説明

高麗人参の花の香りを再現した香料組成物

【課題】本発明は、高麗人参の花(Ginseng flower)の固有の香りを再現し、優れた嗜好性を有する香料組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、SPME法により高麗人参の花の香り成分として分析された、デカナール(Decanal)、ノナナール(Nonanal)、2-メチルピロール(2-Methylpyrrole)、ベンズアルデヒド(Benzaldehyde)、アセトフェノン(Acetophenone)等に、フローラルの香りを持つ人工合成物質であるヘジオン(Hedione)及びフリージアのようなソフトな香りを持つ人工合成物質であるメチルイオノン(Methylionone)を含有させることによって、高麗人参の花の固有の香りを再現し、優れた嗜好性を有する香料組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SPME法により、ハマナスの香り成分として分析されたデカナール(Decanal)、ノナナール(Nonanal)、2-メチルピロール(2-Methylpyrrole)、ベンズアルデヒド(Benzaldehyde)、アセトフェノン(Acetophenone)等に、フローラルの香りを持つ人工合成物質であるヘジオン(Hedione)、フリージアのようなソフトな香りを持つ人工合成物質であるメチルイオノン(Methylionone)を含有させることにより、高麗人参の花〔Ginseng flower (Panax ginseng C. A. Meyer)〕の固有の香りを再現し、優れた嗜好性を有する香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高麗人参は、ウコギ科(Araliaceae)双子葉植物であり、多年生草(perennial plant)と分類される。山奥の森で育ち、薬用植物として栽培する。高さは約60cmで、幹は毎年1本がまっすぐ育ち、その先端の周りに3〜4枚の葉が生える。夏には一本の細い花梗(flower stalk)が生えてきて、その先端に4〜40個の淡い黄色の小さい花が咲く。花びらと雄しべは各々5個ずつであり、雌しべは1個である。実は、核果で、扁球形であり、直径は5〜9mmである。熟すると鮮紅色になり、その中心には半円形の核が2個ある。根は薬用であり、その形態が人間の形状に似ていることから高麗人参という。高麗人参は、古くから不老長生の名薬と呼ばれている。韓国で栽培される高麗人参の根は、肥大根であり、色は微黄白色で、主根と2〜5個の支根とからなる。支根の数は土質、移植方法、肥料、水分等により差がある。分枝性の強い植物であり、その根の形態は年齢により差がある。収穫は4〜6年根の時に行う。高麗人参の花は、根とは全く異なるフリージアのような高級な香りを発散する。忠清北道錦山郡南一面音大里の高麗人参畑で高麗人参の花の香りを採集し、分析して、再現した。
【0003】
高麗人参の花の香りを再現する方法は様々である。例えば、通常の方法として、花の香り成分を、溶媒を用いて花精油(Absolute)の形態にする溶媒抽出法や、香り成分を精油(Essential oil)にする水蒸気蒸留法がある。しかし、前記方法は、抽出過程において高温の熱を加えなければならず、処理過程が複雑で長時間が費やされるため、花の本来の香りを生かすことが難しい。
【0004】
このような問題を解決するために、SPME法(Solid Phase Micro Extraction;SUPELCO international, Vol.13, No.4, p.9-10)が開発されており、SPME法は、従来の抽出法とは違って溶媒を使用せず、前処理も必要ないため、迅速で容易に香り成分を分析することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明者等は、天然物の香り成分を分析するのに効果的なSPME法を用いて高麗人参の花の香りの再現を試みた。その結果として、デカナール、ノナナール、2-メチルピロール、ベンズアルデヒド、アセトフェノン等が、高麗人参の花の香りの主成分であることを明らかにし、これを用いた組合香料を製造することにより、高麗人参の花の香りの再現を試みた。しかし、前記組合香料に対し官能検査を行った結果、これらの成分だけでは高麗人参の花の香りが再現できないことが分かった。
【0006】
そこで、本発明者等は、高麗人参の花の香りを再現するために研究を重ねた結果、デカナール、ノナナール、2-メチルピロール、ベンズアルデヒド、アセトフェノン等の高麗人参の花の香り成分に、人工合成物質であるヘジオンと、フリージアのようなソフトな香りを持つ人工合成物質であるメチルイオノンとを必須構成成分として含有させた組成物が、高麗人参の花の固有の香りが再現でき、優れた嗜好性を有することを明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0007】
