説明

(高分子/液晶)複合膜表示装置の製造方法

【課題】表示ムラの少ない(高分子/液晶)複合膜表示素子を提供する。
【解決手段】光重合性モノマー(A)、光重合性モノマー(A)とは相溶性のない有機化合物(B)、光重合性モノマー(A)と光重合性モノマー(A)とは相溶性のない有機化合物(B)とに共通して相溶性のある共溶媒(C)および光重合開始剤(D)を必須成分とする光硬化型液状樹脂組成物を、透明電極を形成した第1の透明基板に滴下する工程、滴下された前記樹脂組成物を薄膜状に形成する工程、前記樹脂組成物を紫外線照射して硬化した樹脂組成物に空隙を形成する工程、硬化樹脂組成物から有機化合物(B)および共溶媒(C)を除去する工程、前記樹脂組成物内に形成された空隙に液晶を含浸する工程、樹脂組成物内の空隙に液晶が含浸された前記第1の透明基板に、透明電極を形成した第2の透明基板を重ね合わせる工程、とからなることを特徴とする(高分子/液晶)複合膜表示素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(高分子/液晶)複合膜の製造方法に関するもので、詳しくは、紫外線を照射することにより、液晶が含浸可能な高分子ネットワーク層を形成させることを特徴とする自己支持型の(高分子/液晶)複合膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、(高分子/液晶)複合膜表示装置は、薄型で低消費電力である特徴を活かして、ノート型パソコン、ポータブルテレビ、プロジェクター、ワープロ、カメラ一体型VTR、カーナビゲーションなどの表示デバイスとして広く利用されている。これらの表示デバイスは液晶分子のねじれ配列などを利用して2枚の偏光板により表示素子を実現している。しかしながら、これらの(高分子/液晶)複合膜表示装置は偏光板を必要とするため入射光の約1/2が失われるので表示が暗く、視野角が狭く、また、セルギャップの制御が困難であるという問題があった。
【0003】
一方、このような(高分子/液晶)複合膜表示装置に対して、偏光板と配向処理が不要な(高分子/液晶)複合膜表示素子が提案されている。(高分子/液晶)複合膜表示素子とは、液晶相と高分子ネットワークとの界面での屈折率の差や変化により透明状態と白濁不透明状態を実現する(高分子/液晶)複合膜表示装置のことで、高分子分散型液晶膜(Polymer-Dispersed Liquid Crystal:以下、PDLCと称する。)と自己支持型液晶膜(Self-Supported Liquid Crystal:以下、SSLCと称する。)の2種類に大別される(清水剛夫、吉野勝美監修:「分子機能材料と素子開発」p.672〜681(1994)、(株)エヌ・ティー・エス)。
【0004】
PDLCは図1に示すような微小な液晶滴(a)を高分子マトリクス(b)中に分散させる方式であり、その駆動原理は以下のように説明される。
電界無印加時は液晶は見かけ上ランダムに配向しているため、液晶滴の平均屈折率と高分子マトリクスの屈折率が異なると入射光は液晶滴により散乱され白濁状態にあるが、電界印加時は液晶は電界方向に配向し、液晶滴の屈折率が変化し、高分子マトリクスの屈折率に近い値となると入射光は複合膜中を透過するので透明状態となる。
【0005】
一方、SSLCは図2に示すようなスポンジのような三次元網目構造を有する高分子ネットワーク(c)中に液晶相(d)が連続相として保持されており、その駆動原理はPDLCと同様で、電界の印加有無により透明状態と白濁状態を制御することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の(高分子/液晶)複合膜については、偏光板が不要であるため明るい表示が可能であり、視野角が広く、セルギャップの制御も容易であるという長所がある反面、溶媒蒸発法などによる製膜法(SSLC)では高分子ネットワークの不均一または液晶相形状や分布状態の不均一による表示ムラやコントラスト不良が発生しやすいという問題点がある。また、液晶とモノマーを混合した組成物を重合硬化させる別の製膜法(PDLC)では、モノマーの反応性が低下してしまうため重合状態が不十分となり液晶滴が不安定になりやすいという問題点がある。
【0007】
