説明

高耐圧パワー半導体デバイスの構造と製造方法

【課題】耐圧の高いパワー半導体デバイスの安価に生産可能な構造。
【解決手段】少なくとも第一主電極(エミッタ、陽極など領域)と、これに対応した第二主電極(陰極、コレクタ領域)とによって機能を発揮させているパワー半導体デバイス(MOSトランジスタ、ダイオード)において,n-型半導体層に形成される第一主電極とその近傍からなるセル領域をn-型半導体層内に取り囲む環状に形成されたチャンネルストッパでないn+型分離領域が,ダイシング後の単位素子の周縁となる部位に、少なくともn-型半導体層の厚み寸法の深さ寸法までn-型半導体層上面から形成された、コレクタウォール構造のパワー半導体デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,耐圧を改善したパワー半導体デバイスの構造に関し,安価に製造出来るようにしたデバイスの構造と製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IGBT素子の耐圧向上に関する技術文献として特許文献1がある。
【0003】
特許文献1の(段落0002)に次の記述がある。「このIGBTのセル領域(MOSFET一つに相当する領域)の終端部の高耐圧化手段として、従来は一般的に素子のセル領域外周部にガードリング構造が設けられている。このガードリング構造により電界が階段状になり耐圧が向上する。図3(本願の図2に記した)にガードリング構造を有する従来のIGBT素子の主な断面図を示す。」
(段落0003)に次の記述がある。「図3(本願の図2に記した)で、ドレイン電極1とソース電極9との間に電圧サージが印加され、第三半導体層7と第二半導体層3とからなるpn接合2が逆バイアス状態になり、高抵抗の第二半導体層3に空乏層(図示しない)が広がる状況を考える。ここで、第三及び第四半導体層が複数配置されたセル領域(以下A領域と呼ぶ)つまり隣合う第三半導体層とその間に位置する第二半導体層領域では、隣合う第三半導体層7からその間に位置する第二半導体層領域に向けて接近するように空乏層が伸び、互いに重なる事により電界の緩和が達成される。そして第三半導体層の底部のpn接合部で最大の電界値EA をとる。一方、第三半導体層の繰り返し配置が終わるA領域の終端では上記電界緩和効果がなくなり、終端の第三半導体層のコ−ナ−部ないし第三半導体近傍の第二半導体層表面で最大電界値EB をとり、一般にEA <EB となる。それでEB 値を減少させEA 値に近付けて、A領域の終端から第二半導体層の終端に至る領域(以下B領域と呼ぶ)の耐圧を向上するために、B領域に一つ以上の第五半導体層を設けてB領域の最大電界値EB を小さくするため、ガ−ドリング構造が一般的に使われる。また第五半導体層に加え、第五半導体層の一部と接触部を有し、第二半導体層上に絶縁膜を介して延在する金属膜、いわゆるフィ−ルドプレ−トを設ける場合もある」と、記述されている。(注、図2の18がフィ−ルドプレ−ト、6が第五半導体層のp層でフィールドリミティングリングFLRである)但し,ここでB領域とは,セル領域(主機能の作用部位、A領域)の終端から第二半導体層3の終端(ダイシングしたチップの周縁)に至る領域のことでありガードリング領域を言う。
【0004】
【特許文献1】「特開平07−115189」公報。「絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のような従来の構造ではFLRの周囲に電圧を荷担する為の寸法を確保する必要があったので耐電圧向上のガードリングの為に面積が大きく費やされており、半導体装置の主機能の作用には寄与しないチップ面積が広くて、一枚のウエハからダイシングしたチップの取れる数が少なくなるためチップ1個当たりのコストが高く、目標コストが達成できる安価なパワー半導体デバイスを製作することが出来なかった。
【0006】
耐圧の高いパワー半導体デバイスが,安価に生産できるような方法で完成させる事が出来て,量産に適した半導体デバイス構造と製造方法にすることがこの発明の目的である。
【0007】
