説明

高透過ガラス板およびその製造方法

【課題】SnOを含む透明導電膜付き高透過ガラス板のカレットを、高透過ガラス板の原料として再利用できる高透過ガラス板の製造方法;および鉄およびスズを含んでいるにもかかわらず、可視光透過率および日射透過率が高い高透過ガラス板を提供する。
【解決手段】SnOを含む透明導電膜が表面に形成された高透過ガラス板のカレットを質量百分率表示で0%超80%以下含むガラス原料を溶融し、成形する高透過ガラス板の製造方法であって、成形後の高透過ガラス板が、酸化物基準の質量百分率表示でSbに換算した全アンチモンを0.0001〜0.3%含み、成形後の高透過ガラス板が、JIS R 3106(1998)規定の可視光透過率(A光源によるもの)が、4mm厚さ換算値で91.5%以上であり、JIS R 3106(1998)規定の日射透過率が、4mm厚さ換算値で90.9%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高透過ガラス板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、可視光領域および近赤外線領域の光によって発電できることから、太陽電池用ガラス板(カバーガラス、薄膜太陽電池用ガラス基板)等には、可視光透過率および日射透過率(以下、Teともいう)が充分に高いガラス板が求められている。そのため、太陽電池用ガラス板としては、着色成分(特に鉄)の含有量を極めて少なくして可視光透過率および日射透過率を高くした高透過ガラス板(いわゆる白板ガラス)が用いられる(特許文献1)。
【0003】
しかし、高透過ガラス板であっても、製造上不可避的に混入した鉄が含まれる。よって、高透過ガラス板においては、高透過ガラス板に含まれる全鉄のうち、波長1100nm付近に吸収のピークを有し、波長800nmよりも短い波長にも吸収を有する2価の鉄の割合をできるだけ減らすことが重要となる。
【0004】
ところで、高透過ガラス板を薄膜太陽電池用ガラス基板として用いる場合にはSnOを主成分とする透明導電膜(以下、TCO膜とも記す。)が形成される。ガラスの製造方法にはフロート法、フュージョン法、ダウンドロー法等があり、高透過ガラス板の製造工程の途中にて、TCO膜が形成されることが多い。そして、該TCO膜付き高透過ガラス板の製造工程から発生する不良品もしくは切れ端、または使用済みの薄膜太陽電池から回収されたTCO付き高透過ガラス板は、粉砕してカレット(ガラス屑)とした後、ガラス原料の一部として再利用される。
【0005】
しかし、TCO膜付き高透過ガラス板のカレットにはTCO膜からのSnOが多く含まれるため、該カレットを含むガラス原料を溶融し、成形して得られたガラス板にもスズが含まれることになる。そして、ガラス板にスズが含まれる場合、ガラス板に含まれる全鉄のうちの2価の鉄の割合(いわゆるRedox)が増加してしまい、可視光透過率および特に日射透過率が低下してしまう。このRedoxの上昇は主にガラスの冷却過程において進行する。
そのため、TCO膜付き高透過ガラス板のカレットは、高透過ガラス板のガラス原料としては再利用できず、着色ガラスのガラス原料として再利用されている。
【0006】
なお、高透過ガラス板用のガラス組成物としては、酸化物基準の質量百分率表示で、Feに換算した全鉄:0.04%以下、Sbに換算した全アンチモン:0.05〜0.5%を含み、Feに換算した全鉄中のFeに換算した2価の鉄の質量割合が、5〜20%であるものが知られている(特許文献2)。
しかし、該ガラス組成物は、ロールアウト法と呼ばれる製造方法で作成される型板ガラス用のものであって、フロート法、フュージョン法、ダウンドロー法等に用いられるものではない。そのため、ロールアウト法では、ガラス製造工程の途中にTCO膜を形成することがない。それ故、カレットとして再利用する際にスズが混入することもなく、上述したスズによる問題も生じることはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−228450号公報
【特許文献2】特開2007−238398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、TCO膜付き高透過ガラス板のカレットを、高透過ガラス板の原料として再利用できる高透過ガラス板の製造方法;および鉄およびスズを含んでいるにもかかわらず、可視光透過率および特に日射透過率が高い高透過ガラス板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の高透過ガラス板の製造方法は、SnOを含む透明導電膜が表面に形成された高透過ガラス板のカレットを質量百分率表示で0%超80%以下含むガラス原料を溶融し、成形する高透過ガラス板の製造方法であって、
