説明

3層接着体

【課題】半透過半吸収層および透過層を組み合わせた、1回のレーザー照射により得られる3層接着体を提供すること。
【解決手段】第1の層、第2の層、第3の層が順に積層される、3層接着体であって、前記第1の層〜第3の層が、(a)波長800〜1100nmで透過率50%以上であり反射率13%以上である熱可塑性樹脂、または(b)波長800〜1100nmで透過率50%以上であり反射率5%以上13%未満である熱可塑性樹脂からなり、前記(a)熱可塑性樹脂からなる層が連続して積層されていない、3層接着体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3層接着体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車部品、電子・電気部品の分野においては、樹脂材料を重ね合わせて接着した接着体が多く用いられている。
特許文献1には、異種の合成樹脂材料を重ね合わせて両者を接合するに当り、前記異種の合成樹脂材料のうち、一方をレーザ光に対して非吸収性とするとともに、他方をレーザ光に対して吸収性とせしめ、この両者の合成樹脂材料を重ね合わせた後、前記レーザ光に対して非吸収性の合成樹脂材料の方向からレーザ光を照射することを特徴とする異種合成樹脂材料の接合方法が開示されている。
また、特許文献2には、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリプロピレン樹脂から選ばれる少なくとも1種類の前記熱可塑性樹脂とレーザー光弱吸収剤とを少なくとも含有することにより、940nmのレーザー光に対する吸収係数εjを200〜8000(1/cm)とし、レーザー光の少なくとも一部を吸収しつつ別な一部を透過させてもよいレーザー光弱吸収性成形部材が、単一であって曲げられて少なくとも一部分を重ね合わされたまま、又は複数であって夫々の少なくとも一部分で重ね合わされたまま、そこへ照射されたレーザー光の一部を吸収し該レーザー光の別な一部を透過することによる発熱で、溶着されていることを特徴とするレーザー溶着体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−214931号公報
【特許文献2】特開2008−1112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および2に示されているような従来の方法において3層以上の接着体を得るためには、2層をまずレーザーで接着させた後に、さらに、レーザーで3層目を接着させる必要があった。
このような、3層以上の接着体を得る際のレーザーでの接着工程の簡易化が当業界において切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、3層以上の場合であっても、半透過半吸収層および透過層の材料を組み合わせてレーザーを用いて接着させることにより、1回のレーザー照射で3層が積層した接着体を得ることのできる簡便な方法を見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
第1の層、第2の層、第3の層が順に積層される、3層接着体であって、
前記第1の層〜第3の層が、(a)波長800〜1100nmで透過率50%以上であり反射率13%以上である熱可塑性樹脂、または(b)波長800〜1100nmで透過率50%以上であり反射率5%以上13%未満である熱可塑性樹脂からなり、
前記(a)熱可塑性樹脂からなる層が連続して積層されていない、3層接着体。
[2]
前記(b)熱可塑性樹脂が、着色剤を含有する、[1]に記載の3層接着体。
[3]
前記着色剤が、ニグロシンおよび/またはナフタロシアニンを含み、さらにアニリンブラック、フタロシアニン、ポルフィリン、ペリレン、クオテリレン、アゾ染料、アントラキノン、スクエア酸誘導体、インモニウム染料から選ばれる着色剤を含む、[2]に記載の3層接着体。
[4]
前記第1の層が、前記(a)熱可塑性樹脂からなり、前記第2の層が、前記(b)熱可塑性樹脂からなる、[1]〜[3]のいずれかに記載の3層接着体。
[5]
前記(a)〜(c)熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂を含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の3層接着体。
