説明

高電圧発生装置

【課題】CW回路の直流高電圧出力からリップルを効果的に除去することのできる高電圧発生装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係る高電圧発生装置は,入力された交流電圧を昇圧・整流して直流高電圧を出力するコッククロフト・ウォルトン回路40から出力される直流高電圧に含まれるリップルS1を検出し,そのリップルS1と逆位相の電圧波形である逆位相波形S2を上記CW回路40のグランド43(基準電位点の一例)に入力することによって上記CW回路40の直流高電圧出力からリップルS1を除去するリップル除去回路60を備えてなることを特徴とする高電圧発生装置として構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,イオンや電子等の荷電粒子を加速させる加速器などに供給する直流高電圧を発生させる高電圧発生装置に関し,特に,コッククロフト・ウォルトン回路やシュンケル回路等を用いて直流高電圧を出力する高電圧発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,イオン若しくは電子等の荷電粒子を加速させる加速器などに直流高電圧を供給する高電圧発生装置が知られている。上記加速器は,例えば半導体などの各種材料の定量,組成分析を行う分析装置や,イオンの注入,イオンによる加工,イオン又は電子による殺菌などを行うイオンビーム装置,電子ビーム装置などに用いられる。
上記高電圧発生装置には,ダイオードとコンデンサを組み合わせた昇圧整流回路が多段に積み重ねられたコッククロフト・ウォルトン回路(以下「CW回路」と略称する)が設けられる。そして,上記高電圧発生装置では,商用交流電源から供給された交流電圧が,トランス等により昇圧された後,上記CW回路によって直流高電圧に昇圧・整流されて出力される(例えば,特許文献1参照)。なお,例えば特許文献2に示されているシュンケル回路もCW回路の一例である。
【0003】
ところで,上記分析装置や上記イオンビーム装置,上記電子ビーム装置などでは,イオンビームや電子ビームの集束制御が電界や磁界を使用して行われる。そのため,イオンや電子のエネルギーが変動すると,イオンビームや電子ビームの集束が妨げられ,或いはそれらのビームの軌道が変動するという問題が生じ得る。また,イオンや電子のエネルギー変動は,イオンビームや電子ビームを試料に照射する際の入射深さ等にも影響する。よって,イオンや電子のエネルギー変動(電圧変動)をできるだけ低減することが望ましい。
このエネルギー変動の要因には,高電圧発生装置に入力される商用交流電源の交流電圧に含まれたリップル(変動ノイズ)や,高電圧発生装置に入力される交流電圧を生成する発振回路のスイッチング動作によって発生するリップルなどが含まれる。
これに対し,例えば特許文献2では,高電圧発生装置から出力される直流高電圧や発振回路の発振出力を検出し,その検出結果を発振回路にフィードバックすることによって,CW回路の直流高電圧出力の安定化を図ることが提案されている。
【特許文献1】特開2005−228494号公報
【特許文献2】特開平8−168251号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,上記特許文献2に係る構成では,CW回路の前段に設けられた発振回路へのフィードバック制御によってリップルを軽減させている。そのため,係る処理によって除去しきれなかった多少のリップルは,CW回路に入力されて昇圧され,該CW回路からの直流高電圧出力に含まれることになる。このように,上記特許文献2に係る構成では,CW回路の直流高電圧出力からリップルを除去する効果が少ないという問題がある。
従って,本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,CW回路の直流高電圧出力からリップルを効果的に除去することのできる高電圧発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明は,入力された交流電圧を昇圧・整流して直流高電圧を出力するコッククロフト・ウォルトン回路,又はこれに準じる多段型の倍電圧整流回路を含む直流高電圧回路を備えてなる高電圧発生装置に適用されるものであって,上記直流高電圧回路から出力される直流高電圧に含まれるリップルを検出するリップル検出手段と,上記リップル検出手段によって検出されるリップルと逆位相の電圧波形を上記直流高電圧回路の基準電位点(例えばグランド)に入力することによって上記直流高電圧回路の直流高電圧出力からリップルを除去するリップル除去手段とを備えてなることを特徴とする高電圧発生装置として構成される。