チップ寸法のうち耐電圧向上の為に費やされる面積(B領域)を小さくしても、耐電圧の向上が可能であるパワー半導体デバイスの構造を見つけだす事が課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に関しては、上記課題を解決するために下面にコレクタ電極を有するn+型半導体基板(第一層)と,該基板上にエピタキシャル成長させたn-型の第二層と,第二層に接続された主電極(エミッタ電極)および制御電極の直下部に形成されるセル領域を有し,該制御電極に入力される電圧に応じてコレクタ電極に流れる電流が制御されるパワー半導体デバイス又は、上記課題を解決するために下面にコレクタ電極を有する第1導電型(p型)半導体基板(第1層)と,該基板上にエピタキシャル成長させた第2導電型(n+)の第2層と,第2層上に形成されたn-層の第3層に接続された主電極(エミッタ電極)と制御電極の直下部とで形成されるセル領域を有し,該制御電極に入力される電圧に応じてコレクタ電極に流れる電流が制御されるパワー半導体デバイス、において,前記エミッタ電極を有するn-層上面から下面方向に伸びて,セル領域を囲む形状に、少なくともn-層の厚さ寸法(例えば55μm)の深さ迄、n+型分離領域を設けたことを特徴とするコレクタウォール構造のパワー半導体デバイスの構造とした。
【0009】
請求項2に関しては、n+型の半導体基板(第一層)と,該基板上にエピタキシャル成長させたn-型の第二層と,該n-型の第二層に接続された第1主電極と該基板に設けた第2主電極を備え,第1主電極直下部の第二層に形成されるセル領域を有し,該電極間に印加された交流を整流するパワー半導体デバイスにおいて,または第1導電型(p型)の半導体基板(第一層)と,該基板上にエピタキシャル成長させた第2導電型(n+)の第二層と,第二層上に形成されたn-層の第三層に接続された第1主電極と該基板に設けた第2主電極を備え,第1主電極直下部の第三層に形成されるセル領域を有し,該電極間に印加された交流を整流するパワー半導体デバイスにおいて,前記第1主電極を有するn-層上面から下面方向に伸びて,セル領域を囲む形状に、少なくともn-層厚み寸法にn+型分離領域が設けられたことを特徴とする縦型構造のパワー半導体デバイスの構造とした。
【0010】
請求項3に関しては、p型半導体層にn+型の半導体を形成したものを半導体基板とした第1層である請求項1または2のパワー半導体デバイスの構造とした。
請求項4に関しては、n+型分離領域は、これの設けられる位置が、半導体ウエハをダイシングの後、切離された各素子に於ける周縁部となる部位に形成されるn+型分離領域である、パワー半導体デバイスの構造とした。
請求項5に関しては、ガードリング領域の面積が、セル領域の面積よりも小さい寸法に形成される、請求項4記載のパワー半導体デバイスの構造とした。
【0011】
請求項6に関しては、
n+型の半導体基板(第一層)の上面にn−型の第二層を形成する工程Aと,ダイシングしたときの素子の外周となる位置に、n+型分離を第二層上面から少なくとも第二層の深さに形成する工程A2と、
第二層に所定の形状にp層(第三層)を不純物拡散によって形成する工程Eと、
第三層に接続して第1主電極を形成する工程Gと、
半導体基板(第一層)の下面に第2主電極を形成する工程Iとを行い、
ダイシングして個々の単位半導体素子を形成する工程Jに於いて、
第1種電極の直下の領域であるセル領域を囲む形状に、少なくとも第二層(n−層)の厚み寸法にn+型分離領域が位置するようにダイシングされることを特徴としたパワー半導体デバイスの製造方法とした。
【0012】
請求項7に関しては、
p型又はn+型の半導体基板(第一層)の上面にn−型の第二層を形成する工程Aと,ダイシングしたときの素子の外周となる位置に、n+型分離を第二層上面から少なくとも第二層の深さに形成する工程A2と、
エミッタ側平面上に所定の形状にゲート酸化膜を形成する工程Bと、
第一絶縁層の上に所定の形状に制御電極を形成する工程Cと、
制御電極を覆う第二絶縁層を堆積させて形成する工程Dと、
第二層に所定の形状にp層(第三層)を不純物拡散によって形成する工程Eと、
第三層にn層(第四層)を不純物拡散によって形成する工程Fと、
第三層、第四層を短絡させつつ両層に接続してエミッタ電極を形成する工程Gと、
第二絶縁層に孔を設けて制御電極を導出するよう形成する工程Hと、
半導体基板(第一層)の下面にコレクタ電極を形成する工程Iとを行い、
ダイシングして個々の単位半導体素子を形成する工程Jに於いて、
エミッタ電極の直下のアクティブ領域であるセル領域を囲む形状に、少なくとも第二層
