説明

4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールの製造方法

【課題】4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールの工業的に有利な製造方法を提供すること。
【解決手段】下記の工程A〜Dを含むことを特徴とする4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールの製造方法。
工程A:テトラクロロテレフタル酸ジクロライドをフッ素化する工程
工程B:工程Aで得られる生成物を還元する工程
工程C:工程Bで得られる生成物を塩素化する工程
工程D:工程Cで得られる生成物を水素化する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールの製造方法としては、例えば、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドを出発原料として、順に、フッ素化、エステル化、還元、臭素化、水素化する方法(例えば、特許文献1参照。)が知られているが、臭素化の収率が低く、工業的に満足できるものではなかった。また、テトラクロロテレフタロニトリルを出発原料として、順に、フッ素化、還元、ジアゾ分解、ハロゲン化、水素化する方法(例えば、特許文献2参照。)も知られているが、防災面で工業的に容易には実施できるものではなかった。また、特許文献2の実施例2には、特許文献1と同様の臭素化を収率よく実施した例が記載されているが、特殊な試薬を用いる必要があり、かかる臭素化を特許文献1の方法に適用したとしても、工業的な実施には問題が残るものであった。
【特許文献1】中国特許公開第1458137号明細書
【特許文献2】特表2004−512319号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような状況の下、本発明者は、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールの製造方法について鋭意検討したところ、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドを出発原料として、順に、フッ素化、還元、塩素化、水素化することにより、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールが収率よく製造できることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち本発明は、下記の工程A〜Dを含むことを特徴とする4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールの製造方法を提供するものである。
工程A:テトラクロロテレフタル酸ジクロライドをフッ素化する工程
工程B:工程Aで得られる生成物を還元する工程
工程C:工程Bで得られる生成物を塩素化する工程
工程D:工程Cで得られる生成物を水素化する工程
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、安全に、かつ特殊な試薬を用いることなく、医農薬原料等として利用可能な4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールを収率よく製造できるため、工業的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。まず、工程Aのフッ素化に用いるフッ素化剤について説明する。
【0007】
かかるフッ素化剤としては、例えば、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属フッ化物やフッ化水素等が挙げられる。これらフッ素化剤は、市販のものを用いてもよいし、任意の公知の方法により製造したものを用いてもよい。これらフッ素化剤のうち、アルカリ金属フッ化物が好ましく、フッ化カリウムがより好ましい。アルカリ金属フッ化物の粒径は、小さい方が好ましく、含水量は少ない方がさらに好ましい。かかるさらに好ましいアルカリ金属フッ化物としては、例えばスプレイドライ法で得たアルカリ金属フッ化物が挙げられる。
【0008】
特に好ましいフッ素化剤としては、フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物と、メタノールよりも沸点が高い非プロトン性有機溶媒とを混合し、得られる混合物を濃縮する方法により得られる実質的にフッ化カリウムと非プロトン性有機溶媒とからなるフッ化カリウム分散液および該分散液から取り出されたフッ化カリウムが挙げられる。以下、かかる特に好ましいフッ化カリウム(以下、高活性フッ化カリウムと略記することもある。)を調製する方法について説明する。
【0009】
高活性フッ化カリウムの調製に用いるフッ化カリウムとしては、通常、市販のものを用いることができ、その性状は特に限定されない。例えば乾燥品、水和物のいずれも使用できるし、5重量%程度まで水を含んでいても使用できる。また、粒径が比較的大きい結晶であっても、微細な粉末であってもよい。
【0010】
また、高活性フッ化カリウムの調製に用いるメタノールは、市販のものを用いることができる。無水品のみならず、5重量%程度まで水を含んでいても使用できる。
【0011】
高活性フッ化カリウムの調製に用いる非プロトン性有機溶媒は、後述する濃縮時の圧力条件下での沸点がメタノールよりも高いものであれば特に限定されず、非極性溶媒を用いてもよいが、後述する工程Aのフッ素化の溶媒としてそのまま用いることができる点で、非プロトン性極性溶媒を用いることが好ましい。かかる溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上の混合溶媒として用いてもよい。非プロトン性極性溶媒としては、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル溶媒;スルホラン、ジメチルスルホン、メチルエチルスルホン等のスルホン溶媒;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド等のスルホキシド溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアルキルアミド溶媒;ブチロニトリル、アジポニトリル等のニトリル溶媒;等が挙げられる。好ましくは、スルホン溶媒、スルホキシド溶媒またはアルキルアミド溶媒である。また、非極性溶媒を用いる場合は、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の炭素数6〜8の脂肪族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;等が挙げられる。
【0012】
メタノールの使用量は、フッ化カリウムに対し5〜50重量倍の範囲である。得られる混合物としては、フッ化カリウムがメタノールに完全に溶解した溶液であることが好ましい。かかる溶液を調製するためのメタノールの使用量は、溶解時や使用時の温度および含水量等の条件により異なるが、フッ化カリウムに対して8重量倍以上であることが、より好ましい。
【0013】
フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物の調製は、例えば、フッ化カリウムとメタノールとを混合する方法、または、水酸化カリウムとフッ化水素とをメタノール中で混合する方法等が挙げられる。前者の場合、フッ化カリウムとメタノールとの混合順序は特に限定されない。通常、常圧条件下で混合するが、減圧条件もしくは加圧条件下で混合してもよい。混合温度は、通常0〜100℃、好ましくは20〜70℃の範囲である。
【0014】
水酸化カリウムとフッ化水素とをメタノール中で混合する方法が、コスト面からは好ましい。
【0015】
水酸化カリウムは、市販のものをそのまま用いることもできるし、乾燥処理した後に用いることもできる。また、任意の方法により製造したものを用いることもできる。その形状は特に限定されず、例えば、片状、錠剤状または棒状であってもよいし、水溶液であっても、アルコール溶液であってもよい。水の含量は少ない方が好ましく、アルコール溶液を用いる場合は、メタノール溶液が好ましい。
【0016】
フッ化水素は、通常、市販のものを用いることができ、その性状は特に限定されない。フッ化水素ガスまたはフッ化水素酸が使用可能であり、操作性や入手性等の点からは、フッ化水素酸を用いることが好ましい。上記フッ化水素は、市販のものをそのまま用いてもよいし、メタノールや水と混合して用いてもよい。フッ化水素ガスを用いる場合、反応に不活性なガスと混合して用いてもよい。フッ化水素酸を用いる場合、その濃度は、高い方が好ましい。フッ化水素の使用量は、水酸化カリウムに対して、通常0.9〜1.1モル倍、好ましくは0.99〜1.01モル倍の範囲である。
【0017】
水酸化カリウムとフッ化水素とメタノールの混合順序は特に限定されないが、通常、水酸化カリウムとメタノールの混合物に、フッ化水素ガスあるいはフッ化水素酸を加えることが好ましい。通常、常圧条件下で混合するが、減圧条件もしくは加圧条件下で混合してもよい。混合温度は、通常0〜100℃、好ましくは20〜70℃の範囲である。
