説明

高透明度のアイオノマー組成物及びそれを含む物品

組成物は、前駆体酸コポリマーの中和生成物であるアイオノマーを含む。前駆体酸コポリマーは、2個〜10個の炭素原子を有するα−オレフィンの共重合単位と、前駆体酸コポリマーの総重量に基づき約20〜約30重量%の、3個〜8個の炭素原子を有するα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合体単位とを含み、メルトフローレートは約10〜約4000g/10mmであり、そして約40%〜約90%のレベルまで中和され、かつナトリウムカチオンから実質的になる対イオンを含む場合、前駆体酸コポリマーは、約0.7〜約25g/10mmのメルトフローレート、および検出不可能なまたは約30j/g未満の凍結エンタルピーを有するナトリウムアイオノマーを生成する。さらに、上記アイオノマー組成物を含む物品が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国特許法第120条に基づき、2008年10月31日に出願された米国仮特許出願第61/110,302号、および2008年11月25日に出願された米国仮特許出願第61/117,645号への優先権を主張しており、これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
発明の技術分野
本発明は、特定のアイオノマー組成物、およびそれから作製された物品(例えば、射出成形品)に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明に係る技術分野の最新技術をより完全に説明するために、いくつかの特許および刊行物を、本明細書において引用する。これらの特許および刊行物のそれぞれの開示全体が、参照により本明細書に援用される。
【0004】
アイオノマーは、α−オレフィンの共重合残基とα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合残基とを含む酸コポリマーである、前駆体または親ポリマーのカルボン酸基を部分的または完全に中和することにより製造されるコポリマーである。射出成形法によりアイオノマーから作製された様々な物品が、我々の日常生活において使用されてきた。
【0005】
例えば、アイオノマーカバーを有するゴルフボールが、射出成形により製造されてきた。例えば、米国特許第4,714,253号明細書;米国特許第5,439,227号明細書;米国特許第5,452,898号明細書;米国特許第5,553,852号明細書;米国特許第5,752,889号明細書;米国特許第5,782,703号明細書;米国特許第5,782,707号明細書;米国特許第5,803,833号明細書;米国特許第5,807,192号明細書;米国特許第6,179,732号明細書;米国特許第6,699,027号明細書;米国特許第7,005,098号明細書;米国特許第7,128,864号明細書;米国特許第7,201,672号明細書;ならびに米国特許出願公開第2006/0043632号明細書;米国特許出願公開第2006/0273485号明細書;および米国特許出願公開第2007/028069号明細書を参照されたい。
【0006】
アイオノマーはまた、射出成形中空品(例えば、容器)を製造するためにも使用されてきた。例えば、米国特許第4,857,258号明細書;米国特許第4,937,035号明細書;米国特許第4,944,906号明細書;米国特許第5,094,921号明細書;米国特許第5,788,890号明細書;米国特許第6,207,761号明細書;および米国特許第6,866,158号明細書;米国特許出願公開第2002/0180083号明細書;米国特許出願公開第2002/0175136号明細書;および米国特許出願公開第2005/0129888号明細書、欧州特許第1816147号明細書および欧州特許第0855155号明細書、ならびにPCT特許国際公開第2004/062881号パンフレット;国際公開第2008/010597号パンフレット;および国際公開第2003/045186号パンフレットを参照されたい。
【0007】
射出成形によって製造された容器は、多くの場合、厚肉構造を有する。アイオノマーがそうした射出成形容器を形成する際に用いられる場合、その壁の厚さのせいで、光学特性が損なわれ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アイオノマー組成物で作製され、改善された光学特性を有する容器を開発する必要が、特に化粧品業界においてある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本明細書において、前駆体酸コポリマーの中和生成物であるアイオノマーを含む組成物であって、(A)前駆体酸コポリマーは、2個〜10個の炭素原子を有するα−オレフィンの共重合単位と、前駆体酸コポリマーの総重量に基づき約20〜約30重量%の、3個〜8個の炭素原子を有するα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位とを含み;(B)前駆体酸コポリマーは、約70〜約1000g/10分のメルトフローレートを有し;そして(C)前駆体酸コポリマーは、約40%〜約90%のレベルまで中和され、かつナトリウムカチオンから実質的になる対イオンを含む場合、ナトリウムアイオノマーを生成し、前記ナトリウムアイオノマーは、約0.7〜約25g/10分のメルトフローレート、およびASTM D3418に準拠して示差走査熱分析(DSC)により測定される場合に検出不可能な、または約3.0j/g未満の凍結エンタルピーを有する組成物が提供される。
【0010】
さらに、アイオノマー組成物を含む物品(例えば、射出成形品)が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】先行技術アイオノマーの示差走査熱分析(DSC)測定のトレースである。
【図2】本明細書に記載されるアイオノマーのDSCトレースである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の定義は、特定の場合において別段の限定がない限り、本明細書の全体にわたって使用される用語に適用される。
【0013】
本明細書で使用される科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者により通常理解されている意味を有する。矛盾がある場合は、本明細書における定義をはじめとして、本明細書が優先される。
【0014】
用語「有限量」は、本明細書で使用される場合、ゼロより多くの量をいう。
【0015】
本明細書で使用される場合、用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「含有(する)」、「特徴とする」、「有する(has)」、「有する(having)」、またはそれらのいかなる他の変形も、非排他的な包含を対象として含むことが意図される。例えば、列挙された構成要素を含むプロセス、方法、物品または装置は、必ずしもそれらの構成要素だけに限定されるわけではなく、明示的に列挙されていない他の構成要素、またはそのようなプロセス、方法、物品もしくは装置に固有の他の構成要素を包含し得る。
