説明

麹菌由来のグルタミン酸アミノペプチダーゼ

【課題】麹菌由来のグルタミン酸アミノペプチダーゼをコードする遺伝子を特定し、この遺伝子を用いてグルタミン酸アミノペプチダーゼ高生産性の麹菌を調製し、この麹菌を用いて、うま味の強い調味料を提供する。
【解決手段】(1)特定な配列で表される麹菌アスペルギルス・オリゼ由来のグルタミン酸アミノペプチダーゼをコードする遺伝子を特定し、(2)該遺伝子を高発現プロモーターの下流に連結させたグルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子の高発現ベクターを作成し、(3)該発現ベクターを用いて麹菌を形質転換した形質転換体を作成し、(4)該形質転換体を培養することで、親株よりも大量のグルタミン酸アミノペプチダーゼを産生した麹を調製でき、(5)該麹の酵素抽出液をタンパク質の部分加水分解物に作用させることで、うま味の強い調味液を調製できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麹菌由来のグルタミン酸アミノペプチダーゼ、該酵素をコードする遺伝子、該遺伝子を利用したグルタミン酸アミノペプチダーゼ高生産性麹菌、及び該麹菌を用いて調製した麹の酵素抽出液を用いた調味料の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グルタミン酸アミノペプチダーゼ(Glutamyl aminopeptidase、EC 3.4.11.7)は、タンパク質の部分加水分解物に作用して、アミノ末端のペプチド結合を分解する酵素であり、旨味に寄与するアミノ酸であるグルタミン酸を特異的に遊離させることから、調味料の製造において重要な酵素である。
【0003】
一方、麹菌アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)は、米国食品医薬局(FDA)においても、GRAS(Generally Recognized As Safe)に認定されていることから、それが生産する酵素は、調味料等の製造に大いに利用されている。
【0004】
従来、麹菌の由来のアミノペプチダーゼとしては、醤油製造においては重要と考えられているロイシンアミノペプチダーゼを中心に報告されているものの(特表平10−508475号、特開平11−346777号、特表平11−509082号、特表2000−502912号、特表2001−500022号、特開2002−355047号、特表2002−514920号、特表2002−511746号、WO97/04108、WO2002/77223)、グルタミン酸アミノペプチダーゼに関する報告は成されていない。
【0005】
【特許文献1】特表平10−508475号
【特許文献2】特開平11−346777号
【特許文献3】特表平11−509082号
【特許文献4】特表2000−502912号
【特許文献5】特表2001−500022号
【特許文献6】特開2002−355047号
【特許文献7】特表2002−514920号
【特許文献8】特表2002−511746号
【特許文献9】WO97/04108
【特許文献10】WO2002/77223
【特許文献11】特開2005−176602号
【非特許文献1】Nature 438, 1157-1161 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
麹菌アスペルギルス・オリゼの全ゲノム配列は公表されているものの(特開2005−176602、Nature 438, 1157-1161 (2005))、該麹菌由来のグルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子については未知で、未だに特定されていない。また、従来の麹菌ではグルタミン酸アミノペプチダーゼの生産量は非常に低く、この酵素を醤油をはじめとする調味料などの食品の生産には利用することは現実的ではなかった。
【0007】
したがって、本発明は、麹菌由来のグルタミン酸アミノペプチダーゼをコードする遺伝子を特定し、この遺伝子を用いてグルタミン酸アミノペプチダーゼ高生産性の麹菌を調製し、この麹菌を用いて、うま味の強い調味料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、(1)麹菌アスペルギルス・オリゼ由来のグルタミン酸アミノペプチダーゼをコードする遺伝子を特定することに成功し、(2)該遺伝子を高発現プロモーターの下流に連結させたグルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子の高発現ベクターを作成し、(3)該発現ベクターを用いて麹菌を形質転換した形質転換体の作成に成功し、(4)該形質転換体を培養することで、親株よりも大量のグルタミン酸アミノペプチダーゼを産生した麹を調製でき、(5)該麹の酵素抽出液をタンパク質の部分加水分解物に作用させることで、うま味の強い調味液を調製できることを見出し、本発明を完成した。したがって、本発明は以下の通りである。
【0009】
