説明

4−C−メチルケトペントース異性化酵素およびそれを用いる4−C−メチルケトペントースの製造方法

【課題】ブランチ・イズモリングの構築とそれを利用した体系的な4位が分岐しCメチル化されたペントースの製造法を確立すること。
【解決手段】
ケトペントースの4位にメチル基が結合した、4種存在する全ての4−C−メチルケトペントースに作用し3位をエピマー化することによって、対応するエピマーを生産する、シュードモナス属に属する細菌から得ることのできる4−C−メチルケトペントース異性化酵素。シュードモナス チコリ ST−24(FERM BP−2736)由来の酵素である。上記の酵素を、4−C−メチルケトペントースに作用させ、遊離の分岐ケトースのままでエピマー化することによって、3位をエピマー化した対応する4−C−メチルケトペントースを生成することを特徴とする4位にメチル基を有するケトペントースの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−C−メチルケトペントース異性化酵素および4−C−メチルペンチトールの2位を微生物酸化反応を用いる4−C−メチルケトペントースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの複雑な炭水化物が、たとえば細胞−細胞認識、細胞増殖および細胞分化のような生物学的認識過程において中心的な役割を果たしている(非特許文献1)。それらは、血液型決定基を構成し(非特許文献2)、腫瘍関連抗原を形成する(非特許文献3)。植物界においては、それらはホルモンとして調整機能を発揮し(非特許文献4)、またレクチンに対する結合部位を形成する(非特許文献5)。
【0003】
たとえばデオキシ− およびフルオロ糖のような修飾糖ならびに天然糖のエピマーは、これらの相互作用へ向けての研究の重要な手段を提供する。蛋白質−炭水化物相互作用の一般的な法則は、特異的な酵素−基質相互作用の場合と全く同様に、この関連での興味の中心である。すなわち、たとえば酵素の活性中心についての情報は、酵素基質の連続的な改変によって得ることができる。さらに、デオキシグリコシドはそれが多くの抗生物質中に存在するという事実からもとくに興味がもたれる(非特許文献6)。
【0004】
2−デオキシグルコースはガン細胞における解糖およびガン細胞の増殖を阻害することが報告されており、いくつかの動物モデルでは腫瘍増殖を遅延させることも報告されている。また、他のサイトカインおよび抗ガン薬物との組み合わせも研究されている(特許文献1)。このようにデオキシヘキソースは特に代謝や生体信号に対する研究に対しての利用が期待される。
【0005】
発明者の一人である何森健は、4炭糖、5炭糖、6炭糖についてのイズモリング(Izumoring)連携図を特許文献2で公表しその有用性を示している。すなわち、図6で示される生産過程と分子構造(D型、L型)により、炭素数4から6の単糖全てをつないだ連携図が、イズモリング(Izumoring)の全体図である。すなわち、図6から理解できることは、単糖は、炭素数4、5、6全てがつながっているということである。全体図は、イズモリングC6の中でのつながりと、イズモリングC5の中でのつながりと、イズモリングC4の中でのつながりと、C4、C5、C6が全てつながっていることである。この考え方は重要である。炭素数を減少させるには主に発酵法を用いる。炭素数の異なる単糖全てをつなぐという大きな連携図であることも特徴である。
【0006】
炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリングは、図6の下段および図7、さらに図10に示すように、炭素数が6つの単糖(ヘキソース)は全部で34種類あり、アルドースが16種類、ケトースが8種類、糖アルコールが10種類ある。希少糖とは自然界に希にしか存在しない単糖(アルドース、ケトース)およびその誘導体(糖アルコール)と定義づけることができる。この定義は糖の構造や性質による定義ではないため、あいまいである。すなわち、一定量以下の存在量を希少糖というなどの量の定義はなされていないためである。しかし、一般に自然界に多量に存在するアルドースとしてはD−グルコース、D−ガラクトース、D−マンノース、D−リボース、D−キシロース、L−アラビノースの6種類あり、それ以外のアルドースは希少糖と定義される。ケトースとしては、D−ラクトースが存在しており、他のケトースは希少糖といえる。他のケトースとして、D−プシコース、D−タガトース、D−ソルボース、L−フラクトース、L−プシコース、L−タガトース、L−ソルボースが挙げられる。また糖アルコールは単糖を還元してできるが、自然界にはD- ソルビトールが比較的多いがそれ以外のものは量的には少ないので、これらも希少糖といえる。
これらの糖は、酸化還元酵素の反応、アルドース異性化酵素の反応、アルドース還元酵素の反応で変換できることは、本発明者らの研究を含めた研究で知られている。D−グルコース(ブドウ糖)やD− フラクトースは自然界に多量に存在する糖であり安価であるが、これらから希少糖を合成することができなかった。ところが、新規な酵素が発見された。それはガラクチトールからD−タガトースを合成する酵素を持つ菌の培養液中に、全く予期しなかったD−ソルボースが発見されたことに端を発する。その原因を調べた結果、この菌がD−タガトース3エピメラーゼ(DTE)という酵素を産生していることを発見した(特許文献3)。このDTEはこれまでつながらなかったD−タガトースとD−ソルボースの間をつなぐ酵素であることがわかる。そしてさらに驚くことに、このDTEは全てのケトースの3位をエピ化する酵素であり、これまで合成接続できなかったD−フラクトースとD−プシコース、L−ソルボースとL−タガトース、D−タガトースとD−ソルボース、L−プシコースとL−フラクトース、に作用するという非常に幅広い基質特異性を有する、すなわち非常に幅広く基質を選択できるというユニークな酵素であることが分かった。このDTEの発見によって、すべての単糖がリング状につながり、単糖の知識の構造化が完成し、イズモリング(Izumoring)と名付けた。
この図7をよく見てみると、左側にL型、右側にD型、真ん中にDL型があり、しかもリングの中央(星印)を中心としてL型とD型が点対称になっていることもわかる。例えば、D−グルコースとL−グルコースは、中央の点を基準として点対称になっている。しかもイズモリング(Izumoring)の価値は、全ての単糖の生産の設計図にもなっていることである。先の例で、D- グルコースを出発点としてL−グルコースを生産しようと思えば、D−グルコースを異性化→エピ化→還元→酸化→エピ化→異性化するとL−グルコースが作れることを示している。
炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリング(Izumoring)を使って、自然界に多量に存在する糖と微量にしか存在しない希少糖との関係が示されている。D−グルコース、D−フラクトース、D−マンノースと、牛乳中の乳糖から生産できるD−ガラクトースは、自然界に多く存在し、それ以外のものは微量にしか存在しない希少糖と分類される。DTEの発見によって、D−グルコースからD−フラクトース、D−プシコースを製造し、さらにD−アロース、アリトール、D−タリトールを製造することができるようになった。希少糖D−プシコースは、これまで入手自体が困難であったが、自然界に多量に存在する単糖から希少糖を大量生産する方法が開発されつつあり、その技術を利用して製造することができる。
炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリング(Izumoring)の意義をまとめると、生産過程と分子構造(D型、L型)により、すべての単糖が構造的に整理され(知識の構造化)、単糖の全体像が把握できること、研究の効果的、効率的なアプローチが選択できること、最適な生産経路が設計できること、欠落部分について予見できること、が挙げられる。
【0007】
炭素数が5つの単糖(ペントース)のイズモリングは、図6の中段および図8に示すように、炭素数6のイズモリングよりも小さいリングである。しかし、C6のイズモリングと同じようにアルドース8個、ケトース4個および糖アルコール4個全てを含むことに変わりは無く、全てが酵素反応で結ばれる。異なる点は、酸化還元反応、異性化反応のみでリング状に全てが連結できることである。一方、DTEを用いることによって、さらに効率のよい生産経路が設計できることがわかる。炭素数5のイズモリングの特徴は、特に図8から明らかなように、炭素数6のイズモリングが点対象に全単糖が配置されているのに対し、左右が対象に配置されていることが大きな特徴である。これら全ペントースは、酵素反応により連結されていることから、炭素数6のイズモリングの場合と全く同様に、すべてのペントースが構造的に整理され(知識の構造化)、全体像が把握できること、研究の効果的、効率的なアプローチが選択できること、最適な生産経路が設計できること、欠落部分について予見できる意義を持っている。
炭素数が4つの単糖(テトロース)のイズモリングは、図6の上段および図9に示すように、テトロースの構造上の特性のため、リングが完成しないという特徴がある。炭素数5のイズモリング上部半分の構造を持っている。このリングの場合も、炭素数5,6の場合と同様の酸化還元および異性化反応によって連結されている。DTEが炭素数4のケトースに反応しないため、ケトース間の反応は現在のところ存在しない。しかし、新規のエピメラーゼの存在が予測され、この研究は現在研究途上である。
全体の配置は、炭素数5と同様に左右対称であり、アルドース4個、ケトース2個および糖アルコール3個全てを含んでいる。すなわち炭素数5,6のイズモリングと同様の意義が存在する。
イズモリングC6のD- グルコースは、イズモリングC5のD−アラビトールおよびイズモリングC4のエリスリトールとつながっている。この線は、発酵法によってD−グルコースからD−アラビトールおよびエリスリトールを生産できることを示している。すなわち、イズモリングC6,イズモリングC5およびイズモリングC4は連結されている。この連結は、炭素数の減少という主に発酵法による反応であり、このD−アラビトールおよびエリスリトールへの転換反応の二つ以外の発酵法によるイズモリングC6とイズモリングC5,C4との連結は可能である。例えばD−グルコースからD−リボースの生産も可能である。
このように、3つのイズモリングにより全ての炭素数4,5,6の単糖(アルドース、ケトース、糖アルコール)が連結されたことで、それぞれの単糖が全単糖の中でその存在場所を明確に確認できる。最も有名なキシリトールは、未利用資源の木質から生産できるD−キシロースを還元することで容易に生産できることを明確に確認できる。
もしも特定の単糖が生物反応によって多量に得られた場合には、それを原料とした新たな単糖への変換の可能性が容易に見いだすことが可能である。すなわち、この全体像から全ての単糖の原料としての位置を確実につかむことができるため、有用な利用法を設計することができる。特に廃棄物や副産物から単糖が得られた場合の利用方法を容易に推定できるのである。
【0008】
単糖類を還元すると、アルデヒド基およびケトン基はアルコール基となり、炭素原子と同数の多価アルコール、すなわち糖アルコールとなる。還元糖は食品等の分野で有用なものが多く、例えばL−アラビノースは、五炭糖で、蔗糖に近い味質を持ち、難吸収性のノンカロリーな糖質である。また蔗糖やマルトースなどの二糖が体内に吸収される際に作用する二糖水解酵素を阻害することが知られており、ダイエット用甘味料や糖尿病患者用甘味料としての利用が期待されている。また、L−アラビノースは医薬品の合成原料としても有用な糖である。
還元糖を取得する場合、その由来を天然物に求めることが行われている。例えば、L−アラビノースを取得する手段として、最近では、コーンファイバーやアラビアガム、ビートパルプなどに酵素や酸を作用させるL−アラビノースの製造法が開発されている。原料となるアラビナン、アラビノキシラン、アラビノガラクタン等の粗繊維はペクチン質や不要な粗繊維等と混在して存在する場合が多く、これらを酵素分解や酸加水分解処理することによって得られる溶液の中にはL−アラビノース等の還元糖の他に、ペクチン質や粗繊維、またこれらの分解物が混在している。L−アラビノースを精製する方法に関しては、L−アラビノース含有糖液中のキシロースおよびオリゴ糖と目的のL−アラビノースをイオン交換樹脂によるクロマトグラフィーで分画する方法や、多糖、オリゴ糖や塩類との分離を目的としたイオン交換樹脂によるクロマトグラフィー、膜処理等が提案されている。
一方、単糖の中で炭素が直鎖状に結合していない分岐した単糖である、4−C−メチルペントースについては、有効な製造法および物質として認知されているものはほとんどなく、製造法についての確立が第一に要望されている。
【0009】
【特許文献1】特表2006- 515883号公報
【特許文献2】WO2004/063369号公報
【特許文献2】特許3333969号公報
【非特許文献1】G.E.Edelman, Spektrum Wiss. 1964(6),62
【非特許文献2】V.Ginsburg, Adv. Enzymol. 36,(1972),131