【0016】
移行句「からなる」は、クレームにおいて特定されていないあらゆる構成要素、工程または成分を除外し、記載された材料(通常それらと関連する不純物を除く)以外の材料の包含に対してクレームを閉鎖する。句「からなる(consists of)」は、プリアンブルの直後ではなくクレームのボディの項目(clause)中に現れる場合、その項目に示された構成要素のみを限定し、他の構成要素がそのクレーム全体から除外されることはない。
【0017】
移行句「から実質的になる(consisting essentially of)」は、クレームの範囲を、特定された材料または工程、および特許請求される発明の1つまたは複数の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさない材料または工程に限定する。「から実質的になる」のクレームは、「からなる」形式で書かれた閉鎖クレームと、「含む(comprising)」形式で作成された完全開放クレームとの間の中立的立場をとる。本明細書に規定されるような任意選択による添加剤であって、そのような添加剤について適切なレベルで、かつ微量の不純物は、用語「から実質的になる」によって組成物から除外されない。
【0018】
組成物、プロセス、構造、または組成物、プロセスもしくは構造の一部が、本明細書において、開放型の用語(例えば「含む(comprising)」)を用いて記載される場合、別段の指定がない限り、この記載は、その組成物、プロセス、構造、またはその組成物、プロセスもしくは構造の一部の構成要素「から実質的になる(consists essentially of)」または「からなる(consists of)」実施形態も包含する。
【0019】
冠詞「a」および「an」は、本明細書に記載される組成物、プロセスまたは構造の、種々の構成要素および構成要件と関連付けて使用され得る。これは単に、便宜上、その組成物、プロセスまたは構造の一般的な意味を与えるためのものにすぎない。そのような記載は、それらの構成要素または構成要件のうちの「1種または少なくとも1種」を包含する。さらに、本明細書で使用される場合、これらの単数冠詞はまた、複数形が除外されることが具体的な文脈から明らかでない限り、複数の構成要素または構成要件の記載も包含する。
【0020】
用語「約」は、量、大きさ、配合、パラメータ、ならびに他の数量および性質が、厳密ではなく、かつ厳密である必要がなく、むしろ許容差、換算係数、四捨五入、測定誤差など、および当業者に公知の他の因子を反映して、おおよそでよく、かつ/または所望される通りより大きくてもより小さくてもよいことを意味している。概して、量、大きさ、配合、パラメータ、または他の数量もしくは性質は、明示的にそのようなものであることが示されていようといまいと「約」または「おおよそ」である。
【0021】
用語「または(もしくは)」は、本明細書で使用される場合、包含的である。すなわち、句「AまたはB」は、「A、B、またはAおよびBの両方」を意味する。より具体的には、条件「AまたはB」は、以下のうちのいずれか1つにより満たされる:Aが真(または存在する)かつBが偽(または存在しない);Aが偽(または存在しない)かつBが真(または存在する);またはAおよびBの両方が真(または存在する)。排他的な「または」は、本明細書において、例えば「AまたはBのいずれか」および「AまたはBのうちの一方」などの用語により明示される。
【0022】
また、本明細書で示される範囲は、別段の明示的な指定がない限り、その端点を含む。さらに、量、濃度、または他の値もしくはパラメータが、ある範囲、1つ以上の好ましい範囲、または上の好ましい値および下の好ましい値の列記として与えられる場合、これは、任意の上方の範囲限界または好ましい値と、任意の下方の範囲限界または好ましい値との任意の対から形成される全ての範囲を、そのような対が別個に開示されているか否かに関わらず、具体的に開示するものとして理解されるべきである。発明の範囲は、ある範囲を規定する際に記載される具体的な値に限定されない。
【0023】
本明細書において、用語「当業者に公知の」、「慣用の」または同義の語句と共に、材料、方法、または機械が記載される場合、この用語は、本願出願時に慣用の材料、方法、および機械が、この記載により包含されることを示す。また、現在のところは慣用されていないが、類似の目的のために好適であると当該技術分野において認められるようになるであろう材料、方法、および機械も包含する。
【0024】
別段の指定がない限り、全ての百分率、部、比、および類似の量は、重量により定義される。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「コポリマー」は、2種以上のコモノマーの共重合の結果もたらされる共重合単位を含むポリマーをいう。これに関連して、コポリマーは、それを構成するコモノマーまたはそれを構成するコモノマーの量に関連して、本明細書において記載され得る(例えば、「エチレンおよび15重量%のアクリル酸を含むコポリマー」または類似の記載)。そのような記載は、コモノマーを共重合単位と呼ばない点;コポリマーの慣用の命名法(例えば、国際純正・応用化学連合(IUPAC)命名法)を含まない点;プロダクト−バイ−プロセスの用語を使用しない点;または別の理由で、非公式と見なされ得る。しかしながら、本明細書で使用される場合、コポリマーについてのそれを構成するコモノマーまたはそれを構成するコモノマーの量に関連しての記載は、そのコポリマーが、特定されたコモノマーの共重合単位を(量が特定されている場合はその特定された量で)含有することを意味する。当然の帰結として、コポリマーは、限定された状況においてそのようなものであることが明示的に示されていなければ、所与のコモノマーを所与の量で含有する反応混合物の生成物ではないということになる。
【0026】
用語「ジポリマー」は、2種のモノマーから実質的になるポリマーをいい、用語「ターポリマー」は、3種のモノマーから実質的になるポリマーをいう。
【0027】
用語「酸コポリマー」は、本明細書で使用される場合、α−オレフィンの共重合単位と、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位とを含み、かつ他の好適な1種または複数種のコモノマー(例えば、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル)の共重合単位を含んでいてよいポリマーをいう。
【0028】
用語「(メタ)アクリル」は、単独または組み合わせた形態(例えば、(メタ)アクリレート」)で、本明細書で使用される場合、アクリルまたはメタクリルであること(例えば、「アクリル酸またはメタクリル酸」または「アルキルアクリレートまたはアルキルメタクリレート」)をいう。
【0029】
