説明

5’−グアニル酸の製造法

【課題】微生物を用いて5’−グアニル酸(GMP)を効率よく製造する。
【解決手段】nagD遺伝子が正常に機能しないように改変され、かつGMP合成酵素の活性が増大するように改変された細菌にXMPを反応させてGMPを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は5’−グアニル酸の製造法、及びその製造に用いられる新規微生物に関する。5’−グアニル酸は、調味料、医薬及びそれらの原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
5’−グアニル酸(グアノシン−5’−モノリン酸、以下「GMP」ともいう)の工業的な製法としては、グアノシンを発酵法により製造し、得られたグアノシンを酵素的にリン酸化して5’−グアニル酸を得る方法が知られている(特許文献1〜4)。
【0003】
また、GMP合成酵素活性を増大させたエシェリヒア属に属する微生物と、グルコースを代謝して、5’−キサンチル酸(XMP)からGMPを合成する反応に必要なアデノシン−三リン酸(ATP)を生合成する(以下、「ATPを再生する」ともいう)活性が高いブレビバクテリウム・アンモニアゲネスとを、XMPとアンモニアまたはグルタミンを含む培地で培養し、XMPを高効率にGMPに変換して培養液中にGMPを生成蓄積せしめる製造法も知られていた(非特許文献1)。
【0004】
一方、GMPを発酵法により製造する方法が提案されている。例えば、特許文献5には、アデニン要求性を有し、さらにデコイニンまたはメチオニンスルフォキシドに耐性を示し、かつGMP生産能を有するバチルス属の変異株を培養し、培地中に生成蓄積したGMPを採取することを特徴とするGMPの製造法が開示されている。また特許文献6では、イノシン酸(イノシン酸−5’−モノリン酸、以下「IMP」ともいう)生産能を有するエシェリヒア属細菌の2種類の5’−ヌクレオチダーゼ遺伝子を欠失させ、更にIMP脱水素酵素およびGMP合成酵素遺伝子を増強した株を培養し、培地中に生成蓄積したGMPを採取することを特徴とするGMPの製造法が開示されている。しかし、一般的にGMPの直接発酵は収率が十分ではなく、前述の酵素法に比較して必ずしも実用的ではない。
【0005】
前述のように、5'−グアニル酸の製造について種々の研究が行われており、成功例もいくつか知られている。しかし、ヌクレオチド分解酵素については不明な点が多く、いくつかのヌクレオチド分解酵素が見出され、それらを欠失することで収率が向上することが知られているが(特許文献6、7)、完全に分解を抑制することは困難であり大きな課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−231793号公報
【特許文献2】特開平10−201481号公報
【特許文献3】国際公開第96/37603号パンフレット
【特許文献4】特開2001−245676号公報
【特許文献5】特公昭56−12438号公報
【特許文献6】特開2002−355087号公報
【特許文献7】国際公開第2006/078132号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tatsuro Fujioら、Biosci. Biotech. Biochem., 1997年, 第61巻, 5号, 840−845頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、微生物を用いてXMPからGMPを製造する方法において使用できる、XMPを高効率にGMPに変換することが可能な新規微生物を創製することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、nagD遺伝子が正常に機能しないように改変され、かつGMP合成酵素の活性が増大するように改変されたエシェリヒア属の微生物を利用することにより、XMPが高効率でGMPに変換されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の一態様は、nagD遺伝子が正常に機能しないように改変され、かつ5’−グアニル酸合成酵素の活性が増大するように改変された、キサンチル酸を5’−グアニル酸に変換する能力を有する微生物に、キサンチル酸を作用させて5’−グアニル酸を生成させ、これを採取することを特徴とする5’−グアニル酸の製造方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記微生物が、nagD遺伝子が正常に機能しないように改変され、さらにguaA遺伝子の発現を増加させることによって5’−グアニル酸合成酵素の活性を増大するように改変された微生物である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、guaA遺伝子が下記(A)または(B)のタンパク質をコードする、前記方法を提供することである。
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、5’−グアニル酸合成酵素活性を有するタンパク質。
本発明の他の態様は、前記微生物が、さらに、ushA遺伝子、aphA遺伝子1種又はそれ以上の遺伝子が正常に機能しないように改変された微生物である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記微生物が、腸内細菌科に属する細菌、バチルス属細菌、またはコリネ型細菌である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記微生物がエシェリヒア属細菌である、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、前記微生物がエシェリヒア・コリである、前記方法を提供することである。
本発明の他の態様は、nagD遺伝子が正常に機能しないように改変され、さらにguaA遺伝子の発現を増加させることによって5’−グアニル酸合成酵素の活性が増大するように改変された、キサンチル酸を5’−グアニル酸に変換する能力を有する微生物(ただし、上記改変に加えてさらに、guaB遺伝子の発現を増加させることによってイノシン酸脱水素酵素活性が増大するように改変された微生物を除く)を提供することである。
本発明の他の態様は、さらに、ushA遺伝子、aphA遺伝子から選ばれる1種又はそれ以上の遺伝子が正常に機能しないように改変された、前記微生物を提供することである。
本発明の他の態様は、腸内細菌科に属する細菌、バチルス属細菌、またはコリネ型細菌である、前記微生物を提供することである。
本発明の他の態様は、エシェリヒア属細菌である、前記微生物を提供することである。
本発明の他の態様は、エシェリヒア・コリである、前記微生物を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(A)JM109/ pSTV29-Ptac-guaA株をXMPと反応させたときの、XMPおよびGMPの濃度変化を示すグラフ。(B)JM109ΔnagD/ pSTV29-Ptac-guaA株をXMPと反応させたときの、XMPおよびGMPの濃度変化を示すグラフ。
