説明

高耐候性塗料用組成物

【課題】自然素材である柿渋及びベンガラを用いて耐候性に優れた塗膜を形成することのできる高耐候性塗料用組成物、自然素材を主成分とし、耐候性に優れた塗装面を有する塗装セルロース材料を提供することにある。
【解決手段】本発明の高耐候性塗料用組成物は、柿渋と、使用時に該柿渋に混合される有機金属化合物(但し、金属はチタン、ジルコニウム又はハフニウムである)と、柿渋若しくは前記有機金属化合物に混合されているか又は使用時に柿渋及び前記有機金属化合物と混合されるベンガラとからなる。本発明の塗装セルロース材は、前記高耐候性塗料用組成物が、木材、紙、綿等のセルロース材料に塗工され、乾燥されて得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐候性塗料用組成物、塗装セルロース材料及び柿渋に高耐候性塗膜形成能を付与する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物の木製外壁、土台、ポーチ柱、ウッドデッキ、パーゴラや、公園遊具、木橋、木製モニュメント、遊歩道、木製看板等の木製外構物の多くは、木部の保護や美観の維持を目的に塗装されることが多い。今日、使用されている塗料の殆どは、優れた性能や取り扱いの簡便さのために、石油系の合成樹脂を主成分とした合成塗料である。このような合成樹脂の代表的なものとしては、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、フツ素樹脂、ポリエステル樹脂等があるが、これらは資源の枯渇問題や地球温暖化ガスの放出問題等の環境問題を抱えている。
【0003】
また、合成樹脂塗料の溶媒には、主として有機溶媒が用いられており、これらは揮発性有機化合物であるため、シックハウス症候群や大気汚染の一因である可能性が指摘されている。
【0004】
これまでに塗料業界の努力により、これら合成樹脂塗料に含まれる有機溶剤の量を減らし、水性化された水性塗料、もしくは水性エマルジョン樹脂塗料と呼ばれるものが開発、上市されているが、これらにも少なからず有機溶剤は含まれている。また、水性化に伴い生じる種々の問題を解決するために、梼々な化学物質が添加剤として加えられることが多い。
【0005】
近年、環境保護意識や身近な物質に対する安全意識の高まりから、自然素材を積極的に活用しようとする機運が高まっている。自然素材を活用した例としては、トウモロコシ澱粉を主原料にしたポリ乳酸塗料の開発等が挙げられる。
【0006】
日本の伝統的な屋外用自然塗料の一つにベンガラ塗料がある。ベンガラは、酸化鉄系顔料の総称であり、赤色のα−Fe23(ヘマタイト)、褐色のγ-Fe23(マグマヘイト)、黒色のFe34(マグネタイト)、黄色のα−FeOOHなどが挙げられるが、いずれも安全な無機顔料として知られている。
【0007】
ベンガラは酸化鉄粉末であり、これを木材等の被塗装物に固着させるには何らかの結合媒体が必要である。ベンガラを被塗装物に固着させる方法としては、柿渋にベンガラを混合し、被塗装物に塗布する方法が知られている。
【0008】
しかしながら、柿渋をベンガラと混合して被塗装物に塗布したもののの耐候性はそれほど高くはない。今日、市場が塗料に要求する性能は非常に高く、従来のように柿渋とベンガラの混合物をそのまま塗布したものでは、市場で要求される性能を満足することは難しい。
【0009】
特許文献1には、バインダと顔料と分散剤とを少なくとも含む着色コーティング剤が開示され、その顔料として、赤色ベンガラ顔料と黄色系有機顔料とを特定の割合で含む混合顔料を用いることが記載されている。
【特許文献1】特開2001−226631
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
環境問題や健康・安全面に配慮した塗料のあり方として、合成樹脂を主成分とする合成塗料より、自然素材を主成分とする自然塗料が望ましい。また、有機溶剤を含む塗料よりも、有機溶剤を含まない水性塗料が望ましい。即ち、主たる成分が自然素材で構成され、溶剤が水である水性自然塗料であればさらに望ましい。
【0011】
しかしながら、このような条件を満たしながら、高い耐候性を持った塗料は現在のところは見あたらず、このような条件を満足する水性自然塗料の開発が望まれる。
【0012】
従って、本発明の目的は、自然素材である柿渋及びベンガラを用いて耐候性に優れた塗膜を形成することのできる高耐候性塗料用組成物を提供することにある。
【0013】
また、本発明の目的は、自然素材を主成分とし、耐候性に優れた塗装面を有する塗装セルロース材料を提供することにある。
【0014】
