説明

2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類の製造方法、及びそれを用いた光酸発生剤の製造方法

【解決手段】式(1)で示されるフッ素化アルコールと塩素化剤、臭素化剤又はスルホニル化剤とを塩基性条件下に反応させて式(2)で示されるオキシラン前駆体を得た後、このオキシラン前駆体を塩基性条件下に閉環させる一般式(A)で示される2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシランの製造方法。


(R1、R2はフッ素化アルキル基、R3、R4は水素原子又は一価の炭化水素基、Xは塩素原子、臭素原子又は−OSO25基、R5はアルキル基又はアリール基を示す。)
【効果】本発明では、フッ素化オレフィン等、気体であり蒸気吸入の危険性のある取り扱いの困難な原材料を使用することなく、取り扱いの容易な化合物のみを用いて2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類の製造が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類の新規製造方法、及びこれを用いた光酸発生剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2,2−ビス(トリフルオロメチル)オキシラン等の2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類は、部分フッ素化されたオキシラン化合物である。種々の求核剤により容易に開環が可能であり、フルオロアルコール骨格形成のビルディングブロックとして、フォトリソグラフィー等の分野で有用視されている(特許文献1:米国特許出願公開第2008/0177097号明細書、特許文献2:米国特許第6,653,419号明細書)。
【0003】
上述のオキシラン類は対応するフッ素化オレフィンの酸化により製造されている。工業的には、上記特許文献1、特許文献3:特開昭62−53978号公報等に記載の酸素によるフッ素化オレフィンの直接酸化法が知られており、また、特許文献2あるいは非特許文献1:Journal of Fluorine Chemistry Vol.125,p531(2004)に記載の相間移動触媒存在下、次亜塩素酸金属塩を酸化剤とする方法も報告されている。いずれも原材料のフッ素化オレフィンが気体であり、その取り扱いが困難であり、蒸気吸入による有害性が懸念される。また、直接酸化法では有毒なヘキサフルオロアセトン等の副生物も生じる。これら原材料フッ素化オレフィンや副生物(気体あるいは低沸点液体)の取り扱いに関しては、大量合成時なら設備改善により安全に反応を行うことができるかもしれないが、いわゆる多目的釜等の中量、少量設備の場合、安全対策に不安が残り、その製造には未だ課題が残る。
【0004】
上記のオキシラン類を利用した一例として、フォトリソグラフィーで用いる光酸発生剤が挙げられる。特許文献4:特開2010−215608号公報には、2,2−ビス(トリフルオロメチル)オキシランを原材料として利用し、亜硫酸水素塩による開環反応を経由したトリフェニルスルホニウム=2−アシルオキシ−3,3,3−トリフルオロメチル−2−トリフルオロメチルプロパンスルホネートの製造が報告されている。これらフォトレジスト材料の有用な原材料として安全かつ安定な供給を行うためにも、上述のオキシラン類を簡便に入手可能とする製造方法が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0177097号明細書
【特許文献2】米国特許第6,653,419号明細書
【特許文献3】特開昭62−53978号公報
【特許文献4】特開2010−215608号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Fluorine Chemistry Vol.125,p531(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類を簡便かつ安全に製造、供給することを第一の目的とする。また、該製造方法により得られたオキシラン類を原材料とした、フォトリソグラフィーで用いられるオニウム塩系光酸発生剤の製造方法を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、下記製造方法により、取り扱い容易な原材料を用いて、高収率かつ簡便に2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類が入手可能となり、また、この製造方法により得た該オキシラン類を用いてオニウム塩系光酸発生剤を製造可能であることを知見し、本発明をなすに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類の製造方法、及びそれを用いた光酸発生剤の製造方法を提供する。
請求項1:
下記一般式(1)で示されるフッ素化アルコールと塩素化剤、臭素化剤又はスルホニル化剤とを塩基性条件下に反応させて下記一般式(2)で示されるオキシラン前駆体を得た後、このオキシラン前駆体を塩基性条件下に閉環させることを特徴とする下記一般式(A)で示される2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシランの製造方法。
【化1】

(式中、R1、R2はそれぞれ独立に炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のフッ素化アルキル基を示す。R3、R4はそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1〜15の直鎖状、分岐状又は環状の一価の炭化水素基を示すか、あるいはR3とR4は互いに結合してこれらが結合する炭素原子と共に環を形成してもよい。Xは塩素原子、臭素原子又は−OSO25基を示す。R5は炭素数1〜15のヘテロ原子で置換されていてもよい直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、又はアリール基を示す。)
請求項2:
請求項1記載の方法にて製造した一般式(A)で示される2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシランに硫黄化合物を反応させることを特徴とする下記一般式(3)で示されるスルホン酸塩化合物の製造方法。
【化2】

