説明

1,2−ベンゾイソチアゾール化合物の製造方法

【課題】効率的な1,2−ベンゾイソチアゾール化合物製造法の提供。
【解決手段】2−カルボニルベンゼンチオール化合物に対して、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を反応させて、式(A)で表される1,2−ベンゾイソチアゾール化合物を製造する方法。


(式中、置換基Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基を表す。置換基R〜Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、フェニル基、ニトロ基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子を表す。また置換基R〜Rは、互いに連結して環を形成してもよく、このことによりナフタレン環を形成してもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,2−ベンゾイソチアゾール化合物の効率的製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1,2−ベンゾイソチアゾール化合物は、種々の生理活性を持つことが知られており、抗不整脈薬(特許文献1、特許文献2)、殺線虫剤(特許文献3)、抗菌作用があり(非特許文献1)、利尿作用(非特許論文3)等があることが報告されている。したがって、1,2−ベンゾイソチアゾール化合物を、効率的に合成することは重要なことである。
【0003】
1,2−ベンゾイソチアゾール化合物の合成方法としてこれまで、(i)2−カルボニルベンゼンスルフェニルハライドとアンモニアとの環化反応(非特許文献3、非特許文献4)、(ii)メルカプトフェニルオキシムのポリリン酸による環化反応(非特許文献5)、(iii)2−チオ−ベンズアルドキシムの酸触媒による環化反応(特許文献4)、(iv)2−ハロ−ベンゼンカルボニル化合物に硫黄とアンモニアを反応させて一段階で環化させる方法(特許文献5,特許文献6)が知られている。
【0004】
これらの方法において1,2−ベンゾイソチアゾール化合物を製造する際、(i)の方法においては、反応性の高い臭素などのハロゲンを使うため、副反応や装置の腐食の問題がある。(ii)、(iv)の反応においては高温の反応を要し、(iii)の反応においては、原料合成に悪臭を持つチオール化合物を過剰に用いるという問題点がある。このようなことから、安全しかも穏やかな反応条件で目的の1,2−ベンゾイソチアゾール化合物を製造する方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ国特許2734882号明細書
【特許文献2】ドイツ国特許2734866号明細書
【特許文献3】特開平9−188668号公報
【特許文献4】特開平7−149744号公報
【特許文献5】特開昭54−36261号公報
【特許文献6】特開2002−53563号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M. Soledade, C. Pedras, and M. Suchy, Bioorg. Med. Chem, 14, 714 (2006).
【非特許文献2】G. M. Shutske et al., J. Med. Chem., 26, 1307 (1983).
【非特許文献3】K. Fries and G. Brothuhn, Chem. Ber., 56, 1630 (1923).
【非特許文献4】K. Fries, K. Eishold, and B. Vahlgerg, Ann., 454, 264 (1927).
【非特許文献5】A. Ricci and A. Martani, Ann. Chim. (Rome), 53, 577 (1963).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、1,2−ベンゾイソチアゾール化合物を、安全かつ緩和な反応条件で効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、1,2−ベンゾイソチアゾール化合物の製造方法について鋭意研究を重ねた結果、2−カルボニルベンゼンチオール化合物に対してヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を反応させると、硫黄原子のアミノ化反応が効率的に進行し、引き続いて分子内の脱水反応が起こり1,2−ベンゾイソチアゾール化合物を製造することを見いだした。さらに、2−カルボニルベンゼンチオール化合物の原料となるS−チオカルバミン酸エステル化合物を用いて、塩基による加水分解後にヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を反応させて、1,2−ベンゾイソチアゾール化合物を製造することができることを見いだして、本発明を完成させたものである。
【0009】
すなわち、この出願は、以下の発明を提供するものである。
〈1〉下記一般式(A)で表される1,2−ベンゾイソチアゾール化合物を製造する方法において、下記一般式(B)で表される2−カルボニルベンゼンチオール化合物に対して、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を反応させることを特徴とする1,2−ベンゾイソチアゾール化合物の製造方法。
【化1】