[6]
前記(b)熱可塑性樹脂からなる層の層厚が、5mm以下である、[1]〜[5]のいずれかに記載の3層接着体。
[7]
溶着されている、[1]〜[6]のいずれかに記載の3層接着体。
[8]
[1]〜[7]のいずれかに記載の3層接着体の製造方法。
[9]
前記第1の層側からレーザー光を照射することにより3層を接着する、[8]に記載の3層接着体の製造方法。
[10]
前記レーザー光の発振波長が800〜1100nmである、[9]に記載の3層接着体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、半透過半吸収層および透過層を組み合わせた、1回のレーザー照射により得られる3層接着体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の3層接着体の模式図を示す。3層接着体は、(A)〜(E)の5つの実施態様で示さる。図1において、白抜きで表示されている層が(a)熱可塑性樹脂からなる層を表し、網掛けで表示されている層が(b)熱可塑性樹脂からなる層を表す。また、一例として、レーザー照射方向を示しているが、層に対して垂直にレーザー照射する場合に限定されるものではなく、第1の層側からレーザー照射するということを意味するものである。(A)の実施態様では、第1の層が(a)熱可塑性樹脂からなる層であり、第2の層および第3の層が(b)熱可塑性樹脂からなる層である。(B)の実施態様では、第1の層および第3の層が(b)熱可塑性樹脂からなる層であり、第2の層が(a)熱可塑性樹脂からなる層である。(C)の実施態様では、第1の層および第2の層が(b)熱可塑性樹脂からなる層であり、第3の層が(a)熱可塑性樹脂からなる層である。(D)の実施態様では、第1の層および第3の層が(a)熱可塑性樹脂からなる層であり、第2の層が(b)熱可塑性樹脂からなる層である。(E)の実施態様では、第1の層〜第3の層が(b)熱可塑性樹脂からなる層である。
【図2】比較例における模式図を示す。(F)では、第1の層および第2の層が(a)熱可塑性樹脂からなる層であり、第3の層が(b)熱可塑性樹脂からなる層である。(G)では、第1の層〜第3の層がすべて(a)熱可塑性樹脂からなる層である。(F)と(G)では、(a)熱可塑性樹脂からなる層が連続して積層されている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
本実施の形態の3層接着体は、第1の層、第2の層、第3の層が順に積層される、3層接着体であって、
第1の層、第2の層および第3の層が、(a)波長800〜1100nmで透過率50%以上であり反射率13%以上である熱可塑性樹脂、または(b)波長800〜1100nmで透過率50%以上であり反射率5%以上13%未満である熱可塑性樹脂からなり、
(a)熱可塑性樹脂からなる層が連続して積層されていない、3層接着体である。
3層積層体において、(a)熱可塑性樹脂からなる層が連続して積層されていないとは、本実施の形態の3層積層体として、第1の層および第2の層、または第2の層および第3の層が、(a)波長800〜1100nmで透過率50%以上であり反射率13%以上である熱可塑性樹脂からなる層である場合は含まれないことを意味する。すなわち、(a)熱可塑性樹脂からなる層が連続して積層されている場合とは、第1の層および第2の層が(a)熱可塑性樹脂からなる層であり、第3の層が(b)熱可塑性樹脂からなる層である場合、第1の層が(b)熱可塑性樹脂からなる層であり、第2の層および第3の層が(a)熱可塑性樹脂からなる層である場合、第1の層〜第3の層がすべて(a)熱可塑性樹脂からなる層である場合をいい、これらは本実施の形態に含まれない。
【0011】
本実施の形態の3層接着体を、図1を例示して説明すると、第1の層、第2の層、第3の層が順に積層されるとは、図1の(A)〜(E)に例示されるように積層されていることを意味する。
3層接着体は、第3の層に接して、第2の層が積層され、第2の層に接して、第1の層が積層されている。そして、3層接着体においては、第3の層と第2の層は接着しており、第2の層と第1の層が接着している。
本実施の形態においては、第3の層と第2の層の接着と、第2の層と第1の層の接着を同時に行なうことができるため、3層接着体を簡便な方法で製造することができる。3層接着体において、接着面がより強固に接着するため、レーザー光の照射により融着していることが好ましい。
