説明

高輝度・広帯域ガラス蛍光体及び、これを用いた光ディバイス

【課題】 複雑工程による高コスト化の問題点を解決し、簡便な方法で作製が可能な高輝度・広帯域で発光する(実用的な青白い蛍光を呈す)ガラス材料及びこれを用いた光ディバイスを提供すること。
【解決手段】 本発明に係るガラス材料は、酸化インジウムもしくは酸化亜鉛もしくは酸化錫あるいはそれらの混合成分を含有し、紫外線の励起により、紫外から可視光線領域に高輝度で広帯域な蛍光を発する。例えば、350nm以下の紫外線の励起により、380から650nmの広帯域に渡り蛍光を発する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高輝度・広帯域に発光可能なガラス蛍光体に関するものである。例えば、薄型ディスプレイの蛍光体や紫外光ディテクタや各種照明の情報関連機器における可視光発光体として利用可能なガラス蛍光体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単色光LED光源の進展とともに、照明系としての白色LEDの実現とそれを利用した各種の照明用途が広がりを見せている、即ち自動車ヘッドレンズの光源、液晶ディスプレイのバックライト等への応用展開が進められている。光情報・通信技術に於いても加工技術の高度化により紫外光を用いたリソグラフィーなど様々な点において紫外光の積極的な利用が進んでいる。その中で、紫外光や放射線ビームの可視化変換や、検出等が重要になってきている。現在、可視化変換材料としてはEu2+やTb3+の希土類を含有した多結晶蛍光体が用いられている。これらは、ランプやブラウン管の蛍光体、蓄光材料として広く実用化されている。
【0003】
しかしながら、これら多結晶蛍光体の作製プロセスは非常に複雑・困難であり、また母体材料が不透明であるため光損失が発生する。またこれら蛍光体を使用する際には、粉末状にした後バインダーを使用して蛍光体を基板上に塗布する方法が採用されている。そのため、蛍光面に凹凸が生じ、均一な膜を形成するのが困難である。また、凹凸が存在することにより蛍光が散乱してしまい、紫外光の可視画像化等においては解像度が劣る等の欠点があった。
【0004】
例えば透明材料を母体とした青色蛍光発光体としては、特開平9−188543号公報に記載されているように、Eu2+をハロゲン化化合物もしくはハロゲン燐酸塩系ガラス中に含有することによって青色発光体とするものである。これにより、効率の高い発光と安定した材料が提供されている。
【0005】
しかしながら、概特許では透明材料としてハロゲンガラスという特殊なガラスを使用する必要があり、また高温還元雰囲気での製造が必要であるため、製造工程が通常の酸化物ガラスと比べて複雑かつ安定に製造することが困難である。
【0006】
これらを解決するため特開2001−270733号公報に示されているようにゾルゲルガラスを用いた低温還元プロセスにおける青色蛍光体が提示されている。しかしながら、これらにおいても還元プロセスが必要となり、通常の酸化物ガラスと比べると製造法が複雑である。
【0007】
また、酸化物ガラスと比較して、耐水性・機械的耐久性の面において不安定である。さらに、希土類元素は蛍光帯域が狭く一つの希土類成分で様々な色を実現することができないのが現状であった。
【0008】
【特許文献1】特開平9−188543
【特許文献2】特開2001−270733
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、複雑工程による高コスト化の問題点を解決し、簡便な方法で作製が可能な高輝度・広帯域で発光する(実用的な青白い蛍光を呈す)ガラス材料及びこれを用いた光ディバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係るガラス材料は、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫の少なくとも1種を含有し、紫外線の励起により、紫外から可視光線領域に高輝度で広帯域な蛍光を発する。例えば、350nm以下の紫外線の励起により、380から650nmの広帯域に渡り蛍光を発する。酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫の少なくとも1種を含有したガラスにおいて、酸素欠陥を生成することにより、発光中心を形成させる。酸化インジウム、酸化亜鉛、または酸化錫、あるいは、これらの混合物を添加によって形成される酸素欠陥は、高輝度・広帯域で発光するため、ガラス中に存在させることにより、無色透明で安定な蛍光体を得ることが可能である。さらに、これら微粒子を析出させることにより、量子サイズ効果を伴う光高効率な発光を実現することも可能である。また、ガラス材料を結晶化させ、結晶化ガラスを作製することにより多重散乱を形成し、輝度を増大させることが可能である。また、これらの成分の共添加により輝度を著しく増大させることが可能となる。
【0011】
酸化インジウムは、バルク体では発光することは無いが、微粒子において酸素欠乏欠陥が生成することにより発光することが、「Thin Solid Films, 1996, 279,1、Appl. Phys. Lett., 1999, 75, 495、Appl.
