説明

高速車感応制御システム及び高速車感応制御方法

【課題】 高速走行車両に対する警告表示や感応制御のタイミングを最適化する。
【解決手段】 高速走行車両を検出した場合、その速度、検出した時刻及び、減速を促す表示板までの距離に基づいて警告表示を行う時期を決定し、最適なタイミングで警告表示を行う。また、交差点の上流で高速走行車両を検出した場合、その速度、検出した時刻及び、交差点の停止線までの距離に基づいて当該車両がジレンマ領域に入る前の時期に感応制御信号を出力して、最適なタイミングで青信号を黄信号に変える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路交通において、制限速度を上回る高速走行車両の運転者に減速を促す警告表示を行うための高速車警告システム及び方法、並びに、高速走行車両を交差点の信号で停止させるための高速車感応制御システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、道路を制限速度より高速で走行する車両をセンサやカメラで検出して、これに対して警告表示を行うことにより運転者に減速を促す高速走行抑止システムが使用されている。一方、交通事故の約2割は交差点で発生しており、その直接的又は間接的な原因の大半は、速度の出し過ぎである。かかる速度の出し過ぎを抑制するため、交差点の上流で車両の速度を検出し、交差点の停止線で安全に停止できそうにない速度であると判定した場合に、表示器に警告表示を行うシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、速度を出し過ぎている高速走行車両を、交差点で強制的に停止させるべく、このような高速走行車両を上流側の所定位置で検出した場合、交差点の信号を青信号から黄信号に変える高速車感応制御も、現実に行われている。
かかる従来の技術において、警告表示や黄信号への変化は、高速走行車両の検出時点から一定のタイミングで(例えば検出後直ちに又は一定遅延時間後に)画一的に行われる。
【0003】
【特許文献1】特開2001−67596号公報(要約)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような警告表示では、一口に高速走行車両とはいっても速度の違いがあり、極めて高速な車両であれば検出後直ちに警告表示することが好ましいが、高速走行車両の中でも比較的速度が遅い車両に対して直ちに警告表示すると、表示器に対して車両がまだ十分接近していない状態で早々と警告表示されることになる。この場合、その警告表示下を車両が通過しても、運転者に与えるインパクトが少なく、減速を促す効果が損なわれる。
一方、高速車感応制御により交差点の信号機を画一的に青信号から黄信号に変えると、高速走行車両が「ジレンマ領域」に入る可能性がある。このジレンマ領域とは、車両が交差点に進入する前において、信号が青から黄に変わることによって、通常の減速度で安全に停止線で停止することができず、かつ、赤信号になる前に交差点に進入することもできなくなる時間的・空間的領域をいう。車両がこのようなジレンマ領域にあるとき信号が黄色に変わるのは安全上好ましくない。
上記のような従来の問題点に鑑み、本発明は、高速走行車両に対する警告表示や感応制御のタイミングを最適化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の高速車警告システムは、高速走行車両の運転者に減速を促す警告表示を行う表示手段と、前記表示手段より上流側の所定領域を通過する車両の速度を計測し、計測した速度を所定値と比較して高速走行車両を検出する高速車検出手段と、高速走行車両の速度、その速度を検出した時刻、及び、前記表示手段までの距離に基づいて、前記表示手段に警告表示を行わせるべき時期を決定する警告時期決定手段とを備えたものである。
また、本発明の高速車警告方法は、高速走行車両の運転者に減速を促す警告表示を行う表示手段より上流側の所定領域を通過する車両の速度を計測し、計測した速度を所定値と比較して高速走行車両を検出し、高速走行車両の速度、その速度を検出した時刻、及び、前記表示手段までの距離に基づいて、前記表示手段に警告表示を行わせるべき時期を決定することを特徴とする。