本発明は、このような従来のSSLCの問題点に着目してなされたもので、紫外線照射により極めて微小で均一な硬化樹脂粒子のネットワーク層を形成することのできる光硬化型液状樹脂組成物を紫外線硬化させて形成された高分子ネットワーク中に液晶を含浸させることにより均質な液晶相と分布を達成し、表示ムラの少ないSSLC型(高分子/液晶)複合膜を作製することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、光重合性モノマー(A)、光重合性モノマー(A)とは相溶性のない有機化合物(B)、光重合性モノマー(A)と光重合性モノマー(A)とは相溶性のない有機化合物(B)とに共通して相溶性のある共溶媒(C)および光重合開始剤(D)を必須成分とする光硬化型液状樹脂組成物を、透明電極を形成した第1の透明基板に滴下する工程、滴下された前記樹脂組成物を薄膜状に形成する工程、前記樹脂組成物を紫外線照射して硬化した樹脂組成物に空隙を形成する工程、硬化樹脂組成物から有機化合物(B)および共溶媒(C)を除去する工程、前記樹脂組成物内に形成された空隙に液晶を含浸する工程、樹脂組成物内の空隙に液晶が含浸された前記第1の透明基板に、透明電極を形成した第2の透明基板を重ね合わせる工程、とからなることを特徴とする(高分子/液晶)複合膜表示素子の製造方法に関する。
【0009】
本発明により、高分子ネットワークを形成する硬化樹脂微粒子の集合体中に形成された空隙の測定による平均径が0.1〜0.2μm程度であり、その空隙に液晶が含浸されている上記(高分子/液晶)複合膜表示装置が得られる。
本発明では、光硬化型液状樹脂組成物を基材に塗布し、紫外線を照射することで簡単にかつ短時間で均一性に優れた高分子ネットワークを形成させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により得られたSSLC型(高分子/液晶)複合膜表示素子は、以下のような優れた効果が得られる。
1)微小な三次元網目構造を有する高分子ネットワークを形成している。
2)極めて微小な液晶相が形成されているので表示ムラが少なく均一性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に使用する光重合性モノマー(A)は、分子末端に不飽和結合を有し、光によるラジカル重合可能なモノマー類のことである。即ち、末端基としてアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニルエーテル基、ビニル基などの末端不飽和基を有するモノマー類のことであるが、これらのモノマー類の中では光硬化性(重合性)と硬化物の物性が総合的に良好なことからアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を分子末端に有する光重合性モノマー類、即ちアクリレート類およびメタクリレート類(以下、両者を合わせて(メタ)アクリレート類と称する。)の使用が好ましく、特に2〜6官能の多官能(メタ)アクリレート類の使用が好ましい。アクリレート類とメタクリレート類とは併用してもよい。
【0012】
具体的には1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド2モル付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFエチレンオキサイド4モル付加物ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エタンジオールジグリシジルエーテル・(メタ)アクリル酸2モル付加物(アクリル酸またはメタクリル酸の付加反応物を表す。以下の付加物も同じ表現である。)、1,2−プロパンジオールジグリシジルエーテル・(メタ)アクリル酸2モル付加物、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル・(メタ)アクリル酸2モル付加物、トリ−1,2−プロパンジオールジグリシジルエーテル・(メタ)アクリル酸2モル付加物、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル・(メタ)アクリル酸2モル付加物、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル・(メタ)アクリル酸2モル付加物、ビスフェノールAジグリシジルエーテル・(メタ)アクリル酸2モル付加物、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル・(メタ)アクリル酸3モル付加物などを脂肪族系、脂環族系および芳香族系の多官能(メタ)アクリレート類として例示できる。本発明では、このような多官能(メタ)アクリレート類の1種類を単独に使用するか、あるいは2種類以上を併用する。
【0013】
本発明における光重合性モノマー(A)には光重合性プレポリマー系(メタ)アクリレート類も含まれる。ここで言うプレポリマーとは重合度20程度以下の低分子量ポリマーであり、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルなどのプレポリマーである。光重合性プレポリマー系(メタ)アクリレート類にあっても2官能以上の多官能(メタ)アクリレート類の使用が好ましい。
