説明

2波長赤外線画像処理装置

【課題】従来の2波長赤外線画像処理装置では、太陽が照りつける海面背景下においては、目標物の輝度値よりも海面背景の輝度値の方が高く目標候補が多数存在するため、真の目標候補を抽出するためには更なる処理が必要である。
【解決手段】そのために、本発明の2波長赤外線画像処理装置は、撮影対象域から2つの異なる赤外線の画像を撮影する2波長赤外線カメラ装置、2波長赤外線カメラ装置にて検出された2組の輝度値を記憶する2組の検出画像メモリ、2組の輝度値から各々オフセット相当値を減算して2組の補正輝度値を算出するオフセット処理部、算出された2組の補正輝度値を合成し2波長輝度合成値を算出する画像差分処理部、画像差分処理部にて合成された2波長輝度合成値を記憶する合成画像メモリを備えた。これにより、目標候補の数を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海面上に位置する目標物を特定する2波長赤外線画像処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、2波長帯域の赤外線画像を、2波長赤外線カメラにより同一画角、同一画素数で取得し、2波長赤外線カメラからの出力画像を取り込んで、2波長赤外線カメラのそれぞれの帯域における対応画素毎に(2波長出力画像のそれぞれの対応画素毎に)それぞれの出力値と2波長赤外線の大気減衰率の比から、目標物の温度分布(画素に対応した目標部分の温度)を求める2波長赤外線画像処理方法が提案されている(例えば、特許文献1。)。
【0003】
また、赤外線を入射し、反射する主鏡及び主鏡から反射する赤外線を受け、光軸方向に反射する副鏡とよりなる集光光学系と;集光光学系の主鏡と副鏡との間に配置され、副鏡から反射し、入射する赤外線のうち第1の波長帯は反射し、第2の波長帯は透過するフィルタ及び第1の波長帯を受けて光路を変更する反射鏡からなる2波長分離光学系と;反射鏡からの赤外線を受けて赤外線センサに導き、電気信号に変換する第1の赤外線検知器と;フィルタからの透過光を受けて赤外線センサに導き、電気信号に変換する第2の赤外線検知器と;集光光学系、2波長分離光学系、第1及び第2の赤外線検知器を一体的に組合せると共に、これらを搭載するジンバルとを具備してなる2波長分離光学系による2波長赤外線画像ホーミング装置が提案されている(例えば、特許文献2。)。
【0004】
また、赤外線を結像させる光学系と、赤外線を光電変換する1つの赤外線検知器と、赤外線検知器を駆動させる駆動タイミング発生回路と、駆動タイミング発生回路から出力するフレーム同期信号に同期して、赤外線を複数の異なる波長帯域に分割し、赤外線検知器へ入射させるためのフレーム同期波長分割器と、赤外線検知器からのアナログ画像信号の直流レベルを調整する画像信号調整回路と、画像信号の波長域に対応した感度補正を行う画像信号補正回路とを設け、2種類の波長域の画像信号を出力するた多波長域赤外線撮像装置が提案されている(例えば、特許文献3。)。
【0005】
更には、目標から放出される赤外線を透過するIRドームと、IRドームを透過した光を集光するレンズと、集光中の光を2方向に分けるハーフミラーと、2方向に分けられた光の一方が入射されて入射された光から所定の第1の波長帯成分を透過させる第1の赤外線フィルタと、2方向に分けられた光の他方が入射されて入射された光から第1の波長帯とは異なる所定の第2の波長帯成分を透過させる第2の赤外線フィルタと、第1の赤外線フィルタ経由で集光された光を光電変換する2次元アレイの第1波長帯検知器と、第2の赤外線フィルタ経由で集光された光を光電変換する2次元アレイの第2波長帯検知器と、第1及び第2の波長帯検知器で検知された信号からアレイ素子毎の照度を出力する第1及び第2の照度変換器と、第1及び第2の照度変換器から出力される照度の比をアレイ素子毎に求めて、アレイ素子ごとの温度を計算する温度計算器と、温度計算器で求められた温度が所定の温度範囲となっている領域を真の目標候補として抽出する目標候補算出器とを備えた赤外線画像識別装置が提案されている(例えば、特許文献4。)。
【0006】
しかしながら、特許文献1〜4に記載のものでは、いずれも太陽が照りつける海面背景下においては、目標物の輝度値よりも海面背景の輝度値の方が高く目標候補が多数存在するため、真の目標候補を抽出するためには更なる処理が必要である。
【0007】
【特許文献1】特開2006−162369号公報
【特許文献2】特開平9−166400号公報
【特許文献3】特開平10−262178号公報
【特許文献4】特開2005−337809号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の構成が有していた問題を解決しようとするものであり、太陽が照りつける海面背景下において、海面背景の輝度値よりも相対的に低い目標物を、異なった2波長帯域の赤外線を用いて検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題点に対し本発明は、以下の各手段を以って課題の解決を図る。
【0010】
第1の手段の2波長赤外線画像処理装置は、
撮影対象域から2つの異なる赤外線の画像を撮影する2波長赤外線カメラ装置と、
前記2波長赤外線カメラ装置にて検出された2組の輝度値を記憶する2組の検出画像メモリと、
前記2組の輝度値から各々オフセット相当値を減算して2組の補正輝度値を算出するオフセット処理部と、
算出された2組の補正輝度値を合成し2波長輝度合成値を算出する画像差分処理部と、
前記画像差分処理部にて合成された前記2波長輝度合成値を記憶する合成画像メモリとを備えたことを特徴とする。
【0011】
第2の手段は、請求項1に記載の2波長赤外線画像処理装置において、
前記オフセット処理部は、
前記2組の輝度値の中から低い輝度値を各々オフセット相当値として選出するオフセット算出器と、
前記2組の輝度値から各々前記オフセット相当値を減算して前記2組の補正輝度値を算出するオフセット処理器とにより構成されていることを特徴とする。
【0012】
第3の手段は、第1又は2に記載の2波長赤外線画像処理装置において、
前記オフセット処理部と前記画像差分処理部との間に、少なくとも一方の前記補正輝度値に補正輝度値を乗算する輝度値ゲイン乗算部を備えたことを特徴とする。
【0013】
第4の手段は、第3に記載の2波長赤外線画像処理装置において、
前記輝度値ゲイン乗算部は、
少なくとも一方の前記補正輝度値の中から高い補正輝度値を選出して輝度値ゲインを算出する輝度値ゲイン算出器と、
算出された前記輝度値ゲインを少なくとも一方の前記補正輝度値に乗算する輝度値ゲイン乗算器とにより構成されていることを特徴とする。
【0014】