最後に、用語「アイオノマー」は、本明細書で使用される場合、カルボン酸塩(例えば、アンモニウムカルボキシレート、アルカリ金属カルボキシレート、アルカリ土類カルボキシレート、遷移金属カルボキシレート、および/またはそのようなカルボキシレートの組み合わせ)であるイオン基を含むポリマーをいう。そのようなポリマーは、一般的に、本明細書で規定されるような酸コポリマーである前駆体または親ポリマーのカルボン酸基を、例えば塩基との反応により、部分的または完全に中和することによって製造される。本明細書で使用されるようなアルカリ金属アイオノマーの例には、亜鉛/ナトリウム混合アイオノマー(すなわち、亜鉛/ナトリウムで中和されている混合アイオノマー)(例えば、共重合メタクリル酸単位のカルボン酸基の全部もしくは一部が亜鉛カルボキシレートおよびナトリウムカルボキシレートの形態にある、エチレンとメタクリル酸とのコポリマー)がある。
【0030】
本明細書において、前駆体酸コポリマーのイオン性の中和された誘導体であるアイオノマーを含むアイオノマー組成物が提供される。前駆体酸コポリマーは、2個〜10個の炭素を有するα−オレフィンの共重合単位と、3個〜8個の炭素を有するα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位とを含む。好ましくは、前駆体酸コポリマーは、前駆体酸コポリマーの総重量に基づき約20〜約30重量%、または約20〜約25重量%の共重合カルボン酸を含む。共重合α−オレフィンの量は、共重合カルボン酸および他のコモノマー(含まれる場合)の量を、前駆体酸コポリマー中のそれらのコモノマーの重量百分率の合計が100重量%となるように補完する。
【0031】
好適なα−オレフィンコモノマーとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテンなど、およびこれらのα−オレフィンのうちの2種以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、α−オレフィンは、エチレンである。
【0032】
好適なα,β−エチレン性不飽和カルボン酸コモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、モノメチルマレイン酸、およびこれらの酸コモノマーのうちの2種以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、および2種以上の(メタ)アクリル酸の組み合わせから選択される。
【0033】
前駆体酸コポリマーは、さらに、他の1種または複数種のコモノマー(例えば、2個〜10個もしくは好ましくは3個〜8個の炭素を有する不飽和カルボン酸またはその誘導体)の共重合単位を含み得る。好適な酸誘導体としては、酸無水物、アミド、およびエステルが挙げられる。エステルが好ましい。不飽和カルボン酸の好ましいエステルの具体例としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸オクチル、アクリル酸ウンデシル、メタクリル酸ウンデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸イソボルニル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、ポリ(エチレングリコール)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)ベヘニルエーテルアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ベヘニルエーテルメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニルエーテルアクリレート、ポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニルエーテルメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)フェニルエーテルアクリレート、ポリ(エチレングリコール)フェニルエーテルメタクリレート、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジブチル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、およびそれらのうちの2種以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいコモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジル、酢酸ビニル、およびそれらのうちの2種以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。しかしながら、好ましくは、前駆体酸コポリマーは、顕著な量では他のコモノマーを組み込まない。
【0034】
前駆体酸コポリマーの組み合わせも、それらのコポリマーの特性が本明細書に記載される範囲内にあれば、好適である。例えば、異なる量の共重合カルボン酸コモノマーまたは異なるメルトインデックスを有する2種以上のジポリマーが使用され得る。また、ジポリマーおよびターポリマーを含む前駆体酸コポリマーの組み合わせが、好適であり得る。
【0035】
前駆体酸コポリマーは、ASTM法D1238に準拠して190℃にて2.16kg荷重下で測定される場合に、約10〜約4000g/10分、約10〜約2500g/10分、約10〜約1400g/10分、約35〜約1200g/10分、約70〜約1000g/10分、約100〜約500g/10分、または約200〜約500g/10分のメルトフローレート(MFR)を有し得る。
【0036】
前駆体酸コポリマーは、反応性コモノマーの各々および1種または複数種の溶媒(該当する場合)が開始剤と一緒に連続的に攪拌反応器中に供給される連続法で合成され得る。開始剤の選択は、その開始剤の分解温度と結び付けて考えられる予想反応器温度範囲に基づき、この選択の基準は、当業界において十分に理解されている。概して、エチレンと酸コモノマーとの共重合により前駆体酸コポリマーを製造するための合成の間、反応温度は、約120℃〜約300℃、または約140℃〜約260℃で維持され得る。反応器中の圧力は、約130〜約310MPa、または約165〜250MPaで維持され得る。
【0037】
反応器は、例えば、オートクレーブ(例えば、米国特許第2,897,183号明細書に記載されるオートクレーブ)であり得る。具体的には、米国特許第2,897,183号明細書は、強力攪拌のための手段を備えたオートクレーブの1種について記載している。これはまた、「実質的に一定の環境」下でのエチレン重合の連続法についても記載している。この環境は、重合反応の間、特定のパラメータ(例えば、圧力、温度、開始剤濃度、およびポリマー生成物と未反応エチレンの比率)を実質的に一定に保つことによって維持される。そのような条件は、種々の任意の連続攪拌槽型反応器(とりわけ、例えば、連続攪拌等温反応器および連続攪拌断熱反応器)において達成され得る。
【0038】