(式中、R1〜R4は請求項1に規定した通りである。Mはカチオン種を示す。)
請求項3:
請求項2記載の一般式(3)で示されるスルホン酸塩化合物に対し、スルホニウム塩又はヨードニウム塩とのイオン交換反応とアシル化反応を施すことを特徴とする下記一般式(4a)又は下記一般式(4b)で示されるスルホニウム塩化合物又はヨードニウム塩化合物の製造方法。
【化3】

(式中、R1〜R4は請求項1に規定した通りである。R6はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜50の直鎖状、分岐状又は環状の一価の炭化水素基を示す。R7、R8、R9はそれぞれ独立にフッ素原子、水酸基又はエーテル結合を有してもよい炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基、アルケニル基又はオキソアルケニル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜18のアリール基、アラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示すか、あるいはR7、R8及びR9のうちいずれか2つ以上が互いに結合して式中の硫黄原子と共に環を形成してもよい。R10、R11は置換もしくは非置換の炭素数6〜18のアリール基、アラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示すか、あるいはR9、R10は互いに結合して式中のヨウ素原子と共に環を形成してもよい。)
【発明の効果】
【0010】
本発明では、フッ素化オレフィン等、気体であり蒸気吸入の危険性のある取り扱いの困難な原材料を使用することなく、取り扱いの容易な化合物のみを用いて2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類の製造が可能である。本発明方法は、気体状の材料の使用を前提とした製造設備を用意することなく、通常の製造設備において様々なスケールに対応可能であり、有毒な副生物も無く、非常に有用な製造方法である。また、本発明により、該オキシラン類を従来の供給方法で得ずとも、フォトリソグラフィーで用いられるオニウム塩系光酸発生剤の製造までを一貫して行うことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、フォトレジスト材料の有用な原材料として、2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類を安全かつ安定に供給を行うために、鋭意検討を重ねた。その結果、下記一般式(1)で示される化合物を出発物質とし、下記一般式(2)で示される化合物を経由することにより、気体であり蒸気吸入の危険性のある取り扱いの困難な原材料を使用することなく、極めて簡単に取り扱える化合物のみを用いて、2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類の製造を行うことに成功した。更には、得られた該オキシラン類を使用して、オニウム塩系光酸発生剤まで一貫して製造する方法を確立することに成功し、本発明を完成させたものである。
【0012】
【化4】

(式中、R1、R2はそれぞれ独立に炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のフッ素化アルキル基を示す。R3、R4はそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1〜15の直鎖状、分岐状又は環状の一価の炭化水素基を示すか、あるいはR3とR4は互いに結合してこれらが結合する炭素原子と共に環を形成してもよい。Xは塩素原子、臭素原子又は−OSO25基を示す。R5は炭素数1〜15のヘテロ原子で置換されていてもよい直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、又はアリール基を示す。)
【0013】
上記式中、R1、R2で示す炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のフッ素化アルキル基として、具体的には下記のものを例示できるが、これらに限定されるものではない。
【化5】

(式中、破線は結合手を示す。以下同様。)
上記のうち、置換基R1、R2として特にトリフルオロメチル基が好ましい。
【0014】
上記式中、R3、R4で示す炭素数1〜15の直鎖状、分岐状又は環状の一価の炭化水素基として、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基、シクロペンチルエチル基、シクロペンチルブチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、シクロヘキシルブチル基、ノルボルニル基、オキサノルボルニル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、アダマンチル基等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
上記式中、R3とR4が互いに結合して形成してもよい環として、具体的には下記に示す構造を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【化6】

上記のうち、置換基R3、R4として特に水素原子が好ましい。
【0016】
上記一般式(2)中、Xが−OSO25基である場合、R5で示す炭素数1〜15のヘテロ原子で置換されていてもよい直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、あるいはアリール基として、具体的には下記のものを例示できるが、これらに限定されるものではない。
【化7】

上記のうち、置換基R5として特に4−トリル基が好ましい。
【0017】
以下、本発明の2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類、及びオニウム塩系光酸発生剤の製造方法を詳述する。
第一に、本発明の2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類(A)の製造方法は、下記反応式で示すように、フッ素化アルコール化合物(1)を出発物質とし、オキシラン前駆体(2)を経由することを特徴とする。
【化8】

