説明

2成分モルタル材およびその使用方法

【課題】凝乳化時間を調節可能で、0℃などの低温においてもモルタル材の破壊荷重が低下することなく硬化する2成分モルタル材を得る。
【解決手段】硬化可能な樹脂成分(A)および、この樹脂成分(A)と反応しないように隔離して配置した硬化成分(B)を有する2成分モルタル材において、樹脂成分(A)は、少なくとも1種類のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、少なくとも1種類のアルキル(メタ)アクリレートと、少なくとも1種類の、以下の一般式(1)を有するアセトアセテート化合物からなる反応希釈剤混合物を有するものとする。


式中、Rは水素原子、C〜Cアルキル基またはOR基を示し、RはC〜Cアルキル基とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2成分モルタル材であって、レドックス(酸化還元)開始剤系により硬化可能なラジカル樹脂成分(A)であって、5〜30重量%の少なくともラジカル重合可能な樹脂、3〜45重量%の反応希釈剤混合物、30〜75重量%の充填剤、1〜8重量%の増粘剤を含有する、該ラジカル樹脂成分(A)と、およびこの樹脂成分(A)と反応しないように隔離して配置した硬化成分(B)であって、1〜20重量%のレドックス開始剤系の成分としてのペルオキシド、1〜25重量%の、水性乳化(エマルジョン)重合によって製造したポリマーまたはポリマー混合物を99.9〜70重量%含有するポリマー粒子、0.1〜30重量%の、レドックス開始剤系の第2の成分であり、前記ポリマー粒子に過剰に共有結合または封入した促進剤、10〜35重量%の水、40〜80重量%の充填剤、0.5〜5重量%の増粘剤を含有する、該硬化成分(B)を有し、樹脂成分または硬化成分における構成成分の量の合計をそれぞれ100重量%とした2成分モルタル材および、この2成分モルタル材を、無機質素地に設けたドリル孔内に化学反応によってアンカー手段を固定するために使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカル硬化可能な反応性樹脂に基づく化学的なモルタル材およびアンカー材は長年にわたり知られている。これら反応性樹脂は通常、硬化可能な樹脂成分および硬化成分から成る。樹脂成分は、例えばラジカル重合可能な樹脂、レドックス開始剤系の第1の成分としての促進剤、充填剤、増粘剤などの一般的な添加剤とを含む。この樹脂成分と反応しないよう隔離して配置した硬化成分は、例えばレドックス開始剤系の第2の成分としてのペルオキシド、樹脂成分と同様の充填剤、増粘剤、色素などの一般的な添加剤を含む。
【0003】
この種の2成分モルタル材を使用する際には、樹脂成分と硬化成分とを混合し、コンクリートなどから成る無機質素地におけるドリル孔に注入した後、アンカー手段を、モルタル材を充填したドリル孔に挿入しまた調節し、モルタル材を硬化させる。このような化学的なモルタル材は従来技術において多数知られている。
【0004】
特許文献1(独国特許出願公開第3226602号)には、この種の2成分モルタル材が記載されており、この2成分モルタル材は、不飽和ポリエステル樹脂、反応希釈剤、充填剤、チキソトロープ剤、ラジカル硬化触媒を含有する。
【0005】
特許文献2(独国特許出願公開第3617702号)は、スクリューアンカーおよびアンカーロッドを固定するため硬化可能なアクリレートを含有する硬化可能媒体に関する。この媒体は、有機ペルオキシド硬化剤、促進剤、粘液質化剤、無機充填剤、チキソトロープ剤とともに、反応希釈剤を含有する。
【0006】
特許文献3(独国特許出願公開第3940309号)には、同様に、硬い収容加工材においてアンカー手段を固定するためのモルタル材が記載されている。この2成分モルタル材は、ラジカル硬化可能なビニルエステルウレタン樹脂、および選択的成分として反応希釈剤を有する。
【0007】
特許文献4(独国特許出願公開第4231161号)には、同様にドリル孔内にアンカー手段を固定するための2成分モルタル材が記載されている。この2成分モルタル材は、硬化可能な無機化合物として水性硬化し、および/または重縮合可能な化合物を有し、硬化可能な有機化合物として硬化可能なビニルエステルを有する。
【0008】
