説明

高脂血症の予防または改善剤

【課題】 安全性が高く、同時に、VLDL分泌活性の高い高脂血症の予防または改善剤を提供すること。
【解決手段】 フコキサンチンおよび/またはゼアキサンチンを有効成分とする高脂血症の予防または改善剤、ならびに、フコキサンチンおよび/またはゼアキサンチンを有効成分とするVLDL分泌抑制剤である。本発明の高脂血症の予防または改善剤、ならびに、VLDL分泌抑制剤は、明確なVLDL分泌抑制活性を有しており、なおかつ長期間服用しても安全である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フコキサンチンおよび/またはゼアキサンチンを有効成分とする高脂血症の予防または改善剤、ならびに、VLDL分泌抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、総カロリー摂取量および脂肪摂取量の急激な増加や、医療技術の進歩による長寿化により、高脂血症などの循環器障害が増加している。また、これらの現象は、脂肪摂取量の増加が特に著しい若年層においても、顕著である。上記循環器障害の増加とこの若年化が、社会問題の一つとなっている。
【0003】
一般に、血中の中性脂肪値が150mg/dL以上、または、総コレステロール値が220mg/dL以上になった状態を高脂血症と呼ぶ。さらに、高脂血症は、血中コレステロール値の高い高コレステロール血症、血中中性脂肪値の高い高中性脂肪血症、そのどちらの値も高い複合型高脂血症の3つのタイプに分けることができる。なお、日本人における高脂血症患者は、約3200万人とも推定されている。高脂血症は、動物性食品の過剰な摂取と運動不足やストレスなどが要因となっている疾患であるといわれている。そして、高脂血症が進行により中性脂肪やコレステロールが血管壁に沈着して動脈硬化、高血圧、心筋梗塞、脳血管障害などの疾病につながることが知られている。
【0004】
血中の脂質は、VLDL、LDL、カイロミクロンに含まれる形で血中に存在する。肝臓から分泌されるVLDLは、肝臓で脂質を組み込み末梢組織への脂質の運搬を行うことから、肝臓における過剰なVLDL産生・分泌は、動脈硬化性疾患の危険因子である高脂血症の原因となる。従って、VLDL分泌抑制剤は、血中のコレステロールや中性脂肪を低減し、高脂血症の予防および/または改善に有効である。
【0005】
CP−346086といったMTP阻害剤の投与によってVLDLの分泌は抑制されるが、肝細胞内に脂質を蓄積させるといった副作用も報告されている(非特許文献1)。このため、明確なVLDL分泌抑制活性を有しており、なおかつ安全性の高いVLDL分泌抑制剤の開発が望まれていた。
【0006】
例えば、共役トリエン酸系脂肪酸やその誘導体が、α−リノレン酸以上にアポB分泌を抑制することから、高コレステロール血症や高トリグリセリド血症に有効であるとの報告がある(特許文献1)。また、数種の植物抽出物が、VLDL分泌抑制作用を有するとの報告もある(特許文献2)。
【0007】
カロテノイドのうち化学構造に水酸基をもつ化合物を総称してキサントフィル類と呼び、例えばフコキサンチン、ゼアキサンチン、ルテイン、カンタキサンチン、アンテラキサンチン、ビオラキサンチン、クリプトキサンチン、カプサンチン、アスタキサンチン、ビキシンなどがこれに該当する。
【0008】
フコキサンチンは、海藻に含まれる脂溶性物質の1つであり、白色脂肪組織重量の低下効果(非特許文献2)や血糖値上昇抑制効果(特許文献3)を有することが開示されている。
【0009】
ゼアキサンチンは、ルテインと共にヒトの網膜に存在するキサントフィルである。ゼアキサンチン等のカロテノイドが、前駆脂肪細胞の分化を抑制する効果については開示されている(特許文献4)。
【特許文献1】特開2002−265985号公報
【特許文献2】特開2006−225297号公報
【特許文献3】特開2007−297370号公報
【特許文献4】特開2003− 95930号公報
【非特許文献1】Journal of Lipid Research, 44, 2003, 1887-1901
【非特許文献2】Biochemical and Biophysical Research Communication, 332, 2005, 392-397
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記を鑑み、安全性が高く、同時に、VLDL分泌活性の高い高脂血症の予防または改善剤、ならびに、VLDL分泌抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記実情を鑑み鋭意研究を行った結果、特定のキサントフィルが、VLDLの分泌を抑制し、高脂血症の予防または改善剤として極めて有用であることを見いだし、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち本発明は以下の通りである。
[1] フコキサンチンおよび/またはゼアキサンチンを有効成分とする高脂血症の予防または改善剤。
