説明

3つのGPS周波数を用いて整数値サイクル(whole−cycle)搬送波位相アンビギュイティを解消する方法

配置非依存であり、屈折が補正され、アンビギュイティが解消された、搬送波位相測定値を取得するための新たな3種周波数技法が記載されている。まず、少なくとも2つのワイドレーン搬送波位相測定値差異に対するアンビギュイティを、対応する周波数加重コード測定値を平均化することによって取得する(210)。そして、これらの2つのアンビギュイティが解消された測定値を結合して、屈折が補正された合成測定値を形成する(220)。結果としての合成測定値は、元の搬送波位相測定値におけるマルチパス・ノイズの増幅に起因して極めてノイズが多い。しかしながら、このノイズの多い屈折が補正された搬送波位相測定値を、別の、ノイズが最小であり、屈折が補正された搬送波位相合成測定値を用いて平滑化することができる。ノイズが最小であり、屈折が補正された合成測定値を、それらの整数値サイクルアンビギュイティを解消する前に初期搬送波位相測定値から構成する(230)。2つの屈折が補正された測定値の差異を平滑化する(240)ことによって、ノイズを低減することができ、低ノイズ測定値におけるバイアス(不正確なアンビギュイティに起因する)を推定して後に補正することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括的には、全地球測位システム(GPS)又は欧州のガリレオシステムのような測位システムにおいて物体の位置を確定する受信器及び方法に関し、特に、3つの周波数を用いて測位システムにおいて搬送波位相測定値における整数値サイクルアンビギュイティを解消する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全地球測位システム(GPS)のような広域測位システムは、地上の物体を測位又は誘導するために人工衛星群を用いる。現在、人工衛星群は、0.1903mのL1波長と0.2442mのL2波長に対応する、(154×10.23MHz)すなわち1572.45MHzであるL1周波数と(120×10.23MHz)すなわち1227.6MHzであるL2周波数の2つの搬送波周波数で信号をブロードキャストする。各々の搬送波周波数について、通常はGPS受信器によって2種類のGPS測定が測位対象の物体についてなされる。この2種類のGPS測定は、擬似距離測定(pseudorange measurement)、及び積算搬送波位相測定(integrated carrier phase measurement)である。擬似距離測定(又はコード測定)は、あらゆる種類のGPS受信器が行なうことができる基本的なGPS可観測量(observable)である。これは搬送波信号に合わせて変調されたC/Aコード又はPコードを用いる。搬送波位相測定は、信号の再構成された搬送波を、受信器に到達するにつれて積算することによって得られる。受信器が信号の搬送波位相の追跡を開始した際に、衛星と受信器との間の遷移における整数値サイクルの数が未知であるため、搬送波位相測定値において整数値サイクルアンビギュイティが存在する。高精度の搬送波位相測定値を達成するには、この整数値サイクルアンビギュイティを解消しなければならない。
【0003】
測定値を利用することができるため、GPS受信器と複数の衛星群の各々との間の範囲又は距離は、信号の移動時間に光速を乗算することによって計算される。測定値が、衛星の時計のタイミング誤差、衛星の軌道の誤差(ephemeris error)、電離層及び対流圏の屈折効果(refraction effect)、受信器の追尾ノイズ及びマルチパス誤差等のような各種の誤差要因に起因する誤差を含み得るため、これらの距離は通常、擬似距離(虚の距離)と呼ばれる。これらの誤差を除去又は低減するために、GPSアプリケーションでは、通常差分動作が用いられる。差分GPS(DGPS)動作は通常、ベース基準GPS受信器、ユーザ側GPS受信器、及びユーザと基準受信器間の通信機構を含む。基準受信器は既知の場所に設置され、当該既知の位置を用いて、上述の誤差要因のうちのいくつか又は全てに関連付けられる補正値を生成する。基準局で生成された補正値又は測定された生データがユーザ側受信器へ送られ、これらの補正値又は生データを用いて、計算された位置を適切に補正する。搬送波位相測定値を用いる差分動作は、リアルタイムキネマティック(RTK)測位/ナビゲーション動作と呼ばれることが多い。
【0004】
しかし、基準受信器で生成された補正値又は測定された生データがユーザ側GPS受信器で有用であるのは、基準受信器及びユーザ側受信器に誤差の空間的且つ時間的相互関係がある場合だけである。擬似距離又は搬送波位相測定値におけるバイアスとして現れるGPS衛星クロックタイミング誤差が、基準受信器とユーザ側受信器との間で完全に相関している一方、他の誤差要因の大部分は相関していないか、又は広域アプリケーションすなわち基準受信器とユーザ側受信器との間の距離が大きくなる場合に、相互関係が減少する。さらに、ユーザ側受信器と基準受信器との間の距離が、例えば約10キロメートル〜20キロメートルを超えるほど大きくなった場合、既存のGPSシステムにおける2つの搬送波周波数では搬送波の整数値サイクルアンビギュイティを解消するには不十分である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、アンビギュイティが解消され、屈折が補正され、且つノイズが最小化された搬送波位相測定値を生成する方法を含む。一実施の形態では、3つの搬送波周波数における初期搬送波位相測定値を用いて、第1の、ワイドレーンアンビギュイティが解消され、屈折が補正された合成搬送波位相測定値が形成される。初期搬送波位相測定値を用いて、第2の、ノイズが最小であり、屈折が補正された合成搬送波位相測定値が形成される。最後に、第1の合成搬送波位相測定値を第2の合成搬送波位相測定値によって平滑化される。
【0006】
いくつかの実施形態では、第2の合成測定値は、解消されていない整数値サイクルアンビギュイティを含む。整数値サイクルアンビギュイティは、まず第2の合成測定値の屈折が補正された波長を推定することことによって解消される。平滑化されたオフセット値は、第1の合成測定値と第2の合成測定値との差を求めることによって確定される。次に、平滑化されたオフセット値は、屈折が補正された波長で除算される。次にその結果は、整数値サイクルアンビギュイティとして最も近い整数値に丸められる。アンビギュイティが解消され、屈折が補正され、且つノイズが最小化された合成測定値は、第2の合成測定値と、屈折が補正された波長及び第2の合成測定値の整数値サイクルアンビギュイティの解消された値を乗算した結果と、を合計することによって達成される。
【0007】
屈折が補正された合成測定値のアンビギュイティを解消する機能によって、搬送波位相差分GPSを用いる際の基線分離(baseline separation)の制約が大幅に解消されるため、グローバルRTK機能が実現可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】アンビギュイティが解消され、屈折が補正され、且つノイズが最小化された搬送波位相測定値を生成する方法を実施するのに用いることができるコンピュータシステムのブロック図である。
【図2】アンビギュイティが解消され、屈折が補正され、且つノイズが最小化された搬送波位相測定値を生成する方法を示すフロー図である。
【図3】アンビギュイティが解消され、屈折が補正され、且つノイズが最小化された搬送波位相測定値を生成する方法で用いられる平滑化処理を示すフロー図である。
【図4】アンビギュイティが解消され、屈折が補正され、且つノイズが最小化された搬送波位相測定値を生成する方法で用いられる代替的な平滑化処理を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に、本発明の一実施形態による、アンビギュイティが解消され、屈折が補正され、且つノイズが最小化された合成搬送波位相測定値を生成する方法の実行に利用可能なコンピュータシステム100を示す。コンピュータシステム100は、複数の衛星群110−1、110−2...,110−nからの信号に基づくGPSコード及び搬送波位相測定値をコンピュータシステム100に供給するユーザ側GPS受信器122に結合されている。ここで、nはユーザ側GPS受信器122から見た衛星の数である。ユーザ側GPS受信器100はまた、複数の衛星群から信号に基づいて測定を行なっている基準GPS受信器140と通信可能な状態にあり、基準GPS受信器140による測定値はユーザ側GPS受信器で取得された測定値に対して補正値を生成するために用いられる。複数の衛星群、又は衛星のうちの任意の1つ若しくは複数は、本明細書において以下に衛星(群)110と呼ぶ場合がある。いくつかの実施形態においてユーザ側GPS受信器122とコンピュータシステム100は、可搬型、携帯型、又はひいては着用可能な位置追跡装置、或いは車両搭載又はその他移動測位及び/若しくはナビゲーションシステムのような、単一の筐体内の単一の装置に一体化されていてもよい。他の実施形態では、ユーザ側GPS受信器122とコンピュータシステム100は単一の装置に一体化されていない。
