説明

鼻腔内投与用のテトラカインおよび血管収縮薬を含む歯科用麻酔剤

本発明は、テトラカインベースの麻酔処方物およびその使用法に関する。本発明はさらに、テトラカインの局所的処方物および身体組織を局所麻酔する方法に関する。本発明はまた、テトラカインベースの歯科用麻酔処方物、およびこれら処方物を使用して、上顎歯列弓を麻酔する方法に関する。一局面において、本発明は、身体部分、器官もしくは組織のうちの少なくとも一部を麻酔するために有用であるテトラカインベースの麻酔処方物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の技術分野)
本発明は、テトラカインベースの麻酔処方物およびその使用法に関する。本発明はさらに、テトラカインの局所的処方物および身体組織を局所麻酔する方法に関する。本発明はまた、テトラカインベースの歯科用麻酔処方物、およびこれら処方物を使用して、上顎歯列弓を麻酔する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
上顎歯を麻酔するための最も一般的な手段は、浸潤注射(infiltration injection)の使用である。例えば、患者は、処置されるべき歯の頬側表面にある根尖部付近に針穿刺および局所麻酔液剤の注射を受け得る。歯科用局所麻酔剤の上顎口蓋注射(maxillary palatal injection)は、歯の局部的(regional)ブロック麻酔のために使用され得る。上記患者はまた、局部的神経ブロックをもたらすために、局所麻酔剤の上顎口蓋注射を受け得る。
【0003】
歯科的な懸念(針もしくは注射時の不快感および恐怖症が挙げられる)は、定期的なデンタルケアの長年にわたる障壁である。米国歯科医師会によって行われる手術において、調査された人のうちの27%は、歯科医へ通院するのを割ける理由として、「痛みへの恐怖」を指摘した。局所麻酔剤の針注射は、小児もしくは成人にとって、歯科医術における最も不安を引き起こす手順として認識されている。局所麻酔剤の注射が恐怖、疼痛および血圧上昇を生じ得るだけでなく、注射の増大したストレスが、失神、過換気、痙攣、ショック、高血圧、心停止、呼吸器虚脱(respiratory collapse)、保存剤に対する急性アレルギー反応、気管支痙攣、アンギナ、および医学的に障害を生じた患者における器官系毒性を生じ得る。さらに、標的神経への局所的注射は、ときおり、神経を針によって損傷および/もしくは切断する結果として、永久的な麻痺をもたらし得る。稀な症例では、注射用麻酔剤の重篤な過剰摂取、もしくは上記麻酔剤の偶発的な、急激な血管内注射が、死すらもたらし得る。注射行為は、(概念的に、心理的に、および物理的に)侵襲的であり、世界中で、なぜ人々が定期的なデンタルケアを回避し、緊急時のみ彼らの歯科医に診せるのかという主な原因である。実際に、いくつかの研究では、米国の数百万人の人々が、疼痛の性で、歯科処置を恐れていることが示されている。定期定なデンタルケアがなければ、齲蝕、歯周病(gum disease)および口腔癌が、検出されないままであり得、感染および重篤で全身的な健康上の問題を生じ得る。
【0004】
さらに、針刺しを介した血液感染病原体への曝露のリスクは、歯科において認識されている職業上の危険である。1991年以降、労働安全衛生機関(the Occupational Safety and Health Administration(「OSHA」))は、雇用者が、より安全な医療用デバイスを同定し、評価し、与えて、血液感染病原体への被雇用者の曝露を排除もしくは最小限にする必要があるという血液感染病原体基準を実施した。上記基準は、議会が針刺し安全防止法(Needlestick Safety and Prevention Act)を通過させた2001年に改定された。上記法律は、血液感染病原体基準の下での雇用者義務をより詳細に示し、「より安全な医療用デバイス」が、針無しシステムを含むということを具体的に示した。従って、針を使用せずに送達され得る麻酔剤を開発し、かつ米国連邦政府が命令した強化作業場管理に従うさらなる動機が存在する。
【0005】
リドカイン(今日、最も広く使用されている局所用歯科麻酔剤である)は、1940年代に最初に導入された。針無し麻酔剤を開発しようとする多くの試みがなされたにも拘わらず、今日市販されている、唯一広く使用されている注射しない表面下(subsurface)局所麻酔剤は、Oraqix(登録商標)ゲルである。Oraqix(登録商標)は、スケーリングもしくはルートプレーニング手順の間に歯周ポケットの中で使用され得る一方で、充填、歯冠および歯根管のような、手順において使用するための適切な麻酔剤を提供しない。さらに、歯科の快適さにおいて多くの進歩があった(例えば、行動変容療法、注射部位周辺の局所麻痺、一酸化二窒素、催眠、およびTENSユニット)ものの、これら進歩のいずれも、針注射の必要性を排除しなかった。
【0006】
麻酔剤の鼻投与はまた、例えば、特許文献1において開示されていない。
【0007】
従って、代替のおよび有効な麻酔剤の必要性が未だ残っている。特に、代替のおよび有効な麻酔剤の必要性、ならびに患者に口腔外軟組織麻痺も、不快感も、もしくは恐怖症も生じずに、患者の歯を麻酔するために、上記患者にこのような麻酔剤を投与するための手段の必要性が未だ残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,413,499号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、テトラカインベースの麻酔剤およびその使用法を提供する。
【0010】
一局面において、本発明は、身体部分、器官もしくは組織のうちの少なくとも一部を麻酔するために有用であるテトラカインベースの麻酔処方物を提供する。
【0011】
いくつかの実施形態において、本発明は、上顎歯列弓を麻酔するための有用な、鼻のテトラカインベースの歯科用麻酔処方物を提供する。本発明は、鼻腔中の特定の領域および/もしくは副鼻腔(nasal sinus)(例えば、上顎洞)に麻酔剤を送達することに基づく。本発明はまた、上歯神経叢(anterior dental plexus)、中上歯槽神経(middle superior nerve)の伸長部(extension)、後上歯槽神経、顔面神経および頬神経の侵害受容器、ならびに/または蝶形口蓋(翼口蓋)神経節へ上記麻酔剤を送達することに基づく。
【0012】
上歯の神経は、鼻腔を通って下へ向かって歯の中に伸びる木の枝のようである。本発明の薬学的組成物は、鼻腔の後方へと投与され、神経経路の基部もしくは「幹(trunk)」に影響を及ぼす。これは、上歯(各側の2本の智歯および第2大臼歯以外)の全てからの神経インパルスを伝える枝、ならびに顔面軟組織のAδ繊維およびC痛覚繊維(C pain fiber)を麻酔する。いくらかの場合においては、上記第2大臼歯は、実際に麻酔される。
【0013】
一局面において、本発明は、a)テトラカイン、もしくはその薬学的に受容可能な塩;b)血管収縮薬;およびc)薬学的に受容可能なキャリアを含む薬学的組成物を提供する。他の実施形態において、上記薬学的組成物は、a)テトラカイン、もしくはその薬学的に受容可能な塩;b)血管収縮薬;c)保存剤;d)増粘剤(viscosity enhancing agent);およびe)薬学的に受容可能なキャリアを含む。いくつかの実施形態において、上記組成物は、約2.0〜5.0% (w/v) テトラカインを含む。いくつかの実施形態において、上記組成物は、約2.25〜4.75% (w/v) テトラカインを含む。他の実施形態において、上記組成物は、約2.5〜4.0% (w/v) テトラカインを含む。さらに他の実施形態において、上記組成物は、約2.5〜3.5% (w/v) テトラカインを含む。他の実施形態において、上記組成物は、約3% (w/v) テトラカインを含む。いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物は、鼻腔内投与用である。
【0014】
本発明の薬学的組成物(上記鼻腔内薬学的組成物を含む)中に含まれ得る上記血管収縮薬としては、間接的α−アドレナリン作動剤;カルシウムチャネルブロッカー;メペリジン;イミダゾール薬物(例えば、オキシメタゾリンおよびキシロメタゾリン);α−アドレナリン作動性アゴニスト(例えば、グアンファシン);イミダゾリン(I)リガンド;直接的α−アドレナリン作動性アゴニスト(例えば、クロニジン);サブスタンスPブロッカー/低下薬(例えば、カプサイシン);I−メントール;イシリン;エピネフリン(すなわち、アドレナリン);レボノルデフリン(すなわち、ノルデフリン);およびグルタミン酸レセプターインヒビター;またはこれらの薬学的に受容可能な塩が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記血管収縮薬は、オキシメタゾリン、もしくはその薬学的に受容可能な塩である。他の実施形態において、上記オキシメタゾリンは、オキシメタゾリンHCl塩である。
【0015】
いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物は、約0.01〜1.0% (w/v) オキシメタゾリンHClを含む。他の実施形態において、上記薬学的組成物は、約0.05% (w/v) オキシメタゾリンを含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物(上記鼻腔内薬学的組成物を含む)は、保存剤をさらに含む。いくつかの実施形態において、上記保存剤としては、糖アルコール(例えば、ソルビトールおよびマンニトール)、エタノール、ベンジルアルコール、イソプロパノール、クレゾール、クロロクレゾール、およびフェノールが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記保存剤は、ベンジルアルコールである。いくつかの実施形態において、上記鼻腔内薬学的組成物は、約0.5〜2.0% (w/v) ベンジルアルコールを含む。他の実施形態において、上記薬学的組成物は、約0.9% (w/v) ベンジルアルコールを含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物(上記鼻腔内薬学的組成物を含む)は、増粘剤をさらに含む。いくつかの実施形態において、上記増粘剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびスマートヒドロゲル(smart hydrogel)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記増粘剤は、ヒドロキシエチルセルロースである。いくつかの実施形態において、上記鼻腔内薬学的組成物は、約0.01〜1.0% (w/v) ヒドロキシエチルセルロースを含む。他の実施形態において、上記鼻腔内薬学的組成物は、約0.05% (w/v) ヒドロキシエチルセルロースを含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物は、ゲルもしくは液体として処方される。いくつかの実施形態において、上記液体は、水、糖アルコール、アルコール(例えば、エタノール)、もしくは標的組織と生物学的に適合性の任意の他の麻酔用の溶媒である。
【0019】
いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物のpHは、約4.0〜約7.5の間である。他の実施形態において、上記薬学的組成物のpHは、約4.0〜約6.5の間である。別の実施形態において、上記薬学的組成物は、pH約5.5〜約6.5を有する。さらなる実施形態において、上記薬学的組成物は、pH約6.0〜約6.5を有する。
【0020】
具体的実施形態において、上記薬学的組成物は、テトラカイン、オキシメタゾリンおよびベンジルアルコールを含む。別の実施形態において、上記薬学的組成物は、テトラカインHCl、オキシメタゾリンHCl、無水クエン酸(pH制御のため)、水酸化ナトリウム(pH調節のため)、ベンジルアルコール、塩酸(pH制御のため)、ヒドロキシエチルセルロース、および精製水を含む。より具体的な実施形態において、本発明の薬学的組成物は、以下の表1に列挙された成分、およびそれぞれの量を含む(本明細書中、「表1処方物」といわれる)。さらなる実施形態において、上記表1処方物は、鼻腔内投与用である。
【0021】
【表1】

別の局面において、本発明は、身体部分、器官、もしくは組織のうちの少なくとも一部を、本発明の薬学的組成物を投与することによって麻酔する方法を提供する。いくつかの実施形態において、このような薬学的組成物は、局所投与される。いくつかの実施形態において、上記組織は、上皮組織である。他の実施形態において、上記組織は、粘膜組織である。さらに他の実施形態において、上記粘膜組織は、耳、咽喉、口(例えば、歯肉)、眼、鼻、直腸領域および/もしくは尿生殖路(例えば、膣)に存在する組織もしくは膜である。
【0022】
別の局面において、本発明は、被験体において、患者の上顎歯列弓の少なくとも一部(および歯弓の該部にある痛覚繊維)を麻酔する方法を提供し、上記方法は、上記被験体の鼻腔の中に本発明の薬学的組成物を選択的に送達する工程を包含し、ここで上記薬学的組成物の少なくとも一部は、翼口蓋神経節付近の鼻腔の後方に位置する鼻組織、その結果として、上顎神経(および/もしくは上記上顎神経と連絡している構造物)によって吸収され、それによって、上記被験体の上顎歯列弓の少なくとも一部(および該部にあるが、上顎弓付近の痛覚繊維)を麻酔する。いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物は、上記被験体の副鼻腔および/もしくは鼻腔の後方へ送達される。いくつかの実施形態において、上記上顎骨の周りの組織はまた、麻酔される。いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物は、噴霧化、イオン電気導入法、レーザー、超音波(代表的には、20,000サイクル/秒より大きい)もしくはスプレーによって送達される。いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物および/もしくは標的組織は、投与前に冷却もしくは加熱される。いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物は、スプレーによって送達される。他の実施形態において、上記送達されるスプレーは、流れ(stream)もしくは煙(plume)である。
【0023】
いくつかの実施形態において、上記方法は、本発明の鼻腔内薬学的組成物を1〜5回、上記被験体の各鼻孔へスプレーする工程を包含する。他の実施形態において、上記方法は、上記本発明の薬学的組成物を3回、上記被験体の各鼻孔へスプレーする工程を包含する。いくつかの実施形態において、上記スプレーの各々は、互いに約1〜10分間以内に投与される。例えば、スプレー1回目が投与され得、続いて、約1〜10分間の間隔、その後、スプレー2回目が投与され、続いて、約1〜10分間の間隔、その後、スプレー3回目が投与されるなど。いくつかの実施形態において、上記スプレーの間の間隔は、約1〜6分間である。いくつかの実施形態において、上記スプレーの間の間隔は、約2〜6分間である。他の実施形態において、上記スプレーの間の間隔は、約3〜5分間である。さらに他の実施形態において、上記スプレーの間の間隔は、約4分間である。
【0024】
いくつかの実施形態において、上記方法は、既知の(例えば、計測した)量のテトラカインを、上記被験体の鼻腔に送達する工程を包含する。いくつかの実施形態において、上記方法は、約12〜50mgのテトラカインを、上記被験体の副鼻腔および/もしくは鼻腔の後方に送達する工程を包含する。他の実施形態において、上記方法は、約15〜24mgのテトラカインを、上記被験体の副鼻腔および/もしくは鼻腔の後方に送達する工程を包含する。別の実施形態において、上記方法は、約15〜20mgのテトラカインを、上記被験体の副鼻腔および/もしくは鼻腔の後方に送達する工程を包含する。
【0025】
いくつかの実施形態において、上記副鼻腔の後方および/もしくは鼻腔の後方に送達される上記薬学的組成物の粒度は、約5〜50ミクロン(μm)である。他の実施形態において、上記薬学的組成物の粒度は、約10〜20ミクロンである。他の実施形態において、上記薬学的組成物は、上記粒子のうちの少なくとも85%が少なくとも約10ミクロン以上であるような様式で送達される。さらに他の実施形態において、上記薬学的組成物の粒度は、約10ミクロン以上である。
【0026】
別の局面において、本発明は、本発明の薬学的組成物の鼻腔内送達のためのスプレーデバイスを提供する。いくつかの実施形態において、上記スプレーデバイスは、上記鼻腔内薬学的組成物を、上記鼻腔の後方に位置した鼻組織に送達し得る。他の実施形態において、上記スプレーデバイスは、上記鼻腔内薬学的組成物を、上記副鼻腔および上記鼻腔の後方、上記上顎神経および/もしくは上記上顎神経と連絡する構造物の付近に位置した鼻組織に送達し得る。さらに他の実施形態において、上記スプレーデバイスは、本発明の鼻腔内薬学的組成物が予め充填されている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、個体の鼻腔、上顎歯列および関連神経の側面断面図である。大口蓋神経および小口蓋神経はともに、翼口蓋(蝶口蓋)神経節に始まる。前上歯槽神経、中上歯槽神経および後上歯槽神経は、上顎神経に始まる。前上歯槽神経の鼻口蓋枝は、歯槽神経と口蓋神経との間を連絡する。前上歯槽神経の神経終末は、前方の歯(front teeth)に位置する。中上歯槽神経の神経終末は、中央部の歯(middle teeth)(すなわち、上顎歯列の両側にある第1大臼歯および上顎第1小臼歯および上顎第2小臼歯)に位置する。後上歯槽神経の神経終末は、後方の歯(rear teeth)(すなわち、上顎第1大臼歯および第2大臼歯および第3大臼歯のうちの遠位1/2)に位置する。これら神経および先行する(preceding)神経(上顎神経に連結している)は、歯から脳へ疼痛インパルスの伝達を主に担う。大口蓋神経(この神経終末は、硬口蓋(the hard)にある)は、(先行する神経とともに)、硬口蓋から脳へ疼痛インパルスの伝達を担う。同様に、小口蓋神経(この神経終末は、軟口蓋にある)は、(先行する神経とともに)、軟口蓋から脳への疼痛インパルスの伝達を担う。
