説明

4−[3−(4−シクロプロパンカルボニル−ピペラジン−1−カルボニル)−4−フルオロ−ベンジル]−2H−フタラジン−1−オン

結晶形態Lとしての4-[3-(4-シクロプロパンカルボニル-ピペラジン-1-カルボニル)-4-フルオロ-ベンジル]-2H-フタラジン-1-オン、形態Lを得る方法、形態Lを含む医薬組成物ならびに形態Lおよび形態Lを含む組成物を使用する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶形態および医薬組成物、ならびに前記結晶形態の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
DNA一本鎖または二本鎖の切断を認識し、それに急速に結合する能力により、哺乳動物酵素PARP(113-kDaの多領域タンパク質)が、DNA損傷の信号伝達において示唆されている(D′Amours et al, 1999, Biochem. J. 342: 249-268)。
【0003】
いくつかの所見から、遺伝子増幅、細胞分裂、分化、アポトーシス、DNA塩基除去修復ならびにテロメア長さおよび染色体安定性に対する効果などの多様なDNA関係機能にPARPが関与しているという結論が得られている(d′Adda di Fagagna et al, 1999, Nature Gen., 23(1): 76-80)。
【0004】
PARPがDNA修復および他のプロセスを調節する機序に関する研究によって、細胞核内でのポリ(ADP-リボース)鎖形成におけるそれの重要性が確認されている(Althaus, F. R. and Richter, C., 1987, ADP Ribosylation of Proteins: Enzymology and Biological Significance, Springer-Verlag, Berlin)。DNA-結合活性化PARPはNADを利用して、トポイソメラーゼ、ヒストン類およびPARP自体などの多様な核標的タンパク質上でポリ(ADP-リボース)を合成する(Rhun et al, 1998, Biochem. Biophys. Res. Commun., 245: 1-10)。
【0005】
ポリ(ADP-リボシル)化も、悪性トランスフォーメーションに関連していた。例えば、SV40-トランスフォーム線維芽細胞の単離核ではPARP活性は相対的に高く、一方で白血病細胞および結腸癌細胞のいずれも同等の正常な白血球および結腸粘膜より高い酵素活性を示す(Miwa et al, 1977, Arch. Biochem. Biophys. 181: 313-321; Burzio et al, 1975, Proc. Soc. Exp. Bioi. Med. 149: 933-938 ; and Hirai et al, 1983, Cancer Res. 43: 3441-3446)。
【0006】
多くの低分子量PARP阻害薬を用いて、DNA修復におけるポリ(ADP-リボシル)化の機能的役割が解明されている。アルキル化剤で処理した細胞では、PARPの阻害によって、DNA鎖切断および細胞死に顕著な増加が生じる(Durkacz et al, 1980, Nature 283: 593-596; Berger, N. A., 1985, Radiation Research, 101: 4-14)。
【0007】
その後、そのような阻害薬が、致死的となり得る損傷の修復を抑制することで、放射線応答の効果を促進することが明らかになっている(Ben-Hur et al, 1984, British Journal of Cancer, 49 (Suppl. VI): 34-42 ; Schlicker et al, 1999, Int. J. Radiat. Bioi., 75: 91-100)。PARP阻害薬が、低酸素性腫瘍細胞の放射線増感において有効であることが報告されている(米国特許第5032617号;米国特許第5215738号および米国特許第5041653号)。
【0008】
さらに、PARPノックアウト(PARP-/-)動物は、アルキル化剤およびγ線照射に応答してゲノム不安定性を示す(Wang et al, 1995, Genes Dev., 9: 509-520; Menissier de Murcia et al, 1997, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94: 7303-7307)。
【0009】
PARPに関する役割は、ある種の血管疾患、敗血症ショック、虚血性損傷および神経毒性においても示されている(Cantoni et al, 1989, Biochim. Biophys. Acta, 1014: 1-7; Szabo, et al, 1997, J. Clin. lnvest., 100: 723-735)。後にPARPによって認識されるDNAにおける鎖切断を生じる酸素ラジカルDNA損傷は、PARP阻害薬試験によって示されるそのような疾患状態に対する主要な寄与因子である(Cosi et al, 1994, J. Neurosci. Res., 39: 38-46; Said et al, 1996, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 93: 4688-4692)。より最近ではPARPは、出血性ショックの病因において何らかの役割を果たすことが示されている(Liaudet et al, 2000, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 97(3): 10203-10208)。
【0010】
哺乳動物細胞の効率的レトロウィルス感染が、PARP活性の阻害によって遮断されることも明らかになっている。組換えレトロウィルスベクター感染のそのような阻害は、各種の異なる細胞型で起こることが明らかになっている(Gaken et al, 1996, J. Virology, 70(6): 3992-4000)。そこでPARPの阻害薬が、抗ウィルス療法および癌治療での使用に向けて開発されている(WO 91/18591)。
【0011】
