説明

高耐電圧平面トランス

【課題】 高耐電圧領域での長期の絶縁性能に優れた薄型の高耐電圧平面トランスを得る。
【解決手段】 高耐電圧平面トランス1において、第1多層基板7の内部にパターン形成された1次コイル2と、第1多層基板7の両主面の少なくとも一方の面に1次コイル2を覆うようにパターン形成されて1次コイル2と共に1次巻線4を形成するシールド導体3と、第1多層基板7のシールド導体3が形成された面と対向する第2多層基板9の内部にパターン形成されて1次巻線4と絶縁層5dを介して対向する2次コイル5と、第1多層基板7および第2多層基板9を貫通して1次巻線4と2次コイル5を磁気結合させる磁気回路を形成するコア6と、第1多層基板7と第2多層基板9とが対向する面を所定の距離隔てる空間12とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高耐電圧パワー半導体素子のゲートドライブ用絶縁トランス等に用いる高耐電圧平面トランスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高耐電圧パワー半導体素子のゲートドライブ用絶縁トランスにおいては、プリント基板は、電気絶縁層、2次側パターンコイルが配置される第1導体層、電気絶縁層、1次側パターンコイルが配置される第2導体層、電気絶縁層という順に積層された多層基板で構成されている。これらパターンコイルは、プリント基板に設けられたパターンコイルに近接する貫通穴の両側面から分割コアを装着して一体化したコアにより、電磁結合されている。このような構成により薄型化と耐電圧性能との両立を行っている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来の小型携帯機器などの電源モジュールに用いられるシート型トランスにおいては、コイル部と、このコイル部に挿入されたフェライトコアとを備え、コイル部は、1次側回路が形成されたシート型コイル積層体と、このシート型コイル積層体と分離された2次側回路が形成された多層プリント配線板とを有し、1次側回路と2次側回路との間に絶縁シートなどの固体絶縁物を挟み込むことで、これらの間の絶縁を確保している(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−235417号公報(図5および6)
【特許文献2】特開2000−091138号公報(図2、6および11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の高耐電圧パワー半導体素子のゲートドライブ用の絶縁トランスでは、多層基板の電気絶縁層により耐電圧性能を確保しているので、耐電圧性能に限界が有り、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)ゲートドライバー回路基板に用いる場合は、適用範囲が1kV以下の比較的低電圧に限定されていた。そのため、上記従来の絶縁トランスでは、電車の駆動制御装置等に用いられる1.7kV〜6.5kVの高耐電圧IGBTのゲートドライブ用絶縁トランスを実現できなかった。
【0006】
さらに詳細に説明すると、電車等の駆動制御装置の高耐電圧IGBTのゲートドライブ用絶縁トランスは、IGBTモジュール動作時に、それぞれのIGBT素子の耐電圧相当の電圧が常時印加される。このように、常時高い電圧が印加されるので、絶縁トランスの高電圧側コイルと低電圧側コイルとの間に絶縁欠陥および電界集中部などの不適切な構造があると部分放電が発生し、数10年の期待寿命を維持できなくなることがある。そのため、高耐電圧IGBTのゲートドライブ用絶縁トランスには、十分な設計裕度をもった部分放電開始電圧が要求される。
【0007】
例えば、1.7kV耐電圧のIGBT用の絶縁トランスには、最大の実効電圧値1.7kV/√2に設計裕度1.5倍を考慮した部分放電開始電圧、つまり交流電圧実効値で1.8kV以上が要求される。同様に、3.3kV耐電圧のIGBT用では3.5kV以上の、6.5kV耐電圧のIGBT用では6.9kV以上の部分放電開始電圧がそれぞれ要求される。
【0008】
