説明

黄斑変性症または網膜症の予防または治療法

本発明は、PRDX5あるいはPRDX6を含む、網膜症又はAMDの予防または治療剤ならびにPRDX5あるいはPRDX6をコードするポリヌクレオチドを含む、網膜症またはAMDの予防または治療剤を提供する。さらに、本発明は、網膜症またはAMDを罹患する患者において、その病気の予防または治療方法を提供する。その治療方法には、有効量のPRDX5あるいはPRDX6の患者への投与、PRDX5あるいはPRDX6をコードする有効量のポリヌクレオチドを投与することが含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜症または加齢黄斑変性症(以下、「AMD」、または、「黄斑変性症」ともいう)の予防または治療剤、および、網膜症またはAMDの予防または治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高血糖誘発の酸化ストレスが、糖尿病網膜症の進行に重大な影響を与えることが知られている[Baynes, Diabetes, 40(1991), pp.405-412 / Kowluru et al., Diabetes, 47 (1998), pp. 464-469 / Kowluru et al., Diabetes, 50(2001), pp.1938-1942]。網膜の周皮細胞が、高グルコース状態下で、酸化ストレスを受けるにつれて、分子的および生化学的変化が発生し、最終的にアポトーシスおよび過剰な細胞死を引き起こすことが研究で明らかにされている[Amano et al., Microvasc Res. 69(2005), pp.45-55 / Kowluru , Diabetes, 52(2003), pp.818-823 / Lorenzi and Gerhardinger, Diabetologia, 44(2001), pp.791-804]。活性酸素種(ROS)発生が糖尿病の両タイプで増加することが、臨床および実験データで明示されている[Lorenzi and Gerhardinger, 2001, 上記参照/ Rosen et al., Diabetes Metab Res Rev.17(2001), pp.189-212 / Setter et al., Ann Pharmacother. 37(2003), pp.1858-1866]。高血糖下で、グルコースの自動酸化、タンパク質の非酵素的糖化、グルコース誘導のプロテインキナーゼCの活性化、ポリオール経路活性の亢進、抗酸化酵素の低下およびミトコンドリアでの変性を含む複数のメカニズムによりROSが発生すると考えられている[Chung et al., J Am Soc Nephrol. 14(2003), S233-236 / Inoguchi et al., J Am Soc Nephrol. 14(2003), S227-232 / Kanwar et al., Invest Ophthalmol Vis Sci. 48(2007), pp.3805-3811 / Nishikawa et al., Nature. 404(2000), pp.787-790 / Sakurai and Tsuchiya, FEBS Lett. 236(1998), pp.406-410]。
【0003】
ペルオキシレドキシン(PRDX)は、抗酸化物質の新ファミリーであるが、活性酵素種(ROS)の消去につながる機能を果たし、従って、内的・外的な環境的ストレスに対する細胞保護作用を提供する[Peshenko et al., J Ocul Pharmacol Ther. 17(2001), pp.93-99 / Wood et al., Trends Biochem Sci. 28(2003b), pp.32-40]。哺乳類PRDXファミリーは6種類(PRDX 1〜6)で構成されている[Fatma et al., J Biol Chem.276(2001), pp.48899-48907 / Lyu et al., Mamm Genome. 10(1999), pp.1017-1019 / Wood et al., Science. 300(2003a), pp.650-653 / Wood et al., 2003b, 上記参照]。細胞質に局在する抗酸化タンパク質であるPRDX6は触媒活性のシステインを1つしか含んでいないが、PRDX6以外のPRDXは全て、上記システインを2つ有している[Fatma et al., 2001, 上記参照 / Lyu et al. 1999, 上記参照 / Wood et al., 2003a, 上記参照 / Wood et al. 2003b, 上記参照]。PRDX5は、ミトコンドリアおよびペルオキシソームの標的シグナルを持った独特な新種ペルオキシレドキシンであり[Verdoucq et al., J Biol Chem. 274(1999), pp.19714-19722 / Zhou et al., Biochem Biophys Res Commun. 268(2000), pp.921-927]、チオレドキシンペルオキシダーゼ としての特徴がある。PRDX6によって、ペルオキシ亜硝酸が抑制されること[Peshenko and Shichi, Free Radic Biol Med. 31(2001), pp.292-303 / Peshenko et al., 2001, 上記参照]、また、リン脂質ヒドロペルオキシド還元酵素活性が抑制されること[Chen et al., J Biol Chem. 275(2000), pp.28421-28427 / Manevich et al., Proc Natl Acad Sci USA. 99(2002), pp.11599-11604]が報告されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
グルコース値が高いと、フリーラジカルの発生により周皮細胞の機能が弱まるが、これは、糖尿病網膜症が、酸化・抗酸化のバランスと病態生理学的に関連している可能性を示している。我々の過去の研究で、糖尿病あるいはガラクトース誘導白内障のラットの水晶体において、PRDX6mRNAおよびPRDX6蛋白の発現が低下することを明らかにした[Kubo et al., Diabetologia. 48(2005), pp.790-798 / Kubo et al., Biochem Biophys Res Commun. 314(2004), pp.1050-1056]。高血糖症が原因となって、水晶体上皮細胞(LEC)における上記タンパク質が減少し、続いて、LECはアポトーシスとなる[Kubo et al., Diabetologia. 48(2005), pp.790-798 / Kubo et al., 2004, 上記参照]。本発明者らは、高血糖状態下で、PRDXが、周皮細胞の中の過酸化水素を除去する、あるいはROSを捕える能力があり、それにより、高血糖症誘発の周皮細胞の減少から細胞を守ることができるという仮説を立てた。
【0005】
さらに、網膜色素上皮細胞(RPE)の酸化ダメージが、AMDの重要な特徴の内いくつかの一因になっている可能性があるという上記仮説を裏付ける研究が複数存在する[Voloboueva et al., FASEB J. 21(14) (2007), pp.4077-4086 / Justilien et al., Invest Ophthalmol Vis Sci. 48(10) (2007), pp.4407-4420]。しかし、網膜症あるいは黄斑変性症の予防あるいは治療におけるPRDX5あるいはPEDX6の有効性については明らかにされていなかった。
【0006】
よって、本発明の目的は、網膜症あるいはAMDの予防あるいは治療に有効な新薬、および、網膜症あるいはAMDの予防あるいは治療法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
遺伝子・タンパク質の送達法の進歩、および、複数のタンパク質形質導入領域(PTD)の同定により、細胞あるいは器官へのタンパク質の移行が可能になった[Frankel and Pabo, Cell. 55(1988), pp.1189-1193 / Green and Loewenstein, Cell. 55(1988), pp.1179-1188]。HIVトランス活性化形質導入(TAT)領域には、11個のアミノ酸(aa; YGRKKRRQRRR(SEQ ID No:1))があり、細胞膜と血液脳関門にわたってタンパク質が細胞内輸送されている可能性は100%である[Becker-Hapak et al., Methods. 24(2001), pp.247-256 / Kubo et al., 2008, Am J Physiol Cell. 294(2008), C842-C855 / Mann and Frankel, Embo J. 10(1991), pp.1733-1739 / Nagahara et al., Nat Med. 4(1998), pp.1449-1452 / Rusnati et al., J Biol Chem.272(1997), pp.11313-11320]。本発明者らは、TATと連結するこの組み換えPRDX6蛋白が、LECの中に内在化し、生物活性のある状態であることを、過去に証明している[Kubo et al., 2008, 上記参照]。TAT領域が細胞内に移行することのできる能力を利用して、本発明では、TAT連結組み換えPRDX5蛋白およびTAT連結組み換えPRDX6蛋白を使用し、高グルコース誘導の酸化ストレスに対して周皮細胞の保護作用を評価した。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明者らは、ブタ周皮細胞を用いて、高グルコース誘導の細胞死及び酸化ストレスに対する、PRDX5およびPRDX6の効果について検討した。本発明者らは、糖尿病網膜症における周皮細胞減少に対する抗酸化保護効果と、糖尿病の周皮細胞減少におけるPRDX5蛋白およびPRDX6蛋白の有効性についての新情報を提供することを目的とし、さらに、AMDと関連のある網膜色素上皮細胞(RPE)におけるPRDX5蛋白およびPRDX6蛋白の抗酸化保護および有効性についての新情報を提供することも目的とした。
【0009】
本発明者らは、上記分析で明らかになった点を基に、さらに研究を実施し、本発明を完成させた。
【0010】
したがって、本発明は、下記を提供する。
[1]PRDXファミリータンパク質を含む、網膜症または黄斑変性症の予防または治療剤。
[2]網膜症が、糖尿病網膜症である、上記[1]に記載の予防または治療剤。
[3]PRDXファミリータンパク質がPRDX5またはPRDX6である、上記[1]または[2]に記載の予防または治療剤。