さらにPARP阻害は、ヒト線維芽細胞における加齢特性の開始を遅延させるものと推定されている(Rattan and Clark, 1994, Biochem. Biophys. Res. Comm., 201(2): 665-672)。それは、PARPがテロメア機能の制御において果たす役割に関係する可能性がある(d′Adda di Fagagna et al, 1999, Nature Gen., 23(1): 76-80)。
【0012】
WO 2004/080976には、多数のフタラジノン誘導体、PARP阻害におけるそれらの活性、および放射線療法もしくは化学療法の補助剤(adjunct)としての、または単独型の薬剤としての癌治療におけるそれらの重要な用途が開示されている。
【0013】
WO 2005/053662には、塩基除去修復(BER)阻害剤としてのPARP阻害剤、具体的にはフタラジノン誘導体の使用が開示されている。また相同組換え(HR)依存的DNA DSB修復活性に欠損のある癌(特に、BRCA1および/またはBRCA2欠損表現型を有する癌)の治療用製剤の製造におけるこれらの阻害剤の使用が開示されている。
【0014】
WO 2004/080976に記載されている4-[3-(4-シクロプロパンカルボニル-ピペラジン-1-カルボニル)-4-フルオロ-ベンジル]-2H-フタラジン-1-オン(化合物A):
【化1】

【0015】
は、特に注目されている。
【0016】
化合物 Aの結晶形態(形態A)は、2006年10月17日出願の米国出願US 60/829,694 “フタラジノン誘導体”に基づく優先権を主張する同時係属出願( US 11/873,671およびWO 2008/047082を含む)中に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第5032617号
【特許文献2】米国特許第5215738号
【特許文献3】米国特許第5041653号
【特許文献4】WO 91/18591
【特許文献5】WO 2004/080976
【特許文献6】WO 2005/053662
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】D'Amoursら, Biochem. J., 342, 249-268 (1999)
【非特許文献2】d'Adda di Fagagnaら, Nature Gen., 23(1), 76-80 (1999)
【非特許文献3】Althaus, F.R.およびRichter, C., ADP-Ribosylation of Proteins: Enzymology and Biological Significance, Springer-Verlag, Berlin (1987)
【非特許文献4】Rhunら, Biochem. Biophys. Res. Commun., 245, 1-10 (1998)
【非特許文献5】Miwaら, Arch. Biochem. Biophys., 181, 313-321 (1977)
【非特許文献6】Burzioら, Proc. Soc. Exp. Bioi. Med., 149, 933-938 (1975)
【非特許文献7】Hiraiら, Cancer Res., 43, 3441-3446 (1983)
【非特許文献8】Durkaczら, Nature, 283, 593-596 (1980)
【非特許文献9】Berger, N.A., Radiation Research, 101, 4-14 (1985)
【非特許文献10】Ben-Hurら, British Journal of Cancer, 49 (Suppl. VI), 34-42 (1984)
【非特許文献11】Schlickerら, Int. J. Radiat. Bioi., 75, 91-100 (1999)
【非特許文献12】Wangら, Genes Dev., 9, 509-520 (1995)
【非特許文献13】Menissier de Murciaら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 7303-7307 (1997)
【非特許文献14】Cantoniら, Biochim. Biophys. Acta, 1014, 1-7 (1989)
【非特許文献15】Szaboら, J. Clin. Invest., 100, 723-735 (1997)
【非特許文献16】Cosiら, J. Neurosci. Res., 39, 38-46 (1994)
【非特許文献17】Saidら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 93, 4688-4692 (1996)
【非特許文献18】Liaudetら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 97(3), 10203-10208 (2000)
【非特許文献19】Gakenら, J. Virology, 70(6), 3992-4000 (1996)
【非特許文献20】RattanおよびClark, Biochem. Biophys. Res. Comm., 201(2), 665-672 (1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
化合物Aの特定の形態は、例えば、その溶解度および/またはその安定性および/またはそのバイオアベイラビリティおよび/またはその不純物プロファイルおよび/またはその濾過特性および/またはその乾燥特性および/またはその吸湿性欠如に関して有利な特性を有している可能性がある。また/あるいは、前記形態は取り扱い易く、かつ/または微粉末化し易く、かつ/または錠剤へ製剤化し易い可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、本発明の第1の態様は、実質的に結晶形態Lの、4-[3-(4-シクロプロパンカルボニル-ピペラジン-1-カルボニル)-4-フルオロ-ベンジル]-2H-フタラジン-1-オン(化合物A)を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、形態Lとしての化合物Aの代表的な粉末X線回折パターンを示す。