【非特許文献3】G.M.W.Cook, E.W. Stoddart,“Surface Carbohydratesof theEucaryotic Cell", Academic Press, London, 1973
【非特許文献4】P.Albersheim, A.G. Darvill, Spektrum Wiss. 1985(11), 86
【非特許文献5】T.W.Rademacher,R.B. Parekh, R.A. Dwek, Ann. Rev. Biochem., 57,(1988), 785
【非特許文献6】T.Reichstein, E. Weiss, Adv. Carbohydr. Chem. 17, (9162〔sic〕), 65
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
単糖は炭素が直鎖状に4,5、あるいは6個並んだ、テトロース、ペントースそしてヘキソースが一般的である。しかし工業的に単糖の直鎖状態ではなく分岐した構造をもつ単糖を製造することは極めて困難であり、容易な製造法の確立が強く望まれる。
そこで、ブランチ・イズモリングの構築とそれを利用した体系的な4位が分岐しCメチル化されたペントースの製造法を確立することを目的とする。
すなわち、本発明は、2−あるいは4−位がメチル化されたペンチトール(2位あるいは4位がメチル化したペンチトールは命名法によっては同一のものでも別名で呼ばれることがある)のメチル基を4位とした場合に2位を微生物酸化することで、4−C−メチルケトペントースの製造。そして、4−C−メチルケトペントース異性化酵素を作用させることによって全ての4位が分岐したケトペントースを生産することを目的とした。
4−C−メチルケトースの4種が生産できれば、それをアルドースイソメラーゼによって4−C−メチルアルドースへ、また、還元することで4−C−メチルペンチトールを得ることが可能となり、新しい構造を持つ糖の一群;4位がメチル化された分岐ペントースの全てを生産することが可能となる。(図1)
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、4−C−メチルケトペントース異性化酵素の製造法の確立に鋭意研究を行ってきた。その中で、シュードモナス チコリ ST−24(FERM BP−2736)由来のD- タガトース 3- エピメラーゼが、4−C−メチルケトペントース(例えば4―C−メチルD―キシルロース)を基質として対応する4―C−メチルケトペントース(例えば4―C−メチルD―リブロース)を生成することを発見した。
また4―C−メチルケトペントースは、4―C−メチルペンチトールを微生反応により2位を酸化することで得られることを見出した。
この発見によって全ての4種の、4−C−メチルケトペントース;4―C−メチルD―キシルロース、4―C−メチルL−キシルロース、4―C−メチルD―リブロースおよび4―C−メチルL−リブロースを生産することができた。これらの酸化・エピ化・異性化を関連する構造と反応をもとに配置することで、ブランチ・イズモリング(図1)を完成した。
【0012】
本発明の4−C−メチルケトペントースの製造方法。本発明における4−C−メチルケトペントース製造法は、大きく二つの反応による。第一の反応は、4−C−メチルペンチトールを微生物酸化して、4−C−メチルケトペントースへ転換する方法。第二は、4−C−メチルケトペントースを4−C−メチルケトペントースの3位をエピ化する活性を有する、4−C−メチルケトペントース異性化酵素による対応する4−C−メチルケトペントースの生産法である。
【0013】
第一のポリオールからケトースへ酸化する方法
<4−C−メチルポリオールから4−C−メチルケトペントースの生産>
4−C−メチルポリオールを原料として用い、2位を特異的に微生物を用いて酸化することによって、4−C−メチルケトペントースを製造する方法。この場合には、これまでのイズモリングの経験から、ポリオールのケトースへの酸化は微生物反応を用いる必要がある。それはNADなどの補酵素の再生系を組み込んだバイオリアクターを構築することは、現在のところ効率が悪いことが分かっていること。各種のポリオールは効率よく、2位を酸化して対応するケトースを生産することが可能である。
そこでこの場合の基質であるポリオールは、4位にメチル基が結合した従来の通常のポリオールではない、枝分かれしたポリオールであるので酸化されるかどうかは、まず基質が微生物の体内に入る関門が第一、第二にそれがポリオール脱水素酵素の基質になるかどうかの関門であった。
実際に検討した結果、直鎖のポリオールと同様の酸化によるケトースへの転換活性が認められたので本研究は完成できた。
第一のポリオールからケトースへ酸化する方法は、微生物による酸化が、Gluconobacter thailandicus NBRC 3254を用いることを特徴とする。
Gluconobacter thailandicus NBRC 3254について>
本微生物は工業的にD−ソルビトールからL−ソルボースを製造する時に用いられる酢酸菌である。われわれはこのポリオールの2位を酸化してケトール生産する能力を利用することで、各種希少糖ケトースを生産することに利用してきた。例えば、アリトールの2位を酸化することでL−プシコースを効率よく生産することに成功している。(参考文献;Journal of Fermentation and Boiengineering Vol. 81, 212-215 (1996))
【0014】
第二のケトースをエピ化する方法
〈4−C−メチルケトペントースを対応する3位のエピマーへのエピ化反応〉
4−C−メチルケトペントース異性化酵素を用いて、4−C−メチルポリオールから生産した4−C−メチルケトペントースの3位をエピ化し、4−C−メチルD−キシルロース、4−C−メチルL−キシルロース、4−C−メチルD−リブロースおよび4−C−メチルL−リブロースを生産する方法である。
4位にメチル基が結合した分岐したケトースの3位をエピ化する酵素の存在は、全く知られていないし、そのような酵素を検索したこともないものであった。実際の実験を進める中で、イズモリングにおいてケトヘキソースおよびケトペントースの3位をエピ化する酵素として用いたD−タガトース3−エピメラーゼがこの活性を持っていることを発見した。そのため第二の方法が完成できた。
使用する酵素は以下の性質を持った酵素である。