[4]PRDXファミリータンパク質がタンパク質形質導入領域(protein transduction domain (PTD))と融合したものである、上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の予防または治療剤。
[5]有効量のPRDXファミリータンパク質を、それを必要とする対象に投与することを含む、網膜症または黄斑変性症の予防または治療方法。
[6]網膜症が、糖尿病網膜症である、上記[5]に記載の予防または治療方法。
[7]PRDXファミリータンパク質がPRDX5またはPRDX6である、上記[5]または[6]に記載の予防または治療方法。
[8]PRDXファミリータンパク質がPTDと融合したものである、上記[5]〜[7]のいずれか1項に記載の予防または治療方法。
[9]網膜症または黄斑変性症の予防または治療剤の製造のための、PRDXファミリータンパク質の使用。
[10]PRDXファミリータンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、網膜症または黄斑変性症の予防または治療剤。
[11]網膜症が、糖尿病網膜症である、上記[10]に記載の予防または治療剤。
[12]PRDXファミリータンパク質がPRDX5またはPRDX6である、上記[10]または[11]に記載の予防または治療剤。
[13]ポリヌクレオチドがPRDXファミリータンパク質とPTDとの融合タンパク質をコードする、上記[10]〜[12]のいずれか1項に記載の予防または治療剤。
[14]ポリヌクレオチドが発現ベクター中に組み込まれている、上記[10]〜[13]のいずれか1項に記載の予防または治療剤。
[15]PRDXファミリータンパク質をコードするポリヌクレオチドの有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、網膜症または黄斑変性症の予防または治療方法。
[16]網膜症が、糖尿病網膜症である、上記[15]に記載の予防または治療方法。
[17]PRDXファミリータンパク質がPRDX5またはPRDX6である、上記[15]または[16]に記載の予防または治療方法。
[18]ポリヌクレオチドがPRDXファミリータンパク質とPTDとの融合タンパク質をコードする、上記[15]〜[17]のいずれか1項に記載の予防または治療方法。
[19]ポリヌクレオチドが発現ベクター中に組込まれている、上記[15]〜[18]のいずれか1項に記載の予防または治療方法。
[20]網膜症または黄斑変性症の予防または治療剤の製造のための、PRDXファミリータンパク質をコードするポリヌクレオチドの使用。
【0011】
本発明の特性および利点は、下記発明の詳細な説明から明確である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】ラットの網膜におけるPRDX5および6の発現量が高いことを示す。 (図1A)7週齢雌、Sprague Dawley(SD)ラット(白色)を用いた。ラットの網膜(n=6)から全RNAを分離し、cDNAに転写した。特定のプライマーを用いて、リアルタイム定量PCRを実施した。各PRDXのmRNA発現量を、グリセルアルデヒド三リン酸デヒドロゲーゼ(GAPDH)のmRNAコピー数に適合させた。結果、PRDX5および6のmRNA発現量が、他のPRDXと比較して、有意に高いということが示された(*p<0.0001)。
【図1B】ラットの網膜におけるPRDX5および6の発現量が高いことを示す。 (図1B)SDラットの網膜(7週齢雌, n=8)からタンパク質を抽出し、抗PRDX1〜6抗体を用いて、プロテインブロットを行った。PRDX6つ全てのプロテインブロットで、ラットの網膜内のPRDX5蛋白およびPRDX6蛋白の含有量がより多いこと、また、PRDX5のタンパク質の発現レベルが、他のPRDXよりも高いことが分かった。上記実験は、4つのサンプルより結果を得た(各サンプルにラット2匹を使用した)(*p<0.0001)。
【図1C】ラットの網膜におけるPRDX5および6の発現量が高いことを示す。 (図1C) ラットの網膜中に、PRDX5、6、α-SMA (α-平滑筋肉アクチン)が免疫組織化学的に局在化していることを示す。7週齢のラットの眼球(n=4)を、4%のパラホルムアルデヒド内で固定した後、パラフィンに埋め込み、切断した。PRDX5、6、およびα-SMAに特異的な抗体を使用して、切片を免疫染色した。PRDX5のポジティブ染色の緑色が観察され(図1C-a)、また、PRDX6のポジティブ染色の緑色が観察された(図1C-b)。α-SMAのポジティブ染色の赤色が血管内に局在していたが、これは、周皮細胞が抗α-SMA抗体を使って可視化されたことを示している(図1C-c)。各パネルにおいて、Hoechst染色核が青色で観察された。
【図2A】培養されたブタ周皮細胞におけるPRDX5mRNAおよびPRDX6mRNAの発現量に対するD-グルコースの影響を示す。 5.5mM(5G)あるいは30mM(30G)レベルのD-グルコースを含む培地中で、6日間および10日間、ブタ周皮細胞を培養した。処理グループ毎に4つの独立サンプル(n=4)を使用した。(図2A)ブタ周皮細胞から全RNAを分離し、cDNAに転写した。特定プライマーを用いてリアルタイムPCRを実施した。各PRDXのmRNA発現量を、リボソームのRNAのmRNAコピー数に適合させた。高グルコース(30G)培地で培養された細胞では、PRDX5mRNA(A: *p<0.005)が、10日目に明らかに減少した。これは、高グルコースが、特に、PRDX5の発現量を変化させたことを示している(AおよびB)。しかし、標準グルコース培地グループ(5G)に比べ、高グルコース培地グループ(30G)では、6日目および10日目に、PRDX6mRNAの発現量に変化が起こらなかった。上記実験は、4つのサンプルより結果を得た。
【図2B】培養されたブタ周皮細胞におけるPRDX5蛋白およびPRDX6蛋白の発現量に対するD-グルコースの影響を示す。 5.5mM(5G)あるいは30mM(30G)レベルのD-グルコースを含む培地中で、6日間および10日間、ブタ周皮細胞を培養した。処理グループ毎に4つの独立サンプル(n=4)を使用した。(図2B)ブタ周皮細胞からタンパク質を抽出し、プロテインブロットに使用した。高グルコース(30G)培地で培養された細胞では、PRDX5蛋白(B:*p<0.05)が、10日目に明らかに減少した。一方、β-アクチンの発現レベルにおいては、何の変化も検出されなかった。これは、高グルコースが、特に、PRDX5の発現量を変化させたことを示している(AおよびB)。上記実験は、4つのサンプルより結果を得た。
【図3】TAT-HA-PRDX5およびTAT-HA-PRDX 6のブタ周皮細胞への細胞内移行を示す。 細胞(2×10個)を60mmプレートに培養し、翌日、培養培地に、5μg/mlの組み換えTAT-HA-PRDX5蛋白、あるいは、組み換えTAT-HA-PRDX6蛋白を加え、24時間後、および48時間後に、TAT-HA-PRDX5あるいはTAT-HA-PRDX 6の細胞内移行を評価した。細胞を洗浄し、タンパク質を抽出し、抗HisG抗体(Invitrogen)を用いて、プロテインブロットを行った。結果、TAT-HA-PRDX5およびTAT-HA-PRDX 6 (レーン:TAT)の細胞内への形質導入が明らかになった。一方、フラグタグ(HA)のついた(HA)-PRDX5および(HA)-PRDX 6のみ、細胞の中に内在化することができなかった(レーン:NC)。各アッセイについて4種のサンプルを使用し、3回実験を施行した。
【図4】ブタ周皮細胞の細胞生存率に対する、PRDX5処理の効果を示す。 96ウェルプレートに、10μg/mlのTAT-HA-PRDX5、あるいは、ウシ血清アルブミンを補った5.5mM(5G), 30mM(30G), あるいは50mM(50G)のD-グルコースを含む培地で、6日間および10日間、細胞を培養した。6日後あるいは10日後、細胞の生存率をMTS比色法で評価した。PRDX5を加えることで、培養6日後、10日後での高グルコース(30Gおよび50G)培地での細胞の増殖抑制が有意に保護された。高浸透圧状態(30M:5.5mMのグルコース + 24.5mMのマンニトール、50M:5.5mMのグルコース + 44.5mMのマンニトール)では、標準グループ(5G)と比較して、細胞の生存能力に有意な変化はなかった。*p<0.003 / **p<0.01 / ***p<0.001 /****p<0.0005。上記実験は、4つのサンプルより結果を得た。
【図5】ブタ周皮細胞における高グルコース誘導のアポトーシスに対するPRDX5あるいはPRDX 6処理の効果を示す。 10μg/mlの、TAT-HA-PRDX5、あるいは、TAT-HA-PRDX6、あるいは、コントロールとしてウシ血清アルブミンを補った、5.5mM(5G)、 30mM(30G)、 あるいは50mM(50G)のD-グルコースを含む培地で、6日間および10日間、細胞を培養した。6日後あるいは10日後、アポトーシス細胞死の評価を、TUNELアッセイを用いて行った。高グルコース培養6日後では、高グルコース(50G)培地グループで、TUNEL陽性細胞の割合が有意に増加した。高グルコース培養10日後では、高グルコース(30Gおよび50G)培地グループで、TUNEL陽性細胞の割合が有意に増加した。PRDX5あるいはPRDX 6を加えることで、高グルコースにさらされた周皮細胞のアポトーシス細胞死が有意に抑制された。*p<0.0004;**p<0.00001;***p<0.0007。上記実験は、4つのサンプルより結果を得た。
【図6】高グルコースにさらされたブタ周皮細胞における酸化ストレス誘導のDNAダメージに対するPRDX5あるいはPRDX6処理の効果を示している。 10μg/mlのTAT-HA-PRDX5あるいはウシ血清アルブミンを補った5.5mM(5G)、30mM(30G)のD-グルコースを含む培地で、10日間細胞を培養した。高グルコース培養10日後、8-OHdGの免疫学的局在確認で、酸化ストレス誘発のDNAダメージを評価した。10日後、コントロール(5G)と比較すると、8-OHdG陽性周皮細胞(矢印で表示)は有意に増加した。PRDX5あるいはPRDX6を加えることで、高グルコースにさらされた周皮細胞の酸化ストレス誘発のDNAダメージは有意に抑制された。*p<0.00001。上記実験は、4つのサンプルより結果を得た。
【図7】H2O2誘発の酸化ストレス下でのRPE細胞の生存率に対する、PRDX5およびPRDX6の効果を示している。PRDX5および6は、200μMのH2O2における培養RPEの細胞死に対する抑制効果を示した。
