説明

(置換フェニル)−プロペナール部分を伴う化合物、その誘導体、生物学的活性およびその使用

本発明は、少なくとも一つの(置換フェニル)−プロペナール部分を有する化合物、医薬品および化粧品を含む。本発明の化合物および組成物は、アンドロゲン関連の病状といったような数多くの病状の治療または予防において有用である。本発明は同様に、開示された化合物のうちの少なくとも一つを用いる、アンドロゲン関連の病状を含む病状の治療方法をも含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本出願は、全体が本明細書に参照により援用されている、2007年1月8日付けの米国特許出願第60/879458号明細書に対する優先権の利益を請求するものである。
【0002】
本発明は、生物学的活性を有する化合物およびその医薬品処方物および化粧品処方物、それらの誘導体および使用方法に関するものであり、より具体的には、本発明は少なくとも一つの(置換フェニル)−プロペナール部分を伴う化合物およびその生物学的活性およびその使用を含む。
【背景技術】
【0003】
一部の天然物が治癒効果を有する可能性があることは周知であり、該天然物は、数多くの文化の中でヒトの疾病の治療および予防に使用されるに至っている(例えば、中国の漢方薬および数多くのその他の民間療法)。この治療の有効性のため、製薬産業はこれらの天然物から活性化合物を求め、そして単離し、さまざまな疾病または病状の治療および予防のための治療薬または予防薬としての活性成分を開発するに至った。かくして、一般的に使用されている数多くの医薬品が、天然物から開発されるかまたは生み出されてきた。これらの中には、柳の木の樹皮から単離されたアスピリン(アセチルサリチル酸)、中国の薬草である麻黄から単離されたエフェドリンおよびプソイドエフェドリン、ならびに真菌(ペニシリウム・クリソゲナム)から単離されたペニシリンが含まれる。しかしながら、天然物から単離された化合物は、その天然の宿主の中で或る種の一つまたは複数の生理学的機能を果たすことが公知であるが、その一方で、ヒトの疾病に対するそれらの治癒効果はすぐにわかるものではない。歴史的には、かかる治療療法は、単にヒトにおける経験の蓄積、つまり「試行錯誤」のみによって得られたものである。更には、かかる化合物は当初ヒトにおいて使用するために創出されたものではなかったことから、その化合物は天然の形態ではヒトの疾病を治療するのに構造的にも有効性においても最適な形をしていないことが多い。しかしながら、分析化学および合成化学を含む今日の近代化学技術は、医薬生物学の進歩と共に、天然物から単離されたものといったような化合物の内部で、化学構造を分析し、「ファーマコフォア」(治療活性にとって不可欠であるコア構造)の位置を突き止めることを可能にした。さらに、これらの新しい技術により、最適であるか、さらにはより優れた治療効果を有する新しい化合物を、ファーマコフォアの構造に基づいて合成することが可能となる。
【0004】
本発明において、我々は、単一の(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−プロペナール部分を伴う化合物が、アンドロゲン受容体(AR)タンパク質の分解を増強することによって、その発現を減少させることのできる活性を有することを実証した。この発見は、一部には、(ウコン植物の中に主要色素として存在する)天然化合物クルクミンのジメチル化形態である、化合物ASC−J9(1,7−ビス(3,4−ジメトキシフェニル)−5−ヒドロキシヘプタ−1,4,6−トリエン−3−オン)についての我々の広範な研究の結果としてもたらされたものである。化合物クルクミンおよびその類似体の多くは、インビトロでの数多くの生物学的活性、例えば、酸化防止、抗炎症、抗腫瘍、そして抗血管形成の活性を有することが報告されてきたが、クルクミンもその類似体もヒトの疾病を治療するための治療薬には開発されていない。このことはすなわち、クルクミンがその天然の形態では恐らく、治療薬への開発にとって最適な分子ではないということを表している。
【0005】
これまでに、我々は、化合物ASC−J9およびASC−J15(5−ヒドロキシ−7−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−4−[3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−アクリロイル]−ヘプタ−4,6−ジエン酸エチルエステル)(図1)が共に、強力な前立腺癌阻害活性および抗アンドロゲン活性を有することを発見している。我々が有するこれら二つの化合物は同様に、ヒト前立腺癌の治療に広く用いられている「非ステロイド系抗アンドロゲン」薬のクラスである、現行の治療薬ヒドロキシルフルタミド(HF)よりもさらに強力な抗前立腺癌活性をも示した。
【0006】
ASC−J9およびASC−J15の構造および生物活性の広範なさらなる研究の後、我々は驚くべきことに、これら二つの化合物が共有する(置換フェニル)−プロペナール部分が実際には、これらの化合物の強力な抗アンドロゲン/AR活性の源である一つまたは複数のコア構造であって、クルクミン様構造全体ではないということを発見した。一部にはこの発見事実に基づいて、我々は、(置換フェニル)−プロペナール部分が化合物のファーマコフォアであるという概念をさらに裏づけるため、化学合成により、一つ、二つ、三つまたは四つの(置換フェニル)−プロペナール部分を有する化合物を含む数多くの新たな化合物を生成した。我々の研究の結果は、化合物構造内におけるこれらの部分の増加が化合物の抗アンドロゲン/AR活性を改変または増大させるかもしれないということを示すことができた。我々は同様に、本明細書において、抗アンドロゲン活性が、単一の(置換フェニル)−プロペナール部分を有する化合物内に存在することも実証する。少なくとも一つの(置換フェニル)−プロペナール部分を伴う我々の新しい化合物に基づいた新しい誘導体が、同様に、ファーマコフォアの構造を解明するためだけでなく抗アンドロゲン活性および抗癌活性を評価するためにも、本発明者らにより合成された。本発明者らが本明細書中で提供している新しい化合物はさらに、生物活性、生体利用効率、水溶性、および治療薬の開発にとって不可欠であるその他の基準の大幅な改善および最適化を示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、少なくとも一つの(置換フェニル)−プロペナール部分を有する生物学的に活性な化合物を提供する。かくして、ヒトの病状といったような病状の治療に使用するための少なくとも一つの(置換フェニル)−プロペナール部分を有する化合物を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの態様においては、
【化1】

という構造式Iに従った構造式を有する化合物であって、式中、1)RおよびRは各々独立してアルコキシ、ヒドロキシおよび水素からなる群から選択されており、かつ、2)Xはヒドロキシ、アルコキシ、プロピオン酸エチル、エチルメチルカルボネートおよびカルボニルアルキルからなる群から選択されている、少なくとも一つの(置換フェニル)−プロペナール部分を有する化合物が提供されている。一部の実施態様においては、化合物は、単量体1、3、5、6および7からなる群から選択されている構造式を有する。これらの単量体を以下に示す。
【化2】

【0009】
本発明のもう一つの態様においては、
【化3】

という構造式IIaまたはIIbに従った構造式を有する化合物であって、式中、1)R、R、R’およびR’は独立して−H、−OHおよび−OCHからなる群から選択されており、2)LはC0〜C8アルキレンであるか、またはZが無である場合はLが不飽和アルケニレンまたはアルキニルであり、3)Zは、−H、−OH、芳香環、シクロアルキル、−COR、−CO、−CONR、−NR、−CXからなる群から選択され、ここでRおよびRは独立して、−H、−CH、および−Cからなる群から選択されており、かつ、4)Xは、−F、−Clおよび−Brからなる群から選択されたハロゲン原子である、(置換フェニル)−プロペナール部分を含む化合物が提供されている。構造式IIaおよびIIbは、ジケトンの一般的現象としての平衡互変異性体である。一部の実施態様においては、化合物はII−1、II−2、II−3、II−4、およびII−5からなる群から選択されている。これらの構造式を以下に示す。
【化4】

【0010】
本発明のもう一つの態様においては、
【化5】

という構造式IIcに従った化合物が提供され、式中、1)R、R、R’およびR’は独立して、−H、−OHおよび−OCHからなる群から選択されており、かつ、2)RおよびRは独立して、−H、−CH、−C、置換アリール基および置換ベンジル基からなる群から選択されている。
【0011】
本発明のもう一つの態様においては、
【化6】

という構造式IIIに従った化合物が提供されており、式中、
、R、R’、R’、R’’およびR’’は各々独立して、アルコキシ、ヒドロキシおよび水素からなる群から選択されている。一部の実施態様においては、化合物は構造式III−1またはIII−2を含み、この構造式を以下に示す。
【化7】

【0012】
本発明のもう一つの態様においては、
【化8】

という構造式IVに従った化合物が提供されており、式中、R、R、R’、R’、R’’、R’’、R’’’、およびR’’’は各々独立してアルコキシ、ヒドロキシおよび水素からなる群から選択されている。一部の実施態様においては、化合物は、
【化9】

という構造式IV−1を含む。
【0013】
本発明のもう一つの態様においては、
【化10】

という構造式Vに従った化合物が提供されており、式中、1)各々の「n」は独立して1、2または3であり、2)R、R、R’およびR’は独立して−H、−OHおよび−OCHからなる群から選択されており、3)L−Z側鎖は不在であり得るものの、L−Z側鎖が存在する場合には、LはC0〜C8アルキレンであるか、またはZが無である場合は不飽和アルケニレンまたはアルキニルであり、4)Zは−H、−OH、芳香環、シクロアルキル、−COR、−CO、−CONR、−NR、−CXからなる群から選択されており、5)RおよびRは独立して、−H、−CHおよび−Cからなる群から選択されており、かつ、6)Xは、−F、−Clおよび−Brからなる群から選択されたハロゲン原子である。一部の実施態様において化合物は、
【化11】

という構造式V−1またはV−2に従って提供される。
【0014】
本発明のもう一つの態様においては、本願において提供されている少なくとも一つの(置換フェニル)−プロペナール部分を含み、かつ所望の生物学的活性を有する化合物を含む、医薬品処方物および化粧品処方物が開示されている。医薬品処方物または化粧品処方物は、本発明の化合物、および医薬品として許容可能な担体または化粧品として許容可能な担体を提供し得る。さまざまな非限定的な実施態様において、この化合物は、単量体1、3、5、6または7を単独でまたは組合せた形で含んでいてよい。さらなる実施態様においては、この化合物は、構造式I、II、III、IV、Vまたはその組合せに従った構造式を含む。かくして、化合物は少なくとも一つ、二つ、三つ、四つ、五つまたはそれ以上の(置換フェニル)−プロペナール部分を含んでいてよい。
【0015】
本発明のもう一つの態様においては、それを必要としている個体に対して、所望の生物学的活性を有するか、またはそれを有するものと考えられる、少なくとも一つの(置換フェニル)−プロペナール部分を含む化合物を投与することを含む、病状の治療方法が開示されている。この化合物は、本明細書中に単独でまたは組合せた形で開示されているものであってよい。本発明の化合物は、アンドロゲン関連の疾患に由来する症候を治療、予防または改善するために使用することができる。開示されている化合物で治療できる病状の非限定的な例は、創傷(化合物は創傷の治癒を助ける)、にきび、関節リウマチ、および脱毛症を含むアンドロゲン関連の炎症、ケネディ病、前立腺癌、膀胱癌、肝癌および乳癌といったような癌、そして本書で記載されているその他の病状である。このような病状の治療には、本明細書中で記載されている病状を患う個体に対して、治療に有効な量の開示された化合物、その誘導体またはその医薬組成物を投与することが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】先に抗アンドロゲン活性を有するものとして示された化合物、ASC−J9(1,7−ビス−(3,4−ジメトキシフェニル)−5−ヒドロキシヘプタ−1,4,6−トリエン−3−オン)およびASC−J15(5−ヒドロキシ−7−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−4−[3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−アクリロイル]−ヘプタ−4,6−ジエン酸エチルエステル)の構造の説明を示す図である。
【図2】少なくとも一つの(置換フェニル)−プロペナール部分を含む、本発明に包含されている新たに合成された化合物の非限定的なリストを、それらの構造、化学式および分子量と共に含む表を示す図である。
【図3】様々な数の(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−プロペナール部分を有する化合物が、ヒトの前立腺癌CWR22Rv1細胞におけるアンドロゲン受容体(AR)の発現を減少させることができることを示す、ウェスタンブロットデンシトメトリーデータの表を示す図である。
【図4】少なくとも一つの(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−プロペナール部分を伴う新たに提供された化合物が、ヒト前立腺癌CWR22Rv1細胞におけるアンドロゲン受容体(AR)のタンパク質発現を減少させることができることを示す、ウェスタンブロット画像を示す図である。
【図5】一部の選択されたASC化合物および単量体が、インビトロでDHTに刺激されたヒト前立腺癌細胞(LNCaPおよびCWR22Rv1)の増殖を阻害できることを示す、表を示す図である。
【図6】さまざまな濃度の四つの化合物ASC−Q49、ASC−Q103、ASC−JM12およびASC−JM4が、LNCaPおよびCWR22Rv1ヒト前立腺癌細胞における内因性ARの発現を減少させることができることを示す、ウェスタンブロットのデータを示す図である。
【図7】化合物ASC−J9およびASC−JM5が、LNCaP細胞においてテストすると、タンパク質合成阻害剤シクロヘキシミド(CHX)の存在下でARタンパク質分解を増強させることを示す、ウェスタンブロットデータを示す図である。
【図8】LNCaPおよびCWR22Rv1ヒト前立腺癌細胞においてテストした場合の、さまざまな濃度での、(ウェスタンブロット分析を用いた)内因性ARタンパク質の発現を減少させる上での代表的なASC化合物の能力をまとめた二つの表(8aおよび8b)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.定義
別段に定義づけがないかぎり、本明細書で用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するものと同じ意味を有する。言及されている全ての特許、出願、公開出願およびその他の刊行物は、開示された構造、式、使用方法、治療方法および生産方法を含め、その全体が参照により援用されている。本明細書中の一つの用語に対し複数の定義が存在する場合、別段の定めのないかぎり、この項中の定義を優先する。
【0018】
本明細書中で使用する「(置換フェニル)−プロペナール部分」という用語は、プロペナール部分(mが1に等しい場合)およびアルコキシもしくはヒドロキシ部分、またはアルキルもしくは置換アルキル部分が付着しているフェニル基を含む組成物を意味する。置換は、本明細書中で使用されているプロペナール部分に関してメタまたはパラまたはオルトに位置してよく、
【化12】

