説明

高露点条件下の燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤及び付臭剤除去方法

【課題】高露点条件下にある付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤及び高露点条件下にある硫黄化合物やシクロヘキセンなどの付臭剤を含有する燃料ガス中の付臭剤の除去方法を得る。
【解決手段】高露点条件下にある付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤であって、吸着剤が疎水性ゼオライトであるβ型ゼオライトにAgをイオン交換により担持させてなる吸着剤であることを特徴とする高露点条件下の燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤、及び、高露点条件下にある付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去方法であって、非常に高い露点条件下にある付臭剤含有燃料ガスを、疎水性ゼオライトであるβ型ゼオライトにAgをイオン交換により担持させてなる吸着剤に通すことを特徴とする高露点条件下の燃料ガス中の付臭剤除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高露点条件下の燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤及び付臭剤除去方法に関し、より詳しくは、高露点条件下にある硫黄化合物やシクロヘキセンなどの付臭剤を含有する燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤及び付臭剤除去方法に関する。なお、本明細書でいう“高露点”とは、燃料ガスの露点が−15℃以上のことをいう。
【背景技術】
【0002】
メタン、エタン、エチレン、プロパン、ブタン等の低級炭化水素ガス、あるいはこれらを含む天然ガス、都市ガス、LPガス等のガスは、工業用や家庭用などの燃料として使用されるほか、燃料電池用燃料や雰囲気ガスなどとして利用される水素の製造用原料としても使用される。それら低級炭化水素ガス、あるいはそれらを含む天然ガス、都市ガス、LPガス等のガスを本明細書において燃料ガスと言う。水素の工業的製造方法の一つである水蒸気改質法では、それらの低級炭化水素ガスを、Ni系、Ru系等の触媒の存在下、水蒸気により改質し、水素を主成分とする改質ガスが生成される。
【0003】
都市ガスやLPガス等の燃料ガスには、漏洩保安を目的とする付臭剤として、サルファイド類やチオフェン類、あるいはメルカプタン類などの硫黄化合物やシクロヘキセン(炭化水素)が含まれている。具体的には、サルファイド類としてジメチルサルファイド(本明細書中DMSと略称する)やエチルメチルサルファイドやジエチルサルファイド、チオフェン類としてテトラヒドロチオフェン(同じくTHTと略称する)、メルカプタン類としてターシャリーブチルメルカプタン(同じくTBMと略称する)やイソプロピルメルカプタンやノルマルプロピルメルカプタンやターシャリーアミルメルカプタンやターシャリーヘプチルメルカプタンやメチルメルカプタンやエチルメルカプタンなどである。
【0004】
一般に添加される付臭剤としてはDMS、THT及びTBMが多く用いられ、その濃度はいずれも数ppmである。とりわけ、都市ガスにおいてはDMS及びTBMの両方を用いるケースがほとんどである。前記のように水蒸気改質法で用いられる触媒は、これらの硫黄化合物により被毒し、性能劣化を来たしてしまう。このため燃料ガス中のそれらの硫黄化合物は、燃料ガスから予め除去しておく必要がある。また、硫黄化合物を除去した燃料ガス中に、たとえ残留硫黄化合物が少量含まれていても、その残留硫黄化合物の量はできるだけ低濃度であることが望ましい。
【0005】
従来、燃料ガスに含まれる硫黄化合物の除去方法としては、水添脱硫法や吸着剤による方法が知られている。水添脱硫法は、燃料ガスに水素を添加し、CoーMo系触媒等の触媒の存在下、硫黄化合物を硫化水素に分解させ、分解生成物である硫化水素を酸化亜鉛、酸化鉄等の脱硫剤に吸着させて脱硫する方法であり、この場合水素の添加や加熱が必要である。一方、吸着剤による方法は、活性炭、金属酸化物、あるいはゼオライト等を主成分とする吸着剤に燃料ガスを通過させることにより、硫黄化合物を吸着させて除去する方法である。この吸着剤による方法では、加熱することで、吸着能力を増加させる方法もあるが、常温で吸着させる方がシステムがより簡易になるので望ましい。
【0006】