【図2】図2は、25℃〜325℃まで毎分10℃ずつ加熱することにより得られた、形態Lとしての化合物Aの代表的なDSCトレースを示す。
【図3】図3は、形態Aとしての化合物Aの代表的な粉末X線回折パターンを示す。
【図4】図4は、25℃〜325℃まで毎分10℃ずつ加熱することにより得られた、形態Aとしての化合物Aの代表的なDSCトレースを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上記で用いた「実質的に結晶形態L」とは、化合物Aの少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%、80重量%または90重量%が結晶形態Lであることを意味する。一部の実施形態では、少なくとも95重量%、99重量%または99.5重量%以上が結晶形態であってもよい。
【0023】
結晶形態Lとしての化合物Aは、次の特定のピークを有するX線回折パターン(λ=1.5418Å)を有する。
【表1】

【0024】
結晶形態Lとしての化合物Aは、次の追加ピークのX線回折パターン(λ=1.5418Å)も有する。
【表2】

【0025】
結晶形態Lとしての化合物Aは、上記リストの8つのピークから選択される3つ以上のピークの任意の組み合わせを特徴とすることもできる。
【0026】
形態Lとしての化合物Aの代表的な粉末X線回折パターンを図1に示す。
【0027】
化合物Aの形態Lは、溶媒を実質的に含まない。本明細書で使用する「溶媒を実質的に含まない」という用語は、極く僅かな量の任意の溶媒を有する形態、例えば総量で0.5重量%以下の任意の溶媒を含む形態を意味する。任意の溶媒(水を含む)の総量は、0.25重量%、0.1重量%、0.05重量%または0.025重量%以下であってもよい。
【0028】
また、化合物Aの形態Lは、示差走査熱量測定(DSC)を使用して特徴を決定することもできる。化合物Aの形態Lは、25℃〜325℃まで毎分10℃ずつ加熱した時、198.5℃±1℃で融解し始める。形態Lとしての化合物Aの代表的なDSCトレースを図2に示す。2番目の吸熱は形態Aの融解に対応し、融解した形態Lが変換する。
【0029】
本発明の第二の態様は、結晶形態Lとして4-[3-(4-シクロプロパンカルボニル-ピペラジン-1-カルボニル)-4-フルオロ-ベンジル]-2H-フタラジン-1-オン (化合物 A)を、結晶形態Aの化合物 Aから得る方法を提供する。
【0030】
本方法は、最大で30%水 v/vを含み得る有機溶媒に、形態Aまたは形態AおよびLの混合物として化合物 Aをスラリーにすることを含む。いくつかの実施形態において、当該混合物は形態Lを全く含まないか、形態Aを99%, 90%または80%含んでいても良い。他の実施形態において、形態Lの量は混合物の50, 70または 80%にもなり得る。いくつかの実施形態において、有機溶媒は水を一切含まなくても良い。他の実施形態において、有機溶媒は水を最大で25または20%含み得る。溶媒は、変換に十分な溶解性を生じる溶媒から選択することができる。いくつかの実施形態において、溶媒は、メタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリルおよびニトロメタンからなる群から選択される。
【0031】
スラリー化は、溶媒の沸点までの温度にて生じ得るが、より一般的にはそれよりも低い温度で実施される。いくつかの実施形態において、スラリー化は、20℃〜 50℃、さらには20℃〜40℃、または20℃〜30℃にて生じる。温度が低いほど、スラリー化の時間は増大し得る。通常、スラリー化は少なくとも 3時間、少なくとも 6時間または少なくとも 24時間、実施する。いくつかの実施形態において、スラリー化は少なくとも 3日間、4日間、1週間、または3週間実施する。
【0032】
本発明の第3の態様は、第1の態様の化合物および製薬上許容される担体もしくは希釈剤を含む医薬組成物に関する。
【0033】
本発明の第4の態様は、ヒトもしくは動物の身体の治療方法における第1の態様の化合物の使用に関する。
【0034】
本発明の第5の態様はPARPの活性を阻害するための薬剤の調製における、本発明の第1の態様において規定される化合物の使用に関する。
【0035】
本発明のさらに別の態様は、血管疾患;敗血症ショック;虚血性損傷;神経毒性;出血性ショック;ウィルス感染;またはPARP活性阻害によって改善される疾患の治療用の医薬製造における本発明の第1の態様で定義の化合物の使用を提供する。
【0036】
本発明のさらに別の態様は、癌療法において補助手段として使用される医薬または電離放射線または化学療法剤による治療に向けて腫瘍細胞を強化するための医薬の製造における、本発明の第1の態様で定義の化合物の使用を提供する。
【0037】
本発明のさらなる別の態様は、PARPの阻害により寛解される疾患の治療であって、治療の必要な患者に、治療上有効な量の第1の態様に定義した化合物を好ましくは医薬組成物の剤形で投与することを含む治療、ならびに、癌の治療であって、治療の必要な患者に、治療上有効な量の第1の態様に定義した化合物を好ましくは医薬組成物の剤形で、電離放射線または化学療法剤と組み合わせて同時に、または連続して投与することを含む治療を提供する。
【0038】
本発明のさらなる態様では、本化合物は、相同組換え(HR)依存的DNA DSB修復活性に欠損のある癌の治療用薬剤の製造において使用可能であるか、または患者に治療上有効な量の化合物を投与することを含む、HR依存的DNA DSB修復活性に欠損のある癌の患者の治療において使用可能である。
【0039】
