説明

高誘電性有彩色エラストマー組成物および電子部品

【課題】高い比誘電率を示し、かつ低誘電正接を有するアンテナなどに使用できる高誘電性有彩色エラストマー組成物およびこの高誘電性有彩色エラストマー組成物を用いる電子部品を提供する。
【解決手段】エチレンプロピレンゴムに、誘電性セラミックスおよび有彩色顔料を分散媒体に分散させてペースト化したペースト顔料を配合してなり、配合量はエラストマー 100 質量部に対し、固形分換算で、1〜20 質量部であり、 周波数 400MHz、25 ℃で測定されるエラストマー組成物の比誘電率が 4〜20、誘電正接が 0.02 以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高誘電性エラストマー組成物および電子部品に関し、特に高周波通信機のアンテナ等高周波帯で使用される電子部品およびその材料として使用される高誘電性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、コードレスフォン、RFID等に用いるパッチアンテナ、電波望遠鏡やミリ波レーダ等のレンズアンテナ等の目覚しい普及、衛星通信機器の著しい発達に伴い、通信信号の周波数の高周波化、通信機器の一層の小型化および使用用途の多様化が望まれている。
例えば、RFID用誘電体アンテナの増加に伴い、誘電体アンテナ自体をハンディ式リーダ/ライタや固定式アンテナの外装材として使用できることが望まれている。
しかしながら既存のセラミック製もしくはセラミック粉末を高配合した樹脂製のアンテナは、耐衝撃性に劣るため、外装材として適用することができない。
【0003】
一方、エチレンプロピレンゴムに誘電性セラミックス粉末を高配合したアンテナ用のエラストマー系誘電材料が提案されている(特許文献1参照)。このエラストマー系誘電材料には、補強材としてのカーボンブラックが配合されている。
しかしながら、誘電性セラミックス粉末を高配合すると、成形性を向上させるためにプロセスオイルが配合されている。カーボンブラックを配合した場合、カーボンブラック自身がプロセスオイルを保持するため、プロセスオイルを高配合する必要があった。高配合されたプロセスオイルは、オイルのブリードなどが生じやすく、電極の成形性が悪くなるという問題がある。
また、カーボンブラックが配合されるエラストマー組成物は、希望する色彩を実現するために着色剤を多量に配合しても、配合されたカーボンブラックにより、黒色系以外の有彩色を実現することはできず、カラフルな要求もある外装材として適用することができないという問題がある。
【特許文献1】特開2006−290939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、高い比誘電率を示し、かつ低誘電正接を有するアンテナなどに使用できる高誘電性有彩色エラストマー組成物およびこの高誘電性有彩色エラストマー組成物を用いる電子部品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の高誘電性有彩色エラストマー組成物は、エラストマーに、誘電性セラミックスおよび着色剤を配合してなり、上記着色剤が有彩色の着色剤であり、周波数 400 MHz、25 ℃で測定されるエラストマー組成物の比誘電率が 4〜20、誘電正接が 0.02 以下であることを特徴とする。
また、上記エラストマー組成物は、カーボンブラックを含まないことを特徴とする。この有彩色の着色剤は、有彩色顔料を分散媒体に分散させてペースト化したペースト顔料であることを特徴とする。
また、上記着色剤は、上記エラストマー 100 質量部に対し、固形分換算で、1〜20 質量部配合したことを特徴とする。
【0006】
高誘電性有彩色エラストマー組成物に使用できるエラストマーの比重が 0.8 〜 1.1 であることを特徴とする。このエラストマーは、スチレン系およびオレフィン系エラストマーの中から選ばれる少なくとも1つのエラストマーであることを特徴とする。特に上記エラストマーがエチレンプロピレンゴムであることを特徴とする。
【0007】
本発明の電子部品は、上記高誘電性有彩色エラストマー組成物の成形体表面および内部の少なくとも1つの部位に電極を備え、周波数 100 MHz 以上の電気信号を取り扱うための電子部品であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の高誘電性有彩色エラストマー組成物は、エラストマーに、誘電性セラミックスおよび着色剤を配合してなり、上記着色剤が有彩色の着色剤であり、周波数 400 MHz、25 ℃で測定されるエラストマー組成物の比誘電率が 4〜20、誘電正接が 0.02 以下であるので、カラフルなエラストマー組成物が得られ、外装材への使用用途が拡大する。
