説明

2−プリニル−3−トリル−キナゾリノン誘導体のアトロプ異性体および使用方法

本発明は、PDKアイソフォーム、特にデルタアイソフォームを阻害する化合物を投与することによって、特定の炎症状態および/または腫瘍学を処置するための化合物、組成物および方法を提供する。本発明はさらに、これらの方法に有用な化合物の具体的な立体異性体を提供する。より詳細には、化合物は、2−((6−アミノ−9H−プリン−9−イル)メチル)−5−メチル−3−o−トリルキナゾリン−4(3H)−オンの光学活性アトロプ異性体である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2009年3月24日に出願された米国仮特許出願第61/162,980号および2009年8月5日に出願された米国仮特許出願第61/231,550号からの優先権を主張する。これらの文献の内容は本明細書中で参考として援用される。
【0002】
技術分野
本発明は、ホスファチジルイノシトール−3,4,5−三リン酸キナーゼδ(PI3Kδ)酵素をin vivoで阻害する化合物を用いた、炎症状態および/または腫瘍学的障害を処置するための治療剤および医薬品化学の分野に関する。より詳細には、本発明は、鏡像異性的に高められた2−((6−アミノ−9H−プリン−9−イル)メチル)−5−メチル−3−o−トリルキナゾリン−4(3H)−オンを用いた、炎症状態および/または腫瘍学的障害を処置する化合物、組成物、および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
3’−リン酸化ホスホイノシチドを介した細胞シグナル伝達は、様々な細胞プロセス、たとえば、悪性形質転換、成長因子シグナル伝達、炎症、および免疫に関連づけられている。これらのリン酸化されたシグナル伝達の産物、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3−キナーゼ、PI3K)の産生を司っている酵素は、ウイルス腫瘍性タンパク質ならびにホスファチジルイノシトール(PI)およびそのリン酸化誘導体をイノシトール環の3’−ヒドロキシルでリン酸化する成長因子受容体チロシンキナーゼに関連する活性として最初に同定された。さらに、PI3Kの活性化は、細胞成長、分化、およびアポトーシスを含めた広範囲の細胞応答に関与していると考えられている。
【0004】
ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3−キナーゼ、PI3K)のp110δアイソフォームの同定は、非特許文献1に記載されている。ヒトp110δアイソフォームは組織に限定された様式で発現されることが観察された。ヒトp110δアイソフォームはリンパ球およびリンパ組織中において高レベルで発現され、タンパク質が免疫系中でPI3−キナーゼに媒介されるシグナル伝達において役割を果たし得ることが示唆される。さらに、PI3Kの特定のアイソフォームも、特定の癌において、PI3Kに媒介されるシグナル伝達において役割を果たし得る。
【0005】
炎症反応は、白血球の流入および/または白血球の化学走性に著しく関連している。炎症反応は、病原性生物およびウイルスの感染、外傷または心筋梗塞もしくは脳卒中後の再灌流などの非感染性手段、外来抗原に対する免疫応答、および自己免疫疾患等から生じ得る。白血球は、多くの一般的な微生物に対する免疫防御の第一線を提供する。
【0006】
非特許文献2は、PI3Kδの阻害がネズミ喘息モデルにおいてアレルギー性気道炎症および応答性亢進を減弱させる証拠を記載しており、PI3Kδの選択的阻害剤が喘息およびアレルギー反応ならびに免疫障害の処置に有用であることを実証している。
【0007】
癌に関して、比較的高いレベルのp110δを発現する化合物が、主に血液癌の処置に有用であり得る。また、PI3Kのp110βアイソフォームは、固形腫瘍などの特定の癌における、PI3Kに媒介されるシグナル伝達においても役割を果たし得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chantryら、J Biol Chem(1997)272:19236−19241
【非特許文献2】Leeら、FASEB J.(2006)20:455−465
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
癌および炎症状態に関連するPI3Kに媒介される障害の処置が必要とされている。本発明は、炎症状態および癌の処置に特に有用な、1つのキナゾリノン化合物の具体的な異性体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の開示
本発明は、選択的PI3Kδ阻害剤ならびに選択的PI3Kδ阻害剤である化合物を用いて炎症状態および癌を処置する方法に関する。より詳細には、本発明の化合物は分離可能なアトロプ異性体として存在し、本発明は、炎症の処置に使用するための、アトロプ異性体の混合物に優る予想外の利点を有する分離されたアトロプ異性体を提供する。本発明の化合物、組成物、および方法は、炎症状態の処置において治療上有益である。
【0011】
一態様では、本発明は、式1(S)のアトロプ異性体
【0012】
【化1】

または製薬上許容され得るその塩もしくは溶媒和物を含む光学活性化合物を提供し、式1(S)のアトロプ異性体は、その対応する鏡像異性体である式1(R)
【0013】
【化2】

よりも過剰量で存在する。
【0014】
別の態様では、本発明は、式1(R)のアトロプ異性体
【0015】
【化3】

または製薬上許容され得るその塩もしくは溶媒和物を含む光学活性化合物を提供し、式1(R)のアトロプ異性体は、その対応する鏡像異性体である式1(S)
【0016】
【化4】

よりも過剰量で存在する。
【0017】
別の態様では、本発明は、本明細書中に記載の光学活性化合物および製薬上許容され得る担体を含む組成物を提供する。別の態様では、本発明は、哺乳動物における、炎症によって特徴づけられる状態を処置する方法を提供する。一部の実施形態では、状態は、慢性炎症性疾患、組織または臓器の移植片拒絶、移植片対宿主疾患(GVHD)、多臓器傷害症候群、急性糸球体腎炎、反応性関節炎、遺伝性気腫、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血性再灌流傷害、脳卒中、関節リウマチ(RA)、骨関節炎(OA)、喘息、アレルギー性鼻炎、ループス腎炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、壊死性全腸炎、膵炎、Pneumocystis carinii肺炎(PCP)、炎症性腸疾患(IBD)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、敗血症、市中肺炎(CAP)、多発性硬化症(MS)、心筋梗塞、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症、皮膚炎、急性化膿性髄膜炎、熱傷、顆粒球輸血関連症候群、サイトカイン誘導性毒性、および脊髄損傷からなる群から選択され、この一部の実施形態は、前記哺乳動物に、治療上有効な量の本明細書中に記載の光学活性アトロプ異性体を投与することを含む。特定の実施形態では、光学活性化合物は式1(S)によって表される。他の実施形態では、光学活性化合物は式1(R)によって表される。
【0018】
別の態様では、本発明は、式1のラセミ混合物
【0019】
【化5】

のキラルクロマトグラフィー分離によって得られる光学活性アトロプ異性体、または製薬上許容され得るその塩もしくは溶媒和物を提供し、式1のラセミ体は、順相キラルカラムを用いて分離し、2つのピーク、AおよびBが分割され、ピークAおよびピークBは、それぞれアトロプ異性体1(S)および1(R)
【0020】
【化6】

を表し、得られた光学活性アトロプ異性体は、主に最初にカラムから溶出される異性体からなる。特定の実施形態では、得られた光学活性アトロプ異性体は、式1(R)の化合物を実質的に含まない式1(S)の化合物からなる。別の実施形態では、得られた光学活性アトロプ異性体は、式1(S)の化合物を実質的に含まない式1(R)の化合物からなる。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、式1のラセミ体
【0022】
【化7】

のキラルクロマトグラフィー分離によって得られる光学活性アトロプ異性体、または製薬上許容され得るその塩もしくは溶媒和物を提供し、式1のラセミ混合物は、順相キラルカラムを用いて分離し、2つのピーク、AおよびBが分割され、ピークAおよびピークBは、それぞれアトロプ異性体1(S)および1(R)
【0023】
【化8】

を表し、得られた光学活性アトロプ異性体は、主に2番目にカラムから溶出される異性体からなる。
【0024】
別の態様では、本発明は、本明細書中に記載の光学活性化合物のうちの任意のものおよび少なくとも1つの製薬上許容され得る賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、ラセミ化合物1の調製の合成スキームを示す図である。
【図2A】図2は、順相(図2A)または逆相(図2B)キラルカラム上で分割したアトロプ異性体を含有する、注入した化合物1のHPLCトレースを示す図である。
【図2B】図2は、順相(図2A)または逆相(図2B)キラルカラム上で分割したアトロプ異性体を含有する、注入した化合物1のHPLCトレースを示す図である。
【図3A】図3は、調製用クロマトグラフィー分離(図3A)前、ならびに順相カラム方法を用いた分離後の、単離したアトロプ異性体ピーク1(図3B)である1(S)およびピーク2(図3C)である1(R)の、分割した注入した化合物1のHPLCトレースを示す図である。
【図3B】図3は、調製用クロマトグラフィー分離(図3A)前、ならびに順相カラム方法を用いた分離後の、単離したアトロプ異性体ピーク1(図3B)である1(S)およびピーク2(図3C)である1(R)の、分割した注入した化合物1のHPLCトレースを示す図である。
【図3C】図3は、調製用クロマトグラフィー分離(図3A)前、ならびに順相カラム方法を用いた分離後の、単離したアトロプ異性体ピーク1(図3B)である1(S)およびピーク2(図3C)である1(R)の、分割した注入した化合物1のHPLCトレースを示す図である。
【図4】図4は、一連の水性溶媒中の、化合物1ならびに分割したアトロプ異性体1(S)および1(R)の溶解度データを示す図である。
【図5A】図5は、生化学的(図5A)および細胞に基づくアッセイ(図5B)における、ラセミ化合物1とアトロプ異性体1(S)および1(R)との間の、様々なアイソフォームのp110活性の相違を示す図である。
【図5B】図5は、生化学的(図5A)および細胞に基づくアッセイ(図5B)における、ラセミ化合物1とアトロプ異性体1(S)および1(R)との間の、様々なアイソフォームのp110活性の相違を示す図である。
【図6】図6は、ラットにおける、ラセミ化合物1を経口投薬した後のアトロプ異性体1(S)および1(R)の血漿濃度を示す図である。
【図7】図7は、イヌにおける、ラセミ化合物1を経口投薬した後のアトロプ異性体1(S)および1(R)の血漿濃度を示す図である。
【図8】図8は、ヒト被験体における、ラセミ化合物1を経口投薬した後のアトロプ異性体1(S)および1(R)の血漿濃度を示す図である。
【図9A】図9は、ラット被験体における、化合物1(S)または1(R)の静脈内(図9A)または経口(図9B)投薬のいずれかの後の、アトロプ異性体1(S)および1(R)の血漿濃度の比較を示す図である。
【図9B】図9は、ラット被験体における、化合物1(S)または1(R)の静脈内(図9A)または経口(図9B)投薬のいずれかの後の、アトロプ異性体1(S)および1(R)の血漿濃度の比較を示す図である。
【図10】図10は、ヒト被験体における、100mg(図10A、10B)または10mg(図10C、10D)の1(S)または1(R)の単一経口投与後の、アトロプ異性体1(S)および1(R)の血漿濃度の比較を示す図である。
【図11】図11は、ヒト被験体における、1日1回の25mgのラセミ化合物1の投与中の、120時間にわたる、14Cで放射標識したアトロプ異性体1(S)および1(R)の血漿濃度の比較を示す図である。
【図12】図12は、アトロプ異性体1(S)(図12A)またはアトロプ異性体1(R)(図12B)を投与した後の、ラット尿中の代謝物のLC−MS分析トレースを示す図である。
【図13】図13は、アトロプ異性体1(S)またはアトロプ異性体1(R)を投与した後の、経口投与の1時間(図13A、13B)または72時間(図13C、13D)後に試験した、ヒト血漿中の代謝物の分析トレースを示す図である。
【図14】図14は、コラーゲン誘導性関節炎ラットモデルにおいて、1(S)の化合物投薬後の日数に対してプロットした関節炎スコアのプロットを示す図である。
【図15】図15は、ラットにおける、被験体にビヒクル、1(S)またはメトトレキサートを投薬した後の抗コラーゲン抗体レベルを示すグラフである。
【図16】図16は、ビヒクル、1(S)またはメトトレキサートのいずれかで処置したラットのX線像評価からのX線スコアを示すグラフである。
【図17】図17のA〜Dは、ビヒクル、1(S)またはメトトレキサートで処置した被験体からの組織病理学データからの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な説明
多くの有機化合物は光学活性型で存在する、すなわち、これらは平面偏光を回転させる能力を有する。接頭辞dおよびlまたは(+)および(−)を用いて化合物による平面偏光の回転の符号を指定し、(−)またはlは、化合物が左旋性であることを意味する。(+)およびdを前に付けた化合物は右旋性である。所定の化学構造において、立体異性体と呼ばれるこれらの化合物は、互いの鏡像であること以外は同一である。また、互いの鏡像である立体異性体は、鏡像異性体とも呼ばれ、そのような異性体の混合物は、しばしば鏡像異性体混合物と呼ばれる。鏡像異性体の50:50の混合物はラセミ混合物またはラセミ体と呼ばれる。用語「ラセミ混合物」および「ラセミ体」とは、2つの鏡像異性体種の等モル混合物をいい、光学活性を欠く。
【0027】
用語「キラル」とは、鏡像パートナーと重ねることができない特性を有する分子をいい、一方で、用語「アキラル」とは、その鏡像パートナー上に重ねることができる分子をいう。
【0028】
用語「立体異性体」とは、同一の化学的構成を有するが、空間中の原子または基の配置に関して異なる化合物をいう。
【0029】
本明細書中で使用する用語「鏡像異性体」とは、ある化合物の2つの立体異性体をいう。
【0030】
用語「アトロプ異性体」とは、分子の他の部分との立体的相互作用の結果として分子中の単結合の回りの回転が妨げられるまたは大きく減速され、単結合の両末端の置換基が非対称である場合に起こるコンホメーション立体異性体(すなわち、これらは立体中心を必要としない)をいう。単結合の回りの回転障壁が十分に高く、コンホメーション間の相互転換が十分に遅い場合は、異性体種の分離および単離が可能となり得る。アトロプ異性体とは、不斉原子を1つも有さない鏡像異性体である。
【0031】
アトロプ異性体の熱ラセミ化に対するエネルギー障壁は、キラル軸を形成する1または複数の結合の自由回転に対する立体障害によって決定し得る。特定のビアリール化合物は、C2対称性を欠く環間結合の回りの回転が制限されている場合にアトロプ異性を示す。異性化(鏡像異性化)の自由エネルギー障壁は、回転に関する環間結合の安定性の尺度である。電子的および立体的な要因に応じて、光学的および熱的励起がそのような異性体のラセミ化を促進することができる。
【0032】
オルト置換ビフェニル化合物は、この種のコンホメーションの回転異性を示し得る。そのようなビフェニルは鏡像異性のキラルアトロプ異性体であり、フェニル環間のsp2−sp2炭素−炭素の環間結合が自由回転を妨げるために十分に高いエネルギー障壁を有しており、置換基X≠YおよびU≠Vが分子を非対称性にする。
【0033】
【化9】

