説明

高純度水酸化リチウムの製造法

【課題】長期保存が利かずに国内備蓄のできない水酸化リチウムを必要時に製造できる方法を提供する。
【解決手段】備蓄しておける炭酸リチウム、リチウム含有鉱石、使用済みリチウムイオン二次電池塩酸を用いて塩酸リチウム水溶液にして、またリチウムを含む潅水から無機吸着剤で吸着・分離した塩化リチウム粉末を水溶液にしてバイポーラ膜電気透析により塩酸と水酸化リチウム水溶液を同時に生成させる。塩酸は、繰り返し塩化リチウムに得るために備蓄したリチウム源と反応させる。一方、水酸化リチウム水溶液は、精製工程を付して不純物を低減ないし除去し、高純度水酸化リチウム・1水和物とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【産業上の利用分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池正極材用原料、セラミックス材料用原料、高純度のリチウム化合物用原料として有用な高純度水酸化リチウムの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水酸化リチウムは、リチウムイオン二次電池用正極活物質及び電解質としてのLiPFを製造するリチウム源として、またSAWフィルター材料としてのニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等の電子機器向け原材料として使用されている。
また緻密な材料設計のために水酸化リチウムに含まれる不純物を更に低減することが要望されている。
従来の水酸化リチウムの製造法は、潅水に含まれる塩化リチウムから炭酸リチウムにして取り出し、水酸化カルシウムを添加して水酸化リチウムにするのが一般的である。不純物を低減するために水の沸騰温度近くで水酸化リチウムを析出させて分離し、水酸化ナトリウムと水酸化リチウムの熱水に対する溶解度差を利用してナトリウム分を低減する工夫がされてきたが限界があり、カルシウム、ナトリウム、塩素イオン、硫酸イオンが水酸化リチウム・1水和物中に数十ppm含まれており、用途によって不純物を低減するために更に精製する必要があった。
しかもリチウム源としての鉱石あるいは潅水が採取される海外のサイトでの製造が一般的である。遠路輸送しなければならず原材料としての国内安定確保の観点からも近年の需要拡大とともにリスクも増大して来ている。
水酸化リチウムは、保管時に空気中の二酸化炭素を吸収し炭酸リチウムに一部変質しやすく、また3から6ヶ月の保存、保管期間を経過すると固化しあるいは塊状になり粉体取り扱い作業に支障を来たすために長期保管が利かずに必要量を使用必要時に製造し、供給する必要があった。貯蔵性に乏しい故、原材料として、海外で生産されている水酸化リチウムを国内に備蓄することが困難であった。
海外からの輸入に頼る現状では、物流上、安定した物量確保の観点から難があった。急増する需要に応じ、国内使用顧客先への納入の自由度を確保できてしかも迅速に効率的に製造できる技術の開発が要請されてきた。
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
長期保存しても変質がほとんどなく、リチウム源として備蓄可能な炭酸リチウム、塩化リチウム、リチウム含有鉱石に注目し、また使用済みのリチウムイオン二次電池を備蓄されたリチウム資源として捉えてこれらを出発原料にして国内に必要とされる予測水酸化リチウム数量に見合うように随時水酸化リチウムを製造することが出来る簡便な製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題について種々検討した結果、塩化リチウムに着目し、塩化リチウムを水に溶解した塩化リチウム水溶液をバイポーラ膜電気透析により水酸化リチウム水溶液を得る一方同時に製造される塩酸を繰り返し使用できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち(1)大量に国内備蓄しうる炭酸リチウムを出発原料にして塩酸と反応させて塩化リチウム水溶液を得てバイポーラ膜電気透析にかける。(2)大量に国内備蓄しうるところの潅水以外のリチウム資源であり備蓄可能なリチウム含有鉱石から塩酸処理により塩化リチウム水溶液を得てバイポーラ膜電気透析にかける。(3)使用済みリチウム二次電池の資源回収にあたりリチウム塩の電解質、正極活物質のリチウム遷移金属複合酸化物から塩酸処理により塩化リチウム水溶液を得てバイポーラ膜電気透析にかける。