吸着剤を用いて常温で硫黄化合物を除去する方法は、水添脱硫法や加熱を伴う吸着法のように熱や水素等を必要としないため簡易な脱硫方法である。しかし、吸着剤がこれに吸着された硫黄化合物で飽和してしまうとガス中の硫黄化合物を除去することができなくなるので、再生や交換が必要である。したがって、吸着剤の吸着能力の大小により吸着剤の必要量、交換頻度が大きく左右されることになるため、より高い吸着能力を有する吸着剤が望まれる。吸着剤の場合、その性能は、特に硫黄化合物の性質に左右される。付臭剤として使用されるケースが多いDMS、TBMでは、特にDMSがより吸着され難いため破過が早い。このためDMSの吸着量を増加させることが重要となってくる。
【0007】
これまでガス中の硫黄化合物の吸着剤としては各種吸着剤が提案されている。例えば特開平6−306377号公報では、都市ガス、LPガス等の燃料ガスの付臭成分であるメルカプタン類を無酸素雰囲気下、選択的に、水素及び/又はアルカリ土類金属以外の多価金属イオン交換ゼオライトにより除去するというもので、ここでの多価金属イオンとしてはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Sn、Znが好ましいとされている。この技術での吸着対象硫黄化合物は吸着の容易なメルカプタン類だけであり、その吸着能の確認は、その実施例に記載のとおり、上記ゼオライトを入れたサンプリングバッグに350ppmのTBM(都市ガスバランス)を導入することで行われている。
【0008】
本発明者等は、ゼオライト、活性炭、金属化合物、活性アルミナ、シリカゲル、活性白土、粘土系鉱物等の各種多孔質物質、各種金属酸化物など、市販の数多くの吸着剤を用いて、燃料ガス中の硫黄化合物を除去する実験を実施した。このうち、一部は表2に示している。その結果、それらのうち特定の活性炭、特定の金属酸化物、特定のゼオライト(特開平10−237473号公報)だけが燃料ガス中の硫黄化合物の吸着に有効であることを確認することができた。
【0009】
【特許文献1】特開平6−306377号公報
【特許文献2】特開平10−237473号公報
【0010】
ところで、燃料ガス中には、その製造過程あるいは供給過程において、微量の水分が含まれているケースがある。特に、ゼオライトにより水分を含有した燃料ガスを処理した場合、水分を選択的に吸着してしまい、水分が含まれていないか、あるいはそれが極微量である場合に比べ、硫黄化合物の吸着性能が大幅に低下してしまう。この理由は、吸湿剤としても利用されているゼオライトはそれ自身が親水性であり、極性分子である水分を優先的に吸着するためであると推認される。このことからしても、硫黄化合物除去用の吸着剤は、燃料ガス中の硫黄化合物のみを選択的に吸着する必要があり、燃料ガス中の水分の有無に関わらず硫黄化合物を吸着する選択性が必要である。
【0011】
前述のとおり、硫黄化合物を除去した燃料ガス中に含まれる残留硫黄化合物濃度は、燃料ガスを水蒸気改質などに使用する場合、出来るだけ低濃度であることが望ましい。これは、水蒸気改質触媒が硫黄により被毒されるのを防ぐためである。これまで、ガス中の硫黄化合物を極低濃度まで除去する吸着剤として銅系吸着剤(特開平6−256779号公報)が報告されている。しかしながら、この吸着剤は、その性能を満足させるためには、200〜250℃の加熱が必要である。これまで、常温付近においてガス中の硫黄化合物を極低濃度まで除去する吸着剤は報告されていない。
【0012】
また、通常の燃料ガスの供給を考慮すれば、例えば特開2001−286753号公報や特開2002−66313号公報に開示された硫黄化合物吸着剤で十分対応可能である。しかし、ごく稀な現象として、都市ガス導管付近に敷設されている水道管の工事事故や台風や大水等の影響で都市ガス導管中に大量に水が混入した場合には、都市ガスの露点が−15℃(≒1890ppm:水分量)以上の高露点になってしまうことがある。
このような高露点の燃料ガス中に含まれる硫黄化合物を吸着除去できる吸着剤についての報告はなく、それが記載された文献もなかった。
【0013】
そこで、本発明者らは、そのような観点から、燃料ガス中に露点が−15℃(≒1890ppm:水分量)以上となるほどの〔すなわち、燃料ガス中に露点が−15℃(≒1890ppm:水分量)以上という〕多量の水分が含まれている高露点下においても、なお有効に機能する吸着剤について追求し、ゼオライトのうちでも特に疎水性ゼオライトに着目して各種検討、実験を続けた。その結果、疎水性ゼオライトを用い、且つ、これに特定の遷移金属をイオン交換により担持させてなる吸着剤が、燃料ガス中に水分が上記のように多量に含まれていても、有効な硫黄化合物の吸着性能を有することを見い出し、本発明に到達するに至ったものである。
