説明

2−アシルヘテロ芳香族化合物の製造方法

【課題】 ヘテロ芳香族化合物を無水カルボン酸化合物と気相接触反応せしめて2−アセチルヘテロ芳香族化合物を製造するにあたり、2−アシルヘテロ芳香族化合物の固化、並びにヘテロ芳香族化合物及び/又は2−アシルヘテロ芳香族化合物の重合を、共に生じさせることなく、2−アシルヘテロ芳香族化合物を製造する方法を提供すること。
【解決手段】 ヘテロ芳香族化合物を無水カルボン酸化合物と気相接触反応せしめて2−アシルヘテロ芳香族化合物を製造する方法において、得られた反応生成ガスを疎水性有機溶媒と接触させて2−アシルヘテロ芳香族化合物を疎水性有機溶媒に溶解、捕集した後、得られた捕集液に含まれる副生のカルボン酸を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬の中間体原料として有用な式(3):
【0002】
【化1】

(式中、XはNH又は硫黄原子を示し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、Rはアリール基又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表される2−アシルヘテロ芳香族化合物(以下、2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)という。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
触媒の存在下で、式(1):
【0004】
【化2】

(式中、X及びRは前記に同じ。)で表されるヘテロ芳香族化合物(以下、ヘテロ芳香族化合物(1)という。)を式(2):
(RCO)O (2)
(式中、Rは前記に同じ。)で表される無水カルボン酸化合物(以下、無水カルボン酸化合物(2)という。)と気相接触反応せしめて2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)を製造する方法は公知であるが(例えば、特許文献1又は非特許文献1参照)、反応終了後に得られる反応生成ガスから2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)を取り出す方法については殆ど開示されておらず、反応終了後に氷冷した水で捕集することが記載されているのみである。
【特許文献1】特開昭62−298581
【非特許文献1】Catal.Lett.,54,95−100(1998)
【0005】
本発明者が、ヘテロ芳香族化合物(1)の一種であるピロールを無水酢酸と気相接触反応せしめて2−アセチルピロールの製造を行うにあたり、従来法と同様に氷冷水による反応生成ガスに含まれる2−アセチルピロールの捕集を試みたところ、2−アセチルピロールの融点は90℃程度と高いため、反応器から導入管を通じて氷冷水に反応生成ガスを導入したと同時に2−アセチルピロールの固化が起こり、導入管の閉塞が発生した。また、2−アセチルピロールの水100gに対する溶解度は0.4g程度であり、水は捕集溶媒としても好ましくなく、従来法は工業的に製造するには、未だ満足できるものではない。
【0006】
そこで、捕集溶媒にピロールを用いて、反応混合物のピロール溶液を得た後、濃縮してピロールを留去することで2−アセチルピロールを得ることを試みたが、ピロール及び/又は2−アセチルピロールの重合が起こり、2−アセチルピロールを得ることが困難であった(比較例1参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ヘテロ芳香族化合物(1)を無水カルボン酸化合物(2)と気相接触反応せしめて2−アセチルヘテロ芳香族化合物(3)を製造するにあたり、2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)の固化、並びにヘテロ芳香族化合物(1)及び/又は2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)の重合を、共に生じさせることなく、2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、従来の水に代えて疎水性有機溶媒を用いて反応生成ガス中の2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)が固化することなく容易に捕集できること、得られた捕集液液中に含まれる副生カルボン酸が、ヘテロ芳香族化合物(1)及び/又は2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)の重合に寄与しているとの知見を得た。