HR依存的DNA DSB修復経路は、連続DNAヘリックスを再形成する機序と同じ機序によって、DNAの二本鎖切断(DSB)を修復する(K.K. KhannaおよびS.P. Jackson, Nat. Genet. 27(3): 247-254 (2001))。HR依存的DNA DSB修復経路の成分としては、ATM (NM_000051), RAD51 (NM_002875), RAD51L1 (NM_002877), RAD51C (NM_002876), RAD51L3 (NM_002878), DMC1 (NM_007068), XRCC2 (NM_005431), XRCC3 (NM_005432), RAD52 (NM_002879), RAD54L (NM_003579), RAD54B (NM_012415), BRCA1 (NM_007295), BRCA2 (NM_000059), RAD50 (NM_005732), MRE11A (NM_005590) and NBS1 (NM_002485) が挙げられるが、これらに限定されるものではない。HR依存的DNA DSB修復経路に関与する他のタンパク質群としては、EMSYなどの制御因子が挙げられる(Hughes-Daviesら, Cell, 115, pp523-535)。またHR成分は、Woodら, Science, 291, 1284-1289 (2001)にも記載されている。
【0040】
HR依存的DNA DSB修復を欠損する癌は、この経路によるDNA DSB修復能力が正常細胞に比べて低下または抑制されている1個または複数の癌細胞を含み得るか、かかる癌細胞からなり得る。すなわち、HR依存的DNA DSB修復経路の活性が1個または複数の癌細胞において低下または消失している可能性がある。
【0041】
HR依存的DNA DSB修復経路の1種または複数の成分の活性は、HR依存的DNA DSB修復を欠損する癌に罹患した個体の1個または複数の癌細胞では消失する場合がある。HR依存的DNA DSB修復経路の成分は、当分野では特徴が十分に明らかとなっており(例えば、Woodら, Science, 291, 1284-1289 (2001)を参照)、上記成分などが挙げられる。
【0042】
ある好ましい実施形態では、癌細胞はBRCA1および/またはBRCA2欠損表現型を有している可能性がある。すなわち、癌細胞では、BRCA1および/またはBRCA2活性が低下または消失している。この表現型をもつ癌細胞はBRCA1および/またはBRCA2に欠損があり、すなわち、癌細胞では、例えば、コード核酸における変異もしくは多型により、または制御因子をコードする遺伝子(例えば、BRCA2制御因子をコードするEMSY遺伝子)の増幅、変異もしくは多型により、BRCA1および/またはBRCA2の発現および/または活性が低下または消失している可能性がある(Hughes-Daviesら, Cell, 115, 523-535)。
【0043】
BRCA1およびBRCA2は既知の腫瘍抑制因子であり、その野生型対立遺伝子はヘテロ接合性の保因者の腫瘍においてしばしば失われている(Jasin M., Oncogene, 21(58), 8981-93 (2002);Tuttら, Trends Mol Med., 8(12), 571-6, (2002))。BRCA1および/またはBRCA2突然変異と乳癌との関連性は、当分野では特徴が十分に明らかとなっている(Radice, P.J., Exp Clin Cancer Res., 21(3 Suppl), 9-12 (2002))。BRCA2結合因子をコードするEMSY遺伝子の増幅もまた、乳癌および卵巣癌と関連することが知られている。
【0044】
BRCA1および/またはBRCA2に変異のある保因者はまた、卵巣癌、前立腺癌および膵臓癌のリスクが高くなる。
【0045】
ある好ましい実施形態では、個体は、BRCA1および/またはBRCA2あるいはその制御因子における1つまたは複数の変異(例えば、突然変異および多型)に関しヘテロ接合である。BRCA1およびBRCA2における変異の検出は当分野では周知であり、例えば、EP 699 754、EP 705 903、Neuhausen, S.L.およびOstrander, E.A., Genet. Test, 1, 75-83 (1992);Chappnis, P.O.およびFoulkes, W.D., Cancer Treat Res, 107, 29-59 (2002);Janatova M.ら, Neoplasma, 50(4), 246-50 (2003); Jancarkova, N., Ceska Gynekol., 68(1), 11-6 (2003))に記載されている。BRCA2結合因子EMSYの増幅の測定は、Hughes-Daviesら, Cell, 115, 523-535)に記載されている。
【0046】
癌と関連している突然変異および多型は、変異核酸配列の存在を検出することにより核酸レベルで、または変異(すなわち、突然変異または対立遺伝子変異)ポリペプチドの存在を検出することによりタンパク質レベルで検出することができる。
【0047】
用途
本発明は、活性化合物、具体的にはPARPの活性を阻害する活性を有する、形態Lとして化合物Aを提供する。
【0048】
本明細書で使用される「活性」という用語は、PARP活性を阻害することができる化合物に関係するものである。特定の化合物が提供するPARP阻害を評価するのに簡便に用いることができる一つのアッセイを、下記の例で説明する。
【0049】
本発明はさらに、細胞におけるPARPの活性を阻害する方法であって、その細胞を、好ましくは製薬上許容される組成物の形での有効量の活性化合物と接触させる段階を有する方法を提供する。そのような方法は、in vitroまたはin vivoで行うことができる。
【0050】
例えば、細胞のサンプルをin vitroで増殖させ、活性化合物をその細胞と接触させ、その細胞に対する化合物の効果を観察することができる。「効果」の例として、一定時間で行われたDNA修復の量を求めることができる。活性化合物が細胞に対して影響を与えることが認められる場合には、同じ細胞種の細胞を有する患者の治療方法におけるその化合物の効力に関する予後または診断マーカーとして、それを用いることができる。
【0051】
状態の治療という文脈において本明細書で使用される「治療」という用語は、ヒトに関するものか動物に関するものか(例:獣医用途)を問わず、例えば状態進行の阻害などの何らかの望ましい治療効果が得られる治療および療法に関係するものであり、その効果には進行速度の低下、進行速度の停止、状態の改善および状態の治癒などがある。予防手段(すなわち予防)としての治療も含まれる。
