は、試験片を電解研磨法により薄膜に仕上げた後、透過型電子顕微鏡にて制限視野電子回折図形の解析やエネルギー分散形X線分光法による元素分析により析出物を同定し、観察することにより調査した。
【0042】
No.1〜19の本発明例は、いずれも面積率で95%以上のベイナイト組織で、そのラス幅は5μm以下の微細組織であり、時効処理温度が550℃以上であるため、V炭窒化物が十分に析出し、20℃でのシャルピー吸収エネルギーは82J/cm以上、耐久比は0.61以上の高靱性、高耐久比を有する。被削性の確保のために引張強さは1200MPa以下ではあるが、同程度の引張強さと比較すると明らかのように、従来例No.29のフェライト−パーライト非調質鋼より高疲労強度を実現している。
【0043】
これに対して、比較例No.20,21はCまたはSiの含有量が多く、またNo.27,28は規定した鋼組成範囲内ではあるが、平均冷却速度が規定外で、ベイナイトラス境界にフェライトや残留オーステンサイト等の残部の量が多く、またNo.28ではベイナイトラスの幅が大きく、シャルピー吸収エネルギー、耐久比が低い。No.22,25,26は鋼組成、または熱処理条件が規定外で、十分な析出強化が得られず耐久比が低い。No.22,23,24は必要以上に合金元素が添加され、かえってシャルピー吸収エネルギー、耐久比が低い。
【0044】
これから明らかなように、本発明で規定する条件をすべて満たすものは比較例、従来例より靱性および疲労特性が優れている。
【0045】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.05〜0.20%、
Si:0.10〜1.00%、
Mn:0.75〜3.00%、
P:0.001〜0.050%、
S:0.001〜0.200%、
V:0.20超〜0.25%、
Cr:0.01〜1.00%
Al:0.001〜0.500%
N:0.0080〜0.0200%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなる鋼からなり、鋼組織が、面積率で95%以上がベイナイト組織であると共にベイナイトラスの幅が5μm以下であり、鋼中にV炭窒化物が分散したものであることを特徴とする機械構造用鋼部品。
【請求項2】
さらに、質量%で、
Ca:0.0003〜0.0100%
Mg:0.0003〜0.0100%
Zr:0.0005〜0.1000%
のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の機械構造用鋼部品。
【請求項3】
さらに、質量%で、
Mo:0.01〜1.00%
Nb:0.001〜0.200%
Ti:0.001〜0.300%
のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の機械構造用鋼部品。
【請求項4】
20℃でのシャルピー吸収エネルギーが80J/cm以上であり、耐久比が0.60以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の機械構造用鋼部品。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の成分組成からなる鋼材を、1100℃以上、1300℃以下に加熱して熱間鍛造し、該熱間鍛造後、300℃までにおける平均冷却速度を3℃/秒以上、120℃/秒以下で冷却し、該冷却後550℃以上、700℃以下の温度範囲内で時効処理を施すことを特徴とする機械構造用鋼部品の製造方法。

【公開番号】特開2012−246527(P2012−246527A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118312(P2011−118312)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】