〔1〕配列番号1に示すアミノ酸配列または該アミノ酸配列の一若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する、グルタミン酸アミノペプチダーゼ。
〔2〕アスペルギルス・オリゼに由来するものである、上記〔1〕記載のグルタミン酸アミノペプチダーゼ。
【0010】
〔3〕配列番号1に示すアミノ酸配列または該アミノ酸配列の一若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードする、グルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子。
〔4〕グルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子が、配列番号2に示す塩基配列または該塩基配列の一若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有するものである、上記〔3〕記載の遺伝子。
【0011】
〔5〕遺伝子が、アスペルギルス・オリゼに由来するものである、上記〔3〕又は〔4〕記載の遺伝子。
〔6〕上記〔3〕又は〔4〕記載の遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつグルタミン酸アミノペプチダーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA断片。
【0012】
〔7〕上記〔3〕又は〔4〕記載の遺伝子もしくは上記〔6〕記載のDNA断片を含有するグルタミン酸アミノペプチダーゼ高生産性プラスミド。
〔8〕α−アミラーゼ遺伝子(amyB)のプロモーターを有する、上記〔7〕記載のプラスミド。
〔9〕上記〔7〕記載のプラスミドを用いて形質転換した麹菌。
〔10〕上記〔9〕記載の麹菌を用いて麹を調製し、該麹又はその酵素抽出液を用いてタンパク質資源を加水分解することを特徴とする、調味料の製造法。
【発明の効果】
【0013】
本発明者らは、麹菌アスペルギルス・オリゼ由来のグルタミン酸アミノペプチダーゼをコードする遺伝子を初めて特定し、クローニングしたグルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子を高発現プロモーターの制御下で多コピー導入することにより非常に効率よくグルタミン酸アミノペプチダーゼを産生する麹菌の取得に成功した。特に、つまり、高発現プロモーターとしてamyBのプロモーターを使用することで、効率良くグルタミン酸アミノペプチダーゼを産生させることが可能である。
【0014】
このような麹菌を用いて麹を調製し、該麹又はその酵素抽出液を用い、大豆等のタンパク質資源を分解させることで、遊離のグルタミン酸量が著しく増加したうま味の強い調味料を製造することが可能で、本発明は、食品製造においても極めて有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
配列番号1で示されるアミノ酸配列は、上記反応を触媒する活性を維持する限りにおいて、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、修飾または付加されていてもよい。上記のアミノ酸配列の欠失、置換、修飾または付加は、出願前周知技術である部位特異的突然変異誘発法(例えば、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81,4662-5666(1984)、Nucleic Acid Res.10,6487-6500(1982)、Nature 316,601-605(1985)など)などにより実施することができる。
【0016】
また、本発明のグルタミン酸アミノペプチダーゼは、上記反応を触媒する活性を維持する限りにおいて、配列番号1に示すアミノ酸配列と90%以上の相同性を有する酵素も含まれる。
【0017】
このようなグルタミン酸アミノペプチダーゼは、アスペルギルス・オリゼから配列番号1に示すアミノ酸配列を有する酵素をコードする遺伝子、具体的には配列番号2に示す塩基配列からなるグルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子をクローニングし、これを使用して調製する。
【0018】
本発明においては、グルタミン酸アミノペプチダーゼを生産することができる限りにおいて、配列番号2で示される塩基配列中の1個もしくは複数個の塩基が欠失、置換、挿入または付加された遺伝子、またはそれらの遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA断片、さらに配列番号2で示される塩基配列と90%以上の相同性を有するDNA断片も利用することができる。
【0019】
なお、1個もしくは複数個の塩基が欠失、置換、挿入または付加された遺伝子とは、上述のアミノ酸配列と同様に、部位特異的突然変異誘発法等の周知の方法により欠失、置換、修飾または付加できる程度の数の塩基が欠失、置換、修飾または付加されることを意味する。また、ストリンジェントな条件下とは、5xSSC(1xSSCは塩化ナトリウム8.76g、クエン酸ナトリウム4.41gを1リットルの水に溶かしたもの)、0.1%(w/v)N−ラウロイルザルコシン・ナトリウム塩、0.02%(w/v)SDS、0.5%(w/v)ブロッキング試薬を含む溶液を用い、60℃で20時間程度反応温度条件下でハイブリダイゼーション反応を行なうことを意味する。