【図2】(A)JM109ΔushA/ pSTV29-Ptac-guaA株をXMPと反応させたときの、XMPおよびGMPの濃度変化を示すグラフ。(B)JM109ΔushAΔnagD/ pSTV29-Ptac-guaA株をXMPと反応させたときの、XMPおよびGMPの濃度変化を示すグラフ。
【図3】(A)JM109ΔushAΔaphA/ pSTV29-Ptac-guaA株をXMPと反応させたときの、XMPおよびGMPの濃度変化を示すグラフ。(B)JM109ΔushAΔaphAΔnagD /pSTV29-Ptac-guaA株をXMPと反応させたときの、XMPおよびGMPの濃度変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
<I>本発明の方法において使用される微生物
本発明の方法において使用される微生物は、nagD遺伝子遺伝子が正常に機能しないように改変され、かつGMP合成酵素活性が増大するように改変され、XMPをGMPに変換する能力を有する微生物である。
【0014】
微生物としては、腸内細菌科に属する細菌、コリネ型細菌(Coryneform bacterium)、バチルス(Bacillus)属細菌などが挙げられる。
腸内細菌科に属する細菌としては、エシェリヒア(Escherichia)属細菌、パントエア(Pantoea)属細菌、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌、クレブシエラ(Klebsiella)属細菌、セラチア(Serratia)属細菌、エルビニア(Erwinia)属細菌、サルモネラ(Salmonella)属細菌、モルガネラ(Morganella)属細菌などが挙げられる。
エシェリヒア属細菌としては、エシェリヒア・コリ等、エシェリヒア属に属する細菌であれば特に制限されないが、具体的にはNeidhardtらの著書(Neidhardt, FR. C. et al., Escherichia coli and Salmonella Typhimurium, American Society for Microbiology, Washington D. C., 1208, table 1)に挙げられるものが利用できる。
また、エンテロバクター属細菌としては、エンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)等、パントエア属細菌としてはパントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)等が挙げられる。
【0015】
コリネ型細菌としては、微生物分野の当業者に既知の分類によりコリネ型細菌として分類される細菌、今までブレビバクテリウム属に分類されていたが、現在はコリネバクテリウム属に再分類されている細菌(Int. J. Syst. Bacteriol., 41, 255 (1991))、およびコリネバクテリウム属に近い類縁菌であるブレビバクテリウム属に属する細菌などが挙げられる。このようなコリネ型細菌の例を以下に列挙する。
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム
コリネバクテリウム・アルカノリティカム
コリネバクテリウム・カルナエ
コリネバクテリウム・グルタミカム
コリネバクテリウム・リリウム
コリネバクテリウム・メラセコーラ
コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス
コリネバクテリウム・ハーキュリス
ブレビバクテリウム・ディバリカタム
ブレビバクテリウム・フラバム
ブレビバクテリウム・インマリオフィラム
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム
ブレビバクテリウム・ロゼウム
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス
コリネバクテリウム・アンモニアゲネス
ブレビバクテリウム・アルバム
ブレビバクテリウム・セリヌム
ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム
【0016】
バチルス属細菌としては、微生物分野の当業者に既知の分類によりバチルス属として分類される細菌が使用でき、具体的には、バチルス・ズブチリス、バチルス・アミロリクファシエンス等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
上記のような微生物において、GMP合成酵素の活性を増大させる方法について説明する。
本発明において、「GMP合成酵素の活性が増大するように改変された」とは、エシェリヒア属細菌などの微生物の非改変株、例えば野生株よりも、GMP合成酵素の活性が高いことを意味する。
【0018】
GMP合成酵素とは、下記反応を触媒する酵素(EC 6.3.4.1)であり、「GMP合成酵素の酵素活性」とは、XMPからGMPを生成する反応を触媒する活性を意味する。
【0019】
ATP + XMP + NH3 → AMP + ピロリン酸 + GMP
【0020】
GMP合成酵素活性は、例えば、Spectorの方法(Spector, T., Methods Enzymol., 1978,51,p219)により、NADHの減少速度を調べることで、測定することができる。
【0021】
GMP合成酵素の活性を増大させるためには、この酵素をコードするguaA遺伝子の発現量を上昇させることが好ましい。発現量を上昇させる方法としては、GMP合成酵素をコードするDNAの、細菌の細胞内のコピー数を上昇させる方法が挙げられる。細胞内のコピー数を上昇させるには、GMP合成酵素をコードするDNA断片を、エシェリヒア属細菌などの微生物で機能するベクターと連結して組換えDNAを作製し、これを宿主に導入して形質転換すればよい。形質転換株の細胞内の、GMP合成酵素をコードする遺伝子(guaA遺伝子)のコピー数が上昇する結果、GMP合成酵素の活性が増大する。
【0022】
細胞内のコピー数の上昇は、GMP合成酵素遺伝子を上記宿主の染色体DNA上に多コピー存在させることによっても達成できる。エシェリヒア属細菌に属する細菌の染色体DNA上に、GMP合成酵素遺伝子を多コピーで導入するには、染色体上に多コピー存在する配列を標的に利用して相同組換えにより行うことができる。染色体DNA上に多コピー存在する配列としては、レペティティブDNA、転移因子の端部に存在するインバーテッド・リピートなどが利用できる。あるいは、特開平2−109985号公報に開示されているように、目的遺伝子をトランスポゾンに搭載してこれを転移させて染色体DNA上に多コピー導入することでも可能である。いずれの方法によっても形質転換株内のGMP合成酵素遺伝子のコピー数が上昇する結果、GMP合成酵素の活性が増大する。
