説明

高眼圧症及び緑内障を治療するための方法及び組成物

本発明は、高眼圧症及び緑内障を治療するためのPGF2α類縁体を含む点眼水性組成物、高眼圧症及び緑内障の治療が必要な対象に前記組成物を投与することによって高眼圧症及び緑内障を治療する方法、並びに水性組成物中のPGF2α類縁体の水溶性及び安定性を高める方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の技術分野)
本発明は、高眼圧症及び緑内障を治療するためのプロスタグランジン(以後PG)F2α類縁体を含む、保存剤が入っていない点眼用水性組成物、高眼圧症及び緑内障の治療が必要な対象に前記組成物を投与することによって高眼圧症及び緑内障を治療する方法、並びに水性組成物中のPGF2α類縁体の水溶性を高め、かつ安定性を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
PGF2α類縁体は、その眼内圧を下げる効力及びその低い全身性副作用のため、緑内障及び高眼圧症の治療に広く使用されている。PGF2α類縁体は、全ての既知のPGF2α類縁体、例えばタフルプロスト、ラタノプロスト、イソプロピルウノプロストン、トラボプロスト、ビマトプロスト並びにUS 5,886,035、US 5,807,892、US 6,096,783に示されている類縁体を包含する。
タフルプロストは新世代のフッ素化PGF2αイソプロピルエステル類縁体であり、強力な眼圧降下薬である(EP 0 850 926)。
緑内障の治療のために用いられるPGF2α類縁体の濃度は非常に低い。例えば、高眼圧症及び緑内障の治療のためには点眼組成物中0.0005〜0.005(w/v)、好ましくは約0.0015%のタフルプロストの有効濃度で十分であることが分かっている。しかし、タフルプロストのような親油性物質PGF2α類縁体は、点眼液を貯蔵するために常用されている樹脂(プラスチック)容器又はボトルに吸収されやすいので、点眼液中の既に低い薬物濃度はさらに低下している可能性がある。
【0003】
(保存剤)
点眼組成物には、細菌及び真菌に十分な抗菌作用を示す保存剤が伝統的に使用されている。これに加えて、成分と相互作用することによって、例えば成分をビヒクル若しくは基剤中に均質に分散又は溶解させることによって、組成物を安定にする、好ましくは均質化及び安定化するために保存剤が必要である(EP 0969846、EP 1916002及びEP 1 547599参照)。最近では、市販の点眼液で最も一般的に使用されている保存剤は塩化ベンザルコニウム(BAK)及び他の四級アンモニウム塩である。点眼液用の他の医薬的に許容できる保存剤は、例えばホウ酸-ポリオール-塩化亜鉛(EP 1115 406)又は酸化塩素化合物(EP 1 905 453)、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンゼトニウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、p-ヒドロキシ安息香酸エチル及びp-ヒドロキシ安息香酸ブチルである。
しかし、保存剤は角結膜障害の主要原因としても知られており、安全目的のためには、塩化ベンザルコニウム(BAK)等の保存剤の濃度ができるだけ低いことが好ましい。保存剤が入っていない点眼液も開発されている。
他方で、BAKはプロスタグランジンの分解の防止及び樹脂容器壁へのプロスタグランジンの吸収の抑制に寄与している。タフルプロスト及び他のPGF2α類縁体の樹脂容器壁への吸収は、特にポリエチレン製容器に関連する問題だった。十分な可撓性、柔らかさ、良い製造可能性及び使いやすさ等のその特性のため、ポリエチレンは、特に単位用量形態の点眼組成物のパッケージングの選択の好ましい材料である。
さらに、樹脂容器壁へのPGF2α類縁体の吸収は容器壁の表面積に左右される。単位用量製剤は非常に少量の点眼組成物を含み、容器への製剤の接触面積は非常に大きい。従って、容器壁へのPGF2α類縁体の吸収は単位用量製剤にとって重大な問題である。
【0004】
従って、本発明の前には、PGF2α類縁体を含み、かつ本質的にポリエチレンから成る容器に詰めて貯蔵できる安定した、保存剤の入っていない点眼液を調製することは実際には不可能だった。EP 1011728によれば、ポリプロピレン容器に詰めた水性プロスタグランジン組成物は、ポリエチレン容器に詰めたものより安定である。前記公報の安定性の結果に基づいて、当業者はポリエチレンを選択する気になるのではなく、ポリエチレンを特にPGF2α類縁体などの全ての高親油性化合物用の容器材料として認めないと思われる。微量成分としてポリエチレンを含むポリプロピレン-ポリエチレンコポリマーも考えられるが、ポリエチレンを単独材料として又は主要樹脂成分として示唆するものではない(EP 1 829545)。
