説明

高Si高Al鋼連続鋳造用パウダー及び連続鋳造方法

【課題】高Si高Al鋼の連続鋳造において、鋳型内に形成される溶融スラグの粘度を適正な範囲に維持し、スラグベアの過剰な形成を防止し、鋳型内における凝固シェルの強冷却を実現することのできる高Si高Al鋼連続鋳造用パウダーを提供する。
【解決手段】主成分が、CaO、SiO及びAlであり、高Si高Al鋼連続鋳造用パウダー中に含有するCa分すべてをCaOとしたときの値T.CaOとSiOの質量%比:T.CaO/SiOが1.1以上1.5以下、Alが質量%で15%以上40%以下、さらに、NaOが3%以上10%以下、LiOが1%以上8%以下、Bが1%以上10%以下であり、さらに、NaO+LiO:8%以上の関係を満たし、残部不可避不純物からなり、1300℃における粘度が0.20Pa・s以上1.00Pa・s以下、凝固温度が1000℃未満とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高Si高Al鋼の連続鋳造に用いる連続鋳造用パウダー及びその連続鋳造パウダーを用いる連続鋳造方法に関するものである。詳しくは、Si:2%以上及びAl:0.5%以上を含有する高Si高Al鋼の連続鋳造に用いる連続鋳造用パウダー及びその連続鋳造パウダーを用いる連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造においては、鋳型内の溶鋼表面に連続鋳造用パウダーを投入する。この連続鋳造用パウダーは、溶融して溶融スラグを形成する。溶融スラグは鋳型と凝固シェルとの間に流入し、凝固シェルの潤滑を図るとともに、凝固シェルから鋳型への抜熱特性を制御する働きをする。しかしながら、溶融スラグは、溶鋼中に巻き込まれて欠陥を形成するので、溶融スラグの鋼中への巻込みを抑制するため、溶融スラグの粘度を、適正範囲に調整する必要がある。これらの機能を確保するため、連続鋳造用パウダーは、CaO、SiO、Alをはじめとする酸化物に、フッ化物及び炭素源を含有していることが一般的である。
【0003】
ところで、無方向性電磁鋼板は、鉄損を低減するため、析出物形成元素のC、S、N等を低減してヒステリシス損の低減を図るとともに、鋼中のSi及びAlの含有量を高めることで渦電流損を低減している。そのため、このような用途の鋼は、Si:2%以上及びAl:0.5%以上の高Al高Si鋼となっている。
【0004】
上述したような高Si高Al鋼の連続鋳造に用いるパウダーは知られておらず、高Al鋼(Siを含有しない)の連続鋳造に用いる、従来の連続鋳造用パウダーが知られているだけであった。
【0005】
従来の連続鋳造用パウダーとして、特許文献1には、NaOをできるだけ低減し、かつSrO及びBaOを適量含有することで、鋳造中の粘度、凝固温度の変化を抑制する連続鋳造用パウダーが開示されている。また、特許文献2には、CaO/SiOを高め、LiとFを適量含有することで析出する結晶の種類を一定にし、鋳型内での抜熱ばらつきを抑制する連続鋳造用パウダーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−181607号公報
【特許文献2】特開2006−110578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の連続鋳造用パウダーを用いて、Al量が0.5%以上の高Al鋼を連続鋳造する際には、連続鋳造用パウダーが溶融して形成された溶融スラグ中のSiOが、鋼中のAlによって還元される反応、即ち下記の(a)式の反応が顕著となる。
4[Al]+3(SiO)→2(Al)+3[Si] ・・・・・・・・(a)
【0008】
そのため、溶融スラグ中のSiO量が低下する反面、Al量が上昇するとともに、塩基度が増大する。この反応が顕著となると、高融点結晶であるゲーレナイト(2CaO・Al・SiO、融点1545℃)等が晶出する。
【0009】