【0006】
上記の高速車警告システム/高速警告方法では、高速走行車両を検出した場合に、画一的に警告表示を行うのではなく、その速度、検出した時刻、及び、表示手段までの距離に基づいて、表示手段に警告表示を行わせるべき時期を決定する。従って、運転者に減速を促す最適な警告のタイミングを選んで、警告表示を行うことができる。
【0007】
また、本発明の高速車感応制御システムは、交差点の上流側の所定領域を通過する車両の速度を計測し、計測した速度を所定値と比較して高速走行車両を検出する高速車検出手段と、高速走行車両の速度、その速度を検出した時刻、及び、前記交差点の停止線までの距離に基づいて、当該車両が通常の減速度で安全に停止することができず、かつ、赤信号になる前に前記交差点に進入することもできなくなるジレンマ領域を求め、当該車両がこのジレンマ領域に入る前の時期に、前記交差点の信号を青信号から黄信号に変えるための感応制御信号を出力する感応制御信号出力手段とを備えたものである。
また、本発明の高速車感応制御方法は、交差点の上流側の所定領域を通過する車両の速度を計測し、計測した速度を所定値と比較して高速走行車両を検出し、高速走行車両の速度、その速度を検出した時刻、及び、前記交差点の停止線までの距離に基づいて、当該車両が通常の減速度で安全に停止することができず、かつ、赤信号になる前に前記交差点に進入することもできなくなるジレンマ領域を求め、当該車両がこのジレンマ領域に入る前の時期に感応制御信号を出力して、前記交差点の信号を青信号から黄信号に変えることを特徴とする。
【0008】
上記の高速車感応制御システム/高速車感応制御方法では、高速走行車両を検出した場合に、画一的に感応制御を行うのではなく、その速度、検出した時刻、及び、停止線までの距離に基づいて、ジレンマ領域に入る前の最適なタイミングで感応制御信号を出力して、交差点の青信号を黄信号に変える。従って、高速走行車両を、停止線で安全に停止させることができる。
【0009】
また、本発明の高速車感応制御システムは、交差点の上流側の所定領域を通過する車両の速度を計測し、計測した速度を所定値と比較して、高速走行車両及びそれ以外の中低速走行車両を検出する高速車・中低速車検出手段と、先行する中低速走行車両に続いて高速走行車両が検出されたとき、各車両の速度、その速度を検出した時刻、及び、前記交差点の停止線までの距離に基づいて、各車両が通常の減速度で安全に停止することができず、かつ、赤信号になる前に前記交差点に進入することもできなくなるジレンマ領域を求め、中・低速走行車両がそのジレンマ領域にあるときを避けて、高速走行車両がそのジレンマ領域に入る前の時期に、前記交差点の信号を青信号から黄信号に変えるための感応制御信号を出力する感応制御信号出力手段とを備えたものである。
また、本発明の高速車感応制御方法は、交差点の上流側の所定領域を通過する車両の速度を計測し、計測した速度を所定値と比較して、高速走行車両及びそれ以外の中低速走行車両を検出し、先行する中低速走行車両に続いて高速走行車両が検出されたとき、各車両の速度、その速度を検出した時刻、及び、前記交差点の停止線までの距離に基づいて、各車両が通常の減速度で安全に停止することができず、かつ、赤信号になる前に前記交差点に進入することもできなくなるジレンマ領域を求め、先行する中・低速走行車両がそのジレンマ領域にあるときを避けて、高速走行車両がそのジレンマ領域に入る前の時期に感応制御信号を出力して、前記交差点の信号を青信号から黄信号に変えることを特徴とする。
【0010】
上記の高速車感応制御システム/高速車感応制御方法では、高速走行車両を検出した場合に、画一的に感応制御を行うのではなく、先行する中・低速走行車両がジレンマ領域にあるときを避けつつ、当該高速走行車両がジレンマ領域に入る前の最適なタイミングで感応制御信号を出力して、交差点の青信号を黄信号に変える。従って、先行する中・低速車の安全にも配慮しつつ、高速走行車両を、停止線で安全に停止させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の高速車警告システム/高速警告方法によれば、高速走行車両を検出した場合に、画一的に警告表示を行うのではなく、運転者に減速を促す最適な警告のタイミングを選んで、警告表示を行うことができる。