本発明に係る上記高電圧発生装置では,上記直流高電圧回路の基準電位点の電位が上記リップルと逆位相で変動することによって,上記直流高電圧回路の直流高電圧出力から上記リップルが効果的に除去される。また,上記基準電位点の電位を上記リップルと同等の振幅で変動させるだけでよいため,上記直流高電圧回路から出力される直流高電圧と同等の高電圧を出力する大規模な電源装置などを設ける必要もない。
【0006】
例えば,上記リップル検出手段は,上記直流高電圧回路から出力される直流高電圧を測定する電圧測定手段によって測定された直流高電圧に基づいて該直流高電圧に含まれるリップルを検出するものであることが考えられる。これにより,実際に上記直流高電圧回路の直流高電圧出力に含まれるリップルを,該リップルの発生要因にかかわらず除去することが可能となる。
また,入力されるスイッチング信号に基づくスイッチング制御を行うことによって上記直流高電圧回路に入力される交流電圧を生成する発振手段を備えてなる構成では,上記リップル検出手段が,上記発振手段から出力される交流電圧に基づいて,上記直流高電圧回路から出力される直流高電圧に含まれるリップルを検出するものであることが考えられる。このような構成によれば,上記直流高電圧回路の前段で発生するリップルを,該直流高電圧回路の直流高電圧出力から除去することが可能となる。
【0007】
また,入力されるスイッチング信号に基づくスイッチング制御を行うことによって上記直流高電圧回路に入力される交流電圧を生成する発振手段を備えてなる構成では,上記直流高電圧回路の直流高電圧出力に含まれるリップルが,主に上記発振手段による交流電圧の生成に伴って発生するリップルに起因するものであることが考えられる。
そこで,このような構成では,上記リップル検出手段が,上記発振手段に入力されるスイッチング信号に基づいて,上記直流高電圧回路から出力される直流高電圧に含まれるリップルを検出するものであることが考えられる。
これにより,上記直流高電圧回路の直流高電圧出力から,上記発振手段による交流電圧の生成に伴って発生するリップルを除去することが可能である。特に,係る構成によれば,上記発振手段に入力されるスイッチング信号に基づいて上記逆位相の電圧波形が上記基準電位点に入力されるフィードフォワード制御が行われるため,該スイッチング信号が上記発振手段に入力されることによって発生するリップルを時間遅れなく除去することができる。
【0008】
他方,上記直流高電圧回路の直流高電圧出力に含まれるリップルが,主に商用交流電源から当該高電圧発生装置に供給される交流電圧に含まれたリップルに起因するものであることが考えられる。
そこで,上記リップル検出手段は,商用交流電源から当該高電圧発生装置に供給される交流電圧に基づいて,上記直流高電圧回路から出力される直流高電圧に含まれるリップルを検出するものであることが考えられる。
これにより,上記直流高電圧回路の直流高電圧出力から,上記商用交流電源から供給される交流電圧に含まれるリップルを除去することが可能である。特に,係る構成によれば,上記商用交流電源から供給される交流電圧に基づいて上記逆位相の電圧波形が上記基準電位点に入力されるフィードフォワード制御が行われるため,該交流電圧が当該高電圧発生装置に入力されることによって発生するリップルを時間遅れなく除去することができる。
【0009】
さらに,商用交流電源から供給される交流電圧を整流する整流手段と,入力されるスイッチング信号に基づいて上記整流手段からの直流電圧のスイッチング制御を行うことにより上記直流高電圧回路に入力される交流電圧を生成する発振手段とを備える構成では,上記直流高電圧回路の直流高電圧出力に含まれるリップルが,上記発振手段による交流電圧の生成に伴って発生するリップルと,上記商用交流電源の交流電圧に含まれたリップルとの両方に起因するものであることが考えられる。
そこで,このような構成では,上記リップル検出手段が,上記発振手段に入力されるスイッチング信号に基づいて,上記直流高電圧回路から出力される直流高電圧に含まれる第1のリップルを検出する第1のリップル検出手段と,上記商用交流電源から供給される交流電圧に基づいて,上記直流高電圧回路から出力される直流高電圧に含まれる第2のリップルを検出する第2のリップル検出手段とを含んでなり,上記リップル除去手段が,上記第1のリップル検出手段により検出された第1のリップル及び上記第2のリップル検出手段により検出された第2のリップルを合成した合成リップルと逆位相の電圧波形を上記直流高電圧回路の基準電位点に入力するものであることが考えられる。