【0018】
上記メタノールよりも沸点が高い非プロトン性有機溶媒の使用量は、フッ化カリウムに対して、通常1重量倍以上であればよく、その上限は特にないが、あまり多すぎると生産性が低下するため、実用的には20重量倍以下である。
【0019】
高活性フッ化カリウムを得る方法としては、下記(a)〜(c)の3つの方法が例示される。
(a)フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物と、非プロトン性極性溶媒とを混合し、得られた混合物を濃縮する方法
(b)フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物と、非極性溶媒とを混合し、得られた混合物を濃縮した後、非プロトン性極性溶媒を加え、得られた混合物を濃縮する方法
(c)メタノールの沸点以上の温度条件下、非プロトン性極性溶媒中に、フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物を加えながら濃縮する方法
上記(a)〜(c)のうち、反応活性の点において好ましい態様としては(c)の方法が挙げられる。
【0020】
フッ化カリウム分散液中にメタノールや水を実質的に残存させない目的において、メタノールや水と共沸する溶媒を用いて濃縮してもよい。メタノールや水と共沸する溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒;等が挙げられる。
【0021】
濃縮時の操作圧力は、通常0.7〜200kPaの範囲であり、操作温度は、通常20〜200℃の範囲である。濃縮により留去されたメタノールは、高活性フッ化カリウムの調製に再使用してもよい。
【0022】
かくして得られるフッ化カリウム分散液は、実質的にフッ化カリウムと上記非プロトン性有機溶媒からなり、フッ化カリウムの微粉末が非プロトン性有機溶媒中に分散した混合物である。かかるフッ化カリウム分散液中のフッ化カリウムの含有量は、通常5〜70重量%の範囲である。本発明の工程Aのフッ素化剤としては、かかるスラリーをそのまま用いてもよいし、濾過やデカンテーション等の固液分離処理により該分散液から取り出されたフッ化カリウムを用いてもよい。
【0023】
次に、本発明の工程Aすなわち、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドをフッ素化する工程について説明する。
【0024】
テトラクロロテレフタル酸ジクロライドは、例えば特公平2−11571号公報等に記載の公知の方法により製造することができる。
【0025】
本工程におけるフッ素化剤の使用量は、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対して、通常6モル倍以上であればよく、その上限は特にないが、経済的な観点から好ましくは6〜10モル倍の範囲である。
【0026】
本工程のフッ素化は、通常、溶媒の存在下に実施される。かかる溶媒としては、非プロトン性極性溶媒を用いることが好ましい。非プロトン性極性溶媒としては、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル溶媒;スルホラン、ジメチルスルホン、メチルエチルスルホン等のスルホン溶媒;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド等のスルホキシド溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアルキルアミド溶媒;ブチロニトリル、アジポニトリル等のニトリル溶媒;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を同時に用いてもよい。スルホン溶媒、スルホキシド溶媒またはアルキルアミド溶媒がより好ましく、ジメチルスルホンがさらに好ましい。上記した、高活性フッ化カリウムをスラリーとして用いる場合は、スラリーに含まれる非プロトン性極性溶媒をそのままフッ素化溶媒として使用できる。これら溶媒は、市販のものを用いてもよいし、任意の公知の方法により製造したものを用いてもよい。
【0027】
溶媒の使用量は、特に制限されないが、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドに対して、通常0.1〜20重量倍の範囲である。
【0028】
反応温度は、通常120〜200℃の範囲である。
【0029】
ジメチルスルホンを溶媒として用いる場合には、さらに、反応に不活性な有機溶媒の存在下に反応を実施することが好ましい。反応に不活性で、その沸点がジメチルスルホンの沸点よりも低く、かつ、その融点がジメチルスルホンの融点よりも低い有機溶媒を用いることがより好ましく、反応に不活性で、沸点が100〜200℃である有機溶媒がさらに好ましく、反応に不活性で、沸点が100〜200℃であり、融点が50℃以下である有機溶媒が特に好ましい。
【0030】
かかる反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル溶媒;N,N−ジメチルアセトアミド等のN,N−ジアルキルアミド溶媒;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ベンゾニトリル等の芳香族炭化水素溶媒;オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素溶媒;などが挙げられる。
【0031】
反応に不活性な有機溶媒の使用量は、ジメチルスルホンに対し、通常0.5重量倍以下であり、好ましくは0.2重量倍以下である。
【0032】
本工程のフッ素化は、テトラクロロテレフタル酸ジクロライドとフッ素化剤と必要により溶媒とを混合し、所定の温度で攪拌することにより実施される。混合順序は特に限定されないが、フッ素化剤としてアルカリ金属フッ化物を用いる場合は、予め反応系内を脱水処理した後に反応を実施することが好ましい。脱水処理の方法としては、例えば、アルカリ金属フッ化物と非プロトン性極性溶媒とを混合し、減圧下に加熱する方法;トルエン、キシレン等の水と共沸する有機溶媒を用いて、アルカリ金属フッ化物と非プロトン性極性溶媒との混合物を共沸脱水する方法;等が挙げられる。かかる脱水処理を施した後の混合物とテトラクロロテレフタル酸ジクロライドとを混合すればよい。高活性フッ化カリウムを用いる場合は、上記した調製法で得られたスラリーとテトラクロロテレフタル酸ジクロライドを混合して、所定の反応温度で攪拌すればよい。
【0033】
本工程のフッ素化は、通常、常圧条件下で実施されるが、加圧条件下に実施してもよい。反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の通常の分析手段により確認することができる。
【0034】
フッ素化後の反応混合物には、通常、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドが生成物として含まれており、これをそのまま次の工程Bに供してもよいし、後処理した後に供してもよい。かかる後処理として、例えば減圧蒸留を施せば、該生成物を単離することができる。得られた生成物は、例えば精留等の通常の精製処理により、さらに精製されてもよい。
【0035】
また、後処理として、フッ素化後の反応混合物を水または炭素数1〜6のアルコールで処理してもよい。フッ素化後の反応混合物を水で処理すれば、本工程の生成物としてテトラフルオロテレフタル酸が、炭素数1〜6のアルコールで処理すれば、本工程の生成物としてテトラフルオロテレフタル酸ジエステルが、それぞれ得られる。
【0036】
炭素数1〜6のアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、シクロヘキサノール等の直鎖状、分枝鎖状または環状のアルコールが挙げられる。これらは、通常、市販ものが用いられる。
【0037】
炭素数1〜6のアルコールの使用量は特に制限されず、溶媒を兼ねて過剰量用いてもよいが、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドに対して、通常2〜50モル倍の範囲である。
【0038】
かかる後処理は、水と混和しない有機溶媒の存在下に実施してもよい。水と混和しない有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチルtert−ブチルエーテル等のエーテル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;などが挙げられる。水と混和しない有機溶媒の使用量は、特に限定されない。
【0039】
後処理により、通常、腐食性を有するフッ化水素が副生する。したがって、例えば、塩基の存在下に後処理を実施したり、不活性ガスを吹き込みながら後処理を実施したり、減圧下で後処理を実施したりすることにより、フッ化水素を系内に滞留させないことが工業的に好ましい。より好ましくは、塩基の存在下に後処理を実施するか、または、不活性ガスを吹き込みながら後処理を実施する。また、不活性ガスを吹き込みながら後処理を実施したり、減圧下で後処理を実施したりする場合は、系外に排出されたフッ化水素をそのまま大気中に放出してもよいが、通常、塩基で中和する。