そのような場合、溶融スラグの凝固温度が上昇して、鋳型内壁の湯面近傍に巨大なスラグベアが生じ、併せて、溶融スラグの粘度が上昇して、鋳型/凝固シェル間への溶融スラグの流入性及び流入均一性が阻害される。また、高融点結晶が晶出することで、鋳型と凝固シェル間に存在するパウダーフィルムのガラス性が低下し、伝熱特性が低下すると(以下、パウダー変質という。)、凝固シェルが破孔し未凝固の溶鋼が流出するブレークアウトが発生する。
【0010】
Si量が2%以上の高Si鋼を連続鋳造する場合、Siがフェライト安定化元素であるため、鋳片組織はフェライト単相になり易く、連続鋳造での冷却中においても、フェライト粒の粒成長が生じる。このようなフェライト粒の成長を防止するため、鋳型内においても、凝固シェルから鋳型への抜熱を強化して強冷却とすることが必要である。ところが、従来の連続鋳造用パウダーを用いた場合には、鋳型と凝固シェル間に存在するパウダーフィルムの熱伝導特性が十分ではなく、凝固シェルを十分に強冷却することができないという問題があった。
【0011】
特許文献1で開示された連続鋳造用パウダーは、人体に有害なBaOを含有している。また、特許文献1で開示された連続鋳造用パウダーは、SiO量が高くAl量が低いため、鋼中のAlとの反応が大きく、SrOによる低融点化の効果が小さいため高融点結晶の晶出によりスラグベアが生成し、鋳型抜熱不良が発生する問題があった。
【0012】
また、特許文献2で開示された連続鋳造用パウダーは、F量が高いため、カスピダイン(3CaO・2SiO・CaF、融点1407℃)が晶出し、スラグベア生成による鋳型抜熱低下、及び浸漬ノズル溶損の問題がある。加えて、SiO量が低いため、鋳型内で良好なガラス形状を維持することができず、パウダーフィルムの崩壊/脱落により抜熱異常が発生する問題もある。
【0013】
本発明は、高Si高Al鋼の連続鋳造において、鋳型内に形成される溶融スラグの粘度を適正な範囲に維持し、スラグベアの過剰な形成を防止し、鋳型内における凝固シェルの強冷却を実現することのできる高Si高Al鋼連続鋳造用パウダー及び高Si高Al鋼連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、高Si高Al鋼連続鋳造用パウダーに関し、次の知見を得た。
【0015】
上記(a)式において、鋼中のAlに起因する、溶融スラグ中のSiOの還元反応を抑制するため、下記(b)式で定義する、上記(a)式の平衡定数Kを大きくする、即ち、パウダー中のAl量を増加させて、鋼中のAlによって還元されるSiO量を低減することが有効な手段である。
K={(aAl2O3・(aSi}/{(aAl・(aSiO2} ・・・・(b)
【0016】
また、連続鋳造用パウダーの組成を、CaO、Alに加えてSiO−NaO−LiO系とすることで、SiO−NaO系、SiO−LiO系よりも安定的に低融点化を図ることができる。さらに、Bを添加することにより適正な粘性を確保しつつ凝固温度の低下を図ることができる。また、この場合、F及びNaOの含有量はカスピダインとカーネギアイト(NaO・Al・2SiO、融点1526℃)が晶出しない範囲を上限とし、反応後も、SiO親和性を維持できる範囲とすることで、NaOを安定化することができる。
【0017】
本発明は、上記の知見に基づき完成されたもので、その要旨は次の通りである。
【0018】
(1)質量%で、Si:2%以上及びAl:0.5%以上を含有する高Si高Al鋼の連続鋳造に用いる連続鋳造用パウダーであって、
主成分が、CaO、SiO及びAlであり、前記連続鋳造用パウダー中に含有するCa分すべてをCaOとしたときの値T.CaOとSiOの質量%比:T.CaO/SiOが1.1以上1.5以下、Alが質量%で15%以上40%以下、
さらに、NaOが3%以上10%以下、LiOが1%以上8%以下、Bが1%以上10%以下であり、さらに、NaO+LiO:8%以上の関係を満たし、残部不可避不純物からなり、
1300℃における粘度が0.20Pa・s以上1.00Pa・s以下、凝固温度が1000℃未満であることを特徴とする高Si高Al鋼連続鋳造用パウダー。
【0019】
