説明

4フッ化エチレン製の製品の製造方法

【課題】歩留まりが良く、生産性の高い、4フッ化エチレン製の製品の製造方法を提供する。
【解決手段】4フッ化エチレンを材料として用い、圧縮成形によって筒状の中間製品10を成形した後に中間製品10を焼成する工程と、メス200を用いて、焼成後の中間製品10に対して突切り加工を行って、複数の角リング11に分割する工程と、角リング11を加熱しながら加圧するヒートプレス工程と、を有し、ヒートプレス工程においては、角リング11を構成する材料が流動する状態になるまで加熱かつ加圧して、角リング11を塑性変形させることで製品12を得ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4フッ化エチレン製の製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
4フッ化エチレン(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))は熱可塑性樹脂であるが、溶融時の粘度が極めて高く、流動性が悪いため、射出成形には適していない。そのため、4フッ化エチレン(以下、適宜、PTFEと称する)製の製品を製造する場合には、圧縮成形を用いるのが一般的である。例えば、環状の製品を製造する場合、圧縮成形によって円筒状の中間製品を成形し、その後、この中間製品を焼成した後に、切削加工によって製品を製造している。より具体的には、環状の製品が断面矩形の角リングである場合、円筒状の中間製品に対して、所望の外径寸法と内径寸法を得るために、旋盤加工によって、中間製品の外周と内周にそれぞれ切削加工を施す。その後、バイトやメスによって、中間製品に対して突切り加工を行って所望の高さ寸法を得ることで、角リングを製造している。
【0003】
断面がT字形状のリングを製造する場合には、角リングを製造した後に、この角リングに旋盤加工を施すことで、内周端縁を削り、断面がT字形状のリングを製造している。角リングの内周端縁や外周端縁に面取りを形成する場合も、角リングを製造した後に、旋盤加工を施している。また、角リングにスリットを形成する場合には、角リングを製造した後に、フライス加工を施している。
【0004】
以上のような製造方法によりPTFE製の製品を製造しているため、次のような問題点がある。
【0005】
すなわち、中間製品に対して複数個所に切削加工を施すため、歩留まりが悪い。バイトで突切り加工を施す場合には、更に歩留まりが悪い。メスによる突切り加工を施す場合には、製品が歪んでしまい易い。切削加工や突切り加工により、製品の表面の面が粗くなる。各工程で切削加工を施すため、工数が多く、生産性が低い。スリットなどを後加工で形成する場合も、工数が多く、生産性が低い。
【0006】
このように、従来、中間製品に対して複数の箇所に切削加工を施す必要があり、歩留まりが悪く、かつ生産性が低く、コストが高くなっていた。また、製品の品質を低下させてしまうこともあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−242182号公報
【特許文献2】特許第3386174号公報
【特許文献3】特許第4114849号公報
【特許文献4】特許第2729886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、歩留まりが良く、生産性の高い、4フッ化エチレン製の製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0010】
すなわち、本発明の4フッ化エチレン製の製品の製造方法は、
4フッ化エチレンを材料として用い、圧縮成形によって筒状の中間製品を成形した後に該中間製品を焼成する工程と、
削り代のない切削工具を用いて、焼成後の前記中間製品に対して突切り加工を行って、複数の環状部材に分割する工程と、
前記環状部材を加熱しながら加圧するヒートプレス工程と、
を有し、
前記ヒートプレス工程においては、前記環状部材を構成する材料が流動する状態になるまで加熱かつ加圧して、該環状部材を塑性変形させることを特徴とする。
【0011】
なお、本発明は、4フッ化エチレン(PTFE)製の製品の製造方法に関するものであるが、PTFEを主材料としていれば、配合材料を含んでいる場合も含まれる。
【0012】