(式中、R1〜R4及びXは上記と同様である。)
【0018】
ステップ1の反応は、上記一般式(1)で示されるフッ素化アルコール化合物を出発物質とし、上記一般式(2)で示されるオキシラン前駆体へ変換する工程を説明する。出発物質であるフッ素化アルコール化合物(1)は、特開2007−204385号公報を参考に合成できる。
オキシラン前駆体(2)がスルホネート{式(2)においてXが−OSO25基}の場合、例えば、フッ素化アルコール化合物(1)とp−トルエンスルホニルクロリド、あるいはp−トルエンスルホン酸無水物等のスルホニル化剤とを塩基性条件下反応させることにより、対応するスルホネートを得ることができる。反応は無溶媒あるいは塩化メチレン、アセトニトリル、トルエン、キシレン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル等の溶媒中、フッ素化アルコール化合物(1)、対応するスルホニル化剤、それにトリエチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン等の有機塩基類、あるいは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等の無機塩基の水溶液を順次又は同時に加え、必要に応じ冷却あるいは加熱するなどして行うのがよい。
【0019】
スルホニル化剤の使用量は、条件により種々異なるが、例えば、原料のフッ素化アルコール化合物(1)1モルに対して1.0〜1.5モル、特に1.0〜1.1モルとすることが望ましい。塩基の使用量は、塩基自身を溶媒として用いる場合もあるため、反応条件により種々異なるが、原料のフッ素化アルコール化合物(1)1モルに対して、概ね1.0〜20モルの範囲が望ましい。反応温度は0℃〜40℃、特に0℃〜25℃程度で反応を完結させることが好ましい。上記の範囲から外れる場合には、長時間の加熱により系中で2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類(A)の形成と同時に重合が進行したり、原料のフッ素化アルコール化合物(1)の持つ両水酸基がスルホニル化した副生成物が増加したりして、収率が低下する場合がある。反応時間はガスクロマトグラフィー(GC)やシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応を追跡して反応を完結させることが収率の点で望ましいが、通常0.5〜96時間程度である。反応混合物から通常の水系処理(aqueous work−up)又は濾過等の後処理により上記一般式(2)で示されるオキシラン前駆体を得ることができ、蒸留、クロマトグラフィー、再結晶等の常法に従って精製することができるが、化合物の純度が十分高ければ未精製で次工程に進んでもよいし、反応液のまま次工程に連続して進んでもよい。
【0020】
オキシラン前駆体(2)が塩化物又は臭化物{式(2)において脱離基Xが塩素原子又は臭素原子}の場合、例えば、塩素化剤としては塩化チオニル、オキシ塩化リン、塩化オキザリル等、臭素化剤としては三臭化リン、五臭化リン等を用いることができる。
なお、その他の条件は、上記スルホニル化剤を用いた場合と同様とすることができる。
【0021】
上記のように、フッ素化アルコール化合物(1)からオキシラン前駆体(2)を得る場合、脱離基Xは任意に選択可能であるが、前駆体が結晶として得られ、取り扱いが容易となる場合が多いため、スルホネートとすることが好ましい。塩化物又は臭化物の場合、化合物によっては高揮発性あるいは低沸点の液体のため、精製や保存等の取り扱いが困難になる場合がある。
【0022】
ステップ2の反応は、オキシラン前駆体(2)を塩基性条件下閉環させ、2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類(A)へ変換する工程である。
反応は公知の方法により容易に進行するが、例えば、無溶媒、あるいはトルエン、キシレン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル等の溶媒中、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は炭酸カリウム等の無機塩基の水溶液と、オキシラン前駆体(2)を順次又は同時に加え、必要に応じて冷却あるいは加熱するなどして行うのがよい。塩基の使用量は、条件により種々異なるが、例えば、原料のオキシラン前駆体(2)1モルに対して1.0〜1.5モル、特に1.0〜1.1モルとすることが望ましい。反応温度は0℃〜40℃、特に0℃〜25℃程度で反応を完結させることが好ましい。反応時間はガスクロマトグラフィー(GC)やシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応を追跡して反応を完結させることが収率の点で望ましいが、通常0.5〜12時間程度である。上記の範囲から外れる場合には、長時間の加熱により2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類(A)の重合が、あるいは、長時間の撹拌により2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類(A)又は残存するオキシラン前駆体(2)の加水分解等の副反応が起こり、収率が低下する場合がある。反応後は必要に応じて蒸留等の精製を行うことができる。
【0023】
上記ステップ2の反応では、生成する2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類(A)は水と混ざらないオイル状の化合物であるため、溶媒を使用せず無機塩基の水溶液と反応を行った場合、純粋な2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類(A)を水層から分離可能である。蒸留等の精製工程を経ずとも単離可能であるため、非常に効率的である。
【0024】
第二に、上記2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類を原材料とするオニウム塩系光酸発生剤の製造方法について説明する。
2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類を原材料としたオニウム塩系光酸発生剤の製造方法としては、特開2010−215608号公報に、トリフェニルスルホニウム=2−ヒドロキシ−3,3,3−トリフルオロメチル−2−トリフルオロメチルプロパンスルホネート及びその誘導体の製造が報告されている。本発明では、上記(A)で示される2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類(A)の製造に引き続き、同公報記載の方法に従い、オニウム塩系光酸発生剤を一貫して製造することを特徴とする。
【0025】
本発明のオニウム塩系光酸発生剤の製造方法は、上述の製造方法により得られる2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類(A)を原材料として、下記一般式(3)で示されるスルホン酸塩化合物を経由して、下記一般式(4a)及び(4b)で示されるオニウム塩系光酸発生剤を製造することを特徴とする。
【化9】