4−C−メチルケトペントースに作用し、3位をエピマー化し対応する4−C−メチルケトペントースを生成する、4−C−メチルケトペントース異性化酵素であると言える。この酵素はシュードモナス属に属する細菌から得ることのできるD−タガトース3−エピメラーゼと同一の酵素である。その性質は、
1)全4種の4−C−メチルケトペントース作用し、3位をエピマー化することで、対応する4−C−メチルケトペントースを生成する。
2)4−C−メチルケトペントース異性化活性の至適pHおよびpH安定性は、pH7〜10に至適pHを有し、pH5〜10で安定。
3)4−C−メチルケトペントース異性化活性の至適温度および熱安定性60℃付近に至適温度を有し、50℃以下で安定。
4)紫外線吸収スペクトル275乃至280nmに吸収帯を示す。
5)分子量41,000±3,000(ゲル濾過クロマトグラフィーによる)。
6)本4−C−メチルケトペントース異性化酵素は、シュードモナス チコリ ST−24(FERM BP−2736)由来の酵素である。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の(1)ないし(3)に記載の4−C−メチルケトペントース異性化酵素を要旨とする。
(1)ケトペントースの4位にメチル基が結合した、4種存在する全ての4−C−メチルケトペントースに作用し3位をエピマー化することによって、対応するエピマーを生産する、シュードモナス属に属する細菌から得ることのできる4−C−メチルケトペントース異性化酵素。
(2)下記の理化学的性質を有する(1)に記載の4−C−メチルケトペントース異性化酵素。
1)全4種の4−C−メチルケトペントース作用し、3位をエピマー化することで、対応する4−C−メチルケトペントースを生成する。
2)4−C−メチルケトペントース異性化活性の至適pHおよびpH安定性は、pH7〜10に至適pHを有し、pH5〜10で安定。
3)4−C−メチルケトペントース異性化活性の至適温度および熱安定性60℃付近に至適温度を有し、50℃以下で安定。
4)紫外線吸収スペクトル275乃至280nmに吸収帯を示す。
5)分子量41,000±3,000(ゲル濾過クロマトグラフィーによる)。
(3)シュードモナス チコリ ST−24(FERM BP−2736)由来の酵素である(1)または(2)に記載の4−C−メチルケトペントース異性化酵素。
【0016】
また、本発明は、以下の(4)ないし(9)に記載の4位にメチル基を有するケトペントースの製造方法を要旨とする。
(4)(1)、(2)または(3)に記載の4−C−メチルケトペントース異性化酵素を、4−C−メチルケトペントースに作用させ、遊離の分岐ケトースのままでエピマー化することによって、3位をエピマー化した対応する4−C−メチルケトペントースを生成することを特徴とする4位にメチル基を有するケトペントースの製造方法。
(5)原料である4−C−メチルD−リブロースまたは、4−C−メチルL−リブロースの3位をエピ化し、対応する、4−C−メチルD−キシルロースまたは、4−C−メチルL−キシルロースを製造することである(4)に記載の4位にメチル基を有するケトペントースの製造方法。
(6)4−C−メチルケトペントースが、2−C−メチルペンチトールあるいは4−C−メチルペンチトールを原料として、微生物による酸化で得られたものである(4)または(5)に記載の4位にメチル基を有するケトペントースの製造方法。
(7)微生物による酸化が、Gluconobacter thailandicus NBRC 3254を用いることを特徴とする(6)に記載の4位にメチル基を有するケトペントースの製造方法。
(8)2−C−メチルペンチトールあるいは4−C−メチルペンチトールを原料として、4種全ての4位にメチル基を有するケトペントースを製造することを特徴とする(6)または(7)に記載の4位にメチル基を有するケトペントースの製造方法。
(9)2−C−メチルD−アラビニトールまたは2−C−メチルD−リビトールを微生物によって2位を酸化し、4−C−メチルD−キシルロースまたは4−C−メチルL−リブロースをそれぞれ生産し、これを4−C−メチルケトペントース異性化酵素を用いてエピ化し4−C−メチルD−リブロースまたは4−C−メチルL−キシルロースを生産することによって、全ての4位で分岐した4種のケトペントース;4−C−メチルD−キシルロース、4−C−メチルD−リブロース、4−C−メチルL−リブロースおよび4−C−メチルL−キシルロースを製造することを特徴とする(8)に記載の4位にメチル基を有するケトペントースの製造方法。
【0017】
さらにまた、本発明は、以下の(10)に記載の新規化合物を要旨とする。
(10)(9)に記載された方法で製造された以下の新規化合物。
4−C−メチルD−キシルロース、4−C−メチルL−キシルロース、4−C−メチルD−リブロースおよび4−C−メチルL−リブロース。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、遊離のケトペントースの4位をメチル化した、分岐ケトペントースに作用する4−C−メチルケトペントース異性化酵素、それを用いる4位をメチル化した4種の分岐ケトペントースの製造方法、並びに、生産された4−C−メチルケトペントースを提供することができる。
【0019】
また、自然界に希にしか存在しない単糖およびその誘導体(アルドース、ケトースおよび糖アルコール)である希少糖について、炭素数が6つの単糖およびその誘導体(ヘキソース)のイズモリング(Izumoring)は、自然界に多量に存在する糖と微量にしか存在しない希少糖との関係、それを得るための出発原料および経路が体系的に示されているが、本発明により、これまで全く研究されてされていない、4位で分岐したペントースに関する分野の研究開発に道を開き、新しい用途を開発できる可能性を明らかにしたといえる。
図1で示したように、ブランチ・イズモリングとして全体像を理解できることによって、分岐した全く新規な希少糖の研究への基盤を作ることを意味している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
上記のように、本発明者らは、4−C−メチルケトペントースを、遊離の4−C−メチルケトペントースの糖質のままで容易にエピマー化しうるエピメラーゼの検索を鋭意続けてきた。その結果、従来知られているD- ケトヘキソース 3- エピメラーゼであるD- タガトース 3- エピメラーゼ(特許第3333969号)が、ケトヘキソースおよびケトペントースのみならず、対応する4−C−メチルケトペントースにも作用し、3位をエピマー化したデオキシ体を得ることができることを発見し、該酵素を利用した全4−C−メチルケトペントースの製造方法を確立した。また4−C−メチルケトペントースを4−C−メチルペンチトールを酸化できる微生物反応を見出すことで、全4種の4−C−メチルケトペントースの生産法を完成した。
