説明

1,4−ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンの製造方法

【課題】1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼン(DCMTFB)の迅速で高収率の合成方法であって、大量生産に適する方法を提供する。
【解決手段】テトラフルオロテレフタルアルデヒド、SOCl2および有機溶媒を反応させることによって達成される。触媒としてホルムアミドを添加することによる1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンの合成では、反応時間の短縮;合成工程の簡素化および生成物の収率の向上等の顕著な利点がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼン(DCMTFB)の製造方法に関し、より詳しくは、大量生産における、高収率の1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パリレンポリマーは、製造目的において幾多の利点を有する。例えば、コーティング環境は室温であり;コーティング後には残留応力は無く;蒸着フィルムの厚さを正確に制御できる。加えて、パリレンポリマーフィルムは、均一性、優れた耐酸性および耐アルカリ性、高透明性および低誘電率等の利点を有する。従って、パリレンポリマーフィルムは、プリント回路基板の電気絶縁、センサーまたは医療機器の防湿、および金属コーティングの防食等において、広く使用されている。現在、フルオロパリレンポリマーは、誘電率が低く融点が高いことから、電気工業および塗装業において利用することができ、注目が集まっている。
【0003】
フルオロパリレンポリマーの一つ、例えば、ポリ(テトラフルオロ-p-キシレン)は、以下の式(1)で表される構造を有する。
【化1】

フルオロパリレンポリマーは、一般的に、室温での真空中の化学気相蒸着によって、製品上にコートされる。フルオロパリレンポリマーでコートした製品は、優れた防食、防湿および絶縁特性を有するだけではなく、格別に薄く、透明で、細孔が無いという利点をも有する。物体表面上の活性モノマーを重合することにより、フルオロパリレンポリマーコーティングを形成し得る。液体コーティング法の一般的工程とは異なり、初めにパリレンダイマーを気化し、熱分解条件でダイマー結合が開裂してモノマーフリーラジカルが生じるにつれて、モノマーフリーラジカルが重合してパリレンポリマーを形成するという、別のコーティング法がある。
【0004】
現在、産業上頻繁に用いられるフルオロパリレンポリマーのダイマーは、以下の式(2)で表されるオクタフルオロ-2,2-パラシクロファンである。
【化2】

【0005】
フルオロパリレンポリマーの誘電率は、ポリマー内のフッ素原子数が増加するにつれて減少する。従って、以下の式(3)で示され、水素原子を含まないフルオロパリレンポリマーのダイマーから重合されるパリレンポリマーが、より低い誘電率を有し得ることが予測され得る。
【化3】

【0006】
以下の式(4)で表される1,4-ビス(ブロモジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼン(BFTFB)がフルオロパリレンポリマーの上述のダイマーのモノマーであり、水素原子を全く含まないことは、重要である。
【化4】

【0007】
以下の式(5)で示される1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼン(DCMTFB)は、前記の1,4-ビス(ブロモジフルオロメチル)テトラフルオロベンゼン(BFTFB)の合成に非常に重要な前駆体である。
【化5】

【0008】
近頃は、1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼン(DCMTFB)は、以下の反応(I)に示される通り、1,2,4,5-テトラフルオロベンゼン(TFB)をCHCl3と反応させることによって合成される。
【化6】

しかし、この方法は時間がかかり、収率が低く、粗生成物の精製にシリカゲルカラムクロマトグラフィーを要する。従って、この方法は、大量生産には適さない。
【0009】
従って、1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼン(DCMTFB)の迅速で高収率の合成方法であって、大量生産に適する方法を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンの製造方法を提供する。この方法は、反応時間を短縮し、工程を簡略化し、1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼン製造の収率を向上し得る。この方法の反応を、以下の反応(II)に示す。
【化7】