【0040】
塩基の存在下に後処理を実施する場合に用いる塩基としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の3級アミン化合物;ピリジン、コリジン、キノリン等の含窒素芳香族化合物;酢酸ナトリウム等のカルボン酸アルカリ金属塩;ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート等のアルカリ金属アルコラート;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素カルシウム、炭酸水素マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸水素塩;などが挙げられる。含窒素芳香族化合物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属炭酸塩およびアルカリ土類金属炭酸水素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属炭酸塩またはアルカリ土類金属炭酸水素塩を用いることがより好ましい。
【0041】
かかる塩基の使用量は、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドに対して、通常2〜5モル倍の範囲である。
【0042】
不活性ガスとしては、例えば窒素、二酸化炭素、空気等が挙げられる。不活性ガスの吹き込み流量は、処理物に対して、通常1容量%/分以上であり、その上限は特にないが、操作性の点で、30容量%/分以下が好ましい。
【0043】
減圧下に後処理を行う場合の圧力は、通常6〜100kPaの範囲である。
【0044】
フッ素化後の反応混合物と水または炭素数1〜6のアルコールとの混合順序は、特に限定されない。塩基の存在下に反応を実施する場合は、処理温度条件下で、フッ素化後の反応混合物と塩基との混合物に、水または炭素数1〜6のアルコールを加えるか、フッ素化後の反応混合物に、塩基と水または炭素数1〜6のアルコールの混合物を加えることが好ましい。
【0045】
処理温度は特に限定されず、通常0〜100℃の範囲である。塩基の存在下に後処理を実施する場合は、0〜30℃の範囲が好ましい。
【0046】
後処理は、通常、常圧条件下で実施されるが、加圧条件下に実施してもよい。処理の進行は、例えばガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の通常の分析手段により確認することができる。
【0047】
後処理終了後の処理物には、テトラフルオロテレフタル酸またはそのジエステルが生成物として含まれており、これをそのまま次の工程Bに供してもよいが、通常、分液、濾過等の処理を施した後の有機層として供する。また、濃縮、晶析等の単離手段により、有機層から該生成物を単離した後に供してもよいし、該生成物を再結晶、カラムクロマトグラフィー等の精製手段により、さらに精製した後に供してもよい。
【0048】
テトラフルオロテレフタル酸ジエステルとしては、例えば2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジエチル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジ(n−プロピル)、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジイソプロピル、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジ(n−ブチル)、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジ(tert−ブチル)等が挙げられる。
【0049】
次に、本発明の工程B、すなわち上記工程Aで得られる生成物(通常、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライド、テトラフルオロテレフタル酸またはそのエステル)を還元する工程について説明する。
【0050】
還元に用いる還元剤としては、通常、水素化ホウ素化合物、水素化アルミニウム化合物および水素化ケイ素化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が用いられる。水素化ホウ素化合物としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素アルカリ金属塩;水素化ホウ素カルシウム、水素化ホウ素マグネシウム等の水素化ホウ素アルカリ土類金属塩;ジボラン、ボラン−テトラヒドロフラン錯体等のボラン化合物;などが挙げられる。水素化アルミニウム化合物としては、例えば、水素化リチウムアルミニウム等の水素化アルミニウム金属塩;水素化ジイソブチルアルミニウム等の水素化ジアルキルアルミニウム;などが挙げられる。水素化ケイ素化合物としては、例えば、トリエチルシリルハイドライド、トリイソプロピルシリルハイドライド、ジエチルシリルハイドライド、1,1,2,2−テトラメチルジシラン等のアルキルシリルハイドライド;モノシラン、ジシラン等のシラン;などが挙げられる。これら還元剤のうち、水素化ホウ素化合物が好ましく、水素化ホウ素アルカリ金属塩がより好ましく、水素化ホウ素ナトリウムがさらに好ましい。
【0051】
これら還元剤は、市販のものを用いてもよいし、任意の公知の方法により調製して用いてもよい。水素化ホウ素化合物を調製して用いる場合には、予め調製したものを反応系中に添加してもよいし、反応系内で調製し、そのまま使用してもよい。
【0052】
還元剤の使用量は、工程Aで得られる生成物に対して、通常1〜5モル倍、好ましくは2〜3モル倍の範囲である。
【0053】
本工程の還元は、通常、溶媒中で実施される。かかる溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に限定されないが、非プロトン性極性溶媒を用いることが好ましい。非プロトン性極性溶媒としては、例えば、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル溶媒;スルホラン、ジメチルスルホン、メチルエチルスルホン等のスルホン溶媒;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド等のスルホキシド溶媒等;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアルキルアミド溶媒;ブチロニトリル、アジポニトリル等のニトリル溶媒;等が挙げられる。
【0054】
溶媒の使用量は特に制限されないが、容積効率等を考慮すると、実用的には、工程Aで得られる生成物に対して100重量倍以下である。工程Aで得られる生成物が、これらの溶媒を含む混合物として本工程に供される場合は、該混合物中の溶媒をそのまま本工程の溶媒として用いることができる。
【0055】
還元剤として、水素化ホウ素アルカリ金属塩を用いてテトラフルオロテレフタル酸またはそのエステルを還元する場合、収率よく還元を進行させる目的において、酸、水および炭素数1〜10のアルコール化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物をさらに作用させて、本工程の還元を実施することが好ましい。
【0056】
酸としては、通常、鉱酸、カルボン酸、スルホン酸等が用いられる。鉱酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸等が挙げられ、好ましくは塩酸、硫酸が用いられる。カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、シュウ酸等の脂肪族カルボン酸や、安息香酸等の芳香族カルボン酸が挙げられる。スルホン酸としては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸や、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の芳香族カルボン酸が挙げられる。これらの酸は、通常、市販のものを用いることができ、そのまま用いてもよいし、水または前記溶媒と混合して用いてもよい。水溶液として用いる場合、酸の濃度は、通常5重量%以上であるが、できるだけ高濃度である方が好ましい。酸の使用量は、水素化ホウ素金属に対して、プロトン基準で、通常0.2〜5モル倍、好ましくは0.2〜2モル倍の範囲である。
【0057】
水の使用量は、水素化ホウ素アルカリ金属塩に対して、通常0.5〜10モル倍、好ましくは0.9〜4モル倍である。
【0058】
炭素数1〜10のアルコール化合物としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール等の脂肪族アルコール、例えばフェノール、ベンジルアルコール等の芳香族アルコールが挙げられる。脂肪族アルコールが好ましく、メタノールがより好ましい。その使用量は特に制限されず、溶媒を兼ねて過剰量用いてもよいが、水素化ホウ素アルカリ金属塩に対して、通常0.2〜50モル倍の範囲である。