【0021】
なお、エピメラーゼは、エンザイム ノメンクレイチャー(Enzyme Nomenclature)(アメリカ合衆国、Academic Press、Inc.1992年)によると、各種の糖質に作用することが知られている。しかしながら、これまでに知られているエピメラーゼは、例えば、リブロースリン酸塩 3- エピメラーゼ(EC 5.1.3.1)やUDP−グルコース 4−エピメラーゼ(EC 5.1.3.2)などのように主としてリン酸化された糖質やUDPなどと結合した糖質に作用するものであり、遊離の中性の糖質を製造する工業用途には、使えないものであった。
一方、遊離の糖質に作用するエピメラーゼについては、アルドースに作用する二例、アルドース 1- エピメラーゼ(EC 5.1.3.3)およびセロピオース エピメラーゼ(EC 5.1.3.11)または、ケトースに作用するD- ケトヘキソース 3- エピメラーゼが知られているのみである。アルドース 1- エピメラーゼは、アルドースの1位のα、βアノマー間のエピマー化を触媒し、セロビオース エピメラーゼは、同様に、セロビオースのα、βアノマー間を触媒する酵素である。また、D- ケトヘキソース 3- エピメラーゼはケトヘキソースの3位を触媒する酵素であるが、デオキシ体に作用するかどうかは知られていなかった。
【0022】
すなわち、本酵素(シュードモナス属に属する細菌から得ることのできるデオキシケトヘキソース異性化酵素、D- ケトヘキソース 3- エピメラーゼ)は、以下の化合物間の反応を触媒することを発見した。
(i)4−C−メチルD−キシルロースの4−C−メチルD−リブロースへのエピマー化反応もしくはその逆反応、
(ii)4−C−メチルL−キシルロースの4−C−メチルL−リブロースへのエピマー化反応もしくはその逆反応、
【0023】
また、これまでのアルドースイソメラーゼの研究の成果から考えると、4−C−メチルケトペントースと4−C−メチルアルドペントースを、遊離の4−C−メチルケトペントースへ容易に異性化することができる。
よって、本発明は、製造した4−C−メチルケトペントースを対応する4−C−メチルアルドペントースへと変換し製造することが可能となったと言える。
【0024】
また4−C−メチルアルドペントースは、アルドースの特性としてラネーニッケルなどの触媒存在下において対応する4−C−メチルペンチトールを生産可能であることは容易である。
【0025】
本発明は、4種全ての4−C−メチルケトペントースを製造する製造方法を確立し、提供する。
【0026】
本発明の4−C−メチルケトペントースの製造方法は、D- ケトヘキソース 3- エピメラーゼが、4−C−メチルケトペントースの3位をエピマー化し、対応する4−C−メチルケトペントースを生成する活性を有することを新たに発見し、全ての4−C−メチルケトペントースを製造できる手段を提供する。
用いるD- ケトース 3- エピメラーゼは、4−C−メチルケトペントースの3位をエピマー化するものが選ばれるが、特許3333969号に記載のものが、反応活性が高く好ましい。
【0027】
本発明に用いられるD- タガトース3- エピメラーゼの主な理化学的性質は、特許第3333969号明細書に記載されているが、4−C−メチルケトペントースに対する性質を下記に示す。
(1) 作用および基質特異性4−C−メチルケトペントースの3位をエピマー化し、対応する4−C−メチルケトペントースを生成する。
(2) 至適pHおよびpH安定性pH7〜10に至適pHを有し、pH5〜10で安定。
(3) 至適温度および熱安定性60℃付近に至適温度を有し、50℃以下で安定。
【0028】
本発明のD- タガトース 3- エピメラーゼすなわちD- ケトヘキソース 3- エピメラーゼは、通常、特許第3333969号明細書で開示されている方法でシュードモナス チコリ ST−24(FERM BP−2736)およびその変異種などを用いることにより生産できる。
【0029】
すなわちシュードモナス チコリ ST−24(FERM BP−2736)を、常法に従って、炭素源、窒素源、無機塩、ビタミンなどを含有する栄養培地に1〜5日間程度培養、望ましくは、液体培地に通気撹拌などにより好気的条件下で培養し、得られる菌体または培養液上清などの培養物からD- タガトース 3- エピメラーゼを抽出する。通常、培養物を粗D- ケトヘキソース 3- エピメラーゼとして利用することができる。必要ならば、培養物を濾過、遠心分離、塩析、透析、濃縮、凍結乾燥など公知の方法で部分精製して利用することができる。さらにイオン交換体への吸着溶出、ゲル濾過、等電点分画、電気泳動、高速液体クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、モノクローナル抗体への吸着溶出などを組合せて高度に精製したものも利用することも可能である。このようにして、ポリアクリルアミドゲル電気泳動的に、単一にバンドを示すまで精製したD- タガトース3 エピメラーゼは、D- ケトヘキソースの3位のOH基をエピマー化する。また、驚くことに、本酵素は、4−C−メチルケトペントースに対しても、エピメラーゼ活性を示すことがわかった。
【0030】
この変換反応は、通常、次の条件で行なわれる。基質濃度は1〜60w/v%、望ましくは約5〜50w/v%、反応温度は10〜70℃、望ましくは約30〜60℃、反応pHは5〜10、望ましくは約7〜10、酵素活性は基質グラム当り1単位以上、望ましくは、50〜5,000単位の範囲から選ばれる。反応時間は、適宜選択できるが、経済性との関係で、バッチ反応の場合には、通常、5〜50時間の範囲が選ばれる。
なお上記の酵素活性単位は、タガトース 3−エピメラーゼ活性に対する酵素単位とし、次のようにして測定される。
すなわち、50mM トリス塩酸緩衝液(pH7 .5 )100 μl 、40mMD- タガトースを50μl および酵素液50 μl含む溶液(または懸濁液)を30 ℃で60分間インキュベートし、生成物であるD−ソルボースをHPLCにより測定した。酵素活性1単位は1分間に1μmol のD−タガトースをエピマー化し、D− ソルボースを生成する酵素量とした。
【0031】