また、本発明の高速車感応制御システム/高速車感応制御方法によれば、高速走行車両を検出した場合に、画一的に感応制御を行うのではなく、ジレンマ領域に入る前の最適なタイミングで交差点の青信号を黄信号に変えることにより、高速走行車両を、停止線で安全に停止させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明による高速車警告のシステム及び方法、並びに、高速車感応制御のシステム及び方法について、図面を参照して説明する。
図1は、道路(平面視)に、本発明の一実施形態による高速車警告システムが使用された状態を示す略図である。この道路は、対向する各2車線からなるものとし、以下の説明は、片側2車線(図の下方)の道路1に関する。また、車両2の流れは、図の右方から左方である。道路脇に設置されたポール3の上部には、道路上の所定の計測領域A1を視野に収めるITVカメラ4が取り付けられている。計測領域A1とは、車両2の速度を計測するための道路上の領域であり、計測領域A1に入った車両2の速度は、当該計測領域A1の終端より少し手前の計測ライン5に達したときに計測される。ITVカメラ4は、ポール3の下方に取り付けられた制御部6と接続されている。ITVカメラ4及び制御部6から所定距離を隔てた下流側には、表示板7(警告表示手段)が設置されている。制御部6と表示板7とは、信号線(ケーブル)9によって互いに接続されている。
【0013】
図2は、制御部6の内外の機器構成を示すブロック図である。制御部6は、ITVカメラ4の撮影した画像信号を取り込む画像入力部61と、画像から車両を検出する車両検出部62と、検出した車両の追跡を行う車両追跡部63と、追跡した車両の速度を計測する速度計測部64と、計測した速度に応じて警告指令信号を出力する時期を決定する警告時期決定部65(警告時期決定手段)とを備えている。制御部6はさらに、速度計測部64の出力情報を、通信回線を介して交通管制センターに伝える伝送部66と、警告指令信号を出力する出力部67と、上記各部に電圧を供給する電源部68とを備えている。出力部67は表示板7と接続されている。なお、交通管制センターと通信しない場合には、伝送部66は不要である。上記ITVカメラ4、画像入力部61、車両検出部62、車両追跡部63及び速度計測部64は、高速走行車両を検出する高速車検出手段を構成している。
【0014】
上記画像入力部61は、道路の横断方向にM個のサンプル点、車両の進行方向に沿ってN個のサンプル点からなるM×N個の座標に対応して、ITVカメラ4から出力される画像信号を一定の計測周期ごとに取り込み、各輝度値を記憶する。車両検出部62は、画像信号が取り込まれるごとにサンプル点画像に対してエッジ抽出等の画像処理を行うことにより、車両の特徴抽出を行い、車両先頭位置及び車体領域の候補を検出する。車両追跡部63は、前回計測周期において決定された車両先頭位置及び車体領域の情報から今回計測周期における車両候補情報と例えばテンプレートマッチングにより対応づけを行い、車両の追跡を行う。また、速度計測部64は、追跡する車両の移動距離を計測時間で除して速度を計測する。速度の情報は、伝送部66を介して交通管制センターに送信される。
【0015】
図3は、上記のような機能を有する制御部6内で繰り返し実行される高速車警告処理のフローチャートである。まず、ステップS1において、制御部6(画像入力部61,車両検出部62,車両追跡部63)は、計測ライン5で車両を感知したか否かの判断を行う。ここで、車両を感知しない場合には処理は終了となる。一方、感知した場合にはステップS2及びS3が実行され、制御部6(速度計測部64)は車両の速度を計測し、計測した速度が速度閾値以上であるか否かの判断を行う。速度閾値とは、例えば、当該道路の制限速度に一定値を加算した、「高速」とみなすことのできる速度である。ステップS3において速度が速度閾値に至らない場合には処理は終了となる。一方、速度閾値以上であった場合には、制御部6(警告時期決定部65)は、表示板7に警告表示を行うべき警告時期を決定する(ステップS4)。そして警告時期が到来すると、制御部6(警告時期決定部65)は警告出力信号を出力部67に対して出力する(ステップS5)。出力部67は、表示板7に警告表示を行わせる。
