説明

黄色系記録液、その製造方法および使用方法

【課題】 噴射安定性、保存安定性、記録画像の耐水性等に優れた黄色系記録液、その製造方法および使用方法を提供する。
【解決手段】 親水性付与処理により、少なくとも表面に親水性が付与された(スルフォン酸基が導入された)黄色系顔料粒子(親水性粒子)は、液体中で一様に分散し、該粒子が互いに凝集することがない。したがって、記録材としての親水性粒子を一様に分散した状態を長く保っておくことができ、噴射安定性ならびに保存安定性に優れた黄色系記録液となる。また、親水性粒子は黄色系顔料本来の性質である疎水性を有している。このため、記録媒体の表面(記録面)が親水性であっても、疎水性であっても、黄色系記録液の記録面への定着性が良好である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えばインクジェット印字装置、ボールペン、および、マーキングペン等の筆記用具に好適に用いられる顔料を使用した記録液、特に黄色系記録液に関するものである。
【0002】
【従来の技術】インクジェット記録法は、騒音の発生が少なく、普通紙に対して特別な定着を要することなく高速記録が行えることから、種々のタイプのものが活発に研究されている。これらインクジェット記録法において使用される記録液は、粘度、表面張力等の物性値が適性範囲内にあること、微細な噴出口(オリフィス)を目詰まりさせないこと、鮮明な色調でしかも充分に高い濃度の記録画像を与えること、保存中に物性変化あるいは固形分の析出等を生じないこと等の諸特性が要求される。
【0003】さらに、これらの特性に加えて、紙に代表される記録媒体の種類を制限せずに記録が行えること、該記録媒体への定着速度が大きいこと、耐水性、耐溶剤性、耐光性、耐磨耗性に優れていること、解像度の優れた画像を与えること等の性質も要求される。
【0004】インクジェット記録法において使用される記録液は、基本的には、記録材としての顔料と、それを溶かす溶媒(もしくは、該顔料を分散させる分散媒)とから組成されるものであり、上記例示の記録液の諸特性は、顔料固有の性質に左右されるところが大きい。従って、記録液が上記特性を具備するように顔料を選択することが極めて重要となる。
【0005】特に、記録材の溶媒に対する溶解性(または、記録材の分散媒に対する分散性)は重要であり、水に対しても、また一般的に有機溶剤からなる湿潤液に対しても充分な溶解性(または分散性)を持つことが、良好な目詰まり防止性および記録材の溶解安定性(分散安定性)を維持するための基本となる。そして、この問題を解決するものとして、例えば、特開平6−145545号公報には、対応するアゾ顔料分子を硫酸に溶解することで、スルフォン化された(親水性を付与された)アゾ染料が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、記録材として従来の黄色系顔料を用いた記録液(黄色系記録液)は、黄色系顔料自体が疎水性であるため上記要求される性質を充分満足させるものがないのが現状である。また、顔料分子を酸で処理して親水性を付与した後に溶媒に溶解する従来の記録液の製造方法では、顔料自体が変色することなどの問題点があるだけではなく、親水性付与処理に使用される薬品の量が膨大であることや、該処理がバッチ式となり連続処理が不可能であるなどの問題があった。
【0007】本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、噴射安定性(噴射応答性、液滴形成の安定性、長時間の連続記録性、長時間の記録休止後の噴射安定性等、記録液の噴射に影響を及ぼす特性を指す)、保存安定性、記録画像の耐水性等に優れた黄色系記録液、その製造方法および使用方法を提供することにある。さらには、記録媒体への定着性(滲みが発生しないこと)、および、耐光性、耐候性等に優れた黄色系記録液、その製造方法および使用方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の請求項1記載の黄色系記録液は、上記の課題を解決するために、少なくとも表面に親水性が付与された黄色系顔料粒子が液体中に分散されてなることを特徴としている。
【0009】上記の構成によれば、親水性粒子(少なくとも表面に親水性が付与された黄色系顔料粒子)は記録液中に一様に分散する。これは、親水性粒子が、少なくとも表面に親水性を付与されている(例えば、スルフォン化されている)からである。
【0010】すなわち、親水性粒子はその表面に親水性が付与されているので、液体となじみやすい。親水性粒子が液体に分散されると、該粒子は液面上に止まることなく一様に分散し、該粒子が互いに凝集することがない。したがって、本発明の黄色系記録液は、記録材としての親水性粒子を一様に分散した状態を長く保っておくことができるものであり、噴射安定性ならびに保存安定性に優れたものとなる。
【0011】また一方、親水性粒子は黄色系顔料本来の性質である疎水性を有している。このため、記録媒体の表面(記録面)が親水性であっても、疎水性であっても、記録液の定着性が良好である。化学的に安定な黄色系顔料よりなる親水性粒子は、もとの黄色系顔料の色と比較して色彩・色調の変化がほとんどないので、これらを分散してなる記録液は良好な色彩・色調を有する。さらに、上記液体が水を主成分としてなるものであれば、安全で低コストな記録液を実現できる。
【0012】上記の構成によればすなわち、黄色系顔料に親水性付与処理を施すことによる変色が生じにくく、また、噴射安定性、保存安定性、記録画像の耐水性等に優れた黄色系記録液を提供することができる。
【0013】本発明の請求項2記載の黄色系記録液は、上記の課題を解決するために、請求項1記載の構成において、上記黄色系顔料粒子がアゾ構造を有していることを特徴としている。
【0014】上記の構成によれば、化学的に安定で、親水性付与処理に起因する変色が少なく、また、耐光性および耐候性等に優れた黄色系記録液を提供することができる。
【0015】本発明の請求項3記載の黄色系記録液は、上記の課題を解決するために、請求項2記載の構成において、上記黄色系顔料粒子がモノアゾ構造を有していることを特徴としている。
【0016】上記の構成によれば、化学的に極めて安定で、親水性付与処理に起因する変色がなく、また、耐光性および耐候性等に優れた黄色系記録液を提供することができる。
【0017】本発明の請求項4記載の黄色系記録液は、上記の課題を解決するために、請求項1から3のいずれか一項に記載の構成において、上記黄色系顔料粒子が、少なくとも2種類以上の粒子径を有していることを特徴としている。
【0018】上記の構成によれば、例えば紙等の記録媒体上に噴射された記録液中において、黄色系顔料粒子の凝集速度をコントロールすることができ、記録液の滲みを軽減することができる。
【0019】本発明の請求項5記載の黄色系記録液は、上記の課題を解決するために、請求項1から4のいずれか一項に記載の構成において、上記液体として湿潤剤が含有されてなることを特徴としている。
【0020】上記の構成によれば、記録液中の液体(主に水を指す)の蒸発を防止して、黄色系顔料粒子が会合・析出することによるノズルの目詰まりを防止することができる。
【0021】本発明の請求項6記載の黄色系記録液は、上記の課題を解決するために、請求項1から5のいずれか一項に記載の構成において、さらに、滲み防止剤が含有されてなることを特徴としている。
【0022】上記の構成によれば、記録媒体への記録液の浸透性が低下し、記録時における記録液の滲みをより有効に抑制することができる。
【0023】本発明の請求項7記載の黄色系記録液は、上記の課題を解決するために、請求項6記載の構成において、上記滲み防止剤がビニルアルコールとアクリル酸との共重合体またはポリアクリル酸アンモニウムであることを特徴としている。
【0024】上記の構成によれば、記録液の乾燥性を低下させることなく該記録液の滲みを防止することができる。したがって、記録媒体として例えば普通紙を使用した場合であっても乾燥性が良く、滲みの少ない記録を行う記録液を提供することができる。
【0025】本発明の請求項8記載の黄色系記録液は、上記の課題を解決するために、請求項1から7の何れか一項に記載の構成において、さらに、水溶性染料が含有されてなることを特徴としている。
【0026】上記の構成によれば、記録液の透明性、光沢性、色調を向上させることができ、加えて、これら色調の細かな変更が可能になるので、記録液の使用分野を拡大することができる。また、記録液の保存安定性を向上させることができる。
【0027】本発明の請求項9記載の黄色系記録液の使用方法は、上記の課題を解決するために、請求項1から8のいずれか一項に記載の黄色系記録液の使用方法であって、上記記録液が、インクジェット印字装置用記録液または筆記具用記録液として使用されることを特徴としている。
【0028】上記の方法によれば、記録液は噴射安定性、保存安定性等に優れているので、インクジェット装置用の記録液として用いられた場合、インクジェット印字装置のノズルが詰まることを防止することができる。さらに、記録媒体の表面が、親水性であれ疎水性であれ、経時安定性、耐水性、耐光性等に優れ、また、鮮明な色調で充分な濃度を有する高品位な記録を該記録媒体上に形成することができる。
【0029】本発明の請求項10記載の黄色系記録液の製造方法は、上記の課題を解決するために、黄色系顔料を酸性液中に溶解した溶液を調製する工程と、上記溶液を粒子状にする工程と、上記粒子を水蒸気を含む蒸気と接触させるとともに、該蒸気の過飽和雰囲気を形成する工程と、上記粒子の表面に水を凝縮させて少なくとも表面に親水性が付与された黄色系顔料粒子を析出させる工程と、析出した上記黄色系顔料粒子を液体に分散させる工程とを含むことを特徴としている。
【0030】上記の方法によれば、酸性液に溶解することによって黄色系顔料に親水性が付与され、該黄色系顔料は親水化される。そして、水蒸気を含む蒸気は、過飽和雰囲気が形成され、粒子と接触することによって溶液(すなわち、黄色系顔料を溶解してなる酸性液)と混合し、該溶液を希釈する。
【0031】このため、溶液に溶解している親水性物質(つまり、親水化された黄色系顔料)は、溶液が希釈されることによって析出して少なくとも表面に親水性が付与された黄色系顔料粒子となる。そして、析出した上記黄色系顔料粒子を液体に分散させることで黄色系記録液が調製される。
【0032】すなわち、黄色系顔料に親水性を付与するために撹拌翼等の撹拌装置を用いて撹拌する工程を含む必要がないので、親水性粒子(少なくとも表面に親水性が付与された黄色系顔料粒子)が摩擦等によって帯電し、互いに集合するおそれが無い。よって、析出した上記親水性粒子を凝集させることなく液体に容易に分散させることができるため、均一な粒子径を有する親水性粒子が一様に分散された均質な黄色系記録液を提供することが可能となる。
【0033】また、水蒸気を含む蒸気を発生させることのできる装置を用いるので、簡便な装置および操作で短時間で連続的に処理することができる。さらに、親水性粒子が析出によって形成されるので、得られる親水性粒子の粒子径が、用いた疎水性物質(黄色系顔料)の粒子径に左右されず、また、該親水性粒子の粒子径を比較的小さくかつ揃えることができる。よって、所望の粒子径を有する親水性粒子が一様に分散されてなる黄色系記録液を容易に提供することができる。
【0034】尚、「上記粒子を水蒸気を含む蒸気の過飽和雰囲気に曝す」とは、具体的には例えば、1)粒子を、粒子の温度よりも高い温度を有する、水蒸気を含む蒸気と接触させ該蒸気の過飽和雰囲気を形成する、2)粒子を、水蒸気を含む蒸気と混合した後冷却して、該蒸気の過飽和雰囲気を形成する、3)粒子を、水蒸気を含む蒸気と混合した後、断熱膨張して、該蒸気の過飽和雰囲気を形成する、等を指すものとする。