【0023】
上記遺伝子を導入するためのベクターとしては、pSTV29、pMW218、pUC19等のプラスミドベクター、λ1059、λBF101,M13mp9等のファージベクターが挙げられる。またトランスポゾンとしては、Mu,Tn10、Tn5が挙げられる。
【0024】
GMP合成酵素をコードするDNAは、その塩基配列が公知であるので、その配列に基づいてプライマーを合成し、エシェリヒア属細菌などの微生物の染色体DNAを鋳型にしてPCR法により増幅を行うことによって取得することが出来る。例えば、エシェリヒア・コリのguaA遺伝子としては配列番号1の塩基配列を有するものが挙げられる。この遺伝子は、同塩基配列に基づいてプローブを調製し、エシェリヒア属細菌の染色体DNAライブラリーからハイブリダイゼーションにより目的のDNA断片を選択することも出来る。あるいはGMP合成酵素をコードするDNA断片を、既知の塩基配列に基づいて化学的に合成してもよい。なお、エシェリヒア・コリのguaA遺伝子は、配列番号9と10のプライマーを用いてクローニングすることができる。
【0025】
また、エシェリヒア属細菌以外の微生物からも、上記塩基配列に基づいて、GMP合成酵素と同等の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子を取得し得る。
Bacillus subtilis のGMP合成酵素遺伝子(guaA)としては、配列番号3の塩基配列を有するものが挙げられる。この塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を配列番号4に示す。Corynebacterium glutamicum のGMP合成酵素遺伝子(guaA)としては配列番号5の塩基配列を有するものが挙げられる。この塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を配列番号6に示す。
Corynebacterium ammoniagenes のGMP合成酵素遺伝子(guaA)としては配列番号7の塩基配列を有するものが挙げられる。この塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を配列番号8に示す。
上記のように、微生物が属する属、種又は菌株によって、guaA遺伝子の塩基配列に差異が存在することがあるため、guaA遺伝子は、上記遺伝子のバリアントであってもよい。
【0026】
guaA遺伝子によってコードされるタンパク質は、GMP合成酵素活性を有する限り、配列番号2、4、6または8のアミノ酸配列全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%、特に好ましくは98%以上の同一性を有するものであってもよい。 アミノ酸配列および塩基配列の同一性は、例えばKarlin および AltschulによるアルゴリズムBLAST(Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993))やPearsonによるFASTA(MethodsEnzymol., 183, 63 (1990))を用いて決定することができる。このアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXとよばれるプログラムが開発されている (http://www.ncbi.nlm.nih.gov参照)。
【0027】
また、本発明に用いるguaA遺伝子は、野生型遺伝子には限られず、コードされるタンパク質の機能、すなわち、GMP合成酵素活性が損なわれない限り、配列番号2、4、6または8のアミノ酸配列において、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含む配列を有するタンパク質をコードする、変異体又は人為的な改変体であってもよい。ここで、「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には2〜20個、好ましくは2〜10個、より好ましくは2〜5個を意味する。上記置換は保存的置換が好ましく、保存的変異とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換としては、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位等には、guaA遺伝子を保持する微生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
【0028】
また、guaA遺伝子は、配列番号1、3、5または7の塩基配列に相補的な塩基配列又は該配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、GMP合成酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、同一性が高いDNA同士、例えば80%、好ましくは90%以上、より好ましくは95%、特に好ましくは98%以上の同一性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより同一性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSさらに好ましくは、68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度、温度で、1回より好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。
【0029】
上記の遺伝子のバリアントに関する記載は、後述のnagD遺伝子、ushA遺伝子、aphA遺伝子、及びその他の遺伝子にも同様に適用される。
【0030】
微生物へのDNAの導入は、C.T.chungの方法(C.T.chung et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 86, 2172−2175(1989))、D.M. Morrisonの方法(Methods in Enzymology, 68, 326 (1979))、又は受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel, M. and Higa, A., J. Mol. Biol., 53, 159 (1970))等により行うことが出来る。
【0031】
GMP合成酵素遺伝子の発現量の上昇は、上記の遺伝子増幅による以外に、染色体DNA上またはプラスミド上のGMP合成酵素遺伝子のプロモーター等の発現調節配列を強力なものに置換することによっても達成される。例えば、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター等が強力なプロモーターとして知られている。また、国際公開W000/18935に開示されているように、遺伝子のプロモーター領域に数塩基の塩基置換を導入し、より強力なものに改変することも可能である。これらのプロモーター置換または改変によりGMP合成酵素遺伝子の発現が強化され、タンパク質の活性が増大する。