これにより,上記直流高電圧回路の直流高電圧出力から,上記発振手段による交流電圧の生成に伴って発生するリップルと,上記商用交流電源から供給される交流電圧に起因して発生するリップルとを共に除去することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば,上記直流高電圧回路の基準電位点の電位が上記リップルと逆位相で変動することによって,上記直流高電圧回路の直流高電圧出力から上記リップルが効果的に除去される。また,上記基準電位点の電位を上記リップルと同等の振幅で変動させるだけでよいため,上記直流高電圧回路から出力される直流高電圧と同等の高電圧を出力する大規模な電源装置などを設ける必要もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下添付図面を参照しながら,本発明の実施の形態について説明し,本発明の理解に供する。尚,以下で説明する第1実施形態〜第3実施形態は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
ここに,図1は本発明の実施の形態に係る高電圧発生装置X(X1〜X3)を備えたラザフォード後方散乱分析装置Yの概略構成を示す模式図,図2〜図4は本発明の第1実施形態〜第3実施形態に係る高電圧発生装置X1〜X3の概略構成を示すブロック図である。以下,本発明の第1実施形態〜第3実施形態に係る高電圧発生装置X1〜X3のいずれかを不特定に示す場合には高電圧出力装置Xという。
まず,図1を参照しつつ,本発明の実施の形態に係る高電圧発生装置Xを備えるラザフォード後方散乱分析装置Y(以下,「RBS分析装置Y」と略す。)の概略構成について説明する。なお,このRBS分析装置Yは,入力された交流電圧を昇圧・整流して所定の直流高電圧を発生させる高電圧発生装置Xの用途の単なる一例に過ぎず,該高電圧発生装置Xは,イオンビーム装置や電子ビーム装置などの各種装置に用いることが可能である。
【0012】
図1に示すように,上記RBS分析装置Yには,円筒形の測定チャンバ(真空容器)103が設けられており,上記測定チャンバ103近傍には該測定チャンバ103内部の空気を排出して真空化するターボ分子ポンプ109が設けられている。また,上記測定チャンバ103の中心軸(円筒軸)にあたる位置には,試料102を保持する試料台が配置されている。この試料台は上記測定チャンバ103の中心軸に沿って該測定チャンバ103の中心軸方向に上下動自在に支持されている。
さらに,上記測定チャンバ103には,上記試料102に照射されたイオンによってその試料102から複数の方向に散乱した散乱イオンを検出する検出器105が設けられている。なお,上記測定チャンバ103の外周には,マグネット冷却器108によって冷却される超電導マグネット104が配置されており,この超電導マグネット104によって,散乱イオンの散乱方向が変えられる。
また,上記測定チャンバ103の外部には,上記試料台に試料102を搬出入するトランスファーロッド106が設けられており,該トランスファーロッド106の気密は,ロードロックチャンバ107で保持されている。
【0013】
一方,上記測定チャンバ103の鉛直上方には,加速器(加速装置)110が配置されている。上記加速器110は,不図示のガスボンベから送り出されたヘリウムなどをイオン化するイオン源112や,該イオン源112でイオン化された一価のヘリウムイオン(荷電粒子の一例)を加速させる加速管113,該加速管113に直流高電圧を供給する高電圧発生装置Xなどを有している。
上記加速器110内では,上記高電圧発生装置Xから供給される直流高電圧によって上記加速管113にエネルギーが蓄えられることにより,該加速管113においてヘリウムイオンが加速される。なお,上記加速器110内は,直流高電圧による放電等を抑制するため,消弧性及び絶縁性の高いSF6等の絶縁ガスで充填されている。
そして,上記加速管113内で加速されたイオンは鉛直下方へ出射され,ビームダクト116を通り,途中,四重極マグネット111により集束されて,上記測定チャンバ103内の試料102に照射される。これにより,上記試料102に照射されて該試料102の表面又は内部で弾性散乱されたイオンのうち,上記検出器105で検出されたイオンが不図示の分析処理部による分析に供される。
【0014】
以上のように構成された上記RBS分析装置Yは,上記加速器110に直流高電圧を供給する上記高電圧発生装置Xの構成に特徴を有している。具体的に,上記高電圧発生装置Xは,リップル(変動ノイズ)が効果的に除去されて安定した直流高電圧を出力し得る。これにより,上記RBS分析装置Yでは,エネルギー変動(電圧変動)の少ない安定した直流高電圧が上記加速器110に供給されるため,上記試料102に照射されるヘリウムイオンのビーム軌道の変動などを防止して該試料102の分析を高い精度で行うことができる。
以下,第1実施形態〜第3実施形態では,図2〜図4を用いて,上記高電圧発生装置Xの一例である高電圧発生装置X1〜X3について説明する。なお,図2〜図4において同様の構成要素には同じ符号を付している。まず,上記高電圧発生装置X1について説明し,上記高電圧発生装置X2,X3については該高電圧発生装置X1と異なる構成についてのみ説明する。