【0016】
高速走行車両を検出した場合、直ちに表示板7に例えば「速度超過」や「速度落とせ」等の警告表示を行うこともできるが、運転者に減速を促す効果を高めるには、高速走行車両が表示板7に接近して、その視野内に大きく表示板7を捉える時期をねらって表示することが好ましい。そこで、この時期に対応する路上の警告区間を図1のA2とし、その始点位置及び終点位置を、それぞれ、表示板7から上流側に距離L及びL(L>L)とする。また、高速走行する車両の速度をV1、表示板7から上流側にある計測ライン5までの距離をL(L>L)とする。
【0017】
車両2が計測ライン5に達した瞬間を時刻「0」として、ここから速度計測完了までの処理時間をT1、このT1後、表示板7に警告表示信号が届くまでの時間をT2、さらに、T2後、表示板7に警告表示がなされるまでの時間をT3とすると、車両が表示板7より上流側の距離L2の位置に到達する時刻(L−L)/V1に同期して警告表示を開始するためには、警告表示信号の出力開始時刻ΔTonは、
ΔTon=(L−L)/V1 −(T1+T2+T3) ・・・(1)
であればよい。また、車両が表示板7より上流側の距離L3の位置に到達する時刻(L−L)/V1に同期して警告表示を終えるためには、警告表示信号の出力終了時刻ΔToffは、
ΔToff=(L−L)/V1 −(T1+T2+T3) ・・・(2)
であればよい。従って、ステップS4において決定される警告時期は、時刻ΔTon〜ΔToffであり、制御部6(警告時期決定部6)は、時刻ΔTon〜ΔToffに警告表示信号を出力する(ステップS5)。この結果、高速走行する車両が警告区間A2に入ったとき表示板7に警告表示が行われ、同区間を出るとき警告表示が消える。これにより、運転者に減速を促す効果を高めることができる。
【0018】
次に、図4は、道路(平面視)に、本発明の一実施形態による高速車感応制御システムが使用された状態を示す略図である。図1の場合と同様に、道路は、対向する各2車線からなるものとし、以下の説明は、片側2車線(図の下方)の道路1に関する。また、車両2の流れは、図の右方から左方である。図1の場合と同様に、道路脇に設置されたポール3の上部には、道路上の所定の計測領域A1を視野に収めるITVカメラ4が取り付けられており、このITVカメラ4は制御部6と接続されている。計測領域A1に入った車両2の速度は、当該計測領域A1の終端より少し手前の計測ライン5に達したときに計測される。ITVカメラ4及び制御部6から所定距離を隔てた下流側には交差点10があり、信号機11及び、これに接続された信号制御機12が設置されている。制御部6と信号制御機12とは、信号線(ケーブル)9によって互いに接続されている。交差点10の停止線13から上流側にある計測ライン5までの距離は、L(例えば150m)とする。
【0019】
図5は、制御部6の内外の機器構成を示すブロック図である。制御部6は、ITVカメラ4の撮影した画像信号を取り込む画像入力部61と、画像から車両を検出する車両検出部62と、検出した車両の追跡を行う車両追跡部63と、追跡した車両の速度を計測する速度計測部64と、計測した速度に応じて感応制御信号を出力する感応制御信号出力部69(感応制御信号出力手段)とを備えている。制御部6はさらに、速度計測部64の出力情報を、通信回線を介して交通管制センターに伝える伝送部66と、感応制御信号を信号制御機12に出力する出力部67と、上記各部に電圧を供給する電源部68とを備えている。出力部67は、信号制御機12と接続されている。なお、交通管制センターと通信しない場合には、伝送部66は不要である。感応制御信号出力部69を除く上記制御部6内の各部は、図1の場合と同様の機能を有する。上記ITVカメラ4、画像入力部61、車両検出部62、車両追跡部63及び速度計測部64は、高速走行車両を検出する高速車検出手段を構成している。
【0020】
高速走行車両が検出された場合、下流の信号機11の青信号を黄信号に変化させることにより減速を促し、車両を停止線13で停止させることができる。しかしながら、交差点の場合には、ジレンマ領域に対する配慮が必要である。