【図8】ヒト培養RPEにおけるPRDXの発現量を示す。RPEでは、PRDX5およびPRDX6の発現量が相対的に高かった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(発明の詳細な説明)
本発明は、PRDXファミリータンパク質を含む、網膜症あるいは黄斑変性症の予防または治療剤を提供する。
【0014】
本発明のPRDXファミリータンパク質は、過酸化水素および有機過酸化物を減少および除去する、そして酸化ストレスから細胞を保護する機能を有し、さまざまな生物の中に見つけることが可能なペルオキシダーゼである。PRDXファミリータンパク質の6つのアイソフォーム、チオレドキシン依存型PRDX1、2、3、4、5、およびチオレドキシン非依存型PRDX6が同定されている。触媒作用に関与するシステイン残基の数および位置を基に、PRDXファミリータンパク質は、2つの下位群、2-Cys PRDXと1-Cys PRDXに分類される。本発明のPRDXファミリータンパク質には、PRDX1、2、3、4、5、6が含まれているが、PRDX5あるいはPRDX6であることが好ましい。
【0015】
PRDX5は、SEQ ID NO:3で示されるアミノ酸配列と同じ、あるいは、実質的に同じアミノ酸配列を含むタンパク質である。これは、いかなる生物のいかなる細胞あるいは組織から得られたタンパク質であってもよいが、その生物は、好ましくは、動物、さらに好ましくは哺乳類である。哺乳類の例として、ヒト、チンパンジー、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌなどが挙げられるが、ヒトが最も好ましい。PRDX5は、化学的に合成されたタンパク質、あるいは、無細胞翻訳系を使って合成したタンパク質であってもよい。あるいは、本タンパク質は、上記のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドが導入されている形質転換細胞から作られた組み換えタンパク質でもよい。
【0016】
SEQ ID NO:3で示されるアミノ酸配列と実質的に同じアミノ酸配列として、SEQ ID NO:3で示されるアミノ酸配列に対して、約80%以上の相同性があるもの、好ましくは、約85%以上の相同性があるもの、さらに好ましくは、約90%以上の相同性があるもの、とりわけ好ましくは約95%以上の相同性があるもの、最も好ましくは約98%以上の相同性があるものなどが挙げられる。ここでいう「相同性」とは、関連技術分野で知られている数学アルゴリズムを使って、2つのアミノ酸配列が整列している最適アラインメントの中で、重複するアミノ酸残基全てに対する同一あるいは類似のアミノ酸残基の割合(%)という意味である(上記アルゴリズムは、最適アラインメントのために、配列の片方、あるいは、両方の配列に、ギャップが導入されうるようなアルゴリズムが好ましい)。「類似のアミノ酸」とは、類似の物理化学的特性を有しているアミノ酸という意味で、例えば、芳香族アミノ酸(Phe, Trp, Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala, Leu, Ile, Val)、極性アミノ酸(Gln, Asn)、塩基性アミノ酸(Lys, Arg, His)、酸性アミノ酸(Glu, Asp)、ヒドロキシル基をもつアミノ酸(Ser, Thr)、小さな側鎖をもつアミノ酸(Gly, Ala, Ser, Thr, Met)といった同グループに分類されるアミノ酸が挙げられる。上記の類似のアミノ酸の置換には、タンパク質の表現型を変化をさせないことが求められる(すなわち、保存的アミノ酸置換)。関連技術分野では、保存的アミノ酸置換の具体例が知られており、さまざま文献に記述されている[例として、Bowie et al. Science, 247(1990), pp.1306-1310)を参照]。
【0017】
SEQ ID NO:3で示されるアミノ酸配列と実質的に同じアミノ酸配列を含むタンパク質の好ましい例として、上記SEQ ID NO:3で示されるアミノ酸配列と実質的に同じアミノ酸配列を含み、SEQ ID NO:3で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質と実質的に同じ性質の活性を有するタンパク質などが挙げられる。「実質的に同じ性質」とは、定性的に(例:生理学的に、あるいは、薬理学的に)、そのタンパク質が互いに同等であるという意味である。よって、抗酸化活性の点で、タンパク質が互いに同等であることが好ましい(例えば、約0.01〜100倍、好ましくは、約0.1〜10倍、さらに好ましくは、約0.5倍〜2倍)。しかし、例えば、上記活性の程度、タンパク質分子量のような定量的要素が異なっていてもよい。PRDX5の例として、GenBank Accession Nos.NP_036226.1、および、NP_857635.1に開示されているヒトPRDX5変異体がある。
【0018】
タンパク質をコードするDNAを含む形質転換細胞を培養し、得られた培養物から自体公知のタンパク質精製法でタンパク質を分離・精製することで、PRDX5を生成することができる。具体的には、形質転換細胞をホモジナイズし、例えば、逆相クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、親和性クロマトグラフィなどのクロマトグラフィにより可溶性画分および/または核画分を分離および精製することにより、PRDX5を生成することができる。
【0019】
もう1つの好ましいPRDXファミリータンパク質、PRDX6は、他のPRDXファミリータンパク質とは異なり、チオレドキシンに依拠することなく酸化還元反応を触媒することが知られている。ペルオキシダーゼ活性に加えて、PRDX6はホスホリパーゼA2活性も有し、ROS主導の酸化ストレス、あるいは脂質過酸化反応を介しての、細胞膜、DNA、タンパク質のダメージから細胞を保護する。PRDX6は、SEQ ID NO:5で示されるアミノ酸配列と同じ、あるいは、実質的に同じアミノ酸配列を含むタンパク質である。これは、いかなる生物のいかなる細胞あるいは組織から得られたタンパク質であってもよいが、その生物は、好ましくは、動物、さらに好ましくは哺乳類である。哺乳類の例として、ヒト、チンパンジー、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌなどが挙げられるが、ヒトが最も好ましい。PRDX6は、化学的に合成されたタンパク質、あるいは、無細胞翻訳系を使って合成したタンパク質であってもよい。あるいは、本タンパク質は、上記のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドが導入されている形質転換細胞から作られた組み換えタンパク質でもよい。
【0020】
SEQ ID NO:5で示されるアミノ酸配列と実質的に同じアミノ酸配列として、SEQ ID NO:5で示されるアミノ酸配列に対して、約80%以上の相同性があるもの、好ましくは、約85%以上の相同性があるもの、さらに好ましくは、約90%以上の相同性があるもの、とりわけ好ましくは約95%以上の相同性があるもの、最も好ましくは約98%以上の相同性があるものなどが挙げられる。「相同性」の意味については、上記の通りである。
【0021】
SEQ ID NO:5で示されるアミノ酸配列と実質的に同じアミノ酸配列を含むタンパク質の好ましい例として、上記SEQ ID NO:5で示されるアミノ酸配列と実質的に同じアミノ酸配列を含み、SEQ ID NO:5で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質と実質的に同じ性質の活性を有するタンパク質などが挙げられる。「実質的に同じ性質」の意味は、上記の通りである。PRDX6は、上記PRDX5で記述した方法に従って、同様に生成することが可能である。
【0022】
本発明の予防あるいは治療剤は、網膜症および/または黄斑変性症に対して効果がある。網膜症には、例えば、糖尿病網膜症、未熟児網膜症、高血圧性網膜症があるが、本発明の予防あるいは治療剤は、特に、糖尿病網膜症に効果的である。
【0023】
本発明のPRDXファミリータンパク質は、PRDXファミリータンパク質がPTD(タンパク質形質導入領域)に融合した融合タンパク質であってもよい。このPTDは、融合タンパク質を身体中の全組織細胞へ移行促進することで知られている。上記融合タンパク質(PTD-PRDXファミリータンパク質)が、細胞膜構造を通過し、細胞に送達され、好ましくは、塩基性アミノ酸残基アルギニンおよび/またはリジンを含む、例えば5〜50個のアミノ酸、好ましくは、7〜40個のアミノ酸、さらに好ましくは、9〜35個のアミノ酸の長さの領域であり得る限り、PTDは限定されない。PTDの例として、HIV由来のTAT領域(SEQ ID NO:1)とRev領域、単純疱疹ウイルス由来のVP22領域、ショウジョウバエ由来のアンテナぺディアタンパク質などがあるが、TAT領域が最も好ましい。
【0024】
PTDは、PTD-PRDX融合タンパク質の中のPRDXファミリータンパク質のN-末端、C-末端、あるいは両末端で融合することができる。PTDが、両末端で融合される場合は、同じPTDでもよいし、異なるPTDでもよい。融合タンパク質は、当該技術分野で知られている方法で得ることができる。例えば、DNA組み換え技術を使って、PRDXファミリータンパク質とPTDをコードする融合遺伝子をもつ形質転換細胞を生成し、その形質転換細胞を培養し、その後、自体公知の方法で、その培養物から標的タンパク質を分離・精製する方法がある。
【0025】
本発明は、また、PRDXファミリータンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、網膜症あるいは黄斑変性症の予防あるいは治療剤も提供する。上記ポリヌクレオチドは、DNA、RNA、あるいはそのキメラでよいが、DNAが好ましい。PRDXファミリータンパク質をコードする上記ヌクレオチドは、PRDX5あるいはPRDX6をコードするポリヌクレオチドが好ましい。
【0026】
PRDX5をコードするポリヌクレオチドとしては、いかなる生物、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳類(例:ヒト、チンパンジー、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌなどが挙げられるが、ヒトが一番好ましい)のいかなる細胞あるいは組織由来のゲノムDNAあるいはcDNA、合成DNAなどが挙げられる。上記DNAは、上記の細胞あるいは組織から調製された全RNAあるいはmRNA画分を用いて、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(以下、省略して「RT-PCR法」という)により、直接、増幅することもできる。
【0027】