【0059】
工程Aで得られる生成物と還元剤と溶媒との混合順序は、特に限定されず、通常、それらの混合物を所定の反応温度で攪拌すれば、目的の還元が進行する。好ましい実施態様としては、工程Aで得られる生成物と水素化ホウ素アルカリ金属塩と溶媒との混合物を所定の反応温度で攪拌し、そこに、酸、水およびアルコール化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物を徐々に加えていく方法が挙げられる。
【0060】
反応温度は、通常0〜150℃の範囲である。また、還元剤として水素化ホウ素アルカリ金属塩を用い、さらに酸またはアルコール化合物を作用させる場合は20〜80℃の範囲が好ましい。還元剤として水素化ホウ素アルカリ金属塩を用い、水を作用させる場合は40〜80℃の範囲が好ましい。
【0061】
本工程の還元は、通常、常圧条件下で実施されるが、加圧条件下に実施してもよい。反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の通常の分析手段により確認することができる。
【0062】
反応終了後の反応混合物には、通常、2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−ベンゼンジメタノールが生成物として含まれており、これをそのまま次の工程Cに供することもできるが、通常、例えば塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等の鉱酸の水溶液と混合し、必要に応じて、中和、抽出等の処理を施した後の有機層として供する。また、濃縮、晶析等の単離手段により、有機層から該生成物を単離した後に供してもよいし、該生成物を再結晶、カラムクロマトグラフィー等の精製手段により、さらに精製した後に供してもよい。
【0063】
次に、本発明の工程C、すなわち上記工程Bで得られる生成物(通常、2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−ベンゼンジメタノール)を塩素化する工程について説明する。
【0064】
塩素化に用いる塩素化剤としては、アルコール性水酸基を塩素化できるものであればよく、例えば塩化水素、塩化チオニル、三塩化リン、オキシ塩化リン等が挙げられ、選択的に塩素化できる点において、塩化水素が好ましい。これら塩素化剤は、通常、市販のものを用いることができる。塩化水素としては、塩化水素ガスおよびその有機溶媒溶液ならびに塩酸が使用可能であり、操作性や入手性等の点から、塩酸を用いることが好ましい。上記の塩化水素は、市販のものをそのまま用いることもできるし、反応に不活性なガス、有機溶媒または水等と混合して用いることもできる。塩酸を用いる場合は、濃度がより高い方が好ましく、市販の濃塩酸をそのまま用いることがさらに好ましい。塩化水素の有機溶媒溶液としては、塩化水素/ジオキサン溶液、塩化水素/テトラヒドロフラン溶液、塩化水素/ジメトキシエタン溶液等が挙げられる。
【0065】
塩素化剤の使用量は、工程Bで得られる生成物に対して、1モル倍以上であれば特に制限されないが、通常1〜20モル倍の範囲であり、塩化水素を用いる場合に好ましくは5〜15モル倍の範囲である。
【0066】
本工程の塩素化は、通常、溶媒の存在下で実施される。かかる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル溶媒;水;が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を同時に用いてもよい。塩素化剤として塩化水素を用いる場合、上記芳香族炭化水素溶媒や脂肪族炭化水素溶媒等の水と混和しない有機溶媒と水とを同時に用いることが好ましく、上記水と混和しない有機溶媒と水との2層系で反応を行うことがさらに好ましい。この場合、塩化水素として塩酸を用いるときは、塩酸に含まれる水を溶媒としても用いてもよいし、別途、水を用いてもよい。
【0067】
溶媒の使用量は特に制限されないが、容積効率等を考慮すると、実用的には工程Bで得られる生成物に対して100重量倍以下である。水と混和しない有機溶媒と水とを用いる場合、それらの合計量が上記範囲であればよい。工程Bで得られる生成物が、これらの溶媒を含む混合物として本工程に供される場合は、該混合物中の溶媒をそのまま本工程の溶媒として用いることができる。
【0068】
反応温度は、通常50〜110℃の範囲である。
【0069】
本工程の塩素化は、工程Bで得られる生成物と塩素化剤とを混合することにより実施され、それらの混合順序は特に限定されない。好ましい実施態様としては、工程Bで得られる生成物と、水と混和しない有機溶媒との混合物に、塩酸を加え、所定の反応温度で攪拌する態様が挙げられる。
【0070】
本工程の塩素化は、通常、常圧条件下で実施されるが、塩素化剤を効率よく使用するために密閉容器内で実施されてもよいし、加圧条件下で実施されてもよい。また、密閉容器内に塩素化剤を追加しながら実施されてもよい。反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の通常の分析手段により確認することができる。
【0071】
反応終了後の反応混合物には、通常、4−クロロメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンメタノールが生成物として含まれており、これをそのまま次の工程Dに供することもできるが、通常、分液、抽出等の処理を施した後の有機層として供する。かかる処理には、必要に応じて水または水と混和しない有機溶媒を用いてもよい。また、濃縮、晶析等の単離手段により、有機層から該生成物を単離した後に供してもよいし、該生成物を再結晶、カラムクロマトグラフィー等の手段により、さらに精製した後に供してもよい。
【0072】
上記の分液、抽出等の処理により有機層から分離される水層に、上記工程Bで得られる生成物が含まれるときは、塩基を用いて該水層を中和処理した後、抽出、濃縮等の処理を施すことにより、該生成物を回収することができる。塩基としては、通常、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩またはそれらの水溶液が用いられる。
【0073】
最後に、本発明の工程D、すなわち上記工程Cで得られる生成物(通常、4−クロロメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンメタノール)を水素化する工程について説明する。
【0074】
本工程の水素化は、通常、水素化剤として水素を用いる反応である。水素圧は、特に限定されないが、通常、常圧〜1MPa程度の条件下で反応を実施する。
【0075】
工程Cで得られる生成物と水素との反応は、通常、金属触媒の存在下に実施される。金属触媒としては、例えばコバルト、鉄、ニッケル、白金、パラジウムおよびレニウムから選ばれる少なくとも一種の金属原子を含む金属触媒が用いられる。金属触媒は、上記金属またはそれらの合金をそのまま用いてもよいし、担持された金属または合金として用いてもよい。
【0076】
また、かかる金属触媒として、スポンジメタル触媒を用いることもできる。ここで、「スポンジメタル触媒」は、ニッケル、コバルト等のアルカリまたは酸に不溶な金属とアルミニウム、シリコン、亜鉛、マグネシウム等のアルカリまたは酸に可溶な金属との合金から、アルカリまたは酸に可溶な金属をアルカリまたは酸で溶出させて得られる多孔性金属触媒を意味し、例えばスポンジコバルト、スポンジニッケル等が挙げられる。
【0077】
金属または合金をそのまま用いる場合は、粒径の小さい金属または合金を用いることが好ましい。また、担持された金属または合金における担体としては、例えば活性炭、アルミナ、シリカ、ゼオライト等が挙げられ、入手性の点からは活性炭が好ましく、反応活性の点からは粒径の小さい担体が好ましい。
【0078】
水を含む金属触媒を用いてもよい。
【0079】
かかる金属触媒としては、パラジウム金属が担持された触媒が好ましく、パラジウム/炭素がより好ましい。
【0080】
金属触媒の使用量は、その形態により大きく異なるが、通常、工程Cで得られる化合物に対して0.1〜150重量%の範囲である。
【0081】
本工程の水素化は、副生する塩化水素を中和するために塩基の存在下で実施されてもよい。かかる塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;酸化マグネシウム、酸化カルシウム等のアルカリ土類金属酸化物;等の無機塩基が挙げられる。アルカリ土類金属酸化物が好ましく、なかでも酸化マグネシウムが好ましい。
【0082】
本工程の水素化は、通常、溶媒の存在下に実施される。かかる溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル等のエーテル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール溶媒;水;等およびこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0083】
