説明

2液型脂肪族ポリウレア樹脂形成用組成物

【課題】 作業環境性及びスプレー性に優れ、発泡の危険性がなく、強靱で良好な耐温水性を示す無溶剤型の2液型脂肪族ポリウレア樹脂形成用組成物を提供すること。
【解決手段】 1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)の変成体と脂環族イソシアネート末端プレポリマーを含有してなる脂肪族ポリイソシアネートA液、第2級脂環族ジアミンとポリオキシアルキレンポリアミンを含有してなるポリアミンB液とを組み合わせてなり、A液とB液を混合することにより常温で脂肪族ポリウレア樹脂被膜を形成することができる2液型脂肪族ポリウレア樹脂形成用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脂肪族ポリイソシアネート成分を含有するA液と、ポリアミン成分を含有するB液の2液からなり、作業環境性及びスプレー性に優れ、かつ塗膜が強靱で耐温水性の優れた無溶剤型の2液型脂肪族ポリウレア樹脂形成用組成物、その使用及び脂肪族ポリウレア樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過剰の4,4’−及び/又は2,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI)と、ポリオキシプロピレングリコールを反応させたMDI系のポリイソシアネートと、ジエチルトルエンジアミン(DETDA)を主成分とする鎖長延長剤とポリオキシプロピレンポリアミンを含むポリアミン成分とからなる芳香族ポリウレアスプレーは高速硬化で、優れた耐水性、耐温水性、耐薬品性、耐熱性を示し、各種塗料、床材、防水材等広範な用途で使用されている。しかしながら、芳香族ポリウレア樹脂は紫外線暴露による黄変や表面チョーキング等の性能劣化が問題であり、屋外用途に使用する場合には通常溶剤系の無黄変塗料を塗布する必要があった。
【0003】
芳香族ポリウレアスプレーの問題点を解決するため、全脂肪族ポリウレア樹脂が広く検討されてきた。特許文献1にはポリオキシプロピレンポリアミンを化学量論的に大過剰のイソホロンジイソシアネート(IPDI)やm−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(m−TMXDI)等の脂肪族ポリイソシアネートと反応させた準プレポリマーと、イソホロンジアミンまたは1,4−ジアミノシクロヘキサン及びポリオキシアルキレンポリアミンからなるポリアミンを反応させるポリウレア樹脂が開示されている。
【0004】
しかし、該方法は反応の遅いIPDIやm−TMXDIを使用した準プレポリマーを使用しても、第1級脂肪族ジアミン鎖長延長剤の脂肪族ポリイソシアネートとの反応が非常に速いため、高速硬化用の高圧衝突混合スプレー機を用いても混合・吐出が不十分で、均一な塗膜形成を連続して行うことが難しい問題があった。
【0005】
なお、この文献において準プレポリマーとはIPDI、TMXDI等の脂肪族ポリイソシアネート単量体と水酸基含有化合物(ポリオール)やポリアミン等との反応をNCO/Hの比率が3以上の条件で反応したもので、多量のイソシアネート単量体を含んだイソシアネート末端プレポリマーを示す。
【0006】
全脂肪族ポリウレア樹脂の硬化速度を遅延させスプレー作業性を改善する方法として、第2級のジアミンであるビス(N−アルキルアミノシクロヘキシル)メタン類を使用する方法が特許文献2に、イソホロンジアミン等の脂環族ジアミンの約20%から80%を2級化したジアミンを使用する方法が特許文献3に開示されている。
【0007】
しかし、これらの技術はいずれもポリオキシプロピレンポリアミンと大過剰のIPDIやm−TMXDIと反応させた準プレポリマーを使用したものであり、多量のイソシアネート単量体を含有しており、その飛散に伴う作業環境上の問題や、反応性の低いイソシアネートに起因する発泡の危険性を抱えていた。
【0008】
また、本発明者等による評価では、これらの全脂肪族ポリウレア樹脂は生成した塗膜の耐温水性が悪く、本来ポリウレア樹脂の使用が強く望まれている水回り部位等の用途への展開が制限される問題点があった。さらに全脂肪族ポリウレア樹脂の現場での実用性を上げる上では低粘度で適度な反応性でスプレー性に優れた全脂肪族ポリウレア樹脂が求められている。
【0009】
【特許文献1】特開平5−186560
【特許文献2】特許2759053
【特許文献3】特開平8−53529
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、作業環境性及びスプレー性に優れ、発泡の危険性がなく、強靱で良好な耐温水性を示す無溶剤型の2液型脂肪族ポリウレア樹脂形成用組成物を提供することである。