PRDX5をコードするポリヌクレオチドの例としては、SEQ ID NO:2で示されるヌクレオチド配列を含むDNA、SEQ ID NO:2で示されるヌクレオチド配列に対して、高ストリンジェント条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を含み、SEQ ID NO:3で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質と実質的に同じ性質の活性(例:抗酸化活性など)をもつ前述のタンパク質をコードするDNAなどが挙げられる。
【0028】
高ストリンジェント条件下で、SEQ ID NO:2で示されるヌクレオチド配列に対してハイブリダイズする能力を持つDNAとして、例えば、SEQ ID NO:2で示されるヌクレオチド配列に対して、約80%以上の相同性、好ましくは、約85%以上、さらに好ましくは、約90%以上、最も好ましくは、約95%以上の相同性を示すヌクレオチド配列を含むDNAがある。
【0029】
ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法、あるいはその方法を基にした方法に従って実施することが可能である。例えば、Molecular Cloning 第2版(1989)[J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press] に記述されている方法などがある。市販のライブラリーを使用する場合は、それに添付されている指示マニュアルに記されている方法に従ってハイブリダイゼーションを行うことができる。ハイブリダイゼーションは、高ストリンジェント条件下で行うことが好ましい。
【0030】
高ストリンジェント条件とは、例えば、ナトリウム濃度が約19〜40mM、好ましくは約19〜20mMで、温度が約50〜70℃、好ましくは、約60〜65℃を含む条件をいう。とりわけ、ナトリウム濃度が約19mMで、温度が約65℃である状態が好ましい。
【0031】
PRDX5をコードするポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:2で示されるヌクレオチド配列を含むDNAなどが好ましい。
【0032】
PRDX6をコードするポリヌクレオチドとしては、いかなる生物、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳類(上記例示)のいかなる細胞あるいは組織由来のゲノムDNAあるいはcDNA、合成DNAなどが挙げられる。上記DNAは、また、上記の細胞あるいは組織から調製した全RNAあるいはmRNA画分を用いて、RT-PCR法により直接に増幅することもできる。
【0033】
PRDX6をコードするポリヌクレオチドの例として、SEQ ID NO:4で示されるヌクレオチド配列を含むDNAや、高ストリンジェント条件下でSEQ ID NO:4で示されるヌクレオチド配列に対してハイブリダイズするヌクレオチド配列を含み、SEQ ID NO:5で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質と実質的に同じ性質の活性(例:抗酸化活性など)をもつ前述のタンパク質をコードするDNAなどが挙げられる。
【0034】
高ストリンジェント条件下で、SEQ ID NO:4で示されるヌクレオチド配列に対してハイブリダイズ可能なDNAには、例えば、SEQ ID NO:4で示されるヌクレオチド配列に対して、約80%以上の相同性、好ましくは、約85%以上、さらに好ましくは、約90%以上、最も好ましくは、約95%以上の相同性を示すヌクレオチド配列を含むDNAなどが使われる。ハイブリダイゼーションは、上記の方法に従って行うことが可能である。
【0035】
PRDX6をコードするポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:4で示されるヌクレオチド配列を含むDNAなどが好ましい。
【0036】
本発明のポリヌクレオチドは、PRDXファミリータンパク質およびPTDを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドでもよい。PTDをコードするヌクレオチド配列に特別な制限はなく、例えば、上記TAT領域、Rev領域、VP2領域、あるいはアンテナペディアタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列が含まれる。PTDをコードするヌクレオチド配列は、TAT領域をコードするヌクレオチド配列であることが好ましく、SEQ ID NO:6で示されるヌクレオチド配列と同じ、あるいは、実質的に同じヌクレオチド配列が例示されうる。SEQ ID NO:6で示されるヌクレオチド配列と実質的に同じヌクレオチド配列とは、SEQ ID NO:6のヌクレオチド配列に対して、1つ以上のヌクレオチドが欠失、または、置換、または、挿入、または、付加されたヌクレオチド配列である。欠失または、置換、または、挿入、または、付加されるヌクレオチドの数については、ヌクレオチド配列によってコードされるPTDで促進されるタンパク質移行活性が失われない限り、特に制限はないが、例えば、1個〜約15個であればよく、好ましくは、1個〜約8個、さらに好ましくは、1個〜約5個、そして、3個、2個、あるいは1個が最も好ましい。
【0037】
例えば、市販のDNA/RNAシンセサイザー(Applied Biosystems, Beckmanなど)を使用する、あるいは、PRDXファミリータンパク質をコードするポリヌクレオチドを、PRDXを発現している細胞や組織から単離するといった自体公知の方法で、ヌクレオチド配列の全長を合成することによって、本発明のポリヌクレオチドを得ることができる。
【0038】
本発明は、また、操作可能な形でプロモーターに連結された上記ポリヌクレオチドが中に挿入されている発現ベクターも提供する。「操作可能な形でプロモーターに連結された」とは、プロモーターによってポリヌクレオチドが転写されるように、ポリヌクレオチドがプロモーターに連結しているという意味である。
【0039】
本発明の発現ベクターのバックボーンには、ウイルスベクター、プラスミドベクターが含まれ、好ましいのはウイルスベクターだが、本発明のポリペプチドが与えられた宿主の中で発現しているならば、限定されない。ウイルスベクターには、例えば、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、ポリオウイルスベクター、シンドビスウイルスベクター、センダイウイルスベクターがある。
【0040】
上記プロモーターは、本発明のポリヌクレオチドが導入される特定の細胞の中で機能できるプロモーターであればよい。また、上記プロモーターには、SRαプロモーター、SV40早期プロモーター、CMV即時型初期プロモーター、RSVプロモーター、MoMuLVプロモーターといったウイルスプロモーター、ならびに、βアクチンプロモーター、PGKプロモーター、トランスフェリンプロモーターといった哺乳類構成プロモーターが含まれていてもよい。
【0041】
本発明の発現ベクターは、転写の開始あるいは終結位置、翻訳に必要な転写領域におけるリボソーム結合位置、WPREのような転写後の調節因子、ポリアデニル化配列、複製起点、そして、薬物耐性遺伝子のような選択可能なマーカー遺伝子といった因子をさらに含んでいてもよい。
【0042】
網膜症あるいはAMDを予防あるいは治療する本発明の薬剤には、有効量のPRDXファミリータンパク質、あるいは、PRDXをコードするポリヌクレオチドが含まれており、上記予防あるいは治療薬を必要とする対象に投与してもよい。
【0043】
好ましい実施形態では、上記対象は、哺乳類、好ましくは、網膜症あるいはAMDを患うヒトである。PRDXファミリータンパク質、あるいは、PRDXをコードするポリヌクレオチドは、薬剤を生成するのに必要な、薬理学的に容認できる担体と混合され、上記対象に投与される。
【0044】
ここでいう薬理学的に容認できる担体の例として、従来、医薬製剤材料として使用されている種々の有機あるいは無機の担体物質が挙げられる。また、これらは、固形製剤で賦形剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤として、液体製剤で溶剤、可溶化剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、緩和剤としてなどとして処方される。また、必要に応じて、防腐剤、酸化防止剤、着色剤などのような医薬品添加物を使用することができる。
【0045】
適した賦形剤の例として、ラクトース、サッカロース、D-マンニトール、D-ソルビール、デンプン、ゼラチン化デンプン、デキストリン、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム、プルラン、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0046】
適した潤滑剤の例として、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイド状シリカなどが挙げられる。
【0047】
適した結合剤の例として、ゼラチン化デンプン、スクロース、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、サッカロース、D-マンニトール、トレハロース、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0048】
適した崩壊剤の例として、ラクトース、サッカロース、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルシウムカルボキシメチルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルデンプンナトリウム、軽質無水ケイ酸、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。
【0049】
適した溶剤の例として、注射用水、生理的食塩水、リンガー溶液、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ゴマ油、コーン油、オリーブ油、綿実油などが挙げられる。
【0050】
適した可溶化剤の例として、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0051】
適した懸濁化剤の例として、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンといった界面活性剤、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースといった親水性ポリマー、そして、ポリソルベート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。
