説明

2剤式口腔用組成物

【課題】口腔内で有効性を発揮する高分子化合物の口腔内での吸着性・滞留性を向上させ、よりその効果を発揮させる口腔用組成物を提供する。
【解決手段】リゾチーム、キトサン、ラクトフェリン、ポリリジン、及びモノフルオロリン酸残基を有するカチオン性モノフルオロリン酸化高分子化合物から選ばれる、正電荷を有する高分子化合物を含有する組成物(A)と、
ポリグルタミン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ペクチン、及びモノフルオロリン酸残基を有するアニオン性モノフルオロリン酸化高分子化合物から選ばれる、負電荷を有する高分子化合物を含有する組成物(B)とを有する2剤式口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正電荷又は負電荷を有し、口腔内で様々な有効性を示す高分子化合物を、口腔内に付着させることにより、より効果を発揮させる口腔用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
口腔内で有効性を示す物質を口腔内に付着化させる技術としては、塩感応性高分子化合物と、電解質と、有効成分とを含む組成物を水で希釈することにより、有効成分とともに塩感応性高分子化合物と口腔内に付着化させる技術が提案されている(特許文献1:特開2008−63334号公報参照)。しかしながら、これらは塩感応のため電解質が必須であり、水で希釈することが必要であった。このことから、簡便な方法で、口腔内吸着性・滞留性のさらなる向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−63334号公報
【特許文献2】国際公開第2007/125980号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、口腔内で有効性を発揮する高分子化合物の口腔内での吸着性・滞留性を向上させ、よりその効果を発揮させる口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、口腔内で有効性を発揮するイオン性の高分子化合物を含有する組成物と、これと反対電荷を持つ高分子化合物を含有する組成物とを有する2剤式口腔用組成物とし、使用前に混合して口腔内を処理することにより、形成されたコンプレックス(析出物)が、高い口腔内吸着性・滞留性を示すことを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0006】
従って、本発明は下記2剤式口腔用組成物を提供する。
[1].リゾチーム、キトサン、ラクトフェリン、ポリリジン、及びモノフルオロリン酸残基を有するカチオン性モノフルオロリン酸化高分子化合物から選ばれる、正電荷を有する高分子化合物を含有する組成物(A)と、
ポリグルタミン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ペクチン、及びモノフルオロリン酸残基を有するアニオン性モノフルオロリン酸化高分子化合物から選ばれる、負電荷を有する高分子化合物を含有する組成物(B)とを有する2剤式口腔用組成物。
[2].組成物(A)と組成物(B)の混合物のpHが4〜10であり、混合物中の下記電荷濃度が1〜30であることを特徴とする[1]記載の2剤式口腔用組成物。
電荷濃度(mmol/L)=(Q1/M1×C1−Q2/M2×C2)×10
組成物(A)中の正電荷を有する高分子化合物において、
1(電荷mmol/mol):分子あたりの「正電荷数−負電荷数」
1(g/mol):分子量
1(質量%):混合物中の配合濃度
組成物(B)中の負電荷を有する高分子化合物において、
2(電荷mmol/mol):分子あたりの「負電荷数−正電荷数」
2(g/mol):分子量
2(質量%):混合物中の配合濃度
[3].さらに、両性界面活性剤を含有する[1]又は[2]記載の口腔用組成物。
[4].両性界面活性剤がベタイン型両性界面活性剤であることを特徴とする[3]記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、口腔内で有効性を発揮するイオン性の高分子化合物が口腔内吸着性・滞留性を示す、2剤式口腔用組成物を提供することを目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の口腔内で有効性を発揮するイオン性の高分子化合物は、正電荷を有する高分子化合物であっても、負電荷を有する高分子化合物であってもよく、組成物(A)、組成物(B)の両方に含まれていてもよい。
【0009】
(A)正電荷を有する高分子化合物を含有する組成物
組成物(A)には、リゾチーム、キトサン、ラクトフェリン、ポリリジン、及びモノフルオロリン酸残基を有するカチオン性モノフルオロリン酸化高分子化合物が含まれる。リゾチーム、キトサン、ポリリジンは口腔内殺菌作用を有し、ラクトフェリンは口腔内抗菌作用を有する。カチオン性モノフルオロリン酸化高分子化合物はフッ素を有し、虫歯の抑制作用を有する。
【0010】
(B)負電荷を有する高分子化合物を含有する組成物
組成物(B)には、ポリグルタミン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ペクチン、及びモノフルオロリン酸残基を有するアニオン性モノフルオロリン酸化高分子化合物が含まれる。ポリグルタミン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ペクチンは粘膜湿潤作用を有する。アニオン性モノフルオロリン酸化高分子化合物はフッ素を有し、虫歯の抑制作用を有する。