という一般構造式である。なお式中、nは1、2、3または4のうちの任意の数であってよく、mは1、2、3、4またはそれ以上のいずれかの数であってよい。
【0019】
本明細書で使用されている「アルキル」という用語は、炭素原子と水素原子のみで構成され、不飽和を含まず、1〜10個の炭素原子を有し、かつ、単結合によって分子の残りの部分に付着している、直鎖状または分岐鎖状の炭化水素鎖ラジカルを意味し、例えばメチル、エチル、n−プロピル、1−メチルエチル(イソプロピル)、n−ブチル、n−ペンチル、1,1−ジメチルエチル(t−ブチル)などである。
【0020】
本明細書中で使用される「アルケニル」という用語は、炭素原子と水素原子のみで構成され、少なくとも一つの二重結合を含み、2〜10個の炭素原子を有し、かつ、単結合または二重結合によって分子の残りの部分に付着している、直鎖状または分岐鎖状の炭化水素鎖ラジカルを意味し、例えばエテニル、プロプ−1−エニル、ペント−1−エニル、ペンタ−1,4−ジエニルなどである。
【0021】
本明細書中で使用される「アルケニレン」という用語は、炭素−炭素二重結合を含み、かつ、式C2n−2によって表される直鎖状または分岐鎖状の炭化水素鎖を意味し、この式において水素は、さらなる炭素−炭素二重結合または一価の置換基によって置換されていてよく、例えばエテニレン、プロプ−1−エニレンなどである。
【0022】
本明細書中で使用される「アルコキシ」という用語は、Rがアルキル、ハロアルキルまたはシクロアルキルである式−ORを有するラジカルを意味する。「任意に置換されたアルコキシ」は、Rが本明細書で記載されている任意に置換されているアルキルである、式−ORを有するラジカルを意味する。
【0023】
本明細書中で使用される「アルキニル」という用語は、炭素原子と水素原子のみで構成され、少なくとも一つの三重結合を含み、2〜10個の炭素原子を有し、かつ、単結合または三重結合によって分子の残りの部分に付着している、直鎖状または分岐鎖状の炭化水素鎖ラジカルを意味し、例えばエチニル、プロプ−1−イニル、ブト−1−イニル、ペント−1−イニル、ペント−3−イニルなどである。
【0024】
本明細書中で使用される「アリール」という用語は、環の少なくとも一つが芳香環である炭素環系のラジカルを意味する。アリールは完全に芳香族であってよいか、または、非芳香環と組合せて芳香環を含んでいてよい。「ビアリール系」は、少なくとも二つのアリール基を含む化合物である。
【0025】
本明細書中で使用される「シクロアルキル」という用語は、炭素原子と水素原子のみで構成され、3〜10個の炭素原子を含み、飽和され、かつ、単結合によって分子の残りの部分に付着している、安定した一価の単環式または二環式炭化水素ラジカルを意味し、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどである。
【0026】
本明細書中で使用される「ジケトン架橋」または「ケトン−エノール架橋」という用語は、二つのケトンを含むか、またはケトンのごく近くにそれぞれ位置する一つのエノールを含む、直鎖状または分岐鎖状の炭化水素鎖を意味する。「ジケトン架橋」または「ケトン−エノール架橋」は少なくとも二つのアリール部分の間に位置する。
【0027】
本明細書中で使用される「ヒドロキシアルキル」という用語は、1〜10個の炭素原子を有する、直鎖状または分岐鎖状のヒドロキシ置換炭化水素鎖ラジカルを意味し、例えば−CHOH、−(CHOHなどである。
【0028】
本明細書中で使用される「アンドロゲン」という用語は、テストステロンおよびジヒドロテストステロン(DHT)といったようなアンドロゲンホルモンを意味する。DHTは、5−アルファ−還元酵素によるテストステロンの変換生成物である。アンドロゲンは、アンドロゲン受容体に結合することによって、脊椎動物における男性的な特徴ならびにその他の生理学的機能の発達および維持を刺激または制御し、次に該アンドロゲン受容体が、アンドロゲン/AR制御された遺伝子(DNA)に結合し、遺伝子を活性化させるかまたは調節する。
【0029】
本明細書中で使用されるアンドロゲン受容体または「AR」という用語は、テストステロンおよびDHTを含むアンドロゲンに特異的に結合する細胞内受容体を意味する。ARは、アンドロゲン受容体の、全ての哺乳動物のアイソフォーム、スプライスバリアントおよび多型を含む。
【0030】
本明細書中で使用される「エストロゲン受容体」または「ER」または「ERファミリー」という用語は、エストラジオール(主要な内因性エストロゲン)に特異的な細胞内受容体を意味する。ホルモンに結合すると、それは転写因子として作用する(それはDNAの読取りおよびタンパク質の産生を調節する)。ERはERαおよびERβを含む。ERは、核内受容体の、全ての哺乳動物のアイソフォーム、スプライスバリアントおよび多型を含む。
【0031】
本明細書中で使用される「糖質コルチコイド受容体」または「GR」という用語は、コルチゾールおよびその他の糖質コルチコイドに対する高い親和性を有する細胞内受容体を意味する。GRは、核内受容体の、全ての哺乳動物のアイソフォーム、スプライスバリアントおよび多型を含む。
【0032】
本明細書中で使用される「プロゲステロン受容体」または「PR」という用語は、プロゲステロンを特異的に結合する細胞内ステロイド受容体を意味する。PRは、核内受容体の、全ての哺乳動物のアイソフォーム、スプライスバリアントおよび多型を含む。
【0033】
本明細書中で使用される「ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体」または「PPAR」という用語は、PPARα、PPARβおよびPPARγを含む、PPARの全てのアイソフォームを意味する。PPARは、遺伝子プロモーター内の特異的ヌクレオチド配列に結合することによって標的遺伝子の転写を増大させる。その脂肪酸リガンドに結合すると、PPARαは、レチノイドX受容体(RXR)とのヘテロ二量体複合体を形成して転写を調節する。PPARγはプロスタグランジンおよびロイコトリエンにより活性化され、脂肪酸の貯蔵に関与するタンパク質の遺伝子発現を調節する。PARβは、脂肪酸、プロスタグランジンおよびロイコトリエンによって弱く活性化される。その生理的リガンドは、同定されていない。
【0034】
本明細書中で使用される「レチノイン酸受容体」または「RAR」という用語は、数多くのレチノイド形態を結合するものとして知られる細胞内受容体を意味する。「RAR」には、RARα、RARβおよびRARγを含む、全てのファミリーメンバーが含まれる。「RAR」は、核内受容体の、全ての哺乳動物のアイソフォーム、スプライスバリアントおよび多型を含む。
【0035】
本明細書中で使用される「レチノイドx受容体」または「RXR」という用語は、9−シス−レチノイン酸を特異的に結合する細胞内受容体を意味する。「RXR」は、核内受容体の、全ての哺乳動物のアイソフォーム、スプライスバリアントおよび多型を含む。
【0036】
本明細書中で使用される「ステロイド受容体」または「ステロイド核内受容体」という用語は、ステロイドホルモンの調節下でDNAに結合しその転写を調節する、細胞内受容体を意味する。異なるホルモンに対する受容体は、共通の先祖遺伝子からの進化を示し、従って遺伝子スーパーファミリーとみなされる、強い構造的および機能的類似性を有する。この遺伝子スーパーファミリーに属する代表的な受容体は、ステロイドホルモンであるエストラジオール(ER)、糖質コルチコイド(GR)、アンドロゲン(AR)、プロゲステロン(PR)、鉱質コルチコイド(MR)、非ステロイドホルモンであるトリヨードチロニン(T3R)およびジヒドロキンビタミンD3(VDR)によって制御されるDNA結合タンパク質および調節タンパク質、ならびに二つのクラスのレチノイド(オールトランスレチノイン酸および9−シスレチノイン酸)受容体(それぞれRARおよびRXR)が含まれる。異なるDNA特異性、調節またはホルモン親和性を伴う少なくとも75個のタンパク質をコードする32個以上の遺伝子が、この遺伝子スーパーファミリーの一部として同定されてきた。このスーパーファミリーの新しいメンバーが頻繁に報告されつつあり、本明細書においては、論文審査のある科学文献で公表されたものとして、または、DNA、RNAもしくはポリペプチド配列のいずれかのGen Bank、およびSWISSPROTといったような配列データベースで提供されているものとして、その全体が参照により援用されるものとする。新しいバイオテクノロジーを用いて、分子生物学者および生化学者は、そのリガンドがまだ同定されていないタンパク質受容体を同定し、かくして「オーファン受容体」というクラスを誕生させた。「ステロイド受容体」は、ステロイド受容体の、全ての哺乳動物のスプライスバリアントおよびアイソフォームを含む。
【0037】
本明細書中で使用される「延長放出」という用語は、化合物または組成物の遅延放出、一定の時間にわたる減速放出、連続放出、不連続放出または持続放出を提供する剤形を意味する。
【0038】
本明細書中で使用される「医薬品として許容可能な」という用語は、動物、より詳細にはヒトの体内で使用するために、連邦または州政府の規制当局により認可されているか、または認可可能であることを意味する。「医薬品として許容可能な担体」という用語は、それと共に化合物が投与される、認可された、または認可可能な希釈剤、アジュバント、賦形剤または担体を意味する。
【0039】
本明細書中で使用される「プロドラッグ」という用語は、インビボで投与すると、一つまたは複数のステップまたはプロセスによって代謝されるか、あるいは、その化合物の、生物学的に、医薬品として、または治療上において活性な形態へと変換される化合物を意味する。プロドラッグを生産するためには、医薬品として活性な化合物は、活性化合物が代謝プロセスによって再生されるような形で修飾される。プロドラッグは、薬物の代謝安定性もしくは輸送特性を改変させるように、副作用もしくは毒性をマスキングするように、薬物の風味を改善するように、または薬物のその他の特徴もしくは特性を改変させるように設計されてもよい。全てではないが一部のケースにおいては、プロドラッグは、開裂時に活性型を放出する開裂可能なエステルを含む。
【0040】
「治療に有効な量」という用語は、疾病または障害を治療するために患者に投与された場合に、その疾病または障害のためのかかる治療に影響を及ぼすのに充分な化合物の量を意味する。「治療に有効な量」は、化合物、疾病または障害およびその重症度、ならびに治療すべき患者の年令および体重によって左右される。「治療に有効な量」は、最初の投与が有効であるか否かに関わらず最終的に所望の効果をひき起こす、一連の投与を含む可能性がある。
【0041】
本明細書中で使用される「誘導体」という用語は、所望の効果を生み出すコア構造またはファーマコフォアに対する変異を意味する。誘導体は、フェニル環、分子のプロペナール領域、または側鎖に沿った置換を含み得る。かくして、本明細書中に包含されている誘導体は、構造式I、II、III、IVまたはVで同定されるものといったような少なくとも一つの開示された化合物から形成されているかまたはこれを含む化合物を含んでいる。溶解度、効能、凝集などを調節する目的で、特定の化合物の誘導体を形成することが望まれ得る。
【0042】
本明細書中で使用される任意の保護基、アミノ酸およびその他の化合物の略語は、別段の指示のないかぎり、その通常の使用、認知されている略語、またはIUPAC−IUB生化学命名法委員会(Biochem.1972、11:942〜944頁参照)に合致するものである。
【0043】
B.(置換フェニル)−プロペナール部分を含む化合物および組成物
本発明の発明者らは、少なくとも一つの(置換フェニル)−プロペナール部分を伴うものを含む本明細書中で記載されている化合物が、病状の治療または予防の見込みを示すということを発見した。更には、本書で開示されている化合物は、癌プロフィールを有するかまたは有する疑いがあると思われる細胞の増殖を低下させるなどの活性を有すると考えられる。さらに、本明細書中で開示されている化合物は、ステロイド受容体の集団を選択的に調節する能力を実証している。かくして、ヒトといったような哺乳動物における疾病の治療または予防に有用な生物学的活性をもつ化合物を提供することが、本発明の目的である。
【0044】
本発明は、病状の治療または予防といったような医療の分野における有用性を有するさまざまな化合物およびその誘導体を開示し、また、包含している。かくして、本書で開示されている組成物は、化合物そのものとして提供されるかまたは投与されてよく、そうでなければ、所望の治療をもたらすべく、適切な担体を用いて適合させてもよい。本明細書で開示されている化合物を医薬品として提供する場合には、化合物を医薬品として許容可能な担体と組合せて提供してよい。本明細書で開示されている化合物を化粧品として提供する場合には、この化合物を化粧品として許容可能な担体と組合せて提供してよい。医薬品として許容可能な担体および化粧品として許容可能な担体は同じであってもよいし、医薬品業界および化粧品業界において公知の通り、相互的な誘導などをされてもよく、そうでなければ、これに限定されるわけではないが、所望の投与経路に応じた変形形態のように異なっていてもよい。化合物は、医薬品または化粧品としての調製の前後に、溶解度、活性および双極子モーメントについてテストされてよく、単独で、または相乗効果を得るための本書に開示されたその他の化合物と組合せた形でテストされてよい。かくして、本発明は、親水性または疎水性の加除または置換を伴うものを含む一つまたは複数の化合物およびその誘導体を含む。
【0045】
本発明の一つの態様においては、少なくとも一つの(置換フェニル)−プロペナール部分を有する化合物が提供されている。一部の実施態様においては、(置換フェニル)−プロペナール部分を有する化合物は、抗アンドロゲン/抗AR生物学的活性を含む生物学的活性を有する。本発明の一つの具体的な実施態様においては、(置換フェニル)−プロペナール部分は、
【化13】