【0014】
具体的には、(アジピン酸/1,6−ヘキサンジオール)ジ(メタ)アクリレート(nはアジピン酸と1,6−ヘキサンジオールから得られる低分子量ポリエステルの重合度を表し、この重合体がプレポリマーであり、このプレポリマーの両末端のヒドロキシル基が(メタ)アクリレート化されているものを表している。nは2〜20であり、好ましくは、nは2〜10である。以下も同様な表現としている。)、(オルソフタル酸/1,2−プロパンジオール)ジ(メタ)アクリレート、(2,4−トリレンジイソシアネート/1,6−ヘキサンジオール)ジ(メタ)アクリレート、(イソホロンジイソシアネート/ジエチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート)、ポリ(プロピレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、ポリ(テトラメチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、ポリ(ジグリシジルビスフェノールA)ジ(メタ)アクリレート、(トリメリット酸/ジエチレングリコール)トリ(メタ)アクリレートなどをポリエステル・プレポリマー系、ポリウレタン・プレポリマー系およびポリエーテル・プレポリマー系の多官能(メタ)アクリレート類として例示できる。本発明では、このようなプレポリマー系の多官能(メタ)アクリレート類の1種類を単独に使用するか、あるいは2種類以上を併用する。
【0015】
本発明においてはこれらの光重合性モノマー(A)の中から1種類を単独に、あるいは2種類以上を組み合わせて使用するが、良好な物性を有する高分子ネットワーク層とするためには光重合性モノマー(A)として多官能(メタ)アクリレート類と多官能プレポリマー系(メタ)アクリレート類の併用が好ましい。前者と後者の配合比は80〜40:20〜60(重量%)であり、好ましくは70〜50:30〜50(重量%)である。
また、本発明にあっては、光硬化型液状樹脂組成物の粘性や硬化性を調整するために、あるいは紫外線硬化後の硬化樹脂の物性を調整するために、必要に応じて1官能(メタ)アクリレート類や1官能プレポリマー系(メタ)アクリレート類を併用しても良い。
【0016】
具体的には、n−ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)(メタ)アクリレート(n:前出)、メトキシポリ(エチレングリコール)(メタ)アクリレート、フェノキシポリ(エチレングリコール)(メタ)アクリレートなどを脂肪族系、脂環族系、芳香族系、およびプレポリマー系1官能(メタ)アクリレート類として例示できる。
【0017】
これらの1官能(メタ)アクリレート類や1官能プレポリマー系(メタ)アクリレート類を1種類以上選択して多官能(メタ)アクリレート類と多官能プレポリマー系(メタ)アクリレート類の混合物に配合されるが、その配合量は30重量%以下であり、好ましくは20重量%以下である。その配合量が30重量%を越えると紫外線硬化後の硬化樹脂の架橋密度が不十分となり、その物性が良好なものとはならない。
【0018】
また、本発明のひとつの態様では、光重合性モノマー(A)として、フルオレン誘導体ジ(メタ)アクリレート類を主成分として使用する。この場合には耐光性に優れ高屈折率の高分子ネットワークが得られる。高屈折率の高分子ネットワークが得られることにより液晶材料との屈折率差を大きくできるので高い表示コントラスト得ることが可能となる。また耐光性が優れるため、投射型表示装置として使用する場合、光源による高分子ネットワークの光劣化がないため、明るい表示が可能となる。
【0019】
ここでいうフルオレン誘導体ジ(メタ)アクリレート類とは、下記一般式(3)
【化1】

〔式中、RおよびR、m、nは前記と同義〕
で表されるフルオレン誘導体と、下記一般式(4)
【化2】

〔式中、RおよびRは前記と同義〕
で表される(メタ)アクリル酸とのエステル化反応(すなわち(メタアクリレート化反応)によって合成することが一般的である。
【0020】
一般式(1)で表されるフルオレン誘導体ジ(メタ)アクリレート類において、mとnがともに0の場合は、一般式(3')
【化3】

で表されるフルオレン誘導体と、下記一般式(4')
【化4】

〔式中、RおよびRは前記と同義〕
で表される(メタ)アクリル酸クロライドとのエステル化反応(すなわち(メタ)アクリレート化反応)によって合成することが一般的である。
【0021】
より具体的には、フルオレン誘導体ジ(メタ)アクリレートの例としては、下記式(5)
【化5】

で示される9,9-ビス〔4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル〕フルオレンは、下記式(6)