また、エラストマー組成物がカーボンブラックを含まないので、プロセスオイル添加量を減少させることができる。その結果、エラストマー組成物への誘電性セラミックスの配合量を増加させることができ、比誘電率が向上し、また、電極形成性が向上する。
また、有彩色の着色剤が有彩色顔料を分散媒体に分散させてペースト化したペースト顔料であるので、分散性が良好であり、高誘電性有彩色エラストマー組成物の分散性に基づく物性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
高誘電性有彩色エラストマー組成物を開発すべく鋭意検討の結果、有彩色の着色剤を配合し、補強材としてのカーボンブラックを除くことでプロセスオイルの配合量を減らすことができ、かつカラフルな高誘電性有彩色エラストマー組成物を得ることができた。本発明は、このような知見に基づき完成したものである。
【0010】
本発明の高誘電性有彩色エラストマー組成物は、エラストマーに、誘電性セラミックスおよび有彩色の着色剤を配合することにより、周波数 400 MHz、25 ℃で測定されるエラストマー組成物の比誘電率が 4〜20、誘電正接が 0.02 以下でカラフルな電子部品が得られる。
【0011】
本発明の高誘電性有彩色エラストマー組成物には、天然ゴム系エラストマーおよび合成ゴム系エラストマーを使用できる。
天然ゴム系エラストマーとしては、天然ゴム、塩化ゴム、塩酸ゴム、環化ゴム、マレイン酸化ゴム、水素化ゴム、天然ゴムの二重結合にメタクリル酸メチル、アクリロニトリル、メタクリル酸エステル等のビニルモノマーをグラフトさせてなるグラフト変性ゴム、窒素気流中でモノマー存在下に天然ゴムを粗錬してなるブロックポリマー等を挙げることができる。これらは、天然ゴムを原料とするものの他、合成cis−1,4−ポリイソプレンを原料としたエラストマーを挙げることができる。
【0012】
合成ゴム系エラストマーとしては、イソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム(以下、EPDMと記す)、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンプロピレンターポリマー、クロロスルホン化ポリエチレンゴム等のポリオレフィン系エラストマー、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー(SBS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SEBS)等のスチレン系エラストマー、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、シリコーンゴム、ナイロン12、ブチルゴム、ブタジエンゴム、ポリノルボルネンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等を挙げることができる。
【0013】
これらのエラストマーは、1種類または2種類以上混合して用いることができる。また、エラストマーの持つ弾力性を損なわない範囲内で熱可塑性樹脂の1種または2種以上を配合して用いることができる。
本発明に使用できるエラストマーとしては、25 ℃において、比重が 0.8 〜 1.1 であるエラストマーが好ましい。比重が 0.8 未満であると、低分子量のため強度が弱く、成形体の空孔が多くなるので好ましくない。また、比重が 1.1 をこえると製品重量が重くなるので好ましくない。
上記エラストマーとしては、スチレン系およびオレフィン系エラストマーの中から選ばれる少なくとも1つのエラストマーであることが好ましい。このようなエラストマーの例示としては、EPDM、エチレンプロピレンジエンゴム、イソブチレンゴム、イソプレンゴム等を挙げることができる。
特にEPDM、エチレンプロピレンジエンゴムは誘電正接が極めて低いので、アンテナ等の電子部品やセンサーの用途には好ましく用いることができる。
【0014】
本発明に使用できる着色剤は有彩色の着色剤である。有彩色であるので、黒色、灰色、白色である無彩色の着色剤を除いたものである。
着色剤としては、有機または無機系の染料および顔料を用いることができる。例えば、アゾ系、キナクリドン系、アントラキノン系、ジケトピロロピロール系、フタロシアニン系、キノフタロン系、メチン・アゾメチン系、アゾメチンアゾ系、ペリレン系、ペリノン系、イソインドリノン系、ニトロまたはニトロン系、塩基性染料系、酸性染料系、媒染染料系、金属錯体系顔料、弁柄などが挙げられる。
具体的には各種ピグメントイエロー、各種ピグメントレッド、各種ピグメントブルー、各種ピグメントグリーン、各種ピグメントバイオレット等として知られている顔料が挙げられる。