更に、本発明の目的は、柿渋に、耐候性に優れた塗膜を形成できる能力(高耐候性塗膜形成能)を付与することのできる、柿渋に高耐候性塗膜形成能を付与する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討したところ、金属がチタン、ジルコニウム又はハフニウムである有機金属化合物の水溶液を、柿渋とベンガラの混合液(以下、ベンガラ塗料ともいう)に配合することにより、耐候性に優れた塗膜を形成し得ることを見い出した。
【0016】
本発明は、このような知見に基づき、さらに検討を重ねて完成されたものである。
【0017】
本発明は、柿渋と、使用時に該柿渋に混合される有機金属化合物(但し、金属はチタン、ジルコニウム又はハフニウムである)と、柿渋若しくは前記有機金属化合物に混合されているか又は使用時に柿渋及び前記有機金属化合物と混合されるベンガラとからなる高耐候性塗料用組成物を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、前記高耐候性塗料用組成物が、木材、紙、綿等のセルロース材料に塗工され、乾燥されて得られる、塗装セルロース材を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、柿渋に、有機金属化合物(但し、金属はチタン、ジルコニウム又はハフニウムである)及びベンガラを混合することを特徴とする、柿渋に高耐候性塗膜形成能を付与する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の高耐候性塗料用組成物は、混合状態として塗料として用いることで、自然素材である柿渋及びベンガラを用いていながら耐候性に優れた塗膜を形成することができる。
【0021】
本発明の塗装セルロース材料は、自然素材を主成分とし、耐候性に優れた塗装面を有するものである。
【0022】
本発明の柿渋に高耐候性塗膜形成能を付与する方法によれば、自然素材である柿渋に、耐候性に優れた塗膜を形成できる能力(高耐候性塗膜形成能)を付与することができる。
【0023】
尚、本発明においては、有機溶剤や石油系の合成樹脂を用いる必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0025】
本発明の高耐候性塗料用組成物は、柿渋と、使用時に該柿渋に混合される有機金属化合物(但し、金属はチタン、ジルコニウム又はハフニウムである)と、柿渋若しくは前記有機金属化合物に混合されているか又は使用時に柿渋及び前記有機金属化合物と混合されるベンガラとからなる。
【0026】
本発明の高耐候性塗膜形成能を付与する方法においては、柿渋に、有機金属化合物(但し、金属はチタン、ジルコニウム又はハフニウムである)及びベンガラを混合する。チタン、ジルコニウム及びハフニウムは、周期律表4族の金属である。
【0027】
柿渋に、ベンガラ及び前記有機金属化合物を配合することで、形成される塗膜を耐候性に優れたものとすることができる。
【0028】
前記有機金属化合物は、柿渋や、柿渋とベンガラの混合物等に、非水溶液の状態(粉末状態)で添加しても良いが、水溶液の状態に調製したものを配合することが好ましい。前記有機金属化合物は、塗膜の耐候性を向上させる作用を有する。
【0029】
本発明で用いる有機金属化合物は、金属がチタン、ジルコニウム又はハフニウムである有機金属化合物である。
【0030】
このような有機金属化合物としては、水溶性のものを特に制限なく用いることができる。
【0031】
本発明で用いる有機金属化合物は、金属キレート化合物、金属エステル、金属アシレート又は金属アルコキシドであることが好ましい。具体的には、チタンキレート、チタンエステル、チタンアシレート、チタンアルコキシド、チタンアルコキシハライド、ジルコニウムキレート、ジルコニウムエステル、ジルコニウムアシレート、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシハライド、ハフニウムキレート、ハフニウムエステル、ハフニウムアシレート、ハフニウムアルコキシド、ハフニウムアルコキシハライド等が挙げられる。有機金属化合物は、水中で安定なもの(分解しにくいもの)が好ましい。
【0032】
チタンキレート(錯体)としては、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩(ジヒドロキシビスアンモニウムラクテートチタニウム等)、チタンジイソプロポキシビストリエタノールアミネート、チタンアセチルアセトネート等が挙げられる。チタンアシレートとしては、ポリヒドロキシチタンステアレート等が挙げられる。金属がチタンである有機金属化合物としては、2−エチルヘキシルチタネート、イソオクチルチタネート、ポリブチルチタネート、ポリクレシル(cresyl)チタネート、トリエタノールアミンチタネート等を用いることもできる。