【0052】
本明細書で使用される「補助手段」という用語は、公知の治療手段と組み合わせた活性化合物の使用に関係するものである。そのような手段には、各種癌の治療で用いられる薬剤の細胞傷害性投与および/または電離放射線などがある。特に、当該活性化合物は、多くの癌化学療法の作用を増強することが知られており、そのようなものとしては、トポイソメラーゼのクラスの毒(例えば、トポテカン、イリノテカン、ルビテカン)、癌の治療に使用されている大部分の既知のアルキル化剤(例えば、DTIC、テモゾラミド)および白金系薬剤(例えば、カルボプラチン、シスプラチン)が挙げられる。
【0053】
活性化合物は、PARPを阻害するために細胞培養添加剤として用いて、例えばin vitroで公知の化学処置または電離放射線処置に対して細胞を放射線増感させることもできる。
【0054】
活性化合物はin vitroアッセイの一部として用いて、例えば候補宿主において対象とする化合物での治療が有効であるか否かを決定することもできる。
【0055】
投与
活性化合物または活性化合物を含む医薬組成物は、全身投与/末梢投与であるか所望の作用部位とは無関係に、簡便な投与経路によって被験者に投与することができ、それには経口(例:経口摂取により);局所(例えば経皮、経鼻、眼球、口腔および舌下など);肺(例:例えばエアロゾルを用いた、例えば口もしくは鼻を介した吸入または通気療法);直腸;膣;例えば皮下、皮内、筋肉、静脈、動脈、心臓内、硬膜内、脊髄内、嚢内、被膜下、眼窩内、腹腔内、気管内、表皮下、関節内、クモ膜下および胸骨内などの注射による非経口;例えば皮下または筋肉でのデポー剤埋込物によるものなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
被験体は、真核生物、動物、脊椎動物、哺乳動物、齧歯類(例:モルモット、ハムスター、ラット、マウス)、ネズミ類(例:マウス)、犬類(例:イヌ)、ネコ類(例:ネコ)、ウマ類(例:ウマ)、霊長類、類人猿(例:サルまたは類人猿)、サル類(例:マーモセット、ヒヒ)、類人猿(例:ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、テナガザル)またはヒトであることができる。
【0057】
製剤
活性化合物を単独で投与することは可能であるが、それを1以上の製薬上許容される担体、補助剤、賦形剤、希釈剤、充填剤、緩衝剤、安定剤、保存剤、潤滑剤その他の当業者には公知の材料ならびに適宜に他の治療薬もしくは予防薬とともに、上記で定義の少なくとも1種類の活性化合物を含む医薬組成物(例えば、製剤)として提供することが好ましい。
【0058】
そこで本発明はさらに、上記で定義の医薬組成物、ならびに本明細書に記載の1以上の製薬上許容される担体、賦形剤、希釈剤、緩衝剤、補助剤、安定剤その他の材料と上記で定義の少なくとも1以上の活性化合物を混合する段階を有する医薬組成物の製造方法を提供する。ここで当該活性化合物は結晶形態Lとして維持されている。
【0059】
本明細書で使用される「製薬上許容される」という用語は、妥当な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応その他の問題または合併症を起こさず、妥当な利益/リスク比を与えて、被験者(例:ヒト)の組織と接触しての使用に好適である化合物、材料、組成物および/または製剤に関係するものである。各担体、賦形剤なども、製剤の他の成分と適合性であるという意味において「許容できる」ものでなければならない。
【0060】
好適な担体、希釈剤、賦形剤などは、一般的な薬学の教科書に記載されている。例えば、 “Handbook of Pharmaceutical Additives”, 2nd Edition (eds. M. Ash and I. Ash), 2001 (Synapse Information Resources, Inc., Endicott, New York, USA), “Remington's Pharmaceutical Sciences”, 20th edition, pub. Lippincott, Williams & Wilkins, 2000; および “Handbook of Pharmaceutical Excipients”, 2nd edition, 1994を参照のこと。
【0061】
製剤は簡便には単位製剤で提供することができ、製薬業界で公知の方法によって製造することができる。そのような方法には、1以上の補助成分を構成する担体と活性化合物を組み合わせる段階がある。概して製剤は、液体担体または微粉砕固体担体またはその両方を活性化合物と均一かつ十分に組み合わせ、次に必要に応じて生成物を成形することで製造される。
【0062】
製剤は、懸濁液、錠剤、粒剤、粉剤、カプセル、カシェ剤、丸薬またはペーストの形とすることができる。
【0063】
経口投与(例えば、経口摂取)に好適な製剤は、カプセル、カシェ剤または錠剤などの、それぞれが所定量の活性化合物を含む個別の単位として;粉剤または粒剤として;水系もしくは非水系液体中の液剤または懸濁液として;あるいはペーストとして提供することができる。
【0064】
錠剤は、適宜に1以上の補助成分とともに、例えば圧縮または成形などの従来の手段によって製造することができる。圧縮錠は、1以上の結合剤(例:ポビドン、ゼラチン、アカシア、ソルビトール、トラガカント、ヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤または希釈剤(例:乳糖、微結晶セルロース、リン酸水素カルシウム);潤滑剤(例:ステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ);崩壊剤(例:デンプングリコール酸ナトリウム、架橋ポビドン、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム);界面活性または分散剤または湿展剤(例:ラウリル硫酸ナトリウム);ならびに保存剤(例:p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸プロピル、ソルビン酸)と混合されていても良い粉末または顆粒などの自由流動性の活性化合物を、好適な機械で圧縮することで製造することができる。成形錠は、不活性液体希釈剤で濡らした粉末化合物の混合物を好適な機械で成形することで製造することができる。錠剤には適宜にコーティングまたは刻み目を施すことができ、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースを各種割合で用いて活性化合物を緩やかにまたは制御し放出して、所望の放出プロファイルを得るように製剤することができる。錠剤には適宜に、腸溶コーティングを施して、胃以外の腸部分で放出されるようにすることができる。