【0010】
図1に示すように、コンピュータシステム100は、中央処理装置(CPU)126、メモリ128、入力ポート134及び出力ポート136、並びに(任意選択で)ユーザインタフェース138を含み、これらは1つ又は複数の通信バス129によって互いに結合される。メモリ128は、高速ランダムアクセスメモリを含むことができ、また1つ又は複数の磁気ディスク記憶装置のような不揮発性大容量記憶装置を含むことができる。メモリ128は、好適にはオペレーティングシステム131、データベース133及びGPSアプリケーションプロシージャ135を記憶する。GPSアプリケーションプロシージャは、後でさらに詳述するように、本発明の一実施形態に従って、アンビギュイティが解消され、屈折が補正され、且つノイズが最小化された合成搬送波位相測定値を生成する方法を実施するプロシージャ137を含むことができる。メモリ128に記憶されているオペレーティングシステム131並びに、アプリケーションプログラム及びプロシージャ135、137は、コンピュータシステム124のCPU126によって実行される。メモリ128はまた好適には、本明細書に述べる他のデータ構造と共に、GPS擬似距離及び/又は搬送波位相測定値139を含む、GPSアプリケーションプロシージャ135、137の実行中に用いるデータ構造を記憶する。
【0011】
入力ポート134はGPS受信器122からデータを受信するものであり、出力ポート136はデータ及び/又は計算結果を出力するために用いられる。データ及び計算結果はまた、ユーザインタフェース138のディスプレイ装置に表示することもできる。
【0012】
整数値サイクルの搬送波位相アンビギュイティを解消するための2つの主要な技法が開発されている。第1の技法は「配置非依存(geometry-free)」技法又は「測定空間」技法と呼ばれことが多く、平滑化されたコード測定値を用いて、搬送波位相測定値の整数値サイクルアンビギュイティを決定する。第2の技法は、「配置依存(geometry-dependent)」技法又は「位置空間」技法と呼ばれることが多く、検索プロセスを用いて、測定残差の2乗和の最小値のような何らかの基準に従ってGPS受信器から見た複数の衛星群に関する整数値サイクルアンビギュイティのいずれの組合せが「最適な解」を与えるかを決定する。
【0013】
配置非依存手法を用いて搬送波位相アンビギュイティを解消することにはいくつかの利点がある。配置非依存手法における第1の利点は、コードと搬送波位相測定値が等しく対流圏の影響を受けるため、対流圏の屈折効果によってもたらされる測定値における誤差による影響が小さい点である。配置非依存手法における第2の利点は、配置依存手法と比較してアンビギュイティの解消が衛星毎に行なわれる点であり、配置依存手法は、解消の正しさを保証するためにGPS受信器から見た少なくとも5個の衛星を必要とする。配置非依存手法における第3の利点は、ユーザ側GPS受信器が移動してもコードと搬送波位相測定値との差に全く影響を与えない点であり、一方、配置依存手法では、ユーザが移動する際にユーザ側GPS受信器の位置をタイムリーに前方伝播する必要がある可能性がある。また、配置非依存手法は配置依存手法よりも自由度が大きいため、配置非依存手法の場合の方が整数値サイクルアンビギュイティの正しい解消がなされたことの検証が容易である。これらの利点によって、RTKアプリケーションについて配置非依存手法の方がより好ましい。
【0014】
2つの既存のLl搬送波周波数、及びL2搬送波周波数について、カスケード的に整数値サイクルアンビギュイティを解消するために配置非依存技法が用いられる。その際に整数値サイクルアンビギュイティは最初に、最長の波長を有するワイドレーン測定値の組合せについて解消される。最も頻繁に用いられるワイドレーンの組合せは、既存の2つの周波数L1及びL2上での搬送波位相測定値の単純な差異であり、以下(L1−L2)測定差異(measurement difference)と呼ぶことにする。(L1−L2)測定差異は、およそ86.2センチメートルの波長を有して、整数値サイクルアンビギュイティの解消に非常に適している。(L1−L2)測定差異における整数値サイクルアンビギュイティは、搬送波位相測定差異の電離層の歪みに一致する、2つの周波数上でのコード測定値の周波数加重平均を用いて解消することができる。次に、解消されたワイドレーン整数値サイクルアンビギュイティを用いて、次第により小さい(ナロウレーン)波長を対象としていく。しかし、この手法は基準受信器とユーザ側受信器の間の距離(基線分離)が一定の制限、例えば10キロメートル〜20キロメートルを超えない場合にしか機能しない。
【0015】
この問題の原因は、基線分離が大きくなった場合の2つの搬送波周波数への電離層の拡散効果(diverging effect)である。(L1−L2)測定差異は、電離層の屈折効果によって悪影響を受ける。測定差異に対する電離層の屈折効果の程度は、2つのL1、L2測定値の個々に対する影響のほぼ平均値であるが、符号は逆である。(L1−L2)測定差異の整数値サイクルアンビギュイティは遠距離でも解消することができるが、測定差異における電離層の屈折効果を除去するためには、異なる仕方で電離層に対して依存する他の測定値の組み合わせにおける整数値サイクルアンビギュイティもまた解消されなければならない。測定値の組合せ、すなわち合成測定値は、異なる搬送波周波数における搬送波位相測定値の組合せである。
【0016】
搬送波周波数が2種類しかなければ、基線分離が大きい場合、搬送波位相測定値のあらゆる他の組合せにおいても整数値サイクルアンビギュイティを解消することは非常に困難である。第3の周波数が無い場合における、電離層の屈折が引き起こす歪みが極めて少ない最適な組合せは、L1搬送波位相測定値の9倍とL2搬送波位相測定値の7倍との間の差異を用いて形成される合成測定値であり、これを(9L1−7L2)合成測定値と呼ぶ。しかし、この合成測定値は2つの極めて厄介な特徴を有する。第1に、合成測定値の有効波長は5.35センチメートルしかない。(L1−L2)測定値の組合せのアンビギュイティに関する知識(偶数又は奇数のいずれかであるか)を用いて、有効波長を5.37センチメートルから10.7センチメートルへ増大させることができる。しかし、屈折補正処理においてマルチパス・ノイズの乗算が悪影響するため、長い基線にわたり屈折補正されたアンビギュイティを解消するのは依然として不可能である。
【0017】
GPSを刷新する一環として、第3の周波数を有する新しい信号を一般ユーザが利用することができるようになる。この新しい信号は、歴史的な理由からL5信号と称される場合があり、周波数が(115×10.23MHz)すなわち1176.45MHz、及び対応する波長が0.2548mである。提案される、GPSブロードキャスト信号に第3の周波数を加えることは、波長の変化、電離層に対する感度の変化、及び異なるノイズ増幅効果がある場合に、合成測定値を構成する際の自由度を増やすものであり、従って高精度GPSアプリケーションに必須である、アンビギュイティが解消され、且つ屈折が補正された搬送波位相測定値を取得するのに役立つことができる。
【0018】
後に用いるために、以下、3つの周波数におけるコード測定値及び搬送波位相測定値と、幾何学的距離及び電離層屈折誤差誤差との間の基本的な関係を定義する一組の式(1)〜式(6)が提供される。
【0019】
L1信号、L2信号及びL5信号の周波数が、それぞれf、f及びfとして指定されるものと仮定する。L1信号、L2信号及びL5に関連付けられるコード測定値P、P及びPは、以下のように定義される。
【0020】
=ρ+I/f (1)
=ρ+I/f (2)
=ρ+I/f (3)
ここで、ρは幾何学的距離(対流圏屈折誤差を含む)であり、Iは電離層屈折誤差である。
【0021】
3つの周波数における対応するスケーリングされた搬送波位相測定値Φ、Φ及びΦは以下のように定義される。
【0022】
Φ=(φ+N)c/f=ρ−I/f (4)
Φ=(φ+N)c/f=ρ−I/f (5)
Φ=(φ+N)c/f=ρ−I/f (6)
ここで、φ、φ及びφは、3つの周波数におけるそれぞれの生の搬送波位相測定値を表し、N、N及びNは、生の搬送波位相測定値に関連付けられる未知の初期(primary)整数値サイクルアンビギュイティを表し、cは、光の速度である。
【0023】
図2は、本発明の一実施形態による、アンビギュイティが解消され、屈折が補正され、且つノイズが最小化された合成搬送波位相測定値を生成する方法200を示す。図2に示すように、方法200は、3つの周波数のうち2種で取得された、スケーリングされた搬送波位相測定値間の差異を用いて各々形成された少なくとも2つのワイドレーン測定値においてアンビギュイティを解消する動作210を含む。
【0024】
たとえば、(L1−L2)搬送波位相測定値差異におけるワイドレーンアンビギュイティを解消するために、合成コード測定値と電離層屈折誤差との間の関係を定義する式(1)及び式(2)の周波数加重平均が以下のように求められる。
【0025】
【数1】