guaA遺伝子の発現量の増大は、ノザン法、RT-PCR法などにより検出することが出来る。
【0032】
上記のような微生物において、nagD遺伝子が正常に機能しないように改変する方法について説明する。
本発明において、「nagD遺伝子が正常に機能しないように改変された」とは、nagD遺伝子によってコードされるタンパク質の活性が低下又は消失するか、又はこれらの遺伝子の転写が低下、又は消失すること、またはこれらの遺伝子の翻訳効率が低下することを意味する。
【0033】
E.coliのnagD遺伝子は、N-アセチルグルコサミンの資化に関与するnagBACDオペロン内に存在し、このnagBACDオペロン遺伝子の発現は培地中にバクテリアの細胞壁の主成分を構成する糖の一種であるN-アセチルグルコサミンを添加することで誘導されることが明らかになっている(Plumbridge JA., Mol. Micobiol. (1989) 3. 505-515)。E.coliのnagDにコードされるNagDタンパク質は、保存的な構造上の特徴からハロ酸脱ハロゲン化酵素(HAD)ファミリーに属すことがわかっており、試験管内の実験によればGMPおよび5’−ウリジル酸(ウリジン−5’−モノリン酸、以下「UMP」ともいう)に対してヌクレオチダーゼ活性を有することが報告されている(Tremblay LW., Biochemistry, (2006) 45. 1183-1193)。ただし、E.coliのゲノム上には23種のHADファミリータンパク質が存在し、それらの基質特異性の範囲は非常に広い(Kuznetsova et al., J.Biol.Chem., (2006) 281., 36149-36161)ので、NagDタンパク質の細胞内での生理的な役割については知られていない。
【0034】
nagD遺伝子を正常に機能しないよう改変することは、以下のような方法で達成できる。例えば、遺伝子組み換え法を用いた相同組換え法(Experiments in Molecular Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory press (1972); Matsuyama, S. and Mizushima, S., J. Bacteriol., 162, 1196 (1985))により、染色体上のnagD遺伝子を、正常に機能しないnagD遺伝子(以下、「破壊型nagD遺伝子」ということがある)で置換することによって行うことが出来る。 相同組換えは、染色体上の配列と相同性を有する配列を持つプラスミド等が菌体内に導入されると、ある頻度で相同性を有する配列の箇所で組換えを起こし、導入されたプラスミド全体が染色体上に組み込まれる。この後、さらに染色体上の相同性を有する配列の箇所で組換えを起こすと、再びプラスミドが抜け落ちるが、この時、組換えを起こす位置により、破壊された遺伝子のほうが染色体上に固定され、元の正常な遺伝子がプラスミドと一緒に染色体から抜け落ちることもある。このような菌株を選択することにより、染色体上の正常なnagD遺伝子が破壊型nagD遺伝子と置換された菌株を取得することができる。
【0035】
このような相同組換えを利用した遺伝子置換は、「Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」と呼ばれる方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, vol.97, No.12, p6640-6645)とλファージ由来の切り出しシステム(J. Bacteriol. 2002 Sep; 184(18):5200-3.)と組合わせた方法(WO2005/010175号参照)等の直鎖状DNAを用いる方法や、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, vol.97, No.12, p6640-6645、米国特許第6303383号、又は特開平05-007491号公報)などがある。
また、上述のような相同組換えを利用した遺伝子置換による部位特異的変異導入は、宿主上で複製能力を持たないプラスミドを用いても行うことが出来る。また、薬剤耐性等のマーカー遺伝子が内部に挿入されたnagD遺伝子を含み、かつ、目的とする微生物内で複製できないプラスミドを用いることによっても、nagD遺伝子の破壊を行うことが出来る。すなわち、前記プラスミドで形質転換され、薬剤耐性を獲得した形質転換体は、染色体DNA中にマーカー遺伝子が組み込まれている。このマーカー遺伝子は、その両端のnagD遺伝子配列と染色体上のこれらの遺伝子との相同組換えによって組み込まれる可能性が高いため、効率よく遺伝子破壊株を選択することが出来る。
【0036】
遺伝子破壊に用いる破壊型nagD遺伝子は、具体的には、制限酵素消化及び再結合によるこれらの遺伝子の一定領域の欠失、これらの遺伝子への他のDNA断片(マーカー遺伝子等)の挿入、または部位特異的変異法(Kramer, W. and Frits, H. J., Methods in Enzymology, 154, 350 (1987))や次亜塩素酸ナトリウム、ヒドロキシルアミン等の化学薬剤による処理(Shortle, D. and Nathans, D., Proc., Natl., Acad., Sci., U.S.A., 75, 270 (1978))によって、nagD遺伝子のコーディング領域又はプロモーター領域等の塩基配列の中に1つまたは複数個の塩基置換、欠失、挿入、付加または逆位を起こさせることにより、コードされるNagDタンパク質の活性を低下又は消失させるか、又はnagD遺伝子の転写を低下または消失させることにより、取得することが出来る。
【0037】
nagD遺伝子は、配列自体は公知であり、それらの配列に基づいて、PCR法又はハイブリダイゼーション法等によって容易に取得することが出来る。例えば、E.coliのnagD遺伝子として配列番号12のアミノ酸配列をコードする遺伝子が挙げられる。nagD遺伝子は、例えば、エシェリヒア・コリの染色体DNAから、配列番号13及び14に示すプライマーを用いたPCRによって取得することが出来る。
その他の微生物のnagD遺伝子も、公知の配列または上記E.coliのnagD遺伝子との配列相同性に基づいて取得し、微生物の改変に使用できる。
nagD遺伝子は、改変される微生物の染色体上のnagD遺伝子と相同組み換えを起こす程度の同一性を有するものであればよく、例えば、配列番号12のアミノ酸配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードするものであればよい。
【0038】
目的とする遺伝子が破壊されたことは、サザンブロッティングやPCR法により、染色体上の遺伝子を解析することによって確認することができる。