反応混合物は、エチレンコポリマー生成物を含有しており、激しく攪拌され、オートクレーブから連続的に取り出される。結果として生ずるエチレンコポリマー生成物は、この反応混合物が反応容器を出た後に、慣用の手順により(例えば、未重合材料および溶媒を減圧下または高温で蒸発させることにより)揮発性の未反応モノマーおよび溶媒(該当する場合)から分離される。
【0039】
概して、本明細書に記載されるアイオノマーを得るために、重合反応の間、反応器内容物は、実質的に反応器の全体にわたって単一の相が存在することになるような条件下で維持されるべきである。これは、米国特許第5,028,674号明細書に記載されるように、反応器温度を調節することにより、または反応器圧力を調節することにより、または共溶媒の添加により、またはこれらの技術の任意の組み合わせにより達成され得る。慣用の手段が、実質的に反応器の全体にわたって単一の相が維持されているか否かを決定するために用いられ得る。例えば、Haschらは、「High−Pressure Phase Behavior of Mixtures of Poly(Ethylene−co−Methyl Acrylate) with Low−Molecular Weight Hydrocarbons」,Journal of Polymer Science:Part B:Polymer Physics,Vol.30,1365−1373(1992)において、単一相状態と多相状態との間の境界の決定に使用され得る曇り点測定について記載している。
【0040】
本明細書に記載されるアイオノマー組成物において有用なアイオノマーを得るために、前駆体酸コポリマーは、前駆体酸コポリマー中のカルボン酸基が反応してカルボキシレート基を形成するように塩基で中和される。好ましくは、前駆体酸コポリマー基は、非中和の前駆体酸コポリマーについて算出または測定される場合の前駆体酸コポリマーの総カルボン酸含有量に基づき、約20〜約90%、または約30%〜約90%、または約35%〜約90%、または約40%〜約90%、または約40%〜約70%、または約43%〜約60%のレベルまで中和される。
【0041】
任意の安定なカチオンおよび2種以上の安定なカチオンの任意の組み合わせが、アイオノマー中のカルボキシレート基に対する対イオンとして好適であると考えられる。二価および一価のカチオン(例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および一部の遷移金属のカチオン)が好ましい。亜鉛は、好ましい二価カチオンである。一価カチオンがより好ましい。さらにより好ましくは、塩基がナトリウムイオン含有塩基であり、前駆体酸のカルボン酸基の水素原子の約40%〜約90%、または約40%〜約70%、または約43%〜約60%がナトリウムカチオンで置換されたナトリウムアイオノマーをもたらす。
【0042】
本明細書で使用されるアイオノマーを得るために、前駆体酸コポリマーは、任意の慣用の手順(例えば、米国特許第3,404,134号明細書および米国特許第6,518,365号明細書に記載される手順)により中和され得る。
【0043】
前駆体酸コポリマーが、ナトリウムイオン含有塩基によって約40%〜約90%、または約40%〜約70%、または約43%〜約60%の程度まで中和され、中和されたままのナトリウムアイオノマーが、ASTM法D1238に準拠して190℃および2.16kgで測定される場合に、約0.7〜約25g/10分未満、または約0.7〜約19g/10分未満、または約1〜約10g/10分、または約1.5〜約5g/10分、または約2〜約4g/10分のMFRを有し得る。さらに、中和されたままのナトリウムアイオノマーは、MettlerまたはTAにより製造されたDSC装置(例えば、Universal V3.9Aモデル)を使用して、ASTM法D3418に準拠して示差走査熱分析(DSC)により測定される場合に、検出不可能なまたは約3j/g未満もしくは約2j/g未満の凍結エンタルピーを有し得る。用語「検出不可能な」は、この文脈で使用される場合、DSC曲線に何ら識別可能な変曲を生じない凍結エンタルピーを指す。また、ピーク高さが非常に低く、半分の高さでのピーク幅が相対的に広いことがあり、そのため、DSCトレースからベースラインが差し引かれた場合に小さな積分面積を有する幅広いピークが検出不可能または認識不可能なことがある。一般的に、ASTM D3418に従う場合、0.2j/gを下回る凍結エンタルピーは、検出不可能である。
【0044】
本明細書に記載されるアイオノマー組成物は、当該技術分野において公知の任意の好適な添加剤をさらに含有し得る。そのような添加剤としては、可塑剤、加工助剤、流れ向上性添加剤(flow enhancing additive)、流れ低下性添加剤(flow reducing additive)(例えば、有機過酸化物)、滑剤、顔料、染料、蛍光増白剤、難燃剤、耐衝撃性改良剤、成核剤、粘着防止剤(例えば、シリカ)、熱安定剤、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)、UV吸収剤、UV安定剤、分散剤、界面活性剤、キレート化剤、カップリング剤、接着剤、プライマー、強化添加物(例えば、ガラス繊維)、充填剤など、および2種以上の慣用の添加剤の混合物または組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。これらの添加剤は、例えば、Kirk Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,5th Edition,John Wiley & Sons(New Jersey,2004)に記載されている。
【0045】
これらの慣用の成分は、それらが組成物の基本的かつ新規な特徴を損なわず、組成物の性能、または組成物から調製される物品の性能に著しく悪影響を与えない限り、概して0.01〜15重量%、好ましくは0.01〜10重量%の量でその組成物中に含まれ得る。これに関し、そうした添加剤の重量百分率は、本明細書に規定されるアイオノマー組成物の総重量百分率中に含まれない。典型的に、そうした添加剤は、アイオノマー組成物の総重量に基づき0.01〜5重量%の量で含まれ得る。組成物へのそうした慣用の成分の任意選択による組み込みは、任意の公知の方法により(例えば、ドライブレンディングにより、または異なる成分の混合物を押出すことにより、またはマスターバッチ技術によるなどして)実施され得る。この場合もまた、Kirk−Othmer Encyclopediaを参照されたい。
【0046】