【0012】
(a)熱可塑性樹脂からなる層は、波長800〜1100nmで透過率50%以上であり反射率13%以上あることから、レーザー透過層として用いられるものであり、(b)熱可塑性樹脂からなる層は、波長800〜1100nmで透過率50%以上であり反射率5%以上13%未満であることから、レーザー半透過半吸収層として用いられるものである。
【0013】
本実施の形態において、透過率とは、光学および分光法において特性の波長の入射光が試料を透過する割合を意味し、反射率とは、光学および分光法において特性の波長の入射光が試料に反射する割合を意味する。
透過率と反射率は、以下の実施例に記載するように、V−670 積分球 紫外可視近赤外分光光度計などの分光光度計を用いて測定することができる。
【0014】
本実施の形態に用いられる(a)および(b)の熱可塑性樹脂の主材料として、レーザー光透過性を有し、着色剤の分散剤として用いられる樹脂として使用されている公知の樹脂等を用いることができる。
本実施の形態において、「主材料」とは、熱可塑性樹脂の構成成分として主たる成分であることを意味し、(a)熱可塑性樹脂の場合、波長800〜1100nmで透過率50%以上であり反射率13%以上である熱可塑性樹脂であるように含まれるものであれば特に限定されるものではないが、(a)熱可塑性樹脂中、質量%として、好ましくは50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、100%含有する。また、(b)熱可塑性樹脂の場合、波長800〜1100nmで透過率50%以上であり反射率5%以上13%未満である熱可塑性樹脂であるように含まれるものであれば特に限定されるものではないが、好ましくは50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99.5%以上含有する。(a)熱可塑性樹脂および(b)熱可塑性樹脂として、上記透過率と反射率の範囲内である熱可塑性樹脂とすることができる場合には、その他の成分を含んでいてもよい。また、(b)熱可塑性樹脂が後述するように、着色剤を含む場合には、主たる樹脂成分と着色剤を質量%で100%となるように、主たる樹脂成分を含んでいてもよい。(a)熱可塑性樹脂および(b)熱可塑性樹脂として、例えば、質量%で、主たる樹脂成分を95%以上含む場合には、主材料としての樹脂を95〜100%含み、(a)熱可塑性樹脂および(b)熱可塑性樹脂として100%となるように他の成分が含有されていてもよい。この場合、主材料としての樹脂を100%含む場合には、(a)熱可塑性樹脂および(b)熱可塑性樹脂は、主材料としての樹脂からなる熱可塑性樹脂である。
【0015】
斯かる樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂やポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等のポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、メタクリル樹脂、エチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアリルサルホン樹脂、フッ素樹脂、ABS樹脂、AS(アクリロニトリル−スチレン)共重合体樹脂、BBS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)共重合体樹脂、AES(アクリロニトリル−EPDM−スチレン)共重合体樹脂、PA−PBT共重合体、PET−PBT共重合体樹脂、PC−PBT共重合体樹脂、PC−PA共重合体樹脂、および液晶ポリマー等が挙げられる。
【0016】
これら樹脂は、単体で用いてもよく、同種のまたは異種の2種以上の樹脂の混合物として用いてもよい。また、これら樹脂は、共重合された樹脂であってもよい。
【0017】
(a)および(b)の熱可塑性樹脂の主たる材料としての樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、およびポリプロピレン樹脂であることが好ましく、着色剤との相溶性の観点から、ポリアミド樹脂およびポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、AS樹脂がより好ましい。