特許文献5(独国特許出願公開第19531649号)には、ドリル孔内にアンカーロッド、ねじスリーブおよびねじを化学的に固定するための接合剤が記載されている。この接合剤は、反応性樹脂および、この反応性樹脂と反応しないように隔離して配置した、樹脂のための硬化剤を有する。この背景技術の課題は、密閉された容器内で光照射下においても十分に長い貯蔵安定性を有することが保証される阻害剤を得ることにあるため、この接合剤、はピペリジニル−N−オキシルまたはテトラヒドロピロール−N−オキシルを阻害剤として加えることを重要な特性とする。反応性樹脂は少なくとも20重量%のビニルエステル樹脂またはビニルエステルウレタン樹脂を有し、コモノマーとしてメタクリル酸エステルを有することができる。
【0009】
特許文献6(独国特許出願公開第4131457号)には、ドリル孔においてアンカーロッド、アンカーおよびねじを化学的に固定するための接合剤が記載されている。この接合剤は、ラジカル硬化可能なビニルエステル樹脂またはビニルエステルウレタン樹脂と、これらの樹脂と反応しないように隔離して配置した、樹脂のための硬化剤とを有する。さらに、シリカ材料に対して好適な接着性を実現するために、コモノマーとしてアセトアセトキシ(メタ)アクリレートを有する。
【0010】
特許文献7(独国特許第102004035567号)には、硬化可能な樹脂成分において、少なくとも1種類のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、少なくとも1種類のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレートとを一定の重量比で有する反応希釈剤混合物を含有する2成分モルタル材が記載されている。この反応希釈剤混合物により、モルタル材のコンクリート製および漆喰製の素地構造における接着性が、反応希釈剤の選択によってコンクリートまたは漆喰製の素地構造への注入に最適化した2成分モルタル材の接着性よりも、著しく向上する。
【0011】
特許文献8(独国特許出願公開第10339329号)には、凝乳化(凝固)時間が制御可能なモノマー−ポリマー系が記載されている。この2成分モルタル材の注目すべき点は、凝乳化時間、すなわち樹脂成分と硬化成分を混合した後に作業をすることができる時間が変化し、その後行う作業工程に適合させることができることである。この背景技術の原理によれば、広い範囲内で凝乳化時間を調節することができる。このことは、レドックス開始剤系の成分を水性乳化重合により製造したポリマーまたはポリマー混合物の粒子に含有または、このようなポリマー粒子に吸収させることにより可能となる。
【0012】
特許文献9(独国特許出願公開第102007032836号)はこの技術的な原理の別の実施形態を公開している。これによれば、ポリマー粒子を乳化重合体により形成し、このポリマー粒子が共有結合により乳化重合体内に組み込んだ特定の活性剤を含むものとする。このような活性剤は(メタ)アクリロイル官能基を有するアミン誘導体であり、例としてN−((メタ)アクリロイル(ポリ)オキシアルキル)−N−アルキル−(o,m,p)−(モノ,ジ,トリ,テトラ,ペンタ)−アルキルアニリン、N−((メタ)−アクリロイル(ポリ)−オキシアルキル)−N−(アリルアルキル)−(o,m,p)−(モノ,ジ,トリ,テトラ,ペンタ)−アルキルアニリン、N−((メタ)アクリロイル)ポリ)オキシアルキル)−N−アルキル−(o,m,p)−(モノ,ジ,トリ,テトラ,ペンタ等)−アルキルナフチルアミン、N−((メタ)アクリルアミドアルキル)−N−アルキル−(o,m,p)−(モノ,ジ,トリ,テトラ,ペンタ)−アルキルアニリンが挙げられる。別のアミンの例としては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−ジメチルアミノ−2,2−ジメチルプロピル(メタ)アクリレート、tert.−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルイミダゾールおよびジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。好適には、N−((メタ)アクリロイルオキシエチル)−N-メチルアニリン、N−((メタ)アクリロイルオキシプロピル)−N-メチルアニリン、N−((メタ)アクリロイルオキシプロピル)−N-メチル−(o,m,p)−トルイジン、N−((メタ)アクリロイルオキシエチル)−N-メチル−(o,m,p)−トルイジン、N−((メタ)アクリロイルポリオキシエチル)−N-メチル−(o,m,p)−トルイジンとする。この際、これらの材を単体または2ないし複数個の材の混合物として用いることが可能である。これらのポリマーに結合した活性剤または促進剤により、ゲル化時間の長い2成分モルタル材を形成することができる。
【0013】
上記において、および以下において用いる(メタ)アクリレートの表記は、このような化合物にメタクリレートおよびアクリレート、すなわち例としてメチルメタクリレートまたはメチルアクリレートを含むことを示す。