そこで、副生するカルボン酸を除去すれば、ヘテロ芳香族化合物(1)及び/又は2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)の重合を生じさせずに2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、ヘテロ芳香族化合物(1)を無水カルボン酸化合物(2)と気相接触反応せしめて2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)を製造する方法において、得られた反応生成ガスを疎水性有機溶媒と接触させて2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)を疎水性有機溶媒に溶解、捕集した後、得られた捕集液に含まれる副生のカルボン酸を除去することを特徴とする2−アセチルヘテロ芳香族化合物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、従来法と比べて、2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)の固化、並びにヘテロ芳香族化合物(1)及び/又は2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)の重合を、共に生じさせることなく、2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)を製造することができるので、本発明の製造方法は工業的利用価値が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
式(1)及び式(3)中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、好ましくは水素原子である。炭素数1〜4のアルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜4のアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基及びtert−ブチル基が挙げられる。
【0011】
式(2)及び式(3)中、Rはアリール基又は炭素数1〜4のアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。アリール基としては、上述のアルキル基で置換されていてもよいアリール基が挙げられ、具体的には例えば、フェニル基、2−トリル基、3−トリル基、4−トリル基等が挙げられる。炭素数1〜4のアルキル基としては、上述のアルキル基が挙げられる。
【0012】
ヘテロ芳香族化合物(1)の具体例としては、ピロール、2−メチルピロール、3−メチルピロール、2−エチルピロール、3−エチルピロール、2−プロピルピロール、3−プロピルピロール、2−イソプロピルピロール、3−イソプロピルピロール、2−ブチルピロール、3−ブチルピロール、2−イソブチルピロール、3−イソブチルピロール、2−sec−ブチルピロール、3−sec−ブチルピロール、2−tert−ブチルピロール、3−tert−ブチルピロール、チオフェン、2−メチルチオフェン、3−メチルチオフェン、2−エチルチオフェン、3−エチルチオフェン、2−プロピルチオフェン、3−プロピルチオフェン、2−イソプロピルチオフェン、3−イソプロピルチオフェン、2−ブチルチオフェン、3−ブチルチオフェン、2−イソブチルチオフェン、3−イソブチルチオフェン、2−sec−ブチルチオフェン、3−sec−ブチルチオフェン、2−tert−ブチルチオフェン及び3−tert−ブチルチオフェンが挙げられる。
【0013】
無水カルボン酸化合物(2)の具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水イソ吉草酸、無水ピバリン酸、無水カプロン酸、無水安息香酸、無水トルイル酸等が挙げられる。
【0014】
2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)の具体例としては、2−アセチルピロール、2−アセチル−3−メチルピロール、2−アセチル−4−メチルピロール、2−アセチル−5−メチルピロール、2−アセチル−3−エチルピロール、2−アセチル−4−エチルピロール、2−アセチル−5−エチルピロール、2−アセチル−3−プロピルピロール、2−アセチル−4−プロピルピロール、2−アセチル−5−プロピルピロール、2−アセチル−3−イソプロピルピロール、2−アセチル−4−イソプロピルピロール、2−アセチル−5−イソプロピルピロール、2−アセチル−3−ブチルピロール、2−アセチル−4−ブチルピロール、2−アセチル−5−ブチルピロール、2−アセチル−3−イソブチルピロール、2−アセチル−4−イソブチルピロール、2−アセチル−5−イソブチルピロール、2−アセチル−3−sec−ブチルピロール、2−アセチル−4−sec−ブチルピロール、2−アセチル−5−sec−ブチルピロール、2−アセチル−3−tert−ブチルピロール、2−アセチル−4−tert−ブチルピロール、2−アセチル−5−tert−ブチルピロール、2−アセチルチオフェン、2−アセチル−3−メチルチオフェン、2−アセチル−4−メチルチオフェン、2−アセチル−5−メチルチオフェン、2−アセチル−3−エチルチオフェン、2−アセチル−4−エチルチオフェン、2−アセチル−5−エチルチオフェン、2−アセチル−3−プロピルチオフェン、2−アセチル−4−プロピルチオフェン、2−アセチル−5−プロピルチオフェン、2−アセチル−3−イソプロピルチオフェン、2−アセチル−4−イソプロピルチオフェン、2−アセチル−5−イソプロピルチオフェン、2−アセチル−3−ブチルチオフェン、2−アセチル−4−ブチルチオフェン、2−アセチル−5−ブチルチオフェン、2−アセチル−3−イソブチルチオフェン、2−アセチル−4−イソブチルチオフェン、2−アセチル−5−イソブチルチオフェン、2−アセチル−3−sec−ブチルチオフェン、2−アセチル−4−sec−ブチルチオフェン、2−アセチル−5−sec−ブチルチオフェン、2−アセチル−3−tert−ブチルチオフェン、2−アセチル−4−tert−ブチルチオフェン、2−アセチル−5−tert−ブチルチオフェン、
