説明

高速フライホイールシール

シャフト(4)に取り付けられた高速フライホイールに用いるシール(2)であって、2つのハウジング部(6,8)及びハウジング部の間に形成される空洞(30)と、空洞の両側に設けられ、シャフトと接触して取り囲むリップシール(20,22)とを有し、注入ニップル(36)を介して空洞内に油性流体を注入することができ、且つ、流体を注入する間、ブリードニップル(38)を介して空洞から空気を排出することができ、それにより、流体がシャフトに対する気密シールを形成することが可能なシール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフライホイールに関するものであり、特に、車両に使用される高速フライホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
フライホイールは、一般的に、シャフトに取り付けられ、シャフトと共に回転するように構成された比較的重量の大きいマスを備える。車両におけるフライホイールの利用は、例えば車両の加速又は減速を助けるものとして知られている。また、エネルギー蓄積のためにフライホイールを用いることも知られており、フライホイールの運動エネルギーが電気エネルギーに変換される。フライホイールの運動エネルギーは、回転慣性と角速度の2乗とに正比例する。車両におけるエネルギー蓄積を目的としてフライホイールを使用する場合、質量、慣性、及び回転速度の最適バランスを実現する必要がある。フライホイールをより高速に回転させることができれば、より小型且つ軽量で所定の蓄積容量が得られる。
【0003】
高速フライホイールは、通常、抵抗によるエネルギー損失を抑制し、周囲空気との摩擦によりフライホイールの温度が過度に上昇するのを防ぐため、真空にされた容器に収容される。
【0004】
フライホイールが真空ハウジングに収容されるとき、ハウジング内を真空に維持できるように、ハウジングとシャフトとの間にシールを設ける必要がある。フライホイールを支持するシャフトに用いられるシールとして現在知られているものは、20,000rpm以下で回転するシャフトでの使用にしか適さない。
【0005】
フライホイールシャフト用のシールとして現在知られているものの一例は、油性流体に鉄粒子を添加し、流体をシャフト周囲の環状部に保持するために磁石を設けた、磁性流体シールである。流体は、フライホイールのハウジング内を真空に維持するための気密シールを形成する。
【0006】
磁性流体シールの効率は、流体の粘度を増大させる流体への鉄粒子の添加によって制限される。さらに、シャフトを特定グレードのステンレス鋼で形成する必要があるため、シャフトの強度に制限が加わる。フライホイールの動作時の抵抗及び発熱を最小限に抑えるためにはシャフトの直径を最小限にすることが望ましいが、所定のシャフト材料では、その直径は、フライホイールを支持するため及び/又は所望のトルクを伝達するために十分な強度を有するシャフトにするだけの大きさでなければならない。
【0007】
さらに、現在知られているフライホイールシールは、フライホイールが高速で動作するとき、発生した熱を十分に放散できないために、しばしば過熱するという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高速で、すなわち20,000以上で回転しているフライホイール及びシャフトの間にシールを設け、フライホイールハウジング内を真空に維持し得るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明は、添付されている請求の範囲の請求項1に記載されるような高速フライホイール用のシールを提供する。
【0010】
本発明の利点は、シール流体が効果的に冷却され、過熱する可能性が低くなるため、シールが、20,000rpmを超える速度で動作するフライホイールに使用可能になる点である。当然ながら、シールは、より低い速度でも機能する。
【0011】
本発明においては、トルク伝達シャフトの材料が特定グレードのステンレス鋼に限られない。従って、高強度の材料を用いることができるため、シャフトの直径を最小限にして抵抗及び発熱を最小限に抑えることが可能になり、結果として、フライホイールの効率が向上し、シールが過熱する可能性が低くなる。
【0012】
さらに、本発明において用いられるシール流体は、鉄粒子の添加を必要としないため、現在知られている流体よりも粘度の低い流体を用いることができる。
【0013】
流体は、本来の位置で、すなわちフライホイールがシャフトに取り付けられた時点で、注入ニップルを介してシールの空洞に注入することができる。空洞に流体が注入される間、ブリードニップルを介して空洞から空気が排出される。
【0014】