【0011】
本発明は、1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンの製造方法であって、
(a)テトラフルオロテレフタルアルデヒド、触媒およびSOCl2を、有機溶媒を伴いまたは伴わずに混合して、混合物を形成する工程であって、触媒はホルムアミドに属する工程;
(b)混合物を加熱する工程;
(c)混合物を冷却し、混合物を水中にゆっくりと加え、混合物を2層に分離させる工程;
(d)混合物の層から有機層を得る工程;および
(e)有機層を精製し、有機層中の有機溶媒および触媒を除去し、1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンを提供する工程
を含む方法を提供する。
【0012】
本発明の方法では、テトラフルオロテレフタルアルデヒドのSOCl2に対するモル比は、少なくとも2より大きい。テトラフルオロテレフタルアルデヒドのSOCl2に対するモル比は、好ましくは2〜20の範囲内であり、より好ましくは5〜8の範囲内である。
【0013】
本発明の方法では、触媒のテトラフルオロテレフタルアルデヒドに対する重量比は0.1〜1.0の範囲内であり、好ましくは0.2〜0.4の範囲内である。
【0014】
本発明の方法では、有機溶媒のテトラフルオロテレフタルアルデヒドに対する重量比は0〜3の範囲内であり、好ましくは1〜2の範囲内である。
【0015】
本発明の方法では、工程(b)において、混合物を、その温度が60〜130℃の範囲、好ましくは85〜100℃の範囲に上昇するまで加熱する。
【0016】
本発明の方法では、工程(b)の反応時間は2〜30時間の範囲内であり、好ましくは4〜6時間の範囲内である。
【0017】
本発明の方法では、加水分解の過剰反応を回避するため、工程(c)において、混合物を0〜60℃の範囲、好ましくは25〜40℃の範囲内に冷却する。
【0018】
本発明の方法では、工程(c)において、混合物を0〜25℃の水、好ましくは氷水に、ゆっくりと添加して、加水分解の過剰反応を回避する。
【0019】
本発明の方法は、SOCl2に反応しない有機溶媒を伴わずまたは伴って実施し得る。有機溶媒は、好ましくは、トルエン、クロロホルム、p-キシレン、ベンゼン、ジオキサン、1,2-ジクロロエタン、テトラクロロメタン、テトラヒドロフラン、ニトロベンゼン、およびo-ジクロロベンゼンよりなる群から選択される少なくとも一つであり、より好ましくはトルエンまたはベンゼンである。
【0020】
本発明の方法では、触媒はN,N-ジアルキルホルムアミドであり、アルキル基はC1〜C7アルキル基である。好ましくは、触媒はN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、またはN,N-ジエチルホルムアミド(DEF)である。
【0021】
本発明の方法において、工程(e)の精製は、好ましくは、
(e1)撹拌下、有機溶媒および水(H2O)を有機層中に添加する工程;
(e2)混合物を中和する工程;
(e3)有機層を単離し、その後、有機層を濃縮する工程;および
(e4)有機層を冷却して、固体生成物を得る工程
を含む。
【0022】
上記の工程(e)では、工程(e1)における有機溶媒の水に対する容量比は1〜10の範囲内であり、好ましくは1である。有機溶媒は、1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンを溶解し得るが水と混和しない、あらゆる有機溶媒であり得、好ましくは、工程(e1)において、ジクロロメタンである。混合物は、あらゆる塩基性溶液で中和し得るが、好ましくは、工程(e2)において、濃縮アンモニアで中和し得る。
【0023】
本発明の他の目的、利点、および新規な特徴は、添付の図面と併せて、以下の詳細な説明から、より明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0024】
[実施例1]
1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンの製造(溶媒:トルエン、触媒:N,N-ジメチルホルムアミド)
テトラフルオロテレフタルアルデヒド(TFTPA, 15.45 g)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF, 3.01g)、およびトルエン(15.01 g)を、温度プローブ、凝縮器および散気管を備えた250 mLの三口反応器に加えた。窒素雰囲気下、SOCl2(63.37 g)をフィードホッパーにより、温度プローブのための流路から、フラスコ内にゆっくり添加した。フィードホッパーを除去した後、フラスコに温度プローブを再度装着した。反応混合物を撹拌下、油浴中で、窒素の曝気を閉じながら加熱し、ガスクロマトグラフィー(GC)分析によって反応が完了するまで、85〜95℃で2時間還流した。反応混合物を室温まで冷却した後、そこに氷水をゆっくりと導入して、残存するSOCl2を加水分解した。反応混合物を暫時静置し、水層を除去した。続いて、適当量のジクロロメタン(DCM)およびH2O(容量比DCM/H2O = 1/1)を残存する有機層に添加した。混合物のpH値を濃縮アンモニア(濃NH3水)で7.0に調節した。その後、有機相を単離し、水洗し、無水硫酸マグネシウムで脱水し、濃縮してDCM、トルエンおよびDMFを除去した。最後に、得られたものを室温に冷却して、粗生成物(22.23 g, 粗収率: 93.8%)を得た。粗生成物をn-ヘプタンで再結晶し、13.33 gの結晶生成物を与えた。残るn-ヘプタン溶液を留去した後、もう一度再結晶して、6.28 gの結晶生成物を得た。2回の再結晶の総量は、19.61 gの結晶生成物(収率: 82.75%)となった。
【0025】
化学分析データ:
(a). マススペクトル: M=316.
(b). 1H NMR (CDCl3; 外部標準: TMS) 化学シフト (δ): 6.90 ppm (s, 2H).
(c). 19F NMR (CDCl3; 外部標準: CFCl3) 化学シフト (δ): −139.37 ppm (s, 4F).
(d). 13C NMR (CDCl3; 外部標準: TMS) 化学シフト (δ): 143.45 ppm (d, JC-F=257 Hz, 4芳香族C), 120.72 ppm (s, 2芳香族C), 58.26 ppm (s, 2脂肪族C).
【0026】
[実施例2−16]
1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンの製造
実施例1と同様の方法で、実施例2〜16を実施した。しかし、試薬および溶媒の量、反応条件、および生成物の収率は表1に記載する。
【0027】
実施例1〜16は、溶媒がトルエン、クロロホルム、p-キシレン、ベンゼン、ジオキサン、1,2-ジクロロエタン、テトラクロロメタン、テトラヒドロフラン、ニトロベンゼン、またはo-ジクロロベンゼンであり得、触媒は最も好ましくはホルムアミドであることを示す。
【比較例】
【0028】
1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンの従来の製造
比較例は、1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンの従来の製造方法であり、1,2,4,5-テトラフルオロベンゼン(TFB)をCHCl3と反応させて、1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンを得る。この方法を以下に詳述する。
【0029】
1,2,4,5-テトラフルオロベンゼン(TFB, 3.77 g)、無水AlCl3 (20.34 g)、および溶媒としてNaHで脱水したCHCl3を100 mL の反応器に入れた。混合物を撹拌下、油浴中で加熱し、24時間還流した。続いて、混合物をゆっくりと氷水中に加えて、残存するAlCl3を加水分解した。混合物をクロロホルムで抽出した後、有機相を水洗し、無水硫酸マグネシウムで脱水し、濃縮して、粗生成物を得た。粗生成物は、n-ヘキサンを溶離液として用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、n-ヘキサンで再結晶して、1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンを得た(収率: 59.33%)。
【0030】
表2は、実施例1と比較した、この比較例の欠点および利点を示す。
【0031】
表2によると、実施例1のコストは比較例の1.5倍である。しかし、実施例1の方法により、反応時間は短縮され、工程は単純になり、反応器容量はより大きくなり、1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンの製造収率は向上し得る。実施例1のこれらの様相は、比較例よりも優れている。
【0032】
本発明の好ましい態様に関して説明したが、以下に特許請求した通りの本発明の範囲を逸脱することなく、多数の他の可能な改変または変化がなされ得ることを理解すべきである。
【0033】
【表1】