【0035】析出した上記黄色系顔料粒子を液体に分散させる工程では、例えば、超音波やホモジナイザーを用いればよい。このようにすれば、液体中での親水性粒子のミクロな分散を行うことができるので、親水性粒子の凝集を防ぎ、保存安定性に優れた記録液を提供することができる。
【0036】
【発明の実施の形態】本発明における黄色系記録液(以下、記録液と称する)とは、主に、少なくとも表面に親水性が付与された「黄色系顔料」粒子が「液体」中に分散されてなるものである。また、上記記録液はさらに、必要に応じて、後述する滲み防止剤、水溶性染料、可溶化剤などを含んで構成されてもよい。
【0037】本発明における黄色系顔料としては、例えば、アゾ顔料(モノアゾ顔料、ビスアゾ顔料、ポリアゾ顔料)および縮合アゾ顔料等のアゾ構造を有する顔料;イソインドリノン顔料;キノフタロン顔料等に分類される黄色系の顔料が挙げられるが、例えばスルフォン化等の反応により該顔料粒子の少なくとも表面に親水性を付与することができるものであれば特にこれらに限定されない。アゾ顔料としては、具体的には、例えば、C. I. (カラーインデックス)Pigment Yellow 1,2,3,5,6,10,12,13,14,15,16,65,81,83、並びに、Fast Yellow F5G (山陽色素株式会社製)等が挙げられる。縮合アゾ顔料としては、具体的には、例えば、C. I. Pigment Yellow 93,95、等が挙げられる。イソインドリノン顔料としては、具体的には、例えば、C. I. Pigment Yellow 109,110、等が挙げられる。キノフタロン顔料としては、具体的には、例えば、C. I. Pigment Yellow 138、等が挙げられる。
【0038】上記例示の黄色系顔料のうち、後述する親水性付与処理によって変色を起こしにくく、また、耐光性および耐候性に優れている(すなわち、化学的に安定な構造を有している)という観点から、アゾ構造を有するものが好ましく、モノアゾ構造、ビスアゾ構造、縮合アゾ構造を有するものがより好ましく、モノアゾ構造を有するものがさらに好ましい。モノアゾ構造を有するものとして、具体的には、例えば、C. I. Pigment Yellow1,2,3,5,6,65、並びに、Fast Yellow F5G 等を挙げることができる。さらに、モノアゾ構造を有する黄色系顔料で、該顔料のカプラー成分が縮合環を持たない構造のものは化学的に極めて安定であるため特に好ましい。これら顔料は、一種類のみを用いてもよく、また、必要に応じて二種類以上を混合して用いてもよい。尚、これらの黄色系顔料の少なくとも表面に親水性を付与する具体的な方法については後述する。
【0039】記録液中に含まれる、少なくとも表面に親水性が付与された黄色系顔料粒子(以下、親水性粒子と称する)の種類および含有率は特に限定されるものではなく、該記録液の用途や、黄色系顔料の種類、後述する液体の種類等によって適宜設定すれば良い。通常、黄色系顔料の含有率は、記録液に対し、0.01重量%以上20重量%以下の範囲内であれば良く、好ましくは0.1重量%以上10重量%以下であればよい。
【0040】また、上記親水性粒子の粒子径は特に限定されるものではなく、記録液の使用用途や以下に説明する液体の組成等に応じて適宜決めることができる。一般に、親水性粒子の粒子径が10nm以上5μm以下の範囲内であれば、親水性粒子の記録液中での分散性が良好であるため好ましい。
【0041】さらに、親水性粒子として2種類以上の粒子径を有するものを混合して使用することにより、紙等の記録媒体上に噴射された記録液中において、該親水性粒子の凝集速度をコントロールすることができ、記録液の滲みを軽減することができる。上記の場合、異なる粒子径間の関係は特に限定されるものではないが、例えば、2種類の粒子径を有する親水性粒子を混合して使用する場合には、小親水性粒子と大親水性粒子の粒子径比は、1:1を超え1:10以下の範囲内であれば、記録液の滲みを効率良く防止することが出来る。尚、小親水性粒子と大親水性粒子の配合割合等は特に限定されるものではない。
【0042】尚、本発明において粒子とは、常温・常圧(以下、25℃・大気圧を指す)で固体の微粒子であり、かつ、本発明にかかる記録液中で、溶解、分解、重合等といった、基本構造の変化を生じることのない安定性を有する粒状構造を有するものを指す。
【0043】また、黄色系顔料粒子の「少なくとも表面に親水性が付与された」状態とは、具体的には、該黄色系顔料粒子において、以下に述べる「液体」との接触部位の少なくとも一部に親水性が付与されている状態を指し、必ずしも該黄色系顔料粒子全体に親水性が付与された状態を指すものではない。
【0044】本発明における「液体」は、常温・常圧で液状であり、上記親水性粒子を一様に分散できるものであれば、その組成は特に限定されるものではない。さらに具体的には、少なくともその表面に親水性を付与された親水性粒子となじんで、親水性粒子を一様に分散できるように、一種類または二種類以上の水溶性(親水性)の液体により構成されていればよい。尚、該水溶性の液体の範疇には、水も含まれているものとする。上記液体は特に、主成分として水を含有するものが好ましい。これは、液体として水を用いることにより、安全で低コストな記録液を実現することができるからである。尚、主成分として水を含有するとは、記録液中に占める各物質の割合のうち、水の占める割合が最大であることを意味している。
【0045】また場合によっては、上記液体の一成分として、水溶性の各種有機溶剤が含まれていることが望ましい。水溶性の有機溶剤として、具体的には例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール、等のケトン類またはケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、等のポリアルキルグリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン、ジエチレングリコール、等の多価アルコール類;メチルエーテル、ジエチレングリコールメチル(エチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(エチル)エーテル等の低級アルキルエーテル類;2−ピロリドン、ピロール、ピリジン等の含窒素複素環式ケトン類等が挙げられる。これら有機溶剤は、一種類のみを用いてもよく、また、必要に応じて二種類以上を混合して用いてもよい。
【0046】上記例示の水溶性の有機溶剤のうち、ポリアルキルグリコール類、アルキレングリコール類等を含めた多価アルコール類;低級アルキルエーテル類;2−ピロリドン、ピロール、ピリジン等の含窒素複素環式ケトン類が好ましく、なかでもアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類が好ましい。また、アミド類およびケトン類を除く上記有機溶剤は、記録材としての親水性粒子が会合・析出することによるノズルの目詰まりを防止する湿潤剤として機能する。なかでも、多価アルコール類は、湿潤剤としての効果が大きいため好ましい。また、後述するが、含窒素複素環式ケトン類は、可溶化剤としての機能も有する。
【0047】通常、液体の含有率は、記録液に対し、60重量%以上99.9重量%以下の範囲内であれば良く、好ましくは70重量%以上99.9重量%以下であればよい。また、記録液中の有機溶剤の種類および含有率は特に限定されるものではなく、該記録液の用途や、黄色系顔料の種類等によって適宜設定すれば良い。
【0048】また、記録時における記録液の滲みを抑制することを目的として、必要に応じて、ポリアクリル酸アンモニウムや、ビニルアルコールとアクリル酸との共重合体等の滲み防止剤を配合して記録液を構成することもできる。滲み防止剤としては、上記例示のものの他に従来公知のものを使用することができるが、これらの滲み防止剤は一種類のみを用いてもよく、また、必要に応じて二種類以上を混合して用いてもよい。尚、ポリアクリル酸アンモニウムは界面活性剤として、また、ビニルアルコールとアクリル酸との共重合体は親水性粒子の分散剤としても機能する。
【0049】記録液における上記滲み防止剤の種類および含有率は、特に限定されるものではなく、該記録液の用途や、記録媒体の種類、黄色系顔料および液体の種類等によって適宜設定すれば良い。また、滲み防止剤として、共重合体を用いる場合には、該共重合体を構成する単量体それぞれの含有比率は特に限定されるものではない。
【0050】例えば、滲み防止剤としてポリアクリル酸アンモニウムを単独で用いる場合には、一般に、記録液に対してその含有量(配合量)が0.5重量%以上10重量%以下の範囲内であることが望ましく、1重量%以上10重量%以下の範囲であることがさらに好ましい。これは、ポリアクリル酸アンモニウムの含有量が0.5重量%未満であれば、滲みを抑える効果が期待できず、一方、該含有量が10重量%を超える場合には、ポリアクリル酸アンモニウムの添加量に比例した滲み抑制効果のさらなる向上は認められず、添加したポリアクリル酸アンモニウムの一部が無駄になり、経済的に不利になるばかりか、記録液の粘度が増加するため、ノズルの目詰まりを招来したり、記録液の機能などの低下を招くので好ましくない。
【0051】また、滲み防止剤としてビニルアルコールとアクリル酸との共重合体を単独で用いる場合には、一般に、記録液に対してその含有量(配合量)が1.0重量%以上10重量%以下の範囲内であることが望ましく、3重量%以上10重量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。これは、該共重合体の含有量が1.0重量%未満であれば、滲みを抑える効果が期待できず、一方、該含有量が10重量%を超える場合には、共重合体の添加量に比例した滲み抑制効果のさらなる向上は認められず、添加した共重合体の一部が無駄になり、経済的に不利になるばかりか、記録液の粘度が増加するため、ノズルの目詰まりを招来したり、記録液の機能などの低下を招くので好ましくない。
【0052】上記のように、滲み防止剤を配合して記録液を構成することにより、記録媒体への記録液の浸透性を低くして、記録液の滲みを防止することができる。一般的には、記録媒体への記録液の浸透性を低くすれば、該記録液の乾燥性は低くなるが、上記例示のポリアクリル酸アンモニウムや、ビニルアルコールとアクリル酸との共重合体は、記録液の乾燥性を保ったまま(低下させることなく)該記録液の滲みを防止することができるので特に好ましい。したがって、記録媒体として普通紙を使用した場合であっても乾燥性が良く、滲みの少ない記録を行う記録液を実現することができる。
【0053】本発明の記録液はまた、必要に応じて水溶性染料を含んでなるようにしてもよい。水溶性染料は、上記説明の液体に可溶であり、着色性を有するものであれば、特に限定されるものではない。これら水溶性染料は、一種類のみを用いてもよく、また、必要に応じて二種類以上を混合して用いてもよい。また、記録液における上記水溶性染料の種類および含有率は、特に限定されるものではなく、該記録液の用途や、記録媒体の種類、黄色系顔料および液体の種類等によって適宜設定すれば良い。記録液は、具体的には例えば、水溶性染料としての黄色系染料、青色系染料、赤色系染料等を含有してもよいが特にこれらに限定されるものではない。
【0054】上記の黄色系染料として、具体的には例えば、C.I.Acid Yellow 7,12,17,23,27,29,33,42,44,50,79,86,99,110,142,157; C.I.Food Yellow 3,4; C.I.Direct Yellow 1,12,24,26,27,33,44,50,86,110,120,132,142,144; C.I.Basic Yellow1,2,11,13,14,15,19,21,23,24,25,28,29,32,36,40,41,45,49,51,53,63,67,70,73,77,87,91; C.I.Reactive Yellow 1,5,11,13,14,20,21,22,25,40,47,51,55,65,67等を挙げることができるが特にこれらに限定されるものではない。