【0014】
ところで、燃料ガスの付臭剤として、前述メルカプタン類、スルフィド類、あるいはチオフェン類などの硫黄化合物のほかに、硫黄分を含まない炭化水素の一種であるシクロヘキセン(cyclohexene=tetrahydrobenzene,分子式=C610、分子量=82.1、融点=−103.65℃、沸点=83.19℃)が知られており、シクロヘキセンはそれらの硫黄化合物と併用しても使用される(特開昭54−58701号公報)。
【0015】
【特許文献3】特開2001−286753号公報
【特許文献4】特開2002−66313号公報
【特許文献5】特開平6−256779号公報
【特許文献6】特開昭54−58701号公報
【0016】
前述のとおり、都市ガス、LPガス等の燃料ガス中の付臭剤である硫黄化合物は水蒸気改質器へ導入する前に除去することが必須である。しかし、燃料ガスに付臭剤としてシクロヘキセンを含む場合、シクロヘキセンは炭化水素であることから、従来、当該シロヘキセンを除去する必要はないと考えられていた。
【0017】
すなわち、最近になるまで、都市ガス、LPガス等の燃料ガスを使用する際にシクロヘキセンを除去しなければならないガス器具があることは知られていなかった。というのは、シクロヘキセンは炭化水素であることから燃料の一種でもあり、燃焼性もよく、各種ガス器具を使用するときにわざわざ除去する必要がなかったためである。
【0018】
ところが、シクロヘキセンを付臭剤として添加した都市ガス、LPガス等を燃料ガス(原燃料)として水蒸気改質器で改質し、生成改質ガスを燃料電池の燃料として使用すると、シクロヘキセンを含む原燃料を改質器系の停止時のパージ用に使用する場合にシクロヘキセンがそれら各触媒に吸着し、活性サイトが覆われる等の悪影響を及ぼす可能性がある。これらの問題を解決するには、都市ガス、LPガス等の燃料ガスから当該シクロヘキセンを予め除去することが必須となる。
【0019】
都市ガス、LPガス等の燃料ガスからシクロヘキセンを除去するためには、燃料ガスに含まれるシクロヘキセンを“選択的に吸着する吸着剤”が必要であるが、シクロヘキセンを“選択的に吸着する吸着剤”はなかった。そこで、本出願人は、シクロヘキセンを選択的に吸着する吸着剤を先に出願〔特願2008−229144(出願日:平成20年9月5日)〕しているが、水分濃度如何による吸着特性については開示されていない。
【0020】
【特許文献7】特願2008−229144(出願日:平成20年9月5日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、燃料ガスの露点が−15℃(≒1890ppm:水分量)以上である高露点条件下にある付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤及び付臭剤除去方法を提供することを目的とする。すなわち、高露点条件下にある付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤を提供することを目的とし、また、そのように高露点条件下にある付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、高露点条件下の付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤であって、吸着剤が疎水性ゼオライトであるβ型ゼオライトにAgをイオン交換により担持させてなる吸着剤であることを特徴とする高露点条件下の燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤である。
【0023】
また、本発明は、高露点条件下にある付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去方法であって、非常に高い露点条件下にある付臭剤含有燃料ガスを、疎水性ゼオライトであるβ型ゼオライトにAgをイオン交換により担持させてなる吸着剤に通すことを特徴とする高露点条件下の付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去方法である。
【0024】
本発明の高露点条件下にある付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤及び高露点条件下の付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去方法において、燃料ガス中の付臭剤は硫黄化合物またはシクロヘキセンである。そのうち硫黄化合物は、サルファイド類、チオフェン類及びメルカプタン類のうちの1種又は2種以上の硫黄化合物である。