【0014】
この際、ポリマー粒子に結合させた促進剤の水性分散液を、同様に水性の硬化成分に加える。これらの硬化成分を樹脂成分に混合する際に、樹脂成分に含まれる反応希釈剤が促進剤ポリマーを膨潤することにより、促進剤が遊離してモルタルの架橋を開始する。通常の注入モルタルにおいてこの技術を分析した結果、0℃におけるゲル化時間が少なくとも24時間であり、破壊荷重が現在の標準レベルの50%しか満たさないことが示された。この際、低温における硬化は大きく減衰した。
【0015】
ヒドロキシエチルメタクリレートまたはヒドロキシプロピルメタクリレートなどのヒドロキシアルキルメタクリレートの濃度を変化させることによりゲル化時間を調節することはできるが、明らかに30分よりも短くすることは不可能であり、また、低温における硬化は依然不十分である。
【0016】
アセトアセテートエチルメタクリレートなどの非常に極性の高いモノマーまたは、メチルメタクリレートもしくはテトラヒドロフルフリルメタクリレートなどの特に溶解性の良い反応希釈剤を用いても、ゲル化時間を短縮することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】独国特許出願公開第3226602号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第3617702号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第3940309号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第4231161号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第19531649号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第4131457号明細書
【特許文献7】独国特許第102004035567号明細書
【特許文献8】独国特許出願公開第10339329号明細書
【特許文献9】独国特許出願公開第102007032836号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
すなわち、本発明の課題は初めに示した種類の2成分モルタル材であって、ポットライフを調節可能で、前述した背景技術によって実現可能な領域であり、また、例えば0℃などの低温においてもモルタル材の破壊荷重が低下することなく硬化する2成分モルタル材を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
驚くべきことに、3種類の特定モノマーの組み合わせを有する反応希釈性混合物によれば、25℃において10〜15分の範囲のゲル化時間を実現すると同時に0℃においても使用可能となり、この際、使用に必要な大きさの破壊荷重を得ることができる。
このため、本発明は独立請求項に記載した特徴を有する2成分モルタル材を目的とする。従属項には、この2成分モルタル材の好適な実施例および、無機質素地に設けたドリル孔において、樹脂成分と硬化成分との化学反応によってアンカー手段を固定するために使用する方法を記載する。
【0020】
これによれば、本発明は2成分モルタル材であって、
レドックス開始剤系により硬化可能なラジカル樹脂成分(A)であり、5〜30重量%の少なくともラジカル重合可能な樹脂、3〜45重量%の反応希釈剤混合物、30〜75重量%の充填剤、1〜8重量%の増粘剤を含有する、該ラジカル樹脂成分(A)と、および、
この樹脂成分(A)と反応しないように隔離して配置した硬化成分(B)であって、1〜20重量%のレドックス開始剤系の成分としてのペルオキシド、1〜25重量%の、水性乳化(エマルジョン)重合によって製造したポリマーまたはポリマー混合物を99.9〜70重量%含有するポリマー粒子、0.1〜30重量%の、レドックス開始剤系の第2成分としての促進剤であり、前記ポリマー粒子に過剰に共有結合または封入した促進剤、10〜35重量%の水、40〜80重量%の充填剤、0.5〜5重量%の増粘剤を含有する、該硬化成分(B)と
を有し、樹脂成分または硬化成分における構成成分の量の合計をそれぞれ100重量%とした、該モルタル材において、
反応希釈剤混合物は、少なくとも1種類のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、少なくとも1種類のアルキル(メタ)アクリレートおよび少なくとも1種類の、下記の一般式(1)のアセトアセテート基を含有する、すなわち、
【化1】