又、本発明の課題は、2液型脂肪族ポリウレア樹脂形成用組成物用いて効率的に脂肪族ポリウレア樹脂被膜を形成する方法を提供することである。
又、本発明の課題は、2液型脂肪族ポリウレア樹脂形成用組成物用いて形成される脂肪族ポリウレア樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは種々検討を行い、前記課題を総合的に満足させる本発明を完成した。
すなわち、本発明は、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)の変成体と脂環族イソシアネート末端プレポリマーを含有してなる脂肪族ポリイソシアネートA液、第2級脂環族ジアミンとポリオキシアルキレンポリアミンを含有してなるポリアミンB液とを組み合わせてなり、A液とB液を混合することにより常温で脂肪族ポリウレア樹脂被膜を形成することができる2液型脂肪族ポリウレア樹脂形成用組成物を提供する。
本発明は、又、上記A液とB液を、対象物の表面にスプレーガンにより混合・吐出させることを特徴とする脂肪族ポリウレア樹脂被膜の形成方法を提供する。
本発明は、又、上記A液とB液を混合し、常温で硬化させることにより製造できる脂肪族ポリウレア樹脂であって、JIS D硬度が40〜80であり、かつ引張伸びが10〜350%であることを特徴とする脂肪族ポリウレア樹脂を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の2液型脂肪族ポリウレア樹脂形成用組成物は揮発性のイソシアネート単量体を実質的に含まないためイソシアネート単量体の飛散による作業環境の悪化がなく、またHDIの変性体と脂環式イソシアネートプレポリマーを組み合わせることにより、低粘度、かつ適度な反応性でスプレー性に優れ、発泡の危険性がなく、強靱で脂肪族ポリウレア樹脂の欠点であった耐温水性が大幅に改良されたものであり、各種塗料、床材、防水材等広汎な用途への展開が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
A液で用いるHDI変性体としては、広く塗料用の架橋剤として使用されているHDIのイソシアヌレート体(3量体)、ウレトジオン体(2量体)、アロハネート体及びビュレット体から選ばれる少なくとも1種を用いるのが好ましい。これらのHDI変性体は従来公知の方法でHDIを変性した後、残存するイソシアネート単量体を薄膜蒸留等で除去するのが好ましく、HDI単量体の含有量は0.3重量%以下であるのがよい。HDIウレトジオン体としては約30重量%のイソシアヌレート体(3量体)を含む市販品を好適に使用できる。好ましいHDI変性体はHDIのイソシアヌレート体、HDIのウレトジオン体、HDIのアロハネート体の少なくとも1種である。
【0014】
A液で用いる脂環族イソシアネート末端プレポリマーとしては、脂環族イソシアネート単量体とポリオールとの反応生成物であるのが好ましい。
ここで、脂環族イソシアネート単量体としては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6−XDI)、水素添加メジフェニルメタンジイソシアネート(H12−MDA)、2,5(6)−ジイソシアネートメチルビシクロ[2,2,1]ヘプタン等が挙げられる。好ましい脂環族イソシアネート単量体はIPDI、H6−XDI、水素添H12−MDIであり、特に好ましい脂環族イソシアネート単量体はIPDIである。
【0015】
脂環族イソシアネート単量体と反応させてイソシアネート末端プレポリマーを製造するポリオールは特に制限はないが、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール等の多価アルコール類、ポリオキシエチレンポリオール(PEG)、ポリオキシプロピレンポリオール(PPG)、ポリオキシブチレンポリオール(PBG)等の平均分子量200〜10000のポリエーテルポリオール類、テトラヒドロフラン(THF)の開環重合によって得られるポリオキシテトラメチレングリコール(PTMEG)、THFとプロピレンオキサイド、3−メチルテトラヒドロフラン、ネオペンチルグリコール等とのカチオン共重合により製造される平均分子量500〜5000の共重合ポリエーテルポリオール、ハイドロキノン、ビスフェノールA等の多価フェノールにエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の低分子アルキレンオキシドの1種以上を付加重合して得られる平均分子量300〜5000のポリエーテルポリオール、ポリエチレンアジペートグリコール、ポリエチレンプロピレンアジペートグリコール、ポリブチレンアジペートグリコール、ポリヘキサメチレンアジペートグリコール、ポリカプロラクトンポリオール(PCL)、PCLとアジペート系ポリエステルポリオールとのエステル交換反応により製造される平均分子量500〜4000の共重合ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、変性ひまし油ポリオール、ポリカーボネートポリオール、水添ビスフェノールA、水添ポリブタジエンポリオール等の平均分子量150〜5000の各種ポリオールなどが挙げられる。所望される性能及び性状に応じて前記ポリオールの2種以上を併用してもよい。
【0016】
これらのうち、PPG、PBG、PTMEG、PCL、THFとプロピレンオキサイド、3−メチルテトラヒドロフラン、ネオペンチルグリコール等とのカチオン共重合により製造される低融点の共重合ポリエーテルポリオール、PCLとアジペート系ポリエステルポリオールのエステル交換反応により製造される共重合ポリエステルポリオールの1種又は2種以上の混合物が好ましい。
【0017】
脂環族イソシアネート末端プレポリマーの製造は脂環族イソシアネート単量体とポリオールを不活性ガス雰囲気下で、必要により触媒の存在下、60〜100℃で行うのが好ましい。脂環族イソシアネート単量体と活性水素化合物との反応は残存するイソシアネート単量体を減少させるためNCO/OH当量比が1.5〜2.2/1.0であるのが好ましく、より好ましくは1.6〜2.0/1.0で行う。2個のイソシアネート基の反応性が異なるIPDIを使用したイソシアネート末端プレポリマーは低粘度でイソシアネート単量体含量が少なく、良好な性能を示し、好適に使用できる。また、脂環族イソシアネート単量体とポリオールとの反応を脂環族イソシアネート単量体が大過剰の条件下で反応し、反応完了後に未反応のイソシアネート単量体を薄膜蒸留法等で除去する方法で脂環族イソシアネート末端プレポリマーを製造することができる。本発明では、脂環族イソシアネート末端プレポリマーとして、平均分子量400〜5,000程度のものを用いるのが好ましい。
【0018】
A液である脂肪族ポリイソシアネートは、HDIのイソシアヌレート体、HDIのウレトジオン体、HDIのアロハネート体等のHDI変性体の1種以上と、分子量が200〜3000のPPG、PTMEG、PCL、THFとプロピレンオキサイド、3−メチルテトラヒドロフラン、ネオペンチルグリコール等とのカチオン共重合により製造される共重合ポリエーテルポリオール、PCLとアジペート系ポリエステルポリオールのエステル交換反応により製造される共重合ポリエステルポリオールから選ばれたポリオールを主成分とするポリオールとIPDIを反応させたイソシアネート末端プレポリマーの混合物で、特に好ましくはイソシアネート単量体が1重量%以下のものである。
【0019】
A液中のHDI変性体の含有量は95〜30重量%であるのが好ましく、より好ましくは90〜40重量%、脂環族イソシアネート末端プレポリマー含有量は5〜70重量%であるのが好ましく、より好ましくは10〜60重量%である。脂環族イソシアネート末端プレポリマー含有量が5%以上であると靱性、柔軟性に優れた塗膜が得られ、70重量%以下だと適度の粘度となり、スプレー塗布時の2液の混合性が良好となる。
【0020】
A液の粘度は25℃で5,000mPa・s/25℃以下であるのが好ましく、より好ましくは3,000mPa・s/25℃以下である。特に好ましくは、300〜3,000mPa・s/25℃である。
【0021】
本発明においてB液で用いる第2級の脂環族ジアミンは、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
【化1】

(式中、R1は1,3−ビス(アルキルアミノ)シクロヘキサン、1,4−ビス(アルキルアミノ)シクロヘキサン、ビス(4−アルキルアミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アルキルアミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、N,N’−ジアルキルイソホロンジアミンのアルキルアミノ基を除く残基を表し、R2及びR3は同一でも異なってもよい1〜10個の炭素原子を有するアルキル基を表す)。
【0022】
