説明

高電圧充電器

【課題】 容量性負荷のインバータ充電方式の高電圧充電器において、大きな充電速度を得ながら、充電後の電圧低下がなく、高い電圧安定度を得ることができ、かつノイズの発生も小さくできる高電圧充電器を提供する。
【解決手段】 高速充電を行う大出力の主インバータ4と、電圧調整を主目的とする小出力の補助インバータ7を並列接続し、充電期間の前半においては、主インバータと補助インバータを同時に運転して、容量性負荷を目標電圧の近傍まで高速充電し、ひきつづき、充電期間の後半では、主インバータ4を停止し、補助インバータ7のみで低速充電を行い、目標電圧に到達させ、その後、外部回路が放電動作を行うまでの期間は、目標電圧に保持するよう補助インバータ7の運転を持続させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電力パルス電源のコンデンサバンク、すなわち容量性負荷に高電圧を充電するためのインバータ方式の高電圧充電器に関する。
【背景技術】
【0002】
パルスクライストロン、マグネトロン、キッカー電磁石、パルスレーザーなど大電力パルス発生器においては、コンデンサバンクに高電圧を充電し、充電完了後に、サイリスタなどの固体スイッチ素子や、サイラトロンなどのガス放電管によって、充電されたエネルギーを非常に短いパルスの大電力として取り出す方式が採用されている。
【0003】
従来、このコンデンサバンクに高電圧を充電する回路として、チョークトランスとコンデンサバンクの直列共振を利用した共振充電方式が採用されていた。しかし、この共振充電方式では、チョークトランスが大型となり、コストが高いこと、また目標電圧にて充電を停止させるためにチョークトランスの2次回路をスイッチして充電電流をバイパスするde-Q'ing回路が採用されていたが、スイッチ素子の破損などのトラブラが多く発生していた。
【0004】
そこで、最近になって、数百ボルトの直流電力を、IGBTなどの高速スイッチングが可能な固体素子によって、数十kHzの交流に変換し、これを昇圧トランスの1次側に入力し、2次側にて高電圧に変換したのちダイオードで整流して高電圧を得、負荷の高電圧コンデンサバンクを充電するインバータ充電方式の高電圧充電器が開発され、実用化されている(例えば非特許文献1)。
【0005】
非特許文献1のインバータ充電方式の高電圧充電器は、図6に示すように、420V3相50/60Hzを受電し直流に変換する整流回路51と平滑回路52、その直流電圧を高周波でスイッチングする直列共振インバータ53、50kVまで昇圧し整流する高圧出力整流回路54、および出力電圧・電流を検出して制御する制御回路55から構成されている。
この直列共振インバータ53は、主スイッチ素子にIGBTを使用したフルブリッジインバータで構成されており、共振用リアクタとコンデンサが高圧インバータトランスを介してPFNのコンデンサと直列に接続され、共振電流でPFNのコンデンサに充電する方式である。
【0006】
図7はこの変調器部の基本回路図、図8は基本動作説明図である。インバータ電源の出力は、直列抵抗Rを経てPFNのコンデンンサCnに接続され、直列共振インバータで定電流(I)充電を行う。インバータ電源は電源外部から入力される充電開始信号を受けて充電動作を開始する。PFNのコンデンンサCnの端子電圧、すなわちインバータ電源の出力電圧(Vpfn)は、定電流充電のため直線的に上昇する。Vpfnが設定電圧値まで到達すると制御回路がインバータ電源のドライブ信号を止め、充電を停止させる。
その後、SW(サイラトロン等)をON動作させ、Cnに蓄積されたエネルギーをパルストランスを経てクライストロンへと伝送する。伝送が完了後SWがOFFとなり1サイクルの動作が完了する。
【0007】
さらに、本発明に関連する技術として特許文献1、2が開示されている。
【0008】
【非特許文献1】飯田謙二、他、「コンデンサ充電用インバータ電源」、リニアック研究会、http://www-linac.kek.jp/mirror/lam27.iae.kyoto-u.ac.jp/PDF/7P-47.pdf