【図2】図2は、針注射によって局所麻酔剤を送達する方法と、本発明の鼻腔内薬学的組成物を送達する方法とを比較する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(発明の詳細な説明)
本明細書に記載される発明が十分に理解され得るように、以下の詳細な説明が示される。
【0029】
別段定義されなければ、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものに類似もしくは等価な方法および材料が、本発明の実施もしくは試験において使用され得るが、適切な方法および材料が、以下に記載される。上記材料、方法および例は、例示に過ぎず、限定することは意図しない。本明細書で言及される全ての刊行物、特許および他の文書は、それら全体が本明細書に参考として援用される。
【0030】
本明細書全体を通して、語句「含む、包含する(comprise)」もしくはバリエーション(例えば、「含む、包含する(comprises)」もしくは「含む、包含する(comprising)」は、示された整数もしくは整数群の包含を意味することが理解されるが、いかなる他の整数もしくは整数群の排除をも意味しない。
【0031】
本発明をさらに規定するために、以下の用語および定義が、本明細書で提供される。
【0032】
(定義)
「麻酔、麻酔する(anesthetizing)」とは、本明細書で使用される場合、感覚を妨げるおよび/もしくは疼痛を軽減する目的で、麻酔化合物(例えば、テトラカイン)を投与することをいう。
【0033】
「鼻腔内処方物」とは、本明細書で使用される場合、鼻腔および/もしくは副鼻腔に送達される処方物をいう。
【0034】
「局所麻酔(local anesthetic)」とは、本明細書で使用される場合、組織の中に導入した後に拡散する、麻酔されるべき神経終末付近に送達される麻酔剤に言及する。局所麻酔は、標的神経および神経枝に達するように十分深く組織に浸透し得る。局所麻酔は、表面麻酔(topical anesthetic)が約1〜2mmの深さまで表面麻酔(surface anesthetic)を提供するに過ぎないという点で、「表面麻酔(topical anesthetic)」とは異なる。表面麻酔(topical anesthetic)は、神経枝もしくは歯に達するほど十分には組織に浸透しない。
【0035】
「上顎(骨)」とは、本明細書で使用される場合、上顎を形成するために融合したヒトの頭蓋の骨の対のいずれかに言及する。上顎(骨)は、ときおり、単に上顎といわれる。
【0036】
「上顎歯列弓」もしくは「上顎弓」とは、本明細書で使用される場合、自然な位置において上顎(上)歯によって形成される湾曲した構造をいう。
【0037】
「粘膜組織(mucosal tissue)」もしくは「粘液で覆われた組織(mucous tissue)」とは、本明細書で使用される場合、上皮組織のタイプに言及する。粘膜組織は、covers 器官の表面を覆うかもしくは腔を裏打ちする組織の層をいう。粘膜組織の非限定的な例としては、耳、咽喉、口、眼、鼻、直腸領域および/もしくは尿生殖路(例えば、膣)における組織が挙げられる。
【0038】
「歯髄麻酔(pulpal anesthesia)」とは、本明細書で使用される場合、電気歯髄診断(EPT)刺激(すなわち、歯髄診断器上での65という読み取り値)が、歯に施される場合に、上記被験体が、歯に疼痛感覚がないことを示すようにする麻酔のレベルに言及する。
【0039】
「先行する神経」とは、本明細書で使用される場合、上流に位置する神経終末および神経(通常は、特定の参照神経より中枢の神経束に存在する)に言及する。
【0040】
「被験体」とは、本明細書で使用される場合、哺乳動物(例えば、ヒト)を含む動物をいう。
【0041】
「テトラカイン」(ときおり、「アメソカイン」といわれる)とは、本明細書で使用される場合、(2−(ジメチルアミノ)エチル 4−(ブチルアミノ)ベンゾエート)およびその任意の塩をいう。テトラカインHClとは、2−(ジメチルアミノ)エチル 4−(ブチルアミノ)ベンゾエートのHCl塩をいう。
【0042】
(薬学的組成物)
本発明は、テトラカインベースの麻酔処方物を提供する。これら処方物は、身体部分、器官、もしくは組織のうちの少なくとも一部を麻酔するために有用である。一局面において、本発明は、身体部分、器官、もしくは組織のうちの少なくとも一部を、本発明の薬学的組成物を投与することによって麻酔するための薬学的組成物を提供する。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の薬学的組成物は、標的身体部分、器官、もしくは組織に直接送達される。
【0043】
いくつかの実施形態において、上記標的組織は、上皮組織である。他の実施形態において、上記標的組織は、粘膜組織である。さらに他の実施形態において、上記粘膜組織は、耳、咽喉、口(例えば、歯肉)、眼、鼻、直腸領域および/もしくは尿生殖路(例えば、膣)に存在する組織もしくは膜である。
【0044】
いくつかの実施形態において、本発明は、テトラカインの鼻腔内処方物を提供する。このような処方物は、上顎歯列弓および上顎歯列弓の周りの痛覚繊維を麻酔するために有用である。このような処方物は、局所麻酔剤として有用である。
【0045】
テトラカインは、安定でかつ高度にタンパク質結合されるという点で、ほぼ全ての他の局所麻酔剤と比較して、独特である。そのタンパク質結合される性質およびより分子量が小さいことから、テトラカインは、よりよく神経細胞のタンパク質に覆われた膜に浸透しかつ接着し得、よりよく、他のエステルベースの麻酔剤(例えば、コカイン、プロカイン、クロロプロカインおよびベンゾカイン)と比較した場合に、麻酔効果(特に、例えば、血管収縮薬、界面活性剤、乳化剤、溶媒、pH改変剤および保存剤のうちの少なくともいくつかを含む処方物中に存在する場合)を誘導するように、上記神経に浸透し得る。さらに、他のエステルベースの局所麻酔剤は、少量で非常に毒性であり、不安定であることもまた示された。アミンベースの局所麻酔剤(例えば、リドカイン、メピバカイン、ブピバカイン、エチドカイン、プリロカイン、およびロピバカイン)は、タンパク質結合性であるが、テトラカインほど効果的ではない(特に、テトラカインが、本発明の処方物のうちの1つの部分である場合)。
【0046】
よって、本発明は、テトラカインもしくはその薬学的に受容可能な塩の投与に適した薬学的組成物を提供する。特定の実施形態において、上記薬学的組成物は、a)テトラカインもしくはその薬学的に受容可能な塩;b)血管収縮薬;およびc)薬学的に受容可能なキャリアを含む。他の実施形態において、上記薬学的組成物は、a)テトラカインもしくはその薬学的に受容可能な塩;b)血管収縮薬;c)保存剤;d)増粘剤;およびe)薬学的に受容可能なキャリアを含む。いくつかの実施形態において、上記組成物は、約2.0〜5.0% (w/v) テトラカインを含む。いくつかの実施形態において、上記組成物は、約2.25〜4.75% (w/v) テトラカインを含む。他の実施形態において、上記組成物は、約2.5〜4.0% (w/v) テトラカインを含む。さらに他の実施形態において、上記薬学的組成物は、約2.5〜3.5% (w/v) テトラカインを含む。具体的実施形態において、上記薬学的組成物は、約3% (w/v) テトラカインを含む。いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物は、鼻腔内投与用である。
【0047】
任意の血管収縮薬は、本発明の薬学的組成物において使用され得る。本発明の薬学的組成物において使用される上記血管収縮薬は、いくつかの目的を有する。第1に、上記血管収縮薬は、組織(例えば、鼻組織)を収縮させ、それによって、上記組織への上記麻酔剤の浸透を高める(例えば、上記鼻腔へより深く)。第2に、いったん上記血管収縮薬が所望の領域に吸収されたら、上記血管収縮薬は、上記麻酔剤の全身移動を阻害し、それによって、上記麻酔剤が所望の部位に残ることを可能にする。第3に、上記血管収縮薬は、所望の組織への血流を低下させ、それによって、上記麻酔剤の有効性の持続を増大させる(代表的には、神経膜における金属イオノフォアを上記テトラカイン塩基に対してより敏感にするGタンパク質共役レセプターを活性化することによって)。本発明の薬学的組成物において有用な、代表的な血管収縮薬としては、間接的α−アドレナリン作動性アゴニスト(例えば、フェニレフリン);カルシウムチャネルブロッカー;メペリジン;イミダゾール薬物(例えば、オキシメタゾリンおよびキシロメタゾリン);α−アドレナリン作動性アゴニスト(例えば、グアンファシン);イミダゾリン(I)リガンド;直接的α−アドレナリン作動性アゴニスト(例えば、クロニジン);サブスタンスPブロッカー/低下薬(例えば、カプサイシン);I−メントール;イシリン;およびグルタミン酸レセプターインヒビター;またはこれらの薬学的に受容可能な塩が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記血管収縮薬としては、オキシメタゾリン、キシロメタゾリン、グアンファシン(guafacine)、クロニジン、フェニレフリン、メペリジン、カプサイシン;I−メントール;イシリンおよびこれらの薬学的に受容可能な塩が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記血管収縮薬は、オキシメタゾリンもしくはその薬学的に受容可能な塩である。他の実施形態において、上記オキシメタゾリンは、オキシメタゾリンHCl塩である。