(4)潅水から選択的に吸着分離された塩化リチウムの粉末を備蓄しておいて随時、塩化リチウム水溶液にしてバイポーラ膜電気透析にかける。こうして塩酸を得て繰り返して使用する一方当該水酸化リチウム水溶液に精製工程を加えて不純物を除去ないし低減することを特徴とする高純度水酸化リチウムの製造法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
以下、本発明を具体的に説明する。
すなわち、本発明は、塩化リチウムを出発物質とし、長期保存の出来ない、すなわち、備蓄の出来ない水酸化リチウムを得る方法に関する。水酸化リチウムを必要とする際に、随時、塩化リチウムを水に溶解した塩化リチウム水溶液をバイポーラ膜電気透析により目的の水酸化リチウム水溶液を得る一方同時に製造される塩酸を繰り返し使用できることを見出し、省資源的な本発明を完成させるに至った。すなわち(1)大量に国内備蓄しうる炭酸リチウムを塩酸と反応させて塩化リチウム水溶液を得て、陽極と陰極との間にバイポーラ膜、陰イオン交換膜及び腸イオン交換膜を使用して塩室、酸室およびアルカリ室を形成させ、塩室に塩化リチウムの水溶液を供給して酸室から塩酸をアルカリ室から水酸化リチウム水溶液をそれぞれ取り出すことのできるバイポーラ膜電気透析により塩酸を得る一方、当該水酸化リチウム水溶液を精製工程により、不純物を除去ないし低減することを特徴とする高純度水酸化リチウムの製造法である。水酸化リチウム水溶液を得る一方同時に製造される塩酸を炭酸リチウムとの反応に繰り返して使用する方法、(2)潅水以外のリチウム資源であり大量に国内備蓄しうるところのリチウム含有鉱石から塩酸処理により塩化リチウム水溶液を得てバイポーラ膜電気透析により水酸化リチウム水溶液を得る一方同時に製造される塩酸を繰り返して使用する方法、(3)使用済みリチウム二次電池の資源回収にあたりリチウム塩の電解質、正極活物質のリチウム遷移金属複合酸化物から塩酸処理により塩化リチウム水溶液を得てバイポーラ膜電気透析により水酸化リチウム水溶液を得る一方同時に製造される塩酸を繰り返して使用する方法、(4)潅水から選択的に吸着分離された塩化リチウムの粉末を備蓄しておいて随時、塩化リチウム水溶液にしてバイポーラ膜電気透析により水酸化リチウム水溶液を得る一方同時に製造される塩酸を繰り返して使用する方法である。
【0006】
本発明の水酸化リチウムを得るには、耐アルカリ性の材質と耐酸性の材質から構成された腐食による不純物混入のない電気透析装置を用いて陽極と陰極との間にバイポーラ膜、陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜を使用して塩室、酸室およびアルカリ室を形成させ、塩室に塩化リチウムの水溶液を供給して酸室から塩酸をアルカリ室から水酸化リチウム水溶液をそれぞれ取り出し、当該水酸化リチウム水溶液に精製工程を付加して不純物を除去ないし低減する。
【0007】
例えば、精製工程としてカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類、微量の金属イオンを吸着除去するキレート剤としては、イミノジ酢酸型、アミノリン酸型のキレート樹脂を使用することが出来る。カラム内での空間速度(SV)は、通常、2から10hr−1の範囲で精製操作を行う。またナトリウム塩で出荷されることが多いので酸処理、水洗、9−11%高純度水酸化リチウム濃度の水溶液でリチウム塩に転換しておく。特に限定されないが、アンバーライトIRC748(オルガノ社製)、アンバーライトIRC747(オルガノ社製)のリチウム塩が使用される。