【0025】
また、本発明の高露点条件下にある付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤及び高露点条件下の付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去方法において、付臭剤含有燃料ガスの例としてはメタン、エタン、エチレン、プロパン、ブタン等の低級炭化水素ガス、あるいはこれらを含む天然ガス、都市ガス、LPガス等のガスが挙げられる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の高露点条件下にある付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤及び高露点条件下の付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去方法によれば、疎水性ゼオライトに特定の金属をイオン交換により担持させることにより、燃料ガス中の水分濃度に関わらず、燃料ガス中における硫黄化合物の吸着特性を格段に改善することができる。これにより、吸着剤の必要量を少なくできるだけでなく、再生頻度、交換頻度を少なくでき、DMS等の硫黄化合物を含む燃料ガスから硫黄化合物を有効に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、実施例で使用した実験装置、その操作を説明する図である。
【図2】図2は、実施例3の結果を示す図である。
【図3】図3は、実施例3の結果を示す図である。
【図4】図4は、実施例4の結果を示す図である。
【図5】図5は、実施例4の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
ゼオライトには数多くの種類があるが、本発明の高露点条件下にある付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤及び高露点条件下の付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去方法においては、特に疎水性ゼオライトであるβ型ゼオライトを使用することが重要である。本発明は、β型ゼオライトの使用と合わせて、この疎水性ゼオライトにAgをイオン交換により担持させてなることが重要である。本発明に係るその吸着剤は、燃料ガス中の水分濃度が高濃度であっても、燃料ガス中に含まれている硫黄化合物やシクロヘキセンを有効に吸着して除去することができる。
【0029】
Agをイオン交換担持したβ型ゼオライトは、露点−30℃(水濃度約380ppm)以上でも機能し、特に+10℃(水濃度約12150ppm)、+20℃(水濃度約23150ppm)といった従来の付臭剤の吸着除去剤では適用不可能であった非常に高い露点条件下においても高い付臭剤吸着性能を有するため、本件吸着剤を用いることで、これまで不可能であった、そのような条件での付臭剤の吸着除去が可能である。
【0030】
本発明の吸着剤を製造するには、先ず、上記Ag(銀)を疎水性ゼオライトに対してイオン交換法により担持させる。具体的には、銀の化合物を水に溶解して水溶液とする。銀化合物としては、疎水性ゼオライトの陽イオンとイオン交換させる必要があるため、水に溶解し、その水溶液中、銀が銀イオンとして存在し得る銀化合物が用いられる。この水溶液を疎水性ゼオライトと撹拌法、含浸法、流通法等により接触させることにより、疎水性ゼオライト中の陽イオンを銀イオンと交換させる。次いで、水等で洗浄した後、乾燥、焼成することにより得られる。
【0031】
本発明に係る高露点条件下にある燃料ガス中の硫黄化合物及びシクロヘキセン除去用吸着剤及び高露点条件下の付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去方法は、各種燃料ガス中のサルファイド類、チオフェン類、メルカプタン類及びシクロヘキセンのうちの1種又は2種以上を吸着除去するのに適用できるが、特に都市ガスやLPガス等の燃料ガスからそれら硫黄化合物及び/又はシクロヘキセンを吸着除去するのに好適に適用することができる。
【0032】
本発明に係る硫黄化合物及びシクロヘキセン除去用吸着剤による硫黄化合物及び/又はシクロヘキセンを含む燃料ガスの処理は、該吸着剤にそれら成分を含有する燃料ガスを接触させることにより行うが、従来の吸着剤によるガス処理と同様にして行うことができる。硫黄化合物含有燃料ガスを導入管を介して吸着剤充填層(反応管)に導入して、硫黄化合物及び/又はシクロヘキセンを吸着除去し、処理済み燃料ガス導出管を介して処理済み燃料ガスとして導出される。