(式中、置換基Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基を表す。置換基R〜Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、フェニル基、ニトロ基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子を表す。また置換基R〜Rは、互いに連結して環を形成してもよく、このことによりナフタレン環を形成してもよい。)
【化2】

(式中、置換基Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基を表す。置換基R〜Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、フェニル基、ニトロ基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子を表す。また置換基R〜Rは、互いに連結して環を形成してもよく、このことによりナフタレン環を形成してもよい。)
〈2〉反応を水酸化カリウムの存在下で行うことを特徴とする〈1〉に記載の1,2−ベンゾイソチアゾール化合物の製造方法。
〈3〉下記一般式(A)で表される1,2−ベンゾイソチアゾール化合物を製造する方法において、下記一般式(C)で表されるS−チオカルバミン酸エステル化合物を加水分解した後、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を反応させることを特徴とする1,2−ベンゾイソチアゾール化合物の製造方法。
【化1】

(式中、置換基Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基を表す。置換基R〜Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、フェニル基、ニトロ基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子を表す。また置換基R〜Rは、互いに連結して環を形成してもよく、このことによりナフタレン環を形成してもよい。)
【化3】

(式中、置換基Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基を表す。置換基R〜Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、フェニル基、ニトロ基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子を表す。また置換基R〜Rは、互いに連結して環を形成してもよく、このことによりナフタレン環を形成してもよい。置換基R、Rは炭素数1〜8の鎖状のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基を表す。またR、Rは、互いに連結して環を形成してもよい。)
〈4〉加水分解を水酸化カリウムの存在下で行うことを特徴とする〈3〉に記載の1,2−ベンゾイソチアゾール化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明方法は、2−カルボニルベンゼンチオール化合物に対して、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を用いて硫黄原子のアミノ化反応をさせ、分子内で脱水環化反応をさせる方法により、効率よく1,2−ベンゾイソチアゾール化合物を合成することができる。また、2−カルボニルベンゼンチオール化合物の原料となるS−チオカルバミン酸エステル化合物の加水分解を行い、2−カルボニルベンゼンチオール化合物を単離することなく反応を進行させることができる。これらの方法は、従来のハロゲン、ポリリン酸、あるいは硫黄−アンモニアを用いる製造法に比べ、穏やかな反応条件で製造することができる。
本発明で得られる1,2−ベンゾイソチアゾール化合物は、抗菌剤、防虫剤、除草剤の原料となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の下記一般式(A)で表される1,2−ベンゾイソチアゾール化合物を第一の製造方法は、下記一般式(B)で表される2−カルボニルベンゼンチオール化合物に対して、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を反応させることを特徴とする。
【化1】

(式中、置換基Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基を表す。置換基R〜Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、フェニル基、ニトロ基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子を表す。また置換基R〜Rは、互いに連結して環を形成してもよく、このことによりナフタレン環を形成してもよい。)
【化2】

(式中、置換基Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基を表す。置換基R〜Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、フェニル基、ニトロ基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子を表す。また置換基R〜Rは、互いに連結して環を形成してもよく、このことによりナフタレン環を形成してもよい。)
【0012】
また、本発明の上記一般式(A)で表される1,2−ベンゾイソチアゾール化合物の第二の製造方法は、下記一般式(C)で表されるS−チオカルバミン酸エステル化合物を加水分解した後、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を反応させることを特徴とする。
【化3】

(式中、置換基Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基を表す。置換基R〜Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、フェニル基、ニトロ基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子を表す。また置換基R〜Rは、互いに連結して環を形成してもよく、このことによりナフタレン環を形成してもよい。置換基R、Rは炭素数1〜8の鎖状のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基を表す。またR、Rは、互いに連結して環を形成してもよい。)
【0013】
本発明の目的生成物は、以下の一般式(A)により示される1,2−ベンゾイソチアゾール化合物である。
【化1】