【0026】
式(4)からの式(5)の差を計算することによって、2つの搬送波位相測定値と電離層屈折誤差との間の同様の関係がもたらされる。
【0027】
(Φ−Φ)λa−b+(N−N)λa−b=ρ+I/f (8)
ここで、λa−bは、以下のように、L1信号とL2信号との間の周波数の差異(f−f)の差分波長(difference wavelength)である。
【0028】
λa−b=c/(f−f
式(7)からの式(8)の差を計算しその結果を差分波長λa−bで除算することによって、以下のようにワイドレーンアンビギュイティの直接測定値が取得される。
【0029】
【数2】

【0030】
同様に、(L1−L5)及び(L2−L5)搬送波位相測定値差異におけるワイドレーンアンビギュイティを、以下の式によって確定することができる。
【0031】
【数3】

【0032】
いくつかの実施形態では、式(9)〜式(11)におけるコード測定値及び搬送波位相測定値の両方が、基準受信器において取得された測定値を用いて補正されているものと仮定する。しかしながら、周波数関係のために、3つのワイドレーン搬送波位相測定値差異のうちの2つのみが独立している。したがって、これらの測定値差異のうちの任意の2つにおけるワイドレーンアンビギュイティが確定されると、第3の測定値差異のワイドレーンアンビギュイティを直接確定することができる。
【0033】
しかしながら、搬送波位相測定値差異における2つの周波数間に位相ロックがある限り、対応するワイドレーンアンビギュイティは、経時的に変化しない。この値を、同様に経時的に平滑化することも可能である。いくつかの実施形態では、平滑化処理が、以下のように拡大平均(expanding average)フィルタを用いて行われる。
【0034】
N’a−b,n=1/n(Na−b−N’a−b,n−1)+N’a−b,n−1(12)
ここで、nは、たとえば測定エポックの数に関して平滑化の量を表す。正確なワイドレーンアンビギュイティを達成するために必要な平滑化の量は、周波数差異の波長λa−bの関数である。平滑化されたワイドレーンアンビギュイティ値を式(8)に挿入することによって、以下のようにアンビギュイティが解消されたワイドレーン搬送波位相測定値を生成することができる。
【0035】
Φab=(φ−φ+N’a−b)λa−b=ρ+I/f (13)
上記式(13)の最後の項は、ワイドレーン測定値の電離層屈折誤差に対応する。そして、この誤差は、以下でより詳細に説明するように、方法200の動作220において、3つの周波数すべてにおいて取得される搬送波位相測定値を用いて、アンビギュイティが解消され、屈折が補正された合成搬送波位相測定値を形成することによって、除去される。
【0036】
この電離層屈折誤差を除去する第1の動作は、3つの入手可能な初期位相測定値から、別のアンビギュイティが解消されたワイドレーン搬送波位相測定値を形成することである。いくつかの実施形態では、正確なワイドレーンアンビギュイティ値を確定するための平均化時間がよりかからないため、(L2−L5)搬送波位相測定差異を用いて、第2のアンビギュイティが解消されたワイドレーン搬送波位相測定値を形成する。式(13)に類似して、(L2−L5)搬送波位相測定値からのこの第2のアンビギュイティが解消されたワイドレーン搬送波位相測定値を、以下の式によって定義することができる。
【0037】
Φbc=(φ−φ+N’b−c)λb−c=ρ+I/f (14)
式(13)及び式(14)の一次結合によって、電離層屈折誤差が除去され、アンビギュイティが解消され、屈折が補正された合成搬送波位相測定値ΦRCが取得される。
【0038】
ΦRC=f/(f−f)Φab−f/(f−f)Φbc=ρ (15)
不都合なことに、アンビギュイティが解消されたワイドレーン測定値を形成した後、電磁層屈折誤差を除去する上述した処理によって、初期搬送波位相測定値においてノイズが実質的に増幅される。たとえば、L2周波数及びL5周波数は互いに非常に近接している(2つの周波数の間に51.15MHz差しかない)ため、式(14)において2つの周波数における搬送波位相測定値の差異を求めることによって、結果としての測定差異Φbcに大量のマルチパス・ノイズがもたらされる。式(15)における電離層屈折補正の後、マルチパス・ノイズはさらに増幅される。
【0039】
さらに、3つの、アンビギュイティが解消されたワイドレーン搬送波位相測定値のうちの2つのみが独立しているため、ノイズ増幅効果は、式(15)においてアンビギュイティが解消され、屈折が補正された合成搬送波位相測定値を形成するためにいずれの2つが選択されるかとは無関係である。言い換えれば、ワイドレーン搬送波位相測定値の他の組合せに同様の問題が存在する。実際には、この観察は、式(15)の2つのワイドレーン測定値Φab及びΦbcを式(4)〜式(6)において定義された、スケーリングされた搬送波位相測定値Φ、Φ及びΦに置き換えることによってより明らかとなる。
【0040】
ΦRC=CΦ+CΦ+CΦ
=f/(f−f)(f−f)Φ
+f/(f−f)(f−f)Φ
+f/(f−f)(f−f)Φ=ρ (16)
式(16)は、合成搬送波位相測定値と、3つの周波数における初期搬送波位相測定値との間の一般的な関係を定義する。この関係は、アメリカ合衆国のGPSシステムと、欧州のガリレオ・システムのような他の全地球的航法衛星システム(GNSS)とに当てはまる。実際には、GPSシステム及びガリレオ・システムは、L1信号及びL5信号に対しては同じ周波数を共有するが、L2信号に対しては異なる周波数を用いる。ガリレオ・システムE6の中心周波数は、1278.75MHzであり、L2周波数より51.15MHz高い。
【0041】
式(16)は、搬送波信号の周波数が合成搬送波位相測定値ΦRCにおけるノイズレベルに影響を与えることを示している。いくつかの実施形態では、搬送波位相測定値ΦRCにおける予測されるノイズは、初期搬送波位相測定値におけるノイズの二乗の和の平方根として定義され、各ノイズは式(16)においてその関連付けられる係数によって重み付けされている。表1は、異なる中心周波数(GPS L2、ガリレオE6及び1.3299GHz)下での式(16)における係数値と、3つの搬送波信号の各々において1センチメートルの等しいノイズがあると仮定する場合の対応するノイズレベルとを提供する。
【0042】
【表1】