好ましい第2級の脂環族ジアミンはビス(4−sec−ブチルアミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−sec−ブチルアミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4−オクチルアミノシクロヘキシル)メタン、N,N’−ジイソプロピルイソホロンジアミンである。具体的にはDorf Ketal Chemicals社製のClearlink 1000、Clearlink 3000やHuntsman社製のJefflink 754が市販されている。第2級の脂環族ジアミンは鎖長延長剤として作用する。
【0023】
B液で用いるポリオキシアルキレンポリアミンとしては炭素数が2〜6のオキシアルキレン連鎖からなるポリオキシアルキレンポリアミンで、第1級もしくは第2級のポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン、ポリオキシテトラメチレンジアミン等が挙げられる。好ましいポリオキシアルキレンポリアミンは平均分子量が200〜10000の第1級もしくは第2級のポリオキシプロピレンジアミンやポリオキシプロピレントリアミンである。具体的にはポリオキシアルキレンポリオールを還元アミノ化したHuntsman社製の第1級のジアミンであるD−230、D−400、D−2000、D−4000及び第1級トリアミンT−403,T−3000、T−5000、第2級のN−アルキルジアミンであるXTJ−584,XTJ−585,XTJ−576、第2級のN−アルキルトリアミンであるXTJ−586である。
【0024】
B液中の第2級の脂環族ジアミンの含有量はA液中のイソシアネート含有率に連動して変化調整されるが、10〜80重量%であるのが好ましく、より好ましくは20〜70重量%である。残部をポリオキシアルキレンポリアミンとするのが好ましい。
又、B液の粘度はA液の粘度に比べて低く、通常1,500mPa・s/25℃以下であり、特に好ましくは、100〜1,000mPa・s/25℃である。
【0025】
脂肪族ポリウレア樹脂を製造する際のA液とB液の混合比は容積比率でA:B=1:10〜10:1の範囲で設定するのが好ましく、A液及びB液の混合精度やスプレー機の汎用性より、容積比率で1:1またはその近傍が特に好ましい。容積比率設定においてNCO/NH2(当量比)は0.8〜1.4になるよう調整するのがよい。好ましい当量比は0.9〜1.2である。当量比が0.8以上であると、物性低下が生じにくく残存するアミンに起因する黄変が起こりにくくなる。当量比が1.4以下だと余分のイソシアネートが塗膜中に残らなくなり、水分との反応による部分発泡が起こりにくくなる。
【0026】
A液とB液を混合・反応させる場合のゲルタイムについては特に制限はないが、25℃でスタティックミキサー混合・吐出した場合に2〜360秒であるのが好ましく、より好ましくは5〜240秒である。
【0027】
A液とB液と組み合わせてなる本発明の2液型脂肪族ポリウレア樹脂形成用組成物は無触媒であるのが好ましいが、必要によりオレイン酸等の有機酸、オクテン酸錫、オレイン酸錫、スタナスオクトエート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート等の錫系触媒、ネオデカン酸ビスマス等のビスマス系触媒やジルコンキレート等のジルコン系触媒等従来公知の触媒を使用してもよい。これらは、B液に添加しておくのがよい。
【0028】
本発明の2液型脂肪族ポリウレア樹脂形成用組成物には、必要により従来公知の可塑剤を含有させることができる。具体的にはジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジノニルフタレート、ジオクチルアジペート、ジノニルアジペート、アクリルオリゴマー等が挙げられる。これらの可塑剤は、A液、B液のいずれに添加してもよい。
【0029】
本発明の2液型脂肪族ポリウレア樹脂形成用組成物には、さらに、顔料や染料等の着色剤、体質顔料、難燃剤、安定剤、消泡剤等を必要に応じて含有させることができる。これらはA液、B液のいずれに添加してもよいが、B液に添加するのがよい。またこれらはそれぞれ個別のA液、B液に添加してもよく、またB液で用いるポリアミンや可塑剤と混練または溶解したマスターバッチとして別途添加してもよい。
【0030】
本発明では、A液とB液を、スプレー装置により混合して反応させることによって、好ましくは、対象物の表面にスプレーガンにより混合・吐出させることにより脂肪族ポリウレア樹脂被膜を形成するのがよい。A液及びB液は混合の定量性を確保するため、両液の粘度が同等になるよう30〜90℃の範囲で加温して行なうのがよい。
【0031】