成形後の高透過ガラス板が酸化物基準の質量百分率表示でSbに換算した全アンチモンを0.0001〜0.3%含み、
成形後の高透過ガラス板が、
JIS R 3106(1998)規定の可視光透過率(A光源によるもの)が、4mm厚さ換算値で91.5%以上であり、
JIS R 3106(1998)規定の日射透過率が、4mm厚さ換算値で90.9%以上であることを特徴とする。
【0010】
成形後の高透過ガラス板は、酸化物基準の質量百分率表示で、
SiO :65〜80%、
Al :0〜5%、
MgO :0〜12%、
CaO :0〜15%、
NaO :5〜20%、
O :0〜10%、
NaO+KO :5〜20%、
SOに換算した全硫黄 :0.05〜0.5%、
Feに換算した全鉄 :0〜0.04%、
Sbに換算した全アンチモン:0.0001〜0.3%、
SnOに換算した全スズ :0.005〜0.2%を含み、
Feに換算した全鉄中のFeに換算した2価の鉄の質量割合が、30%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の高透過ガラス板は、酸化物基準の質量百分率表示で、
SiO :65〜80%、
Al :0〜5%、
MgO :0〜12%、
CaO :0〜15%、
NaO :5〜20%、
O :0〜10%、
NaO+KO :5〜20%、
SOに換算した全硫黄 :0.05〜0.5%、
Feに換算した全鉄 :0〜0.04%、
Sbに換算した全アンチモン:0.0001〜0.3%、
SnOに換算した全スズ :0.005〜0.2%を含み、
Feに換算した全鉄中のFeに換算した2価の鉄の質量割合が、30%以下であり、
JIS R 3106(1998)規定の可視光透過率(A光源によるもの)が、4mm厚さ換算値で91.5%以上であり、
JIS R 3106(1998)規定の日射透過率が、4mm厚さ換算値で90.9%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の高透過ガラス板の製造方法によれば、TCO膜付き高透過ガラス板のカレットを、高透過ガラス板の原料として再利用できる。
本発明の高透過ガラス板は、鉄およびスズを含んでいるにもかかわらず、可視光透過率および特に日射透過率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例におけるRedoxとTeの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の高透過ガラス板は、たとえば、下記の工程(i)〜(vi)を順に経て製造される。
(i)目標とする組成になるように、各種のガラス母組成原料、カレット、清澄剤等を混合し、ガラス原料を調製する。
(ii)ガラス原料を溶融させて溶融ガラスとする。
(iii)溶融ガラスを清澄した後、フロート法、フュージョン法、ダウンドロー法等により所定の厚さのガラス板に成形する。
(iv)必要に応じて、ガラス板の表面にTCO膜を形成する。
(v)ガラス板を冷却する。
(vi)ガラス板を所定の大きさに切断する。
【0015】
工程(i):
ガラス母組成原料としては、珪砂等、通常のソーダライムシリカガラスの原料として用いられているものが挙げられる。
【0016】
本発明においては、カレットの一部または全部として、TCO膜付き高透過ガラス板のカレットを用いる。
TCO膜付き高透過ガラス板のカレットの割合は、質量百分率表示で、ガラス原料(100%)のうち、0%超80%以下である。TCO膜付き高透過ガラス板のカレットの割合が80%以下であれば、TCO膜から混入してくる酸化スズの割合を低く抑えることができ、ガラス組成の異なる他のガラスのカレットが不純物として混ざっていてもカレットリサイクルの過程で混入してくる鉄分を低く抑えることができ、また目的の組成のガラスに調整できる。TCO膜付き高透過ガラス板のカレットの割合は、原料バッチコストを低減させ、かつ清澄性を高めて良好な泡品質のガラスを得るという点から、質量百分率表示で20〜80%が好ましく、30〜70%がより好ましい。
【0017】
清澄剤としては、Sb、SO等が挙げられる。