式中、Rは水素原子、C〜Cアルキル基またはOR基を示し、
はC〜Cアルキル基であり、下記の一般式(2)を有する、すなわち
【化2】

または下記の一般式(3)を有する基:
【化3】

を示し、さらにnは1〜6の整数を示すものとした
ことを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0021】
好適な実施例によれば、樹脂成分(A)の反応希釈剤混合物は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとして、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、および/またはヒドロキシブチルメタクリレートを含有し、アルキル(メタ)アクリレートとしてメチルメタクリレートおよび/またはエチルメタクリレートを含有し、また一般式(I)のアセトアセテート基としてアセチルアセトン、アセトアセテートエチルメタクリレートおよび/またはトリアセトアセテートトリメチロールプロパンを有する。
【0022】
好適には、樹脂成分(A)は、ラジカル重合可能な樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂、好適にはエポキシド樹脂への(メタ)アクリル酸の付加により製造するエポキシアクリレートなどのビニルエステル樹脂、に公開されるようなエトキシル化ビスフェノール(メタ)アクリレート、およびビニルエステルウレタン樹脂よりなるグループのうち少なくとも1つを含有する。ビニルエステルウレタン樹脂としては、ウレタンメタクリレート樹脂および/またはウレタンジメタクリレート樹脂が有利であり、また、不飽和ポリエステル樹脂としては特に、オルトおよび/またはイソフタル酸、マレイン酸またはフマル酸としたジカルボン酸と、好適にはジオールとした低分子の脂肪族ポリオールとを基礎とする不飽和ポリエステル樹脂が有利である。
【0023】
本発明の他の好適な実施例によれば、樹脂成分(A)は、1個または2個のアクリレート基を有する付加的な反応希釈剤を0〜30重量%含有し、このような反応希釈剤の例としては、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、および/またはトリエチレングリコールジメタクリレートがある。
【0024】
本発明のさらに好適な実施例によれば、樹脂成分(A)は、フェノール性またはフリーラジカル性重合阻害剤などの重合阻害剤を0〜1重量%有し、このような重合阻害剤としては4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert.−ブチルトルエン、ブチルベンズカテキン、ヒドロキノンおよび/または2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシドまたはその誘導体などがある。
【0025】
硬化成分(B)は、促進剤として、好適には第3級芳香族アミン、トルイジンまたはキシリジンおよび/またはコバルト、マンガン、錫またはセリウムの塩を含有する。硬化成分(B)は、ポリマー粒子に封入した促進剤として、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)−m−トルイジン、N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−キシリジン、コバルトオクトエート、および/またはコバルトナフテナートを有する。
【0026】
特に好適には、硬化成分(B)は、ポリマー粒子として、乳化重合体の粒子を有する。この乳化重合体粒子は、特許文献9に記載されている方法により、以下のものを含有する混合物を水性乳化(エマルジョン)重合することで得られる。
【0027】
a) 5〜99.9重量%の、20℃における溶解度が2重量%未満であって単官能性(メタ)アクリレートモノマー、スチロールおよびビニルエステルからなるグループから選択した1種類または多種類のモノマー、
b) 0〜70重量%の、a)におけるモノマーと共重合可能な1種類または多種類のモノマー、
c) 0〜20重量%の、1種類または多種類の2価または多価のビニル性不飽和化合物、
d) 0〜20重量%の、20℃における溶解度が2重量%より大きな1種類または多種類の極性モノマー、および
e) 0.1〜95重量%の、少なくとも1種類の促進剤であって、共有結合により乳化重合体の中に組み込まれており、下記の一般式(4)に適合する促進剤。
【化4】

