説明

魚タンパク質由来血圧降下用組成物およびその製造法

【課題】従来廃棄されているサバの幽門垂を有効利用する技術を提供するとともに、高血圧の予防または治療に利用できる血圧降下効果を示す有効成分を安価に提供する。
【解決手段】魚タンパク質に、サバの加工製品製造の際に副生してくる幽門垂を混合し、50℃以上の高温で発酵させることにより、血圧降下作用を有する魚タンパク質分解物を生産する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンジオテンシン変換酵素(Angiotensin-Converting Enzyme;ACE)阻害剤、血圧降下用の医薬および飲食品に関する。また、本発明は、アンジオテンシン変換酵素阻害用または血圧降下用組成物の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内の血圧を高める昇圧調節系として、レニン−アンジオテンシン−アルドステロン(RAA)系がよく知られている。即ち、腎由来の酵素レニンは肝臓で産生されたアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシン−Iに変換し、次いでアンジオテンシン−Iは主に肺に存在するACEの作用により生体内における昇圧物質であるアンジオテンシン−IIに変換される。よって、ACEを阻害することにより、血圧降下(降圧)効果が得られ、例えば、高血圧を予防または治療できる。
【0003】
近年、食品成分中のACE阻害性物質の研究が盛んであり、魚介類タンパク質由来ペプチドの中には、ACE阻害活性を有し、血圧降下効果を示すものが報告されている(特許文献1〜2、非特許文献1〜8)。具体的には、サケ卵タンパク質のプロテアーゼ加水分解物(特許文献1)、ホタテ貝外套膜のプロテアーゼ加水分解物(特許文献2)、イワシタンパク質のプロテアーゼ加水分解物(非特許文献1〜5)、オイスタータンパク質のプロテアーゼ加水分解物(非特許文献6)、マグロタンパク質のプロテアーゼ加水分解物(非特許文献7)、マサバへしこの抽出物(非特許文献8)にACE阻害活性や血圧降下効果が報告されている。
【0004】
従来、サバの加工製品を製造する際には、幽門垂等の内臓部分は廃棄されており、その有効利用が求められている。幽門垂は、胃と腸の接合部に開口する、多くの硬骨魚類に特有の消化器官である。幽門垂の主要な分泌物であるタンパク質分解酵素によりタンパク質はペプチドやアミノ酸に分解されると考えられる。しかしながら、魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物がACE阻害活性を有し、血圧降下効果を示すことは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−145827号
【特許文献2】特開2008−37766号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】末綱 邦男ら 栄食誌 42、47−54(1989)
【非特許文献2】関 英治ら 栄食誌 52、271−277(1999)
【非特許文献3】杉山 圭吉ら 農化誌 65、35−43(1991)
【非特許文献4】受田 浩之ら 農化誌 65、1223−1228(1991)
【非特許文献5】関 英治ら 日食工誌 40、783−791(1993)
【非特許文献6】松本 清ら 日食工誌 41、589−594(1994)
【非特許文献7】Sang-Lee et.al Food Chemistry 118、96−102(2010)
【非特許文献8】Kouji Itou et.al Fisheries Science 70、1121−1129(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来廃棄されているサバの幽門垂を有効利用する技術を提供するとともに、高血圧の予防または治療に利用できる血圧降下効果を示す有効成分を安価に提供すること
を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ね、魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物がACE阻害活性を有し、経口投与により血圧降下効果を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通り例示できる。
(1)
魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物を有効成分として含有するアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
(2)
魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物を有効成分として含有する血圧降下剤。
(3)
魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物を含有する飲食品。
(4)
魚タンパク質をサバ幽門垂により分解することを含む、アンジオテンシン変換酵素阻害用または血圧降下用組成物を製造する方法。
(5)
前記魚がサバである、(4)に記載の方法。
(6)
前記分解が50〜65℃で行われる、(4)または(5)に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法により提供される魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物は、ACE阻害活性を有し、血圧降下効果を示す。よって、魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物を含有する本発明の医薬や飲食品は、高血圧の予防または治療に有効である。また、本発明においては、従来廃棄されているサバの幽門垂を利用して魚タンパク質の分解を行うため、血圧降下効果を示す有効成分を安価に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】サバ切り身タンパク質をサバ幽門垂で処理したときの、グルタミン酸およびペプチドの遊離量の経時変化を示す図である。
【図2】サバ切り身タンパク質をサバ幽門垂で処理したときの、ACE阻害活性の経時変化を示す図である。
【図3】サバ切り身タンパク質およびサバ内臓肉タンパク質のサバ幽門垂分解物について、ACE阻害活性の用量依存性とIC50を示す図である。
【図4】サバ切り身タンパク質およびサバ内臓肉タンパク質のサバ幽門垂分解物について、経口投与による自然発症高血圧ラット(SHR)に対する血圧降下効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明は、魚タンパク質をサバ幽門垂により分解することを含む、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害用または血圧降下用組成物を製造する方法(以下、本発明の方法ともいう)を提供する。すなわち、魚タンパク質をサバ幽門垂により分解することにより、ACE阻害活性を有し、血圧降下効果を示す組成物が得られる。
【0014】
本発明においては、魚タンパク質が原料として用いられる。本発明において、魚とは、生物学的に魚類に分類されるものであれば特に制限されない。魚として、具体的には、例
えば、マサバ、ゴマサバ、マグロ、カツオ、アジ、イワシ、ニシン、サケ、マス等が挙げられる。魚としては、例えば、サバ科に属する魚が好ましい。サバ科に属する魚として、具体的には、例えば、マサバ、ゴマサバ、マグロ、カツオが挙げられる。これらの中では、マサバ、ゴマサバが好ましい。本発明において用いられる魚は、1種であってもよく、2種またはそれ以上であってもよい。本発明において用いられる魚は、国産のものであってもよく、海外産のものであってもよい。
【0015】
本発明において、魚タンパク質とは、魚に由来するタンパク質をいう。本発明において、魚タンパク質としては、魚タンパク質を含む原料であれば特に制限されず用いることができる。魚タンパク質を含む原料は、例えば、魚体の全体又はその一部であってもよく、それらから単離されたタンパク質そのものであってもよい。魚体の一部としては、タンパク質を含む部分であれば特に制限されず、具体的には、例えば、身(筋肉)、内臓、頭部、皮、ヒレ、尾が挙げられる。これらの中では、身や内臓が好ましい。魚タンパク質は、生鮮品であってもよく、冷凍保存されたものであってもよく、加熱されたものであってもよく、乾燥したものであってもよい。
【0016】
本発明においては、サバ幽門垂が、魚タンパク質の分解に用いられる。本発明において、「サバ」とは、特記しない限り、サバ科に属する魚をいう。サバ科に属する魚として、具体的には、例えば、マサバ、ゴマサバ、マグロ、カツオが挙げられる。これらの中では、マサバ、ゴマサバが好ましい。本発明において用いられるサバは、1種であってもよく、2種またはそれ以上であってもよい。本発明において用いられるサバは、国産のものであってもよく、海外産のものであってもよい。
【0017】
本発明において、サバ幽門垂とは、サバから得られる幽門垂をいう。本発明において、サバ幽門垂としては、サバ幽門垂を含む原料であれば特に制限されず用いることができる。サバ幽門垂を含む原料は、例えば、サバの魚体の全体又はその一部であってもよい。魚体の一部としては、幽門垂を含む部分であれば特に制限されず、具体的には、例えば、幽門垂を含む内臓部分や、単離された幽門垂そのものが挙げられる。サバ幽門垂は、幽門垂のタンパク質分解酵素が失活していない限り、生鮮品であってもよく、冷凍保存されたものであってもよく、加熱されたものであってもよく、乾燥したものであってもよい。
【0018】