一方、従来の小型携帯機器などの電源モジュールに用いられるシート型トランスにおいては、1次側回路と2次側回路を分離し、それらの間に絶縁シートなどの固体絶縁物を挟み込んで絶縁性能を高めている。このような構成においては、絶縁性能は挟み込む固定絶縁物の厚さと共に向上する。然しながら、上記の高耐電圧IGBTのゲートドライブ用絶縁トランスに要求される高耐電圧領域では、固定絶縁物の厚さに対する絶縁性能の改善率が小さく、上記高耐電圧領域で必要な絶縁性能を確保するためには固定絶縁物を大幅に厚くする必要があり、絶縁トランスが厚くなり大型化するという問題があった。また、従来の高耐電圧パワー半導体素子のゲートドライブ用の絶縁トランスに用いる場合、固体絶縁物に絶縁欠陥および電界集中部などの不適切な構造があると部分放電が発生して数10年の期待寿命を維持できなくなるので、一品一品部分放電試験を実施して品質管理をする必要あり、品質管理工程が増えるとともに試験に時間がかかるという問題があった。
【0009】
この発明は、上述のような問題を解決するためになされたもので、高耐電圧領域での長期の絶縁性能に優れた薄型の高耐電圧平面トランスを得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る高耐電圧平面トランスにおいては、第1多層基板の内部にパターン形成された1次コイルと、第1多層基板の両主面の少なくとも一方の面に1次コイルを覆うようにパターン形成されて1次コイルと共に1次巻線を形成するシールド導体と、第1多層基板のシールド導体が形成された面と対向する第2多層基板の内部にパターン形成されて1次巻線と絶縁層を介して対向する2次コイルと、第1多層基板および第2多層基板を貫通して1次巻線と2次コイルを磁気結合させる磁気回路を形成するコアと、第1多層基板と第2多層基板とが対向する面を所定の距離隔てる空間とを備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、高耐電圧領域での長期の絶縁性能に優れた薄型の高耐電圧平面トランスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1を示す高耐電圧平面トランスの上面図である。
【図2】図1の断面C1―C1を示す断面図である。
【図3】図1の断面C2―C2を示す断面図である。
【図4】従来の平面トランスの第1多層基板と第2多層基板との間の絶縁構成の一例を説明するための断面図である。
【図5】この発明の空間の効果を検証するための簡略化した第1多層基板と第2多層基板との間の絶縁構成を示す断面図である。
【図6】図4および図5の構成における第1多層基板と第2多層基板との距離Gに対する最低の部分放電開始電圧Vの関係を示す説明図である。
【図7】図5の構成における要求される最低の部分放電開始電圧Vに対する必要な最小の第1多層基板と第2多層基板とを隔離する距離Gの関係を示す説明図である。
【図8】この発明の実施の形態2を示す高耐電圧平面トランスの断面図である。
【図9】この発明の実施の形態3を示す高耐電圧平面トランスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1を示す高耐電圧平面トランス1の上面図である。図2は、図1の断面C1―C1を示す断面図である。図3は、図1の断面C2―C2を示す断面図である。図1〜3において、高耐電圧平面トランス1は、低圧側の1次コイル2およびシールド導体3にて構成される1次巻線4と、高圧側の2次コイル5とを、距離Gを隔てて分離させて積層し、I型コア6aとE型コア6bにて構成されるコア6にてこれら1次巻線4と2次コイル5とを磁気結合させている。
【0014】
1次コイル2は、例えば、ガラス繊維強化エポキシ樹脂などの板状のベース絶縁層2cの両主面に設けられた銅などの導体層をエッチング等の加工でパターン形成した、それぞれ同一方向の渦巻状コイルパターンの1次コイル導体2a、2bを有している。1次コイル導体2a、2bは、それぞれの渦巻状コイルパターンの中心側のコイル端部において、ベース絶縁層2cに設けたスルーホール(図示せず)にて接続されている。1次コイル導体2a、2bがベース絶縁層2cによって互いに隔離して保持されたベース基板の両主面には、例えばプリプレグシートと金属箔とを積層してヒートプレスすることにより形成された、積層された絶縁層2dと表面の導電層とが配置され、これら全体で4層の第1多層基板7となっている。第1多層基板7の両主面には、上記表面の導電層をエッチング等によってパターン成形したシールド導体3a、3bが配置されている。このシールド導体3a、3bは、それぞれトランスの1次巻線4の1ターンを形成するように0.1mm程度のスリット3cが設けられている。
【0015】
