説明

鹿肉の品質改良方法

【課題】鹿肉の栄養性・機能性・嗜好性を高める調理・加工方法、および該方法によって得られる栄養性・機能性・嗜好性が高められた熟成鹿肉を提供すること。
【解決手段】本発明の鹿肉の品質改良方法は、(1)鹿肉を多穀麹で処理する工程、および(2)工程(1)で得られる鹿肉を熟成させる工程を含む。好ましくは、工程(1)は、鹿肉100質量部を多穀麹1〜5質量部で処理する工程である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鹿肉の品質改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、野生ニホンジカの個体数が増加し、農林業被害が深刻化している。また、森林植生への食害も激化し、植物相の衰退だけでなく、他の生物相への影響も深刻な事態となり、生物多様性の保全の観点から、ニホンジカの密度低減が課題となっている。このような背景の下、行政施策として、ニホンジカの捕獲が継続的に進められている。兵庫県だけでも年間数万頭が捕獲されている。
【0003】
捕獲されたニホンジカは、食品資源として利用されることが望ましい(非特許文献1〜3)。鹿肉は牛肉や豚肉に比べ赤味の多い肉で、脂肪分含量が低く鉄分やタンパク質などの栄養素を多く含んでいる(非特許文献4)。非特許文献4には、鹿肉の脂質割合およびコレステロール含量は部位間による差が認められず、それぞれ和牛肉および国産肉と比較しても有意に少なく、輸入牛肉よりやや低いこと、およびn−6系脂肪酸に対するn−3系脂肪酸の比率が牛肉に比べてかなり高いことが示されている。このような鹿肉の脂質および脂肪酸組成の特性を考慮すると、鹿肉は生活習慣病予防およびアレルギー疾患予防の食肉として、および高齢者向けの鉄分やタンパク質を多く含む栄養食品として利用が期待される。
【0004】
一方で、ニホンジカは、人畜共通感染症として、低率ではあるがE型肝炎ウイルスを保有することが知られている(非特許文献5)。このため、生食の場合はE型肝炎感染の危険性が指摘されており、燻製や加熱などの調理加工が求められている(非特許文献2)。肉質改善を考慮して燻製などによる加工食品の提供が検討されているが(非特許文献6ならびに特許文献1および2)、燻製などの食肉加工は比較的時間と技術を要するため、一般的には、「焼く」、「煮る」など簡単な加熱調理にならざるを得ない。しかし、鹿肉は脂肪分含量が低いため、加熱調理によりぱさぱさした食感になり、脂肪から得られるうま味も少なく嗜好性に劣る傾向にある。
【0005】
そこで、嗜好性を増すために豚脂など他種の肉類の脂肪を付加する調理・加工方法(非特許文献7)、ワインや日本酒を付加し風味を増強する方法などが報告されている。特許文献3には、鹿肉の変色防止剤としてエノキタケ抽出物を用いる方法が報告されている。しかし、鹿肉は天然由来であるため、肉質に季節変化や性・年齢差があり(非特許文献3)、食品としての品質が一定でないため、これらの方法が鹿肉に普遍的に適用されないという問題がある。
【0006】
ところで、動物性食品素材のタンパク質を主として分解し、呈味性を向上させることができる熟成食品の製造方法として、食品素材の表面に接触させた分解酵素を圧力処理により食品素材の内部に均一に含有させる方法が報告されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−211470
【特許文献2】特開平9−65854
【特許文献3】特開2008−228702
【特許文献4】特開2009−89668
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】横山真弓ら、「人と自然」、2003年、第14巻、p. 21-31
【非特許文献2】河合雅雄ら編著、「動物たちの反乱」、第1版、PHP研究所、2009年11月4日、p. 102-127
【非特許文献3】D. R. McCulloughら編、「Sika deer」、スプリンガー(Springer)、2008年、p. 193-205
【非特許文献4】石田光春ら、「日本食品科学工学会誌」、2001年、第48巻、p. 20-26
【非特許文献5】Y. Matsuuraら、「Arch. Virol.」、2007年、第152巻、p. 1375-1381
【非特許文献6】大庭潔ら、「鹿追町農業開発研究所報告」、1998年