さらに、ほとんど全てのPGF2α類縁体は実際に水に不溶性である。従って、特に単位用量製剤用に、点眼液にPGF2α類縁体を調合するためには、水に対する溶解性の問題も解決する必要がある。EP 1321144及びUS 2007/248697では、非イオン性界面活性剤を点眼液に添加して、プロスタグランジン誘導体が樹脂容器に吸着されるのを防止している。高親油性のプロスタグランジン類縁体を水中で調合する際の困難さを補うための他の試みが、例えばEP 0969846、EP 1666043、EP 1011728及びWO 2007/042262に記載されているが、それらは保存剤の入っていない組成物については何も言及していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、PGF2α類縁体を含み、かつ実質的に保存剤を含まない点眼水溶液であって、本質的にポリエチレンから成る樹脂容器へのPGF2α類縁体の吸収が防止され、かつ前記類縁体が、保存剤が入っていない製剤中で可溶、安定かつ生物学的に利用可能なままである、点眼水溶液を提供することである。現在、緑内障患者用の、保存剤が入っていないプロスタグランジン点眼薬という未だ対処されていない臨床的必要性があるので、本発明の水性点眼液は有意な臨床的利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の概要)
本発明は、その活性成分としてPGF2α類縁体を含んでなる高眼圧症及び緑内障を治療するための水性点眼液に関し、この点眼液は、本質的にポリエチレンから成る容器内に非イオン性界面活性剤と、安定化剤とを含み、かつ実質的に保存剤を含まない。
本発明は、高眼圧症及び緑内障を治療する方法にも関し、この方法は、その活性成分としてPGF2α類縁体を含んでなる水性点眼液を前記治療が必要な対象に投与する工程を含み、ここで、前記点眼液は非イオン性界面活性剤と、安定化剤とを含み、かつ実質的に保存剤を含まない。
さらに、本発明は、高眼圧症及び緑内障の治療用点眼水溶液を製造するためのPGF2α類縁体の使用に関し、ここで、前記点眼液は、非イオン性界面活性剤と、安定化剤とを含み、実質的に保存剤を含まず、かつ本質的にポリエチレンから成る容器内で貯蔵される。
本発明の別の目的は、点眼水溶液中のPGF2α類縁体の水溶性を高め、かつ安定性を改善する方法であって、PGF2α類縁体と、非イオン性界面活性剤と、安定化剤とを含み、かつ実質的に保存剤を含まない点眼水溶液を調製する工程、及び前記保存剤が入っていない点眼液を本質的にポリエチレンから成る容器に詰める工程を含む方法である。
この明細書では、「実質的に保存剤を含まない」又は「保存剤が入っていない」とは、溶液が全く保存剤を含まないか、又は溶液が検出不可能若しくは保存効果をもたらさない濃度で保存剤を含むことを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】5℃で3種の異なる濃度のポリソルベート80(Tween 80;TW)にて、保存剤が入っていないタフルプロストの低密度ポリエチレン容器への吸収に及ぼすポリソルベート80の効果を示す。
【図2】25℃で3種の異なる濃度のポリソルベート80(Tween 80;TW)にて、保存剤が入っていないタフルプロストの低密度ポリエチレン容器への吸収に及ぼすポリソルベート80の効果を示す。
【図3】40℃で3種の異なる濃度のポリソルベート80(Tween 80;TW)にて、保存剤が入っていないタフルプロストの低密度ポリエチレン容器への吸収に及ぼすポリソルベート80の効果を示す。
【図4】点眼液中BAK保存0.0015%タフルプロスト[BAK(+)]、0.20%のTween 80を含む非保存0.0015%タフルプロスト点眼液[BAK(-) 0.2% Tween 80]、又は0.05%のTween 80を含む非保存0.0015%タフルプロスト点眼液[BAK(-) 0.05% Tween 80]の単回点眼後のウサギ房水内のタフルプロストの酸形の濃度を示す。棒は、各時点のタフルプロスト酸形濃度の平均の標準誤差を示し、アスタリスクは[BAK(-) 0.2% Tween 80]及び[BAK(-) 0.05% Tween 80]溶液間のタフルプロストの酸形濃度の統計的に有意な差異を表す(N=8でp<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(発明の詳細な説明)