なお、本発明のエラストマー組成物は、異なる有彩色の着色剤を複数混合して配合し、着色剤そのものが発色する色とは異なる有彩色とすることもできる。
【0015】
本発明に使用できる有彩色の着色剤は、上記顔料を分散媒体に分散させてペースト化したペースト顔料であることが好ましい。ペースト顔料は誘電正接が極めて低いゴム原材料に対する分散性に優れる。分散媒体としては、ポリオールなどの有機溶媒類、ポリウレタン樹脂などの樹脂溶液類が挙げられる。
【0016】
上記有彩色の着色剤は、エラストマー 100 質量部に対し、固形分換算で、1〜20 質量部配合する。1 質量部未満であると、着色効果が少ないので好ましくない。20 質量部をこえると誘電特性が低下するので好ましくない。
【0017】
本発明に使用できる誘電性セラミックスは、実質的に複合ゴム材料の誘電率を決定するものであり、このような誘電性セラミックス粉末としては、IIa、IVa、IIIb、IVb族の酸化物、炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、またはIIa、IVa、IIIb、IVb族を含む複合酸化物から選ばれる少なくとも1種類であることが好ましく、具体的には、TiO2、CaTiO3、MgTiO3、Al23、BaTiO3、SrTiO3、CaCO3、Ca227、SiO2、Mg2SiO4、Ca2MgSi27、Nd23、BaO等が挙げられる。
【0018】
高誘電率かつ低誘電正接セラミックス粉末の平均粒子径は 0.01〜100μm 程度が好ましい。平均粒子径が 0.01μm より小さい場合、粉末の取り扱いが困難であり好ましくない。100 μm より大きい場合、成形体内での誘電特性のばらつきを引き起こすおそれがあるので好ましくない。より実用的な範囲は 0.1μm〜20μm 程度である。
【0019】
本発明の高誘電性有彩色エラストマー組成物における誘電性セラミックス粉末の配合割合は、エラストマー 100 質量部に対して 50〜1200 質量部であることが好ましい。上記範囲で誘電性セラミックス粉末を配合することで、未配合時よりも比誘電率を 2〜20 程度向上させることができる。
【0020】
高誘電性有彩色エラストマー組成物の混練性を向上させるためにプロセスオイルが配合される。プロセスオイルとしてはEPDM、エチレンプロピレンジエンゴムとの相溶性に優れるパラフィン系のプロセスオイルが好ましい。
プロセスオイルの配合割合は、エラストマー 100 質量部に対して 5〜40 質量部であることが好ましい。5 質量部未満であると成形性が悪いので好ましくない。また、40 質量部をこえると電極形成性が悪化するので好ましくない。
【0021】
本発明においては、本発明の効果を妨げない範囲で(1)エラストマーとセラミックス粉末の界面の親和性や接合性を向上させ、機械的強度を改良するために、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ジルコニアアルミネート系カップリング剤等のカップリング剤を、(2)電極形成のためのメッキ性を改良するために、タルク、ピロリン酸カルシウム等の微粒子性充填剤を、(3)熱安定性を一層改善するために酸化防止剤を、(4)耐光性を改良するために紫外線吸収剤等の光安定剤を、(5)難燃性を一層改善するためにハロゲン系、リン系、金属水酸化物等の難燃助剤を、(6)耐衝撃性を改良するために耐衝撃性付与剤を、(7)潤滑性を改良するために滑剤、摺動性改良剤(固体潤滑剤、液体潤滑剤)を、(8)硫黄やパーオキサイド等の架橋剤を、(9)加硫を進めるための加硫促進剤をそれぞれ配合することができる。
【0022】
また、本発明の高誘電性有彩色エラストマー組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内でガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカ等のチタン酸アルカリ金属塩系繊維、酸化チタン繊維、ホウ酸マグネシウムウィスカやホウ酸アルミニウウムウィスカ等のホウ酸金属塩系繊維、ケイ酸亜鉛ウィスカやケイ酸マグネシウムウィスカ等のケイ酸金属塩系繊維、カーボンファイバ、アルミナ繊維、アラミド繊維等の各種有機または無機の充填剤を併用できる。
【0023】
本発明の高誘電性有彩色エラストマー組成物の製造方法としては、とくに制限がなく、各種の混合成形方法を用いることができる。例えば、2軸押し出し機で混錬して製造する方法などが好適に用いられる。直ちに射出成形や押し出し成形等により成形品としてもよいし、ペレットや棒状物、板状物等の成形用材料としてもよい。
【実施例】
【0024】
実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例2