【0015】
2−プロピオニルピロール、2−プロピオニル−3−メチルピロール、2−プロピオニル−4−メチルピロール、2−プロピオニル−5−メチルピロール、2−プロピオニル−3−エチルピロール、2−プロピオニル−4−エチルピロール、2−プロピオニル−5−エチルピロール、2−プロピオニル−3−プロピルピロール、2−プロピオニル−4−プロピルピロール、2−プロピオニル−5−プロピルピロール、2−プロピオニル−3−イソプロピルピロール、2−プロピオニル−4−イソプロピルピロール、2−プロピオニル−5−イソプロピルピロール、2−プロピオニル−3−ブチルピロール、2−プロピオニル−4−ブチルピロール、2−プロピオニル−5−ブチルピロール、2−プロピオニル−3−イソブチルピロール、2−プロピオニル−4−イソブチルピロール、2−プロピオニル−5−イソブチルピロール、2−プロピオニル−3−sec−ブチルピロール、2−プロピオニル−4−sec−ブチルピロール、2−プロピオニル−5−sec−ブチルピロール、2−プロピオニル−3−tert−ブチルピロール、2−プロピオニル−4−tert−ブチルピロール、2−プロピオニル−5−tert−ブチルピロール、2−プロピオニル−チオフェン、2−プロピオニル−3−メチルチオフェン、2−プロピオニル−4−メチルチオフェン、2−プロピオニル−5−メチルチオフェン、2−プロピオニル−3−エチルチオフェン、2−プロピオニル−4−エチルチオフェン、2−プロピオニル−5−エチルチオフェン、2−プロピオニル−3−プロピルチオフェン、2−プロピオニル−4−プロピルチオフェン、2−プロピオニル−5−プロピルチオフェン、2−プロピオニル−3−イソプロピルチオフェン、2−プロピオニル−4−イソプロピルチオフェン、2−プロピオニル−5−イソプロピルチオフェン、2−プロピオニル−3−ブチルチオフェン、2−プロピオニル−4−ブチルチオフェン、2−プロピオニル−5−ブチルチオフェン、2−プロピオニル−3−イソブチルチオフェン、2−プロピオニル−4−イソブチルチオフェン、2−プロピオニル−5−イソブチルチオフェン、2−プロピオニル−3−sec−ブチルチオフェン、2−プロピオニル−4−sec−ブチルチオフェン、2−プロピオニル−5−sec−ブチルチオフェン、2−プロピオニル−3−tert−ブチルチオフェン、2−プロピオニル−4−tert−ブチルチオフェン、2−プロピオニル−5−tert−ブチルチオフェン、
【0016】
2−ブチリルピロール、2−ブチリル−3−メチルピロール、2−ブチリル−4−メチルピロール、2−ブチリル−5−メチルピロール、2−ブチリル−3−エチルピロール、2−ブチリル−4−エチルピロール、2−ブチリル−5−エチルピロール、2−ブチリル−3−プロピルピロール、2−ブチリル−4−プロピルピロール、2−ブチリル−5−プロピルピロール、2−ブチリル−3−イソプロピルピロール、2−ブチリル−4−イソプロピルピロール、2−ブチリル−5−イソプロピルピロール、2−ブチリル−3−ブチルピロール、2−ブチリル−4−ブチルピロール、2−ブチリル−5−ブチルピロール、2−ブチリル−3−イソブチルピロール、2−ブチリル−4−イソブチルピロール、2−ブチリル−5−イソブチルピロール、2−ブチリル−3−sec−ブチルピロール、2−ブチリル−4−sec−ブチルピロール、2−ブチリル−5−sec−ブチルピロール、2−ブチリル−3−tert−ブチルピロール、2−ブチリル−4−tert−ブチルピロール、2−ブチリル−5−tert−ブチルピロール、2−ブチリル−チオフェン、2−ブチリル−3−メチルチオフェン、2−ブチリル−4−メチルチオフェン、2−ブチリル−5−メチルチオフェン、2−ブチリル−3−エチルチオフェン、2−ブチリル−4−エチルチオフェン、2−ブチリル−5−エチルチオフェン、2−ブチリル−3−プロピルチオフェン、2−ブチリル−4−プロピルチオフェン、2−ブチリル−5−プロピルチオフェン、2−ブチリル−3−イソプロピルチオフェン、2−ブチリル−4−イソプロピルチオフェン、2−ブチリル−5−イソプロピルチオフェン、2−ブチリル−3−ブチルチオフェン、2−ブチリル−4−ブチルチオフェン、2−ブチリル−5−ブチルチオフェン、2−ブチリル−3−イソブチルチオフェン、2−ブチリル−4−イソブチルチオフェン、2−ブチリル−5−イソブチルチオフェン、2−ブチリル−3−sec−ブチルチオフェン、2−ブチリル−4−sec−ブチルチオフェン、2−ブチリル−5−sec−ブチルチオフェン、2−ブチリル−3−tert−ブチルチオフェン、2−ブチリル−4−tert−ブチルチオフェン、2−ブチリル−5−tert−ブチルチオフェン、
【0017】