第1多層基板7の1次コイル導体2a、2bのコイル形状の中心側の部位には、E型コア6bの中心脚部が貫通する開口部8aが設けられている。また、第1多層基板7の1次コイル導体2a、2bの外側の部位には、E型コア6bの両端脚部が貫通する2つの開口部8bが設けられている。シールド導体3a、3bは、1次コイル2を両主面側から覆うように、1次コイル導体2a、2bと同様な形状で、開口部8aを囲むように配置され、1次コイル導体2a、2bのコイルパターンの外形より外側に広がった外縁部を持ち、且つ1次コイル導体2a、2bのコイルパターンの内周に対してはその内周が小さくなっている。
【0016】
このようにシールド導体3a、3bを配置することで、1次コイル2の導体分布(渦巻状コイルパターンなど)および導体エッジ部などに起因する第1多層基板7表面での不均一な電界分布を均一化することができる。つまり、シールド導体3a、3bは、第1多層基板7内部構造に起因した表面の電界の不均一をシールドする効果があるといえる。
【0017】
高耐電圧平面トランス1の2次巻線となる2次コイル5は、板状の別のベース絶縁層5cの両主面に金属が貼られた別のベース基板をエッチングすることで形成された2次コイル導体5a、5bを有しており、1次コイル2と同様に、2次コイル導体5a、5bは、それぞれの渦巻状コイルパターンの中心側のコイル端部において、別のベース絶縁層5cに設けたスルーホール(図示せず)にて接続されている。上記別のベース基板は、両主面をガラスエ繊維強化ポキシ樹脂などの別の積層した絶縁層5dで覆われ、これらで第2多層基板9を構成している。第2多層基板9には、第1多層基板7と同様に、E型コア6bの中心脚部が貫通する別の開口部10が設けられている。
【0018】
第1多層基板7と第2多層基板9とは、第1多層基板7および第2多層基板9の外側の四隅にそれぞれ設けられた孔に、両端が挿入された導電性のスペーサピン11で、一定の距離G隔てて保持されている。つまり、第1多層基板7と第2多層基板9との間には、空間12が設けられている。また、導電性のスペーサピン11は、1次巻線4および2次コイル5から離れて配置されている。このスペーサピン11の一部は、2次コイル5と電気的に接続されて2次コイル5の出力端子を兼ねており、マザーボードとなる第1多層基板7の1次巻線4と電気的に直接接続されていない別の回路と、2次コイル5とを電気的に接続する機能も併せ持っている。
【0019】
このように、第2多層基板9の2次コイル5の出力をスペーサピン11にてマザーボードとなる第1多層基板7に接続することで、制御、計測回路およびICなどを第1多層基板7に集約して、第2多層基板9を2次コイル5のみの単純な構成とすることができ、これにより第2次多層基板9の小型化が可能となる。
【0020】
以上のように、この発明に係る高耐電圧平面トランス1は、第1多層基板7の内部にパターン形成された1次コイル2と、第1多層基板7の両主面に1次コイル2を覆うようにパターン形成されて1次コイル2と共に1次巻線4を形成するシールド導体3と、第2多層基板9の内部にパターン形成されて1次巻線4と絶縁層5dを介して対向する2次コイル5と、第1多層基板7および第2多層基板9を貫通して1次巻線4と2次コイル5とを磁気結合させる磁気回路を形成するコア6と、第1多層基板7と第2多層基板9とが対向する面を所定の距離隔てる空間とを備えている。
【0021】
このように構成されているので、この発明に係る高耐電圧平面トランス1においては、特に第1多層基板7と第2多層基板9との間に空間12を設けることで、部分放電の発生を有効に抑制でき、長期の絶縁信頼性が高く、耐電圧の高い高耐電圧平面トランスが提供できる。
【0022】
次に、この発明に係る高耐電圧平面トランス1の空間12の寸法と部分放電開始電圧の関係について、例えば上記特許文献2で開示されている従来のシート型トランスのように第1多層基板7と第2多層基板9との間に絶縁体シート13を挿入する場合と比較して、さらに詳細に説明する。
【0023】
図4は、従来の平面トランス1の第1多層基板7と第2多層基板9との間の絶縁構成の一例を説明するための断面図である。絶縁体シート13は、その両面でそれぞれ第1多層基板7と第2多層基板9と接着されており、両基板7、9間の絶縁と保持を担っている。絶縁体シート13のような固体絶縁物を接着する構成では、別途、両基板7、9間を保持する構造を必要とせず、構造が簡略化できる利点がある。しかし、固体絶縁物を用いることで、絶縁体シート13の内部に残留した空隙(ボイド)F1、および第1積層基板7もしくは第2積層基板9と絶縁体シート13との間の接着界面の残留ボイドまたは界面剥離による空隙F2が、発生することがある。
【0024】