という構造式Iに従った構造式を有し、式中、1)RおよびRは各々独立してアルコキシ、ヒドロキシおよび水素からなる群から選択されており、かつ、2)Xはヒドロキシ、アルコキシ、プロピオン酸エチル、エチルメチルカルボネートおよびカルボニルアルキルからなる群から選択されている。図面を見ればわかるように、少なくとも一つの(置換フェニル)−プロペナール部分を有する化合物は、アンドロゲン受容体の存在を減少させるか、または、アンドロゲン受容体の分解を誘導することができる。更には、少なくとも一つの(置換フェニル)−プロペナール部分を有する化合物は、癌細胞の成長またはその増殖を低下させることが示された。かかる阻害は、癌細胞刺激能力をもつ化合物の存在下で起こる。本明細書中で記載されている非限定的なさまざまな実施態様においては、化合物は、単独または組合せた形で、単量体1、3、5、6または7の中から選択された(置換フェニル)−プロペナール化合物またはその医薬品として許容可能な塩を含み、単量体は、以下の通りである。
【化14】

【0046】
さまざまな実施態様において、前述の生物学的活性を有する単量体の誘導体も提供されている。これらの誘導体は、活性、溶解度などといった一つまたは複数の特性を増大させるために、一つまたは複数の位置に置換を有していてよい。かかる誘導体は、化合物の双極子モーメントを調節することができ、多少の差こそあれ疎水性または親水性の組成物を結果としてもたらし得る。
【0047】
本発明のもう一つの態様においては、
【化15】

という構造式IIaまたはIIbに従った構造式を有する化合物であって、式中、1)R、R、R’およびR’は独立して−H、−OHおよび−OCHからなる群から選択されており、2)LはC0〜C8アルキレンであるか、またはZが無である場合、Lは不飽和アルケニレンまたはアルキニルであり、3)Zは、−H、−OH、芳香環、シクロアルキル、−COR、−CO、−CONR、−NR、−CXからなる群から選択され、ここでRおよびRは独立して、−H、−CH、および−Cからなる群から選択されており、4)Xは、−F、−Clおよび−Brからなる群から選択されたハロゲン原子であり、そしてさらに、構造式IIaおよびIIbは、ジケトンの一般的現象としての平衡互変異性体である、(置換フェニル)−プロペナール部分を含む化合物が提供されている。一部の実施態様においては、該化合物はII−1、II−2、II−3、II−4、およびII−5からなる群から選択されている。これらの構造式は以下の通りである。
【化16】

【0048】
本発明のもう一つの態様においては、
【化17】

という構造式IIcに従った化合物が提供され、式中、1)R、R、R’およびR’は独立して、−H、−OHおよび−OCHからなる群から選択されており、かつ、2)RおよびRは独立して、−H、−CH、−C、置換アリールおよび置換ベンジル基からなる群から選択されている。
【0049】
本発明のもう一つの態様においては、
【化18】

という構造式IIIに従った化合物が提供されており、式中、R、R、R’、R’、R’’およびR’’は各々独立して、アルコキシ、ヒドロキシおよび水素からなる群から選択されている。非限定的な例として、構造式III−1またはIII−2を有するものが含まれる。
【化19】

【0050】
本発明のもう一つの態様においては、
【化20】

という構造式IVに従った化合物が提供されており、式中R、R、R’、R’、R’’、R’’、R’’’、およびR’’’は各々独立してアルコキシ、ヒドロキシおよび水素からなる群から選択されている。一つの実施態様においては、化合物は、
【化21】

という構造式IV−1を有する。
【0051】
本発明のもう一つの態様においては、
【化22】

という構造式Vに従った化合物が提供されており、式中、1)各々の「n」は独立して1、2または3であり、2)R、R、R’およびR’は独立して−H、−OHおよび−OCHからなる群から選択されており、3)L−Z側鎖は不在であり得るものの、L−Z側鎖が存在する場合には、LはC0〜C8アルキレンであるか、またはZが無である場合、不飽和アルケニレンまたはアルキニルであり、4)Zは−H、−OH、芳香環、シクロアルキル、−COR、−CO、−CONR、−NR、−CXからなる群から選択されており、5)RおよびRは独立して、−H、−CHおよび−Cからなる群から選択されており、かつ、6)Xは、−F、−Clおよび−Brからなる群から選択されたハロゲン原子である。一部の実施態様においては、化合物は、V−1またはV−2に従った構造式を有する。以下のものは、構造式V−1およびV−2を伴う化合物の代表である。
【化23】