2−ベンゾイルピロール、2−ベンゾイル−3−メチルピロール、2−ベンゾイル−4−メチルピロール、2−ベンゾイル−5−メチルピロール、2−ベンゾイル−3−エチルピロール、2−ベンゾイル−4−エチルピロール、2−ベンゾイル−5−エチルピロール、2−ベンゾイル−3−プロピルピロール、2−ベンゾイル−4−プロピルピロール、2−ベンゾイル−5−プロピルピロール、2−ベンゾイル−3−イソプロピルピロール、2−ベンゾイル−4−イソプロピルピロール、2−ベンゾイル−5−イソプロピルピロール、2−ベンゾイル−3−ブチルピロール、2−ベンゾイル−4−ブチルピロール、2−ベンゾイル−5−ブチルピロール、2−ベンゾイル−3−イソブチルピロール、2−ベンゾイル−4−イソブチルピロール、2−ベンゾイル−5−イソブチルピロール、2−ベンゾイル−3−sec−ブチルピロール、2−ベンゾイル−4−sec−ブチルピロール、2−ベンゾイル−5−sec−ブチルピロール、2−ベンゾイル−3−tert−ブチルピロール、2−ベンゾイル−4−tert−ブチルピロール、2−ベンゾイル−5−tert−ブチルピロール、2−ベンゾイル−チオフェン、2−ベンゾイル−3−メチルチオフェン、2−ベンゾイル−4−メチルチオフェン、2−ベンゾイル−5−メチルチオフェン、2−ベンゾイル−3−エチルチオフェン、2−ベンゾイル−4−エチルチオフェン、2−ベンゾイル−5−エチルチオフェン、2−ベンゾイル−3−プロピルチオフェン、2−ベンゾイル−4−プロピルチオフェン、2−ベンゾイル−5−プロピルチオフェン、2−ベンゾイル−3−イソプロピルチオフェン、2−ベンゾイル−4−イソプロピルチオフェン、2−ベンゾイル−5−イソプロピルチオフェン、2−ベンゾイル−3−ブチルチオフェン、2−ベンゾイル−4−ブチルチオフェン、2−ベンゾイル−5−ブチルチオフェン、2−ベンゾイル−3−イソブチルチオフェン、2−ベンゾイル−4−イソブチルチオフェン、2−ベンゾイル−5−イソブチルチオフェン、2−ベンゾイル−3−sec−ブチルチオフェン、2−ベンゾイル−4−sec−ブチルチオフェン、2−ベンゾイル−5−sec−ブチルチオフェン、2−ベンゾイル−3−tert−ブチルチオフェン、2−ベンゾイル−4−tert−ブチルチオフェン、2−ベンゾイル−5−tert−ブチルチオフェン等が挙げられる。
【0018】
本発明の製造方法において、ヘテロ芳香族化合物(1)を無水カルボン酸化合物(2)と気相接触反応せしめる方法については、例えば特開昭62−298581、Catal.Lett.,54,95−100(1998)等の通常公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば、触媒にゼオライト触媒を用い、ヘテロ芳香族化合物(1)を無水カルボン酸化合物(2)と100〜300℃の温度範囲で気相接触反応せしめる方法等が挙げられる。
【0019】
上述の方法により得られた2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)は、これを含む反応生成ガスを捕集溶媒である疎水性有機溶媒と接触させて、疎水性有機溶媒に溶解、捕集される。このように捕集溶媒に疎水性有機溶媒を用いることで、反応混合物が固化することなく反応混合物を捕集することができる。疎水性有機溶媒としては、2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)を溶解するものであれば特に限定されず、例えばブタノール、ヘキサノール等の疎水性アルコール溶媒、例えばヘキサン、シクロヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、例えばピロール等の疎水性ヘテロ芳香族化合物溶媒等が挙げられ、好ましくは疎水性ヘテロ芳香族化合物溶媒であり、使用原料と同種のヘテロ芳香族化合物(1)が特に好ましい。ヘテロ芳香族化合物(1)を捕集溶媒として用いれば、未反応のヘテロ芳香族化合物(1)を蒸留して回収することが容易となるためである。これらは単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。有機溶媒の使用量は、2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)を十分に溶解できる量であれば特に限定されないが、2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)1重量部に対して、通常0.5〜99重量部、好ましくは10〜90重量部である。
【0020】
次いで得られた捕集液から副生のカルボン酸を除去する。カルボン酸を除去する方法としては、反応混合物溶液を、1)水と混合する方法、2)塩基性水溶液と混合する方法、等が挙げられるが、好ましくは塩基性水溶液と混合する方法である。塩基性水溶液と混合した後、分液して有機層を得ればよい。このようにすれば、副生するカルボン酸をカルボン酸塩として水層に除去することができる。塩基性水溶液としては、例えば水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物の水溶液、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、イソプロピルアミン等の親水性アミン類の水溶液、例えばピリジン、ピコリン、ルチジン、コリジン等の親水性ヘテロ芳香族炭化水素化合物の水溶液等が挙げられる。塩基性水溶液の使用量としては、捕集液中に含まれるカルボン酸を十分に中和できる量であれば特に限定されず、カルボン酸1モルに対して、塩基性水溶液中に含まれる塩基として、通常1モル以上、好ましくは1.5〜5モルである。