X:U、X:V、および/またはY:V、Y:U間の立体的相互作用は、平面コンホメーションをエネルギー最大値にするほどに十分大きい。したがって、2つの非平面の軸性キラルの鏡像異性体は、互いに自由に単離できるようにその相互転換が十分に遅い場合にアトロプ異性体として存在する。一定義によると、アトロプ異性は、異性体が少なくとも1,000秒間の半減期t1/2を有する場合に存在すると定義され、これは300Kで22.3kcal mol−1(93.3kJ mol−1)の自由エネルギー障壁である(Oki,M.「Recent Advances in Atropisomerism」、Topics in Stereochemistry(1983)14:1)。上記に示す図中の太線および破線はこれらの部分、または分子の一部分を示し、これらは、回転エネルギー障壁が原因で立体的に制限されている。太字部分はページの平面の上に直交して存在し、破線部分はページの平面の下に直交して存在する。分子の「平らな」部分(示した2つのビフェニルのそれぞれ中の左側の環)はページの平面中にある。
【0034】
キラルビフェニル環などの軸性キラリティを有する化合物は、立体配置の命名法を用いて説明することができる。たとえば、2,2’;6,6’−テトラ置換ビフェニルは、他の軸性キラル分子として立体配置の記述子を割り当てる。分子はキラル軸のどちらの末端からも見ることができ、同じ立体配置の記述子(RまたはS)がもたらされる。たとえば、分子2を1−1’結合に沿って左側から見た場合は投影2.1がもたらされ、同じ分子を1’−1結合に沿って今度は右から見たい場合は、投影2.2がもたらされる。これらの投影は(S)立体配置に適合する。
【0035】
【化10】

S指定は、軸性キラリティを有する化合物を命名するための順位規則を適用することによって割り当てられる。これらの規則は、主にビフェニル環のオルト置換基に適用される。2つの連結された環は、水平および垂直の線によって表し得る。線は2つの直交する環を表し、線の末端は、2つの連結された環の4つのオルト位での置換基を表す。したがって、これらの線はオルト置換基のそれぞれの対をつなぐ。最も近い環(「前面」の線)上の2つの基は、2つの遠い基よりも優先される。対の中で、置換基は、キラル中心のRおよびS鏡像異性体を説明するために使用されるものと同じ優先規則を用いて優先度が割り当てられる。たとえば、上記投影式2.1において、視点は、分子を左側から見て、1から1’へ軸を見下ろす視点である。−OCHはHよりも高い優先度を有するため、近位の環は、それぞれ1および2と付番した−OCHおよびHを結合する太字の垂直線によって表す。水平線は、その優先度に基づいてそれぞれ3および4と付番したNOおよびCOHを含有する環を表す。したがって、順位1→2→3が立体配置の記述子を表し、これは、番号の順序に順に従うことは図の中心の回りを反時計回りに回ることを必要とするため、この例ではSである。鏡像異性体で行ったように、その後、2つの線が交差する点の回りに時計回りまたは反時計回りのどちらかで移動することによって、付番した置換基の順番にとる。中心点の回りの経路が時計回りであった場合、鏡像異性体の立体中心と同様に、アトロプ異性体はRと指定される。
【0036】
同じS配置は、分子を図3.2に示すように1−1’軸の反対側の末端から見ることで推論される。この視点から、オルトNOおよびオルトCOHを含有する環は、見る人により近く、太字の水平線によって表す。オルトOCHおよびオルトHを含有する環は、見る人からより離れており、垂直線によって表す。
【0037】
このビフェニルの例では、4つのオルト置換基のみを命名の目的のために選択する。環中の2つのオルト置換基が同一である場合は、同じ環中のメタ置換基を考慮することによって優先度を与える。
【0038】
この種の命名の割当てを本明細書中に記載のアトロプ異性体に適用する。たとえば、化合物1(S)などの本明細書中の化合物の一部の部分の代表例である化合物3は、以下に示すように絶対配置Sを割り当てる。
【0039】
【化11】

本発明の目的のために、アトロプ異性体は、実質的な熱相互転換なしに保存および使用されるように、十分に安定であることが好ましい。典型的には、アトロプ異性体は、固体形態で室温の場合に1週間より長い半減期を有する。
【0040】
一実施形態では、式1の化合物、2−((6−アミノ−9H−プリン−9−イル)メチル)−5−メチル−3−o−トリルキナゾリン−4(3H)−オンは、式1(S)および1(R)によって表される2つのアトロプ異性体を有する。式1は、等量の2つのアトロプ異性体1(S)および1(R)の混合物を表す。式1(R)は式1(S)に対応する鏡像異性体であり、逆もそうである。
【0041】
【化12】

本明細書中で使用する、その対応する鏡像異性体を「実質的に含まない」アトロプ異性体とは、組成物が、少なくとも90重量%の一方のアトロプ異性体を含有し、10重量%以下のその立体異性のアトロプ異性体を含有することを意味する。一部の実施形態では、組成物は、少なくとも95重量%の一方のアトロプ異性体および5重量%以下のその立体異性体を含有する。一部の実施形態では、組成物は、少なくとも98重量%の一方のアトロプ異性体および2重量%以下のその立体異性体を含有する。あるいは、主な異性体と副鏡像異性体の任意のものとの相対量は、少なくとも9:1、または少なくとも19:1、または少なくとも98:2である。一部の実施形態では、組成物は、少なくとも99重量%の一方のアトロプ異性体および1重量%以下のその立体異性体を含有する。一部の実施形態では、組成物は、少なくとも99.5重量%の一方のアトロプ異性体および0.5重量%以下のその立体異性体を含有する。
【0042】
本発明のアトロプ異性化合物は、典型的には固形物質であり、アトロプ異性体の混合物として存在する場合でも、約90%を超える純度まで任意選択で精製する。特定の実施形態では、本発明のアトロプ異性化合物は、タンパク質物質、または約1000amuを超える分子量を有する任意の物質を実質的に含まない。典型的には、これらは少なくとも90%純粋であり(光学純度にかかわらず化学的に純粋)、好ましくは少なくとも95%化学的に純粋である。
【0043】
一部の実施形態では、本発明の組成物および方法は、記述した化合物の光学活性型を利用し、これは、それぞれの場合で、化合物が光学活性であり、主に1(S)などのS立体異性体を含有するが、1(R)などのR立体異性体を副構成成分として含有し得ることを意味する。他の実施形態では、化合物は光学活性であり、主に1(R)などのR立体異性体を含有するが、1(S)などのS立体異性体を副構成成分として含有し得る。明確にするために、化合物の投薬量を本明細書中に記載する場合、この投薬量は、存在するそれぞれの立体異性体を含めた化合物の重量をいう。したがって、本明細書中で使用する100mgの化合物1(S)の投薬量とは、たとえば、厳密にS立体異性体の重量ではなく、立体異性体の混合物の重量をいう。これは、たとえば、約90mgのS立体異性体を含有する、100mgの9:1のSおよびR立体異性体の混合物、または、約95mgのS立体異性体を含有する、100mgの19:1のSおよびR立体異性体の混合物をいう場合がある。
【0044】
特定の実施形態では、化合物は、好ましくは非ラセミ混合物であり、S異性体が混合物の主構成成分である。典型的には、そのような混合物は約10%以下のR異性体しか含有せず(S対R異性体の比が少なくとも約9:1であることを意味する)、好ましくは5%未満のR異性体しか含有しない(S対R鏡像異性体の比が少なくとも約19:1であることを意味する)。一部の実施形態では、化合物は2%未満のR鏡像異性体しか有さず、これは、化合物が少なくとも約96%の鏡像体過剰率を有することを意味する。一部の実施形態では、化合物は少なくとも98%の鏡像体過剰率を有する。一部の実施形態では、化合物は少なくとも99%の鏡像体過剰率を有する。
【0045】
特定の実施形態では、化合物は、好ましくは非ラセミ混合物であり、R異性体が混合物の主構成成分である。典型的には、そのような混合物は約10%以下のS異性体しか含有せず(R対S異性体の比が少なくとも約9:1であることを意味する)、好ましくは5%未満のS異性体しか含有しない(R対S鏡像異性体の比が少なくとも約19:1であることを意味する)。一部の実施形態では、化合物は2%未満のS鏡像異性体しか有さず、これは、化合物が少なくとも約96%の鏡像体過剰率を有することを意味する。一部の実施形態では、化合物は少なくとも98%の鏡像体過剰率を有する。一部の実施形態では、化合物は少なくとも99%の鏡像体過剰率を有する。
【0046】
その対応する鏡像異性体「よりも過剰量」で存在するアトロプ異性体または「鏡像異性的に高められた混合物」とは、アトロプ異性体がその鏡像異性体よりも多い量で存在し、アトロプ異性体混合物を光学活性なものにすることを意味する。典型的には、これは、「より過剰量」で存在する化合物が、少なくとも60/40の比によってその鏡像異性体よりも優勢であることを意味する。
【0047】
本発明は、選択的PI3Kδ阻害剤ならびに選択的PI3Kδ阻害剤である化合物を用いて炎症状態および/または腫瘍学的障害を処置する方法に関する。より詳細には、本発明の化合物は分離可能なアトロプ異性体として存在し、本発明は、炎症の処置に使用するための、アトロプ異性体の混合物に優る予想外の利点を有する分離されたアトロプ異性体を提供する。本発明の化合物、組成物、および方法は、炎症状態の処置において治療上有益である。
【0048】
一態様では、本発明は、式1(S)のアトロプ異性体
【0049】
【化13】

または製薬上許容され得るその塩もしくは溶媒和物を含む光学活性化合物を提供し、式1(S)のアトロプ異性体は、その対応する鏡像異性体である式1(R)
【0050】
【化14】

よりも過剰量で存在する。
【0051】
一実施形態では、式1(S)のアトロプ異性体は、その対応するアトロプ異性体である式1(R)を実質的に含まない。
【0052】
別の態様では、本発明は、式1(R)のアトロプ異性体
【0053】
【化15】

または製薬上許容され得るその塩もしくは溶媒和物を含む光学活性化合物を提供し、式1(R)のアトロプ異性体は、その対応する鏡像異性体である式1(S)
【0054】
【化16】