スプレー装置としては、調圧調温計量装置と混合装置を備えたスプレーガン及び加温のできるホットホースからなり、スプレーガンとしては2液を衝突混合させる方式のものやスタティックミキサー混合方式のものが好ましい。特に好ましいスプレーガンは衝突混合方式のものである。具体例としてはGusmer社製の調圧調温計量装置「H−2000」、ホットホース及び直接衝突させる混合装置を装着したスプレーガンからなるスプレーシステム、ヒガキマシナリーサービス社製の衝突混合型スプレーガンシステム「PF−1600」、「PF−800」等が挙げられる。
本発明では、上記A液とB液を混合し、常温で硬化させることにより製造できる脂肪族ポリウレア樹脂であって、JIS D硬度が40〜80であり、かつ引張伸びが10〜350%であることを特徴とする脂肪族ポリウレア樹脂をも提供する。ここで、JIS D硬度及び引張伸びは、それぞれJIS K6253及びJIS K6251(1号形ダンベル、引張速度200mm/分)に規定の測定方法に基づいて求めるのがよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例に記載の%、部はそれぞれ重量%、重量部を示す。
【0033】
[実施例及び比較例に使用した合成品及び商品の説明]
1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)の変成体
コロネート HXLV:日本ポリウレタン工業(株)製のHDIのトリマー変成体。NCO含有率23.1%、HDI単量体含有率0.15%。
コロネート 2365:日本ポリウレタン工業(株)製のHDIのウレトジオン変成体。NCO含有率22.6%、HDI単量体含有率0.16%。
コロネート 2770:日本ポリウレタン工業(株)製のHDIとモノアルコールから製造されたアロハネート変成体。NCO含有率19.2%、HDI単量体含有率0.10%。
Desmodur N−3400:Bayer社製のHDIのウレトジオン変成体。NCO含有率21.5%、HDI単量体含有率0.18%。
【0034】
脂環族イソシアネート末端プレポリマー
プレポリマー1
100部の平均分子量1000のPTMEGと12.8部のトリメチロールプロパンを大過剰のIPDIと反応し、反応終了後にフリーのIPDIを薄膜蒸留で除去したイソシアネート末端プレポリマー。構造解析よりプレポリマー組成はPTMEG/TMP/IPDI=47/6/47重量比で、NCO含有率7.7%、IPDI単量体含有率0.80%、粘度2,100mPa・s/75℃。
プレポリマー2
157部の平均分子量1,000のPPGと632部の平均分子量2,000のPPGを211部のIPDIと反応させて得られたイソシアネート末端プレポリマー。NCO含有率3.9%、IPDI単量体含有率1.20%、粘度5,600mPa・s/25℃。
プレポリマー3
旭化成製の平均分子量1000のテトラヒドロフランとネオペンチルグリコールのカチオン共重合によって製造された共重合ポリエーテルポリオール(商品名:PTXG−1000)721部を279部のIPDIと反応させて得られたイソシアネート末端プレポリマー。NCO含有率4.5%、IPDI単量体含有率1.80%、粘度35,000mPa・s/25℃。
比較用プレポリマー1
プレポリマー1におけるIPDIをHDIに代替したイソシアネート末端プレポリマーで、100部の平均分子量1000のPTMEGと12.8部のTMPを大過剰のHDIと反応し、反応終了後にフリーのHDIを薄膜蒸留で除去して合成した。構造解析よりプレポリマー組成はPTMEG/TMP/HDI=53/7/40重量比で、NCO含有率7.5%、HDI単量体含有率0.30%、粘度1,400mPa・s/75℃。
比較用準プレポリマー1
450部のIPDIと550部のJeffamine D−2000を常温で反応させた準プレポリマー。NCO含有率14.1%、IPDI単量体含有率38%、粘度3,100mPa・s/25℃。
比較用準プレポリマー2
500部のm-TMXDIと500部のJeffamine D−2000を常温で反応させた準プレポリマー。NCO含有率14.6%、m-TMXDI単量体含有率44%、粘度1,280mPa・s/25℃。
【0035】
第2級脂環族ジアミン
Clearlink1000:Dorf Ketal Chemicals社製のN,N’−ジ(sec−ブチル)−4,4’−メチレンビスシクロヘキシルアミン
Clearlink3000:Dorf Ketal Chemicals社製のN,N’−ジ(sec―ブチル)−3,3’−ジメチル−4,4‘−メチレンビスシクロヘキシルアミン
Jefflink754:Huntsman社製のN,N’−ジイソプロピルイソホロンジアミン
ポリオキシアルキレンポリアミン