【0052】
適した等張化剤の例として、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール、D-ソルビール、グルコースなどが挙げられる。
【0053】
適した緩衝剤の例として、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。
【0054】
適した緩和剤の例として、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0055】
適した防腐剤の例として、パラオキシベンゾエート、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。
【0056】
適した酸化防止剤の例として、硫化物、アルコルビン酸塩などが挙げられる。
【0057】
適した着色剤の例として、水溶性の食品タール色素(例:赤色2号、3号、黄色4号、5号、青色1号、2号といった食品色素)、非水溶性レーキ顔料(例:前述の水溶性食品タール色素のアルミニウム塩など)、天然色素(例:β-カロチン、クロロフィル、赤色酸化鉄など)等が挙げられる。
【0058】
本発明の薬剤は、上記対象に適するように、経口あるいは非経口で、投与可能である。前述の薬剤の投薬形態の例として、錠剤、カプセル(ソフトカプセルとマイクロカプセルを含む)、顆粒、粉末薬、シロップ、乳剤および懸濁液といった経口処方、目薬、眼軟膏、注射剤(例:皮下注射、静脈注射、筋肉注射、腹腔内注射など)といった非経口処方、外用処方(例:点鼻剤、経皮製剤など)、丸薬、徐放性製剤(例:徐放性マイクロカプセルなど)等がある。
【0059】
上記薬剤は、医薬品製造分野で従来使用されている方法、例えば、日本薬局方に記述されている方法などで製造可能である。上記薬剤における本発明のタンパク質あるいはポリヌクレオチドの含有量は、投薬形態、上記化合物の投与量などにより、例えば、約0.001〜100重量%と変化する。
【0060】
本発明の上記薬剤の投与形態が注射剤あるいは目薬である場合、水性溶媒(例:蒸留水、生理的食塩水、リンガー溶液など)、油性溶剤(例:オリーブ油、ゴマ油、綿実油・コーン油などの植物油、プロピレングリコールなど)等の中で、分散剤(例:ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.)、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなど)、防腐剤(例:メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェノールなど)、等張化剤(例:塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール、D-ソルビトール、グルコースなど)等とともに、活性成分を溶解、懸濁、あるいは乳化することで製造可能である。この時、必要に応じて、例えば、可溶化剤(例:サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなど)、安定化剤(ヒト血清アルブミンなど)、緩和剤(ベンジルアルコールなど)等の添加剤も使用してよい。
【0061】
本発明のタンパク質あるいはポリヌクレオチドの投与量は、投与対象、投薬形態などにより変化する。網膜症あるいはAMDに罹患している成人(体重60kg)では、上記投与量は、例えば、1日あたり、約0.1〜1000mg、好ましくは、約1.0〜100mg、さらに好ましくは、約10〜50mgである。
【0062】
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に下文に記述するが、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
実験手順
(1)動物と培養
すべての動物実験は日本の福井大学動物実験委員会により容認されており、アメリカ国立衛生研究所の実験動物の管理と使用に関する指針と福井大学の動物実験の適正な実施に向けたガイドラインに従って実施された。
【0064】
地元の動物販売業(日本クレア株式会社、日本、大阪)から入手した、4週齢と7週齢のSprague-Dawleyラット(白色)を使用した。PRDX1〜6の発現量を測定するために、7週齢のラット(雌)を、リアルタイムPCR(n=8)、プロテインブロット(n=8)、免疫組織化学(n=6)に使用した。
【0065】
4週齢のラット(雌、n=8)を一晩絶食させた後、0.05mMのクエン酸緩衝剤(pH4.5)に、体重1kgあたり80mgのストレプトゾトシン(STZ)(Sigma, St. Louis, MO, USA)を含む腹腔内注射を1回打ち、糖尿病ラットを誘発した(Rakieten N et al, 1963, Cancer Chemother Rep. 29, 91-98)。正常の対照動物として、4週齢のラット(雌、n=8)を使用した。この対照ラットとSTZを注射したラットには、31週間、タンパク質25%(w/w)、炭水化物53%、脂質6%、水分8%から成る通常の餌(オリエンタル酵母工業株式会社、日本、大阪)へ自由にアクセスできる状況が与えられた。STZ注射後4週間で、全てのラットの血糖値が600mg/ml (33.4mmol/l)を超えた。STZ注射後31週間で、35週齢になったラットをSTZラットとして実験に使用した。他の35週齢ラットはコントロールとして使用した。
【0066】
既報により、ブタの網膜微小血管から網膜毛細血管周皮細胞の初代培養細胞を単離した[Gitlin and D’Amore, Microvasc Res. 26(1983), pp.74-80]。簡潔に述べると、地元の食肉処理場からブタの眼球を入手し、網膜を単離し、Dulbecco's Modified Eagle's medium(DMEM)(Invitrogen, Carlsbad, CA)の中でホモジナイズした。そのホモジネートを、100μmのナイロン製細胞濾過器(Beckton Dickinson, Bedford, MA)で濾過した。トラップされた微小血管を、コラゲナーゼおよびデオキシリボヌクレアーゼ(Sigma)を含むリン酸緩衝食塩水(PBS:pH7.4)の中で、20分間、37℃で消化し、70μmのナイロン製細胞濾過器(Beckton Dickinson)で濾過し、25cm2の組織培養フラスコ(Nalge Nunc, Rochester, NY)の中に細胞を撒いた。ウシ胎仔血清(FBS)(Sigma, St. Louis, MO)を15%、抗真菌性抗生物質(ペニシリンGナトリウム、硫酸ストレプトマイシン、アンホテリシンB)(Sigma)を1%補ったDMEMで、細胞を培養した。培養物内の網膜周皮細胞は、α-SMA抗原が陽性染色、第VIII因子関連抗原(Sigma)が陰性染色によって、同定した。この三代〜六代継代後の細胞を実験に使用した。
【0067】
周皮細胞は、15%のFBSと抗生剤(100μg/mlのストレプトマイシン、100U/mlのペニシリン)を補ったDMEMの中で、37℃、6%CO2濃度で培養された。高グルコース培養後、PRDX5およびPRDX6の発現をモニターするために、5%FBS培地を補った5.5mM(5G)のD-グルコース、あるいは、30mMあるいは50mM(30Gあるいは50G)のD-グルコース(Sigma)を含むDMEMで、ブタの周皮細胞が培養された。浸透圧調節のため、24.5mMあるいは44.5mM(30Mあるいは50M)のマンニトール(Sigma)を含む5.5.mMのD-グルコース培地でブタ周皮細胞を培養した。TAT-HA-PRDX5およびTAT-HA-PRDX 6の形質導入のため、細胞を6ウェルプレートで一晩成長させ、その後、10μg/mLのTAT-HA-PRDX5蛋白およびTAT-HA-PRDX 6蛋白を、上記培養培地に加えた。24時間の培養後、細胞を洗浄し、0時間あるいは24時間さらに培養し、細胞抽出物の準備のため、その細胞を採取した。各アッセイについて4種のサンプルを使用し、3回実験を施行した。
【0068】
(2)PRDX5および6の原核生物発現
PRDX6特異的センスプライマー(Ncolサイトを含む5’GTCGCCATGGCCGGAGGTCTGCTTC-3’ (SEQ ID NO:7))とアンチセンスプライマー(5’AATTGGCAGCTGACATCCTCTGGCTC-3’(SEQ ID NO:8))、そして、PRDX5特異的センスプライマー(Kpnlサイトを含む5’GCTGGTACCATGGCCCCAATCAAGGTGGGA-3’(SEQ ID NO:9))、とアンチセンスプライマー(5’TAGAATTCAGAGCTGTGAGATGATATTGG-3’ (SEQ ID NO:10))を用いて、PRDX5あるいはPRDX 6のオープンリーディングフレームをコードするcDNAを、ヒトLECのcDNAライブラリーから単離した[Fatma et al. 2001, 上記参照]。本発明者らの過去の研究論文[Kubo et al., 2008, 上記参照]に述べられているように、pTAT-HA(ヘマグルチニンのタグが付いた)発現ベクターの中の、N末端の6xHis-TATタンパク質形質導入領域の配列の下流にインフレームで、PRDX5あるいはPRDX 6のオープンリーディングフレームをコードするcDNAをサブクローンした。TAT-HA-PRDX6の構造体を準備するために、本発明者らは、Dowdy他の方法[Schwarze and Dowdy, Trends Pharmacol Sci. 21(2000), pp.45-48 / Vocero-Akbani et al., Methods Enzymol. 322(2000), pp.508-521]に従った。TAT-HA-PRDX5融合蛋白およびTAT-HA-PRDX6融合蛋白の発現および精製法については、本発明者らの過去の研究論文[Kubo et al., 2008, 上記参照]の記述に従った。
【0069】
(3)リアルタイムPT-PCR