【0065】
カプセルは活性化合物を懸濁液中に含めても良い。
【0066】
局所投与に好適な製剤(例:経皮、経鼻、眼球、口腔および舌下)は、ペーストとして製剤することができる。
【0067】
眼球への局所投与に好適な製剤には、活性化合物を好適な担体、特には活性化合物用の水系溶媒に溶解または懸濁させた点眼剤も含まれる。
【0068】
担体が固体である鼻投与に好適な製剤には、鼻での吸気を行うことで、すなわち鼻の近くに保持された粉剤容器から鼻道を通って急速な吸入によって投与される、粒径が例えば約20〜約500ミクロンの範囲の粗粉剤などがある。
【0069】
吸入による投与に好適な製剤には、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素その他の好適なガスなどの好適な推進剤を用いた加圧パックからのエアロゾル噴霧剤として提供されるものなどがある。
【0070】
用量
活性化合物および活性化合物を含む組成物の適切な用量は患者ごとに変動し得ることは明らかであろう。至適用量の決定には通常、本発明の治療のリスクまたは有害な副作用に対する治療効果レベルのバランスを取る作業が関与する。選択される用量レベルは、これらに限定されるものではない、特定の化合物の活性、投与経路、投与時刻、化合物の排泄速度、治療期間、併用される他の薬剤、化合物および/または材料、ならびに患者の年齢、性別、体重、状態、全身の健康および病歴などの多様な要素によって決まる。化合物の量および投与経路は最終的には、医師の裁量に委ねられる。ただし一般に用量は、実質的に有害または有毒な副作用を起こすことなく、所望の効果を達成する作用部位での局所濃度を与えるようなものとする。
【0071】
in vivoでの投与は、治療期間を通じて1回投与、連続投与または間歇投与(例:適切な間隔で分割用量にて)で行うことができる。投与の最も有効な手段および用量を決定する方法は当業者には公知であり、治療法に用いられる製剤、治療法の目的、治療される標的細胞、ならびに治療を受ける被験者によって変動する。治療担当医が選択する用量レベルおよびパターンで、単回投与または複数回投与を行うことができる。
【0072】
概して活性化合物の好適な用量は、約10mg〜約600mg/被験者m2 体面積重量(body area weight)/日の範囲である。
【実施例】
【0073】
一般的方法
粉末X線回折
粉末X線回折は、Bruker D5000回折計により記録した(X線波長1.5418Å Cu線源、電圧40kV、フィラメント放出40mA)。試料は、2〜40°(2θ)の範囲で、0.02°のステップ幅および1秒のタイムカウントでスキャンした。
【0074】
示差走査熱量測定法(DSC)
DSCは、TSO801ROロボットシステムを備えたMettler DSC820Eを使用して記録した。通常、5mg未満の物質(穴の開いた蓋が取り付けられている40μLアルミニウム皿に入れたもの)を毎分10℃の一定の加熱速度で25℃〜325℃の温度範囲で加熱した。窒素パージガスを100ml/分の流速で使用した。
【0075】
形態Aとして化合物 Aを取得
【化2】

【0076】
NMR
1H NMRスペクトル は、Bruker DPX400光度計を用いてそれぞれ400 MHzにて記録した。化学シフトは内部標準のテトラメチルシランを参照したδスケールにおけるppmで読み取った。別段の記載が無い限り、全てのサンプルはDMSO-d6中に溶解した。
【0077】
質量スペクト
質量スペクトルは、構造の確認にタンデム型質量分析(MS/MS)を使用して、Agilent XCTイオントラップ質量分析計に記録した。この装置は、陽イオンエレクトロスプレーモードで操作した。
【0078】
(a) 4-[3-(4-シクロプロパンカルボニル-ピペラジン-1-カルボニル)-4-フルオロ-ベンジル]-2H-フタラジン-1-オン(化合物A)
2-フルオロ-5-[(4-オキソ-3,4-ジヒドロフタラジン-1-イル)メチル]安息香酸(D)(15.23g、51.07mmol)をアセトニトリル(96ml)中に窒素下で撹拌しながら懸濁した。ジイソプロピルエチルアミン(19.6ml、112.3mmol)を加えた後、1-シクロプロピルカルボニルピペラジン(I)(9.45g、61.28mmol)およびアセトニトリル(1ml)を加えた。反応混合物を18℃に冷却した。
【0079】
O-ベンゾトリアゾール-1-イル-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(25.18g、66.39mmol)を30分かけて加え、反応混合物を室温で2時間撹拌した。反応混合物を3℃に冷却し、この温度を1時間維持した後、濾過した。濾過ケーキを冷却(3℃)アセトニトリル(20ml)で洗浄し、40℃以下で真空乾燥したところ、淡黄色の固体(20.21g)として表題化合物が得られた。
【0080】
質量スペクトル: MH+ 435
1H NMR (400MHz, DMSO-d6) δ: 0.70 (m, 4H), 1.88 (br s, 1H), 3.20 (br s, 2H), 3.56 (m, 6H), 4.31 (s, 2H), 7.17 (t, 1H), 7.34 (dd, 1H), 7.41 (m, 1H), 7.77 (dt, 1H), 7.83 (dt, 1H), 7.92 (d, 1H), 8.25 (dd, 1H), 12.53 (s, 1H).