本発明によれば、中間製品を複数の環状部材に分割する際には削り代が生じない。そして、環状部材を、その構成材料が流動する状態になるようにヒートプレスするため、各部位の寸法出しを行うために必要な切削加工は最小限に抑えることができる。つまり、その構成材料が流動する状態となるまで加熱かつ加圧するため、プレスを行う金型におけるキャビティとほぼ同一の形状寸法にすることができる。ここで、キャビティ内の材料は、加熱かつ加圧されることで、キャビティに対する充填率は100%を超える。PTFEの熱膨張率は鋼材より約10倍大きいので、環状部材の体積が型のキャビティ体積より少ない場合でも加熱後の充填率は100%を超える。このように、加熱かつ加圧された状態では充填率が100%を超えるので、型隙間よりバリが発生し易くなる。バリの量が多い場合は仕上げ加工が必要になるが、除去する材料は少ない。そして、加熱かつ加圧された状態では、材料は型に密着するので、キャビティとほぼ同じ形状寸法になる。以上のことから、無駄な材料の量を抑制でき、歩留まりを向上させることができる。また、歩留まり向上と切削加工の工数削減によりコストを削減することができる。そして、工数削減により、生産性を向上させることができる。
【0013】
突切り加工により分割された環状部材の形状が歪んでいても、その後、ヒートプレスを行うため、所望の形状にすることができる。また、ヒートプレスにより、製品の面粗さを小さくすることができる。
【0014】
前記ヒートプレス工程における加熱温度は、製品の使用環境温度よりも高く設定するとよい。
【0015】
これにより、製品の使用時における製品の寸法変化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、歩留まりが良く、かつ生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明の実施例に係るPTFE製の製品の製造方法における製造工程全体を説明する工程図である。
【図2】図2は本発明の実施例に係るPTFE製の製品の製造方法における製造工程の一部を説明する工程図である。
【図3】図3は本発明の実施例に係るPTFE製の製品の製造方法における製造工程の一部を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0019】
(実施例)
図1〜図3を参照して、本発明の実施例に係るPTFE製の製品の製造方法について説明する。
【0020】
<製造工程全体>
特に、図1を参照して、本発明の実施例に係るPTFE製の製品の製造方法における製造工程全体について説明する。
【0021】
<<中間製品の成形>>
まず、圧縮成形によって、円筒状の中間製品10を成形する。図1(a)において、図中左側は圧縮成形の様子を模式的断面図で示しており、図中右側は圧縮成形により得られた中間製品10の斜視図を示している。圧縮成形機100は、円柱状の中子101と、円筒状の外型102と、パンチ103と、外型102の下端に配置される座金104とを備えている。そして、中子101と外型102と座金104とで形成されるキャビティ内に、原料となる粉状のPTFEを充填する。その後、パンチ103によって加圧して、円筒状の予備成形品である中間製品10を得ることができる。
【0022】
その後、常温で成形した中間製品10を炉内で焼成する。
【0023】
次に、中間製品10を複数の環状部材(本実施例の場合には角リング11)に分割する。図1(b)において、図中左側は突切り加工の様子を側面側から見た概略図を示しており、図中右側は角リング11の斜視図を示している。図1(b)の左側に示すように、円筒状の中間製品10に対して、側面側から輪切りにするようにして、複数の角リング11に分割する。ここで、本実施例の場合には、メス200を用いて、中間製品10に対して突切り加工を行うことで、複数の角リング11に分割している。これにより、削り代を必要とすることなく、複数の角リング11を得ることができ、この工程においては、無駄な材料が出ないようにしている。なお、この工程においては、削り代のない切削工具であれば、メス200以外の工具を用いてもよい。
【0024】
次に、角リング11を加熱しながら加圧するヒートプレス加工を行う。図1(c)において、図中左側はヒートプレス中の様子を模式的断面図で示しており、図中右側はヒートプレスにより得られた製品12の平面図と断面図を示している。本実施例においては、断面形状がT字形状で平面形状が円形の製品12を製造している。このヒートプレス加工を行う金型300は、離型型301と、下型302と、上型303とを備えている。上型303は、中央に設けられる段付き円柱状の第1型303aと、第1型303aの外周に沿って設けられる段付き円筒状の第2型303bとから構成されている。なお、第1型303aは、第2型303b内に圧入されることで、第1型303aと第2型303bは一体となっている。このように、上型303を、第1型303aと第2型303bとの2つの型で構成したことにより、第1型303aの外周面と、第2型303bの下端面とのなす角度をほぼ90度にすることが可能となる。従って、エア溜まりによる加圧不足を抑止し、転写性を向上させることができる。
【0025】
<ヒートプレス加工>
特に、図2を参照して、ヒートプレス加工について、より詳細に説明する。
【0026】
ヒートプレス加工を行う場合、まず、離型型301と下型302を所定位置に配置した状態で、角リング11を型内に配置する。なお、下型302は、角リング11を配置する前に予め加熱しておく。