(n−層)の厚み寸法にn+型分離領域が位置するようにダイシングされることを特徴としたパワー半導体デバイスの製造方法とした。
【発明の効果】
【0013】
本発明による構造によれば,チップ寸法が0.95mm角であったものが、0.82mm角へ縮小できたので、一枚のウエハからダイシングして取れるチップ数が134%へ増加し安定的に量産できた。従って34%のチップが同じウエハ製作増加する分だけコスト低減できて安価に提供できる。従来の生産工数のうち、一つ以上のフィールドリミティングリング(FLR)とフィ−ルドプレ−ト(金属膜)を形成していた工数が削除できるので、生産性が大幅に向上した分、人件費縮減で製作費が安価になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明による実施の形態を図1にチップの厚み方向の断面で示した構造図で示して説明する。4は半導体基板(n+層)であり,これの下面にコレクタ電極1を設ける。該半導体基板4の上面に第二半導体層(n−層)をエピタキシャル成長などで形成し、ここにエミッタ層を形成してエミッタ電極9を設けるとともにゲート絶縁膜11を介して制御電極(ゲート電極)10を形成し、エミッタ電極9と制御電極10との直下のアクティブゾーンであるセル領域30によって機能を発揮するIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)素子が形成される。同一部位を同一符号で示した、図3の従来例では、セル領域30を取り囲むように環状に形成されるp型半導体のFLR(フィールドリミティングリング)6で逆耐圧を荷担していたが、この構造を廃止し、図1のように耐電圧を荷担させるためのn+型分離領域14を不純物拡散法などによって形成した。半導体基板6はn+型半導体に限るものではなくp型半導体であっても良い。
【0015】
コレクタ電極1とエミッタ電極9との二つの主電極と制御電極10は、メタル電極材で電極を形成し導出される。エミッタ電極9の周囲は絶縁物である酸化膜13を形成して耐電圧の荷担に寄与させる。半導体基板4の下方の平面にメタル電極のコレクタ電極1を形成する。以上でパワーデバイスが完成し,図1のn+型分離領域14の部位でダイシングしてパワー半導体デバイスの素子が完成する。その結果パワー半導体デバイスの周縁の部位にn+型分離領域14が形成されることになる。
【0016】
図2と図3に従来のチップの断面図に一例を示すように、従来のB領域(ガードリング領域)の寸法は図3では175μmであったが、図1の本発明の実施例では、図2、図3に示すように従来のp型半導体のFLR(フィールドリミティングリング又はガードリング)6を必要としないので110μmである。エミッタ電極の寸法600μmでは、図3の従来のチップの寸法が、950μm角のサイズであったのに対し、図1では820μm角のサイズで安定に量産可能な完成品となった。従って一枚のウエハから切り出す事が出来たチップの数が134%に増加したので、製造法が従来と同じ製造工程であったとしても個数34%増加分だけコストが安くなった。図4に本発明による実施形態のパワー半導体の製造工程フロー図を示し、図5に本願筆者ら製作品の、従来のパワー半導体の製造工程フロー図を示した。
【産業上の利用可能性】
【0017】
この発明は、半導体デバイスの耐圧向上のため大きくなっていたチップ面積を縮小することに成功したので、同一のウエハからチップの取れ数が増加し,チップ1個当たりの製品コストが削減できるので、半導体デバイスを生産する際の省エネルギーと省資源に貢献し,産業上の貢献度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による一実施形態のパワー半導体の構造図
【図2】特許文献1にある、従来のパワー半導体の構造図
【図3】本願筆者ら製作品の、従来のパワー半導体の構造図
【図4】本発明による実施形態のパワー半導体の製造工程フロー図
【図5】本願筆者ら製作品の、従来のパワー半導体の製造工程フロー図
【符号の説明】
【0019】
1 ドレイン(コレクタ)電極
2 p+層(第三層)とn-層(第二層)からなるpn接合
3 n-層(第二層)
4 n+層(第一層)半導体基板
5 n+型分離領域
6 p層フィ−ルドリミティングリング(FLR)又はガードリング
7 p+層(第三層)
8 n+層(第四層)
9 エミッタ電極(ソース電極)
10 ゲート電極