【0048】
本発明の薬学的組成物において使用される血管収縮薬の濃度は、上記特定の血管収縮薬および所望の血管収縮効果に依存する。代表的な濃度範囲としては、約0.01〜5% (w/v)が挙げられるが、これに限定されない。いくつかの実施形態において、上記組成物は、約0.01〜1.0% (w/v)(例えば、オキシメタゾリンHCl塩)を含む。さらに他の実施形態において、上記組成物は、約0.05% (w/v)(例えば、オキシメタゾリンHCl塩)を含む。
【0049】
その血管収縮活性に加えて、オキシメタゾリンは、ある程度の麻酔効果を有することが示された。オキシメタゾリンは、Gタンパク質共役レセプターに影響を及ぼし、続いて、神経細胞に存在するKチャネル、Naチャネル、およびCa2+チャネルに影響を及ぼす。特に、オキシメタゾリンは、上記神経がもはや分極せず、従って、疼痛インパルスを発しかつ伝達できないように、K透過性、Na透過性およびCa2+透過性を高める。
【0050】
いくつかの実施形態において、本発明の薬学的組成物は、保存剤をさらに含む。保存剤の例としては、糖アルコール(例えば、ソルビトールおよびマンニトール)、エタノール、ベンジルアルコール、イソプロパノール、クレゾール、クロロクレゾール、フェノールおよび塩化ベンザルコニウム(BAK)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記保存剤は、ベンジルアルコールである。ベンジルアルコールは特に望ましい。なぜなら、麻酔効果を示し、かつテトラカインの効果を相乗効果的な様式において高めるように働くからである。
【0051】
本発明の薬学的組成物において使用される保存剤の濃度は、上記特定の保存剤に依存する。保存剤の代表的な濃度範囲は、約0.1〜5% (w/v)である。いくつかの実施形態において、上記組成物は、約0.5〜2.0% (w/v)を含む。他の実施形態において、上記組成物は、約0.9% (w/v)(例えば、ベンジルアルコール)を含む。
【0052】
本発明の組成物において使用される上記麻酔剤、血管収縮薬および他の薬剤は、その投与量、吸収速度および他の所望の特性を制御するために、適切なキャリア中に分散させられ得る。本発明において有用な薬学的に受容可能なキャリアとしては、水性キャリア、ゲルキャリア、乳化剤、界面活性剤、時間放出ビヒクル(time release vehicle)、ナノ粒子、ミクロスフェア、細胞内伝達化合物および傍細胞伝達化合物、ポリマー、ならびにキチンが挙げられるが、これらに限定されない。水性キャリアの例としては、水、緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液)、糖アルコール、アルコール(例えば、エタノール)、もしくは上記標的組織と生物学的に適合する任意の他の溶媒が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
生理食塩水は、本発明の組成物とともに使用するのに適したキャリアではない。具体的には、本発明の組成物は、沈殿物の形成によって示されるように、生理食塩水中で不安定であることが発見された。
【0054】
本発明の薬学的組成物のpHは、代表的には、これが投与される組織(例えば、上記鼻腔)のpHと適合性であるように調節される。代表的には、上記組成物は、pH約4.0〜6.5を有する。いくつかの実施形態において、上記組成物は、pH約5.5〜6.5を有する。さらなる実施形態において、上記薬学的組成物は、pH約6.0〜約6.5を有する。当業者は、記載されるものより高いもしくは低いpHが、必要とされ得、かつ応じて上記pHをどのように調節するかを容易に知ることを認識する。
【0055】
いくつかの実施形態において、本発明の薬学的組成物は、増粘剤をさらに含む。増粘剤の例としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびスマートヒドロゲルが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記増粘剤は、ヒドロキシエチルセルロースである。
【0056】
増粘剤は、標的身体部分、組織もしくは器官へ上記処方物を投与する前、その間およびその後に、上記処方物の移動性を制御するのを助ける。例えば、増粘剤は、上記適用される処方物の移動性を低下させることによって、上記被験体の鼻孔からもしくは咽頭の中へのいずれかへ滴下する上記処方物の量を制御するのを助ける。増粘剤はまた、上記処方物が脈管系(例えば、鼻の脈管系)と接触した状態にある時間量を増大させ、このことは、脈管系への上記処方物の取り込み効率を増大させるのを補助する。さらに、増粘剤は、エステルを分解する鼻経路に存在する実体(例えば、エステラーゼ)をさらに希釈し、軽度に繊毛阻害性(cilio−inhibitory)であり得る。
【0057】
本発明の薬学的組成物において使用される増粘剤の濃度は、上記特定の増粘剤に依存する。代表的な増粘剤の範囲としては、0.01〜5% (w/v)が挙げられる。いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物は、約0.01〜1.0% (w/v)を含む。他の実施形態において、上記組成物は、約0.05% (w/v) (例えば、ヒドロキシエチルセルロース)を含む。本発明者らは、多量の増粘剤(例えば、ヒドロキシエチルセルロース)を含む組成物が、上記スプレー装置(例えば、BD AccusprayTM デバイス)の詰まりを生じることを観察した。
【0058】
一実施形態において、本発明の薬学的組成物は、以下の成分を含む:テトラカインHCl、オキシメタゾリンHCl、無水クエン酸(pH制御のため)、水酸化ナトリウム(pH調節のため)、ベンジルアルコール、塩酸(pH制御のため)、ヒドロキシエチルセルロース、および精製水。具体的実施形態において、上記薬学的組成物は、鼻腔内投与用である。
【0059】
具体的実施形態において、本発明の薬学的組成物は、上記表1処方物である。別の実施形態において、上記表1処方物は、鼻腔内投与用である。
【0060】
一実施形態において、上記表1処方物は、約4.0〜6.5の間のpHを有する。別の実施形態において、上記表1処方物は、約5.5〜6.5の間のpHを有する。別の実施形態において、上記表1処方物は、約6.0〜約6.5のpHを有する。
【0061】
本発明の薬学的組成物は、いくつかの形態で投与され得る。適切な処方物の例としては、液剤、スプレー、懸濁物、ローション剤、ゲル剤、クリーム剤、発泡体(foam)、オイル、エマルジョン、軟膏剤、散剤(例えば、CaCO含有散剤)、凍結乾燥散剤、もしくは坐剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
当業者は、使用される処方物のタイプが、例えば、投与されるべき活性成分の量および上記標的身体部分、器官もしくは組織に依存することを認識する。
【0063】
適切なローション処方物もしくはクリーム処方物は、例えば、ミネラルオイル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ソルビタンモノステアレート、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール(cetearyl alcohol)、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、もしくはこれらの組み合わせを含み得る。
【0064】
適切なゲル処方物は、例えば、改変セルロース(例えば、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシエチルセルロース)、カルボポルホモポリマーおよびコポリマー、溶媒(例えば、ジグリコールモノエチルエーテル、アルキレングリコール(例えば、プロピレングリコール)、ジメチルイソソルビド、アルコール(例えば、イソプロピルアルコールおよびエタノール)、イソプロピルミリステート、酢酸エチル、C12−C15アルキルベンゾエート、ミネラルオイル、スクアラン、シクロメチコン、カプリン酸/カプリル酸トリグリセリド、またはこれらの組み合わせを含み得る。
【0065】
適切な発泡体組成物は、例えば、エマルジョンおよびガス様プロペラントを含み得る。ガス様プロペラントの例としては、ヒドロフルオロアルカン(HFA)(例えば、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA 134a)および1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA 227))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