【0008】
リチウム以外のナトリウム、カリウム等の一価のアルカリイオンの低減ないし除去と二価のアルカリ土類のカルシウム、マグネシウムの完全吸着除去する陽イオン交換樹脂としてスチレン・ジビニルベンゼンとの架橋ポリマーのスルホン酸基を官能基とする強酸性陽イオン交換樹脂とカルボン酸基を官能基とするアクリル酸やメタクリル酸とジビニルベンゼンの共重合体を母体とする弱酸性陽イオン交換樹脂を用いることができる。不純物量に応じて水素イオンを放出するR−H型とLiカチオンを放出するR−Li型のいずれでも使用できる。
【0009】
塩素イオン、硫酸イオン、炭酸水素イオン等の陰イオンを吸着し、低減ないし除去する陰イオン交換樹脂としてスチレンとジビニルベンゼンとのコポリマーにクロロメチル化して、トリメチルアミンやジメチルアミンやジメチルエタノールアミンを使ってアミノ化したものを使用する。
【0010】
本発明の精製工程ではかかるキレート剤、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂を用いて水酸化リチウムの水への溶解度の上限近くの濃度まで濃縮してから処理することもできる。
また必要であれば水酸化リチウムを析出させた残液を再度、かかる精製処理を行い、濃縮されて存在する不純物を除去してから熱水中での析出・脱水乾燥することで最終的に水酸化リチウムの収率を高めることが出来る。
【0011】
本発明で得られた水酸化リチウム・1水和物は、炭酸ガスと反応させて高純度炭酸リチウムにも出来るし、脱水して水酸化リチウム無水物としてリチウムイオン二次電池用の正極活物質、電解質としてのLiPFを製造するリチウム源として、またSAWフィルター材料としてのニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等の電子機器向け原材料として使用される。また高純度化した炭酸リチウムにしておけば、備蓄が可能であり、長期保存後に本発明の炭酸リチウム水溶液の電解を施すならば、精製工程も不要であり、高純度水酸化リチウムを随時得られる。
【0012】
本発明に使用する塩化リチウムは、市販の塩化リチウムでも、必要あれば、常法により不純物を低減あるいは除去してから使用可能である。
【0013】
本発明に使用する塩化リチウムとして大量リチウム資源備蓄の観点から炭酸リチウムを国内に備蓄しておいて随時塩酸を反応させた塩化リチウム水溶液を使用する。
【0014】
本発明に使用する塩化リチウムとしてリチウム含有鉱石から塩酸を利用して抽出して得られる。本発明に使用するリチウム含有鉱石としては、例えば、リチア輝石(スポジュメンとも呼ばれる。代表的な組成としてLiAlSiがあげられる。)、ユークリプタイト(代表的組成、LiAlSiO)、ペタル石(代表的組成、LiAlSi10)、紅雲母(リチア雲母とも呼ばれる。代表的組成、KMgLiAlSi1240)(OH)F4)、チンワルド雲母(代表的組成、K(Li,Fe,Al)(AlSi10)(F、OH)、マナドナイト(代表的組成、H24LiAl14Si53)、トリフィル石(代表的組成、Li(Fe,Mn)PO4でFe分がMn分より多いもの)、リシオフィライト(代表的組成、Li(Fe,Mn)PO4でMn分がFe分より多いもの)、アンブリゴ石(代表的組成、(Li,Na)Al(PO4)(F,OH))、フレモンタイト(ナトロモンブラサイトともナトロアンブリゴナイトとも呼ばれる。代表的組成、(Na,Li)Al(PO)(OH,F)、シックラー石(代表的組成、(Li,Mn,Fe)(PO))等がある。
【0015】
本発明に使用する塩化リチウムとしては、使用済みのリチウムイオン二次電池からのLiPF6等のリチウム含有電解質、正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物中のリチウム分に塩酸を反応させて得られる塩化リチウムである。