【0018】
中でも、透過性に優れておりレーザー接着の材料として適していることから、ポリアミド樹脂を用いることが好適である。
ポリアミド樹脂としては、主鎖中にアミド結合(−NHCO−)を有する重合体であれば特に限定されないが、例えばポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリウンデカラクタム(ナイロン11)、ポリドデカラクタム(ナイロン12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMHT)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド(9T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(6T)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ナイロン11T(H))、およびこれらのうち少なくとも2種類の異なるポリアミド成分を含むポリアミド共重合体あるいはこれらの混合物などである。
アミド結合の有無は、赤外吸収スペクトル(IR)で確認することができる。
【0019】
また、ポリアミド樹脂として、ポリアミド樹脂と他の合成樹脂との混合重合体であってもよく、混合重合体としては、例えば、ポリアミド/ポリエステル混合重合体、ポリアミド/ポリフェニレンオキシド混合重合体、ポリアミド/ポリカーボネート混合重合体、ポリアミド/ポリオレフィン混合重合体、ポリアミド/スチレン/アクリロニトリル混合重合体、ポリアミド/アクリル酸エステル混合重合体、およびポリアミド/シリコーン混合重合体等が挙げられる。
【0020】
(a)および(b)の熱可塑性樹脂の主材料としての樹脂は、同一であってもよく、異なった樹脂を用いてもよいが、接着性の観点から同一の樹脂を主材料として(a)および(b)の熱可塑性樹脂を用いることが好適である。
【0021】
(a)熱可塑性樹脂としては、レーザーを透過する樹脂、即ち波長800〜1100nmで透過率50%以上であり、かつ波長800〜1100nmで反射率13%以上であれば、その樹脂組成が特に限定されるものではないが、上記主材料としての樹脂を含むことが好ましく、主材料としての樹脂からなる熱可塑性樹脂であることがより好ましい。(a)熱可塑性樹脂として、波長800〜1100nmで透過率は、好ましくは60%以上であり、反射率は、好ましくは15%以上である。また、(a)熱可塑性樹脂として、波長940〜1060nmで上記透過率および反射率の範囲であることが好ましい。(a)熱可塑性樹脂は、波長400〜1200nmで透過率20%以上であってもよい。
【0022】
(b)熱可塑性樹脂としては、レーザーを半透過半吸収する樹脂、即ち波長800〜1100nmで透過率50%以上であり、かつ波長800〜1100nmで反射率5%以上13%未満であれば、その樹脂組成が特に限定されるものではないが、上記主材料としての樹脂に加え、着色剤を含有することが好ましい。(b)波長800〜1100nmで透過率は、実験結果の溶着強度の点から好ましくは50〜70%であり、より好ましくは55〜65%である。波長800〜1100nmで反射率は、実験結果の溶着強度の点から好ましくは6%以上であり、より好ましくは10%以上である。また、(b)熱可塑性樹脂として、波長940〜1060nmで上記透過率および反射率の範囲であることが好ましい。(b)熱可塑性樹脂は、波長600nm以下で透過率5%以下であってもよい。
着色剤としては、(b)熱可塑性樹脂として、波長800〜1100nmで透過率50%以上であり反射率5%以上13%未満とすることのできる材料であれば特に限定されるものではないが、例えば、ニグロシン、ナフタロシアニン、アニリンブラック、フタロシアニン、ポルフィリン、ペリレン、クオテリレン、アゾ染料、アントラキノン、スクエア酸誘導体、およびインモニウム染料等が挙げられる。
(a)および(b)の熱可塑性樹脂からなる層との接着性の観点から、着色剤としては、ニグロシンおよび/またはナフタロシアニンを含み、さらにアニリンブラック、フタロシアニン、ポルフィリン、ペリレン、クオテリレン、アゾ染料、アントラキノン、スクエア酸誘導体、およびインモニウム染料から選ばれる着色剤を含む着色剤であることが好ましく、具体的には、オリエント化学工業製の着色剤であるeBind ACW−9871が挙げられる。