【0011】
上記(A)に含まれる高分子化合物と、上記(B)に含まれる高分子化合物との組み合わせにより、口腔内での吸着性・滞留性を顕著に向上させることができる。中でも、好ましい組み合わせとしては、リゾチーム、キトサンを含有する組成物(A)と、モノフルオロリン酸残基を有するアニオン性モノフルオロリン酸化高分子化合物を含有する組成物(B)の組み合わせとした場合、高い口腔内滞留効果が得られる。
【0012】
組成物(A)及び(B)に含まれる高分子化合物の重量平均分子量は1,000〜10,000,000が好ましく、5,000〜5,000,000がより好ましい。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、モノフルオロリン酸化反応後の水溶性高分子化合物を試料とし、10mM硝酸ナトリウム、20vol%アセトニトリルを含む水を溶離液とし、プルラン標準にて換算して重量平均分子量を算出する。
【0013】
モノフルオロリン酸残基を有するカチオン性モノフルオロリン酸化高分子化合物又はアニオン性モノフルオロリン酸化高分子化合物(以下、モノフルオロリン酸化高分子化合物と略す)中のモノフルオロリン酸残基は、下記一般式(1)で表されるものであり、モノフルオロリン酸は酸型、中和型、部分中和型のいずれでもよい。
【化1】

(式中、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン又はトリエチルアミンを示す。)
【0014】
モノフルオロリン酸化高分子化合物は、例えば、分子中に水酸基、リン酸基、カルボン酸基又はスルホン酸基を有する、合成高分子化合物又は天然高分子化合物の上記置換基の水素原子の一部又は全部が上記モノフルオロリン酸残基で置換したものが挙げられる。モノフルオロリン酸残基はアニオン基であるが、モノフルオロリン酸化高分子化合物が、カチオン性なのかアニオン性なのかは、モノフルオロリン酸化高分子化合物全体の電荷で決定する。
【0015】
合成高分子化合物としては、水酸基を有するアクリルアミド誘導体を構成単位として含有する(共)重合体が好ましく、天然高分子化合物としては、水酸基を有する多糖類が好ましい。
【0016】
水酸基を有するアクリルアミド誘導体としては、分子中に、ビニル基、−C(=O)−NH−基と、水酸基を有するものであれば特に限定されず、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。具体的には、下記一般式(2)で表されるものが挙げられる。
【化2】

(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は炭素数1〜6の2価炭化水素基、ポリエチレンオキサイド基(エチレンオキサイド基の繰り返し数:1〜5)、ポリプロピレンオキサイド基(プロピレンオキサイド基の繰り返し数:1〜5)、ポリエチレンオキサイド基(エチレンオキサイド基の繰り返し数:1〜5)及びポリプロピレンオキサイド基(プロピレンオキサイド基の繰り返し数:1〜5)を含むポリアルキレンオキサイド又はジメトキシエチル基である。)
【0017】
上記一般式(2)で表されるものとしては、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−(ポリエチレングリコール)(メタ)アクリルアミド、N−(2,2−ジメトキシ−1−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N−(ジエチレングリコール)(メタ)アクリルアミド、N−(トリエチレングリコール)(メタ)アクリルアミド、N−(テトラエチレングリコール)(メタ)アクリルアミド等のN−(ポリエチレングリコール)(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0018】
また、水酸基を有するアクリルアミド誘導体としては、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル](メタ)アクリルアミド、N,N’−ジヒドロキシエチレン−ビス(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0019】
中でも、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−(ジエチレングリコール)(メタ)アクリルアミド及びN−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アクリルアミドが特に好ましく、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドが最も好ましい。なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸の一方又は両方を示し、「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミドとメタクリルアミドの一方又は両方を示す。
【0020】
水酸基を有するアクリルアミド誘導体以外のモノマーとしては、任意のものを用いることができる。例えば、粘膜への吸着性を向上させるためのイオン性モノマー、水溶性を向上させるための親水性(水溶性)非イオンモノマー、滞留性を向上させるための疎水性非イオンモノマー等が挙げられる。なお、上記水酸基を有するアクリルアミド誘導体は除かれる。
【0021】