非イオン性界面活性剤は、その可溶化効果のため及び容器の樹脂壁へのPGF2α類縁体の吸収を防止するために本発明の点眼液に添加される。非イオン性界面活性剤の例は、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、例えばポリソルベート80[ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノオレアート]、ポリソルベート60[ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノステアラート]、ポリソルベート40[ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノパルミタート]、ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノラウラート、ポリ(オキシエチレン)ソルビタントリオレアート及びポリソルベート65[ポリ(オキシエチレン)ソルビタントリステアラート]、ポリオキシエチレン水素化ヒマシ油、例えばポリオキシエチレン水素化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン水素化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン水素化ヒマシ油50及びポリオキシエチレン水素化ヒマシ油60、ポリオキシエチレン ポリオキシプロピレングリコール、例えばポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール[Pluronic F68]、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール[Pluronic P123]、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール[Pluronic P85]、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール[Pluronic F127]及びポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール[Pluronic L-44]、ポリオキシル40ステアラート及びスクロース脂肪酸エステルである。非イオン性界面活性剤を単独又は組み合わせて使用することができる。非イオン性界面活性剤の好ましい例はポリソルベート80[ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノオレアート]である。他の好ましい非イオン性界面活性剤はポリオキシエチレン水素化ヒマシ油60及びポリオキシル40ステアラートである。
本発明の点眼液中の非イオン性界面活性剤の量は、プロスタグランジン類縁体の量とタイプ及び具体的な界面活性剤に応じてを選択することができ、当業者のスキルの範囲内である。ポリソルベート80では、濃度は、例えば0.05〜0.5%(w/v)、なおさらに好ましくは0.05〜0.1%、最も好ましくは約0.075%である。発明者らは、高すぎる濃度の非イオン性界面活性剤は角膜上皮層に刺激作用を及ぼし、点眼液のプロスタグランジンの生物学的利用能に有害作用を及ぼすことを見い出した。例えばタフルプロストの場合、上限0.5%の非イオン性界面活性剤ポリソルベート80が可能である。
【0009】
本発明の点眼液は安定化剤をも含有して点眼液中のPGF2α類縁体の分解を抑制する。安定化剤の好ましい例はエチレンジアミン四酢酸とその塩、例えばエデト酸二ナトリウム、及びジブチルヒドロキシトルエンである。他の安定化剤、例えば亜硝酸ナトリウム、アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ステアラート、亜硫酸水素ナトリウム、アルファチオグリセリン、エリソルビン酸、システイン塩酸塩、クエン酸、トコフェロールアセタート、ジクロロイソシアヌル酸カリウム、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、大豆レシチン、チオグリコール酸ナトリウム、チオリンゴ酸ナトリウム、天然ビタミンE、トコフェロール、パスチミン酸アスコルビル(ascorbyl pasthyminate)、ピロ亜硫酸ナトリウム、ブチルヒドロキシアニソール、1,3-ブチレングリコール、ペンタエリトリチル(pentaerythtyl)テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)]プロピオナート、没食子酸プロピル、2-メルカプトベンズイミダゾール及びオキシキノリン硫酸塩も使用し得る。