溶媒の使用量は特に制限されないが、容積効率等を考慮すると、実用的には工程Cで得られる化合物に対して、通常20重量倍以下である。工程Cで得られる生成物が、これらの溶媒を含む混合物として本工程に供される場合は、該混合物中の溶媒をそのまま本工程の溶媒として用いることができる。
【0084】
反応温度は、通常50〜150℃の範囲である。
【0085】
本工程の水素化は、通常、工程Cで得られる化合物と水素化剤とを接触させることにより実施される。水素化剤が水素であり、金属触媒および溶媒を使用するときの実施態様としては、所定の反応温度条件下、工程Cで得られる化合物と金属触媒と溶媒との混合物を、水素雰囲気下で攪拌する態様が例示される。
【0086】
反応の進行は、例えばガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の通常の分析手段により確認することができる。
【0087】
反応終了後の反応混合物には、通常、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンメタノールが生成物として含まれており、例えば、反応混合物から金属触媒等の不溶分を濾過により除去した後、水および必要に応じて水に不溶の有機溶媒を加えて洗浄処理し、得られた有機層を濃縮処理することにより、該生成物を単離することができる。水素を用いて反応を実施した場合には、上記単離操作を実施する前に、例えば窒素等の不活性ガスで気相部を置換しておくことが、防災上好ましい。また、上記水洗処理を施す場合は、必要により水に不溶の有機溶媒を用いて実施する。ここで、水に不溶の有機溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル等のエーテル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;等が挙げられる。得られた4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンメタノールは、例えば蒸留、カラムクロマトグラフィー等の通常の精製手段により、さらに精製されてもよい。
【0088】
また、反応混合物から除去した金属触媒を含む不溶分は、場合によって、そのまま、あるいは、有機溶媒、水、酸または塩基を用いて洗浄処理した後、本工程の水素化にリサイクル使用できる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0090】
実施例1(工程A:フッ素化)
還流冷却管を付した200mlフラスコにスルホラン110gを仕込み、内温140℃まで昇温した。ここに、フッ化カリウム30gをメタノール350gと混合し、30分間加熱還流することにより完全に溶解させた溶液を滴下しながら、メタノールを留去した。フッ化カリウム/メタノール溶液を全量仕込み、メタノールがほとんど留出しなくなった後、160℃/2.7kPaの条件で、さらにメタノールを留去することにより、フッ化カリウム含有スラリーを得た。
該フッ化カリウム含有スラリーを100℃まで冷却し、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド22gと混合した。得られた混合物を145℃に昇温し、同温度で攪拌しながら3.5時間保温・攪拌した。反応後、100℃まで冷却し、トルエン100gを加えた後、室温まで冷却した。メタノール15gを滴下し、窒素ガスを用いて副生するフッ化水素ガスをフラスコ外へ除きながら、室温で12時間攪拌した。析出した結晶をろ別し、該結晶をトルエン10gで洗浄した。ろ液と洗液を合一し、水100gを加えた後、炭酸カリウムを600mg加えて、水層のpHを7に調整した。該混合物を分液し、得られた有機層をエバポレーター(減圧度10〜100kPa、水浴30〜50℃)で濃縮することにより、オイル状の残渣を得た。かかる残渣と水110gとを混合したところ、混合物から結晶が析出した。エバポレーター(減圧度10〜100kPa、水浴30〜50℃)で、該混合物から5g程度の水を留去することにより、上記残渣に含まれていたトルエンを共沸除去した。室温まで冷却し、結晶をろ過・乾燥することにより、17.4gの薄黄色結晶を得た。該結晶をガスクロマトグラフィー面積百分率法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの純度は92%であった。
単離収率:93%。
【0091】
実施例2(工程A:フッ素化)
還流冷却管を付した500mlフラスコに、フッ化カリウム(スプレイドライ品)23g、ジメチルスルホン85gおよびトルエン30gを仕込み、130℃に昇温し、共沸脱水により水分除去を行った。脱水後、140℃にてトルエンが留去しなくなるまで保温後、さらに20mmHgまで減圧し、トルエンをほぼ完全に留去後、窒素で常圧に戻し、100℃まで冷却した。得られた混合物に、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド17gとトルエン1.5gを仕込み、145℃に昇温し、同温度で攪拌しながら3時間保温・攪拌した。反応後、110℃まで冷却し、トルエン300gを加え、さらに60℃まで冷却した。ここに、メタノール100gを加えた後、窒素ガスを吹き込みながら、室温で10時間攪拌した。攪拌後、濃縮操作によりメタノールを留去し、濃縮残渣に水200gと炭酸カリウム6.9gを加え、攪拌後、分液し、有機層を得た。有機層を、濃縮、乾燥することにより、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルを薄黄色結晶として13.2g得た。該結晶をガスクロマトグラフィー内部標準法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの含量は90.0重量%であった。
収率:89%
【0092】
実施例3(工程A:フッ素化)
還流冷却管およびソックスレー抽出管を付した200mlフラスコに、メタノール30gとトルエン100gを仕込んだ。また、ソックスレー抽出管部位にはフッ化カリウム20gを仕込み、フラスコ内容物を常圧下で100℃に加熱し、同温度でメタノールを18時間還流させたところ、ソックスレー抽出管部位のフッ化カリウムは完全に消失し、フラスコ中にフッ化カリウム分散液を得た。該フッ化カリウム分散液を、常圧下で90〜100℃に加熱し、メタノール/トルエン混合液を30g留去した。さらにフラスコ内にトルエン100gを加え、さらにメタノール/トルエン混合液を100g留去した。得られた混合物を濾過処理し、得られた微粉末を乾燥処理して、フッ化カリウム19.7gを得た。
還流冷却管および水分離管を付した50mlフラスコに、上記で調製したフッ化カリウム960mgとスルホラン3gとトルエン3gとを仕込み、フラスコ内容物を常圧下で130℃に加熱し、同温度でトルエンの還流脱水を30分間行った後、140℃に昇温してトルエンを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
該フッ化カリウム分散液を100℃まで冷却し、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド680mgと混合した。得られた混合物を150℃に昇温し、同温度で4時間保温・攪拌した。反応後、室温まで冷却し、メタノールを5g加え、室温で1時間攪拌した。酢酸エチルを10g加え、ガスクロマトグラフィー内部標準法により分析して収率を求めた。
2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの収率:70%
2,3,5−トリフルオロ−6−クロロテレフタル酸ジメチルの収率:16%
ジフルオロ−ジクロロテレフタル酸ジメチルの収率(3異性体合計):11%
【0093】
実施例4(工程A:フッ素化)
還流冷却管を付した200mlフラスコにスルホラン500gを仕込み、内温140℃まで昇温した。1L三角フラスコにフッ化カリウム150gとメタノール500gとを室温で混合し、該混合物をデカンテーションして得られたフッ化カリウムのメタノール溶液を、上記スルホラン中へ滴下しながら、メタノールを留去した。留出したメタノールを用いて、上記デカンテーションにて得られたフッ化カリウムの不溶分を溶解し、該溶液を上記200mlフラスコ中に滴下することにより、フッ化カリウムの全量をメタノール溶液として仕込み、メタノールの留去を続けた。メタノールがほとんど留出しなくなった後、160℃/2.7kPaの条件で、さらにメタノールを留去することにより、フッ化カリウム含有スラリーを得た。