イオン性モノマーとしては、カチオン性モノマーや、アニオン性モノマー、両性モノマーが挙げられる。カチオン性モノマーとしては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド(ジアルキル(炭素数1〜3)アミノアルキル(炭素数1〜3)(メタ)アクリルアミド)、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジプロピルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル((メタ)アクリル酸ジアルキル(炭素数1〜3)アミノアルキル(炭素数1〜3))、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、又はこれらのアンモニウム4級化物等が挙げられる。また、アンモニウム4級化物として、具体的には、トリメチルアンモニウムクロライド、エチルジメチルクロライド等が挙げられる。この中でも、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル、及びこれらのアンモニウム4級化物が好ましく、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド及びそのアンモニウム4級化物がより好ましく、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド メチルクロライドがさらに好ましい。
【0022】
アニオン性モノマーとしては、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のリン酸基を有するモノマー、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等のカルボン酸基を有するモノマー、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有するモノマーが挙げられる。
【0023】
両性モノマーとしては、3−ジメチル((メタ)アクリロイルオキシエチル)アンモニウムエタンホスフェート等のリン酸基を有するモノマー、3−ジメチル(メタクリロイルオキシエチル)アンモニウムエタンカルボキシレート等のカルボン酸基を有するモノマー、3−ジメチル(メタクリロイルオキシエチル)アンモニウムプロパンスルホネート等のスルホン酸基を有するモノマー等が挙げられる。
【0024】
モノフルオロリン酸化高分子化合物の全モノマーからなる構成単位に対する、イオン性モノマーからなる構成単位の割合の下限は0質量%でもよく、上限は50質量%でもよい。好ましくは0.5〜30質量%であり、より好ましくは1〜20質量%である。50質量%を超えると、フッ素含有率の低下をもたらすおそれがある。
【0025】
親水性非イオンモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール(p=2〜50;EO(エチレンオキサイド)付加モル数が2〜50個)等が挙げられる。モノフルオロリン酸化高分子化合物の全モノマーからなる構成単位に対する、水溶性モノマーからなる構成単位の割合の下限は0質量%でもよく、0.5〜50質量%が好ましく、さらに好ましくは1〜30質量%である。50質量%を超えると、フッ素含有率の低下をもたらすおそれがある。
【0026】
疎水性非イオンモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、スチレン等が挙げられる。この中でも、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が好ましく、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリルがより好ましい。ただし、疎水性非イオンモノマーはモノフルオロリン酸構造を有する高分子化合物の水溶性を損ねない程度の比率で共重合させるのが好ましい。モノフルオロリン酸化高分子化合物の全モノマーからなる構成単位に対する、疎水性非イオンモノマーからなる構成単位の割合の下限は0質量%でもよく、0.05〜50質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜40質量%であり、5〜40質量%がさらに好ましい。50質量%を超えると、フッ素導入率の低下と溶解性の低下をもたらすおそれがある。
【0027】
水酸基を有するアクリルアミド誘導体の水酸基の水素原子の一部又は全部はモノフルオロリン酸残基(アニオン)となり、水酸基を有するアクリルアミド誘導体の水酸基の水素原子の一部又は全部が、上記モノフルオロリン酸基で置換され、式(2)の構成単位を有する場合は、下記式(3)のようにモノフルオロリン酸基で置換される。また、置換されなかった水酸基を有するアクリルアミド誘導体(アニオン)となる。
【0028】
【化3】

(式中、R1、R2及びMは上記と同じ。)
【0029】
モノフルオロリン酸化高分子化合物が、カチオン性なのかアニオン性なのかは、モノフルオロリン酸化高分子化合物全体の電荷で決定する。カチオン性モノフルオロリン酸化高分子化合物にするためには、カチオン性モノマーが必要であり、適宜選定する。ただし、モノフルオロリン酸化高分子化合物中、モノフルオロリン酸基を有するモノマーは5〜50質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましく、12〜29質量%がさらに好ましい。
【0030】