【化6】

で示される9,9-ビス〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕フルオレンのアクリレート化反応により合成することができる。
【0022】
この態様では、光重合性モノマー(A)のうちフルオレン誘導体ジ(メタ)アクリレート類は主成分として50重量%以上、好ましくは60重量%以上の量で含有される。
一般式(1)で示されるようなフルオレン誘導体ジ(メタ)アクリレートは常温で淡黄色透明固体であるため、他の光重合性モノマー類と併用することが望ましい。このようなモノマーとしては、ラジカル重合が可能なアクリレート類であればどのようなものでもよいが、高出力の光源を用いた投射型表示装置に使用する場合は、屈折率、耐光性を低下させないために分子内に芳香族環をもつ(メタ)アクリレート類が好ましい。例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、o-、m-、p-メチルベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、o-、m-、p-メチルフェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等が例示される。
【0023】
本発明における光重合性モノマー(A)とは相溶性のない有機化合物(B)とは上記した光重合性モノマー(A)とは室温付近で混合しても相溶せず、仮に混合攪拌しても放置すると相分離してしまう有機化合物のことである。このような有機化合物(B)としては、カルボン酸基、スルホン酸基、アミド基、1級、2級または3級アミノ基、アルコール性水酸基、チオール基などのような水素含有極性基を有し分子会合し易い有機化合物である。中でも分子会合の顕著な分子中に1級、2級または3級アミノ基とアルコール性水酸基を共に有する脂肪族化合物、即ちアミノアルコール類が好適である。このアミノアルコール類は1分子中に2個以上のアミノ基とアルコール性水酸基を有している化合物も含まれる。このようなアミノアルコール類は沸点が160〜360℃の範囲のものが多い。
【0024】
具体的には、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、3−アミノ−1−プロパノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−プロパノール、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、1−アミノ−2−ブタノール、4−アミノ−1−ブタノールなどの低級脂肪族アミノアルコール類を例示できる。本発明では、このようなアミノアルコール類の1種類を単独に使用するか、あるいは2種類以上を併用する。
本発明における光重合性モノマー(A)である多官能(メタ)アクリレート類と多官能プレポリマー系(メタ)アクリレート類との混合物と低級脂肪族アミノアルコール類(B)とは非相溶性を予備実験することにより、最適の組み合わせを選択することができる。
【0025】
本発明における光重合性モノマー(A)と光重合性モノマー(A)とは相溶性のない有機化合物(B)とに共通して相溶性のある共溶媒(C)とは室温付近で光重合性モノマー(A)と有機化合物(B)と混合すると完全に両者と相溶する有機溶剤のことである。このような有機溶剤(C)としてはアルコール系、エーテル系、エステル系、ケトン系などの含酸素系溶剤が代表例として挙げられる。
具体的には、エタノール、n−およびi−プロパノール、n−およびt−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、n−デカノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、エタンジオール、1,2−および1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジ−n−プロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルフェニルエーテル、エタンジオールジメチルエーテル、エタンジオールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸シクロヘキシル、安息香酸メチル、エタンジオールジアセテート、アセトン、エチルメチルケトン、メチル−n−ブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、エタンジオールモノメチルエーテル、エタンジオールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エタンジオールモノアセテート、エタンジオールメチルエーテルアセテートなどを例示できる。