魚タンパク質をサバ幽門垂で処理することで、魚タンパク質が分解される。なお、本発明において、魚タンパク質を含む原料を「魚タンパク質原料」、魚タンパク質の分解に用いられるサバ幽門垂を含む原料を「サバ幽門垂原料」という場合がある。また、本発明において、サバ幽門垂による魚タンパク質の分解処理を「幽門垂処理」あるいは「処理」という場合がある。
【0019】
本発明の方法においては、必要により、幽門垂処理に適するように魚タンパク質原料を前処理する。前処理としては、原料を粉砕することが挙げられる。原料の粉砕は、用いられる原料のサイズが大きい場合に特に有効である。原料を粉砕する手法は特に制限されず、例えば、公知の手法を用いることができる。具体的には、ホモジナイザーやミキサーなどの装置で原料を粉砕してペースト状にするのが好ましい。また、原料を粉砕する前に、原料である魚タンパク質塊(すなわち、例えば、魚体の全体又はその一部)の表面に生息するバクテリア類を殺菌することが、品質の向上を図る上で好ましい。殺菌する手法は特に制限されず、例えば、公知の手法を用いることができる。具体的には、例えば、原料を60℃で5〜10分間熱処理することで殺菌することができる。熱処理は、例えば、湯煎により行うのが好ましい。前処理としては、例えば、粉砕のみを行ってもよく、殺菌のみを行ってもよく、両方行ってもよい。
【0020】
また、本発明の方法においては、必要により、幽門垂処理に適するようにサバ幽門垂原
料を前処理する。上述した魚タンパク質原料の前処理に関する記載は、サバ幽門垂原料の前処理についても準用できる。サバ幽門垂原料の前処理は、幽門垂のタンパク質分解酵素ができるだけ失活しないように行うのが好ましい。例えば、熱処理を行う場合には、処理温度を高温にし過ぎないのが好ましい。
【0021】
これら前処理は、魚タンパク質原料とサバ幽門垂原料の両方に行われてもよく、片方のみに行われてもよく、どちらにも行われなくともよい。また、これら前処理は、魚タンパク質原料やサバ幽門垂原料に対してそれぞれ別個に行われてもよく、まとめて行われてもよい。例えば、後述する魚タンパク質原料とサバ幽門垂原料とを混合する際に、前処理を行った原料を混合してもよく、混合してから前処理を行ってもよい。魚タンパク質原料やサバ幽門垂原料に対して行われる前処理は、互いに同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。
【0022】
幽門垂処理は、魚タンパク質をサバ幽門垂の存在下に置くことで行うことができる。例えば、魚タンパク質原料とサバ幽門垂原料とを混合すればよい。また、用いる原料が魚タンパク質とサバ幽門垂とを兼ねる場合には、別途、魚タンパク質原料とサバ幽門垂原料とを混合してもよく、しなくともよい。具体的には、例えば、魚タンパク質原料として、サバ幽門垂を適量含む原料(例えば、サバ幽門垂を含むサバ内臓肉等)を用いる場合には、魚タンパク質原料に含まれるサバ幽門垂により魚タンパク質が分解されるため、別途サバ幽門垂原料を添加する必要はない。魚タンパク質原料に対するサバ幽門垂の量は、魚タンパク質が分解される限り特に制限されず、サバ幽門垂に含まれるタンパク質分解酵素活性、処理温度、処理時間等の諸条件に応じて適宜設定すればよい。用いられるサバ幽門垂の量は、魚タンパク質原料に対して、例えば、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上である。また、用いられるサバ幽門垂の量は、魚タンパク質原料に対して、例えば、1000重量%以下であってもよく、100重量%以下であってもよい。サバ幽門垂の使用量に上限はなくてもよく、多く使用した方が反応は速い。
【0023】
幽門垂処理は、必要により、加水して行われてもよい。また、本発明の方法においては、サバ幽門垂により魚タンパク質が分解されるが、その際、プロテアーゼやペプチダーゼ等のタンパク質分解酵素、あるいはこれらの酵素を産生する微生物、例えば麹菌を外部より添加し、魚タンパク質の分解を促進させてもよい。ただし、例えば、経済的な理由あるいは安全性の点で、サバ幽門垂以外の酵素源を使用しないのが好ましい場合もありうる。
【0024】
幽門垂処理において、pHは調整してもよく、調整しなくともよい。pHを調整する場合には、例えば、pH6〜10に調整するのが好ましい。幽門垂処理は、通常、加温して行われる。処理温度は、通常50〜65℃、好ましくは約55℃である。処理時間は、魚タンパク質が分解される限り特に制限されず、サバ幽門垂に含まれるタンパク質分解酵素活性、魚タンパク質原料とサバ幽門垂の使用量、処理温度等の諸条件に応じて適宜設定すればよい。処理時間は、例えば、通常30分〜48時間、好ましくは5〜15時間である。幽門垂処理中に、内容物を撹拌してもよく、攪拌しなくてもよい。撹拌は、連続的であってもよく、間欠的であってもよい。また、幽門垂処理中に、魚タンパク質原料、サバ幽門垂原料、または水等を追加添加してもよい。
【0025】