多糖類は水酸基を有する高分子化合物であり、具体的には、デンプン、ヒドロキシメチルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、グリコーゲン、イヌリン、リケニン、ヘミセルロース、アミロペクチン、ヘパリン、ヘパリチン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ケラト硫酸、キチン、キトサン、寒天、カラギーナン、アルギン酸、ファーセレラン、ローカストビーンガム、ガラクトマンナン、グアガム、サイリュウガム、タマリンドガム、アラビアガム、トラガカントガム、カラヤガム、ペクチン、アラビノガラクタン、キサンタンガム、ジェランガム、プルラン、デキストラン、セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カチオン化セルロース等が挙げられる。これらの中でも、デンプン、ヒドロキシメチルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシデンプン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、キチン、キトサン、カラギーナン、アルギン酸、グアガム、タマリンドガム、キサンタンガム、デキストラン、セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カチオン化セルロースが好ましく、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、セルロース、カチオン化セルロース、ヒドロキシデンプン又はヒドロキシプロピルデンプンがより好ましく、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化セルロースがさらに好ましい。なお、ヒドロキシプロピルセルロースは低置換度のものでもよい。なお、フッ素滞留性の点からは、カチオン化セルロースが特に好ましい。この中でも、カチオン化度0.1〜2.5質量%のものが好ましく、0.4〜2.0質量%のものがより好ましい。本発明におけるカチオン化度とは、カチオン化セルロース成分のグルコース環単位当たりの窒素原子の割合(質量%)を意味する。
【0031】
モノフルオロリン酸化高分子化合物が、カチオン性なのかアニオン性なのかは、モノフルオロリン酸化高分子化合物全体の電荷で決定する。カチオン性モノフルオロリン酸化高分子化合物にするためには、カチオン性の多糖類を用いて、電荷が正電荷となるようにモノフルオロリン酸化の程度を調整すればよい。
【0032】
モノフルオロリン酸化高分子化合物は、国際公開第2007/125980号に記載の方法、及び下記工程により調製することができる。
(i)モノフルオロリン酸化前の(共)重合体又は多糖類を調製する。
(ii)(i)の(共)重合体又は多糖類をモノフルオロリン酸化する。
【0033】
(i)モノフルオロリン酸化前の(共)重合体又は多糖類の調製は、市販のものを用いてもよく、(共)重合体は、水酸基を有するアクリルアミド誘導体又は水酸基を有するアクリルアミド誘導体と、上記これ以外のモノマーを含むモノマーを(共)重合してもよい。
【0034】
モノマーを重合させる重合方法は、特に限定されるものではなく、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、固相重合法等が用いられる。溶液重合法によって重合する場合、溶媒としては、例えば水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン、テトラヒドロフラン等の芳香族、脂肪族又は複素環式化合物、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン等の各種有機溶剤が使用できる。重合濃度は特に制限されないが、通常溶媒中のモノマー合計濃度が10〜50質量%で重合するのがよい。なお、共重合はランダム共重合であってもブロック共重合であってもよい。
【0035】
モノマー重合の際に用いる重合開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロリルパーオキサイド等のパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。重合開始剤濃度は、通常、使用するモノマー合計量に対して0.1〜10モル%が好ましい。さらに、分子量を規制するためにアルキルメルカプタンのような連鎖移動剤、ルイス酸化合物等の重合促進剤、リン酸、クエン酸、酒石酸、乳酸等のpH調整剤を使用してもよい。重合温度は、用いられる溶媒、重合開始剤により適宜定められるが、通常、室温(25℃)〜150℃がよい。重合時間は、1〜10時間である。なお、本発明の高分子化合物は、使用する開始剤の量、重合溶媒の種類、重合時のモノマー濃度等の重合条件を調整することで、分子量を制御することができる。なお、モノフルオロリン酸構造を、共有結合を介して有するモノマーを重合させる場合も同様の重合方法によって得ることができる。
【0036】
(ii)(i)の(共)重合体又は多糖類をモノフルオロリン酸化する。
(共)重合体又は多糖類をモノフルオロリン酸化する方法としては特に限定されないが、(共)重合体又は多糖類と、ジフルオロリン酸又はその塩とを反応させる方法が挙げられる。モノフルオロリン酸構造を有するモノマーを重合させる方法では、重合反応中にモノフルオロリン酸が加水分解を受けて脱離するおそれがあるため、モノフルオロリン酸の導入量を高くさせるためには、(共)重合体又は多糖類と、ジフルオロリン酸又はその塩とを反応させる方法が好ましい。
【0037】