【0043】
明らかに、中心周波数としてGPS L2信号からガリレオE6信号への変化によって、ノイズがおよそ39%≒(109.98−67.03)/109.98低減する。これは、屈折が補正され、アンビギュイティが解消されたワイドレーン搬送波位相測定値のノイズを最小限にする際に、ガリレオE6信号の方がGPS L2信号より優れていることを示唆している。
【0044】
ノイズは、屈折が補正され、アンビギュイティが解消されたワイドレーン合成搬送波位相測定値ΦRCにおいて増幅されるが、屈折が補正された合成コード測定値におけるノイズレベルと同等である。これは、少なくとも部分的に、搬送波位相測定値がコード測定値より、受信器設計特性のようなさまざまな要因からもたらされるバイアスを受けにくいためである。さらに、合成搬送波位相測定値は、合成測定値における正及び負の位相測定値の大きさが等しいため、位相ワインドアップ(phase windup)の影響を受けにくい。合成搬送波位相測定値ΦRCにおけるノイズの大部分は、個々の初期搬送波位相測定値に存在するマルチパスから生じる。都合のいいことには、コード測定値におけるマルチパスを除去すべく採用されるものと同じ方法を用いて、合成搬送波位相測定値のマルチパス・ノイズを除去することができる。
【0045】
マルチパス・ノイズを低減するために、方法200は、ノイズが最小であり、屈折が補正された合成搬送波位相測定値を形成する動作230と、式(16)のアンビギュイティが解消され、屈折が補正された搬送波位相測定値を、ノイズが最小であり、屈折が補正された合成搬送波位相測定値によって平滑化する動作240とを含む。なお、動作230において形成されるノイズが最小であり、屈折が補正された合成搬送波位相測定値におけるアンビギュイティを解消する必要はないことに留意されたい。言い換えれば、合成搬送波位相測定値はアンビギュイティ関連誤差を含んでもよい。
【0046】
式(16)に類似して、ノイズが最小であり、屈折が補正された合成搬送波位相測定値Φは、以下のように3つのスケーリングされた初期搬送波位相測定値Φ、Φ及びΦの関数として定義される。
【0047】
Φ=aΦ+bΦ+cΦ (17)
ここで、a、b及びcは、3つの周波数におけるスケーリングされた初期搬送波位相測定値を乗算するための係数である。式(4)〜式(6)における3つのスケーリングされた初期搬送波位相測定値の定義を式(17)に代入することによって、式(17)が以下のような新たな形式に変換される。
【0048】
Φ=(a+b+c)ρ−(a/f+b/f+c/f)I (18)
例示の目的で、3つのスケーリングされた初期搬送波位相測定値の各々が1センチメートルのノイズを有するものと仮定する。合成測定値Φが最小値に達するためには、係数a、b及びcは以下の3つの制約を満たさなければならない。
【0049】
a+b+c=1 (19)
a/f+b/f+c/f=0 (20)
+b+c=最小値 (21)
式(19)は、距離測定値が係数の選択によってスケールアップ及びスケールダウンされないことを確実にする。式(20)は、電離層屈折誤差が合成測定値から除去されることを確実にする。式(21)は、係数の選択によってノイズ増幅が最小化されたことを確実にする。なお、ノイズが等しいという仮定が無効である場合、すなわち、3つの搬送波位相測定値に等しくないノイズが存在する場合、式(21)はそれに従って変更する必要があることに留意されたい。
【0050】
cに対して式(19)を解くと、以下のようになる。
【0051】
c=1−a−b (22)
式(22)を式(20)にはめ込み、bに対して解くと、以下のようになる。
【0052】
b=f/(f−f)−af(f−f)/f(f−f
(23)
この表現を、以下のようにさらに簡略化することができる。
【0053】
b=F−aF (24)
式(21)のc及びbをそれぞれ式(22)及び式(24)で置き換えることによって、以下のようになる。
【0054】
最小値=(1−2F+2F)−2a(1−F−F+2F)+2a(1−F+F) (25)
aに関して導関数をとり、その導関数をゼロに設定した後、aに対して解くと、以下のようになる。
【0055】
a=(1−F−F+2F)/2(1−F+F) (26)
b及びcの値は、式(26)をそれぞれ式(24)及び(22)に再び代入することによって取得することができる。3つの異なる中心周波数下で上記のように取得された係数a、b及びcの数値を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
表2の最終列は、初期搬送波位相測定値におけるノイズの増幅を推定している。表1の結果とは異なり、合成搬送波位相測定値Φに初期アンビギュイティがない場合、実際には、GPS L2周波数において発生する屈折が補正されたノイズ(2.546)は、ガリレオE6周波数(2.588)よりわずかに低くなる。
【0058】
図3は、本発明のいくつかの実施形態による動作240における平滑化処理300を示す。上述したように、式(16)における合成搬送波位相測定値ΦRCと式(17)における合成測定値値Φとはいずれも、屈折が補正された幾何学的距離の測定値を含む。このため、これらの2つの合成測定値の差を求めることによって、3つの周波数におけるマルチパス・ノイズと式(17)における初期アンビギュイティによってもたらされる一定バイアス誤差との関数として、オフセット値Oがもたらされる(動作310)。
【0059】
O=ΦRC−Φ (27)
拡大平均フィルタによって平滑化した後(動作320)、オフセット値は、式(17)における一定バイアス誤差の負の値に近づく。いくつかの実施形態では、平滑化されたオフセットは以下の式によって取得される。
【0060】
=1/n(O−Sn−1)+Sn−1 (28)
ここで、nの値は、各測定エポックにおいて1ずつ増加する。
【0061】
最後に、この平滑化されたバイアス値Sを、ノイズが最小であり、屈折が補正された合成搬送波位相測定値Φに再び加算することによって(動作330)、バイアスのない、より精度の高いノイズが最小であり、屈折が補正された合成搬送波位相測定値が生成される。いくつかの実施形態では、平滑化された、アンビギュイティが解消され、屈折が補正された測定値Φは以下の式によって定義される。
【0062】
Φ=Φ+S (29)
処理300においてアンビギュイティが解消された搬送波位相測定値を平滑化するために動作320及び330を用いる1つの利点は、平滑化処理の間、合理性の観点からオフセット値を監視することができる点である。
【0063】
なお、初期搬送波位相測定値におけるノイズは白色でないことに留意されたい。そうではなく、有色ノイズであるマルチパス効果が優位を占める。このため、式(29)の実際のノイズ平均化傾向は、マルチパス・ノイズ及び受信器測定ノイズの自己相関によって決まる。いくつかの実施形態では、最初の正の自己相関によって、実際のノイズ平均化は白色ノイズより低速となる。数分後、自己相関が負になると、実際のノイズは白色ノイズより高速に平均に達する。
【0064】
また、コード測定値におけるマルチパス効果とは異なり、搬送波位相測定値におけるマルチパスは、正の誤差及び負の誤差が等しく分布しており、経時的にゼロに収束するべきであることもまた留意されるべきである。その結果、15分〜30分の平滑化の後、残留ノイズは数センチメートルであるように予測するべきである。
【0065】
3つのワイドレーンアンビギュイティが解消された合成搬送波位相測定値のうちのいずれも、他の2つの測定値から推測することができるため、3つの初期搬送波位相測定値に存在する整数値サイクルアンビギュイティに対し1つの自由度しかない。言い換えれば、正確なワイドレーンアンビギュイティ値によって制約されると、初期整数値サイクルアンビギュイティ値のうちの1つのいずれかの推定誤差によって、他の初期整数値サイクルアンビギュイティ値の各々に等しい誤差がもたらされる。たとえば、式(9)及び式(10)におけるワイドレーンアンビギュイティ(N−N)及び(N−N)が正しく確定されていると仮定すると、式(4)における整数値サイクルアンビギュイティNが、その真の値より1整数値サイクル大きくなると、整数値サイクルアンビギュイティN及びNは各々、それらの真の値より1整数値サイクル大きくなる。
【0066】
以下の表3は、それぞれの中心周波数下での合成測定値Φの推定された、屈折が補正された波長λRCを示す。この波長λRCは、本質的に、3つの初期搬送波位相測定値の各々における1つの整数値サイクルアンビギュイティ誤差によってもたらされる距離推定誤差である。以下表3に示すように、距離推定誤差はおよそ11センチメートルである(すべての波長をメートルの単位で示す)。
【0067】
【表3】