【0016】
本発明に使用する塩化リチウムとしては、リチウムを含む潅水をギブサイト(ギブス石)、ボーサイト、ノルストランダイト、バイアーライト等の層状構造を有するAl(OH)のペレットの入ったカラムに通液し、LiCl/Al(OH)3として選択的に吸着し、得られた塩化リチウムである。前記のリチウム含有鉱石から塩酸を利用して抽出して得られる塩化リチウム水溶液に水酸化アルミニウム層状化合物で選択的に吸着させて得た塩化リチウムでも良い。バイポーラ膜電気透析で得られた塩酸は、かかる層状化合物の再生のためにも使用することが出来る。
【0017】
本発明に使用できる電気透析装置は、強アルカリ、塩酸に耐えうる材質であれば材料として使用できる。例えばポリプロピレン等のプラスチックスの電槽が使用できる。
装置構成は、陽極と陰極との間に陽極と陰極との間にバイポーラ膜、陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜を使用して塩室、酸室およびアルカリ室からなる。塩室に塩化リチウムの水溶液を供給して酸室から塩酸をアルカリ室から水酸化リチウム水溶液をそれぞれ取り出すことのできるようにしたバイポーラ膜電気透析の装置構成である。
【0018】
本発明に使用する陽イオン交換膜は、一価の陽イオン(リチウム等)を通過しうる膜であり、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、硫酸エステル基、リン酸エステル基を少なくとも1種以上有する高分子からなる膜であればよい。
スルホン酸基を有するフッ素系陽イオン交換膜、ペルフルオロカルボン酸基を導入した陽イオン交換膜、四フッ化エチレンとカルボン酸・スルホン酸を官能基とするペルフルオロビニールの共重合体の陽イオン交換膜、ペルフルオロカルボン酸ポリマーとペルフルオロスルホン酸ポリマーの膜を貼りあわせた陽イオン交換膜、ペルフルオロスルホン酸ポリマーとペルフルオロカルボン酸ポリマーとを積層した陽イオン交換膜等がある。補強繊維を付したり、更に一価のカチオンの選択透過性を向上させて陽イオン交換膜を透過するカルシウムとかマグネシウム等の多価イオンの通過を抑制したり、陰イオン例えばOHイオン、塩素イオン、硫酸イオン等の通過を抑制したり排除の目的で添加剤を塗布したり、表層面を密な構造にしたり、他の膜を張り合わせてもよい。ネオセプターCMV、ネオセプターCMB、ネオセプターCMS、ネオセプターCMT、ネオセプターCIMS、ネオセプターCL−25T、ネオセプターCMD、ネオセプターCM−2、ネオセプターCSO(以上、株式会社トクヤマ社製、商品名)、セレミオンCMV、セレミオンCAV、セレミオンCSV(旭硝子社製、商品名)、FKF,FKC,FKL,FKE(フマテック社製、商品名)、ナフィオン324、ナフィオン117、ナフィオン115(デュポン社製、商品名)等がある。
【0019】
本発明に使用する陰イオン交換膜は、第4級アンモニウム基の強塩基性基に、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基等の弱塩基性官能基を有する高分子からなる膜であればよい。
ネオセプターACM、ネオセプターAM−1、ネオセプターACS、ネオセプターACLE−5P、ネオセプターAHA、ネオセプターAMH、ネオセプターACS(以上、株式会社トクヤマ社製、商品名)、セレミオンAMV、セレミオンAAV(旭硝子社製、商品名)、FAB,FAA(フマテック社製、商品名)等がある。
【0020】
本発明に使用するバイポーラ膜は、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とが張り合わさっている構造を有する複合膜であればよく、特に制限がない。