(共)重合体又は多糖類と、ジフルオロリン酸又はその塩とを反応させることにより、(共)重合体又は多糖類中の水酸基の水素原子の一部又は全部が、上記モノフルオロリン酸基で置換され、(共)重合体又は多糖類にモノフルオロリン酸基が導入され、モノフルオロリン酸化される。
【0038】
(共)重合体又は多糖類と、ジフルオロリン酸又はその塩とを反応させるにあたり、上記高分子化合物から、水、エタノール等のプロトン供与性溶剤を除去することが望ましい。十分に除去されない場合、ジフルオロリン酸が加水分解を受けて、上記高分子化合物と効果的に反応できなくなる。プロトン供与性溶剤の除去の方法としては、減圧下又は真空下へ放置することによる除去、シリカゲル、モレキュラーシーブ等の乾燥剤、脱水剤を用いた除去等が挙げられる。また、反応の均一性、操作の安全性の点から、上記(共)重合体又は多糖類を各種非プロトン性溶媒に溶解する場合は、溶解させて反応させることが好ましい。非プロトン性溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン等が挙げられ、この中でもジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルが好ましい。また、上記非プロトン性溶媒に混入している、水、エタノール等のプロトン供与性溶剤を除去することが望ましい。また、工程の簡略化の点から、モノマーを重合させる際の溶媒を、ジメチルスルホキシド、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、リン酸トリメチル及びリン酸トリフェニルから選ばれる溶媒にし、共重合反応後の(共)重合反応後の反応液に、ジフルオロリン酸又はその塩を添加し、(共)重合体とジフルオロリン酸又はその塩とを反応させてもよい。
【0039】
(共)重合体又は多糖類と、ジフルオロリン酸又はその塩との反応は、外界からの水、エタノール等のプロトン供与性溶剤の混入を防止するため、窒素又はアルゴン等不活性雰囲気下で行うことが好ましい。また、水酸基とジフルオロリン酸との反応は発熱を伴うため、反応温度−20〜50℃、好適には−10〜40℃で、ジフルオロリン酸と高分子化合物溶液のいずれか、又は両方を徐々に滴下しながら混合することが好ましい。高分子化合物溶解液と、ジフルオロリン酸又はその塩とを混合して得られた反応液中のジフルオロリン酸の割合は、30〜95質量%が好ましく、より好ましくは35〜90質量%である。この範囲とすることで、反応液中のジフルオロリン酸濃度増大による、モノフルオロリン酸構造を有する高分子化合物中のフッ素含有率の向上をより図ることができる。高分子化合物中の水酸基と、ジフルオロリン酸又はその塩とのモル比率は、目的とする高分子化合物中のモノフルオロリン酸構造の割合に応じて適宜変更できる。
【0040】
なお、(共)重合体又は多糖類を、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル及びリン酸トリフェニルから選ばれる1種又は2種以上の溶媒からなる非プロトン性溶媒に溶解させて反応させる場合、水酸基に対するジフルオロリン酸又はその塩(モル比)を5以上とすることが好ましく、より好ましくは7〜100、さらに好ましくは11〜60である。また、モノマーを重合させる際の溶媒を、ジメチルスルホキシド、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、リン酸トリメチル及びリン酸トリフェニルから選ばれる溶媒にし、共重合反応後の(共)重合反応後の反応液に、ジフルオロリン酸又はその塩を添加する場合は、上記比率を4以下にすることができる。また、水酸基とジフルオロリン酸との反応温度は、特にジメチルスルホキシド等、融点が0℃以上の溶媒の場合は、融点以上の反応温度とすることが好ましく、ジメチルスルホキシドの場合、具体的には20〜50℃、好適には25〜40℃である。反応時間は1〜72時間が好ましい。
【0041】
反応物には、未反応のジフルオロリン酸が残存しているため、減圧乾燥によって除く、又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性水溶液等の添加によってモノフルオロリン酸塩へと反応させることが好ましい。また、反応液は、ろ過しても、ろ過しなくてもよいが、微量不溶分を除去するためにろ過することが好ましい。ろ過を行う手順は、モノフルオロリン酸化高分子化合物を、透析後にろ過した後に中和してもよいし、透析し中和した後にろ過してもよい。
【0042】
本発明の2剤式口腔用組成物は、組成物(A)と組成物(B)を使用前に混合し、この混合物で口腔内を処理して使用するものである。組成物(A)と組成物(B)との混合物とした1剤式の製品であると、高分子化合物の口腔内吸着性・滞留性の向上が不十分となる。組成物(A)と組成物(B)の混合物のpH(25℃)は、4〜10が好ましく、5〜9がより好ましい。また、口腔内での吸着性・滞留性向上の点から、混合物中の下記電荷濃度は1〜30が好ましく、1〜26がより好ましく、10〜25がさらに好ましい。
電荷濃度(mmol/L)=(Q1/M1×C1−Q2/M2×C2)×10
組成物(A)中の正電荷を有する高分子化合物において、
1(電荷mmol/mol):分子あたりの「正電荷数−負電荷数」
1(g/mol):分子量
1(質量%):混合物中の配合濃度
組成物(B)中の負電荷を有する高分子化合物において、
2(電荷mmol/mol):分子あたりの「負電荷数−正電荷数」
2(g/mol):分子量
2(質量%):混合物中の配合濃度
【0043】
