説明

2段X線集中装置

標準型X線管又は他の多色放出光源から集中単色X線ビームを得るための方法。X線管のアノードからのX線は、隣接の独立標的に蛍光を投与し、この標的は、単色スペクトルを発生させ、その一部は、X線光学系によって焦点合わせされる。この2段法は、信号の過度の損失を生じさせないでシステムに相当高い汎用性を与える。2段式集中装置は、手持ち型及び携帯型機器の焦点合わせ光学素子の使用を実用的にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域源からのX線を集中させ、それと同時にスペクトル濾波する方法及び装置に関する。
【0002】
〔関連出願の説明〕
本発明は、2006年10月24日に出願された米国特許仮出願第60/853,875号の優先権主張出願であり、この米国特許仮出願を参照により引用し、その記載内容を本明細書の一部とする。
【背景技術】
【0003】
厳格な幾何学的形状と関連してX線の単純な視準によりX線蛍光分析法(XRF)を利用する手持ち型アナライザは、センチメートル級の標的に対して高い性能レベルを達成することができる。図1は、サーモ・ニトン・アナライザーズ・エルエルシー(Thermo NITON Analyzers LLC)によって製造されたニトンXRFアナライザによって代表され、全体が符号10で示されたXRFアナライザのコンポーネントの概略配置図である。X線管100が、電子(又は他の荷電粒子)114の加速により、本明細書ではアノード116と称する(しかしながら、これに限定するわけではない)標的に向かってX線放出光112の広域スペクトルを放出する。X線ビーム112のエネルギースペクトルは、1つ又は2つ以上のX線フィルタ118によって調節され、コリメータ126によって視準されて視準されたビーム128が形成され、そしてサンプル120の方へ差し向けられる(機器10を向けることによって)。サンプルにより放出された蛍光性X線122は、検出器124によって検出される。
【0004】
X線ビーム112によって問い合わされる典型的なサンプル領域は、5mm2を超え、他方、典型的なサンプルとアノードとの間の距離及びサンプルと検出器との間の距離は、15mm未満である。他方、ニトンXLモデルXRFアナライザでは、X線管の長さは、5cm未満である。
【0005】
図2の上側の曲線は、50keVで動作する先行技術の金アノード型X線管源からの出力強度とエネルギースペクトルの関係を示している。制動放射連続スペクトルは、低い集中レベルを測定するうえでは最適ではない。原子が所与の場合の信号対雑音(SN)を実質的に増大させるには、ビームをフィルタで整形するのが良い。図2の下側の曲線202は、K電子が26.7keVのエネルギーで結合された毒性元素のカドミウムの23.2keV特性X線を測定するのに特に有用な濾波状態のスペクトルの一例である。非濾波スペクトルで得られる信号対雑音の利得と比較した場合の信号対雑音の利得は、10倍を超える。
【0006】
X線焦点合わせ光学素子は、X線管から標的への有効束(フラックス)を桁違いに増大させることができる。本明細書及び特許請求の範囲で用いられる「焦点合わせ光学素子」という用語は、光学素子が用いられない場合に得られる強度と比較して標的へのX線の強度を増大させる多種多様な装置を意味している。本明細書で用いられる「X線レンズ」及び「X線集中装置」という用語は、特に断らなければ「焦点合わせ光学素子」(これには限定されない)と等価なものとして用いられている。X線を焦点合わせする例示の先行技術の方法の基本要素につき図3を参照して説明する。X線管100のアノード116上のX線生成領域301は、典型的には0.1mm2未満の照明領域でX線スペクトルの一部分を標的120上に集中させる焦点合わせ要素303の「物体」(光学的な意味で)である。X線生成領域301は、X線生成「点」と呼ばれる場合がある。この集中を達成するため、アノード116上の電子ビームスポット305のサイズは、典型的には、標的上での分解能と見合っている。理解されるべきこととして、X線の他の多色源、例えばリニアック等は、本発明の範囲内でX線源としての役目を果たすことができる。吸収体309が、焦点合わせ要素303に当たらなかったX線を吸収するが、吸収線は、もしそのように構成されていなければ、標的120に当たる場合がある。