【0009】
【特許文献1】特開平7−231678号公報、「パルス電源」
【特許文献2】特開平9−93920号公報、「容量性負荷のための直流高電圧電源装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1のインバータ充電方式の高電圧充電器は、チョークトランスとコンデンサバンクの直列共振を利用した共振充電方式と比較して、小型化でき、かつコストも低減できる特長がある。
【0011】
しかし、このインバータ充電方式においては、充電期間において充電電圧がインバータのスイッチングに同期してステップ状に上昇するため、目標電圧に対して、1ステップ分の誤差が残り、充電電圧の安定性が制限されるという問題があった。
【0012】
ここで前記非特許文献1における1ステップの充電電圧ΔVは、式(1)で与えられる。Iは充電期間の平均充電電流、finvはインバータのスイッチング周波数、Cは負荷容量である。
この式から、電圧安定度を良くするには、すなわち1ステップの充電電圧ΔVを小さくするには、充電電流Iを小さくし、スイッチング周波数finvを高くすれば良いことがわかる。
【0013】
【数1】

【0014】
一方、容量性負荷を目標電圧Vまで充電するために必要となる時間Tchargeは、式(2)で与えられる。
この式から、充電電流Iを小さくすると充電時間が長くなることがわかる。充電時間が長いと実用上問題があるため、充電電流Iは必要以上に小さくできない。
【0015】
【数2】

【0016】
そこで、電圧安定度を改善する(1ステップの充電電圧ΔVを小さくする)ために、式(1)におけるスイッチング周波数finvを高くすることが考えられる。しかしこの場合、IGBTなどのスイッチング素子、回路内のコイル、及びコンデンサの内部消費が大きくなり、それらの回路素子が発熱し、電力効率が低下するとう問題がある。
【0017】
この問題を回避するために、特許文献1および特許文献2は、充電電圧が目標電圧に近づくにしたがって、インバータのスイッチング波形にパルス幅変調を行い、予測制御により充電電流を制御して、1ステップ分の電圧上昇を小さくし、またオーバースイングを無くすという技術を開示している。
【0018】
しかしこの方法においてパルス幅変調を行うと、IGBT等のスイッチ素子がインバータのLC共振充電回路の振動途中でOFFとなるため、素子に大きな電流が流れている時に回路を開放(遮断)するので、大きなスイッチングノイズが発生し、これが電圧制御回路に混入して、安定性を悪化させるという問題があった。また充電回路のインダクタンスからの大きな反動電圧がIGBT素子に架かり、素子内部の半導体が放電損傷するおそれがあった。
【0019】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、容量性負荷のインバータ充電方式の高電圧充電器において、大きな充電速度を得ながら、充電後の電圧低下がなく、高い電圧安定度を得ることができ、かつノイズの発生も小さくできる高電圧充電器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明によれば、交流電源より電力を受電し直流電圧を発生する直流電圧回路と、
主インバータを用いて前記直流電圧を高電圧の高周波電力に変換後に直流に変換して静電容量性負荷を大電流で充電する主インバー充電回路と、
該主インバー充電回路と並列接続され、補助インバータを用いて前記直流電圧を高電圧の高周波電力に変換後に直流に変換して静電容量性負荷を主インバー充電回路より十分小さい小電流で充電する補助インバータ充電回路と、
前記静電容量性負荷の充電電圧を検出し主インバータ及び補助インバータを帰還制御する帰還制御回路とを備え、
静電容量性負荷の充電電圧が目標電圧の近傍にあるときに主インバー充電回路を停止し補助インバータ充電回路のみで低速充電又は補充電を行う、ことを特徴とする高電圧充電器が提供される。