【0055】また、青色系染料として例えば、C.I.Direct Blue 1,2,6,8,15,22,25,71,86,98,108,192,199,201,237等を挙げることができ、さらに、赤色系染料として例えば、C.I.Direct Red1,11,37,52,75,81,99,227,220;C.I.Acid Red87,92,94,115,154,131,186,254等を挙げることができるが特にこれらに限定されるものではない。
【0056】上記記録液がさらに水溶性染料を含有することで、記録液の透明性、光沢性、色調を向上させることができ、加えて、これら色調の細かな変更が可能になるので、記録液の使用分野を拡大することができる。また、記録液の保存安定性を向上させることができる。
【0057】本発明の記録液はさらに、必要に応じて、例えば以下に示すような各種添加剤を含んでなるようにしてもよい。添加剤として、例えば具体的には、防腐剤、防カビ剤、pH調整剤、防サビ剤、表面張力調整剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤などを挙げることができるが特にこれらに限定されるものではない。また、可溶化剤を加えることもできる。
【0058】次に、図2および図9に基づき、本発明の記録液中に分散される、少なくとも表面に親水性を付与された黄色系顔料粒子(以下、ことわりの無いかぎり親水性粒子と称する)の製造装置および該装置の動作の概略について説明する。
【0059】〔製造装置1〕本発明の記録液に含有される、親水性粒子の製造に好適に供される製造装置の一例について、図2に基づいて説明すれば、以下の通りである。図2に示すように、製造装置21は、噴霧装置10、蒸気発生部22aおよび管状の混合部22bからなる改質塔22、光学測定装置3A・3B等を備えており、親水性粒子を連続的に製造することができるようになっている。
【0060】上記の光学測定装置3Aは、各筐体3j・3h・3iの内部に、光源3a、レンズ3b、遮光板(図示せず)、ガラス等からなる混合部22bとの仕切り板である透光板3e・3f、光検出部3g等がそれぞれ配設されることによって構成されている。光学測定装置3Aは、光源3aから出射された光を、レンズ3b、遮光板の開口部、透光板3e、混合部22b内部、および透光板3fを経て光検出部3gに入射させるようになっている。
【0061】光源3aから出射された光は、混合部22b内部の親水性粒子によって散乱および減光することによって、その光量が変化する。これにより、光学測定装置3Aは、入射された光量に応じて光検出部3gから出力される信号に基づいて、単位体積に含まれる液状粒子の個数(液状粒子の密度)を測定するようになっている。光学測定装置3Aを用いて親水性粒子の粒子径を測定することにより、該粒子径を制御することができる。
【0062】一方、光学測定装置3Bは、光学測定装置3Aの構成と同様の構成を備えており、噴霧装置10から供給される液状粒子の粒子径、並びに、単位体積に含まれる液状粒子の個数(液状粒子の密度)を測定するようになっている。
【0063】尚、上記の光学測定装置3A・3Bは、光透析・散乱法を採用して粒子径を測定する構成となっているが、測定法は特に限定されるものではなく、例えば、X線透過法、沈降法、レーザ回折・散乱法、動的散乱を利用した光子相関法等を採用することもできる。また、光学的に測定する方法以外に、光学顕微鏡や電子顕微鏡を使用する画像処理解析法等を採用することもできる。これらのような光学測定装置3A・3Bを設けることにより、光学測定装置3A・3Bからの測定結果に基づき、親水性粒子の製造工程を制御することにより、小粒子径で、かつ、粒子径のそろった親水性粒子を安定に製造することが可能となる。
【0064】蒸気発生部22aは、水平方向に延びる細長い円柱形状または角柱形状をなし、内壁部2aと外壁部2bとで構成されており、内部が蒸気発生空間となっている。内壁部2aの少なくとも一部は、水または水を含む共沸組成物(以下、単に水と記す)といった水性溶液に対して親和性を有して、上記水性溶液を保持できるセラミックスや不織布等の多孔質材料で構成されている。
【0065】上記内壁部2aには、水が予め付着または含浸されており、これにより、内壁部2aは、蒸気発生部22a内部の温度並びに圧力が、図示しないマイクロコンピュータ等の制御手段により調節されることによって、蒸気、より好ましくは飽和蒸気を発生するようになっている。一方、外壁部2bは、ステンレス等で構成されている。
【0066】蒸気発生部22aの外周部には、加熱装置7が例えば螺旋状に巻回されて取り付けられている。また、蒸気発生部22aの上方部には、蒸気発生空間の温度を測定するための温度計8が取り付けられている。尚、蒸気発生部22aの形状は、特に限定されるものではないが、本製造装置を用いて親水性粒子を効率的に製造するには、縦長形状よりも上記横長形状であることがより好ましい。
【0067】蒸気発生部22aの長手方向に延びる上記蒸気発生空間は、蒸気発生部22aの軸方向に対して上下方向に傾斜した例えば円柱穴形に形成されている。また、蒸気発生部22a内部における下方側端部には、水20を貯留するための貯留部2cが形成されている。
【0068】そして、蒸気発生部22a内部が傾斜しているので、内壁部2aに予め付着または含浸されている水20は、蒸気を発生すると共に、その一部が貯留部2cに流れ込む。さらに、蒸気発生部22a内部における下方側端部には、不活性ガス等の清浄ガスを改質塔22内部に供給する清浄ガス供給管2dが接続されている。清浄ガス供給管2dは、バルブ2eを介して図示しない清浄ガス供給装置に接続されている。尚、内壁部2aに水を予め付着または含浸させる代わりに、貯留部2cに水を予め貯留することもできる。
【0069】蒸気発生部22aの上部には、上下方向に延びる細長い円柱形状をなす混合部22bが、蒸気発生部22aの内部となる蒸気発生空間における上方側端部に連通するように接続されている。混合部22bは、ステンレス等からなる混合管29と、該混合管29の外周部に設けられた冷却部30とで構成されており、内部が処理空間となっている。このことから、処理空間は、蒸気発生空間と連通している。混合部22bの上方部には、処理空間の温度を測定するための温度計8が取り付けられている。
【0070】そして、蒸気発生部22aと混合部22bとの接続部近傍には、粒子供給管4がその開口部である粒子導入口4aを上にした状態で混合管29に接続されている。一方、混合部22bの上方側端部は、改質塔22内部の親水性粒子の粒子径を光学的に測定する光学測定装置3A、および粒子取出管5を介して図示しない粒子回収装置に接続されている。従って、製造装置21は、主に、上記の噴霧装置10、改質塔22、光学測定装置3A・3B、図示しない粒子回収装置や制御手段等で構成されている。
【0071】粒子供給管4は、改質塔22に供給される液状粒子の粒子径を光学的に測定する光学測定装置3Bを介して粒子供給管18と連通している。該粒子供給管18は、噴霧装置10に接続されている。粒子供給管4には、該管内の温度を測定するための温度計8が取り付けられている。そして、粒子供給管4は、不活性ガスと共に液状粒子を混合管29内部に連続的に供給するようになっている。
【0072】噴霧装置10は、噴霧容器10a、ノズル11、溶液供給管15、バッフル(粒子径調節部)16、粒子供給管18等を備えており、液状粒子を混合管29内部に連続的に供給することができるようになっている。上記ノズル11の先端部11a、溶液供給管15の上端部15a、バッフル16の先端部16a、および、粒子供給管18の開口部は、ほぼ一直線上にかつ水平となるように配置されている。
【0073】噴霧容器10aには、疎水性物質である黄色系顔料を酸性液に溶解してなる溶液14が所定量、仕込まれている。尚、該黄色系顔料の粒子径は、通常10nm〜5μm程度であるが、特に限定されるものではない。
【0074】溶液供給管15は、支持部材17によってノズル11に固定されている。溶液供給管15は、その下端部が溶液14に浸漬されており、上端部15aに不活性ガスが水平に吹き付けられて内部が減圧状態となることによって、溶液14を該上端部15aまで吸い上げるようになっている。
【0075】ノズル11は、噴霧容器10aにおける粒子供給管18に対向する位置に接続されており、不活性ガス(キャリア)を噴霧容器10a内部に供給する。ノズル11は、エアーフィルタ(不純物除去装置)13およびミスト除去部(不純物除去装置)12を介して図示しない不活性ガス供給装置に接続されている。そして、ノズル11は、その先端部11aから溶液供給管15の上端部15aに不活性ガスを水平に吹き付けて溶液14を噴霧することによって、該溶液14を粒子状(霧状)にするようになっている。上記のミスト除去部12およびエアーフィルタ13は、噴霧容器10aに清浄な不活性ガスが供給されるように、不活性ガスに含まれる不純物を除去するようになっている。
【0076】バッフル16は、溶液供給管15に固定されており、球状の先端部16aを有している。バッフル16は、その先端部16aに、溶液供給管15の上端部15aにて造粒された液状粒子が不活性ガスと共に衝突することにより、粒子径の比較的大きな液状粒子を除去するようになっている。つまり、バッフル16によって液状粒子の粒子径を調節することによって、噴霧装置10は、粒子径が比較的小さくかつ揃った液状粒子を混合管29内部に供給するようになっている。
【0077】混合管29内部に供給すべき液状粒子の最大粒子径は、バッフル16の先端部16aの大きさを適宜調節することによって、任意に制御することができる。また、液状粒子の単位時間当たりの供給量は、溶液供給管15の管径、不活性ガスの流量および流速等の噴霧条件を調節することによって、任意に制御することができる。尚、バッフル16によって除去された液状粒子は、バッフル16を伝って流れ落ち、溶液14として再利用される。
【0078】粒子供給管18は、噴霧容器10aにおけるノズル11に対向する位置に接続されている。また、粒子供給管18は、光学測定装置3Bを介して、混合部22bに接続されている粒子供給管4と連通している。粒子供給管18における光学測定装置3B側端部には、液状粒子を必要に応じて冷却する冷却装置19が設けられている。
【0079】該冷却装置19は、ペルチェ素子を備えており、ペルチェ効果によって粒子供給管18内部、つまり、粒子供給管18内の液状粒子を冷却するようになっている。冷却装置19は、所望する冷却温度に対応した構成とすればよく、特に限定されるものではない。冷却装置19は、例えば、液体窒素や水、ドライアイス等によって冷却された有機溶媒(冷媒)を用いて液状粒子を冷却する構成を備えていてもよい。或いは、冷却装置19は、例えば、水や氷水等の冷媒が流通されるリービッヒ冷却管であってもよい。
【0080】上記構成の製造装置21を用いて親水性粒子を製造するには、先ず、改質塔22内に蒸気発生空間を形成した後、加熱装置7を用いて内壁部2aに予め付着または含浸された水(或いは、貯留部2cに貯留された水20)の蒸気、より好ましくは飽和蒸気を発生させる。蒸気発生部22aで発生した該蒸気は、蒸気発生空間と連通している処理空間である混合管29内部に、清浄ガス供給管2dから供給される清浄ガス(キャリア)によって導入される。