【0023】
これら着色剤を(b)熱可塑性樹脂中に、質量%として、好ましくは0.01〜0.04%、より好ましくは0.02〜0.03%含有することで、波長800〜1100nmで透過率50%以上であり反射率5%以上13%未満とすることができる。(b)熱可塑性樹脂が、着色剤を含む場合には、主材料としての樹脂を、例えば、質量%で、95%以上含む場合には、主材料としての樹脂を95%以上含み、(b)熱可塑性樹脂として100%となるように着色剤などの他の成分が含有されていてもよい。
【0024】
(a)および(b)の熱可塑性樹脂としては、上記した以外に、ガラスファイバー等の充填材や、熱安定剤等を含んでいてもよい。
【0025】
本実施の形態において、3層接着体を製造方法は以下のように行うことができる。
(a)および(b)の熱可塑性樹脂を用いて、従来公知の方法により、各熱可塑性樹脂からなる成形片を製造する。
成形片の製造には、押出し成形、プレス成形、射出成形機などの装置を用いて行うことができる。
(a)および(b)の熱可塑性樹脂からなる層としては斯かる成形片を用いることができるが、これら成形片の形状は特に限定されるものではなく、3層接着体を用いる用途に適した形状を有していればよい。
これら(a)および(b)の熱可塑性樹脂からなる層は、図1に示すように積層体として、面で接していてもよく、また、レーザーにより3層の接着が十分に行える範囲で接点を有するような構造を有していればよい。
3層接着体を得た後に、所望の形状に成形してもよく、また、所望の形状に成形した(a)および(b)の熱可塑性樹脂からなる層を本発明により3層接着体としてもよい。
【0026】
(a)および(b)の熱可塑性樹脂を成形して得られる各層の厚さは、それぞれ、好ましくは5mm以下であり、より好ましくは0.5〜5mmであり、さらに好ましくは1.5〜2.5mmである。
【0027】
(b)熱可塑性樹脂からなる層は、半透過半吸収層であり、レーザー照射することで層間を接着することができるので、(b)熱可塑性樹脂からなる層は、(b)熱可塑性樹脂からなる層が積層した層であってもよい。
図1における(A)の場合を例示して説明すると、第2の層と第3の層は、(b)熱可塑性樹脂からなる層であるが、例えば、第2の層が、積層した層である場合には、第2の層は、積層するための(b)熱可塑性樹脂からなる層を、先に成形体としてから、第2の層として用いる該層と、第1の層および第3の層を積層させてレーザー照射して、レーザー照射により第2の層として接着させると共に、第1の層および第3の層と接着させてもよい。また、第2の層の第1の層および第3の層との接着の前に、予め、(b)熱可塑性樹脂からなる層の成形体を用いて、接着により積層された第2の層としてから、第1の層および第3の層と接着してもよい。
(b)熱可塑性樹脂からなる層が積層された層である場合には積層された層同士は、レーザー照射により接着されていてもよく、接着剤や粘着剤等を含む接着剤層を介して接着された第2の層であってもよい。
(b)熱可塑性樹脂からなる層が積層された層からなる場合、(b)熱可塑性樹脂からなる層の層厚は、5mm以下であることが好ましい。
3層接着体が、図1に示す(A)および(C)の態様の場合には、(b)熱可塑性樹脂からなる層を連続して2層以上含んでいれば特に限定されるものではない。また、図1に示す(E)の態様の場合には、(b)熱可塑性樹脂からなる層を連続して3層以上含んでいれば特に限定されるものではない。
【0028】
本実施の形態においては、半透過半吸収層および透過層の材料を組み合わせることにより3層接着体を、第1の層、第2の層、第3の層の各層間に、接着剤や粘着剤等を用いることなく1回のレーザー照射により得られるが、第1の層と第2の層の層間、第2の層と第3の層の層間のそれぞれに、接着剤や粘着剤等を含む接着剤層を設けてもよい。
【0029】
第1の層〜第3の層の接着させる部位を接触させた後、レーザー照射することにより、第1の層〜第3の層を接着させる。
レーザー照射は、第1の層〜第3の層に対して、第1の層側からレーザー照射することにより、第1の層〜第3の層まで接着した3層接着体とすることができる。