(2)質量%で、Si:2%以上及びAl:0.5%以上を含有する高Si高Al溶鋼を溶製し、鋳型内の前記高Si高Al溶鋼表面上に連続鋳造用パウダーを投入して連続鋳造するに際し、
主成分が、CaO、SiO及びAlであり、前記連続鋳造用パウダー中に含有するCa分すべてをCaOとしたときの値T.CaOとSiOの質量%比:T.CaO/SiOが1.1以上1.5以下、Alが質量%で15%以上40%以下、
さらに、NaOが3%以上10%以下、LiOが1%以上8%以下、Bが1%以上10%以下であり、さらに、NaO+LiO:8%以上の関係を満たし、残部不可避不純物からなり、
1300℃における粘度が0.20Pa・s以上1.00Pa・s以下、凝固温度が1000℃未満とする高Si高Al鋼連続鋳造用パウダーを用いることを特徴とする高Si高Al鋼連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、Si:2%以上及びAl:0.5%以上の高Si高Al鋼を連続鋳造するに際し、鋳型内に形成される溶融スラグの粘度及び凝固温度を適正な範囲に維持し、スラグベアの過剰な形成を防止し、鋳型内における凝固シェルの強冷却を実現することができるため、連続鋳造する鋳片の表面形状を良好に保持し、凝固シェルのブレークアウトの発生を防止して、Si量が高い鋼においても鋳片表層付近のフェライト粒の成長を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】CaO−Al−SiO三元系状態図である。
【図2】イニシャル組成と高Si高Al鋼連続鋳造前後のSiOの還元量を示すグラフである。
【図3】イニシャル組成と高Si高Al鋼連続鋳造前後のAlの増加量を示すグラフである。
【図4】スラグベア中に存在する晶出物の割合を示すグラフである。
【図5】LiO−アルカリ金属酸化物−SiOの状態図である。
【図6】NaO−B−SiOの状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本発明で連続鋳造する高Si高Al鋼について、成分組成を、Si:2%以上及びAl:0.5%以上と限定した理由について説明する。なお、以下の成分組成を表す%は質量%を意味するものとする。
【0023】
・Si:2%以上
Si量が2%未満では、鋳造鋳型内で凝固シェルを強冷却する必要があるという高Si鋼特有の問題が生じず、低炭素鋼等に用いる通常の連続鋳造用パウダーを使用することができるので、本発明では、Si量が2%以上の鋼を対象とする。なお、Si量の上限について特に制限はないが、鋳片の靭性が低下するため、Siの上限は10%が好ましい。
【0024】
・Al:0.5%以上
Al量が0.5%未満では、連続鋳造中の鋳型内で溶融スラグ中のAl量の上昇が小さい等、高Al鋼特有の問題が生じず、低炭素鋼等に用いる通常の連続鋳造用パウダーを使用することができるので、本発明では、Al量が0.5%以上の鋼を対象とする。なお、Al量の上限については特に制限はないが、鋳片の靭性が低下するため、Al量の上限は10%が好ましい。
【0025】
次に、本発明の高Si高Al鋼連続鋳造用モールドパウダーについて、成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、以下の成分組成を表す%は質量%を意味するものとする。
【0026】
・Al:15%以上40%以下
本発明においては、先に述べたように、連続鋳造用パウダーによって生成される溶融スラグ中のSiOが鋼中のAlによって還元される反応、即ち上記(a)式の反応を抑制する。そのためには、上記(b)式に定義する平衡定数Kを大きくする、即ち、パウダー中のAl量を増加させ、鋼中のAlによって還元されるSiO量を低減する必要がある。
【0027】
図1にパウダーのCaO−Al−SiO三元系状態図を示す。図1中、破線で囲んだ部分の内側がゲーレナイト初晶域である。本発明の高Si高Al鋼連続鋳造用パウダーでは、パウダーのイニシャル組成を図1に示すゲーレナイト初晶域とすることで、鋼中のAlによるSiOの還元反応を抑制した上で、添加酸化物の最適化により適正な粘度を確保して、その上で安定的に低融点化する。なお、上記イニシャル組成とは、連続鋳造用パウダーとして製造された鋳型投入前の組成から、T.C分を抜いたものとする。