前記式中、置換基Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基を表す。また、置換基R〜Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、フェニル基、ニトロ基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子を表す。また置換基R〜Rは、互いに連結して環を形成してもよく、このことによりナフタレン環を形成してもよい。
【0014】
前記Rの炭素数1〜8のアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、イソブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、オクチル基等が挙げられる。
前記Rの炭素数6〜10の芳香族基の具体例としては、フェニル、トリル(オルト、メタ、パラがある)、アニシル(オルト、メタ、パラがある)、クロロフェニル(オルト、メタ、パラがある)、キシリル、ナフチル基等が挙げられる。
前記R〜Rの炭素数1〜8のアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、イソブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、オクチル基等が挙げられる。
前記R〜Rの炭素数1〜8のアルコキシル基の具体例としては、メトキシ、エトキシ、プロピロキシ、イソプロピロキシ、ブトキシ、t−ブトキシ、イソブトキシ、ペンチロキシ、イソペンチロキシ、ヘキシロキシ、イソヘキシロキシ、ヘプチロキシ、オクチロキシ基等が挙げられる。
前記R〜Rのハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
【0015】
本発明の前記一般式(A)で表される1,2−ベンゾイソチアゾール化合物の第一の製造方法は以下のとおりである。
下記一般式(B)で表される2−カルボニルベンゼンチオール化合物に対し、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を用いて硫黄原子のアミノ化を行い、分子内で脱水反応を行う。
【化2】

前記式中、置換基R〜Rは、前記一般式(A)により示される1,2−ベンゾイソチアゾール化合物のR〜Rと同じである。
【0016】
また、本発明の前記一般式(A)で表される1,2−ベンゾイソチアゾール化合物の第二の製造方法は以下の通りである。
下記一般式(C)で表されるS−チオカルバミン酸エステル化合物を加水分解した後、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を反応させて硫黄原子をアミノ化した後、分子内で脱水反応を行う。
【化3】

前記式中、置換基R〜Rは、前記一般式(A)により示される1,2−ベンゾイソチアゾール化合物のR〜Rと同じである。
前記式中、置換基R、Rは炭素数1〜8の鎖状のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基を表す。R、Rは、互いに連結して環を形成してもよい。
【0017】
前記R、Rの炭素数1〜8のアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、イソブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、オクチル基等が挙げられる。
前記R、Rの炭素数6〜10の芳香族基の具体例としては、フェニル、トリル(オルト、メタ、パラがある)、アニシル(オルト、メタ、パラがある)、クロロフェニル(オルト、メタ、パラがある)、キシリル、ナフチル基等が挙げられる。
前記R、Rの置換基で互いに連結して環を形成している具体例としては、NRとして、ピロリジン基、ピペリジン基、2−メチルピペリジン基、4−メチルピペリジン基、モルホリン基、ピペラジン基、4−メチルピペラジン基、4−エチルピペラジン基等が挙げられる。
【0018】
前記第一の製造方法を、2−メルカプトベンゾフェノン(b)(一般式(B)においてR=Ph、R〜R=H)と、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を反応させて3−フェニル−1,2−ベンゾイソチアゾール(a)(一般式(A)においてR=Ph、R〜R=H)を合成する場合を例に取り説明する。
この反応は、新規反応であり、下記の反応機構により進行する。
【化4】

すなわち、ベンゼン環のメルカプト基がヒドロキシルアミン−O−スルホン酸の窒素原子を攻撃して、そこで置換反応が起こることによりアミノ化され、スルフェンアミド(d)を与える。生じたアミノ基が分子内のカルボニル基を攻撃して脱水反応を起こすことにより、C=N二重結合が生成して目的の1,2−ベンゾイソチアゾール化合物を与えるものである。したがって、この反応機構からみて、一般式(B)で示される化合物として、置換基がR=Ph、R〜R=Hである化合物(b)だけでなく、置換基Rが水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基、置換基R〜Rが、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、フェニル基、ニトロ基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子で、置換基R〜Rが、互いに連結して環を形成してナフタレン環を形成している構造を有しても同様な反応を示すことは明らかである。
【0019】
この反応で用いるヒドロキシルアミン−O−スルホン酸の加える量は、2−メルカプトベンゼン環のメルカプト化合物に対して等モルでよいが、反応中にヒドロキシルアミン−O−スルホン酸が分解することを考えて、1.2〜3.0倍モル等量加えるのがよい。
【0020】
この反応は、好ましくは水酸化カリウムの存在下、反応溶媒中で行われる。溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、t−ブタノール等の水溶性溶媒が挙げられ、これらの混合溶媒の形で使用してもかまわない。
【0021】
反応温度は、−78℃〜60℃の範囲の温度で行う事ができる。この温度範囲以下の低温の場合には反応時間が遅くなり、この範囲を超えて高すぎる場合には、異常な分解反応や副反応が多い結果となる。このようなことから、前記温度範囲は、−20℃〜20℃の範囲であることが好ましい。
反応時間は、反応温度の種類により左右され、一概に定めることができないが、通常は0.2〜2時間である。
【0022】
つぎに、前記本発明の第二の製造方法を、出発物質(c)(一般式(C)においてR=Ph、R〜R=H、R、R=Me)を用いて、加水分解後、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を反応させて3−フェニル−1,2−ベンゾイソチアゾール(a)(一般式(A)においてR=Ph、R〜R=H)を合成する場合を例に取り説明する。
この反応は、新規反応であり、下記の反応機構により進行する。
【化5】