【0081】次に、噴霧装置10にて液状粒子を発生させ、該液状粒子を混合管29内部に連続的に供給する。即ち、ノズル11の先端部11aから溶液供給管15の上端部15aに不活性ガスを水平に吹き付けることによって溶液14を粒子状にすると共に、バッフル16によって液状粒子の粒子径を調節する。そして、得られた液状粒子を、粒子供給管18、光学測定装置3B、および粒子供給管4を介して、混合部22bにおける該混合管29内部に供給(導入)する。このとき、粒子供給管18内を通過する液状粒子を、必要に応じて、冷却装置19を用いて冷却する。
【0082】混合管29内部に供給された液状粒子は、蒸気発生部22aから供給された蒸気と混合される。さらに、冷却部30を用いて混合管29を冷却することにより、蒸気を冷却状態にして、さらなる過飽和雰囲気を形成し、液状粒子表面に水を凝縮させる。凝縮された水により液状粒子をなす酸性液が希釈され、液状粒子に含まれている親水性を付与された黄色系顔料が析出して、親水性粒子となる。そして、光学測定装置3Aを用いて親水性粒子の粒子径を測定することによって、所望の粒子径の親水性粒子が得られるように装置を制御すると共に、粒子取出管5を介して混合管29から親水性粒子を取り出す。
【0083】親水性粒子の粒子径は、蒸気発生部22aの加熱温度、不活性ガスおよび清浄ガス(キャリア)の流速、液状粒子の温度、および、混合部22bの温度等を適宜設定することによって、容易に制御することができる。また、混合部22bにおいて、液状粒子を蒸気(過飽和蒸気)に曝す時間は、不活性ガスおよび清浄ガスの流速、および、混合管29の長さ等を適宜設定することによって、容易に調節することができる。
【0084】これにより、所望の粒子径を有する親水性粒子を簡単にかつ連続的に製造することができる。上記の製造装置21は、親水性粒子を連続的に製造するので、バッチ式の製造装置と比較して、同一条件下での連続的な処理を実施し易い。従って、一定の物性を有する親水性粒子を安定的に大量生産することができる。上記の製造装置21を用いて親水性粒子を製造する際には、装置内を、例えばキャリアとして用いる不活性ガス等の清浄ガスで予め置換しておくことが望ましい。
【0085】粒子取出管5を介して取り出された親水性粒子は、図示しない粒子回収装置にて回収(捕集)される。回収された親水性粒子は、必要に応じて、図示しない洗浄装置にて超純水等を用いて水洗される。これにより、不純物が除去された親水性粒子が得られる。水洗された親水性粒子は、必要に応じて、該粒子同士が凝集しない程度に乾燥させる。
【0086】尚、上記構成の製造装置21を用いて親水性粒子を製造するに当たっては、混合管29内部に液状粒子を供給した後、冷却部30を用いて混合管29を冷却する代わりに、液状粒子を冷却装置19を用いて冷却して(蒸気よりも低温にして)混合管29内部に導入することにより、蒸気と液状粒子との温度差を利用して該蒸気の過飽和雰囲気を混合管29内にて形成し、液状粒子表面に水を凝縮させることもできる。
【0087】以上のように、上記説明の製造装置21は、疎水性物質である黄色系顔料に親水性を付与すべく該黄色系顔料を酸性液に溶解してなる溶液14を粒子状にする噴霧装置10と、該噴霧装置10で造粒された液状粒子を、該液状粒子の温度よりも高い温度を有する蒸気と接触させ該蒸気の過飽和雰囲気を形成し、液状粒子表面に水を凝縮させる混合部22bとを備えている構成である。
【0088】上記の構成によれば、粒子を帯電させることなく、しかも、簡便な装置および操作で短時間でかつ安価に、粒子径が比較的小さくかつ揃った親水性粒子を製造することができる。
【0089】また、製造装置21は、造粒装置として噴霧装置10を採用しているので、粒子径がより一層小さい親水性粒子を製造することができる。さらに、製造装置21は、液状粒子を冷却する冷却装置19を備えている構成である。これにより、液状粒子表面に水がより一層凝縮し易くなるので、より一層短時間で親水性粒子を製造することができる。その上、噴霧装置10がバッフル16を備えているので、粒子径がより一層小さくかつ揃った親水性粒子を製造することができる。
【0090】尚、上記の説明においては、親水性粒子を連続的に製造することができる製造装置21を例に挙げて説明したが、製造装置の具体的な構成は、上記例示の構成にのみ限定されるものではなく、例えば、バッチ式で親水性粒子を製造することができる構成を備えていてもよい。上記製造装置における各製造工程は、図示しないプログラム内蔵型のマイクロコンピュータ等の制御手段により制御されている。
【0091】また、上記の説明においては、蒸気を冷却状態にして過飽和雰囲気を形成する構成を備えた製造装置21を例に挙げて説明したが、製造装置は、蒸気を断熱膨張させて過飽和雰囲気(過飽和蒸気)を形成する構成を備えていてもよい。さらに、上記の説明においては、造粒装置として噴霧装置10を例に挙げて説明したが、造粒装置の構成は、特に限定されるものではない。造粒装置は、例えば、超音波による振動によって溶液を飛散させることにより、該溶液を粒子状にする構成であってもよい。
【0092】〔製造装置2〕図3に示す親水性粒子の製造装置21aは、上記記載の製造装置21の一変形例である。尚、製造装置21aにおける、上記記載の製造装置21と同一の機能を有する部材については、図3において、同一の部材番号を付与して、その説明を省いた。
【0093】製造装置21aでは、不活性ガスと共に液状粒子を供給する粒子供給管4の粒子導入口4aが、蒸気発生部22aにおける内部処理空間における貯留部2c側の端部における上方において、開口するように設けられている。
【0094】蒸気発生部22a内における円柱穴状(直管状)の蒸気発生空間の中心軸は、水平方向に対し、前述したように上下方向に傾いており、その傾きの角度ψが、水平を超え、90度までの範囲内に設定されている。
【0095】したがって、この製造装置21aの蒸気発生部22aでは、不活性ガスと共に液状粒子を、粒子供給管4から粒子導入口4aを介して蒸気発生部22a内に連続的に供給できるようになっている。
【0096】また、製造装置21aでは、冷却管としての混合管29が、混合管29の中心軸と蒸気発生部22a内における管状の蒸気発生空間の中心軸との間の角度θを、垂直方向である90度から1度までの範囲内となるように蒸気発生部22aに対し取り付けられている。
【0097】一方、混合管29の外周部には、内部を冷却するための前述の冷却装置19が取り付けられており、かつ、混合管29の内壁部の少なくとも一部は、水や、水を含む水性溶液をはじく性質を有するフッ素樹脂などのはっ水性材料より構成されている。一方、混合管29が蒸気発生部22aの上部から連通して上方に延びるように設置されている。
【0098】これらにより、上記混合管29内の蒸気が混合管29の内壁部に凝縮して水となっても、上記内壁部を伝って蒸気発生部22a内に還流されるので、凝縮剤としての水を効率よく使用できる。
【0099】蒸気発生部22aの外周に設けられた加熱装置7、および混合管29の冷却装置19は、蒸気発生部22aおよび混合部22bにそれぞれ設けられた各温度計8の各測定結果をもとに、温度調整器により所定の温度となるように制御する、プログラム式のマイクロコンピュータ等の調節手段(図示せず)が設けられている。
【0100】このような製造装置21aにおいても、以下に示す、前述の製造装置21と異なる動作の他は、同様な動作および操作により、前述と同様な親水性粒子が得られる。
【0101】この異なる動作について、以下に説明すると、まず、噴霧装置10において調製された液状粒子は、粒子供給管4によって、蒸気発生部22aにおける内部処理空間における貯留部2c側の端部における上方(右側)から蒸気発生部22a内に供給されるので、構成を簡素化できる。
【0102】したがって、上記製造装置21aにおいては、前述の製造装置21と同様に、液状粒子の表面に水を凝縮させることができると共に、液状粒子の表面での水の凝縮を均一化できて、親水性粒子の製造をより安定化できる。
【0103】なお、上記構成の製造装置21aを用いて親水性粒子を製造するに当たっては、蒸気発生部22a内部に液状粒子を供給した後、混合管29にて蒸気を冷却する代わりに、液状粒子を、蒸気発生部22aに供給する前に、粒子供給管18の外周部に設けた冷却装置19を用いて冷却して(蒸気発生部22a内の飽和蒸気より低温となるように)蒸気発生部22a内に導入することにより、蒸気と液状粒子との温度差を利用して過飽和雰囲気を形成し、液状粒子の表面に、蒸気に起因する水を凝縮させてもよい。
【0104】あるいは、噴霧装置10の前段に冷却装置19を配置し、噴霧装置10に供給する不活性ガス(キャリア)を予め冷却しておくことによって、液状粒子を冷却して(蒸気発生部22a内の飽和蒸気より低温となるように)蒸気発生部22a内に導入してもよい。また、蒸気発生部22aに供給される液状粒子並びに不活性ガス(キャリア)についても、同様に予め冷却しておいてもよい。このように、予め不活性ガスを冷却する場合、混合管29を含む混合部22bを省くことができて、製造装置21aをより簡素化できる。
【0105】また、上記製造装置21および製造装置21aでは、液状粒子を調製するために噴霧装置10を用いた例を挙げたが、液状粒子の調製方法としては、上記に限定されるものではなく、例えば、図4に示すように、遠心力を用いて液膜を振り切り、液滴としての液状粒子を形成するアトマイザー式の造粒装置10aを用いてもよい。このようなアトマイザー式の造粒装置10aは、溶液14が高濃度で粘度が大きい場合でも、小粒径の液状粒子を製造することができる。
【0106】このような造粒装置10aでは、疎水性物質である黄色系顔料が酸性液中に溶解している溶液14は、導入管150により高速回転している円板状の回転部160上に供給され、回転部160上にて液膜となった溶液14が遠心力により回転部160の外縁部から外方に振り切られて噴霧状(ミスト状)となる。噴霧状となった液状粒子は、不活性ガス(キャリア)により、光学測定装置3Bを介して改質塔22に搬送される。また、例えば粒径が小さすぎる、不要な液状粒子は、分別されて排出管170により排出される。
【0107】さらに、噴霧装置10に代えて、例えば図5R>5に示すように、オリフィスから吹き出る溶液14に対し、超音波振動を与えることにより、上記溶液14から液状粒子を調製する造粒装置10bを用いてもよい。このような造粒装置10bでは、溶液14は導入管(図示せず)によりオリフィス161に導入され、このオリフィス161から外部に出る溶液14に対し、ピエゾ素子などの振動部材170により超音波振動が付与される。液状粒子の生成率は、振動部材170の振動周波数で制御される。形成された液状粒子は、不活性ガス(キャリア)により、光学測定装置3Bを介して改質塔22に搬送される。
【0108】さらに、噴霧装置10に代えて、例えば図6R>6に示すように、振動により液状粒子を調製する他の方法である、造粒装置10cを用いてもよい。このような造粒装置10cでは、溶液14は導入管(図示せず)により槽状の供給部162に導入される。この供給部162の下方には、ピエゾ素子などの振動部材170が配置されており、供給部162と振動部材170との間に、振動部材170からの振動を伝達する媒体180が充填されている。
【0109】また、供給部162の底部は、下方に凸に湾曲した形状となっていて、振動部材170より発生する振動を、上記底部を介して供給部162内の溶液14の液面に対し、上記の下方に凸に湾曲した形状によって集中させ、この液面部分において上記溶液14の粒子化、すなわち液状粒子の生成を促進するようになっている。また、装置の上方からは不活性ガス(キャリア)が供給されており、発生した液状粒子は不活性ガス(キャリア)により、光学測定装置3Bを介して改質塔22に搬送されるようになっている。このような各造粒装置10a・10b・10cは、前述の製造装置21、後述する製造装置21bないし21dにおいても、用いることができる。