【0020】
このような遺伝子のクローニング、クローン化したDNA断片を用いた発現ベクターの調製、発現ベクター(又はプラスミド)を用いたグルタミン酸アミノペプチダーゼの調製などは、分子生物学の分野に属する技術者にとっては周知の技術であり、常法に従って行うことができる。
【0021】
たとえば、アスペルギルス・オリゼから精製したグルタミン酸アミノペプチダーゼのN−末端、C−末端などのアミノ酸配列の一部を既知の方法で決定し、それに相当するオリゴヌクレオチドを合成し、合成したオリゴヌクレオチドをプローブとしてアスペルギルス・オリゼRIB40(ATCC42149)のcDNAライブラリーよりグルタミン酸アミノペプチダーゼをコードする遺伝子を含有するDNA断片をクローニングすればよい。
【0022】
また、既に公表されている麹菌アスペルギルス・オリゼの全ゲノム配列の中で、アミノペプチダーゼをコードしているのではないかと予測されているDNA塩基配列を参考にPCR用プライマーを設計し、すでにクローン化された動物由来のグルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子の構造との相同性やグルタミン酸アミノペプチダーゼ活性を基に、アスペルギルス・オリゼRIB40(ATCC42149)のcDNAライブラリーからスクリーニングすることで、目的とする遺伝子をクローニングすることができる。
【0023】
クローン化に用いる宿主は特に限定されないが、操作性及び簡便性から大腸菌など微生物を宿主とするのが適当である。
【0024】
次ぎに、クローン化したグルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子の高発現系を構築する。たとえばマキザム−ギルバートの方法(Methods in Enzymology,65,499(1980))もしくはダイデオキシチェーンターミネーター法(Methods in Enzymology,101,20(1983))などを応用してクローン化したDNA断片の塩基配列を解析して該遺伝子のコーディング領域を特定し、宿主微生物に応じて該遺伝子が微生物菌体中で自発現可能となるように発現制御シグナル(転写開始及び翻訳開始シグナル)をその上流に連結した組換え発現ベクターを作製する。
【0025】
使用するベクターとしては特に制限されず、糸状菌の育種等に通常用いられているものを使用することができる。例えば、アスペルギルス・オリゼに用いられるベクターとしては、pUSA、pUNG(Appl.Microbiol.Biotechnol.,44,425-431(1995))、pMARG(Appl.Microbiol.Biotechnol.,40,327-332(1993))、pUSC(Agric.Biol.Chem.51,2549-2555(1987))等が挙げられる。
【0026】
上記ベクターのうち、pUSAは、α−アミラーゼ遺伝子(amyB)のプロモーター及びターミネーターを有しており、該プロモーターの下流にグルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子をフレームを合わせて挿入することにより、該プロモーター制御下でグルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子を効率よく発現させることができる。
【0027】
このようなベクターを用いた麹菌の形質転換は、公知の方法により実施できる。たとえば、DPY培地(グルコース2%、ペプトン1%、酵母エキス0.5%、pH5.0)に菌体(分生子)を植菌し、30℃で24時間程度培養し、得られた培養液を濾過し、菌体を回収する。
【0028】
回収した菌体を、試験管に入れ、酵素液を加えてプロトプラスト化し、得られたプロトプラストを用いて、マーカーに対応した選択培地で培養し、生育した菌体を選択培地に植え継いで、形質転換体であることを確認する。
【0029】
得られた形質転換体は、使用するプロモーターに適した条件で培養することによって、グルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子が発現し、グルタミン酸アミノペプチダーゼを取得することができる。たとえば、アスペルギルス・オリゼを宿主に用い、プロモーターとしてα−アミラーゼプロモーターを使用する場合には、割砕小麦等を含む培地に形質転換アスベルギルス・オリゼの胞子を懸濁し、約30℃で培養することによりグルタミン酸アミノペプチダーゼを産生させることができる。
【0030】
三角フラスコ等の容器にこのようにして得られた培養物を入れ、蒸留水等を適当量加えた上でよく攪拌することによってグルタミン酸アミノペプチダーゼを含む酵素抽出液を得ることができる。また、必要により、該酵素抽出液は、ゲル濾過、種々のクロマトグラフィー等を用いることによって更にグルタミン酸アミノペプチダーゼを精製することもできる。