本発明においては、成形後の高透過ガラス板が、酸化物基準の質量百分率表示でSbに換算した全アンチモンを0.0001〜0.3%含むように、前記ガラス原料に、Sb、Sb、NaSbO等の酸化物、SbCl、SbCl、SbF、SbF等のハロゲン化物等の形でアンチモン成分を添加する。この際、酸化剤としてNaNO等の硝酸塩を同時に添加してもよい。アンチモンは、酸化剤および清澄剤として作用するが、本発明における目的のように高い透過率を得るためだけの目的であれば、特に硝酸塩は必要としないため、バッチコストを低く抑えたい場合にはむしろ硝酸塩は添加しない方が望ましい。Sbに換算した全アンチモンの含有量が0.0001%以上であれば、Feに換算した全鉄中のFeに換算した2価の鉄の質量割合が30%以下に抑えられる。フロート法で成形した場合、Sbに換算した全アンチモンの含有量が0.3%以下であれば、成形後の高透過ガラス板の白濁が抑えられる。Sbに換算した全アンチモンの含有量は、酸化物基準の質量百分率表示で0.01〜0.25%が好ましく、0.03〜0.2%がより好ましい。フロート法で成形する場合には、0.15%以下にすることが望ましい。
【0018】
工程(ii):
ガラス原料の溶融は、たとえば、ガラス原料を連続的に溶融窯に供給し、重油、ガス、電気等により約1500℃に加熱することによって行われる。
【0019】
以上のようにして得られる高透過ガラス板は、Feに換算した全鉄中のFeに換算した2価の鉄の質量割合(以下、Redoxと記す。)が30%以下に抑えられ、その結果、JIS R 3106(1998)規定の可視光透過率(A光源によるもの)(以下、Tvと記す。)が4mm厚さ換算値で91.5%以上であり、かつJIS R 3106(1998)規定の日射透過率が4mm厚さ換算値で90.9%以上であるガラス板となる。
【0020】
成形後の高透過ガラス板は、下記の組成を有するソーダライムシリカガラスからなることが好ましい。
酸化物基準の質量百分率表示で、
SiO :65〜80%、
Al :0〜5%、
MgO :0〜12%、
CaO :0〜15%、
NaO :5〜20%、
O :0〜10%、
NaO+KO :5〜20%、
SOに換算した全硫黄 :0.05〜0.5%、
Feに換算した全鉄 :0〜0.04%、
Sbに換算した全アンチモン:0.0001〜0.3%、
SnOに換算した全スズ :0.005〜0.2%、
を含む。
【0021】
SiOはガラスの主成分であり、含有量が65%未満では、ガラスの安定性が低下する。SiOの含有量が80%を超えるとガラスの溶解温度が上昇し、溶解できなくなるおそれがある。SiOの含有量は、酸化物基準の質量百分率表示で68〜76%が好ましく、70〜74%がより好ましい。
【0022】
Alは、耐候性を向上させる成分である。
Alの含有量が0%以上であり、0.1%以上であれば、耐候性が良好となるが、Alの含有量が5%を超えると溶解性が悪化する。Alの含有量は、酸化物基準の質量百分率表示で0.3〜3%が好ましく、0.5〜2.5%がより好ましい。
【0023】
MgOはガラス原料の溶融を促進し、また粘性、熱膨張係数等を調整する成分である。
MgOの含有量が12%超となると失透温度が上昇する。MgOの含有量は、酸化物基準の質量百分率表示で1〜10%が好ましく、2〜8%がより好ましい。
【0024】
CaOはガラス原料の溶融を促進し、また粘性、熱膨張係数等を調整する成分である。
CaOの含有量が15%超となると失透温度が上昇する。CaOの含有量は、酸化物基準の質量百分率表示で2〜12%が好ましく、4〜10%がより好ましい。
【0025】
NaOはガラス原料の溶融を促進する必須成分である。
NaOの含有量が20%を超えるとガラスの耐候性および安定性が悪化する。5%未満ではガラスの溶解が困難になる。NaOの含有量は、酸化物基準の質量百分率表示で8〜16%が好ましく、10〜15%がより好ましい。
【0026】
Oは必須ではないが、ガラス原料の溶融を促進し、熱膨張、粘性等を調整する成分である。
Oの含有量が10%を超えるとガラスの耐候性および安定性が悪化する。また、バッチコストが上昇してしまう。KOの含有量は、酸化物基準の質量百分率表示で0〜5%が好ましく、0〜2%がより好ましい。
【0027】
NaO+KOの含有量が5%未満だと、溶解性が悪化する。また、20%を超えるとガラスの耐候性および安定性が悪化する。NaO+KOの含有量は、酸化物基準の質量百分率表示で8〜18%が好ましく、10〜15%がより好ましい。
【0028】