【非特許文献7】香嶋章子ら、「大分県農水産物加工総合指導センター報告」、2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、鹿肉の栄養性・機能性・嗜好性を高める調理・加工方法、および該方法によって得られる栄養性・機能性・嗜好性が高められた熟成鹿肉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、鹿肉を多穀麹で処理することで、鹿肉に多く含まれるタンパク質の分解により鹿肉のうま味が増すとともに、肉汁のドリップを防止できることを見出し、本発明に至った。
【0011】
本発明は、鹿肉の品質改良方法を提供し、該方法は、(1)鹿肉を多穀麹で処理する工程、および(2)工程(1)で得られる鹿肉を熟成させる工程を含む。
【0012】
1つの実施態様では、上記工程(1)は、上記鹿肉100質量部を上記多穀麹1〜5質量部で処理する工程である。
【0013】
1つの実施態様では、上記鹿肉はミンチ鹿肉である。
【0014】
1つの実施態様では、上記工程(1)は、ミンチ鹿肉と多穀麹とを混練する工程である。
【0015】
本発明はまた、上記方法により得られる鹿肉を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鹿肉の栄養性・機能性・嗜好性を高める調理・加工方法を提供することができる。本発明の方法によれば、栄養性・機能性・嗜好性が高められた熟成鹿肉を提供することができる。熟成鹿肉は、生活習慣病やアレルギー疾患を予防する脂肪酸組成を有する食品として、また高齢者向けの鉄分やタンパク質、アミノ酸などの栄養分を多く含む栄養食品として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ハンバーグ成形体の中心部分の厚さを測定した結果を示すグラフである。
【図2】ハンバーグ成形体からドリップする肉汁の量を測定した結果を示すグラフである。
【図3】ハンバーグ成形体の破断エネルギーを測定した結果を示すグラフである。
【図4A】熟成前後の鹿肉のアミノ酸組成を分析した結果を示すグラフである。
【図4B】熟成前後の牛肉のアミノ酸組成を分析した結果を示すグラフである。
【図4C】熟成前後の豚肉のアミノ酸組成を分析した結果を示すグラフである。
【図4D】熟成前後の鶏むね肉のアミノ酸組成を分析した結果を示すグラフである。
【図5】ハンバーグの官能評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の鹿肉の品質改良方法は、(1)鹿肉を多穀麹で処理する工程、および(2)工程(1)で得られる鹿肉を熟成させる工程を含む。
【0019】
本発明で用いる鹿肉は、シカ科に属する哺乳類の肉である。好ましくはニホンジカ、より好ましくは野生のニホンジカの肉である。肉の部位としては、特に限定されないが、例えば、すね肉、もも肉、バラ肉、カタ肉、ネック肉、ロース肉が挙げられる。好ましくは、すね肉、もも肉である。好ましくは、生肉を用いるが、新鮮な生肉がより好ましい。肉の量は特に限定されない。
【0020】
本発明で用いる多穀麹は、麹菌(Aspergillus oryzae)と複数の原料穀物とから製麹したものである。原料穀物としては、例えば、大麦、アワ、ヒエ、キビ、タカキビ、紫黒米、米粉、はと麦、大豆、小豆、アマランサス、そばが挙げられる。好ましくは、大麦、アワ、ヒエ、キビ、タカキビ、紫黒米および米粉からなる混合穀物である。多穀麹は、各原料穀物から製麹したものを混合したものでもよい。多穀麹として市販のものを用いてもよい。
【0021】
鹿肉を多穀麹で処理する形態としては、特に限定されない。例えば、スライス肉の場合には、表面に多穀麹を付着させた後、そのままにしてもよく、余分な多穀麹を除去してもよい。ミンチ肉の場合には、多穀麹を添加して、混練してもよい。
【0022】
鹿肉を処理する多穀麹の量は、鹿肉100質量部に対して1〜10質量部、好ましくは2〜5質量部、より好ましくは3〜5質量部である。
【0023】
多穀麹のほかに、通常食肉に用いられる添加物で鹿肉を処理してもよい。添加物としては、例えば、酒、味噌、醤油、糖類などの調味料、セージ、タイム、バジル、パセリなどのハーブ類、こしょう、ナツメグなどの香辛料、リン酸塩、発色剤、結着剤などの食品添加物が挙げられる。
【0024】
本発明でいう熟成とは、食肉を所定の温度にて一定期間静置し、食肉内の成分変化を誘導することをいう。多穀麹を付着させ、または添加した状態で熟成させてもよく、多穀麹を除去した状態で熟成させてもよい。