11 ゲート絶縁膜
12 層間絶縁膜
13 酸化膜
14 n+型分離領域
18 金属膜(フィ−ルドプレ−ト)
30 セル領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n+型の半導体基板(第一層)と,該第一層上面に形成されたn−型の第二層と,第二層上面に接続された第一主電極(エミッタ電極)と、第二層上面に絶縁層を介して接続された制御電極を備え、第一主電極(エミッタ電極)直下部と制御電極直下部とで形成されるセル領域を有し,該半導体基板の下面に第二主電極(コレクタ電極)が設けられたコレクタウォール構造のパワー半導体デバイスにおいて,前記第二層上面から下面方向に伸びて,セル領域を囲む形状に、少なくとも第二層(n−層)の厚み寸法にn+型分離領域が設けられたことを特徴とするパワー半導体デバイスの構造。
【請求項2】
n+型の半導体基板(第一層)と,該第一層上面に形成されたn−型の第二層と,第二層上に形成され接続された第一主電極と、該半導体基板の下面に設けられた第二主電極を備え,第一主電極の直下部で形成されるセル領域を有するパワー半導体デバイスにおいて,前記第二層上面から下面方向に伸びて,セル領域を囲む形状に、少なくとも第二層の厚み寸法で、n+型分離領域が設けられたことを特徴とする縦型構造のパワー半導体デバイスの構造。
【請求項3】
前記第一半導体層がp型半導体上面にn+型の半導体をエピタキシャル成長して形成したものを半導体基板としたn+型の第一層である請求項1又は2のパワー半導体デバイスの構造。
【請求項4】
前記、n+型分離領域が形成される部位が、半導体ウエハがダイシングされた後に、単位素子の周縁となる部位であり、半導体チップ単体の面積からセル領域の面積を除いた面積のガードリング領域の面積を形成するn+型分離領域である請求項1乃至3のパワー半導体デバイスの構造。
【請求項5】
前記、ガードリング領域の面積が、単位素子のセル領域の面積寸法と同等またはこの寸法を超えない範囲の寸法に形成されることを特徴とする請求項4記載のパワー半導体の構造。
【請求項6】
n+型の半導体基板(第一層)の上面にn−型の第二層を形成する工程Aと,ダイシングしたときの素子の外周となる位置に、n+型分離を第二層上面から少なくとも第二層の深さに形成する工程A2と、
第二層に所定の形状にp層(第三層)を不純物拡散によって形成する工程Eと、
第三層に接続して第一主電極を形成する工程Gと、
半導体基板(第一層)の下面に第二主電極を形成する工程Iとを行い、
ダイシングして個々の単位半導体素子を形成する工程Jに於いて、
第一主電極の直下の領域であるセル領域を囲む形状で、素子の外周となる位置にn+型分離領域が位置するようにダイシングされることを特徴としたパワー半導体デバイスの製造方法。
【請求項7】
p型又はn+型の半導体基板(第一層)の上面にn−型の第二層を形成する工程Aと,ダイシングしたときの素子の外周となる位置に、n+型分離を第二層上面から少なくとも第二層の深さに形成する工程A2と、
エミッタ側平面上に所定の形状にゲート酸化膜を形成する工程Bと、
第一絶縁層の上に所定の形状に制御電極を形成する工程Cと、
制御電極を覆う第二絶縁層を堆積させて形成する工程Dと、
第二層に所定の形状にp層(第三層)を不純物拡散によって形成する工程Eと、
第三層にn層(第四層)を不純物拡散によって形成する工程Fと、
第三層、第四層を短絡させつつ両層に接続してエミッタ電極を形成する工程Gと、
第二絶縁層に孔を設けて制御電極を導出するよう形成する工程Hと、
半導体基板(第一層)の下面にコレクタ電極を形成する工程Iとを行い、
ダイシングして個々の単位半導体素子を形成する工程Jに於いて、
エミッタ電極の直下のアクティブ領域であるセル領域を囲む形状で素子の外周となる位置にn+型分離領域が位置するようにダイシングされることを特徴としたパワー半導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−103763(P2007−103763A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293386(P2005−293386)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000144393)株式会社三社電機製作所 (95)