すなわち、S−ジメチルチオカルバミン酸エステルのカルボニル基に水酸化物イオンが攻撃してメルカプト基が生じる。この化合物を単離することなくヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を反応させるが、メルカプト基はヒドロキシルアミン−O−スルホン酸の窒素原子を攻撃して、置換反応が起こることによりアミノ化され、スルフェンアミド(d)を与える。生じたアミノ基が分子内のカルボニル基を攻撃して脱水反応を起こすことにより、C=N二重結合が生成して目的の1,2−ベンゾイソチアゾール化合物を与えるものである。したがって、この反応機構等からみて、一般式(C)で示される化合物として、置換基がR=Ph、R〜R=H、R、R=Meである化合物(c)だけでなく、置換基Rが水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基、置換基R〜Rが、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、フェニル基、ニトロ基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子であり、また置換基R〜Rが、互いに連結して環を形成してナフタレン環を形成している場合、また置換基R、Rは炭素数1〜8の鎖状のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基を表し、R、Rが互いに連結して環を形成している構造を有しても同様な反応を示すことは明らかである。
【0023】
この加水分解反応は好ましくは水酸化カリウムの存在下で行われる。水酸化カリウムの加える量は、S−チオカルバミン酸エステル化合物に対して等モルでよいが、反応を効率よく進行させるために、2〜10等量加えるのがよい。
【0024】
この加水分解反応は、反応溶媒中で行われる。溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、t−ブタノール等の水溶性溶媒が挙げられ、これらの混合溶媒の形で使用してもかまわない。
【0025】
この加水分解の反応温度は、20〜120℃の範囲の温度で行う事ができる。この温度範囲以下の低温の場合には反応時間が遅くなり、この範囲を超えて高すぎる場合には、異常な分解反応や副反応が多い結果となる。このようなことから、前記温度範囲は、30℃〜80℃の範囲であることが好ましい。
反応時間は、反応温度の種類により左右され、一概に定めることができないが、通常は2〜10時間である。
【0026】
この加水分解反応終了後、反応溶液を冷却して生成物を単離することなく次のアミノ化反応を行う。
この反応で用いるヒドロキシルアミン−O−スルホン酸の加える量は、S−チオカルバミン酸エステル化合物に対して等モルでよいが、反応中にヒドロキシルアミン−O−スルホン酸が分解することを考えて、1.2〜3.0倍モル等量加えるのがよい。
【0027】
反応温度は、−78℃〜60℃の範囲の温度で行う事ができる。この温度範囲以下の低温の場合には反応時間が遅くなり、この範囲を超えて高すぎる場合には、異常な分解反応や副反応が多い結果となる。このようなことから、前記温度範囲は、−20℃〜20℃の範囲であることが好ましい。
反応時間は、反応温度の種類により左右され、一概に定めることができないが、通常は0.2〜2時間である。
【0028】
前記反応の原料物質である(C)の製法の一例を挙げれば、O−チオカルバミン酸エステル化合物のNewman-Kwart転位反応による製造方法を挙げることができル。また、(B)の製法の一例を挙げれば、化合物(C)の塩基性条件下での加水分解による製造方法を挙げることができる。
【0029】
本発明で得られる1,2−ベンゾイソチアゾール化合物の具体例について例示すると、以下の化学式(1)〜(7)で示される化合物である。しかしながら、本発明方法の前記反応機構からみて、本発明法補はこれらの化合物の製法に限定されるものではないことはもちろんである。
【化6】