よりも過剰量で存在する。
【0055】
特定の実施形態では、式1(R)のアトロプ異性体は、その対応するアトロプ異性体である式1(S)を実質的に含まない。
【0056】
別の態様では、本発明は、本明細書中に記載の光学活性化合物のうちの任意のものおよび少なくとも1つの製薬上許容され得る賦形剤を含む医薬組成物を提供する。特定の実施形態では、光学活性化合物は1(S)または1(R)である。他の実施形態では、光学活性化合物は1(S)である。さらに他の実施形態では、光学活性化合物は1(R)である。
【0057】
一実施形態では、組成物は、炎症によって特徴づけられる状態を処置するための、治療上有効な量の光学活性アトロプ異性体を含む。一部の実施形態では、状態は、慢性炎症性疾患、組織または臓器の移植片拒絶、移植片対宿主疾患(GVHD)、多臓器傷害症候群、急性糸球体腎炎、反応性関節炎、遺伝性気腫、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血性再灌流傷害、脳卒中、関節リウマチ(RA)、骨関節炎(OA)、喘息、アレルギー性鼻炎、糖尿病、ループス腎炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、壊死性全腸炎、膵炎、Pneumocystis carinii肺炎(PCP)、炎症性腸疾患(IBD)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、敗血症、市中肺炎(CAP)、多発性硬化症(MS)、心筋梗塞、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症、皮膚炎、急性化膿性髄膜炎、熱傷、顆粒球輸血関連症候群、サイトカイン誘導性毒性、および脊髄損傷からなる群から選択される。特定の実施形態では、光学活性化合物は式1(S)によって表される。他の実施形態では、光学活性化合物は式1(R)によって表される。
【0058】
別の態様では、本発明は、哺乳動物における、炎症によって特徴づけられる状態を処置する方法を提供する。一部の実施形態では、状態は、慢性炎症性疾患、組織または臓器の移植片拒絶、移植片対宿主疾患(GVHD)、多臓器傷害症候群、急性糸球体腎炎、反応性関節炎、遺伝性気腫、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、虚血性再灌流傷害、脳卒中、関節リウマチ(RA)、骨関節炎(OA)、喘息、アレルギー性鼻炎、糖尿病、ループス腎炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、壊死性全腸炎、膵炎、Pneumocystis carinii肺炎(PCP)、炎症性腸疾患(IBD)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、敗血症、市中肺炎(CAP)、多発性硬化症(MS)、心筋梗塞、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症、皮膚炎、急性化膿性髄膜炎、熱傷、顆粒球輸血関連症候群、サイトカイン誘導性毒性、および脊髄損傷からなる群から選択され、この一部の実施形態は、前記哺乳動物に、治療上有効な量の本明細書中に記載の光学活性アトロプ異性体を投与することを含む。特定の実施形態では、光学活性化合物は式1(S)によって表される。他の実施形態では、光学活性化合物は式1(R)によって表される。一部の実施形態では、哺乳動物は、障害の処置を必要とすると同定されたものである。一部の実施形態では、哺乳動物は状態の危険性があるものであり、炎症の発生を減少させるかまたは予防するために化合物または組成物を投与する。本発明の方法は、炎症状態を患っているまたはそれを患いやすい被験体を、治療的または予防的に処置するために用いることができる。
【0059】
一部の実施形態では、本発明は、哺乳動物においてアレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)、および糖尿病からなる群から選択される状態を処置する方法であって、その処置を必要とする哺乳動物に治療上有効な量のアトロプ異性体1(S)または製薬上許容され得るその塩を投与する工程を含む方法を提供する。
【0060】
一部の実施形態では、本発明は、哺乳動物においてアレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)、および糖尿病からなる群から選択される状態を処置する方法であって、その処置を必要とする哺乳動物に治療上有効な量のアトロプ異性体1(S)または製薬上許容され得るその塩を投与する工程を含み、アトロプ異性体がその対応する鏡像異性体を実質的に含まない方法を提供する。
【0061】
一部の実施形態では、本発明は、哺乳動物においてアレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)、および糖尿病からなる群から選択される状態を処置する方法であって、その処置を必要とする哺乳動物に治療上有効な量のアトロプ異性体1(S)または製薬上許容され得るその塩を投与する工程を含み、アトロプ異性体がその対応する鏡像異性体を実質的に含まず、少なくとも90%の鏡像体過剰率を有する方法を提供する。
【0062】
一部の実施形態では、本発明は、哺乳動物においてアレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)、および糖尿病からなる群から選択される状態を処置する方法であって、その処置を必要とする哺乳動物に治療上有効な量のアトロプ異性体1(S)または製薬上許容され得るその塩を投与する工程を含み、アトロプ異性体がその対応する鏡像異性体を実質的に含まず、少なくとも98%の鏡像体過剰率を有する方法を提供する。
【0063】
一部の実施形態では、本発明は、哺乳動物においてアレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)、および糖尿病からなる群から選択される状態を処置する方法であって、その処置を必要とする哺乳動物に治療上有効な量のアトロプ異性体1(S)または製薬上許容され得るその塩を投与する工程を含み、アトロプ異性体がその対応する鏡像異性体を実質的に含まず、少なくとも99%の鏡像体過剰率を有する方法を提供する。
【0064】
一部の実施形態では、本発明は、ヒトにおいてアレルギー性鼻炎を処置する方法であって、その処置を必要とするヒトに治療上有効な量の光学活性アトロプ異性体1(S)または製薬上許容され得るその塩を投与することを含み、アトロプ異性体がその対応する鏡像異性体を実質的に含まない方法を提供する。
【0065】
一部の実施形態では、本発明は、ヒトにおいて喘息を処置する方法であって、その処置を必要とするヒトに治療上有効な量の光学活性アトロプ異性体1(S)または製薬上許容され得るその塩を投与することを含み、アトロプ異性体がその対応する鏡像異性体を実質的に含まない方法を提供する。
【0066】
一部の実施形態では、本発明は、ヒトにおいて慢性閉塞性肺疾患(COPD)を処置する方法であって、その処置を必要とするヒトに治療上有効な量の光学活性アトロプ異性体1(S)または製薬上許容され得るその塩を投与する工程を含み、アトロプ異性体がその対応する鏡像異性体を実質的に含まない方法を提供する。
【0067】
一部の実施形態では、本発明は、ヒトにおいて多発性硬化症を処置する方法であって、その処置を必要とするヒトに治療上有効な量の光学活性アトロプ異性体1(S)または製薬上許容され得るその塩を投与する工程を含み、アトロプ異性体がその対応する鏡像異性体を実質的に含まない方法を提供する。
【0068】
一部の実施形態では、本発明は、ヒトにおいて関節リウマチを処置する方法であって、その処置を必要とするヒトに治療上有効な量の光学活性アトロプ異性体1(S)または製薬上許容され得るその塩を投与する工程を含み、アトロプ異性体がその対応する鏡像異性体を実質的に含まない方法を提供する。
【0069】
一部の実施形態では、本発明は、ヒトにおいて糖尿病を処置する方法であって、その処置を必要とするヒトに治療上有効な量の光学活性アトロプ異性体1(S)または製薬上許容され得るその塩を投与する工程を含み、アトロプ異性体がその対応する鏡像異性体を実質的に含まない方法を提供する。
【0070】
一部の実施形態では、本発明は、ヒトにおいてアレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)、および糖尿病からなる群から選択される状態を処置する方法であって、その処置を必要とするヒトに治療上有効な量の式
【0071】
【化17】

を有する光学活性アトロプ異性体または製薬上許容され得るその塩を投与する工程を含む方法を提供する。
【0072】
炎症状態の例としては、それだけには限定されないが、関節リウマチ(RA)、骨関節炎(OA)、痛風性関節炎、脊椎炎、および反応性関節炎などの関節炎疾患;ベーチェット症候群;敗血症;敗血症性ショック;内毒素ショック;グラム陰性敗血症;グラム陽性敗血症;毒素ショック症候群;敗血症、外傷、または出血に二次的な多臓器傷害症候群;それだけには限定されないがアレルギー性結膜炎、春季結膜炎、ブドウ膜炎、および甲状腺関連眼症を含めた眼障害;好酸球性肉芽腫;それだけには限定されないが喘息、慢性気管支炎、アレルギー性鼻炎、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、重症急性呼吸器症候群(SARS)、慢性肺炎症性疾患(たとえば慢性閉塞性肺疾患)、珪肺症、肺サルコイドーシス、胸膜炎、肺胞炎、血管炎、肺炎、気管支拡張症、遺伝性気腫、および肺酸素中毒を含めた肺または呼吸器の状態;たとえば心筋、脳、または四肢の虚血性再灌流傷害、それだけには限定されないが嚢胞性線維症を含めた線維症;ケロイド形成または瘢痕組織形成;アテローム性動脈硬化症;それだけには限定されないが全身性エリテマトーデス(SLE)、ループス腎炎、自己免疫甲状腺炎、多発性硬化症、一部の形態の糖尿病、およびレイノー症候群を含めた自己免疫疾患;それだけには限定されないが移植片対宿主疾患(GVHD)および同種移植片拒絶を含めた組織または臓器移植片拒絶障害;慢性または急性糸球体腎炎;それだけには限定されないがクローン病、潰瘍性大腸炎および壊死性全腸炎を含めた炎症性腸疾患;それだけには限定されないが接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、乾癬、および蕁麻疹を含めた炎症性皮膚炎;感染症が原因の発熱および筋痛;それだけには限定されないが髄膜炎(たとえば急性化膿性髄膜炎)、脳炎、および軽い外傷が原因の脳または脊髄の損傷を含めた中枢または末梢神経系の炎症状態;シェーグレン症候群;白血球血管外漏出に関与する疾患;アルコール性肝炎;細菌性肺炎;市中肺炎(CAP);Pneumocystis carinii肺炎(PCP);抗原−抗体複合体媒介性疾患;血液量減少性ショック;1型真性糖尿病;急性および遅延型過敏症;白血球の悪液質および転移が原因の疾患状態;熱傷;顆粒球輸血関連症候群;サイトカイン誘導性毒性;脳卒中;膵炎;心筋梗塞、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症;ならびに脊髄損傷が挙げられる。
【0073】
一部の実施形態では、状態は、アレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)、および糖尿病からなる群から選択される。具体的な実施形態では、糖尿病はI型糖尿病またはII型糖尿病である。
【0074】
別の態様では、本発明は、哺乳動物において癌である状態を処置する方法であって、その処置を必要とする哺乳動物に治療上有効な量の本明細書中に記載の化合物を投与する工程を含む方法を提供する。一部の実施形態では、癌は血液悪性腫瘍である。特定の実施形態では、血液悪性腫瘍は白血病、リンパ腫、または多発性骨髄腫である。他の実施形態では、癌は固形腫瘍である。
【0075】
一部の実施形態では、リンパ腫は成熟(末梢)B細胞新生物である。具体的な実施形態では、成熟B細胞新生物は、B細胞慢性リンパ球性白血病/小リンパ球性リンパ腫;B細胞前リンパ球性白血病;リンパ形質細胞性リンパ腫;脾臓辺縁帯B細胞リンパ腫(+/−絨毛リンパ球)、節性辺縁帯リンパ腫(+/−単球様B細胞)、および粘膜関連リンパ組織(MALT)型の結節外辺縁帯B細胞リンパ腫などの辺縁帯リンパ腫;有毛細胞白血病、形質細胞骨髄腫/形質細胞腫;濾胞性リンパ腫、濾胞中心;マントル細胞リンパ腫;びまん性大細胞B細胞リンパ腫(縦隔大B細胞リンパ腫、血管内大B細胞リンパ腫、および原発性滲出性リンパ腫が含まれる);ならびにバーキットリンパ腫/バーキット細胞白血病からなる群から選択される。
【0076】
一部の実施形態では、リンパ腫は、多発性骨髄腫(MM)および非ホジキンリンパ腫(NHL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫、ワルデンストレームマクログロブリン血症(WM)またはB細胞リンパ腫およびびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)からなる群から選択される。
【0077】
さらなる特定の実施形態では、白血病は、急性リンパ球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、および小リンパ球性リンパ腫(SLL)からなる群から選択される。急性リンパ球性白血病は急性リンパ芽球性白血病としても知られており、本明細書中で相互に交換して使用し得る。どちらの用語も、骨髄中の白血球、リンパ球から開始される癌の種類を説明している。
【0078】
具体的な実施形態では、血液悪性腫瘍は、急性リンパ球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、多発性骨髄腫(MM)、および非ホジキンリンパ腫(NHL)からなる群から選択される。特定の実施形態では、非ホジキンリンパ腫は、大びまん性B細胞リンパ腫(LDBCL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、ワルデンストレームマクログロブリン血症(WM)およびリンパ形質細胞性リンパ腫からなる群から選択される。
【0079】
一部の実施形態では、本発明は、哺乳動物において血液悪性腫瘍を処置する方法であって、その処置を必要とする哺乳動物に治療上有効な量の光学活性アトロプ異性体1(S)または製薬上許容され得るその塩を投与する工程を含む方法を提供する。
【0080】
さらなる好ましい実施形態では、本発明は、哺乳動物において急性リンパ球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、多発性骨髄腫(MM)、および非ホジキンリンパ腫(NHL)からなる群から選択される状態を処置する方法であって、その処置を必要とする哺乳動物に治療上有効な量の光学活性アトロプ異性体1(S)または製薬上許容され得るその塩を投与する工程を含む方法を提供する。
【0081】
一部の実施形態では、本発明は、ヒトにおいて白血病、リンパ腫、または多発性骨髄腫である癌を処置する方法であって、その処置を必要とするヒトに治療上有効な量の式
【0082】
【化18】

を有する光学活性アトロプ異性体または製薬上許容され得るその塩を投与する工程を含む方法を提供する。
【0083】
一部の実施形態では、本発明は、哺乳動物において癌が固形腫瘍である状態を処置する方法であって、その処置を必要とする哺乳動物に治療上有効な量の光学活性アトロプ異性体1(S)または製薬上許容され得るその塩を投与する工程を含む方法を提供する。
【0084】
具体的な実施形態では、癌は、乳房、肺、結腸、または前立腺の癌である。特定の実施形態では、本発明は、PI3Kβによって媒介される異常または望ましくない細胞シグナル伝達活性に関連する固形腫瘍を処置する方法を提供する。特定の実施形態では、固形腫瘍は、膵臓癌;膀胱癌;結腸直腸癌;転移性乳癌を含めた乳癌;アンドロゲン依存性およびアンドロゲン非依存性前立腺癌を含めた前立腺癌;たとえば転移性腎細胞癌腫を含めた腎臓癌;肝細胞癌;たとえば非小細胞肺癌(NSCLC)、細気管支肺胞性癌腫(BAC)、および肺の腺癌を含めた肺癌;たとえば進行性上皮または原発性腹膜癌を含めた卵巣癌;頸部癌;胃癌;食道癌、たとえば頭頸部の扁平細胞癌腫を含めた頭頸部癌;黒色腫;転移性神経内分泌腫瘍を含めた神経内分泌癌;たとえば神経膠腫、未分化乏突起神経膠腫、成人多形成膠芽細胞腫、および成人未分化星細胞腫を含めた脳腫瘍;骨癌;ならびに軟組織肉腫からなる群から選択される。
【0085】
具体的な実施形態では、癌は、乳房、卵巣、肺、結腸、または前立腺の癌である。
【0086】
好ましい実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0087】
別の態様では、本発明は、式1のラセミ混合物
【0088】
【化19】

のキラルクロマトグラフィー分離によって得られる光学活性アトロプ異性体、または製薬上許容され得るその塩もしくは溶媒和物を提供し、式1の混合物は、順相キラルカラムを用いて分離し、2つのピーク、AおよびBが分割され、ピークAおよびピークBは、それぞれアトロプ異性体1(S)および1(R)
【0089】
【化20】

を表し、得られた光学活性アトロプ異性体中の主な異性体は、最初にカラムから溶出される異性体である。特定の実施形態では、得られた光学活性アトロプ異性体は、式1(R)の化合物を実質的に含まず、主に式1(S)の化合物からなる。別の実施形態では、得られた光学活性アトロプ異性体は、式1(S)の化合物を実質的に含まず、主に式1(R)の化合物からなる。
【0090】
さらに別の態様では、本発明は、式1のラセミ混合物
【0091】
【化21】