【0028】
図2は、イニシャル組成と高Si高Al鋼連続鋳造前後のSiO還元量の関係を示すグラフである。また、図3は、イニシャル組成と高Si高Al鋼連続鋳造前後のAlの増加量の関係を示すグラフである。図2から明らかなように、連続鋳造用パウダーが溶融した直後の初期溶融スラグ中のAl量を増加させて、鋼中のAlによって還元されるSiO量を予め低減しておくことで、連続鋳造前後のSiO還元量が低減している。そして、図3から明らかなように、連続鋳造前後のAlの増加量も低減している。
【0029】
ここで、Al量が15%未満では、上記(a)式の反応を十分に抑制することができない。一方、Al量が40%を超えると、スピネル(MgO・Al、融点2135℃)が晶出する可能性が極めて高くなるとともに、溶融スラグの粘度が著しく上昇し、NaOやLiO、B、F量を上限まで高めても、粘度を適正レベルに下げることができない。加えて、Al量が40%を超えると、上記(a)式の反応後も鋳型内で良好なガラス形状及び強度を維持するためのSiO量を確保することができない。
【0030】
従って、Al含有量は、15%以上40%以下の範囲とする。好ましくは16%以上25%以下の範囲である。
【0031】
・T.CaO/SiO:1.1以上1.5以下、
本発明が対象とする高Si高Al鋼は、鋼中のSi量が2%以上でSiの活量が高いため、上記(a)式の反応が抑制される傾向にあることから、過度に高いT.CaO/SiOは不要であるが、T.CaO/SiOが1.1未満となると(a)式の反応の抑制効果が著しく低下する。一方、T.CaO/SiOが1.5を超えると、SiO量が不十分となり、SiOと親和力の強い後述するNaOが鋼中のAlによって還元されてしまい安定して存在することができなくなる。
【0032】
従って、T.CaO/SiOは、1.1以上1.5以上の範囲とする。好ましくは1.1以上1.4以下の範囲、より好ましくは1.1以上1.3以下の範囲である。
【0033】
なお、T.CaO/SiOは、高Si高Al鋼連続鋳造パウダー中のT.CaO量及びSiO量の質量%比である。
【0034】
また、高Si高Al鋼連続鋳造パウダー中のCaは、CaOで存在するものがほとんどであるが、僅かにCaCO、CaF2で存在するものもあるため、本発明においては、高Si高Al鋼連続鋳造用パウダー中に含有するCa分すべてをCaOとしたときの値T.CaOで評価した。
【0035】
次に、NaO、LiO及びB量の限定理由について説明する。本発明においては、基本組成を、CaO、Alに加えてSiO−NaO−LiO−B系とすることで、適正な粘度を確保し、その上で安定して低融点化することができる。
【0036】
低融点化が不十分な場合、高Si高Al鋼連続鋳造中にスラグベアが生成される。図4は、スラグベア中に存在する晶出物の割合を示すグラフである。図4から明らかなように、スラグベア中には、ゲーレナイト等の高融点結晶が晶出している。
【0037】
図5にLiO−アルカリ金属酸化物−SiOの状態図を示す。図5より明らかなように、SiO−NaO系にLiOを加えた系とすることで、SiO−NaO系、SiO−LiO系と比較してより安定して低融点化することが可能である。
【0038】
また、図6にNaO−B−SiOの状態図を示す。図6より明らかなように、SiO−NaO系にBを加えた系とすることで、さらなる低融点化が可能である。
【0039】
以下、NaO、LiO及びB量の具体的限定範囲の理由について説明する。
【0040】
・NaO:3%以上10%以下
NaO量が3%未満であると、連続鋳造の過程で、鋼中のAlによる還元反応が進行してNaO量の大幅な低下が生じ、溶融スラグの粘度を適正に保つことができない。これは、NaOは、標準生成自由エネルギーが高く高温安定性が低いためである。一方、NaO量が10%を超えると、カーネギアイトが析出する。
【0041】