本発明の点眼液中の安定化剤の量は、具体的な安定化剤に応じて選択することができ、当業者のスキルの範囲内である。例えば、安定化剤がエデト酸二ナトリウムの場合、濃度は通常0.005〜0.2%(w/v)、好ましくは0.01〜0.1%、なおさらに好ましくは約0.05%である。
【0010】
本発明の点眼水溶液で用いる好ましいPGF2α類縁体はタフルプロストである。しかし、全ての既知のPGF2α類縁体、特に他のオメガ鎖フェニル環置換PGF2α類縁体、例えばラタノプロスト、トラボプロスト及びビマトプロスト又は2種以上のプロスタグランジンの混合物も使用し得る。本発明の点眼水溶液で用いる代替薬物は、他のプロスタグランジンとその誘導体、例えばプロスタグランジンEとその類縁体である(US 6,344,477及びその中の参考文献を参照されたい)。プロスタグランジン又はその類縁体と他の点眼薬、例えばチモロール等のβ遮断薬との併用も可能である。
本発明の点眼液中のPGF2α類縁体の量は、問題の具体的なプロスタグランジン、治療すべき疾患とその症状に応じて選択することができる。タフルプロストでは、例えば0.0001〜0.01%、好ましくは約0.0005〜0.0025%、なおさらに好ましくは0.0010〜0.0025%(w/v)の量で充分であると考えられる。緑内障を治療するために好ましい他のPGF2α類縁体の濃度は、トラボプロストでは0.001〜0.004%、ラタノプロストでは約0.005%、ビマトプロストでは約0.03%、ウノプロストンでは約0.15%である。
【0011】
本発明の点眼液は、点眼組成物で用いられる通常の賦形剤、例えば緩衝剤、溶剤、pH調整剤、等張化剤などを含んでもよい。適切な緩衝剤の例として、限定するものではないが、リン酸二水素ナトリウム二水和物、ホウ酸、ホウ砂、クエン酸、又はε-アミノカプロン酸が挙げられる。等張化剤の具体例として、限定するものではないが、グリセロール、ソルビトール、マンニトール及び他の糖アルコール、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム及び塩化カルシウムが挙げられる。
本発明の点眼水溶液のpHは、好ましくは4〜8、さらに好ましくは5〜7である。pH調整剤として、普通のpH調整剤、例えば水酸化ナトリウム及び/又は塩酸を使用し得る。
【0012】
樹脂容器の材料は、本質的にポリエチレンから成る。容器材料は、ポリエチレン以外の少量の他の材料、例えばポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリビニルクロリド、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリメチルメタクリラート及びナイロン6を含有し得る。前記材料の量は、全容器材料の好ましくは約5〜10%を超えない。
ポリエチレンは、その密度によって数タイプ、すなわち低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などに分類され、これらのポリエチレンがこの発明に包含される。好ましいポリエチレンはLDPEである。
本発明の水性点眼液を詰めて貯蔵するための容器は、使いやすい局所点眼送達に適した全ての容器形態を包含する。結果として、容器は、単一単位用量形態又は多用量形態の、例えばボトル、チューブ、アンプル、ピペット及び流体ディスペンサーから成る群より選択され得る。本発明の好ましい実施形態によれば、水性点眼液は単一用量又は単位用量形態内にある。
【0013】
本発明の点眼液用容器は、好ましくは押出ブロー成形法で製造される。押出ブロー成形は、例えばポリエチレン多用量ボトルを製造するために一般的に使用されている射出ブロー成形に比べて容器の内面を滑らかにする。滑らかな内面は、射出ブロー成形で製造されたポリエチレン容器に比べてポリエチレン容器内のプロスタグランジンの化学的安定性をより良くする。さらに、単一用量容器を使用すると、単一用量容器は成形プロセス中に熱で殺菌され、容器をさらに殺菌する必要がなく、単一用量容器内のプロスタグランジンの安定性をも改善する(EP 1 825 855及びEP 1 349 580参照)。