上記は混合物中の電荷濃度を示すものである。口腔粘膜はムチン等の糖タンパク質を主とする成分で覆われており、負の表面電位を有することから、電荷濃度が正であることが好ましく、また、電荷濃度が大きすぎると、電荷反発によりコンプレックス形成が起こりにくく、また、水への溶解性が向上することから、電荷濃度の値は大きすぎないことが望ましい。
【0044】
このような電荷濃度を有するためには、組成物(A)、組成物(B)中の高分子化合物の電荷と、その配合量を調整することにより、得ることができる。正電荷を有する高分子化合物、負電荷を有する高分子化合物の(A),(B)各組成物中の配合量は、上記電荷濃度になるように、0.05〜20質量%、好ましくは0.07〜10質量%の範囲から適宜選定される。また、混合物中の組成物(A)、組成物(B)の割合も適宜調整され、各高分子化合物の混合物中の配合量は、0.02〜10質量%、好ましくは0.05〜5質量%の範囲から、それぞれ適宜選定される。
【0045】
本発明の2剤式口腔用組成物には、高分子化合物間のコンプレックス形成のための電荷バランスを損なわない点から、両性界面活性剤を配合することが好ましい。両性界面活性剤は、組成物(A)、組成物(B)いずれでも、また両方に配合してもよい。両性界面活性剤としては、ベタイン型両性界面活性剤が好ましく、カルボキシベタイン界面活性剤、スルホベタイン界面活性剤、ホスホベタイン界面活性剤等が挙げられ、カルボキシベタイン界面活性剤が好ましく、特にラウリン酸アミドプロピルベタイン等のアルキルアミドプロピルベタイン、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリウムベタインが好ましい。両性界面活性剤の配合量は、混合物中0.01〜10質量%が好ましく、0.03〜1質量%がより好ましく、0.05〜0.5質量%がさらに好ましい。
【0046】
口腔用組成物としては、歯磨剤、洗口剤、歯面コーティング剤、貼付剤、義歯洗浄剤等、チューインガム、トローチ等が挙げられるが、混合のしやすさから洗口剤が好ましい。なお、その剤型に応じて、任意成分としてその他の添加剤を配合できる。
【0047】
任意の成分としては、例えば、口腔用組成物に配合される有効成分、両性界面活性剤以外の界面活性剤、洗浄剤、湿潤剤、増粘剤、研磨剤、粘結剤、粘稠剤、油分、本発明の高分子化合物以外の高分子化合物、防腐剤、包接化合物、酸化防止剤・抗酸化剤、キレート剤、無機粉体、ガムベース、酸味料、軟化剤、着色料、光沢剤、乳化剤、甘味剤、pH調整剤、香料、色素、生薬、糖類、塩類、アミノ酸類、上記以外の薬効成分、抗菌剤、さらに水、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、グリセリン等の溶媒等が挙げられる。
【0048】
本発明の2剤式口腔用組成物は、組成物(A)及び組成物(B)共に、上記高分子化合物、水及びその他の任意成分を混合することにより得ることができる。
【0049】
本発明の2剤式口腔用組成物の使用方法は、組成物(A)と組成物(B)を使用前に混合し、この混合物、好適には混合液で口腔内を処理すればよく、混合は使用前に容器内で行ってもよく、口腔内で行ってもよい。混合は使用前であれば特に限定されないが、処理直前が好ましい。また、口腔内処理時間は1秒〜10分であり、3秒〜3分が好ましい。処理後は口腔用組成物を吐き出してもよく、経口摂取できるものであれば、飲む込むことも可能である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において特に明記のない場合は、表中の各成分の量は純分換算した量である。
【0051】
[製造例1]MFP−DMQの製造
N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)/N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド メチルクロライド(DMAPAA−Q)=60/40共重合体の調製
撹拌機、環流冷却器及び窒素導入管を取り付けた300mLの4つ口セパラブルフラスコに、エタノール85gを入れ、撹拌しながら窒素導入管より窒素ガスを導入した。次いで、90℃のオイルバスで加温しながら、ここにN−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド(興人製)18g、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド メチルクロライド(DMAPAA−Q)(興人製)12gをエタノール50gに混合したモノマー溶液と、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(商品名V−59:和光純薬工業製)0.48gをエタノール35gに溶解した重合開始剤溶液とを、それぞれ1時間かけて連続的に滴下して重合反応を行った。
滴下終了後、窒素を導入しながら5時間加温を続けた後、その反応液を3日間流水中で透析し(透析膜の分画分子量14,000、三光純薬株式会社製)、最後に、水をエバポレータおよび凍結乾燥(NEOCOOL、ヤマト科学株式会社製)で除くことによって、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)/N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド メチルクロライド(DMAPAA−Q)=60/40(質量比)共重合体24gを得た。
【0052】