幽門垂処理中に、幽門垂処理の進捗を確認してもよい。幽門垂処理の進捗は、例えば、処理物中に遊離するアミノ酸(特にグルタミン酸)やペプチドの濃度を測定することにより、または、処理物のACE阻害活性を測定することにより確認することができる。
【0026】
このようにして、原料として用いた魚タンパク質に由来するペプチドを含む分解物が得られる。このようにして得られる分解物は、ACE阻害活性を有し、対象に投与されることにより血圧降下効果を示す。得られた分解物は、必要に応じて殺菌、精製、濃縮、乾燥等
の後処理に供してもよい。後処理は、例えば、公知の手法を用いて行えばよい。
【0027】
例えば、得られた分解物から、固形分、未分解のタンパク質、油分等の夾雑物を除去するのが好ましい。夾雑物を除去する手法は特に制限されず、例えば、公知の手法を用いることができる。未分解のタンパク質は、例えば、不溶化させて沈殿させ、除去すればよい。具体的には、例えば、分解物を80℃以上の温度で5〜60分間、好ましくは5〜30分間加熱することで未分解のタンパクを不溶化することができ、さらに5〜10℃の低温環境にて数時間〜3日間、好ましくは2〜3日間冷却保存することで不溶化したタンパク質を十分に析出させることができる。このような加熱処理は、分解物を殺菌できる点でも好ましい。析出した未分解のタンパク質やその他の固形分は、例えば、遠心分離法、濾過等により除去できる。油分は、通常、沈殿せずに上部に浮遊するが、例えば、吸引器により除去できる。このようにして得られる反応液は、使用目的に応じて、さらに、脱色や精製を行ってもよい。脱色や精製は、例えば、活性炭処理などにより行うことができる。また、精製は、通常用いられるペプチドの精製法により行うことができる。例えば、上記の夾雑物を除去した溶液から、イオン交換樹脂、膜処理法、晶析法などの操作を組み合わせて、原料として用いた魚タンパク質に由来するペプチドを単離してもよい。精製は、例えば、ACE阻害活性を指標に行うことができる。幽門垂処理により得られる分解物や、同分解物を処理して得られる(粗)精製液は、必要に応じて乾燥させてもよい。乾燥は、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥などにより行うことができる。
【0028】
本発明の方法により得られる魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物は、ACE阻害活性を有し、対象に投与されることにより血圧降下効果を示す。よって、魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物は、ACE阻害剤、あるいは、血圧降下用の医薬や飲食品の有効成分として使用することができる。なお、有効成分として利用される「魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物」とは、原料として用いた魚タンパク質に由来するペプチドを含む限り、幽門垂処理により得られる分解物そのものであってもよく、同分解物を精製等の後処理に供して得られるもの、例えば(粗)精製液や乾燥物であってもよい。
【0029】
本発明のACE阻害剤は、本発明の方法により得られる魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物を有効成分として含有するACE阻害剤である。本発明の血圧降下剤は、本発明の方法により得られる魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物を有効成分として含有する血圧降下剤である。本発明のACE阻害剤と本発明の血圧降下剤とを総称して、本発明の医薬ともいう。本発明の医薬は、魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物を有効成分として含有する限り特に制限されず、同分解物からなるものであってもよく、それ以外の成分を含むものであってもよい。本発明の医薬は、例えば、薬理学的に許容される液体又は固体の製剤担体を配合した種々の医薬組成物として使用することができる。剤形としては、特に制限されず、液剤、懸濁剤、散剤、顆粒剤、粉末剤、錠剤、丸剤、カプセル剤等が挙げられる。また、製剤担体として、通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、被覆剤、溶解補助剤、懸濁化剤、安定化剤、その他適切な添加剤を使用することができる。本発明の医薬は、経口投与されるものであってもよく、非経口投与されるものであってもよいが、経口投与されるものであるのが好ましい。
【0030】
本発明の飲食品は、本発明の方法により得られる魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物を含有する飲食品である。飲食品としては、特に制限されず、あらゆる飲食品が包含される。飲食品としては、例えば、水、果汁、牛乳、茶、アルコール飲料などの飲料;ハム、ソーセージなどの食肉加工食品;かまぼこ、ちくわなどの水産加工食品;バター、発酵乳、粉乳などの乳製品;パン、麺類、菓子、調味料等が挙げられる。また、本発明の飲食品は、いわゆるサプリメントとして提供されてもよい。サプリメントとしては、例えばタブレット状のサプリメントを例示できる。