したがって、本発明の目的は、高麗人参の花の固有の香りを再現し、優れた嗜好性を有する香料組成物を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、前記香料組成物を構成成分として含有する皮膚外用剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の香料組成物は、主要成分としてデカナール、ノナナール、2-メチルピロール、ベンズアルデヒド、及びアセトフェノンを含み、副成分としてメチルビニルケトン(Methyl vinyl ketone)、ヘキサナール(Hexanal)、メチルヘプテノン(Methyl heptenone)、シス-3-ヘキセノール(cis-3-Hexenol)、メチルサリシレート(Methyl salicylate)等を含む高麗人参の花の香り成分に、人工合成物質であるヘジオンとメチルイオノンを必須成分として含有させる。
【0010】
本発明の香料組成物は、組成物100重量%に対し、高麗人参の花の香り成分の主要成分として、デカナールを18〜25重量%、ノナナールを13〜18重量%、2-メチルピロールを10〜14重量%、ベンズアルデヒドを10〜14重量%、アセトフェノンを2.7〜3.7重量%を含有し、副成分として、メチルビニルケトンを5.8〜10.5重量%、ヘキサナールを3.6〜6.5重量%、メチルヘプテノンを2.8〜5.2重量%、シス-3-ヘキセノールを2.5〜3.6重量%、メチルサリシレートを2.8〜5.0重量%を含有し、人工合成物質であるヘジオンを3〜5重量%、メチルイオノンを5〜10重量%の範囲で含有する。高麗人参の花の香りを再現するための主要成分として、デカナール、ノナナール、2-メチルピロール、ベンズアルデヒド、アセトフェノンを、及び人工合成物質であるヘジオン、メチルイオノンを、前記範囲でない量を使用する場合、高麗人参の花の香りとの類似性が低くなり、香りの嗜好性も低下するため好ましくない。しかし、その他の成分は、前記範囲内で使用することが好ましいが、高麗人参の花の香りには大きく影響を及ぼさないため、高麗人参の花の香りを再現するのに影響がない限り、前記範囲内でない量を使用することもありうる。
【0011】
前記の範囲で混合された発明による組成物は、香水、化粧品等の皮膚外用基剤に配合することができ、配合量は、当業界の通常の技術により、目的とする効果を得るため、適宜に配合することができる。
【0012】
このような外用基剤としては、例えば、軟膏、ローション、可溶化相(solubilized phases)、懸濁液、エマルジョン、クリーム、ゲル、スプレー、湿布剤、硬膏剤、パッチ剤、液状湿布剤等があるが、これに限定されず、当業界に周知のいずれの基剤にも配合することができる。
【0013】
一方、本発明は、高麗人参の花の香り成分の分析方法としてSPME法を使用した。SPME法は、別途の前処理を行うことなく、ファイバー(Fiber)に吸着した香り成分が、GS−MSコラム中に素早く着脱、注入され、分析時間が大きく短縮できるため、揮発性の強い高麗人参の花の香り成分を分析するのに有利である。本発明では、SPME法により分析された高麗人参の花の香り成分に基づいて組合香料を作成し、これに対し、忠清北道錦山郡南一面音大理の高麗人参畑で採集した高麗人参の花の香りとの類似性及び香りの嗜好性を嗅覚官能検査により調べた。官能検査は、専門調香師及び一般人に対して実施し、高麗人参の花の香りとの類似性及び香りの嗜好性はアンケート調査により評価した。
【発明の効果】
【0014】
本発明による香料組成物は、デカナール、ノナナール、2-メチルピロール、ベンズアルデヒド、アセトフェノン等に、フローラルの香りを持つ人工合成物質であるヘジオン及びフリージアのようなソフトな香りを持つ人工合成物質であるメチルイオノンを含有させることにより、高麗人参の花の香りが再現でき、香りの嗜好性も改善される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されず、本発明の他の適用、変形も可能であることは当業者に自明である。
【0016】
[参考実施例1:SPME法を用いた高麗人参の花の香り分析]
香りの強い高麗人参の花の枝を選び、2時間かけて、85μmのポリアクリレートでコーティングされたファイバー(Polyacrylate Fiber)に香り成分を吸着させることによって香り成分を捕集した。捕集場所は忠清北道錦山郡南一面音大理の高麗人参畑であり、2時間行われた。
【0017】
香り成分を捕集した後、ファイバー(Fiber)を密封し、これをGC−MSの注入口に移した後、2分間着脱させ、GC−MS分析を行った。GC−MS分析条件は下記の通りである。
【0018】
[分析条件]
・分析機器:HP 5890 II GC
・検出器:HP 5972 MSD
・コラム:DB−1(60m×0.25mm×0.25um)
・キャリアガス:ヘリウム(He)
・注入部温度:250℃
・検出部温度:280℃
・オーブン温度:70〜220℃(3℃/分)
・イオン化電圧:70eV
・着脱時間:2分
【0019】
その結果、SPME法により分析されたハマナスの香り成分は下記表1の通りである。
【0020】
【表1】