式中、
・Rは水素原子またはメチル基を示し、
・Xは1〜8個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルカンジイル基であって、1個または複数個のヒドロキシ基および/または、C〜Cアルキル基で置換され得るアルカンジイル基を示し、
・Rは水素原子または、1〜12個の炭素原子を有する直鎖あるいは分岐アルキル残基であって、場合によっては1個または複数個のヒドロキシ基またはC〜Cアルキル基で置換されており、この際、ヒドロキシ基が部分的に(メタ)アクリル酸によりエステル化され得るものとしたアルキル残基を示し、
・R、R、R、RおよびRは互いに独立に、水素原子または、1〜8個の炭素原子を有する直鎖あるいは分岐アルキル基またはアルコキシ基を示し、これらのアルキル基またはアルコキシ基は1個または複数個のヒドロキシ基によって置換することができ、このとき、場合によっては残基R〜Rのうち2個が互いに5〜7員環に結合し、場合によってはフェニル残基と共に縮合芳香族環系を形成し、この際、成分a)〜e)を合計すると、混合物の重合可能な構成成分の100重量%となるものとする。
【0028】
本発明の2成分モルタル材では、樹脂成分(A)のみならず硬化成分(B)も、あるいは両方の成分が、充填剤として、石英、石英砂、発熱性ケイ酸、セメント、ガラス、シリカ、ケイ酸アルミニウム、アルミナ、コランダム、磁器類、陶器類、重晶石、軽晶石、タルクおよび/または白亜を含むものとする。
【0029】
増粘剤としては、樹脂成分(A)のみならず硬化成分(B)も、あるいは両方の成分が
ベントナイトまたはスメクタイトなどの層状ケイ酸塩、発熱性ケイ酸および/またはアミドワックス、尿素誘導体もしくはひまし油誘導体などの有機物を含有することができる。
【0030】
硬化成分(B)は、好適には、過酸化物として、過酸化ジベンゾイル、過酸化メチルエチルケトン、過安息香酸tert−ブチル、シクロヘキサノンペルオキシド、過酸化ラウロイル、クメンヒドロペルオキシドおよび/またはtert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサン酸塩を有する。
【0031】
本発明の目的はさらに、アンカーロッドまたは同様のアンカー手段をコンクリート、漆喰、天然石材などの無機質素地に、樹脂成分(A)と硬化成分(B)との化学反応により固定するための、上述した2成分モルタル材の使用方法を得ることにある。
【0032】
以下に示す比較例および実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
【0033】
<比較例1〜2および実施例1〜3>
続いて、以下の表1に記載した構成成分を混合することにより、比較例1〜2および本発明による実施例1〜3における樹脂成分(A)を作製する。
【0034】
【表1】