図6は、速度V[m/秒]の車両が通常の減速度で減速して停止線で停止するまでに走行する距離L[m]を表す関数(曲線)と、速度V[m/秒]の車両が減速せずに黄信号点灯中に走行する距離L[m]を表す関数(直線)とを示すグラフであり、交差点10の停止線13にグラフの原点を対応させて表したものである。曲線で表される関数は、
L=τ・V+(V/2d) ・・・(3)
である。また、直線で表される関数は、
L=Y・V ・・・(4)
である。ここで、τ、d及びYは、以下の通りである。
τ:運転者の反応時間(黄信号開始時からブレーキが効き始めるまでの時間)[秒]
d:ブレーキが効き始めてから停止するまでの平均減速度[m/秒
Y:黄信号時間[秒]
【0021】
図6のグラフにおいて、車両の速度Vと停止線13からの距離Lとの関係が、上記(3)式で表される二次関数の曲線上若しくはそれより右側にあれば、速度に対して十分な距離があり、運転者は、通常の減速度で、車両を停止線13で停止させることができる。逆に、車両の速度Vと停止線13からの距離Lとの関係が、上記(3)式で表される曲線より左側にあれば、速度に対して距離が不足し、運転者は、通常の減速度では、車両を停止線13で停止させることができない。すなわち、急ブレーキを踏んで車両を停止線23で停止させるか、又は、車両が停止線13を超えて停止することになる。
【0022】
他方、車両の速度Vと停止線13からの距離Lとの関係が、上記(4)式で表される直線上若しくはそれより左側にあれば、信号が青から黄に変わっても、黄信号点灯中に車両は少なくとも停止線13に達していて、交差点10に進入することができる。言い換えれば、赤信号になる前に交差点10に進入することができる。逆に、車両の速度Vと停止線13からの距離Lとの関係が、上記(4)式で表される直線より右側にあれば、信号が青から黄に変わると、黄信号点灯中に車両は停止線13に到達できず、交差点10に進入することができない。
【0023】
以上のことから、上記の(3)式で表される曲線より左側であって、かつ、(4)式で表される直線より右側である図6のクロスハッチングを付した領域が、ジレンマ領域DLとなる。すなわち、車両の速度Vと停止線13からの距離Lとの関係が、ジレンマ領域DL内にあるとき信号が青から黄に変わることによって、通常の減速度で安全に停止線で停止することができず、かつ、赤信号になる前に交差点に進入することもできなくなる。例えば速度V1に対してのジレンマ領域DLを道路に対応させると、図のクロスハッチングを付した部分が、その速度V1に対する道路上でのジレンマ領域A3となる。一方、このジレンマ領域A3より上流側STにある車両は、信号が黄色に変われば通常の減速度で減速して、停止線13で安全に停止することができる。他方、このジレンマ領域A3より下流側GOにある車両は、信号が黄色に変わってもそのまま安全に交差点に進入することができる。
【0024】
制御部6(感応制御信号出力部69)は、予め図6に示す関数((3)、(4)式)又はそのデータテーブルを記憶している。そして、制御部6は、計測した車両の速度V1に対応するジレンマ領域DLを道路上のジレンマ領域A3に対応させたときの、その始点位置及び終点位置をそれぞれ、停止線13から上流側への距離Lin及びLout(Lin>Lout)とする。すなわち、これらの距離は、(3)、(4)式より、
in=τ・V1+(V1/2d) ・・・(5)
out=Y・V1 ・・・(6)
となる。
【0025】
図7は、上記のような機能を有する制御部6内で繰り返し実行される高速車感応制御のフローチャートである。まず、ステップS11において、制御部6(画像入力部61,車両検出部62,車両追跡部63)は、計測ライン5で車両を感知したか否かの判断を行う。ここで、車両を感知しない場合には処理は終了となる。一方、感知した場合にはステップS12及びS13が実行され、制御部6(速度計測部64)は車両の速度を計測し、計測した速度が速度閾値以上であるか否かの判断を行う。速度閾値とは、例えば、当該道路の制限速度に一定値を加算した、「高速」とみなすことのできる速度である。速度閾値以上であればその車両は高速走行車両であり、速度閾値未満であればその車両は中・低速走行車両である。ステップS13において速度が速度閾値に至らない場合には処理は終了となる。一方、速度閾値以上の速度(V1とする。)であった場合には、制御部6(感応制御信号出力部69)は、当該車両のジレンマ領域DLを把握し(ステップS14)、速度V1がジレンマ領域DLに該当する速度か否か、すなわち、当該車両がジレンマ領域DLを有するか否かの判断を行う(ステップS15)。