【0068】
上述したように、ノイズが最小であり、屈折が補正された合成搬送波位相測定値Φは、一定のアンビギュイティ関連誤差を含む可能性がある。しかしながら、屈折が補正されたワイドレーンアンビギュイティが解消された合成搬送波位相測定値ΦRCは、初期搬送波位相測定値におけるいかなるアンビギュイティ関連誤差とも無関係である。したがって、式(27)〜式(29)によって表される2つの合成搬送波位相測定値間の差異は、屈折が補正された波長λRC(表3の最後の列)によって除算され、且つ最も近い整数に丸められると、初期搬送波位相測定値における整数値サイクルアンビギュイティ誤差ΔNの値を推定する。すなわち、以下の通りである。
【0069】
ΔN=[S/λRCrnd (30)
整数値サイクルアンビギュイティ誤差ΔNを3つの初期整数値サイクルアンビギュイティN、N及びNに加算することによって、3つの初期整数値サイクルアンビギュイティのより正確な値がもたらされる。
【0070】
N’=N+ΔN (31)
N’=N+ΔN (32)
N’=N+ΔN (33)
これらの正確なアンビギュイティ値を再び式(17)に代入することによって、ノイズが最小であり、屈折が補正され、且つアンビギュイティが解消された合成搬送波位相測定値ΦARを以下のように表すことができる。
【0071】
ΦAR=aΦ+bΦ+cΦ+(aλ+bλ+cλ)ΔN
=Φ+λRC・ΔN (34)
式(34)における合成測定値ΦARは、式(29)における合成測定値Φに類似している。しかしながら、初期アンビギュイティ誤差は1整数値サイクルの倍数であるため、式(30)において最も近い整数に丸めることによって、合成測定値ΦARは合成測定値Φより正確になる。
【0072】
式(4)〜式(6)に示すように、3つのスケーリングされた初期測定値Φ、Φ及びΦは、幾何学的距離ρ、電離層屈折効果I及びノイズの関数である。一実施形態では、3つの初期測定値を結合して1つの表現(たとえば式(16))にすることによって、幾何学的距離ρ及びのノイズのみを残して電離層屈折効果Iを除去することができる。別の実施形態では、3つの初期測定値を結合して別の表現にすることによって、電離層屈折効果及びノイズを残して幾何学的距離ρを除去することができる。式(4)〜式(6)にこれらの2つの表現を挿入することによって、幾何学的距離及び電離層屈折効果の両方が取り消され、その結果、3つの初期測定値におけるノイズのスケーリングされた組合せがもたらされる。
【0073】
スケーリングされたノイズの組合せを生成する他の方法がある。いくつかの実施形態では、スケーリングされたノイズの組合せは、初期測定値の異なる組合せを用いて電離層屈折効果Iに対する2つの表現を生成した後、それらの2つの表現の差異を求めることによって達成される。いくつかの他の実施形態では、スケーリングされたノイズの組合せは、初期測定値の異なる組合せを用いて距離ρに対し2つの表現を生成した後、それらの2つの表現の差異を求めることによって達成される。さらに他の実施形態では、スケーリングされたノイズの組合せは、1つの動作において距離及び電離層屈折効果の両方を除去する初期測定値の組合せを生成することによって達成される。
【0074】
スケーリングされたノイズの組合せは、初期アンビギュイティ値における誤差誤差を受け易い。式(27)において定義されたオフセット値は、実際にはスケーリングされたノイズの組合せの1つの特定の表現である。式(35)は、スケーリングされたノイズの組合せの別の表現である。
【0075】
=f[{(Φ−Φ)/f}+{(Φ−Φ)/f}+{(Φ−Φ)/f} (35)
明らかに、距離成分ρは、初期測定値の各対において取り消されている。電離層屈折効果成分Iは、3つの測定値差異項間で取り消されている。その結果、残留オフセット値Oは、完全に、ノイズに初期測定値における任意の整数値サイクルアンビギュイティ誤差を足したものによる。
【0076】
式(35)を簡略化すると以下のようになる。
【0077】
=CΦ+CΦ+CΦ
=f(f−f)/f・Φ+f(f−f)/f・Φ+f(f−f)/f・Φ (36)
表4は、異なる中心周波数下での式(36)の係数を示す。後に用いるために、表4の最後の列は、3つの初期アンビギュイティにおける正の1整数値サイクル誤差によってもたらされる、メートルでの距離バイアスを含む。
【0078】
【表4】

【0079】
いくつかの実施形態では、式(36)におけるオフセット値Oは、式(28)のものに類似する拡大平均化処理において平滑化される。十分な平滑化の後、オフセット値Oは、表4のλamb値の倍数に近づく。オフセット値Oをλamb値によって除算しその結果を最も近い整数に丸めることによって、初期整数値サイクルアンビギュイティが補正される必要のある誤差が得られる。
【0080】
他のいくつかの実施形態では、式(36)におけるオフセット値Oの平滑化は、初期コード測定値及び搬送波位相測定値の第1のセットを取得することによって開始することができる。後に用いるために、式(36)はまず、以下のように、式(4)〜式(6)における3つの波長をそれらの関連付けられる係数に組み込むことによって書き直される。
【0081】
=K(φ+N)+K(φ+N)+K(φ+N) (37)
ここで、係数K、K及びKはそれぞれ以下のように定義される。
【0082】
=c(f−f)/f
=c(f−f)/f
=c(f−f)/f
上述したように、ワイドレーンアンビギュイティのうちの2つのみが独立している。これは、3つの周波数のうちの1つにおいて初期アンビギュイティ値のいずれか1つが取得されると、他の2つを確定することができることを意味する。したがって、式(9)及び式(11)におけるワイドレーンアンビギュイティに対する定義を式(37)に組み込むことによって、式(37)が以下のように変換される。
【0083】
=Ta−b(Φ−Φ+Na−b)+Tb−a(Φ−Φ+Nb−c)+T(Φ+N) (38)
ここで、以下の通りである。
【0084】
a−b=−K−K
b−a=−K
=K+K+K
表5は、異なる中心周波数下での式(38)における係数の数値を列挙している。
【0085】
【表5】

【0086】
図4は、アンビギュイティが解消され、屈折が補正され、且つノイズが最小化された搬送波位相測定値を生成する方法で用いられる代替的な平滑化処理を示すフロー図である。平滑化処理は、2つのワイドレーンアンビギュイティNa−b及びNb−c、初期アンビギュイティN並びにオフセット値Oの初期値を推定することで開始する(動作401)。
【0087】
特に、まず、式(9)及び式(11)から、2つのワイドレーンアンビギュイティ値Na−b及びNb−cを導出する。そして、これらの2つの値を最も近い整数値
【0088】
【数4】

【0089】
及び
【0090】
【数5】

【0091】
にそれぞれ丸める。式(38)におけるオフセット値がゼロであると仮定すると、初期アンビギュイティNの初期推定値は以下の式で定義される。
【0092】
【数6】

【0093】
以下のように、Nを最も近い整数値に丸める。
【0094】
【数7】

【0095】
そして、量子化処理のスケーリングされた残差によって、初期オフセット値Oが取得される。
【0096】
【数8】

【0097】
動作403から開始して、平滑化処理は、後続する測定値を処理する反復ループに入る。この処理中、アンビギュイティ値及びオフセット値は、所定の終了条件が満たされるまで反復的により精密にされる。
【0098】
新たな測定値のセットを受け取ると(403)、平滑化処理は、ワイドレーンアンビギュイティ値の新たな対
【0099】
【数9】

【0100】
を生成し、その後、先の値からのそれらの変化を計算する(405)。変化がない場合(407、いいえ)、平滑化処理は、ノイズが最小であり、屈折が補正され、アンビギュイティが解消された合成搬送波位相測定値を計算する(417)。
【0101】
便宜上、式(17)をまず以下のように書き換える。
【0102】
【数10】

【0103】
ここで、以下の通りである。
【0104】
=aλ+bλ+cλ
a−b=−bλ−cλ
b−c=−cλ
したがって、Φを、初期測定値とワイドレーンアンビギュイティ値及び初期アンビギュイティ値の現セット
【0105】
【数11】