【0025】
熟成温度は特に限定されないが、食品衛生の面から低温が好ましい。通常0〜10℃、好ましくは5〜10℃、より好ましくは8〜10℃である。
【0026】
熟成期間は特に限定されないが、1〜4日間、好ましくは1〜2日間、より好ましくは2日間である。
【0027】
本発明の鹿肉の品質改良方法は、さらに加熱工程を含んでもよい。加熱工程には、通常、肉の加熱に用いられる方法が用いられる。熟成させた鹿肉を真空パックとした後、蒸気で加熱してもよい。
【0028】
本発明の方法により得られる鹿肉は、真空パックや低温保存により長期間安定に保存することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、実施例により本発明が限定されるものでないことはいうまでもない。
【0030】
(実施例1)多穀麹処理鹿肉
(多穀麹処理鹿肉の調製)
衛生的な解体処理施設において解体処理された鹿肉から調製した冷凍生肉である鹿すね肉・もも肉ミンチ挽きを流水解凍した。このミンチ肉100質量部に対して多穀麹0質量部(無処理)、1質量部、2.5質量部または5質量部を添加して、混練した。多穀麹としては、大麦・アワ・ヒエ・キビ・タカキビ・紫黒米・米粉を原料穀物とする多穀麹(ヤヱガキ醗酵技研株式会社製)を用いた。コントロールとして、多穀麹の原料穀物5質量部を用いた。混練物をハンバーグ状に成形した(ハンバーグ成形体)。
【0031】
(非熟成試料の調製)
ハンバーグ成形体を、食品用真空包装機(東静電気株式会社製HV300)を用いて真空パックし、−15℃にて冷凍した。
【0032】
(熟成試料の調製)
ハンバーグ成形体を密封して、10℃にて2日間保存した(熟成)。次いで、食品用真空包装機を用いて真空パックし、−15℃にて冷凍した。
【0033】
なお、データには示さないが、いずれの処理群からも大腸菌は検出されなかった。一般細菌は、多穀麹の添加直後に若干認められたが通常の範囲内であった。添加2日(熟成)後においても通常の範囲内であったことから、多穀麹の使用は食品衛生の面からも問題ないことがわかった。
【0034】
(ハンバーグ成形体の中心部分の厚さの測定)
非熟成試料および熟成試料を流水解凍し、試料の中心温度が室温になった頃に、袋ごと100℃のスチームにて10分間加熱後、室温にて放置した。試料の中心温度が室温になった頃に、ハンバーグ成形体を袋から取り出し、ハンバーグ成形体の中心部分の厚さをキャリパーで測定した。結果を図1に示す。
【0035】
非熟成試料および熟成試料ともに、多穀麹を多く添加するほど中心部分の厚さが薄くなった。これは、肉質が軟らかくなったことを示す。熟成試料よりも非熟成試料の方が、中心部分の厚さが小さくなっているのは肉汁のドリップ量が多いためと考えられる。
【0036】
(ドリップする肉汁の量の測定)
非熟成試料および熟成試料を流水解凍し、試料の中心温度が室温になった頃に、袋ごと全体の質量を測定した。次いで、袋ごと100℃のスチームにて10分間加熱後、室温にて放置した。試料の中心温度が室温になった頃に、ハンバーグ成形体を袋から取り出し、ハンバーグ成形体および袋の質量を測定した。加熱前の全体の質量から、加熱後のハンバーグ成形体および袋の質量を引いてドリップした肉汁の量を算出した。結果を図2に示す。
【0037】
非熟成試料および熟成試料ともに、多穀麹を多く添加するほどハンバーグからドリップする肉汁の量が少なくなった。コントロールでも肉汁の量が少ないことから、原料穀物が鹿肉の中の水分を保持するためと考えられる。ドリップする肉汁の量は非熟成試料も減少したが、熟成によってさらに減少した。
【0038】
(破断エネルギーの測定)
非熟成試料および熟成試料を流水解凍し、試料の中心温度が室温になった頃に、袋ごと100℃のスチームにて10分間加熱後、室温にて放置した。試料の中心温度が室温になった頃に、ハンバーグ成形体を袋から取り出し、その2cm角の立方体部分を切り取り、この部分の破断エネルギーを測定した。測定には、ロードセル(株式会社山電製、2kgf)およびプランジャー(株式会社山電製、直径8mm)を用いた。圧縮速度を1mm/秒とし、ハンバーグ成形体を60%高まで圧縮した。各試料につき5回測定し、平均値を求めた。結果を図3に示す。
【0039】
非熟成試料および熟成試料ともに、多穀麹を多く添加するほど破断エネルギーが低くなった。これは、肉質が軟らかくなり小さいエネルギーでも肉を噛み切れるようになったことを示す。コントロールでは、無処理よりも破断エネルギーが大きくなり、肉質が硬くなった。この結果は、以下に示す官能評価の結果と対応する。