【0007】
実用的な光集中装置は、一般に、かかる集中装置が全反射又はブラッグ散乱を利用するかどうかに基づいて分類される。全反射法は、物質の屈折率がX線エネルギー領域では電磁波について1未満であるという事実を利用する。滑らかなガラス表面からの全反射のための条件は、十分な近似としてEθ≦30であり、EはkeVで表されたX線エネルギーであり、θは、媒質表面に対するミリラジアンで表された入射角である。例えば、30keVのX線は、約1ミリラジアン以下のあらゆる入射角について全反射され、又は、1ミリラジアンの一定の入射角では、約30keV以下の全てのX線は、全反射される。
【0008】
結晶散乱と呼ばれることがあるブラッグ散乱は、X線を配向結晶からコヒーレントに散乱させることができるという事実を利用している。ブラッグ散乱のための条件は、2dsinθ=12.4n/Eであり、この式において、θ及びEは、上述したように、それぞれ、結晶の平面に対する入射角及びkeVで表されたX線エネルギーであり、dは、オングストロームで表された結晶の平面相互間の距離(格子間隔)であり、n(次数)は、典型的には1又は2以下のいずれかの整数である。例と挙げると、d間隔が2オングストロームの結晶を用いると、30keVの場合の1次ブラッグ散乱は、角度θ=5.9°で生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
全反射法とブラッグ散乱法の両方は、エネルギー分散型及び角度分散型実験室用X線分光計で用いられる。これら分光計の大きさ、重量及び電力に関する要件は、従来、重量が数ポンド(1ポンドは、約0.4536kgである)を超えてはならず、長時間のバッテリ寿命を備えなければならない手持ち型又は携帯型XRF分光計には不適合であった。本明細書で説明する方法は、X線光学系を手持ち型XRFシステム用の集中装置として有用なものにする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の好ましい実施形態によれば、集中度の高いX線で標的を照明する2段集中装置が提供される。この集中装置は、多色X線源を有し、X線は、X線生成領域から出ていき、この集中装置は、X線生成領域に実質的に当接した状態で配置されていて、X線の実質的に単色ビームを生じさせるコンバータと、X線の実質的に単色ビームを標的上に集束させる焦点合わせ要素とを更に有する。
【0011】
本発明の他の実施形態によれば、X線生成領域は、粒子の高エネルギービームが当てられるアノードであるのが良く、X線生成領域は、X線管であるのが良い。コンバータは、アノードに当接しているのが良く、また、アノードの一部分に被着された被膜を有するか、アノードに隣接し又は同一の広がりをもつのが良い。
【0012】
別の実施形態では、コンバータは、鉄、亜鉛、モリブデン、銀、テルル、ビスマス、又はトリムのうちの1つであり、一般に、所与の材料で構成可能であり、コンバータは、材料内のX線の単色ビームの平均自由経路の1/10倍を超えるが10倍未満の厚さを備えることを特徴とする。焦点合わせ要素は、例えば、切頭楕円面、切頭対数螺線、又は放物面の形状に一致するよう形作られたブラッグレフレクタであるのが良い。かかる形状のレフレクタを被覆する反射材料は、配向度の高い合成黒鉛又は関心のあるX線を効果的にブラッグ散乱する任意他の頑丈な結晶材料であるのが良い。
【0013】
本発明の別の観点によれば、各々が上述の構成のものである複数個の2段集中装置を有するX線照明器が提供される。2段集中装置の各々は、実質的に別個の元素物質で構成されるのが良い。複数個の2段集中装置は、シーケンス機構体内に配置されるのが良く、シーケンス機構体は、回転シリンダ若しくは平行移動シャトル又は2段集中装置を次々に挿入できる別の形態のものであるのが良い。
【0014】
本発明の更に別の観点によれば、集中度の高いX線で標的を照明する方法が提供される。この方法は、
a.多色X線の初段ビームを生じさせるステップと、
b.多色X線を実質的に単色のX線ビームに変換するステップと、
c.実質的に単色のX線ビームを標的上に焦点合わせするステップとを有する。
【0015】