【0035】
これとは別に、以下の表2に記載した構成成分により、比較例1〜2および実施例1〜3における硬化成分(B)を作製する。
【0036】
【表2】

【0037】
この際、ポリマー分散液については、上述した水性乳化重合によって得られる乳化重合体であるポリマー粒子の水性乳化重合については特許文献9により詳細に記載されている。
【0038】
この2成分モルタル材の特徴を分析するには、比較例1および2、または実施例1〜3における樹脂成分(A)に硬化成分(B)を、3:1の体積比で混合する。混合物をコンクリートにおけるドリル孔に投入し、サイズがM12で長さが72mmのねじロッドをドリル孔に挿入し、25℃または0℃で硬化させる。この際、ゲル化時間を後述する方法で決定し、破壊荷重を次の通り計測する。
【0039】
<ゲル化時間の決定>
樹脂成分(A)および硬化成分(B)からなる2成分モルタル材をスタティックミキサによって混合し、試験官に入れた後、モルタル材の堅さに基づいて可能な限りモルタル材の中でスタンパが移動する装置の中に取り付ける。モルタル材の凝固が確認されると作動時間が終了する。これにより、凝固するまでの時間を計測し、ゲル化時間とする。
【0040】
<破壊荷重の計測>
破壊荷重を決定するために、ここではコンクリートとした無機質素地にドリルハンマーによりドリル孔を設ける。ドリル孔内へのブローおよび、適合するスチールブラシによる清掃によってドリル孔を清掃し、樹脂成分(A)および硬化成分(B)からなる2成分モルタル材を供給した後、スタティックミキサで混合して、ドリル孔直径が14mmで、深さが72mmのドリル孔に注入する。適切な鋼強度を有するM12型アンカーロッドを直ちに、まだ硬化していないモルタル材に設置し、十分な時間待機する(反応性との関連から2〜24時間)。モルタル材が硬化したら、引張強度を計測しながらアンカーロッドを中心において引張し、コンクリートから引き抜く。
【0041】
これらの分析により得られた結果を以下の表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
上の表3に示すように、本発明のモルタル材を用いた実施例1〜3においてのみ、破壊荷重が減少することなく25℃および0℃におけるゲル化時間の短縮を実現できる。比較例1および2に示すように、3種類の必須反応希釈剤混合物のうち1個が欠けると、特に低い温度で十分に短いゲル化時間が達成できず、モルタル材が全く硬化しないか、または破壊荷重が半減する。
【0044】
このような2成分モルタル材の特徴は、少なくとも1種類のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレートおよび、上に記載した一般式を有する、少なくとも1種類のアセトアセテート化合物を含む反応希釈剤混合物を本発明の使用方法で用いた場合、決して見られることはない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2成分モルタル材であって、
レドックス開始剤系により硬化可能なラジカル樹脂成分(A)であり、5〜30重量%の少なくともラジカル重合可能な樹脂、3〜45重量%の反応希釈剤混合物、30〜75重量%の充填剤、1〜8重量%の増粘剤を含有する、該ラジカル樹脂成分(A)と、および、
前記樹脂成分(A)と反応しないように隔離して配置した硬化成分(B)であって、1〜20重量%のレドックス開始剤系の成分としてのペルオキシド、1〜25重量%の、水性乳化重合によって製造したポリマーまたはポリマー混合物を99.9〜70重量%含有するポリマー粒子、0.1〜30重量%の、レドックス開始剤系の第2成分であり、前記ポリマー粒子に過剰に共有結合または封入した促進剤と、10〜35重量%の水、40〜80重量%の充填剤、0.5〜5重量%の増粘剤を含有する、該硬化成分(B)と
を有し、樹脂成分または硬化成分における構成成分の量の合計をそれぞれ100重量%とした、該モルタル材において、
反応希釈剤混合物は、少なくとも1種類のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、少なくとも1種類のアルキル(メタ)アクリレートと、少なくとも1種類の、下記の一般式(1)のアセトアセテート化合物を含有する、すなわち、
【化1】

式中、Rは水素原子、C〜Cアルキル基またはOR基を示し、
はC〜Cアルキル基であり、下記の一般式(2)を有する、すなわち
【化2】

または下記の一般式(3)を有する残基、すなわち
【化3】

を示し、さらにnは1〜6の整数を示すものとした
ことを特徴とするモルタル材。
【請求項2】
請求項1記載の2成分モルタル材において、前記反応希釈剤混合物は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとして、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、および/またはヒドロキシブチルメタクリレートを含有し、アルキル(メタ)アクリレートとして、メチルメタクリレートおよび/またはエチルメタクリレートを含有し、また一般式(1)を有するアセトアセテート基として、アセチルアセトン、アセトアセテートエチルメタクリレートおよび/またはトリアセトアセテートトリメチロールプロパンを有するものとした2成分モルタル材。
【請求項3】
請求項1または2記載の2成分モルタル材において、前記樹脂成分(A)は、ラジカル重合可能な樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂およびビニルエステルウレタン樹脂よりなるグループのうち少なくとも1つを含有するものとした2成分モルタル材。
【請求項4】
請求項3記載の2成分モルタル材において、樹脂成分(A)は、ビニルエステルウレタン樹脂として、ウレタンメタクリレート樹脂および/またはウレタンジメタクリレート樹脂を含有し、および/または不飽和ポリエステル樹脂としては、オルトフおよび/またはイソフタル酸、マレイン酸またはフマル酸としたジカルボン酸、好適にはジオールである低分子の脂肪族ポリオールを基礎とする、該不飽和ポリエステル樹脂を含有するものとした2成分モルタル材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の2成分モルタル材において、樹脂成分(A)は、0〜30重量%の、1個または2個のアクリレート基を有する付加的な反応希釈剤を含有するものとした2成分モルタル材。
【請求項6】
請求項5記載の2成分モルタル材において、樹脂成分(A)は、付加的な反応希釈剤として、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、および/またはトリエチレングリコールジメタクリレートを含有するものとした2成分モルタル材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の2成分モルタル材において、樹脂成分(A)は、0〜1重量%の重合阻害剤を含有するものとした2成分モルタル材。
【請求項8】
請求項7記載の2成分モルタル材において、樹脂成分(A)は、重合阻害剤として、フェノール性またはフリーラジカル性重合阻害剤などの重合阻害剤を有し、好適には4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert.−ブチルトルエン、ブチルベンズカテキン、ヒドロキノンおよび/または2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシドまたはその誘導体を有するものとした2成分モルタル材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の2成分モルタル材において、硬化成分(B)は、促進剤として、好適には第3級芳香族アミン、トルイジンまたはキシリジンおよび/またはコバルト、マンガン、錫またはセリウムの塩を含有するものとした2成分モルタル材。
【請求項10】
請求項9記載の2成分モルタル材において、硬化成分(B)は、促進剤として、ポリマー粒子に封入した状態でN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)−m−トルイジン、N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−キシリジン、コバルトオクトエート、および/またはコバルトナフテナートを有するものとした2成分モルタル材。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の2成分モルタル材において、硬化成分(B)は、ポリマー粒子として乳化重合体の粒子を有し、この乳化重合体粒子は以下を含有する混合物の水性乳化重合により得られる、すなわち、
a) 5〜99.9重量%の、20℃における溶解度が2重量%未満であって単官能性(メタ)アクリレートモノマー、スチロールおよびビニルエステルからなるグループから選択した1種類または多種類のモノマー、
b) 0〜70重量%の、a)におけるモノマーと共重合可能な1種類または多種類のモノマー、
c) 0〜20重量%の、1種類または多種類の2価または多価のビニル性不飽和化合物、
d) 0〜20重量%の、20℃における溶解度が2重量%より大きな1種類または多種類の極性モノマー、および
e) 0.1〜95重量%の、少なくとも1種類の促進剤であって、共有結合により乳化重合体の中に組み込まれており、下記の一般式(4)に適合する促進剤、すなわち
【化4】