重要な添加剤は、熱安定剤、UV吸収剤およびHALSの3種である。熱安定剤が使用され得、当該技術分野において広範に記載されてきた。あらゆる公知の熱安定剤が、本明細書に記載されるアイオノマー組成物において有用性を見出し得る。好ましいクラスの熱安定剤としては、フェノール系酸化防止剤、アルキル化モノフェノール、アルキルチオメチルフェノール、ヒドロキノン、アルキル化ヒドロキノン、トコフェロール、ヒドロキシル化チオジフェニルエーテル、アルキリデンビスフェノール、O−、N−およびS−ベンジル化合物、ヒドロキシベンジル化マロネート、芳香族ヒドロキシベンジル化合物、トリアジン化合物、アミン系酸化防止剤(aminic antioxidant)、アリールアミン、ジアリールアミン、ポリアリールアミン、アシルアミノフェノール、オキサミド、金属奪活剤、ホスファイト、ホスホナイト、ベンジルホスホネート、アスコルビン酸(ビタミンC)、過酸化物を分解する化合物、ヒドロキシルアミン、ニトロン、チオ相乗剤、ベンゾフラノン、インドリノンなど、ならびにそれらのうちの2種以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。アイオノマー組成物は、任意な有効量の1種または複数種の熱安定剤を含有し得る。熱安定剤の使用は任意であり、場合によっては好ましくない。1種以上の熱安定剤が使用される場合、それらは、アイオノマー組成物中に、アイオノマー組成物の総重量に基づき少なくとも約0.05重量%、かつ約10重量%まで、より好ましくは約5重量%まで、さらにより好ましくは約1重量%までのレベルで存在し得る。
【0047】
UV吸収剤が使用され得、これもまた当該技術分野において広範に記載されてきた。任意の公知のUV吸収剤が、本明細書に記載されるアイオノマー組成物において有用性を見出し得る。好ましいクラスのUV吸収剤としては、ベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾフェノン、ヒドロキシフェニルトリアジン、置換および非置換の安息香酸のエステルなど、ならびにそれらのうちの2種以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。アイオノマー組成物は、任意な有効量の1種以上のUV吸収剤を含有し得る。UV吸収剤の使用は任意選択であり、場合によっては好ましくない。1種または複数種のUV吸収剤が使用される場合、それらは、アイオノマー組成物中に、アイオノマー組成物の総重量に基づき少なくとも約0.05重量%、かつ約10重量%まで、より好ましくは約5重量%まで、さらにより好ましくは約1重量%までのレベルで存在し得る。
【0048】
ヒンダードアミン光安定剤が使用され得、これもまた当該技術分野において広範に記載されてきた。概して、ヒンダードアミン光安定剤は、第二もしくは第三、アセチル化、N−ヒドロカルビルオキシ置換、ヒドロキシル置換、N−ヒドロカルビルオキシ置換、または他の置換環状アミンであり、これらはさらに、アミン官能基に隣接した炭素原子上の脂肪族置換から概して誘導される立体障害を組み込んでいる。アイオノマー組成物は、任意な有効量の1種以上のヒンダードアミン光安定剤を含有し得る。ヒンダードアミン光安定剤の使用は任意選択であり、場合によっては好ましくない。1種または複数種のヒンダードアミン光安定剤が使用される場合、それらは、アイオノマー組成物中に、アイオノマー組成物の総重量に基づき、少なくとも約0.05重量%、かつ約10重量%まで、より好ましくは約5重量%まで、さらにより好ましくは約1重量%までのレベルで存在し得る。
【0049】
さらに、本明細書に記載されるアイオノマー組成物を含む物品が提供される。これらのアイオノマー組成物を含むかまたはこれらのアイオノマー組成物から作製された物品は、先行技術アイオノマーから作製された物品よりも、同等またはより優れた光学特性(例えば、ASTM D1003に準拠して測定される場合に同等またはより低い曇り度)を示す。さらに、この改善された光学特性は、物品の加工方法に従う冷却速度の影響を受けない。
【0050】
より具体的には、本明細書に記載されるアイオノマー組成物は、熱可塑性である。したがって、これらの組成物を含む物品は、最も多くの場合、アイオノマーおよびアイオノマー組成物の他の成分を溶融する工程、ならびにそのポリマー溶融体から所望の物品を造形する工程を包含する方法によって形成される。この加工方法の最後に、より厚みのある物品は、熱伝達の制約により、または高価な冷却装置の使用を避ける経済的制約により、より遅い速度で室温まで冷却され得る。しかしながら、一般的に、遅い冷却速度は、アイオノマーの光学特性にとって不都合である。理論に拘束されることを望むものではないが、エチレン酸コポリマーおよびそれらのアイオノマーは、ポリマー鎖の長さに沿ったコモノマーの分布において高度の不均等性(非ランダム性または「ブロック性(blockiness)」を有し得ると考えられる。つまり、これらの材料は、ポリエチレン自体が周知の結晶化傾向を有するのと同様に組織化して結晶を作り得る、連続的に共重合され長く伸びたエチレン残基を含むということである。例えば、Ionic Polymers(L.Holliday編),Halstead,New York,Ch.2(1975)中のLongworth,R.,;およびMorris,B.A.,Chen,J.C.SEP ANTEC,61(Vol.3),3157(2003)を参照されたい。あるサイズより大きい結晶は、それがなければ物品を透過したであろう光を散乱させる。したがって、優れた光学特性(例えば、曇り度および透明度)は、結晶化度が上昇するにつれて低下する。
【0051】
それに対して、本明細書に記載されるアイオノマー組成物は、非常に遅い速度で冷却された場合であっても優れた光学特性を有する。本明細書に記載されるアイオノマーの非常に小さな、またはさらには測定不可能な凍結エンタルピーは、これらのアイオノマーには結晶化傾向が全くない、または顕著な結晶化傾向がない、または非常に低い結晶化傾向があるということの証拠である。この場合もまた、理論に拘束されることを望むものではないが、この好都合な傾向は、本明細書に記載されるアイオノマーのポリマー鎖の長さに沿ったコモノマーの分布におけるより高度な均等性(すなわち、ランダム性または「非ブロック性」)の結果であると考えられる。
【0052】
次に本明細書において提供される物品の説明に戻ると、本物品は、任意の形状または形態(例えば、フィルム、シートまたは成形品)であり得る。
【0053】
1つの実施形態において、物品は、フィルムまたはシートであり、任意の慣用の方法(例えば、浸漬被覆、溶液流延、積層、溶融押出、ブローンフィルム(blown film)、押出被覆、タンデム押出被覆)により、または当業者に公知の他の任意の手順により調製され得る。このフィルムまたはシートは、好ましくは溶融押出、溶融同時押出、溶融押出被覆、ブローンフィルムにより、またはタンデム溶融押出被覆法により形成される。
【0054】
あるいは、本明細書に記載されるアイオノマー組成物を含む物品は、成形品であり、任意の慣用の成形法(例えば、圧縮成形、射出成形、押出成形、吹込成形、射出吹込成形、射出延伸吹込成形、押出吹込成形など)により調製され得る。物品はまた、例えば圧縮成形により形成されたコアが射出成形によってオーバーモールドされる場合のように、これらの方法のうちの2つ以上の組み合わせによっても形成され得る。
【0055】