適切なオイル処方物は、例えば、天然および合成のオイル、脂肪、脂肪酸、レシチン、トリグリセリド、もしくはこれらの組み合わせを含み得る。
【0067】
適切な軟膏処方物は、例えば、炭化水素基剤(例えば、ワセリン(petrolatum)、白色ワセリン、黄色軟膏、およびミネラルオイル)、吸収基剤(例えば、親水性ワセリン、無水ラノリン、ラノリン、およびコールドクリーム)、水分除去基剤(water−removable base)(例えば、親水性軟膏)、水溶性基剤(例えば、ポリエチレングリコール軟膏)、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、乳化ワックス、もしくはこれらの組み合わせを含み得る。
【0068】
他の実施形態において、上記薬学的組成物は、必要に応じて、薬学的に受容可能な賦形剤を含む。薬学的に受容可能な賦形剤の例としては、保存剤、界面活性剤、安定化剤、乳化剤、抗菌剤、緩衝化剤および粘性改変剤が挙げられるが、これらに限定されない。このような賦形剤の具体例は、上記で議論されている。
【0069】
乳化剤の例としては、アカシアガム、アニオン性乳化ワックス、ステアリン酸カルシウム、カルボマー、セトステアリルアルコール、セチルアルコール、コレステロール、ジエタノールアミン、エチレングリコールパルミトステアレート、グリセリンモノステアレート、グリセリルモノオレエート、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ラノリン、含水ラノリンアルコール、レシチン、中鎖トリグリセリド、メチルセルロース、ミネラルオイルおよびラノリンアルコール、リン酸二水素ナトリウム、モノエタノールアミン、非イオン性乳化ワックス、オレイン酸、ポロキサマー、ポロキサマー類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンひまし油誘導体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンステアレート、プロピレングリコールアルギネート、自己乳化グリセリルモノステアレート、クエン酸ナトリウム(脱水)(sodium citrate dehydrate)、ラウリル硫酸ナトリウム、ソルビタンエステル、ステアリン酸、ヒマワリ油、トラガカントガム、トリエタノールアミンおよびキサンタンガムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
(組織を麻酔する方法)
一局面において、本発明は、身体部分、器官、もしくは組織のうちの少なくとも一部を、本発明の薬学的組成物を投与することによって、麻酔する方法を提供する。いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物は、上記標的身体部分、器官、もしくは組織に局所投与される。いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物は、上記標的身体部分、器官、もしくは組織上に、摩擦されるか、スプレーされるか、もしくは拡げられる。いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物および/もしくは標的組織は、投与前に冷却される。他の実施形態において、上記薬学的組成物および/もしくは標的組織は、投与前に温められる。他の実施形態において、上記薬学的組成物は、噴霧化もしくは注射によって投与される。さらに他の実施形態において、上記薬学的組成物は、イオン電気導入法もしくは超音波(代表的には、20,000サイクル/秒より大きく)を介して投与される。
【0071】
任意の送達デバイスが、上記薬学的組成物を上記身体部分、器官、もしくは組織に適用するために使用され得る。適切な送達デバイスの例としては、スクイーズボトル、シリンジ、空気圧式デバイス、ポンプ噴霧器、陽圧ネブライザー(positive pressure nebulizer)などが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記使用されるデバイスは、本発明の薬学的組成物が予め充填されている。
【0072】
いくつかの実施形態において、本発明は、被験体において、患者の上顎歯列弓(および上記歯列に対して外側にある痛覚繊維)の少なくとも一部を麻酔する方法を提供し、上記方法は、上記被験体の鼻腔に本発明の薬学的組成物を選択的に送達する工程を包含し、ここで上記薬学的組成物のうちの少なくとも一部は、翼口蓋神経節の付近にある鼻腔の後方に位置した鼻組織、結論としては、上顎神経(および/もしくは上顎神経と連絡する構造物)によって吸収され、それによって、上記被験体の上記上顎歯列弓(および上記被験体の上記上顎弓の外側にあるが周りにある痛覚繊維)のうちの少なくとも一部を麻酔する。いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物は、上記被験体の副鼻腔および/もしくは鼻腔の後方に送達される。いくつかの実施形態において、上記上顎歯列弓は、眼、鼻の表面、頬もしくは口唇の顔面麻痺を生じることなく麻酔される。いくつかの実施形態において、上記上顎の周りの組織(例えば、歯肉のような粘膜組織)はまた、麻酔される。いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物は、噴霧化もしくはスプレーによって送達される。いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物は、副鼻腔(例えば、上記上顎洞)に送達される。他の実施形態において、上記薬学的組成物は、上記上歯神経叢、中上歯槽神経の伸長部、上記後上歯槽神経、上記顔面神経および頬神経の侵害受容器、および/もしくは上記蝶口蓋(翼口蓋)神経節に送達される。いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物はまた、三叉神経節の一部に送達される。他の実施形態において、上記送達されるスプレーは、流れもしくは煙である。
【0073】
上記上顎歯列弓を麻酔するために、上記薬学的組成物は、上記上顎神経および上記翼口蓋神経節の領域において吸収されるように、上記鼻腔の最も後方の上方端部に位置する組織に投与されなければならない。上顎神経は、本明細書で使用される場合、後上歯槽神経、中上歯槽神経、前上歯槽神経が集まる鼻腔の領域に言及する。これら神経は、上顎歯列および周りの上顎骨の神経によって生成される疼痛、温度および圧力インパルスを伝達するという初期伝達(initial transmission)を担う。上記インパルスが上記上顎神経および三叉神経の主幹部を通過した後、上記インパルスは、処理および認識のための脳へ伝達される。
【0074】
任意の送達デバイスが、本発明の方法において使用され得る。鼻腔内投与に適した送達デバイスの例としては、スクイーズボトル、シリンジ、空気圧式デバイス、ポンプ噴霧器、陽圧ネブライザーなどが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記使用されるデバイスは、本発明の薬学的組成物が予め充填されている。別の実施形態において、上記使用されるデバイスは、BD AccusprayTM デバイスである。
【0075】
いくつかの実施形態において、上記方法は、上記薬学的組成物を1〜5回、上記被験体の各鼻孔へスプレーする工程を包含する。他の実施形態において、上記方法は、上記薬学的組成物を3回、上記被験体の各鼻孔へスプレーする工程を包含する。
【0076】
いかなる特定の理論にも束縛されないが、上記各スプレーは、上記麻酔効果の開始において独特の役割を果たし得ると考えられる。例えば、上記薬学的組成物が3回のスプレーにおいて送達される実施形態において、1回目のスプレーは、上記送達される薬学的組成物を分解し得る鼻の酵素経路(例えば、エステラーゼ、シトクロームP450、アルデヒドデヒドロゲナーゼ)を中和し始めると考えられる。また、1回目のスプレーは、上記組成物を、例えば、咽頭へと別の方法で取り除き得る鼻の繊毛を麻痺させ始めると考えられる。さらに、2回目および3回目のスプレーで送達される上記組成物は、麻酔効果をもたらすと考えられる。
【0077】
いくつかの実施形態において、上記スプレーの各々は、互いに約1〜10分間以内に投与される。例えば、スプレー1回目が投与され得、続いて、約1〜10分間の間隔、その後、スプレー2回目が投与され、続いて、約1〜10分間の間隔、その後、スプレー3回目が投与されるなど。いくつかの実施形態において、上記スプレー間の間隔は、約1〜6分間である。いくつかの実施形態において、上記スプレー間の間隔は、約2〜6分間である。他の実施形態において、上記スプレー間の間隔は、約3〜5分間である。さらに他の実施形態において、上記スプレー間の間隔は、約4分間である。
【0078】