【0021】
分液後、有機層を濃縮すれば、濃縮残渣として2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)を得ることができる。2−アシルヘテロ芳香族化合物(3)はさらに蒸留等の所望の精製操作により精製してもよい。
【実施例】
【0022】
本発明を更に詳細に説明するために、以下に具体的な実施例を上げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、分析はガスクロマトグラフィーを用いた。
【0023】
実施例1
ゼオライト触媒500mlを、内径20mmのステンレス製反応管に充填した。反応管のゼオライト触媒充填部を300℃に加熱した後、同温度でピロール及び無水酢酸を供給し、反応を実施した。ピロールの供給量は、99.1g/hrであり、無水酢酸の供給量は150.9g/hrであった。捕集溶媒に氷冷したピロール1548gを用いて、ピロール及び無水酢酸の供給開始から6時間までの反応管から流出する反応生成ガスに含まれる生成物を捕集した。捕集中に2−アセチルピロールが固化することはなかった。得られた捕集液の組成はつぎのとおりであった。
2−アセチルピロール 14.3重量部
ピロール 58.9重量部
酢酸 18.8重量部
水1290gに得られた捕集液2573gを加え、20重量%の水酸化ナトリウム水溶液1576gを攪拌下、液温20〜30℃で90分かけて滴下した。その時のPHは6.98であった。滴下終了後、分液して有機層を得た。得られた有機層の組成はつぎのとおりであった。
2−アセチルピロール 17.1重量部
ピロール 71.1重量部
酢酸 0重量部
該有機層1876gを用い、塔径20mm、理論段数12段のガラス製蒸留塔を用い、18〜2kPaの減圧下、全留出で蒸留を行い、ピロールを留出させた。ピロールの留出には3.5時間を要し、この留出間の蒸留釜内の液温は69〜132℃であった。その結果、先ず純度99%のピロールである留分を98%の得率で得た。
次いで、2〜0.3kPaの減圧下、還流比5で2−アセチルピロールを留出させた。このとき、蒸留塔凝縮器の液温を100℃に保ち、2−アセチルピロールの固化を防止した。その結果、純度98%の2−アセチルピロールである留分を75%の得率で得た。
【0024】
比較例1
実施例1と同様にして得られた捕集液を塔径20mm、理論段数12段のガラス製蒸留塔を用い、18〜2kPaの減圧下、全留出で蒸留を行い、酢酸及びピロールを留出させた。酢酸、ピロールの留出には7.5時間を要し、この留出間の蒸留釜内の液温は105〜176℃であった。その結果、純度90%のピロールである留分を80%の得率で得た時点で留出液の粘性が高くなり、蒸留困難となった。蒸留釜残留物は、黒色タール状であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、XはNH又は硫黄原子を示し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表されるヘテロ芳香族化合物(以下、ヘテロ芳香族化合物(1)という。)を式(2):
(RCO)O (2)
(式中、Rはアリール基又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表される無水カルボン酸化合物と気相接触反応せしめて式(3):
【化2】

(式中、X、R及びRは前記に同じ。)で表される2−アシルヘテロ芳香族化合物を製造する方法において、得られた反応生成ガスを疎水性有機溶媒と接触させて式(3)で表される2−アシルヘテロ芳香族化合物を疎水性有機溶媒に溶解、捕集した後、得られた捕集液に含まれる副生のカルボン酸を除去することを特徴とする2−アセチルヘテロ芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
カルボン酸を除去するにあたり、反応混合物溶液を塩基性水溶液と混合せしめることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
疎水性有機溶媒がヘテロ芳香族化合物(1)である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ヘテロ芳香族化合物(1)がピロール又はチオフェンである、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
が炭素数1〜4のアルキル基である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−137965(P2008−137965A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326901(P2006−326901)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000167646)広栄化学工業株式会社 (114)
【Fターム(参考)】