【0026】
判断の結果、速度V1がジレンマ領域DLに該当しなければ、制御部6(感応制御信号出力部69)は、ジレンマ領域に配慮することなく感応制御信号出力のタイミングを画一的に算出し(ステップS20)、かつ、出力して(ステップS21)処理終了となる。一方、速度V1がジレンマ領域に該当する場合、制御部6(感応制御信号出力部69)はステップS16において、以下のΔt1を求める。
Δt1=(L−Lin)/V1−(T1+T2+T3) ・・・(7)
ここで、Linは、速度V1に対応するジレンマ領域A3の始点位置の、停止線13からの距離である。また、T1は、車両2が計測ライン5に達した瞬間を時間的起点(時刻0)として、ここから速度計測完了までの処理時間、T2は、T1後、感応制御信号の送信時間、T3は、T2後、信号制御機12の感応制御処理時間である。(7)式で求められるΔt1以内に感応制御信号を出力すれば、車両がジレンマ領域A3に入る前に青信号を黄信号に変化させることができる。
【0027】
続いて、制御部6はステップS17において、先行車両があるか否かの判断を行う。制御部6は、各車両について速度と、その速度を検出した時刻とを記憶している。具体的には、高速走行車両より前に、計測ライン5を通過して交差点10に向かっている中・低速走行車両があるとき、この車両はΔt2だけ以前に速度V2で計測ライン5を通過したことを、制御部6が記憶している。従って、現時刻における先行する中・低速走行車両の位置は、L−V2(T1+Δt2)として求められる。この車両に対しても、前述の(3)、(4)式が適用可能である。従って、
in=τ・V2+(V2/2d) ・・・(8)
out=Y・V2 ・・・(9)
の関係が成り立つ。但し、ここでのLin及びLoutはそれぞれ、速度V2に対応するジレンマ領域A3の始点位置及び終点位置の、停止線13からの距離である。
【0028】
従って、先行する中・低速走行車両が現時刻からジレンマ領域に進入するまでに要する時間Δt3は、
Δt3={L−Lin−V2(T1+Δt2)}/V2 ・・・(10)
となる。また、ジレンマ領域A3から脱出するまでに要する時間Δt4は、
Δt4={L−Lout−V2(T1+Δt2)}/V2 ・・・(11)
となる。これらの演算がステップS19において行われる。また、ステップS20においては、以上の関係より、感応制御信号を出力するタイミングを現時刻よりΔt後とすると、下記の(12)式及び(13)式を共に満たすように、Δtの値が選択される。
Δt<Δt1 ・・・(12)
Δt<Δt3 または Δt>Δt4 ・・・(13)
そして、そのΔt後に感応制御信号が出力される(ステップS21)。
【0029】
以上のようにして、高速走行車両に先行する中・低速走行車両があるときには、中・低速走行車両がそのジレンマ領域にあるときを避けて、かつ、高速走行車両がそのジレンマ領域に入る前の時期に、青信号を黄信号に変化させることができる。
【0030】
なお、高速走行車両より前に交差点に向かっている中・低速走行車両が複数台存在する場合には、(13)式のような条件を中・低速走行車両の各々について求め、これらのすべての条件及び(12)式を満たすΔtの値を選択することにより、中・低速走行車両のいずれもがそのジレンマ領域にあるときを避けて、かつ、高速走行車両がそのジレンマ領域に入る前の時期に、青信号を黄信号に変化させることができる。
【0031】
なお、上記実施形態ではITVカメラ4の撮影した画像に基づいて車両の速度を計測したが、カメラに代えて、速度を計測することができる各種センサを用いることも可能である。