これらの加工方法についての情報は、例えばKirk Othmer Encyclopedia、the Modern Plastics Encyclopedia,McGraw−Hill(New York,1995)、またはWiley Encyclopedia of Packaging Technology,2d edition,A.L.Brody and K.S.Marsh,Eds.,Wiley−Interscience(Hoboken,1997)などの参考図書において見出され得る。
【0056】
別の代替において、本明細書に記載されるアイオノマー組成物を含む物品は、少なくとも約1mmの最小厚さ(すなわち、物品の最小寸法での厚さ)を有する射出成形品である。好ましくは、射出成形品は、約1mm〜100mm、または2mm〜100mm、または3〜約100mm、または約3〜約50mm、または約5〜約35mmの厚さを有し得る。
【0057】
さらに別の代替において、本物品は、多層構造の形態の射出成型品(例えば、オーバーモールド成形品(over−molded article))であり、その多層構造の少なくとも1層は、上記のアイオノマー組成物を含むかまたは上記のアイオノマー組成物から実質的になり、その層は、少なくとも約1mmの最小厚さを有する。好ましくは、多層物品のその少なくとも1層は、約1mm〜100mm、または2mm〜100mm、または約3〜約100mm、または約3〜約50mm、または約5〜約35mmの厚さを有する。
【0058】
さらに別の代替において、本物品は、シート、容器(例えば、ボトルまたはボウル)、キャップもしくはストッパー(例えば、容器用のもの)、トレー、医療用デバイスもしくは器具(例えば、自動またはポータブル細動除去器ユニット)、ハンドル、ノブ、押ボタン、装飾用品、パネル、コンソールボックス、または履物部材(例えば、ヒールカウンター(heel counter)、先心、またはソール)の形態の射出成形品である。
【0059】
さらに別の代替において、本物品は、さらなる造形工程における使用のための、射出成形された中間物品である。例えば、この物品は、容器(例えば、化粧品容器)を形成するための吹込成形工程における使用に適したプレフォームまたはパリソンであり得る。この射出成形中間物品は、多層構造(例えば、の多層構造)の形態であり得、したがって、多層壁構造を有する容器をもたらし得る。
【0060】
射出成形は、周知の成形法である。本明細書に記載される物品が射出成形品の形態である場合、その物品は、任意の好適な射出成形法により製造され得る。好適な射出成形法としては、例えば、同時射出成形およびオーバーモールド成形が挙げられる。これらの方法は、ツーショット(two−shot)またはマルチショット(multi−shot)成形法と呼ばれることもある。
【0061】
射出成形品がオーバーモールド成形法により製造される場合、アイオノマー組成物は、支持材料、オーバーモールド材料、または両方として使用され得る。特定の物品において、オーバーモールド成形法が使用される場合、本明細書に記載されるアイオノマー組成物は、ガラス、プラスチックまたは金属の容器上にオーバーモールドされ得る。また、アイオノマー組成物は、他の任意の物品(例えば、家庭用品、医療用デバイスもしくは器具、電子デバイス、自動車部品、建築物、スポーツ用品など)の上にオーバーモールドされて、ソフトな触感のかつ/または保護的なオーバーコーティングを形成し得る。オーバーモールド材料が本明細書に記載されるアイオノマー組成物を含む場合、アイオノマーのメルトインデックスは、ASTM D1238に準拠して190℃および2.16kgで測定される場合に、好ましくは、0.1g/10分から、または0.75g/10分から、または5g/10分から、約35g/10分までである。
【0062】
吹込成形の一形態(例えば、射出吹込成形、射出延伸吹込成形および押出吹込成形など)を組み込んだ加工方法において、および本アイオノマー組成物を含む支持体または単層物品において、アイオノマー組成物は、好ましくは、亜鉛カチオンを有するアイオノマーを含む。しかしながら、オーバーモールド成形材料がアイオノマー組成物を含む場合は、アイオノマーは任意の好適なカチオンを含み得る。同様に好ましくは、前駆体酸コポリマーは、ASTM D1238に準拠して190℃および2.16kgで測定される場合に、好ましくは200〜500g/10分のメルトインデックスを有する。また、アイオノマーは、ASTM D1238に準拠して190℃および2.16kgで測定される場合に、好ましくは約0.1〜約2.0g/10分または約0.1〜約35g/10分のメルトインデックスを有する。より具体的には、支持体がアイオノマーを含む場合、アイオノマーは、好ましくは約0.5〜約4g/10分のメルトインデックスを有する。しかしながら、オーバーモールド成形材料がアイオノマーを含む場合は、アイオノマーは、好ましくは0.1g/10分から、または0.75g/10分から、または4g/10分から、または5g/10分から、約35g/10分までのメルトインデックスを有する。
【0063】
アイオノマー組成物は、約120℃〜約250℃、または約130℃〜約210℃の溶融温度で成形され得る。概して、約69〜約110MPaの圧力による低〜中程度の充填速度(fill rate)が使用され得る。金型温度は、約5℃〜約50℃、好ましくは5℃〜20℃、より好ましくは5℃〜15℃の範囲内にあり得る。当業者であれば、特定の種類の物品を製造するために必要とされる適切な成形条件を、アイオノマーの組成および使用されるべき方法の種類に基づき決定し得る。
【0064】
以下の実施例は、さらに詳細に本発明を説明するために提供される。これらの実施例は、本発明を実施するために現在企図されている好ましい態様を示すものであり、本発明を例示することが意図され、本発明を限定することは意図されていない。
【実施例】
【0065】
実施例E1〜E3および比較実施例CE1〜CE16
下記実施例の各々において使用されるアイオノマーを、次のように調製した。先ず、前駆体酸コポリマー(すなわち、エチレンとメタクリル酸との未中和のコポリマー)を、断熱連続攪拌オートクレーブにおいて、以下を除き、米国特許第5,028,674号明細書の実施例1に記載される手順に実質的に従ってフリーラジカル重合により生成した:(1)エチレンとメタクリル酸の比率および開始剤の流量を制御することにより、反応器条件を、約200℃〜約260℃の温度、および170と240MPaの間の圧力で維持した;(2)(CE13以外において)プロパンテロゲンを反応器に供給しなかった;(3)反応器中のメタノールの総濃度を、エチレン、メタクリル酸、メタノールおよび開始剤溶液の総供給量に基づき(またはCE13においてはプロパンテロゲン、エチレン、メタクリル酸、メタノール、および開始剤溶液の総供給量に基づき)約2〜5mol%で維持した;(4)系を安定した状態で維持し、反応器を通って流れる材料の滞留時間を約5秒〜2分とした。また、合成されることになる個々の酸コポリマーに応じ、2つの異なるフリーラジカル開始剤、すなわちtert−ブチルペルアセテートまたはtert−ブチルペルオクトエート(peroctoate)のうちの一方を使用した。tert−ブチルペルアセテートが開始剤である場合(実施例E1、E2、E3、CE1、CE2、CE3、CE13、およびCE15などの場合)は、それを、50%濃度で無臭ミネラルスピリット中の溶液として利用した。tert−ブチルペルオクトエートが開始剤である場合(比較実施例CE4、CE5、CE6、CE7、CE8、CE9、CE10、CE11、CE12、CE14、およびCE16などの場合)は、それを、無臭ミネラルスピリット中90%濃度での混合物として利用した。アイオノマーを、溶融温度を200℃〜270℃に設定した高剪断溶融混練条件下の一軸スクリュー押出機において、または米国特許第6,518,365号明細書の実施例1に記載された一般的方法を用い、エチレンとメタクリル酸との前駆体コポリマーを水酸化ナトリウム溶液で部分的に中和することにより得た。