【0021】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記主インバー充電回路は、前記直流電圧を高周波電力に変換する主インバータと、該高周波電力を高電圧の高周波電力に変換する昇圧トランスと、該高電圧の高周波電力を直流に変換する高圧整流部からなり、
前記補助インバー充電回路は、前記直流電圧を高周波電力に変換する補助インバータと、該高周波電力を高電圧の高周波電力に変換する昇圧トランスと、該高電圧の高周波電力を直流に変換する高圧整流部からなる。
【0022】
前記帰還制御回路は、前記静電容量性負荷に接続され、充電電圧に比例した検出電圧を検出する高電圧検出部と、該高電圧検出部の電圧と主基準電圧を比較して主インバータを帰還制御する主コンパレータと、前記高電圧検出部の電圧と補助基準電圧を比較して補助インバータを帰還制御する補助コンパレータとからなる。
【0023】
また本発明の好ましい実施形態によれば、切り替え電圧を目標電圧の90%から100%の範囲に設定し、
充電初期に前記主インバータと補助インバータを同時に運転して高速充電を行い、負荷の充電電圧が前記切り替え電圧に到達した時点において、主インバータを停止し、その後、補助インバータのみで低速充電を行い、充電電圧を目標電圧に到達させる。
【0024】
また、静電容量性負荷の電圧が目標電圧に到達した後も補助インバータを運転し、リーク電流による容量性負荷の電圧低下を補充電し、帰還制御により充電電圧を目標電圧近傍に保持する。
【0025】
また本発明の好ましい実施形態によれば、切り替え電圧を目標電圧に等しく設定し、
主インバータと補助インバータを同時に使用して高速充電を行い、充電電圧が目標電圧を超えた時点で、主インバータを停止し、その後、補助インバータのみでリーク電流による容量性負荷の電圧低下を補充電し、帰還制御により充電電圧を目標電圧近傍に保持する。
【0026】
また、補助インバータのスイッチング周波数を、主インバータのスイッチング周波数よりも高くし、電圧リップルを低くする、ことが好ましい。
【0027】
また、前記補助インバータのパルス幅、又は、パルス振幅を帰還制御することにより、電圧保持期間の補助インバータの充電電流を制限し、電圧リップルを低くする、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
上記本発明の構成によれば、高速充電を行う大出力の主インバータと、電圧調整を主目的とする小出力の補助インバータを並列接続し、充電期間の前半においては、主インバータと補助インバータを同時に運転して、容量性負荷を目標電圧の近傍まで高速充電し、ひきつづき、充電期間の後半では、主インバータを停止し、補助インバータのみで低速充電を行い、目標電圧に到達させ、その後、外部回路が放電動作を行うまでの期間は、目標電圧に保持するよう補助インバータの運転を持続させることにより、高い安定度を得ることができる。
【0029】
また、補助インバータのスイッチング周波数を主インバータよりも高くすることで、さらに高い電圧安定度を実現できる。
【0030】
さらに、補助インバータにパルス幅変調回路、乃至は出力電流の制限回路、等を付加することにより、充電電流を制限し、さらに高い電圧安定度を実現できる。
【0031】
従って、本発明によれば、容量性負荷のインバータ方式の高電圧充電装置において、大きな充電速度を得ながら、また充電後の電圧低下もない、高い電圧安定度を得ることができる。
【0032】
また、主インバータにパルス幅変調動作をさせる必要がなく、ゲート回路がシンプルとなる。主インバータの共振充電の周期に完全に同期した動作が可能となり、ノイズの発生も小さく、素子の安全率も向上する。
【0033】
電圧保持期間において、帰還制御により充電電圧を目標電圧近傍に保持する期間には、主インバータが停止しており、パルスノイズが小さい環境となり高い電圧安定度を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。
【0035】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態の回路構成図である。また、代表的なパラメータを表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