【0039】
また、微生物を紫外線照射またはN−メチル−N’−ニトロソグアニジン(NTG)もしくは亜硝酸などの通常変異処理に用いられる変異剤によって処理することによっても、活性を有するNagDタンパク質が産生されないようになった変異株を取得することができる。
【0040】
本発明の方法において使用する細菌においては、さらに、ushA遺伝子及び/またはaphA遺伝子が正常に機能しないように改変されていることが好ましい。これらの遺伝子の変異株又は遺伝子組み換え株は、これらの遺伝子が、それらの遺伝子によってコードされる5’−ヌクレオチダーゼの活性が低下又は消失するか、又はこれらの遺伝子の転写が低下、又は消失するように、改変することによって得られる。このような変異株又は遺伝子組み換え株は、前述のnagD遺伝子が正常に機能しない変異株又は遺伝子組み換え株と同様にして得ることができる。
ushA遺伝子は、配列自体は公知であり、それらの配列に基づいて、PCR法又はハイブリダイゼーション法等によって容易に取得することが出来る。例えば、E.coliのushA遺伝子として配列番号16のアミノ酸配列をコードする遺伝子が挙げられる。
その他の微生物のushA遺伝子も、公知の配列または上記E.coliのushA遺伝子との配列相同性に基づいて取得し、改変に使用できる。
尚、ushA遺伝子は、改変される微生物の染色体上のushA遺伝子と相同組み換えを起こす程度の同一性を有するものであればよく、例えば、配列番号16のアミノ酸配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードするものであればよい。
aphA遺伝子は、配列自体は公知であり、それらの配列に基づいて、PCR法又はハイブリダイゼーション法等によって容易に取得することが出来る。例えば、E.coliのaphA遺伝子として配列番号18のアミノ酸配列をコードする遺伝子が挙げられる。
その他の微生物のaphA遺伝子も、公知の配列または上記E.coliのaphA遺伝子との配列相同性に基づいて取得し、改変に使用できる。
aphA遺伝子は、改変される微生物の染色体上のaphA遺伝子と相同組み換えを起こす程度の同一性を有するものであればよく、例えば、配列番号18のアミノ酸配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードするものであればよい。
本発明は新規微生物として、guaA遺伝子の発現を増加させることによってグアニル酸合成酵素の活性が増大するように改変され、さらにnagD遺伝子が正常に機能しないように改変された、キサンチル酸を5’−グアニル酸に変換する能力を有する微生物(ただし、上記guaA遺伝子とnagD遺伝子の改変に加えてさらに、guaB遺伝子の発現を増加させてイノシン酸脱水素酵素の活性を増大させる改変がなされた微生物を除く)を提供する。この微生物においては、さらに、ushA遺伝子、aphA遺伝子から選ばれる1種又はそれ以上の遺伝子が正常に機能しないように改変されることが好ましい。
【0041】
<II>GMPの製造法
上述した、nagD遺伝子が正常に機能しないように改変され、さらにGMP合成酵素活性が増大するように改変された微生物にXMPを反応させ、XMPをGMPに変換することによって、GMPを得ることができる。
【0042】
該微生物の培養を行う際の炭素源としては、グルコース、フラクトース、シュークロース、糖蜜、廃糖蜜、澱粉加水分解物等の炭水化物、エタノール、グリセリン、ソルビトール等のアルコール類、ピルビン酸、乳酸、酢酸等の有機酸、グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノ酸など、上記微生物が資化可能であればいずれも使用できる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニア、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の各種無機及び有機アンモニウム塩、尿素、各種アミノ酸、ペプトン、NZアミン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、フィッシュミールまたはその消化物等が使用できる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、硫酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、炭酸カルシウム等を用いることができる。用いる微生物がアミノ酸、核酸、ビタミン等特定の栄養物質を生育に要求する場合には、培地にこれら物質を適量添加する。
培養はpH5.0〜8.5、15℃〜45℃の適切な範囲にて好気的条件にて5時間〜72時間程度行えばよい。なお、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、さらにアンモニアガス等を使用することが出来る。
【0043】
該微生物の培養液を直接、または遠心した後に菌体のみを、あるいは菌体を適当な溶液に懸濁したものを、XMPを含む反応液に接種してXMPからGMPへの変換を行うことができる。基質であるXMPの濃度は十分な量のGMPが得られる濃度であれば特に制限されないが、1〜200 mMの範囲が好ましい。
なお、本発明のGMPの製造法においては、上記微生物の菌体処理物を使用することもできる。菌体の処理物としては、例えば、菌体をアクリルアミド、カラギーナン等で固定化した固定化菌体等が挙げられる。
【0044】
反応液の炭素源としては、グルコース、フラクトース、シュークロース、糖蜜、廃糖蜜、澱粉加水分解物等の炭水化物、エタノール、グリセリン、ソルビトール等のアルコール類、ピルビン酸、乳酸、酢酸等の有機酸、グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノ酸など、上記微生物が資化可能であればいずれも使用できる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニア、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の各種無機及び有機アンモニウム塩、尿素、各種アミノ酸、ペプトン、NZアミン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、フィッシュミールまたはその消化物等が使用できる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、硫酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、炭酸カルシウム等を用いることができる。用いる微生物がアミノ酸、核酸、ビタミン等特定の栄養物質を生育に要求する場合には、培地にこれら物質を適量添加する。
【0045】
なお、反応液には有機溶剤を加えてヌクレオチドの細胞透過性を活性化させることが好ましい。