陽イオン交換膜と陰イオン交換膜との界面を無機化合物で処理し、両膜を接合した膜、イオン交換膜の表面に反対電荷を有するイオン交換樹脂の微粒子と母体ポリマーとの混合物を沈着させた膜等の公知の膜を使用することが出来る。
ネオセプターBP−1(株式会社トクヤマ社製、商品名)、セレミオン(旭硝子社製、商品名)等がある。
【0021】
本発明に使用する陰極は、水素過電が低いものが好ましく、鉄、ニッケル、ステンレスチール、等の金属板、鉄、ステンレスチール等の基材の表面に含硫黄ニッケル、ラネーニッケル系合金、酸化ニッケルが被覆されたもの、金、白金、パラジウム等の1種以上からなるメッキされたものが使用できる。
【0022】
本発明に使用する陽極にはステンレススチール、チタン、金、白金、パラジウム等の金属板、表面に酸化ルテニウム、無機酸化物、カーボン類の少なくとも1種以上被覆したものが使用できる。
【0023】
本発明による電気透析の方法としては、酸室およびアルカリ室にそれぞれの室に供給する塩酸と水酸化リチウム水溶液のタンクを設けて、それぞれの液タンクと室との間でそれぞれの液を循環させるのが好ましい。生成してくる塩酸または水酸化リチウム水溶液を抜き出す方法として、稼動の始めは濃度の薄い塩酸及び水酸化リチウム水溶液を仕込んでおいて塩酸および水酸化リチウムを生成させ、所定の濃度になった時に所定量を抜き出してから蒸留水または精製水を補充して初期の薄い濃度にもどすいわゆるバッチ式でも、予め所定濃度の塩酸、水酸化リチウム水溶液を仕込んでおき、通電時に通電電気量に応じて連続的に蒸留水または精製水を添加することにより所定の濃度の塩酸、水酸化リチウム水溶液をオーバーフローさせる連続式でもよい。
【0024】
同様に塩化リチウム水溶液も塩室と塩タンクとを塩水溶液循環ラインで結び、塩室から排出された塩水溶液を塩タンクを通して再び塩室に循環しながら脱塩していく方法が採用される。セル電圧を測定し、測定された電圧が予め設定された電圧値を越えた時に塩水溶液循環ラインに新たな塩化リチウム水溶液を塩水溶液供給ラインに通して供給する。
【0025】
セル電圧を監視する方法は、従来公知の方法が採用される。セル電圧を検知するには一般的には複数枚隔てた膜と膜との間に2本以上の白金線電極を挿入しておき、通電下に電圧を測定し、前述の電極間のセル積層数で除して算出する方法を採用することができる。陽極室と陰極室に白金線電極を挿入しておきスタック間の電圧を検出し、セル電圧を測定することにより塩化リチウム水溶液の濃度の平均値を得ることが出来るとともにブリスター等の異常発生がいずれかの膜に発生した場合にも検出可能であり好ましい。
【0026】
セル電圧は通常1〜3ボルトである。予め設定されたセル電圧、例えば、4〜6ボルトを越えた時、塩室の塩化リチウム水溶液の濃度が電気透析には適さない程度まで低下していることを意味する。かかる場合には、塩水溶液循環ラインに新たな塩化リチウム水溶液を供給する。
【0027】
本発明に用いられるバイポーラ膜電気透析の電流密度は、通常1〜50A/dmの範囲であり好ましくは5〜20A/dmの範囲で定電流密度で稼動する。
セル電圧は、電流密度が一定であれば、塩酸、塩化リチウム水溶液、水酸化リチウム水溶液の濃度、各溶液の流速、温度、陽イオン交換膜、陰イオン交換膜、バイポーラ膜の電気抵抗、ブリスター、スケール発生の有無等の要因によって変化する。新たな塩化リチウム水溶液を追加してもセル電圧が低下しない時は、バイポーラ膜中のブリスター発生、またはセル中の膜にスケールが発生したものと考えられるので、即座に電気透析を停止するのがよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば塩化リチウム水溶液をバイポーラ膜電気透析することにより水酸化リチウム水溶液と塩酸を同時に製造でき、かつ塩酸をリチウム含有鉱石からの塩化リチウム抽出、リチウムイオン二次電池からリチウム資源として塩化リチウムとして回収するのに繰り返して使用できる。一方の水酸化リチウム水溶液をイオン交換樹脂で不純物を除去、低減することにより高純度のリチウム原料としてリチウムイオン二次電池用正極活物質の焼成に、電解質のLiPF等を製造するのに、また電子機器向けのSAWフィルター材料としてのニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等の原材料として供給することが出来る。