図1において、本発明の高電圧充電器は、直流電圧回路20、主インバー充電回路22、補助インバータ充電回路24、および帰還制御回路26を備える。
【0038】
直流電圧回路20は、整流部2および整流部コンデンサ3を有し、交流電源1より電力を受電し直流電圧を発生する。
【0039】
主インバー充電回路22は、直流電圧を高周波電力に変換する主インバータ4と、高周波電力を高電圧の高周波電力に変換する昇圧トランス5と、高電圧の高周波電力を直流に変換する高圧整流部6とからなる。主インバー充電回路22は、主インバータ4を用いて直流電圧を高電圧の高周波電力に変換後に直流に変換して静電容量性負荷16を大電流で充電する。主インバータ4は、制御ゲートGate-1を有し、このON/OFFでインバータを動作/非動作に切り替えることができるようになっている。
【0040】
補助インバータ充電回路24は、直流電圧を高周波電力に変換する補助インバータ7と、高周波電力を高電圧の高周波電力に変換する昇圧トランス8と、高電圧の高周波電力を直流に変換する高圧整流部9とからなる。補助インバータ充電回路24は、主インバー充電回路22と並列接続され、補助インバータ7を用いて直流電圧を高電圧の高周波電力に変換後に直流に変換して静電容量性負荷16を主インバー充電回路より十分小さい小電流で充電する。補助インバータ7は、制御ゲートGate-2を有し、このON/OFFでインバータを動作/非動作に切り替えることができるようになっている。
【0041】
帰還制御回路26は、静電容量性負荷16に接続され充電電圧に比例した検出電圧を検出する高電圧検出部11と、高電圧検出部11の電圧と主基準電圧Vref-1を比較して主インバータ4を帰還制御する主コンパレータ13と、高電圧検出部11の電圧と補助基準電圧Vref-2を比較して補助インバータ7を帰還制御する補助コンパレータ15とからなる。帰還制御回路26は、静電容量性負荷16の充電電圧を検出し主インバータ4及び補助インバータ7を帰還制御(フィードバック制御)する。またこの図において、主インバータ用基準電源12は、主基準電圧Vref-1を設定し、補助インバータ用基準電源14は、補助基準電圧Vref-2を設定するようになっている。
【0042】
図1の実施形態において、直流電圧回路20は、商用交流電源1より電力を受電し、整流部2により整流部コンデンサ3に必要な直流電圧を発生する。
主インバー充電回路22は、この直流電圧をIGBT素子などを代表とするスイッチング手段を用いた主インバータ4により高周波電力に変換し、昇圧トランス5を介して高電圧の高周波電力に変換し、高圧整流部6により再び直流に変換し、容量性負荷16を充電する。
【0043】
補助インバータ充電回路24は、主インバー充電回路22と並列接続されている。補助インバータ7は、主インバータ4と並列して整流部コンデンサ3に接続され、主インバータ4と同様に、スイッチング手段により直流を高周波電力に変換し、昇圧トランス8により高電圧の高周波電力に変換し、高圧整流部9により直流に変換し、出力合成点10を通して負荷16を充電する。
補助インバータ充電回路24の充電電流は、主インバー充電回路より十分小さい小電流(例えば、後述する例では、1/25)に設定されている。
【0044】
負荷16には、抵抗分圧器などを用いた高電圧検出部11が接続され、充電電圧に比例した検出電圧が主コンパレータ13と補助コンパレータ15に送られる。
【0045】
主コンパレータ13と補助コンパレータ15は、高電圧検出部11の電圧と主基準電圧Vref-1、補助基準電圧Vref-2とをそれぞれ比較してそれぞれ主コンパレータ13と補助コンパレータ15を帰還制御する。
【0046】
図2は本発明の高電圧充電器の動作を、充放電の1サイクルの波形で説明したものである。この図において、横軸は時間であり、縦軸は(A)は電圧、(B)は主インバータの充電電流、(C)は補助インバータの充電電流である。
【0047】