【0021】
表1に示すように、高麗人参の花は、デカナール、ノナナール、2-メチルピロール、ベンズアルデヒド、アセトフェノン等を主要香り成分としており、これらの主要成分は全体の72.03重量%を占める。
【0022】
[参考実施例2:分析結果で作成された香料と高麗人参の花との香りの比較官能評価]
前記分析された結果に基づいて新しく作成した下記表2の組成を有する組合香料(サンプルB)を作成し、この香料と高麗人参の花との香りの類似性を官能評価により検証した。
【0023】
【表2】

【0024】
官能評価は、20〜40才の男女20人を対象にして、高麗人参の花のサンプルAの香りとSPME法で再現した組合香料のサンプルBの香りとをそれぞれ嗅ぐようにし、下記表3のアンケート調査に答えてもらうことにより、サンプルAとサンプルBとの香りの類似性(質問1)及び香りの嗜好性(質問2)を調査した。その結果は表4に示した。
【0025】
【表3】

【0026】
【表4】

【0027】
前記表4から、組合香料であるサンプルBは、高麗人参の花の香りと類似性が低く、嗜好性も低いことが分かった。
【0028】
[参考実施例3:専門評価団による香り分析と高麗人参の花との香り比較]
前記参考実施例1から分かるように、SPME法によって分析された成分で作成した香料組成物は、高麗人参の花の香りとの類似性が低かった。これに対し、調香師で構成された専門評価団に、高麗人参の花のそれぞれの香り成分の官能評価を行った。その結果、高麗人参の花の香り成分のうち、デカナール、ノナナール、2−メチルピロール、ベンズアルデヒド、アセトフェノンが高麗人参の花の固有の香りを構成する主要成分であることが確認された。
【0029】
[実施例1:主成分の含量変化による新しい組合香料の製造]
前記参考実施例3から、高麗人参の花の独特の香りの主成分が、デカナール、ノナナール、2-メチルピロール、ベンズアルデヒド、アセトフェノンであることが確認できた。したがって、本発明者等は、これらの五つの成分を含有して、高麗人参の花の香りをそのまま再現し、嗜好性の高い香料を製造するため、下記#1ないし#7の新しい組合香料を作成した。
【0030】
組合香料#1ないし#7は、これらの五つの成分の比率を一定に維持し、かつ五つの香料の合計量を50〜80重量%に変化させて製造した(表5参照)。
【0031】
【表5】

【0032】
[実施例2:実施例1で製造された香料の官能評価]
新しく組み合わせた前記実施例1の7種類の香料に対し、高麗人参の花の香りとの類似性及び嗜好性を参考実施例2と同じ方法の官能評価を実施した。一方、2種類の組合香料に対する比較官能評価を実施した後、5分間の休憩時間を与え、嗅覚の麻痺現象が起こらないようにした。新しい組合香料と高麗人参の花との香りの類似性及び嗜好性に関する官能評価の結果は下記表6に示した。
【0033】
【表6】