【0015】
(第1実施形態)
図2に示すように,上記高電圧発生装置X1は,商用交流電源10から供給される交流電圧(例えばAC100V)に基づいて所定周波数の交流波形を生成する波形生成回路20と,上記波形生成回路20の出力側に一次コイルが接続されたトランス30と,上記トランス30の二次コイルから入力される交流電圧を昇圧・整流して直流高電圧を出力するコッククロフト・ウォルトン回路40(以下「CW回路40」と略称する)と,上記CW回路40から出力される直流高電圧を測定する電圧測定器50と,上記CW回路40の直流高電圧出力からリップルを除去するためのリップル除去回路60とを備えて概略構成されている。
【0016】
上記波形生成回路20は,上記商用交流電源10から供給される交流電圧を整流する整流回路21(整流手段の一例)や,上記整流回路21から出力された整流後の直流電圧の電圧レベルを制御する電圧制御回路22,上記電圧制御回路22から出力された直流電圧のスイッチング制御(ON/OFF制御)を行うことにより高周波の交流電圧を発振出力する発振回路23(発振手段の一例)などを有している。なお,上記波形成生成回路20では,上記CW回路40からの直流高電圧の出力値が所望の値となるように,上記電圧制御回路22によって上記発振回路23に入力される直流電圧の電圧レベルが制御される。
上記発振回路23は,不図示のCPUなどの演算装置やASICなどの制御回路から入力されるスイッチング信号に基づいて上記電圧制御回路22から入力された直流電圧の出力をスイッチング(ON/OFF)することによって,上記スイッチング信号と同位相,同周波数の交流電圧を生成する。
上記トランス30は,上記発振回路23から一次コイルに入力される交流電圧を昇圧して二次コイルから出力する。例えば,上記トランス30では,一次コイルに入力された100Vの交流電圧によって,二次コイルに200V〜400V程度の交流電圧が励起される。
【0017】
上記CW回路40は,PN型ダイオード41及びコンデンサ42を含む昇圧回路が段階的に複数結合することにより構成された多段型の倍電圧整流回路を含む直流高電圧回路の一例である。具体的に,上記CW回路40は,上記トランス30の二次コイルの両端及び中点に接続された対称型のCW回路であって,該トランス30の二次コイルの中点はグランド43(基準電位点の一例)に接続されている。
そして,上記CW回路40は,上記トランス30から入力される交流電圧を予め設定された所定レベルの直流高電圧に昇圧・整流して出力する。このとき,上記CW回路40から出力される直流高電圧は,上記グランド43を基準電位としたものである。なお,上記CW回路40から出力される直流高電圧の値は,上記PN型ダイオード41及びコンデンサ42が結合された段数に応じて定まる。例えば,上記CW回路40は,200V〜400V程度の交流電圧を1MV程度の直流電圧に昇圧・整流して出力するように構成される。
また,上記CW回路40は,図2に示すような対称型のCW回路に限られず,上記トランス30の二次コイルの両端に接続された平衡型のCW回路であってもよく,この場合には,該トランス30の二次コイルの両端のいずれか一方が上記グランド43に接続されることになる。さらに,上記CW回路40は,入力された交流電圧を昇圧・整流して直流高電圧を出力する直流高電圧回路の単なる一例に過ぎず,上記CW回路40に換えて,CW回路の一種であるシュンケル回路や,これらに準じる多段型の倍電圧整流回路などを用いてもよい。
【0018】
ところで,前述したように,上記CW回路40からの直流高電圧出力には,上記商用交流電源10の交流電圧に含まれたリップルや上記発振回路23におけるスイッチング動作に起因して発生するリップル等が含まれる。例えば,上記CW回路40から出力される直流高電圧が1MVである場合,該直流高電圧には1V〜10V程度のリップルが含まれる。このリップルは,上記CW回路40から出力される直流高電圧を用いてイオンや電子を加速させる際に,イオンビームや電子ビームの集束の妨げや,該ビームの軌道を変動させる要因となる。
そのため,上記高電圧発生装置X1では,上記CW回路40の直流高電圧出力からリップルを除去するべく,上記電圧測定器50及び上記リップル除去回路60(リップル除去手段の一例)が設けられている。
上記電圧測定器50(電圧測定手段の一例)は,上記CW回路40から出力される直流高電圧を測定する周知の静電容量式の電圧計であって,該電圧測定器50で測定された直流高電圧の値は上記リップル除去回路60に入力される。もちろん,上記電圧測定器50は,静電容量式の電圧計に限られず,その他の周知の電圧計を用いてもよい。
【0019】
