説明

1,2−オクタンジオール組成物及びそれを用いた1,2−オクタンジオール含有化粧料の製造方法

【課題】本発明は、有機溶剤の含有量が少なく、容易に取り扱いのできる1,2−オクタンジオールを提供することを課題とする。
【解決手段】下記の一般式(1)
R−CH(OH)−CH2(OH) (1)
(Rは炭素数6の直鎖アルキル基)で表される1,2−オクタンジオール100質量部に対して、水を1〜5質量部含有することを特徴とする1,2−オクタンジオール組成物である。また、該組成物は、該1,2−オクタンジオール以外の有機化合物の含有量が、組成物全体に対して1質量%未満であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドリング性が良好な1,2−オクタンジオール組成物及びそれを用いた1,2−オクタンジオール含有化粧料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料や洗浄剤等には、防腐等の目的で抗菌剤(防腐剤)を使用することが多い。これらの抗菌剤として最も使用されているのはパラベン類であるが、パラベン類は皮膚刺激性が高く安全性が低いために使用濃度範囲が制限されるという欠点を有する。そのため化粧料においては、パラベン類の使用濃度が1質量%以下に制限されている。また最近は、パラベン類に対してアレルギー反応を起こす人が増加しており、パラベン類を配合しない化粧料の需要が増加している。
【0003】
そこで、パラベン類に代わる抗菌剤としてアルカンジオール類を使用することが知られている(例えば、特許文献1及び2を参照)。こうしたアルカンジオール類の中でも、特に1,2−オクタンジオールの抗菌性が高く、化粧料においては一般的に1,2−オクタンジオールが使用されている。
【0004】
1,2−オクタンジオールは常温付近で固化している化合物であるため、使用の際は、融解して液体にしてから製造する化粧料等に混入するのが一般的である。更に、1,2−オクタンジオールは一旦固化すると通常の有機物と比較して、容易に融解できないという性質を持つため、製造業者にとって取り扱いづらい化合物であった。そこで、プロピレングリコールやグリセリン等の有機溶剤に1,2−オクタンジオールを溶解させ、融点を下げることが検討された。しかし、化粧料の中には有機溶剤の混入を好まないものもある。そのため有機溶剤を含有する1,2−オクタンジオール組成物は、各種化粧料に対する選択性が生じるため、特殊な場合を除いて商品として流通することはなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平11−322591号公報
【特許文献2】特開昭51−76424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明が解決しようとする課題は、有機溶剤の含有量が少なく、且つ容易に取り扱いのできる1,2−オクタンジオール組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者等は鋭意検討し、1,2−オクタンジオールに一定量の水を含有させると、大きな融点降下が現れることを見出し、本発明に至った。即ち、本発明は、下記の一般式(1)
R−CH(OH)−CH2(OH) (1)
(Rは炭素数6の直鎖アルキル基)
で表される1,2−オクタンジオール100質量部に対して、水を1〜5質量部含有することを特徴とする1,2−オクタンジオール組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の効果は、有機溶剤の含有量が少なく、且つ容易に取り扱いのできる1,2−オクタンジオール組成物を提供したことにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
まず、1,2−オクタンジオールの性質について詳しく説明する。1,2−オクタンジオールの融点は不純物の量によって変動するが、およそ30〜35℃であり、通常固体の状態で流通している。そのため化粧料等へ配合するには、加熱・融解して液状としてから配合するか、固体のまま配合する必要がある。1,2−オクタンジオールは隣接した2つの水酸基を持つため分子間の結合が強く、比較的融点が低い化合物にもかかわらず、融解するのが困難な化合物である。例えば、ドラム缶に入った固形の1,2−オクタンジオールを100℃の部屋に入れていた場合でも、完全に融解するには48時間以上の時間を必要とする。そのため、ドラム缶等に入って固化した1,2−オクタンジオールは、使用する度に多くの時間とエネルギーを掛けて液状にする必要がある。
【0010】
また、上記にあるように1,2−オクタンジオールは固体の状態で流通し、通常ドラム缶等にそのまま入っており、粉砕した形状にはなっていない。この理由は、1,2−オクタンジオールの融点が低いため、粉砕しようとすると粉砕中に融解してしまい、粒状あるいは粉状の形態にすることは極めて困難な化合物であるからである。よって粒状あるいは粉状の形態で流通していない1,2−オクタンジオールを、固体のまま使用するのは工業的に困難である。
【0011】