【0033】
ジルコニウムキレート(錯体)としては、ジルコニウムラクテート、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩、ジルコニウムラクテート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムラクテート、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩等が挙げられる。ジルコニウムアシレートとしては、ジルコニウムアセテート、塩化ジルコニウム化合物アミノカルボン酸(松本製薬工業(株)製、オルガチックスZB−126)等が挙げられる。
【0034】
ハフニウムキレート(錯体)としては、ハフニウムラクテート、ハフニウムラクテートアンモニウム塩等が挙げられる。ハフニウムアシレートとしては、ハフニウムアセテート等が挙げられる。
【0035】
これらの有機金属化合物の中でも、チタンラクテート、ジルコニウムラクテート及びハフニウムラクテート等のチタン、ジルコニウム又はハフニウムを中心金属元素とし、ラクテート(乳酸)を配位子とする錯体又はその塩が好ましく、特に安全性や価格面、更には効果との関係で、チタンラクテート又はその塩であることが好ましい。
【0036】
上述した各種の有機金属化合物は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を任意に組み合わせて用いることもできる。
【0037】
本発明で用いるベンガラとしては、各種公知の酸化鉄系顔料を用いることができるが、例えば、赤色のα−Fe23(ヘマタイト)、褐色のγ-Fe23(マグマヘイト)、黒色のFe34(マグネタイト)、黄色のα−FeOOH等を主成分とするものが挙げられる。ベンガラは、一般に、細かい粒子状であるが、柿渋に対して混合する場合、該ベンガラは、固体のまま柿渋に混合しても、水等に懸濁させた状態で柿渋に混合させても良い。
【0038】
上述した各種のベンガラは、1種を単独で用いても良いし、2種以上を任意に組み合わせて用いることもできる。
【0039】
本発明で用いる柿渋は、柿を搾汁することで得られる液状物を発酵させたものであり、そのようなものを、特に制限なく用いることができる。柿の品種、柿渋の発酵年数、発酵に用いられる菌種、柿渋のタンニン含有量、ボーメ度、酸性度、添加物の有無等についても特に制限されない。
【0040】
好ましく用いられる柿渋の一例としては、品種は天王柿で、発酵年数が半年、タンニン含有量が5%で、酸性度が3〜4のものを挙げることができる。柿渋は、例えば、タンニンの含有割合が0.5〜10重量%、特に1〜5重量%となるように調整して用いることが好ましい。
【0041】
本発明の高耐候性塗料用組成物は、その使用時、即ち、塗料として使用する際に、上述した有機金属化合物をベンガラ塗料等に混合して用いる。また、本発明の方法においても、上述した有機金属化合物をベンガラ塗料等に混合する。
【0042】
有機金属化合物は、好ましくは水溶液の状態でベンガラ塗料等と混合される。以下、有機金属化合物の水溶液を耐候性付与剤ともいう。有機金属化合物とベンガラ塗料等とを混合する方法は、各種公知の方法を特に制限なく採用することができる。各種のミキサーを用いることもできるし、ベンガラ塗料等を入れた容器に有機金属化合物の水溶液を加えた後、容器を振っても良い。
【0043】
有機金属化合物は、例えば、柿渋とベンガラとを先に混合しておき、その混合液(ベンガラ塗料)に対して混合することができる。
【0044】
また、柿渋とベンガラとの混合物(ベンガラ塗料)に有機金属化合物を混合するのに代えて、柿渋及びベンガラの何れか一方に有機金属化合物を混合した後に、有機金属化合物を混合した柿渋又はベンガラと、有機金属化合物を混合していないベンガラ又は柿渋とを混合させても良い。更に、柿渋に、上述した有機金属化合物とベンガラとを同時に混合しても良い。これらの場合の混合方法としても、各種公知の方法を特に制限なく採用することができる。
【0045】
本発明の高耐候性塗料用組成物の販売形態(使用前の形態)の一例としては、ベンガラ塗料を収容した第1の容器と有機金属化合物(粉体でも水溶液でも良い)を収容した第2の容器とをセットにして販売したり、ベンガラ塗料を収容した第1の収容部と有機金属化合物(粉体でも水溶液でも良い)を収容した第2の収容部を有する複合容器を販売したりすることが考えられるが、これらに限られるものではない。