一方,上記リップル除去回路60は,上記電圧測定器50によって測定された直流高電圧に基づいて,該直流高電圧に含まれるリップルS1(交流成分)の位相及び電圧レベルを検出するリップル検出回路61(リップル検出手段の一例)と,上記リップル検出回路61で検出されたリップルS1の位相を反転させた逆位相の電圧波形である逆位相波形S2を上記CW回路40のグランド43に入力する逆位相出力回路62とを備えている。また,上記リップル除去回路60に換えて,該リップル除去回路60と同様の処理機能を具現する演算装置を用いてもよい(後述のリップル除去回路70,80についても同様)。
上記リップル検出回路61は,例えば上記電圧測定器50によって測定された直流高電圧と予め設定された電圧値との比較により,該直流高電圧に含まれたリップルS1を検出する。具体的には,上記電圧測定器50によって測定された直流高電圧の値に応じたデジタル値を,予め設定されたデジタル指標値と比較すればよい。なお,その他,上記CW回路40から出力される直流高電圧の波形画像の画像処理などによってリップルS1を検出してもよい。
上記逆位相出力回路62は,例えば上記リップルS1の電圧レベル(変動幅)が10Vである場合,上記リップルS1と逆位相であって振幅が同レベル(10V)の逆位相波形S2を出力する。
【0020】
このように構成された上記高電圧発生装置X1では,上記リップル除去回路60の逆位相出力回路62から出力される逆位相波形S2によって,上記CW回路40のグランド43の電位(基準電位)が,上記CW回路40から出力される直流高電圧に含まれたリップルS1と逆位相で変動することになるため,該CW回路40の直流高電圧出力から該リップルS1が除去される。
特に,上記高電圧発生装置X1では,上記グランド43の電位を上記リップルS1と同等の振幅で変動させるだけでよいため,上記CW回路40から出力される直流高電圧と同等の高電圧を出力する大規模な電源装置などを設ける必要がない。
また,上記高電圧発生装置X1では,実際に上記CW回路40から出力される直流高電圧に基づいて該直流高電圧に含まれるリップルS1を除去するフィードバック制御を行っているため,実際に上記CW回路40の直流高電圧出力に含まれるリップルS1を,そのリップルS1の発生要因にかかわらず除去することが可能である。なお,上述したように上記リップルS1は,上記商用交流電源10から供給される交流電圧に含まれたリップルや,上記発振回路23のスイッチング動作により発生するリップルなどに起因するものである。
【0021】
ここで,上記CW回路40から出力される直流高電圧に含まれるリップルS1は,上記発振回路23から出力される交流電圧に含まれたリップルが上記トランス30及び上記CW回路40で昇圧されたものである。よって,上記電圧測定器50で上記発振回路23から出力される交流電圧を測定し,上記リップル検出回路61が,その測定された交流電圧に基づいて上記CW回路40から出力される直流高電圧に含まれるリップルS1を検出することも可能である。具体的には,上記発振回路23からの交流電圧に含まれたリップルと,上記CW40からの直流高電圧に含まれたリップルS1との関係を予め行われる実験やシミュレーションにより定義しておくことにより,該リップルS1の検出が可能となる。
このような構成によっても,上記発振回路23からの交流電圧に含まれたリップルに基づいて検出されたリップルS1と逆位相であって同等レベルの逆位相波形S2を上記グランド43に入力することにより,上記CW回路40から出力される直流高電圧に含まれるリップルS1を除去することが可能である。また,この場合には,上記CW回路40の直流高電圧出力に基づいてリップルS1を除去する場合に比べて,該リップルS1に対する時間遅れが低減される。
なお,上記グランド43に入力される逆位相波形S2の振幅は,予め行われた実験やシミュレーションによって得られた上記CW回路40の直流高電圧出力に含まれるリップルS1の振幅と同レベルに予め設定しておくことが考えられる。また,上記CW回路40から出力される直流高電圧に含まれたリップルS1のレベルをその都度測定し,該測定結果をフィードバックして上記逆位相波形S2の振幅を設定するものであってもよい。或いは,ユーザが手動操作によって上記逆位相波形S2の振幅レベルを調整し得るように上記逆位相出力回路62を構成しておき,ユーザが上記CW回路40から出力される直流高電圧の測定結果を参照しながら,リップルS1をキャンセルするように逆位相波形S2の振幅レベルを設定することも考えられる。
【0022】
(第2実施形態)
次に,図3を用いて,上記発振回路23のスイッチング動作に起因するリップルを除去し得る高電圧発生装置X2について説明する。