[2] フコキサンチンおよび/またはゼアキサンチンを有効成分とするVLDL分泌抑制剤。
[3] [1]または[2]記載の剤を含有する医薬用または動物薬用組成物。
[4] [1]または[2]記載の剤を含有する飲食用組成物。
[5] [1]または[2]記載の剤を含有する医薬部外品用組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高脂血症用の予防または改善剤、ならびに、VLDL分泌抑制剤は、さまざまな食品に含まれ、サプリメントとしても食経験のあるカロテノイド類を有効成分とするため、長期間服用しても安全であり、優れたVLDL分泌抑制作用を示すことから、高脂血症の予防または改善に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0015】
本発明の高脂血症の予防または改善剤は、フコキサンチンおよび/またはゼアキサンチンを有効成分として含有する組成物であり、高脂血症の予防または改善に用いることができ、また、血中の脂質量の適性値へのコントロールに用いることができる。本発明において、高脂血症の予防とは、日本動脈硬化学会が動脈硬化性疾患診療ガイドライン(2002年9月発行)にて定義している高脂血症の状態(例えば、血中総コレステロール値が220mg/dL以上、または血中中性脂肪値が150mg/dL以上の状態)又は境界域の状態(例えば、血中総コレステロール値が200mg/dL以上220mg/dL未満、または血中中性脂肪値が130mg/dL以上150mg/dL未満の状態)になるのを防ぐ又は遅らせる(そのリスクを軽減する)ことや境界域の状態を維持することを指す。また、本発明でいう高脂血症の改善とは、上記に示す高脂血症の状態又は境界域の状態から、血中総コレステロール値や血中中性脂肪値を低減して、正常な状態(例えば、血中総コレステロール値が200mg/dL未満、かつ、血中中性脂肪値が130mg/dL未満の状態)とするあるいはその状態に近づけることを指す。
【0016】
本発明におけるVLDL分泌抑制効果とは、肝臓から分泌されるVLDLの分泌を抑制する効果である。本発明のVLDL分泌抑制剤は、VLDLの分泌を抑制することで、同時に高脂血症や動脈硬化性疾患の一因であるLDLの生成を抑制することもできる。
【0017】
また、本発明では、フコキサンチンおよび/またはゼアキサンチンを含有する組成物をVLDL分泌抑制剤として使用することもできる。本発明において、VLDL分泌抑制効果は、例えば、被験物質のVLDL分泌抑制剤を哺乳動物に投与或いは摂取させる方法、または培養肝細胞に被験物質を作用させる方法により評価可能である。このうち、培養肝細胞を用いた方法が、感度、再現性、簡便性において優れており、通常この方法が用いられる。具体的には、培養肝細胞を用いる方法の場合、例えば、予めヒト肝細胞(HepG2)を24穴プレート中に植え込み24時間培養し、更に被験物質を含む1%牛血清アルブミン含有DMEM培地に交換し24時間培養を行った後、培養液を採取し、培養液中に含有されるVLDLをサンドイッチ法ELISA(エンザイムリンクドイムノソーベントアッセイ)により定量することができる(T.Yanagita et.al., Current Therapeutic Research., 60(8), 423,1999)。また抗体を用いてウエスタンブロッティング法で定量することも可能である。これらの評価系において、溶媒対照と比較してVLDLの分泌量が減少したサンプルを「VLDL分泌抑制活性あり」と判定する。
【0018】
本発明における高脂血症の予防または改善剤は、VLDL分泌抑制活性を有するため、肝臓から分泌されるVLDLの分泌を抑制することで、高脂血症の予防および/または改善に利用することができる。
【0019】
本発明の高脂血症の予防または改善剤、ならびに、VLDL分泌抑制剤(以下、総称して「本発明の剤」ということもある)の有効成分は、フコキサンチン、ゼアキサンチンまたはこれらの混合物である。本発明の剤に用いられるフコキサンチンおよびゼアキサンチンは、合成されたものであっても良いし、天然物由来のものであっても良いし、微生物を利用して生産されたものであっても良いが、食経験のある天然物を由来とするものが安全性の面で好ましい。例えばフコキサンチンは藻類に、ゼアキサンチンはとうもろこしの種子や卵黄等に含まれている。また、天然物由来または微生物由来のフコキサンチンまたはゼアキサンチンを使用する場合、フコキサンチンまたはゼアキサンチンを含有する抽出液の形態でもよいし、溶媒を除去した抽出物そのものでもよく、さらに脱臭、精製などの操作を加えたものでもよい。さらに、他の適切な溶媒に溶解、懸濁した形態であってもよい。本発明の剤では、キサントフィル類のうち、フコキサンチン、ゼアキサンチンを有効成分とするが、他のキサントフィル類やカロテノイド類が共存していてもかまわない。
【0020】