【0046】
有機金属化合物(耐候性付与剤)はベンガラ塗料にそのまま添加しても塗膜(樹脂層)の耐候性を向上させることができるが、カルボン酸と共にベンガラ塗料に配合することが、得られた混合物(水性塗料等)がゲル化するまでの時間、即ち塗料として使用できる時間(可使時間)を所望の時間に調整できるので好ましい。有機金属化合物を、ベンガラ塗料にそのまま添加すると、優れた耐候性が得られるものの反応速度の調整が難しい。
【0047】
ベンガラ塗料に対する有機金属化合物及びカルボン酸の配合の順序は特に制限されないが、有機金属化合物(耐候性付与剤)及びベンガラ塗料の何れか一方又は双方にカルボン酸を配合した後、該有機金属化合物(耐候性付与剤)と該柿渋とを混合することが、可使時間の調整が一層容易となるので好ましい。
【0048】
本発明の高耐候性塗料組成物において、カルボン酸は、ベンガラ塗料又は有機金属化合物(耐候性付与剤)に予め混合しておいても良いし、ベンガラ塗料及び有機金属化合物とは独立にカルボン酸も有するものであっても良い。例えば、ベンガラ塗料を収容した第1の容器と有機金属化合物(粉体でも水溶液でも良い)を収容した第2の容器のセットにおける、何れかの容器にカルボン酸を併せて収容しておいても良いし、ベンガラ塗料を収容した第1の容器と有機金属化合物(粉体でも水溶液でも良い)を収容した第2の容器とは別にカルボン酸を収容した第3の容器を用意し、これらをセットにして取り扱っても良い。
【0049】
カルボン酸としては、モノカルボン酸、ポリカルボン酸及びこれらの誘導体よりなる群から選択される少なくとも一種のカルボン酸又はその誘導体が用いられる。
【0050】
モノカルボン酸及びその誘導体としては、ギ酸、酢酸、乳酸、グルコン酸、プロピオン酸、酪酸及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらは1種を単独で使用しても良く、また2種以上を任意に組み合わせて使用しても良い。
【0051】
ポリカルボン酸及びその誘導体としては、シュウ酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらは1種を単独で使用しても良く、また2種以上を任意に組み合わせて使用しても良い。また、モノカルボン酸及びその誘導体からなる群から選択されるカルボン酸と、ポリカルボン酸及びその誘導体からなる群から選択されるカルボン酸の、いずれか一方のみを用いても良いし、両者を組み合わせて用いても良い。
【0052】
柿渋に対するベンガラの混合割合は、柿渋100質量部に対して、ベンガラ0.1〜50質量部が好ましく、より好ましくは1〜30質量部、更に好ましくは5〜20質量部である。
【0053】
また、柿渋中のタンニンを基準にした好ましいベンガラの混合割合は、柿渋中のタンニン100質量部に対して、ベンガラ2〜1000質量部、より好ましくは20〜600質量部、更に好ましくは100〜400質量部である。
【0054】
有機金属化合物の水溶液(耐候性付与剤)中のチタン、ジルコニウム又はハフニウムの割合(水溶液の重量に対する割合)は、特に制限されないが、例えば0.1〜50%とすることができ、好ましくは3〜20%、より好ましくは5〜10%である。
【0055】
また、柿渋中のタンニンを基準にした好ましい有機金属化合物(固形分換算)の混合割合は、柿渋中のタンニン100質量部に対して、有機金属化合物2〜1000質量部、より好ましくは10〜200質量部、更に好ましくは30〜50質量部である。
【0056】
また、有機金属化合物の水溶液(耐候性付与剤)のpHについては、本発明の効果を妨げない限り、特に制限されない。有機金属化合物の水溶液のpHとしては、例えば0.1〜12とすることができ、好ましくは1〜10を挙げることができる。
【0057】
有機金属化合物の水溶液(耐候性付与剤)とカルボン酸との配合割合については、使用する柿渋の種類、濃度や含有物によって異なり、一律に規定することはできないが、一例として、チタンの割合について0.1〜0.2mol/Lであるキレート水溶液1部に対して、クエン酸の総量として0.1mol/Lのクエン酸水溶液をl〜200部、好ましくは2.5〜100部、更に好ましくは5〜50部となる割合を挙げることができる。
【0058】
有機金属化合物の水溶液(耐候性付与剤)又は耐候性付与剤とカルボン酸との混合液の、ベンガラ塗料との配合割合としては、使用する柿渋の種類や濃度、特に柿渋原液への加水の程度に応じて適宜に設定することができるが、一例としては、ベンガラの添加量に関わらず、柿渋(原液)100容量部に対して、耐候性付与剤又は該耐候性付与剤とカルボン酸若しくはその誘導体の水溶液との混合液がl〜300容量部、好ましくはl〜200容量部、より好ましくはl〜100容量部となる割合を挙げることができる。