一般的に、ブロー成形法で製造された単位用量点眼容器は約1mlの容積を有し、約0.2〜0.5mlの溶液が充填される。該容器では、多種多様の形状が知られている。典型例は、US 5,409,125及びUS 6,241,124で見られる。
本発明の目的のためには単位用量容器が好ましいが、本発明の水性点眼液は、微量の無菌流体を分配するための流体ディスペンサー内又は水性点眼液が本質的にポリエチレンから成る容器材料と接触しているいずれの他の容器タイプ内でも可溶、安定かつ生物学的に利用可能なままである。該流体ディスペンサーは、例えばUS 5,614,172に開示されている。
【0014】
保存剤が入っていない本発明の水性点眼液は、単位用量ピペット及びディスペンサーを含め、上述した適切な容器内で室温にて貯蔵することができる。安定性の研究は、保存剤が入っていない本発明の水性点眼タフルプロスト液が、長時間、25℃で少なくとも12カ月間、5℃で少なくとも30カ月間、ポリエチレン容器内で安定していることを示した。
本発明の好ましい実施形態は、本質的にポリエチレンから成る容器内に、
0.0001〜0.01%w/vのPGF2α類縁体と、
0.05〜0.5%w/vの非イオン性界面活性剤と、
0.005〜0.2%w/vの安定化剤と
を含み、
実質的に保存剤を含まず、かつ
必要に応じて、点眼液で常用されている緩衝剤、pH調整剤及び等張化剤を含む、高眼圧症及び緑内障を治療するための水性点眼液である。
以下の実施例は、いかなる場合にも本発明を限定することなく、本発明を例証する。
【実施例1】
【0015】
保存剤が入っていないタフルプロストの低密度ポリエチレン容器への吸収に及ぼす非イオン性界面活性剤の効果を5℃、25℃及び40℃で20週間調べた。3種の異なるポリソルベート80(Tween 80)濃度、すなわち0.05%、0.075%及び0.1%を用いた。ポリソルベート80を除く、保存剤が入っていない水性タフルプロスト製剤の組成は、0.0015%のタフルプロスト、2.25%のグリセロール、0.2%のリン酸二水素ナトリウム二水和物、0.05%のエデト酸二ナトリウム並びにpHを5.0〜6.7に調整するための水酸化ナトリウム及び/又は塩酸だった。
上で調製した組成物の0.3mlを単位用量容器(LDPE)の本体部に充填し、容器(LDPE)の上部で加熱によって密封した。単位用量容器の内容積は約1mlだった。容器を紙被覆アルミニウム-ポリエチレン箔に詰めて冷蔵庫又はインキュベーター内で貯蔵した。
タフルプロストの残存濃度をHPLCで測定した。結果を図1〜3に示す。結果は、ポリソルベートの濃度がポリエチレンへのタフルプロストの吸収に影響することを示す。ポリソルベート(0.05〜0.1%)は、特に高温(40℃)でさえ、タフルプロストの吸収を抑制する。0.075〜0.1%の量のポリソルベートが、タフルプロストの吸収の良い抑制効果を示す。
【実施例2】
【0016】
1)0.01%のBAK及び0.05%のポリソルベート80を含む保存0.0015%タフルプロスト点眼液、又は
2)0.20%のポリソルベート80を含む非保存0.0015%タフルプロスト点眼液、又は
3)0.05%のポリソルベート80を含む非保存0.0015%タフルプロスト点眼液
の単回点眼後のウサギ房水内のタフルプロストの酸形の濃度を調べた。
非保存液中のポリソルベート80以外の成分の濃度は以下の通りだった:2.25%のグリセロール、0.2%のリン酸二水素ナトリウム二水和物、0.05%のエデト酸二ナトリウム並びにpHを5.0〜6.7に調整するための水酸化ナトリウム及び/又は塩酸。
上記点眼液をウサギに投与した。各時点(時点毎の治療毎に4匹の動物)でウサギを犠牲にし、房水サンプルを取った。タフルプロスト酸形の濃度を有効なLC-MS/MS法を利用して測定した。
結果(時点毎の各試験溶液についてN=8)を図4に示す。結果から、非イオン性界面活性剤の量が、眼に関する生物学的利用能に影響を及ぼすことが分かる。非イオン性界面活性剤の量が一定の限界を超えると、房水への活性薬の浸透が減少し始める。従って、非イオン性界面活性剤の量は、一方で容器壁へのPGF2α類縁体の吸収を最小限にし、かつ他方で眼に関する生物学的利用能を最大にするようにバランスを取らなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分としてPGF2α類縁体を含んでなる高眼圧症及び緑内障を治療するための点眼水溶液であって、前記点眼水溶液は、本質的にポリエチレンから成る容器内に非イオン性界面活性剤と、安定化剤とを含み、かつ実質的に保存剤を含まない、前記点眼水溶液。
【請求項2】