Phys. Lett.,2001, 79, 839」において報告されている。また、酸化亜鉛については、「CHEMICAL PHYSICS LETTERS,
2003, 375, 113」等において、酸素欠陥の形成によって可視域に発光が観測されることが報告されている。
【0012】
本発明においては、酸化インジウム、酸化亜鉛、又は酸化錫、あるいはこれらの混合物を添加し、酸素欠陥をガラス中に形成させることによって、無色透明で安定な材料を提供することが可能となる。また、これら共添加した系や還元剤を共添加した系においては、酸化還元反応により酸素欠陥を安定に存在させることが可能となる。ガラス材料は成形することが容易なことから、様々な形態を呈した安定な発光材料を提供することが可能となる。
【0013】
さらに、本発明において、ガラス内に新たな結晶相を生成させることによって蛍光を乱反射させることによって発光強度を増大させることが可能であり、生成する結晶の大きさや発生量を制御することによって透過率を制御し、さらに散乱による見掛けの発光強度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施形態を以下の実施例を用いて説明する。
【0015】
[実施例1]
ガラスの組成比が、50In2O3-50P2O5(mol%)になるように、H3PO4およびIn2O3を秤量・混合した。その後、アルミナ坩堝を用いて1350℃、120分の条件で大気中において溶融した。ガラス融液をカーボン板上に流しだし、750℃で1時間徐冷した。
【0016】
得られたガラスを切断し、光学研磨を施した。研磨後、ガラスサンプルを分光光度計により透過率の測定を行った。その結果、図1に示すように、無色透明なガラスサンプルが得られていることが確認された。ガラスサンプルに対し、紫外可視蛍光光度計により紫外線励起蛍光を測定した。キセノンランプから分光した260nmの紫外光によって励起した際、図2に示されるように、300nmから650nmまでの広帯域な黄色味を帯びた発光を観測した。なお、520nmおよび780nmのシャープな発光(他の付図にも共通して見られる)は、励起光の2倍および3倍波であり、蛍光とは異なる。
【0017】
[実施例2]
ガラスの組成比が、47.5In2O3-2.5SnO-50P2O5(mol%)になるように、H3PO4、SnOおよびIn2O3を秤量・混合した。その後、アルミナ坩堝を用いて1350℃、120分の条件で大気中において溶融した。
【0018】
得られたガラスを切断し、光学研磨を施した。研磨後、ガラスサンプルを紫外可視蛍光光度計により紫外線励起蛍光を測定した。キセノンランプから分光した260nmの紫外光によって励起した際、図2の実施例に示されるように、300nmから600nmまでの広帯域な青白い発光を観測した。
【0019】
[実施例3]
ガラスの組成比が、45In2O3-5SnO-50P2O5(mol%)になるように、H3PO4、SnOおよびIn2O3を秤量・混合した。その後、アルミナ坩堝を用いて1350℃、120分の条件で大気中において溶融した。
【0020】
得られたガラスを切断し、光学研磨を施した。研磨後、ガラスサンプルを紫外可視蛍光光度計により紫外線励起蛍光を測定した。キセノンランプから分光した260nmの紫外光によって励起した際、図2中、実施例3に示されるように、300nmから600nmまでの広帯域な青白い発光を観測した。
【0021】
[実施例4]
ガラスの組成比が、40In2O3-10SnO-50P2O5(mol%)になるように、H3PO4、SnOおよびIn2O3を秤量・混合した。その後、アルミナ坩堝を用いて1350℃、120分の条件で大気中において溶融した。本組成によって得られるガラスは、図3に示すようにSnP2O7結晶が均一にガラス中に分散した結晶化ガラスである。本結晶化ガラスは、ガラスを熱処理することなく均一に結晶を分散させることが可能である。
【0022】
得られたガラスを切断し、光学研磨を施した。研磨後、ガラスサンプルを紫外可視蛍光光度計により紫外線励起蛍光を測定した。キセノンランプから分光した260nmの紫外光によって励起した際、図2中、実施例4に示されるように、300nmから600nmまでの広帯域な青白い発光を観測した。
【0023】
[実施例5]
ガラスの組成比が、47.5ZnOO-2.5SnO-50P2O5(mol%)になるように、H3PO4およびZnO、SnOを秤量・混合した。その後、アルミナ坩堝を用いて1350℃、120分の条件で大気中において溶融した。ガラス融液をカーボン板上に流しだし、550℃で1時間徐冷した。
【0024】
得られたガラスを切断し、光学研磨を施した。研磨後、ガラスサンプルを分光光度計により透過率の測定を行った。その結果、図4に示すように無色透明なガラスサンプルが得られていることが確認された。ガラスサンプルを紫外可視蛍光光度計により紫外線励起蛍光を測定した。キセノンランプから分光した260nmの紫外光によって励起した際、図5中、実施例5に示されるように、300nmから650nmまでの広帯域な黄色味を帯びた発光を観測した。発光ピーク位置は、酸化インジウムを含有しているときとは異なっており、酸化インジウムにおける酸素欠陥と酸化亜鉛における酸素欠陥による発光の差異を観測した。