のキラルクロマトグラフィー分離によって得られる光学活性アトロプ異性体、または製薬上許容され得るその塩もしくは溶媒和物を提供し、式1のラセミ混合物は、順相キラルカラムを用いて分離し、2つのピーク、AおよびBが分割され、ピークAおよびピークBは、それぞれアトロプ異性体1(S)および1(R)
【0092】
【化22】

を表し、得られた光学活性アトロプ異性体は、主に2番目にカラムから溶出される異性体からなる。具体的な実施形態では、得られた光学活性アトロプ異性体は、式1(R)の化合物を実質的に含まず、主に式1(S)の化合物からなる。特定の実施形態では、得られた主な光学活性アトロプ異性体は、式1(S)の化合物を実質的に含まず、主に式1(R)の化合物からなる。
【0093】
別の態様では、本発明は、式1のラセミ混合物
【0094】
【化23】

の分離によって得られた光学活性アトロプ異性体または製薬上許容され得るその塩もしくは溶媒和物を提供し、光学活性アトロプ異性体は、その鏡像異性体と比較した場合に、順相キラルカラム上でのより短い保持時間によって特徴づけられる。一部の実施形態では、得られた光学活性アトロプ異性体は、式1(R)の化合物を実質的に含まず、主に式1(S)の化合物からなる。他の実施形態では、得られた光学活性アトロプ異性体は、より遅く(より長い保持時間)溶出される異性体であり、式1(S)の化合物を実質的に含まず、式1(R)の化合物からほぼなる。
【0095】
別の態様では、本発明は、式1のラセミ混合物
【0096】
【化24】

の分離によって得られた光学活性アトロプ異性体または製薬上許容され得るその塩もしくは溶媒和物を提供し、光学活性アトロプ異性体は、その鏡像異性体と比較した場合に、順相キラルカラム上でのより長い保持時間によって特徴づけられる。一部の実施形態では、得られた主な光学活性アトロプ異性体は、式1(R)の化合物を実質的に含まない式1(S)の化合物である。他の実施形態では、得られた光学活性アトロプ異性体は、より早く(より短い保持時間)溶出される異性体であり、式1(S)の化合物を実質的に含まず、式1(R)の化合物からほぼなる。
【0097】
一実施形態では、本発明の化合物は、キラル・クロマトグラフィー・カラムを用いて分離する。特定の実施形態では、キラルカラムは順相を有する。代替実施形態では、キラルカラムは逆相を有する。
【0098】
式1のアトロプ異性体を順相HPLC方法によって分離し、2つの分割されたピークが得られた。カラムおよび溶媒の条件には実施例2および図2Aを参照されたい。7.4分に最初に溶出されるピークを1(S)と標識し、12.3分に2番目に溶出されるピークを1(R)と標識した。それぞれの単離された化合物の絶対配置は、X線結晶解析データから解明した。溶出された第1のピークをS配置と割り当て、化合物1(S)として示し、溶出された第2のピークをR配置として割り当て、化合物1(R)として示した。実施例2に記載のように、逆相カラムを使用する場合はピークの溶出の順序が逆転する。
【0099】
図5Aおよび5Bに示すように、1ならびにアトロプ異性体1(S)および1(R)のin vitro活性は、p110阻害の様々なアイソフォームにおいて同様のプロフィールを有する。3つの化合物はすべて、生化学的(図5A)または細胞に基づくアッセイ(図5B)のどちらでも選択的p110δ阻害を示す。それらのin vitro効力は同様であるように見られるが、薬物動態学研究によって発見された、1(S)と1(R)との間にin vivoでの驚くべき相違が観察され、これは主に、被験体における1(S)の曝露の増加および1(R)の曝露の減少に関連する。
【0100】
薬物動態学研究を行うために、化合物1を、キナゾリノン環の3位のフェニルのオルトメチル基で、14Cを用いて放射標識した。
放射標識した1:
【0101】
【化25】

タグ付けしたラセミ混合物または分離されたアトロプ異性体を、経口および静脈内経路によってラット、イヌ、およびヒト被験体に投与した。溶解速度のどのような差異も化合物の薬物動態学的プロフィールにおいて役割を果たさないように、化合物をPEG100に溶かした。図4に要約するように、1(S)と1(R)との間に中程度の溶解度の相違が様々な水溶液において観察された。化合物を投与した後、被験体の血漿を経時的にサンプリングし、試料中に存在する化合物1(S)または1(R)の濃度を同定および測定するために開発された分析用HPLC方法によって評価した。血漿中で測定された最も豊富な異性体は化合物1(S)であることが観察され、これは被験体への曝露の70〜80%を占める。
【0102】
図6は、単一の50mg/kgの用量のラセミ体1を雌ラットに経口投与した後の、24時間にわたる1(S)および1(R)の血漿濃度を示す。投薬の4時間後に、1(S)の濃度は血液中で着実に増加し、投薬の8時間後に、1(R)の平均濃度は、1(R)の濃度の約4分の1である。これは、ラットに経口投与した場合の、1(S)と1(R)との間のin vivoの曝露の相違を実証しており、被験体は、1(R)よりも1(S)に対する曝露が増加している。
【0103】
図7は、単一の50mg/kgの用量のラセミ体1を雌イヌに経口投与した後の、24時間にわたる1(S)および1(R)の血漿濃度を示す。投薬後の約1時間で、1(S)および1(R)の最大濃度に達成する。この時点で、1(R)の濃度は1(S)の濃度の半分未満である。これは、イヌに経口投与した場合の、1(S)と1(R)との間のin vivoの曝露の相違を実証しており、被験体は、1(R)よりも1(S)に対する曝露が増加している。薬物動態学的挙動のこれらの大きな相違は予測可能でなかった。
【0104】
図8は、単一の100mgの用量のラセミ体1をヒト被験体に経口投与した後の、72時間にわたる1(S)および1(R)の血漿濃度を示す。2時間以内に、1(S)および1(R)の最大濃度に達成する。最大濃度点で、1(R)の濃度は化合物1(S)の濃度の半分未満であり、これは動物における曝露の約70%を占める。どちらの化合物の濃度もその後は着実に減少するが、投薬の72時間後に、1(S)の濃度は1(R)の濃度の10倍を十分に超える。これは、ヒトに経口投与した場合の1(S)と1(R)との間のin vivoの曝露の驚くべき相違を実証しており、被験体は、1(R)と比較して1(S)に対する曝露が増加している。さらに、1(S)の半減期は72時間の時点を超えていると見られる。ヒトにおける数日間という1(S)の半減期は、イヌにおける半減期よりも長い。ヒトにおける1(S)の長い半減期により、より低い投与用量が可能となる。投与用量の低下は、存在する場合は被験体における化合物の望ましくない副作用を減少させる場合があり、ラセミ混合物、または1(R)の投与を超える利点を提供する。
【0105】
図9は、単一のボーラス静脈内用量(図9A)または経口用量(図9B)のいずれかで雌ラット被験体に投与した、単一用量の1(S)または1(R)(1.5mg/kg)の後の、24時間にわたる1(S)および1(R)の血漿濃度を示す。静脈内投与の研究では、4時間の時点で、1(R)の曝露レベルは1(S)の濃度の約5分の1である。24時間では、どちらの化合物の濃度も非常に低く、実験誤差範囲内である。化合物を経口投与したラットの血漿中の1(S)の濃度は、12時間の時点で1(R)の濃度を大きく上回ることが示された。これは、ラットに静脈内または経口投与した場合の1(S)と1(R)との間のin vivoの曝露の相違を実証しており、被験体は、1(R)と比較して1(S)に対する曝露が増加している。
【0106】
表1は、雌スプラーグドーリー(SD)ラットにおける単一のボーラス静脈内投与後の1(S)および1(R)の主要な薬物動態学的パラメータを要約している。最も注目すべきは、アトロプ異性体1(S)またはラセミ混合物1のいずれかの半減期よりも約2.8倍高い、化合物1(R)の半減期である。化合物1(R)は14,833mL/kgの末期体積(Vz)値を有しており、これは、1(S)またはラセミ混合物のどちらのVzよりも約2.6倍高い。
【0107】
【表1】

化合物1(S)と1(R)との間のin vivoの相違をヒト被験体において検査する。図10Aおよび10Bは、100mgのアトロプ異性体の単一の経口用量を投与した後の、72時間の期間に対してプロットした1(S)および1(R)の血漿濃度のグラフを示す。1(S)の最大濃度は、1(R)の最大濃度よりも2倍を超えて高い。血漿中の化合物の濃度は72時間の期間にわたって減少するが、2つの化合物の濃度の差異は、さらに広がらない場合維持される。化合物1(S)は経時的によりゆっくりと減少する一方で、化合物1(R)は比較的より急速に血液から除去されると見られるため、血液中の化合物濃度のこの差異は広がると見られる。10mgの用量では、化合物1(S)の最大血漿濃度は依然として化合物1(R)の最大濃度の約2倍である。図10Cおよび10Dを参照されたい。
【0108】
図11は、全血漿中の14C放射標識した化合物1(S)および1(R)の濃度を示す。被験体に、25mgの1(S)および1(R)のラセミ混合物を毎日、7日間投薬した。4日目に、用量に40nCiの標識した1(S)または標識した1(R)を「添加した」。(標識した物質の量は0.1mg未満であり、用量に実質的に影響を与えなかったため、合計用量は依然として25mgのラセミ混合物であった。)図11は、添加した物質を4日目に投与した時から開始し、その後の数日間続けた、全放射標識物質の薬物動態学的プロフィールを示す。
【0109】
この試験におけるどちらの化合物も、素早くその最大濃度値に達し、着実な血流中の濃度の低下を開始した。1日目の後、1(R)の量である約500neq/mLは、約2,000neq/mLである1(S)の濃度の約4分の1である。1(S)と比較した血液中の1(R)のより迅速な低下は投薬から50時間でさらに明白であり、ここでは、約10〜50neq/mLである1(R)の濃度と比較して、化合物1(S)の血漿濃度は500〜1,000neq/mLである。図11において1(S)のより緩やかな穏やかな勾配と比較して1(R)曲線のより鋭い勾配によって示されるように、1(R)の濃度は1(S)の濃度よりも迅速に減少する。
【0110】
表2は、図11のデータに基づいて、ヒト被験体における化合物1(S)および1(R)の半減期、CmaxおよびAUC値を要約する。ほぼ64時間で、化合物1(S)は、11時間未満の半減期を有する1(R)の半減期の6倍ほど長い半減期を有する。1(S)のCmax値は1(R)のそれよりも2倍長く、1(S)のAUC値は1(R)のそれの4倍を超える。これらの結果は、化合物1(S)が、経口投薬後にヒト被験体において、化合物1(R)と比較して予想外かつ非常に異なる薬物動態学的プロフィールを有することを実証している。化合物1(S)は、有意により長い半減期ならびに増加したCmaxおよびAUC値を有しており、したがって、化合物1(S)は、1(R)と比較してヒトにおけるより高い曝露をもたらす。したがって、化合物1(S)は、1(R)またはラセミ混合物のどちらも上回る予想外の利点を提供し、1(S)を用いたヒトの処置は、1(R)またはラセミ体を用いた処置よりも高くかつ安定した活性薬物の血漿レベルを提供することができ、同時に、他の物質または1(R)の代謝物に対する被験体の曝露を低下させる。
【0111】
【表2】

理論に束縛されずに、1(S)と比較して低下した1(R)の曝露は、2つの化合物間の吸収および排出の相違を示唆している。LC−MS(液体クロマトグラフィー−質量分析)を用いた測定によれば、1(R)は尿中に優先的に排出される。また、1(R)は、1(S)よりも大きな分布体積Vzを有し、より高い排泄率およびより低い吸収率を有することが示されている。また、1(R)は1(S)よりも素早く代謝され得る。理由にかかわらず、1(R)は、経口投与した場合に1(S)よりも血漿(循環)中の利用可能性がはるかに低く、1(S)は、薬物に対するはるかにより安定した曝露、ならびに、代謝物に対する低下した曝露を提供する。
【0112】
曝露の相違の別の可能な説明は、1(R)が経時的に1(S)に相互転換されることである。1(R)を投与した後、約14%の1(R)が4時間以内に血漿中で1(S)へと転換されると見られる一方で、1(S)の投与により、4時間で1%未満の1(S)の1(R)への転換がもたらされた。しかし、この少量の転換はin vivoの曝露率の相違のわずかを占めるだけであるはずであり、1(R)の選択的排出などの他の要因が、低下した1(R)の曝露率において主要な役割を果たしている可能性が高い。
【0113】
化合物1(S)と1(R)との間のin vivoの相違は、代謝産物の産生まで広がる。たとえば、アトロプ異性体1(S)または1(R)のどちらかの単一の50mg/kgの経口用量の後、ラット尿をサンプリングし、代謝物について分析した。図12Aおよび12Bは、尿中に見つかった代謝物のLC−MS分析結果を示す。1(S)に曝露したラットは、13.4分のピークによって表される主に1つの化合物および14.5分のはるかにより小さなピークによって表される第2の化合物を産生した。他方で、化合物1(R)を投与したラットからの尿の分析トレースは、13.5、14.4、および15.6分の3つの主要なピークならびに12.1分の小さなピークによって特徴づけられる。これは、化合物1(R)がin vivoで代謝されて化合物1(S)よりも多くの代謝産物をもたらすことを実証しており、2つのアトロプ異性体が身体により厳密に同じ様式で代謝されないことを示唆している。
【0114】
図13A〜13Dは、1(R)と比較した1(S)のin vivoにおける予想外の安定性をさらに例示する。これらの試験には、放射標識した1(S)または放射標識した1(R)のどちらかをヒト被験体に経口投与した。被験体からの血漿の試料を投与の1時間および72時間後に試験し、その放射標識含有量について分析した。分析には、1(S)(約21〜22分で溶出)を1(R)から分離することが知られているHPLC条件を使用したので、これらの種間のあらゆる相互転換を観察することができた。また、この分析は、これら2つの物質を、in vivoでそれらから形成された主要な代謝物からも分離する。
【0115】
図13A〜13Dに示すように、放射標識した化合物をヒト血漿から分離し、放射標識した化合物のどちらかを投与した1時間および72時間後に、HPLCによって分析した。それぞれのスペクトル中のUVトレースを、ピークが何であるかを確認するための保持時間の標準として提供するが、観察する重要なデータはC−14放射標識シグナルであり、C−14放射標識シグナルは、1(S)、1(R)、およびこれらの化合物の既知の代謝物の保持時間での小さな四角によって表す。図13Aでは、化合物1(S)(約22分の大きなピーク)および代謝物(約14分の小さなピーク)の2つの放射標識ピークが観察される。図13Bでは、22分の1(R)および14分の代謝物という、2つの主要なC−14データ点が存在する。この場合には、1(R)を投与した丁度1時間後でさえも、代謝物のレベルは化合物1(R)のレベルとほぼ同等に大きい。したがって、ヒト血漿中で化合物1(S)は化合物1(R)よりも少ない代謝物の形成をもたらし、1時間後に大部分が改変されないまま保たれる。72時間では、1(S)から形成された代謝物の量は依然として親化合物1(S)の量よりも少ない(図13C)。この時点で少量の1(R)が存在すると考えられ、これは、1(S)から1(R)へのある程度の相互転換がin vivoで起こり得ることを示唆している。1(R)では、72時間で、主に代謝物が検出され、1(R)は非常にわずかしか見られない。実際、1(R)よりも多くの1(S)が存在し得ると考えられ、ここでも、少量の相互転換が起こり得ることが示唆されている。図13Dを参照されたい。
【0116】
したがって、放射標識した1(R)を投薬した後に代謝物が豊富であることは、化合物1(R)が人体によって比較的素早く代謝されることを示唆している。化合物1(S)を含有する血漿試料中の代謝物のレベルがはるかに低いことは、より低い代謝レベルを示唆しており、投与の72時間後に1(S)の濃度がより高いことは、この異性体が単一用量からより長い曝露を提供することを示している。
【0117】
化合物1(S)は、より長いin vivo半減期、低下した投薬量および増加したin vivo曝露の利点を提供する。しかし、1(R)の薬物動態学的特徴は、一部の状況および被験体におけるその使用について特定の利点も提供する。1(R)の異なる薬物動態学的プロフィールにより、より長い半減期を有する1(S)のより遅い送達がもたらされる。たとえば、以前に記述したように、1(R)から1(S)への相互転換は、1(R)の短い半減期が原因の、活性薬物の高い血漿濃度への短縮された曝露を伴う、化合物1(S)への遅延曝露を送達する方法を提供し得る。したがって、化合物1(R)のより遅い開始プロフィールは、大きなCmax値を有する薬物ではなく、より大きな曲線下面積(AUC)プロフィールを有する薬物が所望される場合、または比較的迅速な排出(短い半減期)が所望される場合に、有利であり得る。したがって、特定の実施形態では、本発明の化合物、組成物、および方法は1(R)を含む。好ましい実施形態、特に炎症状態または血液癌を処置するための実施形態では、本発明の化合物、組成物、および方法は1(S)を含む。
【0118】
鏡像異性体のキラル分割は、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、結晶化または酵素使用の方法によって実施することができる。本明細書中では、HPLCを用いて本発明の化合物を提供するキラル分割方法を記載する。たとえば、式1のアトロプ異性体の混合物を式1(S)および1(R)の化合物へと分離することができる。議論の目的で、実施例3に記載のように順相クロマトグラフィー分離によって単離し、8.7分および13.0分の時間で溶出された、化合物1の分割されたアトロプ異性体は、それぞれアトロプ異性体1(S)および1(R)と呼ぶ。
【0119】
当業者は、多くの種類の機器、カラムおよび溶出液を使用して個々のアトロプ異性体を分離できることを理解する。適切なHPLC機器が当業者に周知の方法によって構成されている。そのような構成には、ポンプ、注入口および検出器が必ず含まれる。
【0120】
クロマトグラフィーカラムは、「順相」または「逆相」として特徴づけ得る。一般に、順相カラムは極性の固定相を有し、逆相カラムは非極性の固定相を有する。適切なキラルカラムは、事前に充填されたものを購入するか、または当業者が充填することができる。適切なキラルカラムには、キラルのCHIRALPAK(登録商標)IA、IB、AD−H、AS、AD−RH、AS−RHおよびICカラムならびにCHIRALCEL(登録商標)OD−H、OB−H、OF、OG、OJ−RHおよびOJが含まれ、これらは、Chiral Technologies Inc.(730 Springdale Drive、私書箱564、ペンシルバニア州Exton、19341)から購入することができる。CHIRALPAK(登録商標)IAカラム用の充填組成物は、5μMのシリカゲル上に固定したアミローストリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)である。当業者は、他の販売者から購入した多くの他のキラルカラムが、本発明の異性体を分離するのに十分であることを理解する。また、充填物質は、様々なビーズの大きさで購入することもできる。調製用分離の適切なビーズの大きさは直径約20ミクロン以下である。分析用分離の適切なビーズの大きさは直径約10ミクロン以下である。
【0121】
当業者は、HPLC方法で使用する適切な移動相は溶媒の様々な組合せおよび比から選択できることを理解する。適切な移動相は、当業者に周知の方法に従って決定する。移動相には、アルカン、アルコール、エーテルなどの有機溶媒、塩素化溶媒、水、および緩衝用水が含まれ得る。有機溶媒の非限定的な例には、ヘキサン、n−ヘキサン、メタノール、エタノール、ブタノール、イソブタノール、プロパノール、イソプロパノール(IPA)、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、メチル−t−ブチルエーテル、トリクロロメタン、ジクロルメタン、クロロホルム、1,4−ジオキサン、トルエン、アセトン、酢酸メチルおよび酢酸エチルが含まれる。塩基性または酸性の試料には、キラル分離を最適化するために添加剤が移動相内に混合され得る。ジエチルアミン(DEA)、ジイソプロピルアミン、ブチルアミン、およびトリエチルアミン(TEA)などの第一級アミンを塩基として使用し得る。酸の非限定的な例には、硫酸、トリフルオロ酢酸、塩酸、酢酸、およびギ酸が含まれる。また、KPF、NaClO、NaBF、NaHPOなどの他の無機移動相添加剤も使用し得る。移動相混合物の非限定的な例には、50:50:0.2のメタノール/エタノール/DEA、70:30:0.1のヘキサン/エタノール/DEA、70:30:0.1のヘキサン/イソプロパノール/DEA、40:60:0.06のヘキサン/イソプロパノール/DEA、および50:50、60:40または70:30の水/アセトニトリルが含まれる。塩基性化合物の逆相スクリーニングに使用する移動相の非限定的な例には、30:70のpH9のボレート/アセトニトリルおよび30:70の100mMのKPF水溶液/アセトニトリルが含まれる。
【0122】
分析または調製用クロマトグラフィー方法の説明には、それぞれ実施例2および3を参照されたい。
【0123】
酵素活性(または他の生物活性)の阻害剤としての化合物の相対的な有効性は、それぞれの化合物が、事前に決定した程度まで活性を阻害する濃度を決定し、その後、結果を比較することによって確立できる。典型的には、好ましい決定は、生化学的アッセイにおいて活性の50%を阻害する濃度、すなわち50%阻害濃度または「IC50」である。IC50の決定は、当分野で知られている慣用技術を用いて達成することができる。一般に、IC50は、広範囲の濃度の研究下の阻害剤の存在下で、所定の酵素の活性を測定することによって決定することができる。その後、実験で得られた酵素活性の値を使用した阻害剤の濃度に対してプロットする。50%の酵素活性(阻害剤がまったく存在しない場合の活性と比較して)を示す阻害剤の濃度をIC50値として採用する。同様に、他の阻害濃度を活性の適切な決定によって決定することができる。たとえば、一部の設定では、90%の阻害濃度、すなわちIC90を確立することが望ましい場合がある。
【0124】
本明細書中で使用する「処置すること」とは、障害に罹りやすい可能性があるが、未だ罹患していると診断されていない動物において、障害の発生を予防すること、障害を阻害する、たとえばその発生を遅延もしくは抑止すること、障害を軽減させる、たとえばその回帰もしくは排出を引き起こすこと、または障害を寛解させる、すなわち障害に関連する状態の重篤度を減少させることをいう。「障害」には、限定されないが、医学的な障害、疾患、状態、症候群などが包含されることを意図する。
【0125】
本発明の方法は、動物被験体、好ましくは哺乳動物、より好ましくは霊長類、さらにより好ましくはヒトを処置するための様々な様式を包含する。処置できる哺乳動物は、とりわけ、たとえば、ヒト、イヌおよびネコを含めたコンパニオン動物(ペット)、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、およびヤギを含めた家畜、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、および非ヒト霊長類を含めた実験動物、ならびに動物園の検体である。非哺乳類動物には、たとえば、鳥、魚、爬虫類、および両生類が含まれる。一般に、本発明の化合物および組成物から利点が得られ得る任意の被験体が本発明の方法の投与に適している。
【0126】
医薬組成物を配合および投与するための技法は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18版、Mack Publishing Co、ペンシルベニア州Easton、1990中に見つけることができる。本発明の医薬組成物は、任意の慣用方法、たとえば、混合、溶解、顆粒化、糖衣錠作製、湿式粉砕、乳化、カプセル封入、封入、溶融紡糸、噴霧乾燥、または凍結乾燥のプロセスを用いて製造することができる。最適な医薬配合物は、投与経路および所望の投薬量に応じて当業者が決定することができる。そのような配合物は、投与した薬剤の物理的状態、安定性、in vivo放出速度、およびin vivoクリアランス速度に影響を与える場合がある。処置する状態に応じて、これらの医薬組成物を配合し、全身的または局所的に投与することができる。
【0127】
医薬組成物は適切な製薬上許容され得る担体を含有するように配合し、活性化合物を医薬上使用できる調製物へと加工することを容易にする賦形剤および補助剤を任意選択で含むことができる。投与様式が一般に担体の性質を決定する。たとえば、非経口投与用の配合物は、水溶性形態の活性化合物の水溶液を含むことができる。非経口投与に適した担体は、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、および他の生理的に適合性のある溶液から選択できる。非経口投与用の好ましい担体は、ハンクス液、リンゲル液、または緩衝生理食塩水などの生理的に適合性のある緩衝液である。組織または細胞投与には、浸透される特定の障壁に適した浸透剤を配合物において使用する。そのような浸透剤は一般に当分野で知られている。タンパク質を含む調製物では、配合物に、ポリオール(たとえばスクロース)などの安定化物質および/または界面活性剤(たとえば非イオン性界面活性剤)などを含めることができる。
【0128】
あるいは、非経口使用のための配合物は、適切な油性の注射用懸濁液として調製した活性化合物の分散液または懸濁液を含むことができる。適切な親油性の溶媒またはビヒクルには、ゴマ油などの脂肪油、およびオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、またはリポソームが含まれる。水性の注射用懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランなどの、懸濁液の粘度を増加させる物質を含有することができる。また、任意選択で、懸濁液は、高濃度の溶液の調製を可能にするために、適切な安定化剤または化合物の溶解度を増加させる薬剤も含有することができる。また、活性薬剤のpH感受性の可溶性および/または持続放出をもたらす水性ポリマーもコーティングまたはマトリックス構造として使用することができ、たとえば、Roehm America Inc.(ニュージャージー州Piscataway)から入手可能なEUDRAGIT(登録商標)シリーズなどのメタクリルポリマーがある。また、乳濁液、たとえば水中油型分散液および油中水型分散液もまた使用することができ、任意選択で、乳化剤または分散剤(界面活性物質、界面活性剤)によって安定化させることができる。懸濁液は、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微結晶セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天、トラガカントガム、ならびにその混合物などの懸濁液を含有することができる。
【0129】
また、活性薬剤を含有するリポソームも非経口投与に用いることができる。リポソームは、一般にリン脂質または他の脂質物質に由来する。また、リポソーム形態の組成物は、安定化剤、保存料、賦形剤などの他の成分も含有することができる。好ましい脂質には、天然および合成の両方のリン脂質およびホスファチジルコリン(レシチン)が含まれる。リポソームを形成する方法は当分野で知られている。たとえば、Prescott(編)、Methods in Cell Biology、第XIV巻、33ページ、Academic Press、New York(1976)を参照されたい。
【0130】
経口投与に適した投薬量の薬剤を含む医薬組成物は、当分野で周知の製薬上許容され得る担体を用いて配合することができる。経口投与用に配合した調製物は、錠剤、丸薬、カプセル、カシェ剤、糖衣錠、ロゼンジ、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、エリキシル、懸濁液、または散剤の形態であり得る。例示すると、経口使用のための医薬調製物は、活性化合物を固体賦形剤と合わせ、生じる混合物を任意選択で粉砕し、所望する場合は適切な補助剤を加えた後に顆粒の混合物を加工することによって得ることができ、錠剤または糖衣錠のコアが得られる。経口製剤では、非経口使用について記載したものに類似の種類の液体担体、たとえば、緩衝液水溶液、懸濁液などを用いることができる。
【0131】
好ましい経口配合物には、錠剤、糖衣錠、およびゼラチンカプセルが含まれる。これらの調製物は、1つまたは複数の賦形剤を含有することができ、これには、限定されないが以下が含まれる:
a)ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含めた糖などの希釈剤、
b)ケイ酸アルミニウムマグネシウム、トウモロコシ、コムギ、コメ、ジャガイモなど由来のデンプン等の結合剤、
c)メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース材料、ポリビニルピロリドン、アラビアゴムおよびトラガカントゴムなどのゴム、ならびにゼラチンおよびコラーゲンなどのタンパク質、
d)架橋ポリビニルピロリドン、デンプン、寒天、アルギン酸もしくはアルギン酸ナトリウムなどのその塩、または発泡性組成物等の崩壊剤または可溶化剤、
e)シリカ、タルク、ステアリン酸またはそのマグネシウム塩もしくはカルシウム塩、およびポリエチレングリコールなどの滑沢剤、
f)香料および甘味料、
g)たとえば生成物を同定するためまたは活性化合物の量(投薬量)を特徴づけるための、着色料または色素、
h)保存料、安定化剤、膨張剤、乳化剤、溶解促進剤、浸透圧を制御するための塩、および緩衝液などの他の成分。
【0132】
ゼラチンカプセルには、ゼラチンから作製した押し込み型カプセル、ならびにゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトールなどのコーティングから作製した軟らかい密封カプセルが含まれる。押し込み型カプセルは、充填剤、結合剤、滑沢剤、および/または安定化剤などと混合した活性成分を含有することができる。軟カプセルでは、活性化合物を、脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコールなどの適切な流体に、安定化剤を用いてまたは用いずに、溶解または懸濁させることができる。糖衣錠コアには、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、および/もしくは二酸化チタン、ラッカー溶液、ならびに適切な有機溶媒または溶媒混合物も含有することができる、濃縮糖溶液などの適切なコーティングが提供され得る。
【0133】
医薬組成物は、本発明の化合物の製薬上許容され得る塩として提供することができる。多くの場合、塩は対応する遊離酸または塩基形態よりも水性または他のプロトン性溶媒に可溶性である。製薬上許容され得る塩は当分野で周知である。酸性部分を含有する化合物は、適切な陽イオンと製薬上許容され得る塩を形成することができる。適切な製薬上許容され得る陽イオンには、たとえば、アルカリ金属(たとえば、ナトリウムまたはカリウム)およびアルカリ土類(たとえば、カルシウムまたはマグネシウム)の陽イオンが含まれる。
【0134】
塩基性部分を含有する本発明の化合物は、適切な酸と製薬上許容され得る酸付加塩を形成することができる。たとえば、Bergeら、J Pharm Sci(1977)66:1は、製薬上許容され得る塩を詳細に記載している。塩は、本発明の化合物の最終の単離および精製中にin situで調製するか、または遊離塩基官能基を適切な酸と反応させることによって別に調製することができる。
【0135】
代表的な酸付加塩には、それだけには限定されないが、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、硫酸水素塩、酪酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、ケイ皮酸塩、ジグルコン酸塩、ギ酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、馬尿酸塩、ヒドロキシ酢酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩(イソチオン酸塩)、乳酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩または硫酸塩、ニコチン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、ピルビン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、リン酸塩またはリン酸水素塩、グルタミン酸塩、炭酸水素塩、サリチル酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、およびウンデカン酸塩が含まれる。
【0136】
無機酸の例には、それだけには限定されないが、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、およびリン酸が含まれる。
【0137】
塩基付加塩は、本発明の化合物の最終の単離および精製中にin situで調製するか、あるいはカルボン酸含有部分を、製薬上許容され得る金属陽イオンの水酸化物、炭酸塩、もしくは炭酸水素塩などの適切な塩基と、あるいはアンモニアまたは第一級、第二級、もしくは第三級有機アミンと反応させることによって、別に調製することができる。製薬上許容され得る塩基付加塩には、それだけには限定されないが、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、およびアルミニウム塩などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属に基づく陽イオン、ならびにアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウムなどを含めた無毒性第四級アンモニウムおよびアミン陽イオンが含まれる。塩基付加塩の形成に有用な他の代表的な有機アミンには、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペリジン、ピペラジンなどが含まれる。
【0138】
塩基性窒素含有基は、塩化メチル、塩化エチル、塩化プロピル、塩化ブチル、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、臭化ブチル、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピル、およびヨウ化ブチルの低級ハロゲン化アルキル;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジブチル、および硫酸ジアミルなどの硫酸ジアルキル;塩化デシル、塩化ラウリル、塩化ミリスチル、塩化ステアリル、臭化デシル、臭化ラウリル、臭化ミリスチル、臭化ステアリル、ヨウ化デシル、ヨウ化ラウリル、ヨウ化ミリスチル、およびヨウ化ステアリルなどの長鎖ハロゲン化アルキル;ならびに、臭化ベンジルおよび臭化フェネチルなどのアリールハロゲン化アルキル等の薬剤を用いて第四級化することができる。したがって、改変された溶解度または分散性を有する生成物が得られる。
【0139】
本発明の目的のための溶媒和物とは、固体または液体状態で溶媒分子との配位によって複合体を形成する、本発明の化合物の形態をいう。溶媒の非限定的な例は、水、アセトン、メタノール、エタノールおよび酢酸である。
【0140】
本発明の化合物は、プロドラッグの形態、すなわち、被験体に投与した後に本発明の化合物を放出する、保護された形態で調製し得る。典型的には、保護基は血流などの体液中で加水分解され、それにより、活性化合物が放出されるか、またはin vivoで酸化または還元されて活性化合物が放出される。プロドラッグの記述はSmithおよびWilliams、Introduction to the Principles of Drug Design、Smith,H.J.、Wright、第2版、London(1988)中に見つかる。
【0141】
選択する配合および投与経路は、個々の被験体、被験体における処置する状態の性質、および一般に担当医の判断に応じる。
【0142】
一部の実施形態では、本発明の化合物は、注射、最も好ましくは静脈内注射によって投与するが、皮下または腹腔内注射などによっても投与する。さらなる非経口投与経路には、筋肉内および関節内注射が含まれる。静脈内または非経口投与には、化合物は、必要に応じて賦形剤を用いて、適切な液体形態で配合する。組成物はリポソームまたは他の適切な担体を含有し得る。静脈内注射には、ハンクス液などの標準の調製物を用いて溶液を等張にする。
【0143】
注射以外に、他の投与経路も使用し得る。化合物は、錠剤、カプセル、シロップ、散剤、または経口投与するための他の適切な形態に配合し得る。適切な賦形剤を用いることによって、これらの化合物は、坐薬または鼻腔内スプレーを用いて粘膜を介しても投与し得る。また、適切な浸透剤を用いて放出速度を制御することによって経皮投与も達成することができる。
【0144】
化合物は、単一用量、静脈内もしくは経皮投与などのように経時的な用量、または複数投薬量として投与し得る。投薬量は、化合物をたとえば静脈内投与した場合と比較して、経口または経皮投与した場合により高い場合がある。
【0145】
本発明の化合物の適切な投薬量範囲はこれらの検討事項に応じて変わるが、一般に、化合物は体重1kgあたり約0.1μg〜5mgの範囲で投与し、好ましくは、範囲は体重1kgあたり約1μg〜300μg、より好ましくは体重1kgあたり約10μg〜100μgである。したがって、典型的な70kgのヒト被験体では、用量範囲は、約0.7μg〜350mg、好ましくは約700μg〜21mg、最も好ましくは約700μg〜10mgである。特定の実施形態では、化合物は、5〜15mg/体重1kgの範囲で投与する。特定の実施形態では、化合物は、11mg/体重1kg未満の用量で投与する。特定の実施形態では、化合物は、10mg/体重1kgの用量で投与する。特定の実施形態では、適切な投薬量は1〜500mgの量である。特定の実施形態では、適切な投薬量は1〜250mgの量である。特定の実施形態では、適切な投薬量は1〜100mgの量である。特定の実施形態では、適切な投薬量は1〜50mgの量である。特定の実施形態では、適切な投薬量は1〜25mgの量である。特定の実施形態では、適切な投薬量は、10mg、17mg、50mg、75mg、100mg、125mg、200mg、250mg、および400mgからなる群から選択される量であり、わずかな逸脱(+/−<10%)が一般に許容されることを理解されたい。特定の実施形態では、適切な投薬量は経口投与する。
【0146】
製薬上許容され得る担体中に配合した本発明の化合物を含む組成物を調製し、適切な容器中に入れ、適応がある状態の処置についてラベル貼付することができる。したがって、本発明の化合物の剤形および化合物の使用説明書を含むラベルを備える容器などの製品も企図される。また、キットも企図される。たとえば、キットは、医薬組成物の剤形および医学的状態の処置における組成物の使用説明書を含む添付文書を備えることができる。どちらの場合でも、ラベルに示された状態には炎症状態の処置が含まれることができる。
【0147】
別段に定義しない限りは、本明細書中で使用する当分野のすべての用語、記号および他の科学用語または専門用語は、本発明が関する分野の当業者によって一般的に理解される意味を持つことが意図される。一部の場合では、一般的に理解される意味を有する用語は、明確にするためにおよび/または容易な参照性のために本明細書中で定義し、そのような定義を本明細書中に包含することは、必ずしも当分野で一般に理解されているものと実質的な相違を表すと解釈されるべきでない。本明細書中で記載または参照した技法および手順の多くは当業者によって十分に理解されており、慣用の方法を使用して一般的に用いられている。必要に応じて、市販のキットおよび試薬の使用を含む手順は、別段に記述しない限りは、一般に製造者に定義されたプロトコルおよび/またはパラメータに従って実施する。
【0148】
本明細書中に与えられる一般方法の記述は、例示目的のみを意図する。本開示を参照することで、他の代替方法および実施形態が当業者に明らかとなる。
【0149】
接続詞「または」で連結された事項の群は、その群間で相互排除を必要とすると読み取られるべきではなく、むしろ、別段に明確に記述しない限りは、「および/または」として読み取るべきである。本発明の事項、要素、または構成成分は単数形で記載または特許請求される場合があるが、単数形の限定が明確に記述されていない場合は、複数形がその範囲内にあることが企図される。
【0150】
以下の実施例は本発明を例示するために提供し、制限するためではない。
【実施例】
【0151】
(実施例1)
2−((6−アミノ−9H−プリン−9−イル)メチル)−5−メチル−3−o−トリルキナゾリン−4(3H)−オンの調製
2−((6−アミノ−9H−プリン−9−イル)メチル)−5−メチル−3−o−トリルキナゾリン−4(3H)−オン(1)を調製するための合成スキームを図1に示す。2−アミノ−6−メチル安息香酸(1”)を塩化2−クロロアセチルと反応させて、2−(−2−クロロアセトアミド)−6−メチル安息香酸(2”)を生成する。o−トルイジンと三塩化ホスホリルとの反応により、環化した中間体(3”)が得られる。ジBOC保護したアデニンとのさらなる反応により、BOC保護した生成物(4”)が得られ、これを脱保護して、2−((6−アミノ−9H−プリン−9−イル)メチル)−5−メチル−3−o−トリルキナゾリン−4(3H)−オン、1が生じる。
【0152】
化合物1のアトロプ異性体は、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分割し得る。中間体化合物3”および4”はアトロプ異性体も含有し、HPLCによるこれらの中間体のどちらの分割も、続くステップcおよびdの前にそれぞれ実施することができる。
【0153】
(実施例2)
アトロプ異性体を分離するための分析用HPLC方法の開発
本実施例では、式1の2−((6−アミノ−9H−プリン−9−イル)メチル)−5−メチル−3−o−トリルキナゾリン−4(3H)−オンの鏡像異性体を分離するためのHPLC分析方法の開発を記載する。様々なアトロプ異性体の分離を開発および最適化するために、当業者は、カラム、移動相および流速の選択などのクロマトグラフィーパラメータを用いて実験することができる。順相および逆相カラムの方法を記載する。
【0154】
順相。本実施例では、CHIRALPAK(登録商標)IA、IB、AD−H、ASおよびICカラムならびにCHIRALCEL(登録商標)OD−HおよびOJで、50:50:0.1のメタノール/エタノール/DEAおよび99.9:0.1のアセトニトリル/DEAを極性有機移動相として使用して、化合物1の鏡像異性体混合物を最初にスクリーニングした。アトロプ異性体の部分的分離が、CHIRALPAK(登録商標)AD−Hで、移動相50:50:0.1のメタノール/エタノール/DEAを用いて観察された。この部分的分離を向上できるかどうかを決定するために、カラムをエタノール/DEAで溶出させた。これらの条件を用いて、1.66のアルファおよび約20分の実行時間で完全な分離が得られた。
【0155】
また、同じカラムの組、ならびにCHIRALCEL(登録商標)OB−H、OF、およびOGで、70:30:0.1のヘキサン/エタノール/DEAおよび70:30:0.1のヘキサン/イソプロパノール/DEAの移動相を用いたスクリーニングも行った。IA(商標)カラム上で70:30:0.1のヘキサン/イソプロパノール/DEA移動相を用いて有望な分離が現れたが、28分の実行時間は少し長すぎた。40:60:0.06のヘキサン/イソプロパノール/DEAの移動相を用いて実行時間は15分まで短縮された。この分離は、AD−Hカラム上でエタノール/DEA移動相を用いて達成された分離よりも優れていた。IA(商標)カラム上の化合物1のアトロプ異性体のクロマトグラムを図2aに例示する。
【0156】
したがって、化合物1の鏡像異性体混合物を分離するための最終条件には、250mmの長さ×4.6mmの内径の寸法を有するCHIRALPAK(登録商標)IA(商標)カラムを使用することが含まれる。試料をエタノールに溶かし、40:60:0.06のヘキサン/イソプロパノール/ジエチルアミンの移動相を使用した。流れ条件は1.0mL/分の速度、25℃であり、生成物のUV検出を215nmで監視した。実行時間は約15分であった。7.4分および12.3分の2つの主ピークは、それぞれ化合物1の第1および第2のアトロプ異性体、1(S)および1(R)を表す。
【0157】
逆相。2−((6−アミノ−9H−プリン−9−イル)メチル)−5−メチル−3−o−トリルキナゾリン−4(3H)−オン(1)の鏡像異性体混合物の試料をアセトニトリル中で合わせ、スクリーニングに使用した。試料は、CHIRALPAK(登録商標)AD−RH(登録商標)、AS−RH(登録商標)、IB(商標)、IC(商標)およびCHIRALCEL(登録商標)OJ−RH(登録商標)カラムを用いてスクリーニングし、30:70のpH9のボレート/アセトニトリルおよび30:70の100mMのKPF水溶液/アセトニトリル移動相で溶出させた。部分的分離がIC(商標)カラムでどちらの移動相でも観察され、ベースライン分離がどちらの移動相でもOJ−RH(登録商標)カラムを用いて観察された。OJ−RH(登録商標)カラムで示された分離を向上させるための努力がなされた。カラムを50:50、60:40、および70:30の水/アセトニトリルで溶出させた。これらの実験では、緩衝液が実際に必要であるのかどうかを決定するために、移動相に緩衝液を加えなかった。結果から、3つの水/アセトニトリル移動相はすべてOJ−RH(登録商標)カラム上で良好な分離をもたらしたため、この分離には緩衝液は必要ないことが明らかである。これらの条件のうち、OJ−RH(登録商標)カラム上で60:40の水/アセトニトリルを用いた分離が推奨されるが、溶媒先端付近で溶出される妨害ピークが存在しない限りは、50:50の水/アセトニトリルを用いた分離は非常に良好であった。OJ−RH(登録商標)カラム上で60:40の水/アセトニトリルを用いたアトロプ異性体の分離クロマトグラムを図2bに例示する。4.7分および7.1分の2つの主ピークは化合物1の2つのアトロプ異性体を表す。
【0158】
鏡像異性体混合物は、順相および逆相方法のどちらでも完全に分割される(順相:CHIRALPAK(登録商標)IA、250mmの長さ×4.6mmの内径、40:60:0.06のヘキサン/IPA/DEA、1.0mL/分、25℃、215nm、逆相:CHIRALCEL(登録商標)OJ−RH、150mmの長さ×4.6mmの内径、61:40の水/アセトニトリル、0.8mL/分、25℃、230nm)。順相方法で分割した2つのピークは、逆相方法では逆の順序で溶出されることが観察される。これは、順相上で7.4分に溶出された第1のピーク由来の化合物を単離し、逆相方法での分析に供した後に決定された。この単離された物質は、逆相方法で7.1分の第2のピークに対応する時間で溶出された、図2b。
【0159】
(実施例3)
アトロプ異性体の調製用HPLC分離および絶対立体化学の立体配置
本実施例では、HPLCを用いた化合物1の2つのアトロプ異性体の分離を実証する。
【0160】
分析方法を開発し、鏡像異性体混合物の小試料を1.45mg/mLの濃度でイソプロパノールに溶かし、5μLを順相カラム内に以下の条件を用いて注入した:CHIRALPAK(登録商標)IA、4.6mmの内径×250mmの長さ、40/60/0.1のヘキサン/IPA/DEA、0.8mL/分、30℃。2つのピークは8.7分および13.0分で分割される(図3A)。これらの分析条件およびHPLCトレースを用いて、分離された生成物の組成を同定した。
【0161】
2.80gの化合物1を、CHIRALPAK(登録商標)IA調製用カラム上で、40/60/0.1のヘキサン/IPA/DEA移動相を用いて、室温、275nmの検出波長を用いて分離した。2つの鏡像異性体、1(S)および1(R)が単離され、これらはそれぞれカラムからの第1および第2の溶出ピークに対応する。
【0162】
1.24gの第1の溶出された鏡像異性体であるアトロプ異性体1(S)を単離し、上述の分析方法の下で分析した(0.8mLのIPA中に0.96mg)。図3Bに示すHPLCトレースは8.7分に主ピークを有し、99.0%の不斉収率を示す。
【0163】
1.38gの第2の溶出された鏡像異性体であるアトロプ異性体1(R)を単離し、上述と同じ分析方法の下で分析した(1mLのIPA中に1.72mg)。図3Cに示すHPLCトレースは13.0分に主ピークを有し、98.8%の不斉収率を示す。
【0164】
議論の目的で、本実施例中に記載のように、順相クロマトグラフィー分離によって単離され、8.7分および13.0分の時間で溶出された、化合物1の分割されたアトロプ異性体を、それぞれアトロプ異性体1(S)および1(R)と呼ぶ。
【0165】
それぞれの単離した化合物の絶対配置はX線結晶解析データから解明されている。溶出された第1のピークをS配置と割り当て、化合物1(S)として示し、溶出された第2のピークをR配置として割り当て、化合物1(R)として示した。
【0166】
(実施例4)
1、1(S)および1(R)のIn vitro活性
本実施例では、p110アルファ、p110ベータ、p110ガンマおよびp110デルタアイソフォームに対する1、1(S)および1(R)のin vitro活性を実証する。
【0167】
図5Aおよび5Bに示すように、1ならびにアトロプ異性体1(S)および1(R)のin vitro活性は、p110阻害の様々なアイソフォームにおいて同様のプロフィールを有する。3つの化合物はすべて、生化学的(図5A)または細胞に基づくアッセイ(図5B)のいずれかにおいて選択的p110δ阻害を示す。そのin vitro効力は同様であるように見られるが、薬物動態学研究によって発見された1(S)と1(R)との間にin vivoの驚くべき相違が観察され、これは主に、被験体における1(S)の曝露の増加および1(R)の曝露の減少に関する。
【0168】
(実施例5)
ラット、イヌおよびヒトにおける1(S)および1(R)の血漿濃度
本実施例では、ラット、イヌおよびヒト被験体の血漿中の化合物1(S)および1(R)の濃度を経時的に追跡する。
【0169】
薬物動態学研究を行うために、化合物1を、キナゾリノン環の3位のフェニルのオルトメチル基で、14Cを用いて放射標識した。
放射標識した1:
【0170】
【化26】