【0110】〔製造装置3〕図7に示す親水性粒子の製造装置21bは、上記記載の製造装置21の一変形例である。尚、製造装置21・21aと同一の機能を有する部材については、図7において、同一の部材番号を付与して、その説明を省いた。
【0111】製造装置21bでは、前述の製造装置21に記載の改質塔22に代えて、蒸気発生部111および凝縮部112を有する改質塔を備えている。蒸気発生部111については、蒸気発生部22aと同様な構成を備え、蒸気を発生できるようになっている。
【0112】一方、凝縮部112は、ロータリー方式のガソリンエンジン式となっていて、断熱的に、圧縮・膨張を順次行うようになっている。すなわち、凝縮部112は、略多角形柱状の、回転するロータ114と、ロータ114の各稜線端114aとそれぞれ当接する内壁部113とを、ロータ114における隣り合う各稜線端114a間の各外面114cと、それら各外面114cと対面する内壁部113との間に形成される各処理空間112bの容量がロータの回転に応じてそれぞれ、各処理空間112b1 ・112b2 ・112b3 というように変化するように有している。
【0113】内壁部113は、ロータ114の回転軸に対し直交する方向の断面形状において、2つの円を、それらの一部を重ね合わせた、ヒョウタン型となっており、また、ロータ114は、その内部に内歯の歯車114bを備え、その歯車114b内にて、歯車114bより小径の外歯の駆動歯車115を、遊星的に内部にて歯合させている。これにより、ロータ114は、それらの各稜線端114aを、内壁部113との当接を維持しながら、内壁部113を回転できるようになっている。
【0114】このとき、ロータ114の各外面114cの一つが、内壁部113の凸部に当接することがあるが、各外面114cの中央部に設けられた凹部により、隣り合う各稜線端114a間に形成される、各処理空間112b、例えば処理空間112b2 が、隣り合う各稜線端114a間にて上記凸部により分断されることが回避される。
【0115】次に、上記製造装置21bを用いた親水性粒子の製造方法について、以下に説明すると、まず、ロータ114を、図7に示す位置に設定し、処理空間112bに対し、蒸気発生部111にて発生させた蒸気を、蒸気供給管73を介して、供給する。一方、その処理空間112bに対し、噴霧装置10から粒子供給管4を介して液状粒子を粒子導入口4aから導入する。この場合、凝縮剤導入口72および粒子導入口4aの各開口117・116は、上記処理空間112b(処理空間112b1 の状態)に対し開放されている。
【0116】続いて、上記ロータ114が、図示しないマイクロコンピュータ等の制御手段によって、図中矢印(時計方向)に回転するにつれて、上記処理空間112bを形成していた反時計方向となる一方の稜線端114aが、各開口117・116を通過すると、上記処理空間112bは蒸気供給管73および粒子導入口4aと遮断される。よって、上記処理空間112bは、時計方向に凝縮部112内を移動しながら密閉状態となる。
【0117】次に、上記凝縮部112内にて、凝縮剤の飽和蒸気を得るため、上記処理空間112bを加圧すると共に加熱する。加圧は、ロータ114を時計方向に回転(図7の状態から180°)することによって行う。この加圧においては、上記処理空間112b(処理空間112b2 の状態)内を常圧(大気圧)より高い所定の圧力に昇圧する。この処理空間112b(処理空間112b2 の状態)内の圧力は圧力計60により計測され、その計測値に基づいて圧力調整器50により所定の圧力に設定される。
【0118】加熱は加熱装置7により行う。加熱装置7が作動すると、ヒータ7aから発生する熱が壁部112c、内壁部113を介して、各処理空間112b内を加熱する。各処理空間112b内の温度は温度計8により測定され、その測定値に基づいて上記加熱装置7の作動が制御される。
【0119】その後、ロータ114を適切な時間静置する。すなわち、凝縮部112に対して上記の状態を維持する。飽和蒸気を得るためには、少なくとも上記の加圧を行えばよく、加熱は必要に応じて補助的に行えばよい。これは、以下に示す他の各例においても同様である。
【0120】以上の工程により、処理空間112b(処理空間112b2 の状態)内には、凝縮剤の飽和蒸気が得られる。この状態では、凝縮剤の蒸気が液状粒子の周囲を取りまくように存在している。次に、ロータ114をさらに回転して、処理空間112b内を断熱的に常圧まで減圧することにより、凝縮剤の飽和蒸気を過飽和状態にする。これにより、液状粒子を含む処理空間112bにおいて、凝縮剤の飽和蒸気が過飽和状態となり、液状粒子の表面にて凝縮剤蒸気の凝縮反応が生じる。この結果、液状粒子の表面に液膜が生成され、前述したように親水性粒子が析出する。
【0121】析出した親水性粒子は、ロータ114をさらに回転して処理空間112b(処理空間112b3 )を、凝縮部112の粒子取出口95に対して開放することにより、光学測定装置3Aおよび粒子取出管5を介して回収され、前述と同様に洗浄され、乾燥されて用いられる。
【0122】なお、上記では、凝縮剤を蒸気として凝縮剤導入口72から導入する例を挙げたが、処理空間112bに面する、ロータ114の各外面114cの中央部に設けられた凹部内の少なくとも一部多孔質材料に設置し、その多孔質材料に対し予め凝縮剤を付着・含浸させ、加熱装置7を用いて処理空間112bにおいて飽和蒸気を発生させてもかまわない。
【0123】〔製造装置4〕図8に示す親水性粒子の製造装置21cは、上記記載の製造装置21の一変形例である。尚、製造装置21cにおける、上記記載の製造装置21・21a・21bと同一の機能を有する部材については、図8において、同一の部材番号を付与して、その説明を省いた。
【0124】製造装置21cの各構成については、製造装置21cを用いた親水性粒子の製造方法を説明することにより、それらの説明とする。まず、上記製造方法では、水等の凝縮剤を、直立状態に基台9上に固定された改質塔(凝縮箱)22内の内壁部2aに予め付着または含浸させると共に、改質塔22の蒸気発生空間22c内を核となりうる不純物が存在しない状態である、清浄空気などの清浄気体と置換した状態とする。
【0125】その後、改質塔22内を密閉する。この場合、液状粒子は、噴霧装置10から粒子供給管4を通じて、例えばエアロゾルとして粒子導入口4aから改質塔22内に導入される。したがって、粒子供給管4および粒子排出管41の各バルブ80・40は、液状粒子の導入時に開いておき、改質塔22内の空気が、噴霧装置10からの液状粒子のエアロゾルに置換された後、各バルブ80・40を閉じて、改質塔22内を密閉状態とする。
【0126】次に、改質塔22内にて凝縮剤の飽和蒸気を得るために、改質塔22内を加圧状態にするとともに、加熱する。加圧は、バルブ70を開き、加圧減圧用配管71および加圧減圧用口6を通じて改質塔22内に清浄気体を送り込むことによって行う。この加圧においては、改質塔22内を常圧より高い所定の圧力に昇圧する。改質塔22内の圧力は圧力計60により計測され、所定の圧力に達すると、バルブ70は閉じられる。
【0127】加熱は、加熱装置7を用いて行う。加熱装置7が作動すると、ヒータ7aから発生する熱が外壁部2b、内壁部2aおよび蒸気発生空間22cに伝達され、それらが加熱される。蒸気発生空間22c内の温度は温度計8により測定され、その測定値に基づいて上記加熱装置7の作動が制御される。
【0128】その後、水などの凝縮剤の飽和蒸気が得られるまで、改質塔22を適切な時間静置する。飽和蒸気を得るためには、少なくとも上記の加圧を行えばよく、加熱は必要に応じて補助的に行えばよい。これは、以下に示す他の各例においても同様である。上述した各動作については、図示しないが、マイクロコンピュータ等の制御手段により、検出された各温度や粒子径、個数濃度、圧力などの検出値に基づいて制御される。
【0129】以上の工程により、改質塔22内には、凝縮剤の飽和蒸気が得られる。この状態では、凝縮剤の蒸気が液状粒子の周囲を取りまくように存在している。次に、改質塔22内を断熱的に常圧まで減圧して、凝縮剤の飽和蒸気を過飽和状態にする。この際には、加圧減圧用配管71のバルブ70を開いて改質塔22内を大気に開放することにより、蒸気発生空間22c内における凝縮剤の飽和蒸気を断熱膨張させる。
【0130】これにより、液状粒子を含む蒸気発生空間22cにおいて、凝縮剤の飽和蒸気が過飽和状態となり、液状粒子の表面にて凝縮剤蒸気の凝縮反応が生じる。この結果、液状粒子の表面に液膜が生成され、前述したように改質された親水性粒子が析出する。バルブ70は、断熱膨張後、直ちに閉じる。
【0131】析出した親水性粒子は、改質塔22から外部に、光学測定装置3Aおよび粒子取出管5を介して回収され、前述と同様に洗浄され、乾燥されて用いられる。このような回収の際には、粒子供給管4および粒子排出管41の各バルブ80・40を開き、例えば、粒子供給管4から改質塔22内に清浄気体を導入し、改質塔22の蒸気発生空間22c内の親水性粒子を、粒子排出管41から排出して、蒸気発生空間22c内を清浄気体と置換することにより行う。
【0132】また、液状粒子を、粒子供給管4を介して、蒸気発生空間22c内に供給(導入)するとき、粒子供給管18内を通過する液状粒子を、必要に応じて、冷却装置19にて予め冷却してもよい。あるいは、噴霧装置10の前段に冷却装置19を設け、不活性ガスを予め冷却することにより、蒸気発生空間22c内に供給される液状粒子を予め冷却しておいてもよい。
【0133】〔製造装置5〕図9に示す親水性粒子の製造装置21dは、上記記載の製造装置21の一変形例である。尚、製造装置21dにおける、上記記載の製造装置21・21a・21b・21cと同一の機能を有する部材については、図9において、同一の部材番号を付与して、その説明を省いた。
【0134】製造装置21dの各構成については、製造装置21dを用いた親水性粒子の製造方法を説明することにより、それらの説明とする。まず、上記製造方法では、蒸気発生空間22cの処理空間容積を大きくするように、加圧減圧用ピストン75のピストン75aをクランク部75bによって下げ、改質塔22の蒸気発生空間22c内に、噴霧装置10から粒子供給管4を介して搬送された液状粒子を、例えばエアロゾルとして粒子導入口4aから、また、水等の凝縮剤を、蒸気として凝縮剤導入口72から、それぞれ導入する。
【0135】したがって、この場合、粒子導入口4aおよび凝縮剤導入口72の各バルブ80・74は開けておき、粒子取出管5のバルブ40は閉じておく。また、蒸気発生空間22cの下部においては、ピストン75aが往復移動して、蒸気発生空間22c内を加圧・減圧できるようにシリンダー部の形状となっている。
【0136】続いて、ピストン75aが最下位置にまで下がった後、各バルブ80・74を閉じて、蒸気発生空間22cを密閉状態とする。次に、蒸気発生空間22cにて凝縮剤蒸気の飽和蒸気を得るため、蒸気発生空間22cを加圧すると共に、加熱する。加圧は、ピストン75aを上げることにより行う。この加圧においては、改質塔22の蒸気発生空間22c内を常圧より高い所定の圧力に昇圧する。蒸気発生空間22c内の圧力は、圧力計60により計測され、圧力調節器50によって所定の圧力に設定される。
【0137】加熱は、加熱装置7を用いて行う。加熱装置7が作動すると、ヒータ7aから発生する熱が外壁部2b、内壁部2aおよび蒸気発生空間22cに加わり、それらが加熱される。蒸気発生空間22c内の温度は温度計8により測定され、その測定値に基づいて上記加熱装置7の作動が制御される。
【0138】その後、水などの凝縮剤の飽和蒸気が得られるまで、改質塔22を適切な時間静置する。飽和蒸気を得るためには、少なくとも上記の加圧を行えばよく、加熱は必要に応じて補助的に行えばよい。上述した各動作については、図示しないが、マイクロコンピュータ等の制御手段により、検出された各温度や粒子径、個数濃度、圧力などの検出値に基づいて制御される。