本発明の特定の実施形態では、多色X線を実質的に単色のX線のビームに変換するステップは、多色X線をKα放射線が6keV〜28keVであることを特徴とする材料に通すステップを含む。
【0016】
本発明の上述の特徴は、添付の図面を参照して行われる以下の詳細な説明を参照することにより容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】先行技術のX線蛍光機器の主なコンポーネントの略図である。
【図2】濾波前後の先行技術のX線源の出力強度とエネルギースペクトルの関係を表すグラフ図である。
【図3】X線を集中させるために用いられる先行技術の光学系の基本要素を示す図である。
【図4】本発明の実施形態としてのX線のスペクトル及び空間集中の2段プロセスを示す図である。
【図5】コンバータとアノードの直径の比が種々の場合において本発明の実施形態に従ってコンバータにより遮られた主要X線のギャップ距離Gの関数としての計算フラクションのプロットを示すグラフ図である。
【図6】図5のクロスポイント仕様の特定の例を用いて図5の遮りの確率を詳細に示す図である。
【図7】2μm金アノードに入射した50keV電子ビームについて計算されたモンテ・カルロ(Monte Carlo)スペクトル及び金アノードから75μmのところに配置された150μmテルルコンバータに続くスペクトルの対数グラフ図である。
【図8】連続スペクトルと比較したテルルの単色特性X線の強度を明確に示すための図7の下側の曲線の線形グラフ図である。
【図9】本発明の実施形態に従ってHOPG楕円レンズの焦点のところに設けられたテルルコンバータの2段集中装置を用いたHRFシステムの要素の略図である。
【図10】各々がHOPG楕円レンズの焦点のところにコンバータを有する複数の2段集中装置を用いたHRFシステムの略図であり、集中装置を本発明の実施形態に従って源とサンプルとの間に連続的に挿入できるようになっている状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
例えば図3に示すと共に背景技術の項において説明した、単一段集中装置を利用するものであると呼ぶことができる先行技術のX線焦点合わせシステムでは、X線管100のアノード305は、焦点合わせ要素303によって形成される物体としてのX線光学レンズである。
【0019】
今図4を参照して説明する本発明の好ましい実施形態によれば、コンバータ400は、X線管100のアノード305の直ぐ隣りに又はこれに隣接して(境を接して)設けられていて、「初段(又は第1段)」X線と呼ばれる放出されたX線402を「第2段X線スペクトル」と呼ばれるほぼ単色のX線スペクトルを有することを特徴とするX線404に変換するようになっている。コンバータ400は、今や、X線光学レンズの新たな物体である。図示の方法は、本明細書では、「2段集中装置」(TSC)と呼ばれる場合がある。コンバータの最適組成、大きさ及び厚さは、特定の用途のパラメータに従って、説明する原理に基づいて選択される。
【0020】
開示する方法は、ブランク集中装置に特に適しているが、全反射を利用した集中装置にとっても有利な場合がある。
【0021】
Gで示されたアノード305とコンバータ400のところの焦点合わせ光学素子の新たな物体との間の間隔は、2段プロセスを明確に示すために図4では大幅に誇張されている。実際には、本発明の好ましい実施形態では、コンバータ400は、有利には、変換効率を最大にするためにアノード305に接している。コンバータをアノードに当接させることは、本発明の好ましい実施形態としての2段集中装置の重要な特徴である。
【0022】
幾何学的効率は、ギャップG及びコンバータの直径で決まる。電子スポットサイズが無視できる場合(即ち、現に点源である場合)、関係は、ちょうど立体角に関する方程式であり、即ち、Ω=0.5(1−cosθ)である。この理想化された場合では、ギャップがコンバータの半径の2倍である場合、幾何学的変換効率は、1/10になる。図5及び図6のグラフ図に反映された計算は、電子ビームスポットの有限サイズを考慮に入れており、幾何学的効率の一段の減少を反映している。倍率が1:1であり、標的スポットサイズが200μmの集中装置の場合、コンバータ半径は、100μmであり、ギャップGは、200μmを超えてはならない。