DMF: N,N-ジメチルホルムアミド
DMAC: ジメチルアセトアミド
NMP: N-メチルピロリドン
DEF: N,N-ジエチルホルムアミド
*1: 溶液が黒くなった。
*2: TFTPAは純度が低かった。
*3: 溶液は黒くなり、生成物は殆ど得られなかった。
*4: 溶液は黒くなり、生成物は殆ど得られなかった。
【0034】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンの製造方法であって、
(a)テトラフルオロテレフタルアルデヒド、触媒およびSOCl2を、有機溶媒を伴いまたは伴わずに混合して、混合物を形成する工程であって、触媒はホルムアミドに属する工程;
(b)混合物を加熱する工程;
(c)混合物を冷却し、混合物を水中にゆっくりと加え、混合物を2層に分離させる工程;
(d)混合物の層から有機層を得る工程;および
(e)有機層を精製し、有機層中の有機溶媒および触媒を除去し、1,4-ビス(ジクロロメチル)テトラフルオロベンゼンを提供する工程
を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、テトラフルオロテレフタルアルデヒドのSOCl2に対するモル比が、2〜20の範囲内である、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、触媒のテトラフルオロテレフタルアルデヒドに対する重量比が、0.1〜1.0の範囲内である、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、有機溶媒のテトラフルオロテレフタルアルデヒドに対する重量比が、0〜3の範囲内である、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、工程(b)において、混合物を加熱することにより還流する、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、工程(b)において、混合物をその温度が60〜130℃の範囲に上昇するまで加熱する、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、工程(b)の反応時間が2〜30時間の範囲内である、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、工程(c)において、混合物を0〜60℃の範囲内に冷却する、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、工程(c)において、混合物を氷水にゆっくりと添加する、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、有機溶媒が、トルエン、クロロホルム、p-キシレン、ベンゼン、ジオキサン、1,2-ジクロロエタン、テトラクロロメタン、テトラヒドロフラン、ニトロベンゼン、およびo-ジクロロベンゼンよりなる群から選択される少なくとも一つである、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、触媒がN,N-ジアルキルホルムアミドであり、アルキル基がC1〜C7アルキル基である、方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、触媒がN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、またはN,N-ジエチルホルムアミド(DEF)である、方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であって、工程(e)が、
(e1)撹拌下、有機溶媒および水(H2O)を有機層中に添加する工程;
(e2)混合物を中和する工程;
(e3)有機層を単離し、その後、有機層を濃縮する工程;および
(e4)有機層を冷却して、固体生成物を得る工程
を含む、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法であって、工程(e1)において、有機溶媒の水に対する容量比が1〜10の範囲内である、方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法であって、工程(e1)において、有機溶媒がジクロロメタンである、方法。
【請求項16】
請求項13に記載の方法であって、工程(e2)において、混合物を濃縮アンモニアで中和する、方法。

【公開番号】特開2010−150213(P2010−150213A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−332177(P2008−332177)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(509004044)ユアン シン マテリアルズ テクノロジー コーポレイション (4)
【出願人】(509002431)チュン シャン インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー アーマメンツ ビューロー エムエヌディー (4)
【Fターム(参考)】