ヌクレオチドの膜透過性活性化剤である有機溶剤としては、キシレン、トルエン、ベンゼン、脂肪酸アルコール、酢酸エチルなどが利用でき、通常0.1〜30 ml/Lの濃度にて用いることが好ましい。
反応はpH5.0〜8.5、15℃〜45℃の適切な範囲にて好気的条件または嫌気的条件にて1時間〜7日程度行えばよい。なお、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、さらにアンモニアガス等を使用することが出来る。
なお、原料のXMPは、化学合成されたもの、市販のもの、および発酵法によって製造されたものなどを使用することができる。
【0046】
反応液からのGMPの採取は通常、イオン交換樹脂法、沈殿法、その他の公知の方法を組み合わせることにより実施できる。
【0047】
[実施例]以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0048】
<1−1>JM109株由来nagD遺伝子破壊株の構築
一般的なDNAクローニング用宿主として利用されているエシェリヒア・コリJM109株を親株として、まずNagDタンパク質非産生株の構築を行った。NagDタンパク質はnagD遺伝子(GenBank Accession X14135 配列番号11)によってコードされている。
【0049】
nagD遺伝子の欠失は、DatsenkoとWannerによって最初に開発された「Red-driven integration」と呼ばれる方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, vol. 97, No. 12, p6640-6645)とλファージ由来の切り出しシステム(J. Bacteriol. 2002 Sep; 184(18): 5200-3. Interactions between integrase and excisionase in the phage lambda excisive nucleoprotein complex. Cho EH, Gumport RI, Gardner JF.)によって行った。「Red-driven integration」方法によれば、目的とする遺伝子の一部を合成オリゴヌクレオチドの5’側に、抗生物質耐性遺伝子の一部を3’側にデザインした合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて得られたPCR産物を用いて、一段階で遺伝子破壊株を構築することができる。さらにλファージ由来の切り出しシステムを組合わせることにより、遺伝子破壊株に組み込んだ抗生物質耐性遺伝子を除去することが出来る。
【0050】
PCRの鋳型として、プラスミドpMW118-attL−Cm-attRを使用した。pMW118-attL−Cm-attR(WO2006078039)は、pMW118(宝バイオ社製)にλファージのアタッチメントサイトであるattL及びattR遺伝子と抗生物質耐性遺伝子であるcat遺伝子を挿入したプラスミドであり、attL−cat−attRの順で挿入されている。
【0051】
このattLとattRの両端に対応する配列をプライマーの3’末端に、目的遺伝子であるnagD遺伝子の一部に対応するプライマーの5’末端に有する配列番号19及び20に示す合成オリゴヌクレオチドをプライマーに用いてPCRを行った。
【0052】
増幅したPCR産物をアガロースゲルで精製し、温度感受性の複製能を有するプラスミドpKD46を含むエシェリヒア・コリJM109株にエレクトロポレーションにより導入した。プラスミドpKD46(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, vol. 97, No. 12, p6640-6645)は、アラビノース誘導性ParaBプロモーターに制御されるλRed相同組換えシステムのRed レコンビナーゼをコードする遺伝子(γ、β、exo遺伝子)を含むλファージの合計2154塩基のDNAフラグメント(GenBank/EMBL アクセッション番号 J02459、 第31088番目〜33241番目)を含む。プラスミドpKD46はPCR産物をJM109株の染色体に組み込むために必要である。
【0053】
エレクトロポレーション用のコンピテントセルは次のようにして調製した。すなわち、100mg/Lのアンピシリンを含んだLB培地中で30℃、一晩培養したエシェリヒア・コリJM109株を、アンピシリン(20mg/L)とL−アラビノース(1mM)を含んだ5mLのSOB培地(モレキュラークローニング:実験室マニュアル第2版、Sambrook, J.ら,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989年))で100倍希釈した。得られた希釈物を30℃で通気しながらOD600が約0.6になるまで生育させた後、100倍に濃縮し、10%グリセロールで3回洗浄することによってエレクトロポレーションに使用できるようにした。エレクトロポレーションは70μLのコンピテントセルと約100ngのPCR産物を用いて行った。エレクトロポレーション後のセルは1mLのSOC培地(モレキュラークローニング:実験室マニュアル第2版、Sambrook, J.ら,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989年))を加えて37℃で2.5時間培養した後、37℃でCm(クロラムフェニコール)(25mg/L)を含むL−寒天培地上で平板培養し、Cm耐性組換え体を選択した。次に、pKD46プラスミドを除去するために、Cmを含むL−寒天培地上、42℃で2回継代し、得られたコロニーのアンピシリン耐性を試験し、pKD46が脱落しているアンピシリン感受性株を取得した。
【0054】
クロラムフェニコール耐性遺伝子によって識別できた変異体のnagD遺伝子の欠失を、PCRによって確認した。得られたnagD欠損株をJM109ΔnagD::att-cat株と名づけた。
【0055】
次に、nagD遺伝子内に導入されたatt-cat遺伝子を除去するために、ヘルパープラスミドとして上述のpMW-intxis-tsを使用した。pMW-intxis-tsは、λファージのインテグラーゼ(Int)をコードする遺伝子、エクシジョナーゼ(Xis)をコードする遺伝子を搭載し、温度感受性の複製能を有するプラスミドである。pMW-intxis-ts導入により、染色体上のattLあるいはattRを認識して組換えを起こしattLとattRの間の遺伝子を切り出し、染色体上にはattLあるいはattR配列のみ残る構造になる。
【0056】
上記で得られたJM109ΔnagD::att-cat株のコンピテントセルを常法に従って作製し、ヘルパープラスミドpMW-intxis-tsにて形質転換し、30℃で50 mg/Lのアンピシリンを含むL−寒天培地上にて平板培養し、アンピシリン耐性株を選択した。