該フッ化カリウム含有スラリーを100℃まで冷却し、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド110gと混合した。得られた混合物を145℃に昇温し、同温度で攪拌しながら10時間保温・攪拌した。反応後、100℃まで冷却し、トルエン300gを加えた後、室温まで冷却した。メタノール75gを滴下し、窒素ガスを用いて副生するフッ化水素ガスをフラスコ外へ除きながら、室温で12時間攪拌した。析出した結晶をろ別し、該結晶をトルエン50gで洗浄した。ろ液と洗液を合一し、水500gを加えた後、炭酸カリウムを4g加えて、水層のpHを8に調整した。該混合物を分液し、得られた有機層をエバポレーター(減圧度10〜100kPa、水浴30〜50℃)で濃縮することにより、オイル状の残渣を得た。かかる残渣と水300gとを混合したところ、混合物から結晶が析出した。エバポレーター(減圧度10〜100kPa、水浴30〜50℃)で、該混合物から20g程度の水を留去することにより、上記残渣に含まれていたトルエンを共沸除去した。室温まで冷却し、結晶をろ過・乾燥することにより、82.2gの薄黄色結晶を得た。該結晶をガスクロマトグラフィー内部標準法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチルの純度は89%であった。
収率:85%。
【0094】
実施例5(工程A:フッ素化)
還流冷却管を付した200mlフラスコにスルホラン97gを仕込み、内温140℃まで昇温した。ここに、フッ化カリウム30gをメタノール350gと混合し、30分間加熱還流することにより完全に溶解させた溶液を滴下しながら、メタノールを留去した。フッ化カリウム/メタノール溶液を全量仕込み、メタノールがほとんど留出しなくなった後、トルエン10gを加えた。トルエンがほぼ留出しなくなるまで140℃で加熱後、さらに160℃/2.7kPaの条件で、ほぼ完全にメタノールとトルエンを留去することにより、フッ化カリウム含有スラリーを得た。
該フッ化カリウム含有スラリーを100℃まで冷却し、テトラクロロテレフタル酸ジクロライド22gと混合した。得られた混合物を145℃に昇温し、同温度で攪拌しながら4時間保温・攪拌した。反応後、100℃まで冷却し、トルエン100gを加えた後、室温まで冷却した後、不溶分をろ別し、該不溶分をトルエン20gで洗浄した。ろ液と洗液とを合一し、得られた混合物を、水酸化カリウム7.6gと水100gの混合物中に滴下した。滴下後、不溶分をろ別し、該不溶分を水10gで水洗し、乾燥させることにより、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸を含む結晶を得た。ろ液と洗液とを合一し、得られた混合物を分液し、得られた水層を約半分の重量まで濃縮後、不溶分をろ別し、該不溶分を乾燥させることにより、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸を含む結晶を得た。先に得た結晶と、後に得た結晶とを合わせた重量は15.9gあり、該結晶を液体クロマトグラフィー絶対検量線法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸の純度は85%であった。
単離収率:88%。
【0095】
実施例6(工程A:フッ素化)
還流冷却管を付した500mlフラスコにスルホラン315gを仕込み、37.3kPaまで減圧した後、内温130℃まで昇温した。ここに、フッ化カリウム61.3gをメタノール810gに溶解させた溶液を6時間かけて滴下しながら、メタノールを減圧留去した。フッ化カリウム/メタノール溶液を全量仕込み、メタノールがほとんど留出しなくなった後、160℃/2.7kPaの条件で、さらにメタノールを留去することにより、フッ化カリウム分散液を得た。
該フッ化カリウム分散液を常圧で120℃まで冷却した後、テトラクロロテレフタル酸ジクロリド45.0gと混合した。得られた混合物を140℃に昇温し、同温度で攪拌しながら4時間保温・攪拌した。反応終了後、得られた反応混合物を40℃まで冷却し、2.7kPaまで減圧した後、内温160℃まで昇温し、塔頂温95〜96℃の留分25.2gを取得した。該留分には2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジフルオリドが94.6重量%含まれていた。収率75%。
【0096】
実施例7(工程B:還元)
還流冷却管を付した200mlフラスコに、室温で水素化ホウ素ナトリウム9.4g、テトラヒドロフラン100gを仕込んだのち、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル28.5gをテトラヒドロフラン100gに溶解させた液を加えた。この混合液を60℃に昇温した後、同温度で攪拌しながら、35重量%塩酸26gを5時間かけて滴下し、2時間保温・攪拌した後、室温まで冷却した。この反応液に5重量%塩酸120gを加えて攪拌、静置すると、2層に分離したので、分液して上層の有機層を得た。有機層にトルエン100gを加え、水30gで2回洗浄後、溶媒を留去することにより、26.0gの白色結晶を得た。該結晶を液体クロマトグラフィー内部標準法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの純度は80%であった。
収率:92%。
【0097】
実施例8(工程B:還元)
還流冷却管を付した200mlフラスコに、室温で水素化ホウ素ナトリウム4.6g、テトラヒドロフラン50gを仕込んだのち、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル14.7gをテトラヒドロフラン50gに溶解させた液を加えた。この混合液を60℃に昇温した後、同温度で攪拌しながら、45重量%硫酸水13gを5時間かけて滴下し、2時間保温・攪拌した後、室温まで冷却した。この反応液に水50gを加えて攪拌、静置すると、2層に分離したので、分液して上層の有機層を得た。有機層にトルエン50gを加え、水30gで2回洗浄後、溶媒を留去することにより、12.4gの白色結晶を得た。該結晶を液体クロマトグラフィー内部標準法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの純度は85.7%であった。
収率:92%。
【0098】
実施例9(工程B:還元)
還流冷却管を付した200mlフラスコに、室温で水素化ホウ素ナトリウム1.6g、テトラヒドロフラン30gを仕込んだのち、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル5.1gをテトラヒドロフラン20gに溶解させた液を加えた。この混合液を室温で攪拌しながら、35重量%塩酸4.4gとテトラヒドロフラン6gの混合液を5時間かけて滴下し、2時間保温・攪拌した。フラスコ内温度は、25〜30℃の範囲であった。この反応液に5重量%塩酸30gを加えて攪拌、静置すると、2層に分離したので、分液して上層の有機層を得た。有機層にトルエン50gを加え、水20gで2回洗浄後、溶媒を留去することにより、4.4gの白色結晶を得た。該結晶を液体クロマトグラフィー内部標準法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの純度は85.4%であった。
収率:93%。
【0099】
実施例10(工程B:還元)
還流冷却管を付した200mlフラスコに、室温で水素化ホウ素ナトリウム1.7g、テトラヒドロフラン30gを仕込んだのち、実施例4で得られた2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル6.0g(純度:89%)をテトラヒドロフラン20gに溶解させた液を加えた。この混合液を50℃に昇温した後、同温度で攪拌しながら、35重量%塩酸10.2gとテトラヒドロフラン10gの混合液を5時間かけて滴下し、2時間保温・攪拌した後、室温まで冷却した。この反応液に5重量%塩酸30gを加えて攪拌、静置すると、2層に分離したので、分液して上層の有機層を得た。有機層にトルエン50gを加え、水30gで2回洗浄後、溶媒を留去することにより、4.3gの白色結晶を得た。該結晶を液体クロマトグラフィー内部標準法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの純度は89%であった。
収率:91%。
【0100】
実施例11(工程B:還元)
還流冷却管を付した200mlフラスコに、室温で水素化ホウ素ナトリウム1.7g、テトラヒドロフラン30gを仕込んだのち、実施例4で得られた2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル6.0g(純度89%)をテトラヒドロフラン20gに溶解させた液を加えた。この混合液を50℃に昇温した後、同温度で攪拌しながら、酢酸3gとテトラヒドロフラン10gの混合液を5時間かけて滴下し、2時間保温・攪拌した後、室温まで冷却した。この反応液に5重量%塩酸30gを加えて攪拌、静置すると、2層に分離したので、分液して上層の有機層を得た。有機層にトルエン50gを加え、水30gで2回洗浄後、溶媒を留去することにより、4.1gの白色結晶を得た。該結晶を液体クロマトグラフィー内部標準法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの純度は94%であった。
収率:92%。
【0101】
実施例12(工程B:還元)