第5の手段は、第1又は2に記載の2波長赤外線画像処理装置において、
前記オフセット処理部と前記画像差分処理部との間に、前記撮影対象域からの距離に基づく距離ゲインを前記2組の補正輝度値に乗算する距離ゲイン乗算部を備えたことを特徴とする。
【0015】
第6の手段は、第3又は4に記載の2波長赤外線画像処理装置において、
前記輝度値ゲイン乗算部と前記画像差分処理部との間に、前記撮影対象域からの距離に基づく距離ゲインを前記2組の補正輝度値に乗算する距離ゲイン乗算部を備えたことを特徴とする。
【0016】
第7の手段は、第5又は6に記載の2波長赤外線画像処理装置において、
前記距離ゲイン乗算部は、
前記撮影対象域との距離情報を取得する距離情報取得器と、
前記距離情報取得器からの前記距離情報に比例した距離ゲインを算出する距離ゲイン算出器と、
前記2組の前記補正輝度値に前記距離ゲインを乗算する距離ゲイン乗算器とにより構成されていることを特徴とする。
【0017】
第8の手段は、第1乃至7のいずれかに記載の2波長赤外線画像処理装置において、
合成画像メモリからの前記2波長輝度合成値につき、所定の閾値以上のものを1の値とし、前記閾値以下のものを0の値とする2値化演算器と、
前記1の値とされたデータの内、隣接しているものを抽出してグループ化しラベリングするラベリング演算器と、
前記ラベリングされた複数の前記グループの各座標に対応する前記2組の輝度値を前記検出画像メモリから入手し、複数の前記グループ毎に2組の各輝度を演算するラベル毎目標候補輝度演算器と、
前記各グループ毎の2組の輝度に基づき輝度比を演算するラベル毎輝度比演算器と、
前記各グループ毎の輝度比に基づき各グループ毎の温度を演算するラベル毎温度演算器と、
前記各グループ毎の温度に基づき背景画像を除去する背景除去処理器とを備えたことを特徴とする。
【0018】
第9の手段は、第1乃至8のいずれかに記載の2波長赤外線画像処理装置において、
前記2波長赤外線カメラ装置は、
前面の透明基板の裏面に赤外線の入射方向に2組の受光素子層が形成された受光素子と、
前記2組の受光素子層により検出された各輝度を読み出す読み出し回路とを備えたことを特徴とする。
【0019】
第10の手段は、第1乃至9のいずれかに記載の2波長赤外線画像処理装置において、前記2つの異なる赤外線の波長は、第1の赤外線の波長が第2の赤外線の波長の1.5倍以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
特許請求の範囲に記載の各請求項に係る発明は、上記の各手段を採用しており、
検出画像データからオフセット相当値を差し引くことで目標物、波(クラッタ)の各輝度値の評価が可能となり、更に、2波長の赤外線の画像差分処理を行なうことにより、かなりの数の波(クラッタ)の輝度値が低減され、波の輝度値が低くなることにより目標候補の数を低減することができ、その後の輝度比計算、温度推定により背景を除去することができる。また、ゲインを輝度値に乗算することにより、画像差分処理をより効果的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の各実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置につき説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置を示すブロック図である。
図2は、同2波長QWIPを示す斜視図である。
図3は、同演算処理過程における各輝度値を示す図であり、図3(a)は2波長QWIPで検出された各輝度値を示す図、図3(b)はオフセット除去後の各輝度値を示す図、図3(c)は合成された輝度値を示す図である。
図4は、同各画像メモリのデータを画像化した図であり、図4(a)は検出画像メモリに記憶されたデータを画像化した図、図4(b)は合成画像メモリに記憶されたデータを画像化した図である。
【0022】
図5は、本発明の第2の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置を示すブロック図である。
図6は、同演算処理過程における各輝度値を示す図であり、図6(a)は2波長QWIPで検出された各輝度値を示す図、図6(b)はオフセット除去後の各輝度値を示す図、図6(c)は、ゲインを乗算した後の各輝度値を示す図、図6(d)は合成された輝度値を示す図である。
図7は、本発明の第3の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置を示すブロック図である。
図8は、本発明の第4の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置を示すブロック図である。
【0023】
本発明の各実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置は、移動体(船舶、航空機、飛翔体、車両等)に搭載されており、目標物を識別するに際して、目標物から照射される赤外線の輝度が波長によって異なることを利用している。
海面背景下では、波が立つことによる海面での太陽光反射が画面中に多く撮影され、識別したい目標物からの赤外線の輝度値よりも、海面反射背景からの赤外線の輝度値の方が高い。
従って、海面背景下では、目標候補(輝度値の高いもの)が多数存在するため、検出した赤外線の輝度値をそのまま使用した場合、コンピュータ等による処理においては、適切な2値化閾値を設定することが難く、正しく目標候補の抽出、温度推定ができず、海面反射背景を除去することが困難である。
【0024】
しかしながら、2つの異なる波長の赤外線の輝度値の比は、目標物からのものと海面反射背景からのものとで異なる。
例えば、目標物では長いA波長の赤外線(第1の赤外線)の方が短いB波長(第2の赤外線)の赤外線より輝度値が高いのに対して、海面反射背景ではB波長の赤外線の方がA波長の赤外線より輝度値が高いなどの関係がある。
そこで、以下に説明するように、本発明の各実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置では、目標物、海面反射背景等から照射される2つの異なる波長の赤外線の輝度値の比が異なることを利用し、適切に2値化閾値を設定、処理して目標物を識別するものである。
【0025】
(本発明の第1の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置)
先ず、図1〜図4に基づき、本発明の第1の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置につき説明する。