・Rは水素原子またはメチル基を示し、
・Xは1〜8個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルカンジイル基であって、1個または複数個のヒドロキシ基および/または、C〜Cアルキル基で置換され得るアルカンジイル基を示し、
・Rは水素原子または、1〜12個の炭素原子を有する直鎖あるいは分岐アルキル残基であって、場合によっては1個または複数個のヒドロキシ基またはC〜Cアルキル基で置換されており、この際、ヒドロキシ基が部分的に(メタ)アクリル酸でエステル化され得るものとしたアルキル残基を示し、
・R、R、R、RおよびRは互いに独立に、水素原子または、1〜8個の炭素原子を有する直鎖あるいは分岐アルキル基またはアルコキシ基を示し、これらアルキル基またはアルコキシ基は1、個または複数個のヒドロキシ基によって置換することができ、このとき、場合によっては残基R〜Rのうち2個が互いに5〜7員環に結合し、場合によってはフェニル残基と共に縮合芳香族環系を形成し、この際、成分a)〜e)を合計すると、混合物の重合可能な構成成分の100重量%となるものとする。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の2成分モルタル材において、樹脂成分(A)および/または硬化成分(B)は、充填剤として、石英、発熱性ケイ酸、セメント、ガラス、シリカ、ケイ酸アルミニウム、アルミナ、コランダム、磁器類、陶器類、重晶石、軽晶石、タルクおよび/または白亜を含むものとした2成分モルタル材。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の2成分モルタル材において、樹脂成分(A)および/または硬化成分(B)は、増粘剤として、ベントナイトまたはスメクタイトなどの層状ケイ酸塩、発熱性ケイ酸および/または、アミドワックス、尿素誘導体もしくはひまし油誘導体などの有機物を含有するものとした2成分モルタル材。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の2成分モルタル材において、硬化成分(B)は、過酸化物として、過酸化ジベンゾイル、過酸化メチルエチルケトン、過安息香酸tert−ブチル、シクロヘキサノンペルオキシド、過酸化ラウロイル、クメンヒドロペルオキシドおよび/またはtert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサン酸塩を有するものとした2成分モルタル材。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の2成分モルタル材を、無機質素地に設けたドリル孔に、アンカー手段を樹脂成分(A)と硬化成分(B)との化学反応によって固定するのに使用する方法。

【公開番号】特開2011−74388(P2011−74388A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219970(P2010−219970)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(591010170)ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト (339)
【Fターム(参考)】