ラットの網膜内のPRDX1〜6のレベルをモニターするために、シングルステップのグアニジン・チオアシン酸塩・フェノール・クロロホルム抽出方法(Trizol Reagent, Invitrogen)を用いて、6匹のラットから全RNAを分離し、Ready-To-Go You-Prime First-Strand Beads (Amersham Biosciences, Piscataway, NJ) を用いてcDNAに転換した。ブタ周皮細胞の中のPRDX5およびPRDX6のレベルをモニターするために、Rneasy(登録商標)Mini Kit (Qiagen Inc., Turnberry Lane, Valencia) を用いて、全RNAを分離し、Ready-To-Go You-Prime First-Strand Beads (Amersham) を用いて、cDNAに転換した。ブタのPRDX5および6の発現パターンを検証するために、Prism7000 (Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて、mRNAの相対定量を行った。PCR増幅は、TaqMan Universal Master Mix (Applied Biosystems)を用いて行った。比較Ct法を使って、ラットあるいはブタのPRDX1〜6のmRNAの相対定量を得て、内因性コントロールとして、開発前のTaqMan検定用試薬ヒトリボソームRNA(Applied Biosystems)を用いて、規準化した。
【0070】
各グループで、ターゲット遺伝子のCt値を、内因性コントロールとして使用されるリボソームRNAのレベルに規準化した。各遺伝子の△Ctを、前述のように計算した[Kubo et al., 2005, 上記参照)。各アッセイについて各グループで4種のサンプルを使用し、3回実験を施行した。
【0071】
(4)ウェスタンブロット分析
前述のように[Kubo et al., Histochem Cell Biol. 119(2003), pp.289-299]、氷冷した放射免疫沈降用緩衝液の中に、ラットの網膜組織、あるいは、ブタの網膜周皮細胞のタンパク質溶解物を準備した。10〜20%のSDS-PAGE勾配ゲルに、20マイクログラムのタンパク質を添加して電気泳動し、PVDF膜に転写した(BioRad Laboratories, Hercules, CA)。上記膜を5%のミルクでブロックし、抗PRDX1〜6のモノクローナル抗体(LabFrontier, Seoul, Korea)(希釈度1:3000)とともに、4℃で一晩インキュベートした。上記膜を洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(希釈度 1:2000 / Santa Cruz Biotechnology Inc., Santa Cruz, CA)で標識した抗マウスIgGとともにインキュベートし、高感度化学発光法により、そのメーカーの手順(Santa Cruz Biotechnology)に従って、可視化を行った。組み換えPRDX5蛋白および組み換えPRDX6蛋白に吸収させた抗体と同じ希釈物を、陰性対照として使用した。各レーンに等量のタンパク質が添加されていることを示すために、抗ウサギβアクチン抗体(Sigma)を使用した。本発明者らは、LAS-3000mini(富士フィルム, 日本、東京)を使用した。これは、ウェスタンブロットのあらゆる実験における化学発光アプリケーション専用の画像解析システムである。取り込まれた画像密度(pixels)は、Science Lab Software(富士フィルム)およびMultigauge software(富士フィルム)を用いて分析し、対照サンプルに対する相対濃度は、Multigauge software(富士フィルム)を用いて計算した。各プロテインブロットアッセイについて3回実験を施行し、それぞれのグループごとに、4種のサンプルを使用した。
【0072】
(5)ラット網膜内でのPRDX5およびPRDX6の免疫組織化学的局在
4匹のラットの眼球を、4%パラホルムアルデヒドを含むリン酸塩緩衝食塩水中で固定し、パラフィンに埋め込んで、4μmに切開した。
【0073】
Tyramide Signal Amplification(TSATM)Kit(Molecular Probes Inc., Eugene, OR)を用い、上記メーカーの手順に従って、免疫染色を行った。上記組織切片を、抗PRDX5モノクローナル抗体、あるいは、抗PRDX 6モノクローナル抗体(LabFrontier)(希釈度1:2000)、あるいは、α-平滑筋アクチン(α-SMA)抗体(希釈度1:500)(Sigma)に一晩露出し、次に、1:100に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギIgG(Molecular Probes)の中でインキュベートした。チラミド希釈標準溶液を、上記標本に塗布した。組み換えPRDX5蛋白および組み換えPRDX6蛋白に吸収した抗体と同じ希釈物を、陰性対照として使用した。組み換えHA PRDX6蛋白の生成についての報告はすでにされている[Fatma et al., 2001, 上記参照 / Kubo et al., 2008, 上記参照]。免疫染色に続き、Hoechst溶液(Molecular Probes)を用いて核染色を行った。
【0074】
(6)細胞生存性アッセイとTdT-媒介dUTP-ビオチンニック端末標識(TUNEL)
細胞生存アッセイのため、ブタ周皮細胞を5.5mM、30mM、あるいは50mMのD-グルコース(5G, 30G, あるいは50G)とともに2日間培養し、それから、10μg/mLのPRDX5、あるいは、ウシ血清アルブミンの存在する5.5mM、30mM、あるいは50mMのD-グルコース(5G, 30G, あるいは50G)とともに4日間(6日目)と8日間(10日目)培養した。その後、各グループにおける生存細胞数をモニターするために、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム、内塩(MTS)(Promega, Madison, WI)を用いての細胞増殖アッセイを行った。5.5mMのD-グルコースで培養されたブタ周皮細胞の吸収度を細胞生存100%として、測定を行った。それから、各グループの細胞生存率を計算した。各アッセイについて実験を3回施行し、それぞれのグループごとに、4種のサンプルを使用した。
【0075】
アポトーシス細胞死を評価するため、TUNELアッセイを行った。4-ウェルチェンバースライド(Nalge Nunc International Corp., Naperville, IL)の中で、10μg/mL のTAT-HA-PRDX5組み換え蛋白、あるいは、TAT-HA-PRDX 6組換えタンパクで処理あり、あるいは、処理なしの5.5mM(5G)、30mM(30G)、あるいは50mM(50G)のD-グルコースを含むDMEMあるいはFBS5%の培地で、ブタ周皮細胞を、6日間および10日間培養し、その後、TUNEL染色(ApoAlert DNA fragmentation assay, BD Bioscience)を施行し、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール二塩酸塩 (DAPI)(同仁化学研究所, 日本、熊本)で染色した。各アッセイについて異なるサンプルを使用し、4回実験を施行した。各グループの細胞全数とアポトーシス細胞数を評価した。細胞全数に対するアポトーシス細胞(TUNEL陽性細胞)の比率を、Scion Image softwareを用いて、各グループの各スライドに対して6つの異なるフィールドの中でDAPI染色された核の数から算出した。各アッセイについて実験を、3回施行し、それぞれのグループごとに、4種のサンプルを使用した。
【0076】
本発明者らの未発表の予備データおよび過去の研究[Kubo et al., 2008, 上記参照]で、ヒト培養LECにおけるROSレベルを減少させるには、2.5〜20μg/mLのTAT-HA-PRDX5組み換え蛋白、あるいは、TAT-HA-PRDX 6組み換えタンパクが有効であった。上記データに従い、本発明者らは、今回の研究で、10μg/mLのTAT-HA-PRDX5組み換え蛋白、あるいは、TAT-HA-PRDX 6組み換え蛋白を使用した。
【0077】
(7)8-ヒドロキシ-2’-デオキシグアノシン(8-OHdG)免疫組織化学を用いての酸化ストレス誘発DNAダメージの検出
4-ウェルチェンバースライド(Nalge Nunc)の中で、10μg/mL のTAT-HA-PRDX5組み換え蛋白、あるいは、TAT-HA-PRDX6組み換え蛋白で処理あり、あるいは、処理なしの5.5mM(5G)、あるいは、30mM(30G)のD-グルコースを含むDMEMあるいはFBS5%の培地でで、ブタ周皮細胞を10日間培養した。その後、抗8-OHdG免疫染色を行った。各アッセイについて異なるサンプルを使用し、4回実験を施行した。ウサギとマウスの一次抗体(DAKO, Carpinteria, CA)に対して、DAKO LSABキットを使用し、上記キットの手順に従って、免疫染色を行った。それから、抗8-OHdG単クローン性抗体(JaIKA、日研ザイル株式会社、日本、静岡)(希釈度 1:500)に一晩露出した。3,3-ジアミノベンジジンの0.02%(v/v)溶液(Bio-Rad)を加えることで、抗原抗体反応物を可視化した。各アッセイについて3回実験を施行し、それぞれのグループごとに、4種のサンプルを使用した。
【0078】
(8)統計的分析
上記結果は、平均値±標準偏差で報告した。また、フィッシャー検定とともにANOVAを使って統計的に解析された。
【0079】
(実施例1)
PRDX5および6がラットの網膜において高度に発現
現在の分類では、PRDXは、6つの要素(PRDX1〜6)から構成されている。リアルタイムRT-PCRおよびウェスタンブロット分析を用いた上記全要素についての初回検査で、ラットの網膜内のPRDX5および6の発現量が、他のPRDXの要素(PRDX1〜4)の発現量よりも高いことが明らかになった(図1Aおよび図1B)。上記結果を基に、本発明者らは、ブタ周皮細胞を用いた下記の研究に、PRDX5およびPRDX6を選択した。
【0080】
7週齢のラットの眼球切片におけるPRDX5およびPRDX6の発現および局在分析のため、免疫組織化学を行った。網膜の全層の細胞質にPRDX5およびPRDX6が発現した。(PRDX5:図1C-a / PRDX6:図1C-b)。ラット網膜血管の周皮細胞には、α-SMAが発現し(図1C-c)、ラット網膜の周皮細胞には、PRDX5およびPRDX6が、α-SMAと共局在化した(PRDX5:図1C-d / PRDX6:図1C-e)。上記結果は、PRDX5およびPRDX6が、ラット周皮細胞に発現したことを示している。
【0081】
高血糖のPRDX5およびPRDX6の発現への影響を調べるために、本発明者らは、リアルタイムPCRおよびプロテインブロット法を用いて、35週齢のSTZラット、および、年齢をマッチさせた対照ラットにおけるPRDX5蛋白およびPRDX6蛋白のレベルを測定した。35週齢の対照ラットと比較し、35週齢のSTZラットの全網膜で、PRDX5mRNAとPRDX5蛋白およびPRDX6mRNAとPRDX6蛋白の発現量に大きな違いはなかった。
【0082】
(実施例2)