図1に図示のように、本発明の第1の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置は、撮影対象域からの2つの異なるA波長及びB波長の赤外線の画像を撮影(輝度を検出)する2波長赤外線カメラ装置1と、2波長赤外線カメラ装置1にて撮影された各検出画像データ(検出された2組の輝度値)から各々オフセット相当値を減算して2組の補正輝度値を算出するオフセット処理部10と、オフセット処理部10からの2組の補正輝度値を合成(差分処理)し2波長輝度合成値(合成画像データ)を算出する画像差分処理部30と、画像差分処理部30にて合成された2波長輝度合成値(合成画像データ)を記憶する合成画像メモリ40とから構成されている。
【0026】
(2波長赤外線カメラ装置)
2波長赤外線カメラ装置1は、撮影対象域からのA波長の赤外線(第1の赤外線)及びB波長の赤外線(第2の赤外線)を受光し各輝度を検出する2波長赤外線カメラ2と、2組の検出画像メモリ3a、3bとにより構成されている。
この2波長赤外線カメラ2は、図2に図示のように、前面の基板4の裏面に赤外線の入射方向(z方向)に重層された2組の受光素子層(以下、QWIP(Quantum Well Infrared Photo Detector)層と称する)からなる2波長QWIP7を備えている。
また、各QWIP層は、例えば、xy方向に300列×300行(9万画素)に並べられた受光素子により形成されている。
この画素数は任意(例えば、数千画素〜数百万画素)のものとすることができるが、以下9万画素の場合を例として説明する。
【0027】
2波長QWIP7は、前面の基板4と、基板4の裏面に蒸着された表面電極5aと、表面電極5aの裏面に蒸着されたB波長側QWIP層6bと、B波長側QWIP層6bの裏面に蒸着された中間電極5bと、中間電極5bの裏面に蒸着されたA波長側QWIP層6aと、A波長側QWIP層6aの裏面に蒸着された裏面電極5cとにより形成されている。
なお、裏面電極5cは不透明なものを使用することができるが、表面電極5a及び中間電極5bは、赤外線を透過させる材質のものとする。
【0028】
そして、B波長側QWIP層6bにより検出されたB波長赤外線の輝度値(9万個の第2の検出画像データ)は、表面電極5a及び中間電極5bを介して読み出し回路8bにより読み出され、B波長用の検出画像メモリ3bに記憶されるようになっている。
また、A波長側QWIP層6aにより検出されたA波長赤外線の輝度値(9万個の第1の検出画像データ)は、中間電極5b、裏面電極5cを介して読み出し回路8aにより読み出され、A波長用の検出画像メモリ3aに記憶されるようになっている。
2波長QWIP7は、上記のごとく、基板4の裏面にB波長側QWIP層6b及びA波長側QWIP層6aを重層させているので、撮影対象域の各撮影点に対応するA波長赤外線の受光座標とB波長の赤外線の受光座標を完全に一致させることができる。
【0029】
周知のごとく赤外線は、波長が1〜2μmの短波長赤外線、波長が3〜7μmの中波長赤外線、及び波長が8〜12μmの長波長赤外線からなる。
そして、A波長側QWIP層6aにて受光するA波長赤外線の波長(最も高感度の中心波長)は、B波長側QWIP層6bにて受光するB波長赤外線の波長(最も高感度の中心波長)と異ならせる必要があり、A波長赤外線の波長はB波長赤外線の波長の1.5倍以上とすることが好ましい。
なお、A波長赤外線の波長とB波長赤外線の波長との倍率の比の上限は、赤外線の波長域を考慮すれば説明するまでもなく明らかである。
【0030】
例えば、B波長赤外線の波長が1〜2μm(短波長赤外線)の場合、A波長赤外線の波長は3〜5μm(中波長赤外線)または8〜12μm(長波長赤外線)とする。
また、B波長赤外線の波長が3〜5μm(中波長赤外線)の場合、A波長赤外線の波長は8〜12μm(長波長赤外線)とする。
組合せとしては、B波長赤外線の波長を4〜5μm(中波長赤外線)、A波長赤外線の波長を8〜12μm(長波長赤外線)とし、A波長赤外線の波長はB波長赤外線の波長の2倍〜3倍とすることが最も好ましい。
【0031】
次に、図3(a)及び図4(a)に基づき、検出画像メモリ3a、3bに記憶された検出画像データ(A、B波長赤外線の各9万個の輝度値)の内容、及び検出画像メモリ3a、3bに記憶された検出画像データをそのまま画像化したときのイメージにつき説明する。
なお、図4(a)において、斜線の無い部分は明るい箇所(高輝度)を、斜線の部分は比較的明るい箇所(中輝度)を、網掛けの部分は最も暗い箇所(低輝度)を示している。
通常、目標物Xの温度は10〜50℃であり、目標物Xから放射される赤外線の輝度は中程度であり、太陽光が波WW(クラッタ)に反射した海面反射背景は、目標物Xからの赤外線より輝度が高く、海面Wからの赤外線の輝度は低い。
【0032】
そして、検出画像メモリ3aには、図3(a)の上図に図示のような、A波長の赤外線の検出値である目標物X(中輝度)のA波長の輝度値Saij、波WW(高輝度)のA波長の輝度値Caij、及び海面W(低輝度)のA波長の低輝度値(オフセット相当値Oaxの候補)Oaij等、9万個の検出画像データが記憶される。
また、検出画像メモリ3bには、図3(a)の下図に図示のような、B波長の赤外線の検出値である目標物X(中輝度)のB波長の輝度値Sbij、波WW(高輝度)のB波長の輝度値Cbij、及び海面W(低輝度)のB波長の低輝度値(オフセット相当値Obxの候補)Obij等、9万個の検出画像データが記憶される。
なお、各図面においては「i(i=0〜299)」、「j(j=0〜299)」の添え符号は省略して図示している。
また、各符号Saij、Caij、Oaij間において、或いはSbij、Cbij、Obij間において、添え符号「ij」の番号は重複しない。
【0033】
そして、目標物XのA波長の輝度値Saij、或いは目標物XのB波長の輝度値Sbijは、検出画像メモリ3a、3bに記憶されている検出画像データの中で中程度であり、図4(a)において斜線で示すようにイメージされる。
一方、波WWのA波長の輝度値Caij、B波長の輝度値Cbijは、目標物Xより高く、図4(a)において白抜きで示すようにイメージされる。
また、海面WのA波長の低輝度値Oaij、B波長の低輝度値Obijは、目標物Xより低く、図4(a)において網掛けで示すようにイメージされる。
この段階では、目標物Xか、クラッタWWか、海面Wかの判定は困難である。
【0034】
(オフセット処理部)
次に、図1に図示のように、各検出画像メモリ3a、3bに記憶されているA波長の輝度値Saij、Caij、B波長の輝度値Sbij、Cbij、A波長の低輝度値Oaij、B波長の低輝度値Obij等、各9万個の検出画像データは、オフセット処理部10による処理が行なわれる。