【0026】
本発明における光重合性モノマー(A)、光重合性モノマー(A)とは相溶性のない有機化合物(B)および(A)と(B)とに共通して相溶性のある共溶媒(C)の配合比は使用する各成分の分子量や沸点により異なった比率となるが、通常(A):〔(B)+(C)〕=75:25〜25:75(重量%)であり、好ましくは70:30〜30:70(重量%)である。光重合性モノマー(A)が75重量%を超えると〔(B)+(C)〕成分量に対して多量となり過ぎて、また25重量%未満では液状樹脂組成物中の〔(B)+(C)〕成分量が多くなり過ぎて良好な複合膜の形成が困難となる。一方、成分(B)と(C)との配合比は通常(B):(C)=60:40〜20:80(重量%)、好ましくは50:50〜30:70(重量%)である。成分(B)が60重量%を超えても、また20重量%未満であっても良好な物性を有する複合膜の形成は困難である。
【0027】
光重合開始剤(D)としては、本発明に特に限定されるような化合物はなく、一般的に使用されている光重合開始剤、即ち、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ジアセチル類、ベンジル類、ベンゾイン類、ベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、ベンゾイルベンゾエート類、ヒドロキシフェニルケトン類、アミノフェニルケトン類などのカルボニル化合物系光重合開始剤、チラウムサルファイド類、チオキサントン類などの有機硫黄化合物系光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド類、アシルホスフィン酸エステル類などの有機燐化合物系光重合開始剤などがすべて使用できる。本発明ではこのような多種類の光重合開始剤を単独に、あるいは2種以上を組み合わせて使用する。本発明においては光重合開始剤(D)の添加量は少量でよく、光重合性モノマー(A)に対して0.1〜1.5重量%でよい。
【0028】
本発明の光硬化型液状樹脂組成物を紫外線照射により硬化させるには、一般に紫外線硬化型樹脂に用いられる超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアークランプ、キセノンランプ等の紫外線を照射することによって行う。好ましくは波長365nmを中心とした紫外線が比較的多い高圧水銀灯あるいはメタルハライドランプを使用するのがよい。紫外線の照射量は600mJ/cm以上あれば硬化させることができ、1200〜2000mJ/cmが最適である。
【0029】
本発明に使用できる基材としては、従来からの(高分子/液晶)複合膜表示装置に使用されているガラス板が最も好適であるが、その表面に透明電極を備えている透明な基材であれば特に材質は問わない。例えば、透明電極を有するポリエチレンテレフタレートやポリエーテルスルホンなどのプラスチック・フィルムも使用できる。透明電極としては光透過性が良好でシート抵抗値が比較的小さく回路加工性も良好なインジウム錫化合物(以下、ITOとも略称する)系が好適である。
【0030】
本発明の光硬化型液状樹脂組成物を透明電極を有するガラス板や透明なプラスチック・フィルムなどの基板に一定の厚さに塗布する方法としては、滴下法、バーコート法、ナイフコート法、スピンコート法などが採用される。透明なプラスチック・フィルムの場合には、ダイレクト・ロールコート法、リバース・ロールコート法、グラビア・ロールコート法などの各種のロールコート法が採用できる。塗布厚さは光硬化型液状樹脂組成物の必須成分の配合比や含浸させる液晶化合物の種類などにより変化させることができるが一般的には5〜50μmの範囲である。
【0031】
本発明の光硬化型液状樹脂組成物は上記した基板に塗布された後、前記した各種の紫外線光源からの紫外線を照射して組成物中に含有される光重合性モノマー(A)を重合硬化させ架橋高分子のネットワークを形成させる。この紫外線照射は塗布したままの状態で照射してもよいが、塗布された組成物表層の硬化性の安定化や硬化後の表面平滑性と形成された高分子ネットワークの厚さ精度を維持するためには、ガラス板や透明なプラスチック・フィルムで塗布表面を被覆して紫外線を照射するのがよい。
【0032】
紫外線硬化させて形成された架橋高分子のネットワーク層には重合硬化反応には関与しない光重合性モノマーとは相溶性のない有機化合物(B)と共溶媒(C)が残留しているのでこれらを除去する必要がある。上記した塗布表面の被覆に使用したガラス板あるいはプラスチック・フィルムを剥離した後、気化または溶出などの方法により有機化合物(B)と共溶媒(C)を除去することができる。 気化方法は常温または加熱し、常圧下または減圧下で行うことができるが、有機化合物(B)は一般に沸点が高いので減圧下で加熱する方法が有効である。一方、溶出方法としては低沸点のメタノール、エタノール、アセトンなどの高分子ネットワークをあまり膨潤しない溶剤を使用するのがよい。溶出後、使用した溶剤を気化乾燥する。