このような絶縁欠陥F1、F2は、動作電圧が低い領域では問題となることは少ないが、例えば、動作電圧が1kVを超える高電圧領域では、絶縁欠陥F1、F2において電界集中が発生し、部分放電が発生して絶縁信頼性を著しく低下させる原因となる。また、例えば1kVを超える高電圧領域では低電圧領域と比べて必要な絶縁体シート13が大幅に厚くなるので、絶縁シート13内部に空隙が残留する確率が高くなると共に、接着面に生じる残留応力が大きくなり界面剥離が生じやすくなる。その結果、ボイド、界面剥離などの絶縁欠陥F1、F2が生じやすくなるので、高電圧領域での絶縁信頼性が大きく損なわれる可能性が高まる。
【0025】
図5は、この発明の空間の効果を検証するための簡略化した第1多層基板7と第2多層基板9との間の絶縁構成を示す断面図である。図5では、図4の絶縁体シート13を用いる場合と異なり、第1多層基板7と第2多層基板9との間には空間12が配置されている。このような構成で得られる、シールド導体3aと2次コイル導体2bとの間の部分放電開始電圧の特性を、絶縁体シート13を用いる場合と比較して図6に示す。
【0026】
図6は、図4および図5の構成における第1多層基板7と第2多層基板9との距離Gに対する最低の部分放電開始電圧Vの関係を示す説明図である。実線で空間12を設けた場合の特性を、破線で絶縁体シート13を用いた場合の特性を、それぞれ示している。また、同図中、Vi1は1.7kV耐電圧のIGBT用絶縁トランスで長期の絶縁信頼性を確保するのに必要な最低の部分放電開始電圧Vを、同様に、Vi2は3.3kV耐電圧のIGBT用絶縁トランスに必要な最低の部分放電開始電圧Vを、Vi3は6.5kV耐電圧のIGBT用絶縁トランスに必要な最低の部分放電開始電圧Vをそれぞれ示している。
【0027】
絶縁体シート13を接着する構成では、ボイド、剥離が存在している場合の最低の部分放電開始電圧V(単位:kV)は、距離G(単位:mm)に対して次式で表現できる。
【0028】
【数1】

【0029】
ここで、dは、別の積層した絶縁層5dの厚さ(単位:mm)、εは、別の積層した絶縁層5dおよび絶縁体シート13の比誘電率(両者で同一と仮定)である。図6の破線は、d=0.5mm、ε=5として計算した場合を示しており、最低の部分放電開始電圧Vは、距離Gとともには飽和する傾向を示している。
【0030】
なお、常にこのレベルまで部分放電開始電圧が低下するのではなく、絶縁体シート13に内在するボイドや接着界面に剥離が無ければ、上記数式1で示される最低の放電開始電圧V以上の特性を示す。絶縁体シート13のように、誘電率の高い絶縁体を第1多層基板7と第2多層基板9との間に挿入した状態では、ボイドまたは剥離があると、これらの内部電界は絶縁体の比誘電率倍になり、そこにかかる電界が増強され、部分放電開始電圧が大幅に低下する。
【0031】
つまり、絶縁体シート13を用いる構造では、製品の出来具合(ボイドまたは剥離の残存状態)で部分放電開始電圧は大きなバラツキを示し、安定した絶縁信頼性を維持することは難しい。従って、高耐電圧平面トランス1の製品の絶縁の信頼性を確保するたには、絶縁体シート13を用いる場合は、一品一品部分放電試験を実施して品質管理をする必要があり、品質管理工程が増えるという問題とともに試験に時間がかかるという問題がある。
【0032】
一方、図5に示すように第1多層基板7と第2多層基板9との間に空間12を設ける構成では、ボイドおよび剥離の問題は発生せず、最低の部分放電開始電圧V(単位:kV)は、距離G(単位:mm)に対して次式で表現できる。
【0033】
【数2】

【0034】
ここで、dは、別の積層した絶縁層5dの厚さ(単位:mm)、εは、別の積層した絶縁層5dの比誘電率である。図6の実線は、d=0.5mm、ε=5として計算した場合を示しており、最低の部分放電開始電圧Vは、距離Gとともに比例して高くなる。
【0035】
空間12を設けた絶縁構成では、部分放電開始電圧のバラツキは小さく安定した特性が得られる。従って、要求される部分放電開始電圧に必要な所定の空間12寸法を設定しておけば、時間のかかる部分放電試験による品質管理工程が不要とすることができる。
【0036】
また、例えば1.7kV耐電圧のIGBT用絶縁トランスに要求される部分放電開始電圧Vi1=1.8kVに対して絶縁体シート13を用いて構成すると、必要な絶縁体の厚さ(距離G)は1.8mmとなる。一方、空間12を用いて構成すると、必要な距離Gは0.2mmで良く、絶縁トランスとして用いる高耐電圧平面トランス1を小型化することできる。
【0037】