前記PGF2α類縁体が、ラタノプロスト、イソプロピルウノプロストン、トラボプロスト、ビマトプロスト及びタフルプロスト又はそれらの2種以上の混合物から成る群より選択される、請求項1に記載の点眼水溶液。
【請求項3】
前記PGF2α類縁体がタフルプロストである、請求項1に記載の点眼水溶液。
【請求項4】
少量のポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリビニルクロリド、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリメチルメタクリラート又はナイロン6を含む容器内の請求項1〜3のいずれか1項に記載の点眼水溶液。
【請求項5】
前記非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、例えばポリソルベート80[ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノオレアート]、ポリソルベート60[ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノステアラート]、ポリソルベート40[ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノパルミタート]、ポリ(オキシエチレン)ソルビタンモノラウラート、ポリ(オキシエチレン)ソルビタントリオレアート及びポリソルベート65[ポリ(オキシエチレン)ソルビタントリステアラート]、ポリオキシエチレン水素化ヒマシ油、例えばポリオキシエチレン水素化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン水素化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン水素化ヒマシ油50及びポリオキシエチレン水素化ヒマシ油60、ポリオキシエチレン ポリオキシプロピレングリコール、例えばポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール[Pluronic F68]、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール[Pluronic P123]、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール[Pluronic P85]、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール[Pluronic F127]及びポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール[Pluronic L-44]、ポリオキシル40ステアラート及びスクロース脂肪酸エステルから成る群より選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の点眼水溶液。
【請求項6】
前記非イオン性界面活性剤がポリソルベート80又はヒマシ油である、請求項5に記載の点眼水溶液。
【請求項7】
前記非イオン性界面活性剤の量が0.05〜0.5%(w/v)、好ましくは0.05〜0.1%(w/v)、なおさらに好ましくは約0.075%(w/v)である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の点眼水溶液。
【請求項8】
前記安定化剤が、エチレンジアミン四酢酸とその塩、亜硝酸ナトリウム、アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ステアラート、亜硫酸水素ナトリウム、アルファチオグリセリン、エリソルビン酸、システイン塩酸塩、クエン酸、トコフェロールアセタート、ジクロロイソシアヌル酸カリウム、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、大豆レシチン、チオグリコール酸ナトリウム、チオリンゴ酸ナトリウム、天然ビタミンE、トコフェロール、パスチミン酸アスコルビル、ピロ亜硫酸ナトリウム、ブチルヒドロキシアニソール、1,3-ブチレングリコール、ペンタエリトリチルテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)]プロピオナート、没食子酸プロピル、2-メルカプトベンズイミダゾール及びオキシキノリン硫酸塩から成る群より選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の点眼水溶液。