シールは、孔が設けられた挿入体を含むことが好ましく、孔の寸法が環状の空洞の体積を決定し、従って、空洞を満たすために注入されるべき油の量を決定する。孔は円形であるのが好ましく、挿入体の外径に対して偏心するように、従って、フライホイールを支持するシャフトに対して偏心するように、形成してもよい。その結果、流体空洞もシャフトに対して偏心した状態になり、フライホイールの動作時に流体の流動を誘起するという利点があり、それにより、流体とハウジングとの間の熱伝導が向上し、シールが過熱する可能性が低くなる。
【0015】
シールの第1ハウジング部にピストンを設けてもよい。ピストンは、フライホイールの動作時に流体が加熱されて膨張すると、それに従って移動することが可能であり、その結果、加熱に伴って流体内の圧力が過度に上昇することを防止する。ピストンはまた、シール内側の圧力と外気圧とのバランスを取る働きをし、それにより、第1のリップシールでの圧力降下をなくしている。その結果、シール内の圧力が周囲圧力と等しくなるため、シールの空洞への外気の漏れが生じない。
【0016】
本発明において用いられる流体は、真空のフライホイールコアの圧力で蒸発しないことが好ましい。従って、流体が真空のフライホイールコアに浸出してしまった場合に、流体は真空のフライホイールコア内で蒸発しないため、真空度の低下は起こらない。
【0017】
シールのハウジングは、熱伝導率の良いアルミニウム等の軽合金で製造することができる。重さが重要でない場合は、銅等の熱伝導率の良い他の材料を用いてもよい。従って、軽合金より熱伝導率の低い、磁石及びスチールで囲まれる、現在知られている磁性流体型シールに比べて、シール流体の冷却効率が良くなる。
【0018】
リップシールは、PTFEを含むポリマーブレンドで形成されたシールリップを備えるものであってもよい。
【0019】
以下、本発明の実施形態を、例として、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明によるフライホイールシールの側面図。
【図2】図1のフライホイールシールのII−II線断面図。
【図3】図2のフライホイールシールのIII−III線断面図。
【図4】本発明によるフライホイールシールの別の実施形態の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図2を参照すると、シール2は、トルク伝達シャフト4に対して気密シールを提供する。当該シールは、第1のハウジング部6と第2のハウジング部8とで形成される軽合金ハウジングを備える。第1のハウジング部6及び第2のハウジング部8は相補的な段付き形状10,12を有し、第1のハウジング部6が第2のハウジング部8に収まるようになっている。
【0022】
組み立てた状態のフライホイールにおいて、第1のハウジング部6は、フライホイールから外側に向いており、接触可能である。第2のハウジング部8は、真空のフライホイールコアへと内方に向いており、そのため、接触はできない。
【0023】
第1のハウジング部6を第2のハウジング部8に嵌め込むと、ハウジング間に空間14が形成される。第1及び第2のハウジング部6,8には、第1の変性PTFEリップシール20及び第2の変性PTFEリップシール22をそれぞれ収容するため、環状の肩部16,18が形成されている。各環状肩部16,18の深さはリップシール20,22の深さに略等しく、リップシール20,22が空間14に影響を及ぼすことはない。
【0024】
空間14にはリング状の挿入体24aが配設される。挿入体の外径26は、第2のハウジング部8に収まるような寸法になっている。図3を参照すると、シャフトは挿入体24aの中央部を通っている。
【0025】
環状の空洞30は、リップシール20,22間に形成される。当該空洞は、リップシール20,22、ハウジング部6,8、及び挿入体24によって境界される。挿入体24aは体積を減少させる働きをし、環状空洞の体積は、ハウジングの20,22部分間の空間体積から挿入体24aの体積を差し引いたものになる。
【0026】
シール2は、シャフト4がハウジング部6,8、リップシール20,22、及び挿入体24aの中央部を通るように、シャフト4に取り付けられる。
【0027】
リップシール20,22は、リップシールのリップ32,34が環状空洞30側に向くとともにシャフト4と接触するように、配置される。
【0028】
空洞30には、注入ニップル36を介して、油性流体40が充填される(図3)。流体が注入される間、ブリードニップル38を介して空洞30から空気が排出される。空洞30が流体40で満たされると、流体40はシャフト4に対する気密シールを形成する。第1のリップシール20は流体40を外気から隔離し、第2のリップシール22は流体40を真空のフライホイールコアから隔離する。
【0029】
注入ニップル36及びブリードニップル38は、フライホイールから外側に向いており、接触可能であるため、本来の位置で、すなわち、フライホイールがシャフト4に取り付けられた後に、流体40を空洞30に注入することができる。流体40がシャフト4を取り囲み、リップシール20,22が空洞30からシャフト4に沿って流体40が漏出するのを防止することにより、シールが形成される。