【0040】
(アミノ酸分析)
鹿肉100質量部に対して多穀麹5質量部を添加して得られた熟成試料、無処理およびコントロールの熟成試料を流水解凍し、試料の中心温度が室温になった頃に、ハンバーグ成形体を袋から取り出し、試料中のアミノ酸組成(遊離アミノ酸の組成)を、HPLCを用いて分析した。結果を図4に示す。
【0041】
多穀麹5質量部を添加して得られた熟成試料は、無処理およびコントロールの熟成試料よりも約5倍多いアミノ酸総量を示した。これは、鹿肉に多穀麹を添加して熟成させることにより、アミノ酸総量が増加したことを示す。なお、データには示さないが、多穀麹を多く添加するほどアミノ酸総量が増加し、無処理およびコントロールではアミノ酸総量が増えなかった。
【0042】
多穀麹5質量部を添加して得られた熟成試料は、γ−アミノ酪酸(GABA)を含有することが確認された。これは、熟成によりGABAが生成したことを示す。
【0043】
(比較例1)多穀麹処理食肉
鹿肉の代わりに、牛肉(市販ミンチ肉)、豚肉(市販ミンチ肉)または鳥むね肉(市販ミンチ肉)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熟成試料を得、試料中のアミノ酸組成を分析した。ただし、各肉100質量部に対して添加した多穀麹の割合は5質量部である。結果を図4B〜図4Dに示す。
【0044】
牛肉および豚肉のアミノ酸総量は約2300(mg/100g)で、鶏肉と鹿肉は約5000(mg/100g)となった。牛肉または豚肉100質量部に対して多穀麹5質量部を添加して得られた熟成試料は、それぞれ無処理およびコントロールの熟成試料よりも約3倍多いアミノ酸総量を示した。鶏肉100質量部に対して多穀麹5質量部を添加して得られた熟成試料は、無処理およびコントロールの熟成試料よりも約2倍多いアミノ酸総量を示した。これらは、鹿肉に対して多穀麹が効果的に作用していることを示す。
【0045】
(実施例2)多穀麹処理鹿肉の官能評価
以下のようにハンバーグを作り、官能評価を行った。
(材料)
ミンチ肉 300g×3 900g
玉ねぎ 210g×3 630g
パン粉 90g×3 270g (牛乳 150g×3 450gに浸す)
卵 36g×3 108g
醤油 12g×3 36g
塩 3g×3 9g
こしょう、ナツメグ 1g×3 3g
(方法)
1 鹿すね肉・もも肉ミンチ挽きを流水解凍し、ミンチ肉100質量部に対して多穀麹0質量部(無処理群)または5質量部(処理群)を添加して、混練した。コントロールとして、多穀麹の原料穀物5質量部を用いた(コントロール群)。混練物をハンバーグ状に成形、密封して、10℃にて2日間保存した(熟成)。
2 玉ねぎをフードプロセッサーに10秒間かけてみじん切りにし、大さじ1の油を加えたフライパンで7分間炒め3等分した。
3 熟成させたミンチ肉に上記炒めた玉ねぎ、牛乳に浸したパン粉、塩、こしょう、ナツメグ、卵を加えて50回こねた。次いで、醤油を加えて20回こね、ハンバーグの生地20gを成形した。
4 フライパンにハンバーグを並べてから火をつけて、強火で70秒間加熱し、ひっくり返して50秒間加熱し、取り出した。
5 温度を10℃まで下げてからハンバーグを個別の袋に密封し、20秒間かけて100%の真空状態にした(真空パック)。
6 真空パックを100℃にて5分間蒸し、冷凍した。
7 真空パックを100℃の湯に2分間浸漬して解凍し、試料とした。
【0046】
(官能評価)
65歳以上の高齢者30人(平均年齢82.1±6.13歳)および若年者30人(平均年齢21.4±1.13歳)をパネルとして、(1)色(識別)、(2)色(嗜好)、(3)香り(嗜好)、(4)硬さ(識別・フォークでハンバーグを押したり切ったとき)、(5)硬さ(嗜好・フォークでハンバーグを押したり切ったとき)、(6)うま味、(7)飲み込みやすさ、(8)総合評価の各項目について5段階評点法で試料間の差を求めた。5点満点の評価法を用い、二元配置の分散分析を行った。結果を図5に示す。
【0047】
図5(A)から明らかなように、高齢者においては、色・香りの項目では有意差はみられなかった。硬さ(識別)の項目では、無処理群と処理群との間で有意差(P<0.05)がみられた。処理群がもっとも軟らかいと感じる人が多かった。うま味の項目では有意差はみられなかったが、処理群がもっともうま味があると評価された。