【0052】
開示された化合物の合成は、公知の溶媒を用いる、有機合成技術において公知の標準的な慣例を使用して実施してよい。合成された化合物を、アンドロゲン受容体といったようなステロイド受容体の分解、癌細胞系の増殖を防止または阻害する能力、移植を受けた動物の研究における腫瘍のサイズの縮小などの所望の活性についてテストしてよい。ヒットまたはリードとして同定された化合物を、本明細書中で開示されている合成方法および合成技術を用いてさらに適合させてよい。かくして、提供された合成方法に対する変形形態は、当業者にとっては容易に明白となり、本発明の範囲内に入るものとみなされる。
【0053】
実施例1は、提供された単量体ならびにその誘導体のためのさまざまな合成スキームを実証しており、これらは同様に本明細書に包含される。一部の実施態様においては、誘導体は単量体またはその部分の組合せとして提供され、ビフェニル、トリフェニルまたはテトラフェニル環系、またはそれ以上のものを形成する。
【0054】
数多くの実施態様において、試験するためおよびその他の提案された治療と比較するためにビフェニル環系を利用した。しかしながら、単一の(置換フェニル)−プロペナール部分を有する化合物も同様に、DHTで刺激された癌細胞系の増殖を防止する能力およびアンドロゲン受容体を分解する能力といったような活性を有することがわかった。本発明の化合物の一部は、文献において公知の方法による、置換ベンズアルデヒドおよび2,4−ペンタンジオンまたは3−置換2,4−ペンタンジオンの縮合を介して調製された。Pedersenら、Liebigs Ann. Chem., 1557〜1569頁(1985年)。ビフェニル環上および共役架橋のC4上の所望の置換基は、縮合の前後のいずれかで合成された。二つのフェニル部分の間の共役架橋の長さは、合成戦略を通して、炭素5個〜11個まで変動させることができた。保護基を適切に付加および除去することで、開示された化合物を最終的に合成することができる。
【0055】
(置換フェニル)−プロペナール部分を有する化合物のいくつかの類似体および誘導体が新たに合成され、抗アンドロゲン活性について評価された。開示された化合物の全てではないが一部の構造情報が図2にまとめられている。
【0056】
C.少なくとも一つの(置換フェニル)−プロペナール部分を有する化合物を含む医薬品および化粧品
本発明は、開示された化合物自体、ならびに、該当する場合は、その塩およびそのプロドラッグを含む。塩またはプロドラッグは、親化合物の所望の生物学的活性の一部分を保持するか、または、身体つまり対象が生物学的に活性な形態へと変換し得る形態で提供されるべきである。例えば塩は、化合物上の正の電気を帯びた置換基(例えばアミノ)とアニオンの間で形成され得る。適切なアニオンには、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、酒石酸塩、トリフルオロ酢酸塩および酢酸塩が含まれるが、これらに限定されるわけではない。同様にして、化合物上の負の電気を帯びた置換基(例えばカルボン酸塩)は、カチオンと一つの塩を形成することができる。適切なカチオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、そして例えばテトラメチルアンモニウムイオンのようなアンモニウムカチオンが含まれるが、これらに限定されるわけではない。プロドラッグの非限定的な例としては、エステル、そして対象に投与されると上述の化合物誘導体を提供することができる、その他の医薬品として許容可能な誘導体が含まれる。
【0057】
本発明の化合物は、さまざまな病状の予防または治療のための投与のために処方することができる。医薬品処方物には、少なくとも一つの開示されている化合物またはその医薬品として許容可能な塩が、医薬品として許容可能な担体と組合せた形で含まれていてよい。医薬品生産技術は、本発明の技術分野において周知であり、標準的には、適切な担体の存在下で化合物または塩を混合することを含む。本発明の化合物と共に使用するための適切な担体としては、意図された投与形態に従って選択され、従来の医薬品または化粧品の慣例に反しない希釈剤、賦形剤または担体材料が含まれる。適切な担体の例としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、生理学的に相容性のある緩衝液、生理学的に相容性のある塩で緩衝された生理食塩水、油中水型乳剤および水中油型乳剤、アルコール、ジメチルスルホキシド、デキストロース、マンニトール、ラクトース、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、レシチン、アルブミン、グルタミン酸ナトリウム、塩酸システインなど、ならびにその混合物が含まれるが、これらに限定されるわけではない。適切な担体は同様に、従来の医薬品の慣例(「Remington : The Science and Practice of Pharmacy」、第20版、Gennaro(編)、およびGennaro, Lippincott, Williams & Wilkins, 2000年)に反しないような、医薬品として許容可能な適切な酸化防止剤または還元剤、保存剤、懸濁剤、可溶化剤、安定剤、キレート剤、錯化剤、粘度調整剤、崩壊剤、結合剤、着香料、着色剤、着臭剤、乳白剤、湿潤剤、pH緩衝剤およびそれらの混合物をも含むことができる。
【0058】
医薬品処方物および化粧品処方物は、医薬品および化粧品の技術分野において公知の方法を用いた所望の投与経路に応じて提供されてよい。適切な投与経路としては、経口、腸内、非経口、経粘膜、経皮、筋肉内、皮下、直腸、髄内、くも膜下、静脈内、心室内、心房内、大動脈内、動脈内または腹腔内投与が含まれてよい。
【0059】
本発明の医薬品組成物は、これらに限定されるわけではないが、医療装置、例えば埋込み型装置、生分解性移植片、パッチおよびポンプによって対象に投与することができる。このような装置が使用される場合、組成物は、特定の時間にわたり一つまたは複数の活性化合物を放出できるようにするため、溶解性または非溶解性のマトリクスまたは媒質(例えば、医療装置の上または内部のコーティング、膜、フイルム、含浸型マトリクス、重合体、スポンジ、ゲルまたは多孔質層)を含むように処方されてよい。
【0060】
ヒト対象といったような、生存している生物全体において使用するために、本発明の組成物を、意図された投与形態に適し、従来の医薬品の慣例(「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」、第20版、Gennaro(編)およびGennaro, Lippincott, Williams & Wilkins, 2000年)に反しないあらゆる処方物の形で処方し提供することができる。適切な処方物の例としては、錠剤、カプセル、シロップ、エリキシル剤、軟こう、クリーム、ローション、スプレー、エアロゾル、吸入剤、固体、粉末、微粒子、ゲル、坐薬、濃縮物、エマルジョン、リポソーム、ミクロスフェア、溶解性マトリクス、無菌溶液、懸濁液、または注入物質などが含まれる。注入物質は、液体溶液もしくは懸濁液としてか、注入に先立ち液体中で溶解もしくは懸濁させるのに適した濃縮物もしくは固体形態としてか、またはエマルジョンとして、従来の形態で調製可能である。
【0061】
D.少なくとも一つの(置換フェニル)−プロペナール部分を有する化合物を取入れた医療
本発明の化合物を、ステロイド受容体に対するその効果および癌細胞集団に対するその効果についてテストした。本発明の化合物はアンドロゲン受容体の発現を減少させることができるということが発見された(図3および4を参照)。さらなる調査により、本発明の化合物が、癌細胞の成長を阻害し(図5参照)、癌細胞内でのアンドロゲン受容体の発現を減少させることができる(図6および8を参照)ことが実証された。発明者らは同様に、作用の潜在的な機序または潜在的経路も検討した。図7は、本発明の化合物がアンドロゲン受容体の分解を誘発するという発明者の考えを裏づけている。かくして、本明細書中で実証されている活性は、さまざまな癌およびアンドロゲン関連の障害といったような病状の治療的または予防的処置を支援する。
【0062】
本発明は、医薬品処方物および化粧品処方物を含む開示された化合物および組成物を用いてさまざまな病状を治療する、またはかかる病状に由来する症候を改善する、またはその進行を防止する方法を含む。病状は、少なくとも部分的には、ステロイド受容体により調節され得る。特に関心対象であるステロイド受容体には、アンドロゲン受容体(AR)、プロゲステロン受容体(PR)、エストロゲン受容体(ER)、糖質コルチコイド受容体(GR)、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)、レチノイン酸受容体(RARおよびRXR)、ならびにオーファンステロイドホルモン受容体が含まれ得るが、これらに限定されるわけではない。本発明の組成物または化合物は、アンドロゲン受容体といったような特定の受容体を標的化しても、または、ステロイド受容体スーパーファミリー内の特定の受容体を標的化してもよい。
【0063】
本発明の方法は、これらに限定されるわけではないが、前立腺癌、肝癌、膀胱癌、子宮頸癌、肺癌および乳癌、皮膚癌、小細胞肺癌、精巣癌、リンパ腫、白血病、食道癌、胃癌、結腸癌、子宮内膜癌、卵巣癌、中枢神経系の癌などといった癌による症候を予防、治療または改善し得る。本発明の方法は、腫瘍細胞に対する細胞毒性を誘発するか、または腫瘍細胞の成長を阻害する可能性がある。化合物または医薬品が特定の疾病の治療または予防にとって有益か否かの判定には、インビトロでの、または動物モデルにおけるインビボでの、または適切な細胞系についての細胞ベースのアッセイを用いての、化合物またはその誘導体のテストが含まれていてよい。癌の場合、癌細胞から調製された細胞系のような癌性細胞のプロファイルを有する細胞系を利用してよい。一部の実施態様においては、本発明の化合物の活性が、場合によりDHTといったような刺激物質で刺激された、癌細胞の成長または増殖を阻害する能力について評価される。本明細書で開示されている化合物は、前立腺癌細胞の成長または増殖を低下させることが具体的に示された。
【0064】
その他の実施態様では、化合物、その誘導体、医薬品組成物などは、ケネディ病のような神経障害および神経筋障害に由来する症候を予防、治療または改善するために使用される。脊髄および球脊髄性筋委縮(SBMA)つまりケネディ病は、男性40000人に一人がかかる、一方の性に特定した運動ニューロン疾患である(Katsunoら、2004年による総説)。SBMA患者は、伸長ポリグルタミン鎖を含む、変異したアンドロゲン受容体を有する。伸長ポリグルタミンアンドロゲン受容体は、細胞の機能に干渉する凝集体を形成し、かつ、SBMAに付随する近位筋委縮をひき起こす因子である。本発明の方法には、変異体ARの量を、細胞の天然のハウスキーピング機構によってさらに容易に管理され得るレベルまで減少させることにより、凝集体形成によりひき起こされるストレスを緩和するステップが含まれていてよい。本発明の方法は、アンドロゲン受容体の選択的な分解を含んでいてよく、かくして、SBMAのための治療として使用可能である。アンドロゲン受容体の分解を増強し得る開示された化合物は、受容体の定常状態レベルを抑制し得、それにより、患者における凝集体形成の重症度を弱め得る。
【0065】
本発明の化合物および組成物は、アンドロゲン関連の毛髪障害に由来する症候を予防、治療または改善し得る。例えば、アンドロゲン性脱毛症または「男性型脱毛症」は、毛包および隣接細胞内のアンドロゲン受容体に対するアンドロゲン活性によってひき起こされる抜け毛である。もう一つの例としては、多毛症は、女性の発毛が通常は最少であるかまたは不在である場所における、太く濃い毛の過剰成長である。硬体毛のこのような男性型の成長は通常、アンドロゲンによる刺激を受けた場所、例えば顔面、胸および乳輪に発生する。本発明の方法は、かかる治療または予防を必要としている個体への化合物、医薬品処方物または化粧品処方物の投与を含んでいてよい。
【0066】
本発明の化合物および組成物は、炎症(例えば関節リウマチ)、にきび、脱毛症を治療することができ、創傷の治癒を促進することができる。にきびは、脂腺のアンドロゲン誘発型のAR活性化によってひき起こされ、したがって、ARの活性化を予防または低下させることができる化合物を投与することによって治療され得る。本発明の化合物は、アンドロゲン受容体の分解を誘発すると考えられており、かくして、かかる症状に対して有効な治療を提供すると考えられている。アンドロゲン性脱毛症およびその他の発毛障害は、内因性アンドロゲンによる毛包内のアンドロゲン受容体(AR)の活性化によって引き起こされることが知られている。一部の炎症症状および創傷の治癒もまた、アンドロゲンに応答したアンドロゲン受容体に関連していると考えられている。本発明の方法は、かかる治療または予防を必要とする個体に対する、化合物、医薬品処方物または化粧品処方物の投与を含んでいてよい。かかる処方物の局所使用は、とりわけ関心の対象であり得る。
【0067】
本発明の化合物および組成物は、内分泌障害の治療において使用することができる。アンドロゲン過剰は、女性における最も一般的な内分泌障害の一つである(BulunおよびAdashi、2003年による総説)。この病態生理学的状態は、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、下垂体腺腫誘発型高プロラクチン血症、クッシング症候群、先天性副腎過形成、非古典型副腎過形成、卵巣腫瘍または副腎腫瘍、および医原性アンドロゲン過剰を含むさまざまな内分泌障害をもつ女性に見られる。これらの障害のうち、再生産年令の女性の5〜10%に発生するPCOSは、最も高頻度で識別される、高アンドロゲン血症の原因である。近年、更年期後の女性において、循環エストロゲンに対する循環アンドロゲンの比率の相対的増加(男性化と呼ばれる)が観察されている(Leeら、2004年)。男性化は、閉経後のアンドロゲン合成の減少よりもエストラジオール合成およびエストロン合成の減少の方が大きいことの結果であり、その臨床的意義が現在、活発に研究されている。男性化を示す女性は、中心性肥満を伴うことが比較的多いということが示されてきた(Peohlmanら、1995年)。腹壁内の脂肪沈着は代謝的に活性であり、末梢組織内のインスリン耐性と関連する(Evansら、1983年)。上述の内分泌異常以外に、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染しリポジストロフィー症候群を示す女性においても、高アンドロゲン症候が検出できる(Hadiganら、2000年)。後者の患者群において観察される脂質異常には、高アンドロゲン血症が関与しうるということが示唆されてきた。
【0068】
本発明の方法は、本明細書中で開示されているか、または、少なくとも部分的にはステロイドまたはステロイド関連の障害と関連すると考えられている、さまざまな病状の治療を含む。治療方法には、それを必要とする個体または対象に対する本発明の化合物、医薬品処方物または化粧品処方物の投与が含まれる。対象は、治療上有効な投薬量で治療し得る。治療上有効な投薬量は、化合物に応じて、かつ患者に応じて幾分か変動し得、患者の身体条件および送達経路により左右される。一般的指針としては、約0.1〜約50mg/kgの投薬量が治療的効能を有し得るが、さらに一層高い投薬量が利用される可能性がある。
【0069】
本発明の特徴の多くが、以下の限定的意味のない実施例の中でより詳細に説明される。かくして、以下の実施例は、本発明のさまざまな態様および実施形態をさらに例示するために提供されている。しかしながら、本明細書中で完全に記載され、特許請求の範囲に列挙された本発明は、以下の実施例の詳細により限定されるように意図されたものではないということを理解すべきである。
【実施例1】
【0070】
実施例1:少なくとも一つの(3,4−アルコキシまたはヒドロキシ置換フェニル)−プロペナール部分を有する化合物および誘導体の調製
一部の実施形態においては、標準的および最新式の有機合成を通して、単一の(置換フェニル)プロペナールコア構造単位から成る化合物(単量体)が調製された。一部の実施形態においては、二つ以上の(置換フェニル)プロペナールコア構造部分から成る化合物が、文献中で公知である方法による、置換ベンズアルデヒドおよび2,4−ペンタンジオンまたは3−置換2,4−ペンタジオンの縮合によって調製された。Pedersenら(Liebigs Ann. Chem., 1557〜1569頁、1985年)。ビフェニル環および共役架橋のC4上の所望の置換体を、縮合の前後のいずれかで合成した。二つのフェニル部分の間の共役架橋の長さは、合成戦略を通して炭素5個から11個まで変動させることができた。保護基を適切に付加および除去することにより、開示された誘導体を最終的に合成することができる。さらに、所望の化合物を得るためにさまざまな合成ステップを交互の順序で実施してもよい。
【0071】
(置換フェニル)−プロペナール部分を有する化合物を、例えばトリエチルアミンといった有機塩基の存在下で、例えばジクロロメタンといった適切な溶媒中でオキシ塩化リンと反応させることによって、誘導体リン酸塩プロドラッグをさらに調製した。水中で酒石酸と(置換フェニル)−プロペナール部分を有する化合物を反応させることによって、水溶性塩として開示された化合物の酒石酸塩を合成した。
【0072】
化学合成
Fisher−John融点測定装置で融点を決定し、これらの融点は補正しなかった。内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を用いて、Varian Gemini 300またはInova 500分光計でプロトン核磁気共鳴(HNMR)および13CNMRスペクトルを測定した。外部標準としてリン酸を用いて500MHzのVarian Inova分光計で31PNMRを実施した。化学シフトはδ(ppm)単位で報告される。Agilent 1100シリーズLC−MSD−TrapまたはPE−Sciex API−3000分光計で質量スペクトル(MS)を得た。シリカゲル(100〜200メッシュ)またはアルミナ(酸化アルミニウム、塩基性、Brockmann I、標準グレード、約150メッシュ)上で、フラッシュカラムクロマトグラフィーを実施した。Shimadzu SCL 10A計器でHPLCを実施した。HPFCは、BiotageシステムまたはISCO Inc. Chemflashクロマトグラフィーシステムで実施した。分離および精製のために、シリカゲルプレート(Kieselgel 60、 F254、1.00mm)上での分取薄層クロマトグラフィー(PTLC)も使用した。薄層クロマトグラフィー(TLC)分析のために、予備コーティングされたシリカゲルプレート(Kieselgelgel 60、F254、0.25mm)を使用した。公表された方法(Pedersenら、Liebigs Ann. Chem.、1557〜1569頁、1985年)に基づく、3,4−ジメトキシベンズアルデヒドと2,4−ペンタンジオンの反応によって、出発材料としてASC−J9を合成した。
【0073】
単量体1、3、5〜7の合成
ここで提供されている化合物の基本構造である(3,4−ジメトキシまたは3−メトキシ,4−ヒドロキシ置換フェニル)−プロペナール部分を構造的に伴う単量体は、3−(3’,4’−ジメトキシフェニル)−アクリル酸と、対応する試薬との反応(単量体1、3)、または3,4−ジメトキシベンズアルデヒドまたは3−メトキシ−4−ヒドロキシベンズアルデヒドとレブリン酸エチルとの反応(単量体5および6)により合成されてきた。単量体7は、3−(3,4−ジメトキシフェニル)プロパンから出発して二つのステップを通して合成された。より具体的には、単量体のための合成方法は、以下で記載され、スキーム1で例示されている。
【0074】
酢酸塩化物の存在下での3−(3’,4’−ジメトキシフェニル)−アクリル酸とメタノールの反応により、単量体1、すなわち3−(3’,4’−ジメトキシフェニル)−アクリル酸メチルエステルを合成した。2.5時間還流させた後、反応混合物を蒸発により1/3まで濃縮し、白色固体をろ過し、真空で乾燥させて、白色結晶性固体として76%の収量で所望の生成物を得た。融点74〜75℃。ESI MS m/z:223.0[M+H]HNMR(300MHz,CDCl)δ:7.64(d,1H,J=15.9Hz,H−3)、7.11(dd,1H,J=6.9,2.1Hz,H−6’)、7.05(d,1H,J=2.4Hz,H−2’)、6.85(d,1H,J=8.4Hz,H−5’)、6.32(d,1H,J=15.9Hz,H−2)、3.92(s,6H,フェニルOCH)、3.80(s,3H,エステルOCH)。
【0075】
混合無水物である単量体3を、EtNの存在下でトルエン/CHCl(1:1)中で3−(3’,4’−ジメトキシフェニル)−アクリル酸を反応させることによって調製した。溶液を0℃まで冷却し、クロロギ酸エチル(1.5当量)を滴下によって添加した。2時間0℃で撹拌した後、沈殿物をろ過した。ろ液を濃縮して比較的純粋な白色固体を得、これを薄いシリカゲルパッドを通した高速ろ過により精製し、ヘキサン:酢酸エチル(1:0〜4:1)で溶出して、白色固体として所望の生成物を大量に得た。ESI MS m/z:281.0[M+H]HNMR(300MHz,CDCl)δ:7.78(d,1H,J=15.9Hz,H−3)、7.15(dd,1H,J=8.4,1.8Hz,H−6’)、7.06(d,1H,J=1.8Hz,H−2’)、6.89(d,1H,J=8.4Hz,H−5’)、6.29(d,1H,J=15.9Hz,H−2)、4.37(q,2H,J=6.9Hz,OCHCH3)、3.92(d,6H,J=1.2Hz,フェニルOCH)、1.40(t,3H,J=7.2,OCHCH)。
【0076】
単量体5、すなわち6−(3’,4’−ジメトキシフェニル)−4−オキソヘクス−5−エン酸エチルエステルを、スキーム1で示されている通りにレブリン酸エチルと3,4−ジメトキシベンズアルデヒドの反応によって合成した。レブリン酸エチル(1当量)を、30分間40℃で酢酸エチル中で酸化ホウ素(0.7当量)と反応させた。結果として得た混合物に対し、ホウ酸トリブチルと3,4−ジメトキシベンズアルデヒド(両方共1当量)を添加し、混合物を30分間40〜42℃で撹拌した。酢酸エチル中のブチルアミン(0.7当量)の溶液をゆっくりと添加し、混合物を一晩40〜42℃でさらに撹拌した。5%の塩酸(1.3当量)を添加し、反応混合物を1時間60℃で撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、分割した。水性部分を、酢酸エチルで二度抽出した。まとめられた酢酸エチル抽出物をpH4まで水で洗浄し、MgSO上で乾燥させた。ろ過と濃縮の後、粗製物をPTLCで精製して、白色固体として単量体5を得た。融点62〜63℃。ESI MS m/z:293.2[M+H]HNMR(300MHz,CDCl)δ:7.55(d,1H,J=16.2Hz,H−6)、7.14(dd,1H,J=9.0,2.1Hz,H−6’)、7.08(d,1H,J=1.8Hz,H−2’)、6.88(d,1H,J=8.4Hz,H−5’)、6.65(d,1H,J=16.2Hz,H−5)、4.16(q,2H,J=6.9Hz,OCHCH)、3.93(s,6H,フェニルOCH)、3.01(t,2H,J=6.6Hz,H−3)、2.69(t,2H,J=6.6Hz,H−2)、1.27(t,3H,J=6.9,OCHCH)。
【0077】
単量体5の合成において記録されたものと類似の方法を用いて、レブリン酸エチルとバニリンの反応により、単量体6、すなわち6−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−4−オキソヘクス−5−エン酸エチルエステルを合成した。黄色結晶性固体として、所望の化合物を得た。融点55〜56℃。ESI MS m/z:279.2[M+H]HNMR(300MHz,CDCl)δ:7.54(d,1H,J=15.0Hz,H−6)、7.12−7.06(m,2H,芳香族−H)、6.94(d,1H,J=8.1Hz,芳香族H−5’)、6.63(d,1H,J=15.0Hz,H−5)、4.16(q,2H,J=7,2Hz,OCHCH)、3.94(s,3H,フェニルOCH)、3.01(t,2H,J=6.9Hz,H−3)、2.69(t,2H,J=6.9Hz,H−2)、1.27(t,3H,J=7.2,OCHCH)。
【0078】
2つのステップを通して3−(3,4−ジメトキシフェニル)プロパンから単量体7、すなわち7−(3,4−ジメトキシフェニル)−ヘプト−6−エン−2,5ジオンを作製した。Q110の合成(スキーム13)で記載されている通りに、3,4−ジメトキシシンナムアルデヒドを60%の収量で作製した。結果として得た化合物(1当量)をドライEtOH中に溶解させ、3−ブテン−2−オン(1当量)を添加した。反応溶液をN下で80℃まで加熱し、EtOH中のTEA(0.4当量)、3−ベンジル−5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチル−1,3−チアゾリウムクロリド(0.1当量)を滴下により添加した。結果として得た反応混合物を10時間その温度で撹拌し、その後蒸発させて黄色油性残渣を得た。粗製物をCHCl中に溶解させ、0.5%のHSO、2%のNaHCOそして塩水で洗浄した。NaSO上で乾燥させた後、Alフラッシュカラムを通したクロマトグラフィーにより粗製物を精製し、その後エチルエーテルおよびペンタンから結晶化させてオフホワイトの固体として標的化合物を得た。融点71〜73℃。ESI MS m/z:263.0[M+H]HNMR(300MHz,CDCl)δ:7.55(d,1H,J=16.2Hz,H−6)、7.14(dd,1H,J=9.9,2.1Hz,H−6’)、7.08(d,1H,J=1.8Hz,H−2’)、6.88(d,1H,J=8.4Hz,H−5’)、6.64(d,1H,J=16.2Hz,H−5)、3.93(s,6H,フェニルOCH)、2.98(t,2H,J=6.0Hz,H−3)、2.83(t,2H,J=6.0Hz,H−3)、2.24(s,3H,COCH)。
【0079】
スキーム1
【化24】