【0023】
制限的場合、コンバータ400をアノード305に直接当てることにより又はアノード305の一部分をコンバータ400を構成する材料で被覆することにより、スパッタリングにより、或いは別の蒸着方法によりギャップGを最小限に抑えることができる。確かに、アノード305とコンバータ400は、隣接して(境を接して)又は同一の広がりを持つように位置するのが良く、これらは、同一の構造的要素を構成しても良いが、以下に説明するように、コンバータの厚さに適応可能な設計上の検討事項と一致するのが良い。
【0024】
図5及び図6は、ギャップGの重要な性質を定量的な仕方で実証している。図5は、ギャップ長さの関数として且つ0.1刻みの0.9(最も下側の曲線で表されている)から2(最も上の曲線で表されている)までの範囲にわたるコンバータとアノードの直径の種々の比(d/D)に関してコンバータにより遮られた主要X線のフラクションを示している。x軸は、コンバータの直径の単位で表したギャップ幅Gである。コンバータ直径dは、アノードのところのビーム直径の単位で表されている。
【0025】
遮ることができる最大フラクションは、0.5である。というのは、アノード305からの初段X線スペクトルの半分が後側半球内で放出されるからである。図5に示されているクロスポイントは、1つの実用的な組をなすパラメータを表しており、即ち、直径が200μmの電子ビームは、厚さが75μmのベリリウム窓に被着された2μmの金で構成されたアノードに当たり、直径が400μmのコンバータは、ベリリウムに当接している。これらパラメータの結果として、制動X線の30%がコンバータによって遮られることになる。
【0026】
図6は、図5のクロスポイント仕様の特定の例を用いて遮りの確率を詳細に示している。単位面積当たりの遮り確率は、最大値がコンバータの中心に位置するガウス分布のような形をしている。アノードにより放出されたX線の全ての累積フラクションは、コンバータの半径が200μmのところでは30%に達する。
【0027】
コンバータの厚さ
【0028】
コンバータ材料は、特定の用途について所望の単色特性X線を生じさせるよう選択されており、例えば、鉄、モリブデン及びテルルは、それぞれ、6.4keV、17.5keV及び27.5keVの単色放射線を生じさせる。注目されるべきこととして、一般に、ほぼ同じ単色X線エネルギーを生じさせる2つ以上のコンバータ要素が設けられる。例えば、InのKβ線は、TeのKα1線の1%以内の23.3keVである。Inコンバータがより適切なコンバータである用途が存在する場合がある。
【0029】
コンバータ材料の厚さは、求められている信号の信号対雑音を最大にするよう選択されている。一般に、コンバータの厚さは、コンバータ材料中のコンバータX線の平均自由経路のオーダの範囲内にあり、即ち、コンバータ材料中のコンバータX線の平均自由経路の1/10〜10倍である。例えば、テルルの27.5keVKαX線のテルル中の平均自由経路は、175μmである。100μm〜175μmのコンバータ厚さは、高い変換効率を有する。図7は、一例を示しており、図7は、以下の好ましい実施形態の例について計算されたモンテカルロスペクトルの対数グラフ図である。上側の曲線70は、2μmAuアノード上の電子の50keVビームからの特徴的な線及び連続制動放射線のスペクトルである。下側の曲線72は、Auアノードから75μmのところに位置した厚さが150μmのテルルコンバータから前方に出たスペクトルを示している。図8は、前方に向けられたビームの高い単色度を示すコンバータからのスペクトルの線形グラフ図である。
【0030】
本発明の実施形態として本明細書に説明している2段コンバータは、有利には、専用X線管又はX線管と集中装置の特定の位置合わせを不要にする。その結果、伝統的な手持ち型機器よりも使用する電力が低い軽量且つ小型のXRFシステムが得られる。同様に、2段集中装置を有利には、他のX線システム、例えば運搬可能なシステム、ベンチトップ及び実験室システム並びに波長分散型分光計に利用することができる。
【0031】
2段焦点合わせビーム法の利点及び欠点を理解するために、これを視準ビーム法及び伝統的な単一段焦点合わせビーム法と比較すると、有用である。2段法は、単一段法と同じほど多くの全電力を標的上にもたらすわけではないが、視準ビーム法よりも効率が2桁以上高い。比較は、プラスチック、土壌及び他のマトリクス中の毒性元素としてのカドミウムを測定する好ましい用途について行われる。