タグ付けしたラセミ混合物または分離されたアトロプ異性体を、経口および静脈内経路によってラット、イヌ、およびヒト被験体に投与した。溶解速度のどのような差異も化合物の薬物動態学的プロフィールにおいて役割を果たさないように、化合物をPEG100に溶かした。図4に要約するように、化合物1(S)と1(R)との間に中程度の溶解度が様々な水溶液において観察された。化合物を投与した後、被験体の血漿を経時的にサンプリングし、試料中に存在する化合物1(S)または1(R)の濃度を同定および測定するために開発された分析用HPLC方法によって評価した。血漿中で測定された最も豊富な異性体は化合物1(S)であることが観察され、化合物1(S)は被験体への曝露の70〜80%を占める。
【0171】
図6は、単一の50mg/kgの用量のラセミ化合物1を雌ラットに経口投与した後の、24時間にわたる1(S)および1(R)の血漿濃度を示す。投薬の4時間後に、1(S)の濃度は血液中で着実に増加し、投薬の8時間後に、1(R)の平均濃度は、1(S)の濃度の約4分の1である。これは、ラットに経口投与した場合の、1(S)と1(R)との間のin vivoの曝露の相違を実証しており、被験体は、1(R)よりも1(S)に対する曝露が増加している。
【0172】
図7は、単一の50mg/kgの用量のラセミ体1を雌イヌに経口投与した後の、24時間にわたる1(S)および1(R)の血漿濃度を示す。投薬後の約1時間で、化合物1(S)および1(R)の最大濃度に達成する。この時点で、1(R)の濃度は化合物1(S)の濃度の半分未満である。これは、イヌに経口投与した場合の、化合物1(S)と1(R)との間のin vivoの曝露の相違を実証しており、被験体は、化合物1(R)よりも1(S)に対する曝露が増加している。薬物動態学的挙動のこれらの大きな相違は予測可能でなかった。
【0173】
図8は、単一の100mgの用量のラセミ化合物1をヒト被験体に経口投与した後の、72時間にわたる化合物1(S)および1(R)の血漿濃度を示す。2時間以内に、化合物1(S)および1(R)の最大濃度に達成する。最大濃度点で、化合物1(R)の濃度は化合物1(S)の濃度の半分未満であり、これは動物における曝露の約70%を占める。どちらの化合物の濃度もその後は着実に減少するが、投薬の72時間後に、化合物1(S)の濃度は化合物1(R)の濃度の10倍を十分に超える。これは、ヒトに経口投与した場合の化合物1(S)と1(R)との間のin vivoの曝露の驚くべき相違を実証しており、被験体は、化合物1(R)と比較して化合物1(S)に対する曝露が増加している。さらに、化合物1(S)の半減期は72時間の時点を超えていると見られる。ヒトにおける数日間という化合物1(S)の半減期は、イヌにおける半減期よりも長い。比較により、1(R)の半減期は約9時間である。ヒトにおける化合物1(S)の長い半減期により、より低い投薬量が可能となる。投薬量の低下は、存在する場合は被験体における化合物の望ましくない副作用を減少させる場合があり、ラセミ混合物、または化合物1(R)の投与を超える利点を提供する。
【0174】
(実施例6)
ラットにおける1(S)および1(R)の経口対静脈内投与
本実施例では、ラットにおける化合物1(S)および1(R)の経口対静脈内投与を比較する。
【0175】
単一用量の1(S)または1(R)(1.5mg/kg)を、単一のボーラス静脈内用量(図9A)または経口用量(図9B)のいずれかで雌ラット被験体に投与した。1(S)または1(R)のいずれかの血漿濃度を投与後の24時間の期間にわたる様々な時点で測定した。
【0176】
図9は、1(S)の単一のボーラス静脈内用量(図9A)または経口用量(図9B)のどちらかで雌ラット被験体に投与した、単一用量の1(S)または1(R)(1.5mg/kg)の後の、24時間の期間にわたる1(S)および1(R)の血漿濃度を示す。静脈内投与の研究では、4時間の時点で、1(R)の曝露レベルは1(S)の濃度の約5分の1である。24時間では、どちらの化合物の濃度も非常に低く、実験誤差範囲内である。化合物を経口投与したラットの血漿中の1(S)の濃度は、12時間の時点で1(R)の濃度を大きく上回ることが示された。これは、ラットに静脈内または経口投与した場合の1(S)と1(R)との間のin vivoの曝露の相違を実証しており、被験体は、1(R)と比較して1(S)に対する曝露が増加している。
【0177】
(実施例7)
単一の静脈内投与後のラットにおける1(S)および1(R)の薬物動態学的パラメータ
本実施例では、単一の静脈内投与後の、雌スプラーグドーリー(SD)ラットにおける化合物1(S)および1(R)の薬物動態学的パラメータを比較する。SDラットに単一のボーラス静脈内用量の1(S)(1.5mg/kg)、1(R)(1.5mg/kg)または1(3mg/kg)を投与し、被験体中に存在する化合物を経時的に測定した。表3に要約するように、このデータに基づいて薬物動態学的パラメータを計算した。
【0178】
最も注目すべきは、ラットにおいてアトロプ異性体1(S)またはラセミ混合物1のいずれの半減期よりも約2.8倍高い、化合物1(R)の半減期である。化合物1(R)は14,833mL/kgの末期体積(Vz)値を有しており、これは、1(S)またはラセミ混合物のどちらのVzよりも約2.6倍高い。
【0179】
【表3】