【0080】
化合物Q9、Q44、Q49、Q50、Q77およびQ98の合成
AR活性に対する、化合物のC4置換の効果を研究するため、異なる官能基(例えばヒドロキシル、エステルおよびアミドなど)を伴うさまざまなC4置換化合物を合成した。塩基性条件において、適切な臭素化合物または塩素化合物を用いて(または化合物Q9を作るための代替案として酸化エチレンを用いて)、スキーム2に記載された方法を通して合成された1,7−ビス(3,4−ジメトキシフェニル)−5−ヒドロキシヘプタ−1,4,6−トリエン−3−オン(ASC−J9)を処理することにより、これらの化合物を調製した。
【0081】
化合物Q9を以下のように合成した。0.1mmolの臭化テトラブチルアンモニウム(相間移動触媒、PTC)を含む1NのNaOH溶液(0.2mL、0.2mmol)に、CHCl(0.5mL)中のASC−J9(0.1mmol)を添加した。混合物を10分間室温で攪拌し、2−ブロモエタンアルコール(0.2mmol)または酸化エチレン(25mmol)を添加した。結果として得た反応混合物を、化合物Q9については一晩40℃で撹拌した。2層を分離し、水性部分をCHClで3回抽出した。まとめられた有機層をNaSOで乾燥させ、濃縮した。PTLCにより粗製残渣を精製し、EtOAcから再結晶化させた。化合物Q9についての分析データを以下に示す。
【0082】
化合物Q9:黄色結晶性固体(EtOAc)、融点149〜150℃。ESI MS m/z:441.3[M+H]HNMR(300MHz,CDCl3)δ:7.63(d,1H,J=15.9Hz,H−1)、7.53(d,1H,J=15.9Hz,H−7)、7.14−7.04(m,4H,芳香環H)、6.88−6.85(2H,芳香環H)、6.65(d,1H,J=15.9Hz,H−2)、6.31(d,1H,J=15.9Hz,H−6)、4.29(t,2H,J=12、および6Hz,CHCHOH)、3.94−3.88(12H,OCH,)、2.84−2.79(t,1H,C4−H)、2.14−2.10(m,2H,CHCHOH)。
【0083】
スキーム2に示されているように、KCOおよびCsCO(9:1)またはNaHの存在下で適切な臭素化合物または塩素化合物と、CHClまたはTHF中のASC−J9を反応させることにより、化合物Q44、Q49、Q77を合成した。化合物Q49およびQ77の作製例としては、THF中のNaH(4当量)の溶液に、0℃でASC−J9(1当量)を添加した。結果として得た溶液を0℃で0.5時間撹拌し、次に室温で1.5時間撹拌した。2−クロリド−N,N−ジエチルアセトアミド(4当量)(Q49の場合)または2−クロリド−N,N−ジメチルアセトアミド(4当量)(Q77の場合)を添加した。結果として得た混合物を一晩加熱して還流した。反応混合物を室温まで冷却し、EtOAcで稀釈し、10%のHSO水溶液で洗浄した。有機層をさらに、飽和NaHCO、HOおよび塩水で洗浄し、NaSOで乾燥させた。所望の生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製し、EtOAcから結晶化させた。
【0084】
化合物Q49:黄色結晶性固体、融点166〜167℃。ESI MS m/z:510.7[M+H]HNMR(300MHz,CDCl)δ:7.68(d,2H,J=15.9Hz,H−1,7)、7.16−7.06(4H,芳香環H)、6.87−6.84(2H,芳香環H)、6.80(d,2H,J=15.9Hz,H−2,6)、4.97(t,IH,J=12.0および6.0Hz,C4−H)、3.92−3.89(12H,OCH)、3.43−3.33(m,4H,CHCON(CHCH)、3.04(d,2H,J=6.6Hz,C4−CHCON(CHCH)、1.24(t,3H,CHCON(CHCH)、1.09(t,3H,CHCON(CHCHJ))。
【0085】
化合物Q77:黄色結晶性固体、融点155〜157℃。ESI MS m/z:482.2[M+H]HNMR(300MHz,CDCl3)δ:7.68(d,2H,J=15.6Hz,H−1,7)、7.16−7.06(4H,芳香環H)、6.87−6.83(2H,芳香環H)、6.77(d,2H,J=15.6Hz,H−2,6)、4.92(t,1H,J=13.5および6.6Hz、C4−H)、3.92−3.88(12H,OCH)、3.09−3.04(m,5H,−CHCOおよびN(CH))、2.94(s,3H,N(CH))。
【0086】
Q44およびQ49との活性比較のため、化合物Q50およびQ98を合成した(スキーム3)。ドライジクロロメタン中の5−ヒドロキシ−1,7−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−ヘプタ−1,4,6−トリエン−3−オンおよび3,4−ジヒドロ−2H−ピラン(20当量)の溶液に、クロロクロム酸ピリジニウム(PPTS)(0.1当量)を添加した。結果として得た溶液を48時間室温で撹拌した。その後溶液を水で洗浄した。溶媒を除去し、結果として得た化合物を、Biotageカラムクロマトグラフィーで精製した。KCOおよびCsCO(9:1)の存在下で、ブロモ酢酸エチル(Q50)または2−クロリド−N,N−ジエチルアセトアミド(4当量)(Q98)と、得られた生成物(Q1)を反応させ、次にPPTS/EtOHによりTHP保護基を除去することにより、それぞれ所望の生成物Q50およびQ98が得られた。
【0087】
化合物Q50:非晶質。融点63〜65℃。ESI MS m/z:455.2[M+Η]HNMR(300MHz,CDCl3)δ:7.65(d,2H,J=15.9Hz,H−1,7)、7.19−7.04(6H,芳香環H)、6.72(d,2H,J=15.9Hz,H−2,6)、4.16(2H,COOCHCH)、3.96−3.92(6H,OCH)、3.04(d,2H,J=7.2Hz,C4−CHCOOCHCH)、1.27−1.23(3H,COOCHCH)。
【0088】
化合物Q98:非晶質。融点68〜71℃。ESI MS m/z:482.10[M+H]HNMR(300MHz,CDCl3)δ:7.65(d,2H,J=15.9Hz,H−1,7)、7.12−7.03(4H,芳香環H)、6.94−6.89(2H,芳香環H)、6.76(d,2H,J=15.9Hz,H−2,6)、4.96(t,1H,J=13.2および6.9Hz,C4−H)、3.92−3.89(6H,OCH)、3.44−3.33(m,4H,CHCON(CHCH)、3.04(d,2H,J=6.6Hz,C4−CHCON(CHCH)、1.25(t,3H,CHCON(CHCH)、1.10(t,3H,CHCON(CHCH)。
【0089】
スキーム2
【化25】

【0090】
スキーム3
【化26】

【0091】
化合物Q12の合成
スキーム4に示された通り、4−アセチル−5−オキソヘキサノエートと市販の置換ベンズアルデヒドから出発して、この化合物を合成した。
【0092】
より具体的には、4−アセチル−5−オキソヘキサノエートを30分間40℃で酢酸エチル中で酸化ホウ素(0.7当量)と反応させた。結果として得た混合物に対し、ホウ酸トリブチルと3−メチル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド(共に1.6〜1.8当量)を添加し、混合物を30分間40〜42℃で撹拌した。酢酸エチル中のブチルアミン(1.5当量)溶液をゆっくりと添加し、混合物を一晩40〜42℃でさらに撹拌した。10%の塩酸(2.5当量)を添加し、反応混合物を1時間60℃で撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、分割した。水性部分を二度酢酸エチルで抽出した。まとめられた酢酸エチル抽出物を約pH4まで水で洗浄し、MgSOで乾燥させた。ろ過および濃縮の後、ヘキサン:酢酸エチルを溶出剤として用いるシリカゲルカラムクロマトグラフィー(HPFC)により粗製物を精製し、酢酸エチルから結晶化させた。
【0093】
スキーム4
【化27】