【0031】
本発明における調味料等の調製は、上記形質転換体の麹菌を用いて麹を調製し、該麹又はその酵素抽出液を用いてタンパク質資源を加水分解することを特徴とする。すなわち、上記形質転換体の培養物又はその酵素抽出物を、必要によりタンパク質分解酵素とともにタンパク質資源と直接混合してタンパク質にグルタミン酸アミノペプチダーゼ等の酵素を作用させることにより、遊離アミノ酸含量が高く、呈味の強いタンパク質加水分解物を得ることもできる。
【0032】
作用させるタンパク質資源としては、例えば大豆、小麦、小麦グルテン等が挙げられ、さらに脱脂大豆あるいは膨化や可溶化等の加工をされた種々のタンパク質あるいはこれらの種々の原料からの分離タンパク質であってもよい。
【0033】
酵素の反応条件としては、たとえば0.2〜50%濃度のタンパク質資源に形質転換体の培養物又はその酵素抽出物をタンパク質分解酵素存在下で混合し、5〜60℃にて4時間〜20日間反応させればよい。
【0034】
反応終了後、未分解のタンパク質原料、菌体などの不溶物は遠心分離や濾過等、従来の分離法を用いて除去する。また、必要に応じて、減圧濃縮、逆浸透法などにより濃縮を行い、得られた濃縮物を、必要により、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥等の乾燥処理により粉末化または顆粒化することもできる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0036】
実施例1
(1)PCRによるグルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子の取得
麹菌RIB40(ATCC42149)のEST解析の結果からaspartyl aminopeptidaseと予測されたDNA塩基配列を参考に、下記のPCR用プライマー(M13−Rv,AP−Rv3)を設計した。次ぎに、麹菌のcDNAを含むプラスミドJZ3909fをテンプレートとしてプライマーM13−RvとAP−Rv3を用いたPCRを行い、グルタミン酸アミノペプチダーゼをコードする遺伝子を増幅させた。
【0037】
M13−Rv:5’−CAGGAAACAGCATTGAC−3’
AP−Rv3:5’−TTCTAGGTACCCCTATCTACACAAGTAACCAACGC−3’
【0038】
すなわち、0.2ml容量のPCR用チューブ(Eppendorf社製)に蒸留水54μl、10×バッファー(KOD −Plus−(東洋紡製)に添付のもの)10μl、プライマーDNAの10pmol/μl溶液10μl×2種、ゲノムDNAの100ng/μl溶液1μl、2mM dNTP溶液(東洋紡製)10μl、25mM MgSO4μlおよびKOD −Plus−(東洋紡製)1μlを混合した後、サーマルサイクラー(TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice(タカラバイオ社製)にセットし、PCR反応として、(1)94℃で2分、(2)94℃で30秒、(3)56℃で60秒、(4)72℃で90秒、(2)〜(4)を30サイクル、(5)72℃で7分のプログラムを組み、目的とする遺伝子を増幅した。
【0039】
次ぎに、PCR産物50μlをKpnI(タカラバイオ社製)にて切断し、反応液を0.9%アガロースで電気泳動し、目的の遺伝子配列を含むゲルの一部を切り出し、Wizard SV Gel and PCR Clean−Up System(Promega社製)を用いてDNAを溶出した。
【0040】
一方、amyBのプロモーターとターミネーターを有するベクターであるpUSAをKpnIによって切断し、この切断したベクターをアルカリホスファターゼ(和光純薬工業社製)を用いて末端を脱リン酸化したベクターと上記で取得したグルタミン酸アミノペプチダーゼをコードしていると考えられDNA断片を、ライゲーションハイ(東洋紡製)を加えて混和した後、16℃で30分間インキュベートし、大腸菌DH5αのコンピテントセルを形質転換した。
【0041】
このようにして得られた形質転換体からプラスミドの中にグルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子を含む形質転換体の選抜し、選ばれた形質転換体をアンピシリンを含むLB培地にて培養し、その培養液からQIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社製)を使用し、キット添付のマニュアルに従ってプラスミドを取得し、得られたプラスミドをpUSA−APと命名した。このpUSA−APは、amyBのプロモーターとターミネーターの間にクローニングしたグルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子が発現可能な状態で導入構築されたものであり、平成18年6月13日に特許生物寄託センターに寄託され、受領番号としてFERM AP−20934号が与えられている。
【0042】
(2)グルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子を導入した形質転換体の取得