本発明の高透過ガラス板は、清澄剤としてSOを含んでいてもよい。SOに換算した全硫黄の含有量は、酸化物基準の質量百分率表示で0.5%以下が好ましい。SOに換算した全硫黄の含有量が0.5%を超えると、ガラス融液が冷却される過程でリボイルが発生し泡品質が悪化するおそれがある。0.05%未満であると、十分な清澄効果が得られない。SOに換算した全硫黄の含有量は、酸化物基準の質量百分率表示で0.1〜0.4%がより好ましく、0.1〜0.3%がさらに好ましい。
【0029】
Feは製造上不可避的に混入した着色成分である。
Feに換算した全鉄の含有量が0.04%以下であれば、Tvの低下が抑えられる。特に、太陽電池用ガラス板としてはFeに換算した全鉄の含有量は、酸化物基準の質量百分率表示で0.02%以下が好ましく、0.015%以下がより好ましく、0.01%以下がさらに好ましい。
【0030】
本明細書においては、全鉄の含有量を標準分析法にしたがってFeの量として表しているが、ガラス中に存在する鉄がすべて3価の鉄として存在しているわけではない。通常、ガラス中には2価の鉄が存在している。2価の鉄は波長1100nm付近に吸収のピークを有し、波長800nmよりも短い波長にも吸収を有し、3価の鉄は波長400nm付近に吸収のピークを有する。2価の鉄の増加は上述の1100nm前後の近赤外域の吸収の増加になり、これをTeで表現するとTeが減少することを意味する。そのため、Tv、Teについて着目した場合、Feに換算した全鉄の含有量を抑えることで、Tvの低下を抑え、Teに着目した場合、2価の鉄よりも3価の鉄が多い方が好ましい。したがって、Tv、Teの低下を抑える点では、全鉄量を減らし、Redoxを低く抑えることが好ましい。
【0031】
本発明の高透過ガラス板におけるRedoxは、30%以下である。Redoxが30%以下であれば、Teが低く抑えられる。Redoxは、20%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。
【0032】
SnOは、ガラス原料の一部としてTCO膜付きカレットを用いることによって製造上不可避的に混入する不純物である。
高い透過率を得るためには、SnOに換算した全スズのガラス中の含有量が0.2%以下であることが必要である。ただし、0.005%未満に抑えるためにはTCO膜付き高透過ガラス板のカレットの使用割合を低く抑える必要があり、原料コストが高くなってしまう。
【0033】
Sbは、成形後の高透過ガラス板におけるRedoxを低く抑える成分である。また、Sbを添加したガラスのRedoxはガラスの冷却条件に依存しなくなるため、ガラス溶融窯の容量、形状の変化により、冷却速度が遅くなってしまってもRedoxの上昇を抑えることができる。
Sbに換算した全アンチモンの含有量が0.0001%以上であれば、Redoxが30%以下に抑えられる。Sbに換算した全アンチモンの含有量が0.3%を超えると原料コストが上昇してしまう。また、フロート成形の場合にはSbに換算した全アンチモンの含有量が0.3%を超えると成形後の高透過ガラス板が白濁してしまう。Sbに換算した全アンチモンの含有量は、酸化物基準の質量百分率表示で0.01〜0.25%が好ましく、0.03〜0.2%がより好ましい。フロート法で成形する場合には0.15%以下にすることが望ましい。
【0034】
本発明の高透過ガラス板は、着色成分である、TiO、CoO、Cr、V、MnOを実質的に含まないことが好ましい。TiO、CoO、Cr、V、MnOを実質的に含まないとは、TiO、CoO、Cr、V、MnOをまったく含まない、または、TiO、CoO、Cr、V、MnOを製造上不可避的に混入した不純物として含んでいてもよいことを意味する。TiO、CoO、Cr、V、MnOを実質的に含まなければ、Tv、Teが低く抑えられる。
【0035】
本発明の高透過ガラス板のTe(4mm厚さ換算)は、90.9%以上であり、91.0%以上が好ましい。Teは、JIS R 3106(1998)(以下、単にJIS R 3106と記す。)にしたがい分光光度計により透過率を測定し算出された日射透過率である。
【0036】
本発明の高透過ガラス板のTv(4mm厚さ換算)は、91.5%以上であり、91.6%以上が好ましい。Tvは、JIS R 3106にしたがい分光光度計により透過率を測定し算出された可視光透過率である。係数は標準の光A,2度視野の値を用いる。
【0037】