また、潅水から得た塩化リチウムを塩酸と上記用途に水酸化リチウムを製造することが可能となる。
【実施例】
【0029】
以下実施例、比較例、参考例により本発明を詳しく説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。 分析法は、リチウム以外の各元素は、ICP法で測定する。リチウム量(%)については、滴定法でもとめたアルカリ滴定当量からICP法でもとめたリチウム以外のアルカリ、アルカリ土類分を補正し、水酸化リチウム・1水和物として算出し、リチウム理論含有量16.549%を乗じた数値として示す。塩素イオン(Cl)と硫酸根(SO4−−)は、イオンクロマトグラフィー法で測定する。
【実施例1】
【0030】
工業グレードの炭酸リチウム粉末を希塩酸に溶解し、最後に蒸発乾固する。
これを蒸留水に溶解して塩化リチウム水溶液とする。
1対の陰陽極間に第1のバイポーラ膜、陽イオン交換膜、陰イオン交換膜、第2のバイポーラ膜の順である。第1のバイポーラ膜の陰イオン交換体側と陽イオン交換膜の間に構成される第1の流路をアルカリ室とし水酸化リチウム水溶液を存在させ、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜との構成される第2の流路を塩室として塩化リチウム水溶液を存在させて、陰イオン交換膜と第2のバイポーラ膜の陽イオン交換体の間に作られる第3の流路を酸室として塩酸を存在させて、陽極と陰極の間に直流電流を通すバイポーラ膜電気透析装置にかける。
得られた塩酸は、炭酸リチウム粉末を溶解・分解し、塩化リチウムとするのに繰り返して使用される。また得られた水酸化リチウム水溶液は、イオン交換樹脂による不純物を除去する精製工程に付す。水酸化リチウム水溶液をそれぞれ、アンバーライトIRC748のLi変性品カラム、アンバーライトIR120BのLi変性品カラムとアンバーライトIRA410 OHカラムに通液し、精製する。加熱し、沸騰温度付近で水蒸気を除き濃縮し、析出物を分離し、乾燥し、水酸化リチウム・1水和物の粉末として得る。分析結果を表1に示す。
【実施例2】
【0031】
振動ミルで微粉砕されたスポジュメン(リチア輝石)100グラムにカーボン微粉(スパーP)4グラムを乳鉢で混合し、窒素ガス雰囲気中950℃で2時間、焼成する。
この焼成物5グラムに約6Nの塩酸100mlを加えて蒸発乾固し、約12Nの塩酸50mlを再度加えて75℃で30分加熱し、リチウムを塩化リチウムとして抽出する。アンモニア水によるPH調製をしてアルミニウム、鉄分を沈殿させて分離除去する。
IRC748リチウム変性キレート樹脂により微量残存する鉄、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム等を除去する。バイポーラ電気透析に必要な量を確保するためにスポジュメン(リチア輝石)を処理して繰り返して得た塩化リチウム水溶液を得る。この塩化リチウム水溶液をバイポーラ膜電気透析装置により水酸化リチウム水溶液と塩酸とを得る。希薄濃度となった塩化リチウム水溶液は、濃縮して再度透析にかけても、新たに調製された塩化リチウム水溶液に混合しても良い。
塩酸は、別途所望の濃度に高めて繰り返してスポジュメン(リチア輝石)の焼成物からのリチウム分の抽出に使用する。
バイポーラ膜電気透析装置により得た水酸化リチウム水溶液をそれぞれ順にアンバーライトIRC748(オルガノ社製)のリチウム変性キレート樹脂、アンバーライトIR120BのLi変性品カラムとアンバーライトIRA410 OHカラムに通液し、精製する。加熱・濃縮し、析出物を分離し、乾燥する。表1に得られた水酸化リチウムの分析結果を表1に示す。