当該高電圧発生装置X2は,上記CW回路40から出力される直流高電圧に含まれるリップルが,主に上記発振回路23のスイッチング動作に起因して発生するものであって,該発振回路23に入力されるスイッチング信号と同位相で発生するものである場合に好適である。
図3に示すように,上記高電圧発生装置X2は,上記電圧測定器50及び上記リップル除去回路60に換えてリップル除去回路70(リップル除去手段の一例)を備えている。
上記リップル除去回路70は,上記CW回路40から出力される直流高電圧に含まれるリップルを検出するリップル検出回路71(リップル検出手段の一例)と,上記リップル検出回路71によって検出されたリップルと逆位相の逆位相波形S4を上記CW回路40のグランド43に入力する逆位相出力回路72とを備えている。また,当該高電圧発生装置X2では,上記発振回路23に入力されるスイッチング信号S3が上記リップル除去回路70にも入力されている。
【0023】
上記リップル検出回路71は,上記発振回路23に入力されるスイッチング信号S3を検出し,上記CW回路40からの直流高電圧出力に含まれるリップルを上記スイッチング信号S3に基づいて検出する。
具体的に,上記CW回路40からの直流高電圧出力に含まれるリップルは,上記発振回路23入力されるスイッチング信号S3と同位相で発生することになる。そのため,上記リップル検出回路71では,上記スイッチング信号S3を検出することにより,上記リップルの位相や周波数を検出することが可能である。
そして,上記逆位相出力回路72は,上記リップル検出回路71によって検出された上記CW回路40からの直流高電圧に含まれたリップルと逆位相であって同等レベルの逆位相波形S4を上記グランド43に入力する。これにより,上記高電圧発生装置X2では,上記グランド43の電位が上記逆位相波形S4によって上記リップルと逆位相で変動することにより,上記CW回路40から出力される直流高電圧に含まれるリップルが除去される。特に,上記高電圧発生装置X2では,上記発振回路23に入力されるスイッチング信号S3に基づいて上記CW回路40の直流高電圧に含まれるリップルを想定し,そのリップルと逆位相の逆位相波形S4を上記グランド43に入力することによって上記CW回路40の直流高電圧出力からリップルを除去するフィードフォワード制御を行っているため,該リップルに対する時間遅れを防止することができる。
【0024】
ここで,上記逆位相出力回路72は,上記リップル検出回路71によって検出されたスイッチング信号S3を上記リップルと同レベルまで増幅させる増幅回路などを有してなり,該増幅回路によって増幅された上記逆位相波形S4を上記グランド43に入力するものであることが一例として考えられる。
また,上記逆位相出力回路72は,上記発振回路23と同等の周波数信号を発振することができ,その周波数を微調整することのできる発振回路や演算装置などを有してなり,上記発振回路23に入力されるスイッチング信号S3に基づいて,上記グランド43に上記スイッチング信号S3と逆位相の上記逆位相波形S4を発生させて,上記グランド43に入力するものであってもよい。
なお,上記逆位相出力回路72から出力される上記逆位相波形S4の振幅は,例えば,予め行われる実験やシミュレーション等により上記CW回路40から出力される直流高電圧に含まれたリップルを測定した結果に基づいて,該リップルと同レベルに設定しておくことが考えられる。また,上記CW回路40から出力される直流高電圧に含まれたリップルのレベルをその都度測定し,該測定結果をフィードバックして上記逆位相波形S4の振幅を設定するものであってもよい。或いは,ユーザが手動操作によって上記逆位相波形S4の振幅レベルを調整し得るように上記逆位相出力回路72を構成しておき,ユーザが上記CW回路40から出力される直流高電圧の測定結果を参照しながら,リップルをキャンセルするように逆位相波形S4の振幅レベルを設定することも考えられる。
【0025】
(第3実施形態)
次に,図4を用いて,上記商用交流電源10の交流電圧に起因するリップルを除去し得る高電圧発生装置X3について説明する。
当該高電圧発生装置X3は,上記CW回路40から出力される直流高電圧に含まれるリップルが,主に上記商用交流電源10から供給される交流電圧に含まれたリップルに起因するものであって,該商用交流電源10から供給される交流電圧と同位相で発生するものである場合に好適である。
図4に示すように,上記高電圧発生装置X3は,上記電圧測定器50及び上記リップル除去回路60に換えてリップル除去回路80(リップル除去手段の一例)を備えている。
上記リップル除去回路80は,上記CW回路40から出力される直流高電圧に含まれるリップルを検出するリップル検出回路81(リップル検出手段の一例)と,上記リップル検出回路81によって検出されたリップルと逆位相の逆位相波形S6を上記CW回路40のグランド43に入力する逆位相出力回路82とを備えている。また,当該高電圧発生装置X3では,上記商用交流電源10から供給される交流電圧が上記リップル検出回路81にも入力されている。