JeffamineD−2000:Huntsman社製の平均分子量2000のポリオキシプロピレンジアミン
JeffamineT−5000:Huntsman社製の平均分子量5000のポリオキシプロピレントリアミン
【0036】
[試験体作製法]
A液とB液をMIXPAC社製の容量比1:1のカートリッジに各々充填し、これにエレメント数21のスタティックミキサーを取り付け、手動で2mmのスペーサーを置いたポリプロピレン板上に吐出し、直ちに上部より押さえて約2mmのシートを作製した。25℃で7日間養生したシートを用い、以下に示す物性試験を行った。25℃で7日間養生した物性を標準物性とした。
【0037】
[物性試験方法]
ゲル化時間:25℃でポリプロピレン板上にスタティックミキサーで混合・吐出した混合液をスパチュラーで上方に引っ張り糸を引かなくなるまでの時間を測定し、ゲル化時間とした。
引張強度及び破断時の伸び:作製したシートよりJIS K6251に規定される1号型ダンベルを打ち抜き、上島製作所製ユニトロンTS−3013型試験機により200mm/分の引張速度で測定した。
硬度:作製したシートを3枚重ねにし、JIS K6253に規定されるJIS D硬度計により測定した。
耐温水物性:25℃で7日間養生したシートから打ち抜いた1号形ダンベルを60℃の水に7日間浸漬した後、25℃の水に2時間浸漬し試験片の表面水分を拭き取り、直ちに硬度、引張強度及び破断時の伸びを測定した。
【0038】
(実施例1)
A液の調製
攪拌機、温度計を取り付けたフラスコに窒素雰囲気下で50.0部のDesmodur N−3400、及び50.0部のプレポリマー1を仕込み、50℃で30分間攪拌し、均一混合した。ついで、減圧下で脱泡し、A液を得た。A液の粘度は2,900mPa・s/25℃、HDI単量体及びIPDI単量体の含有量は合計で0.50重量%(以下%と略称する)であった。
B液の調製
攪拌機を取り付けたフラスコに窒素雰囲気下で50.0部のClearlink 1000、及び50部のJeffamine T−5000を順次仕込み、室温で30分間攪拌し、B液を得た。B液の粘度は210mPa・s/25℃であった。
シートの作製及び物性試験
調製したA液及びB液を用い、スタティックミキサーによる前記方法でシートを作製した。スタティックミキサーによる混合・吐出性は良好で、無発泡の均一なシートが作製された。前記物性試験方法によりゲル化時間、標準物性(硬度、引張強度、破断時の伸び)及び耐温水性(硬度、引張強度、破断時の伸び)の試験を実施した。結果を表1に示す。
【0039】
(実施例2〜6)
表1に示す実施例2〜6のA液及びB液を、実施例1と同様の操作により調製した。A液の粘度、イソシアネート単量体含有率の結果を表1に示す。実施例2〜6は本発明のHDI変成体と脂環族イソシアネート末端プレポリマーの種類、量を変化させたもので、スタティックミキサーによる混合・吐出性はいずれも良好で無発泡の均一なシートが作製された。前記物性試験法による実施例2〜6のゲル化時間、標準物性(硬度、引張強度、破断時の伸び)及び耐温水物性(硬度、引張強度、破断時の伸び)の結果を表1に示す。
【0040】
(実施例7)
ヒガキマシナリーサービス社製の調圧調温計量装置、ホットホース及びスプレーガンからなる衝突混合型スプレーガンシステム「PF−1600」を用いて実施例4処方物の100m2のスプレー試験を行った。A液温度70℃、B液温度60℃に調温したところ、A液とB液の圧バランスは同等で、良好なスプレー性を示した。100m2の連続スプレーでスプレーガンの詰まりは無く、塗膜表面はスムーズで良好であった。テフロン(登録商標)板上に約2mm厚でスプレーして作製したシートによる標準物性はJIS D硬度:67、伸び:30%、引張強度:21.7N/mm2、60℃耐温水性はJIS D硬度:63、伸び:35%、引張強度:14.6N/mm2であった。この結果は、実施例4のスタティックミキサーの結果とほぼ同等であった。
































表1

【0041】
(比較例1〜5)
表2に示す比較例1〜5のA液及びB液を、実施例1と同様な操作により調製した。比較例1及び2は脂肪族ポリイソシアネートとしてHDI変成体と比較用のHDI系プレポリマーを使用した例であり、比較例3〜5はIPDI及びm−TMXDIとJeffamine D−2000とからなる準プレポリマーを使用した例である。A液の粘度、イソシアネート単量体含有率の結果を表2に示す。比較例1〜4のスタティックミキサーによる混合・吐出はいずれも良好で、均一なシートを作製することができたが、比較例5のm−TMXDI準プレポリマーをA成分に用いた場合には、ゲル化時間が520秒と遅く部分発泡が見られ、標準物性及び耐温水性の試験は省略した。