【0031】
本発明の飲食品は、本発明の分解物を飲食品の原料に添加し、飲食品に加工することによって製造される。なお、本発明の分解物の添加は、飲食品の製造工程のいずれの段階で行われてもよい。本発明の飲食品は、本発明の分解物を使用すること以外は、通常の飲食品と同様の原料を用い、同様の方法によって製造することができる。
【0032】
本発明の飲食品は、高血圧を予防または治療するためとの用途が表示された飲食品として販売されるのが好ましい。本発明の飲食品は、特に、特定保健用食品であるのが好ましい。
【0033】
本発明の医薬における本発明の分解物の含有量は、本発明の分解物の態様、医薬の剤型、用法、用量、投与対象の年齢、性別、高血圧の程度等の諸条件に応じて適宜設定すればよい。本発明の医薬における本発明の分解物の含有量は、例えば、好ましくは0.001〜1g/g、より好ましくは0.01〜1g/gである。
【0034】
本発明の飲食品における本発明の分解物の含有量は、本発明の分解物の態様、飲食品の態様、用法、用量、投与対象の年齢、性別、高血圧の程度等の諸条件に応じて適宜設定すればよい。本発明の飲食品における本発明の分解物の含有量は、例えば、0.00001〜1g/gであってよく、0.0001〜1g/gであってよい。本発明の飲食品における本発明の分解物の含有量は、例えば、好ましくは0.00001〜0.01g/g、より好ましくは0.0001〜0.01g/gである。
【0035】
本発明の医薬または飲食品を対象に投与することにより、血圧降下(降圧)効果が得られ、高血圧が予防または改善される。本発明の医薬または飲食品の投与対象は、特に限定されないが、高血圧である人、あるいは、高血圧ではないが血圧が高めな人が好ましい。なお、本発明において、「投与」には「摂取」が含まれる。
【0036】
本発明の医薬または飲食品の投与量は、本発明の医薬または飲食品における本発明の分解物の含有量、投与対象の年齢、性別、高血圧の程度等の諸条件に応じて適宜設定すればよい。本発明の医薬または飲食品の投与量は、例えば、本発明の分解物の投与量として、0.5〜5000mg/kg/日が好ましく、5〜500mg/kg/日がより好ましく、10〜300mg/kg/日が特に好ましい。本発明の医薬または飲食品は1日1回又は複数回に分けて投与することができる。また、数日又は数週間に1回の投与としてもよい。各回の投与量は、本発明の分解物の投与量に換算して一定でもよく、差があってもよい。本発明の医薬または飲食品は、日常的に投与されていてもよく、そうでなくてもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、実施例で用いた「サバ」とは、「マサバ」である。
【0038】
実施例1:サバ切り身を原料とするACE阻害活性を有する組成物の製造
本実施例では、サバ切り身を魚タンパク質原料として用いてサバ幽門垂による分解物を製造し、ACE阻害活性および経口投与による血圧降下効果を測定した。
【0039】
(1)サバ切り身タンパク質のサバ幽門垂による分解物の製造
サバ切り身を60℃で10分間熱処理した後に細かく粉砕した。サバ切り身粉砕物40gに、60℃で10分加熱処理したサバ幽門垂10gを混合した。混合物を55℃で時々撹拌しながら反応させ、経時的に反応物をサンプリングした。反応物を沸騰水中にて30分間加熱した後冷却し、5,000 rpmで30分間遠心分離を行った。遠心分離液上部に層を形成した油分をアスピレーターにて吸引除去後、サバ切り身タンパク質分解物液を得た。
【0040】
サバ切り身タンパク質の分解状態は、タンパク質の分解により遊離するグルタミン酸およびペプチドを定量することによって調べた。上記タンパク質分解物液中のグルタミン酸およびペプチドを定量したところ、遊離グルタミン酸および遊離ペプチドの量は、経時的に上昇し、反応開始から10-15時間でほぼ一定になることが確認された(図1)。
【0041】
(2)サバ切り身由来ペプチドのACE阻害活性の測定
上記タンパク分解物液を被験物質として、ACE阻害活性の測定を行った。ACE阻害活性の測定はCushmanらの方法(Biochem Pharmacol, 20, 1637-1648 (1971))に準じて行った。なお、ウサギ肺由来ACE、およびACEの基質であるHippuryl-His-Leu(HHL)はいずれもSigma社製のものを用いた。被験物質とHHLを混合し37℃で15分間プレインキュベーションを行った。次いで、上記反応液にウサギ肺抽出物を加え37℃で60分インキュベーションを行った後、塩酸を添加することによって反応を停止した。ACEにより生じた馬尿酸を酢酸エチルにて抽出し、228 nmの吸光度を測定することで定量した。定量値に基づいてACE活性を算出し、ACE活性の阻害率を算出した。一定容量のタンパク質分解物液によるACE活性の阻害率は、経時的に上昇し、反応開始から10-15時間で活性はほぼ一定になることが確認された(図2)。