このようにして変換させた反応溶液は、原料の4−C−メチルケトペントースと新たに生成した4−C−メチルケトペントース(原料のエピマー)とを含有しており、必要ならば、この濃縮液を、例えば、アルカリ金属型またはアルカリ土類金属型強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにより、新たに生成したデオキシケトースと原料デオキシケトースとを分離精製し、新たに生成したデオキシケトース高含有画分を濃縮し、シラップ状製品を得ることができる。また、結晶化が可能である場合には、晶出させて結晶状製品を得ることも有利に実施できる。また、この分離された原料の4−C−メチルケトペントースを、再度、変換反応の原料に用いることもできる。
【0032】
以下、幾つかの実施例により本発明の詳細を述べるが、これらの実施例により、本発明が限定されることはない。
【実施例1】
【0033】
第一の方法のポリオールからの生産法の実施例である。
[2−C−メチルD−アラビニトールから4−C−メチルD−キシルロースの生産]
2−C−メチルD−アラビニトールの2位を酸化して、4−C−メチルD−キシルロースを生産する微生物を検索した。その結果Gluconobacter thailandicus NBRC 3254に強い活性が存在することを見出した。
Gluconobacter thailandicus NBRC 3254 の培養条件>
菌株の保存培地は2%寒天を含む、0.5%ポリペプトン、0.5%酵母エキスに0.5%の食塩と1%D−グルコースを加えpH7に調整したものを用いた。反応に用いる微生物の生育培地は0.5% Polypepton, 0.5% yeast extract, 0.5% NaCl and 1% glucose in
water pH adjusted to 7を用いた。微生物の培養条件は、500ml容三角フラスコに上記培地200mlを入れて一分間200回転の速度で回転し、反応は24時間、反応温度は30℃で行った。
【0034】
<微生物を用いた酸化反応条件>
反応条件は0.05MのトリスHCl緩衝液pH8を用い、菌体濃度はA600nmの吸光度が30となるように調整して用いた。反応は20時間行い100rpmの撹拌条件で行った。2−C−メチルD−アラビニトールの酸化反応は、基質濃度は1〜10%で転換は100%の転換率で進んだ。
【0035】
<生産物の精製と純度の検定>
脱イオンはSKIB (H+; Mitsubishi Chemical, Tokyo)Amberlite IRA-41 I(Co3 2- ; Organo, Tokyo)の混合樹脂を用いて行なった。他の不純物からの分離は、カラムクロマトグラフィーを用い、分離樹脂は Dowex 5OW-X2 (The Dow Chemical, MI, USA) の Ca 2+
型を用いて行い、溶出液としては水を用いた。 純度の検定はHPLCを用いて行なった。HPLC分析条件は、検出器にはShimadzu RID-6A を用い、移動相10−4NaOHM、流速1.0ml/min、カラムはHITACHI GL-C611 を用いた。カラム温度は60℃で分析を行った。分析試料はDiaionSK-1B, AmberliteIRA-411 で脱塩したものを0.45μm の面ブランフィルターでろ過したものを用いた。HPLCの結果は、図2(b)4−C−メチルD−キシルロースのHPLC分析結果に示すようにほぼ純粋であった。
【0036】
<生産物の同定>
生産物の精製標品を得るまでの収率は70%であった。その旋光度は-7.15[oil, [a]D20-7.15 (c, 1.0 in water)]であった。NMRを用いたを行なった。分析条件は、10〜15mg の4−C−メチルD−リブロースをエッペンドルフチューブに入れ、600μL の重水を添加した。チューブの口をパラフィルムで覆い、爪楊枝で3箇所ほど開け、ディープフリーザーで凍結させた。これを凍結乾燥し、再び600μLの重水を添加し、凍結乾燥した。乾燥後、予めTSP(3- methylsilyl propionic 2,2,3,3- d4 acid)を1%になるように調製した600μLの重水を添加して溶解した。これをNMRのガラス管に入れて測定を行った。
測定結果は、図2(b)4−C−メチルD−キシルロースのHPLC分析結果に示した。表2に示すような結果を得ており、本物質の構造を確認できた。水溶液中におけるアノマーの存在比も明らかにできた。
【実施例2】
【0037】
第一の方法のポリオールからの生産法の実施例である。
[2−C−メチルD−リビトールから4−C−メチルL−リブロースの生産]
2−C−メチルD−アラビニトールから4−C−メチルD−キシルロースの生産と同様にまず、2−C−メチルD−リビトールから4−C−メチルL−リブロースする微生物の検索を行なった。その結果、2−C−メチルD−アラビニトールから4−C−メチルD−キシルロースに用いた同一の微生物が強い酸化活性を持つことを見出した。2−C−メチルD−リビトールと2−C−メチルD−アラビニトールの構造を比較すると、炭素2および3のOHの配位が同一のL−リブロ型であることから、同一の微生物が両者に活性を持っていると考えられた。
【0038】
<微生物の培養、酸化反応、精製、同定の条件>
これらの条件は、2−C−メチルD−アラビニトールから4−C−メチルD−キシルロースの生産の場合と全く同一である。
なお、純度をHPLCで検定した結果は 図3(a)4−C−メチルL−リブロースのHPLC分析結果に示したとおり、ほぼ純粋であった。収率は65%であり旋光度は-1.4 [oil, [a]D20 -1.4 (c, 1.0 in water)]であった。NMRの結果は 表2の4−C−メチルL−リブロースの欄と図4の下の4−C−メチルL−リブロースの1H NMRスペクトルに示した。構造を確認することができた。
【実施例3】
【0039】
第二の方法のケトースの3位のエピ化酵素を用いた生産法の実施例である。
[4−C−メチルD−リブロースの4−C−メチルD−キシルロースからの生産]
2−C−メチルD−アラビニトールから微生物反応で生産した4−C−メチルD−キシルロースをD- タガトース3- エピメラーゼを用いてエピマー化することによって、4−C−メチルD−キシルロースを生産した。
【0040】
[D- タガトース 3- エピメラーゼの調製]
Pseudomonas cichorrii ST24株(FERM BP−2736)由来D- タガトース 3- エピメラーゼの遺伝子を大腸菌に形質転換し、組み換え大腸菌を培養して、D- タガトース 3- エピメラーゼを得た。