高グルコース負荷のブタ周皮細胞におけるPRDX5および6の発現
本発明者らは、ヒトLECを、酸化ストレスに対してダメージを受けやすい状態におき、標準グルコース(5mM)負荷のヒトLECと比較し、高グルコース負荷のヒトLECにおいて、PRDX6の発現量が減少したことを、過去に示している[Kubo et al., 2004, 上記参照]。よって、本発明者らは、高グルコース負荷のブタ周皮細胞におけるPRDX5蛋白およびPRDX6蛋白の発現レベルを調査した。10日間、高グルコース培地で培養したブタ周皮細胞におけるPRDX5mRNAとPRDX5蛋白の発現量が、標準グルコース培地(5G)で培養されたブタ周皮細胞と比較して、有意に減少していた(図2Aおよび2B)。その一方、10日間、高グルコース培地(30G)、および、標準グルコース培地(5G)で培養したブタ周皮細胞におけるPRDX6mRNAのレベルは減少しなかった(図2Aおよび2B)。
【0083】
(実施例3)
培養されたブタ周皮細胞にTAT-HA-PRDX5融合タンパクおよびTAT-HA-PRDX6融合蛋白の移行が可能であった
ウェスタンブロット分析で、24時間後および48時間後、TAT-HA-PRDX5およびTAT-HA-PRDX 6が、細胞内に形質導入されたことが明らかになった(図3:TAT)。コントロールとして、ヒスタグ(HA)を伴うHA-PRDX6のみ培養培地に加えた時、本発明者らは、いかなるバンドも検出できなかった(図3:NC)。
【0084】
(実施例4)
高グルコース誘発の細胞死に対してTAT-HA-PRDX5がブタ周皮細胞を保護した
細胞生存性分析(MTSアッセイ)により、30mMのD-グルコース(30G)で10日間培養したブタ周皮細胞、および50mMのD-グルコース(50G)で6日間および10日間培養したブタ周皮細胞で、細胞生存が徐々に低下していることが明らかになった(図4)。PRDX5を加えることにより、培養後6日目と10日目で、周皮細胞に対する高グルコース(30Gあるいは50G)の高まる妨害作用を有意に阻止した。高浸透圧状態(30M:5.5mMのグルコース + 24.5mMのマンニトール / 50M: 5.5mMのグルコース + 44.5mMのマンニトール)の細胞生存への影響はなかった(図4)。上記結果は、PRDX5が、その抗酸化特性により、高グルコース誘発の細胞死を防止したことを示している。
【0085】
次に、本発明者らは、TUNELアッセイを用いて、PRDX5および6によって、周皮細胞における高グルコース(30Gおよび50G)誘発のアポトーシス細胞死を防ぐことができるかどうか調べた。図5に見られるように、50mMのD-グルコース(50G)で培養されて6日後のグループ、および、高グルコース(30Gおよび50G)負荷10日後の周皮細胞で、PRDX5およびPRDX6によって、アポトーシス細胞死が有意に抑制された。上記観察結果は、PRDX5およびPRDX6が、その抗酸化特性により高グルコース誘発のアポトーシスに対して、網膜周皮細胞を守る能力があることを示している。
【0086】
(実施例5)
TAT-HA-PRDX5およびTAT-HA-PRDX 6により、高グルコースおよび標準グルコースへの負荷における酸化ストレス誘発のDNAダメージからブタ周皮細胞が保護された
本発明者らは、抗8-OHdG抗体を用いて、PRDX5および6が周皮細胞における酸化ストレス誘発のDNAダメージに対して保護する能力があるかどうかについても調べた。8-OHdGは酸化ストレス誘発DNAダメージのバイオマーカーとして知られている[Morita et al., Curr Neurovasc Res. 2(2005), pp.113-120 / Nishigori et al., Br J Dermatol. 153 Suppl 2(2005), pp.52-56 / Sato et al. Neurology. 64(2005), pp.1081-1083 / Tarng et al., Am J Kidney Dis. 36(2000), pp.934-944]。これは、デオキシグアノシン(dG)がDNAの構成物質の1つであり、酸化すると、8-OHdGに転換するからである。高グルコース(30G)培養10日後、高グルコース(30G)負荷の周皮細胞の中で、8-OHdG陽性周皮細胞が有意に増加したが、PRDX5およびPRDX6により、高グルコース培地における酸化ストレス誘発DNAダメージを有意に抑制した(図6)。
【0087】
(実施例6)
TAT-HA-PRDX5およびTAT-HA-PRDX 6によって過酸化水素誘発の細胞死に対してRPEが保護された
American Tissue Culture Collection(Bethesda, USA)から、成人の網膜色素上皮細胞(ARPE19)を購入した。10%ウシ胎仔血清(Invitrogen, Carlsbad, CA)、100ユニット/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(Sigma)を補ったDulbecco's Modified Eagle's medium/Nutrient Mixture F-12 (DMEM/F12)の中で上記細胞を維持した。上記細胞を37℃、CO25%濃度で加湿された培養器の中で培養した。90%〜95%コンフルエンスに達した細胞は、さらに次の解析を受ける前に、8時間、無血清DMEMの中で、飢餓・同調させた。
【0088】
HIV-1由来トランス活性形質導入(TAT)領域に連結されたさまざまな濃度の組み換えPRDX5蛋白および組み換えPRDX6蛋白(TAT-HA-PRDX5およびTAT-HA-PRDX6)とともに、24時間、培養ヒトRPEをインキュベートした。その後、2時間、上記細胞を200μM〜500μMの過酸化水素(H2O2)で処理した。細胞生存は、MTSアッセイを用いて測定した。過酸化水素処理により、ヒトRPE細胞の生存率が有意に低下した(40〜60%)。図7に示すように、TAT-HA-PRDX5およびTAT-HA-PRDX6により、H2O2誘発のRPE細胞死が有意に阻止された。TAT-HA-PRDX6と比較して、TAT-HA−PRDX5を添加するほうが、H2O2誘発のRPE細胞死に対する効果があった。上記結果は、PRDX5およびPRDX 6を送達させることにより、ヒトRPEにおける酸化ストレスからRPEを保護することができることを示している。
【0089】
PRDX酵素は、サイトゾルにおける高含有量、および、抗酸化防御[Kim et al., J Biol Chem. 275(2000), pp.18266-18270 / Neumann et al., Nature. 424(2003), pp.561-565 / Wood et al., 2003a, 上記参照]、寄生生物薬剤耐性[Sherman et al., Science. 272(1996), pp.1641-1643]、癌[Chung et al., Anticancer Res. 21(2001), pp.1129-1133 / Neuman et al., 2003, 上記参照 / Park et al., Clin Cancer Res. 6(2000), pp.4915-4920]から、H2O2仲介の細胞内シグナル伝達[Choi et al., Nature. 435(2005), pp.347-353 / Vivancos et al., Proc Natl Acad Sci USA. 102(2005),pp.8875-8880]、細胞増殖制御と、多岐にわたる複数の細胞過程に関与していることで、その重要性が明白である。PRDXは、ストレス応答タンパク質として知られている。PRDXの発現は、過酸化水素、グルココルチコイド、紫外線照射で仲介される酸化ストレスによって誘導される[Fatma et al., Cell Death Differ. 12(2005), pp.734-750 / Fatma et al., 2001, 上記参照]。マウスの水晶体および網膜神経節細胞では、PRDX1〜6の内、PRDX6の発現量が最も高い[Fatma et al., Brain Res. 1233(2008), pp.63-78 / Fatma et al., 2005, 上記参照/ Kubo et al., Mech Ageing Dev. 127(2006), pp.249-256]。水晶体では、PRDX5の発現量が、PRDX1〜4よりも高いが、培養された網膜神経節細胞では、PRDX5の発現量が、PRDX1〜6の中で一番低かった[Fatma et al., 2008, 上記参照/ Fatma et al., 2005, 上記参照]。ラットの網膜では、PRDX5および6の遺伝子発現量が、他のPRDX要素の遺伝子発現量よりも高い。PRDX2蛋白も有意に存在するが、本発明者らがPRDX5およびPRDX6を今回の研究で選択したのは、本発明者らの過去の研究[Fatma et al., 2008, 上記参照 / Fatma et al., 2005, 上記参照] で、水晶体および網膜神経節細胞におけるPRDX2の発現量が、PRDX5あるいは6と比較して低かったからである。糖尿病性白内障、血管新生緑内障、糖尿病網膜症を含む糖尿病性眼合併症全てにおけるPRDXの保護能力を研究するために、今回の研究で、本発明者らはPRDX5およびPRDX6を選択した。
【0090】