このようにして得られたプラスミドpUSA−APを用いて、Aspergillus oryzae NS4株(Biosci.Biotech.Biochem.,61(8),1367-1369(1997))を常法により形質転換し、最少培地上で数個の形質転換体コロニーを得、この形質転換体からゲノムDNAを調製後、制限酵素BamHI(タカラバイオ社製)で切断し、Hybond−N+(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)でブロッティング後、クローン化したグルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子をプローブとして形質転換体のサザンハイブリダイゼーション解析を行った。その結果、グルタミン酸アミノペプチダーゼをコードすると考えられる遺伝子が全く導入されていないもの、1コピー導入されたもの、複数コピー導入されたものが確認された。これらの中から複数コピー導入された株を選びNAP10と命名した。
【0043】
(3)形質転換体による酵素液の調製
500ml容の三角フラスコにふすまを準備し、そこにNAP10株の胞子(5×10個)と4.5%マルトース溶液4mlを加えてよく攪拌した後、30℃のインキュベーター内で72時間培養を行った。培養後、70mlの脱イオン水を加えてよく振った後、室温で4時間静置し、No2のろ紙(ADVANTEC社製)を用いてろ過して得られたろ液を酵素抽出液とした。
【0044】
この酵素抽出液を、常法に従い、Glu−pNAを基質としたグルタミン酸アミノペプチダーゼ活性を測定した結果、表1に示すように、クローニングした遺伝子はグルタミン酸アミノペプチダーゼ活性を有しており、その活性は、宿主株であるNS4の活性を1とした場合、NAP10株の相対活性は141113であった。
【0045】
【表1】

【0046】
(4)調味液の製造
上記と同様にして調製した得られた酵素抽出液を、0.2μmのメンブレンによるフィルターろ過を2回行い無菌酵素液とした。次ぎに、500ml容の三角フラスコに脱脂加工大豆5gに対して水7mlを添加し、30分間給水後、121℃、40分間オートクレイブ処理して蒸豆とした。この蒸豆に無菌酵素液10mlと滅菌水10mlを加え50℃、20時間静置した状態でインキュベートし、反応後、ろ紙ろ過を行うことで得たろ液を大豆分解液とし、この大豆分解液のアミノ酸を分析した。その結果、表2に示すように遊離のグルタミン酸の量が親株と比較して顕著に増加し、うま味の強い調味液を得ることが可能であることが明らかとなった。
【0047】
【表2】

【0048】
<受領書>






【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示すアミノ酸配列または該アミノ酸配列の一若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する、グルタミン酸アミノペプチダーゼ。
【請求項2】
アスペルギルス・オリゼに由来するものである、請求項1記載のグルタミン酸アミノペプチダーゼ。
【請求項3】
配列番号1に示すアミノ酸配列または該アミノ酸配列の一若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードする、グルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子。
【請求項4】
グルタミン酸アミノペプチダーゼ遺伝子が、配列番号2に示す塩基配列または該塩基配列の一若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有するものである、請求項3記載の遺伝子。
【請求項5】
遺伝子が、アスペルギルス・オリゼに由来するものである、請求項3又は4記載の遺伝子。
【請求項6】
請求項3又は4記載の遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつグルタミン酸アミノペプチダーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA断片。
【請求項7】
請求項3又4記載の遺伝子もしくは請求項6記載のDNA断片を含有するグルタミン酸アミノペプチダーゼ高生産性プラスミド。
【請求項8】
α−アミラーゼ遺伝子(amyB)のプロモーターを有する、請求項7記載のプラスミド。
【請求項9】
請求項7のプラスミドを用いて形質転換した麹菌。
【請求項10】
請求項9の麹菌を用いて麹を調製し、該麹又はその酵素抽出液を用いてタンパク質資源を加水分解することを特徴とする、調味料の製造法。

【公開番号】特開2008−11710(P2008−11710A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−182917(P2006−182917)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(000006770)ヤマサ醤油株式会社 (56)
【Fターム(参考)】