時刻tにて、Gate-1、Gate-2をONとし、主インバータ4、補助インバータ7を動作させ、両方のインバータにて負荷16を高速充電する。インバータ4、7は定電流動作をし、充電電圧は図2(A)に示すように直線的に上昇する。
【0048】
図2(A)の拡大波形に示すように、インバータが1サイクルのスイッチング動作をするごとに一定の電流を充電するために、充電電圧は階段状に上昇する。
【0049】
目標電圧Vより、わずかに低い電圧Vを設定し、「切り替え電圧」と名づける。主基準電圧Vref-1には、切り替え電圧に相当する電圧を設定する。なお補助基準電圧Vref-2には、目標電圧に相当する電圧を設定する。
【0050】
負荷16の電圧がVを超えた時点tで、Gate-1がOFFとなり主インバータ4が停止する。以後は、補助インバータ7のみで負荷16に充電するため、図2(A)に示すように低速で電圧が上昇する。拡大波形に示されるように、階段波形の1ステップは小さくなる。
【0051】
負荷16の電圧が目標電圧Vを超えた時点tで、Gate-2がOFFとなり補助インバータ7が一時的に停止し、電圧保持期間Thにはいる。
【0052】
図3は、電圧保持期間の充電波形の詳細説明図である。充電開始時のタイミングのばらつきや、回路のノイズのために、充電電圧が保持期間に入る時間にはある程度のばらつきがある。この図では代表的な3本の波形が重ね書きされている。
【0053】
電圧保持期間Thにおいて、高電圧検出部11や、外部の負荷回路の消費電流のために、負荷16の電圧がゆっくりと低下し、目標電圧Vよりも低くなった時点で、補助コンパレータ15がGate-2をONにし、補助インバータ7が動作する。
【0054】
補助インバータ7が1パルスの充電動作をすると、負荷16の電圧が1ステップ分だけ上昇し、目標電圧を超えるため、すぐに補助コンパレータ15がGate-2をOFFにして、補助インバータ7が停止する。
【0055】
このように、電圧保持期間Thにおいては、補助インバータ7の充電ステップの1回分だけ電圧が上下する。これは外部回路が放電短絡動作するまで続く。
【0056】
充電電圧の安定度は、電圧保持期間Thの変動によってきまり、式(3)で与えられる1ステップの充電電圧ΔVを小さくする必要がある。
ここで重要なことは、充電電圧の安定度(すなわち1ステップの充電電圧ΔV)は、主インバータ4の電流Iによらず、補助インバータ7の電流Isubとスイッチング周波数finvで決まることであり、補助インバータの電流Isubを小さくすれば高い安定度が得られる。また補助インバータ7のスイッチング周波数finvを高くしても良いことがわかる。
【0057】
【数3】

【0058】
なお、補助コンパレータ15の内部熱ノイズによって、補助コンパレータの出力が反転する時間にジッタが生じ、ひいては、電圧安定度を悪化させる。これについては、最近の高速低ノイズのコンパレータを使用すれば問題とならない範囲に小さくできる。
【0059】
本発明を最適化設計すると、主インバータ4は高速充電に最適化するため、大きな充電電流Iとし、さらに高い電力効率を得るため低いスイッチング周波数finvとすることが好ましい。一方、補助インバータ7は、高い安定性を得るために、充電電流Isubを小さくし、またスイッチング周波数finvをできるだけ高く設計することが好ましい。
【0060】
表1は、このように最適設計された、高電圧充電器のパラメータである。クライストロン電源のPFN回路のコンデンサバンクを充電することを想定し、目標最大電圧 50kV、負荷容量500nFとした。
【0061】
クライストロン電源のパルス動作による充放電サイクルを60Hzとすると、充放電の1周期の時間は16msecである。このうち10msecを高速充電期間に当て、2.5msecを低速充電期間、さらに2.5msecを電圧保持期間、残りの1.6msecを放電短絡動作後の休止時間とした。
【0062】
高速低速切り替え電圧は、目標電圧の99%、すなわち、目標電圧が50kVに対して、49.5kVとした。
【0063】
高速充電に必要な電流は式(2)から、2.5Aとなる。また低速充電に必要な電流、すなわち補助インバータの出力電流は、0.1Aとなる。