【0032】
例示の実施形態
【0033】
図9を参照して説明する例示の実施形態によれば、27.5keV単色X線の集中ビームが、物質濃度が調整された毒性元素であるカドミウムの低いレベルのXRF測定のために提供される。この用途について選択された特定の値が記載されているが、理解されるべきこととして、本発明の範囲内において、パラメータの全ての値は、種々の用途に合うように広い範囲にわたって様々であって良い。
【0034】
コヒーレントな反射のためのブラッグ条件を広い範囲の幾何学的形状によって満足させることができる。図9に示すコンポーネントの1つの幾何学的構成は、27.5keVX線の1次散乱のために配向度の高い合成黒鉛(HOPG)の切頭楕円面90を用いている。切頭楕円面90は、長さが3cmであり、中心の内径は、4.2mmである。テルルコンバータ92が、楕円面の中心から4.5cmのところに位置する左側の焦点のところに位置し、標的120は、右側に4.5cmのところに位置している。別の具体化例では、楕円面焦点合わせ要素を放物面又は切頭対数螺線形状に形成しても良い。
【0035】
Teコンバータ92に楕円面焦点合わせ光学素子90を加えたものは、本発明者が便宜上集中装置95と呼ぶ単一の剛性独立ユニットを構成する。伝送用X線管は、厚さ75μmBe端部窓に施された金アノードを有する。テルルコンバータは、Beに当接し、図4〜図6に概略的に示されているギャップGは、75μmである。X線管に対する集中装置95の位置合わせは、単一段法の場合のように重要であるということはない。
【0036】
直径が0.4mmのテルルコンバータ92は、Auアノード305内で生じたX線の30%を遮り、遮ったX線のうちで31.7keVよりも高い約33%を27.5keVのTeKaX線に変換する。楕円面90の幾何学的効率は、約10-3である。HOPGで被覆された楕円面90の反射効率は、約35%である。これらの値は、上述の3つの方法相互の1次比較を可能にする。
【0037】
表1は、コンバータと同一の直径である0.4mm標的に関するモデル計算の結果を示しており、楕円面は、1:1の倍率を有している。本発明者は、厚さ2μmのAuの層で被覆された厚さ75μmのBeアノードに対する50keV電子の20μAビーム(1ワット)を前提とした。
【0038】
表1 2段光学素子、1段光学素子及び視準の相対的効率

【0039】
*:PEコンバータは、31.8keVよりも高いX線の相当多くの部分を27keVX線に変換する。励起エネルギーが低いと、31.8keVから50keVまでのX線よりも蛍光をカドミウムに投与する確率が著しく高くなる。
【0040】
**:幾何学的立体角は、テルル焦点からHOPG法ではレンズまで、視準法では標的までであり、これは、管アノードから20mmのところに位置すると仮定されている。
【0041】
***:15mmのところでの0.3mmの視準を前提としている。
【0042】
表1の特定の例に関する比較結果は、小さな標的スポットにおいて最も高い強度を得るためには、焦点合わせ光学素子を備えた2段コンバータが、変換が行われない焦点合わせ光学素子の場合よりも効率において著しく低いが、焦点合わせ光学素子を使用しない単純な視準よりも効率において著しく高いという一般的な結論を示している。
【0043】
2段法は、重量及び電力が低いことが重要である状況についてこの2段法を魅力的にする二次的な利点を有している。
【0044】
X線管とは独立の集中装置を同一のX線管に用いると、X線管の高い電圧及びコンバータ元素の適正な選択によって数keVから100keVの範囲にわたるエネルギーの集中ビームを生じさせることができる。大まかな経験則では、高い電圧は、コンバータ元素のK結合エネルギーの1.5〜2倍であるべきである。コンバータ元素の選択では、その蛍光収率を考慮に入れることが必要であり、この蛍光収率は、放出されたX線の数と励起回数の比であり、原子数が30を下回ると、急減する量である。テルル(Z=52)、亜鉛(Z=30)、鉄(Z=26)、Ca(Z=20)及びAl(Z=13)は、それぞれ87%、50%、33%、17%及び4%の蛍光収率を有している。