上記により調製したN−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)/N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド メチルクロライド(DMAPAA−Q)=60/40共重合体1gをジメチルスルホキシド(ドライ:MERCK製)9gに溶解させてから、50mLの2つ口ナスフラスコに入れ、窒素ガスを導入した。25℃の水浴中にフラスコを浸漬しながら、ジフルオロリン酸(0.5水和物、シンクエスト製、比重1.58)8mLを徐々に滴下した(HEAA重合体の水酸基とジフルオロリン酸とのモル比は、水酸基:ジフルオロリン酸=1:17.7)。5時間撹拌したのち、25質量%水酸化ナトリウム水溶液を滴下しpH7に中和した。反応液を72時間流水中で透析し(透析膜の分画分子量14,000、三光純薬株式会社製)、ろ紙(101、アドバンテック東洋株式会社製)を用いてろ過した後、水酸化ナトリウム水溶液によりpH7に調整した。最後に、水をエバポレータ、及び凍結乾燥(NEOCOOL、ヤマト科学株式会社製)で除くことによって、モノフルオロリン酸ナトリウム化N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド/N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド メチルクロライド共重合体=60/40(F−HEAA/HEAA/DMAPAA−Q=19/41/40)を0.8g得た。
なお、「F−」とは、水酸基の水素原子がモノフルオロリン酸基に置換されたことを示し、F−HEAAとは、水酸基の水素原子がモノフルオロリン酸基に置換されたN−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミドをいう。
【0053】
[製造例2]MFP−LMAの製造
N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)/メタクリル酸ラウリル(LMA)=80/20共重合体の調製
製造例1において、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド(興人製)の量を24g、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド メチルクロライド(DMAPAA−Q) (興人製)をアクリル酸ラウリル(LMA)(東京化成製)6gとし、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(商品名V−59:和光純薬工業製)の量を0.44gとした以外は、同様にして、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)/メタクリル酸ラウリル(LMA)=80/20共重合体25gを得た。
製造例1におけるN−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)/N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド メチルクロライド(DMAPAA−Q)=60/40共重合体をN−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド(HEAA)/メタクリル酸ラウリル(LMA)=80/20共重合体に変更した以外は同様に調製し、モノフルオロリン酸ナトリウム化N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド/メタクリル酸ラウリル共重合体=80/20(水酸基:ジフルオロリン酸=1:16.5)を0.8g得た。
【0054】
製造例で得られた高分子化合物について、下記測定を行った。結果を表1に示す。
1.重量平均分子量(Mw)
10mM硝酸ナトリウム、20vol%アセトニトリルを含む水を溶離液とし、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定し、分子量5,800〜853,000のプルラン標準(P−82、昭和電工製)にて換算して重量平均分子量を算出した。具体的には、乾燥物を10mM硝酸ナトリウム、20vol%アセトニトリルを含む水に溶解させ、0.5質量%溶液を調製した。カラムには東ソー(株)製TSK−GelG2500PWXLとTSK−GelGMPWXLを連結して設置し、カラムオーブン設定温度40℃、溶離液は10mM硝酸ナトリウムと20vol%アセトニトリルを含む水を用い、流速0.5mL/min、検出はRIにて行った。
【0055】
2.フッ素導入率
高分子化合物0.1質量%水溶液1.6gに、1mol/L過塩素酸水溶液2.4gを添加し、密封したPE製蓋付チューブ中に入れて、105℃で10分加熱した。その後、液0.4gを採取し、1.6gの1mol/Lクエン酸カリウム緩衝液(pH5.5)と混合した後、フッ素電極計(Expandable Ion Analyzer EA920,Orion社製)によりフッ素量:Xp(ppm)を定量した。高分子化合物全質量に対するフッ素の質量濃度(フッ素導入率:F(質量%))を、以下の式により算出した。
F=Xp×1.25
【0056】
【表1】

【0057】
[実施例1〜13]
下記表2に示す組成物(A)、組成物(B)を、各高分子化合物を水に溶解させて調製し、2剤式口腔用組成物を調製した。組成物(A)と組成物(B)を等量混合した混合物(混合液)の電荷濃度を表中に示す。なお、混合物(混合液)のpHは5〜7(室温:25℃)であった。得られた2剤式口腔用組成物について、下記滞留率評価を行った。結果を表中に併記する。