従って、NaO量は、3%以上10%以下の範囲とする。好ましくは4%以上9%以下の範囲、より好ましくは5%以上8%以下の範囲である。なお、NaO量は、連続鋳造用パウダー中のNa量を分析し、そのすべてがNaOになっているとして算出した値である。
【0042】
・LiO:1%以上8%以下
LiOは、標準生成自由エネルギーが低く高温安定性に優れ低融点化効果が高いものの、同時に大幅な粘度低下を生じさせる。
【0043】
LiO量が1%未満では、低融点効果が得られずスラグベアが生成する。一方、LiO量が8%を超えると、溶融スラグの粘度が0.2Pa・s未満に低下して鋼中への連続鋳造用パウダーの巻込み性を抑制することができなくなる。また、LiO量が8%を超えると、嵩比重、パウダー強度が低下する。そして、高価なLiOの添加は、連続鋳造用パウダーの製造コストの増加を招く。
【0044】
従って、LiO量は、1%以上8%以下の範囲とする。好ましくは1%以上6%以下の範囲、より好ましくは1%以上5%以下の範囲である。
【0045】
・B:1%以上10%以下
は、NaOと比較して標準生成自由エネルギーが低く高温安定性に優れ、NaOと同等の粘度低下効果及び低融点化効果を有する。また、Bは、SiOを凌ぐネットワーク形成酸化物であることから、上記(a)式の還元反応が著しく進行した場合においても、ガラス化を促進して結晶析出を抑制する効果に優れる。
【0046】
量が1%未満では、他の低融点酸化物を多量に添加する必要があり、適切な粘度を確保することができない。一方、B量が10%を超えると、溶鋼中のAlとの還元反応による鋼中へのBピックアップ、中空顆粒パウダー製造時のスラリー粘度上昇などに問題が生じる。
【0047】
従って、B量は、1%以上10%以下の範囲とする。好ましくは2%以上10%以下の範囲、より好ましくは3%以上8%以下の範囲である。
【0048】
さらに、本発明の高Si高Al鋼連続鋳造用パウダーは、NaO及びLiO量について次の関係を満たすことが必要である。
【0049】
・NaO+LiO:8%以上
本発明の高Si高Al鋼連続鋳造用パウダーでは、Fとの親和性がCaFよりも高いNaO及びLiOを溶融スラグ中に含有させることにより、以下に示す(c)式あるいは(d)式の反応によりCaFをNaFあるいはLiFとし、カスピダインの晶出を防止することができる。カスピダインの晶出は溶融スラグのFがNaFあるいはLiFとCaFのどちらと配位するかに依存する(下記(c)式の反応)。
CaF+NaO→CaO+2NaF ・・・・・・・・・・(c)
CaF+LiO→CaO+2LiF・ ・・・・・・・・・(d)
【0050】
NaOとLiOの総量が5%未満の場合FはCaFとして配位するが、NaOとLiOの総量が5%以上でNaFあるいはLiFとして配位するようになり、8%以上でカスピダインの晶出を抑制できる。
【0051】
従って、NaOとLiOの総量、即ちNaO+LiOは、8%以上とする。より好ましくは、10%以上である。なお、NaO+LiOの上限は、NaO及びLiOそれぞれの上限の和、即ち18%である。
【0052】
次に本発明の高Si高Al鋼連続鋳造用パウダーの物性、特に、溶融したときの粘度及び凝固温度の限定理由について説明する。
【0053】
・1300℃における粘度:0.20Pa・s以上1.00Pa・s以下
1300℃における粘度が0.20Pa・s未満では、鋼中への連続鋳造用パウダーの巻込みが多くなり、一方、1.00Pa・sを超えると鋳型と凝固シェル間への均一流入性が低下し、鋳型と凝固シェルの焼き付き等が生じてブレークアウトの発生を招く。従って、1300℃における粘度は、0.20Pa・s以上1.00Pa・s以下の範囲とする。
【0054】
・凝固温度:1000℃未満
高Si鋼の連続鋳造においては、鋳型内での凝固シェルを強冷却することが必要であり、鋳型と凝固シェル間に形成されるパウダーフィルムを介した熱伝導特性を向上する必要がある。そのため、高Si鋼の連続鋳造では、ゲーレナイト等の高融点結晶の晶出を防止する必要があり、低温域まで安定して溶融スラグ状態を維持する、即ち、凝固温度の低減を図る必要がある。このことは、高Si高Al鋼についても同様である。