【請求項9】
前記安定化剤がエデト酸二ナトリウムである、請求項8に記載の点眼水溶液。
【請求項10】
前記安定化剤の量が0.005〜0.2%(w/v)、好ましくは0.01〜0.1%、なおさらに好ましくは約0.05%(w/v)である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の点眼水溶液。
【請求項11】
単一用量形態内の請求項1に記載の点眼水溶液。
【請求項12】
チモロール等の少なくとも1種のさらなる医薬的に活性な物質を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の点眼水溶液。
【請求項13】
本質的にポリエチレンから成る容器又は本質的にポリエチレンから成る容器材料と接触している容器内に、
0.0001〜0.01%w/vのPGF2α類縁体と、
0.05〜0.5%w/vの非イオン性界面活性剤と、
0.005〜0.2%w/vの安定化剤と、
必要に応じて、点眼液で常用されている緩衝剤、pH調整剤及び等張化剤とを含み、かつ
実質的に保存剤を含まない、
点眼水溶液。
【請求項14】
本質的にポリエチレンから成る容器又は本質的にポリエチレンから成る容器材料と接触している容器内に、
0.0010〜0.00151%w/vのタフルプロストと、
0.05〜0.1%w/vのポリソルベート80と、
0.01〜0.1%w/vのエデト酸二ナトリウムと、
必要に応じて、点眼液で常用されている緩衝剤、pH調整剤及び等張化剤とを含み、かつ
実質的に保存剤を含まない、
点眼水溶液。
【請求項15】
本質的にポリエチレンから成る容器又は本質的にポリエチレンから成る容器材料と接触している容器内に、
0.0015%w/vのタフルプロストと、
0.075%w/vのポリソルベート80と、
0.05%w/vのエデト酸二ナトリウムと、
2.25%w/vのグリセロールと、
0.2%w/vのリン酸二水素ナトリウム二水和物と、
pH調整剤とを含み、かつ
実質的に保存剤を含まない、
点眼水溶液。
【請求項16】
少量のポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリビニルクロリド、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリメチルメタクリラート又はナイロン6を含む容器内の請求項13〜15のいずれか1項に記載の点眼水溶液。
【請求項17】
単一用量形態又は単位用量形態内の請求項13〜15のいずれか1項に記載の点眼水溶液。
【請求項18】
流体ディスペンサー形態内の請求項13〜15のいずれか1項に記載の点眼水溶液。
【請求項19】
水性点眼液中のPGF2α類縁体の水溶性を高め、かつ安定性を改善する方法であって、PGF2α類縁体と、非イオン性界面活性剤と、安定化剤とを含み、かつ実質的に保存剤を含まない水性点眼液を調製する工程、及び前記保存剤が入っていない点眼液を本質的にポリエチレンから成る容器又は本質的にポリエチレンから成る容器材料と接触している容器に詰める工程を含む方法。
【請求項20】
非イオン性界面活性剤と、安定化剤とを含み、かつ実質的に保存剤を含まない、高眼圧症及び緑内障の治療用点眼水溶液の製造のためのPGF2α類縁体の使用。
【請求項21】
前記点眼水溶液を、本質的にポリエチレンから成る容器又は本質的にポリエチレンから成る容器材料と接触している容器に詰める、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
高眼圧症及び緑内障を治療する方法であって、その活性成分としてPGF2α類縁体を含んでなる点眼水溶液の前記治療が必要な対象への投与を含み、前記点眼液が、非イオン性界面活性剤と、安定化剤とを含み、かつ実質的に保存剤を含まない、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−521943(P2011−521943A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511256(P2011−511256)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際出願番号】PCT/JP2009/060211
【国際公開番号】WO2009/145356
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】