本発明の高透過ガラス板は、太陽電池用ガラス板として好適である。太陽電池用ガラス板として用いる場合は、カバーガラスとして用いてもよく、薄膜太陽電池用ガラス基板として用いてもよい。
【0038】
以上説明した本発明の高透過ガラス板の製造方法にあっては、TCO膜が表面に形成された高透過ガラス板のカレットを質量百分率表示で0%超80%以下含むガラス原料を溶融し、成形する高透過ガラス板の製造方法において、成形後の高透過ガラス板が、酸化物基準の質量百分率表示でSbに換算した全アンチモンを0.0001〜0.3%含むように、前記ガラス原料にアンチモン成分を添加しているため、Redoxが低く抑えられる。その結果、鉄およびスズを含んでいるにもかかわらず、Teが充分に高い高透過ガラス板が得られる。このように、本発明の高透過ガラス板の製造方法によれば、TCO膜付き高透過ガラス板のカレットを、高透過ガラス板の原料として再利用できる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
例4〜12は実施例であり、例2、3は比較例であり、例1は参考例である。
【0040】
(Redox)
得られたガラス板について、下式(1)を用いてRedoxを算出した。
Redox(%)=−loge(T1000nm/91.4)/(Fe量×t×20.79)×100 ・・・(1)。
ただし、
1000nmは、分光光度計(Perkin Elmer社製、Lambda950)により測定した波長1000nmの透過率(%)であり、
tは、ガラス板の厚さ(cm)であり、
Fe量は、蛍光X線測定によって求めた、Feに換算した全鉄の含有量(%=質量百分率)である。
【0041】
(Tv)
得られたガラス板について、JIS R3106規定の可視光透過率(Tv)(A光源によるもの)を4mm厚さ換算値で求めた。
【0042】
(Te)
得られたガラス板について、JIS R3106規定の日射透過率(Te)を4mm厚さ換算値で求めた。
【0043】
〔例1、3〜5、7〜21〕
溶融条件A:
表1、表2に示す組成となるように、珪砂等の各種のガラス母組成原料、TCO膜付き高透過ガラス板のカレット、Sb、酸化剤(NaNO)、清澄剤(SO)を混合し、ガラス原料を調製した。ガラス原料をるつぼに入れ、電気炉中で1500℃で3時間加熱し、溶融ガラスとした。溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、冷却した。両面を研磨し、厚さ4mmのガラス板を得た。ガラス板について、分光光度計(Perkin Elmer社製、Lambda950)を用いて1nmごとに透過率を測定し、Redox、Tv、Teを求めた。結果を表1、表2に示す。
【0044】
〔例2、6〕
溶融条件B:
表1に示す組成となるように、珪砂等の各種のガラス母組成原料、TCO膜付き高透過ガラス板のカレット、Sb、酸化剤(NaNO)、清澄剤(SO)を混合し、ガラス原料を調製した。ガラス原料をるつぼに入れ、電気炉中で1500℃で3時間加熱し、ついで、1100℃まで2時間かけて降温し、1100℃で1時間保持して溶融ガラスとした。溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、冷却した。両面を研磨し、厚さ4mmのガラス板を得た。ガラス板について、分光光度計(Perkin Elmer社製、Lambda950)を用いて1nmごとに透過率を測定し、Redox、Tv、Teを求めた。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
表中、仕込み量および組成の[%]は、質量百分率表示である。
例4〜12の本発明の高透過ガラス板は、SbによってRedoxが低く抑えられ、Teが、TCO膜付き高透過ガラス板のカレットを用いていない例1に近い値を示した。
例2、3のガラス板は、Sbを含まないため、Redoxが高くなり、Teが低下した。例2のガラスが特に高いRedox値を示している。これは、SnOによるRedoxの上昇はガラスの冷却過程で進行しており、例2はガラスの冷却速度が遅いためである。例6では例2同様にガラスの冷却速度が遅いが、Sbを添加しているためにRedoxの上昇が起きていないことがわかる。このようにSbを添加すると冷却条件を気にすることなく低Redoxのガラスを得ることができる。
【0048】
図1は、表1、2におけるRedoxとTeの関係をグラフに表わしたものである。
例1(スズ、アンチモンを含まない)を参考例、