【0027】
ここで、離型型301は、上部中央に円柱状の凹部301aを有する円板形状の部材で構成されている。また、下型302は有底円筒形状の部材で構成されており、円筒部302aと底板部302bとを備え、底板部302bには、離型型301の外径と略同一の内径の挿通孔302cが設けられている。この挿通孔302cに離型型301が装着されるように構成されている。離型型301と下型302を所定位置に配置した状態においては、離型型301が、下型302の底板部302bの上面よりも上方に突出するように構成されている。そして、下型302の円筒部302aの内径は、角リング11の外径と略同径(僅かに大きい程度)となるように構成されている。これにより、角リング11を型内に配置した状態においては、図2(a)に示すように、角リング11の外周面が下型302の内周面に接触するか僅かに隙間が空いた状態となる。また、角リング11の底面のうち内周端付近が、離型型301の上面に載った状態となる。
【0028】
次に、図2(b)に示すように、予め加熱した上型303を下降させて型締めを行う。型締め時においては、上型303における第1型303aの下方の先端の一部が、離型型301の凹部301a内に密に嵌まるように構成されている。これにより、型締め時には隙間を可及的に少なくし、バリの発生を抑制することができる。型締めを行った状態においては、離型型301と下型302と上型303との間にできるキャビティCは、断面形状がT字形状で平面形状が円形の環状の形状をなしている。ここで、本実施例においては、角リング11を構成する材料(PTFE)が流動する状態となるまで加熱かつ加圧して、角リング11を塑性変形させている。これにより、角リング11は、キャビティCの形状と略同一の形状、すなわち、断面形状がT字形状で平面形状が円形の環状の形状に変形する。
【0029】
キャビティ内の材料は加熱かつ加圧されることで、キャビティに対する充填率は100%を超える。PTFEの熱膨張率は鋼材より約10倍大きいので、角リング11の体積が型のキャビティ体積より少ない場合でも加熱後の充填率は100%を超える。このように、加熱かつ加圧された状態では充填率が100%を超えるので、型隙間よりバリが発生し易くなる。バリの量が多い場合はバリを除去するための仕上げ加工が必要になるが、除去する材料は少ない。そして、加熱かつ加圧された状態でできる製品12は、型に密着するので、キャビティCとほぼ同じ形状寸法になる。
【0030】
ヒートプレス終了後、型開きを行い、例えば、図2(c)に示すように、治具304を用いて、下方から離型型301ごと製品12を上方に突き上げることで、製品12を型から取り出すことができる。なお、型から製品12を取り出す方法は、この方法には限られない。例えば、型開きにより、下型302に対して、離型型301を下降させ、かつ上型303を上昇させた状態で、手作業で製品12を取り出すようにしてもよい。このとき、例えば、図3に示すように、治具305を用いて、下型302から製品12を取り外すことができる。
【0031】
以上のように製造される製品12は、バリが多い場合は、上記の通り、バリを除去する仕上げ加工を必要とするが、それ以外の後加工なしで所望の寸法にすることができる。
【0032】
<ヒートプレス試験>
外径24.8mm、肉厚(径方向の厚み)1.8mm、高さ(軸方向の厚み)2.3m
mの角リング11に対して、設計上、径方向の長さ1.0mm,軸方向の長さ0.3mmの肉抜き部を上下に作ることで、上記のように断面形状をT字形状とするヒートプレス試験を行った。より具体的には、16トンプレスで5.2トンの荷重をかけ、各リング11を27%圧縮する。この場合、角リング11のT字断面部が受ける面圧は40MPaになる。
【0033】
ヒートプレス試験として、室温、型温度100℃、型温度200℃の温度条件において、それぞれ、10秒、30秒、60秒間のヒートプレスを行うことで得られた製品12の形状寸法について評価を行った。
【0034】
その結果、室温においてヒートプレスを行ったものについては、加工時間に関係なく、多少塑性変形しているものの、弾性復元性が高く、所望の形状にすることはできなかった。また、型温度100℃の条件下においてヒートプレスを行ったものについても、加工時間に関係なく、十分に所望の形状にすることはできなかった。これに対して、型温度200℃の条件下においてヒートプレスを行ったものについては、10秒間,30秒間、60秒間のいずれの場合も、十分に所望の形状にすることができた。
【0035】
また、ヒートプレス後に室温に製品12を放置した状態では、形状寸法に関して経時的に殆ど変化しないことも確認できた。更に、外径寸法精度について、ヒートプレス前と200℃のヒートプレス後について、10個のサンプルにより寸法のバラツキレンジRについて測定したところ、前者がR=0.039mmに対して、後者がR=0.031mmであった。また、高さ寸法精度については、前者がR=0.025mmに対して、後者がR=0.019mmであった。これらのことからも、ヒートプレスを行うことによって、寸法精度が高まることが分かる。なお、バラツキレンジRとは、複数個のサンプルの測定結果において、最大値から最小値を引いた値である。