【0026】
上記リップル検出回路81は,上記商用交流電源10から供給される交流電圧S5を検出し,上記CW回路40からの直流高電圧出力に含まれたリップルを上記交流電圧S5に基づいて検出する。
具体的に,上記CW回路40からの直流高電圧出力に含まれたリップルは,上記商用交流電源10から供給される交流電圧S5と同位相で発生することになる。そのため,上記リップル検出回路81では,上記交流電圧S5を検出することにより,上記リップルの位相や周波数を検出することが可能である。
そして,上記逆位相出力回路82は,上記リップル検出回路81によって検出された上記CW回路40からの直流高電圧に含まれたリップルと逆位相であって同等レベルの逆位相波形S6を上記グランド43に入力する。これにより,上記高電圧発生装置X3では,上記グランド43の電位が上記逆位相波形S6によって上記リップルと逆位相で変動することにより,上記CW回路40から出力される直流高電圧に含まれるリップルが除去される。特に,上記高電圧発生装置X3では,上記商用交流電源10から供給される交流電圧S5に基づいて上記CW回路40の直流高電圧に含まれるリップルを想定し,そのリップルと逆位相の逆位相波形S6を上記グランド43に入力することによって上記CW回路40の直流高電圧出力からリップルを除去するフィードフォワード制御を行っているため,該リップルに対する時間遅れを防止することができる。
【0027】
ここで,上記逆位相出力回路82は,上記リップル検出回路81によって検出された交流電圧S5を上記リップルと同レベルまで増幅(減衰)させて出力させる増幅回路などを有してなり,該増幅回路によって増幅(減衰)された上記逆位相波形S6を上記グランド43に入力するものであることが一例として考えられる。
また,上記逆位相出力回路82は,上記商用交流電源10と同等の周波数信号を発振することができ,その周波数を微調整することのできる発振回路や演算装置などを有してなり,上記商用交流電源10から出力される交流電圧S5に基づいて,上記グランド43に上記スイッチング信号S5と逆位相の上記逆位相波形S6を発生させて,上記グランド43に入力するものであってもよい。
なお,上記逆位相出力回路82から出力される上記逆位相波形S6の振幅は,例えば,予め行われる実験やシミュレーション等により上記CW回路40から出力される直流高電圧に含まれたリップルを測定した結果に基づいて,該リップルと同レベルに設定しておくことが考えられる。また,上記CW回路40から出力される直流高電圧に含まれたリップルのレベルをその都度測定し,該測定結果をフィードバックして上記逆位相波形S6の振幅を設定するものであってもよい。或いは,ユーザが手動操作によって上記逆位相波形S6の振幅レベルを調整し得るように上記逆位相出力回路82を構成しておき,ユーザが上記CW回路40から出力される直流高電圧の測定結果を参照しながら,リップルをキャンセルするように逆位相波形S6の振幅レベルを設定することも考えられる。
【実施例1】
【0028】
さらに,上記高電圧発生装置X2に設けられたリップル除去回路70と,上記高電圧発生装置X3に設けられたリップル除去回路80との各々の機能を共に有するリップル除去回路(リップル除去手段の一例)を備える構成も他の実施形態として考えられる。
この場合,当該リップル除去回路は,上記発振回路23におけるスイッチング動作に起因して上記CW回路40の直流高電圧出力に発生するリップル(第1のリップルに相当)を,上記発振回路23に入力されるスイッチング信号に基づいて検出する上記リップル検出回路71(第1のリップル検出手段に相当)と,上記商用交流電源10から供給される交流電圧に起因して上記CW回路40の直流高電圧出力に発生するリップル(第2のリップルに相当)を検出する上記リップル検出回路81(第2のリップル検出手段に相当)と,この二つのリップル検出回路71,81によって検出されたリップルを合成し,その合成リップルと逆位相の電圧波形を上記グランド43に入力する逆位相出力回路とを備えて構成される。
これにより,上記CW回路40から出力される直流高電圧に含まれる,上記発振回路23のスイッチング動作に起因して発生するリップルと,上記商用交流電源10から供給される交流電圧に起因して発生するリップルとを共に除去することができる。
【実施例2】
【0029】
また,フィードフォワード制御によってリップルを除去する上記リップル除去回路70及び/又は上記リップル除去回路80と共に,フィードバック制御によってリップルを除去する上記リップル除去回路60を備える構成も他の実施例として考えられる。