還流冷却管を付した200mlフラスコに、室温で水素化ホウ素ナトリウム2.61g、テトラヒドロフラン26.8gおよび2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル8.94gを仕込み、55℃に昇温した。同温度で攪拌しながら、メタノール26.7gを80分間かけて滴下し、6.5時間保温・攪拌した後、室温まで冷却し、20時間攪拌を行った。この反応液に10%塩酸24.5gを25〜30℃で1時間かけて滴下し、同温度で1時間攪拌した後に、23%水酸化ナトリウム水8gを加えて攪拌した。得られた溶液を全濃縮して溶媒を留去した。得られた濃縮残渣に水100gを加え、酢酸エチル70gを用いて3回抽出し、有機層を合一した。得られた有機層に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水し、濾過処理により固体を除去した後、有機層を濃縮して、白色結晶を6.38g得た。該結晶をガスクロマトグラフィー内部標準法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの含量は92.5%であった。
収率:84%。
【0102】
実施例13(工程B:還元)
還流冷却管を付した200mlフラスコに、室温で水素化ホウ素ナトリウム1.66g、メチル−tert−ブチルエーテル20.0gおよび2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル5.32gを仕込み、55℃に昇温した。同温度で攪拌しながら、メタノール18.0gを3時間かけて滴下し、5時間保温・攪拌した後、室温まで冷却した。この反応液に10%塩酸16gを25〜30℃で30分間かけて滴下し、同温度で30分間攪拌した後に、45%水酸化ナトリウム水を加えてpHを8に調整した。得られた溶液を濃縮してメタノールとメチル−tert−ブチルエーテルを留去した。得られた濃縮水溶液に酢酸エチル50gを加えて有機層を抽出する操作を2回繰り返し、有機層を合一した。得られた有機層に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水し、濾過処理により固体を除去した後、有機層を濃縮して、濃縮液を10gまでした後、トルエン30gを加えると結晶が析出したので、これをろ過・乾燥して3.82gの白色結晶を得た。該結晶を液体クロマトグラフィー面積百分率法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの含量は95.5%であった。
収率:87%。
【0103】
実施例14(工程B:還元)
還流冷却管を付した200mlフラスコに、室温で水素化ホウ素ナトリウム830mg、テトラヒドロフラン10gおよび2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジメチル2.66gを仕込み、65℃に昇温した。同温度で攪拌しながら、水395mgとテトラヒドロフラン10gの混合液を3時間かけて滴下し、2時間保温・攪拌した後、室温まで冷却した。得られた反応混合物に10重量%塩酸20gを25〜30℃で30分間かけて滴下し、同温度で1時間攪拌した後に、酢酸エチル30gを用いて2回抽出処理した。有機層を合一し、水10gで洗浄して、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールを含む溶液を得た。該溶液を液体クロマトグラフィー内部標準法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの収率は86%であった。
【0104】
実施例15(工程B:還元)
還流冷却管を付した200mlフラスコに、室温で水素化ホウ素ナトリウム2.58gとジメトキシエタン25gを仕込み、50℃に昇温した。該混合物を攪拌しながら、その中に、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸6.10gとジメトキシエタン20gとの混合溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、60℃に昇温し、同温度で7時間保温・攪拌した。反応終了後の混合物にトルエンを20g加え、50℃に冷却し、35重量%塩酸水8.5gを1時間かけて滴下した後、60℃に昇温し、同温度で6時間保温・攪拌した。得られた混合物に水30gを加え、分液処理にて有機層を分取した後、酢酸エチル30gを用いて水相を2回抽出処理した。上記各処理により得られた全ての有機層を合一し、飽和炭酸カリウム水溶液10g、次いで水10gを用いて、順次洗浄した後、得られた有機層から溶媒を留去した。トルエンとヘキサンを用いて、得られた固体を再結晶処理することにより、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールを含む白色粉末状結晶5.35gを得た。該結晶を液体クロマトグラフィー絶対検量線法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの純度は95.1%であった。
収率:95%。
【0105】
実施例16(工程B:還元)
還流冷却管を付した100mlフラスコに、室温で水素化ホウ素ナトリウム1.03gとスルホラン9.0gとを混合し、得られた混合液を50℃に昇温した。そこに、2,3,5,6−テトラフルオロテレフタル酸ジフルオリド3.27gとスルホラン21.0gとトルエン4.3gの混合液を20分かけて滴下し、同温度で1時間保温・攪拌した後、室温まで冷却した。得られた反応混合物にアセトン1.0g、トルエン86.7g、水210gを加えて攪拌、静置すると2層に分離したので、分液処理により上層の油層を分取し、該油層に5重量%硫酸50gを加えて攪拌、静置後の水層と前記の水層を合わせて液体クロマトグラフィー内部標準法により分析したところ、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールの収率は86%であった。
【0106】
実施例17(工程C:塩素化)
還流冷却管を付した50mlフラスコに、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノール500mg、トルエン3gおよび36重量%塩酸2.5gを室温で仕込み、90℃に昇温した。同温度で5時間保温・攪拌した後、室温まで冷却した。得られた反応混合物を分液したのち、水層をトルエン5gで2回抽出した。有機層を合一し、トルエンを留去することにより、545mgの白色結晶を得た。該結晶をガスクロマトグラフィー面積百分率法により分析したところ、4−クロロメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールの純度は99.0%であった。
収率:99%。
【0107】
該結晶には、副生物である1,4−ジ(クロロメチル)−2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンが0.8%含まれていた。
【0108】
実施例18(工程C:塩素化)
還流冷却管を付した100mlフラスコに、実施例10と11で得られた2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノール6.6g(純度:90%)、トルエン40gおよび36重量%塩酸33gを室温で仕込み、90℃に昇温した。同温度で5時間保温・攪拌した後、室温まで冷却した。得られた反応混合物を分液したのち、水層をトルエン10gで2回抽出した。有機層を合一し、トルエンを留去することにより、6.2gの白色結晶を得た。該結晶をガスクロマトグラフィー面積百分率法により分析したところ、4−クロロメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールの純度は98.0%であった。
収率:93%。
【0109】
該結晶には、副生物である1,4−ジ(クロロメチル)−2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンが0.5%含まれていた。
また、トルエン抽出後の水層を、5重量%水酸化ナトリウム水で中和後、トルエンで抽出し、得られた有機層からトルエンを留去することにより、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノールを0.1g回収した。
【0110】
比較例 (臭素化)
還流冷却管を付した100mlフラスコに、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノール13.3g(純度:90%)、トルエン70gおよび48重量%臭化水素酸16.4gを室温で仕込み、90℃に昇温した。同温度で4時間保温・攪拌した後、室温まで冷却した。得られた反応混合物を分液したのち、水層をトルエン10gで2回抽出した。有機層を合一し、トルエンを留去することにより、14.9gの白色結晶を得た。該結晶をガスクロマトグラフィー面積百分率法により分析したところ、4−ブロモメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールの含量は90.0%であった。
収率:86%
【0111】
該結晶には、副生物である1,4−ジ(ブロモメチル)−2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンが8.0%含まれていた。