【0033】
このようにして得られた多孔質の高分子ネットワークは水銀ポロシメータによる測定結果では通常その空隙の平均径は0.1〜0.2μm程度と非常に小さく、空隙径の分布も非常に狭く均等性があるという大きな特長がある。また空隙率は60%以上とすることができるので多量の液晶を含浸させることが可能である。
形成された高分子ネットワークの空隙に液晶を含浸させるには常圧あるいは若干の加圧下で注入させればよい。本発明の高分子ネットワークと液晶との濡れ性は良好であり、高分子ネットワークの空隙への液晶の注入は容易である。
【0034】
本発明に使用される液晶としては、ネマチック系、スメクチック系やコレステリック系などの通常の(高分子/液晶)複合膜表示装置に使用されている液晶はすべて使用でき、本発明に限定される液晶はない。液晶は1種類を単独に使用してもよいが、表示素子としての多項目の要求特性を満たすためには2種類以上を併用する共融組成混合液晶系を使用するのがよい。液晶温度範囲が広く、応答速度が速く、駆動電圧が低い混合液晶系としては、ビフェニル系、フェニルシクロヘキサン系とシアノフェニルエステル系の混合液晶系などがある。二色性染料を添加したゲスト・ホスト系も使用できる。
【0035】
透明電極を有するガラス板または透明なプラスチック・フィルム上に本発明の高分子ネットワークを形成させた後、空隙に液晶を注入含浸させ、さらに透明電極を有するガラス板または透明なプラスチック・フィルムを重ねれば、2枚の透明電極を有する基板の間に液晶を含浸させた高分子ネットワークを挟み込んだ自己支持型の(高分子/液晶)複合膜(SSLC)表示素子とすることができる。2枚の基板の透明電極は表示作動に必要なパターンに回路加工されたものを使用する。
【0036】
本発明による自己支持型(高分子/液晶)複合膜(SSLC)表示素子は含浸させた液晶の平均径が通常0.1〜0.2μm程度と非常に小さく、その分布幅も狭いので液晶相に均一性があることが特長である。また、容積比率で60%以上もの液晶を含浸させることが可能である。したがって、駆動電圧が低く、コントラスト比の向上した(高分子/液晶)複合膜表示素子を作製することができ、その表示にはムラが少なく均一性に優れている。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例により本発明を具体的に記述するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
実施例 1
光重合性モノマー(A)としてトリメチロールプロパントリアクリレート(共栄社化学(株)製品、商品名:ライトアクリレートTMP−A)40重量部とポリテトラメチレングリコール(重合度=約3)ジアクリレート(共栄社化学(株)製品、商品名:ライトアクリレートPTMGA−250)20重量部を混合し、これに光重合開始剤(D)として2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製品、商品名:ダロキュア1173)0.5重量部を混合し、よく攪拌し溶解した。次に、光重合性モノマー(A)とは相溶性のない有機化合物(B)としてトリエタノールアミン20重量部を、さらに光重合性モノマー(A)と光重合性モノマー(A)とは相溶性のない有機化合物(B)とに共通して相溶性のある共溶媒(C)としてイソプロパノール40重量部を混合し、透明になるまでよく攪拌して均質な光硬化型液状樹脂組成物(1)を調製した。
【0038】
得られた光硬化型液状樹脂組成物(1)を用いて、高分子ネットワークを形成し、SSLC型の(高分子/液晶)複合膜表示素子動作モデルを作製する手順を図3を用いて説明する。
光硬化型液状樹脂組成物(1)をITO透明電極(2)を有するガラス基板(ソーダライムガラス、1.1mm厚、15Ω/□)(3)上に滴下し、ガラス板(1mm厚)(4)で被覆し、直ちに高圧水銀灯により紫外線を約1200mJ/cm照射し光硬化させた。これにより多孔質構造を有する高分子ネットワーク(5)が形成された。この高分子ネットワーク(5)には重合硬化反応に関与しないトリエタノールアミンとイソプロパノールが残留していた。
ガラス板を剥離し、トリエタノールアミンとイソプロパノールを減圧下、加熱気化させることにより、透明電極を有するガラス基板上に白色で多孔質構造を有する厚さ約25μmの高分子ネットワーク(6)が形成された。得られた高分子ネットワークの細孔径分布を水銀ポロシメータ(カルロエルバ社製、型式2000)を用いて測定した結果、細孔半径は0.05〜0.08μmであることがわかった。すなわち、高分子ネットワークは平均径0.1〜0.2μm程度の空隙を均一に有することがわかった。