先ず、オフセット値算出器11aは、検出画像メモリ3aに記憶されている検出画像データ(A波長の輝度値Saij、Caij、A波長の低輝度値Oaij)を読み出し(入力し)、9万個の検出画像データの中から、低い輝度値をオフセット相当値Oaxとして選出する。
選出されたオフセット相当値Oaxは、オフセット減算器12aに出力される。
【0035】
同様に、オフセット値算出器11bは、検出画像メモリ3bに記憶されている検出画像データ(B波長の輝度値Sbij、Cbij、B波長の低輝度値Obij)を読み出し(入力し)、9万個の検出画像データの中から、低い輝度値をオフセット相当値Obxとして選出する。
選出されたオフセット相当値Obxは、オフセット減算器12bに出力される。
【0036】
なお、オフセット相当値Oax、Obxは、通常、各9万個のデータの中から各々最低輝度値が選出されるが、これに限定されるものではなく、複数回の試験結果(検出された輝度値と最終目標の識別結果との比較等)から、ある程度の増加させた所定(一定)の値(例えば、複数回の試験により得られた値の最低輝度値×1.5倍迄のもの)を採用することも可能である。
或いは、各9万個のデータの内、例えば、最低輝度値から下位1割(9千番目)のもの、又は、例えば、最低輝度値から下位1割(9千番目)迄のものの平均としても良い。
更には、通常、移動体を斜め下向に向かって撮影するため、画面の海面反射背景の画面の上部と下部とでは距離が異なっており、オフセット相当値Oax、Obxを、画像内の距離差に応じて変化させることも可能である。
【0037】
オフセット減算器12aは、検出画像メモリ3aから入力されたA波長の輝度値Saij、Caij、オフセット値算出器11aから入力されたオフセット相当値Oaxとに基づき、各画素毎に次式1、2によりA波長の補正輝度値ΔSaij、ΔCaijを算出する。
ΔSaij=Saij−Oax・・・(1)
ΔCaij=Caij−Oax・・・(2)
なお、海面Wからの赤外線の低輝度値Oaijは、ほぼ0(或いは、A波長の補正輝度値ΔSaijより低い輝度値)となる。
その結果を図3(b)の上図に示す。
演算されたA波長の補正輝度値ΔSaij、A波長の補正輝度値ΔCaij、及び海面Wのほぼ「0」の値等、9万個のデータは、画像差分処理部30に出力される。
【0038】
同様に、オフセット減算器12bは、検出画像メモリ3bから入力されたB波長の輝度値Sbij、Cbij、オフセット値算出器11bから入力されたオフセット相当値Obxとに基づき、各画素毎に次式3、4によりB波長の補正輝度値ΔSbij、ΔCbijを算出する。
ΔSbij=Saij−Obx・・・(3)
ΔCbij=Caij−Obx・・・(4)
なお、海面Wからの赤外線の低輝度値Obijは、ほぼ0(或いは、B波長の補正輝度値ΔSbより低い輝度値)となる。
その結果を図3(b)の下図に示す。
演算されたB波長の補正輝度値ΔSbij、B波長の補正輝度値ΔCbij、及び海面Wのほぼ「0」の値等、9万個のデータは、画像差分処理部30に出力される。
【0039】
なお、演算されたA波長の補正輝度値ΔSaij、A波長の補正輝度値ΔCaij、海面Wのほぼ「0」の値、或いは、B波長の補正輝度値ΔSbij、B波長の補正輝度値ΔCbij、海面Wのほぼ「0」の値等、オフセット減算器12a、12b以降の各9万個のデータは、検出画像メモリ3a、3bとは別の図示略の各補正後メモリに記憶される。
【0040】
画像差分処理部30は、オフセット減算器12aからのA波長の補正輝度値ΔSaij、ΔCaijと、オフセット減算器12bからのB波長の補正輝度値ΔSbij、ΔCbijとに基づき、各画素毎に次式5、6により2波長輝度合成値Sabij、Cabijを算出する。
Sabij=ΔSaij−ΔSbij・・・(5)
Cabij=ΔCaij−ΔCbij・・・(6)
なお、海面Wからの赤外線の輝度値は、ほぼ0となる。
算出された目標物Xの2波長輝度合成値Sabij、波WW(クラッタ)の2波長輝度合成値Cabij、及び海面Wの0の値等、9万個のデータは、合成画像メモリ40に出力され、記憶される。
【0041】
合成画像メモリ40に記憶された目標物Xの2波長輝度合成値Sabij及び波WW(クラッタ)の2波長輝度合成値Cabij等を図3(c)に、合成画像メモリ40に記憶されたデータを画像化したものを図4(b)に示す。
図3(c)に図示のように、目標物Xの2波長輝度合成値Sabijの方が、波WW(クラッタ)の2波長輝度合成値Cabijよりも高い値となっている。
そして、図4(b)に図示のように、目標物Xは高輝度(図中白抜きの部分)となり、大部分の波WW(クラッタ)は中輝度(図中斜線の部分)となり、海面Wは輝度値=0、或いは低輝度(図中網掛けの部分)となる。
なお、図4(b)に図示の例では、完全に波WWを除去することができず、6個の波WW(クラッタ)も高輝度となっている。
【0042】
このように、検出画像データからオフセット相当値Oax、Obxを差し引くことで目標物X、波WW(クラッタ)の各輝度値の評価が可能となり、更に、2波長の赤外線の画像差分処理を行なうことにより、かなりの数の波WW(クラッタ)の輝度値が低減され、波WW(クラッタ)の輝度値が低くなることにより目標候補の数を低減することができる。
【0043】
(本発明の第2の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置)
次に、図5、図6に基づき、本発明の第2の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置につき説明する。
本発明の第2の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置は、第1の実施の形態のものに対し、2組の補正輝度値に基づく輝度値ゲイン乗算部20が、オフセット処理部10と画像差分処理部30との間に設けられている。
即ち、第1の実施の形態のものと同様に、2波長赤外線カメラ装置1(2波長赤外線カメラ2、検出画像メモリ3a、3b)、オフセット処理部10(オフセット値算出器11a、11b、オフセット減算器12a、12b)、画像差分処理部30、合成画像メモリ40を備えている。
【0044】
そこで、輝度値ゲイン乗算部20につき、詳細に説明する。
輝度値ゲイン算出器21には、オフセット処理部10のオフセット減算器12aから、A波長の補正輝度値ΔSaij、ΔCaij等の9万個のデータが送信される。
輝度値ゲイン算出器21は、A波長の補正輝度値ΔSaij、ΔCaij等の9万個のデータの中から値の高いA波長の補正輝度値ΔCaを選出する。