【0112】
実施例19(工程C:塩素化)
120mLオートクレーブに、2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンジメタノール7.0g(純度:99.1%)、トルエン42gおよび35重量%塩酸34.7gを室温で仕込んで密閉し、90℃に昇温した。同温度で保温・攪拌したところ、容器内の圧力は、最大で0.12MPa(ゲージ圧力)となった。5時間後、室温まで冷却した。得られた反応混合物を分液したのち、水層をトルエン25gで抽出した。有機層を合一し、トルエンを留去することにより、7.4gの白色結晶を得た。該結晶をガスクロマトグラフィー面積百分率法により分析したところ、4−クロロメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールの純度は96.6%であった。
収率:94%。
該結晶には、副生物である1,4−ジ(クロロメチル)−2,3,5,6−テトラフルオロベンゼンが2.9%含まれていた。
【0113】
実施例20(工程D:水素化)
還流冷却管を付した100mlフラスコに、5%パラジウム/炭素(50%含水品)1.2g、実施例18で得られた4−クロロメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコール6.1g(純度:98.0%)および1−ブタノール30gを仕込み、フラスコ内の気相部を窒素置換した後、水素で置換し、水素を満たした1L容積のゴム風船をフラスコに取り付け、100℃に昇温し、同温度で攪拌しながら16時間保温・攪拌した。反応後、室温まで冷却し、ろ過により触媒を除去した後、触媒を酢酸エチル10gで洗浄後、ろ液と洗液を合一し、濃縮処理することにより、4.7gの白色結晶を得た。該結晶をガスクロマトグラフィー面積百分率法により分析したところ、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールの純度は98%であった。
収率:90%。
【0114】
実施例21(工程D:水素化)
120mLオートクレーブに、5%パラジウム/炭素(54%含水品)0.16g、4−クロロメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコール8.6g(純度:92.7%)、水0.6g、酸化マグネシウム1.8gおよびメタノール52gを仕込み、容器内の気相部を窒素置換した後、水素で0.35MPa(ゲージ圧力)まで加圧した。50℃に昇温し、同温度で水素圧力を0.35MPaに保持しながら6時間保温・攪拌した。反応終了後、室温まで冷却し、ろ過により触媒を除去した後、触媒をトルエン43gで洗浄後、ろ液と洗液を合一し、濃縮処理することにより、6.9gの白色結晶を得た。該結晶をガスクロマトグラフィー面積百分率法により分析したところ、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールの純度は92.3%であった。
収率:94%。
【産業上の利用可能性】
【0115】
4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールは、例えば、家庭用殺虫剤の中間体として有用であることが知られている(例えば、特許第2606892号公報参照。)。したがって、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールは、医農薬原料として利用でき、かかる化合物を工業的に有利に製造することができる点において、本発明は産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程A〜Dを含むことを特徴とする4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールの製造方法。
工程A:テトラクロロテレフタル酸ジクロライドをフッ素化する工程
工程B:工程Aで得られる生成物を還元する工程
工程C:工程Bで得られる生成物を塩素化する工程
工程D:工程Cで得られる生成物を水素化する工程
【請求項2】
工程Aのフッ素化が、アルカリ金属フッ化物を用いる反応である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アルカリ金属フッ化物が、フッ化カリウムである請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
フッ化カリウムが、フッ化カリウムおよびその5〜50重量倍のメタノールを含んでなる混合物と、メタノールよりも沸点が高い非プロトン性有機溶媒とを混合し、得られる混合物を濃縮することにより得られるフッ化カリウムである請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
工程Aのフッ素化が、ジメチルスルホンの存在下に行う反応である請求項2〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
工程Aが、さらにフッ素化後の反応混合物を水で処理する操作を含む工程である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
工程Aで得られる生成物が、テトラフルオロテレフタル酸である請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
工程Aが、さらにフッ素化後の反応混合物を炭素数1〜6のアルコール化合物で処理する操作を含む工程である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
工程Aで得られる生成物が、テトラフルオロテレフタル酸ジエステルである請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
工程Aで得られる生成物が、テトラフルオロテレフタル酸ジフルオライドである請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
工程Bの還元が、水素化ホウ素化合物、水素化アルミニウム化合物および水素化ケイ素化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いる反応である請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
工程Bの還元が、水素化ホウ素アルカリ金属塩を用いる反応である請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
水素化ホウ素アルカリ金属塩が、水素化ホウ素ナトリウムである請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
工程Bの還元が、さらに酸を作用させて行う反応である請求項11〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
工程Bの還元が、さらに水を作用させて行う反応である請求項11〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
工程Bの還元が、さらに炭素数1〜10のアルコール化合物を作用させて行う反応である請求項11〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項17】
工程Bで得られる生成物が、2,3,5,6−テトラフルオロ−1,4−ベンゼンジメタノールである請求項1〜16のいずれかに記載の製造方法。
【請求項18】
工程Cの塩素化が、塩化水素を用いる反応である請求項1〜17のいずれかに記載の製造方法。
【請求項19】
工程Cの塩素化が、水と混和しない有機溶媒および水の存在下で行う反応である請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
工程Cの塩素化が、水と混和しない有機溶媒と水との2層系で行う反応である請求項18に記載の製造方法。
【請求項21】
工程Cで得られる生成物が、4−クロロメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジルアルコールである請求項1〜20のいずれかに記載の製造方法。
【請求項22】
工程Dの水素化が、水素を用いる反応である請求項1〜21のいずれかに記載の製造方法。
【請求項23】
工程Dの水素化が、金属触媒の存在下に行う反応である請求項22に記載の製造方法。
【請求項24】
工程Dの水素化に用いる金属触媒が、コバルト、鉄、ニッケル、白金、パラジウムおよびレニウムから選ばれる少なくとも一種の金属原子を含む触媒である請求項23に記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−222710(P2008−222710A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32762(P2008−32762)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】