また、上記実施形態では、主な処理を制御部6内で行ったが、これは必ずしも制御部6内で行う必要はなく、信号制御機12、交通管制センター、その他の装置で行ってもよい。さらに、制御部6内の各部は、制御部6という枠にとらわれることなく、他の装置に配置することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】道路(平面視)に、本発明の一実施形態による高速車警告システムが使用された状態を示す略図である。
【図2】上記高速車警告システムにおける制御部の内外の機器構成を示すブロック図である。
【図3】上記制御部内で繰り返し実行される高速車警告処理のフローチャートである。
【図4】道路(平面視)に、本発明の一実施形態による高速車感応制御システムが使用された状態を示す略図である。
【図5】上記高速車感応制御システムにおける制御部の内外の機器構成を示すブロック図である。
【図6】速度V[m/秒]の車両が通常の減速度で減速して停止線で停止するまでに走行する距離L[m]を表す関数(曲線)と、速度V[m/秒]の車両が減速せずに黄信号点灯中に走行する距離L[m]を表す関数(直線)とを示すグラフであり、交差点の停止線にグラフの原点を対応させて表したものである。
【図7】上記制御部内で繰り返し実行される高速車感応制御のフローチャートである。
【符号の説明】
【0033】
2 車両
4 ITVカメラ
6 制御部
7 表示板
10 交差点
12 信号制御機
13 停止線
61 画像入力部
62 車両検出部
63 車両追跡部
64 速度計測部
65 警告時期決定部
67 出力部
69 感応制御信号出力部
A1 計測領域
A3,DL ジレンマ領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速走行車両の運転者に減速を促す警告表示を行う表示手段と、
前記表示手段より上流側の所定領域を通過する車両の速度を計測し、計測した速度を所定値と比較して高速走行車両を検出する高速車検出手段と、
高速走行車両の速度、その速度を検出した時刻、及び、前記表示手段までの距離に基づいて、前記表示手段に警告表示を行わせるべき時期を決定する警告時期決定手段と
を備えたことを特徴とする高速車警告システム。
【請求項2】
高速走行車両の運転者に減速を促す警告表示を行う表示手段より上流側の所定領域を通過する車両の速度を計測し、
計測した速度を所定値と比較して高速走行車両を検出し、
高速走行車両の速度、その速度を検出した時刻、及び、前記表示手段までの距離に基づいて、前記表示手段に警告表示を行わせるべき時期を決定する
ことを特徴とする高速車警告方法。
【請求項3】
交差点の上流側の所定領域を通過する車両の速度を計測し、計測した速度を所定値と比較して高速走行車両を検出する高速車検出手段と、
高速走行車両の速度、その速度を検出した時刻、及び、前記交差点の停止線までの距離に基づいて、当該車両が通常の減速度で安全に停止することができず、かつ、赤信号になる前に前記交差点に進入することもできなくなるジレンマ領域を求め、当該車両がこのジレンマ領域に入る前の時期に、前記交差点の信号を青信号から黄信号に変えるための感応制御信号を出力する感応制御信号出力手段と
を備えたことを特徴とする高速車感応制御システム。
【請求項4】
交差点の上流側の所定領域を通過する車両の速度を計測し、
計測した速度を所定値と比較して高速走行車両を検出し、
高速走行車両の速度、その速度を検出した時刻、及び、前記交差点の停止線までの距離に基づいて、当該車両が通常の減速度で安全に停止することができず、かつ、赤信号になる前に前記交差点に進入することもできなくなるジレンマ領域を求め、
当該車両がこのジレンマ領域に入る前の時期に感応制御信号を出力して、前記交差点の信号を青信号から黄信号に変える
ことを特徴とする高速車感応制御方法。
【請求項5】
交差点の上流側の所定領域を通過する車両の速度を計測し、計測した速度を所定値と比較して、高速走行車両及びそれ以外の中低速走行車両を検出する高速車・中低速車検出手段と、
先行する中低速走行車両に続いて高速走行車両が検出されたとき、各車両の速度、その速度を検出した時刻、及び、前記交差点の停止線までの距離に基づいて、各車両が通常の減速度で安全に停止することができず、かつ、赤信号になる前に前記交差点に進入することもできなくなるジレンマ領域を求め、中・低速走行車両がそのジレンマ領域にあるときを避けて、高速走行車両がそのジレンマ領域に入る前の時期に、前記交差点の信号を青信号から黄信号に変えるための感応制御信号を出力する感応制御信号出力手段と