【0055】
連続鋳造用パウダーの凝固温度が1000℃以上であると、鋳型と凝固シェル間でゲーレナイト等の高融点結晶が晶出し、熱伝導特性が低下することで鋳型の熱流束が低下傾向となる。従って、連続鋳造用パウダーの凝固温度は1000℃未満とする。
【0056】
また、本発明の連続鋳造用パウダーでは、上記の物性を得るために、必要に応じて、主成分であるCaO、SiO及びAlのうち、CaO及びSiOを次に述べる限定範囲とした上で、以下に述べる成分を適宜含有させることができる。
【0057】
・SiO:15%以上25%以下
SiOは、低融点化とガラス化を推進するために、連続鋳造用パウダーの主成分として添加する。SiO量が15%未満では、本発明で対象とする高Si高Al鋼の連続鋳造用パウダーとしては塩基度が高くなり過ぎ、一方、30%を超えると塩基度が低くなり過ぎ上記(a)式の反応が促進され、Al含有量が増大することになり易く好ましくない。
【0058】
従って、SiO量は、15%以上30%以下の範囲とすることが好ましい。より好ましくは、18%以上28%以下の範囲である。
【0059】
・T.CaO:20%以上40%以下
CaOは、鋼中のAlのような還元成分と反応し難いことから、連続鋳造用パウダーの主成分として添加している。
【0060】
T.CaO量が20%未満では、溶融スラグの形成が安定せず、一方、40%を超えると本発明で対象とする高Si高Al鋼の連続鋳造用パウダーとしては塩基度が高くなり過ぎるため好ましくない。
【0061】
従って、T.CaO量は、20%以上40%以下の範囲とすることが好ましい。より好ましくは、24%以上38%以下の範囲である。
【0062】
・F:2%以上10%以下
F量が2%未満では、溶融スラグの粘度及び凝固温度が所望の範囲にすることが難しく、一方、10%を超えると浸漬ノズルの溶損を招き易く好ましくない。
【0063】
従って、F量は、2%以上10%以下の範囲とすることが好ましい。より好ましくは、3%以上8%以下の範囲である。
【0064】
・MgO量:0.1%以上5%以下
MgOは、原料を選定しても0.1%以上の混入は不可避である。一方、MgO量が5%を超えるとスピネルを形成して逆に高融点化を招くため好ましくない。
【0065】
従って、MgO量は、0.1%以上5%以下の範囲とすることが好ましい。より好ましくは、0.1%以上4%以下の範囲である。
【0066】
・T.C(全C)量:0.5%以上5%以下
T.C(全C)量が0.5%未満では、連続鋳造用パウダーの溶融速度調整や、焼結を防止することが困難で、一方、5%を超えると溶融速度が過度に低下し、溶融スラグ層厚みを十分に確保できないことによる潤滑不良や、鋼材への浸炭が発生するため好ましくない。
【0067】
従って、T.C(全C)量は、0.5%以上5%以下の範囲とすることが好ましい。より好ましくは、1.0%以上4.5%以下の範囲である。
【0068】
次に、本発明の高Si高Al鋼連続鋳造用パウダーを用いた高Si高Al鋼連続鋳造方法について説明する。
【0069】
Si:2%以上及びAl:0.5%以上を含有する高Si高Al溶鋼を溶製し、鋳型内の前記高Si高Al溶鋼表面上に本発明の高Si高Al鋼連続鋳造用パウダーを投入して連続鋳造する。通常の連続鋳造装置で鋳造した場合においても、本発明の高Si高Al鋼連続鋳造用パウダーを用いることで、スラグベアの過剰な形成を防止し、鋳型内における凝固シェルの強冷却を実現することができる。そして、Si含有量が高い鋼においても鋳片表層付近のフェライト粒成長を防止することができる。
【実施例】
【0070】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0071】
質量%で、C:0.003%、Si:3.0%、Al:1.0%、Mn:0.2%、S:0.001%を含有する溶鋼を溶製した後、幅:1000mm×厚み:250mmの断面形状のスラブを、表1に示す連続鋳造用パウダーを用いて鋳造速度:0.8m/分で連続鋳造した。鋳造したスラブを用い、常法によって熱間圧延と冷間圧延を行った。