これにより,上記リップル除去回路70や上記リップル除去回路80によるフィードフォワード制御によって除去しきれなかったリップルを上記リップル除去回路60によって除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態に係る高電圧発生装置を備えてなるラザフォード後方散乱分析装置の概略構成図。
【図2】本発明の実施の形態に係る高電圧発生装置の一例である高電圧発生装置X1の概略構成を示すブロック図。
【図3】本発明の実施の形態に係る高電圧発生装置の一例である高電圧発生装置X2の概略構成を示すブロック図。
【図4】本発明の実施の形態に係る高電圧発生装置の一例である高電圧発生装置X3の概略構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0031】
10…商用交流電源
20…波形生成回路
21…整流回路(整流手段の一例)
22…電圧制御回路
23…発振回路(発振手段の一例)
30…トランス
40…コッククロフト・ウォルトン回路(直流高電圧回路の一例)
41…PN型ダイオード
42…コンデンサ
43…グランド(基準電位点の一例)
50…電圧測定器
60,70,80…リップル除去回路(リップル除去手段の一例)
61,71,81…リップル検出回路(リップル検出手段の一例)
62,72,82…逆位相出力回路
X(X1〜X3)…高電圧発生装置
Y…ラザフォード後方散乱分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された交流電圧を昇圧・整流して直流高電圧を出力するコッククロフト・ウォルトン回路,又はこれに準じる多段型の倍電圧整流回路を含む直流高電圧回路を備えてなる高電圧発生装置であって,
上記直流高電圧回路から出力される直流高電圧に含まれるリップルを検出するリップル検出手段と,
上記リップル検出手段によって検出されるリップルと逆位相の電圧波形を上記直流高電圧回路の基準電位点に入力することによって上記直流高電圧回路の直流高電圧出力からリップルを除去するリップル除去手段と,
を備えてなることを特徴とする高電圧発生装置。
【請求項2】
上記リップル検出手段が,上記直流高電圧回路から出力される直流高電圧を測定する電圧測定手段によって測定された直流高電圧に基づいて該直流高電圧に含まれるリップルを検出するものである請求項1に記載の高電圧発生装置。
【請求項3】
入力されるスイッチング信号に基づくスイッチング制御を行うことによって上記直流高電圧回路に入力される交流電圧を生成する発振手段を更に備えてなり,
上記リップル検出手段が,上記発振手段から出力される交流電圧に基づいて,上記直流高電圧回路から出力される直流高電圧に含まれるリップルを検出するものである請求項1に記載の高電圧発生装置。
【請求項4】
入力されるスイッチング信号に基づくスイッチング制御を行うことによって上記直流高電圧回路に入力される交流電圧を生成する発振手段を更に備えてなり,
上記リップル検出手段が,上記発振手段に入力されるスイッチング信号に基づいて,上記直流高電圧回路から出力される直流高電圧に含まれるリップルを検出するものである請求項1に記載の高電圧発生装置。
【請求項5】
上記リップル検出手段が,商用交流電源から当該高電圧発生装置に供給される交流電圧に基づいて,上記直流高電圧回路から出力される直流高電圧に含まれるリップルを検出するものである請求項1に記載の高電圧発生装置。
【請求項6】
商用交流電源から供給される交流電圧を整流する整流手段と,入力されるスイッチング信号に基づいて上記整流手段からの直流電圧のスイッチング制御を行うことにより上記直流高電圧回路に入力される交流電圧を生成する発振手段とを更に備えてなり,
上記リップル検出手段が,上記発振手段に入力されるスイッチング信号に基づいて,上記直流高電圧回路から出力される直流高電圧に含まれる第1のリップルを検出する第1のリップル検出手段と,上記商用交流電源から供給される交流電圧に基づいて,上記直流高電圧回路から出力される直流高電圧に含まれる第2のリップルを検出する第2のリップル検出手段とを含んでなり,
上記リップル除去手段が,上記第1のリップル検出手段により検出された第1のリップル及び上記第2のリップル検出手段により検出された第2のリップルを合成した合成リップルと逆位相の電圧波形を上記直流高電圧回路の基準電位点に入力するものである請求項1に記載の高電圧発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−57254(P2010−57254A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218811(P2008−218811)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】