【0059】
なお、耐候性付与剤又は該耐候性付与剤とカルボン酸との混合液は、本発明の効果を妨げないことを限度として、pH調整剤や緩衝剤、乾燥を促進させるアルコール、塗膜等の性能を高める無機充填剤等の他の成分を含んでいても良い。
【0060】
耐候性付与剤又は該耐候性付与剤とカルボン酸との混合液の調整方法は、カルボン酸とチタンもしくはジルコニウムもしくはハフニウムが所望の割合で含有されるように調整される限り、特に制限されるものではない。例えば、所定量のカルボン酸を水に溶解したものをチタンもしくはジルコニウムもしくはハフニウムキレートの水溶液に添加することによって調製する方法;所定量のカルボン酸をチタンもしくはジルコニウムもしくはハフニウムキレートの水溶液に添加することによって調製する方法等を例示することができる。より具体的には、所定量のクエン酸をチタンもしくはジルコニウムもしくはハフニウムキレートの水溶液に添加する方法、所定量のクエン酸を含有する水溶液を、チタンもしくはジルコニウムもしくはハフニウムキレートの水溶液に添加する方法を挙げることができる。
【0061】
本発明においては、柿渋に、ベンガラを上述した有機金属化合物(特に耐候性付与剤)と共に添加することによって、柿渋やベンガラを用いて形成される塗膜(樹脂層)の耐候性を向上させることができるが、有機金属化合物の添加量によって、耐候性以外に耐溶剤性、耐塩基性、耐酸性や被塗布物への密着性についても効果的に向上させることができる。
【0062】
このようにして、本発明によって改質された(る)ベンガラ塗料は、人体に対して安全性の高い添加物のみで構成されているにもかかわらず、耐候性をはじめとする種々の性能が従来のベンガラ塗料と比較して、飛躍的に向上している。また、塗料として用いる場合、従来の上市されている自然系塗料と異なり、有機溶剤を含んでおらず、挿発性有機化合物発生の原因となりにくい。また、従来の上市されている植物油脂を主成分とする自然系塗料と異なり、数時間以内に食指乾燥することも利点として挙げられる。
【0063】
本発明の塗装セルロース材は、金属がチタン、ジルコニウム又はハフニウムである有機金属化合物と柿渋とベンガラとが混合された高耐候性塗料用組成物を、塗料として、木材、紙、綿等のセルロース材料に塗工し、乾燥させて得られるものである。木材は、無垢材の他、各種の木質材であっても良い。木質材としては、合板、単板積層材(LVL)、パーティクルボード、MDF等が挙げられる。塗工方法は、木材の塗装において公知の各種の塗工方法を特に制限なく用いることができる。紙としては、和紙やクラフト紙等、各種公知の紙を用いることができる。乾燥方法としては、木材の塗装等において公知の各種の乾燥方法を特に制限なく用いることができ、例えば、自然乾燥、熱風乾燥等が挙げられる。
【0064】
本発明の塗装セルロース材は、高耐候性を活かして各種の多様な用途に使用することができ、例えば、木造住宅等の建築構造物における木製外壁、土台、ポーチ柱、ウッドデッキ、パーゴラや、公園遊具、木橋、木製モニュメント、遊歩道、木製看板等の木製外構物等の構成材等として好ましく用いられる。また、本発明の高耐候性塗料用組成物は、高耐候性を活かして屋外用の塗料として好ましく用いられ、例えば、上述した建築構造物や木製外構物等の構成材の製造やそれらの材の補修時等に好ましく用いられる。
【実施例】
【0065】
次に、実施例及び比較例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、かかる実施例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)
市販の柿渋(株式会社トミヤマ製,液状、タンニンの濃度5重量%)100質量部に対して赤色ベンガラ(α−Fe23:ヘマタイト)15質量部を加え、へらを用いて、均一に分散するまで充分に分散・攪拌してベンガラ塗料を作成した。
【0066】
また、チタン含有量として0.1〜0.2mol/Lのチタンラクテート水溶液(松本製薬工業(株)製、オルガチックスTC−315:チタンラクテート35〜45%、水55〜65%、pH1.0)1部に対して、0.1mol/Lのクエン酸水溶液5部を添加した(以下、このチタンラクテート水溶液とクエン酸水溶液との混合液を水溶液1とする)。
【0067】
そして、上述のようにして作成したベンガラ塗料100容量部に対して、15容量部の水溶液1を加え、更に75容量部の水を加えて、塗料を得た。得られた塗料を、刷毛を用いてスギ材に塗布して自然乾燥させた。塗装は、刷毛による塗布及び塗布後の自然乾燥を1回として、2回行った。