【0072】
【表1】

【0073】
表1に示す連続鋳造用パウダーについて、次の各項目について評価した。
【0074】
・1300℃粘度
連続鋳造用パウダー及び溶融スラグのいずれもカーボンルツボ内で溶融し、温度を下げながら1300℃における粘度を測定した。溶融スラグは、連続鋳造中にあらかじめ採取しておいたものを用いた。なお、5.00Pa・sを超える高粘度の測定が困難であったため、温度を下げながら粘度測定を行う過程で、粘度が急激に増加することなく5.00Pa・sに到達した場合は、1300℃における粘度は5.00Pa・s以上であるものとした。
【0075】
・凝固温度
連続鋳造用パウダー及び溶融スラグをカーボンルツボ内で溶融し、温度を下げながら、上記の粘度測定を行いながら凝固温度を測定した。なお、凝固温度は温度降下中に、粘度が急激に増加した温度とした。粘度が急激に増加することなく5.00Pa・sに到達した場合は、凝固温度は到達温度以下であるものとした。
【0076】
・高融点結晶
連続鋳造中に採取した溶融スラグの断面を研磨したあと、走査型電子顕微鏡で観察を行い、併せて、溶融スラグのX線回折を行い晶出物の調査を行い、次のように評価した。
G ゲーレナイトの晶出量が5%を超える(不良)
Cu カスピダインの晶出量が5%を超える(不良)
Ca カーネギアイト晶出量が5%を超える(不良)
なし 上記G、Cu、Caが認められない(良好)
【0077】
・スラグベア発生状況
連続鋳造中及び連続鋳造後に、スラグベアが発生していないかを目視確認した。
【0078】
・パウダー消費量
連続鋳造中に使用した、1トンのスラブを連続鋳造するのに使用した連続鋳造用パウダーの量(消費原単位)を調査し、0.30kg/t以上を良好した。
【0079】
・鋳片表面性状
連続鋳造後の鋳片について目視観察を行い、鋳片長手方向に数mm〜十数mmピッチ程度の間隔で周期的に観察されるオシレーションマークの乱れで次のように評価した。
◎ 乱れが全くない場合
○ オシレーションマークの乱れや、二重肌、ブリード等に至らないまでもその予兆が観察された場合
× 二重肌やブリード、割れ等が観察された場合
【0080】
・鋳型抜熱安定性
鋳型銅板裏面の冷却水スリット内部に設置した熱電対で測定される温度の挙動を監視し、大幅な温度変動が発生した回数を調査し、次のように評価した。
◎ 0回/t以下
○ 0回/t超0.01回/t以下
× 0.01回/t超
【0081】
・鋳型抜熱量
鋳型銅板裏面の冷却水量と冷却水温差から導出した鋳型の面平均熱流束を調査し、次のように評価した。
◎ 鋳型面平均熱流束1.2MW/m以上
○ 鋳型面平均熱流束0.8MW/m以上1.2MW/m未満
× 鋳型面平均熱流束0.8MW/m未満
【0082】
・鋼板ヘゲ不良
連続鋳造した鋳片を熱間圧延及び冷間圧延した後、鋼板上に存在する疵の有無を観察し、鋼板表面で疵がめくれている場合は、鋼板ヘゲと定義し、それを切断除去したコイルの面積比率で次のように評価した。
◎ 線状疵の鋼板表面上でのめくれなし
○ 0%超1%以下
× 1%を超える
【0083】
評価結果を表1に併せて示した。同表から明らかなように、No.1〜9の発明例は、成分組成ならびに物性値のいずれもが適正範囲内であることから、スラグベアの発生状況、パウダー消費量、鋳片表面性状、鋳型抜熱性、鋼板ヘゲ不良のいずれについても良好であり、溶融スラグ中に高融点結晶は確認されなかった。
【0084】
No.10〜12、14〜16、18、20の比較例については、T.CaO/SiO、Al量、NaO量、LiO量、B量、NaO+LiO量のいずれか1つ以上が適正範囲外であり、凝固温度が高く、ゲーレナイト等の高融点結晶が確認され、鋳型抜熱安定性及び鋳片表面性状のいずれもが良好ではなかった。
【0085】
No.13の比較例については、Al量及び凝固温度が適正範囲外であり、スラグベアの生成、ゲーレナイトが確認され、加えて、鋳型抜熱安定性、鋳型抜熱量、鋳片表面性状及び鋼板ヘゲ不良のいずれもが良好でなかった。