第1の層側からレーザー照射するとは、第1の層と第2の層、第2の層と第3の層の接着面に対して、レーザー光が到達するように第1の層側から第3の層側に向かってレーザー照射することを意味する。
【0030】
図1に示す(A)の3層接着体においては、(a)熱可塑性樹脂からなる層(第1の層)を透過したレーザー光が、第2の層および第3の層の(b)熱可塑性樹脂からなる層に到達し、(b)熱可塑性樹脂からなる層が発熱溶融することにより、(a)熱可塑性樹脂からなる層(第1の層)と(b)熱可塑性樹脂からなる層(第2の層)とが、また、(b)熱可塑性樹脂からなる層(第2の層)と(b)熱可塑性樹脂からなる層(第3の層)とが接着する。
図1に示す(B)の3層接着体においては、(b)熱可塑性樹脂からなる層(第1の層)が、半透過半吸収層であるので、レーザー光は、(a)熱可塑性樹脂からなる層(第2の層)に透過し、第2の層が透過層であるので、第2の層を透過したレーザー光は、(b)熱可塑性樹脂からなる層(第3の層)にまで到達し、(b)熱可塑性樹脂からなる層を発熱溶融させることにより、第1の層および第3の層がそれぞれ、(a)熱可塑性樹脂からなる層(第2の層)と接着して3層接着体が形成される。
図1に示す(C)の3層接着体においては、(b)熱可塑性樹脂からなる層が、半透過半吸収層であるので、レーザー光は、(a)熱可塑性樹脂からなる層まで透過し、(b)熱可塑性樹脂からなる層が発熱溶融することにより、第1の層と第2の層が接着し、また、(b)熱可塑性樹脂からなる層(第2の層)と(a)熱可塑性樹脂からなる層(第3の層)が接着して、3層接着体が形成される。
図1に示す(D)の3層接着体においては、(a)熱可塑性樹脂からなる層が、透過層であるので、レーザー光は、(b)熱可塑性樹脂からなる層まで透過し、(b)熱可塑性樹脂からなる層が発熱溶融することにより、(a)熱可塑性樹脂からなる層(第1の層)と(b)熱可塑性樹脂からなる層(第2の層)とを接着する。また、第2の層は、半透過半吸収層であるので、レーザー光が透過し、(a)熱可塑性樹脂からなる層(第3の層)との接着面において、第2の層が発熱溶融して第3の層と接着して、3層接着体が形成される。
図1に示す(E)の3層接着体においては、(b)熱可塑性樹脂からなる層(第1の層〜第3の層)が、発熱溶融することにより、第1の層と第2の層と、また第2の層と第3の層とが接着して、3層接着体が形成される。
【0031】
3層接着体は、4層以上の接着体の内部に包含されていてもよく、この場合、4層以上の接着体を一度のレーザー照射により得てもよく、また、4層以上の接着体を一度のレーザー照射による場合にも、3層接着体の接着面以外の接着面、例えば、第1の層または第3の層が第2の層と接着しない側の面を、接着剤や粘着剤などの接着剤層を介して接着させて、3層接着体の部分はレーザー照射により接着させて得られる4層以上の接着体であってもよい。別の態様としては、3層接着体を得た後に、他の層と接着させて4層以上の接着体としてもよい。
【0032】
本実施の形態で用いるレーザーとしては、特に限定されるものではないが、炭酸ガスレーザーやYAGレーザー、半導体レーザーなどの赤外線または赤外線放出固体レーザーや、可視光線領域に発振波長を有するYAGレーザーの第2高調波、銅蒸気レーザー、紫外線領域に発振波長を有する紫外線レーザー、例えばエキシマレーザー、第3または第4高調波へ波長変換したYAGレーザー等が挙げられ、レーザーは連続照射でも、パルス照射でもよい。
レーザー光の発振波長としては、好ましくは800〜1100nmであり、より好ましくは940〜1060nmである。
レーザー照射は、好ましくは1〜500mm/s、より好ましくは10〜100mm/sで行う。
【実施例】
【0033】
以下に本実施の形態を実施例および比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、本実施の形態に用いられる評価方法は以下のとおりである。
【0034】
(a)熱可塑性樹脂として、ポリアミド66樹脂(レオナ(登録商標)14G33X01 旭化成ケミカルズ製)を用いた。
(b)熱可塑性樹脂として、ポリアミド66樹脂(レオナ(登録商標)14G33X01 旭化成ケミカルズ製)に、着色剤(eBind ACW−9871 オリエント化学工業製)をポリアミド66樹脂:着色剤=39:1でドライブレンドした材料を用いた。
【0035】