更に、輝度値ゲイン算出器21には、オフセット処理部10のオフセット減算器12bから、B波長の補正輝度値ΔSbij、ΔCbij等の9万個のデータも送信される。
輝度値ゲイン算出器21は、B波長の補正輝度値ΔSbij、ΔCbij等9万個のデータの中から値の高いB波長の補正輝度値ΔCbを選出する。
【0045】
なお、値の高いA波長の補正輝度値ΔCa、高いB波長の補正輝度値ΔCbとは、通常各9万個のデータの中から各々最高のものが選出されるが、これに限定されるものではなく、試験結果(検出された輝度値と最終目標の識別結果との比較等)から、ある程度の減少させた値(例えば最高の補正輝度値×0.8倍のもの)を採用することも可能である。
【0046】
そして、輝度値ゲイン算出器21は、値が高いA波長の補正輝度値ΔCa、B波長の補正輝度値ΔCbとに基づき、次式7により各々輝度比に基づく輝度値ゲインGa、Gbを算出する
ΔCa×Ga=ΔCb×Gb・・・(7)
なお、次式8により一方の輝度値ゲインGa(或いはゲインGb)のみを算出するようにしても良い。
ΔCa×Ga=ΔCb・・・(8)
式8は、式7において、Gb=1としたものに相当する。
【0047】
輝度値ゲイン算出器21にて算出された各輝度値ゲインGa、Gbは、各々輝度値ゲイン乗算器22a、22bに出力される。
そして、輝度値ゲイン乗算器22aは、オフセット減算器12aからのA波長の補正輝度値ΔSaij、ΔCaij等の9万個のデータと輝度値ゲインGaとに基づき、各画素毎に次式9、10により新たなA波長の補正輝度値ΔSaij、ΔCaij等を算出する。
Ga×ΔSaij→ΔSaij・・・(9)
Ga×ΔCaij→ΔCaij・・・(10)
【0048】
また、輝度値ゲイン乗算器22bは、オフセット減算器12bからのB波長の補正輝度値ΔSbij、ΔCbij等の9万個のデータと輝度値ゲインGbとに基づき、各画素毎に次式11、12により新たなB波長の補正輝度値ΔSbij、ΔCaij等を算出する。
Gb×ΔSbij→ΔSbij・・・(11)
Gb×ΔCbij→ΔCbij・・・(12)
輝度値ゲインGa、Gbが乗算された新たなA波長の補正輝度値ΔSaij、ΔCaij、新たなB波長の補正輝度値ΔSbij、ΔCbij等は、画像差分処理部30に送信される。
なお、海面Wのものについては、輝度値がほぼ「0」になっている(厳密には、多少の有限の値を有するものもあるが、A波長の補正輝度値ΔSaij、B波長の補正輝度値ΔSbijより低い)ので、以下説明を省略する。
【0049】
式8より一方の輝度値ゲインGa(或いはゲインGb)のみを算出した場合は、式9、式10(或いは式11、12)により、新たなA波長の補正輝度値ΔSaij、ΔCaij等(或いは新たなB波長の補正輝度値ΔSbij、ΔCbij等)のみが算出される。
この場合、輝度値ゲインGaが乗算された新たな各A波長の補正輝度値ΔSaij、ΔCaij等(或いは、新たなB波長の補正輝度値ΔSbij、ΔCbij等)のみが、画像差分処理部30に送信される。
【0050】
このように各輝度値ゲインGa、Gbが乗算されたときのゲイン乗算輝度値を図6(c)に示す。
なお、図6(a)、(b)は、図3(a)、(b)と同じである。
図6(c)に図示のように、波WW(クラッタ)におけるA波長、B波長のゲイン乗算輝度は、ほぼ等しくなる(Ga×ΔCaij≒Gb×ΔCbij)。
これに対し、目標物XにおけるA波長のゲイン乗算輝度(Ga×ΔSaij)とB波長のゲイン乗算輝度(Gb×ΔSbij)との差は、大きく顕著になっている。
【0051】
輝度値ゲイン乗算器22aにて輝度値ゲインGaが乗算された新たな各A波長の補正輝度値ΔSaij、ΔCaij等は、画像差分処理部30に送信される。
また、輝度値ゲイン乗算器22bにて輝度値ゲインGbが乗算された新たな各B波長の補正輝度値ΔSbij、ΔCbij等も、画像差分処理部30に送信される。
なお、一方の輝度値ゲインGa(或いは輝度値ゲインGb)のみを算出した場合は、オフセット減算器12bにて算出されたB波長の補正輝度値ΔSbij、ΔCbijが、そのまま画像差分処理部30に送信される。
【0052】
画像差分処理部30及び合成画像メモリ40では、本発明の第1の実施の形態のものと同様の処理が行なわれる。
即ち、画像差分処理部30において、A波長の補正輝度値ΔSaij、A波長の補正輝度値ΔCaijと、B波長の補正輝度値ΔSbij、B波長の補正輝度値ΔCbijとに基づき、上式5、6により2波長輝度合成値Sabij、Cabijが算出され、算出された9万個のデータは、合成画像メモリ40に出力され、記憶される。
【0053】
合成画像メモリ40に記憶された目標物Xの2波長輝度合成値Sabij及び波WW(クラッタ)の2波長輝度合成値Cabij等を図6(d)に示す。
図6(d)に示すように、波WW(クラッタ)の2波長輝度合成値Cabijはほぼ「0」となっているのに対し、目標物Xの2波長輝度合成値Sabijは大きい。
図6(d)における波WW(クラッタ)の2波長輝度合成値Cabijと目標物Xの2波長輝度合成値Sabijの比は、図3(c)のものに対し大きく顕著になっている。
従って、本発明の第1の実施の形態のものに対し、波WW(クラッタ)における2波長輝度差(2波長輝度合成値Cabij)が小さくなることにより、より一層、目標候補数を低減することができる。
【0054】
(本発明の第3の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置)
次に、図7に基づき、本発明の第3の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置につき説明する。
本発明の第3の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置は、第1の実施の形態のものに対し、目標物Xと2波長赤外線カメラ装置1等が搭載された移動体(船舶、航空機、飛翔体、車両等)との距離情報に基づき距離ゲインを算出、処理する距離ゲイン乗算部50が、オフセット処理部10と画像差分処理部30との間に設けられている。
即ち、第1の実施の形態のものと同様に、2波長赤外線カメラ装置1(2波長赤外線カメラ2、検出画像メモリ3a、3b)、オフセット処理部10(オフセット値算出器11a、11b、オフセット減算器12a、12b)、画像差分処理部30、合成画像メモリ40を備えている。
【0055】
そこで、距離ゲイン乗算部50につき、詳細に説明する。
距離ゲイン乗算部50は、距離情報取得器51、距離ゲイン算出器52及び距離ゲイン乗算器53a、53bを備えている。
距離情報取得器51は、例えばレーダー等の他の距離測定器から、目標物と2波長赤外線カメラ装置1等が搭載された自己の移動体との間の距離情報を取得する。