【0030】
これらの化合物は、抗菌剤、防虫剤、除草剤の原料として用いられる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例により詳細に説明する。以下に述べる実施例は本発明の理解を容易にするために代表的な化合物の一例を挙げたものであり、本発明はこれに限定されるものではない、また、製造された化合物(1)〜(6)は、前記で示された化合物(1)〜(6)に対応するものである。
【0032】
実施例1
内容積100mLのガラス製容器中に、2−メルカプトベンゾフェノン(1mmol)を水酸化カリウム溶液(水酸化カリウム200mgを水10mLに溶解させた溶液)に入れ攪拌した。一方、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸(234mg、2mmol)を水酸化カリウム溶液(水酸化カリウム300mgを水20mLに溶解させた溶液)に溶解させ、先ほどの基質溶液に水浴中で滴下、混合した。30分後、塩化メチレンで生成物を抽出、水洗後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を留去させ、祖生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶出溶媒:塩化メチレン)で精製することにより、化合物(1)の1,2−ベンゾイソチアゾールを収率77%で得ることができた。
1H-NMR (CDCl3): δ7.43 (1H, t, J = 7.9 Hz), 7.47-7.55 (4H, m), 7.86 (2H, d, J = 7.3 Hz), 7.96 (1H,d, J = 7.3 Hz), 8.16 (1H, d, J = 7.3 Hz). 13C-NMR (CDCl3): δ119.9, 124.8, 124.9, 127.4, 128.6, 128.7, 129.3, 133.7, 135.2, 153.4, 164.3. IR (KBr): νmax 3073, 3058, 1593, 1472, 1441, 1356 cm-1.
【0033】
実施例2
実施例1において、2−メルカプトベンゾフェノンの代わりに2−メルカプトアセトフェノンを用いて同様な反応を行い、化合物(2)の3−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾールを収率98%で得ることができた。
1H-NMR (CDCl3): δ2.74 (3H, s), 7.41 (1H t, J = 7.0 Hz), 7.50 (1H, t, J = 7.3 Hz), 7.91 (2H, t, J = 7.9 Hz). 13C-NMR (CDCl3): δ17.3, 119.8, 123.3, 124.4, 127.4, 135.0, 152.0, 162.8. IR (neat): νmax 3066, 2927, 2855, 1595, 1489, 1434, 1384, 1344, 1322, 1255, 758, 731 cm-1.
【0034】
実施例3
実施例1において、2−メルカプトベンゾフェノンの代わりに2−メルカプトベンズアルデヒドを用いて同様な反応を行い、化合物(3)の1,2−ベンゾイソチアゾールを収率69%で得ることができた。
1H-NMR (CDCl3): δ 7.43-7.52 (2H, m), 7.96-8.06 (2H, m), 8.91 (1H,s). 13C-NMR (CDCl3): δ 119.6, 124.1, 124.0, 127.8, 136.0, 151.7, 155.0. IR (neat): νmax 3061, 1593, 1250, 1210, 1161, 1066, 1011, 883, 749 cm-1.
【0035】
実施例4
実施例1において、2−メルカプトベンゾフェノンの代わりに5−メチル−2−メルカプトベンズアルデヒドを用いて同様な反応を行い、化合物(4)の5−メチル−1,2−ベンゾイソチアゾールを収率49%で得ることができた。
【0036】
実施例5
実施例1において、2−メルカプトベンゾフェノンの代わりに3−メトキシ−2−メルカプトベンズアルデヒドを用いて同様な反応を行い、化合物(5)の7−メトキシ−1,2−ベンゾイソチアゾールを収率61%で得ることができた。
1H-NMR (CDCl3): δ 4.01 (3H, s), 6.88 (1H, t), 7.39 (1H, d), 7.64 (1H, d) ,8.88 (1H, s).
【0037】
実施例6
実施例1において、2−メルカプトベンゾフェノンの代わりに2−メルカプト−1−ナフトアルデヒドを用いて同様な反応を行い、化合物(7)のナフトイソチアゾールを収率76%で得ることができた。
1H-NMR (CDCl3): δ7.61 (1H t, J = 7.9 Hz), 7.70 (1H, t, J = 7.9 Hz), 7.88 (1H, d, J = 8.5 Hz), 7.93 (1H, d, J = 8.5 Hz), 7.99 (1H, d, J = 7.9 Hz), 8.45 (1H, d, J = 8.5 Hz), 9.46 (1H, s). 13C-NMR (CDCl3): δ117.3, 123.3, 126.3, 127.9, 128.7, 128.7, 129.0, 130.9, 132.5, 152.3, 152.8. IR (neat): νmax 3055, 1582, 1507, 1194, 807, 773, 734, 496 cm-1.
【0038】
実施例7
内容積100mLのガラス製容器中に、2−ベンゾイルフェニル S−ジメチルチオカルバメイト(2mmol)を5N水酸化カリウム水溶液(10mL)とメタノール(20mL)に溶解させ、60℃で5時間加熱した。反応液を冷却し、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸(234mg、2mmol)を水酸化カリウム溶液(水酸化カリウム300mgを水20mLに溶解させた溶液)に溶解させ、先ほどの基質溶液に水浴中で滴下、混合した。30分後、塩化メチレンで生成物を抽出、水洗後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を留去させ、祖生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶出溶媒:塩化メチレン)で精製することにより、化合物(1)の1,2−ベンゾイソチアゾールを収率67%で得ることができた。
【0039】
実施例8
実施例7において、2−ベンゾイルフェニル S−ジメチルチオカルバメイトの代わりに2−アセチルフェニル S−ジメチルチオカルバメイトを用いて同様な反応を行い、化合物(2)の1,2−ベンゾイソチアゾールを収率77%で得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)で表される1,2−ベンゾイソチアゾール化合物を製造する方法において、下記一般式(B)で表される2−カルボニルベンゼンチオール化合物に対して、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を反応させることを特徴とする1,2−ベンゾイソチアゾール化合物の製造方法。
【化1】