【0094】
化合物Q30、Q35およびQ70の合成
AR活性におけるジケトン基の機能を研究するため、ケトンの一つに置き換わるイミン基をもつ一連の化合物を合成した。
【0095】
BF・OEtの存在下で適切なアミンとASC−J9を反応させることにより、化合物Q30、Q35を合成した(スキーム5)。例えば、1,2−ジクロロエタン中のASC−J9の溶液に対して、N,N−ジエチルアミン(化合物Q30)(1.2当量)を添加した。結果として得た溶液を−30℃まで冷却し、新鮮なBF・OEt(2当量)を滴下により添加した。混合物を、TLCで監視しながら−30℃から室温まで窒素下で撹拌した。ピリジン(およそ3当量)を添加しながら急冷した後、混合物を塩水で洗浄し、MgSOで乾燥した。溶媒を蒸発させ、フラッシュカラムクロマトグラフィーで精製することで、所望の生成物Q30を得た。ESI MS m/z:452.4[M+H]
【0096】
スキーム5に示されているように、無水トルエン中の(R)−(−)−2−フェニルグリシノール(1.16mmol)とASC−J9(0.75mmol)を反応させることによって、化合物Q70を合成した。反応混合物を一晩加熱し、Dean−Starkトラップで還流した。溶媒を蒸発させ、酢酸エチルを添加し、再度蒸発させた。得られた粗製物をBiotageシステムのカラムクロマトグラフィーによって精製して、明黄色固体として、所望の生成物Q70を得た。ESI MS m/z:516.4[M+H]HNMR(300MHz,CDCl3)δ:7.54(d,1H,J=15.6Hz,H−1)、7.40−7.28(5H,芳香環H)、7.13(d,1H,J=15.9Hz,H−6)、7.16−7.09(2H,芳香環H)、6.95−6.80(4H,芳香環H)、6.68(d,1H,J=15.6Hz,H−2)、6.63(d,1H,J=15.9Hz,H−7)、5.63(s,1H,C4−H)、3.94−3.83(m,15H)。
【0097】
スキーム5
【化28】

【0098】
化合物Q99、Q106、Q113、JM2およびJM20の合成
AR活性に対するC4側鎖の効果を連続的に研究するにあたり、C4置換を含むカルボニル基を伴う一連の化合物を合成した。化合物Q99を、スキーム6に示されている通り、ASCJ−9と3−クロロ−2−メトキシメトキシプロペンの反応と、それに続くメトキシメチル基の除去により合成した。より詳細には、NaOH(2当量)と重硫酸テトラブチルアンモニウム(TBABS)の水溶液を5分間撹拌した。反応溶液に、室温で1,4−ジオキサン中のASCJ−9(1当量)の溶液を滴下にて添加し、結果として得られた赤色の二相混合物を10分間室温で撹拌した。この混合物に、1,4−ジオキサン中の3−クロロ−2−メトキシメトキシプロペン(1.5当量)を添加し、結果として得た溶液を5分間室温で、そして次に70℃で一晩撹拌した。固体をろ過により除去し、ろ液を乾燥するまで濃縮した。結果として得た残渣を、1%HSO/ジオキサン(2:1、体積)中に懸濁させ、懸濁液をTLCで監視しながら4時間室温で撹拌した。反応混合物をCHClで抽出し、NaSOで乾燥させ、ろ過し、濃縮した。粗製物をフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し、ヘキサン/EtOAc混合物で溶出して、黄色結晶性固体として所望の生成物を得た。融点163〜166℃。ESI MS m/z:453.1[M+H]
【0099】
スキーム6
【化29】

【0100】
化合物Q106およびQ113を、スキーム2における化合物Q44を作製するために記載された方法を用いて合成した。Q106を作製するための一実施例を以下に記載した。ドライCHCl(5mL)中のASC−J9(0.25mmol)の溶液に、ブロモ−1−フェニルエタノン(1.2当量)、KCO/CsCO(10:1)(約2当量)を添加した。TLCで監視しながら、室温で一晩、反応混合物を撹拌した。反応混合物をEtOAcで稀釈し、HOで洗浄し、その後NaSOで乾燥させた。得られた粗製物を、ヘキサンおよびEtOAc混合物により溶出されるシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製して、所望の生成物を得た。
【0101】
化合物Q106、黄色結晶、融点160〜2℃。ESI MS m/z:515.2[M+H]HNMR(300MHz,CDCl)δ:8.14−8.01(2H,芳香環H)、7.74−7.68(2H,H−1,7)、7.65−7.46(m,4H,芳香環H)、7.18−7.15(1H,芳香環H)、7.09−7.06(2H,芳香環H)、6.91−6.80(m,4H,芳香環H)、6.69(d,2H,J−15.3Hz,H−2,6)、3.92−3.90(12H,OCH)、3.78(2H,−CHCO)。
【0102】
化合物Q113、黄色のフワフワした固体、融点145〜7℃。ESI MS m/z:479.1[M+H]HNMR(300MHz,CDCl)δ:7.75(d,1H,J=15.3Hz,H−1,7)、7.20−7.17(2H,芳香環H)、7.07−7.06(2H,芳香環H)、6.90、6.88(2H,芳香環H)、6.86(1H,J=15.3Hz,H−2,6)、3.95−3.93(12H,OCH)、3.76(2H,−CHCO)、2.14−2.05(m,1H,シクロプロピル−H)、1.10−1.04(m,2H,シクロプロピル−H)、0.93−0.86(m,2H,シクロプロピル−H)。
【0103】
化合物JM2を、スキーム7に示されているように、ドライアセトン中でヨードアセトアミド(80mg)と無水炭酸ナトリウム(40mg)をASC−J9(40mg)と反応させることにより合成した。反応混合物を24時間加熱して還流した。冷却後、混合物をろ過して無機固体を除去し、ろ液を蒸発させた。得られた粗製残渣を分取シリカゲルクロマトグラフィープレート(酢酸エチルのみ)により精製して、明黄色の固体として所望の生成物を得た。
【0104】
化合物JM2、非晶質:ESI MS m/z:452.2[M+H]HNMR(300MHz,CDCl3)δ:7.79(d,2H,J−15.3Hz,H−1,7)、7.4−6.4(6H,芳香環H)、6.33(d,2H,J=15.3Hz,H−2,6)、3.93、3.92(all s,both 6H,OCH)、2.06(d,J=6.3Hz,2H,CHCONH)。
【0105】
JM−10の合成。1.0グラムのASC−J9、5mlの無水酢酸および1mlのオルトギ酸トリメチルの混合物を22時間70℃で撹拌した(スキーム7)。その後、溶液を乾燥するまで真空蒸発させた。残渣をCHCl−エタノール中で再溶解させて、再度結晶化させた。化合物JM10を、橙赤色の結晶(270mg)として得た。融点137〜138℃;ESI MS m/z:425.2[M+H]HNMR(300MHz,CDCl)δ:10.37(s,1H,C4−COH)、7.94、7.71(both d,2H each,J=15.6Hz,H−1,2,6,7)、7.26(dd,2H,J=1.8,8.7Hz,芳香族5’−H))、7.17(d,2H,J=1.8Hz,芳香族2’−H)、6.91(d,2H,J=8.7Hz,芳香族6’−H)、3.97、3.95(both s,6H each,OCH)。
【0106】
スキーム7
【化30】

【0107】
化合物Q100、Q101、JM1、JM6およびJM7の合成
抗前立腺癌活性の増強を意図してASC−J9のC4位に不飽和側鎖を有する、化合物Q100、Q101、JM1、JM6、およびJM7を作製した。化合物Q100は、KCOの存在下において一晩60℃でCHCl中で3−ブロモ−プロピンとASC−J9を反応させることによって合成した。化合物Q101は、KCOおよびKIの存在下において2時間、100℃でDMF中でブロモプロペンとASC−J9を反応させることによって作製した(スキーム8)。ヘキサンとEtOAcの混合物により溶出されるシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより粗製化合物を精製して、所望の生成物を得た。
【0108】
化合物Q100、黄色非晶質固体、融点75〜78℃。ESI MS m/z:453.1[M+H]HNMR(300MHz,CDCl)δ:7.75(d,1H,J=15.3Hz,H−1)、7.69(d,1H,J=15.6Hz,H−7)、7.23−7.05および6.91−6.85(m,7H,芳香環HおよびH−2)、6.73(1H,J=15.6Hz,H−6)、3.96−3.91(12H,OCH)、3.46(1H,C4−H)、2.96(s,1H,アセチレン)、2.94−2.90(dd,2H,−CHCCH)。
【0109】
化合物Q101、非晶質、融点69〜72℃。ESI MS m/z:437.1[M+H]HNMR(300MHz,CDCl)δ:7.71(d,1H,J=15.6Hz,H−1)、7.70(d,1H,J=15.6Hz,H−7)、7.18−7.12(m,2H,芳香環H)、7.06−7−7.00(m,2H,芳香環H)、6.90−6.85(2H,芳香環H)、6.85(1H,J=15.6Hz,H−2)、6.67(1H,J=15.6Hz,H−6)、5.64−5.49(m,1H,エチレンH)、5.19−5.07(m,2H,エチレンH)、3.94−3.91(m,12H,OCH)、296(d,2H,−CH−)。
【0110】
スキーム8
【化31】

【0111】
ドライアセトン中の臭化シンナミルおよび無水炭酸ナトリウムをASC−J9(40mg)と反応させることにより化合物JM1を合成した(スキーム9)。反応混合物を24時間加熱して還流した。冷却後、混合物をろ過して無機固体を除去し、ろ液を蒸発させた。得られた粗製物を分取シリカゲルクロマトグラフィープレート(n−ヘキサン−酢酸エチル=1:1)により精製して、明黄色固体として所望の生成物JM1を得た。非晶質、ESI MS m/z:513.4[M+H]HNMR(300MHz,CDCl3)δ:7.74(d,2H,J=15.3Hz,H−1、7)、7.32(d,1H,J=18.6Hz,−CH2CH=CH−)、7.4−6.4(11H,芳香環H)、6.93(d,2H,J=15.3Hz,H−2、6)、6.46(d,1H,J=18.6Hz,−CH2CH=CH−)、3.91、3.88(all s,both 6H,OCH)、3.50(br d,2H,−CH2CH=CH−)。
【0112】
ドライアセトン中で酢酸ブロモメチル(50mg)および水酸化ナトリウム(20mg)をASC−J9(60mg)と反応させることにより化合物JM6を合成した(スキーム9)。反応混合物を加熱して24時間還流した。冷却後、混合物をろ過して無機固体を除去し、ろ液を蒸発させた。得られた粗製物を分取シリカゲルクロマトグラフィープレート(n−ヘキサン−酢酸エチル=1:2)により精製して、明黄色固体として所望の生成物JM6を得た。(ESI MS m/z:467.3[M+H])。
【0113】
スキーム9
【化32】

【0114】
前述のJM4の副産物として得られた化合物JM7、EtOAc/ヘキサン由来の黄色微細結晶、融点109〜110℃;ESI MS m/z:545.2[M+H]HNMR(300MHz,CDCl)δ:7.83(s,1H,C4のCH=C−)、7.79、7.51、6.98、6.83(all d,1H each,J=15.5Hz,H−1,2,6,7)、7.20、7.15、7.08(all dd,1H each,J=1.8,8.4Hz,芳香族5’−H)、6.87(d,1H,J=8.4Hz,芳香族6’−H)、6.83(d,2H,J=8.4Hz,芳香族6’−H)、7.07、7.06、6.99(all d,1H each,J=1.8Hz,芳香族2’−H)、3.92、3.88(all s,6H each,OCH)、3.90、3.83(all s,3H each,OCH)。
【0115】
化合物Q102〜Q104、Q108、Q114〜Q115、JM12〜JM14およびJM16〜JM19の合成
鎖長、環サイズおよび鎖末端における官能基(例えばQ108およびJM14)に差があるASC−J9上のC4アルキル置換の特性を評価するために、化合物Q102〜Q104、Q108、JM12〜JM14、JM17を合成した。C4側鎖の機能のみならずビフェニル部分上の置換の機能をも評価するために化合物Q114〜Q115、JM16、JM18〜19を合成した。全ての化合物が、塩基としてDBUを有するベンゼン中での、適切なアルキルもしくはアルキレン(または置換アルキルもしくは置換アルキレン)臭化物またはヨウ素と2,4−ペンタジオンとの反応により調製された。結果として得た生成物である3−置換2,4−ペンタジオンはさらに3,4−ジメトキシベンズアルデヒドまたは4−メトキシベンズアルデヒドまたは3−メトキシ−4−ヒドロキシベンズアルデヒドと反応して、所望の生成物を提供した(スキーム10)。Q104を作製するための一実施例を以下に例示した。ベンゼン3mL中で2,4−ペンタジオン0.2g(2mmol)とDBU30μl(1当量)を混合する。この溶液に、滴下により室温で1mLのベンゼン中のオクチルヨウ素0.48g(1当量)を添加した。結果として得た溶液を一晩室温で撹拌した。反応混合物を塩水で洗浄し、CHClを抽出し、NaSOで乾燥させ、シリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーで精製して、C3−オクタニル置換2,4−ペンタジオンとO−オクチル置換2,4−ペンタジオンの混合物を得た。上述の方法を介した3,4−メトキシベンズアルデヒドと混合物の反応により、化合物Q104を得た。
【0116】
化合物Q104、EtOAc/ヘキサン(2:1)由来の黄色固体、融点87〜90℃。ESI MS m/z:509.3[M+H]HNMR(300MHz,CDCl3)δ:7.71(d,1H,J−15.6Hz,H−1)、7.63(d,1H,J=15.9Hz,H−7)、7.21−7.14(m,2H,芳香族H)、7.08−7.05(m,2H,芳香族H)、6.95(d,1H,J=15.6Hz,H−2)、6.91−6.84(m,2H,芳香族H)、6.73(d,1H,J=15.9Hz,H−6)、3.94−3.91(m,12H,−OCH)、2.55(t,1H,H−4)、1.61−1.22(m,12H,ブチル基)、0.87(m,3H,−CH)。
【0117】
スキーム10
【化33】