(式中、R1〜R4は上記と同様である。R6はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜50の直鎖状、分岐状又は環状の一価の炭化水素基を示す。Mはカチオン種を示す。R7、R8、R9はそれぞれ独立にフッ素原子、水酸基又はエーテル結合を有してもよい炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基、アルケニル基又はオキソアルケニル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜18のアリール基、アラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示すか、あるいはR7、R8及びR9のうちいずれか2つ以上が互いに結合して式中の硫黄原子と共に環を形成してもよい。R10、R11は置換もしくは非置換の炭素数6〜18のアリール基、アラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示すか、あるいはR9、R10は互いに結合して式中のヨウ素原子と共に環を形成してもよい。)
【0026】
上記一般式(3)で示されるスルホン酸塩化合物中のカチオン種Mとしては、具体的にはLi、Na、K、Mg1/2、Ca1/2、置換もしくは非置換のアンモニウム、スルホニウム、ヨードニウム等が挙げられる。
【0027】
以下、上記一般式(4a)で示されるスルホニウム塩化合物の合成を例として、その製造方法について詳述する。
【0028】
まず、上記一般式(A)で示される2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類と亜硫酸塩、亜硫酸水素塩等の硫黄化合物との反応から、上記一般式(3)で示されるスルホン酸塩化合物を合成する。本工程では、反応試剤となる硫黄化合物として、種々選択が可能であるが、亜硫酸水素ナトリウムが安価で取り扱い易く、好ましい。
【0029】
この場合、硫黄化合物の使用量は、式(A)のオキシラン1モルに対して1.0〜5.0モル、特に1.0〜3.0モルであることが好ましい。また、反応温度は、10〜40℃、特に20〜40℃であることが好ましく、反応時間は通常4〜24時間であることが好ましい。なお、反応は、水又はメタノール、エタノール、1−プロパノール等のアルコール系溶媒を単独あるいは混合して用いることができるが、特に水を単独で用いることが好ましい。
【0030】
次に、得られたスルホン酸塩化合物(3)に対して、スルホニウムハライド等のスルホニウム塩とのイオン交換を行うことにより、下記一般式(5a)
【化10】

(式中、R1〜R4、R7〜R9は上記と同様である。)
で示されるスルホニウム塩化合物を合成することができる。なお、イオン交換反応は特開2007−145797号公報等に詳しく述べられているが、例えば、スルホン酸塩化合物(3)とスルホニウムハライドをジクロロメタン−水の2層系で反応させ、水層を除去し、有機層を濃縮することで目的物となるスルホニウム塩化合物(5a)を合成・回収することができる。また、スルホン酸塩化合物(3)は一度単離してからイオン交換反応を行ってもよいし、粗製物のままイオン交換反応を行っても構わない。
【0031】
続いて、得られたスルホニウム塩化合物(5a)をアシル化することで、上記一般式(4a)で示されるスルホニウム塩化合物を得ることができる。アシル化反応は、特開2010−215608号公報記載の方法に従い行うことができる。より具体的には、ジクロロメタン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等の有機溶媒中で、カルボン酸クロリド、カルボン酸無水物等のアシル化剤と、トリエチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン等の有機塩基類を用いて反応を行うことができる。
【0032】
なお、上記スルホニウム塩化合物としては、下記式(6a)で示されるものが使用できる。
【化11】

(式中、R7〜R9は上記と同様であり、Zはハロゲン原子等のアニオンである。)
【0033】
このスルホニウム塩化合物の使用量は、式(3)の化合物1モルに対して0.5〜3.0モル、特に0.9〜1.1モルであることが好ましい。また、反応温度は、0〜80℃、特に10〜30℃であることが好ましく、反応時間は通常5分〜1時間である。なお、反応に際し、溶媒は、ジクロロメタン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、アセトニトリル等の有機溶媒又は水を併用することで行うことができる。
【0034】
また、上記アシル化反応において、アシル化剤の使用量は、式(3)の化合物1モルに対して1.0〜10.0モル、特に1.0〜2.0モルであることが好ましい。有機塩基の使用量は、1.0〜2.0モル、特に1.0〜5.0モルが好ましい。反応温度は、0〜80℃、特に10〜30℃であることが好ましく、反応時間は通常0.5〜20時間である。反応に際し、溶媒は、ジクロロメタン、トルエン、ヘキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル等の有機溶媒を用いることができる。
【0035】
なお、別法として、上記一般式(3)で示されるスルホン酸塩化合物(3)が有機溶媒への溶解性の高い第四級アンモニウム塩等{式(3)において、Mが置換もしくは非置換のアンモニウムである}の場合には、(3)を一度単離するなどして、アシル化反応を行った後にスルホニウムハライド等のスルホニウム塩とのイオン交換をすることもできる。
【0036】
以上のスルホニウム塩化合物(4a)の製造工程を下記スキームに示す。ここでは第一段階で用いる亜硫酸塩、亜硫酸水素塩等の硫黄化合物の好ましい例として、亜硫酸水素ナトリウムを示すが、これらに限定されるものではない。
【化12】