【0042】
さらに、被験物質の阻害活性の強さを示すため、ACEの活性を50%阻害する被験物質濃度IC50を測定した。上記サバ切り身タンパク質分解物液のACEに対するIC50を測定した結果、IC50は、同分解物液中に含まれるペプチド濃度に換算して、187μg/mlであった(図3)。
【0043】
(3)単回経口投与によるサバ切り身由来ペプチドの降圧効果の測定
本試験には日本SLC株式会社(静岡)より購入した雄性自然発生高血圧ラット(SHR)を用いた。ラットは室温22±3℃、相対湿度50±20%、照明時間12時間/日(明 8:00-20:00、暗 20:00-8:00)の条件下で固形飼料を与えて飼育し飲料水は自由に摂取させた。
【0044】
15週齢のラットを上記の環境で1週間予備飼育し馴化して収縮期血圧がほぼ同一になるように群分けを行った(各群3−5匹)。群分けの後に一晩絶食させたラットに被験物質として上記サバ切り身タンパク質分解物液3mlまたは食塩水3mlを強制的に単回経口投与し、投与後2、4、6、8および20時間の時点で非観血式血圧測定装置BP-98A(株式会社ソフトロン製)で血圧および心拍数の測定を行った。
【0045】
結果を図4に示す。食塩水を投与したコントロール群では、血圧低下が認められなかった。一方、上記サバ切り身タンパク質分解物液を経口投与した群は、投与後2時間で有意な血圧低下を示し、投与4時間後の血圧変化は投与前の-15〜-17mmHgであった。また、有意な降圧効果は投与8時間後まで持続し、20時間後には元に戻った(図4)。
【0046】
以上の通り、サバ切り身タンパク質のサバ幽門垂による分解物は、ACE阻害活性を有し、経口投与により血圧降下(降圧)効果を示すことが明らかとなった。
【0047】
実施例2:サバ内臓肉を原料とするACE阻害活性を有する組成物の製造
サバの切り身を含まない内臓肉(幽門垂を含む)を55℃で15時間発酵させた後、100℃で20分間加熱殺菌し、不溶タンパク質及び油分を遠心分離にて除去した。得られた内臓肉タンパク分解物液について実施例1(2)と同様にACE阻害活性の用量依存性を調べた。その結果、IC50は、同分解物液中に含まれるペプチド濃度に換算して、228μg/mlであった(図3)。更に、実施例1(3)と同様に雄性自然発生高血圧ラット(SHR)に内臓肉タンパク質分解物液3mlを単回経口投与したところ、投与後4時間の血圧変化は、約−10 mmHgであった(図4)。以上の通り、サバ内臓肉タンパク質のサバ幽門垂による分解物
は、ACE阻害活性を有し、経口投与により血圧降下(降圧)効果を示すことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の方法により提供される魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物はACE阻害活性を有し、血圧降下効果を示すため、高血圧症の治療または予防用の医薬や飲食品を提供することができる。また、本発明においては、従来廃棄されているサバの幽門垂を利用して魚タンパク質の分解を行うため、血圧降下効果を示す有効成分を安価に得ることができ、経済的にも有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物を有効成分として含有するアンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【請求項2】
魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物を有効成分として含有する血圧降下剤。
【請求項3】
魚タンパク質のサバ幽門垂による分解物を含有する飲食品。
【請求項4】
魚タンパク質をサバ幽門垂により分解することを含む、アンジオテンシン変換酵素阻害用または血圧降下用組成物を製造する方法。
【請求項5】
前記魚がサバである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記分解が50〜65℃で行われる、請求項4または5に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−43839(P2013−43839A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180833(P2011−180833)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名 日本農芸化学会2011年度大会講演要旨集 発行所 社団法人日本農芸化学会 発行日 平成23年3月5日
【出願人】(507157045)公立大学法人福井県立大学 (22)
【Fターム(参考)】