【0025】
[実施例6]
ガラスの組成比が、35ZnO-15SnO-50P2O5(mol%)になるように、H3PO4、SnOおよびZnOを秤量・混合した。その後、アルミナ坩堝を用いて1350℃、120分の条件で大気中において溶融した。本組成によって得られるガラスは、実施例4と同様に、SnP2O7結晶が均一にガラス中に分散した結晶化ガラスである。
【0026】
得られたガラスを切断し、光学研磨を施した。研磨後、ガラスサンプルを紫外可視蛍光光度計により紫外線励起蛍光を測定した。キセノンランプから分光した260nmの紫外光によって励起した際、図5中、実施例6に示されるように、300nmから600nmまでの広帯域な青白い発光を観測した。
【0027】
以上説明したように、本発明によれば、350nm以下の紫外光の励起により、高輝度・広帯域な蛍光を発するガラス材料を得ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のガラス材料は、薄型ディスプレイの蛍光体や光ディテクタ、各種照明の情報関連機器における発光体、ビーム位置確認や、ビーム形状の識別、光ディテクタや紫外光の波長変換材料等に利用できる。
【0029】
例えば、紫外線レーザー加工装置におけるビーム位置確認、ビーム形状識別の目的で使用する場合、安価なCCDカメラでの確認が可能となる。本発明に係るガラス蛍光体は、従来の蛍光体と比べて散乱が著しく小さいため、CCDカメラの前に配置することにより、より分解能の高いビーム形状を得ることが可能となる。
【0030】
また、本発明に係るガラス蛍光体は、蛍光強度が入射光強度に比例することから、紫外線を入射した際の蛍光強度をモニターすることで、光ディテクタとして利用することが可能となる。本発明に係るガラス蛍光体を照明に利用する場合には、光源のカバーガラス等として使用し、照明光のもつ紫外光成分を励起源とし可視化することにより青白い光源発光体として、高効率な照明を実現できるものと考えられる。
【0031】
更に、本発明に係るガラス材料は、結晶(SnP2O7結晶)を均一に分散させることが可能であり、均一に分散した結晶による散乱を利用して、拡散光や透明材料においては指向性を有する光など様々な光を創出するのに利用することが可能となる。本発明に係るガラス蛍光体をディスプレイに適用する場合には、発光体としての利用や、使用しない紫外光成分を用いた表示光や、またディスプレイの補助光として利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、本発明の実施例1に係る蛍光体ガラスの透過率スペクトルを示すグラフである。
【図2】図2は、本発明の実施例1〜実施例4に係る蛍光体ガラスの蛍光スペクトルを示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の実施例4に係る蛍光体ガラスのX線回折パターン及び、結晶の光学顕微鏡像を示す。
【図4】図4は、本発明の実施例5に係る蛍光体ガラスの透過率スペクトルを示すグラフである。
【図5】図5は、本発明の実施例5及び実施例6に係る蛍光体ガラスの蛍光スペクトルを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫の少なくとも1種を含有し、紫外線の励起により、紫外から可視光線領域に高輝度で広帯域な蛍光を発することを特徴とするガラス材料。
【請求項2】
酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫の少なくとも1種を、モル%表記で1〜80%含有することを特徴とする請求項1に記載のガラス材料。
【請求項3】
材料を結晶化させることによって発光強度および透過率を変化させることが可能な請求項1又は2に記載のガラス材料。
【請求項4】
ガラス形成成分としてP2O5を含有することを特徴とする請求項1,2又は3に記載のガラス材料。
【請求項5】
室温において、高輝度・広帯域で発光することを特徴とする請求項1,2,3又は4に記載のガラス材料。
【請求項6】
波長350nm以下の紫外線の励起により300nm〜650nmの広帯域に渡り蛍光を発することを特徴とする請求項1,2,3,4又は5に記載のガラス材料。
【請求項7】
請求項1,2,3,4,5又は6に記載のガラス材料を用いたことを特徴とする光ディバイス。
【請求項8】
前記光ディバイスは、ディスプレイ等の発光を利用した表示ディバイス、紫外線の検知機能を活かしたビーム位置確認素子、ビーム形状の識別、光ディテクタ又は、紫外光の波長変換材料であることを特徴とする請求項7に記載の光ディバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−265012(P2006−265012A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−82850(P2005−82850)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノガラス技術」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(391007851)岡本硝子株式会社 (18)
【Fターム(参考)】