(式中、R1〜R9は上記と同様である。Yはヨウ素原子、臭素原子、塩素原子、CH3OSO3等、アニオン種を示す。)
【0037】
ここで、上記一般式(4a)中のスルホニウムカチオン上の置換基R7、R8及びR9として、具体的には以下のものが挙げられる。アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロプロピルメチル基、4−メチルシクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等が挙げられる。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。オキソアルキル基としては、2−オキソシクロペンチル基、2−オキソシクロヘキシル基、2−オキソプロピル基、2−オキソエチル基、2−シクロペンチル−2−オキソエチル基、2−シクロヘキシル−2−オキソエチル基、2−(4−メチルシクロヘキシル)−2−オキソエチル基等を挙げることができる。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、チエニル基等や、4−ヒドロキシフェニル基、4−フルオロフェニル基、4−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、4−tert−ブトキシフェニル基、3−tert−ブトキシフェニル基等のアルコキシフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、4−n−ブチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基等のアルキルフェニル基、メチルナフチル基、エチルナフチル基等のアルキルナフチル基、メトキシナフチル基、エトキシナフチル基等のアルコキシナフチル基、ジメチルナフチル基、ジエチルナフチル基等のジアルキルナフチル基、ジメトキシナフチル基、ジエトキシナフチル基等のジアルコキシナフチル基等が挙げられる。アラルキル基としてはベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基等が挙げられる。アリールオキソアルキル基としては、2−フェニル−2−オキソエチル基、2−(1−ナフチル)−2−オキソエチル基、2−(2−ナフチル)−2−オキソエチル基等の2−アリール−2−オキソエチル基等が挙げられる。また、R7、R8及びR9のうちいずれか2つ以上が互いに結合して式中の硫黄原子と共に環を形成する場合には、これらの環状構造を形成する基としては、1,4−ブチレン、3−オキサ−1,5−ペンチレン等の二価の有機基が挙げられ、硫黄原子と共にその環構造を示すと、テトラヒドロチオフェン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、フェノキサチイン等が挙げられる。更には置換基としてアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等の重合可能な置換基を有するアリール基が挙げられ、具体的には4−アクリロイルオキシフェニル基、4−メタクリロイルオキシフェニル基、4−アクリロイルオキシ−3,5−ジメチルフェニル基、4−メタクリロイルオキシ−3,5−ジメチルフェニル基、4−ビニルオキシフェニル基、4−ビニルフェニル基等が挙げられる。
【0038】
また、具体的にスルホニウムカチオンを示すと、トリフェニルスルホニウム、S−フェニルジベンゾチオフェニウム、10−フェニルフェノキサチイニウム、4−フルオロフェニルジフェニルスルホニウム、4−ヒドロキシフェニルジフェニルスルホニウム、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルスルホニウム、トリス(4−ヒドロキシフェニル)スルホニウム、トリス(4−フルオロフェニル)スルホニウム、4−tert−ブトキシフェニルジフェニルスルホニウム、ビス(4−tert−ブトキシフェニル)フェニルスルホニウム、トリス(4−tert−ブトキシフェニル)スルホニウム、3−tert−ブトキシフェニルジフェニルスルホニウム、ビス(3−tert−ブトキシフェニル)フェニルスルホニウム、トリス(3−tert−ブトキシフェニル)スルホニウム、3,4−ジ−tert−ブトキシフェニルジフェニルスルホニウム、ビス(3,4−ジ−tert−ブトキシフェニル)フェニルスルホニウム、トリス(3,4−ジ−tert−ブトキシフェニル)スルホニウム、ジフェニル(4−チオフェノキシフェニル)スルホニウム、4−tert−ブトキシカルボニルメチルオキシフェニルジフェニルスルホニウム、トリス(4−tert−ブトキシカルボニルメチルオキシフェニル)スルホニウム、(4−tert−ブトキシフェニル)ビス(4−ジメチルアミノフェニル)スルホニウム、トリス(4−ジメチルアミノフェニル)スルホニウム、2−ナフチルジフェニルスルホニウム、(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ジフェニルスルホニウム、(4−n−ヘキシルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)ジフェニルスルホニウム、ジメチル(2−ナフチル)スルホニウム、4−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウム、4−メトキシフェニルジメチルスルホニウム、トリメチルスルホニウム、2−オキソシクロヘキシルシクロヘキシルメチルスルホニウム、トリナフチルスルホニウム、トリベンジルスルホニウム、ジフェニルメチルスルホニウム、ジメチルフェニルスルホニウム、2−オキソ−2−フェニルエチルチアシクロペンタニウム、ジフェニル2−チエニルスルホニウム、4−n−ブトキシナフチル−1−チアシクロペンタニウム、2−n−ブトキシナフチル−1−チアシクロペンタニウム、4−ヒドロキシナフチル−1−チアシクロペンタニウム、4−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ナフチル−1−チアシクロペンタニウム、4−メトキシナフチル−1−チアシクロペンタニウム、2−メトキシナフチル−1−チアシクロペンタニウム等が挙げられる。より好ましくはトリフェニルスルホニウム、4−tert−ブチルフェニルジフェニルスルホニウム、4−tert−ブトキシフェニルジフェニルスルホニウム、トリス(4−tert−ブチルフェニル)スルホニウム、4−tert−ブトキシカルボニルメチルオキシフェニルジフェニルスルホニウム等が挙げられる。更には4−メタクリロイルオキシフェニルジフェニルスルホニウム、4−アクリロイルオキシフェニルジフェニルスルホニウム、4−メタクリロイルオキシフェニルジメチルスルホニウム、4−アクリロイルオキシフェニルジメチルスルホニウム、(4−メタクリロイルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)ジフェニルスルホニウム、(4−アクリロイルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)ジフェニルスルホニウム等が挙げられる。これら重合可能なスルホニウムカチオンに関しては特開平4−230645号公報、特開2005−84365号公報等を参考にすることができ、これら重合可能なスルホニウム塩は後述する高分子量体の構成成分のモノマーとして用いることができる。
【0039】
以上、スルホニウム塩化合物(4a)について例を挙げたが、上記一般式(3)で示されるスルホン酸塩化合物と、ヨードニウムハライド等のヨードニウム塩化合物とのイオン交換反応、アシル化反応を行うことにより、上記一般式(4b)で示されるヨードニウム塩化合物を上記と同様にして得ることができる。
【0040】
この場合、上記ヨードニウム塩化合物としては、下記式(6b)で示されるものを使用し得る。
【化13】