【0045】
特定の用途向きのコンバータの選択は、以下の検討事項の非排他的な一覧表示によって説明できる。
【0046】
a.サンプル中において蛍光を発するようになった1種類又は複数種類の元素:TeKα(又はInKβ)は、Cdを検出するうえで優れた選択肢であり、Pbを検出するのにも利用でき、そのL電子エッジは約15keVである。
【0047】
b.蛍光が回避されるべき元素。Cd(Z=48)に蛍光を投与すべき場合、Cd領域中に望ましくない背景を与えるSb(51)又はSn(50)の蛍光を回避することが望ましい場合が多い。31keVではTeのKβは、両方を励起する。27.3keVでのインジウムのKβ線は、Cdを励起し、TeKaへの有効性は20%に過ぎないが、かかるインジウムのKβ線は、SnとSbのいずれをも励起することができない。HOPGの有限の、場合によっては相当大きな需要帯域幅に鑑みて、Inが好ましい場合がある。
【0048】
c.主要制動放射線を発生させる電子のエネルギー。
【0049】
d.安定した形態のコンバータ材料の利用性。コンバータ元素は空中に位置した状態の2段集中装置により、図3の単一段バージョンで一般に可能な場合よりも遥かに広い範囲の元素の使用が可能になっても何にもならない。このバージョンでは、ベリリウム基板上のアノード元素は、真空中に位置し、電子によって溜まった電力を消散しなければならない。
【0050】
本発明の種々の変形実施形態によれば、集中装置は、これらがX線管とは独立である限り、例えばガンバレル構造内に多重化でき、その結果、標的に蛍光を投与するために種々の単一エネルギーを順次選択することができる。次に、図10を参照して例示の実施形態について説明する。多数の集中装置902,992が、シーケンス機構体950に結合されており、このシーケンス機構体は、源100とサンプル120との間のこれらの順次挿入を可能にする。シーケンス機構体950は、X線ビーム404に実質的に垂直な方向910に平行移動可能なシャトル又はキャリッジであるのが良く、その結果、集中装置992を源とサンプルとの間の経路内の集中装置902に取って代わるように位置決めできるようになっている。変形例として、機械的構造体950は、軸線900回りに回転するよう構成されたシリンダであっても良く、この場合も又、多数の集中装置を順次位置決めする。各集中装置は、別個独立の元素組成のコンバータ92,992を有するのが良く、その結果、互いに異なるエネルギーの単色X線が、シーケンス機構体950の各位置に提供されるようになっている。
【0051】
以下の2つの応用例は、例示である。
【0052】
a.減算により、CdX線の強度を分離するための27.2keV及び27.5keVのTeKaX線の集中装置及び25.0keV及び25.3keVでのSnKaX線の集中装置。X線管の高い電圧は、不変である。
【0053】
b.毒性元素Cd,Pbを測定するための50keVという高い電圧を用いた27.2keV及び27.5keVのTeKaX線の集中装置及び毒性元素Crを測定するための15keVという高い電圧を用いた6.4keVのFeX線の集中装置。
【0054】
注目されるべきこととして、2段法によれば、位置合わせは、一段焦点合わせ法の位置合わせ上の問題よりも重要性が遥かに低い。後者の場合、アノード上に電子スポットを有する焦点合わせ要素の位置合わせは、上首尾の用途にとって最も困難な課題である場合が多い。2段法では、レンズ物体、即ち、好ましい実施形態ではTeの位置合わせは、機械的構成によって固定される。レンズ物体とアノード上の電子ビームの位置合わせは、特に重要であるわけではない。
【0055】
モノキャピラリ及びポリキャピラリ光学素子は、X線を全反射のための臨界角によって定められた最大エネルギーまで集中させる。多くの用途に関し、標的に当たる連続スペクトルは、単色ビームと同じほど有効ではない。2つのポリキャピラリ集中装置と1つのブラッグモノクロメータを組み合わせることによって単色ビームを生じさせる少なくとも1つの市販のポリキャピラリ焦点合わせシステムが利用可能である。本明細書において説明した2段集中装置は、モノキャピラリ又はポリキャピラリ光学素子のためのほぼ単色の源を生じさせる非常に安価且つ非常に簡単でより効果的な方法である。