EPDM(JSR社製:EP35)、誘電性セラミックス粉末(共立マテリアル社製:STNAS)、水酸化マグネシウム(神島化学工業社製:N−4)、臭素系難燃剤(鈴裕化学社製:FCP801)、プロセスオイル(出光興産社製:PW380)、赤色ペースト着色剤(大日精化工業社製:FTR 5530)、青色ペースト着色剤(大日精化工業社製:FTR 5550)、黄色ペースト着色剤(大日精化工業社製:FT 5717)、カーボンブラック(東海カーボン社製:SRF)、共架橋剤(精工化学社製:ハイクロスM)、酸化亜鉛(試薬)、ステアリン酸(試薬)、老化防止剤(精工化学社製:ノンフレックスRGB)、過酸化物重合剤(化薬アクゾ社製:カヤクミルD40NB)を用いて、それぞれ表1に示す配合割合で混合し、加圧ニーダで混練り後、加熱圧縮成形にて、150 mm×150 mm×2 mm の成形体を得た。なお、加硫条件は、それぞれ170℃×10 分である。
得られた成形体から、40 mm×40 mm×2 mm の板状試験片を加工し、容量法(アジレント・テクノロジー社製 インピーダンス・アナライザE4991Aを使用)により、400 MHz 帯での誘電特性(比誘電率および誘電正接)を測定した。ここで、比誘電率および誘電正接は 25℃での値である。
【0025】
【表1】

実施例1〜実施例5の場合、プロセスオイルの配合量が 30 質量部以下で少ないにも関わらず、有彩色を示す材料でかつ優れた誘電特性を示している。一方、比較例1の場合、プロセスオイルを 50 質量部配合しており、オイルブリードによる電極形成性の悪化が懸念される。また、比較例2では、成形性が悪化し、所定の成形体を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の高誘電性有彩色エラストマー組成物は、誘電正接が低いエラストマーに、誘電性セラミックス、および、カーボンブラックを含まない有彩色着色剤を配合することにより、低誘電正接かつ高誘電率を有する有彩色の成形体が得られるので、高周波域に使用されるアンテナ等の用途や、センサー用途、電界緩和用途などに用いられる電子部品材料として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーに、誘電性セラミックスおよび着色剤を配合してなる高誘電性有彩色エラストマー組成物であって、
前記着色剤は有彩色の着色剤であり、周波数 400 MHz、25 ℃で測定されるエラストマー組成物の比誘電率が 4〜20、誘電正接が 0.02 以下であることを特徴とする高誘電性有彩色エラストマー組成物。
【請求項2】
前記エラストマー組成物は、カーボンブラックを含まないことを特徴とする請求項1記載の高誘電性有彩色エラストマー組成物。
【請求項3】
前記有彩色の着色剤は、有彩色顔料を分散媒体に分散させてペースト化したペースト顔料であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の高誘電性有彩色エラストマー組成物。
【請求項4】
前記着色剤は、前記エラストマー 100 質量部に対し、固形分換算で、1〜20 質量部配合したことを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の高誘電性有彩色エラストマー組成物。
【請求項5】
前記エラストマーの比重が 0.8 〜 1.1 であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の高誘電性有彩色エラストマー組成物。
【請求項6】
前記エラストマーは、スチレン系およびオレフィン系エラストマーの中から選ばれる少なくとも1つのエラストマーであることを特徴とする請求項5記載の高誘電性有彩色エラストマー組成物。
【請求項7】
前記エラストマーがエチレンプロピレンゴムであることを特徴とする請求項6記載の高誘電性有彩色エラストマー組成物。
【請求項8】
高誘電性エラストマー組成物の成形体表面および内部の少なくとも1つの部位に電極を備え、周波数 100 MHz 以上の電気信号を取り扱うための電子部品であって、
前記高誘電性エラストマー組成物が請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の高誘電性有彩色エラストマー組成物であることを特徴とする電子部品。

【公開番号】特開2008−303246(P2008−303246A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149464(P2007−149464)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】