(式中、R10、R11、Zは上記の通り。)
このヨードニウム塩化合物の使用量は、式(3)の化合物1モルに対して0.5〜3.0モル、特に0.9〜1.1モルであることが好ましい。なお、その他の条件は上記と同様である。
【0041】
ここで、上記一般式(4b)で示されるヨードニウム塩化合物のヨードニウムカチオン上の置換基R10、R11としては、上記の置換基R7、R8及びR9と同様のものが挙げられ、具体的なヨードニウムカチオンとして、例えばジフェニルヨードニウム、ビス(4−メチルフェニル)ヨードニウム、ビス(4−(1,1−ジメチルエチル)フェニル)ヨードニウム、ビス(4−(1,1−ジメチルプロピル)フェニル)ヨードニウム、(4−(1,1−ジメチルエトキシ)フェニル)フェニルヨードニウムなどが挙げられる。
【0042】
上記一般式(3)で示されるスルホン酸塩化合物や、上記一般式(4a)、(4b)で示されるスルホニウム塩化合物、ヨードニウム塩化合物は、複雑な工程や高価な原材料を含むことなく合成可能であり、用途に応じてその置換基構造を幅広く変更可能である。本発明によれば、これら塩化合物の原材料となる2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類を比較的安価に、高収率にて、有毒な副生物の生成等もなく入手可能であるため、上記オニウム塩化合物の工業的製造に非常に有利となり得る。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0044】
[実施例1]2,2−ビス(トリフルオロメチル)オキシランの合成
下記に示す方法により、2,2−ビス(トリフルオロメチル)オキシランを合成した。
【0045】
[参考合成例]3,3,3−トリフルオロ−2−トリフルオロメチル−1,2−プロパンジオールの合成
【化14】

特開2007−204385号公報記載の方法を参考に合成を行った。
窒素雰囲気下、水素化ホウ素ナトリウム84g、ジイソプロピルエーテル(IPE)1,450g、水2,000gと25質量%NaOH水溶液1.7gを氷冷し、メチル=3,3,3−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−(トリフルオロメチル)プロパノエート500gを滴下した。室温で24時間撹拌し、20質量%塩酸水溶液444gを氷冷下滴下し、反応を停止した。水層を除去し、有機層の水洗、続いて50℃、6.7kPaの微減圧下濃縮を行い、3,3,3−トリフルオロ−2−トリフルオロメチル−1,2−プロパンジオール61質量%IPE溶液682gを得た(収率95%)。本化合物はこれ以上の精製を行わず、そのまま次反応へ用いた。
1H−NMR(300MHz in DMSO−d6):δ=3.79(2H、s)、5.58(1H、br)、7.64(1H、br)ppm。
【0046】
[合成例1−1]3,3,3−トリフルオロ−1−(p−トルエンスルホニルオキシ)−2−トリフルオロメチルプロパン−2−オールの合成
【化15】