【0139】以上の工程により、改質塔22内には、凝縮剤の飽和蒸気が得られる。この状態では、凝縮剤の蒸気が液状粒子の周囲を取りまくように存在している。次に、改質塔22内を断熱的に常圧まで減圧して、凝縮剤の飽和蒸気を過飽和状態にする。この際には、ピストン75aを最下位置(初期位置)まで下げることによって蒸気発生空間22c内における凝縮剤の飽和蒸気を断熱膨張させる。
【0140】これにより、液状粒子を含む蒸気発生空間22cにおいて、凝縮剤の飽和蒸気が過飽和状態となり、液状粒子の表面にて凝縮剤蒸気の凝縮反応が生じる。この結果、液状粒子の表面に液膜が生成されることによって、前述したように改質された親水性粒子が析出する。上記親水性粒子の粒径については、光学測定装置3Aにて測定される。
【0141】析出した親水性粒子は、改質塔22から外部に、粒子取出管5および粒子排出管41を介して回収され、前述と同様に洗浄され、乾燥されて用いられる。このような回収は、粒子導入口4aおよび凝縮剤導入口72の各バルブ80・74を閉じる一方、粒子取出管5のバルブ40を開けておき、ピストン75aを最下位置から最上位置まで上げることにより行われる。
【0142】なお、上記では、凝縮剤を蒸気として凝縮剤導入口72から導入する例を挙げたが、蒸気発生空間(処理空間)22cに面する、改質塔22の内壁部2aの少なくとも一部を多孔質材料で構成し、その多孔質材料に予め凝縮剤を付着・含浸させ、加熱装置7を用い、蒸気発生空間22cにて飽和蒸気を発生させてもかまわない。
【0143】また、液状粒子を、粒子供給管4を介して、蒸気発生空間22c内に供給(導入)するとき、粒子供給管18内を通過する液状粒子を、必要に応じて、冷却装置19にて冷却してもよい。あるいは、噴霧装置10の前段に冷却装置19を設け、不活性ガスを予め冷却することにより、蒸気発生空間22c内に供給される液状粒子を予め冷却しておいてもよい。
【0144】以上の説明より明らかなように、上記例示の製造装置21〜21dはいずれも、非常に小粒径で、液体中で凝集しやすい疎水性の黄色系顔料を原料として、少なくとも表面に親水性が付与された黄色系顔料粒子(親水性粒子)を製造するためのものである。具体的には、黄色系顔料を酸性液に溶解して溶液を調製し、該溶液を液滴状にして、該液滴(液状粒子)に水蒸気を含む蒸気を凝縮させて希釈することにより、略均一の粒子径を有する親水性粒子を析出させるものである。
【0145】したがって、製造装置21〜21dによれば、従来のバッチ式による製造装置等と比較して、使用する薬品の量を抑制し、かつ、連続処理を行うことが出来る。また、上記液状粒子ならびに親水性粒子を気体を用いて搬送できることにより、装置構成および操作が簡素化され、より短時間で親水性付与処理をおこなうことが可能となる。さらに、製造された親水性粒子が帯電・集合することがないので、親水性粒子の分離工程を省略することができ、加えて、小さな粒子径を有する親水性粒子や略均一の粒子径を有する親水性粒子を安価に製造することができる。
【0146】これらの製造装置21〜21dを用いる場合には、親水性粒子の親水性付与度を調整することも可能である。例えば、上記親水性付与度を低下させる必要がある場合には、黄色系顔料を酸性液に溶解させる工程を短縮して溶液14を調製し、続いて、溶液14を液滴状とし、溶液14に水蒸気を含む蒸気を凝縮させて希釈することにより親水性粒子を析出させればよい。すなわち、黄色系顔料を酸性液に溶解させる工程を調整することにより、所望の親水性付与度を有する親水性粒子を製造することができる。
【0147】尚、言うまでもないが、少なくとも表面に親水性が付与された黄色系顔料粒子(親水性粒子)の製造は、必ずしも上記説明の製造装置21〜21dによって行われる必要はない。また、「液状粒子を水蒸気を含む蒸気の過飽和雰囲気に曝す(接触させる)」とは、上記説明のように、液状粒子と該蒸気とを接触させた後に該蒸気の過飽和雰囲気を形成する場合だけではなく、該蒸気の過飽和雰囲気を予め形成しておき、そこに液状粒子を導入する場合も含むものとする。
【0148】このようにして製造された親水性粒子が、上記説明の液体に分散されることで本発明にかかる記録液が調製される。親水性粒子の分散方法は特に限定されるものではなく、親水性粒子が記録液中に一様に分散することが可能なものであれば良い。具体的には例えば、記録液を密閉容器に封入して振とうしても良く(振とう機を使用することも含む)、撹拌棒や撹拌機等を用いて記録液を撹拌しても良い。さらには、記録液に超音波などで振動を与えるようにしても良い。また、製造された親水性粒子の液体に対する分散性が非常に良好な場合等は、放置しておくだけで液体中に親水性粒子が均一な分散をすることもあろう。
【0149】上記例示の分散方法のうち、超音波を用いた方法が簡便であるために好ましい。また、撹拌機としてホモジナイザーを用いる方法は、親水性粒子のミクロな分散を行うことができるので、親水性粒子の凝集を防ぎ、保存安定性に優れた記録液を提供することができる。
【0150】上記説明の親水性粒子が液体に分散されてなる本発明の記録液は、黄色系顔料に親水性付与処理を施すことによる変色が生じにくく、また、それ自体で噴射安定性、保存安定性、記録画像の耐水性等に優れたものである。これは、親水性粒子が、少なくとも表面に親水性を付与されている(例えば、スルフォン化されている)ためである。
【0151】すなわち、親水性粒子はその表面に親水性が付与されているので、上記液体となじみやすい。親水性粒子が液体に分散されると、該粒子は液面上に止まることなく一様に分散し、該粒子が互いに凝集することがない。したがって、本発明の記録液は、記録材としての親水性粒子を一様に分散した状態を長く保っておくことができるものであり、噴射安定性ならびに保存安定性に優れたものとなる。
【0152】また一方、親水性粒子は黄色系顔料本来の性質である疎水性を有している。このため、記録媒体の表面(記録面)が親水性であっても、疎水性であっても、記録液の定着性が良好である。さらに、化学的に安定な黄色系顔料よりなる親水性粒子は、もとの黄色系顔料の色と比較して色彩・色調の変化がほとんどないので、これらを分散してなる記録液は良好な色彩・色調を有する。
【0153】そして、記録液の特性をさらに改良するため必要に応じて、上記説明の湿潤剤、滲み防止剤、水溶性染料、可溶化剤などを添加含有させてもよい。これにより、記録液の上記特性のさらなる向上、さらには、記録媒体への定着性の向上(滲みが発生しないこと)を図ることができる。
【0154】尚、熱エネルギーの作用によって記録液を吐出させるタイプのインクジェット印字装置を適用する場合には、記録液の熱的な物性値が適性範囲内となるように、該記録液を調製すればよい。
【0155】本発明の記録液は、インクジェット記録用の記録液として優れた特性を有しているが、特にこの用途に限定されるものではない。例えば、紙等の記録媒体(その表面が、親水性であっても疎水性であっても構わない)に記録を行うボールペンまたはマーキングペン等の筆記用具等の記録液として使用すれば、耐水性や耐光性に優れ、また、鮮明な色調で充分な濃度を有する高品位な画像を記録媒体上に形成することができる。
【0156】次に、以下に説明する実施例中で評価された記録液の特性の種類および測定方法について説明を行う。
【0157】A)噴射安定性口径30μmのガラスノズルを有するインクジェット印字装置の記録液タンクに10mlの記録液を入れ、一旦噴射してから停止し、停止した状態で、3日、7日、14日、30日、60日、および90日の各期間、室温下で放置した後再噴射し、ガラスノズルの目詰まりの有無を調べた。それぞれの評価値は、目詰まりをおこすことなく再噴射可能な最大放置日数で表している。
【0158】B)保存安定性各記録液15mlをパイレックス試験管に密封したものを2本づつ用意し、一方を0℃で、もう一方を50℃で一ヵ月間放置した後に析出物の発生の有無を調べた。
【0159】C)耐水性噴射安定性の測定で使用したインクジェット印字装置を用いて上質紙にジェット記録し、記録後の該上質紙を水に浸漬して、何の変化も生じないものを○、印刷が滲む、印刷の濃度が低下する等、記録状態に変化が生じたものを×として評価を行った。
【0160】D)滲み口径30μmのガラスノズルを有するインクジェット印字装置を用いて上質紙にジェット記録し、該上質紙に噴射された記録液の滲みの発生を目視による4段階で評価した。尚、数字が大きい方が滲みは少ないことを示しており、「1」は滲み有り、「2」は多少滲み有り、「3」はほとんど滲み無し、「4」は滲み無しの状態を示している。
【0161】E)色彩および色調色彩および色調の評価は目視で行った。具体的には、以下に述べる実施例1の記録液と比較して、透明性が向上したものを◎、変わらないものを○、劣るものを×で示した。尚、以下に述べるように実施例1の記録液は、実施例1の懸濁液(親水性付与前の黄色系顔料を純水に懸濁したもの)と同等の色彩および色調を有しているので、本測定により、親水性付与前の黄色系顔料と比較した色彩および色調の評価を間接的になすことができる。
【0162】
【実施例】以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。尚、以下に示す実施例において、親水性が付与された黄色系顔料粒子を親水性粒子、親水性付与前の黄色系顔料を単に黄色系顔料とし、両者を区別するものとする。
【0163】〔実施例1〕始めに親水性粒子を図2に示す製造装置21を用いて製造した。尚、他の製造装置21a〜21d(図3、図7、図8、図9参照)を用いた場合でも同様の条件で、親水性粒子を製造することができることは言うまでもない。
【0164】黄色系顔料としては、モノアゾ構造を有する Fast Yellow F5G(山陽色素株式会社製)を用いた。1gの Fast Yellow F5Gを、酸性液としての98%硫酸(濃硫酸)100mlに溶解させ、さらに1時間程度静置して溶液14を調製した。続いて、該溶液14を噴霧装置10に投入した。
【0165】一方、蒸気発生部22aにおいては、水20を貯留部2cに貯留した後、改質塔22を閉じ、加熱装置7を用いて蒸気発生部22aを加熱することにより、飽和水蒸気を発生させた。
【0166】次に、噴霧装置10により液状粒子を形成し、該液状粒子を冷却装置19にて冷却するとともに、粒子供給管18・4を介して、冷却管としての混合管29内部に導入した。該液状粒子を供給した後、冷却部30を用いて混合管29を冷却することで、飽和水蒸気を冷却して過飽和水蒸気(過飽和雰囲気)を形成し、液状粒子表面に水を凝縮させた。これにより、液状粒子に含まれている顔料が析出し、本発明にかかる記録液中に分散される親水性粒子が製造される。このようにして得られた親水性粒子は、粒子取出管5を介して改質塔22内部から取り出され、回収された。さらに、必要に応じて、親水性粒子は、超純水にて洗浄されてもよい。このようにして得られた親水性粒子の粒子径は約80nmであった。
【0167】続いて、上記の親水性粒子に、該親水性粒子の配合割合が1重量%となるように純水(液体)を加え、続いて、超音波分散器(ut−105:シャープ株式会社製)を用いて、親水性粒子が加えられた純水を10分間分散し、親水性粒子を純水中に分散させた。次に、0.5μmメンブレンフィルタでろ過し、本発明にかかる記録液としての黄色インク(1)を調製した。
【0168】一方、上記の黄色系顔料 Fast Yellow F5Gの配合割合が1重量%となるように純水を加え、続いて、黄色インク(1)の調製方法と同様の方法で、比較用の懸濁液を調製した。
【0169】黄色インク(1)は、懸濁液と比較して、変色のない良好な色彩を有していた。また、上記の懸濁液においては、黄色系顔料が疎水性であるため超純水に濡れることがない。したがって該懸濁液を静置すると、黄色系顔料が超純水と混ざりあわずに、水面上に浮上してしまった。これに対し、本実施例にかかる黄色インク(1)においては、黄色系顔料粒子が親水性を有するため、該粒子が超純水と容易に混ざりあい、黄色インク(1)中に一様に分散・浮遊した。