また、3.3kV耐電圧のIGBT用絶縁トランスに要求される部分放電開始電圧Vi2=3.5kVに対して、絶縁体シート13を用いて構成すると、絶縁体シート13の厚さが3mmでも上記Vi2を達成できないことが分かる。これに対して、空間12を用いて構成にすると、距離Gが0.75mmで達成でき、一層のトランスの小型化が可能となる。さらに、高電圧の6.5kV高耐電圧IGBT用絶縁トランスに要求される部分放電開始電圧Vi3=6.9kVに対して、絶縁体シート13を用いて構成する場合、現実的な絶縁体シート13の厚さ範囲では要求される絶縁性能を達成することが出来ないことが分かる。これに対して、空間12を用いて構成すると、距離Gは2mmで良いことが分かる。
【0038】
以上より、1kV以上の最低の部分放電開始電圧Vが要求される高電圧領域では、従来の絶縁体シート13を用いる場合に比べて、要求される最低の部分放電開始電圧Vが高いほどより小型化が可能となるといえる。
【0039】
空間12が第1多層基板7と第2多層基板9とを隔離する距離G(単位:mm)は、上記数式2を2次関数で近似することで、最低の部分放電開始電圧V(単位:kV)に対して次式で表現できる。
【0040】
【数3】

【0041】
図7は、上記数式3より求めた、要求される最低の部分放電開始電圧Vに対する必要最小の第1多層基板7と第2多層基板9とを隔離する距離Gの関係を示す説明図である。図7では、例えば距離G=3mm以上設ければ、最小の部分放電開始電圧Vを10kVまで高めることが分かる。これは、上述のIGBTの耐電圧クラスに換算すると9.43kVとなり、空間12を用いた絶縁構成は、今後のIGBTの耐電圧クラスの向上にも十分対応可能な構成であるといえる。
【0042】
なお、高耐電圧平面トランス1を薄くする観点からは第1多層基板7と第2多層基板9とを隔離する距離を出来るだけ距離Gに近づけることが好ましいが、組立性、製造誤差などを考慮して、実際には距離Gより大きくなることがある。その場合においても、上記隔離する距離を大きくし過ぎると、トランスとしての1次巻線4と2次コイル5の電磁結合が悪くなり効率低下を招くため、上記隔離する距離は数式3で得られる距離Gの1.5倍以内とすることがより好ましい。
【0043】
以上より、この発明に係る高耐電圧平面トランス1では、第1多層基板7と第2多層基板9との間の絶縁構成として、敢えて、気体より材料自体の持つ破壊電圧が高い絶縁体シート13などの固体絶縁物を使用せず、空間12にて構成することで必要な絶縁寸法が縮小できるので、高耐電圧領域での絶縁性能に優れた薄型の高耐電圧平面トランスを得ることができる。
【0044】
また、従来の絶縁体シート13を用いる構成では得ることが困難であった、1kV以上の高耐電圧領域での長期の高い絶縁信頼性を実現できるので、例えば、電車等の駆動制御装置の高耐電圧IGBTのゲートドライブ用絶縁トランスのように、長期の高い絶縁信頼性が要求される分野において、薄型の平面トランスを提供することが可能となる。
【0045】
また、空間12を設けた絶縁構成では、部分放電開始電圧のバラツキが小さく安定した特性が得られるので、部分放電に関連した品質管理工程を削減することができる。
【0046】
実施の形態2.
図8は、この発明の実施の形態2を示す高耐電圧平面トランス1の断面図であり、図2に相当する部分の断面を示している。この実施の形態では、第2多層基板9と対向しない第1多層基板7の面にシールド導体3bを設けていないこと以外は、実施の形態1と同様であるので以下において説明を省略する。
【0047】
このようにシールド導体3を第1多層基板7が第2多層基板9と対向する側の面のみに設ける構成では、第1多層基板7の両面に設ける場合と比較して、第2多層基板9と対向しない第1多層基板7の面での電界分布がより不均一となり、その影響で電界が高い上記対向する側の面の電界分布が悪化することがある。しかしながら、上記対向する側のシールド導体3aを、1次コイル2を覆うように、1次コイル導体2a、2bと同様な形状で、開口部8aを囲むように配置し、1次コイル導体2a、2bのコイルパターンの外形より外側に広がった外縁部を持ち、且つ1次コイル導体2a、2bのコイルパターンの内周に対してはその内周が小さく構成することで、上記電界分布の悪化をシールド導体3aのシールド効果により軽微なものとすることができる。
【0048】
さらに、シールド導体3bを設けないことで、第1多層基板7の層を減らすことができ、その分、高耐電圧平面トランスを薄くできる。
【0049】
実施の形態3.