組換え大腸菌の大量培養後、得られた菌体を−80℃で冷凍保存した。冷凍保存された菌体を氷中に30分間放置し表面を解凍し、50mMトリス塩酸緩衝液pH8.0を用いて懸濁した。懸濁液200mLを超音波ホモジナイザー SONIFIER250(ブランソン株式会社)を用い、4℃に保ちながら6分間破砕した。これを2度繰り返した。この液を4℃、11500rpmで20分間遠心分離し、得られた上清を粗酵素液とした。粉砕したポリエチレングリコール♯6000を粗酵素液に重量に対して5%を、氷水浴中でマグネチックスターラーを用いて撹拌しながら徐々に添加し、添加後から1時間撹拌した。これを4℃、11500rpmで1時間遠心分離して上清を回収した。再びポリエチレングリコール♯6000を上清の重量に対して25%を、同様の操作で添加し、添加後から1時間撹拌した。これを4℃、11500rpmで1時間遠心分離して沈殿を回収した。この沈殿物に少量(菌体重量のおよそ5倍)の50mMトリス塩酸緩衝液pH8.0を加えて懸濁した。(これを、部分精製D- タガトース 3- エピメラーゼとした。)
【0041】
[D- タガトース 3- エピメラーゼの活性測定]
D- タガトース 3- エピメラーゼの活性測定はD- タガトースを基質として反応を行い、生じたD- ソルボースの量をHPLC分析によって定量した。酵素反応は表1に示した組成で30℃、10、20、30分間反応させ、熱湯で2分間加熱することにより反応を停止し生じたD- ソルボース量を求め、1分間で1μmolのD- ソルボースを生産するD- タガトース 3- エピメラーゼ量を1U(単位)とした。
【0042】
【表1】

【0043】
得られた部分精製D- タガトース 3- エピメラーゼの性質は以下の通りであった。
(1) 作用および基質特異性は、1- または6- デオキシまたはD- またはL- ケトヘキソースの3位をエピマー化し、対応する1- または6- デオキシまたはD- またはL- ケトヘキソースを生成する。
(2) 至適pHおよびpH安定性pH7〜10に至適pHを有し、pH5〜10で安定。
(3) 至適温度および熱安定性60℃付近に至適温度を有し、50℃以下で安定。
【0044】
[D- タガトース 3- エピメラーゼの固定化]
D- タガトース 3- エピメラーゼの固定化をキトパールBCW2510を用いて行った。まず、50mMトリス塩酸緩衝液pH8.0を用いてキトパール樹脂を洗浄し、冷蔵庫内で一晩放置して平衡化を行った。次に上述の部分精製したD- タガトース 3- エピメラーゼ200Uを1mL(湿重量約1g)のキトパール樹脂と混合し、時々撹拌しながら冷蔵庫内で2日間放置して酵素を固定化させた。同緩衝液にてキトパールを洗浄し、これを固定化酵素とした。
【0045】
以下の実施例には、この固定化酵素を使って、デオキシケトヘキソースのエピマー化反応を実施した。
【実施例4】
【0046】
第二の方法のケトースの3位のエピ化酵素を用いた生産法の実施例である。
[D- タガトース 3- エピメラーゼによる4−C−メチルD−キシルロースの異性化(エピマー化)]
4−C−メチルD−キシルロースをBri×5%、25mLになるように調製し、500mL容量の三角フラスコに移した。そこに固定化D- タガトース 3- エピメラーゼ25mL(5000U相当)と1M トリス塩酸緩衝液pH8.0を40mL(終濃度約50mM)添加し、42℃、120rpmの条件で撹拌しながら反応させた。
1時間毎に反応液10μL採取し、290μLの水で希釈(30倍希釈)した。熱湯で2分間加熱した後、12000rpmで5分間遠心して上清を別のエッペンドルフチューブに移す。それに少量の脱塩樹脂(IRA411:SKIB=2:1の割合で混合し乾燥させたもの)を添加して転倒混和した。1時間後、この液を0.45μmのフィルターを用いてろ過し、HPLCに供試した。4−C−メチルD−リブロースと4−C−メチルD−キシルロース平衡比は、70:30であった。
【0047】
[4−C−メチルD−リブロースの分離]
異性化反応後、ろ過により固定化酵素を除去した。脱塩樹脂(IRA411(40mL)とSKIB(20mL))を混合してオープンカラムに充填し、少しずつ糖液を流し込んで脱塩を行った。脱塩後、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮した。その後、0.22μmのフィルターを用いてろ過し、ろ液をBri×30%に調製した。クロマト分離装置を用いて4−C−メチルD−リブロースを分離した。分離後、のHPLC分析による純度は図2(a)4−C−メチルD−リブロースのHPLC分析結果に示したとおりであった。
【0048】
<4−C−メチルD−リブロースの純度と構造の確認>
精製した4−C−メチルD−リブロースの純度や、NMRによる構造決定を行なった。純度はHPLCでの分析結果は 図2(a)の4−C−メチルD−リブロースのHPLC分析結果に示したとおりでありほぼ純粋であった。収率は50%であり、旋光度は+2.7 [a]D20 +2.7 (c, 1.0 in water)] であった。NMRの結果は、表2の4−C−メチルD−リブロースの欄および図4の上の4−C−メチルD−リブロースの1H NMRスペクトルに示すとおりであり、構造を確認した。
【実施例5】
【0049】
[4−C−メチルL−リブロースから4−C−メチルL−キシルロースの生産]
DTEが4−C−メチルD−リブロースの4−C−メチルD−キシルロースからの生産に利用できたこと同様に、DTEは4−C−メチルL−リブロースから4−C−メチルL−キシルロースの生産の生産にも有効に利用できることが明らかになった。
【0050】
<4−C−メチルL−リブロースから4−C−メチルL−キシルロースの生産>
4−C−メチルD−リブロースの4−C−メチルD−キシルロースからの生産に用いたと同じ酵素DTEを用いて、4−C−メチルL−リブロースから4−C−メチルL−キシルロースの生産の生産を行なった。
【0051】
<反応、分離精製、構造確認>
これらは、4−C−メチルD−リブロースの4−C−メチルD−キシルロースからの生産の場合と同一の方法で行なうことが可能であった。
分離精製した4−C−メチルL−リブロースのHPLCの図3(a)が示すようにほぼ純粋であった。その収率は25%であり、旋光度は+5.15[a]D20 +5.15 (c, 1.0 in water)]であった。NMR分析の結果は、表2の4−C−メチルL−リブロースの欄と図4の下に示しており、構造を確認できた。4−C−メチルL−リブロースと4−C−メチルL−キシルロースとの平衡比は68:32であった。
【0052】
[4−C−メチルD−リブロースと4−C−メチルD−キシルロースの構造解析]
NMRによる解析結果は表2と図3、図4のとおりである。図3は、4−C−メチル−リブロースの1H NMRスペクトルを測定して光学的対掌体を比較した結果を示す。上はD−体、下がL−体の1H NMRスペクトルである。図4は、4−C−メチル−キシルロースの1H NMRスペクトルを測定して光学的対掌体を比較した結果を示す。上はD−体、下がL−体の1H NMRスペクトルである。