【0064】
インバータのスイッチング周波数は、主インバータ4としてIGBT素子を想定して20kHz、補助インバータ7をIGBTまたはFET素子を想定して、80kHzとした。
【0065】
電圧保持期間の電圧変動は、式(3)より2.5Vとなり、相対安定度は0.5x10-4と非常に優れた安定度が得られる。
【0066】
なお、電圧保持期間において、補助インバータ7が動作するとき、補助コンパレータ15の等価入力雑音は、高電圧検出器の電圧の分圧比を10:1として、出力変動2.5Vの分圧比分、すなわち0.25mV以下でなくてはならない。熱ノイズVは式(4)で与えられ、分圧器(高電圧検出部11)のグランド側抵抗を5kΩとし、補助コンパレータ15の応答周波数を1MHz以上確保するために帯域周波数を10MHzとすると式(4)より、30μVとなり、十分に余裕がある。
【0067】
【数4】

【0068】
インバータのスイッチングにともなう、電磁ノイズがコンパレータの入力に回り込んで電圧安定度を悪化させる問題については、電圧保持期間において、大電力の主インバータ4が停止しており、小電力の補助インバータ7のみが動作しており、発生する電磁ノイズは小さく、上述した熱ノイズ程度に小さくすることは技術的に可能である。
【0069】
(第2実施形態)
上述した式(3)から明らかなように、電圧リップルは、補助インバータ7の電流に比例するので、電圧保持期間において、補助インバータ7を連続動作させながら、補助インバータの出力電流を制限してもよい。具体的には第2実施形態として、補助インバータ7のパルス幅、乃至は、パルス振幅を帰還制御することにより、電圧保持期間の補助インバータの充電電流を制御することが可能である。
【0070】
第2実施形態の充電波形を図4に示す。電圧保持期間において、補助インバータ7は連続動作し、高電圧検出器11からの信号によって、補助インバータ7の充電電流が制御され、電圧変動を小さく抑えられる様子が示されている。電圧保持期間において充電電圧が安定したのち、補助インバータ7の出力電流は、高電圧検出器11の内部抵抗による消費電流と、負荷回路のリーク電流の合計とバランスして等しくなる。この定常電流の具体的な数値は設計の詳細によるが、補助インバータの最大出力電流よりも十分小さくでき、電圧リップルを低くおさえることが可能である。
【0071】
(第3実施形態)
第3実施形態として、図2に示した切り替え電圧を目標電圧に等しくし、充電電圧がゼロから100%までは、主インバータ4と補助インバータ7を同時に使用して高速充電を行い、低速充電期間をなくし、充電電圧が目標電圧を超えた時点で、主インバータ4を停止し、補助インバータ7のみでリーク電流による容量性負荷の電圧低下分を補充電し、電圧を保持することが可能である。
【0072】
図5に第3実施形態の充電波形を示す。図5では、電圧保持期間において、第2実施形態に示した補助インバータ7の充電電流を制限して電圧リップルを低くおさえる方式を想定しているが、実施形態1の電流制限のない補助インバータを用いても良い。
【0073】
なお、第3実施形態の回路構成として、第1実施形態の図1における補助インバー用基準電源14とコンパレータ15を主インバータと共通に使用しても良いことは明らかである。
【0074】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1実施形態の回路構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態の充電波形を示す図である。
【図3】電圧保持期間の充電波形の詳細説明図である。
【図4】本発明の第2実施形態の充電波形を示す図である。
【図5】本発明の第3実施形態の充電波形を示す図である。
【図6】非特許文献1の高電圧充電器の構成図である。
【図7】非特許文献1の変調器部の基本回路図である。
【図8】非特許文献1の基本動作説明図である。
【符号の説明】
【0076】
1 商用電力、2 整流部、3 整流部コンデンサ、
4 主インバータ、5 昇圧トランス、6 高圧整流部、