【0106】

【0107】
【数12】

【0108】
及び
【0109】
【数13】

【0110】
とを式(42)に挿入することによって確定する。他のいくつかの実施形態では、平滑化処理は、2つのワイドレーンアンビギュイティに変化がないことを検出した直後にはΦを計算しない。そうではなく、後続する測定値を用いる動作403、405及び407を通るループに戻る。各々が動作407において変化がないことを示す所定数の反復の後にのみ、平滑化処理は動作417に進む。これらのさらなる反復によって、測定値のノイズの影響を低減すると共に、結果としての合成測定値の精度を向上させることができる。
【0111】
ワイドレーンアンビギュイティに何らかの変化がある場合(407、はい)、平滑化処理は、2つのワイドレーンアンビギュイティの変化を用いて現オフセット値を更新する(409)。いくつかの実施形態では、この更新には、新たなオフセット値が計算されその後先のオフセット値と平均化される前に、先のオフセット値を調整することが必要である。
【0112】
現反復が第nの測定であると仮定すると、ワイドレーンアンビギュイティの変化は以下のように定義される。
【0113】
【数14】

【0114】
第(n−1)のオフセット値は、以下のように、ワイドレーンアンビギュイティの変化によって遡及的に調整される。
【0115】
【数15】

【0116】
そして、各アンビギュイティに対して取得された最近の値を用いて(GPS係数を用いて)式(38)から新たなオフセット値が直接計算される。
【0117】
【数16】

【0118】
この新たなオフセット値を式(28)において用いて、平滑化されたオフセット値Sを更新する。そして、平滑化されたオフセット値Sを用いて、初期アンビギュイティ値Nに対する変化を計算する(411)。
【0119】
ΔN=S/0.10848 (47)
これを、以下のように丸める。
【0120】
【数17】

【0121】
この丸められた値がゼロである、すなわち、初期アンビギュイティ値に変化がない場合(413、いいえ)、平滑化処理は、式(42)を用いて最終的な合成搬送波位相測定値を計算する。言い換えれば、ワイドレーンアンビギュイティ及び初期アンビギュイティは、最も近い整数に丸められた後に2つの測定エポック間に変化がない場合に解消される。そうでない場合(413、はい)、以下のように、初期アンビギュイティ値を補正すると共に、現平滑化オフセット値を調整しなければならない(415)。
【0122】
【数18】