【0039】
続いて、高分子ネットワーク上に液晶(メルクジャパン(株)製品、商品名:MLC−6621)(7)を適量滴下し、透明電極(2’)を有するガラス基板(前出)(3’)で被覆し、ホットプレート上で100℃で加熱した。この際、被覆するガラス基板は電極を利用するために下のガラス基板と少しずらして重ねた。液晶はしだいに高分子ネットワークの空隙に含浸し、新しいSSLC型(高分子/液晶)複合膜表示素子の動作モデルが作製された。作製した動作モデルの模式図を図4に示す。
次に両ガラス基板の透明電極間に5V印加したところ、瞬間的に良好な透明状態に変化した。この印加を繰り返してみたが変化の状態は同じであった。
図4は、透明電極間の高分子ネットワーク(6)の空隙に液晶(7)が均一に含浸された状態を示す。
【0040】
実施例 2
公知の方法(特開平6-220131号公報、特開平4-325508号公報、特開平5-164903号公報、特開平7-2939号公報)に準じて合成した下記式(7)
【化7】

で示される9,9-ビス〔4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル〕フルオレンと式(8)
【化8】

で示されるベンジルメタクリレートを重量比50:50で混合し、これに光重合開始剤として2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製;商品名「ダロキュア1173」)を上記モノマー混合物に対して1重量%混合してよく撹拌し、高屈折率樹脂用モノマー混合物(A)を調製した。この混合物(A)の屈折率(n)は1.56であった。
【0041】
高屈折率樹脂用モノマー混合物(A)40重量部に、高屈折率樹脂用モノマー混合物(A)とは相溶性のない有機化合物(B)としてトリエタノールアミン15重量部を、更に高屈折率樹脂用モノマー混合物(A)と高屈折率樹脂用モノマー混合物(A)とは相溶性のない有機化合物(B)とに共通して相溶性のある共溶媒(C)としてイソプロパノール10重量部を混合し、透明になるまでよく撹拌して均一な光硬化型液状樹脂組成物(2)を調製した。
得られた光硬化型液状樹脂組成物(2)を透明電極を有するガラス基板上に滴下し、ガラス基板で被覆し、直ちに高圧水銀灯により紫外線を約1200mJ/cm照射し、光硬化させた。
続いて、ガラス基板を剥がすと、透明電極を有するガラス基板上に白色の硬化膜が形成されていた。
得られた膜中には、重合硬化反応には関与しない有機化合物(B)と共溶媒(C)が残留しているのでこれらを除去する必要があり、上記した塗布表面の被覆に使用したガラス板を剥離したのち、トリエタノールアミン、イソプロパノールはいずれもメタノールによって洗浄し除去した。屈折率n=1.60の高分子ネットワークが得られた。
【0042】
得られた高分子ネットワークについては次のようにして耐光性を評価した。
上記のようにして、厚さ24±1μmの高分子ネットワークを調製し、紫外・可視分光光度計UV−2500PC((株)島津製作所製)により波長450nmの透過率を測定し、これを初期値とした。サンプルに紫外線ランプにより一定強度(23±2mW/cm)の紫外線を照射し、その結果としての透過率の低下を測定し、劣化加速試験とした。
照射時間に対する波長450nmの透過率をプロットした。透過率が初期値から10%低下した時までに照射した時間t90をもって耐光性の尺度とした。一般に使用されている含硫黄系アクリレート類を使用した高屈折率樹脂の場合、t90はわずか10〜40時間であり、この間に着色が徐々に進行するが、本発明実施例による高分子ネットワークではt90は200〜2000時間に達し、耐光性が5〜200倍向上することが確認された。
【0043】
次に、高分子ネットワーク上に液晶を滴下し、透明電極を有するガラス板で被覆し、ホットプレート上で100℃に加熱した。液晶は次第に高分子ネットワークの空隙に浸透し、高分子分散型(高分子/液晶)複合膜表示素子の動作モデルが得られた。
この場合には、使用する液晶は、常光屈折率n=1.60の中から選ぶのが好ましい。
得られた(高分子/液晶)複合表示素子は高出力の光源を使用する投影型表示装置に搭載するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】高分子分散型液晶膜(PDLC)の駆動原理を示す模式図 (a)電界無印加時の液晶状態(光散乱) (b)電界印加時の液晶状態(光透過)。
【図2】自己支持型液晶膜(SSLC)の駆動原理を示す模式図 (a)電界無印加時の液晶状態(光散乱) (b)電界印加時の液晶状態(光透過)。