7 補助インバータ、8 昇圧トランス、9 高圧整流部、
10 出力合成点、11 高電圧検出器、
12 主インバータ用基準電源、13 主コンパレータ、
14 補助インバータ用基準電源、15 補助コンパレータ、
16 容量性負荷、
20 直流電圧回路、22 主インバー充電回路、
24 補助インバータ充電回路、26 帰還制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源より電力を受電し直流電圧を発生する直流電圧回路と、
主インバータを用いて前記直流電圧を高電圧の高周波電力に変換後に直流に変換して静電容量性負荷を大電流で充電する主インバー充電回路と、
該主インバー充電回路と並列接続され、補助インバータを用いて前記直流電圧を高電圧の高周波電力に変換後に直流に変換して静電容量性負荷を主インバー充電回路より十分小さい小電流で充電する補助インバータ充電回路と、
前記静電容量性負荷の充電電圧を検出し主インバータ及び補助インバータを帰還制御する帰還制御回路とを備え、
静電容量性負荷の充電電圧が目標電圧の近傍にあるときに主インバー充電回路を停止し補助インバータ充電回路のみで低速充電又は補充電を行う、ことを特徴とする高電圧充電器。
【請求項2】
前記主インバー充電回路は、前記直流電圧を高周波電力に変換する主インバータと、該高周波電力を高電圧の高周波電力に変換する昇圧トランスと、該高電圧の高周波電力を直流に変換する高圧整流部とからなり、
前記補助インバー充電回路は、前記直流電圧を高周波電力に変換する補助インバータと、該高周波電力を高電圧の高周波電力に変換する昇圧トランスと、該高電圧の高周波電力を直流に変換する高圧整流部とからなる、ことを特徴とする請求項1に記載の高電圧充電器。
【請求項3】
前記帰還制御回路は、前記静電容量性負荷に接続され、充電電圧に比例した検出電圧を検出する高電圧検出部と、該高電圧検出部の電圧と主基準電圧を比較して主インバータを帰還制御する主コンパレータと、前記高電圧検出部の電圧と補助基準電圧を比較して補助インバータを帰還制御する補助コンパレータとからなる、ことを特徴とする請求項2に記載の高電圧充電器。
【請求項4】
切り替え電圧を目標電圧の90%から100%の範囲に設定し、
充電初期に前記主インバータと補助インバータを同時に運転して高速充電を行い、負荷の充電電圧が前記切り替え電圧に到達した時点において、主インバータを停止し、その後、補助インバータのみで低速充電を行い、充電電圧を目標電圧に到達させる、ことを特徴とする請求項2に記載の高電圧充電器。
【請求項5】
静電容量性負荷の電圧が目標電圧に到達した後も補助インバータを運転し、リーク電流による容量性負荷の電圧低下を補充電し、帰還制御により充電電圧を目標電圧近傍に保持する、ことを特徴とする請求項3に記載の高電圧充電器。
【請求項6】
切り替え電圧を目標電圧に等しく設定し、
主インバータと補助インバータを同時に使用して高速充電を行い、充電電圧が目標電圧を超えた時点で、主インバータを停止し、その後、補助インバータのみでリーク電流による容量性負荷の電圧低下を補充電し、帰還制御により充電電圧を目標電圧近傍に保持する、ことを特徴とする請求項2に記載の高電圧充電器。
【請求項7】
補助インバータのスイッチング周波数を、主インバータのスイッチング周波数よりも高くし、電圧リップルを低くする、ことを特徴とする請求項2に記載高電圧充電器。
【請求項8】
前記補助インバータのパルス幅、又は、パルス振幅を帰還制御することにより、電圧保持期間の補助インバータの充電電流を制限し、電圧リップルを低くする、ことを特徴とする請求項2に記載の高電圧充電器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−124807(P2007−124807A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313908(P2005−313908)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】