【0123】
そして、平滑化処理は動作403に戻り、次の測定値のセットに対して処理を繰り返す。これによって、平滑化された結果を用いてアンビギュイティの最良推定値を計算すること、及びアンビギュイティを用いてノイズが最小であり屈折が補正された距離測定値を計算することによって、測定値が取得されると平滑化される平滑化オフセット値を計算する代替処理が完了する。
【0124】
上記例はGPS周波数の場合の係数を用いるが、表5において定義するように異なる係数のセットを有するガリレオ・システムに対して、同じ処理が等しく機能することが留意されるべきである。
【0125】
このように、本発明は、ノイズが最小であり、屈折が補正され、且つアンビギュイティが解消された搬送波位相の合成測定値を計算する方法を提供する。本発明は、合成測定値における初期アンビギュイティ誤差を解消するための異なる手法を提供する。非常に正確な、ノイズが最小であり、屈折が補正され、且つアンビギュイティが解消された測定処理によって、多くのGPSアプリケーションを向上させることが可能であると考えられる。例えば、リアルタイムキネマティック(RTK)GPSと呼ばれることが多い搬送波位相差分GPSの距離制約を軽減又は解消することができる。
【0126】
簡単のために、上記式は、場所(site)間に測定値の差異がないかのような形式で書かれている。本発明を理論的には単一場所測定において用いることができるが、個々の衛星からの伝送において著しいコード対搬送波バイアスがある可能性があり、それによって、処理が場所単位で作用するのが妨げられる。しかしながら、世界中の既知の場所における測定値が取得されると、いかなるコード又は搬送波バイアスをも測定すると共に、それらを、衛星固定座標に関する受信器の場所に対する角度の関数として特徴づけることができる。こうした較正処理によって、単一場所処理が可能となる。較正を伴わない場合は、基準場所において生成された補正による調整の後に、場所間で相違する測定値か又は所与の場所の測定値に対し式を直接適用することができる。
【0127】
同様に、衛星間に測定値の差異がないかのように式が書かれている。受信器のフロントエンドフィルタは実際には、異なる受信周波数で異なるクロック基準を作成し得る。これによって、ワイドレーン搬送波位相測定値(2つの周波数における基準クロックの差異)と、照合する周波数加重コード測定値(2つの周波数におけるクロックの加重平均)との間にバイアスが生じる可能性がある。このバイアスが大きい場合、アンビギュイティ解消が不正確になる可能性がある。しかしながら、この問題は、所与の衛星からの又はすべての衛星にわたる平均からの測定値を減算することによって回避することができる。
【0128】
最後に、対流圏が各周波数において同じ量だけ測定値に影響を与えるため、アンビギュイティ解消及び屈折補正処理は対流圏効果に対して透過的である。特に、アンビギュイティ解消処理及び屈折が補正された合成測定値の形成によって、測定値の対流圏成分は変化しないままである。これは、「配置非依存」手法の1つの利点であり、すなわち、対流圏がもたらす距離誤差がアンビギュイティ解消処理に悪影響を与えない。
【0129】
本発明を、いくつかの特定の実施形態に関して説明してきたが、添付の請求項によって規定される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、各種の変更、置換、及び代替を行うことができることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンビギュイティが解消(ambiguity-resolved)され、屈折(refraction)が補正され、且つノイズが最小化された搬送波位相測定値(minimum-noise carrier-phase measurement)を生成する方法であって、
3つの搬送波周波数における初期搬送波位相測定値(primary carrier-phase measurements)を用いて、第1の、ワイドレーンアンビギュイティが解消され(wide-lane ambiguity-resolved)、屈折が補正された合成搬送波位相測定値を形成すること、
前記初期搬送波位相測定値を用いて、第2の、ノイズが最小であり、屈折が補正された合成搬送波位相測定値を形成すること、及び
前記第1の合成搬送波位相測定値を前記第2の合成搬送波位相測定値によって平滑化すること、
を含む、搬送波位相測定値を生成する方法。
【請求項2】
前記第1の合成測定値は、前記3つの搬送波周波数における前記初期搬送波位相測定値の一次結合(a linear combination)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の合成測定値は、アンビギュイティが解消された2つの別個のワイドレーン搬送波位相測定値の一次結合であり、各該ワイドレーン搬送波位相測定値は、前記3つの初期搬送波位相測定値のうちの2つの差異を求める(differencing)ことによって形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
各前記ワイドレーン搬送波位相測定値は、対応するコード測定値の周波数加重平均(frequency-weighted average)と、前記2つのそれぞれの初期搬送波位相測定値間の生の測定値の差異とに基づく、整数値サイクルアンビギュイティ(whole-cycle ambiguity)を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の合成測定値は、各々がそれぞれの係数によって重み付けされた前記3つの初期搬送波位相測定値の一次結合であり、前記3つの係数は、前記第2の合成測定値におけるノイズを最小化するように1つ又は複数の事前定義された条件を満たす、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記事前定義された条件は、前記3つの係数の和が定数に等しいことを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記事前定義された条件は、各々が関連付けられる搬送波周波数の二乗によって除算された前記3つの係数の和がゼロに等しいことを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記事前定義された条件は、前記3つの係数が、前記3つの初期搬送波位相測定値の各々における位相ノイズが等しいと仮定すると、前記3つの値の各々の二乗の和が最小化されるような値を有することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の合成測定値は、未解消の整数値サイクルアンビギュイティを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記整数値サイクルアンビギュイティは、
前記第2の合成測定値に対し屈折が補正された波長を推定すること、