【0033】
ここで、吸着剤に関して、シクロヘキセンを吸着する吸着剤ではあっても、同じく炭化水素であるそれらの成分(=メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、炭素数6以上の炭化水素)をも吸着する吸着剤では使い物にならず、シクロヘキセンを選択的に吸着する吸着剤であることが必須、不可欠である。本出願人は、それら各種炭化水素の混合物から実質的にシクロヘキセンのみを吸着する吸着剤として有効な“銀担持ゼオライト”を先に出願している(特許文献8、9)。
【0034】
【特許文献8】特願2008−204126(出願日:平成20年8月7日)
【特許文献9】特願2008−229144(出願日:平成20年9月5日)
【0035】
以下、本発明を、原燃料中のTBM、DMS、THTなどの硫黄化合物の選択的吸着特性に係る実験例、原燃料中のTBM、DMS、THTなどの硫黄化合物とシクロヘキセンの選択的吸着特性に係る実験例を基に、さらに詳しく説明する。以下において、シクロヘキセンを適宜“CH”と略称している。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳しく説明するが、本発明がこれら実施例により制限されないことは勿論である。
【0037】
〈実験装置、操作〉
図1は、実施例で使用した実験装置、その操作を説明する図である。図1のとおり、銀担持β型ゼオライト充填容器(銀担持β型ゼオライト吸着剤を充填した容器)10を配置する。「供試吸着剤」として示す箇所に銀担持β型ゼオライトを充填する。
【0038】
銀担持β型ゼオライト充填容器10への試験ガス供給側にはTBM、DMS、THT、CH、等を含む試験ガスを供給する導管1を連結している。すなわち、銀担持β型ゼオライト充填容器10への試験ガス供給側に脱硫器2を備える都市ガス(13A)導管1を配置する。また、流量調節器、開閉弁V5を備えるTBM標準ガス導管5、開閉弁V6を備えるDMS標準ガス導管6、開閉弁V7を備えるTHT標準ガス導管7、開閉弁V8を備えるCH標準ガス導管8を配置する。
【0039】
本実験装置は、開閉弁V5〜V8を操作することにより、TBM、DMS、THT、CHの一種または二種以上を所定量含有する試験ガスを生成することができる。例えば、CHを含む試験ガスは、脱硫器2で脱硫済みの都市ガスに対して、CH標準ガス導管の開閉弁V8を開とし、その流量を流量調節器(マスフローコントローラー)FCにより調節して混合することで調製し、CHとTBMを含む試験ガスは、脱硫器で脱硫済みの都市ガスに対して、CH標準ガス導管の開閉弁V8とTBM標準ガス導管の開閉弁V5を開とし、その流量を流量調節器FCにより調節して混合することにより調製する。
【0040】
なお、都市ガス(13A)を脱硫器2に供給して脱硫し、硫黄化合物付臭剤を除去するのは、都市ガス(13A)中に含まれている硫黄化合物付臭剤を予め除去して、都市ガスと同じ炭化水素組成の試験ガスとするためである。TBM、DMS、THT、CHの各標準ガスは、TBM、DMS、THT、CHをそれぞれ窒素に添加含有させることでつくったものである。
【0041】
銀担持ゼオライト充填容器10には、その入口側の導管1に露点計M1を配置して露点を計測する。脱硫済み都市ガスの一部を分岐管3で分岐して恒温槽中に配置した水槽中にバブリングして供給する。恒温槽により水槽温度を所定温度に保つことによりその温度での飽和水蒸気量を持つ脱硫済み都市ガスが得られる。水槽への分岐都市ガス量を所定量とすることにより、導管9を介して添加する付臭剤を添加するところの都市ガスの露点(値)を所定値に調整することができる。
【0042】
本実験装置の操作に際しては、恒温槽中の温度を例えば25℃というように一定に保つ。試験ガスである脱硫器2で脱硫済みの都市ガスに、TBM、DMS、THT、CHのうちの所定の組み合わせについて、各添加量を設定して添加する。符号9はその添加用の導管である。試験ガスを銀担持β型ゼオライト充填容器10(以下、適宜“カラム”とも称する)に流通させる。銀担持ゼオライト充填容器10中を流れて流出するガス全量をガスメーターGMで測定する。
【0043】
銀担持β型ゼオライト充填容器10を経た試験ガスをサンプリングし、FPDまたはFIDで計測する。
【実施例1】
【0044】
〈供試吸着剤の調製〉
ゼオライトとして、市販のH−β型ゼオライト(東ソー株式会社製、製品名:HSZ−930HOD1A)を用いた。このゼオライトの化学組成はNa2O=0.03wt%、SiO2/Al23=27.4(モル比)であり、バインダーとしてアルミナ20wt%を用いて円柱状のペレット(直径1.5mm、長さ3〜4mm)に成型したものである。