【0036】
また、製品12の使用環境が高温の場合に、塑性変形時の残留応力等の影響により、その形状寸法が変化してしまう可能性も考えられるため、180℃、200℃のそれぞれの環境下で24時間放置した場合の形状寸法の変化についても試験を行った。その結果、180℃と200℃の場合には、製品12の外径寸法の変化量が公差の1/5程度であった。この結果から、使用環境がヒートプレス時の加熱温度よりも低ければ、すなわち、ヒートプレス時の加熱温度を、製品12の使用環境温度よりも高く設定しておけば、製品使用時における製品12の寸法変化を抑制することができることを確認できた。
【0037】
なお、ヒートプレスによって、製品12の外径寸法及び高さ寸法が僅かに収縮することが分かったが、収縮率を見込んで型寸法を設計することによって、所望の寸法に成形することが可能である。
【0038】
<本実施例に係るPTFE製の製品の製造方法の優れた点>
本実施例に係る製造方法によれば、中間製品10を複数の角リング11に分割する際には削り代が生じない。そして、角リング11を、その構成材料が流動する状態になるようにヒートプレスするため、各部位の寸法出しを行うために必要な切削加工は最小限に抑えることができる。以上のことから、無駄な材料の量を抑制でき、歩留まりを向上させることができる。また、歩留まり向上と切削加工の工数削減によりコストを削減することができ、工数削減により、生産性を向上させることもできる。
【0039】
また、本実施例においては、メス200を用いて、中間製品10に対して突切り加工を行うため、当該加工により得られた角リング11は、歪んでしまっている可能性がある。しかし、この角リング11に対して、その後、ヒートプレスを行って製品12を製造するので、歪みは解消される。また、ヒートプレスに用いる型の面粗さを小さくすることで、
製品12の面粗さを小さくすることができる。
【0040】
また、角リング11をヒートプレスすることによって製品12を製造することから、角リング11及び中間製品10の寸法精度はそれほど要求されない。
【0041】
更に、ヒートプレス工程における加熱温度を、製品12の使用環境温度よりも高く設定することによって、製品使用時における製品12の寸法変化を抑制することができる。
【0042】
<その他>
上記の実施例においては、断面形状がT字形状で平面形状が円形の製品12を製造する場合を示したが、ヒートプレスに用いる型の形状を変更することで様々な形状の製品を製造することができる。例えば、角リング11の内周端縁や外周端縁にC面やR面などの面取りを設ける場合にもヒートプレスによる加工が可能である。また、角リング11の側面(平面部分)にスリットを設ける場合にもヒートプレスによる加工が可能である。また、平面形状についても、円形には限られず、楕円形や多角形にすることもできる。この場合、中間製品について、楕円形の筒や多角形の筒となるようにすればよい。
【符号の説明】
【0043】
10 中間製品
11 角リング
12 製品
100 圧縮成形機
101 中子
102 外型
102a 挿通孔
103 パンチ
104 座金
200 メス
300 金型
301 離型型
302 下型
302a 円筒部
302b 底板部
302c 挿通孔
303 上型
304 治具
305 治具
C キャビティ
S 空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4フッ化エチレンを材料として用い、圧縮成形によって筒状の中間製品を成形した後に該中間製品を焼成する工程と、
削り代のない切削工具を用いて、焼成後の前記中間製品に対して突切り加工を行って、複数の環状部材に分割する工程と、
前記環状部材を加熱しながら加圧するヒートプレス工程と、
を有し、
前記ヒートプレス工程においては、前記環状部材を構成する材料が流動する状態になるまで加熱かつ加圧して、該環状部材を塑性変形させることを特徴とする4フッ化エチレン製の製品の製造方法。
【請求項2】
前記ヒートプレス工程における加熱温度は、製品の使用環境温度よりも高く設定することを特徴とする請求項1に記載の4フッ化エチレン製の製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−11646(P2012−11646A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149634(P2010−149634)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】