上記[参考合成例]で調製した3,3,3−トリフルオロ−2−トリフルオロメチル−1,2−プロパンジオール61質量%IPE溶液93g、ピリジン140gの混合溶液に、p−トルエンスルホネート54gを含むピリジン140g溶液を氷冷下滴下した。室温にて48時間撹拌後、反応液を氷冷し、20質量%塩酸水溶液678gと氷100gの中へと注ぎ込んで反応を停止した。トルエン500gを加え、分液後、有機層の水洗を行い濃縮し、ヘプタンより再結晶を行うことで3,3,3−トリフルオロ−1−(p−トルエンスルホニルオキシ)−2−トリフルオロメチルプロパン−2−オール74gを得た(収率74%)。
IR(D−ATR):ν=3374、1595、1492、1460、1421、1361、1317、1275、1249、1229、1218、1190、1175、1163、1094、1018、971、926、825、812、792、765、719、705、662、554cm-1
1H−NMR(500MHz in DMSO−d6):δ=2.43(3H、s)、4.31(2H、s)、7.51(2H、m)、7.82(2H、m)、8.69(1H、s)ppm。
【0047】
[合成例1−2]2,2−ビス(トリフルオロメチル)オキシランの合成
【化16】

上記[合成例1−1]で得た3,3,3−トリフルオロ−1−(p−トルエンスルホニルオキシ)−2−トリフルオロメチルプロパン−2−オール70g、水140gの懸濁液を氷冷し、25質量%水酸化ナトリウム水溶液32gを滴下した。氷冷下1時間撹拌を行い、反応液を分液ロートに移した。2層分離した下層側を抜き出し、2,2−ビス(トリフルオロメチル)オキシラン33gを得た(収率91%)。
IR(D−ATR):ν=1402、1366、1196、1149、1060、996、872、759、689、637cm-1
1H−NMR(500MHz in CDCl3):δ=3.28(2H、s)ppm。
【0048】
[実施例2]トリフェニルスルホニウム=2−(アダマンタン−1−カルボニルオキシ)−3,3,3−トリフルオロ−2−トリフルオロメチルプロパン−1−スルホネートの合成
本発明の製造方法により、フォトリソグラフィーの光酸発生剤として用いることができるスルホニウム塩化合物、トリフェニルスルホニウム=2−アダマンチルオキシ−3,3,3−トリフルオロメチル−2−トリフルオロメチルプロパンスルホネートを合成した。
【0049】
[合成例2−1]トリフェニルスルホニウム=3,3,3−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−トリフルオロメチルプロパン−1−スルホネートの合成
【化17】

上記[合成例1−2]で合成した2,2−ビス(トリフルオロメチル)オキシランを用いて、特開2010−215608号公報記載の方法を参考に合成を行った。
2,2−ビス(トリフルオロメチル)オキシラン30g、亜硫酸水素ナトリウム26g、水120gの混合溶液を40℃で10時間撹拌し、3,3,3−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−トリフルオロメチルプロパン−1−スルホン酸ナトリウム水溶液を調製した。引き続き、調製した水溶液にトリフェニルスルホニウムクロリド2,000g/mol水溶液34g、塩化メチレン400gを加え、室温で4時間撹拌した。撹拌後有機層を分取し、これを水洗し、有機層を減圧濃縮後、濃縮液にメチルイソブチルケトンを加えて再び減圧濃縮することで残存する水を留去した。得られた残渣にジイソプロピルエーテルを加えて再結晶を行うことで、トリフェニルスルホニウム=3,3,3−トリフルオロ−2−ヒドロリフェニルスルホニウム=3,3,3−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−トリフルオロメチルプロパン−1−スルホネート74gを得た(収率85%)。
IR(KBr):ν=3060、1476、1448、1329、1253、1227、1191、1145、1029、1011、968、780、760、749、685、497cm-1
1H−NMR(300MHz in DMSO−d6):δ=1.60−1.94(15H、m)、3.55(2H、s)、7.76−7.89(15H、m)ppm。
【0050】
[合成例2−2]トリフェニルスルホニウム=2−(アダマンタン−1−カルボニルオキシ)−3,3,3−トリフルオロ−2−トリフルオロメチルプロパン−1−スルホネートの合成
[合成例2−1]で合成したトリフェニルスルホニウム=3,3,3−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−トリフルオロメチルプロパン−1−スルホネート70g、トリエチルアミン16.2g、4−ジメチルアミノピリジン3.3g、塩化メチレン250gの混合溶液にアダマンタン−1−カルボニルクロリドの44質量%塩化メチレン溶液71gを加え、室温で2時間撹拌し、その後5質量%塩酸水溶液175gを加えて反応を停止した。有機層を分取し、水洗を行い、有機層を減圧濃縮後、濃縮液にメチルイソブチルケトンを加えて再び減圧濃縮することで残存する水を留去した。得られた残渣にジイソプロピルエーテルを加えて再結晶を行うことで、トリフェニルスルホニウム=2−(アダマンタン−1−カルボニルオキシ)−3,3,3−トリフルオロ−2−トリフルオロメチルプロパン−1−スルホネート77gを得た(収率85%)。
IR(KBr):ν=3443、2908、2853、1760、1477、1448、1330、1297、1253、1239、1220、1197、1127、1062、1041、1018、969、750、684、616、595、517、501cm-1
1H−NMR(500MHz in CDCl3):δ=3.28(2H、s)ppm。
【0051】
上記した本発明の実施例1における2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類の製造方法と、先行技術例として、先行例1(米国特許第6,653,419号明細書)及び先行例2(米国特許出願公開第2008/0177097号明細書)の製造方法とを対比すると以下の通りである。
【0052】
【表1】