【0058】
[電荷濃度]
電荷濃度(mmol/L)=(Q1/M1×C1−Q2/M2×C2)×10
組成物(A)中の正電荷を有する高分子化合物において、
1(電荷mmol/mol):分子あたりの「正電荷数−負電荷数」
1(g/mol):分子量
1(質量%):混合物中の配合濃度
組成物(B)中の負電荷を有する高分子化合物において、
2(電荷mmol/mol):分子あたりの「負電荷数−正電荷数」
2(g/mol):分子量
2(質量%):混合物中の配合濃度
【0059】
[滞留率]
組成物(A)5gと組成物(B)5gを同時に口腔内に入れ、3分洗口処理をした後、吐出して液を採取した。吐出液のフッ素量を、質量測定とフッ素電極による濃度測定から算出し、組成物(A)5gと組成物(B)5gの混合液のフッ素に対する、フッ素減少分をフッ素滞留量として、口腔内のモノフルオロリン酸残基を有する高分子の滞留率を次式から算出した。
滞留率(質量%)=(1−吐出液フッ素量/混合液フッ素量)×100
【0060】
[質量測定とフッ素電極による濃度測定]
洗口処理前の混合液の質量M0(g)と、処理後の吐出液の質量M1(g)を測定し、次に、洗口処理前の混合液のフッ素濃度F0(ppm)と処理後の吐出液のフッ素濃度F1(ppm)を下記のフッ素濃度定量法により測定した。採取した液の質量とフッ素濃度から、液中のフッ素量を次式により算出した。
混合液フッ素量(μg)=F0(ppm)×M0(g)
吐出液フッ素量(μg)=F1(ppm)×M1(g)
【0061】
[フッ素濃度定量法]
試料溶液に等量の2mol/L塩化水素水溶液を加え、50℃で3時間加熱した後、1mol/Lの水酸化ナトリウムを加え中和した。次に、フッ素イオン電極(Thermo ELECTRON CORPORATIO製Orion9609BNWPフッ素複合電極)を用いてフッ素濃度の定量を行った。測定は、緩衝液として1mol/Lのクエン酸カリウム液を用い5倍希釈して行った。
【0062】
【表2】

*上段は、組成物(A)又は(B)中の高分子化合物濃度(質量%)を示す。
下段は、混合物中の高分子化合物濃度(質量%)を示す。
【0063】
[実施例14,15]
下記表3に示す組成物(A)、組成物(B)を、各高分子化合物を水に溶解させて調製し(なお、両性界面活性剤は組成物(B)に配合する)、2剤式口腔用組成物を調製した。組成物(A)及び(B)の混合物の電荷濃度を表中に示す。得られた2剤式口腔用組成物について、上記滞留率評価を行った。結果を表中に併記する。
【表3】

*上段は、組成物(A)又は(B)中の高分子化合物濃度(質量%)を示す。
下段は、混合物中の高分子化合物濃度(質量%)を示す。
【0064】
[比較例1〜3]
下記表4に示す組成物(A)、組成物(B)を、各高分子化合物を水に溶解させて調製し、2剤式口腔用組成物を調製した。組成物(A)及び(B)の混合物の電荷濃度を表中に示す。得られた2剤式口腔用組成物について、上記滞留率測定を行った。結果を表中に併記する。
【0065】
[比較例4]
リゾチーム(g当たりの正電荷数0.63(mmol/mol))を0.46質量%、MFP−LMA(g当たりの負電荷数1.10(mmol/mol))を0.09質量%含む1剤式口腔用組成物を調製した。1剤式口腔用組成物について、調製の次の日に上記滞留率測定を行った。結果を表中に併記する。
【0066】
【表4】

*上段は、組成物(A)又は(B)中の高分子化合物濃度(質量%)を示す。
下段は、混合物中の高分子化合物濃度(質量%)を示す。
【0067】
[実施例16]
下記組成の2剤式洗口剤を調製し、上記方法で滞留率を測定した。組成物(A)と組成物(B)から算出される電荷濃度は5であった。
【0068】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リゾチーム、キトサン、ラクトフェリン、ポリリジン、及びモノフルオロリン酸残基を有するカチオン性モノフルオロリン酸化高分子化合物から選ばれる、正電荷を有する高分子化合物を含有する組成物(A)と、
ポリグルタミン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ペクチン、及びモノフルオロリン酸残基を有するアニオン性モノフルオロリン酸化高分子化合物から選ばれる、負電荷を有する高分子化合物を含有する組成物(B)とを有する2剤式口腔用組成物。
【請求項2】
組成物(A)と組成物(B)との混合物のpHが4〜10であり、混合物中の下記電荷濃度が1〜30であることを特徴とする請求項1記載の2剤式口腔用組成物。
電荷濃度(mmol/L)=(Q1/M1×C1−Q2/M2×C2)×10
組成物(A)中の正電荷を有する高分子化合物において、
1(電荷mmol/mol):分子あたりの「正電荷数−負電荷数」
1(g/mol):分子量
1(質量%):混合物中の配合濃度
組成物(B)中の負電荷を有する高分子化合物において、
2(電荷mmol/mol):分子あたりの「負電荷数−正電荷数」
2(g/mol):分子量
2(質量%):混合物中の配合濃度
【請求項3】
さらに、両性界面活性剤を含有する請求項1又は2記載の口腔用組成物。
【請求項4】
両性界面活性剤がベタイン型両性界面活性剤であることを特徴とする請求項3記載の口腔用組成物。

【公開番号】特開2011−46633(P2011−46633A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195080(P2009−195080)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】