図9は、この発明の実施の形態3を示す高耐電圧平面トランス1の断面図であり、図2に相当する部分の断面を示している。この実施の形態では、コア6をU型コア6cとI形コア6aとで構成したこと、および1次コイル2の第2多層基板9と反対側の積層した絶縁層2dを設けていないこと以外は、実施の形態2と同様であるので以下において説明を省略する。
【0050】
このように積層した絶縁層2dを設けない構成では、第1多層基板7の1次コイル導体2b側の面で誘電体層を配置することによる表面の電界緩和効果が得られず、その影響で、積層した絶縁層2dを有する場合と比較して、第1多層基板7の第2多層基板9と対向する側の面の電界分布が悪化することがある。しかしながら、上記対向する側のシールド導体3aを、1次コイル2を覆うように、1次コイル導体2a、2bと同様な形状で、開口部8aを囲むように配置し、1次コイル導体2a、2bのコイルパターンの外形より外側に広がった外縁部を持ち、且つ1次コイル導体2a、2bのコイルパターンの内周に対してはその内周が小さく構成することで、上記対向する側の面の電界分布の悪化をシールド導体3aのシールド効果により軽減することができる。
【0051】
さらに、1次コイル2の第2多層基板9と反対側の積層した絶縁層2dを設けないことで、第1多層基板7の層を減らすことができ、その分、高耐電圧平面トランスを薄くできる。
【0052】
また、上述では、主にIGBTのゲートドライブ用絶縁トランスを例示して説明したが、他の高電圧トランスにも適用可能である。
【0053】
また、上述では、第2多層基板9が2次巻線となる2次コイル5のみを有する場合について説明したが、第2多層基板9に2次巻線に加えて3次巻線を積層して形成しても良い。
【符号の説明】
【0054】
1 高耐電圧平面トランス、2 1次コイル、2a、2b 1次コイル導体、2c ベース絶縁層、2d 積層した絶縁層、3、3a、3b シールド導体、3c スリット、4 1次巻線、5 2次コイル、5a、5b 2次コイル導体、5c 別のベース絶縁層、5d 別の積層した絶縁層、6 コア、6a I型コア、6b E型コア、6c U型コア、7 第1多層基板、8a、8b 開口部、9 第2多層基板、10 別の開口部、11 スペーサピン、12 空間、13 絶縁体シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1多層基板の内部にパターン形成された1次コイルと、
上記第1多層基板の両主面の少なくとも一方の面に上記1次コイルを覆うようにパターン形成されて上記1次コイルと共に1次巻線を形成するシールド導体と、
上記第1多層基板の上記シールド導体が形成された面と対向する第2多層基板の内部に、パターン形成されて上記1次巻線と絶縁層を介して対向する2次コイルと、
上記第1多層基板と上記第2多層基板とを貫通して上記1次巻線と上記2次コイルとを磁気結合させる磁気回路を形成するコアと、
上記第1多層基板と上記第2多層基板とが対向する面を所定の距離隔てる空間とを備えたことを特徴とする高耐電圧平面トランス。
【請求項2】
シールド導体は、第1多層基板の両主面に設けられたことを特徴とする請求項1記載の高耐電圧平面トランス。
【請求項3】
空間は、高耐電圧平面トランスに要求される部分放電開始電圧V(単位:kA)に対して
【数1】

で規定される距離G(単位:mm)以上、第1多層基板と第2多層基板とを隔てることを特徴とする請求項2に記載の高耐電圧平面トランス。
【請求項4】
空間は、第1多層基板と第2多層基板との間に設けたスペーサピンにて一定に保持されており、
上記第1多層基板は、上記第1多層基板の内で1次巻線と電気的に接続されていない別の回路を有し、
上記スペーサピンは、2次コイルの出力端子と上記別の回路を電気的に接続することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高耐電圧平面トランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−258876(P2011−258876A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134086(P2010−134086)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】