【0056】
2段法をX線蛍光用途のためのその使用と関連して説明したが、この方法は、有利には、X線の小径の単色ビームが必要な角度分散型及びエネルギー分散型分光法にも利用できる。
【0057】
本明細書において説明した本発明の実施形態は、単に例示であり、多くの変形例及び改造例が当業者には明らかであろう。かかる変形例及び改造例の全ては、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲に含まれるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集中度の高いX線で標的を照明する2段集中装置であって、
a.多色X線源を有し、X線は、X線生成領域から出ていき、
b.前記X線生成領域に実質的に当接した状態で配置されていて、X線の実質的に単色ビームを生じさせるコンバータを有し、
c.前記X線の実質的に単色ビームを前記標的上に集束させる焦点合わせ要素を有する、2段集中装置。
【請求項2】
前記X線生成領域は、粒子のエネルギービームが当てられるアノードである、請求項1記載の2段集中装置。
【請求項3】
前記コンバータは、前記アノードに直に当たっている、請求項2記載の2段集中装置。
【請求項4】
前記コンバータは、前記アノードの一部分に被着された被膜を有する、請求項2記載の2段集中装置。
【請求項5】
前記コンバータは、前記アノードに隣接している、請求項2記載の2段集中装置。
【請求項6】
前記X線生成領域は、X線管である、請求項1記載の2段集中装置。
【請求項7】
前記コンバータは、鉄、亜鉛、モリブデン、銀、テルル、ビスマス、又はトリムのうちの1つである、請求項1記載の2段集中装置。
【請求項8】
前記コンバータは、所与の材料で構成されており、前記コンバータは、前記材料内の前記X線の単色ビームの平均自由経路の1/10倍を超えるが10倍未満の厚さを備えている、請求項1記載の2段集中装置。
【請求項9】
前記焦点合わせ要素は、ブラッグレフレクタである、請求項1記載の2段集中装置。
【請求項10】
前記焦点合わせ要素は、切頭楕円面、切頭対数螺線、又は放物面のうちの1つである、請求項1記載の2段集中装置。
【請求項11】
前記焦点合わせ要素は、配向度の高い合成黒鉛である、請求項1記載の2段集中装置。
【請求項12】
請求項1〜11のうちいずれか一に記載の2段集中装置を複数個有するX線照明器。
【請求項13】
前記複数個の2段集中装置の各々と関連したコンバータは、実質的に別個の元素物質で構成されている、請求項12記載のX線照明器。
【請求項14】
前記複数個の2段集中装置は、シーケンス機構体内に配置されている、請求項12記載のX線照明器。
【請求項15】
前記シーケンス機構体は、回転シリンダである、請求項14記載のX線照明器。
【請求項16】
前記シーケンス機構体は、平行移動シャトルである、請求項14記載のX線照明器。
【請求項17】
集中度の高いX線で標的を照明する方法であって、
a.多色X線の初段ビームを生じさせるステップと、
b.前記多色X線を実質的に単色のX線ビームに変換するステップと、
c.前記実質的に単色のX線ビームを前記標的上に焦点合わせするステップとを有する、方法。
【請求項18】
前記多色X線を実質的に単色のX線のビームに変換する前記ステップは、前記多色X線をKα放射線が6keV〜28keVであることを特徴とする材料に通すステップを含む、請求項17記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−507810(P2010−507810A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534826(P2009−534826)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【国際出願番号】PCT/US2007/082281
【国際公開番号】WO2008/052002
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(508019894)サーモ ニトン アナライザーズ リミテッド ライアビリティ カンパニー (12)
【Fターム(参考)】