【0045】
βゼオライト中のHイオンのAgイオンへの交換は、一般的な逐次イオン交換により行った。蒸留水100mlに28%NH3水2.2gを添加したNH3水溶液にゼオライト20gを分散させ、50℃で3hr攪拌、ろ過・洗浄して、NH4イオン交換βゼオライトを得た。これを蒸留水100mlに硝酸銀3.1gを溶解させた硝酸銀水溶液に分散させ、50℃で3hr攪拌、ろ過・洗浄してAgイオン交換を行った。その後N2気流下で400℃で2hr焼成してAgイオン交換βゼオライト(以下、Ag/H−BEA)吸着剤を得た。焼成後のAg担持量は5.6wt%であった。
【0046】
〈付臭剤成分の吸着試験〉
図1に示す試験装置を用いて付臭剤成分の吸着試験を実施した。ペレット状吸着剤は、粉砕後に0.35〜0.71mmに整粒した。これを内径8mmの円筒反応管10にその吸着剤を1cm3充填し、反応ガスを1NL/minで流通した(SV=10000hr-1,LV=33.2cm/sec)。試験に用いた反応ガス中の付臭剤成分濃度は、脱硫した都市ガスに各成分のN2バランスガスを所定量添加して表1に示す濃度に調節した。
【0047】
反応ガスの露点は、脱硫した都市ガスの一部をバイパスして恒温槽中で一定温度に保たれた水にバブリングして加湿し、反応管10の手前の湿度計(=露点計)が露点−30℃(≒380ppm−H2O)、−15℃(≒1890ppm−H2O)、+10℃(≒12150ppm−H2O)もしくは+20℃(≒23150ppm−H2O)となるように加湿ガスの流量を調整した。円筒反応管10中の供試脱硫剤の吸着温度は25℃で行った。
【0048】
充填塔出口ガスを経時的にサンプリングし、TBM、DMS、THTについてはFPD(炎光光度検出器により、CHについてはFID(水素炎イオン化検出器)により、連続的に測定して濃度を求め、付臭剤成分が破過した時点での付臭剤吸着量を求めた。
【0049】
【表1】

【実施例2】
【0050】
βゼオライト中のHイオンのAgイオンへの交換を一般的なNH3添加のイオン交換〔例えば特開2000−185232号公報、触媒,Vol.38,No.5,p.342(1996)〕により行った以外は、実施例1と同様にして調製し、付臭剤成分の吸着試験を行った。蒸留水100mlに硝酸銀3.1gを溶解し更に28%NH3水4.5gを添加した水溶液にゼオライト20gを分散させ、50℃、3hr攪拌し、ろ過、洗浄した。その後N2気流下で400℃で2hr焼成してAg/H−BEA吸着剤を得た。焼成後のAg担持量は7.2wt%であった。
【0051】
〈比較例1〉
ゼオライトとして、市販のNa−Y型ゼオライト(東ソー株式会社製、製品名:HSZ−320NAD1A)を用いた。このゼオライトの化学組成はNa2O=12.4wt%、SiO2/Al23=5.6(モル比)であり、バインダーとしてアルミナ20wt%を用いて円柱状のペレット(直径1.5mm、長さ3〜4mm)に成型したものである。
【0052】
Y型ゼオライト中のNaイオンのAgイオンへの交換は、一般的なイオン交換により行った。蒸留水100mlに硝酸銀8.2gを溶解させた硝酸銀水溶液にゼオライト20gを分散させ、50℃、3hr攪拌、ろ過、洗浄して、Agイオン交換を行った。その後N2気流下で400℃で2hr焼成してAgイオン交換Y型ゼオライト〔Ag/Na−FAU(faujasite)〕吸着剤を得た。焼成後のAg担持量は15.3wt%であった。
【0053】
〈比較例2〉
Agイオン交換に用いる硝酸銀の重量を4.9gとした以外は、比較例1と同様にして調製してAg/Na−FAU吸着剤を得た。焼成後のAg担持量は11.8wt%であった。
【0054】
〈試験結果〉
以上の試験における各付臭剤成分の吸着量の結果を表2に示す。表2中の吸着量は以下のようにして求めた。
硫黄化合物(DMS、TBM、THT)については、充填塔出口で測定しているFPDによる各硫黄化合物濃度が0.02ppmに達した時点までの硫黄吸着量を示し、以下の式(1)により算出した。
【0055】
【数1】

【0056】
CHについては、充填塔出口で測定しているFIDによるCH濃度が0.5ppmに達した時点までのCH吸着量を示し、下記式(2)により算出した。
【0057】
【数2】

【0058】
【表2】

【0059】
表2のとおり、比較例1、2のAg/Na−FAUでは、露点+10℃においてDMS、CHの吸着量が著しく低下する。このため、このような高露点ガスが短時間でも供給されうる場合には、低露点ガス供給時に吸着された付臭剤化合物が吸着剤より脱離してしまう。これに対し、実施例1、2のAg/H−BEAでは、比較例1、2と比較して低いAg担持量であるにもかかわらず、露点+10℃において、また露点+20℃においても高いDMS及びCH吸着量を示す。