(b)エタノールからの化合物Aの再結晶
4-(3-{[4-(シクロプロピルカルボニル)ピペラジン-1-イル]カルボニル}-4-フルオロベンジル)フタラジン-1(2H)-オン(化合物A)(20.00g、44.66mmol)を、水(50ml)とエタノール(150ml)の混合物に懸濁した。この懸濁液を撹拌しながら加熱還流した。次に得られた溶液を70℃まで冷却し、濾過した。濾過パッドを水(8ml)とエタノール(22ml)の混合物で洗浄した。
【0081】
濾液を撹拌しながら45℃まで冷却した。混合物に種結晶を与えるために形態Aの4-(3-{[4-(シクロプロピルカルボニル)ピペラジン-1-イル]カルボニル}-4-フルオロベンジル)フタラジン-1(2H)-オン(化合物A)(0.08g)を加えた。得られた懸濁液を2.5時間かけて20℃まで冷却し、さらに16時間この温度で撹拌し、結晶化させた。温度を20℃に維持しながら、5時間かけて水(200ml)を加えた。添加終了後、懸濁液を2時間20℃で維持した。
【0082】
懸濁液を濾過し、濾過ケーキをエタノール(24ml)と水(56ml)の混合物で洗浄した。単離した固体を取り出し、40〜60℃で真空乾燥し、白色固体(18.1g)として表題化合物(形態A)を得た。
【0083】
図3は形態Aとしての化合物 Aの代表的な粉末XRDパターンを示し、図4 は1分間につき10℃にて25℃から325℃に加熱することによって得られた形態Aとしての化合物 Aの 代表的なDSCトレースを示す。XRDパターンは上記するように、ただし4秒タイムカウントにて得た。
【0084】
結晶形態Aとしての化合物Aは、次の特定のピークを有するX線回折パターン (λ=1.5418Å) を有する。
【表3】

【0085】
結晶形態Aとしての化合物Aは、次の追加ピークのX線回折パターン(λ=1.5418Å) も有する。
【表4】

【0086】
結晶形態Aとしての化合物Aは、上記リストの10個のピークから選択される3つ以上のピークの任意の組み合わせを特徴とすることもできる。
【0087】
化合物Aの形態Aは、DSC により25℃〜325℃まで毎分10℃ずつ加熱した時、210.1℃±1℃で融解し始める。
【0088】
(実施例1)
23 mgの形態Aとしての化合物 Aをバイアルに量り入れた。この固体に、8.5 mLのメタノールおよび1.5 mLの水 (すなわち15%水v/v)からなる溶液0.25mLを加えた。得られたスラリーを70℃まで加熱し、濾過して、キャップしたバイアル中にて周囲温度になるまでゆっくりと冷ました。結晶化によって固体を生じ、この固体を真空オーブンによって乾燥した。生成物は形態Lとしての化合物 Aである。
【0089】
(実施例2)
およそ50mgの形態Aとしての化合物 Aを反応チューブに加え、そしておよそ1mlのエタノール/水 (80:20 v/v)を加えた。この混合物を40℃にて3週間、スラリー化した。サンプルを濾過し、フィルター上で10分間乾燥した後、ベンチで一晩乾燥した。生成物は形態Lとしての化合物 Aである。
【0090】
(実施例3)
実施例2と同様の方法で、形態Aとしての化合物 Aをエタノール/水 (80:20 v/v)混合物中にて3週間、60℃にてスラリー化して形態Lとして化合物 Aを得た。
【0091】
(実施例4)
およそ30 mgの形態Aとしての化合物 Aを反応チューブに加え、約1mlのエタノール/水 (80:20 v/v)を加えて形態Aの形態A飽和懸濁液を作製した。この飽和懸濁液に、30 mgの形態Lとしての化合物 Aを加えた。混合物を25℃にて3日間スラリー化した。サンプルを濾過し、フィルター上で10分間乾燥した後、ベンチで一晩乾燥した。生成物は形態Aを含まない、形態Lとしての化合物 Aである。
【0092】
(実施例5)
実施例4を以下の溶媒を使用して繰り返し、形態Aおよび形態Lの混合物をスラリー化した − これらの実験については、サンプルは4日間スラリー化した。
【表5】

【0093】
それぞれの場合において、生成物は形態Aを含まない、形態Lとしての化合物 Aである。
【0094】
(実施例6)
阻害作用
本活性化合物の阻害作用を評価するため、以下のアッセイを用いてIC50値を求めた。
【0095】
HeLa細胞核抽出物から単離された哺乳動物のPARPを、96ウェルFlashPlates(商標)(NEN、UK)中でZバッファー(25mM Hepes(Sigma);12.5mM MgCl2(Sigma);50mM KCl(Sigma);1mM DTT(Sigma);10%グリセロール(Sigma);0.001%NP-40(Sigma);pH7.4)とともにインキュベートし、様々な濃度の前記阻害剤を添加した。すべての化合物をDMSOで希釈し、最終アッセイ濃度を10〜0.01μMとした。DMSOの最終濃度は1%/ウェルであった。ウェル当たりの全アッセイ容量は40μlであった。
【0096】
30℃で10分間インキュベーションした後、NAD(5μM)、3H-NADおよび30mer二重鎖DNAオリゴを含有する反応混合物10μlを添加して反応を開始した。酵素活性(%)を計算するため、指定の正および負反応ウェルを化合物ウェル(未知)と組み合わせた。次いで、プレートを2分間振盪し、30℃で45分間インキュベートした。
【0097】
インキュベーション後、30%酢酸50μlを各ウェルに添加することにより反応をクエンチした。次いで、プレートを室温で1時間振盪した。
【0098】
プレートをTopCount NXT(商標)(Packard、UK)に移し、シンチレーションをカウントした。記録された値は、各ウェルを30秒カウントした後のカウント/分(cpm)である。
【0099】
次いで、各化合物の酵素活性(%)を以下の式によって計算する:
阻害率(%)=100−[100×(未知のcpm−平均負cpm)/(平均正cpm−平均負cpm)]
IC50値(酵素活性の50%が阻害される濃度)を計算した。IC50値は異なる濃度の範囲、通常は10μM〜0.001μMにわたって求められる。かかるIC50値は、化合物の効力が増加したことを確認するための比較値として用いる。
【0100】
化合物Aは、IC50が約5nMであった。
【0101】
増強ファクター(Potentiation Factor)
活性化合物の増強ファクター(PF50)は、対照細胞増殖のIC50を細胞増殖+PARP阻害剤のIC50で割った比として計算される。対照と化合物で処理された細胞の両方の増殖阻害曲線は、アルキル化剤メタンスルホン酸メチル(MMS)の存在下のものである。試験化合物は0.2マイクロモルの固定濃度で使用した。MMSの濃度は0〜10μg/mlであった。