本発明の薬学的組成物は、上顎洞および上歯神経叢、ならびに中上歯槽神経の伸長部および翼口蓋神経節に送達される。さらに、本発明の薬学的組成物は、上記上顎神経の枝および上記翼口蓋神経節のうちの少なくとも一部を麻酔する。いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物はまた、上記三叉神経節の一部(例えば、三叉神経節のV2−V3)に送達される。麻酔の程度に依存して、上記上顎弓の周りの組織のうちの一部もしくは全てを麻酔することは可能である。
【0079】
上記方法が上記薬学的組成物を上記被験体の鼻にスプレーする工程を包含する実施形態において、スプレーする角度が、上記の鼻腔の関連する部分へ上記処方物を標的化するのを助けることが見いだされた。例えば、上記薬学的組成物が3回のスプレーで送達される場合、以下の手順が使用され得る:1回目のスプレーについては、上記スプレーデバイスの先端は、上記被験体がまっすぐ前を向いている間に水平面から約35〜45°の角度で位置づけられ得る。2回目のスプレーについては、上記スプレーデバイスの先端は、上記被験体がまっすぐ前を向いている間に、水平面から約−10〜+5°の角度で位置づけられ得る。3回目のスプレーは、1回目のスプレーと同じ様式で送達され得る。いくつかの実施形態において、上記スプレーデバイスの先端は、上記1回目のスプレーおよび3回目のスプレーに関して、水平面から約42°の角度で位置づけられ得、上記2回目のスプレーに関して、約0°の角度で位置づけられ得る。他の実施形態において、上記スプレーデバイスの先端は、スプレーしている間に鼻の約0〜2mm中に位置づけられ得る。
【0080】
いくつかの実施形態において、特定の歯を標的とすることが、望ましい。従って、上記のものに加えて、上記スプレーデバイスのさらなる改善が、採用され得る。以下の技術に束縛されないが、以下の投与様式がまた、使用され得ると考えられる。前方の歯(すなわち、歯6〜11)を標的とするために、上記スプレーデバイスは、正中矢状面に対して約0〜15°の角度に傾けられる。小臼歯(すなわち、歯4、5、12、および13)を標的とするために、上記スプレーデバイスは、正中矢状面に対して約5°離して約5°傾けられる。後方の歯(すなわち、大臼歯、もしくは歯1−3および14−16)を標的とするために、上記スプレーデバイスは、正中矢状面から約0〜10°離れて傾けられる。他の実施形態において、上記スプレーデバイスは、前方の歯については、正中矢状面に対して約5〜10°傾けられ、小臼歯については正中矢状面に対してほぼ平行に、後方の歯については正中矢状面から約5°離して傾けられる。
【0081】
歯の標的化は、上記スプレーデバイスが上記鼻孔内に配置される深さを変化させることによって、さらに正確にされ得る。例えば、スプレーする場合、上記スプレーデバイスは、上記鼻孔の約2〜3mm内に位置づけられて、前方の歯を標的とし得、上記鼻孔の約5mm内に位置づけられて、小臼歯を標的とし得、約7〜9mm内に位置づけられて、後方の歯を標的とし得る。
【0082】
いくつかの実施形態において、既知の(例えば、計測した)量のテトラカインが、上記被験体の鼻腔に送達される。他の実施形態において、上記既知の(例えば、計測した)量のテトラカインは、上記被験体の副鼻腔および/もしくは鼻腔の後方に送達される。代表的には、上記被験体の副鼻腔および/もしくは鼻腔の後方に送達されるテトラカインの量は、約12〜50mgのテトラカインである。いくつかの実施形態において、約15〜24mgのテトラカインは、上記被験体の副鼻腔および/もしくは鼻腔の後方に送達される。いくつかの実施形態において、約15〜20mgのテトラカインは、上記被験体の副鼻腔および/もしくは鼻腔の後方に送達される。いくつかの実施形態において、上記組成物は、約2.0〜5.0% (w/v) テトラカインを含む。いくつかの実施形態において、上記組成物は、約2.25〜4.75% (w/v) テトラカインを含む。他の実施形態において、上記組成物は、約2.5〜4.0% (w/v) テトラカインを含む。さらに他の実施形態において、約2.5〜3.5% (w/v) テトラカインを含む組成物が、使用される。具体的実施形態において、上記組成物は、約3% (w/v) テトラカインを含む。本発明者らは、2% テトラカインを含む組成物が、おそらく、不十分な量のテトラカインに起因して、歯髄麻酔を生じないことを観察した。本発明者らはまた、4%以上のテトラカインを含む組成物が、歯髄麻酔を誘導することにおいてそれほど有効でなかったことを観察した。
【0083】
いくつかの実施形態において、上記副鼻腔および/もしくは鼻腔の後方に送達される上記薬学的組成物の粒度は、約5〜50ミクロンである。他の実施形態において、上記薬学的組成物の粒度は、約10〜20ミクロンである。いくつかの実施形態において、上記薬学的組成物は、上記粒子のうちの少なくとも50%が少なくとも約10ミクロン以上であるようにする様式で送達される。他の実施形態において、上記薬学的組成物は、上記粒子のうちの少なくとも65%が少なくとも約10ミクロン以上であるようにする様式で送達される。他の実施形態において、上記薬学的組成物は、上記粒子のうちの少なくとも85%が少なくとも約10ミクロン以上であるようにする様式で送達される。さらに他の実施形態において、上記薬学的組成物は、上記粒子のうちの少なくとも90%が少なくとも約10ミクロン以上であるようにする様式で送達される。さらなる実施形態において、上記薬学的組成物は、上記粒子のうちの少なくとも95%が少なくとも約10ミクロン以上であるようにする様式で送達される。
【0084】
本発明のこれらおよび他の実施形態は、以下の非限定的実施例でさらに例示され得る。
【実施例】
【0085】
(実施例1:テトラカインHCl溶液の有効かつ安全な投与量の同定)
この研究の目的は、上記上顎歯列の麻酔を得るために、鼻腔内に投与されるテトラカインヒドロクロリド溶液の有効かつ安全な投与量を同定することであった。健康なヒトボランティアに、BD AccusprayTM デバイスを使用して鼻スプレーとして送達される一定用量のテトラカインHClを投与した。上記局所麻酔の投与を、総用量、濃度、および容積によって変動させ、これは、片方の鼻孔における単一用量を含み、同じ鼻孔における用量を分けて、両方の鼻孔における用量に分配した。スプレーの方向に関して異なる技術もまた、調査した。
【0086】
80名の被験体におけるテトラカインヒドロクロリドの効力を、電気歯髄診断(EPT)を介して疼痛レベルをモニターすることによって測定した。EPT試験を、試験されるべき歯に電流を通すことによって達成した。ここで最低レベルの電流が「0」でありかつ最高レベルの電流が「80」である。被験体を、漸増量の電流(0で開始して、80まで増大させる)に曝す。上記患者が何らかの疼痛を感じたら、上記試験をやめて、上記EPT読み取り値を記録した。投与の際に、上記被験体が、最大80の読み取り値までいかなる歯痛をも報告しなかった場合、組成物が歯の麻酔に成功したとみなした。
【0087】
被験体は、4〜16mgの間のテトラカイン用量を受容した。テトラカインHClの鼻投与は、上記試験した被験体のいずれにおいても、EPTスコア80によって示されるように、上顎弓麻酔を生じなかった。
【0088】
(実施例2:上顎歯を麻酔するための、テトラカインヒドロクロリドとオキシメタゾリンヒドロクロリドの用量範囲研究)
この研究の目的は、上記上顎歯の麻酔のために離すプレーによって投与した場合、テトラカインヒドロクロリドとオキシメタゾリンHClの有効かつ安全な投与量を同定することであった。2種の処方物を、BD AccusprayTM デバイスを使用して、ヒト被験体に投与した(一方は、3% テトラカインおよび0.05% オキシメタゾリンを;もう一方は、4% テトラカインおよび0.05% オキシメタゾリンを)
全ての場合において、上記処方物の初期スプレーを、上記被験体がまっすぐ前を向いた状態で鼻孔の0〜2cm内部に先端を位置づけて、水平面から約0°のスプレーデバイス角度で投与した。1回より多くのスプレーを必要とする用量については、上記スプレー角度を約42°に変更したことを除いて、上記の正確な手順に従った。上記処方物の効力を、電気歯髄診断(EPT)を介して、疼痛レベルをモニターすることによって測定した。
【0089】
変化する量のテトラカインHCl:オキシメタゾリンからなる3種の投与レジメンを、評価した:a)12:0.2; b)16:0.2; およびc)18:0.3mgのテトラカインHCl:オキシメタゾリンHCl。試験した歯のうち、群a)においては60%、群b)においては22%、および群c)については73%が、歯髄麻酔を得た(最大EPT刺激(すなわち、歯髄診断器で80の読み取り値)で歯に感覚がない少なくとも1回の試験を有すると定義される)。さらに、群c)における被験体のうちの60%は、顕著な麻酔を示した(薬物投与の30分後以内に始まり、試験した3本の歯のうちの2本で、試験の最初の1時間のうちの少なくとも20分間にわたって継続する歯髄麻酔を有すると定義した)。
【0090】
(実施例3:上記表1処方物の充填)
テトラカインHCl+オキシメタゾリンHCl鼻スプレーのバッチを、0.1ml充填で0.5ml BD AccusprayTM シリンジシステムへ充填した。微生物限度試験(MLT)および化学試験を、上記充填したシリンジに対して行った。上記処方物は光、および空気/酸素に感受性であるので、光および酸素との接触を最小限にした。窒素を使用して、加工処理、保持および充填の間にバルク表面を覆った。