を備えたことを特徴とする高速車感応制御システム。
【請求項6】
交差点の上流側の所定領域を通過する車両の速度を計測し、
計測した速度を所定値と比較して、高速走行車両及びそれ以外の中低速走行車両を検出し、
先行する中低速走行車両に続いて高速走行車両が検出されたとき、各車両の速度、その速度を検出した時刻、及び、前記交差点の停止線までの距離に基づいて、各車両が通常の減速度で安全に停止することができず、かつ、赤信号になる前に前記交差点に進入することもできなくなるジレンマ領域を求め、
先行する中・低速走行車両がそのジレンマ領域にあるときを避けて、高速走行車両がそのジレンマ領域に入る前の時期に感応制御信号を出力して、前記交差点の信号を青信号から黄信号に変える
ことを特徴とする高速車感応制御方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交差点の上流側の所定領域を通過する車両の速度を計測し、計測した速度を所定値と比較して高速走行車両を検出する高速車検出手段と、
高速走行車両の速度、その速度を検出した時刻、及び、前記交差点の停止線までの距離に基づいて、当該車両が通常の減速度で安全に停止することができず、かつ、赤信号になる前に前記交差点に進入することもできなくなるジレンマ領域を求め、当該車両がこのジレンマ領域に入る前の時期に、前記交差点の信号を青信号から黄信号に変えるための感応制御信号を出力する感応制御信号出力手段と
を備えたことを特徴とする高速車感応制御システム。
【請求項2】
交差点の上流側の所定領域を通過する車両の速度を計測し、
計測した速度を所定値と比較して高速走行車両を検出し、
高速走行車両の速度、その速度を検出した時刻、及び、前記交差点の停止線までの距離に基づいて、当該車両が通常の減速度で安全に停止することができず、かつ、赤信号になる前に前記交差点に進入することもできなくなるジレンマ領域を求め、
当該車両がこのジレンマ領域に入る前の時期に感応制御信号を出力して、前記交差点の信号を青信号から黄信号に変える
ことを特徴とする高速車感応制御方法。
【請求項3】
交差点の上流側の所定領域を通過する車両の速度を計測し、計測した速度を所定値と比較して高速走行車両及びそれ以外の中低速走行車両を検出する高速車・中低速車検出手段と、
先行する中低速走行車両に続いて高速走行車両が検出されたとき、各車両の速度、その速度を検出した時刻、及び、前記交差点の停止線までの距離に基づいて、車両が通常の減速度で安全に停止することができず、かつ、赤信号になる前に前記交差点に進入することもできなくなるジレンマ領域を求め、中・低速走行車両がそのジレンマ領域にあるときを避けて、高速走行車両がそのジレンマ領域に入る前の時期に、前記交差点の信号を青信号から黄信号に変えるための感応制御信号を出力する感応制御信号出力手段と
を備えたことを特徴とする高速車感応制御システム。
【請求項4】
交差点の上流側の所定領域を通過する車両の速度を計測し、
計測した速度を所定値と比較して高速走行車両及びそれ以外の中低速走行車両を検出し、
先行する中低速走行車両に続いて高速走行車両が検出されたとき、各車両の速度、その速度を検出した時刻、及び、前記交差点の停止線までの距離に基づいて、車両が通常の減速度で安全に停止することができず、かつ、赤信号になる前に前記交差点に進入することもできなくなるジレンマ領域を求め、
先行する中・低速走行車両がそのジレンマ領域にあるときを避けて、高速走行車両がそのジレンマ領域に入る前の時期に感応制御信号を出力して、前記交差点の信号を青信号から黄信号に変える
ことを特徴とする高速車感応制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−323524(P2006−323524A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−144455(P2005−144455)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】