次に、pMW-intxis-tsプラスミドを除去するために、L−寒天培地上、42℃で2回継代し、得られたコロニーのアンピシリン耐性、及びクロラムフェニコール耐性を試験し、att-cat、及びpMW-intxis-tsが脱落しているnagD破壊株であるクロラムフェニコール、アンピシリン感受性株を取得した。この株をJM109ΔnagDと名づけた。
【0057】
<1−2>GMP合成酵素発現強化プラスミドpSTV29-Ptac-guaAの構築及び該プラスミドのJM109株およびJM109ΔnagD株への導入
GMP合成酵素発現強化プラスミドpSTV29-Ptac-guaAの構築を以下のようにして行った。guaA遺伝子は、配列番号9及び配列番号10に示したプライマーを用いてPCRを行い、エシェリヒア・コリのguaA遺伝子を増幅した。増幅断片を精製した後、両端に形成された制限酵素部位をEcoRI及びPstIで切断した。切断断片を、同じくEcoRI及びPstIで切断したpKK223-3(GenBank Accession M77749)と連結し、tacプロモーターの直後にguaA遺伝子が組み込まれたプラスミドpKK223-guaAを選択した。得られたプラスミドをtacプロモーターを含むようにBamHI及びHindIIIで切断した。切断断片を、同じくBamHI及びHindIIIで切断したpSTV29と連結し、tacプロモーターの直後にguaA遺伝子が組み込まれたプラスミドpSTV29-Ptac-guaAを選択した。JM109株および前記JM109ΔnagD株に導入し、それぞれJM109/ pSTV29-Ptac-guaA株およびJM109ΔnagD/ pSTV29-Ptac-guaA株を得た。
【0058】
<1−3>JM109/ pSTV29-Ptac-guaA株およびJM109ΔnagD/ pSTV29-Ptac-guaA株菌体を利用したXMPからGMPへの変換反応
上記菌株について、XMPからGMPへの変換反応評価を実施した。以下に、XMPからGMPへの変換反応評価のための、菌体の調製方法、反応方法、反応溶液組成、分析方法を示す。
【0059】
[菌体の調製方法]
LB培地プレート上にJM109/ pSTV29-Ptac-guaA株およびJM109ΔnagD/ pSTV29-Ptac-guaA株をまんべんなく塗布し、37℃で一晩培養した。翌日、1/32プレート分の菌体を、LB培地120mlを張り込んだ500 ml容の坂口フラスコに植菌し、37℃で一晩培養した。LB 600ml分の培養液の遠心後菌体を、60mlの反応溶液に用いた。
【0060】
[反応方法]
前述のLB 600ml分の培養後菌体を薬さじで掻き取り、後述する反応液60mlに接種して反応を開始した。反応は42℃で、pHを7.2で維持されるよう、アンモニア水を加えながら実施した。
【0061】
[反応溶液組成]
25 mM XMP
50 g/L Glucose
9.2 g/L ヘキサメタリン酸ナトリウム
5 g/L MgSO4・7H2O
10 g/L KH2PO4
3 ml/L Xylene
【0062】
[分析方法]
反応液500μlを経時的にサンプリングし、KOHで希釈して反応を停止した。反応停止液をフィルターろ過し、10 μlをHPLC分析に供した。分析条件は以下の通りである。
カラム:Asahipak GS-220HQ (直径7.6mm,30cm)
溶離液:0.2 M NaH2PO4 (pH 3.98 )
温度:55℃
流速:0.6 ml/分
検出:紫外線(254nm)吸収
【0063】
結果を図1に示す。JM109/ pSTV29-Ptac-guaA株ではGMPが生成していると思われるが分解活性が高く全くGMPが蓄積しない(GMP <0.06 g/L)。一方、JM109ΔnagD/ pSTV29-Ptac-guaA株では反応2時間で最大約1.7 g/LのGMPを反応液中に蓄積することが示された。
【実施例2】
【0064】
<2−1>JM109株およびJM109ΔnagD株由来のushA遺伝子破壊株の構築
JM109株および実施例1の<1−1>で得られたJM109ΔnagD株を親株として、UshA非産生株の構築を行った。UshAはushA遺伝子(GenBank Accession X03895 配列番号14)によってコードされている。前述のnagD遺伝子破壊手法に則って、ushA破壊用プライマーとして配列番号21、22のプライマーを使用してushA遺伝子破壊を行った。これによって、JM109ΔushAおよびJM109ΔushAΔnagDを得た。
【0065】
<2−2>GMP合成酵素発現強化プラスミドpSTV29-Ptac-guaAのJM109ΔushA株およびJM109ΔushAΔnagD株への導入
実施例1に記載のGMP合成酵素発現強化プラスミドpSTV29-Ptac-guaAを前記JM109ΔushA株およびJM109ΔushAΔnagD株に導入し、それぞれJM109ΔushA/ pSTV29-Ptac-guaA株およびJM109ΔushAΔnagD/ pSTV29-Ptac-guaA株を得た。
【0066】
<2−3>JM109ΔushA/ pSTV29-Ptac-guaA株およびJM109ΔushAΔnagD/ pSTV29-Ptac-guaA株菌体を利用したXMPからGMPへの変換反応
上記菌株について、XMPからGMPへの変換反応評価を実施した。評価は実施例1の<1−3>と同様に行った。
【0067】
結果を図2に示す。JM109ΔushA / pSTV29-Ptac-guaA株では反応2時間目で最大約9.7 g/LのGMPを、JM109ΔushAΔnagD/ pSTV29-Ptac-guaA株では反応2時間目で最大約10.3 g/LのGMPを反応液中に蓄積することが示された。
【実施例3】
【0068】
<3−1>JM109ΔushA株およびJM109ΔushAΔnagD株由来のaphA遺伝子破壊株の構築
JM109ΔushA株および実施例2の<2−1>で得られたJM109ΔushAΔnagD株を親株として、AphA非産生株の構築を行った。AphAはaphA遺伝子(GenBank Accession X86971 配列番号17)によってコードされている。前述のnagD遺伝子破壊手法に則って、aphA破壊用プライマーとして配列番号23、24のプライマーを使用してaphA遺伝子破壊を行った。これによって、JM109ΔushAΔaphAおよびJM109ΔushAΔaphAΔnagDを得た。
【0069】
<3−2>GMP合成酵素発現強化プラスミドpSTV29-Ptac-guaAのJM109ΔushAΔaphA株およびJM109ΔushAΔaphAΔnagD株への導入
実施例1に記載のGMP合成酵素発現強化プラスミドpSTV29-Ptac-guaAを前記JM109ΔushAΔaphA株およびJM109ΔushAΔaphAΔnagD株に導入し、それぞれJM109ΔushAΔaphA/ pSTV29-Ptac-guaA株およびJM109ΔushAΔaphAΔnagD/ pSTV29-Ptac-guaA株を得た。
【0070】