【0048】
飲み込みやすさの項目では、無処理群と処理群との間、無処理群とコントロール群との間で有意差(P<0.05)がみられた。処理群がもっとも飲み込みやすいと感じる人が多かった。総合的なおいしさの項目では有意差はみられなかったが、処理群がもっともおいしく、次いで無処理群、コントロール群の順でおいしいと評価された。
【0049】
図5(B)から明らかなように、若年者においては、色・香りの項目では有意差はみられなかった。硬さ(識別)の項目では、無処理群と処理群との間、および処理群とコントロール群との間で有意差(p<0.05)がみられた。嗜好の項目では、処理群とコントロール群との間で有意差(p<0.05)がみられた。処理群がもっとも軟らかく好まれ、コントロール群は硬く好まれない結果となった。うま味の項目では、無処理群とコントロール群との間、および処理群とコントロール群との間で有意差がみられた。処理群がもっともうま味があると評価された。アミノ酸分析の結果からもわかるように、多穀麹に含まれるプロテアーゼが鹿肉のタンパク質を分解しアミノ酸が増えたことでうま味が増したと考えられる。
【0050】
飲み込みやすさの項目では、無処理群と処理群との間、処理群とコントロール群との間で有意差(P<0.05)がみられた。処理群がもっとも飲み込みやすく、コントロール群が飲み込みにくいと感じる人が多かった。飲み込みやすさは硬さと相関があり、自由記述欄には肉質が軟らかいから飲み込みやすかったという記述が多かった。総合的なおいしさの項目では、無処理群とコントロール群との間、および処理群とコントロールとの間で有意差(P<0.05)がみられた。総合的に処理群がもっともおいしいと評価された。
【0051】
以上より、鹿肉100質量部に対して多穀麹1〜5質量部を添加して、鹿肉を熟成させることで、肉質の軟化、テクスチャー改善、アミノ酸増加、うま味増量、ドリップする肉汁の減少が認められた。官能評価においても軟らかく、飲み込みやすく、総合的においしい肉との評価を得た。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、鹿肉の栄養性・機能性・嗜好性を高める調理・加工方法を提供することができる。本発明の方法によれば、栄養性・機能性・嗜好性が高められた熟成鹿肉を提供することができる。熟成鹿肉は、生活習慣病やアレルギー疾患を予防する脂肪酸組成を有する食品として、また高齢者向けの鉄分やタンパク質、アミノ酸などの栄養分を多く含む栄養食品として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鹿肉の品質改良方法であって、
(1)鹿肉を多穀麹で処理する工程、および
(2)工程(1)で得られる鹿肉を熟成させる工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記工程(1)が、前記鹿肉100質量部を前記多穀麹1〜5質量部で処理する工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記鹿肉がミンチ鹿肉である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(1)が、ミンチ鹿肉と多穀麹とを混練する工程である、請求項1から3のいずれかの項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかの項に記載の方法により得られる鹿肉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−55178(P2012−55178A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198746(P2010−198746)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年5月1日 第64回日本栄養・食糧学会大会発行の「第64回日本栄養・食糧学会大会 講演要旨集」に文書をもって発表、平成22年5月23日 社団法人 日本栄養・食糧学会開催の「第64回日本栄養・食糧学会大会」において文書をもって発表、平成22年7月28日 「平成22年度兵庫県COEプログラム推進事業 新規採択研究プロジェクト認定式」において文書をもって発表
【出願人】(510240099)
【出願人】(510240103)
【出願人】(510240114)
【Fターム(参考)】