(実施例8)
単一の経口投与後のヒトにおける1(S)および1(R)の薬物動態学的パラメータ
本実施例では、ラセミ混合物の単一の経口投与後の、ヒトにおける化合物1(S)および1(R)の薬物動態学的パラメータを比較する。2つの投薬研究を行った。単一の100mgの経口用量のラセミ混合物1をヒト被験体に経口投与し、アトロプ異性体化合物のそれぞれの血漿濃度レベルを72時間の期間にわたって測定した。別の研究では、単一の10mgの経口用量のラセミ混合物1をヒト被験体に経口投与し、アトロプ異性体化合物のそれぞれの血漿濃度レベルを120時間の期間にわたって測定した。
【0180】
図10Aおよび10Bは、100mgの個々のアトロプ異性体の単一の経口用量を投与した後の、72時間の期間に対してプロットした1(S)および1(R)の血漿濃度のグラフを示す。1(S)の最大濃度は、1(R)の最大濃度よりも2倍を超えて高い。血漿中の化合物の濃度は72時間の期間にわたって減少するが、2つの化合物の濃度の差異は、さらに広がらない場合維持される。化合物1(S)は経時的によりゆっくりと減少する一方で、化合物1(R)は比較的より急速に血液から除去されると見られるため、血液中の化合物濃度のこの差異は広がると見られる。
【0181】
10mgの用量では、化合物1(S)の最大血漿濃度は依然として化合物1(R)の最大濃度の約2倍である。図10Cおよび10Dを参照されたい。
(実施例9)
ヒト血漿における放射標識した1(S)および1(R)
本実施例では、1日1回の投薬レジメンの中間における、ヒト血漿中の放射標識した1(S)および1(R)の濃度を比較する。
【0182】
ヒト被験体に、25mgの1(S)および1(R)のラセミ混合物を毎日、7日間投薬した。4日目に、用量に40nCiの標識した1(S)または標識した1(R)を「添加した」。(標識した物質の量は0.1mg未満であり、用量に実質的に影響を与えなかったので、合計用量は依然として25mgのラセミ混合物であった。)この時点から、被験体の血漿を経時的にサンプリングし、放射標識した化合物を検出および定量した。
【0183】
図11は、全血漿中の14C放射標識した化合物1(S)および1(R)の濃度を示す。図11は、添加した物質を4日目に投与した時から開始し、その後の数日間続けた、全放射標識物質の薬物動態学的プロフィールを示す。
【0184】
この試験におけるどちらの化合物も、素早くその最大濃度値に達し、血流中の濃度の着実な低下を開始した。1日目の後、1(R)の量である約500neq/mLは、約2000neq/mLである1(S)の濃度の約4分の1まで低下する。1(S)と比較して血液中の1(R)のより迅速な低下は投薬から50時間でさらに明白であり、ここでは、約10〜50neq/mLである1(R)の濃度と比較して、化合物1(S)の血漿濃度は500〜1000neq/mLである。図11において1(S)のより緩やかかつ穏やかな勾配と比較して1(R)曲線のより急な勾配によって示されるように、1(R)の濃度は1(S)の濃度よりも迅速に減少する。
【0185】
表4は、図11のデータに基づいて、ヒト被験体における化合物1(S)および1(R)の半減期、CmaxおよびAUC値を要約する。ほぼ64時間で、化合物1(S)は、11時間未満の半減期を有する1(R)の半減期の6倍ほど長い半減期を有する。1(S)のCmax値は1(R)のそれよりも2倍長く、1(S)のAUC値は1(R)のそれの4倍を超える。これらの結果は、化合物1(S)が、経口投薬後にヒト被験体において、化合物1(R)と比較して予想外かつ非常に異なる薬物動態学的プロフィールを有することを実証している。化合物1(S)は、有意により長い半減期ならびに増加したCmaxおよびAUC値を有しており、したがって、化合物1(S)は、1(R)と比較してヒトにおけるより高い曝露を生じる。したがって、化合物1(S)は、1(S)またはラセミ混合物のいずれかを上回る予想外の利点を提供し、1(S)を用いたヒトの処置は、1(R)またはラセミ体を用いた処置よりも、活性薬物の高くかつ安定した血漿レベルを提供することができ、同時に、他の物質または1(R)の代謝物に対する被験体の曝露を低下させる。
【0186】
【表4】