(比較例1)
実施例1と同様にしてベンガラ塗料を作成した。そして、そのベンガラ塗料100容量部に対して、100容量部の蒸留水を加えて、塗料を得た。得られた塗料を、実施例1と同様の方法でスギ材に塗装した。
(比較例2)
実施例1で用いたものと同じ市販の柿渋100容量部に対して、15容量部の水溶液1を加え、更に75容量部の水を加えて、塗料を得た。得られた塗料を、実施例1と同様の方法でスギ材に塗装した。
【0068】
(耐候性の評価)
実施例1及び比較例1,2で得られた塗膜について、それぞれ、室内促進耐候性試験を行った。試験装置は、スガ試験機株式会社製のキセノンウエザーメーター(WEL−6XS)を用い、試験条件は、60分中の最初の12分は、ランプにて紫外線照射しながらスプレーで水を吹き付け、残りの48分は紫外線照射のみ行う設定とし、これを1時間毎に繰り返すように設定した。
【0069】
各サンプルについて、それぞれの色彩の変化を色彩色差計(ミノルタ社製CR−200)を用いて経時的に測定し、色差ΔEを計算した。
【0070】
なお、ΔEはL***表色計より、ΔE=〔(ΔL*2+(Δa*2+(Δb*21/2として算出した(ただし、L*:明度、a*、b*:彩度である)。
【0071】
ΔEの変化を図1に示した。
【0072】
図1から明らかなように、実施例1は1200時間経過時点でも色差が13.3と小さく、色差の上昇が緩慢であった。これに対して、チタンラクテート水溶液を配合していない比較例1は、600時間以降に顕著に色差が大きくなっており、1200時間経過時点では色差が24.4に達している。また、比較例2は、200時間経過時点で既に色差が25を超えている。
【0073】
また、チタンラクテート水溶液を配合していない比較例1は、色差以上に塗料の浸透し難い目の詰まった晩材部分の塗膜の退色が顕著であったのに対して、実施例1は、早材部(目の透いた部分)と晩材部(目の詰まった部分)とが均等に退色し、退色後の外観に違和感が少なかった。
【0074】
このように、本発明によれば、柿渋、特定の有機金属化合物及びベンガラを混合することにより、耐候性を顕著に向上させることができることが判る。
【0075】
本発明を用いれば、従来の合成塗料や自然系塗料では達成し得なかった完全水系塗料や、石油系合成樹脂を含まない組成の水性自然塗料を実現することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、促進耐候性試験の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柿渋と、使用時に該柿渋に混合される有機金属化合物(但し、金属はチタン、ジルコニウム又はハフニウムである)と、柿渋若しくは前記有機金属化合物に混合されているか又は使用時に柿渋及び前記有機金属化合物と混合されるベンガラとからなる高耐候性塗料用組成物。
【請求項2】
前記有機金属化合物が、金属キレート化合物、金属エステル、金属アシレート又は金属アルコキシドである、請求項1記載の高耐候性塗料用組成物。
【請求項3】
前記有機金属化合物が、金属キレート化合物であり、該金属キレート化合物の配位子が乳酸である、請求項2記載の高耐候性塗料用組成物。
【請求項4】
前記柿渋若しくは前記有機金属化合物に予めカルボン酸が混合されているか、又は前記柿渋、前記有機金属化合物及び前記ベンガラに加えて更にカルボン酸とからなる、請求項1〜3の何れかに記載の高耐候性塗料用組成物。
【請求項5】
前記請求項1〜5の何れかに記載の高耐候性塗料用組成物が、木材、紙、綿等のセルロース材料に塗工され、乾燥されて得られる、塗装セルロース材。
【請求項6】
柿渋に、有機金属化合物(但し、金属はチタン、ジルコニウム又はハフニウムである)及びベンガラを混合することを特徴とする、柿渋に高耐候性塗膜形成能を付与する方法。
【請求項7】
柿渋に対するベンガラの混合割合が、該柿渋中のタンニン100質量部に対して2〜1000質量部であり、該柿渋に対する前記有機金属化合物(固形分換算)の混合割合が、該柿渋中のタンニン100質量部に対して2〜1000質量部である、請求項1〜6の何れかに記載の高耐候性塗料用組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−7498(P2009−7498A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171298(P2007−171298)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】