<3−3>JM109ΔushAΔaphA/ pSTV29-Ptac-guaA株およびJM109ΔushAΔaphAΔnagD/ pSTV29-Ptac-guaA株菌体を利用したXMPからGMPへの変換反応
上記菌株について、XMPからGMPへの変換反応評価を実施した。評価は実施例1の<1−3>と同様に行った。ただし、反応液中のXMP濃度は50 mMで行った。
【0071】
結果を図3に示す。JM109ΔushAΔaphA / pSTV29-Ptac-guaA株では反応5時間目で最大約23.3 g/LのGMPを、JM109ΔushAΔaphAΔnagD/ pSTV29-Ptac-guaA株では反応4時間目で最大約26.9 g/LのGMPを反応液中に蓄積することが示された。
【実施例4】
【0072】
<4−1>JM109株およびJM109ΔnagD株由来のaphA遺伝子破壊株の構築
JM109株および実施例1の<1−1>で得られたJM109ΔnagD株を親株として、AphA非産生株の構築を行った。実施例3に示したように、aphA破壊用プライマーとして配列番号23、24のプライマーを使用してaphA遺伝子破壊を行った。これによって、JM109ΔaphAおよびJM109ΔaphAΔnagDを得た。
【0073】
<4−2>GMP合成酵素発現強化プラスミドpSTV29-Ptac-guaAのJM109ΔaphA株およびJM109ΔaphAΔnagD株への導入
実施例1に記載のGMP合成酵素発現強化プラスミドpSTV29-Ptac-guaAを前記JM109ΔaphA株およびJM109ΔaphAΔnagD株に導入し、それぞれJM109ΔaphA/ pSTV29-Ptac-guaA株およびJM109ΔaphAΔnagD/ pSTV29-Ptac-guaA株を得た。
【0074】
実施例1から3と同様に、これら菌株についてもXMPからGMPへの変換反応評価を行うことで、NagD非生産性株におけるGMP蓄積量の増加が確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、調味料、医薬及びそれらの原料として有用なGMPを効率よく製造することができる。
【0076】
〔配列表の説明〕
配列番号1:E. coli GMP合成酵素(GMPS)遺伝子(guaA)塩基配列
配列番号2:E. coli GMPSアミノ酸配列
配列番号3:B. subtilis GMPS遺伝子(guaA)塩基配列
配列番号4:B. subtilis GMPSアミノ酸配列
配列番号5:C. glutamicum GMPS遺伝子(guaA)塩基配列
配列番号6:C. glutamicum GMPSアミノ酸配列
配列番号7:C. ammoniagenes GMPS遺伝子(guaA)塩基配列
配列番号8:C. ammoniagenes GMPSアミノ酸配列
配列番号9:E. coli guaA遺伝子クローニング用プライマー配列
配列番号10:E. coli guaA遺伝子クローニング用プライマー配列
配列番号11:E. coli nagD遺伝子塩基配列
配列番号12:E. coli NagDアミノ酸配列
配列番号13:E. coli nagD遺伝子 クローニング用プライマー配列
配列番号14:E. coli nagD遺伝子 クローニング用プライマー配列
配列番号15:E. coli ushA遺伝子塩基配列
配列番号16:E. coli UshAアミノ酸配列
配列番号17:E. coli aphA遺伝子塩基配列
配列番号18:E. coli AphAアミノ酸配列
配列番号19:E. coli nagD遺伝子破壊用プライマー配列
配列番号20:E.coli nagD遺伝子破壊用プライマー配列
配列番号21:E. coli ushA遺伝子破壊用プライマー配列
配列番号22:E. coli ushA遺伝子破壊用プライマー配列
配列番号23:E. coli aphA遺伝子破壊用プライマー配列
配列番号24:E. coli aphA遺伝子破壊用プライマー配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
nagD遺伝子が正常に機能しないように改変され、かつ5’−グアニル酸合成酵素の活性が増大するように改変された、キサンチル酸を5’−グアニル酸に変換する能力を有する微生物に、キサンチル酸を作用させて5’−グアニル酸を生成させ、これを採取することを特徴とする5’−グアニル酸の製造方法。
【請求項2】
前記微生物が、guaA遺伝子の発現を増加させることによって5’−グアニル酸合成酵素の活性を増大するように改変された微生物である、請求項1に記載の5’−グアニル酸の製造方法。
【請求項3】
guaA遺伝子が下記(A)または(B)のタンパク質をコードする、請求項2に記載の5’−グアニル酸の製造方法:
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有し、かつ、5’−グアニル酸合成酵素活性を有するタンパク質。
【請求項4】
前記微生物が、さらに、ushA遺伝子、aphA遺伝子から選ばれる1種又はそれ以上の遺伝子が正常に機能しないように改変された微生物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の5’−グアニル酸の製造方法。
【請求項5】
前記微生物が、腸内細菌科に属する細菌、バチルス属細菌、またはコリネ型細菌である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の5’−グアニル酸の製造方法。
【請求項6】
前記微生物が、エシェリヒア属細菌である、請求項5に記載の5’−グアニル酸の製造方法。
【請求項7】
前記微生物が、エシェリヒア・コリである、請求項6に記載の5’−グアニル酸の製造方法。
【請求項8】
guaA遺伝子の発現を増加させることによって5’−グアニル酸合成酵素の活性が増大するように改変され、nagD遺伝子が正常に機能しないように改変された、キサンチル酸を5’−グアニル酸に変換する能力を有する微生物(ただし、上記改変に加えてさらに、guaB遺伝子の発現を増加させることによってイノシン酸脱水素酵素活性が増大するように改変された微生物を除く)。
【請求項9】
さらに、ushA遺伝子、aphA遺伝子から選ばれる1種又はそれ以上の遺伝子が正常に機能しないように改変された、請求項8に記載の微生物。
【請求項10】
腸内細菌科に属する細菌、バチルス属細菌、またはコリネ型細菌である、請求項8または9に記載の微生物。
【請求項11】
エシェリヒア属細菌である、請求項10に記載の微生物。
【請求項12】
エシェリヒア・コリである、請求項11に記載の微生物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−36171(P2011−36171A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185920(P2009−185920)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】