本研究は、PRDX5およびPRDX6が、高グルコース誘発の酸化的ダメージからの網膜周皮細胞の保護において重要な役割を果たしていることを証明している。PRDX5の発現量が、高グルコース培養のブタ網膜周皮細胞で減少した。このPRDX5の発現量の減少により、ブタ周皮細胞でのROSの生成を誘導するかもしれないが、STZ誘発の糖尿病ラットから得られた網膜組織では、PRDX5の発現量に変化はなかった。網膜組織内の網膜細胞における周皮細胞集団が原因で、本発明者らは、上記網膜全てを用いての網膜周皮細胞におけるPRDX5発現レベル評価を行うことができなかった。その分析には、網膜トリプシン消化物から得られた血管組織を用いて、さらなる研究が必要になるかもしれない。しかし、PRDX5およびPRDX6が、高グルコース誘発のアポトーシス細胞死、網膜症の予測因子を有意に防止したこと[Kern et al., Invest Ophthalmol Vis Sci. 41(2000), pp.3972-3978 / Mizutani et al., J Clin Invest. 97(1996), pp.2883-2890]、そして、糖尿病ラットにおける網膜病状の初期兆候を有意に阻止したことは明らかである。糖尿病での酸化ストレスの増加は、網膜症を含む糖尿病合併症進行の要因であると考えられている[Baynes and Thorpe, Diabetes.48(1999), pp.1-9 / Haskins et al., Ann NY Acad Sci. 1005(2003), pp.43-54 / Kowluru et al., 2001, 上記参照]。糖尿病の網膜、あるいは高グルコース誘発のラットあるいはブタの周皮細胞で、スーパーオキシドのレベルが上昇し[Du et al., Free Radic Biol Med. 35(2003), pp.1491-1499)、SODのmRNAレベルが抑制され[Li et al., Cell Mol Biol(Noisy-le-grand). 45(1999), pp.59-66]、グルタチオンレベルが低下した[Kowluru, 2003, 上記参照/ Manea et al., J Cell Mol Med. 8(2004), pp.117-126 / Sharpe et al., Diabetes. 47(1998), pp.801-809]が、これは、圧倒的な内性防御システムを示している。同様に、本発明者らは、高グルコース培地で培養されたブタ周皮細胞で、酸化ストレス誘発DNAダメージが増加したことを確認した。この点に関して、本発明者らは、PRDX5およびPRDX6の抗酸化潜在力を評価し、細胞培養物にこのタンパク質を加えることで細胞生存性を高めることを確認した。他のペルオキシダーゼと比較してPRDXシステムの相対的貢献度を評価することは困難だが、本発明者らにより、PRDXの分布、代謝回転数、含有量を考察することは可能である。カタラーゼは、含有量が多く、代謝回転数が高い酵素だが、ペルオキシソームに局在しており、過酸化水素濃度が低い時に比較的分解効率が悪い。PRDXの含有量はカタラーゼより多く、ミカエリス定数が低いことにより(<20μM)[Chae et al., Diabetes Res Clin Pract. 45(1999), pp.101-112]、PRDXは、過酸化水素濃度が低い時、過酸化水素の除去に効率がよい。肺を含むラットの種々の組織の中で、PRDXは、約1〜10μg/mgの可溶性タンパクを含み、肝細胞以外のほとんどの細胞で、グルタチオンペルオキシダーゼの細胞内濃度は、PRDXよりもはるかに低い[Chae et al., 1999, 上記参照]。このように、細胞質内のPRDXの含有量が高いため、過酸化水素の解毒においてPRDXが重要な役割を果たすことができる。本発明者らは、ヒトの網膜サンプルで、PRDX5およびPRDX6のレベルを測定した。可溶性タンパクの内、網膜のPRDX5のレベルは、約0.2〜2.0μg/mgで、PRDX6のレベルは、約1.0〜6.0μg/mgであった(未公表データ)。
【0091】
8-OHdGは、酸化的DNAダメージによる生成物で、増加する酸化ストレスについての感度の良いマーカーである[Morita et al., 2005, 上記参照 / Nishigori et al., 2005, 上記参照 / Sato et al., 2005, 上記参照 / Tarng et al., 2000, 上記参照]。高グルコース培地で培養された8-OHdG陽性細胞数の増加は、高グルコースによって、ブタ周皮細胞での酸化ストレスが誘発されることを意味している。糖尿病の網膜で、8-OHdGのレベルが増加するが、これは、ラットの糖尿病網膜症を抑制する同様の抗酸化物質療法により抑制される[Kowluru and Odenbach, Diabetes.53(2004), pp.3233-3238]。ヒトLECの過発現アルドースレダクターゼ(AR)における高グルコース誘発細胞死を、PRDX 6 が防ぐことを、本発明者らは過去に報告している[Kubo et al., 2004, 上記参照]。本発明者らの発見により、PRDX6が、高血糖症で誘発される細胞死経路の負の調節因子であることが明らかになった[Kubo et al., 2004, 上記参照]。こうした特性により、高血糖症誘発合併症の予防において、PRDXは重要な分子になりうる。したがって、PRDX5およびPRDX6によってROS生成を阻止する治療方法は、また、糖尿病網膜症での周皮細胞損失を阻止する可能性がある。培養されたブタ周皮細胞では、10日間、30mM(30G)のD-グルコースを含む培地で培養されたブタ周皮細胞で、PRDX5mRNAおよびPRDX5蛋白の発現量が減少した。PRDX5蛋白の減少により、酸化ストレスの発生と細胞死が誘発されている可能性がある。
【0092】
本発明者らの研究で、タンパク質形質導入領域TATをもつ生物学的に活性のある組み換えPRDX5蛋白および組み換えPRDX6蛋白が、細胞の中に移行することが可能で、高グルコース誘発の細胞アポトーシスとROS上昇から細胞を守っていることを示している。ミトコンドリアの働きと細胞生存を変調することのできるTAT融合タンパク質の分子間/分子内標的において、この新しいアプローチの適用性がすでに証明されている[Kubo et al., 2008, 上記参照 / Shokolenko et al., DNA Repair (Amst). 4(2005), pp.511-518]。また、硝子体内注射されたTAT-HA-PRDX5蛋白およびTAT-HA-PRDX 6蛋白は、ウサギの網膜内に形質導入されることが可能である(日本、福井大学医学部眼科学未公表データ)。TAT連結PRDX5蛋白あるいはTAT連結PRDX6蛋白の硝子体内注射施与は、網膜眼疾患の治療アプローチとして有効であるといえる。
【0093】
要約すると、PRDX5およびPRDX6の投与により、培養されたブタ周皮細胞におけるアポトーシスおよびDNA酸化的ダメージを阻止することができる。よって、PRDX5およびPRDX6の補給は、糖尿病網膜症の初期進行の遅延を助ける達成可能な補助療法であるといえる。
【0094】
さらに、上述のように、網膜色素上皮細胞(RPE)への酸化的ダメージが、加齢黄斑変性症の主要な特徴の内いくつかに関与している可能性がある。実施例6の結果に示されているように、RRDX5およびPRDX6の送達により、ヒトRPEにおける酸化ストレスからRPEを守ることができ、RPEへのPRDX5あるいはPRDX6の送達は、初期AMDの防止において有望なアプローチになりうる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、網膜症又は加齢黄斑変性症の予防又は治療剤、および、網膜症または加齢黄斑変性症の予防または治療方法を提供する。
【0096】
本発明は、好ましい実施形態に主眼点をおき記述されたが、好ましい実施形態の変形が使用される可能性があること、本発明が、ここに具体的に記述した方法とは異なる方法で実施されうることが意図されていることは、当該技術の当業者にとって明らかである。したがって、本発明には、請求項で定義されている本発明の精神と範囲内にある変更されたものが全て含まれている。
【0097】
特許、特許出願、公表文献を含むここで引用されている参照文献は全て、参照することにより本明細書に組込まれている。
【0098】
本出願は、アメリカ合衆国の仮特許出願No.61/157,815(出願日:2009年3月5日)を基にしており、その出願内容は、この言及により、この文書に全て含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PRDXファミリータンパク質を含む、網膜症または黄斑変性症の予防または治療剤。
【請求項2】
網膜症が、糖尿病網膜症である、請求項1記載の予防または治療剤。
【請求項3】
PRDXファミリータンパク質がPRDX5またはPRDX6である、請求項1または2記載の予防または治療剤。
【請求項4】
PRDXファミリータンパク質がタンパク質形質導入領域(PTD)と融合したものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の予防または治療剤。
【請求項5】
有効量のPRDXファミリータンパク質を、それを必要とする対象に投与することを含む、網膜症または黄斑変性症の予防または治療方法。
【請求項6】
網膜症が、糖尿病網膜症である、請求項5記載の予防または治療方法。
【請求項7】
PRDXファミリータンパク質がPRDX5またはPRDX6である、請求項5または6記載の予防または治療方法。
【請求項8】
PRDXファミリータンパク質がPTDと融合したものである、請求項5〜7のいずれか1項に記載の予防または治療方法。
【請求項9】
網膜症または黄斑変性症の予防または治療剤の製造のための、PRDXファミリータンパク質の使用。
【請求項10】
PRDXファミリータンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、網膜症または黄斑変性症の予防または治療剤。
【請求項11】
網膜症が、糖尿病網膜症である、請求項10記載の予防または治療剤。
【請求項12】
PRDXファミリータンパク質がPRDX5またはPRDX6である、請求項10または11記載の予防または治療剤。
【請求項13】
ポリヌクレオチドがPRDXファミリータンパク質とPTDとの融合タンパク質をコードする、請求項10〜12のいずれか1項に記載の予防または治療剤。
【請求項14】
ポリヌクレオチドが発現ベクター中に組み込まれている、請求項10〜13のいずれか1項に記載の予防または治療剤。
【請求項15】
PRDXファミリータンパク質をコードするポリヌクレオチドの有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、網膜症または黄斑変性症の予防または治療方法。
【請求項16】
網膜症が、糖尿病網膜症である、請求項15記載の予防または治療方法。
【請求項17】
PRDXファミリータンパク質がPRDX5またはPRDX6である、請求項15または16記載の予防または治療方法。
【請求項18】
ポリヌクレオチドがPRDXファミリータンパク質とPTDとの融合タンパク質をコードする、請求項15〜17のいずれか1項に記載の予防または治療方法。
【請求項19】
ポリヌクレオチドが発現ベクター中に組込まれている、請求項15〜18のいずれか1項に記載の予防または治療方法。
【請求項20】
網膜症または黄斑変性症の予防または治療剤の製造のための、PRDXファミリータンパク質をコードするポリヌクレオチドの使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−519652(P2012−519652A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513815(P2011−513815)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際出願番号】PCT/JP2010/054072
【国際公開番号】WO2010/101301
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】