なお、レーダー等の他の距離測定器は、自己の移動体内に設ける場合、別の航空機に設ける場合、或いは地上観測所に設ける場合等がある。
距離測定器が自己の移動体外に設けられている場合は、距離情報取得器51は、無線受信機及び入力用インターフェース等により構成される。
距離測定器が自己の移動体内に設けられている場合は、距離情報取得器51は、入力用インターフェース等により構成される。
【0056】
距離ゲイン算出器52は、距離情報取得器51にて取得した距離情報に基づき、距離に比例した一定の距離ゲインGda、Gdbを算出し、距離ゲイン乗算器53a、53bに送信する。
このA波長の赤外線用の距離ゲインGda、B波長の赤外線用の距離ゲインGdbは、A波長の赤外線用のA波長側QWIP層6aの感度と、B波長の赤外線用のB波長側QWIP層6bの感度との感度差や、距離によるA波長とB波長の透過率の差等を補正(是正)するものである。
【0057】
距離ゲイン乗算器53aには、オフセット処理部10のオフセット減算器12aから、A波長の補正輝度値ΔSaij、A波長の補正輝度値ΔCaij等の9万個のデータが送信される。
距離ゲイン乗算器53aでは、オフセット減算器12aからのA波長の補正輝度値ΔSaij、ΔCaij等の9万個のデータと距離ゲインGdaとに基づき、各画素毎に次式13、14により新たなA波長の補正輝度値ΔSaij、ΔCaij等を算出する。
Gda×ΔSaij→ΔSaij・・・(13)
Gda×ΔCaij→ΔCaij・・・(14)
距離ゲインGdが乗算された新たなA波長の補正輝度値ΔSaij、ΔCaij等は、画像差分処理部30に送信される。
【0058】
同様に、距離ゲイン乗算器53bには、オフセット処理部10のオフセット減算器12bから、B波長の補正輝度値ΔSbij、ΔCbij等の9万個のデータが送信される。
距離ゲイン乗算器53bでは、オフセット減算器12bからのB波長の補正輝度値ΔSbij、ΔCbij等の9万個のデータと距離ゲインGdbとに基づき、各画素毎に次式15、16により新たなB波長の補正輝度値ΔSbij、ΔCbij等を算出する。
Gdb×ΔSbij→ΔSbij・・・(15)
Gdb×ΔCbij→ΔCbij・・・(16)
距離ゲインGdbが乗算された新たなB波長の補正輝度値ΔSbij、ΔCbij等は、画像差分処理部30に送信される。
【0059】
画像差分処理部30及び合成画像メモリ40では、本発明の第1、2の実施の形態のものと同様の処理が行なわれる。
即ち、画像差分処理部30において、A波長の補正輝度値ΔSaij、A波長の補正輝度値ΔCaijと、B波長の補正輝度値ΔSbij、B波長の補正輝度値ΔCbijとに基づき、上式5、6により2波長輝度合成値Sabij、Cabijが算出され、算出された9万個のデータは、合成画像メモリ40に出力され、記憶される。
【0060】
なお、上記のものは、距離ゲインGda、Gdbを一定の値としているが、距離ゲインGda、Gdbを、画像内の距離差に応じて変化させることも可能である。
この場合は、図7に点線で図示のように、2組の9万個の距離ゲインGdaij、Gdbijを記憶する距離ゲインメモリ54が必要となる。
例えば、図4(a)の画像を、移動体から斜め下向に向かって撮影する場合、画面の海面反射背景の画面の上部と下部とでは距離が異なっている。
また、画面上の各行毎(例えば300行)の移動体から海面反射背景迄の距離、或いは距離の上限値及び下限値はレーダー等の他の距離測定器、移動体の状態、及び2波長赤外線カメラ2の向き等から容易に入手できる。
そこで、画面の画素について各行毎に、海面反射背景迄の距離に応じて各々距離ゲインGdaij、Gdbij(i=0〜299、j=0〜299)を演算し、距離ゲインメモリ54に記憶する。
【0061】
そして、距離ゲイン乗算器53aにおいて、オフセット減算器12aからのA波長の補正輝度値ΔSaij、ΔCaij等の9万個のデータと、この9万個のデータの座標に対応する9万個の距離ゲインGdaij(i=0〜299、j=0〜299)とに基づき、各画素毎に上式13、14(GdaをGdaijに置き換え)により新たなA波長の補正輝度値ΔSaij、ΔCaij等を算出するようにしても良い。
同様に、距離ゲイン乗算器53bにおいて、オフセット減算器12bからのB波長の補正輝度値ΔSbij、ΔCbij等の9万個のデータと、この9万個のデータの座標に対応する9万個の距離ゲインGdbij(i=0〜299、j=0〜299)とに基づき、各画素毎に上式15、16(GdbをGdbijに置き換え)により新たなB波長の補正輝度値ΔSbij、ΔCbij等も算出する。
【0062】
また、レーダー等の他の距離測定器により目標物の存在可能な範囲をある程度絞り込める場合には、その絞り込んだ範囲(例えば、座標がi=130〜160、j=140〜170の範囲)の距離ゲインGdaijを、その他の範囲の距離ゲインGdaijと異ならせるようにしても良い。
【0063】
本発明の第3の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置は上記のごとく構成されており、距離情報に基づく距離ゲインGdaij(又は/及びGdbij)によりA波長の補正輝度値(又は/及びB波長の補正輝度値)を補正しているので、2波長差分処理を、より効果的に行なうことができる。
【0064】
(本発明の第4の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置)
次に、図8に基づき、本発明の第4の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置につき説明する。
図8に図示のものは、2波長赤外線カメラ装置1、オフセット処理部10、輝度値ゲイン乗算部20、画像差分処理部30及び合成画像メモリ40を備えた本発明の第2の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置において、合成画像メモリ40に記憶された2波長輝度合成値Sab、Cabを読み出して目標識別部60により背景除去するものである。
【0065】
なお、2波長赤外線カメラ装置1から合成画像メモリ40迄の処理はこれに限定されるものではない。
例えば、2波長赤外線カメラ装置1、オフセット処理部10、画像差分処理部30、合成画像メモリ40(本発明の第1の実施の形態のもの)及び目標識別部60という構成としても良い。
また、2波長赤外線カメラ装置1、オフセット処理部10、距離ゲイン乗算部50、画像差分処理部30、合成画像メモリ40(本発明の第3の実施の形態のもの)及び目標識別部60という構成としても良い。