【0060】
実際のガスの付臭には2成分以上の付臭剤成分を組合せて使用するケースが多い。そこで、いくつかの付臭剤成分の組合せ時の吸着性能についても測定した。
【0061】
付臭剤がTBM+DMSのケースでは、実施例1、2、比較例1、2の全てにおいてDMSが先に破過してくるので、DMS破過時点での吸着TBM及び吸着DMS中の硫黄量を結果として示した。露点+10℃において、比較例1、2のAg/Na−FAUに比べて実施例1のAg/H−BEAではAg担持量が1/3〜1/2と少ないにもかかわらず2〜6倍程度の硫黄吸着量を有することが分かる。
【0062】
付臭剤がTBM+THTのケースでは、実施例1、2、比較例1、2の全てにおいてTHTが先に破過してくるので、THT破過時点での吸着TBM及び吸着THT中の硫黄量を結果として示した。露点+10℃において、THTは既存のAg/Na−FAUでも比較的高い吸着量を有する。これに対し、Ag/H−BEAでの吸着量は若干低いものの、同程度の吸着性能を有することが分かる。
【0063】
付臭剤がTBM+CHのケースでは、実施例1、2、比較例1、2の全てにおいてCHが先に破過してくるので、CH破過時点での吸着CH量を結果として示した。露点+10℃において、比較例1、2のAg/Na−FAUにおいてほとんどCHを吸着できずにすぐに破過するのに対し、実施例1のAg/H−BEAではAg担持量が1/3〜1/2と少ないにもかかわらず140倍程度のCH吸着量を有することが分かる。
【実施例3】
【0064】
実施例1の〈供試吸着剤の調製〉で得たAgをイオン交換担持したβ型ゼオライトを使用して、FPD(炎光光度検出器:検出下限濃度約10ppb)による露点+10℃での、DMS吸着量測定試験を行った。実施例3における分析機器等の情報は以下のとおりである。
【0065】
〈FPDガスクロマトグラフ〉
ガスクロマトグラフ:島津製作所製GC2014
カラム:1,2,3−Tris(2−Cyanoethoxy)Propan 25% Shimalite AW−PMOS−ST(長さ4m、内径3.2mm、メッシュ80/100)
オーブン温度:100℃
入口温度:150℃
検出器温度:200℃
【0066】
図2〜3はその結果である。図2はDMS濃度5.4ppmの校正ガスについてのFPDチャート、図3は図1における吸着剤充填塔出口ガスについてのFPDチャートである。図2のとおり、DMS濃度5.4ppmの校正ガスについてはそのDMS濃度に対応するピークが現れている。これに対して、図3のとおり、吸着剤充填塔出口ガスについてはDMS濃度に対応するピークは現れていない。
【0067】
このように、検出下限濃度約10ppbのFPDによる露点+10℃でのDMS吸着量測定試験では、図1における吸着剤充填塔出口ガスの分析において当該検出下限以下であった。この事実により、本発明の吸着剤によれば都市ガス中の硫黄濃度は10ppb以下まで吸着除去されていることが分かる。
【実施例4】
【0068】
実施例1の〈供試吸着剤の調製〉で得たAgをイオン交換担持したβ型ゼオライトを使用して、実施例3における露点+10℃でのDMS吸着量測定試験と同条件の試験を行い、より高感度で極低硫黄濃度分析が可能な濃縮機能付きGC−SCD(硫黄化学発光検出器ガスクロマトグラフ,検出下限濃度約0.1ppb)により、吸着剤充填塔出口ガスの分析を行った。実施例4における分析機器等の情報は以下のとおりである。
【0069】
〈SCDガスクロマトグラフ(濃縮機能付き)〉
ガスクロマトグラフ:Agilent 製 GC6890A
自動濃縮装置:Entech製7100A
カラム:DB−WAX(長さ60m、内径0.25mm、膜厚50μm)
オーブン温度:40℃
入口温度:220℃
検出器温度:250℃
【0070】
図4〜5はその結果である。図4はDMS濃度10.8ppbの校正ガスについてのGC−SCDチャート、図5は吸着剤充填塔出口ガスについてのGC−SCDチャートである。図4のとおり、DMS濃度10.8ppbのガスについてはそのDMS濃度に対応するピークが現れている。これに対して、図5のとおり、図1における吸着剤充填塔出口ガスについてはDMS濃度に対応するピークは現れていない。
【0071】
このように、吸着剤充填塔出口ガスのDMS濃度は検出下限濃度以下である。このように、本発明の吸着剤によれば都市ガス中の硫黄濃度は0.1ppb以下まで吸着除去されていることが分かる。
【符号の説明】
【0072】
1 都市ガス導管
2 脱硫器
3 都市ガス導管1からの分岐管
5 開閉弁V5を備えるTBM標準ガス導管