【0118】
化合物Q102、EtOAc/ヘキサン由来の赤色針状結晶、融点162〜164℃。ESI MS m/z:425.2[M+H]HNMR(300MHz,CDCl3)δ:7.73(d,2H,J=15.3Hz,H−1,7)、7.23−7.19(dd,2H,J=8.1,1.8Hz,芳香族H)、7.09(d,2H,J=1.5Hz,芳香族H)、6.96(d,2H,J=15.3Hz,H−2,6)、6.90(d,2H,J=8.1Hz,芳香環H)、3.96(s,6H,OCH)、3.94(s,6H,OCH)、2.66−2.57(m,2H,−CHCH)、1.24(t,2H,J=15.0,6.0Hz,−CHCH)。
【0119】
化合物Q103、EtOAc由来の黄色結晶、融点125〜126℃。ESI MS m/z:453.2[M+H]HNMR(300MHz,CDCl3)δ:7.74−7.61(2H,H−1,7)、7.21−7.06(m,4H,芳香族H)、6.99−6.71(4H,H−2,6および芳香族H)、3.94−3.92(12H,−OCH)、2.57(t,1H,H−4)、1.51−1.22(m,6H,−CHCHCH−)、0.87(3H,−CH)。
【0120】
化合物Q108、EtOAc由来の黄色固体、融点60〜62℃。ESI MS m/z:515.2[M+H]HNMR(300MHz,CDCl3)δ:7.72−7.60(2H,H−1,7)、7.34−7.00(m,8H,芳香族H)、6.91−6.84(3H,芳香族H)、6.82−6.68(2H,H−2,6)、3.95−3.92(12H,−OCH)、3.46(t,1H,H−4)、2.80−2.52(m,2H,ベンジルCH)、2.12−1.84(2H,−CH−)、1.68−1.50(2H,−CHCH−)。
【0121】
化合物JM12、EtOAc/ヘキサン由来のオレンジ色針状、融点138〜139℃;ESI MS m/z:451.2[M+H]HNMR(300MHz,CDCl)δ:7.72、6.99(both d,2H each,J=15.3Hz,H−1,2,6,7)、7.21(dd,2H,J=1.8,8.4Hz,芳香族5’−H))、7.08(d,2H,J=1.8Hz,芳香族2’−H)、6.90(d,2H,J=8.4Hz,芳香族6’−H)、5.30(br.s,1H,OH)、3.95、3.93(both s,6H each,OCH)、2.65(d,2H,J=6.0Hz,C4−CH−)、0.95(m,1H,シクロプロパンのCH)、0.95(m,1H,シクロプロパンのCH)、0.51、0.24(both m,2H each,シクロプロパンのCH)。
【0122】
化合物JM13、EtOAc/ヘキサン由来のオレンジ色針状、融点172〜174℃;ESI MS m/z:493.2[M+H]HNMR(300MHz,CDCl)δ:7.71、6.97(both d,2H each,J=15.3Hz,H−1,2,6,7)、7.20(dd,2H,J=1.8,8.4Hz,芳香族5’−H))、7.08(d,2H,J=1.8Hz,芳香族2’−H)、6.92(d,2H,J=8.4Hz,芳香族6’−H)、5.30(br.s,1H,OH)、3.95、3.94(both s,6H each,OCH)、2.46(d,2H,J=6.9Hz,C4−CH−)、1.90−1.00(m,11H,シクロヘキサンの1CHおよび5CH)。
【0123】
化合物JM14、EtOAc/ヘキサン由来のオレンジ色針状、融点131〜132℃;ESI MS m/z:493.2[M+H]HNMR(300MHz,CDCl)δ:9.87(br.s,1H,OH)、7.76、6.90(both d,2H each,J=15.3Hz,H−1,2,6,7)、7.19(dd,2H,J=1.8,8.4Hz,芳香族5’−H),)、7.10(d,2H,J=1.8Hz,芳香族2’−H)、6.91(d,2H,J=8.4Hz,芳香族6’−H)、5.30(br.s,1H,OH)、3.95、3.94(both s,6H each,OCH)、2.86、2.37(both m,2H each,C4−CH−CH−)。
【0124】
化合物JM16、オレンジ色非晶質、ESI MS m/z:437.2[M+H]HNMR(300MHz,CDCl,2:1の互変異性を観察、主要形態についてのデータを列挙)δ:7.62、6.71(both d,2H each,J=15.9Hz,H−1,2,6,7)、7.12(dd,2H,J=1.8,8.4Hz,芳香族5’−H))、7.05(d,2H,J=1.8Hz,芳香族2’−H)、6.92(d,2H,J=8.4Hz,芳香族6’−H)、5.96(br.s,2H,OH X2)、3.97(s,3H,OCH)、3.94(s,9H,OCH X3)、2.68(d,2H,J=6.9Hz,C4−CH−)、2.19−1.59(m,7H,シクロブタンの1CHおよび3CH)。
【0125】
化合物JM17、EtOAc/ヘキサン由来のオレンジ色針状、融点126〜127℃;ESI MS m/z:465.2[M+H]HNMR(300MHz,CDCl)δ:7.72、7.00(both d,2H each,J=15.3Hz,H−1,2,6,7)、7.21(dd,2H,J=1.8,8.4Hz,芳香族5’−H))、7.09(d,2H,J=1.8Hz,芳香族2’−H)、6.92(d,2H,J=8.4Hz,芳香族6’−H)、3.96、3.95(both s,6H each,OCH)、2.70(d,2H,J=6.9Hz,C4−CH−)、2.08(m,2H,シクロブタンの1CH)、1.83(m、4H、シクロブタンの2CH)。
【0126】
化合物JM18、オレンジ色非晶質、ESI MS m/z:423.2[M+H]HNMR(300MHz,CDCl,2:1の互変異性を観察,主要形態についてのデータを列挙)δ:7.65、6.73(both d,2H each,J=15.9Hz,H−1,2,6,7)、7.12(dd,2H,J=1.8,8.4Hz,芳香族5’−H))、7.05(d,2H,J=1.8Hz,芳香族2’−H)、6.92(d,2H,J=8.4Hz,芳香族6’−H)、3.93(s,12H,OCH X4)、2.71、2.65(both d,1H each,J=6.0Hz,C4−CH−)、0.95(m,1H,シクロプロパンのCH)、0.51、0.24(both m,2H each,シクロプロパンのCH)。
【0127】
化合物JM19、EtOAc/ヘキサン由来の橙赤色針状、融点153〜154℃;ESI MS m/z:465.2[M+H]HNMR(300MHz,CDCl)δ:7.75、6.88(both d,2H each,J=15.5Hz,H−1,2,6,7)、7.17(dd,2H,J=1.6,8.5Hz,芳香族5’−H))、7.07(d,2H,J=1.6Hz,芳香族2’−H)、6.96(d,2H,J=8.5Hz,芳香族6’−H)、5.90(s,2H,OH X2)、3.96(s,6H,OCH X2)、2.86、2.35(both m,2H each,C4−CHCH−)。
【0128】
化合物Q114、EtOAc/ヘキサン由来の黄色結晶性固体、融点166〜167℃。ESI MS m/z:337.0[M+H]HNMR(300MHz,CDCl3)δ:7.63(d,2H,J=16.1Hz,H−1,7)、7.53−7.50(m,4H,芳香族H)、6.94−6.91(m,4H,芳香族H)、6.50(d,2H,J=16.1Hz,H−2,6)、5.79(s,1H,H−4)、3.85(s,6H,OCH)。
【0129】
化合物Q115、EtOAc由来の黄色結晶、融点142〜143℃。ESI MS m/z:393.1[M+H]HNMR(300MHz,CDCl3)δ:7.73(d,2H,J=15.6Hz,H−1,7)、7.55−7.52(4H,芳香族H)、6.99−6.92(6H,H−2,6および芳香族H)、3.86(6H,−OCH)、2.55(t,1H,H−4)、1.53−1.40(m,6H,−CHCHCH−)、1.01(t,3H,−CH)。
【0130】
化合物JM4、JM20およびQ116の合成
化合物JM4、JM20、Q116は構造的に(置換)−トリアリール系[三つの(置換フェニル)プロペナール共役]の特性を共有している。これらの化合物を合成する目的の一つは、抗−AR活性および抗前立腺癌活性に対する多フェニルプロペナール部分の効果を研究することにある。化合物JM4は、スキーム11中で示されているように、トリアセチルメタンを用いた3,4−ジメチオキシベンズアルデヒドの縮合から合成された。
【0131】
化合物JM20およびQ116は、JM4について記載したものと同様の方法で合成された。
【0132】
化合物JM20、赤色粉末、融点165〜167℃。ESI MS m/z:455.2[M+H]HNMR(300MHz,d−DMSO,)δ:7.69(d,2H,J=15.6Hz,H−1,7)、7.03(d,1H,J=16.2Hz,C4側鎖−COCH=CH−)、7.62−7.34(m,6H,芳香環H)、6.67(d,1H,J=15.6Hz,C4側鎖−COCH=CH−)、6.90−6.72(m,4H,芳香族H)、6.57(d,2H,J=15.9Hz,H−2,6)。
【0133】
化合物Q116、黄色非晶質固体、融点70〜72℃。ESI MS m/z:497.1[M+H]HNMR(300MHz,CDCl3)δ:7.78(d,2H,J=15.3Hz,H−1,7)、7.60(d,1H,J=15.6Hz,C4側鎖−COCH=CH−)、7.54−7.51(2H,芳香環H)、7.47−7.44(4H,芳香環H)、6.97(d,1H,J=15.6Hz,C4側鎖−COCH=CH−)、6.92−6.85(6H,芳香族H)、6.71(d,2H,J=15.3Hz,H−2,6)、3.84−3.82(9H,−OCH)。
【0134】
スキーム11
【化34】

【0135】
化合物JM5の合成
四つの(置換フェニル)−プロペナール部分を構造的に有する化合物JM5を、炭酸ナトリウム(5.0g)の存在下で無水アセトン(250mL)中での酢酸ブロモメチル(10.0g)とASC−J9(18.9g)の反応によって合成した(スキーム12)。80時間加熱して還流した後、固体をろ過し、ろ液を真空下で濃縮した。残渣を反復的シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=2:1)に付して所望の生成物を得、出発材料ASC−J9(15g)を回収した。得られた生成物を0.5mLの酢酸エチル中に溶解させ、撹拌しながら5mLのヘキサンに滴下により添加した。ろ過し、真空内で乾燥させて黄色粉末として化合物JM5(877mg)を得た。化合物JM5は無水アセトン中のブロモメチルメチルエーテルと炭酸ナトリウムをASC−19と反応させることによっても同様に、より短時間でかつより高い収量で合成された。
【0136】
スキーム12
【化35】

化合物JM5についての分析データを以下に示す。
【0137】
黄色非晶質。融点111〜114℃。ESI MS m/z:804.87[M+H];500MHzのVarian、(CDCl3)でのHおよび13CのNMRデータを、表1に列挙した。
【0138】
【表1】