【0066】
次いで、得られたままのアイオノマーに、ASTM D3418に準拠して、(a)180℃まで加熱し;(b)3分間維持し;(c)10℃/分の速度で25℃まで冷却し;(d)3分間維持し;そして(e)10℃/分の速度で180℃まで加熱するという温度プロファイルを用いて示差走査熱分析(DSC)試験を行った。アイオノマーの凍結エンタルピーを測定した。表1に報告する。その結果は、本明細書に記載されるナトリウムアイオノマー(実施例E1〜E3)の各々の凍結エンタルピーは検出不可能であったが、先行技術アイオノマー(比較実施例CE1〜CE16)の各々は3j/gより大きな凍結エンタルピーを有することを実証している。
【0067】
表1

【0068】
(表1続き)

表1の注釈:
1. 重合工程の間、実質的に反応器の全体にわたって単一の相が維持された。
2. 積層品中間シートを形成するイオノマーを誘導するための前駆体酸コポリマーに含まれる、メタクリル酸の共重合単位の重量%。
3. 前駆体酸コポリマーの溶融流量(MFR)は、イオノマーのMFRに基づいて算出された。
4. 「%中和 (ナトリウム)」は、中和された前駆体酸コポリマーに含まれるカルボン酸基の百分率である。
5. ASTM D1238に準拠して190℃および2.16 kgで測定される場合のイオノマーの溶融流量(MFR)。
6. 「n.d.」は、ASTM D3418-03に準拠して測定される場合に、凍結エンタルピーが検出不可能であることを意味する。
【0069】
さらに、これらのアイオノマーを、表2に示された温度プロファイルに基づき25mm直径Killion押出機に供給し、押出流延してポリマーシートにした。具体的には、スクリュー速度を最大押出量に調節することによりポリマー押出量を制御し、押出機により公称ギャップ2mmの150mmスロットダイに供給し、10℃と15℃の間の温度で維持され1〜2rpmで回転する200mm直径の磨きクロム冷却ロール上にキャストシートを供給した。次いで、公称厚さ0.76mm(30ミル)のシートを取り外し、300×300mm平方に切り分けた。
【0070】
表2

【0071】
アイオノマーシートを、ガラス積層品を形成するための中間シートとして使用した。具体的には、焼きなましガラスシート(100×100×3mm)を、脱イオン水中リン酸三ナトリウム(5g/L)の溶液で50℃にて5分間洗浄し、次いで、脱イオン水で十分にすすぎ、乾燥させた。各アイオノマーの6枚のシート(厚さ約0.76mm)を1つに積み重ね、2片のガラスシートの間に挟んで、総厚さ約180ミル(4.57mm)の中間層を有するプレ積層集成体(pre−lamination assembly)を形成した。アイオノマーシートの水分レベルを、周囲条件(約35%RH)へのそれらの曝露を最小限に抑えることにより0.06重量%未満に維持した。このプレ積層集成体を、数か所にポリエステルテープを貼り付けることにより固定して、各層とガラス片との相対的な配置を維持した。ナイロン布ストリップを集成体の周囲に巻いて、層内からの空気の除去を促進した。
【0072】
プレ積層集成体を、ナイロン減圧バッグの中に入れ、封止した。真空ポンプに接続し、バッグに詰めた集成体内の空気を、バッグ内の気圧を50絶対ミリバール未満まで下げることにより実質的に除去した。次いで、バッグに詰めた集成体を、対流エアオーブンで120℃まで加熱し、この条件で30分間維持した。冷却ファンを使用して集成体を周囲温度近くまで冷却した後、真空源との接続を断ち、バッグを取り除いて、十分に予備プレスされたガラスおよび中間層の集成体を得た。周囲を気密封止したにもかかわらず、集成体のいくつかの領域は、これらの領域における気泡の存在により示されるように、完全には密着していなかった。
【0073】
この予備プレス集成体をエアオートクレーブに入れ、温度および圧力を15分かけて周囲から135℃および13.8バールまで上昇させた。この集成体をこの条件で30分間維持した後、結果として生じた積層品を、周囲圧力で室温まで「急冷」(すなわち2.5℃/分の冷却速度A)した。得られたままの積層品を、Haze−gard Plus透過率計(BYK−Gardner,(Columbia,MD))を用い、ASTM D1003に準拠して、曇り度について試験した。この測定後、同じ積層品をオーブンで120℃まで加熱し、そのような高温で2〜3時間維持し、その後、それを室温まで「徐冷」(すなわち0.1℃/分の冷却速度B)し、次いで、曇り度について試験した。
【0074】
比較実施例(CE1〜CE16)により示されるように、先行技術アイオノマーの中間シートを含むガラス積層品の曇り度レベルは、その積層品を得た際の冷却速度に左右される。一般的に、冷却速度が遅いほど、積層品の曇り度は上昇する。しかしながら、表1により示されるように、本明細書に記載されるアイオノマーから作製された中間シートを含むガラス積層品(実施例E1〜E3)は、先行技術アイオノマーの中間シートを含むガラス積層品(比較実施例CE1〜CE16)よりも低い曇り度を有する傾向がある。さらに、実施例E1〜E3の積層品の曇り度レベルは、その積層品を得た際の冷却速度の影響を受けなかった。
【0075】
実施例E4および比較実施例CE17
実施例4および比較実施例CE17において、それぞれ実施例E3および比較実施例CE2において使用されたアイオノマーを、次のように射出成形して、125×75×3mm(薄い試験片)または125×45×20mm(厚い試験片)の寸法を有する長方形の試験片にした。樹脂を、Model 150−6 HPM射出成形機(Taylor’s Industrial Services,(Mount Gilead,OH))中に供給した。アイオノマーの溶融温度は130℃〜200℃の範囲内であり、金型温度を約10℃の温度で維持した。成形サイクル時間は、およそ90秒であった。これらの「空冷」試験片、成形試験片を金型から取り出し、その成形試験片を周囲条件下で室温(約22±3℃)まで冷却させることにより得た。
【0076】
パーセント曇り度をASTM D1003に準拠して測定した(表3に報告する)後、空冷した薄い試験片をエアオーブンで(125℃の温度で)90分間再加熱し、次いで、0.1℃/分の速度で室温まで冷却した。これらの「徐冷」試験片の曇り度を、ASTM D1003に準拠して測定した。その測定結果を表3に報告する。
【0077】