透過率と反射率は、株式会社日立ハイテクノロジーズ製のUV-VIS V−670 積分球 紫外可視近赤外分光光度計を用いて測定した。供試資料として、射出成形機(SE−150D 住友重機製)を用いて樹脂温度285℃、金型温度80℃、120×80×1mmの試験片を得た。
試験片を36×30×1mmの試験片に切削した。得られた各試験片の透過率と反射率は以下のとおりであった。
(a)熱可塑性樹脂からなる試験片
波長940nmで透過率64.6%、反射率18.0%であり、波長1060nmで透過率67.2%、反射率16.0%であった。
(b)熱可塑性樹脂からなる試験片
波長940nmで透過率60.5%、反射率10.7%であり、波長1060nmで透過率65.4%、反射率10.9%であった。
【0036】
(a)および(b)の各熱可塑性樹脂を、それぞれ射出成形機(SE−150D 住友重機製)を用いて樹脂温度285℃、金型温度80℃、120×80×2mmの試験片を得た。
試験片を36×30×2mmの試験片に切削した。切削後の試験片を、表1の層構成となるように積層し、光レーザー装置(DL×50S ROFIN−SINAR製、発振波長940nm)を用いて、第1の層側からレーザーを照射して接着し、3層接着体を得た。
得られた3層接着体の層間にマイナスドライバーを差し込み、力を加えて溶着の可否を確認した。
○:マイナスドライバーを部材隙間に入れてハンマーで叩き割れない
△:マイナスドライバーを部材隙間に入れてハンマーで叩き割れる
×:外力を加えず部材が離れる
結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の3層接着体は、シリンダヘッドカバー、バッフルプレート、サーモスタット、オイルパンなどの自動車部品材料や、基板、LEDなどの電子・電気部品材料として産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の層、第2の層、第3の層が順に積層される、3層接着体であって、
前記第1の層〜第3の層が、(a)波長800〜1100nmで透過率50%以上であり反射率13%以上である熱可塑性樹脂、または(b)波長800〜1100nmで透過率50%以上であり反射率5%以上13%未満である熱可塑性樹脂からなり、
前記(a)熱可塑性樹脂からなる層が連続して積層されていない、3層接着体。
【請求項2】
前記(b)熱可塑性樹脂が、着色剤を含有する、請求項1に記載の3層接着体。
【請求項3】
前記着色剤が、ニグロシンおよび/またはナフタロシアニンを含み、さらにアニリンブラック、フタロシアニン、ポルフィリン、ペリレン、クオテリレン、アゾ染料、アントラキノン、スクエア酸誘導体、インモニウム染料から選ばれる着色剤を含む、請求項2に記載の3層接着体。
【請求項4】
前記第1の層が、前記(a)熱可塑性樹脂からなり、前記第2の層が、前記(b)熱可塑性樹脂からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の3層接着体。
【請求項5】
前記(a)〜(c)熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の3層接着体。
【請求項6】
前記(b)熱可塑性樹脂からなる層の層厚が、5mm以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の3層接着体。
【請求項7】
溶着されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の3層接着体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の3層接着体の製造方法。
【請求項9】
前記第1の層側からレーザー光を照射することにより3層を接着する、請求項8に記載の3層接着体の製造方法。
【請求項10】
前記レーザー光の発振波長が800〜1100nmである、請求項9に記載の3層接着体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−194687(P2011−194687A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63248(P2010−63248)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】