【0053】
【化18】

【0054】
上記表1に示すように、本発明の製造方法では、第一に、通常取り扱う上で揮散によるロスや、作業者が万一蒸気を吸入する等の恐れのない十分に高沸点の原材料(AA)を用いて2,2−ビス(トリフルオロメチル)オキシランを製造できる。上記原材料(AA)から得られる中間体材料も結晶として取り扱えるものなどが多く、そのため、本発明の製造方法は、工程上冷却が必要となる場合でも、氷冷(0℃周辺)程度までの冷却が可能であれば十分安全に製造を行うことが可能である。また、先行例1では、原材料のフルオロオレフィン(B)の酸化の副生物として、猛毒のヘキサフルオロアセトン(C)が生じているが、本発明では、ヘキサフルオロアセトン(C)をはじめ、有害と認められる廃棄物は確認されなかった。
【0055】
以上のことより、本発明の製造方法により、2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシラン類を簡便かつ安全に製造、供給することが可能となり、光酸発生剤の効率的な製造に非常に有利であることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるフッ素化アルコールと塩素化剤、臭素化剤又はスルホニル化剤とを塩基性条件下に反応させて下記一般式(2)で示されるオキシラン前駆体を得た後、このオキシラン前駆体を塩基性条件下に閉環させることを特徴とする下記一般式(A)で示される2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシランの製造方法。
【化1】

(式中、R1、R2はそれぞれ独立に炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のフッ素化アルキル基を示す。R3、R4はそれぞれ独立に水素原子、又は炭素数1〜15の直鎖状、分岐状又は環状の一価の炭化水素基を示すか、あるいはR3とR4は互いに結合してこれらが結合する炭素原子と共に環を形成してもよい。Xは塩素原子、臭素原子又は−OSO25基を示す。R5は炭素数1〜15のヘテロ原子で置換されていてもよい直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、又はアリール基を示す。)
【請求項2】
請求項1記載の方法にて製造した一般式(A)で示される2,2−ビス(フルオロアルキル)オキシランに硫黄化合物を反応させることを特徴とする下記一般式(3)で示されるスルホン酸塩化合物の製造方法。
【化2】

(式中、R1〜R4は請求項1に規定した通りである。Mはカチオン種を示す。)
【請求項3】
請求項2記載の一般式(3)で示されるスルホン酸塩化合物に対し、スルホニウム塩又はヨードニウム塩とのイオン交換反応とアシル化反応を施すことを特徴とする下記一般式(4a)又は下記一般式(4b)で示されるスルホニウム塩化合物又はヨードニウム塩化合物の製造方法。
【化3】

(式中、R1〜R4は請求項1に規定した通りである。R6はヘテロ原子を含んでもよい炭素数1〜50の直鎖状、分岐状又は環状の一価の炭化水素基を示す。R7、R8、R9はそれぞれ独立にフッ素原子、水酸基又はエーテル結合を有してもよい炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状のアルキル基、アルケニル基又はオキソアルケニル基、又は置換もしくは非置換の炭素数6〜18のアリール基、アラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示すか、あるいはR7、R8及びR9のうちいずれか2つ以上が互いに結合して式中の硫黄原子と共に環を形成してもよい。R10、R11は置換もしくは非置換の炭素数6〜18のアリール基、アラルキル基又はアリールオキソアルキル基を示すか、あるいはR9、R10は互いに結合して式中のヨウ素原子と共に環を形成してもよい。)

【公開番号】特開2013−10716(P2013−10716A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144456(P2011−144456)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】