【0091】
(実施例4:BD AccusprayTMで送達した表1処方物の粒度の評価)
上記BD AccusprayTM デバイスで分与した場合の上記表1処方物の平均液滴サイズを、評価した。液滴サイズを、上記デバイスの先端から3cmおよび6cmの距離で評価した。これら実験からのデータを、以下の表2にまとめる。上記データによって実証されるように、平均して、分与した上記液滴の1%未満は、直径10ミクロン未満であった。
【0092】
【表2】

(実施例5:健康な被験体における上顎歯を麻酔するための表1処方物の評価)
上記表1処方物を、a)歯科手順の作業に十分な上顎歯の麻酔が提供されたか否か、および軟組織の麻酔を提供したか否か;ならびにb)BD AccusprayTM デバイスにおいて等張性生理食塩水の偽鼻スプレー、2% リドカインヒドロクロリド歯科用局所麻酔剤浸潤注射の活性コントロール注射、および偽注射と比較して、安全および許容性であったか否か、を決定するために評価した。
【0093】
(試験被験体)
合計45名のヒト被験体(30名は、上記表1処方物を受け、15名は、リドカインを受けた)を、活性制御研究に登録した。全ての被験体は、60分間を超えるとは予測されない処置時間で、上顎の第2大臼歯もしくは第3大臼歯以外の1本の上顎歯に対する外科的修復的手順を必要とした。
【0094】
(手順)
上記手順のスケジュールを、表3に示す。
【0095】
【表3】

(手順の全体像)
被験体を、処置群および処置指令に無作為に割り当てた。活性薬物投与の指令(鼻腔内 対 注射)もまた、無作為であった。軟組織麻酔の評価を、投与前、投与の20分後、30分後、40分後、60分後、80分後、100分後、および120分後に行った。0分で、a)1回のリドカインとエピネフリンの口内注射および等張性生理食塩水の偽鼻スプレーを与えたか;またはb)偽注射(無作為群に依存して)および上記表1処方物のスプレーの投与を施したかのいずれかであった。鼻スプレーのさらなる用量を、4分および8分で投与した。被験体に、各活性鼻スプレー用量もしくはプラセボ鼻スプレー用量の後に、約2オンスの水を飲ませた。Heft−Parker視覚的アナログスケール(VAS)を、投与開始の15分後および20分後に行った。歯科的処置を、最後の用量を与えた4分後に開始した。患者が疼痛を報告した場合、上記歯科的処置を、20分を記録するまで開始せず、さらなるVAS試験を行った。バイタルサイン(心拍数、血圧、パルスオキシメトリ)を、投与前、投与開始して15分後、および投与開始して20分後、30分後、40分後、50分後、60分後および120分後にとった。全身的な効力評価を、処置の最後に行った。
【0096】
(試験生成物、用量、および投与様式)
上記表1処方物を、安全装置付きBD Accuspray(登録商標)単回用量鼻スプレーデバイス(mono−dose nasal spray device)(BD Medical−Pharmaceutical Systems,Franklin Lakes,New Jersey)で送達した。用量送達を、各シリンジ中に含まれる溶液濃度および容積によって制御下。全てのユニットを、0.1mLを送達するように満たした。上記表1処方物の合計6回のスプレー(各鼻孔に3回)を、各鼻スプレー投与の間に4分間で投与した。合計投与時間は8分間に及んだ。上記表1処方物の合計投与量は、18mg テトラカインおよび0.3mg オキシメタゾリンであった。
【0097】
上記偽鼻スプレーは、等張性生理食塩水溶液からなった。
【0098】
上記活性コントロール注射は、2% リドカインHClおよびエピネフリン(1:100,000)USP(LolliCaine1回使い切りアプリケーター,Centrix)からなった。上記注射を、30ゲージの短い針で、処置されるべき歯の頂端近くの皮下に挿入して行った。上記2% リドカインヒドロクロリドと1:100,000 エピネフリン注射の投与は、前方の歯もしくは小臼歯の処置については30秒間かけて送達した1/2カートリッジ(0.9mL)、および第1大臼歯の処置については60秒間かけて送達した1カートリッジ(1.8mL)からなった。
【0099】
上記偽注射は、歯科用シリンジおよび30ゲージの短い針の先端にキャップを残したままのリドカインとエピネフリンカートリッジからなった。上記針キャップを、前方の歯および小臼歯については30秒間にわたって、および大臼歯については60秒間にわたって、注射のための適切な位置の粘膜に対して保持した。溶液は注射しなかった。
【0100】
少量の20% ベンゾカインゲルを、全ての被験体に対して使用して、活性針挿入もしくは偽針挿入の1分前に表面麻酔(topical anesthetic)を提供した。
【0101】
救出治療(rescue therapy)は、4% アルチカインヒドロクロリドと1:100,000 エピネフリン注射(Septocaine,Septodont)からなった。
【0102】
投与アルゴリズムは、以下からなった:
・偽注射もしくは活性注射で投与する1分前に、表面ベンゾカインゲルの投与。
・鼻スプレーの注射もしくは初期投与の投与用量(T=0分)
・初期用量が鼻スプレーだった場合、4分で、鼻スプレーの2回目の用量の投与
・初期用量が鼻スプレーだった場合、8分で、鼻スプレーの3回目の用量の投与
・15分で、歯科処置を開始。
【0103】
被験体に、鼻スプレーの各投与の1分後(すなわち、約2分および5分で、ならびに10分で)に、約2オンスの水を飲ませた。被験体が歯科的処置の開始時に疼痛を報告した場合、歯科医は処置を中止し、5分間待機した(投与の開始後合計20分間まで)。歯科的処置の再開時に疼痛を報告し続けた被験体は、「処置失敗」とみなし、救出治療を行った。
【0104】
(処置の投与)
各スプレーについて、上記被験体を、彼らの顎先を僅かに下に向けて座らせた。各スプレーの間に、上記被験体に、彼/彼女の呼吸を保持するように指示した。各スプレー後に、上記被験体に、穏やかに鼻で吸い込むように要求した。
【0105】
1回目のスプレーについては、上記スプレーデバイスの先端を、水平面から0°の角度で鼻の約0〜2cm中に位置づけた;上記被験体にまっすぐ前を向かせた。2回目および3回目のスプレーについては、上記スプレーデバイスの先端を、以下の模式図に図示されるように、水平面から42°の角度で鼻の約0〜2cm中に位置づけた;再び、上記被験体にまっすぐ前を向かせた。
【0106】
【化1】

(効力の評価)
軟組織麻酔を評価するために、歯科医は、感圧式機械プローブ(すなわち、Rotadent(登録商標))を使用し、軟組織麻酔について以下の領域を試験した:頬部口腔前庭の最も深い位置にある上顎第1小臼歯の位置で、歯尖に対して遠位;唇部口腔前庭の最も深い位置にある上顎第2切歯に対して先端;切歯乳頭;ならびに歯槽突起および上顎第2小臼歯の内側にある硬口蓋(大口蓋孔の近く)の合流部。試験した各部位について、上記被験体に、疼痛を感じたか否かを訊ねた。上記処方物の効力を、救出薬物の必要性なしに、上記歯科手順を達成できる能力によって決定した。
【0107】
(結果)
上記表1処方物を受け、上記研究を成功して完了した25名の患者のうち、22名は、約88%の成功率で、救出治療の必要性なしに、上記手順/試験を完全に完了した。リドカイン注射を受け、上記研究を成功して完了した15名の患者のうち、14名が、約93%の成功率で、救出治療の必要性なしに、上記手順/試験を完全に完了した。よって、上記試験した歯を麻酔する能力に関して、上記鼻腔内表1処方物と、上記コントロール(局所注射したリドカイン処方物)との間に統計学的有意さはない。従って、上記表1処方物は、疼痛のある注射手順の必要性なしに、歯を麻酔する有効な手段を提供する。
【0108】
(実施例6:表1処方物スプレーの鼻腔内投与間の時間効果の評価)
スプレー間の時間間隔の効果を、評価した。特に、約1分間、2分間、3分間、4分間、および4分超の時間間隔を評価した。スプレー投与間の時間間隔が短いと(すなわち、スプレー間に約1分間、2分間、もしくは3分間の時間間隔)、麻酔効果のより早い開始を生じるが、約4分間の時間間隔と比較すると、上記麻酔効果の持続時間は短くなることが観察された。スプレー投与間で4分間より長く待つと、麻酔開始の時間に作用するのではなく、麻酔作用の持続時間の短縮を生じることもまた、観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的組成物であって、
a)テトラカイン、もしくはその薬学的に受容可能な塩;
b)血管収縮薬;および
c)薬学的に受容可能なキャリア
を含む、薬学的組成物。
【請求項2】