【0139】
化合物Q110およびQ111の合成
AR活性に対する共役架橋の長さの寄与を研究するため、四共役二重結合リンカーを伴う化合物Q110および五共役二重結合リンカーを伴う化合物Q111を合成し、スキーム13中で例示した。化合物Q110は、1,2−ジメトキシ−4−プロピルベンゼンから出発して合成された。ドライジオキサン中の3−(3,4−ジメトキシフェニル)プロパンの溶液に、DDQ(3.1当量)および触媒量の酢酸を添加した。TLCで監視しながら2時間混合物を超音波処理した。反応の完了後、固体をろ過して取り除き、ろ液を濃縮した。残渣をEtOAc中に溶解させ、水、2%のNaHCOそして塩水で洗浄した。有機抽出物をNaSOで乾燥させ、濃縮して、黄褐色の固体として粗製物を得、これを中性アルミナカラムクロマトグラフィーで精製し、ヘキサン−酢酸エチル混合物で溶出して、明黄色固体3,4−ジメトキシシンナムアルデヒドを60%の収量で得た(B.P.Joshiら.,Tetrahedron,62,2590〜2593頁、2006年)。0.5時間40℃でEtOAc中の2,4−ペンタンジオン(3当量)とB(1当量)の溶液を撹拌し、3,4−ジメトキシシンナムアルデヒド(1当量)とトリブチルボラン(1当量)を添加した。結果として得た反応混合物を0.5時間40℃で撹拌した。EtOAc中のブチルアミン(1.2当量)をこの温度で滴下にて添加し、16時間40℃で撹拌した。赤色反応混合物に、1%のHCl水溶液を添加し、混合物を1時間60℃まで撹拌した。室温まで冷却した後、水性部分を分離し、有機部分を水で約pH7まで洗浄し、NaSOで乾燥させた。粗製物をシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製して、オフホワイトの固体として中間生成物8−(3,4−ジメトキシフェニル)−4−ヒドロキシ−オクタ−3,5,7−トリエン−2−オンを得た。EtOAc中の中間体(1当量)およびB(0.7当量)の溶液を0.5時間70℃で撹拌した。3,4−ジメトキシベンズアルデヒド(1当量)およびトリブチルボラン(1当量)を添加し、反応混合物を0.5時間70℃で撹拌した。EtOAc中のピペリジン(1.2当量)を滴下により添加し、反応混合物を1時間88〜90℃で撹拌した。60℃まで冷却した後、1%のHCl水溶液を添加し、混合物を0.5時間60℃で撹拌した。上述の手順に従って反応混合物を得、粗製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して所望の生成物Q110を赤色固体として得た。非晶質、融点65〜68℃、ESI MS m/z:423.1[M+H]HNMR(300MHz,CDCl3)δ:7.64−7.58(d,2H,H−1および2)、7.16−7.02(4H,芳香環Hおよびトランス二重結合H)、6.90−6.82(4H,芳香環H)、6.53−6.48(1H,トランス二重結合H)、6.18−6.12(1H,トランス二重結合H)、5.75(s,1H,H−4)、3.94−3.92(12H,−OCH)。
【0140】
化合物Q111は、Q110の合成において記載されている通り、8−(3,4−ジメトキシフェニル)−4−ヒドロキシオクタ−3,5,7−トリエン−2−オン(3)と3,4−ジメトキシシンナムアルデヒド(2)を反応させることによって合成された(スキーム13)。赤色非晶質固体を得た。融点187〜9℃。ESI MS m/z:449.1[M+H]HNMR(300MHz,CDCl3)δ:7.49−7.40(d,2H,H−1および11)、7.06−7.02(4H,芳香環H)、6.87−6.81(2H,芳香環H,およびトランス二重結合Hのための4H)、6.17−6.12(2H,トランス二重結合H)、5.75(s,1H,H−4)、3.94−3.92(12H,−OCH)。
【0141】
スキーム13
【化36】

【実施例2】
【0142】
実施例2:少なくとも一つの(3,4−アルコキシまたはヒドロキシ置換フェニル)−プロペナール部分を有する化合物の、ヒトアンドロゲン受容体(AR)およびアンドロゲン/AR介在性の活性に対する生物学的効果を検出する
代表的なASC化合物と単量体を、アンドロゲン/AR誘発型機能を遮断するそれらの活性についてテストした。ヒト前立腺癌細胞であるLNCaPまたはCWR22Rv1のいずれかを用いた細胞成長アッセイが研究において適用された。機能的ARタンパク質が両方の癌細胞系において発現する。LNCaP細胞の成長はDHT依存性であるが、再発性ホルモン抵抗性腫瘍に由来するCWR22Rv1細胞の成長はそうではなかった。さらに、少なくとも一つの(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−プロペナール部分を伴う化合物がインビトロでARタンパク質の発現レベルを低下させ、癌細胞の成長を阻害する能力をもつことを実証するために、前立腺癌細胞において単量体および一部の代表的な新しい化合物をテストすることによって、ウェスタンブロット分析を実施した。
【0143】
ヒト前立腺癌細胞系であるLNCaPおよびCWR22Rv1を用いたインビトロでの細胞成長アッセイ
本発明においては、前立腺癌細胞の成長を抑制するかまたは阻害する化合物の能力を検出するために、MTT細胞増殖アッセイが適用された。MTTアッセイは、培養細胞の増殖を検出するために広く用いられている方法であり、ミトコンドリアデヒドロゲナーゼ(全ての生存細胞が有しているもの)による、無色基質から還元テトラゾリウムへの変換に依存するものであり、さまざまな組織培養細胞の成長を評価するものであることがこれまでに実証されている(Suら、1999年)。簡単に言うと、完全培地の中に懸濁した1×10個のLNCaPまたはCWR22Rv1細胞を、96ウェルのMicrotest III組織培養プレートの各ウェル内に播種した(Falcon,NJ)。2日後に、培地を、10%の木炭/デキストラン欠乏FBS(ホルモン欠乏ウシ胎児血清)を含有するRPMI−1640培地と交換した。1nMのDHTを伴ってまたは伴わずに、指示された濃度で培地にテスト用化合物を添加し、細胞をインキュベーター(37℃)内で5日間培養した。1/10体積でのMTT基質溶液(PBS中5mg/ml)を、採取の2時間前に各ウェル内の細胞に添加した。2時間のインキュベーションの後、プレートを遠心分離し(1000rpmで10分)、各ウェルから上清を入念に除去した。各ウェル内の細胞および溶解テトラゾリウムを溶解させるため、各ウェルに100μlの溶解緩衝液(50%のジメチルホルムアミド、5%のドデシル硫酸ナトリウム、0.35Mの酢酸、および50mMのHCl)を加えた。Bio−RAD BenchMarkマイクロプレートリーダーを用いて、450nmの波長で読取った吸光度に基づき、各ウェルの酵素活性の相対量を測定した。MTTアッセイに由来するデータも、並列に配置された別のプレート上で実際の細胞数および細胞形態によって検証した。この並列プレートからのデータは、酵素活性の量とウェル内の生存細胞の数との間の正の関係を実証した。
【0144】
前立腺癌細胞におけるARタンパク質の発現レベルのウェスタンブロット分析
ARタンパク質の発現レベルを測定するために、広く用いられているウェスタンブロッティング分析を利用した。ヒト前立腺癌細胞であるLNCaPおよびCWR22Rv1は両方とも、高レベルのARタンパク質を発現し、この研究の中で使用された。本発明においては、AR発現を減少させる上でのそれらの活性を評価するために、代表的なASC化合物をウェスタンブロットアッセイにおいてテストし、ジヒドロテストステロン(DHT、1nM)の存在下または不在下のいずれかでアッセイを実施した。細胞を指定された時間にわたりテスト用化合物と共にインキュベートした後、これらの細胞を採取し、生化学技術分野で公知のウェスタンブロット技術に従って溶解させた。ウェスタンブロッティング分析方法の詳細は、以前に公表されている(Suら、1999年)。簡単に言うと、2×ドデシル硫酸ナトリウム/ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS/PAGE)ローディングバッファー中か、または、10μg/mlのベンズアミジン、10μg/mlのトリプシン阻害物質および1mMのフッ化フェニルメチルスルホニルで強化された放射性免疫沈降アッセイ(RIPA)溶解緩衝液中のいずれかに細胞を採取した。各々の細胞溶解物からの全タンパク質(およそ40μg)の試料を、SDS/PAGEゲル上の電気泳動によって分離した。電気泳動による分離の後、標準的な手順に従って、ゲルからニトロセルロース膜にタンパク質を移した。その後、ニトロセルロース膜を1時間0.1%のTween−20(PBST)を補充したリン酸緩衝生理食塩水において10%の脱脂乳と共にインキュベートし、その後、一次ヒトAR特異的抗体(BD−PharMingenより購入)と共に4℃で一晩インキュベートした。インキュベーションの後、ニトロセルロース膜をPBST緩衝液で3回、毎回10分ずつ洗い流し、その後、アルカリホスファターゼ共役二次抗体を添加し、1時間室温でインキュベートした。二次抗体のインキュベーションの後、ニトロセルロース膜を再びPBSTで洗い流し、アルカリホスファターゼ基質、リン酸ブロモクロロインドリルおよびニトロブルーテトラゾリウムをニトロセルロース膜に添加することによって、膜内のARタンパク質シグナルを視覚化した。各試料からの等量のタンパク質が分析されたことを確実にするため、ハウスキーピングタンパク質β−アクチンに対する特異的抗体(Santa Cruz Biotechnology)で膜の一部分を染色したところ、上述の二次抗体でアクチンシグナルが明らかになった。タンパク質シグナルの強度(膜上のカラーバンドとして示される)を、デンシトメーターを用いて測定し、NIH Image Jソフトウェア(NIH 1.33)を用いて分析した。各試料中のβ−アクチンの量に対しARの量を標準化することによって、ARタンパク質の量を計算し、データは相対量で表す。
【0145】
シクロヘキシミド追跡アッセイ方法を用いたAR分解の検出
シクロヘキシミド(タンパク質合成阻害物質)追跡アッセイ方法を用いることにより、前立腺癌細胞におけるARタンパク質の「分解」を測定した。簡単に言うと、24時間、指定された濃度でテスト用ASC化合物と共にLNCaP細胞をインキュベートした。その後、新しいタンパク質合成を遮断するべく15μg/mlの濃度で細胞にシクロヘキシミドを添加した。インキュベーションの後、細胞を指定の時間に採取し、結果としてのARタンパク質レベルの変化を、上述の通りウェスタンブロット分析を用いて分析した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1】

という構造式Iに従った化合物であり、式中、
およびRが各々独立してアルコキシ、ヒドロキシおよび水素からなる群から選択されており、
Xがヒドロキシ、アルコキシ、プロピオン酸エチル、エチルメチルカルボネートおよびカルボニルアルキルからなる群から選択されている化合物。
【請求項2】
、RおよびXが各々メトキシである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
およびRが各々メトキシであり、Xが−CHCHC(=O)OCHCHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
【化2】

という構造式IIaまたはIIbに従った化合物であり、式中
、R、R’およびR’が独立して−H、−OHおよび−OCHからなる群から選択されており、
LがC0〜C8アルキレンであるか、またはZが無である場合、Lが不飽和アルケニレンまたはアルキニルであり、
Zが、−H、−OH、芳香環、シクロアルキル、−COR、−CO、−CONR、−NR、−CXからなる群から選択され、ここでRおよびRは各々独立して、−H、−CHおよび−Cからなる群から選択されており、
Xが、−F、−Clおよび−Brからなる群から選択されたハロゲン原子であり、
そしてさらに、構造式IIaおよびIIbが、ジケトンの一般的現象としての平衡互変異性体である化合物。
【請求項5】
【化3】

という構造式IIcに従った化合物であり、式中、
、R、R’およびR’は独立して−H、−OHおよび−OCHからなる群から選択されており、
およびRが独立して−H、−CH、−C、置換アリール基および置換ベンジル基からなる群から選択されている化合物。
【請求項6】
【化4】

という構造式IIIに従った化合物であり、式中、
、R、R’、R’、R’’およびR’’が各々独立して、アルコキシ、ヒドロキシおよび水素からなる群から選択されている化合物。
【請求項7】
【化5】

という構造式IVに従った化合物であり、式中、
、R、R’、R’、R’’、R’’、R’’’、およびR’’’が各々独立してアルコキシ、ヒドロキシおよび水素からなる群から選択されている化合物。
【請求項8】
【化6】

という構造式Vに従った化合物であり、式中、
各々の「n」が独立して1、2または3であり、
、R、R’およびR’が独立して−H、−OHおよび−OCHからなる群から選択されており、
L−Z側鎖が不在であり得るものの、L−Z側鎖が存在する場合には、LがC0〜C8アルキレンであるか、またはZが無である場合、飽和アルケニレンもしくはアルキニルであり、
Zが−H、−OH、芳香環、シクロアルキル、−COR、−CO、−CONR、−NR、−CXからなる群から選択されており、
およびRが独立して、−H、−CHおよび−Cからなる群から選択されており、そして、
Xが、−F、−Clおよび−Brからなる群から選択されたハロゲン原子である化合物。
【請求項9】
医薬品として許容可能な担体中に請求項1に記載の化合物を含む医薬品処方物。
【請求項10】
医薬担体中に請求項4に記載の化合物を含む医薬品処方物。
【請求項11】
医薬品として許容可能な担体中に請求項5に記載の化合物を含む医薬品処方物。
【請求項12】
医薬品として許容可能な担体中に請求項6に記載の化合物を含む医薬品処方物。
【請求項13】
医薬品として許容可能な担体中に請求項7に記載の化合物を含む医薬品処方物。
【請求項14】
医薬品組成物中に請求項8に記載の化合物を含む医薬品処方物。
【請求項15】
アンドロゲン関連の病状を患う個体に対して、任意には医薬品として許容可能な担体と共に、請求項1、4、5、6、7、または8のいずれか一つに記載の化合物を投与することを含む、アンドロゲン関連の病状を患う個体の治療方法。
【請求項16】
ケネディ病を患う個体に対して、任意には医薬品として許容可能な担体と共に、治療に有効な量の、請求項1、4、5、6、7または8のいずれか一つに記載の化合物を投与することを含む、ケネディ病を患う個体の治療方法。
【請求項17】
a)前立腺癌、膀胱癌、肝癌および乳癌からなる群から選択された癌を患う患者を提供すること、
b)前記患者に対して、任意には医薬品として許容可能な担体と共に、治療に有効な量の、請求項1、4、5、6、7または8のいずれか一つに記載の化合物を投与すること
を含む、癌を患う患者の治療方法。
【請求項18】
前記アンドロゲン関連の病状が、アンドロゲン関連の炎症、にきび、脱毛症、多毛症および創傷からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図2−5】
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【図2−6】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−515685(P2010−515685A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544955(P2009−544955)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/000285
【国際公開番号】WO2008/085984
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(509191193)アンドロサイエンス コーポレーション (2)
【氏名又は名称原語表記】ANDROSCIENCE CORPORATION
【Fターム(参考)】