【実施例3】
【0032】
使用済みのリチウムイオン2次電池(円筒缶型1865)を塩化リチウム水溶液中に浸漬して気泡が発生しなくなるまで放電する。開缶し、アルミニウム箔に塗工された正極活物質粉末をはく離して希塩酸でリチウム分を塩化リチウム水溶液として抽出する。また電解液を希塩酸で流出させて、脱フッ素化処理を行う。これらの塩化リチウム水溶液を一旦、蒸発乾固し、過剰の塩酸を回収する。
乾固物にブチルアルコールを加えて塩化リチウムを抽出し、ブチルアルコールを蒸留除去する一方、得られた塩化リチウムを蒸留水に溶解した後、バイポーラ膜電気透析装置にかけて水酸化リチウム水溶液と塩酸を同時に得る。ここで得られた塩酸は、使用済みのリチウムイオン2次電池に存在するリチウム分を塩化リチウムにして回収するのに繰り返して使用される。
ここで得られた水酸化リチウム水溶液をそれぞれ、アンバーライトIRC748のLi変性品カラム、アンバーライトIR120BのLi変性品カラムとアンバーライトIRA410 OHカラムに通液し、精製する。加熱し、沸騰温度付近で水蒸気を除き濃縮し、析出物を分離し、乾燥する。表1に得られた水酸化リチウム・1水和物の分析結果を表1に示す。
【実施例4】
【0033】
リチウム塩を含む潅水から選択的に吸着・分離された塩化リチウムの粉末を蒸留水で塩化リチウム水溶液にしてバイポーラ膜電気透析にかけて水酸化リチウム水溶液を得る一方同時に塩酸を得る。
ここで得られた水酸化リチウム水溶液をそれぞれ、アンバーライトIRC748のLi変性品カラム、アンバーライトIR120BのLi変性品カラムとアンバーライトIRA410 OHカラムに通液し、精製する。加熱し、沸騰温度付近で水蒸気を除き濃縮し、析出物を分離し、乾燥する。表1に得られた水酸化リチウム・1水和物の分析結果を表1に示す。
【比較例1】
【0034】
実施例1で得られた陰極槽(室)の液500ml液を加熱し、濃縮をして、溶液から65℃まで冷却して析出するものを分離し、常温で減圧乾燥したものの分析結果を表1に示す。
【参考例1】
【0035】
市販の高純度水酸化リチウム・1水和物の分析結果を表1に示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間にバイポーラ膜、陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜を使用して塩室、酸室およびアルカリ室を形成させ、塩室に塩化リチウムの水溶液を供給して酸室から塩酸をアルカリ室から水酸化リチウム水溶液をそれぞれ取り出すことのできるバイポーラ膜電気透析により塩酸を得る一方当該水酸化リチウム水溶液に精製工程を加えて不純物を除去ないし低減することを特徴とする高純度水酸化リチウムの製造法。
【請求項2】
炭酸リチウムと塩酸とを反応させて得た塩化リチウムであることを特徴とする請求項1の高純度水酸化リチウムの製造法。
【請求項3】
リチウム含有鉱石から塩酸による抽出により得た塩化リチウムであることを特徴とする請求項1の高純度水酸化リチウムの製造法。
【請求項4】
使用済みリチウムイオン二次電池からのLiPF6等のリチウム含有電解質及び正極活物質に含まれるリチウム分を塩酸により回収して得た塩化リチウムであることを特徴とする請求項1の高純度水酸化リチウムの製造法。
【請求項5】
潅水から選択的に吸着・分離された塩化リチウムであることを特徴とする請求項1の高純度水酸化リチウムの製造法。

【公開番号】特開2009−269810(P2009−269810A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145094(P2008−145094)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(599019719)有限会社ケー・イー・イー (8)
【Fターム(参考)】