(実施例10)
ラットにおいて1(S)および1(R)から形成された代謝産物
本実施例では、ラットにおける、化合物1(S)および1(R)を投与した後の代謝産物の形成を比較する。
【0187】
アトロプ異性体1(S)または1(R)のどちらかの単一の50mg/kgの経口用量をラット被験体に投与した。続いてラット尿をサンプリングし、LC−MS機器を用いて分析した。
【0188】
図12Aおよび12Bは、尿中に見つかった代謝物のLC−MSの結果を示す。1(S)に曝露したラットは、13.4分のピークによって表される主に1つの化合物および14.5分のはるかにより小さなピークによって表される第2の化合物を生成した(図12A)。他方で、化合物1(R)を投与したラットからの尿の分析トレースは、13.5、14.4、および15.6分の3つの主要なピークならびに12.1分の小さなピークによって特徴づけられる(図12B)。これは、化合物1(R)がin vivoで代謝されて化合物1(S)よりも多くの代謝産物を生成することを実証しており、2つのアトロプ異性体が身体中で厳密に同じ様式で代謝されないことを示唆している。
【0189】
(実施例11)
ヒト被験体において1(S)および1(R)から形成された代謝産物
本実施例では、ヒト被験体における、化合物1(S)および1(R)を投与した後の代謝産物の形成を比較する。
【0190】
これらの試験には、放射標識した1(S)または放射標識した1(R)のどちらかをヒト被験体に経口投与した。被験体からの血漿の試料を投与の1時間および72時間後に試験し、その放射標識含有量について分析した。分析には、1(S)(約21〜22分で溶出)を1(R)から分離することが知られているHPLC条件を使用したので、これらの種間のあらゆる相互転換を観察することができた。また、この分析は、これら2つの物質を、in vivoでそれらから形成された主要な代謝物からも分離する。
【0191】
図13A〜13Dは、1(R)と比較して1(S)のin vivoにおける予想外の安定性をさらに例示する。それぞれのスペクトル中のUVトレースを、ピークの一致を確認するための保持時間の標準として提供するが、観察する重要なデータはC−14放射標識シグナルであり、C−14放射標識シグナルは、1(S)、1(R)、およびこれらの化合物の既知の代謝物の保持時間での小さな四角によって表す。図13Aでは、化合物1(S)(約22分の大きなピーク)および代謝物(約14分の小さなピーク)の2つの放射標識ピークが観察される。図13Bでは、22分の1(R)および14分の代謝物という、2つの主要なC−14データ点が存在する。この場合には、1(R)を投与した丁度1時間後でさえも、代謝物のレベルは化合物1(R)のレベルとほぼ同等に大きい。したがって、ヒト血漿において化合物1(S)は化合物1(R)よりも少ない代謝物の形成をもたらし、1時間後に大部分が改変されないまま保たれる。72時間では、1(S)から形成された代謝物の量は依然として親化合物1(S)の量よりも少ない(図13C)ため、検出された14Cの検出された標識の大部分が活性薬物に対応する。この時点で少量の1(R)が存在すると考えられ、これは、1(S)から1(R)への一部の相互転換がin vivoで起こり得ることを示唆している。1(R)では、72時間で、主に代謝物が検出され、1(R)は非常にわずかしか見られない。実際、1(R)よりも多くの1(S)が存在し得ると考えられ、ここでも、少量の相互転換が起こり得ることが示唆されている。図13Dを参照されたい。
【0192】
したがって、放射標識した1(R)を投薬した後に代謝物が豊富であることは、化合物1(R)が人体によって比較的素早く代謝されることを示唆している。化合物1(S)を含有する血漿試料中の代謝物のレベルが低から非存在であることは、より低い代謝レベルを示唆しており、投与の72時間後に1(S)の濃度がより高いことは、この異性体が単一用量からより長い曝露を提供することを示している。
【0193】
(実施例12)
ラセミ混合物を超える単一のアトロプ異性体の優位性の証拠
本実施例では、単一の1(S)アトロプ異性体とラセミ混合物との代謝的相違を比較する。アトロプ異性体1(S)はヒトにおいてラセミ混合物1よりも高い曝露を有することが示されており、これは、アトロプ異性体1(R)のより高い代謝およびアトロプ異性体1(S)のより高い代謝安定性に起因している可能性がある。
【0194】
ラセミ混合物および1(S)の両方を10mgで1日1回投与した後に、ヒト薬物動態を得た。1(S)のCmax値はラセミ混合物のそれよりも30%高かった一方で、AUC0〜24値は1日目で2.4倍、7日目で40%増加していた。100%生体利用度の決定によって証明されるように、用量は低く、十分に吸収されるため、1(R)の代謝がより高い可能性が高い。より高い程度かつ複雑さの1(R)の代謝は、ヒトおよびラットのin vivo代謝の研究ならびにヒト肝臓ミクロソームおよびタンパク質結合のin vitro研究によって支持された。
【0195】
ラセミ混合物を投薬したヒトから尿を採取し、LC/MS/MSを用いてあり得る代謝物について評価した。信頼のおけるラセミ標準をアキラル方法で用いて、5個の代謝物が確認された。5個の確認された代謝物のうち、4個はラセミアトロプ異性体の混合物から構成される。したがって、合計9個の代謝物がヒト尿中で観察された。以下の図では、矢印の濃さを用いて概ねの相対的存在量を示す。
【0196】
【化27】

さらに、ラセミ混合物を投薬したヒト被験体からの血漿は、2つの代謝物および2つのアトロプ異性体を含有することが確認された。代謝物のうちの1つ(M1b)は、活性試験物質の親レベルの10%を超えていた。以下の図では、矢印の濃さを用いて概ねの相対的存在量を示す。
【0197】
【化28】

対照的に、1(S)は代謝的により安定であり、これは単一の実体であるため、血漿プロフィールは単純化されていた。代謝物について分析したヒト血漿試料中で、1つの代謝物M1aのみが観察され、これは親レベルの10%未満であり、より低い危険性および単純化された薬剤開発経路を提示する。
【0198】
【化29】

異性体の転換はキラル中心を異性体化しないことが示されたことに基づいて、1(S)を投薬したヒト被験体の予想される分泌代謝物は複雑さがより低い可能性が高い。これは、ラセミ混合物で見られる9個とは対照的に、合計5個の代謝物を含有すると期待される。以下の図では、矢印の濃さを用いて概ねの相対的存在量を示す。
【0199】
【化30】

(実施例13)
コラーゲン誘導性関節炎ラットにおける異性体1(S)の抗関節炎活性の証拠
コラーゲン誘導性関節炎(CIA)ラットにおける化合物1(S)の効果を測定し、ビヒクルまたはメトトレキサートに曝露した被験体と比較した。図14は、in vivoのCIAの重篤度に対するビヒクル、化合物1(S)またはMTXの効果を比較するグラフを示している。グラフは、関節炎スコアを化合物投薬後の日数の関数としてプロットしており、化合物1(S)がラットモデルにおいて関節炎の重篤度を軽減させる活性を有することを示している。図14は、CIAラットモデルにおける抗コラーゲン抗体レベルに対するビヒクル、化合物1(S)、および様々なレベルのメトトレキサートの効果を比較する。図15では、in vivoの抗関節炎活性のさらなる証拠が見られ、化合物1(S)を投与したラットは、ビヒクルのみを投与したラットと比較して、コラーゲン抗体レベルの低下の兆候を示した。また、様々な化合物で処置したCIAラット被験体のX線像評価も、ビヒクルのみで処置した被験体と比較して、化合物1(S)で処置した被験体におけるX線スコアの低下を示す(図16)。図17A〜Dは、ビヒクル、化合物1(S)、またはMTX(0.5mg/kgおよび2.5mg/kg)で処置したCIAラットから採取した組織試料の画像を示している。画像の暗い領域は、ビヒクルと比較して化合物1(S)で処置した被験体からの試料において減少しており、MTXで処置した被験体からとった画像でも同様である。関節炎のCIAラットモデルにおけるこれらの研究は、化合物1(S)がin vivoで抗炎症活性を有しており、関節炎などの炎症状態の処置に使用できることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1(S)のアトロプ異性体
【化31】

または製薬上許容され得るその塩もしくは溶媒和物を含む光学活性化合物[ただし、前記式1(S)のアトロプ異性体は、その対応する鏡像異性体である式1(R)
【化32】

よりも過剰量で存在する]。
【請求項2】
その対応するアトロプ異性体である式1(R)を実質的に含まない、請求項1に記載の光学活性化合物。
【請求項3】
式1(R)のアトロプ異性体
【化33】

または製薬上許容され得るその塩もしくは溶媒和物を含む光学活性化合物[ただし、前記式1(R)のアトロプ異性体は、その対応する鏡像異性体である式1(S)
【化34】

よりも過剰量で存在する]。
【請求項4】
その対応するアトロプ異性体である式1(S)を実質的に含まない、請求項3に記載の光学活性化合物。
【請求項5】
請求項1に記載の光学活性化合物および製薬上許容され得る担体を含む医薬組成物。
【請求項6】
請求項3に記載の光学活性化合物および製薬上許容され得る担体を含む医薬組成物。
【請求項7】
哺乳動物において、アレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)、および糖尿病からなる群から選択される状態を処置する方法であって、該処置を必要とする哺乳動物に治療上有効な量の請求項1に記載の光学活性化合物を投与する工程を含む、方法。
【請求項8】
ヒトにおいて、アレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、多発性硬化症(MS)、関節リウマチ(RA)、および糖尿病からなる群から選択される状態を処置する方法であって、該処置を必要とするヒトに治療上有効な量の式
【化35】

を有する光学活性アトロプ異性体または製薬上許容され得るその塩を投与する工程を含む、方法。
【請求項9】
哺乳動物において、白血病、リンパ腫または多発性骨髄腫である癌を処置する方法であって、該処置を必要とする哺乳動物に治療上有効な量の請求項1に記載の光学活性化合物を投与する工程を含む、方法。
【請求項10】
ヒトにおいて、白血病、リンパ腫、または多発性骨髄腫である癌を処置する方法であって、該処置を必要とするヒトに治療上有効な量の式
【化36】

を有する光学活性アトロプ異性体または製薬上許容され得るその塩を投与することを含む、方法。
【請求項11】
式1のラセミ混合物の分離によって得られる光学活性アトロプ異性体
【化37】

であって、その鏡像異性体と比較した場合に、順相キラルカラム上でのより短い保持時間によって特徴づけられる光学活性アトロプ異性体、
または製薬上許容され得るその塩もしくは溶媒和物。
【請求項12】
1(S)および1(R)が以下に示すものであり、
【化38】

得られた前記光学活性アトロプ異性体が、式1(R)の化合物を実質的に含まず、式1(S)の化合物からほぼなる、請求項11に記載のアトロプ異性体。
【請求項13】
1(S)および1(R)が以下に示すものであり、
【化39】

得られた前記光学活性アトロプ異性体が、式1(S)の化合物を実質的に含まず、式1(R)の化合物からほぼなる、請求項11に記載のアトロプ異性体。
【請求項14】
式1のラセミ混合物の分離によって得られる光学活性アトロプ異性体
【化40】

であって、その鏡像異性体と比較した場合に、順相キラルカラム上でのより長い保持時間によって特徴づけられる、光学活性アトロプ異性体
または製薬上許容され得るその塩もしくは溶媒和物。
【請求項15】
1(S)および1(R)が以下に示すものであり、
【化41】

得られた前記光学活性アトロプ異性体が、式1(R)の化合物を実質的に含まず、式1(S)の化合物からほぼなる、請求項14に記載のアトロプ異性体。
【請求項16】
1(S)および1(R)が以下に示すものであり、
【化42】

得られた前記光学活性アトロプ異性体が、式1(S)の化合物を実質的に含まず、式1(R)の化合物からほぼなる、請求項14に記載のアトロプ異性体。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2012−521994(P2012−521994A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502219(P2012−502219)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/028554
【国際公開番号】WO2010/111432
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(511116409)ギリアード カリストガ エルエルシー (3)
【Fターム(参考)】