そこで、1,2−オクタンジオールに有機溶剤を添加して、融点を下げたり、液状にしたりすることが考えられる。こうした有機溶剤には、化粧料等でよく使用されるグリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。実際こうした有機溶剤を添加すると、1,2−オクタンジオールの融点を下げる効果や液状にする効果がある。しかし、1,2−オクタンジオールが配合される化粧料等にこれらの有機溶剤が混入することは避けられず、更に配合後に除去するために多くの労力を必要とする場合がある。化粧料等の中には、こうした有機溶剤を配合したくないものもあるため有機溶剤を添加すると、1,2−オクタンジオールを配合することのできる化粧料等が限られてしまう場合があり、1,2−オクタンジオールを使用する業者には好まれなかった。
【0012】
ここで、溶剤が水であるならば化粧料等への適用性が広がり、水を配合したくない化粧料であっても配合後に除去することは容易である。しかし、1,2−オクタンジオールは水に対して難溶であり、水に対して0.3質量%程度の溶解性しかない。希薄な水溶液では、輸送時のコスト増加、配合時に大量の水が混入する等の問題があり、水を使用することは今まで考慮されていなかった。また、0.3質量%を超える量になると、水溶液中に1,2−オクタンジオールが溶け残って均一な溶液とならないため、工業的には使用できないと考えられてきた。
【0013】
本発明に使用できる1,2−オクタンジオールは上記の一般式(1)で表される化合物である。
上記一般式(1)において、Rは炭素数6の直鎖アルキル基であり、それ以外の炭素数のものあるいは炭素数6でも分岐したものや不飽和結合のあるものは、抗菌性が劣るので好ましくない。
【0014】
本発明の1,2−オクタンジオール組成物は、上記一般式(1)で表される1,2−オクタンジオール100質量部に対して、水を1〜5質量部、好ましくは1.5〜3質量部含有させたものである。水の量が1質量部未満であると1,2−オクタンジオール組成物の融点が下がらず、水が5質量部を超えると1,2−オクタンジオール組成物がゲル化して流動性がなくなってしまう場合や、分離して不均一な状態になってしまう場合がある。組成物の温度にもよるが、5質量部を超え15質量部程度の水溶液でゲル状となり、15質量部程度〜99質量部程度の水溶液で分離して不均一な状態になる。
【0015】
本発明の1,2−オクタンジオール組成物は、例えば、上記一般式(1)で表される固体の1,2−オクタンジオールを加熱して融解させ、これに所定量の水を添加した後、撹拌して均一化するか、あるいは固体の1,2−オクタンジオールに所定量の水を添加した後、これらを加熱して1,2−オクタンジオールを融解させ、撹拌して均一化することにより製造することができる。1,2−オクタンジオール組成物を製造する際の加熱温度は、40〜80℃とすることが好ましい。
【0016】
こうして得られた本発明の1,2−オクタンジオール組成物は、いずれの温度でもゲル化せずに大きな融点降下が表れる。この融点降下は本発明の極めて狭い水分量の範囲で表れ、1,2−オクタンジオール単体と比較して融点が10〜15℃下がり(即ち、本発明の1,2−オクタンジオール組成物の融点は20〜25℃である)、夏期等の気温の高い時期であれば液状を保っていられる。また、冬期等の気温の低い時期は固化する場合もあるが、融解に要する時間は大幅に短縮され、1,2−オクタンジオール単体と比較して取り扱い性が格段に向上する。
【0017】
本発明の1,2−オクタンジオール組成物に、1,2−オクタンジオール以外の有機化合物を含有させてもよい。配合できる有機化合物としては、例えば、エタノール、グリセリン、ジグリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール、オレイルアルコール等のアルコール;イソステアリン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸等の脂肪酸;ヤシ油、パーム核油、ツバキ油、ゴマ油、ヒマシ油、オリーブ油等の油脂;流動パラフィン等の炭化水素が挙げられる。これらの中でも、水溶性が良好なアルコール類が好ましい。しかし、こうした有機化合物を多量に含有させると、本発明の1,2−オクタンジオール組成物を配合できる対象が限定されて汎用性がなくなってしまう。そのため、1,2−オクタンジオール以外の有機化合物の含有量は、好ましくは組成物全体に対して1質量%未満、より好ましくは0.5質量%未満、更に好ましくは0.1質量%未満であり、最も好ましくは有機化合物を配合しないことである。
【0018】
本発明の1,2−オクタンジオール組成物の用途は特に限定されず、抗菌、殺菌、消毒、防黴等の目的で、公知の抗菌剤、殺菌剤、消毒剤、防黴剤等と同様の用途に使用することができる。こうした用途としては、例えば、医療器具類や患部の消毒洗浄を目的とする医療用洗浄剤、食器等を殺菌洗浄する家庭用洗浄剤、身体洗浄剤、食品工業用洗浄剤、容器移送コンベア用潤滑剤、食品包装フィルム、繊維、合成樹脂、木材、日用品等を抗菌加工するための抗菌剤、化粧料、衣料用柔軟剤、水性若しくは非水性塗料、不織布等に含浸させたウェットティッシュや便座クリーナー、繊維用抗菌剤として使用する場合は、綿、ポリエステル、アクリル、ナイロン等のあらゆる繊維について、攪拌処理、浸漬処理、スプレー処理等の一般的方法で処理すればよい。また、木材、日用品等には、表面に塗布又は噴霧することもできる。更に、合成樹脂等について使用する場合は、成形後に塗布若しくは噴霧することにより表面に付着させてもよいし、抗菌効果を持続させるために成形加工時等に練り込むこともできる。これらの中でも、本発明の1,2−オクタンジオール組成物は人体に対する安全性が高く、有機溶剤等の不純物が少ないことから、化粧料や洗浄剤等の人体に直接触れるものに使用することが好ましく、特にパラベンの代替品を求められている化粧料に使用することがより好ましい。