本発明の剤は、上記フコキサンチン、ゼアキサンチンやそれを含有する抽出液・抽出物を単独で含有するものであってもよいし、公知の担体や助剤などの添加剤と混合して、カプセル剤、錠剤、顆粒剤など服用しやすい形態に成型したものであってもよい。また、栄養強化を目的として、ビタミンA,C,D,Eなどの各種ビタミン類を添加、併用することもできる。本発明の剤におけるフコキサンチン、ゼアキサンチンまたはその混合物の含有量は、好ましくは0.1〜100重量%、より好ましくは10〜90重量%である。
【0021】
本発明の剤は、これらを含有する飲食用組成物、医薬用または動物薬用組成物、医薬部外品用組成物としても利用できる。
【0022】
本発明の剤を含有する飲食用組成物としては特に限定されず、例えば本発明の剤を飲食物材料に混合して、チューインガム、チョコレート、キャンディー、ゼリー、ビスケット、クラッカーなどの菓子類;アイスクリーム、氷菓などの冷菓類;茶、清涼飲料、栄養ドリンク、美容ドリンクなどの飲料;うどん、中華麺、スパゲティー、即席麺などの麺類;蒲鉾、竹輪、はんぺんなどの練り製品;ドレッシング、マヨネーズ、ソースなどの調味料;マーガリン、バター、サラダ油などの油脂類;パン、ハム、スープ、レトルト食品、冷凍食品などすべての一般的な飲食物に使用することができる他、製剤化して、特定保健用食品、栄養機能食品などの保健機能食品や健康食品、サプリメントとすることもできる。これら飲食用組成物を摂取する場合、その摂取量は、有効成分であるフコキサンチンおよび/またはゼアキサンチンの量に換算して成人一人一日当たり、好ましくは0.001〜1000mg/Kg体重、より好ましくは0.01〜100mg/Kg体重となるように摂取するのが好ましい。
【0023】
本発明の剤を含有する組成物を、医薬品、動物薬品または医薬部外品として用いる場合は、その剤形は特に限定されず、例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、注射剤、座薬、貼付剤などが挙げられる。製剤化においては、薬剤学的に許容される他の製剤素材、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶解補助剤、安定化剤などを適宜添加して調製することができる。これら製剤の投与量としては、フコキサンチンおよび/またはゼアキサンチンの量に換算して、成人一人一日当たり、好ましくは0.001〜1000mg/Kg体重、より好ましくは0.01〜100mg/Kg体重を、1回ないし数回に分けて投与する。
【実施例】
【0024】
以下実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
(実施例、比較例)
Hep−G2細胞(ヒト肝癌由来培養細胞)を24穴培養プレートに1×10cells/wellとなるように植え込み、37℃、5%CO2条件下で24時間培養した。培地には、10%FBS(ウシ胎児血清)、10mL/Lペニシリン・ストレプトマイシン溶液(それぞれ5000IU/mL, 5000μg/mL, Invitrogen社製)、37mg/Lアスコルビン酸(和光純薬工業株式会社製)を含むDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、Invitrogen社製)を用いた。その後、被検物質を含む1%ウシ血清アルブミン(Sigma社製)含有DMEMに交換し、さらに24時間培養した。溶媒対照としてはDMSOを用い、0.1%となるように添加した。溶媒対照および被検物質で処理した際に培地中に分泌されたVLDL量を、ELISA Kit(CaldioCHEK社製)にて測定した。溶媒対照のVLDL分泌量を100%として被検物質のVLDL分泌量を算出した。
【0026】
被検物質として、フコキサンチン(CaroteNature社製)、ゼアキサンチン(CaroteNature社製)、アスタキサンチン(CaroteNature社製)、ビキシン(CaroteNature社製)で処理した際のVLDL分泌量を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1から明らかなように、今回評価した4種のキサントフィル類のうち、フコキサンチンおよびゼアキサンチンのみにVLDL分泌抑制活性があることが示された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコキサンチンおよび/またはゼアキサンチンを有効成分とする高脂血症の予防または改善剤。
【請求項2】
フコキサンチンおよび/またはゼアキサンチンを有効成分とするVLDL分泌抑制剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の剤を含有する医薬用または動物薬用組成物。
【請求項4】
請求項1または2記載の剤を含有する飲食用組成物。
【請求項5】
請求項1または2記載の剤を含有する医薬部外品用組成物。

【公開番号】特開2009−173597(P2009−173597A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15084(P2008−15084)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】