【0034】
前記表6から分かるように、主要3成分の合計量が70重量%を占めるサンプル#5が、7種類の組合香料のうち最も優れた類似性及び嗜好性を有するという結果であったが、類似性及び嗜好性ともに期待には及ばなかった。
【0035】
[実施例3:専門評価団の分析による香り改善香料の製造]
前記表6において、高麗人参の花の香りと最も類似していると示されたサンプル#5の香料の類似性及び嗜好性を改善するために、サンプル#5と同じように、デカナール、ノナナール、2-メチルピロール、ベンズアルデヒド、アセトフェノンの合計量を70重量%にして含有し、ここに、人工合成物質であるヘジオン、フリージアのようなソフトな香りを持つ人工合成物質であるメチルイオノンを用いて新しい組合香料を製造した。人工合成物質の濃度は、ヘジオン3〜10重量%、メチルイオノン0〜10重量%に変化させながら添加し、その他の成分は、これらの二つの物質の含量変化に合わせて合計量が100になるように調整した。これらの再組合香料の組成は下記表7の通りである。
【0036】
【表7】

【0037】
[実施例4:実施例3で製造された組合香料の官能評価]
前記実施例3の7種類(#イ、#ロ、#ハ、#ニ、#ホ,#ヘ、#ト)の組合香料に対し、高麗人参の花の香りとの類似性及び嗜好性の官能評価を前記参考実施例2と同じ方法により実施した。一方、二つの組合香料に対する比較官能評価を実施した後、5分間の休憩時間を与えて嗅覚の麻痺現象が起こらないようにした。新しい組合香料と高麗人参の花との香りの類似性及び嗜好性に関する官能評価の結果は、下記表8に示した。
【0038】
【表8】

【0039】
前記表8から分かるように、デカナール、ノナナール、2-メチルピロール、ベンズアルデヒド、アセトフェノン等の高麗人参の花の主要香り成分に、ヘジオンを7〜10重量%、メチルイオノンを5〜10重量%含有する場合、高麗人参の花の香りが再現でき、嗜好性も向上することが確認された(平均3.5以上)。
【0040】
[製造例]
前記の高麗人参の花の香りと類似性を有する香料組成物を配合し、下記表9の香水を製造した。
【0041】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高麗人参の花の香り成分と、ヘジオン(Hedione)と、メチルイオノン(Methylionone)とを有効性分として含有することを特徴とする高麗人参の花の香りを再現した香料組成物。
【請求項2】
前記高麗人参の花の香り成分は、デカナール(Decanal)、ノナナール(Nonanal)、2-メチルピロール(2-Methylpyrrole)、ベンズアルデヒド(Benzaldehyde)、及びアセトフェノン(Acetophenone)であることを特徴とする請求項1に記載の高麗人参の花の香りを再現した香料組成物。
【請求項3】
前記香料組成物は、メチルビニルケトン(Methyl vinyl ketone)、ヘキサナール(Hexanal)、メチルヘプテノン(Methyl heptenone)、シス-3-ヘキセノール(cis-3-Hexenol)、及びメチルサリシレート(Methyl salicylate)をさらに含有することを特徴とする請求項2に記載の高麗人参の花の香りを再現した香料組成物。
【請求項4】
前記香料組成物は、組成物100重量%に対して、高麗人参の花の香り成分として、デカナールを18〜25重量%、ノナナールを13〜18重量%、2-メチルピロールを10〜14重量%、ベンズアルデヒドを10〜14重量%、アセトフェノンを2.7〜3.7重量%、メチルビニルケトンを5.8〜10.5重量%、ヘキサナールを3.6〜6.5重量%、メチルヘプテノンを2.8〜5.2重量%、シス-3-ヘキセノールを2.5〜3.6重量%、メチルサリシレートを2.8〜5.0重量%、ヘジオンを3〜5重量%、及びメチルイオノンを5〜10重量%の範囲で含有することを特徴とする請求項3に記載の高麗人参の花の香りを再現した香料組成物。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の香料組成物を含有することを特徴とする皮膚外用剤組成物。

【公表番号】特表2011−503319(P2011−503319A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533966(P2010−533966)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【国際出願番号】PCT/KR2008/006710
【国際公開番号】WO2009/066904
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(503327691)株式會社アモーレパシフィック (73)
【住所又は居所原語表記】181, Hankang−ro 2−ka, Yongsan−ku, Seoul 140−777 Republic of Korea
【Fターム(参考)】