【0019】
化粧料としては、例えば、洗顔クリーム、洗顔フォーム、クレンジングクリーム、クレンジングミルク、クレンジングローション、マッサージクリーム、コールドクリーム、モイスチャークリーム、シェービングクリーム、日焼け止めクリーム、養毛剤、ヘアクリーム、ヘアリキッド、セットローション、ヘアブリーチ、カラーリンス、パーマネントウェーブ剤、ハンドクリーム、口紅、各種パック、ファンデーション、化粧水、化粧液、乳液、オーデコロン、爪用化粧品、シャンプー、リンス等が挙げられる。このような1,2−オクタンジオール含有化粧料は、化粧料に配合される成分に本発明の1,2−オクタンジオール組成物を添加し、後は常法に従って製造することができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。尚、以下の実施例等において%は特に記載が無い限り質量基準である。
【0021】
<サンプル製造>
本発明に使用できる1,2−オクタンジオール((株)ADEKA製、純度99.2%)100gを撹拌機と加熱装置とを備えた200mlフラスコに入れ、70℃に加熱して完全に融解させた。その後、表1に記された組成物A−1〜A−5及びB−1〜B−6の水分量になるように水を添加し、30分撹拌して均一になったことを確認してから取り出した。取り出した各組成物は0℃の恒温槽に入れて固化させ、融点測定試験及び融解時間試験に使用した。
【0022】
【表1】

【0023】
<融点測定試験>
A−1〜A−5及びB−1〜B−6の各試験サンプルを50mlの蓋付きガラス製スクリュー管に30g入れ、0℃の恒温槽の中に24時間放置して固化させた。15℃、20℃、25℃、30℃、35℃の恒温槽を用意し、固化させた試験サンプルをそれぞれの恒温槽に入れて、24時間後の状態を観察した。結果を表2に記す。
【0024】
評価の記号の意味は下記のとおりである。
○:透明液体
△:ゲル状
×:固体
●:二層分離
【0025】
<融解時間試験>
A−1〜A−5及びB−1〜B−6の各試験サンプルを100mlの蓋付きガラス製スクリュー管に50g入れ、0℃の恒温槽の中に24時間放置して固化させた。40℃の一定温度の水槽を用意し、スクリュー管内の試験サンプル全てが水面下になるように水槽内にスクリュー管を浸して、完全に融解するまでの時間を測定した。結果を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
上記試験の結果より、1,2−オクタンジオール100質量部に対する水分量が1質量部未満の場合、融点降下はほとんど見られず、水分量が5質量部より多い場合は、融解性は改善されるが、ゲル化又は二層分離する領域ができてしまう。即ち、A−1〜A−5は、25℃以下であっても透明液体になり、融解するまでの時間が36分以下と短い。これに対し、水分量が6質量部のB−3の結果を見ると、ゲル化の領域は狭いが、25℃という使用頻度の高い温度領域でゲル化してしまうため、工業的に使用することは難しい。さらに、それ以上の水分量を含有させるとゲル化領域は拡大してしまう。また、B−5やB−6のように水分量が更に多くなると、二層分離してしまう。
従って、このような本発明の1,2−オクタンジオール組成物を用いることで、1,2−オクタンジオール含有化粧料の製造に掛かる多くの時間とエネルギーを節約することができると考えられる。また、溶剤が水であるため、有機溶剤を配合したくない化粧料へも適用することができるという利点を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)
R−CH(OH)−CH2(OH) (1)
(Rは炭素数6の直鎖アルキル基)
で表される1,2−オクタンジオール100質量部に対して、水を1〜5質量部含有することを特徴とする1,2−オクタンジオール組成物。
【請求項2】
前記1,2−オクタンジオール以外の有機化合物の含有量が、組成物全体に対して1質量%未満であることを特徴とする請求項1に記載の1,2−オクタンジオール組成物。
【請求項3】
1,2−オクタンジオール含有化粧料の製造方法において、請求項1又は2に記載の1,2−オクタンジオール組成物を添加する工程を有することを特徴とする1,2−オクタンジオール含有化粧料の製造方法。

【公開番号】特開2008−115121(P2008−115121A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300321(P2006−300321)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】