【0170】次に、黄色インク(1)に含まれる親水性粒子の表面、および、懸濁液に含まれる黄色系顔料の表面それぞれについて赤外吸収スペクトルの測定を行った。その結果、図1(a)・(b)に示すように、親水性粒子の表面には、親水性付与処理前には存在しなかったスルフォン(スルホォン)酸基(図1(b)に示す)が導入されている(すなわち、スルフォン化されている)ことが確認された。すなわち、黄色インク(1)においては、黄色系顔料粒子の表面にスルフォン酸基が付与されたために、純水(液体)に対する濡れ性が向上することが認められた。
【0171】続いて、上記の黄色インク(1)について、上記説明のA)噴射安定性、B)保存安定性、C)耐水性、D)滲み、E)色彩および色調の諸特性について測定した。この結果は、後述する実施例2〜5、比較例1〜4の結果とまとめて表1に示す。
【0172】さらに、黄色インク(1)を筆記具用水性インクとしてボールペンまたはマーキングペンに充填し、経時安定性試験および耐水性試験Aを行った。経時安定性試験は、黄色インク(1)を充填したボールペンまたはマーキングペンを横向きにして15日間、30日間放置した後、JIS P 3201の筆記用紙に筆記した際の筆跡の状態を観察し、黄色インク(1)を充填した直後と同様に筆記できれば○、かすれの発生等筆記状態の悪化がみられたものには×として評価した。
【0173】また、耐水性試験Aは、黄色インク(1)を充填したボールペンまたはマーキングペンを使用して、JIS P 3201の筆記用紙に筆記し、30秒経過した後に該筆記用紙を水に浸漬して、筆跡に変化のないものを○、筆跡が滲んだり、筆跡の濃度が低下したものを×として評価した。これら経時安定性試験および耐水性試験Aの結果は、後述する実施例2〜5、比較例1〜4の結果とまとめて表2に示す。尚、表2において耐水性試験Aの結果は、耐水性Aとして表している。
【0174】〔実施例2〕実施例1で得られた親水性粒子、ポリアクリル酸アンモニウム(滲み防止剤)、ジエチレングリコール(液体、および、湿潤剤を兼ねる)、グリセリン(液体、および、湿潤剤を兼ねる)、および、界面活性剤(可溶化剤)としての「BT−7」(日光ケミカルズ株式会社製)に純水(液体)を加えて撹拌し、該親水性粒子を分散することで分散液を調製した。この分散液中における、親水性粒子、ポリアクリル酸アンモニウム、ジエチレングリコール、グリセリン、および、BT−7の配合割合は、それぞれ1重量%、1重量%、7.5重量%、2.5重量%、および1重量%である。
【0175】次に、この分散液を上記実施例1と同様の方法によりろ過し、本発明にかかる記録液としての黄色インク(2)を調製した。上記黄色インク(2)は、黄色インク(1)と比較して、変色のない良好な色彩を有していた。また、黄色インク(2)を上質紙にジェット記録し、乾燥させることにより、上記黄色インク(1)に対する乾燥性を乾燥時間により評価したところ、乾燥時間は黄色インク(1)とほぼ同等であった。
【0176】上記の黄色インク(2)について、黄色インク(1)と同様に、上記説明のA)からE)までの諸特性について測定した。この結果を表1にまとめて示す。
【0177】続いて、黄色インク(2)を筆記具用水性インクとしてボールペンまたはマーキングペンに充填し、上記実施例1と同様の方法で経時安定性試験および耐水性試験Aを行った。この結果を表2にまとめて示す。
【0178】〔比較例1〕上記実施例2において、親水性粒子を、黄色系顔料 Fast Yellow F5Gに代えた以外は、実施例2と同様の条件・方法により、比較用の黄色インク(a)を調製した。上記の黄色インク(a)について、黄色インク(1)と同様に、A)からE)までの諸特性について測定した。この結果を表1にまとめて示す。
【0179】続いて、黄色インク(a)を筆記具用水性インクとしてボールペンまたはマーキングペンに充填し、上記実施例1と同様の方法で経時安定性試験および耐水性試験Aを行った。この結果を表2にまとめて示す。
【0180】〔実施例3〕上記実施例2において、ポリアクリル酸アンモニウムに代えて、滲み防止剤としてビニルアルコールとアクリル酸との共重合体である「クラストマーAP−22」(株式会社クラレ製)を、分散液に対し3.0重量%となるように添加し、続いて、実施の形態1で用いた超音波分散器を使用して、親水性粒子を含む分散液を10分間撹拌し、親水性粒子を分散液中に分散させた。
【0181】次に、0.5μmメンブレンフィルタでろ過し、本発明にかかる記録液としての黄色インク(3)を調製した。黄色インク(3)は、黄色インク(1)と比較して、変色のない良好な色彩を有していた。また、黄色インク(3)の黄色インク(1)に対する乾燥性を、実施例2と同様の方法で評価したところ、乾燥時間は黄色インク(1)とほぼ同等であった。上記の黄色インク(3)について、黄色インク(1)と同様に、A)からE)までの諸特性について測定した。この結果をまとめて表1に示す。
【0182】続いて、黄色インク(3)を筆記具用水性インクとしてボールペンまたはマーキングペンに充填し、上記実施例1と同様の方法で経時安定性試験および耐水性試験Aを行った。この結果をまとめて表2に示す。
【0183】〔比較例2〕上記実施例3において、親水性粒子を黄色系顔料 Fast Yellow F5Gにかえた以外は、実施例3と同様の方法により、比較用の黄色インク(b)を調製した。上記の黄色インク(b)について、上記A)からE)までの諸特性について測定した。この結果を表1にまとめて示す。
【0184】続いて、黄色インク(b)を筆記具用水性インクとしてボールペンまたはマーキングペンに充填し、上記実施例1と同様の方法で経時安定性試験および耐水性試験Aを行った。この結果を表2にまとめて示す。
【0185】〔実施例4〕実施例1で得られた親水性粒子、水溶性染料としての C.I.Direct Yellow44、ポリアクリル酸アンモニウム(滲み防止剤)、ジエチレングリコール(液体、および、湿潤剤を兼ねる)、グリセリン(液体、および、湿潤剤を兼ねる)、および、BT−7(可溶化剤)に純水(液体)を加えて分散液を調製し、該分散液に実施例1で用いた超音波分散器にて超音波を照射するとともに、ホモジナイザーにて該分散液を撹拌し、親水性粒子を分散液中に一様に分散させた。分散液における、親水性粒子、水溶性染料、ポリアクリル酸アンモニウム、ジエチレングリコール、グリセリン、および、BT−7の配合割合は、それぞれ、1重量%、0.1重量%、2.0重量%、7.5重量%、2.5重量%、および1重量%である。
【0186】次に、上記の分散液を実施例1と同様の方法によりろ過し、本発明にかかる記録液としての黄色インク(4)を調製した。黄色インク(4)は、黄色インク(1)と比較して変色のない良好な色彩を有していた。また、黄色インク(4)の黄色インク(1)に対する乾燥性を、実施例2と同様の方法で評価したところ、乾燥時間は黄色インク(1)とほぼ同等であった。
【0187】上記の黄色インク(4)について、上記A)からE)までの諸特性について測定した。この結果を表1にまとめて示す。
【0188】続いて、黄色インク(4)を筆記具用水性インクとしてボールペンまたはマーキングペンに充填し、上記実施例1と同様の方法で経時安定性試験および耐水性試験Aを行った。この結果を表2にまとめて示す。
【0189】〔比較例3〕水溶性染料としての C.I.Direct Yellow44、ポリアクリル酸アンモニウム、ジエチレングリコール、グリセリン、および、BT−7に純水を加えて溶液を調製し、該溶液に実施例1で使用した超音波分散器にて超音波を照射するとともに、ホモジナイザーにて該溶液を撹拌し、水溶性染料を溶液中に一様に溶解させた。溶液における、水溶性染料、ポリアクリル酸アンモニウム、ジエチレングリコール、グリセリン、および、BT−7の配合割合は、それぞれ、1重量%、0.05重量%、7.5重量%、2.5重量%、および1重量%である。次に、上記の溶液を実施例1と同様の方法によりろ過し、比較用の黄色インク(c)を調製した。そして、黄色インク(c)について、上記A)からE)までの諸特性について測定した。この結果を表1にまとめて示す。
【0190】続いて、黄色インク(c)を筆記具用水性インクとしてボールペンまたはマーキングペンに充填し、上記実施例1と同様の方法で経時安定性試験および耐水性試験Aを行った。この結果を表2にまとめて示す。
【0191】〔実施例5〕親水性粒子として実施例1で得られた粒子径80nmの親水性粒子、および、実施例1と同様の処理により親水性が付与された粒子径180nmの親水性粒子を混合して使用し、さらに、ポリアクリル酸アンモニウム(滲み防止剤)、ジエチレングリコール(液体、および、湿潤剤を兼ねる)、グリセリン(液体、および、湿潤剤を兼ねる)、および、BT−7(可溶化剤)に純水(液体)を加えて分散液を調製し、該分散液を撹拌して、上記親水性粒子を分散液中に一様に分散した。分散液における、粒子径80nmの親水性粒子、粒子径180nmの親水性粒子、ポリアクリル酸アンモニウム、ジエチレングリコール、グリセリン、および、BT−7の配合割合は、それぞれ、0.8重量%、0.2重量%、1重量%、7.5重量%、2.5重量%、および1重量%である。次に、上記の分散液を実施例1と同様の方法によりろ過し、本発明にかかる記録液としての黄色インク(5)を調製した。黄色インク(5)は、黄色インク(1)と比較して変色のない良好な色彩を有していた。また、黄色インク(5)の黄色インク(1)に対する乾燥性を、実施例2と同様の方法で評価したところ、乾燥時間は黄色インク(1)とほぼ同等であった。
【0192】上記の黄色インク(5)について、上記A)からE)までの諸特性について測定した。この結果を表1にまとめて示す。
【0193】続いて、黄色インク(5)を筆記具用水性インクとしてボールペンまたはマーキングペンに充填し、上記実施例1と同様の方法で経時安定性試験および耐水性試験Aを行った。この結果を表2にまとめて示す。
【0194】〔比較例4〕上記実施例5において、親水性粒子に代えて黄色系顔料 Fast Yellow F5Gを使用した以外は、実施例5と同様の方法により、比較用の黄色インク(d)を調製した。そして、黄色インク(d)について、上記A)からE)までの諸特性について測定した。この結果を表1にまとめて示す。
【0195】続いて、黄色インク(d)を筆記具用水性インクとしてボールペンまたはマーキングペンに充填し、上記実施例1と同様の方法で経時安定性試験および耐水性試験Aを行った。この結果を表2にまとめて示す。
【0196】まず始めに示す表1は、上記の実施例1〜5および比較例1〜4にかかる黄色インクの上記A)からE)までの諸特性について測定した結果をまとめたものである。
【0197】
【表1】


【0198】上記の実施例1〜5および比較例1〜4の結果から、本発明にかかる記録液〔黄色インク(1)〜黄色インク(5)〕は、色彩・色調を劣化させる変化をきたしておらず、また、従来の黄色系顔料を用いた記録液〔黄色インク(a)、(b)、(d)〕と比較して保存安定性、噴射安定性、耐水性の全ての点で優れた性質を持っていることが分かる。
【0199】また、上記の実施例2および3の結果から、本発明の記録液がポリアクリル酸アンモニウムや、ビニルアルコールとアクリル酸との共重合体等の滲み防止剤をさらに含むことにより、記録液の乾燥性を低下させることなく滲みの少ない記録を行えることが分かる。さらに、実施例4の結果から、親水性粒子とあわせて水溶性染料を同時に用いることにより、記録液の色調・色彩を向上させることができること、また、実施例5の結果から大きさが異なる2種類の顔料を同時に用いることにより、さらに滲みの少ない記録を行えることが分かる。