前記薬学的組成物は、鼻腔内投与用である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記組成物は、約2.25〜4.75% (w/v) テトラカインを含む、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記組成物は、約3% (w/v) テトラカインを含む、請求項2に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記血管収縮薬は、間接的α−アドレナリン作動性アゴニスト;カルシウムチャネルブロッカー;メペリジン;イミダゾール薬物;α−アドレナリン作動性アゴニスト;イミダゾリン(I)リガンド;直接的α−アドレナリン作動性アゴニスト;サブスタンスPブロッカー/低下薬;I−メントール;イシリン;グルタミン酸レセプターインヒビター;およびこれらの薬学的に受容可能な塩からなる群より選択される、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記血管収縮薬は、オキシメタゾリン、もしくはその薬学的に受容可能な塩である、請求項5に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記オキシメタゾリンは、オキシメタゾリンHCl塩である、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記組成物は、約0.01〜1.0% (w/v) オキシメタゾリンHClを含む、請求項7に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記組成物は、約0.05% (w/v) オキシメタゾリンHClを含む、請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記組成物は、保存剤をさらに含む、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記保存剤は、糖アルコール、エタノール、ベンジルアルコール、イソプロパノール、クレゾール、クロロクレゾール、およびフェノールからなるリストから選択される、請求項10に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記保存剤は、ベンジルアルコールである、請求項11に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記組成物は、約0.5〜2.0% (w/v) ベンジルアルコールを含む、請求項12に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
前記組成物は、約0.9% (w/v) ベンジルアルコールを含む、請求項13に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
前記組成物は、増粘剤をさらに含む、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
前記増粘剤は、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびスマートヒドロゲルからなるリストから選択される、請求項15に記載の薬学的組成物。
【請求項17】
前記増粘剤は、ヒドロキシエチルセルロースである、請求項16に記載の薬学的組成物。
【請求項18】
前記組成物は、約0.01〜1.0% (w/v) ヒドロキシエチルセルロースを含む、請求項17に記載の薬学的組成物。
【請求項19】
前記組成物は、約0.05% (w/v) ヒドロキシエチルセルロースを含む、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項20】
前記薬学的に受容可能なキャリアは、水、糖アルコール、もしくはアルコール(例えば、エタノール)である、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項21】
前記薬学的に受容可能なキャリアは、水である、請求項20に記載の薬学的組成物。
【請求項22】
前記組成物は、pH4.0〜6.5を有する、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項23】
前記組成物は、pH5.5〜6.5を有する、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項24】
前記組成物は、保存剤および増粘剤をさらに含む、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項25】
前記組成物は、
【表4】

を含む、請求項1または2に記載の薬学的組成物。
【請求項26】
被験体において、患者の上顎歯列弓の少なくとも一部を麻酔する方法であって、該被験体の副鼻腔もしくは鼻腔の後方へ、請求項1〜25のいずれか1項に記載の薬学的組成物を選択的に送達する工程を包含し、ここで該薬学的組成物のうちの少なくとも一部は、上顎洞付近の鼻腔の後方に位置した鼻組織によって吸収される、方法。
【請求項27】
前記薬学的組成物のうちの少なくとも一部は、上歯神経叢、中上歯槽神経の伸長部、後上歯槽神経、顔面神経および頬神経の侵害受容器、もしくは蝶口蓋(翼口蓋)神経節の付近の鼻腔の後方に位置した鼻組織によって吸収される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記薬学的組成物は、噴霧化もしくはスプレーによって送達される、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
前記送達されるスプレーは、流れもしくは煙である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記副鼻腔もしくは鼻腔の後方への選択的送達は、前記薬学的組成物を1〜5回、前記被験体の各鼻孔へスプレーする工程を包含する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記副鼻腔もしくは鼻腔の後方への選択的送達は、前記薬学的組成物を3回、前記被験体の各鼻孔へスプレーする工程を包含する、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記被験体の各鼻孔への3回のスプレーの各々は、4分間の間隔が空けられる、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
約12〜50mgのテトラカインは、前記被験体の副鼻腔もしくは鼻腔の後方へ送達される、請求項26または27に記載の方法。
【請求項34】
約15〜24mgのテトラカインは、前記被験体の副鼻腔もしくは鼻腔の後方へ送達される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記副鼻腔もしくは鼻腔の後方へ送達される前記薬学的組成物の粒度は、約5〜50ミクロンである、請求項26または27に記載の方法。
【請求項36】
前記薬学的組成物の粒度は、約10〜20ミクロンである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記薬学的組成物の粒度は、約10ミクロン以上である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記薬学的組成物の粒子のうちの少なくとも85%は、約10ミクロン以上である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
身体部分、器官、もしくは組織のうちの少なくとも一部を、請求項1または2に記載の薬学的組成物を送達することによって、麻酔する方法。
【請求項40】
前記組織は、上皮組織である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記組織は、粘膜組織である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
薬学的組成物を送達するためのデバイスであって、ここで該デバイスは、請求項1または2に記載の薬学的組成物を含む、デバイス。
【請求項43】
前記デバイスは、請求項1または2に記載の薬学的組成物の鼻腔内送達用である、請求項42に記載のデバイス。
【請求項44】
前記デバイスは、前記薬学的組成物を、蝶口蓋(翼口蓋)神経節および上顎神経付近の鼻腔の後方に位置した鼻組織に送達できる、請求項43に記載のデバイス。
【請求項45】
前記デバイスは、請求項1または2に記載の薬学的組成物で予め充填されている、請求項43に記載のデバイス。
【請求項46】
前記デバイスは、スプレーデバイスである、請求項43〜45のいずれか1項に記載のデバイス。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−522783(P2012−522783A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503429(P2012−503429)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/001002
【国際公開番号】WO2010/114622
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(511236154)セイント レナタス, エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】