【0030】
フライホイールが高速で動作するとき、流体40はまた、潤滑及び冷却作用をもたらし、リップシール20,22の過熱を防止する。流体40によって吸収された熱は、ハウジング部6,8を通って伝導により放散される。
【0031】
ピストン42は、第1のハウジング部6に配設される。ピストン42は、フライホイールの動作時に流体40が加熱されて膨張すると、それに従って移動することが可能であり、その結果、加熱に伴って流体40内の圧力が過度に上昇することを防止する。また、ピストン42は、シール内側の圧力と外気圧とのバランスを取る働きをし、それにより、第1のリップシール20での圧力降下をなくしている。その結果、空洞30内の圧力が周囲圧力と等しくなるため、外気が空洞30に漏れることを防止する。第2のリップシール22は、1バールの圧力降下を維持するように作用する。しかしながら、仮にいくらかの流体40が空洞30から第2のリップシール22を通り過ぎて真空のフライホイールコアに浸出するようなことがあっても、流体は真空のコアの圧力で蒸発しないため、真空度の低下は起こらない。
【0032】
シール2は、必要に応じて別の挿入体24を利用することも可能である。挿入体24は空洞30の体積を減少させるため、より大きな挿入体を用いれば、それだけ空洞30のより大きな部分を占めることになり、空洞30を満たすために必要な流体40の量を減少させる。
【0033】
図4に示される別の実施形態においては、環状の挿入体24bの中央部が、挿入体24bの外径26と同心でないような形状になっている。従って、フライホイールにシールを取り付けたとき、挿入体24の中央部及び流体40が注入される空洞30は、シャフト4と同心でない。これにより、フライホイールが動作するとき、空洞30内で流体の流動が誘起されるため、特定領域における温度上昇を防止し、流体の温度勾配を最小限に抑える。従って、流体40とハウジング部6,8との間の熱伝導が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトに取り付けられた高速フライホイールに用いるシールであって、ハウジング及び該ハウジング内にあって流体で満たされることが可能な体積を有する空洞と、該空洞の両側に設けられ、前記シャフトと接触して取り囲むリップシールと、前記空洞に流体を注入するための手段と、前記空洞への前記流体の注入中に前記空洞から空気を排出できるようにするための手段とを備え、それにより、前記流体は前記シャフトに対する気密シールを形成することができることを特徴とするシール。
【請求項2】
前記空洞の前記体積を減少させるためにリング状の挿入体が配設されることを特徴とする請求項1に記載のシール。
【請求項3】
前記挿入体の中央部は円形であることを特徴とする請求項2に記載のシール。
【請求項4】
前記孔は前記シャフトに対して偏心していることを特徴とする請求項3に記載のシール。
【請求項5】
前記流体の膨張に応じて移動することが可能なピストンが配設されることを特徴とする先行するいずれかの請求項に記載のシール。
【請求項6】
前記ハウジングの少なくとも一部分はアルミニウム等の軽合金で形成されることを特徴とする先行するいずれかの請求項に記載のシール。
【請求項7】
前記シール手段は、PTFEを含むポリマーブレンドで形成されたリップシールであることを特徴とする先行するいずれかの請求項に記載のシール。
【請求項8】
先行するいずれかの請求項に記載のシールを含むフライホイール。
【請求項9】
シャフトに取り付けられたフライホイールにシールを形成する方法であって、
注入ニップル及びブリードニップルを開くステップと、
前記シャフトと接触する2つのリップシールの間に形成された空洞が満たされるまで、前記注入ニップルに流体を注入し、流体が前記空洞に注入されるにつれて前記ブリードニップルを介して前記空洞から空気が排出されるステップと、
前記注入ニップル及び前記ブリードニップルを閉じるステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項10】
添付の図面を参照して実質的に説明された高速フライホイール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2010−526265(P2010−526265A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506987(P2010−506987)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【国際出願番号】PCT/GB2008/001132
【国際公開番号】WO2008/135707
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(509305158)フライブリッド システムズ エルエルピー (2)
【Fターム(参考)】