【0042】
前記物性試験法による比較例1〜5のゲル化時間、標準物性(硬度、引張強度、破断時の伸び)及び耐温水物性(硬度、引張強度、破断時の伸び)の結果を表2に示す。比較例3及び比較例4の耐温水性試験結果は60℃温水試験中にダンベルが劣化のため軟化・変形したため耐温水性の測定はできなかった。
【0043】
表2

【0044】
上記実施例及び比較例の結果から、本発明の脂肪族ポリウレア樹脂は第1に揮発性のイソシアネート単量体含量が1重量%以下で臭気が無く作業環境性に優れている、第2にイソシアネート単量体が少ないにも拘わらず、低粘度で適度な硬化速度のため良好な作業性を示し、かつ発泡の危険性が小さい、第3に従来の脂肪族系ポリウレア樹脂の欠点であった耐温水性の引張強度保持率が比較例の31%以下に対して本発明は60〜70%と大幅に性能アップしており、各種塗料、床材、防水材等広汎な用途に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)の変成体と脂環族イソシアネート末端プレポリマーを含有してなる脂肪族ポリイソシアネートA液、第2級脂環族ジアミンとポリオキシアルキレンポリアミンを含有してなるポリアミンB液とを組み合わせてなり、A液とB液を混合することにより常温で脂肪族ポリウレア樹脂被膜を形成することができる2液型脂肪族ポリウレア樹脂形成用組成物。
【請求項2】
A液が揮発性のイソシアネート単量体を実質的に含まず、かつHDI変成体がHDIのイソシアヌレート体、HDIのウレトジオン体、HDIのアロハネート体及びHDIのビューレット体から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
第2級の脂環族ジアミンが下記式(1)で表される化合物群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2記載の組成物。

(式中、R1は1,3−ビス(アルキルアミノ)シクロヘキサン、1,4−ビス(アルキルアミノ)シクロヘキサン、ビス(4−アルキルアミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アルキルアミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン又はN,N’−ジアルキルイソホロンジアミンのアルキルアミノ基を除く残基を表し、R2及びR3は同一でも異なってもよい1〜10個の炭素原子を有するアルキル基を表す。)
【請求項4】
脂環族イソシアネート末端プレポリマーが、脂環族イソシアネート単量体とポリオールとの反応生成物である請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
脂環族イソシアネート末端プレポリマーを構成する脂環族イソシアネート単量体が、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6−XDI)及び水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート(H12−MDI)から選ばれる少なくとも1種であるである請求項4記載の組成物。
【請求項6】
ポリオキシアルキレンポリアミンが、第1級もしくは第2級のポリオキシプロピレンジアミン及びポリオキシプロピレントリアミンから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
無溶剤型であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載のA液とB液を、対象物の表面にスプレーガンにより混合・吐出させることを特徴とする脂肪族ポリウレア樹脂被膜の形成方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項記載のA液とB液を混合し、常温で硬化させることにより製造できる脂肪族ポリウレア樹脂であって、JIS D硬度が40〜80であり、かつ引張伸びが10〜350%であることを特徴とする脂肪族ポリウレア樹脂。

【公開番号】特開2007−9101(P2007−9101A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193587(P2005−193587)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(596122467)株式会社ライトブラック (4)
【Fターム(参考)】