6 開閉弁V6を備えるDMS標準ガス導管
7 開閉弁V7を備えるTHT標準ガス導管
8 開閉弁V8を備えるCH標準ガス導管
10 供試吸着剤(銀担持β型ゼオライト等)充填容器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高露点条件下にある付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤であって、吸着剤が疎水性ゼオライトであるβ型ゼオライトにAgをイオン交換により担持させてなる吸着剤であることを特徴とする高露点条件下の燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤。
【請求項2】
請求項1に記載の高露点条件下にある付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤において、燃料ガス中の前記付臭剤が硫黄化合物及びシクロヘキセンであることを特徴とする高露点条件下の燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤。
【請求項3】
請求項2に記載の高露点条件下にある付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤において、前記燃料ガス中の付臭剤である硫黄化合物がサルファイド類、チオフェン類及びメルカプタン類のうちの1種又は2種以上の硫黄化合物であることを特徴とする高露点条件下の燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の高露点条件下にある付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤において、前記付臭剤含有燃料ガスが都市ガス又はLPガスであることを特徴とする高露点条件下の燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の高露点条件下にある付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤において、前記燃料ガス中の硫黄化合物を除去した燃料ガス中の残留硫黄化合物濃度が10ppb以下であることを特徴とする高露点条件下の燃料ガス中の付臭剤除去用吸着剤。
【請求項6】
高露点条件下にある付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去方法であって、非常に高い露点条件下にある付臭剤含有燃料ガスを、疎水性ゼオライトであるβ型ゼオライトにAgをイオン交換により担持させてなる吸着剤に通すことを特徴とする高露点条件下の燃料ガス中の付臭剤除去方法。
【請求項7】
請求項6に記載の高露点条件下の付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去方法において、燃料ガス中の前記付臭剤が硫黄化合物及びシクロヘキセンであることを特徴とする高露点条件下の燃料ガス中の付臭剤除去方法。
【請求項8】
請求項7に記載の高露点条件下の付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去方法において、前記燃料ガス中の付臭剤である硫黄化合物がサルファイド類、チオフェン類及びメルカプタン類のうちの1種又は2種以上の硫黄化合物であることを特徴とする高露点条件下の燃料ガス中の付臭剤除去方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の高露点条件下の付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去方法において、前記付臭剤含有燃料ガスが都市ガス又はLPガスであることを特徴とする高露点条件下の燃料ガス中の付臭剤除去方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に記載の高露点条件下の付臭剤含有燃料ガス中の付臭剤除去方法において、前記燃料ガス中の硫黄化合物を除去した燃料ガス中の残留硫黄化合物濃度が10ppb以下であることを特徴とする高露点条件下の燃料ガス中の付臭剤除去方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−144296(P2011−144296A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7489(P2010−7489)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】