(式中、置換基Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基を表す。置換基R〜Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、フェニル基、ニトロ基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子を表す。また置換基R〜Rは、互いに連結して環を形成してもよく、このことによりナフタレン環を形成してもよい。)
【化2】

(式中、置換基Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基を表す。置換基R〜Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、フェニル基、ニトロ基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子を表す。また置換基R〜Rは、互いに連結して環を形成してもよく、このことによりナフタレン環を形成してもよい。)
【請求項2】
反応を水酸化カリウムの存在下で行うことを特徴とする請求項1に記載の1,2−ベンゾイソチアゾール化合物の製造方法。
【請求項3】
下記一般式(A)で表される1,2−ベンゾイソチアゾール化合物を製造する方法において、下記一般式(C)で表されるS−チオカルバミン酸エステル化合物を加水分解した後、ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸を反応させることを特徴とする1,2−ベンゾイソチアゾール化合物の製造方法。
【化1】

(式中、置換基Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基を表す。置換基R〜Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、フェニル基、ニトロ基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子を表す。また置換基R〜Rは、互いに連結して環を形成してもよく、このことによりナフタレン環を形成してもよい。)
【化3】

(式中、置換基Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基を表す。置換基R〜Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシル基、フェニル基、ニトロ基、及びハロゲン原子から選ばれる基又は原子を表す。また置換基R〜Rは、互いに連結して環を形成してもよく、このことによりナフタレン環を形成してもよい。置換基R、Rは炭素数1〜8の鎖状のアルキル基、炭素数6〜10の芳香族基を表す。またR、Rは、互いに連結して環を形成してもよい。)
【請求項4】
加水分解を水酸化カリウムの存在下で行うことを特徴とする請求項3に記載の1,2−ベンゾイソチアゾール化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−173954(P2010−173954A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16716(P2009−16716)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】