【図3】自己支持型(高分子/液晶)複合膜表示素子の動作モデル作製手順を示す模式図。
【図4】自己支持型(高分子/液晶)複合膜表示素子の動作モデル模式図。
【符号の説明】
【0045】
a:液晶滴
b:高分子マトリクス
c:高分子ネットワーク
d:液晶相
1:光硬化型液状樹脂組成物
2,2’:透明電極
3,3’:透明電極を有するガラス基板
4:ガラス板
5:高分子ネットワーク(トリエタノールアミンとイソプロパノール含有)
6:白色多孔質高分子ネットワーク
7:液晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光重合性モノマー(A)、光重合性モノマー(A)とは相溶性のない有機化合物(B)、光重合性モノマー(A)と光重合性モノマー(A)とは相溶性のない有機化合物(B)とに共通して相溶性のある共溶媒(C)および光重合開始剤(D)を必須成分とする光硬化型液状樹脂組成物を、透明電極を形成した第1の透明基板に滴下する工程、滴下された前記樹脂組成物を薄膜状に形成する工程、前記樹脂組成物を紫外線照射して硬化した樹脂組成物に空隙を形成する工程、硬化樹脂組成物から有機化合物(B)および共溶媒(C)を除去する工程、前記樹脂組成物内に形成された空隙に液晶を含浸する工程、樹脂組成物内の空隙に液晶が含浸された前記第1の透明基板に、透明電極を形成した第2の透明基板を重ね合わせる工程、とからなることを特徴とする(高分子/液晶)複合膜表示素子の製造方法。
【請求項2】
光重合性モノマー(A)がアクリレート類、メタクリレート類、プレポリマー系アクリレート類およびプレポリマー系メタクリレート類からなる多官能(メタ)アクリレートの群より選ばれる1種類以上であることを特徴とする請求項1に記載の(高分子/液晶)複合膜表示素子の製造方法。
【請求項3】
光重合性モノマー(A)が多官能のアクリレート類とメタクリレート類の群から選ばれた1種類以上と多官能のプレポリマー系アクリレート類とプレポリマー系メタクリレート類の群から選ばれた1種類以上との併用であることを特徴とする請求項1に記載の(高分子/液晶)複合膜表示素子の製造方法。
【請求項4】
光重合性モノマー(A)が更に1官能のアクリレート類とメタクリレート類の群より選ばれた1種類以上を併用して含むことを特徴とする請求項2または3に記載の(高分子/液晶)複合膜表示素子の製造方法。
【請求項5】
有機化合物(B)が低級脂肪族アミノアルコール類より選ばれた1種類または2種類以上の併用であることを特徴とする請求項1に記載の(高分子/液晶)複合膜表示素子の製造方法。
【請求項6】
共溶媒(C)が含酸素系溶剤群より選ばれた1種類または2種類以上の併用であることを特徴とする請求項1に記載の(高分子/液晶)複合膜表示素子の製造方法。
【請求項7】
光重合性モノマー(A)がアクリレート類、メタクリレート類、プレポリマー系アクリレート類およびプレポリマー系メタクリレート類からなる多官能(メタ)アクリレートの群より選ばれる1種類以上であり、有機化合物(B)が1種類以上の低級脂肪族アミノアルコール類であり、共溶媒(C)が1種類以上の含酸素系溶剤類であることを特徴とする請求項1に記載の(高分子/液晶)複合膜表示素子の製造方法。
【請求項8】
光重合性モノマー(A)が下記一般式(1)
【化1】

〔式中、RおよびRはそれぞれ独立にHまたはCH
およびRはそれぞれ独立にOCHCH、OCH(CH)CH、OCH(C)CH、OCHCHCHまたはOCHCHCHCH:、
mおよびnはそれぞれ独立に0〜4の整数を表す〕
で示されるフルオレン誘導体ジ(メタ)アクリレート類を主成分とする請求項1に記載の(高分子/液晶)複合膜表示素子の製造方法。
【請求項9】
フルオレン誘導体ジ(メタ)アクリレートが下記式(2)
【化2】

で示される9,9-ビス〔4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル〕フルオレンである請求項8に記載の(高分子/液晶)複合膜表示素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−102516(P2008−102516A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267876(P2007−267876)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【分割の表示】特願2001−112918(P2001−112918)の分割
【原出願日】平成13年4月11日(2001.4.11)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】