【0086】
No.17の比較例については、B量が適用範囲外であり、鋼中へのBピックアップが発生する問題に加えて、NaOが適正範囲外であることから、スラグベアの生成により、鋳型抜熱安定性、鋳片表面性状及び鋼板ヘゲ不良のいずれもが良好でなかった。
【0087】
No.19の比較例については、LiOが適正範囲外で、粘度も適正範囲外となり、嵩比重が低くなると共に、鋼中へのパウダーの巻き込みによって鋼板ヘゲ不良が良好でなかった。
【0088】
なお、上述したところは、本発明の実施形態を例示したにすぎず、本発明は、特許請求の範囲の記載範囲内において種々変更を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
前述したように、本発明の高Si高Al鋼連続鋳造用パウダーによれば、Si:2%以上及びAl:0.5%以上の高Si高Al鋼を連続鋳造するに際し、鋳型内に形成される溶融スラグの粘度及び凝固温度を適正な範囲に維持し、スラグベアの過剰な形成を防止し、鋳型内における凝固シェルの強冷却を実現することができるため、連続鋳造する鋳片の表面形状を良好に保持し、凝固シェルのブレークアウトの発生を防止して、Si量が高い鋼においても鋳片表層付近のフェライト粒の成長を防止することができる。本発明は、鉄鋼産業において利用可能性が高いものである。
【0090】
さらに、本発明の高Si高Al鋼連続鋳造用パウダーを用いた高Si高Al鋼連続鋳造用方法によれば、鋳型内に形成される溶融スラグの粘度及び凝固温度を適正な範囲に維持し、スラグベアの過剰な形成を防止し、鋳型内における凝固シェルの強冷却を実現することができるため、連続鋳造する鋳片の表面形状を良好に保持し、凝固シェルのブレークアウトの発生を防止して、Si量が高い鋼においても鋳片表層付近のフェライト粒の成長を防止することができる。本発明は、鉄鋼産業において顕著な効果を奏することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Si:2%以上及びAl:0.5%以上を含有する高Si高Al鋼の連続鋳造に用いる連続鋳造用パウダーであって、
主成分が、CaO、SiO及びAlであり、前記連続鋳造用パウダー中に含有するCa分すべてをCaOとしたときの値T.CaOとSiOの質量%比:T.CaO/SiOが1.1以上1.5以下、Alが質量%で15%以上40%以下、
さらに、NaOが3%以上10%以下、LiOが1%以上8%以下、Bが1%以上10%以下であり、さらに、NaO+LiO:8%以上の関係を満たし、残部不可避不純物からなり、
1300℃における粘度が0.20Pa・s以上1.00Pa・s以下、凝固温度が1000℃未満であることを特徴とする高Si高Al鋼連続鋳造用パウダー。
【請求項2】
質量%で、Si:2%以上及びAl:0.5%以上を含有する高Si高Al溶鋼を溶製し、鋳型内の前記高Si高Al溶鋼表面上に連続鋳造用パウダーを投入して連続鋳造するに際し、
主成分が、CaO、SiO及びAlであり、前記連続鋳造用パウダー中に含有するCa分すべてをCaOとしたときの値T.CaOとSiOの質量%比:T.CaO/SiOが1.1以上1.5以下、Alが質量%で15%以上40%以下、
さらに、NaOが3%以上10%以下、LiOが1%以上8%以下、Bが1%以上10%以下であり、さらに、NaO+LiO:8%以上の関係を満たし、残部不可避不純物からなり、
1300℃における粘度が0.20Pa・s以上1.00Pa・s以下、凝固温度が1000℃未満とする高Si高Al鋼連続鋳造用パウダーを用いることを特徴とする高Si高Al鋼連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−218411(P2011−218411A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90594(P2010−90594)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】