【0200】比較例3のように、着色剤として水溶性染料のみを用いた場合には、水溶性染料は液体に溶解するため、保存安定性および噴出安定性に優れてはいるが、耐水性に乏しく、滲みが激しい。しかしながら、本発明にかかる記録液は、水溶性染料のみを用いた記録液〔黄色インク(c)〕なみの保存安定性および噴射安定性を有するとともに、耐水性に優れ、滲みが抑制された記録液を得ることができることが分かる。
【0201】次に示す表2は、上記の実施例1〜5および比較例1〜4にかかる黄色インクの経時安定性試験および耐水性試験Aの結果をまとめたものである。
【0202】
【表2】


【0203】上記の実施例1〜5および比較例1〜4の結果より明らかなように、本発明にかかる記録液は、ボールペンまたはマーキングペン等の筆記具用記録液として用いられても、経時安定性および耐水性に優れた良好な記録液であることが分かる。
【0204】
【発明の効果】本発明の請求項1記載の黄色系記録液は、以上のように、少なくとも表面に親水性が付与された黄色系顔料粒子が液体中に分散されてなる構成である。
【0205】上記の構成によれば、親水性粒子はその表面に親水性が付与されているので、液体となじみやすい。親水性粒子が液体に分散されると、該粒子は液面上に止まることなく一様に分散し、該粒子が互いに凝集することがない。したがって、記録材としての親水性粒子を一様に分散した状態を長く保っておくことができ、噴射安定性ならびに保存安定性に優れた黄色系記録液を提供することができる。
【0206】また一方、親水性粒子は黄色系顔料本来の性質である疎水性を有している。このため、記録媒体の表面が親水性であっても、疎水性であっても、記録液の定着性が良好である。さらに、化学的に安定な黄色系顔料よりなる親水性粒子は、もとの黄色系顔料の色と比較して色彩・色調の変化がほとんどないので、これらを分散してなる記録液は良好な色彩・色調を有する。
【0207】すなわち、黄色系顔料に親水性付与処理を施すことによる変色が生じにくく、また、それ自体で噴射安定性、保存安定性、記録画像の耐水性等に優れた黄色系記録液を提供することができるという効果を奏する。
【0208】本発明の請求項2記載の黄色系記録液は、以上のように、請求項1記載の構成において、上記黄色系顔料粒子がアゾ構造を有している構成である。
【0209】上記の構成によれば、請求項1記載の構成による効果に加えて、化学的に安定で、親水性付与処理に起因する変色が少なく、また、耐光性および耐候性等に優れた黄色系記録液を提供することができるという効果を奏する。
【0210】本発明の請求項3記載の黄色系記録液は、以上のように、請求項2記載の構成において、上記黄色系顔料粒子がモノアゾ構造を有している構成である。
【0211】上記の構成によれば、化学的に極めて安定で、親水性付与処理に起因する変色がなく、また、耐光性および耐候性等に優れた黄色系記録液を提供することができるという効果を、請求項2記載の構成による効果に加えて奏する。
【0212】本発明の請求項4記載の黄色系記録液は、以上のように、請求項1から3のいずれか一項に記載の構成において、上記黄色系顔料粒子が、少なくとも2種類以上の粒子径を有している構成である。
【0213】上記の構成によれば、例えば紙等の記録媒体上に噴射された記録液中において、黄色系顔料粒子の凝集速度をコントロールすることができ、記録液の滲みを軽減することができるという効果を、請求項1から3のいずれか一項に記載の構成による効果に加えて奏する。
【0214】本発明の請求項5記載の黄色系記録液は、以上のように、請求項1から4のいずれか一項に記載の構成において、上記液体として湿潤剤が含有されてなる構成である。
【0215】上記の構成によれば、記録液中の液体(主に水を指す)の蒸発を防止して、黄色系顔料粒子が会合・析出することによるノズルの目詰まりを防止することができるという効果を、請求項1から4のいずれか一項に記載の構成による効果に加えて奏する。
【0216】本発明の請求項6記載の黄色系記録液は、以上のように、請求項1から5のいずれか一項に記載の構成において、さらに、滲み防止剤が含有されてなる構成である。
【0217】上記の構成によれば、記録媒体への記録液の浸透性が低下し、記録時における記録液の滲みをより有効に抑制することができるという効果を、請求項1から5のいずれか一項に記載の構成による効果に加えて奏する。
【0218】本発明の請求項7記載の黄色系記録液は、以上のように、請求項6記載の構成において、上記滲み防止剤がビニルアルコールとアクリル酸との共重合体またはポリアクリル酸アンモニウムである構成である。
【0219】上記の構成によれば、記録液の乾燥性を低下させることなく該記録液の滲みを防止することができる。したがって、記録媒体として例えば普通紙を使用した場合であっても乾燥性が良く、滲みの少ない記録を行う記録液を提供することができるという効果を、請求項6記載の構成による効果に加えて奏する。
【0220】本発明の請求項8記載の黄色系記録液は、以上のように、請求項1から7の何れか一項に記載の構成において、さらに、水溶性染料が含有されてなる構成である。
【0221】上記の構成によれば、記録液の透明性、光沢性、色調を向上させることができ、加えて、これら色調の細かな変更が可能になるので、記録液の使用分野を拡大することができる。また、記録液の保存安定性を向上させることができるという効果を、請求項1から7の何れか一項に記載の構成による効果に加えて奏する。
【0222】本発明の請求項9記載の黄色系記録液の使用方法は、以上のように、請求項1から8のいずれか一項に記載の黄色系記録液の使用方法であって、上記記録液が、インクジェット印字装置用記録液または筆記具用記録液として使用される方法である。
【0223】上記の方法によれば、記録液は噴射安定性、保存安定性等に優れているので、インクジェット装置用の記録液として用いられた場合、インクジェット印字装置のノズルが詰まることを防止することができる。さらに、記録媒体の表面が、親水性であれ疎水性であれ、経時安定性、耐水性、耐光性等に優れ、また、鮮明な色調で充分な濃度を有する高品位な記録を該記録媒体上に形成することができるという効果を奏する。
【0224】本発明の請求項10記載の黄色系記録液の製造方法は、以上のように、黄色系顔料を酸性液中に溶解した溶液を調製する工程と、上記溶液を粒子状にする工程と、上記粒子を水蒸気を含む蒸気と接触させるとともに、該蒸気の過飽和雰囲気を形成する工程と、上記粒子の表面に水を凝縮させて少なくとも表面に親水性が付与された黄色系顔料粒子を析出させる工程と、析出した上記黄色系顔料粒子を液体に分散させる工程とを含む方法である。
【0225】上記の方法によれば、黄色系顔料に親水性を付与するために撹拌翼等の撹拌装置を用いて撹拌する工程を含む必要がないので、親水性粒子(少なくとも表面に親水性が付与された黄色系顔料粒子)が摩擦等によって帯電し、互いに凝集するおそれが無い。よって、析出した上記親水性粒子を凝集させることなく液体に容易に分散させることができるため、均質な黄色系記録液を提供することが可能となる。
【0226】また、水蒸気を含む蒸気を発生させることのできる装置を用いるので、簡便な装置および操作で短時間で連続的に処理することができる。さらに、親水性粒子が析出によって形成されるので、得られる親水性粒子の粒子径が、用いた疎水性物質(黄色系顔料)の粒子径に左右されず、また、該親水性粒子の粒子径を比較的小さくかつ揃えることができる。よって、所望の粒子径を有する親水性粒子が一様に分散されてなる黄色系記録液を容易に提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、本発明の記録液に分散される親水性粒子(少なくとも表面に親水性を付与された黄色系顔料粒子)の親水性付与処理前(黄色系顔料のままの状態)の赤外吸収スペクトルを示すグラフであり、(b)は、親水性付与処理後の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図2】本発明の記録液に分散される親水性粒子を製造する製造装置の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の記録液に分散される親水性粒子を製造する製造装置の他の例を示す概略図である。
【図4】本発明の記録液に分散される親水性粒子を製造する製造装置に用いる造粒装置の一変形例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の記録液に分散される親水性粒子を製造する製造装置に用いる造粒装置の他の変形例を示す概略断面図である。
【図6】本発明の記録液に分散される親水性粒子を製造する製造装置に用いる造粒装置のさらに他の変形例を示す概略断面図である。
【図7】本発明の記録液に分散される親水性粒子を製造する製造装置のさらに他の例を示す概略図である。
【図8】本発明の記録液に分散される親水性粒子を製造する製造装置のさらに他の例を示す概略図である。
【図9】本発明の記録液に分散される親水性粒子を製造する製造装置のさらに他の例を示す概略図である。
【符号の説明】
14 溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】少なくとも表面に親水性が付与された黄色系顔料粒子が液体中に分散されてなることを特徴とする黄色系記録液。
【請求項2】上記黄色系顔料粒子がアゾ構造を有していることを特徴とする請求項1記載の黄色系記録液。
【請求項3】上記黄色系顔料粒子がモノアゾ構造を有していることを特徴とする請求項2記載の黄色系記録液。
【請求項4】上記黄色系顔料粒子が、少なくとも2種類以上の粒子径を有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の黄色系記録液。
【請求項5】上記液体として湿潤剤が含有されてなることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の黄色系記録液。
【請求項6】さらに、滲み防止剤が含有されてなることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の黄色系記録液。
【請求項7】上記滲み防止剤がビニルアルコールとアクリル酸との共重合体またはポリアクリル酸アンモニウムであることを特徴とする請求項6記載の黄色系記録液。
【請求項8】さらに、水溶性染料が含有されてなることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の黄色系記録液。
【請求項9】請求項1から8のいずれか一項に記載の黄色系記録液の使用方法であって、上記記録液が、インクジェット印字装置用記録液または筆記具用記録液として使用されることを特徴とする黄色系記録液の使用方法。
【請求項10】黄色系顔料を酸性液中に溶解した溶液を調製する工程と、上記溶液を粒子状にする工程と、上記粒子を水蒸気を含む蒸気と接触させるとともに、該蒸気の過飽和雰囲気を形成する工程と、上記粒子の表面に水を凝縮させて少なくとも表面に親水性が付与された黄色系顔料粒子を析出させる工程と、析出した上記黄色系顔料粒子を液体に分散させる工程とを含むことを特徴とする黄色系記録液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2000−265094(P2000−265094A)
【公開日】平成12年9月26日(2000.9.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−65514
【出願日】平成11年3月11日(1999.3.11)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】