細胞増殖をスルホローダミンB(SRB)アッセイによって評価した(Skehan, P.ら, (1990) New colorimetric cytotoxicity assay for anticancer-drug screening. J. Natl. Cancer Inst. 82, 1107-1112)。2,000個のHeLa細胞を平底96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに100μlの容量で播種し、37℃で6時間インキュベートした。細胞を培地単独で置きかえるか、最終濃度が0.5、1もしくは5μMのPARP阻害剤含有培地で置き換えた。細胞をさらに1時間増殖させ、その後、一連の濃度(一般に0、1、2、3、5、7および10μg/ml)のMMSを未処理細胞またはPARP阻害剤処理細胞に添加した。PARP阻害剤のみで処理した細胞を使用して、PARP阻害剤による増殖阻害を評価した。
【0102】
細胞をさらに16時間静置し、その後培地を交換し、細胞を37℃でさらに72時間増殖させた。次いで培地を取り出し、細胞を氷冷10%(w/v)トリクロロ酢酸100μlで固定した。プレートを4℃で20分間インキュベートし、次いで水で4回洗浄した。次いで、各ウェルの細胞を0.4%(w/v)SRBの1%酢酸溶液100μlで20分間染色した後、1%酢酸で4回洗浄した。次いで、プレートを室温で2時間乾燥させた。10mM Tris Base 100μlを各ウェルに添加して、染色細胞からの色素を溶解させた。プレートを軽く振盪し、室温で30分間静置した後、Microquantマイクロタイタープレートリーダーを用いて564nMの光学濃度を測定した。
【0103】
化合物Aは、200nMにおけるPF50は少なくとも2.0であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶形態Lとしての4-[3-(4-シクロプロパンカルボニル-ピペラジン-1-カルボニル)-4-フルオロ-ベンジル]-2H-フタラジン-1-オン。
【請求項2】
粉末X線回折(XRD)において以下の特徴的ピークを有する、請求項1に記載の化合物。

【請求項3】
粉末X線回折(XRD)において以下の特徴的ピークを有する、請求項1に記載の化合物。

【請求項4】
示差走査熱量測定(DSC)において毎分10℃で25℃〜325℃まで加熱した時、198.5℃±1℃で融解し始める、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
結晶形態Aの4-[3-(4-シクロプロパンカルボニル-ピペラジン-1-カルボニル)-4-フルオロ-ベンジル]-2H-フタラジン-1-オンから結晶形態Lの4-[3-(4-シクロプロパンカルボニル-ピペラジン-1-カルボニル)-4-フルオロ-ベンジル]-2H-フタラジン-1-オンを得る方法であって、形態Aまたは形態A およびLの混合物として4-[3-(4-シクロプロパンカルボニル-ピペラジン-1-カルボニル)-4-フルオロ-ベンジル]-2H-フタラジン-1-オンを必要に応じて最大で 30% 水v/vを含む有機溶媒中にスラリー化することを含む、上記方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物と製薬上許容可能な担体または希釈剤を含む、医薬組成物。
【請求項7】
ヒトまたは動物の身体の治療方法に使用するための請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
ヒトまたは動物の身体の治療におけるPARPの阻害方法に使用するための請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項9】
PARP活性の阻害剤の製造における請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項10】
血管疾患;敗血症性ショック;虚血性障害;神経毒性;出血性(haemorraghic)ショック;ウィルス感染;またはPARPの活性を阻害することより寛解される疾患の治療用薬剤の製造における、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項11】
癌治療において補助剤(adjunct)として使用するための、あるいは電離放射線または化学療法剤による治療のための腫瘍細胞を増強するための、薬剤製造における、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項12】
個体における、相同組換え(HR)依存的DNA DSB修復経路に欠損のある癌の治療に使用するための薬剤の製造における、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項13】
前記癌が、HRによるDNA DSB修復能力が正常細胞に比べて低下または抑制された1個または複数の癌細胞を含む、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記癌細胞がBRCA1またはBRCA2欠損表現型を有する、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記癌細胞がBRCA1またはBRCA2に欠損がある、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記個体が、HR依存的DNA DSB修復経路の成分をコードする遺伝子中の突然変異に関してヘテロ接合である、請求項12〜15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
前記個体がBRCA1および/またはBRCA2中の突然変異に関してヘテロ接合である、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記癌が乳癌、卵巣癌、膵臓癌または前立腺癌である、請求項12〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
前記治療が電離放射線または化学療法剤の投与をさらに含む、請求項12〜18のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−500655(P2011−500655A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529447(P2010−529447)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【国際出願番号】PCT/GB2008/003510
【国際公開番号】WO2009/050469
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(503160629)クドス ファーマシューティカルズ リミテッド (23)
【Fターム(参考)】