更には、図8中に点線で図示のように、本発明の第2、3の実施の形態のものを組合わせて、2波長赤外線カメラ装置1、オフセット処理部10、輝度値ゲイン乗算部20、距離ゲイン乗算部50、画像差分処理部30、合成画像メモリ40及び目標識別部60という構成としても良い。
【0066】
以下、目標識別部60につき詳細に説明する、
先ず、2値化演算器61は、合成画像メモリ40から、2波長輝度合成値Sabij、Cabij(“0”のものを含む合計9万個のデータ)を読み出す(入力する)。
2値化演算器61においては、2波長輝度合成値Sabij、Cabij等につき、所定の閾値か否かを判定し、閾値以上であれば“1”とし、閾値以下であれば“0”とする。
この“1”又は“0”の2値化された9万個のデータは、ラベリング演算器62に送信される。
なお、この際に使用する閾値は画面全体で共通とは限らず、画面で区切られた各部分により閾値を調整することも可能である。
【0067】
ラベリング演算器62では、2値化された9万個のデータにつき、“1”の値が隣接しているものを抽出、グルーピングし、そのグループ毎に認識番号を付与(ラベリング)する。
そして、ラベリングされた複数のグループを画面における座標と共にラベル毎目標候補輝度演算器63a、63bに送信する。
なお、図4(b)の例では、目標物Xと6個の波WWがラベリング(識別番号=1〜7)される。
【0068】
ラベル毎目標候補輝度演算器63aでは、各ラベル(識別番号=1〜7)の座標に対応するA波長の輝度値Saij(又はCaij)を検出画像メモリ3aから入手する。
ラベル毎目標候補輝度演算器63bでは、各ラベル(識別番号=1〜7)の座標に対応するB波長の輝度値Sbij(又はCbij)を検出画像メモリ3bから入手する。
そして、各ラベル(グループ)毎に、A波長及びB波長の平均輝度を演算する。
演算された各ラベル(グループ)毎のA波長及びB波長の平均輝度は、ラベル毎輝度比演算器64に送信される。
【0069】
ラベル毎輝度比演算器64では、各ラベル毎のA波長及びB波長の平均輝度に基づき、各ラベル毎の輝度比を演算する。
なお、各ラベル毎の輝度値は平均輝度に限らず、例えば、最低輝度、最高輝度とすることも可能である。
ラベル毎温度演算器65では、ラベル毎輝度比演算器64で演算された各ラベル毎の輝度比を入手(入力)し、各ラベル毎の温度を演算し、その演算結果を背景除去処理器66に送信する。
背景除去処理器66では、各ラベル毎の温度に基づき、背景画像(波WW)を除去する。
その結果、目標物Xが識別される。
【0070】
本発明の第4の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置は上記のごとく構成されており、目標候補の温度を推定することで、太陽光が反射するものを確実に除去できるので、目標物の識別が可能となる。
【0071】
(各演算、処理部の形態)
検出画像メモリ3a、3b、合成画像メモリ40、距離ゲインメモリ54、読み出し回路8a、8b、オフセット処理部10(オフセット値算出器11a、11b、オフセット減算器12a、12b)、輝度値ゲイン乗算部20(輝度値ゲイン算出器21、輝度値ゲイン乗算器22a、22b)、画像差分処理部30、距離ゲイン乗算部50(距離情報取得器51、距離ゲイン算出器52、距離ゲイン乗算器53a、53b)、目標識別部60(2値化演算器61、ラベリング演算器62、ラベル毎目標候補輝度演算器63a、63b、ラベル毎輝度比演算器64、ラベル毎温度演算器65、背景除去処理器66)は、個々の電子回路ユニット(ICユニットカード)の形態のものに限定されるものではなく、電子計算機における、メモリ、プログラム(或いはシーケンス)の形態のものも含むものとする。
【0072】
この場合、各サブプログラムの形態をなすオフセット処理部10、輝度値ゲイン乗算部20、画像差分処理部30、距離ゲイン乗算部50、目標識別部60を、CD−ROM、フラッシュメモリ、フロッピ等の記録媒体に記憶しておき、2波長赤外線カメラ及び電子計算機を備えた移動体(船舶、航空機、飛翔体、車両等)において、記録媒体に記憶された上記のプログラムを移動体の電子計算機にダウンロードして各演算、処理を行なうようにしても良い。
【0073】
更には、上記の各サブプログラムを、着脱式の小型の大容量メモリに書き込んでおき、この大容量メモリを電子計算機の接続端子に差し込んだまま、電子計算機により、着脱式の小型の大容量メモリの一部の領域を各画像メモリ、各ゲインメモリとして使用して、各演算、処理を行なうようにしても良い。
【0074】
(その他の実施の形態)
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明は上記の各実施の形態に限定されず、本発明の範囲内で種々の変更を加えてよいことはいうまでもない。
【0075】
例えば、2波長QWIP7或いは2波長赤外線カメラ装置1は、図2に図示のように、基板4裏面にB波長側QWIP層6bとA波長側QWIP層6aとを重層させたものが最も好ましいが、これに限定されるものではない。
2波長QWIP7に代えて、B波長側QWIP層6b及びA波長側QWIP層6aを個別の基板の裏面に形成し、これらを重ね合わせたものでも良い。
【0076】
更には、特許文献2、4に記載のごとく、入射する赤外線のうち第1の波長帯は反射し、第2の波長帯は透過するフィルタ(ハーフミラー)及び2個の赤外線センサ(照度変換器)等により構成したもの、或いは、特許文献3に記載のごとく、2波長赤外線カメラ装置1に代えて、赤外線検知器と、フレーム同期波長分割器等を設け、2種類の波長域の画像信号を出力するようにしても良い。
但し、これらの場合には、画像の各撮影点に対応する赤外線のA波長の各受光座標と赤外線のB波長の各受光座標を一致させる手段が必要であり、本発明の第1〜4の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置よりも、演算、処理が複雑となる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置を示すブロック図である。
【図2】同2波長QWIPを示す斜視図である。
【図3】同演算処理過程における各輝度値を示す図であり、図3(a)は2波長QWIPで検出された各輝度値を示す図、図3(b)はオフセット除去後の各輝度値を示す図、図3(c)は合成された輝度値を示す図である。
【図4】同各画像メモリのデータを画像化した図であり、図4(a)は検出画像メモリに記憶されたデータを画像化した図、図4(b)は合成画像メモリに記憶されたデータを画像化した図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置を示すブロック図である。