例2、3(スズを含み、アンチモンを含まない)を比較例、
例4〜12(スズ、アンチモンを含む)を実施例として示している。
【0049】
スズを含有しない組成の参考例では、Redoxが12.7%と低く、またTeは91.2%と高い。スズを含み、アンチモンを含まない比較例では、Redoxが23%以上と高くなり、Teは90.8%より低くなっている。本発明のスズとアンチモンを含む組成は、Redoxの値が9.5%から22.6%と低い範囲を取ることができ、その結果Teも高くなる。
【0050】
従来、TCO膜付き高透過ガラス板をリサイクルした際に混入するスズによりRedoxが高くなり、その結果、2価の鉄の吸収波長帯の近赤外域の光がガラスに吸収される。近赤外域の光がガラスを透過する量を簡易的にTeで表現すると、上記の従来のリサイクル組成ではTeが低下する。
【0051】
本発明では、図1のグラフのようにスズを含んでも、アンチモン成分を添加することによってRedoxの低くすることができ、その結果Teが高いガラスを得ることができる。Teが高い、つまり近赤外域の吸収が少ないために、近赤外域の光で発電効率のよい結晶系のシリコン発電層を持つ太陽電池基板として好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の高透過ガラス板の製造方法は、TCO膜付き高透過ガラス板のカレットを、高透過ガラス板の原料として再利用できる方法として有用である。
特にガラス製造工程の途中にTCO膜を形成するフロート法において、ガラス製造工程で酸化スズを含むTCO膜を成膜する工場において、製造中に発生するTCO膜付きカレットガラスを原料に再利用することができる。この同じ工場内でのカレットの処理は、カレットの収集、移動に係るコストが安くでき、またカレットに混入する不純物を低減することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SnOを含む透明導電膜が表面に形成された高透過ガラス板のカレットを質量百分率表示で0%超80%以下含むガラス原料を溶融し、成形する高透過ガラス板の製造方法であって、
成形後の高透過ガラス板が酸化物基準の質量百分率表示でSbに換算した全アンチモンを0.0001〜0.3%含み、
成形後の高透過ガラス板が、
JIS R 3106(1998)規定の可視光透過率(A光源によるもの)が、4mm厚さ換算値で91.5%以上であり、
JIS R 3106(1998)規定の日射透過率が、4mm厚さ換算値で90.9%以上である、
高透過ガラス板の製造方法。
【請求項2】
成形後の高透過ガラス板が、酸化物基準の質量百分率表示で、
SiO :65〜80%、
Al :0〜5%、
MgO :0〜12%、
CaO :0〜15%、
NaO :5〜20%、
O :0〜10%、
NaO+KO :5〜20%、
SOに換算した全硫黄 :0.05〜0.5%、
Feに換算した全鉄 :0〜0.04%、
Sbに換算した全アンチモン:0.0001〜0.3%、
SnOに換算した全スズ :0.005〜0.2%を含み、
Feに換算した全鉄中のFeに換算した2価の鉄の質量割合が、30%以下である、請求項1に記載の高透過ガラス板の製造方法。
【請求項3】
酸化物基準の質量百分率表示で、
SiO :65〜80%、
Al :0〜5%、
MgO :0〜12%、
CaO :0〜15%、
NaO :5〜20%、
O :0〜10%、
NaO+KO :5〜20%、
SOに換算した全硫黄 :0.05〜0.5%、
Feに換算した全鉄 :0〜0.04%、
Sbに換算した全アンチモン:0.0001〜0.3%、
SnOに換算した全スズ :0.005〜0.2%を含み、
Feに換算した全鉄中のFeに換算した2価の鉄の質量割合が、30%以下であり、
JIS R 3106(1998)規定の可視光透過率(A光源によるもの)が、4mm厚さ換算値で91.5%以上であり、
JIS R 3106(1998)規定の日射透過率が、4mm厚さ換算値で90.9%以上である、
高透過ガラス板。

【図1】
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【公開番号】特開2011−162379(P2011−162379A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25342(P2010−25342)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】