厚い試験片の透明度を目視により決定し、1(最高透明度)〜5(最低透明度)にランク付けした。この結果も表3に報告する。
【0078】
表3中の結果により再度実証されるように、本明細書に記載されるアイオノマー組成物から作製された成形品は、以前から公知のアイオノマーから作製された成形品と比較して、改善された透明度およびより低い曇り度を示した。さらに、本明細書に記載されるアイオノマー組成物から作製された成形品の曇り度レベルは、その物品を得た際の冷却速度の影響を顕著に受けなかった。
【0079】
表3

【0080】
実施例E5および比較実施例CE18
本発明に従うアイオノマー組成物および先行技術アイオノマーの凍結エンタルピーを、上記の方法に従ってDSCにより測定した。図1は、比較実施例CE18の結果を示している。具体的には、図1は先行技術アイオノマーのDSCトレースであり、アイオノマー試料の熱の流入および流出に対応するピークを明確に示している。これらのピークを積分すると、その材料の凍結エンタルピーまたは結晶化エネルギーが得られる。図2は、実施例E5の結果を示している。具体的には、図2は本明細書に記載されるナトリウムアイオノマーのDSCトレースである。図1に示された結果とは異なり、図2中のDSCトレースは、本明細書に記載されるナトリウムアイオノマーが、ごく小さな、または検出不可能な凍結エンタルピーを有することを示している。
【0081】
本発明の好ましい実施形態のうちの幾つかを上記で説明し、具体的に例示してきたが、本発明をそのような実施形態に限定することを意図するものではない。以下の特許請求の範囲に示される本発明の範囲および精神から逸脱することなく、種々の変更が加えられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前駆体酸コポリマーの中和生成物であるアイオノマーを含むアイオノマー組成物であって:
(A)前記前駆体酸コポリマーは、2〜10個の炭素原子を有するα−オレフィンの共重合単位と、前記前駆体酸コポリマーの総重量に基づき約20〜約30重量%の、3個〜8個の炭素原子を有するα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位とを含み;
(B)前記前駆体酸コポリマーは、約10〜約4000g/10分のメルトフローレートを有し;そして
(C)前記前駆体酸コポリマーは、約40%〜約90%のレベルまで中和され、かつナトリウムカチオンから実質的になる対イオンを含む場合、ナトリウムアイオノマーを生成し、前記ナトリウムアイオノマーは、約0.7〜約25g/10分のメルトフローレート、およびASTM D3418に準拠して示差走査熱分析により測定される場合に検出不可能な、または約3.0j/g未満の凍結エンタルピーを有する
アイオノマー組成物。
【請求項2】
前記前駆体酸コポリマーが、約100〜約500g/10分のメルトフローレートを有するか;または前駆体酸コポリマーが、約20〜約25重量%の、前記α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位を含むか;または前記前駆体酸コポリマー中に存在する約40%〜約70%のカルボン酸基が、ナトリウムイオン含有塩基によって中和されているか;または前記アイオノマーが、約1〜約10g/10分のメルトフローレートを有するか;または前記アイオノマーが、検出不可能な凍結エンタルピーを有する、請求項1に記載のアイオノマー組成物。
【請求項3】
酸コポリマーであって、
(A)2個〜10個の炭素原子を有するα−オレフィンの共重合単位と、前記酸コポリマーの総重量に基づき約20〜約30重量%の、3個〜8個の炭素原子を有するα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の共重合単位とを含み;
(B)前記酸コポリマーは、約10〜約4000g/10分のメルトフローレートを有し;そしてさらに
(C)前記酸コポリマーは、約40%〜約90%のレベルまで中和され、かつナトリウムカチオンから実質的になる対イオンを含む場合、ナトリウムアイオノマーを生成し、前記ナトリウムアイオノマーは、約0.7〜約25g/10分のメルトフローレート、およびASTM D3418に準拠して示差走査熱分析により測定される場合に検出不可能な、または約3.0j/g未満の凍結エンタルピーを有する
酸コポリマー。
【請求項4】
請求項1に記載のアイオノマー組成物もしくは請求項3に記載の前駆体酸コポリマーを含む、または請求項1に記載のアイオノマー組成物もしくは請求項3に記載の前駆体酸コポリマーから製造された物品。
【請求項5】
前記物品が、浸漬被覆、溶液流延、積層、溶融押出、ブローンフィルム、押出被覆、およびタンデム押出被覆からなる群より選択される方法により製造されたフィルムもしくはシートである;または前記物品が、圧縮成形、射出成形、押出成形、吹込成形、同時射出成形;オーバーモールド成形;射出吹込成形;射出延伸吹込成形、および押出吹込成形からなる群より選択される方法によって製造された成形品である、請求項4に記載の物品。
【請求項6】
前記物品が、前記アイオノマー組成物を含むか、もしくは前記アイオノマー組成物から製造される、少なくとも約1mmの最小厚さを有する射出成形品である;または前記物品が、多層構造を有する射出成形品であり、前記多層構造の少なくとも1層が、前記アイオノマー組成物を含むか、もしくは前記アイオノマー組成物から製造され、前記少なくとも1層が、少なくとも約1mmの最小厚さを有する、請求項4または5に記載の物品。
【請求項7】
前記物品が、シート、容器、キャップもしくはストッパー、トレー、医療用デバイスもしくは器具、ハンドル、ノブ、押ボタン、装飾用品、パネル、コンソールボックス、または履物部材である、請求項4〜6のいずれか1項に記載の物品。
【請求項8】
請求項1に記載のアイオノマー組成物から実質的になり、約1〜約100mmの厚さを有する、射出成形により調製された物品。
【請求項9】
前記物品が、オーバーモールド成形により製造され、前記アイオノマーが、約0.75〜約35g/10分のメルトフローレートを有するか;または前記物品が、射出吹込成形、射出延伸吹込成形もしくは押出吹込成形により製造され;前記前駆体酸コポリマーが、約200〜約500g/10分のメルトインデックスを有し;かつ前記アイオノマーが、約0.75〜約35g/10分のメルトフローレートを有する、請求項5に記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−507611(P2012−507611A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534840(P2011−534840)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【国際出願番号】PCT/US2009/062927
【国際公開番号】WO2010/051523
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】