前記第1の合成測定値と前記第2の合成測定値との間の平滑化されたオフセット値を確定すること、
前記平滑化されたオフセット値を前記屈折が補正された波長によって除算すること、及び
前記除算された結果を最も近い整数に丸めることであって、前記第2の合成測定値の前記整数値サイクルアンビギュイティの解消された値を生成する、丸めること、
によって解消される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アンビギュイティが解消され、屈折が補正され、且つノイズが最小化された合成測定値は、前記第2の合成測定値と、前記屈折が補正された波長及び前記第2の合成測定値の前記整数値サイクルアンビギュイティの前記解消された値を乗算した結果と、を合計することによって達成される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記平滑化動作は、
複数の測定エポックの各々において前記第1の合成搬送波位相測定値と前記第2の合成搬送波位相測定値との差異を求めることによってオフセットを生成すること、
前記オフセットを、前記複数の測定エポックにわたる拡大平均フィルタを用いて平滑化すること、及び
前記平滑化されたオフセットを前記第2の合成測定値に加算することであって、前記アンビギュイティが解消され、屈折が補正され、且つノイズが最小化された搬送波位相測定値が取得される、加算すること、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
アンビギュイティが解消され、屈折が補正され、且つ位相が最小化された合成搬送波位相測定値を取得する方法であって、
特定の測定エポックにおいて3つの搬送波周波数における初期搬送波位相測定値を取得すること、
前記3つの搬送波周波数における前記初期搬送波位相測定値に基づいて合成搬送波位相測定値を形成することであって、該合成搬送波位相測定値は2つのワイドレーンアンビギュイティ及び1つの初期アンビギュイティを含む、形成すること、
前記初期搬送波位相測定値を用いて前記2つのワイドレーンアンビギュイティ及び前記1つの初期アンビギュイティを更新すること、
前記ワイドレーンアンビギュイティ及び前記初期アンビギュイティが解消されるまで、複数の測定エポックにわたり前記取得する動作、前記形成する動作及び前記更新する動作を繰り返すこと、及び
前記解消されたワイドレーンアンビギュイティ及び初期アンビギュイティを用いて、前記アンビギュイティが解消され、屈折が補正され、位相が最小化された合成搬送波位相測定値を計算すること、
を含む、搬送波位相測定値を取得する方法。
【請求項14】
前記ワイドレーンアンビギュイティ及び前記初期アンビギュイティは、最も近い整数に丸められた後に2つの測定エポック間で変化しない場合に解消される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
測位(positioning)又はナビゲーション・システムであって、
該受信器から見た複数の衛星群からの信号、すなわち3つの異なる搬送波周波数で送信されている信号に基づいてコード及び搬送波位相測定値を取得するように構成される受信器と、
前記受信器に接合される(coupled)コンピュータシステムであって、該コンピュータシステムは、プロセッサ及び該プロセッサに結合されるメモリを含み、該メモリは内部にプログラム命令を記憶しており、該プログラム命令が前記プロセッサによって実行されると、アンビギュイティが解消され、屈折が補正され、且つノイズが最小化された合成搬送波位相測定値を生成する方法を実行するコンピュータシステムと、
を備え、前記プログラム命令は、
前記3つの搬送波周波数における初期搬送波位相測定値を用いて、第1の、ワイドレーンアンビギュイティが解消され、屈折が補正された合成搬送波位相測定値を形成するための命令と、
前記初期搬送波位相測定値を用いて、第2の、ノイズが最小であり、屈折が補正された合成搬送波位相測定値を形成するための命令と、
前記第2の合成搬送波位相測定値によって前記第1の合成搬送波位相測定値を平滑化するための命令とを含む、測位又はナビゲーション・システム。
【請求項16】
前記第2の合成測定値を形成するための前記命令は、該第2の合成測定値の整数値サイクルアンビギュイティ(a whole-cycle ambiguity)を解消するための命令を含む、請求項15に記載の測位システム。
【請求項17】
前記整数値サイクルアンビギュイティを解消する前記命令は、
前記第2の合成測定値に対する屈折が補正された波長を推定するための命令と、
前記第1の合成測定値と前記第2の合成測定値との間の平滑化されたオフセット値を確定するための命令と、
前記平滑化されたオフセット値を前記屈折が補正された波長で除算するための命令と、
前記除算された結果を最も近い整数に丸めるための命令であって、前記第2の合成測定値の前記整数値サイクルアンビギュイティの解消された値が生成される、丸めるための命令と、
をさらに含む、請求項16に記載の測位システム。
【請求項18】
前記アンビギュイティが解消され、屈折が補正され、且つ位相が最小化された合成測定値は、前記第2の合成測定値と、前記屈折が補正された波長と前記第2の合成測定値の前記整数値サイクルアンビギュイティの前記解消された値とを乗算した結果と、を合計することによって達成される、請求項17に記載の測位システム。
【請求項19】
前記第2の合成測定値は、各々がそれぞれの係数で重み付けされる前記3つの初期搬送波位相測定値の一次結合であり、前記3つの係数は、前記第2の合成測定値におけるノイズを最小限にするように1つ又は複数の事前定義された条件を満たす、請求項15に記載の測位システム。
【請求項20】
前記平滑化するための命令は、
複数の測定エポックの各々において前記第1の合成搬送波位相測定値と前記第2の合成搬送波位相測定値との差異を求めることによってオフセットを生成するための命令と、
前記オフセットを、前記複数の測定エポックにわたる拡大平均フィルタを用いて平滑化するための命令と、
前記第2の合成測定値に前記平滑化されたオフセットを加算して、前記アンビギュイティが解消され、屈折が補正され、且つノイズが最小化された搬送波位相測定値を取得するための命令と、
をさらに含む、請求項15に記載の測位システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−504523(P2010−504523A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529259(P2009−529259)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/020513
【国際公開番号】WO2008/039383
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(504278123)ナヴコム テクノロジー インコーポレイテッド (28)
【Fターム(参考)】