【0053】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の4−C−メチルケトペントースの製造方法は、4−C−メチルケペンチトールを微生物酸化することで、対応する4−C−メチルケトペントースを生産する。そしてD- ケトヘキソース3- エピメラーゼ(DTE)が図1に示すように反応を順次進めていくことによって、全4種の4位がメチル基となった分岐ケトペントースを生産することができる。これらは化学的手法では生産が非常に困難である、新規物質である。この反応系は、従来、製造困難であった4種全ての4−C−メチルケトペントースの大量生産の道を拓くものである。従って、本発明のD- ケトヘキソース3- エピメラーゼであるD- タガトース3- エピメラーゼを用いた4−C−メチルケトペントースの製造方法並びに用途の確立は、食品産業のみならず、これに関連する食品、化粧品、医薬品産業における工業的意義が極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】4−メチル−ペントース イズモリングを製造する経路を示す。
【図2】精製した生産物である (a)4−C−メチルD−リブロース、(b) 4−C−メチルD−キシルロースのHPLC分析結果を示した。
【図3】精製した生産物である (a)4−C−メチルL−リブロース、(b) 4−C−メチルL−キシルロースのHPLC分析結果を示した。
【図4】4−C−メチル−リブロースの1H NMRスペクトルを測定して光学的対掌体を比較した結果を示す。上はD−体、下がL−体の1H NMRスペクトルである。
【図5】4−C−メチル−キシルロースの1H NMRスペクトルを測定して光学的対掌体を比較した結果を示す。上はD−体、下がL−体の1H NMRスペクトルである。
【図6】4糖、5糖、6糖が連携したのイズモリングを製造する経路を示す。
【図7】6糖が連携したのイズモリングを製造する経路を示す。
【図8】5糖が連携したのイズモリングを製造する経路を示す。
【図9】4糖が連携したのイズモリングを製造する経路を示す。
【図10】構造式とセットのイズモリングC6の説明図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケトペントースの4位にメチル基が結合した、4種存在する全ての4−C−メチルケトペントースに作用し3位をエピマー化することによって、対応するエピマーを生産する、シュードモナス属に属する細菌から得ることのできる4−C−メチルケトペントース異性化酵素。
【請求項2】
下記の理化学的性質を有する請求項1に記載の4−C−メチルケトペントース異性化酵素。
(1)全4種の4−C−メチルケトペントース作用し、3位をエピマー化することで、対応する4−C−メチルケトペントースを生成する。
(2)4−C−メチルケトペントース異性化活性の至適pHおよびpH安定性は、pH7〜10に至適pHを有し、pH5〜10で安定。
(3)4−C−メチルケトペントース異性化活性の至適温度および熱安定性60℃付近に至適温度を有し、50℃以下で安定。
(4)紫外線吸収スペクトル275乃至280nmに吸収帯を示す。
(5)分子量41,000±3,000(ゲル濾過クロマトグラフィーによる)。
【請求項3】
シュードモナス チコリ ST−24(FERM BP−2736)由来の酵素である請求項1または2に記載の4−C−メチルケトペントース異性化酵素。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載の4−C−メチルケトペントース異性化酵素を、4−C−メチルケトペントースに作用させ、遊離の分岐ケトースのままでエピマー化することによって、3位をエピマー化した対応する4−C−メチルケトペントースを生成することを特徴とする4位にメチル基を有するケトペントースの製造方法。
【請求項5】
原料である4−C−メチルD−リブロースまたは、4−C−メチルL−リブロースの3位をエピ化し、対応する、4−C−メチルD−キシルロースまたは、4−C−メチルL−キシルロースを製造することである請求項4に記載の4位にメチル基を有するケトペントースの製造方法。
【請求項6】
4−C−メチルケトペントースが、2−C−メチルペンチトールあるいは4−C−メチルペンチトールを原料として、微生物による酸化で得られたものである請求項4または5に記載の4位にメチル基を有するケトペントースの製造方法。
【請求項7】
微生物による酸化が、Gluconobacter thailandicus NBRC 3254を用いることを特徴とする請求項6に記載の4位にメチル基を有するケトペントースの製造方法。
【請求項8】
2−C−メチルペンチトールあるいは4−C−メチルペンチトールを原料として、4種全ての4位にメチル基を有するケトペントースを製造することを特徴とする請求項6または7に記載の4位にメチル基を有するケトペントースの製造方法。
【請求項9】
2−C−メチルD−アラビニトールまたは2−C−メチルD−リビトールを微生物によって2位を酸化し、4−C−メチルD−キシルロースまたは4−C−メチルL−リブロースをそれぞれ生産し、これを4−C−メチルケトペントース異性化酵素を用いてエピ化し4−C−メチルD−リブロースまたは4−C−メチルL−キシルロースを生産することによって、全ての4位で分岐した4種のケトペントース;4−C−メチルD−キシルロース、4−C−メチルD−リブロース、4−C−メチルL−リブロースおよび4−C−メチルL−キシルロースを製造することを特徴とする請求項8に記載の4位にメチル基を有するケトペントースの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載された方法で製造された以下の新規化合物。
4−C−メチルD−キシルロース、4−C−メチルL−キシルロース、4−C−メチルD−リブロースおよび4−C−メチルL−リブロース。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−254238(P2009−254238A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103917(P2008−103917)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(506388060)合同会社希少糖生産技術研究所 (18)
【Fターム(参考)】