【図6】同演算処理過程における各輝度値を示す図であり、図6(a)は2波長QWIPで検出された各輝度値を示す図、図6(b)はオフセット除去後の各輝度値を示す図、図6(c)は、ゲインを乗算した後の各輝度値を示す図、図6(d)は合成された輝度値を示す図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置を示すブロック図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態に係る2波長赤外線画像処理装置を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0078】
1 2波長赤外線カメラ装置
2 2波長赤外線カメラ
3a、3b 検出画像メモリ
4 基板
5a 表面電極
5b 中間電極
5c 裏面電極
6a A波長側QWIP層
6b B波長側QWIP層
7 2波長QWIP
8a、8b 読み出し回路
10 オフセット処理部
11a、11b オフセット値算出器
12a、12b オフセット減算器
20 輝度値ゲイン乗算部
21 輝度値ゲイン算出器
22a、22b 輝度値ゲイン乗算器
30 画像差分処理部
40 合成画像メモリ
50 距離ゲイン乗算部
51 距離情報取得器
52 距離ゲイン算出器
53a、53b 距離ゲイン乗算器
60 目標識別部
61 2値化演算器
62 ラベリング演算器
63a、63b ラベル毎目標候補輝度演算器
64 ラベル毎輝度比演算器
65 ラベル毎温度演算器
66 背景除去処理器
Saij、Caij A波長の輝度値
Sbij、Cbij B波長の輝度値
Oaij A波長の低輝度値
Oax オフセット相当値
Obij B波長の低輝度値
Obx オフセット相当値
ΔSaij、ΔCaij A波長の補正輝度値
ΔSbij、ΔCbij B波長の補正輝度値
Sabij、Cabij 2波長輝度合成値
Ga、Gb 輝度値ゲイン
Gda、Gdb、Gdaij、Gdbij 距離ゲイン
WW 波
W 海面
X 目標物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影対象域から2つの異なる赤外線の画像を撮影する2波長赤外線カメラ装置と、
前記2波長赤外線カメラ装置にて検出された2組の輝度値を記憶する2組の検出画像メモリと、
前記2組の輝度値から各々オフセット相当値を減算して2組の補正輝度値を算出するオフセット処理部と、
算出された2組の補正輝度値を合成し2波長輝度合成値を算出する画像差分処理部と、
前記画像差分処理部にて合成された前記2波長輝度合成値を記憶する合成画像メモリとを備えたことを特徴とする2波長赤外線画像処理装置。
【請求項2】
前記オフセット処理部は、
前記2組の輝度値の中から低い輝度値を各々オフセット相当値として選出するオフセット算出器と、
前記2組の輝度値から各々前記オフセット相当値を減算して前記2組の補正輝度値を算出するオフセット処理器とにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載の2波長赤外線画像処理装置。
【請求項3】
前記オフセット処理部と前記画像差分処理部との間に、少なくとも一方の前記補正輝度値に補正輝度値を乗算する輝度値ゲイン乗算部を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の2波長赤外線画像処理装置。
【請求項4】
前記輝度値ゲイン乗算部は、
少なくとも一方の前記補正輝度値の中から高い補正輝度値を選出して輝度値ゲインを算出する輝度値ゲイン算出器と、
算出された前記輝度値ゲインを少なくとも一方の前記補正輝度値に乗算する輝度値ゲイン乗算器とにより構成されていることを特徴とする請求項3に記載の2波長赤外線画像処理装置。
【請求項5】
前記オフセット処理部と前記画像差分処理部との間に、前記撮影対象域からの距離に基づく距離ゲインを前記2組の補正輝度値に乗算する距離ゲイン乗算部を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の2波長赤外線画像処理装置。
【請求項6】
前記輝度値ゲイン乗算部と前記画像差分処理部との間に、前記撮影対象域からの距離に基づく距離ゲインを前記2組の補正輝度値に乗算する距離ゲイン乗算部を備えたことを特徴とする請求項3又は4に記載の2波長赤外線画像処理装置。
【請求項7】
前記距離ゲイン乗算部は、
前記撮影対象域との距離情報を取得する距離情報取得器と、
前記距離情報取得器からの前記距離情報に比例した距離ゲインを算出する距離ゲイン算出器と、
前記2組の前記補正輝度値に前記距離ゲインを乗算する距離ゲイン乗算器とにより構成されていることを特徴とする請求項5又は6に記載の2波長赤外線画像処理装置。
【請求項8】
合成画像メモリからの前記2波長輝度合成値につき、所定の閾値以上のものを1の値とし、前記閾値以下のものを0の値とする2値化演算器と、
前記1の値とされたデータの内、隣接しているものを抽出してグループ化しラベリングするラベリング演算器と、
前記ラベリングされた複数の前記グループの各座標に対応する前記2組の輝度値を前記検出画像メモリから入手し、複数の前記グループ毎に2組の各輝度を演算するラベル毎目標候補輝度演算器と、
前記各グループ毎の2組の輝度に基づき輝度比を演算するラベル毎輝度比演算器と、
前記各グループ毎の輝度比に基づき各グループ毎の温度を演算するラベル毎温度演算器と、
前記各グループ毎の温度に基づき背景画像を除去する背景除去処理器とを備えたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の2波長赤外線画像処理装置。
【請求項9】
前記2波長赤外線カメラ装置は、
前面の透明基板の裏面に赤外線の入射方向に2組の受光素子層が形成された受光素子と、
前記2組の受光素子層により検出された各輝度を読み出す読み出し回路とを備えたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の2波長赤外線画像処理装置。
【請求項10】
前記2つの異なる赤外線の波長は、第1の赤外線の波長が第2の赤外線の波長の1.5倍以上であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の2波長赤外線画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−241563(P2008−241563A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84521(P2007−84521)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】